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  • 特許-ゴム接合体及びゴム接合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ゴム接合体及びゴム接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/16 20060101AFI20240903BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20240903BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20240903BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240903BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20240903BHJP
【FI】
B32B25/16
B32B25/20
C08J7/12 A CEQ
C08J7/00 302
C08J7/043 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020097101
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021187119
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正直
(72)【発明者】
【氏名】石井 睦
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-231179(JP,A)
【文献】特開2017-013287(JP,A)
【文献】特開2013-107961(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122506(WO,A1)
【文献】特開2017-024241(JP,A)
【文献】特開2021-187117(JP,A)
【文献】特開2021-187119(JP,A)
【文献】特開2009-291962(JP,A)
【文献】特開2009-73057(JP,A)
【文献】米国特許第5932649(US,A)
【文献】特開平10-292296(JP,A)
【文献】特開2023-81284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/04
B32B1/00-43/00
C08J7/00-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材本体と、前記樹脂基材本体上に形成されたシリカ薄膜とを有する基材と、
前記基材の前記シリカ薄膜上に直接積層された、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴムと、を有し、
前記基材本体が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される樹脂で構成されている、ゴム接合体。
【請求項2】
前記第一のジエン系ゴムは、シリコーンゴムを含む、請求項1に記載のゴム接合体。
【請求項3】
前記シリカ微粒子の含有量が前記第一のジエン系ゴム100質量部中、0.5質量部以上である、請求項1または請求項2に記載のゴム接合体。
【請求項4】
前記第一のジエン系加硫ゴムと前記基材との180°剥離試験による剥離強度が、2.0kgf/15mm以上である、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のゴム接合体。
【請求項5】
前記第一のジエン系加硫ゴムと前記基材との剥離を行った場合、前記第一のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離が生じる、請求項1から請求項4までのいずれかに記載のゴム接合体。
【請求項6】
樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、前記樹脂基材本体及び前記シリカ薄膜を有する基材を作製する基材作製工程と、
ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴムを準備するジエン系加硫ゴム準備工程と、
前記基材の前記シリカ薄膜の表面と、前記第一のジエン系加硫ゴムの表面とに活性化処理を施す表面活性化処理工程と、
前記基材と前記第一のジエン系加硫ゴムの、前記活性化処理を施した表面同士を接触させる接触工程と、を有し、
前記基材本体が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される樹脂で構成されている、ゴム接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム接合体及びゴム接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック等の基材と、ゴム系樹脂層とを有するゴム接合体が知られている。しかし、基材とゴム系樹脂層との接着性が十分でなく、接触させただけでは接着することができない場合があった。
【0003】
そこで、接着剤を使用して基材とゴム系樹脂層とを接合していたが、基材とゴムの両方に接着する接着剤または接着剤とプライマーとの組み合わせを選択する必要がある。ゴムは、配合組成や加硫条件で表面の接着性、SP値等が変化するため、接着剤の選択に時間を要する場合がある。また、要求される特性によって選択するゴムの種類が異なるため、接合する基材との接着剤も、その都度適当なものを開拓する必要がある。また、基材も、材料によって適切な接着剤が異なる。そのため、プラスチック等の基材と、ゴム系樹脂層とを接着するための最適な接着剤の選定は、試行錯誤により行わなければならず、大変な手間を要した。
【0004】
そこで、接着剤を使用せずに基材とゴム系樹脂とを加硫接着させる方法、又は、接着剤を使用せずに基材と加硫ゴム系樹脂とを後接着させる方法が検討されている。例えば、特許文献1には、樹脂基材本体および薄膜を有する基材と、ゴム系樹脂層とを接着剤を用いずに積層したゴム製製品が開示されている。特許文献2には、薄膜が形成された基材と、シリコーンゴムとを接着剤を用いずに接合した接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-166173号公報
【文献】国際公開2017/122506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1及び特許文献2のように、接着剤を使用せずにプラスチック基材とゴム系樹脂とを積層させる方法が検討されているが、本発明者らは、シリコーンゴム以外のゴムであるジエン系加硫ゴムに対しては、高い接着力を得ることはできない場合があることを知見した。
【0007】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、接着剤を使用しなくても、ジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたゴム接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態は、樹脂基材本体と、上記樹脂基材本体上に形成されたシリカ薄膜とを有する基材と、上記基材の上記シリカ薄膜上に直接積層された、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴムと、を有するゴム接合体を提供する。
【0009】
本開示によれば、ジエン系加硫ゴムと基材とが、接着剤を介さずに強固に接合されたゴム接合体を得ることができる。
【0010】
また本開示においては、上記第一のジエン系ゴムは、シリコーンゴムを含むことが好ましい。シリコーンゴムを含むことにより、基材との接着力がより強力となるためである。
【0011】
また本開示においては、上記シリカ微粒子の含有量が上記第一のジエン系ゴム100質量部中、0.5質量部以上であることが好ましい。基材との接着性がより高くなるためである。
【0012】
また本開示においては、上記第一のジエン系加硫ゴムと上記基材との180°剥離試験による剥離強度が、2.0kgf/15mm以上であることが好ましい。
【0013】
また、上記第一のジエン系加硫ゴムと上記基材との剥離を行った場合、上記第一のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離が生じることが好ましい。
【0014】
このように本実施形態におけるゴム接合体は、第一のジエン系加硫ゴムと基材との界面での剥離が抑制された、第一のジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたものとなる。
【0015】
本開示の一実施形態は、樹脂基材本体と、上記樹脂基材本体上に形成されたシリカ薄膜とを有する基材と、上記基材の上記シリカ薄膜上に積層された、ジエン系ゴム成分を含む第二のジエン系ゴムの加硫体である第二のジエン系加硫ゴムとの接合体であり、上記第二のジエン系加硫ゴムは、表面に上記ジエン系ゴム成分と結合したシランカップリング剤が付着している、ゴム接合体を提供する。
【0016】
本開示によれば、ジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたゴム接合体となる。
【0017】
また本開示においては、上記第二のジエン系ゴムは、シリコーンゴムを含むことが好ましい。シリコーンゴムを含むことにより、基材との接着力がより強力となるためである。
【0018】
本開示の一実施形態は、樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、上記樹脂基材本体及び上記シリカ薄膜を有する基材を作製する基材作製工程と、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴムを準備するジエン系加硫ゴム準備工程と、上記基材の上記シリカ薄膜の表面と、上記第一のジエン系加硫ゴムの表面とに活性化処理を施す表面活性化処理工程と、上記基材と上記第一のジエン系加硫ゴムの、上記活性化処理を施した表面同士を接触させる接触工程と、を有する、ゴム接合体の製造方法を提供する。
【0019】
本開示の一実施形態は、樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、上記樹脂基材本体及び上記シリカ薄膜を有する基材を作製する基材作製工程と、ジエン系ゴム成分を含む第二のジエン系ゴムの加硫体である第二のジエン系加硫ゴムを準備するジエン系加硫ゴム準備工程と、上記第二のジエン系加硫ゴムの表面を、上記ジエン系ゴム成分と結合可能なシランカップリング剤で処理するカップリング剤処理工程と、上記基材の上記シリカ薄膜の表面と、上記第二のジエン系加硫ゴムのカップリング剤処理した表面とに、活性化処理を施す表面活性化処理工程と、上記基材と上記第二のジエン系加硫ゴムの、上記活性化処理を施した表面同士を接触させる接触工程と、を有する、ゴム接合体の製造方法を提供する。
【0020】
本開示によれば、ジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたゴム接合体を得ることができる。また、接着剤を使用しないため、接着剤の選択を行う必要がなく、容易にゴム接合体を得ることができる。
【0021】
また本開示においては、上記活性化処理が、プラズマ処理またはコロナ処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、ジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたゴム接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の第一実施形態におけるゴム接合体を例示する概略断面図である。
図2】本開示の第二実施形態におけるゴム接合体を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
下記に、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0025】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0026】
上記のように、基材と、ジエン系加硫ゴムとを接着剤を使用せずに接合した従来のゴム接合体は、接着力が十分ではない場合がある。本発明者らは、表面にケイ素を含む化合物を存在させたジエン系加硫ゴムの表面と、樹脂基材およびシリカ薄膜を有する基材のシリカ薄膜表面とに、表面活性化処理を施し、励起結合させることにより、界面剥離が生じない、強固に接合されたゴム接合体となることを見出した。また、本発明者らは、表面にケイ素を含む化合物を存在させる表面改質方法として、ジエン系ゴム組成物にシリカ微粒子を含有させる方法、及び、ジエン系加硫ゴムの表面にシランカップリング剤を付着させる方法を見出した。
【0027】
以下、本開示のゴム接合体およびゴム接合体の製造方法について、詳細に説明する。
【0028】
A.ゴム接合体(第一実施形態)
本実施形態におけるゴム接合体について、図面を参照して説明する。図1は本実施形態におけるゴム接合体の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、ゴム接合体1は、樹脂基材本体2aと、樹脂基材本体2a上に形成されたシリカ薄膜2bとを有する基材2と、基材2のシリカ薄膜2b上に直接積層された、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴム3と、を有する。
【0029】
本実施形態のゴム接合体は、第一のジエン系加硫ゴムと基材とが、接着剤を介さずに、強固に直接接合されたものである。
【0030】
I.基材
本実施形態における基材は、樹脂基材本体と、樹脂基材本体上に形成されたシリカ薄膜とを有する。
【0031】
(1)樹脂基材本体
本実施形態における樹脂基材本体は、シリカ薄膜を支持することができれば特に限定されないが、樹脂フィルムや樹脂成形品、樹脂繊維の織布及び不織布等が挙げられる。
【0032】
樹脂フィルムに含まれる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6又はナイロン66等で代表されるポリアミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド、変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0033】
特に、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリイミド等が好ましい。ポリエチレンテレフタレートは安価であるために好ましい。また、ポリイミドはより高い耐熱性を有するため、製品寸法を精度良く調整することができるため好ましい。また、中間的な要求仕様のものに対応するために、一部、ポリブチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイドも好ましい。
【0034】
樹脂フィルムは、単層構造であっても、複数層が積層された多層構造であってもよい。
【0035】
樹脂成形品に含まれる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール等が挙げられる。
【0036】
樹脂繊維としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維等の合成樹脂繊維が挙げられる。
【0037】
(2)シリカ薄膜
本実施形態において、シリカ薄膜は樹脂基材本体上に形成されている。シリカ薄膜は、樹脂基材本体がフィルム状の場合には、一方又は両方の主表面上に形成することができる。また、樹脂基材本体の表面が複数の面を有する場合、1つ、又は2以上の面上に形成することができる。本開示におけるシリカ薄膜(SiO)は、蒸着膜であることが好ましい。具体的なシリカ薄膜の製造方法としては、例えば、プラズマ化学気相成長や熱化学気相成長、光化学気相成長等の化学蒸着(CVD)法、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着(PVD)法等が挙げられる。特に、CVD法により形成されることが好ましい。
【0038】
薄膜の膜厚は、通常、2~40nm程度であることが好ましく、より好ましくは5~20nmである。上記薄膜は、触針式段差測定機Dektak等で測定することができる。薄膜が複数回蒸着により形成される場合は、複数回蒸着後の全体厚みをいう。
【0039】
本開示におけるゴム接合体において、シリカ薄膜が配置されているか否かの判断は、特に限定されるものではないが、例えば、本開示のゴム接合体を、上記シリカ薄膜が切断される方向で切断し、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察、薄膜の深さ方向の元素分析(Siの検出)や微小FT-IRでのSi-O結合の分析により、判断することができる。
【0040】
II.第一のジエン系加硫ゴム
本開示における第一のジエン系加硫ゴムは、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である。第一のジエン系加硫ゴムは、ポリマー主鎖に二重結合を有するジエン系ゴム成分の分子間で加硫化(架橋反応)が生じたものである。
【0041】
(1)第一のジエン系ゴム
本開示における第一のジエン系ゴムは、少なくともジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む。
【0042】
(a)ゴム成分
本実施形態における第一のジエン系ゴムは、ジエン系ゴム成分を含む。ジエン系ゴム成分としては、主鎖に炭素-炭素二重結合を有し、加硫可能なゴムが挙げられる。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、1,2-ポリブタジエン(VBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。
これらのジエン系ゴム成分は、1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
本実施形態における第一のジエン系ゴムは、ジエン系ゴム成分以外の非ジエン系ゴム成分を含んでもよいが、第一のジエン系ゴムに含まれる全ゴム成分(第一のジエン系加硫ゴムを構成する全ゴム成分)100質量%中、ジエン系ゴム成分は、好ましくは20質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。また、100質量%であってもよい。
【0044】
本実施形態における第一のジエン系ゴムは、ジエン系ゴム成分以外の非ジエン系ゴム成分として、シリコーンゴムを含むことが好ましい。基材との接着力がより強力となるためである。シリコーンゴムとしては、例えば、シリコーン変性EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム:SEPゴム)等のシリコーンゴム等が挙げられる。
第一のジエン系ゴムに含まれる全ゴム成分(第一のジエン系加硫ゴムを構成する全ゴム成分)100質量%中、シリコーンゴムは、好ましくは5質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。一方で、好ましくは90質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
上記範囲内であれば、基材との接着力を確実に向上させることができ、また、ジエン系加硫ゴムが硬くなる恐れがないために好ましい。
【0045】
(b)シリカ微粒子
シリカ微粒子としては、特に制限はなく、公知のシリカを適宜選択して用いることができる。例えば、フュームドシリカ等が挙げられる。フュームドシリカとしては、親水性フュームドシリカ、疎水性フュームドシリカが挙げられる。シリカ微粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
具体的には、アエロジルR974、アエロジル200、アエロジルR976、アエロジルR805、アエロジル130、アエロジル300(いずれも日本アエロジル社製)等が挙げられる。
【0046】
上記シリカ微粒子の含有量は、第一のジエン系ゴム100質量部中、例えば、0.5質量部以上とすることができ、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上が特に好ましい。基材との接着性がより高くなるためである。
【0047】
一方、例えば、シリカ微粒子の量は、第一のジエン系ゴム100質量部中、例えば、40質量部以下とすることができ、20質量部以下が好ましく、10質量部以下が特に好ましい。上記値より多いと、加硫ゴムが硬くなりすぎる場合がある。
【0048】
(c)加硫剤
本実施形態における第一のジエン系ゴムは、通常、加硫剤を含む。加硫剤としては、例えば、硫黄(粉末硫黄,沈降硫黄,不溶性硫黄)、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄含有化合物等、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0049】
(d)その他
本実施形態における第一のジエン系ゴムは、任意成分として、充填剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、軟化剤等を含んでもいてもよい。
【0050】
充填剤としては、例えば、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカ等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0051】
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チアゾール系、アルデヒドアンモニア系、アルデヒドアミン系、チオウレア系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0052】
第一のジエン系ゴムは、上記のゴム成分に、各種添加剤を配合して、一般的な方法で、例えばバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練、成形し、成形体にシリカ微粒子を混ぜ込んだ未加硫のゴムであってもよいし、上記のゴム成分及び各種添加剤と、シリカ微粒子とを配合して、混練し、成形して得られる未加硫のゴムであってもよい。本開示において、未加硫のゴムとは、最終的な製品に至る、加硫前のゴムを指す。
【0053】
(2)その他
本開示における第一のジエン系加硫ゴムは、上述した第一のジエン系ゴムの加硫体である。加硫条件は、第一のジエン系ゴムの配合組成により選択される。本開示において、第一のジエン系加硫ゴムは、加硫済みの状態であり、最終製品として必要とされる加硫度に達している状態であることが好ましい。
【0054】
III.表面活性化
本実施形態におけるゴム接合体における基材は、シリカ薄膜表面のうち少なくとも第一のジエン系加硫ゴムと接合する面が、表面活性化処理されている。更に、第一のジエン系加硫ゴムの少なくとも基材と接合する面が、表面活性化処理されている。具体的には、コロナ処理またはプラズマ処理によって表面励起されて改質されていることが好ましい。
【0055】
IV.ゴム接合体
本実施形態におけるゴム接合体は、第一のジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたものである。本実施形態において製造されるゴム接合体は、基材におけるシリカ薄膜表面と、第一のジエン系加硫ゴム表面とが、第一のジエン系加硫ゴムに含まれるシリカ微粒子と、基材のシリカ薄膜に含まれるケイ素原子とによって形成されるシロキサン結合によって強固に接合されている。
【0056】
具体的には、第一のジエン系加硫ゴムと基材との180°剥離試験による剥離強度が後述する特定の値以上のゴム接合体とすることができる。または、第一のジエン系加硫ゴムと基材との剥離を行った場合に第一のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離が生じるゴム接合体となる。
【0057】
(1)180°剥離試験による剥離強度
本実施形態におけるゴム接合体は、第一のジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたものである。具体的には、第一のジエン系加硫ゴムと基材との180°剥離試験による剥離強度が、例えば、好ましくは、2.0kgf/15mm以上、更に好ましくは5.0kgf/15mm以上である。本開示において180°剥離試験による剥離強度は、ゴム接合体を15mm幅に切断し、引張試験機(例えばテンシロン型引張試験機(型番RTA-250、オリエンテック社製))を用いて、JIS K6854-2:1999に準拠し、引張速度100mm/minの条件で測定された値である。具体的には、実施例で記載した測定方法を採用することができる。
【0058】
15mm幅に切断不可能なサイズが小さいゴム接合体等の場合においては、例えば、シール部の幅が6mm以上、シール部の幅と直交する方向長さが3mm以上であり、シール部以外のテンシロンへの固定部分として、ゴム接合体(製品)の一部を固定可能なもの、またはゴム接合体(製品)に装着した伸縮、破断しない治具(ガムテープ、その他)で10mm以上を固定可能なものであれば、剥離強度を測定し、シール幅15mmの剥離強度に換算することで、算出することができる。
【0059】
(2)材料破壊による剥離
本開示におけるゴム接合体は、上記基材、と、上記第一のジエン系加硫ゴムとの界面における接着力が高いものとなる。そのため、上記第一のジエン系加硫ゴムと上記基材との剥離を行った場合、基材と第一のジエン系加硫ゴムとの界面剥離ではなく、上記基材より強度が低い上記第一のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離が生じるものとなる。
【0060】
ここで、「上記第一のジエン系加硫ゴムと上記基材との剥離を行った場合」とは、上記第一のジエン系加硫ゴムと上記基材とを把持して、剥離する方向に力を加えて行う剥離方法であれば、特に剥離の方法は問わないが、両者の界面をナイフ等により切断して剥離する方法等の両者の界面に何等かの処理を施す方法を含むものではない。
【0061】
本開示における剥離方法としては、例えば、上述したJIS K6854-2:1999の180°剥離試験において用いる剥離方法であってもよく、また、同様に製品サイズ、形状によっては、JIS K6854-1:1999の90°剥離試験を代用しても良い。また、JIS K 6261 ゴムのねじり試験で、基材とゴムの剥離とねじりによるゴム破断を代用しても良い。この場合、ゴムが長すぎてゴムの途中がねじ切れないよう、ゴムは短めに調整することが好ましい。第一のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離は、剥離表面の顕微鏡観察やFT-IRで判定することができる。
【0062】
(3)用途
本実施形態におけるゴム接合体の用途としては、特に限定されず、ゴムが少なくとも一部に用いられている各種産業用途のゴム製品に広く使用することができる。例えば、各種樹脂素材とゴムの複合材料で、流体用のゴム弁、流体・気体のダイアフラム、ゴム継手、ゴムパッキンなど広くゴム弾性や屈曲性、復元力を利用したゴム製品が挙げられる。
【0063】
(4)製造方法
本実施形態におけるゴム接合体は、後述する「B.ゴム接合体(第一実施形態)の製造方法」により製造することができる。
【0064】
B.ゴム接合体(第一実施形態)の製造方法
本開示では、樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、上記樹脂基材本体及び上記シリカ薄膜を有する基材を作製する基材作製工程と、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴムを準備するジエン系加硫ゴム準備工程と、上記基材の上記シリカ薄膜の表面と、上記第一のジエン系加硫ゴムの表面とに活性化処理を施す表面活性化処理工程と、上記基材と上記第一のジエン系加硫ゴムの、上記活性化処理を施した表面同士を接触させる接触工程と、を有する、ゴム接合体の製造方法を提供する。
【0065】
本実施形態のゴム接合体の製造方法によれば、ジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたゴム接合体を得ることができる。また、接着剤を使用しないため、接着剤の選択を行う必要がなく、容易にゴム接合体を得ることができる。
【0066】
I.基材作製工程
本工程は、樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、樹脂基材本体及びシリカ薄膜を有する基材を作製する工程である。本工程で使用する樹脂基材本体は、上述した「A.ゴム接合体(第一実施形態) I.基材 (1)樹脂基材本体」と同様であるため、ここでの説明は省略する。シリカ薄膜およびその形成方法としては、上述した「A.ゴム接合体(第一実施形態) I.基材 (2)シリカ薄膜」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0067】
II.ジエン系加硫ゴム準備工程
本工程は、ジエン系ゴム成分およびシリカ微粒子を含む第一のジエン系ゴムの加硫体である第一のジエン系加硫ゴムを準備する工程である。ジエン系ゴム成分、シリカ微粒子、第一のジエン系ゴム、第一のジエン系加硫ゴム及びその製造方法としては、上述した「A.ゴム接合体(第一実施形態) II.第一のジエン系加硫ゴム」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0068】
III.表面活性化処理工程
本工程は、基材のシリカ薄膜の表面と、第一のジエン系加硫ゴムの表面とに活性化処理を施す工程である。これにより、基材のシリカ薄膜の表面と、第一のジエン系加硫ゴムの表面を化学結合を形成しやすい活性な励起状態とし、より強固な接合を得ることができる。表面活性化処理は、基材のシリカ薄膜表面のうち少なくとも、第一のジエン系加硫ゴムとの接合面に施せばよく、例えば基材のシリカ薄膜の全表面に施してもよいし、接合面のみに施してもよい。同様に、第一のジエン系加硫ゴムの表面のうち少なくとも、基材との接合面に施せばよく、例えば第一のジエン系加硫ゴムの全表面に施してもよいし、接合面のみに施してもよい。
【0069】
具体的な表面活性化処理としては、特に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことが好適である。プラズマ処理としては、大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理等が挙げられる。特に、表面を十分に酸化してより強固な接合を得ることができる観点から、コロナ処理、低圧下での酸素プラズマ処理が好ましい。
【0070】
IV.接触工程
本工程は、基材と第一のジエン系加硫ゴムの、活性化処理を施した表面同士を接触させる工程である。本工程において基材と第一のジエン系加硫ゴムとを接触させる際、加熱は行っても行わなくてもよく、加圧は行っても行わなくてもよい。本開示におけるゴム接合体の製造方法では、加熱加圧を行わずとも、常温で接触させるだけで基材とジエン系加硫ゴムとを強固に接合することができる。
【0071】
この際の接着条件としては、具体的には、温度を例えば、0~160℃、好ましくは10~120℃の範囲内で、圧力を例えば0.1~40kg/cm、好ましくは0.4~10kg/cmの範囲内で、加熱加圧時間を例えば0.05~20分の範囲内とすることができる。
【0072】
C.ゴム接合体(第二実施形態)
本実施形態におけるゴム接合体について、図面を参照して説明する。図2は本実施形態におけるゴム接合体の一例を示す概略断面図である。図2に示すように、ゴム接合体11は、樹脂基材本体12aと、樹脂基材本体12a上に形成されたシリカ薄膜12bとを有する基材12と、基材12のシリカ薄膜12b上に積層された、ジエン系ゴム成分を含む第二のジエン系ゴムの加硫体である第二のジエン系加硫ゴム13との接合体であり、第二のジエン系加硫ゴム13は、表面にジエン系ゴム成分と結合したシランカップリング剤14が付着している、ゴム接合体である。
【0073】
I.基材
基材については、上記第一実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0074】
II.第二のジエン系加硫ゴム
第二のジエン系加硫ゴムは、ジエン系ゴム成分を含む第二のジエン系ゴムの加硫体であり、表面にジエン系ゴム成分と結合したシランカップリング剤が付着している。このような第二のジエン系加硫ゴムは、少なくとも基材との接合面においても、ジエン系ゴム成分と結合したシランカップリング剤が付着しているものである。
【0075】
(1)第二のジエン系ゴム
本実施形態における第二のジエン系ゴムは、ジエン系ゴム成分、及び任意成分を含む。ジエン系ゴム成分としては、上記第一実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。任意成分としては、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、軟化剤等が挙げられる。これらの任意成分としては、上記第一実施形態と同様のものが挙げられる。充填剤としては、上記第一実施形態と同様のものの他、シリカ微粒子を使用することもできる。
【0076】
(2)シランカップリング剤
シランカップリング剤としては、ジエン系ゴム成分と結合可能な官能基および加水分解性基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。例えば、ジエン系ゴム成分と結合可能な官能基としては、メルカプト基(-SH)、反応性のアクリル基、エポキシ基、ウレタン基、ビニル基等が挙げられる。
【0077】
上記加水分解性基は特に制限されないが、例えば、アルコキシ基が挙げられる。加水分解性基がアルコキシ基である場合、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0078】
上記メルカプト基を有するシランカップリング剤(メルカプト系シランカップリング剤)の具体例としては、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0079】
シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
第二のジエン系加硫ゴム表面に存在するシランカップリング剤は、赤外分光法(IR)やX線光電分光法(XPS)等で、深さ方向(nm)の分析により判断することができる。
【0081】
シランカップリング剤は、具体的には、蒸着法等を用いて第二のジエン系加硫ゴムの表面に付着させることができる。シランカップリング剤は、第二のジエン系加硫ゴムの表面に均一に付着していることが好ましく、ジエン系ゴム成分と結合したシランカプッリング剤を含有するシランカプッリング剤層が第二のジエン系加硫ゴムの表面に設けられていることが好ましい。
【0082】
シランカップリング剤層の膜厚は、通常薄く、最低限、単分子層オーダーの厚さがあれば十分である。例えば100nm未満であり、50nm以下が好ましく、さらに実用上は25nm以下が好ましい。シランカップリング剤層の膜厚は、触針式段差測定機 Dektakにより求めることができる。
【0083】
本実施形態における第二のジエン系加硫ゴムは、上述した第二のジエン系ゴムの加硫体である。加硫条件は、第二のジエン系ゴムの配合組成により選択される。本開示において、第二のジエン系加硫ゴムは、加硫済みの状態であり、最終製品として必要とされる加硫度に達している状態であることが好ましい。
【0084】
III.表面活性化
本実施形態におけるゴム接合体における基材は、シリカ薄膜表面のうち少なくとも第二のジエン系加硫ゴムと接合する面が、表面活性化処理されている。更に、第二のジエン系加硫ゴムのカップリング剤処理した表面のうち基材と接合する面が、表面活性化処理されている。具体的には、コロナ処理またはプラズマ処理によって表面励起されて改質されていることが好ましい。
【0085】
IV.ゴム接合体
本実施形態におけるゴム接合体は、第二のジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたものである。具体的には、第二のジエン系加硫ゴムと基材との180°剥離試験による剥離強度が後述する特定の値以上のゴム接合体とすることができる。または、第二のジエン系加硫ゴムと基材との剥離を行った場合に第二のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離が生じるゴム接合体とすることができる。
【0086】
(1)180°剥離試験による剥離強度
本実施形態におけるゴム接合体は、第二のジエン系加硫ゴムと基材とが強固に接合されたものである。具体的には、第二のジエン系加硫ゴムと基材との180°剥離試験による剥離強度が、例えば、好ましくは、2.0kgf/15mm以上、更に好ましくは5.0kgf/15mm以上である。
【0087】
(2)材料破壊による剥離
本実施形態におけるゴム接合体は、上記基材、と、上記第二のジエン系加硫ゴムとの界面における接着力が高いものとなる。そのため、上記第二のジエン系加硫ゴムと上記基材との剥離を行った場合、基材と第二のジエン系加硫ゴムとの界面剥離ではなく、上記基材より強度が低い上記第二のジエン系加硫ゴムの材料破壊による剥離が生じるものとなる。ここで、「上記第二のジエン系加硫ゴムと上記基材との剥離を行った場合」とは、上述した第一実施形態における「上記第一のジエン系加硫ゴムと上記基材との剥離を行った場合」と同様の剥離方法が挙げられる。
【0088】
(3)用途
本実施形態におけるゴム接合体の用途としては、特に限定されず、ゴムが少なくとも一部に用いられている各種産業用途のゴム製品に広く使用することができる。例えば、各種樹脂素材とゴムの複合材料で、流体用のゴム弁、流体・気体のダイアフラム、ゴム継手、ゴムパッキンなど広くゴム弾性や屈曲性、復元力を利用したゴム製品等が挙げられる。
【0089】
(4)製造方法
本実施形態におけるゴム接合体は、後述する「D.ゴム接合体(第二実施形態)の製造方法」により製造することができる。
【0090】
D.ゴム接合体(第二実施形態)の製造方法
本開示では、樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、上記樹脂基材本体及び上記シリカ薄膜を有する基材を作製する基材作製工程と、ジエン系ゴム成分を含む第二のジエン系ゴムの加硫体である第二のジエン系加硫ゴムを準備するジエン系加硫ゴム準備工程と、上記第二のジエン系加硫ゴムの表面を、上記ジエン系ゴム成分と結合可能なシランカップリング剤で処理するカップリング剤処理工程と、上記基材の上記シリカ薄膜の表面と、上記第二のジエン系加硫ゴムのカップリング剤処理した表面とに、活性化処理を施す表面活性化処理工程と、上記基材と上記第二のジエン系加硫ゴムの、上記活性化処理を施した表面同士を接触させる接触工程と、を有する、ゴム接合体の製造方法を提供する。
【0091】
I.基材作製工程
本工程は、樹脂基材本体上に、シリカ薄膜を形成することにより、樹脂基材本体及びシリカ薄膜を有する基材を作製する工程である。本工程で使用する樹脂基材本体は、上述した「A.ゴム接合体(第一実施形態) I.基材 (1)樹脂基材本体」と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。シリカ薄膜およびその形成方法としては、上述した「A.ゴム接合体(第一実施形態) I.基材 (2)シリカ薄膜」と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0092】
II.ジエン系加硫ゴム準備工程
本工程では、ジエン系ゴム成分を含む第二のジエン系ゴムの加硫体である第二のジエン系加硫ゴムを準備する。
ジエン系ゴム成分及び第二のジエン系ゴム、第二のジエン系ゴムの加硫方法としては、上述した「C.ゴム接合体(第二実施形態) II.第二のジエン系加硫ゴム」と同様とすることができる。
【0093】
III.カップリング剤処理工程
本工程では、第二のジエン系加硫ゴムの表面を、ジエン系ゴム成分と結合可能なシランカップリング剤で処理する。通常、ジエン系加硫ゴム中にも、未反応の炭素-炭素二重結合(C=C)が残存している。この処理により、ジエン系ゴム成分と結合可能なシランカップリング剤が、ジエン系加硫ゴムに残存している未反応の炭素-炭素二重結合(C=C)を有するジエン系ゴム成分と反応し、結合し、第二のジエン系加硫ゴムの表面に、シランカップリング剤を付着させることができる。
【0094】
ジエン系ゴム成分と結合可能なシランカップリング剤としては、上述した「C.ゴム接合体(第二実施形態) II.第二のジエン系加硫ゴム (2)シランカップリング剤」と同様のものが挙げられる。
カップリング剤処理は、具体的には、ドライコート法で行うことができる。ドライコート法とは、カップリング剤を真空・減圧環境下で直接塗布する方法であり、PVD、CVD蒸着、減圧スプレーなど気相でシランカップリング剤を溶融状態で第二のジエン系加硫ゴムに被着させる方法などから選択する。特に、熱CVD蒸着として、コメリック社からパリレンコート用に提供されている熱CVD装置のシランカップリング剤揮発チャンバーや、パリレンダイマーの熱CVDチャンバーから揮発蒸発させドライコーティングすることが好ましい。
【0095】
尚、シランカップリング剤処理工程においては、シランカップリングで処理する前に、第二のジエン系加硫ゴム表面を、アルゴンガス等を使用した真空プラズマ処理等で活性化することが好ましい。これにより、第二のジエン系加硫ゴムにラジカルを生成することができ、シランカップリング剤との結合が容易となる。
【0096】
IV.表面活性化処理工程
本工程では、基材のシリカ薄膜の表面と、第二のジエン系加硫ゴムのカップリング剤処理した表面とに、活性化処理を施す。これにより、基材のシリカ薄膜の表面と、第二のジエン系加硫ゴムのカップリング剤処理した表面との接着性を向上させることができ、次工程の接触工程で、基材と第二のジエン系加硫ゴムとの接合を強固なものとすることができる。
【0097】
表面活性化処理は、シリカ薄膜表面のうち少なくとも、第二のジエン系加硫ゴムとの接合面に施せばよく、例えば、基材のシリカ薄膜の全表面に施してもよいし、接合面のみに施してもよい。同様に、第二のジエン系加硫ゴムのカップリング剤処理した表面のうち少なくとも、基材との接合面に施せばよく、例えば、第二のジエン系加硫ゴムの全表面に施してもよいし、接合面のみに施してもよい。
【0098】
具体的な表面活性化処理としては、特に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことが好適である。プラズマ処理としては、大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理等が挙げられる。特に、表面を十分に酸化してより強固な接合を得ることができる観点から、コロナ処理、低圧下での酸素プラズマ処理が好ましい。
【0099】
V.接触工程
本工程では、基材と第二のジエン系加硫ゴムの、活性化処理を施した表面同士を接触させる。本工程において基材と第二のジエン系加硫ゴムとを接触させる際、加熱は行っても行わなくてもよく、加圧は行っても行わなくてもよい。本実施形態におけるゴム接合体の製造方法では、加熱加圧を行わずとも、常温で接触させるだけで基材とジエン系加硫ゴムとを強固に接合することができる。
【0100】
この際の接着条件としては、具体的には、温度を例えば、0~160℃、好ましくは10~120℃の範囲内で、圧力を例えば0.1~40kg/cm、好ましくは0.4~10kg/cmの範囲内で、加熱加圧時間を例えば0.05~20分の範囲内とすることができる。
【0101】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0102】
以下に実施例および比較例を示し、本開示をさらに詳細に説明する。
【0103】
(実施例1)
厚さ12μmのPETフィルムの一方の表面上にCVD法によりシリカ蒸着膜を形成し、基材を準備した。基材Aのシリカ蒸着膜側とは反対の面に、セイカボンド主剤E-372(17重量部:大日精化社製)、セイカボンド硬化剤C-84(3重量部)と酢酸エチル(80重量部)を含むラミネート剤を、ワイヤーバーNo.5でコート、ドライヤー乾燥したものと、30μm厚の硬質アルミ箔(三菱アルミ社製)とラミネートし、接着確認用のCVDシリカ蒸着フィルムを作製した。
【0104】
次に、ジクミルパーオキシドで過酸化物加硫したイソプレンゴムシート(厚さ2mm:興国インテック社製)を、シラン処理室の付いた減圧蒸着装置(コメリック社製)のサンプルチャンバーにセットし、2mbarでArプラズマ処理を30秒間、0.3mbarで3-メルトカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM-803 信越化学社製)処理を1200秒間実施した。
この処理により、イソプレンゴムシートの表面に3-メルトカプトプロピルトリメトキシシランが結合し、膜厚7nmのシランカプッリング剤層が形成された。
【0105】
次いで、基材のシリカ蒸着膜の表面、およびイソプレンゴムシートのシラン処理面に、0.5mbar下で真空Oプラズマ装置(ヤマト科学社製)内でそれぞれ、30秒、120秒処理し、処理面同士が接触するように加重配置し(加重約10kg/m)、8時間放置した。
【0106】
8時間後の基材とイソプレンゴムシートの密着部分は強固に接着していた。未接着部分を基材、ゴムシートに残し、後述するようにテンシロンで180°剥離した。剥離後の状態を確認したところ、基材とイソプレンゴムシートの界面では剥離せず、イソプレンゴムの材料破壊(ゴム破断)による剥離であることが確認できた。測定された剥離強度を表1に示す。
【0107】
(180°剥離試験)
ゴム接合体について、15mm幅に切断してテストピースとした。4つのテストピースに対し、基材と、イソプレンゴムとの剥離強度を、テンシロン型引張試験機(型番RTA-250、オリエンテック社製)を用いて、JIS K6854-2:1999に準拠して測定した。基材とイソプレンゴムの未接着部分を、それぞれ上記引張試験機のつかみ具で把持し、100mm/分の剥離速度で180°剥離試験を実施し、基材とイソプレンゴムとの剥離強度を測定した。
【0108】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、接着確認用のCVDシリカ蒸着フィルムを作製した。また、実施例1のイソプレンゴムにおけるシラン処理のシランカップリング剤を、3-メルトカプトプロピルトリメトキシシランからメタクロキシプロピルトリメトキシシラン(A-174 メルク社製)に変更した以外は、同じ条件でシラン処理イソプレンゴムシートを作製した。
【0109】
次いで、基材のシリカ蒸着膜の表面、およびイソプレンゴムシートのシラン処理面を、実施例1と同様に、酸素プラズマ処理で励起した後、処理面同士を接触するように密着加重配置し、8時間放置した。テンシロン(オリエンテック社製 引張試験機RTA-250)を用い、標準ロードセルで20%加重しながら毎分100mmの速度で180°剥離した。シリカ蒸着フィルムとイソプレンゴムは、0.22kgf/15mm程度の強度ですべて仮着しており、界面剥離した。
【0110】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、接着確認用のCVDシリカ蒸着フィルムを作製した。また、実施例1で使用したイソプレンゴムシートの未加硫体(厚さ2mm、加硫剤としてジクミルパーオキシドを含み、シリカ微粒子を含まない未加硫シート)100質量部に、アエロジル200(日本アエロジル社製)2.5質量部を添加配合し、それ以外は同等条件で過酸化物加硫したイソプレンゴムシート(興国インテック社製)を準備した。
実施例1の減圧シラン処理を施さない状態の上記イソプレンゴムシートと、CVDシリカ蒸着フィルムのシリカ蒸着面とに、0.5mbar下、真空酸素プラズマ装置(ヤマト科学社製)内でそれぞれ、30秒間、120秒間処理し、処理面同士を接触するように密着加重配置し、8時間放置した(加重約10kg/m)。8時間後のシリカ蒸着フィルムとイソプレンゴムシートの密着部分は強固に接着していた。未接着部分をフィルム、ゴムシートに残し、テンシロン(オリエンテック社製 引張試験機RTA-250)で180°剥離後の状態を確認したところ、基材とイソプレンゴムシートの界面では剥離せず、イソプレンゴムの材料破壊(ゴム破断)による剥離であることが確認できた。測定された剥離強度を表1に示す。
【0111】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、接着確認用のCVDシリカ蒸着フィルムを作製した。また、実施例1で使用したイソプレンゴムシートの未加硫体(厚さ2mm、加硫剤としてジクミルパーオキシドを含み、シリカ微粒子を含まない未加硫シート)100質量部に、アエロジルR974(日本アエロジル社製)2.5重量部を添加配合し、それ以外は同等条件で加硫したイソプレンゴムシート(興国インテック社製)を準備した。
【0112】
実施例1の減圧シラン処理を施さない状態の上記イソプレンゴムシートと、CVDシリカ蒸着フィルムのシリカ蒸着面とに、ベルトコンベアにスキャナーバー付きコロナ放電機(PS-1M信光電気計測製)でギャップ2mm、搬送速度3m/分で通過処理し、処理面同士を接触するように密着加重配置し(加重約10g/m)、8時間放置した。8時間後のシリカ蒸着フィルムとイソプレンゴムシートの密着部分は強固に接着していた。未接着部分をフィルム、ゴムシートに残し、テンシロン(オリエンテック社製 引張試験機RTA-250)で180°剥離した。剥離後の状態を確認したところ、基材とイソプレンゴムシートの界面では剥離せず、イソプレンゴムの材料破壊(ゴム破断)による剥離であることが確認できた。測定された剥離強度を表1に示す。
【0113】
【表1】
【符号の説明】
【0114】
1 … ゴム接合体
2 … 基材
3 … 第一のジエン系加硫ゴム
11 … ゴム接合体
12 … 基材
13 … 第二のジエン系加硫ゴム
14 … シランカップリング剤
図1
図2