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特許7547779光デバイス、及びこれを用いた光送受信機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】光デバイス、及びこれを用いた光送受信機
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
G02F1/035
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020085978
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021179569
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌樹
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039215(WO,A1)
【文献】特開2008-089936(JP,A)
【文献】特開2008-250080(JP,A)
【文献】特開2010-145973(JP,A)
【文献】特開2010-097032(JP,A)
【文献】特開2014-010189(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069815(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0173026(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、電気光学効果を有する結晶薄膜で形成された光導波路と、
前記基板上に設けられ、前記光導波路に高周波電圧を印加するRF電極と、
前記基板上に設けられ、前記光導波路に直流電圧を印加するDC電極と、
を有し、
前記RF電極はコプレーナ構造を有し、前記DC電極はマイクロストリップ構造を有し、
前記DC電極は、前記光導波路上に配置されるDC信号電極と、前記基板と前記結晶薄膜との間に配置されるDC接地電極と、を有し、
前記マイクロストリップ構造は、前記DC信号電極の側方に接地電極を有さない、光デバイス。
【請求項2】
前記DC接地電極と前記光導波路との間に配置される第1バッファ層、
を有し、前記DC電極が設けられている領域の前記第1バッファ層は前記DC接地電極の形状による影響をなくすように平坦化されている、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記DC電極が設けられている領域の前記結晶薄膜の表面は、前記DC接地電極の形状による影響をなくすように平坦化されている、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記結晶薄膜上に配置される第2バッファ層を有し、
前記DC信号電極は、前記第2バッファ層上に配置され、
前記RF電極は、前記第2バッファ層上の同一面内に形成されたRF信号電極とRF接地電極を有し、
前記RF信号電極の厚みは、前記DC信号電極の厚みよりも大きい、
請求項1から3のいずれか1項に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記結晶薄膜上に配置される第2バッファ層を有し、
前記DC信号電極は、前記第2バッファ層上に配置され、
前記RF電極は、前記第2バッファ層上の同一面内に形成されたRF信号電極とRF接地電極を有し、
前記RF接地電極の厚みは、前記DC信号電極の厚みよりも大きい、
請求項1から3のいずれか1項に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記RF信号電極の厚みは、3μm以上、10μm未満である、
請求項4または5に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記結晶薄膜上に配置される第2バッファ層を有し、
前記DC信号電極は、前記第2バッファ層上に配置され、
前記RF電極は、前記第2バッファ層上の同一面内に形成されたRF信号電極とRF接地電極を有し、
前記DC信号電極は、前記RF電極と同じ層に形成され
前記DC信号電極の幅は前記RF信号電極の幅と異なる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記RF信号電極の幅と、前記DC信号電極の幅は異なる、
請求項4から6のいずれか1項に記載の光デバイス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の光デバイス、
を用いた光送受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス、及びこれを用いた光送受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
光送受信の送信フロントエンド回路では、データ信号で光を変調する光変調器が用いられる。図1は、Zカットのニオブ酸リチウム(LN;Lithium Niobate)基板に形成された光変調器チップの模式図である。Zカット基板は、結晶軸(c軸)と垂直な面でカットされており、基板表面に形成された光導波路WGの上方に、バッファ層(Buf)を介して信号電極Sが配置されている。信号電極Sに電圧を与えると、光変調器チップの表面に対して垂直方向(Z方向)の電界が光導波路WG内に発生する。この電界によって光導波路の屈折率が変化し、光の位相が変化する。
【0003】
光導波路WGには、高周波(RF:Radio Frequency)電極と、直流(DC:Direct Current)電極が設けられる。RF電極には10GHzの帯域をもつ高速信号が入力されて、高速の光変調が行われる。そのため、RF電極には広帯域の伝送特性が得られるコプレーナ導波路(CPW:Coplanar Waveguide)構造が採用される。DC電極は、マッハツェンダ(MZ:Mach-Zehnder)干渉計の位相を調整するために用いられる。DC電極も、RF電極と同様にコプレーナ構造を有する。(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
RF電極において、コプレーナ型電極と電極変換部とマイクロストリップ型電極部を備える構成(特許文献2参照)、あるいはマイクロストリップ線路をコプレーナ導波路に電気的に接続する構成(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-238785号公報
【文献】特開2016-14698号公報
【文献】米国特許第5208697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1の光導波路WGは、チタン(Ti)等の金属を基板表面から拡散して形成される。拡散型の光導波路WGは光の閉じ込めが小さいため、電界の印加効率が悪く、駆動電圧が高くなってしまう。そこで、図2のように、光導波路をLN薄膜で形成することが考えられる。LN薄膜導波路はTi拡散導波路と比較して光の閉じ込めが強いので、電界の印加効率を改善し、駆動電圧を下げることができる。しかし、光閉じ込めが強くなる分、光の伝搬損失が大きくなり、挿入損失が増大する。
【0007】
本発明は、RF駆動電圧が小さく、かつ挿入損失の小さい光デバイスを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様では、光デバイスは
電気光学効果を有する結晶薄膜で形成された光導波路と、
前記光導波路に高周波電圧を印加するRF電極と、
前記光導波路に直流電圧を印加するDC電極)と、
を有し、前記RF電極はコプレーナ構造を有し、前記DC電極はマイクロストリップ構造を有する。
【発明の効果】
【0009】
RF駆動電圧が小さく、かつ挿入損失の小さい光デバイスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】Ti拡散型光導波路を有する一般的な光変調器の模式図である。
図2】LN薄膜導波路を有する光変調器の断面模式図である。
図3】実施形態の光変調器の平面模式図である。
図4】実施形態の光変調器のDC電極断面とRF電極断面を示す図である。
図5】実施形態の光変調器の作製工程図である。
図6】実施形態の光変調器の作製工程図である。
図7】実施形態の光変調器の第1の変形例の断面模式図である。
図8】実施形態の光変調器の第2の変形例の断面模式図である。
図9】RF電極の電極厚みと高周波特性の関係を示す図である。
図10】実施形態の光変調器の第3の変形例の断面模式図である。
図11】実施形態の光デバイスを適用した光送受信機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図3は、実施形態の光変調器10の平面模式図である。光変調器10は光デバイスの一例である。以下で述べる実施形態の構成は、光スイッチ、光フィルタなどの光デバイス、あるいはこれらの光デバイスと、レーザダイオード、フォトダイオードなどが集積された集積回路チップにも適用可能である。
【0012】
光変調器10は、基板101上の光導波路11で形成されたMZ型光変調器である。便宜上、光の伝搬方向をX方向、光変調器10の高さ方向をZ方向、X方向及びZ方向と直交する方向をY方向とする。
【0013】
光導波路11は、後述するように、光閉じ込めの強いリッジ型の薄膜導波路で形成されている。光閉じ込めを強くすることで、電界の印加効率を改善し、光変調器10の駆動電圧を低減する。
【0014】
光変調器10の一端側(たとえば-X側)で、光導波路11は2つに分岐され、X偏波用のIQ変調器と、Y偏波用のIQ変調器が並列に形成される。光変調器10の他端側(たとえば+X側)で、2つのIQ変調器の出力は、偏波ビームコンバイナ(PBC:Polarization Beam Combiner)によって合波される。この例で、光変調器10は偏波多重IQ変調による4チャネルの変調器である。
【0015】
X偏波とY偏波のそれぞれで、IQ変調器はIチャネルとQチャネルを有する。IQ変調器の全体を親MZ、またはマスターMZ(mMZ)と呼ぶ。各IQ変調器でIチャネルとQチャネルを形成するMZ干渉計を、子MZ、またはサブMZ(sMZ)と呼ぶ。
【0016】
光変調器10は、RF電極110とDC電極120を有する。RF電極110はコプレーナ導波路構造を有する。DC電極120は、マイクロストリップ構造を有する。
【0017】
RF電極110は、RF信号電極110Sと、RF接地電極110Gを含む。RF信号電極110SとRF接地電極110Gは、積層方向に見て、光導波路11の上層の同じ層に形成されている。RF信号電極110Sは、各チャネルを形成する子MZの光導波路11にRF信号を入力する。
【0018】
DC電極120は、DC信号電極120Sと、DC接地電極120Gを含む。DC信号電極120Sは、RF信号電極110S、及びRF接地電極110Gと同じ層に形成されている。DC接地電極120Gは、絶縁層(バッファ層102、結晶薄膜103、及びバッファ層104)を挟んで、DC信号電極120Sの下層に設けられている。
【0019】
RF信号電極110Sには、数十GHzの帯域を持つ高速の電気信号が入力されて、高速の光変調が行われる。そのため、RF電極110として、広帯域の伝送特性が得られるコプレーナ構造を適用する。コプレーナ構造はマイクロストリップ構造と比較して、ストリップ幅、スロット幅などの形状パラメータが多く、位相定数、特性インピーダンス等を広範囲に調整することができる。RF信号電極110Sの一端側は終端されている。
【0020】
DC信号電極120Sには、MZ干渉計の位相を調整するためにDCバイアスが印加される。DC信号電極120Sは、親MZの光導波路11にDCバイアスを印加するDC信号電極120S(mMZ)と、子MZの光導波路11にDCバイアスを印加するDC信号電極120S(sMZ)を含む。
【0021】
親MZのDC信号電極120S(mMZ)には、IチャネルとQチャネルの間に90度の位相差を与えるDCバイアス電圧が印加される。子MZのDC信号電極120S(sMZ)には各チャネルで動作点を所望の点(たとえば光強度が1/2になる点)に維持するためのDCバイアス電圧が印加される。
【0022】
DC電極120は、広帯域特性を必要としないが、高い電界印加効率が求められる。そこで、DC電極120にマイクロストリップ構造を適用する。マイクロストリップ線路では電場のほとんどが基板に閉じ込められるので、電界の印加効率が高くなる。電界の印加効率が高くなると、所望の動作電圧とするためのDC電極120の長さを短くすることができる。DC電極120を短くすることで、光導波路11の全長が短くなる。光の伝搬損失を小さくし、かつ、変調器チップを小型化できる。
【0023】
これにより、RF駆動電圧が小さく、かつ光挿入損失が小さい光変調器10が実現される。
【0024】
図4の(A)は、図3の光変調器10のDC電極断面を示す。このDC電極断面は、図3の破線の領域AのYZ断面に相当する。図4の(B)は、光変調器10のRF電極断面を示す。このRF電極断面は、図3の破線の領域BでのYZ断面に相当する。
【0025】
光変調器10は、基板101に形成されている。基板101は、たとえばZカットのLN基板である。光導波路11の材料に応じて、LiTaO3基板など、ポッケルス効果(電気光学効果)を有する別の結晶基板を用いてもよい。
【0026】
図4の(B)のRF電極側では、基板101の上に、バッファ層102を介して、誘電体の結晶薄膜103でリッジ型の光導波路11が形成されている。バッファ層102は、たとえば酸化シリコン(SiO2)の膜である。結晶薄膜103は、この例ではLN結晶薄膜であるが、LiTaO3、LiNbO3とLiTaO3の混晶、等を用いてもよい。いずれの材料を用いる場合も、結晶薄膜103のc軸は基板101に対して垂直な方向を向いている。
【0027】
光導波路11と結晶薄膜103の全体は、バッファ層104で覆われている。バッファ層104は、光導波路11と屈折率の差ができるだけ大きい材料で形成されており、たとえば、SiO2で形成される。屈折率差を大きくすることで、リッジ型の光導波路11の光の閉じ込めを大きくする。
【0028】
光導波路11の上に、バッファ層104を介してRF信号電極110Sが設けられている。RF信号電極110Sの両側に、所定のギャップを挟んで、RF接地電極110Gが配置され、コプレーナ型のRF電極110(図3参照)が形成される。
【0029】
RF信号電極110Sから、基板101と垂直な方向に電界が印加され、光導波路11に電気力線を集中させることができる。電極間のギャップが適切に設計されたコプレーナ型のRF電極110によって、広帯域の伝送特性が確保される。一例として、RF信号電極110SとRF接地電極110Gの間のギャップは、10μmである。
【0030】
図4の(A)のDC電極側では、基板101の上に、DC接地電極120Gが配置されている。DC接地電極120G上に、バッファ層102を介して、結晶薄膜103でリッジ型の光導波路11が形成されている。光導波路11の上に、バッファ層104を介してDC信号電極120Sが配置されている。
【0031】
DC信号電極120Sと、下層のDC接地電極120Gで、マイクロストリップ型のDC電極120(図3参照)が形成される。マイクロストリップ型のDC電極120によって、光導波路11に効率的にDC電界を印加することができる。
【0032】
図5図6は、光変調器10の作製工程図である。左側がDC電極断面、右側がRF電極断面である。
【0033】
図5の(A)で、基板101上の所定の箇所、具体的には、DC電極120が配置される領域に、DC接地電極120Gが形成される。DC接地電極120Gの厚さは、一例として数百nmから1μmである。
【0034】
図5の(B)で、基板101の全面にスパッタ法等によりバッファ層102が形成される。DC接地電極120Gの形状によって、バッファ層102に所定の段差が生じるが、この段差は後処理で平坦化され、光導波路11の形成、及び電極の形成に影響しない。
【0035】
図5の(C)で、光導波路を形成する結晶薄膜用の基板140を用意する。この例で、基板140はLN基板である。基板140の一方の主面からイオンビームを照射して、イオン注入層141を形成する。注入エネルギーを制御することで、所望の深さまでイオンを注入することができる。イオンは、水素イオン、ヘリウムイオン、アルゴンイオン等である。イオンが注入されていない基板部分は、支持層142となる。
【0036】
図5の(D)で、基板140のイオン注入層141を、バッファ層102に貼り合わせる。貼り合わせ前に、イオン注入層141とバッファ層102の少なくとも一方の貼り合せ面に、ウェットケミカル、オゾン、プラズマ等で表面活性化処理を行ってもよい。
【0037】
図6の(A)で、貼り合わせたウェハにアニール等の熱処理を施して、支持層142を分離する。熱処理により、イオン注入層141と支持層142の界面にマイクロキャビティが発生して、イオン注入層141から支持層142を剥離することができる。剥離後、CMPによりイオン注入層141の剥離面を研磨してもよい。この研磨で、DC接地電極120Gで生じた段差を平坦化してもよい。
【0038】
図6の(B)で、イオン注入層141をエッチングすることで、LNの結晶薄膜103で形成されたリッジ型の光導波路11を形成する。光導波路11のリッジの高さは、たとえば、200nm~300nm、幅は300nm~500nmである。
【0039】
図6の(C)で、全面にバッファ層104をスパッタリング等で形成する。バッファ層104は、一例として、厚さ0.5μm~1μm程度のSiO2膜である。光導波路11の閉じ込めが強すぎると、高次モードが立って、クロストークや消光比の劣化が起こり得るので、変調効率との兼ね合いで、光導波路11の断面積、バッファ層104との屈折率差等が設計される。
【0040】
図6の(D)で、電極を形成する。DCバイアスが印加される領域には、光導波路11の上にDC信号電極120Sが形成される。RF信号が入力される領域には、光導波路11の上にRF信号電極110Sと、RF接地電極110Gが形成される。
【0041】
これにより、RF電極110を広帯域特性の良好なコプレーナ構造とし、DC電極120を電界印加効率の高いマイクロストリップ構造とすることができる。DC電圧を低減できるので、DC信号電極120Sの長さ、すなわち、光導波路11の全長を短くして、挿入損失を小さくできる。
【0042】
<第1の変形例>
図7は、第1の変形例による光変調器10Aの電極構造を示す。図7の(A)はDC電極断面、(B)はRF電極断面である。第1の変形例では、RF信号電極210Sの厚さをDC信号電極120Sの厚さよりも大きくする。その他の断面構成は図4と同じであり、同じ構成要素には同じ符号をつけて、重複する説明を省略する。RF信号電極210SとDC信号電極120Sの平面配置は、図3と同じである。
【0043】
DC電極120をマイクロストリップ線路にする場合、電界印加効率が良いので、DC信号電極120Sの厚さを特に大きくしなくても不都合はない。RF信号電極210SをDC信号電極120Sと同じ厚さにすると、高周波での損失が大きくなり、帯域が劣化するおそれがある。そこで、図7のように、RF信号電極210Sの厚さをDC信号電極120Sの厚さよりも大きくする。
【0044】
一例として、DC信号電極120Sの厚さは1μm~数μm、RF信号電極210Sの厚さは、3μm以上である。より好ましくは、RF信号電極210Sの厚さ範囲は、3μm以上、10μm未満である。後述するように、RF信号電極210Sの高さを3μm以上とすることで、RF信号電極210Sの断面積を大きくし、抵抗を下げて帯域を拡げることができる。RF信号電極210Sの高さが10μm以上になると、アスペクト比が大きくなりすぎて、電極の形成自体が困難になる。そのような高アスペクト比の電極は、形成できたとしても構造が不安定で、製品の信頼性に影響する可能性がある。
【0045】
RF信号電極210Sの厚さを増やすには、たとえば、蒸着またはスパッタ法とリフトオフ等によって、DC信号電極120S、RF信号電極の第1層目、及びRF接地電極110Gを形成した後に、RF信号電極の領域にのみ、第2層目をめっき形成してもよい。あるいは、めっきによりDC信号電極120S、RF信号電極の第1層目、及びRF接地電極110Gを形成した後に、RF信号電極の領域にのみ2回目のめっき処理を施してもよい。
【0046】
この構成により、光変調器10Bの帯域特性をさらに向上することができる。
【0047】
<第2の変形例>
図8は、第2の変形例による光変調器10Bの電極構造を示す。図8の(A)はDC電極断面、(B)はRF電極断面である。図7では、RF接地電極110Gの厚さを、DC信号電極120Sの厚さと同じにしていた。図8では、RF接地電極210Gの厚さを、DC信号電極120Sの厚さよりも大きくする。その他の断面構成は図7と同じであり、同じ構成要素には同じ符号をつけて重複する説明を省略する。RF信号電極210SとDC信号電極120Sの平面配置形状は、図3と同様である。
【0048】
RF接地電極210Gの厚さを増やすことで、高周波特性を良好に保つことができる。また、RF信号電極210SとRF接地電極210Gを一度のプロセスで形成することができる。
【0049】
図9は、RF信号電極210Sの厚さと高周波特性の関係を示す。100G光変調器では、30GHzでのS21特性として、-5dB以上であることが望ましい。これを満たすには、上述したように、RF信号電極210Sの厚さは3μm以上であることが好ましい。電極構造の安定性と動作の信頼性の観点から、RF信号電極210Sの厚さを3μm以上、10μm未満としてもよい。
【0050】
<第3の変形例>
図10は、第3の変形例による光変調器10Cの電極構造を示す。図10の(A)はDC電極断面、(B)はRF電極断面である。第3の変形例では、DC信号電極120Sの幅と、RF信号電極310Sの幅を異ならせる。その他の断面構成は図4と同じであり、同じ構成要素には同じ符号をつけて、重複する説明を省略する。
【0051】
DC信号電極120Sの最適な幅は、光導波路11への電界印加効率が最大となり、DCの半波長電圧Vπが最小となる幅である。これは、実施例、及び第1~第3の変形例を通して共通に当てはまる。DC信号電極120Sの幅は、光導波路11を伝搬する光のモードフィールド径程度であり、一例として3μm程度である。
【0052】
RF信号電極310Sの最適な幅は、Vπが小さいことに加えて、高周波のインピーダンスが外部回路と整合し、かつ高周波のS21特性が良いという条件を満たすことが望ましい。RF信号電極310Sの幅を広げることで、断面積を大きくしてインピーダンスを下げることができる。
【0053】
RF信号電極310Sと、RF接地電極110Gの間のギャップは、所望の帯域特性が得られるように適切な値に設定されている。一例として、RF信号電極310Sと、RF接地電極110Gの間のギャップは10μm程度である。幅を広くしたRF信号電極310Sを、MZ干渉計を形成する光導波路11の一方に設けるときに、MZ干渉計の2本の導波路の間隔を調整してもよい。
【0054】
DC信号電極120Sと、RF信号電極310Sのそれぞれが最適な幅を持つことで、RF駆動電圧が小さく、かつ挿入損失の小さい光変調器10Cが実現される。異なる幅をもつDC信号電極120SとRF信号電極310Sは、一度のプロセスで形成可能であり製造工程の変更や増加は不要である。
【0055】
<光送受信機への適用>
図11は、光変調器10が適用される光送受信機1の模式図である。この例では、光送受信機1は、光送信回路2、光受信回路3、デジタル信号プロセッサ(DSP)5、及びレーザダイオード(LD)4を有する。
【0056】
光送信回路2は、実施形態の光変調器10(または10A~10Cのいずれでもよい)を有する。光送信回路2内には、光変調器10のRF電極110に高速信号を入力するドライバ回路が含まれていてもよい。
【0057】
DSP5は、RF電極110に入力される高速信号の値を表す電界信号(振幅と位相)を生成してもよい。DC電極120に印加されるDCバイアス源と、DCバイアス値を制御する制御回路は、DSP5に組み込まれていてもよいし、DSP5と別個に、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの論理デバイスを用いてもよい。
【0058】
LD4から出力される光は光変調器10で変調され、変調光信号が光ファイバ等の光伝送路6に出力される。
【0059】
光受信回路3は、光ファイバ等の光伝送路7から受信した光信号を、電気信号に変換する。光受信回路3は、たとえばコヒーレント受信回路であり、LD4からの光を参照光(局発光)として用いて、受信した光信号を各偏波成分と各相(I相及びQ相)の信号に分離する。分離され光電気変換された各成分の信号は、DSP5で整形、等化等の処理を受けて復号される。
【0060】
光変調器10は、RF電極でコプレーナ構造を採用し、DC電極でマイクロストリップ構造を採用する。高周波特性を良好に維持してRF駆動電圧を低減し、かつ、DC電極の長さを短縮して挿入損失を低減できる。
【0061】
上述した実施形態は一例であり、種々の変形が可能である。実施形態の構成は、光変調器の他に、光スイッチ、光フィルタ等の光デバイスや、これらの光デバイスと波長可変レーザ等が集積された光集積回路チップにも適用可能である。
【0062】
光変調器10の構成は、偏波多重方式の光変調だけではなく、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式やQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式など、高周波信号の印加と、DC電圧の印加が必要な構成にも適用可能である。光変調器10はLN変調器に限定されず、他の電気光学(EO:Electro-optic)結晶を用いて光変調器やEO効果を利用したEOポリマー変調器にも適用可能である。光導波路11は埋め込み型のリッジ導波路に限定されず、方形導波路、ディープリッジ型の光導波路等であってもよい。
【0063】
実施例、及び、第1~第3の変形例は、相互に組み合わせ可能である。たとえばRF信号電極の幅と高さの両方を、DC信号電極の幅、及び高さと異ならせてもよい。その場合もRF駆動電圧の低減と、挿入損失の低減が実現される。
【符号の説明】
【0064】
1 光送受信機
2 光送信回路
3 光受信回路
4 LD
5 DSP
6,7 光伝送路
10、10A~10C 光変調器(光デバイス)
11 光導波路
110 RF電極
110S、210S、310S RF信号電極
110G、210G RF接地電極
120 DC電極
120S DC信号電極
120G DC接地電極
図1
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