IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧

特許7547792積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置
<>
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図1
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図2
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図3
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図4
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図5
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図6
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図7
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図8
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図9
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図10
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図11
  • 特許-積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20240903BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240903BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B27/18 A
C08G73/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020097235
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2020203479
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019112323
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】脇田 敬輔
(72)【発明者】
【氏名】坂寄 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】前田 高徳
(72)【発明者】
【氏名】堀田 光
(72)【発明者】
【氏名】岡田 滉大
(72)【発明者】
【氏名】金澤 奈保美
(72)【発明者】
【氏名】小林 義弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】網江 崇
(72)【発明者】
【氏名】七海 真
(72)【発明者】
【氏名】籔本 和希
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽介
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/010494(WO,A1)
【文献】特開2017-033035(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060213(WO,A1)
【文献】特開2011-088789(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066078(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065624(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/046180(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100904(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/004236(WO,A1)
【文献】Polymer International,2017年12月26日,(2018) Volume 67, Issue 4,pp.431-444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムと、
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを有する積層体であり、
前記ポリイミドフィルムは、下記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び下記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを含有するポリイミドフィルムであり、
前記紫外線吸収剤が、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上の紫外線吸収剤で、前記紫外線吸収剤の含有量がハードコート層の固形分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であり、
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.12未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.11未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.09未満であり、
前記ハードコート層の厚さは、2.0μm以上、50.0μm以下であり、
積層体の全体厚さは、10μm以上、300μm以下である、積層体。
(耐候性試験)
JIS K5600-7-8に準拠した耐候性試験機を用い、0.63W/m/nmに設定した出力で、UVA(340)ランプを使用して、積層体を96時間照射する。
耐候性試験前後の積層体についてそれぞれ、JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)、C光源を用いたCIEのL表色系におけるL、a、bを測定する。
ΔYI=試験後YI-試験前YI
ΔE={(試験後L-試験前L+(試験後a-試験前a+(試験後b-試験前b1/2
【化1】
(一般式(1)及び(2)において、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、R及びRの少なくとも1つ、及びR及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1~6のアルキル基を表す。Aは芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基を表し、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。)
【請求項2】
ポリイミドフィルムと、
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを有する積層体であり、
前記ポリイミドフィルムは、下記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び下記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを含有するポリイミドフィルムであり、
前記紫外線吸収剤が、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上の紫外線吸収剤で、前記紫外線吸収剤の含有量がハードコート層の固形分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であり、
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.15未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.13未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.11未満であり、
前記ハードコート層の厚さは、2.0μm以上、50.0μm以下であり、
積層体の全体厚さは、10μm以上、300μm以下である、積層体。
(耐候性試験)
JIS K5600-7-8に準拠した耐候性試験機を用い、0.63W/m/nmに設定した出力で、UVA(340)ランプを使用して、積層体を96時間照射する。
耐候性試験前後の積層体についてそれぞれ、JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)、C光源を用いたCIEのL表色系におけるL、a、bを測定する。
ΔYI=試験後YI-試験前YI
ΔE={(試験後L-試験前L+(試験後a-試験前a+(試験後b-試験前b1/2
【化2】
(一般式(1)及び(2)において、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、R及びRの少なくとも1つ、及びR及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1~6のアルキル基を表す。Aは芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基を表し、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。)
【請求項3】
積層体の波長380nmの透過率が8%以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムは、ジクロロメタンが1ppm以上2000ppm以下含まれる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記一般式(1)及び(2)中のBにおける、前記芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基が、trans-シクロヘキサンジアミン残基、trans-1,4-ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン残基、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-[(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(4,1-フェニレンオキシ)]ジアニリン残基、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、及び下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2価の基であり、
前記芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基は、更にN,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド残基、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート残基、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート残基、及びビス(4-アミノフェニル)テレフタレート残基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層体。
【化3】
(一般式(3)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはパーフルオロアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記一般式(2)中のAにおける芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基が、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物残基、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物残基、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物残基、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基、ピロメリット酸二無水物残基、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、4,4’-オキシジフタル酸無水物残基、及び、3,4’-オキシジフタル酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
更に、厚さが100μm以下のガラス基材を有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層体である、ディスプレイ用表面材。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、複数の導電部からなる透明電極と、
前記導電部の端部の少なくとも一方側において電気的に接続される複数の取り出し線と、を有するタッチパネル部材。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、対向基板間に液晶層を有してなる液晶表示部と、を有する液晶表示装置。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、対向基板間に有機エレクトロルミネッセンス層を有してなる有機エレクトロルミネッセンス表示部と、を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄い板ガラスは、硬度、耐熱性等に優れている反面、曲げにくく、落とすと割れやすく、加工性に問題があり、また、プラスチック製品と比較して重いといった欠点があった。このため、近年、樹脂基材や樹脂フィルム等の樹脂製品が、加工性、軽量化の観点でガラス製品と置き換わりつつあり、ガラス代替製品となる樹脂製品の研究が行われてきている。
【0003】
例えば、液晶や有機EL等のディスプレイや、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されるようになってきた。これらのデバイスには従来、薄い板ガラス上に様々な電子素子、例えば、薄型トランジスタや透明電極等が形成されているが、この薄い板ガラスを樹脂フィルムに変えることにより、パネル自体の耐衝撃性の強化、フレキシブル化、薄型化や軽量化が図れる。
【0004】
一般にポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとの縮合反応により得られたポリアミド酸を脱水閉環反応させて得られる高耐熱性の樹脂である。しかしながら、一般にポリイミドは黄色或いは褐色に着色を示すことから、ディスプレイ用途や光学用途など透明性が要求される分野に用いることは困難であった。そこで、透明性を向上したポリイミドを、ディスプレイ部材へ適用することが検討されている。例えば、特許文献1には、高耐熱性、高透明性、低吸水性のポリイミド樹脂として、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物およびこれらの反応性誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアシル含有化合物と、特定の式で表される、少なくとも一つのフェニレン基とイソプロピリデン基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種のイミノ形成化合物とを反応させてなるポリイミドが開示されており、フラットパネルディスプレイや携帯電話機器等の基板材料に好適であると記載されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、芳香族ジアンヒドリドおよび芳香族ジアミンに由来する単位構造を含み、引裂強度改善用添加剤、またはヘキサフルオロ基、スルホン基およびオキシ基よりなる群から選ばれる官能基を有するモノマーに由来する単位構造をさらに含む、透明ポリイミドフィルムが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、優れた透明性を有し、高い耐熱性及び低い線熱膨張係数を併せ持ち、低吸湿性溶媒による溶媒加工性を示すポリイミドとして、無水トリメリット酸クロリドと2,2’,3,3’,5,5’,-ヘキサメチル-ビフェニル-4,4’-ジオールとをエステル化反応させて得られたテトラカルボン酸二無水物と、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンとを反応させてポリアミド酸を得て、得られたポリアミド酸をイミド化したポリイミド等が開示されている。特許文献3のポリイミドは、主鎖骨格をできるだけ直線状で且つ剛直にしつつ、溶媒溶解性を高めるために、エステル結合を介して2面角が大きく捻じれたパラビフェニレン基を導入することで、低熱膨張特性と溶媒溶解性および高い透明性を同時に実現していると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-199945号公報
【文献】特表2014-501301号公報
【文献】国際公開2014/046180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガラス代替製品となる樹脂製品には、透明性や耐久性が求められる。
また、画面が折り畳めるモバイル機器は、持ち運ぶ際には折り畳んだ状態とし、使用する際には折り畳みを開いた状態とする。そのため、モバイル機器に搭載されるフレキシブルディスプレイには、繰り返し屈曲させても表示不良が発生しないことが求められ、フレキシブルディスプレイ用の表面材には、繰り返し屈曲させたときの屈曲耐性(以下、動的屈曲耐性という場合がある)と弾性率との良好なバランスが求められる。
しかしながら、例えば特許文献3に記載されているポリイミドフィルムは、着色しやすく、また、耐久性が不十分であった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、屈曲耐性と弾性率のバランスが良好で、且つ耐久性を有する積層体を提供することを主目的とする。
また、本発明は、前記積層体であるディスプレイ用表面材、並びに、前記積層体を備えるタッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリイミドフィルムと、
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを有する積層体であり、
前記ポリイミドフィルムは、下記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び下記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを含有するポリイミドフィルムであり、
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.12未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.11未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.09未満である、積層体を提供する。
(耐候性試験)
JIS K5600-7-8に準拠した耐候性試験機を用い、0.63W/m/nmに設定した出力で、365nmから295nmまで太陽光に類似した分光分布を持つUVA(340)ランプを使用して、積層体を96時間照射する。
耐候性試験前後の積層体についてそれぞれ、JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)、C光源を用いたCIEのL表色系におけるL、a、bを測定する。
ΔYI=試験後YI-試験前YI
ΔE={(試験後L-試験前L+(試験後a-試験前a+(試験後b-試験前b1/2
【0011】
【化1】
(一般式(1)及び(2)において、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、R及びRの少なくとも1つ、及びR及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1~6のアルキル基を表す。Aは芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基を表し、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。)
【0012】
また、本発明は、ポリイミドフィルムと、
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを有する積層体であり、
前記ポリイミドフィルムは、前記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを含有するポリイミドフィルムであり、
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.15未満であり、
積層体の前記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.13未満であり、
積層体の前記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.11未満である、積層体を提供する。
【0013】
本発明の積層体は、前記紫外線吸収剤が、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上の紫外線吸収剤であることが、耐久性を向上する点から好ましい。
【0014】
本発明の積層体においては、積層体の波長380nmの透過率が8%以下であることが、耐久性を向上する点から好ましい。
【0015】
本発明の積層体においては、前記ポリイミドフィルムは、ジクロロメタンが1ppm以上2000ppm以下含まれることが、膜厚均一性、外観、及び屈曲耐性が向上する点から好ましい。
【0016】
本発明の積層体においては、前記ポリイミドの前記一般式(1)及び(2)中のBにおける、前記芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基が、trans-シクロヘキサンジアミン残基、trans-1,4-ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン残基、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-[(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(4,1-フェニレンオキシ)]ジアニリン残基、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、及び下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更にN,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド残基、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート残基、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート残基、及びビス(4-アミノフェニル)テレフタレート残基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の基であることが、光透過性と、屈曲耐性と弾性率のバランスの点から好ましい。
【0017】
【化2】
(一般式(3)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはパーフルオロアルキル基を表す。)
【0018】
本発明の積層体においては、前記ポリイミドの前記一般式(2)中のAにおける芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基が、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物残基、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物残基、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物残基、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基、ピロメリット酸二無水物残基、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、4,4’-オキシジフタル酸無水物残基、及び、3,4’-オキシジフタル酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基であることが、光透過性と、屈曲耐性と弾性率のバランスの点から好ましい。
【0019】
本発明の積層体においては、更に、厚さが100μm以下のガラス基材を有することが、折癖が生じ難い点から好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記本発明の積層体である、ディスプレイ用表面材を提供する。当該ディスプレイ用表面材は、フレキシブルディスプレイ用とすることができる。
【0021】
また、本発明は、前記本発明の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、複数の導電部からなる透明電極と、
前記導電部の端部の少なくとも一方側において電気的に接続される複数の取り出し線と、を有するタッチパネル部材を提供する。
【0022】
また、本発明は、前記本発明の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、対向基板間に液晶層を有してなる液晶表示部と、を有する液晶表示装置を提供する。
【0023】
また、本発明は、前記本発明の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、対向基板間に有機エレクトロルミネッセンス層を有してなる有機エレクトロルミネッセンス表示部と、を有する有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、屈曲耐性と弾性率のバランスが良好で、且つ耐久性を有する積層体を提供することができる。
また、本発明は、前記積層体であるディスプレイ用表面材、並びに、前記積層体を備えるタッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。
図2】動的屈曲試験の方法を説明するための図である。
図3】本発明のタッチパネル部材の一例の一方の面の概略平面図である。
図4図3に示すタッチパネル部材のもう一方の面の概略平面図である。
図5図3及び図4に示すタッチパネル部材のA-A’断面図である。
図6】本発明の積層体を備える導電性部材の一例を示す概略平面図である。
図7】本発明の積層体を備える導電性部材の別の一例を示す概略平面図である。
図8】本発明のタッチパネル部材の別の一例を示す概略断面図である。
図9】本発明の液晶表示装置の一例を示す概略断面図である。
図10】本発明の液晶表示装置の別の一例を示す概略断面図である。
図11】本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の一例を示す概略断面図である。
図12】本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の別の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る積層体、ディスプレイ用表面材、タッチパネル部材、液晶表示装置、及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置について詳細に説明する。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
また、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの各々を表す。
また、本明細書において「光」とは、活性光線又は放射線を意味し、例えば、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線(EUV光)、X線、電子線等が包含されるものである。
また、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある場合がある。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書において、ポリイミドフィルム中の有機溶剤の含有量の単位として用いられている「ppm」は、質量ppmを表す。
【0027】
I.積層体
本発明の積層体は、ポリイミドフィルムと、
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを有する積層体であり、
前記ポリイミドフィルムは、下記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び下記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを含有するポリイミドフィルムであり、
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.12未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.11未満であり、
積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.09未満である。
(耐候性試験)
JIS K5600-7-8に準拠した耐候性試験機を用い、0.63W/m/nmに設定した出力で、365nmから295nmまで太陽光に類似した分光分布を持つUVA(340)ランプを使用して、積層体を96時間照射する。
耐候性試験前後の積層体についてそれぞれ、JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)、C光源を用いたCIEのL表色系におけるL、a、bを測定する。
ΔYI=試験後YI-試験前YI
ΔE={(試験後L-試験前L+(試験後a-試験前a+(試験後b-試験前b1/2
【0028】
【化3】
(一般式(1)及び(2)において、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、R及びRの少なくとも1つ、及びR及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1~6のアルキル基を表す。Aは芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基を表し、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。)
【0029】
また、本発明の積層体は、ポリイミドフィルムと、
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを有する積層体であり、
前記ポリイミドフィルムは、前記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを含有するポリイミドフィルムであり、
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.15未満であり、
積層体の前記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.13未満であり、
積層体の前記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.11未満である。
【0030】
図1は、本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。本発明の積層体10は、ポリイミドフィルム1と、紫外線吸収剤を含有するハードコート層2とを有する。
本発明によれば、ポリイミドフィルムが含有するポリイミドが、主鎖にエステル結合を介して2面角がねじれたパラビフェニレン基を含む特定の構造のテトラカルボン酸残基と、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基とを有し、且つ、特定の重量平均分子量を有するように選択したことにより、屈曲耐性と弾性率のバランスを良好にしやすい。しかしながら、前記特定のポリイミドは製法によっては着色しやすく、また、耐久性が不十分であった。ポリイミドフィルム中に紫外線吸収剤を含有させることも考えられたが、ポリイミドフィルムの着色と、耐候性試験前後の色変化の抑制の両立が困難であった。
それに対して、本発明の積層体は、前記特定のポリイミドフィルムと、紫外線吸収剤を含有するハードコート層とを、積層体の着色度及び耐候性試験時の黄色度変化及び色変化が特定の範囲内になるように選択して組み合わせる。このような特定のハードコート層をポリイミドフィルムよりも表面乃至光入射側に位置させて用いることによって、本発明の積層体は、透明性が良好で、且つ経時変化を適切に抑制できるようになり、屈曲耐性と弾性率のバランスが良好で、耐久性を有するものとなる。
以下、本発明に用いられるポリイミドフィルム、及びハードコート層を順に説明する。
【0031】
I-1.ポリイミドフィルム
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記特定のポリイミドを含有するものである。本発明の効果が損なわれない限り、更にその他の成分を含有していても良いし、他の構成を有していてもよい。
【0032】
1.ポリイミド
ポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるものである。テトラカルボン酸成分とジアミン成分の重合によってポリアミド酸を得てイミド化することが好ましい。イミド化は、化学イミド化で行っても、熱イミド化で行ってもよく、化学イミド化と熱イミド化とを併用してもよい。
本発明で用いられるポリイミドは、下記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び下記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上である。
【0033】
【化4】
(一般式(1)及び(2)において、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表し、R及びRの少なくとも1つ、及びR及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1~6のアルキル基を表す。Aは芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基を表し、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。)
【0034】
ここで、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸から、4つのカルボキシル基を除いた残基をいい、テトラカルボン酸二無水物から酸二無水物構造を除いた残基と同じ構造を表す。
また、ジアミン残基とは、ジアミンから2つのアミノ基を除いた残基をいう。
【0035】
一般式(1)において、R及びRの少なくとも1つ、及びR及びRの少なくとも1つは、炭素原子数1~6のアルキル基を表す。
当該炭素原子数1~6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であって良く、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基が挙げられる。
溶剤溶解性の点から、好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~2のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
また、中でも、R及びR、並びにR及びRが、メチル基を表すことが、溶剤溶解性の点から、好ましい。
【0036】
一般式(1)において、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。
芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基は、芳香族環を有するジアミン又は脂肪族環を有するジアミンから2つのアミノ基を除いた残基とすることができる。芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基は、芳香族環又は脂肪族環を少なくとも有すればよく、芳香族環及び脂肪族環を有していてもよい。
芳香族環を有するジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン)、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン等、及び、前記ジアミンの芳香族環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
【0037】
芳香族環を有するジアミン残基としては、前記N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート、及びビス(4-アミノフェニル)テレフタレートを包含するような、下記一般式(5)で表されるジアミンのジアミン残基を含むことが、弾性率の向上の点から好ましい。2つ又は3つのフェニレン基をアミド結合及びエステル結合の少なくとも1種で結合したジアミン残基を導入することにより、分子鎖の平面性を高めて、分子鎖同士のπ-π分子間相互作用を促すことができ、更にアミド結合を含む場合にはアミド結合部位と一般式(1)のテトラカルボン酸残基のエステル結合部位との水素結合形成による分子間力を高めることができ、弾性率を向上できると考えられる。
【0038】
【化5】
(式(5)において、Rはそれぞれ独立に、ハロゲン化アルキル基、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基を表し、Z及びZはそれぞれ独立に、-NHCO-、-CONH-、-OCO-、又は-COO-の2価の基を表し、Zはアミノ基に対してパラ位又はメタ位に結合し、ZはZに対してパラ位又はメタ位に結合し、kは0又は1の整数を表し、j1、j2及びj3はそれぞれ独立に0~4の整数を表す。)
【0039】
式(5)において、Rはそれぞれ独立に、ハロゲン化アルキル基、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基を表す。アルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が挙げられ、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基が挙げられ、炭素数1~3のハロゲン化アルキル基が好ましく、例えば、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、炭素数5~7のシクロアルキル基が挙げられ、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6~12のアリール基が挙げられ、炭素数6~10のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0040】
としては、透明性の点からはハロゲン化アルキル基が好適に用いられ、溶剤への溶解性付与の点からはアルキル基が好適に用いられ、分子鎖の平面性を損なわせずに、溶解性を付与する点からはシクロアルキル基が好適に用いられ、分子鎖の平面性や剛直性を高め、弾性率を向上する点からはアリール基が好適に用いられる。
【0041】
置換基Rの数を示すj1、j2及びj3はそれぞれ独立に0~4の整数を表す。j1、j2及びj3はそれぞれ独立に0~2の整数であることが好ましく、0~1の整数であることがより好ましい。また、j1+j2+j3は0~6であることが好ましく、0~3であることがより好ましい。
【0042】
kは0又は1の整数を表し、kが0の時、2つのフェニレン基が連結される。
kが0の時、j1又はj2の少なくとも1つが1以上の整数を表すことが、前記置換基の効果を得る点から好ましい。すなわち、kが0の時は、置換基Rがジアミン残基中に少なくとも1つ含まれることが好ましい。
kが0の時、j1+j2は1~4であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
kが0の時の置換基Rは、上記の点から適宜選択されればよいが、中でも分子鎖の平面性や剛直性を高める点から、アリール基が好適に用いられ、少なくとも1つのアリール基を含むことが好ましい。
【0043】
及びZはそれぞれ独立に、-NHCO-、-CONH-、-OCO-、又は-COO-の2価の基を表し、Zはアミノ基に対してパラ位又はメタ位に結合し、ZはZに対してパラ位又はメタ位に結合する。
原料のジアミンに直結する芳香族環に対して-NH-で結合させ芳香族環を電子豊富にして反応性を高める点からは、k=0の場合、Zは-NHCO-又は-CONH-が好ましく、k=1の場合、Zは-NHCO-で、Zは-CONH-であることがより好ましい。
また、原料のジアミンに直結する芳香族環に対して-O-で結合させ芳香族環を電子豊富にして反応性を高める点からは、k=0の場合、Zは-OCO-又は-COO-が好ましく、k=1の場合、Zは-OCO-で、Zは-COO-であることがより好ましい。
また、分子鎖の主骨格を直線的な構造にしてスタッキングしやすくすることで、高弾性率化を図る点からは、Zはアミノ基に対してパラ位に結合し、ZはZに対してパラ位に結合することが好ましい。
【0044】
前記式(5)で表されるジアミンとしては、例えば、下記構造のジアミンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
【化6】
【0046】
【化7】
【0047】
【化8】
【0048】
【化9】
【0049】
前記式(5)で表される構成単位のジアミン残基としては、高分子量ポリマーを得るために反応性が高いジアミンの選択が必要な点から、前記式(DA1)、(DA4)、(DA7)、及び(DA29)からなる群から選択される少なくとも1種のジアミンのジアミン残基であってよい。
【0050】
また、脂肪族環を有するジアミンとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、trans-1,4-ビスメチレンシクロヘキサンジアミン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン等が挙げられる。
芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基は、単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0051】
本発明に用いられるポリイミドは、前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含む。本発明に用いられるポリイミドは、前記一般式(1)で表される構成単位を100モル%含む場合には、前記一般式(2)で表される構成単位は0モル%、すなわち含まれない。
【0052】
前記一般式(2)において、Aは芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基を表し、Bは、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基である2価の基を表す。
前記一般式(2)におけるBは、前記一般式(1)におけるBと同様であって良いので、ここでの説明を省略する。前記一般式(1)におけるBと前記一般式(2)におけるBとは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。
【0053】
前記一般式(2)のAにおけるテトラカルボン酸残基は、芳香族環を有するテトラカルボン酸二無水物から酸二無水物構造を除いた残基、又は、脂肪族環を有するテトラカルボン酸二無水物から酸二無水物構造を除いた残基とすることができる。
芳香族環を有するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス〔(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4-ビス〔(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’-ビス〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
脂肪族環を有するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0054】
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下含む。
溶剤への溶解性の点から、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記一般式(1)で表される構成単位を15モル%以上含むことが好ましく、25モル%以上含むことがより好ましく、50モル%以上含むことがより更に好ましく、60モル%以上含むことがより更に好ましい。
一方、表面硬度や光透過性を向上する点から、共重合成分を含んでも良く、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記一般式(1)で表される構成単位を95モル%以下含むものであって良く、更に90モル%以下含むものであって良く、より更に80モル%以下含むものであって良い。
【0055】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含む。
溶剤への溶解性の点から、本発明に用いられるポリイミドフィルム中、前記一般式(2)で表される構成単位は85モル%以下であることが好ましく、75モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがより更に好ましく、40モル%以下であることがより更に好ましい。
本発明に用いられるポリイミドフィルム中、前記一般式(2)で表される構成単位は0モル%であっても良いが、表面硬度や光透過性を向上する点から、共重合成分として含まれていても良く、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記一般式(2)で表される構成単位を5モル%以上含むものであって良く、更に10モル%以上含むものであって良く、より更に20モル%以上含むものであって良い。
【0056】
光透過性を向上し、且つ、表面硬度を向上する点から、Aのテトラカルボン酸残基である4価の基、及び、Bのジアミン残基である2価の基の少なくとも1つは、芳香族環を含み、且つ、(i)フッ素原子、(ii)脂肪族環、及び(iii)芳香族環同士をスルホニル基又はフッ素で置換されていても良いアルキレン基で連結した構造、からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
本発明で用いられるポリイミドは、芳香族環を有するテトラカルボン酸残基及び芳香族環を有するジアミン残基から選ばれる少なくとも一種を含むことにより、分子骨格が剛直となり配向性が高まり、表面硬度が向上するが、剛直な芳香族環骨格は吸収波長が長波長に伸びる傾向があり、可視光領域の透過率が低下する傾向がある。
一方で、ポリイミドに(i)フッ素原子を含むとポリイミド骨格内の電子状態を電荷移動し難くすることができる点から光透過性が向上する。
ポリイミドに(ii)脂肪族環を含むと、ポリイミド骨格内のπ電子の共役を断ち切ることで骨格内の電荷の移動を阻害することができる点から光透過性が向上する。
ポリイミドに(iii)芳香族環同士をスルホニル基又はフッ素で置換されていても良いアルキレン基で連結した構造を含むと、ポリイミド骨格内のπ電子の共役を断ち切ることで骨格内の電荷の移動を阻害することができる点から光透過性が向上する。
中でも、光透過性を向上し、且つ、表面硬度を向上する点から、Aのテトラカルボン酸残基である4価の基、及び、Bのジアミン残基である2価の基の少なくとも1つは、芳香族環とフッ素原子とを含むことが好ましく、Bのジアミン残基である2価の基が、芳香族環とフッ素原子とを含むことが好ましい。
【0057】
本発明で用いられるポリイミドは、前記一般式(1)及び(2)中のBにおける、前記芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基が、trans-シクロヘキサンジアミン残基、trans-1,4-ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン残基、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-[(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(4,1-フェニレンオキシ)]ジアニリン残基、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、及び下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更に前記一般式(5)で表されるジアミンのジアミン残基の少なくとも1種を含んでいてもよい2価の基であることが、光透過性の点、及び屈曲耐性及び表面硬度の点から好ましい。
本発明で用いられるポリイミドは、前記一般式(1)及び(2)中のBにおける、前記芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基が、trans-シクロヘキサンジアミン残基、trans-1,4-ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン残基、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-[(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(4,1-フェニレンオキシ)]ジアニリン残基、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン残基、及び下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更にN,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド残基、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート残基、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート残基、及びビス(4-アミノフェニル)テレフタレート残基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の基であることが、光透過性の点、及び屈曲耐性及び表面硬度の点から好ましく、特に光透過性と表面硬度の両立の点から、更に、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン残基、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン残基、及び、下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更にN,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド残基、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート残基、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート残基、及びビス(4-アミノフェニル)テレフタレート残基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の基であることが好ましく、下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、更にN,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド残基、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート残基、(2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート残基、及びビス(4-アミノフェニル)テレフタレート残基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の基であることがより好ましい。下記一般式(3)で表される2価の基としては、R及びRがパーフルオロアルキル基であることがより好ましく、中でも、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基又はパーフルオロエチル基であることがより好ましい。また、下記一般式(3)中のR及びRにおけるアルキル基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0058】
【化10】
(一般式(3)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはパーフルオロアルキル基を表す。)
【0059】
本発明で用いられるポリイミドは、中でも、光透過性の点、及び屈曲耐性及び表面硬度の点から、前記一般式(2)中のAにおける芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基が、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物残基、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物残基、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物残基、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基、ピロメリット酸二無水物残基、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、4,4’-オキシジフタル酸無水物残基、及び、3,4’-オキシジフタル酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基であることが好ましい。
前記一般式(2)中のAにおいて、これらの好適な残基を合計で、50モル%以上含むことが好ましく、更に70モル%以上含むことが好ましく、より更に90モル%以上含むことが好ましい。
【0060】
前記一般式(2)中のAとしては、表面硬度を向上する点からは、ピロメリット酸二無水物残基、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、及び、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基からなる群から選択される少なくとも一種のような剛直性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループA)を含むことが好ましく、光透過性を向上する点からは、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物残基、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物残基、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物残基、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、4,4’-オキシジフタル酸無水物残基、及び、3,4’-オキシジフタル酸無水物残基からなる群から選択される少なくとも一種のような光透過性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループB)を含むことが好ましく、グループAとグループを混合して用いても良い。グループAとグループを混合する場合、前記剛直性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループA)と、光透過性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループB)との含有比率は、光透過性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループB)1モルに対して、前記剛直性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループA)が0.05モル以上9モル以下であることが好ましく、更に0.1モル以上5モル以下であることが好ましく、より更に0.3モル以上4モル以下であることが好ましい。
中でも、前記グループBとしては、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、及び、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが、表面硬度と光透過性の向上の点から好ましく、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基を含むことが黄色度を低減させる効果が高く、弾性率も優れる点からより好ましい。
【0061】
ポリイミド中の各繰り返し単位の含有割合、各テトラカルボン酸残基や各ジアミン残基の含有割合(モル%)は、ポリイミド製造時には仕込みの分子量から求めることができる。また、ポリイミド中の各テトラカルボン酸残基や各ジアミン残基の含有割合(モル%)は、ポリイミドの分解物について、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析計、NMR、元素分析、XPS/ESCA及びTOF-SIMSを用いて求めることができる。ポリイミドの分解物は、例えば、サンプルを、アルカリ水溶液、又は、超臨界メタノールにより分解することにより得られる。
【0062】
本発明で用いられるポリイミドは、屈曲耐性が良好な点から、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるものが選択される。
屈曲耐性の点から、重量平均分子量は120,000以上であって良く、更に140,000以上であって良く、より更に160,000以上であってよい。一方で、気泡欠陥が発生し難い点から、270,000以下であるものが好ましく、更に溶解性の点から、重量平均分子量は250,000以下であって良く、更に230,000以下であって良く、より更に210,000以下であって良い。
ポリイミドの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定できる。具体的には、ポリイミドを0.1質量%の濃度のN-メチルピロリドン(NMP)溶液とし、展開溶媒は、含水量500ppm以下の30mmol%LiBr-NMP溶液を用い、東ソー製GPC装置(HLC-8120、使用カラム:SHODEX製GPC LF-804)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.4mL/分、37℃の条件で測定を行う。重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプルを基準に求める。
【0063】
2.添加剤
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、本発明の効果を損なわない限り、前記ポリイミドの他に、必要に応じて更に添加剤を含有していてもよい。前記添加剤としては、例えば、無機粒子、巻き取りを円滑にするためのシリカフィラーや、製膜性や脱泡性を向上させる界面活性剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0064】
3.ポリイミドフィルムの特性
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、更に後述する特性を有することが好ましい。
(1)残留溶剤
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、後述するように、ジクロロメタンを全有機溶剤中に90質量%以上含有する有機溶剤を用いて製造されることが、気泡欠陥が発生し難く、膜厚均一性が良好で、且つ屈曲耐性が良好なポリイミドフィルムを得やすい点から好ましい。
そのため本発明に用いられるポリイミドフィルムは、気泡欠陥が発生し難く、膜厚均一性が良好であり、且つ屈曲耐性が良好な点から、中でも、残留溶剤として、ジクロロメタンが1ppm以上2000ppm以下含まれることが好ましい。
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、中でも屈曲耐性が向上する点から、ジクロロメタンの含有量は1000ppm以下が好ましく、800ppm以下が好ましく、400ppm以下がより好ましく、100ppm以下がより更に好ましい。ジクロロメタンの含有量は、静的屈曲耐性及び動的屈曲耐性を向上する点から、少なければ少ないほど良く、後述する検出限界の1ppm程度であってもよい。
また、本発明のポリイミドフィルムは、屈曲耐性が向上する点から、1気圧下での沸点が70℃以上、中でも100℃以上の有機溶剤の含有量は1000ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、400ppm以下が更に好ましく、100ppm以下とすることがより更に好ましい。
【0065】
ポリイミドフィルムの残留溶剤量は、以下のように測定することができる。
[残留溶剤の種類の特定]
まず、残留溶剤の種類の特定を、パージ&トラップ装置(加熱脱着装置)が連結したGC-MSを用いて行う。
パージ&トラップ装置(製品名JTD505-III、日本分析工業株式会社)に、ポリイミドフィルム10mgを入れた試料管をセットし、200℃で30分保持して加熱して発生したガスを、-60℃のトラップ管で捕集し、捕集したものを315℃で加熱して飛ばしてGC-MSへ送り込み、発生した有機ガスの成分の定性分析を行なう。
(パージ&トラップ装置条件)
総スプリット比(導入量/排気量)1:10、
キャリアガス ヘリウム1.0ml/min定量
(GC-MS条件)
装置名:GC-MS装置(Agilent社、6890/5973 GC/MS)
カラム:UA-5 内径250μm×長さ30m×膜厚0.25μm(フロンティア・ラボ製)、昇温条件 50℃(5分保持) → 10℃/分(昇温) → 320℃(3分保持)
【0066】
[残留溶剤の定量]
ポリイミドフィルムの濃度が5質量%濃度となるように、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)にポリイミドフィルムを添加して、ポリイミドフィルム/N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を調製し、この溶液に、内部標準液(0.2質量%濃度アニソール/DMF溶液)を添加してサンプル溶液を調製する。当該サンプル溶液について、GC-MS装置(例えば、Agilent社、6890/5973 GC/MS)を用いて、下記条件で、GC-MS測定を行う。当該GC-MS測定は3回行い、測定結果は3回の平均値とする。
(GC条件)
カラム:InertCapWax 内径250μm×長さ30m×膜厚0.25μm(ジーエルサイエンス製)、
サンプル打ち込み量0.2uL、スプリット比(導入量/排気量)1:50、キャリアガス ヘリウム94.3kPa定圧、注入口温度250℃、昇温条件 40℃(5分保持) → 5℃/分 → 120℃ → 20℃/分 → 240℃(6分保持)、トランスファーライン温度 250℃
(MS条件)
イオン化法 EI、測定モード SIM、イオン源温度 250℃、四重極温度 150℃、イオン化電圧 70eV
【0067】
前記のように特定された各残留溶剤について、検量線を作成し、当該検量線を基準として、各残留溶剤量を定量する。
例えば、含まれている残留溶剤がジクロロメタンの場合、ジクロロメタン含有量が例えば0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%となるようにそれぞれ調製した各ジクロロメタン(測定対象化合物)/DMF溶液に、上記したサンプル溶液と同様に内部標準液を添加して調製した各検量線液について、GC-MS測定を行い、検量線を作成する。なお、GC-MS測定は3回行い、測定結果は3回の平均値とする。
そして、当該検量線を基準として、ポリイミドフィルムに対する質量比としてジクロロメタンの含有量を算出する。なお、検出量によって検量線を適宜作成し直す。
含まれている残留溶剤が2種以上ある場合、各残留溶剤に対して上記ジクロロメタンのように検量線液を調製し、当該各検量線液についてのGC-MS測定による測定結果から作成された検量線を基準とする。
なお、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が残留溶剤として含まれている場合、例えばN-メチル-2-ピロリドンなど、残留溶剤として含まれていないポリイミドの良溶媒を用いてサンプル溶液を調製する。
【0068】
(2)全光線透過率
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、透明性の点から、JIS K7361-1に準拠して測定する全光線透過率が、85.0%以上であることがこのましい。本発明に用いられるポリイミドフィルムのJIS K7361-1に準拠して測定する全光線透過率は、更に88.0%以上であることが好ましく、より更に89.0%以上であることが好ましい。
【0069】
JIS K7361-1に準拠して測定する全光線透過率は、例えば、ヘイズメーター(例えば村上色彩技術研究所製 HM150)により測定することができる。なお、ある厚さの全光線透過率の測定値から、異なる厚さの全光線透過率は、ランベルトベールの法則により換算値を求めることができ、それを利用することができる。
具体的には、ランベルトベールの法則によれば、透過率Tは、
Log10(1/T)=kcb
(k=物質固有の定数、c=濃度、b=光路長)で表される。
フィルムの透過率の場合、膜厚が変化しても密度が一定であると仮定するとcも定数となるので、上記式は、定数fを用いて
Log10(1/T)=fb
(f=kc)と表すことができる。ここで、ある膜厚の時の透過率がわかれば、各物質の固有の定数fを求めることができる。従って、T=1/10f・b の式を用いて、fに固有の定数、bに目標の膜厚を代入すれば、所望の膜厚の時の透過率を求めることができる。
【0070】
(3)黄色度
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI値)が、12.0以下であることが好ましい。このように黄色度が低いと、黄色味の着色が抑制され、光透過性が向上する点から好ましい。前記JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI値)は、10.0以下であることがより好ましく、7.0以下であることが更に好ましく、5.0以下であることがより更に好ましく、4.5以下であることが特に好ましい。
なお、黄色度(YI値)は、前記JIS K7373-2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光(株) V-7100)を用い、分光測色方法により、補助イルミナントC、2度視野を用いて、250nm以上800nm以下の範囲を1nm間隔で測定される透過率をもとに、XYZ表色系における三刺激値X,Y,Zを求め、そのX,Y,Zの値から以下の式より算出することができる。
YI=100(1.2769X-1.0592Z)/Y
なお、ある厚さの黄色度の測定値から、異なる厚さの黄色度は、ある特定の膜厚のサンプルの250nm以上800nm以下の間の1nm間隔で測定された各波長における各透過率について、前記全光線透過率と同様にランベルトベールの法則により異なる厚さの各波長における各透過率の換算値を求め、それを元に算出し用いることができる。
【0071】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムは、黄色味の着色が抑制され、光透過性が向上し、ガラス代替材料として好適に用いることができる点から、前記JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI値)を膜厚(μm)で除した値(YI値/膜厚(μm))が0.16未満であることが好ましく、0.12未満であることがより好ましく、0.11未満であることが更に好ましく、0.10未満であることがより更に好ましい。
なお、本発明において、前記黄色度(YI値)を膜厚(μm)で除した値(YI値/膜厚(μm))は、JIS Z8401:1999の規則Bに従い、小数点以下第2位に丸めた値とする。
【0072】
(4)ヘイズ値
本発明に用いられるポリイミドフィルムのヘイズ値は、光透過性の点から、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。当該ヘイズ値は、ポリイミドフィルムの厚さが5μm以上100μm以下において達成できることが好ましい。
前記ヘイズ値は、JIS K-7136に準拠した方法で測定することができ、例えば村上色彩技術研究所製のヘイズメーターHM150により測定することができる。
【0073】
(5)引張弾性率
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、10mm×150mmの試験片をJIS K7127に準拠し、引張り速度を50mm/分、チャック間距離を100mmとして測定する25℃における引張弾性率が、3.3GPa以上であることが好ましい。このように、25℃(室温)での引張弾性率が高いと、保護フィルムとして十分な表面硬度を室温でも維持することができ、表面材乃至基材として用いることができる。前記引張弾性率は、4.0GPa以上であることがより好ましく、4.5GPa以上であることが更に好ましく、5.0GPa以上であることがより更に好ましい。一方で、前記引張弾性率は、屈曲耐性を向上させる点から、8.0GPa以下であっても良い。
前記引張弾性率は、引張り試験機(例えば島津製作所製:オートグラフAG-X 1N、ロードセル:SBL-1KN)を用い、幅10mm×長さ150mmの試験片をポリイミドフィルムから切り出して、25℃で、引張り速度50mm/分、チャック間距離は100mmとして測定することができる。前記引張弾性率を求める際のポリイミドフィルムは厚さが30μm±5μm~100μm±5μmであることが好ましい。
【0074】
(6)tanδ曲線
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、損失弾性率を貯蔵弾性率で除した値であるtanδ曲線において、ピークの頂点を150℃以上の温度領域にのみ有するものであることが好ましい。前記tanδ曲線で、ピークの頂点が150℃未満に存在すると、ポリイミドの分子鎖が動きやすく、塑性変形しやすくなって、屈曲耐性が悪くなる恐れがあるのに対し、ピークの頂点が150℃未満に存在しないと、分子鎖の運動性が抑制され、塑性変形し難くなり、屈曲耐性を向上することが出来るからである。
また、前記tanδ曲線で、ピークの頂点を150℃以上の温度領域にのみ有すると、高温環境下、例えば夏の車内などにおいても、熱変形によって屈曲耐性が損なわれることが抑制されるため、高温環境下でも屈曲耐性が向上したものとなる。
また、前記tanδ曲線で、ピークの頂点を150℃以上の温度領域にのみ有すると、引張弾性率が高くなる傾向があり、表面硬度が高くなる傾向がある。
本発明に用いられるポリイミドフィルムは、屈曲耐性や表面硬度を向上する点から、前記tanδ曲線で、ピークの頂点を200℃以上の温度領域にのみ有するものであることがより好ましく、250℃以上の温度領域にのみ有するものであることがより更に好ましく、300℃以上の温度領域にのみ有するものであることがより更に好ましい。一方、ベーク温度を低減することができる点から、前記tanδ曲線で、ピークの頂点は380℃以下の温度領域に有することが好ましい。
前記tanδ曲線は、動的粘弾性測定によって、温度とtanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))の関係から求められるものであり、ピークの極大値が最大であるピークの頂点の温度をガラス転移温度の指標とすることができるものである。動的粘弾性測定は、例えば、動的粘弾性測定装置 RSA-G2(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株))によって、測定範囲を-150℃以上490℃以下として、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。また、サンプル幅を5mm、チャック間距離を20mmとして測定することができる。ピーク及び変曲点の解析時は、目視評価せず、データを数値化して、数値から解析する。
なお、温度(横軸)とtanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))(縦軸)の曲線において、ピークとは、tanδの値が0.2以上、好ましくは0.3以上であって極大値を有し、且つ、ピークの谷と谷の間であるピーク幅が3℃以上であるものをいい、ノイズ等測定由来の曲線における細かい上下変動については、前記ピークの頂点のピークとして観測しない。
tanδ曲線を測定するサンプルとしては、23℃±2℃ RH30~50%の環境下に24時間静置したポリイミドフィルムを10cm角以上にサンプリングしたフィルムのさらに中央部を、剃刀またはメスにて5mm幅にスリットの入った切り出し治具を用いて、幅5mm×長さ50mmに(チャック時にサンプル長が20mmとなるように)切り出した物を用いる。幅の測定はノギスを用いて、位置を変えて3回計測した平均値を記録する。この際、幅測定の一部に平均値の3%以上の変動幅のある場合、そのサンプルは使用しない。
【0075】
(7)鉛筆硬度
本発明に用いられるポリイミドフィルムにおいて、鉛筆硬度は2B以上であることが好ましく、B以上であることがより好ましく、HB以上であることがより更に好ましい。
前記ポリイミドフィルムの鉛筆硬度は、測定サンプルを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS-S-6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(0.98N荷重)をフィルム表面に行い、傷がつかない最も高い鉛筆硬度を評価することにより行うことができる。例えば東洋精機(株)製 鉛筆引っかき塗膜硬さ試験機を用いることができる。
【0076】
4.ポリイミドフィルムの構成
本発明に用いられるポリイミドフィルムの膜厚は、用途により適宜選択されれば良いが、1μm以上であればよく、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましく、35μm以上であってよい。一方、200μm以下であることが好ましく、更に150μm以下であることが好ましく、より更に100μm以下であることが好ましく、より更に90μm以下であることが好ましい。
厚さが薄いと強度が低下し、厚さが厚いと屈曲時の内径と外径の差が大きくなり、フィルムへの負荷が大きくなることから屈曲耐性が低下する恐れがある。
【0077】
また、本発明に用いられるポリイミドフィルムには、例えば、けん化処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線処理、火炎処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0078】
5.ポリイミドフィルムの製造方法
本発明に用いられるポリイミドフィルムを製造する方法としては、前記本発明に用いられるポリイミドフィルムを製造できる方法であれば特に制限はない。
前記ポリイミドが有機溶剤に良好に溶解する場合には、前記ポリイミドを有機溶剤に溶解させ、必要に応じて添加剤を含有させたポリイミドワニスを用いて乾燥させることによりポリイミドフィルムを製造する、第1のポリイミドの製造方法を用いることが好ましい。
本発明に用いられる前記ポリイミドは、主鎖にエステル結合を介して2面角がねじれたパラビフェニレン基を含む特定の構造のテトラカルボン酸残基を有することから、有機溶剤に溶解し易い。前記ポリイミドが25℃で前記有機溶剤に6質量%以上溶解するような溶剤溶解性を有する場合には、当該第1の製造方法を好適に用いることができる。
【0079】
第1のポリイミドフィルムの製造方法は、
本発明に用いられる前記ポリイミドと、有機溶剤とを含有するポリイミドワニスであって、前記ポリイミドの含有割合は、前記ポリイミドワニス中に6質量%以上15質量%以下であり、回転粘度計により測定した25℃における粘度が1,000~10,000cpsであるポリイミドワニスを準備する工程と、
前記ポリイミドワニスを支持体に塗布し、100℃以下の温度で乾燥し、乾燥後塗膜を支持体から剥離する工程と、
支持体から剥離された乾燥後塗膜の端部を固定後、当該乾燥後塗膜を、150℃以上の温度で加熱する工程を有することが、気泡欠陥が発生し難く、残留溶剤量を少なくしやすい点から好ましい。
中でも、100℃以下の温度で2段階以上の乾燥温度を設けて有機溶剤を乾燥させることにより、塗膜表面の皮ばりを抑制し、塗膜中の有機溶剤の突沸による気泡を抑えることができる。なお、皮ばりとは、塗膜表面の乾燥が内部に比べて進んだ状態で、塗膜厚み方向に濃度勾配が発生し、最表面のスキン層で溶媒拡散が妨げられ、乾燥律速となっている状態をいう。皮ばりによって、塗膜中で気化した溶媒が膨張して気泡欠陥を生成する場合がある。
また、剥離された乾燥後塗膜に対する150℃以上の加熱も、150℃以上の温度で2段階以上の加熱温度を設けて加熱することが気泡欠陥が発生し難く、残留溶剤量を少なくしやすい点から好ましい。
例えば、乾燥後塗膜の膜厚が50μm未満の場合には、各段階の保持時間を10分以上、60分未満とすることが好ましく、乾燥後塗膜の膜厚が50μm以上、100μm以下では各段階の保持時間を30分以上、90分未満とすることが好ましい。
前記ポリイミドワニスに用いられる有機溶剤としては、例えば非プロトン性極性溶剤または水溶性アルコール系溶剤等が挙げられ、具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0080】
中でも、着色し難く、気泡欠陥が発生し難く、膜厚均一性が良好で、且つ屈曲耐性が良好なポリイミドフィルムを得やすい点から、好ましい製造方法としては以下の製造方法が挙げられる。
本発明に用いられるポリイミドフィルムの製造方法は、
ポリイミドと、有機溶剤とを含有するポリイミドワニスであって、
前記ポリイミドは、前記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドであり、
前記有機溶剤は、ジクロロメタンを全有機溶剤中に90質量%以上含有する有機溶剤であり、
前記ポリイミドの含有割合は、前記ポリイミドワニス中に6質量%以上15質量%以下であり、回転粘度計により測定した25℃における粘度が1,000~10,000cpsであるポリイミドワニスを準備する工程と、
前記ポリイミドワニスを支持体に塗布し、40℃以下の温度で乾燥し、乾燥後塗膜を支持体から剥離する工程と、
支持体から剥離された乾燥後塗膜の端部を固定後、当該乾燥後塗膜を、150℃以上の温度で加熱する工程を有することが好ましい。
【0081】
当該製造方法によれば、ワニス中のポリイミド含有割合を十分な濃度に上げることができ、且つワニスを所望の粘度範囲に調整できるので、30μm以上の膜厚のポリイミドフィルムであっても製造し易く、気泡欠陥が発生し難く、膜厚均一性が良好なフィルムを得ることができる。沸点が40℃のジクロロメタンを全有機溶剤中に90質量%以上含有する有機溶剤を用いるため、乾燥時に高温で加熱したり、熱風強制乾燥等を行う必要が無く、フィルムの発泡や膜厚ムラ、黄変等を抑制することができ、残留溶剤量を少なくすることができ、屈曲耐性を向上することもできる。
以下、第1の製造方法の中でも好ましい製法を中心に詳細に説明するが、下記説明は、有機溶剤や乾燥温度以外は、第1の製造方法全般に適用され得る。
【0082】
(1)ポリイミドワニスを準備する工程
本発明に用いられるワニスは、ポリイミドと、有機溶剤とを含有するポリイミドワニスであって、
前記ポリイミドは、前記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドであり、
前記有機溶剤は、ジクロロメタンを全有機溶剤中に90質量%以上含有する有機溶剤であり、
前記ポリイミドの含有割合は、前記ポリイミドワニス中に6質量%以上15質量%以下であり、且つ、回転粘度計により測定した25℃における粘度が1,000~10,000cpsであるように調整して用いられることが好ましい。
【0083】
(1-1)ポリイミド
前記一般式(1)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び前記一般式(2)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1)で表される構成単位のモル%)含み、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドは、前記本発明に用いられるポリイミドフィルムにおいて説明したポリイミドと同様であって良いので、ここでの説明を省略する。
当該ポリイミドの製造方法については特に限定されないが、例えば、下記一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物と必要に応じて芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸二無水物とを含む1種又は2種以上のテトラカルボン酸二無水物と、1種又は2種以上の芳香族環又は脂肪族環を有するジアミンとを反応させることにより、下記一般式(1’)で表される構成単位を10モル%以上100モル%以下、及び下記一般式(2’)で表される構成単位を(100-x)モル%(ここでxは、前記一般式(1’)で表される構成単位のモル%)含むポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を得る工程、得られた前記ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)をイミド化する工程を経て製造することができる。
【0084】
【化11】
(一般式(4)において、R~Rは、前記一般式(1)と同様である。)
【0085】
【化12】
(一般式(1’)及び(2’)において、R~R、A、及びBは、それぞれ、前記一般式(1)及び(2)と同様である。)
【0086】
前記一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、対応するビフェニル4,4’-ジオール類と、トリメリット酸類とを用いて公知のエステル化反応により得ることができる。前記トリメリット酸類としては、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸ハライド等が挙げられる。
必要に応じて用いられる芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸二無水物、及び、1種又は2種以上の芳香族環又は脂肪族環を有するジアミンは、前記ポリイミドフィルムにおいて説明したものと同様のものを用いることができる。
【0087】
前記ポリイミド前駆体は、上述のテトラカルボン酸二無水物と、上述のジアミンとを、溶剤中で反応させて得られる。ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の合成に用いる溶剤としては、上述のテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解可能であれば特に制限はなく、例えば非プロトン性極性溶剤または水溶性アルコール系溶剤等を用い得る。本発明においては、中でも、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の窒素原子を含む有機溶剤;γ-ブチロラクトン等を用いることが好ましい。なお、有機溶剤とは、炭素原子を含む溶剤である。
【0088】
重合反応の手順は、公知の方法を適宜選択して用いることができる。
例えば、反応容器中、先ず、ジアミンを重合溶媒に溶解し、この溶液にジアミンと実質的に等モルの酸二無水物を徐々に添加し、メカニカルスターラー等を用い、温度0~100℃の範囲、好ましくは20~60℃で0.5~150時間好ましくは1~48時間攪拌することが挙げられる。この際モノマー濃度は、通常、5~50質量%の範囲、好ましくは10~40質量%の範囲が挙げられる。
【0089】
また、前記ポリイミド前駆体溶液が、少なくとも2種の酸二無水物を組み合わせて調製される場合、ジアミンが溶解した重合溶媒に酸二無水物を添加し、ポリアミド酸を合成してもよいし、少なくとも2種の酸二無水物を適切なモル比で段階を踏んで反応液に添加し、ある程度、各原料が高分子鎖へ組み込まれるシーケンスをコントロールしてもよい。
たとえば、ジアミンが溶解された反応液に、一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物を投入し反応させることで、一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンが反応したアミド酸を合成し、そこへ、一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物とは異なるテトラカルボン酸二無水物を投入し、必要に応じて更にジアミンを加えてポリアミド酸を重合しても良い。この方法で重合すると、一般式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物が1つのジアミンを介して、連結した形でポリアミド酸の中に導入される。
このような方法でポリアミド酸を重合することは、主鎖にエステル結合を介して2面角がねじれたパラビフェニレン基を含む特定の構造のテトラカルボン酸残基の位置関係がある程度特定され、表面硬度が良好で屈曲耐性の優れたポリイミドフィルムを得易い点から好ましい。
【0090】
前記ポリイミド前駆体溶液(ポリアミド酸溶液)中のジアミンのモル数をa、テトラカルボン酸二無水物のモル数をbとしたとき、b/aを0.9以上1.1以下とすることが好ましく、0.95以上1.05以下とすることがより好ましく、0.97以上1.03以下とすることがさらに好ましく、0.99以上1.01以下とすることが特に好ましい。このような範囲とすることにより得られるポリアミド酸の分子量(重合度)を適度に調整することができる。
【0091】
ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算による重量平均分子量が100,000以上であるポリイミドを調製するためには、前記ポリイミド前駆体の調製において、ジアミンを溶解させた反応液に酸二無水物を段階的に添加し、所望の分子量範囲に達することをゲル浸透クロマトグラフィーで測定しながら反応を行うことが好ましい。
【0092】
前記ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、重量平均分子量が、50,000以上であることが好ましく、更に80,000以上であることが好ましい。また、前記ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、屈曲耐性を向上する点から、重量平均分子量が、100,000以上であることが好ましく、更に120,000以上であることが好ましく、より更に140,000以上であることが好ましい。一方で、気泡欠陥を抑制する点から、前記ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、重量平均分子量が、350,000以下であることが好ましく、更に300,000以下であることが好ましく、より更に270,000以下であることが好ましい。
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定できる。
ポリイミド前駆体を0.5質量%の濃度のN-メチルピロリドン(NMP)溶液とし、展開溶媒は、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr-NMP溶液を用い、東ソー製GPC装置(HLC-8120、使用カラム:SHODEX製GPC LF-804)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行う。重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプルを基準に求める。
【0093】
イミド化するために用いられるポリイミド前駆体(ポリアミド酸)としては、合成反応により得られたポリイミド前駆体溶液をそのまま用いても良いし、ポリイミド前駆体溶液の溶剤を乾燥させ、別の溶剤に溶解して用いても良い。
【0094】
ポリイミド前駆体をイミド化する方法としては、加熱により脱水閉環反応を行う加熱イミド化と、化学イミド化剤(脱水閉環剤)を用いて脱水閉環反応を行う化学イミド化が挙げられる。中でも、加熱による黄変を抑制する点から、化学イミド化を用いることが好ましい。
化学イミド化を行う場合は、化学イミド化剤としてピリジンやβ-ピコリン酸等のアミン、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのカルボジイミド、無水酢酸等の酸無水物等、公知の化合物を用いても良い。酸無水物としては無水酢酸に限らず、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられるが特に限定されない。また、その際にピリジンやβ―ピコリン酸等の3級アミンを併用してもよい。ただし、これらアミン類は、フィルム中に残存すると光学特性、特に黄色度(YI値)を低下させるため、ポリイミド前駆体からポリイミドへと反応させた反応液を、再沈殿などにより精製し、ポリイミド以外の化学イミド化剤成分をそれぞれ、ポリイミド全重量の100ppm以下まで除去することが好ましい。
【0095】
ポリイミド前駆体の化学イミド化を行う反応液に用いられる有機溶剤としては、前記ポリイミド前駆体が溶解可能であれば特に制限はない。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の窒素原子を含む有機溶剤;γ-ブチロラクトン等を用いることができる。
【0096】
ポリイミドへと反応させた反応液を再沈殿する方法としては、一般的には、大量の貧溶媒中へ、反応液を撹拌しながら滴下する方法が挙げられる。不純物をより低減し易い点から、反応液を再沈殿する方法としては、ポリイミドへと反応させた反応液を必要に応じて適切な濃度まで希釈後、反応液へ、ポリイミドの貧溶媒を徐々に加えてポリイミドを析出させる方法が好ましい。
ポリイミドを析出させるために前記貧溶媒を滴下するときの、前記反応液(ポリイミド溶液)の固形分濃度は、収率の点及び不純物を効率良く除去する点から、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
ポリイミドの析出に適した、前記ポリイミド溶液の固形分濃度とするために、適宜ポリイミドの良溶媒を用いて希釈してもよい。
なお、ポリイミドの良溶媒は、目安として、ポリイミドの溶解度が25℃で20g/100g以上である溶媒の中から適宜選択して用いることができる。
また、ポリイミドの貧溶媒は、目安として、ポリイミドの溶解度が25℃で20g/100g未満の溶媒の中から適宜選択して用いることができる。
【0097】
例えば、ポリイミドへと反応させた反応液に、例えば、酢酸n-ブチル等のポリイミドの良溶媒である有機溶剤を加え均一になるまで撹拌して反応液を希釈し、次にt-ブタノール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、シクロヘキサノール、t-アミルアルコール等のアルコール系有機溶剤を徐々に加えてポリイミドを析出させ、白色スラリーを得て、当該スラリーをろ過してポリイミドを得る。前記アルコール系有機溶剤としては、中でも、ポリイミドの安定性に優れる点から、2級又は3級アルコールを用いることが好ましく、3級アルコールを用いることがより好ましい。
【0098】
上記のように再沈殿させて得られたポリイミドは、残留溶剤を除くために有機溶剤を用いた洗浄工程を繰り返すことが好ましい。ポリイミド材料中に存在する1気圧下での沸点が70℃以上、中でも100℃以上等の残留溶剤を100ppm以下等に低減することにより、屈曲耐性がより向上する。
例えば、再沈殿させて得られたポリイミドを洗浄用有機溶剤中で洗浄し、その後ろ過する、という洗浄工程を繰り返し、真空乾燥機を用いて100℃~120℃で乾燥し、ポリイミドを得る。
洗浄用有機溶剤としては、再沈殿させて得られたポリイミドに含まれる残留溶剤と相溶性が高く、ポリイミドの貧溶媒であって、且つ、真空乾燥機を用いて100℃~120℃で乾燥すれば全て揮発することが可能なように沸点が真空乾燥機の乾燥温度未満の有機溶剤から選択する。
例えば、残留溶剤が、ポリイミド前駆体を調製する際に用いられるN,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の場合、イソプロピルアルコール、メタノール等が洗浄用有機溶剤として好適に用いられる。洗浄用有機溶剤としては、1種又は2種以上用いることができる。
【0099】
前記ポリイミドの含有割合は、前記ポリイミドワニス中に6質量%以上15質量%以下であるように調整することが好ましい。このような濃度に調整することにより、30μm以上の膜厚を有しても、気泡欠陥が発生し難くなる。
前記ポリイミドの含有割合は、この範囲内において、後述する粘度が適切になる範囲を適宜選択して用いることが好ましい。
【0100】
(1-2)ワニス中の有機溶剤
ポリイミドワニス中に含まれる有機溶剤は、ジクロロメタンを全有機溶剤中に90質量%以上含有する有機溶剤であることが好ましい。
全有機溶剤中に10質量%以下含有していても良い、ジクロロメタンとは異なる有機溶剤としては、前記ポリイミドの溶剤溶解性を阻害しない範囲の中から、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
全有機溶剤中に10質量%以下含有していても良い、ジクロロメタンとは異なる有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、オルト-ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸i-ブチル、酢酸i-ペンチル、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ペンチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1.4-ジオキサン、テトラクロルエチレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル-n-ブチルケトン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、及びこれらの混合溶剤等が挙げられる。
例えば、フィルム中の残留溶剤を低減する点からは、メタノール、及びエタノールの少なくとも1種を用いることが好ましい。また、ポリイミドの溶解性の点からは、ジクロロエタン、及びシクロヘキサノンの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0101】
本発明のポリイミドワニス中に含まれる有機溶剤は、ジクロロメタンとは異なる有機溶剤が添加された機能を発揮する点から、ジクロロメタンとは異なる有機溶剤を全有機溶剤中に1質量%以上含有することが好ましく、2質量%以上含有することがより好ましい。
従って、ジクロロメタンとは異なる有機溶剤が添加された機能を発揮する点からは、ジクロロメタンを全有機溶剤中に99質量%以下含有していてもよく、98質量%以下含有していてもよい。
また、残留溶剤を低減する点からは、ジクロロメタンを全有機溶剤中に95質量%以上含有することが好ましく、97質量%以上含有することがより好ましい。
【0102】
(1-3)添加剤
ワニスは、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、前記ポリイミドフィルムの説明における、必要に応じて含まれていても良い添加剤と同様のものを用いることができる。
【0103】
(1-4)ワニスの粘度
本発明に用いられるポリイミドフィルムの製造方法に用いられるポリイミドワニスは、ポリイミドの含有割合がポリイミドワニス中に6質量%以上15質量%以下の範囲内で、且つ、回転粘度計により測定した25℃における粘度が1,000~10,000cpsであるように選択されることが好ましい。
ポリイミドフィルムの製造時に、ポリイミドワニスの粘度が1,000cps未満であると、ポリイミドフィルムの膜厚均一性が悪化する恐れがある。
一方、ポリイミドフィルムの製造時に、ポリイミドワニスの粘度が10,000cps超過であると、ポリイミドフィルムの気泡欠陥が発生しやすくなる恐れがある。
ここでポリイミドワニスの粘度は、JIS K7117-1に記載の方法で、単一円筒型回転粘度計(例えば、東機産業株式会社製、TVB-10形粘度計)を用いて、25℃測定することができる。
【0104】
(2)予備乾燥工程
次に、前記ポリイミドワニスを支持体に塗布し、40℃以下の温度で乾燥し、乾燥後塗膜を支持体から剥離する工程を有する。
(2-1)前記ポリイミドワニスを支持体に塗布する工程
前記ポリイミドワニスを支持体に塗布する工程において、用いられる支持体としては、表面が平滑で耐熱性および耐溶剤性のある材料であれば特に制限はない。例えばガラス板などの無機材料、表面を鏡面処理した金属板等が挙げられる。また支持体の形状は塗布方式によって選択され、例えば板状であってもよく、またドラム状やベルト状、ロールに巻き取り可能なシート状等であってもよい。
【0105】
前記塗布手段は目的とする膜厚で塗布可能な方法であれば特に制限はなく、例えばダイコータ、コンマコータ、ロールコータ、グラビアコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、リップコータ等の公知のものを用いることができる。
塗布は、枚葉式の塗布装置により行ってもよく、ロールtoロール方式の塗布装置により行ってもよい。
前記ポリイミドワニスを支持体に塗布する工程は、気泡欠陥低減の点から、密閉空間の中で行い、引き続き予備乾燥工程を行ってもよい。
【0106】
(2-2)予備乾燥工程
前記ポリイミドワニスを支持体に塗布した後は、40℃以下の温度で乾燥させ、ワニス中の前記有機溶剤を、15質量%以下となるまで蒸発させて、乾燥後塗膜を形成することが好ましい。
ワニス中の有機溶剤を蒸発させる際の初期乾燥温度として、40℃超過の温度をかけると、塗膜が発泡しやすく、気泡欠陥が発生しやすくなる。また、初期乾燥時に加熱風を吹き付けると膜厚均一性が悪化しやすくなる。
それに対して、当該製造方法においては、ワニス中の前記有機溶剤が、沸点が40℃のジクロロメタンを90質量%以上含有する有機溶剤であることから、加熱風を吹き付けたり、40℃超過の温度で加熱したりしなくても、40℃以下の温度でワニス中のジクロロメタンを蒸発させることができ、フィルム中に気泡欠陥が発生し難く、膜厚均一性及びフィルム表面の外観が良好になる。
【0107】
40℃以下の温度での乾燥は、中でも30℃以下で行うことが好ましく、15℃~25℃で行うことが好ましい。
中でも、前記ポリイミドワニスを支持体に塗布したものを、密閉空間に静置することにより、密閉空間内をジクロロメタン雰囲気としながら、ジクロロメタンを蒸発させることが、気泡欠陥低減の点から好ましい。密閉空間としては、空間内にジクロロメタンが飽和蒸気圧となるように雰囲気を制御できることを目安とすることができ、例えば、グローブバッグを用いる方法の他、グローブボックスを用いる方法や、工業生産的には連続的な乾燥炉を用いて塗工直後の雰囲気をジクロロメタンの蒸気圧が飽和蒸気圧の50%~100%になるように制御し、徐々にジクロロメタン蒸気濃度を下げ、最終的には炉外に取り出す方法等が挙げられる。
ワニス中の有機溶剤を蒸発させる予備乾燥工程における最終段階においては、膜の機械的強度の点から、密閉空間内をジクロロメタン雰囲気から、不活性ガス雰囲気又は空気雰囲気に置換して、有機溶剤を蒸発させてもよい。
【0108】
予備乾燥時間は、ポリイミドワニス塗膜の膜厚や、ジクロロメタンとは異なる有機溶剤の種類、乾燥温度等に応じて適宜調整されれば良いが、通常5分~60分、好ましくは10分~40分とすることが好ましい。
【0109】
(2-3)乾燥後塗膜の剥離工程
次に、前記乾燥後塗膜を支持体から剥離する。
前記乾燥後塗膜を、後述する高温での本乾燥を行う前に、支持体から剥離することにより、後述する本乾燥において、フィルムの両表面から前記有機溶剤を蒸発させることができ、残留溶剤を十分に低減することが可能になる。
【0110】
(3)本乾燥工程
次に、支持体から剥離された乾燥後塗膜の端部を固定後、当該乾燥後塗膜を、150℃以上の温度で加熱する工程を有する。当該150℃以上の温度で加熱する工程において、フィルム中の残留溶剤を可能な限り除去することが好ましい。
【0111】
支持体から剥離された前記乾燥後塗膜は、150℃以上の温度で加熱する工程において加熱時の収縮を防止し、外観及び膜厚均一性を向上する点から、当該乾燥後塗膜の端部を固定後に加熱することが好ましい。当該乾燥後塗膜の端部を固定しない場合には、ポリイミドフィルムにうねりが生じやすい。
支持体から剥離された乾燥後塗膜の端部を固定する方法としては、例えば、前記乾燥後塗膜が枚様の場合、前記乾燥後塗膜と概略同様の外寸と適切な内寸を有する金属枠を2枚使用して、前記乾燥後塗膜を挟持し、固定治具で2枚の金属枠と前記乾燥後塗膜とを固定する方法が挙げられる。
また、例えば、前記乾燥後塗膜がロール状の場合、例えば、連続するフィルムの左右両端をクリップ等の固定治具で把持してフィルムを搬送可能な装置を用いて、前記乾燥後塗膜の端部を固定する方法が挙げられる。
【0112】
支持体から剥離された前記乾燥後塗膜の乾燥手段は、150℃以上の温度で加熱する工程において、前記有機溶剤の乾燥が可能であれば特に制限はなく、例えばオーブンや、乾燥炉、ホットプレート、赤外線加熱等を用いることが可能である。
光学特性の高度な管理が必要な場合、溶剤の乾燥時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。不活性ガス雰囲気下としては、窒素雰囲気下であることが好ましく、酸素濃度が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。大気下で熱処理を行うと、フィルムが酸化され、着色したり、性能が低下する可能性がある。
【0113】
支持体から剥離された前記乾燥後塗膜は、最高温度として150℃以上の温度で加熱すればよい。
加熱温度は、イミド化の加熱温度ほど高くする必要はなく、ワニス中の有機溶剤や残留溶剤の種類や量、塗膜の膜厚により適宜調整すればよい。常圧下では最高温度として250℃以下の範囲とすることが好ましく、更に最高温度として220℃以下の範囲とすることが好ましい。減圧下では最高温度として200℃以下の範囲とすることが好ましく、更に最高温度として180℃以下の範囲とすることが好ましい。
支持体から剥離された前記乾燥後塗膜は、室温から最高温度まで段階的に昇温させることが好ましい。昇温速度としては、例えば3~50℃/分の範囲内が挙げられ、5~20℃/分の範囲内が好ましい。段階的な加熱としては、例えば、140℃で1分~3分加熱後、170℃で1分~3分加熱後、200℃で5分~20分加熱等が挙げられる。
最高温度として150℃以上の温度で加熱する本乾燥工程においても、段階的な乾燥温度や、乾燥時間はワニス中の有機溶剤や残留溶剤の種類や量、塗膜の膜厚により適宜調整すればよい。
【0114】
(4)延伸工程
また、支持体から剥離された乾燥後塗膜を、150℃以上の温度で加熱する工程の後、得られたポリイミド樹脂塗膜を延伸する延伸工程を有していてもよい。
【0115】
延伸工程では、延伸を実施する前の初期の寸法を100%とした時に101%以上10000%以下延伸する工程を、80℃以上で加熱しながら行うことが好ましい。
延伸時の加熱温度は、ポリイミドのガラス転移温度±50℃の範囲内であることが好ましく、ガラス転移温度±40℃の範囲内であることが好ましい。延伸温度が低すぎるとフィルムが変形せず充分に配向を誘起できない恐れがある。一方で、延伸温度が高すぎると延伸によって得られた配向が温度で緩和し、充分な配向が得られない恐れがある。
【0116】
ポリイミドフィルムの延伸倍率は、好ましくは101%以上10000%以下であり、さらに好ましくは101%以上500%以下である。上記範囲で延伸を行うことにより、得られるポリイミドフィルムの表面硬度をより向上することができる。
【0117】
延伸時におけるポリイミドフィルムの固定方法は、特に制限はなく、延伸装置の種類等に合わせて選択される。また、延伸方法は特に制限はなく、例えばテンター等の搬送装置を有する延伸装置を用い、加熱炉を通しながら延伸することが可能である。ポリイミドフィルムは、一方向のみに延伸(縦延伸または横延伸)してもよく、また同時2軸延伸、もしくは逐次2軸延伸、斜め延伸等によって、二方向に延伸処理を行ってもよい。
【0118】
或いは、前記本発明に用いられるポリイミドフィルムは、前記と同様にしてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を得て、当該ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含むポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程と、
前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を支持体に塗布して、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
加熱をすることにより、前記ポリイミド前駆体をイミド化する工程とを含む、第2のポリイミドフィルムの製造方法を用いて製造されても良い。
【0119】
I-2.ハードコート層
本発明において用いられるハードコート層は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物、及び紫外線吸収剤を含有する。
ここで、「ハードコート層」とは、表面硬度を向上させるための層であり、具体的には、JIS 5600-5-4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示すものをいう。
本発明の積層体に用いられるハードコート層は、本発明の効果が損なわれない限り、更に必要に応じて、任意添加成分を含有していても良い。
【0120】
1.紫外線吸収剤
本発明の積層体に用いられるハードコート層には、後述するように、積層体の黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚で除した値が、特定の範囲内になるように、或いは、積層体の黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムの膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記ポリイミドフィルムの膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記ポリイミドフィルムの膜厚で除した値が、特定の範囲内になるように、紫外線吸収剤を選択して、ハードコート層に適切量含有させる。
【0121】
本発明の積層体のハードコート層に用いられる紫外線吸収剤は、中でも、吸光度測定における吸収波長のピークが300nm~390nmにあることが好ましく、より好ましくは320~370nm、さらに好ましくは330nm~370nmにあることが望ましい。このような紫外線吸収剤は、UVA領域の紫外線を効率よく吸収することができ、一方でハードコート層を硬化するための開始剤の吸収波長250nmとピーク波長をずらすことによってハードコート層の硬化阻害を生じさせることなく、紫外線吸収能を有するハードコート層を形成することができるからである。
本発明の積層体に用いられるハードコート層に用いられる紫外線吸収剤は、中でも、吸収波長のピークが380nm以下であることが、紫外線吸収剤によって着色することを抑制できる点から好ましい。
なお、紫外線吸収剤の吸光度は、例えば紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光(株) V-7100)を用いて測定することができる。
【0122】
また、本発明の積層体に用いられるハードコート層に用いられる紫外線吸収剤は、混合することによるヘイズを抑制する点から、紫外線吸収剤の含有量としては、ハードコート層の固形分100質量部に対して、10質量部以下、より好ましくは7質量部以下に調整されていることが好ましい。
【0123】
本発明の積層体に用いられるハードコート層に用いられる紫外線吸収剤としては、中でも前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が、特定の範囲内になりやすい点から、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上の紫外線吸収剤であることが好ましく、更に、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上の紫外線吸収剤であることが好ましい。
【0124】
前記ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、ヒドロキシ基が置換されたベンゾフェノン骨格を有する紫外線吸収剤をいい、例えば、2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4’-クロロベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’ -ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアリルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアリルベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸水和物等が挙げられる。上記ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、1種のみであってもよく2種以上であってもよい。
【0125】
前記ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、中でも、2-ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、更に、下記一般式(A)を有するベンゾフェノン系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上であることが、前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が低減され、耐久性が向上しやすい点から好ましい。
【0126】
【化13】
(一般式(A)において、X及びXはそれぞれ独立に、水酸基、-OR、又は炭素原子数1~15の炭化水素基を表し、Rは炭素原子数1~15の炭化水素基を表す。)
【0127】
一般式(A)において、X、X及びRにおける前記炭素原子数1~15の炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基、アリル基、ベンジル基等が挙げられる。前記炭素原子数3以上の脂肪族炭化水素基は各々、直鎖又は分岐状であってよい。前記炭化水素基は炭素原子数1~12であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。光透過性を向上しやすい点から、前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、中でもメチル基及びアリル基の少なくとも1種であることが好ましい。
耐久性が向上しやすい点からX及びXはそれぞれ独立に、水酸基、又は-ORであることが好ましい。
前記一般式(A)を有するベンゾフェノン系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上としては、中でも、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、及び2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアリルオキシベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、更に2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、及び2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0128】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤をいい、例えば、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、5-クロロ-2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-tert-ペンチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2Hベンゾトリアゾール等の2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類等が挙げられる。
【0129】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、中でも、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、更に、下記一般式(B)を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選択される1種以上であることが、前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が低減され、耐久性が向上しやすい点から好ましい。
【0130】
【化14】
(一般式(B)において、Y、Y、及びYはそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、-OR、又は炭素原子数1~15の炭化水素基を表し、Rは炭素原子数1~15の炭化水素基を表し、Y、Y、及びYの少なくとも1つは、水酸基、-OR、又は炭素原子数1~15の炭化水素基を表す。Yは、水素原子又はハロゲン原子を表す。)
【0131】
一般式(B)において、Y、Y、及びY、並びにRにおける前記炭素原子数1~15の炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられる。前記炭素原子数3以上の脂肪族炭化水素基は各々、直鎖又は分岐状であってよい。前記炭化水素基は炭素原子数1~12であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。光透過性を向上しやすい点から、前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましく、中でも、メチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、n-オクチル基、又はt-オクチル基であることが好ましい。
【0132】
一般式(B)において、Yにおけるハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子等が挙げられ、中でも塩素原子が好ましい。
【0133】
一般式(B)において、中でも、前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が低減され、耐久性が向上しやすい点から、Y、及びYが水素原子で、Yが水酸基、又は-ORを表すことが好ましく、中でも、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、及び2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0134】
前記紫外線吸収剤の含有量としては、前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が、特定の範囲内になるように適宜調整されればよい。上記紫外線吸収剤の含有量としては、上記特定の範囲内になりやすい点から、上記ハードコート層の固形分100質量部に対して1~6質量部であることが好ましい。上記紫外線吸収剤の含有量のより好ましい下限は2質量部、より好ましい上限は5質量部である。なお、固形分とは、溶剤以外の全成分をいう。
前記紫外線吸収剤の含有量としては、前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が、特定の範囲内になり易い点から、0.010g/m~1.200g/mであることが好ましく、0.030g/m~0.950g/mであることがより好ましく、0.180g/m~0.800g/mであることがより更に好ましい。
【0135】
2.ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物
ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種を、必要に応じて重合開始剤を用い、公知の方法で重合反応させることにより得ることができる。
【0136】
ラジカル重合性化合物とは、ラジカル重合性基を有する化合物である。前記ラジカル重合性化合物が有するラジカル重合性基としては、ラジカル重合反応を生じ得る官能基であればよく、特に限定されないが、例えば、炭素-炭素不飽和二重結合を含む基などが挙げられ、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。なお、前記ラジカル重合性化合物が2個以上のラジカル重合性基を有する場合、これらのラジカル重合性基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0137】
前記ラジカル重合性化合物が1分子中に有するラジカル重合性基の数は、ハードコート層の硬度を向上する点から、2つ以上であることが好ましく、更に3つ以上であることが好ましい。
前記ラジカル重合性化合物としては、反応性の高さの点から、中でも(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、ポリフルオロアルキル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等と称される分子内に数個の(メタ)アクリロイル基を有する分子量が数百から数千の多官能(メタ)アクリレートモノマー及びオリゴマーを好ましく使用でき、またアクリレートポリマーの側鎖に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートポリマーも好ましく使用できる。中でも、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーを好ましく使用できる。前記ハードコート層が、前記多官能(メタ)アクリレートモノマーの重合物を含むことにより、ハードコート層の硬度を向上し、さらに、密着性を向上することができる。また、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートオリゴマー又はポリマーも好ましく使用できる。前記ハードコート層が、前記多官能(メタ)アクリレートオリゴマー又はポリマーの重合物を含むことにより、ハードコート層の硬度及び屈曲耐性を向上し、さらに、密着性を向上することができる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタクリロイルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの各々を表す。
【0138】
前記多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、イソボロニルジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、及びこれらをPO、EO、カプロラクトン等で変性したもの等が挙げられる。中でも、反応性が高く、ハードコート層の硬度を向上する点、及び密着性の点から、1分子中に3個以上6個以下の(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましく、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート等を好ましく用いることができ、特に、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、並びにこれらをPO、EO、又はカプロラクトン変性したものから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0139】
本開示においては、前記ラジカル重合性化合物として、硬度やハードコート層用組成物の粘度調整、密着性の向上等のために、単官能(メタ)アクリレートモノマーを含んでいてもよい。前記単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、グリシジルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、アクリロイルモルホリン、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、及び、アダマンチルアクリレート等が挙げられる。
【0140】
カチオン重合性化合物とは、カチオン重合性基を有する化合物である。前記カチオン重合性化合物が有するカチオン重合性基としては、カチオン重合反応を生じ得る官能基であればよく、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基などが挙げられる。なお、前記カチオン重合性化合物が2個以上のカチオン重合性基を有する場合、これらのカチオン重合性基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0141】
前記カチオン重合性化合物が1分子中に有するカチオン重合性基の数は、ハードコート層の硬度を向上する点から、2つ以上であることが好ましく、更に3つ以上であることが好ましい。
また、前記カチオン重合性化合物としては、中でも、カチオン重合性基としてエポキシ基及びオキセタニル基の少なくとも1種を有する化合物が好ましく、エポキシ基及びオキセタニル基の少なくとも1種を1分子中に2個以上有する化合物がより好ましい。エポキシ基、オキセタニル基等の環状エーテル基は、重合反応に伴う収縮が小さいという点から好ましい。また、環状エーテル基のうちエポキシ基を有する化合物は多様な構造の化合物が入手し易く、得られたハードコート層の耐久性に悪影響を与えず、ラジカル重合性化合物との相溶性もコントロールし易いという利点がある。また、環状エーテル基のうちオキセタニル基は、エポキシ基と比較して重合度が高い、低毒性であり、得られたハードコート層を、エポキシ基を有する化合物と組み合わせた際に塗膜中でのカチオン重合性化合物から得られるネットワーク形成速度を早め、ラジカル重合性化合物と混在する領域でも未反応のモノマーを膜中に残さずに独立したネットワークを形成する等の利点がある。
【0142】
エポキシ基を有するカチオン重合性化合物としては、例えば、脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル又は、シクロヘキセン環、シクロペンテン環含有化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化する事によって得られる脂環族エポキシ樹脂;脂肪族多価アルコール、又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートのホモポリマー、コポリマーなどの脂肪族エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールFや水添ビスフェノールA等のビスフェノール類、又はそれらのアルキレンオキサイド付加体、カプロラクトン付加体等の誘導体と、エピクロルヒドリンとの反応によって製造されるグリシジルエーテル、及びノボラックエポキシ樹脂等でありビスフェノール類から誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0143】
上記脂環族エポキシ樹脂としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(UVR-6105、UVR-6107、UVR-6110)、ビス-3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアディペート(UVR-6128)(以上、カッコ内は商品名で、ダウ・ケミカル製である。)が挙げられる。
【0144】
また、上記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-611、デナコールEX-612、デナコールEX-614、デナコールEX-614B、デナコールEX-622)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512、デナコールEX-521)、ペンタエリスリトルポリグリシジルエーテル(デナコールEX-411)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-421)、グリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-313、デナコールEX-314)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(デナコールEX-321)、レソルチノールジグリシジルエーテル(デナコールEX-201)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX-211)、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(デナコールEX―212)、ヒドロジビスフェノールAジグリシジルエーテル(デナコールEX-252)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX-810、デナコールEX-811)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX―850、デナコールEX―851、デナコールEX―821)、プロピレングリコールグリシジルエーテル(デナコールEX―911)、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル(デナコールEX―941、デナコールEX-920)、アリルグリシジルエーテル(デナコールEX-111)、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル(デナコールEX-121)、フェニルグリシジルエーテル(デナコールEX-141)、フェノールグリシジルエーテル(デナコールEX-145)、ブチルフェニルグリシジルエーテル(デナコールEX-146)、ジグリシジルフタレート(デナコールEX-721)、ヒドロキノンジグリシジルエーテル(デナコールEX-203)、ジグリシジルテレフタレート(デナコールEX-711)、グリシジルフタルイミド(デナコールEX-731)、ジブロモフェニルグリシジルエーテル(デナコールEX-147)、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX-221)(以上、カッコ内は商品名で、ナガセケムテックス製である。)が挙げられる。
また、その他の市販品のエポキシ樹脂を用いても良い。
【0145】
オキセタニル基を有するカチオン重合性化合物としては、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(OXT-101)、1,4-ビス-3-エチルオキセタン-3-イルメトキシメチルベンゼン(OXT-121)、ビス-1-エチル-3-オキセタニルメチルエーテル(OXT-221)、3-エチル-3-2-エチルへキシロキシメチルオキセタン(OXT-212)、3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン(OXT-211)(以上、カッコ内は商品名で東亜合成製である。)や、商品名エタナコールEHO、エタナコールOXBP、エタナコールOXTP、エタナコールOXMA(以上商品名、宇部興産製)が挙げられる。
【0146】
本発明に用いられるハードコート層が含有する前記ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物は、例えば、前記ラジカル重合性化合物及び前記カチオン重合性化合物の少なくとも1種に、必要に応じて重合開始剤を添加して、公知の方法で重合反応させることにより得ることができる。
【0147】
前記重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、ラジカル及びカチオン重合開始剤等を適宜選択して用いることができる。これらの重合開始剤は、光照射及び加熱の少なくとも一種により分解されて、ラジカルもしくはカチオンを発生してラジカル重合とカチオン重合を進行させるものである。
従って、ハードコート層中には、重合開始剤が全て分解されて残留していない場合もある。
【0148】
ラジカル重合開始剤は、光照射及び加熱の少なくともいずれかによりラジカル重合を開始させる物質を放出することが可能であれば良い。例えば、光ラジカル重合開始剤としては、イミダゾール誘導体、ビスイミダゾール誘導体、N-アリールグリシン誘導体、有機アジド化合物、チタノセン類、アルミナート錯体、有機過酸化物、N-アルコキシピリジニウム塩、チオキサントン誘導体等が挙げられ、更に具体的には、1,3-ジ(tert-ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラキス(tert-ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3-フェニル-5-イソオキサゾロン、2-メルカプトベンズイミダゾール、ビス(2,4,5-トリフェニル)イミダゾール、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(商品名イルガキュア651、チバ・ジャパン(株)製)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(商品名イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン(商品名イルガキュア369、チバ・ジャパン(株)製)、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム)(商品名イルガキュア784、チバ・ジャパン(株)製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記以外にも、適宜選択して市販品を使用できる。
【0149】
また、カチオン重合開始剤は、光照射及び加熱の少なくともいずれかによりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能であれば良い。カチオン重合開始剤としては、スルホン酸エステル、イミドスルホネート、ジアルキル-4-ヒドロキシスルホニウム塩、アリールスルホン酸-p-ニトロベンジルエステル、シラノール-アルミニウム錯体、(η-ベンゼン)(η-シクロペンタジエニル)鉄(II)等が例示され、さらに具体的には、ベンゾイントシレート、2,5-ジニトロベンジルトシレート、N-トシフタル酸イミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0150】
ラジカル重合開始剤としても、カチオン重合開始剤としても用いられるものとしては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、トリアジン化合物、鉄アレーン錯体等が例示され、更に具体的には、ジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム等のヨードニウムのクロリド、ブロミド、ホウフッ化塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアンチモネート塩等のヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム、4-tert-ブチルトリフェニルスルホニウム、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウム等のスルホニウムのクロリド、ブロミド、ホウフッ化塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアンチモネート塩等のスルホニウム塩、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等の2,4,6-置換-1,3,5トリアジン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0151】
3.任意添加成分
本発明に用いられるハードコート層は、必要に応じて、任意添加成分を更に含有することができる。
前記任意添加成分は、ハードコート層に付与する機能に応じて適宜選択され、特に限定はされないが、例えば、硬度や屈折率を調整するための無機又は有機微粒子、赤外線吸収剤、防眩剤、防汚剤、帯電防止剤、青色色素や紫色色素等の着色剤等が挙げられ、更に、レベリング剤、界面活性剤、易滑剤、各種増感剤、難燃剤、接着付与剤、重合禁止剤、酸化防止剤、光安定化剤、表面改質剤等を含んでいても良い。
【0152】
4.ハードコート層の構成
本発明に用いられるハードコート層の厚さは、後述する積層体の色味や経時色変化の指標を達成しつつ、ハードコート層が有する機能及び積層体の用途により適宜選択されれば良い。本発明に用いられるハードコート層の厚さは、ハードコート層の機能を発揮させる点、並びに、前記ポリイミドフィルムと組み合わせた場合に、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が、特定の範囲内になりやすい点から、2.0μm以上であることが好ましく、更に3.0μm以上であることが好ましく、より更に5.0μm以上であることが好ましく、より更に6.0μm以上であることが好ましく、一方で、積層体の屈曲耐性の点及び薄膜化の点から、50.0μm以下であることが好ましく、更に30.0μm以下であることが好ましく、より更に20.0μm以下であることが好ましく、より更に10.0μm以下であることが好ましい。
なお、本開示に係る積層体が有する各層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察される積層体の厚さ方向の断面から測定して得られた任意の10箇所の厚さの平均値とすることができる。
【0153】
また、本開示の積層体が有するハードコート層は、単層のみならず、2層以上の多層構成を有するものであっても良い。
2層以上のハードコート層を有する場合の好ましい層構成としては、例えば、ポリイミドフィルム側に位置する第1ハードコート層と、前記第1ハードコート層の前記ポリイミドフィルム側とは反対側に位置する、第2ハードコート層とを有することが好ましい。
2層以上のハードコート層を有する場合、積層体の黄色度(YI)を前記特定の膜厚で除した値、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記特定の膜厚で除した値、及び、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記特定の膜厚で除した値が、特定の範囲内になる限り、紫外線吸収剤は、少なくとも1層に含まれていればよい。
中でも、膜厚と紫外線吸収能の点から、ポリイミドフィルム側に位置する第1ハードコート層に、紫外線吸収剤が含まれていることが好ましい。
【0154】
2層以上のハードコート層を有する場合、表面硬度を向上し、且つ、屈曲耐性と弾性率のバランスを良好にするために、ハードコート層の積層構造の内、鉛筆硬度を充足させるための層と、動的屈曲試験を充足させるための層(耐擦傷性を充足させるための層)が含まれていることが好ましい。
鉛筆硬度を充足させるための層は、ポリイミドフィルム側に位置する第1ハードコート層であることが好ましい。
鉛筆硬度を充足させるための層は、断面中央におけるマルテンス硬さが500MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。500MPa未満であると、上記ハードコート層の鉛筆硬度が不充分となって上述した鉛筆硬度を充足できないことがあり、1000MPa超過であると、本発明の積層体の屈曲耐性が不充分となる恐れがある。上記鉛筆硬度を向上させるための層の断面中央におけるマルテンス硬さのより好ましい下限は600MPa、より好ましい上限は950MPaである。
【0155】
動的屈曲試験を充足させるための層は、前記第1ハードコート層の前記ポリイミドフィルム側とは反対側に位置する、すなわち、ポリイミドフィルムとは反対側の最表面に位置する、第2ハードコート層であることが好ましい。
動的屈曲試験を充足させるための層は、断面中央におけるマルテンス硬さが375MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。375MPa未満であると、上記ハードコート層の耐擦傷性が不充分となることがあり、1000MPaを超えると、本発明の積層体の屈曲耐性の性能が不充分となって後述する動的屈曲試験を充足できないことがある。上記第二ハードコート層の断面中央におけるマルテンス硬さのより好ましい下限は450MPa、より好ましい上限は575MPaである。
【0156】
鉛筆硬度を充足させるための層のマルテンス硬さは、動的屈曲試験を充足させるための層のマルテンス硬さよりも大きいことが好ましい。このようなマルテンス硬さの関係を有することで、本発明の積層体は、表面硬度が特に良好となる。これは、本発明の積層体に鉛筆硬度試験を施して鉛筆に荷重をかけて押しこんだときに、本発明の積層体の変形が抑制されて、傷や凹み変形が少なくなるためである。
鉛筆硬度を充足させるための層のマルテンス硬さが、動的屈曲試験を充足させるための層のマルテンス硬さよりも大きくする方法としては、例えば、シリカ微粒子の含有量を第一ハードコート層側により多く含有するよう制御する方法等が挙げられる。
上記ハードコート層は単一構造であってもよく、この場合、上記ハードコート層に後述するシリカ微粒子が基材フィルム側に偏在するように、すなわち、上記ハードコート層におけるシリカ微粒子の存在割合が、ポリイミドフィルム側でより大きく、ポリイミドフィルム側と反対側に行くに従って小さくなるよう傾斜していることが好ましい。
【0157】
なお、本明細書において、「マルテンス硬さ」とは、ナノインデンテーション法による硬度測定により、圧子を500nm押込んだときの硬度である。
なお、本明細書において、上記ナノインデンテーション法によるハードコート層のマルテンス硬さの測定は、本発明の積層体を30mm×30mmに切り出したサンプルについてHYSITRON(ハイジトロン)社製の「TI950 TriboIndenter」を用いて行った。すなわち、上記圧子としてバーコビッチ圧子(三角錐)を、本発明の積層体のハードコート層断面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(Pmax(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm)とを用い、Pmax/Aにより、マルテンス硬さを算出する。
【0158】
鉛筆硬度を充足させるための層、第1ハードコート層としては、中でも硬度を向上する点から、無機又は有機微粒子を含有することが好ましく、無機微粒子を含有することがより好ましい。また、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物としては、中でも前記(メタ)アクリレートモノマーの重合物を含有することが好ましい。
【0159】
無機微粒子としては、例えば、シリカ(SiO)、酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の金属酸化物微粒子、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等の金属フッ化物微粒子、金属微粒子、金属硫化物微粒子、金属窒化物微粒子等が挙げられ、中でも金属酸化物微粒子が好ましく、シリカ微粒子及び酸化アルミニウム微粒子から選ばれる少なくとも一種がより好ましく、シリカ微粒子がより更に好ましい。
【0160】
また、前記無機微粒子は、当該無機微粒子表面に当該無機微粒子同士又は前記ラジカル重合性化合物及び前記カチオン重合性化合物の少なくとも1種との間で架橋反応し、共有結合が形成可能な光反応性を有する反応性官能基を少なくとも粒子表面の一部に有する反応性無機微粒子であることが好ましい。反応性無機微粒子同士又は反応性無機微粒子と前記ラジカル重合性化合物及び前記カチオン重合性化合物の少なくとも1種との間で架橋反応することにより、ハードコート層の硬度を更に向上させることができる。
【0161】
前記反応性無機微粒子は、少なくとも表面の一部に有機成分が被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基を表面に有する。該反応性官能基としては、例えば、重合性不飽和基が好適に用いられ、より好ましくは光硬化性不飽和基であり、特に好ましくは電離放射線硬化性不飽和基である。上記反応性官能基の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合及びエポキシ基等が挙げられる。
【0162】
上記反応性シリカ微粒子としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、特開2008-165040号公報記載の反応性シリカ微粒子等が挙げられる。
また、上記反応性シリカ微粒子の市販品としては、例えば、日産化学工業社製;MIBK-SD、MIBK-SDMS、MIBK-SDL、MIBK-SDZL、日揮触媒化成社製;V8802、V8803等が挙げられる。
【0163】
また、上記シリカ微粒子は、球状シリカ微粒子であってもよいが、異型シリカ微粒子であることが好ましい。球状シリカ微粒子と異型シリカ微粒子とを混合させてもよい。なお、本明細書において、上記異型シリカ微粒子とは、ジャガイモ状のランダムな凹凸を表面に有する形状のシリカ微粒子を意味する。
上記異型シリカ微粒子は、その表面積が球状シリカ微粒子と比較して大きいため、このような異型シリカ微粒子を含有することで、上記多官能(メタ)アクリレート等との接触面積が大きくなり、上記ハードコート層の硬度(鉛筆硬度)をより優れたものとすることができる。上記異型シリカ微粒子か否かは、上記第一ハードコート層の電子顕微鏡による断面観察により確認することができる。
前記無機微粒子の平均粒径は、硬度向上の点から、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、一方で、透明性の点から、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが好ましい。
前記無機微粒子の平均粒径は、前記機能層の電子顕微鏡による断面観察により測定することができ、任意に選択した10個の微粒子の粒径の平均を平均粒径とする。なお、上記異型シリカ微粒子の平均粒径は、上記ハードコート層の断面顕微鏡観察にて現れた異型シリカ微粒子の外周の2点間距離の最大値(長径)と最小値(短径)との平均値である。
【0164】
上記無機微粒子の大きさ及び配合量を制御することでハードコート層の硬度(マルテンス硬さ)を制御できる。例えば、上記第一ハードコート層を形成する場合、上記シリカ微粒子は上記樹脂成分100質量部に対して、25~60質量部であることが好ましい。
【0165】
動的屈曲試験を充足させるための層、第2ハードコート層は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物として、少なくとも前記(メタ)アクリレートモノマーの重合物を含有することが好ましく、更に、前記多官能(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリマーの少なくとも1種の重合物を含むことが好ましい。前記ハードコート層が、前記多官能(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリマーの少なくとも1種の重合物を含むことにより、ハードコート層の硬度及び屈曲耐性を向上し、さらに、密着性を向上することができる。
前記多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、中でも、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上の多官能(メタ)アクリレートオリゴマーを好ましく使用でき、中でも、多官能(6官能以上)で重量平均分子量が1000~1万未満のウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。またアクリレートポリマーの側鎖に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートポリマーも好ましく使用できる。
【0166】
本開示に係る積層体が2層以上のハードコート層を有する場合、ハードコート層の合計厚さは、前記ハードコート層の厚さと同様であって良い。
前記第1ハードコート層の厚さは、2.0~40.0μmであることが好ましく、前記第二ハードコート層の厚さは、0.5~15.0μmであることが好ましい。上記各層厚さの下限未満であると、上記ハードコート層の硬度が著しく低下することがあり、上記各層厚さの上限を超えると、上記ハードコート層を形成するための塗液のコーティングが困難となり、また、厚さが厚すぎることに起因した加工性が悪化する場合がある。
前記第一ハードコート層の厚さのより好ましい下限は5.0μm、より好ましい上限は35.0μmであり、上記第二ハードコート層の厚さのより好ましい下限は1.0μm、より好ましい上限は10.0μmである。
【0167】
なお、本発明に用いられるハードコート層に含まれるラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物等は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、熱分解ガスクロマトグラフ装置(GC-MS)や、重合物の分解物について、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析計、NMR、元素分析、XPS/ESCA及びTOF-SIMS等の組み合わせを用いて分析することができる。
【0168】
I-3.積層体の構成
本発明の積層体は、前記ポリイミドフィルムと、前記ハードコート層とを有するものであれば特に限定はされず、前記ポリイミドフィルムの一方の面側に前記ハードコート層が積層されたものであってもよいし、カール防止の観点から前記ポリイミドフィルムの両面に前記ハードコート層が積層されたものであってもよい。
本発明の積層体は、耐衝撃性の点から、前記ポリイミドフィルムを2層以上含んでいてもよく、例えば、前記ポリイミドフィルムの2つを接着層で積層した複合フィルムを含んでいてもよい。
また、本発明の積層体は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリイミドフィルム及び前記ハードコート層の他に、例えば、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との密着性を向上させるためのプライマー層等の他の層を有するものであってもよい。本発明の積層体は、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層とがプライマー層等の他の層を介して積層されたものであっても良いし、前記ポリイミドフィルムと、前記ハードコート層とが隣接して位置するものであってもよい。
【0169】
また、本発明の積層体はさらに、厚さが100μm以下のガラス基材を有していても良い。
本発明の積層体がさらに厚さが100μm以下のガラス基材を有する場合には、従来のガラス基板の厚みの一部を本発明のポリイミドフィルム及びハードコート層によって代替したものと捉えることもできる。ガラスは薄くなることで、より割れやすくなってしまい、耐衝撃性が劇的に悪化するが、このような本発明の積層体は、柔軟性を有する超薄ガラス基材の硬度や光学特性等の長所を有しながら、超薄ガラス基材の割れが抑制されて耐衝撃性が向上したものである。このような本発明の積層体は、厚さが100μm以下の柔軟性を有するガラス基材に、前述した本発明のポリイミドフィルム及びハードコート層を積層したものであるため、表面硬度、耐衝撃性に優れ、屈曲耐性が良好で、且つ耐久性を有する積層体である。
本発明の積層体がさらに厚さが100μm以下のガラス基材を有する場合には、ポリイミドフィルムの膜厚は、適宜選択されればよいが、好ましくは5μm以上60μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下、更に好ましくは15μm以上40μm以下とすることができる。ポリイミドフィルムの膜厚が上記範囲内であるように比較的薄いことにより、ガラス基材の割れを抑制しながら積層体の柔軟性を高めることができ、屈曲耐性を良好にすることができる。
【0170】
前記ガラス基材を構成するガラスとしては、特に限定されないが、中でも、屈曲耐性の点から、化学強化ガラスであることが好ましい。化学強化ガラスは機械的強度に優れており、その分薄くできる点で好ましい。化学強化ガラスは、典型的には、ガラスの表面近傍について、ナトリウムをカリウムに代える等、イオン種を一部交換することで、化学的な方法によって機械的物性を強化したガラスであり、表面に圧縮応力層を有する。
化学強化ガラス基材を構成するガラスとしては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等が挙げられる。
化学強化ガラス基材の市販品としては、例えば、コーニング社のGorilla Glass(ゴリラガラス)や、AGC社のDragontrail(ドラゴントレイル)等が挙げられる。また、化学強化ガラス基材としては、例えば特開2019-194143号公報に記載のものを用いることもできる。
ガラス基材の厚さは、屈曲耐性の点から、好ましくは15μm以上、100μm以下、より好ましくは20μm以上、90μm以下、さらに好ましくは25μm以上、80μm以下とすることができる。ガラス基材の厚さが上記範囲であるように薄いことにより、良好な柔軟性を得ることができるともに、十分な硬度を得ることができる。また、積層体のカールを抑制することもできる。さらに、積層体の軽量化の面で好ましい。
【0171】
本発明の積層体がさらに厚さが100μm以下のガラス基材を有する場合、前記ガラス基材、前記ポリイミドフィルム、及び前記ハードコート層の順で有することが好ましい。
本発明の積層体がさらに厚さが100μm以下のガラス基材を有する場合、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ガラス基材、前記ポリイミドフィルム及びハードコート層の他に、例えば、前記ガラス基材と前記ポリイミドフィルムとの密着性を向上させるためのプライマー層等の他の層を有するものであってもよい。本発明の積層体は、前記ガラス基材と前記ポリイミドフィルムとがプライマー層等の他の層を介して積層されたものであっても良いし、前記ガラス基材と前記ポリイミドフィルムとが隣接して位置するものであってもよい。
【0172】
また、本発明の積層体はさらに、耐衝撃層、指紋付着防止層、接着乃至粘着層、保護層等を有していても良い。前記プライマー層、耐衝撃層、指紋付着防止層、接着乃至粘着層、保護層等従来公知のその他の機能層としては、従来公知の層を適宜選択して用いることができる。
あるいは、本発明の積層体はさらに、金属箔を有していてもよい。
また、本発明の積層体において、前記接着層やプライマー層には、YIを調整する点から、着色剤が含まれていてもよい。
また、本発明の積層体は、透過率を調整する点から、ポリイミドフィルムのハードコート層を形成しない側に、ポリイミドフィルムの屈折率よりも低い層を更に有していてもよく、当該低屈折率層には、無機微粒子が含まれていてもよく、更にYIを調整する点から、青色色素や紫色色素を含む着色剤が含まれていてもよい。
【0173】
本発明の積層体の全体厚さ(膜厚)は、用途により適宜選択されれば良いが、強度の点から、10μm以上であることが好ましく、更に40μm以上であることが好ましい。一方、屈曲耐性の点から、300μm以下であることが好ましく、更に250μm以下であることが好ましい。
【0174】
I-4.積層体の特性
本発明の積層体は、積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が、0.12未満である。
また、本発明の積層体は、積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が、0.15未満である。
本発明の積層体は、前記黄色度(YI)が前記所定の範囲内で小さいものであることにより、製造時に着色が抑制されたものであり、透明性を高くすることができる。
本発明の積層体は、積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が、0.11未満であることがより好ましい。
また、本発明の積層体は、積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)を前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が、0.14以下であることがより好ましい。
積層体のJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)は、前記ポリイミドフィルムのJIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI値)と同様にして測定することができる。
なお、本発明において、前記黄色度(YI値)、黄色度変化ΔYI、及び色変化ΔEを前記特定の膜厚(μm)で除した値は各々、JIS Z8401:1999の規則Bに従い、小数点以下第2位に丸めた値とする。
【0175】
本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.11未満であり、且つ、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が0.09未満である。
また、本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.13未満であり、且つ、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを、前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が0.11未満である。
本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYI及び色変化ΔEが前記所定の範囲内で小さいものであることにより、経時でのポリイミドフィルムの劣化が抑制されたものであり、屈曲耐性と弾性率のバランスが維持され、耐久性が高いものである。
本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が、0.10未満であることが好ましく、0.09未満であることがより好ましい。
本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚(μm)で除した値が、0.08未満であることが好ましく、0.07未満であることがより好ましい。
また、本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の黄色度変化ΔYIを前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が、0.12未満であることが好ましく、0.11未満であることがより好ましい。
本発明の積層体は、積層体の下記耐候性試験前後の色変化ΔEを前記ポリイミドフィルムの膜厚(μm)で除した値が、0.10未満であることが好ましく、0.09未満であることがより好ましい。
(耐候性試験)
JIS K5600-7-8に準拠した耐候性試験機(例えば、Q-LAB製QUV耐候性試験機(型番QUV)を用い、0.63W/m/nmに設定した出力で、365nmから295nmまで太陽光に類似した分光分布を持つUVA(340)ランプを使用して、積層体を96時間照射する。
耐候性試験前後の積層体についてそれぞれ、JIS K7373-2006に準拠して算出される黄色度(YI)、C光源を用いたCIEのL表色系におけるL、a、bを測定する。
ΔYI=試験後YI-試験前YI
ΔE={(試験後L-試験前L+(試験後a-試験前a+(試験後b-試験前b1/2
C光源を用いたCIEのL表色系におけるL、a、bは、JIS K7373-2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光(株) V-7100)を用い、分光測色方法により、補助イルミナントC、2度視野を用いて、250nm以上800nm以下の範囲を1nm間隔で測定される透過率をもとに、測定することができる。
【0176】
本発明の積層体は、ハードコート層側表面の鉛筆硬度がH以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがより更に好ましい。
本発明の積層体の鉛筆硬度は、前記ポリイミドフィルムの鉛筆硬度の測定方法において、荷重を9.8Nとする以外は同様にして測定することができる。
【0177】
本発明の積層体は、JIS K7361-1に準拠して測定する全光線透過率が、85.0%以上であることが好ましく、更に88.0%以上であることが好ましく、より更に90.0%以上であることが好ましい。このように透過率が高いことから、透明性が良好になり、ガラス代替材料となり得る。
本発明の積層体の前記全光線透過率は、前記ポリイミドフィルムのJIS K7361-1に準拠して測定する全光線透過率と同様にして測定することができる。
【0178】
本発明の積層体は、波長380nmの光の透過率が8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることがさらに好ましい。上記透過率が8%を超えると、本発明の積層体をディスプレイ表面材に用いた場合、紫外線に晒されて劣化しやすくなる恐れがある。
上記透過率は、JIS K7373-2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株) V-7100)を用いて測定することができ、3回測定して得られた値の算術平均値とする。
【0179】
本発明の積層体のヘイズ値は、光透過性の点から、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることが更に好ましい。
本発明の積層体のヘイズ値は、前記ポリイミドフィルムのヘイズ値と同様にして測定することができる。
【0180】
また、本発明の積層体は、積層されているポリイミドフィルムの複合弾性率が、5.3GPa以上であることが好ましい。このように、ポリイミドフィルムの複合弾性率が高いと、十分な表面硬度を室温でも維持することができ、表面材乃至基材として用いることができる。前記複合弾性率は、5.5GPa以上であることがより好ましく、5.7GPa以上であることが更に好ましく、6.0GPa以上であることがより更に好ましい。一方で、前記複合弾性率は、屈曲耐性を向上させる点から、10GPa以下であっても良い。
なお、積層されているポリイミドフィルムの複合弾性率としては、後述の実施例に記載した方法で測定することができる。
【0181】
I-5.積層体の用途
本発明の積層体の用途は特に限定されるものではなく、従来薄い板ガラス等ガラス製品が用いられていた表面材等の部材として用いることができる。本発明の積層体は、屈曲耐性と弾性率のバランスが良好で、且つ耐久性を有するものであるため、中でも、曲面に対応できるディスプレイ用表面材として好適に用いることができる。
本発明の積層体は、具体的には例えば、薄くて曲げられるフレキシブルタイプの有機ELディスプレイや、スマートフォンや腕時計型端末などの携帯端末、自動車内部の表示装置、腕時計などに使用するフレキシブルパネル等、フレキシブルディスプレイ用の基材や表面材に好適に用いることができる。また、本発明の積層体は、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置用部材や、タッチパネル用部材、フレキシブルプリント基板、表面保護膜や基板材料等の太陽電池パネル用部材、光導波路用部材、その他半導体関連部材等に適用することもできる。
また、金属箔とポリイミドフィルムとハードコート層の積層体の用途としては、アンテナ、配線、電磁波シールド材等が挙げられる。
【0182】
I-6.積層体の製造方法
本発明の積層体の製造方法としては、例えば、
前記本発明に用いられるポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、紫外線吸収剤とラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種を含有するハードコート層形成用組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を硬化することによりハードコート層を形成する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
【0183】
前述のように、積層体のYI/前記特定の膜厚、ΔYI/前記特定の膜厚、及び、ΔE/前記特定の膜厚が、前記特定の範囲内になるように、前記ハードコート層形成用組成物中の紫外線吸収剤の濃度及びハードコート層の厚さを調整する。
【0184】
前記ハードコート層形成用組成物は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種、及び紫外線吸収剤を含有し、必要に応じて更に重合開始剤、溶剤及び添加剤等を含有していてもよい。
ここで、前記ハードコート層形成用組成物が含有する紫外線吸収剤、ラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、重合開始剤及び添加剤については、前記ハードコート層において説明したものと同様のものを用いることができ、溶剤は、公知の溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0185】
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、前記ハードコート層形成用組成物の塗膜を形成する方法としては、例えば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、前記ハードコート層形成用組成物を、公知の塗布手段により塗布する方法が挙げられる。
前記塗布手段は、目的とする膜厚で塗布可能な方法であれば特に制限はなく、例えば、前記ポリイミドワニスを支持体に塗布する手段と同様のものが挙げられる。
【0186】
前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗膜は必要に応じて乾燥することにより溶剤を除去する。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥又は加熱乾燥、更にはこれらの乾燥を組み合わせる方法等が挙げられる。また、常圧で乾燥させる場合は、30℃以上110℃以下で乾燥させることが好ましい。
【0187】
前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物を塗布、必要に応じて乾燥させた塗膜に対し、当該硬化性樹脂組成物に含まれるラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の重合性基に応じて、光照射及び加熱の少なくともいずれかにより塗膜を硬化させることにより、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有するハードコート層を形成することができる。
【0188】
光照射には、主に、紫外線、可視光、電子線、電離放射線等が使用される。紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等を使用する。エネルギー線源の照射量は、紫外線波長365nmでの積算露光量として、50~5000mJ/cm程度である。
加熱をする場合は、通常40℃以上120℃以下の温度にて処理する。また、室温(25℃)で24時間以上放置することにより反応を行っても良い。
【0189】
積層体にさらに含んでいてもよい構成は、従来公知の製造方法と同様に製造することができる。
【0190】
本発明の積層体が前記ガラス基材を有する場合の製造方法としては、例えば、前記ガラス基材上に、前記特定のポリイミドおよび有機溶剤を含むポリイミドワニスを塗布し、乾燥させる方法、および、前記ガラス基材上に、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)および有機溶剤を含むポリイミド前駆体組成物を塗布した後、熱処理によりポリイミド前駆体をイミド化する方法等が挙げられる。
【0191】
本発明の積層体が前記ガラス基材を有する場合の製造方法は、
前記ガラス基材を準備する工程と、
本発明に用いられる前記ポリイミドと、有機溶剤とを含有するポリイミドワニスであって、前記ポリイミドの含有割合は、前記ポリイミドワニス中に6質量%以上15質量%以下であり、回転粘度計により測定した25℃における粘度が1,000~10,000cpsであるポリイミドワニスを準備する工程と、
前記ポリイミドワニスを前記ガラス基材上に塗布する工程と、塗膜を100℃以下の温度で乾燥する第一乾燥工程と、当該乾燥後塗膜を、150℃以上の温度で加熱する第二乾燥工程を有することが、気泡欠陥が発生し難く、厚さの均一性が良好な積層体を得やすく、残留溶剤量を少なくしやすい点から好ましい。
【0192】
中でも、沸点が120℃以上の有機溶剤を用いる場合には、100℃以下の温度で2段階以上の乾燥温度を設けて有機溶剤を乾燥させることが、塗膜表面の皮ばりを抑制し、塗膜中の有機溶剤の突沸による気泡を抑えることができる点から好ましい。100℃以下の温度で2段階以上の乾燥温度を設ける態様としては、例えば、1段階目が80℃で乾燥、2段階目が100℃で更に乾燥する態様が挙げられる。
また、第二乾燥工程における150℃以上の加熱も、150℃以上250℃以下の温度で2段階以上の加熱温度を設けて加熱することが、気泡欠陥が発生し難く、残留溶剤量を少なくしやすい点から好ましい。150℃以上250℃以下の温度で2段階以上の加熱温度を設ける態様としては、例えば、1段階目が150℃で乾燥、2段階目が180℃で乾燥、3段階目が230℃で乾燥、4段階目が250℃で更に乾燥する態様が挙げられる。
例えば、乾燥後塗膜の膜厚が50μm未満の場合には、各段階の保持時間を10分以上、60分未満とすることが好ましく、乾燥後塗膜の膜厚が50μm以上、100μm以下では各段階の保持時間を30分以上、90分未満とすることが好ましい。
【0193】
II.ディスプレイ用表面材
本発明のディスプレイ用表面材は、前述した本発明の積層体を含む。
本発明のディスプレイ用表面材は、前述した本発明の積層体であってよい。
【0194】
本発明のディスプレイ用表面材は、例えばディスプレイ用表面材として、各種ディスプレイの表面に位置するように配置して用いられる。本発明のディスプレイ用表面材は、前述した本発明の積層体と同様に、屈曲耐性と弾性率のバランスが良好で、且つ耐久性を有するため、フレキシブルディスプレイ用として特に好適に用いることができる。
【0195】
本発明のディスプレイ用表面材は、公知の各種ディスプレイに用いることができ、特に限定はされないが、例えば、前記本発明に用いられる積層体の用途で説明したディスプレイ等に用いることができる。
【0196】
なお、本発明のディスプレイ用表面材において、当該積層体をディスプレイの表面に配置した後に最表面となる面は、ポリイミドフィルム側の表面であってもよいし、ハードコート層側の表面であってもよい。中でも、ハードコート層側の表面が、より表側の面となるように本発明のディスプレイ用表面材を配置することが好ましい。また、本発明のディスプレイ用表面材は、最表面に指紋付着防止層を有するものであっても良い。
【0197】
また、本発明のディスプレイ用表面材をディスプレイの表面に配置する方法としては、特に限定はされないが、例えば、接着層を介する方法等が挙げられる。前記接着層としては、ディスプレイ用表面材の接着に用いることができる従来公知の接着層を用いることができる。
【0198】
III.タッチパネル部材
本発明のタッチパネル部材は、前述した本発明の積層体と、
前記積層体の一方の面側に配置された、複数の導電部からなる透明電極と、
前記導電部の端部の少なくとも一方側において電気的に接続される複数の取り出し線と、を有する。
【0199】
本発明のタッチパネル部材は、前述した本発明の積層体を備えるものであることから、屈曲耐性に優れたものであるため、フレキシブルディスプレイ用として特に好適に用いることができ、また光学的な耐久性にも優れる。
本発明のタッチパネル部材に用いられる本発明の積層体は、ポリイミドフィルムの両面に隣接して、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有するハードコート層を有するものであることが好ましい。
また、本発明のタッチパネル部材は、特に限定はされないが、前記透明電極が、前記積層体の一方の面側に接して積層されてなるものであることが好ましい。
本発明のタッチパネル部材は、例えば、各種ディスプレイの表面に位置するように配置して用いることができる。また、各種ディスプレイの表面に、本発明のタッチパネル部材と、表面材としての本発明の積層体とを、この順に配置して用いることもできる。
【0200】
図3は、本発明のタッチパネル部材の一例の一方の面の概略平面図であり、図4は、図3に示すタッチパネル部材のもう一方の面の概略平面図であり、図5は、図3及び図4に示すタッチパネル部材のA-A’断面図である。図3図4及び図5に示すタッチパネル部材20は、本発明の積層体10と、積層体10の一方の面に接して配置された第一の透明電極4と、積層体10のもう一方の面に接して配置された第二の透明電極5とを備える。第一の透明電極4においては、x軸方向に伸長するように延在する短冊状の電極片である複数の第一の導電部41が、所定の間隔を空けて配置されている。第一の導電部41には、その長手方向の端部のいずれか一方において、当該第一の導電部41と電気的に接続される第一の取出し線7が接続されている。積層体10の端縁21まで延設された第一の取出し線7の端部には、外部回路と電気的に接続するための第一の端子71を設けることがよい。第一の導電部41と第一の取出し線7とは、一般には、タッチパネルの使用者が視認可能なアクティブエリア22の外側に位置する、非アクティブエリア23内において接続される。
第一の導電部41と第一の取出し線7との接続は、例えば図3に示すように、接続部24を介在させた接続構造を採用することができる。接続部24は、具体的には、第一の導電部41の長手方向端部から、非アクティブエリア23内の所定の位置まで導電性材料の層を延設することにより形成することができる。さらに、当該接続部24上に、第一の取出し線7の少なくとも一部を重ねることにより、第一の導電部41と第一の取出し線7との接続構造を形成することができる。
第一の導電部41と第一の取出し線7との接続は、図3に示すような、接続部24を形成する構造には限定されない。例えば、図示は省略するが、第一の導電部41の長手方向端部を非アクティブエリア23まで伸長させ、非アクティブエリア23内において、当該非アクティブエリア23まで伸長させた第一の導電部41の端部に、第一の取出し線7を乗り上げさせることによって、両者を電気的に接続させてもよい。
なお、図3では、第一の導電部41の長手方向端部のいずれか一方と、第一の取出し線7とを接続する形態を示したが、本発明においては、1つの第一の導電部41の長手方向の両端に、それぞれ、第一の取出し線7を電気的に接続する形態としてもよい。
【0201】
図4に示すように、タッチパネル部材20は、積層体10のもう一方の面に接して配置された第二の透明電極5とを備える。第二の透明電極5においては、y軸方向に伸長するように延在する複数の短冊状の電極片である第二の導電部51が、x軸方向に所定の間隔を空けて配置されている。
第二の導電部51には、その長手方向端部の一方において、当該第二の導電部51と電気的に接続される第二の取出し線8が接続されている。
第二の取出し線8は、積層体10の端縁のうち、前述した第一の取出し線7が延設された端縁21における、第一の端子71と重ならない位置まで延設されている。
積層体10の端縁21まで延設された第二の取出し線8の端部には、外部回路と電気的に接続するための第二の端子81を設けることがよい。
第二の導電部51と第二の取出し線8との電気的な接続は、第一の取出し線7と第一の導電部41との電気的な接続と同様の形態を適用することができる。
【0202】
なお、図3及び図4に示すような、第1取出し線7を長尺配線とし、第2取出し線8を短尺配線とするパターンは、本発明のタッチパネル部材の一実施形態に過ぎず、例えば、第一の取出し線7を短尺配線とし、第二の取出し線8を長尺配線とするパターンとすることも可能である。また、第一の取出し線7の伸長方向及び第二の取出し線8の伸長方向も、図3及び図4に示す方向に限られず、任意に設計することが可能である。
【0203】
本発明のタッチパネル部材が備える導電部は、タッチパネル部材において透明電極を構成するものを適宜選択して適用することができ、導電部のパターンは、図3及び図4に示すものに限定されない。例えば、静電容量方式によって、指などの接触または接触に近い状態による電気容量の変化を検知可能な透明電極のパターンを適宜選択して適用することができる。
前記導電部の材料としては、光透過性の材料であることが好ましく、例えば、インジウム錫オキサイド(ITO)、酸化インジウム、インジウム亜鉛オキサイド(IZO)等を主たる構成成分とする酸化インジウム系透明電極材料、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等を主たる構成成分とする透明導電膜、ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性高分子化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、第一の導電部41及び第二の導電部51は、互いに同種の導電性材料を用いて形成してもよいし、異種の材料を用いて形成してもよい。特に同種の導電性材料を用いて第一の導電部41及び第2導電部51を形成すると、タッチパネル部材の反りや歪みの発生をより効果的に抑制できる観点で好ましい。
前記導電部の厚さは、特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィ手法により導電部を形成する場合には、一般的には、10nm~500nm程度に形成することができる。
【0204】
本発明のタッチパネル部材が備える取出し線を構成する導電材料は、光透過性の有無を問わない。一般的には、取出し線は、高い導電性を有する銀や銅などの金属材料を用いて形成することができる。具体的には、金属単体、金属の複合体、金属と金属化合物の複合体、金属合金を挙げることができる。金属単体としては、銀、銅、金、クロム、プラチナ、アルミニウムの単体などを例示することができる。金属の複合体としては、MAM(モリブデン、アルミニウム、モリブデンの3層構造体)等を例示することができる。金属と金属化合物の複合体としては、酸化クロムとクロムの積層体等を例示することができる。金属合金としては、銀合金や銅合金が汎用される。また、金属合金としては、APC(銀、パラジウム及び銅の合金)等を例示することができる。また、前記取出し線には、前述した金属材料に、適宜樹脂成分が混在していてもよい。
本発明のタッチパネル部材において、取出し線の端部に設けられる端子は、例えば、前記取出し線と同じ材料を用いて形成することができる。
前記取出し線の厚さ、及び幅寸法は、特に限定されないが、例えばフォトリソグラフィ手法により取出し線を形成する場合には、一般的には、厚さは10nm~1000nm程度に形成され、幅寸法は5μm~200μm程度に形成される。一方、スクリーン印刷などの印刷により取出し線を形成する場合には、一般的には、厚さは5μm~20μm程度に形成され、幅寸法は20μm~300μm程度に形成される。
【0205】
本発明のタッチパネル部材は、図3図5に示す形態には限られず、例えば、第一の透明電極と、第二の透明電極とが、それぞれ別個の積層体の上に積層されて構成されるものであってもよい。
図6及び図7は、各々本発明の積層体を備える導電性部材の一例を示す概略平面図である。図6に示す第一の導電性部材201は、本発明の積層体10と、当該積層体10の一方の面に接して配置された第一の透明電極4とを有し、当該第一の透明電極4は、複数の第一の導電部41を有する。図7に示す第二の導電性部材202は、本発明の積層体10’と、当該積層体10’の一方の面に接して配置された第二の透明電極5とを有し、当該第二の透明電極5は、複数の第二の導電部51を有する。
図8は、本発明のタッチパネル部材の別の一例を示す概略断面図であり、図8に示すタッチパネル部材20’は、図6に示す第一の導電性部材201と、図7に示す第二の導電性部材202とを備える。タッチパネル部材20’においては、第一の導電性部材201の第一の透明電極4を有しない面と、第二の導電性部材202の透明電極5を有する面とが、接着層6を介して貼り合わせられている。なお、本発明において、例えば、本発明の積層体と本発明のタッチパネル部材とを接着するための接着層、本発明のタッチパネル部材同士を接着するための接着層、本発明のタッチパネル部材と表示装置等とを接着するための接着層としては、光学部材に用いられている従来公知の接着層を適宜選択して用いることができる。本発明のタッチパネル部材に用いられる導電性部材において、透明電極、取出し線及び端子の構成及び材料は、前述した本発明のタッチパネル部材に用いられる透明電極、取出し線及び端子と各々同様とすることができる。
【0206】
IV.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、前述した本発明の積層体と、前記積層体の一方の面側に配置された、対向基板間に液晶層を有してなる液晶表示部とを有する。
【0207】
本発明の液晶表示装置は、前述した本発明の積層体を備えるものであることから、屈曲耐性に優れ、フレキシブルディスプレイ用として特に好適に用いることができ、また光学的な耐久性にも優れる。
本発明の液晶表示装置に用いられる本発明の積層体は、ポリイミドフィルムの両面に隣接して、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有するハードコート層を有するものであることが好ましい。
また、本発明の液晶表示装置は、前述した本発明のタッチパネル部材を備えるものであっても良い。
また、本発明の液晶表示装置が有する対向基板は、本発明の積層体を備えるものであっても良い。
【0208】
図9は、本発明の液晶表示装置の一例を示す概略断面図である。図9に示す液晶表示装置100は、本発明の積層体10と、本発明の積層体10’の一方の面に第一の透明電極4を備え、もう一方の面に第二の透明電極5を備えるタッチパネル部材20と、液晶表示部30とを有する。液晶表示装置100において、積層体10は表面材として用いられており、積層体10とタッチパネル部材20とは、接着層6を介して貼り合わせられている。
【0209】
本発明の液晶表示装置に用いられる液晶表示部は、対向配置された基板の間に形成された液晶層を有するものであり、従来公知の液晶表示装置に用いられている構成を採用することができる。
本発明の液晶表示装置の駆動方式としては、特に限定はなく一般的に液晶表示装置に用いられている駆動方式を採用することができ、例えば、TN方式、IPS方式、OCB方式、及びMVA方式等を挙げることができる。
本発明の液晶表示装置に用いられる対向基板としては、液晶表示装置の駆動方式等に応じて適宜選択して用いることができ、本発明に用いられるポリイミドフィルム又は積層体を備えるものを用いても良い。
液晶層を構成する液晶としては、本発明の液晶表示装置の駆動方式等に応じて、誘電異方性の異なる各種液晶、及びこれらの混合物を用いることができる。
液晶層の形成方法としては、一般に液晶セルの作製方法として用いられる方法を使用することができ、例えば、真空注入方式や液晶滴下方式等が挙げられる。前記方法によって液晶層を形成後、液晶セルを常温まで徐冷することにより、封入された液晶を配向させることができる。
本発明の液晶表示装置において、対向配置された基板の間には、さらに複数色の着色層や、画素を画定する遮光部を有していてもよい。また、液晶表示部は、対向配置された基板の外側において、タッチパネル部材が位置する側とは反対側の位置に、発光素子や蛍光体を有するバックライト部を有していてもよい。また、対向配置された基板の外表面には、それぞれ偏光板を有していてもよい。
【0210】
図10は、本発明の液晶表示装置の別の一例を示す概略断面図である。図10に示す液晶表示装置200は、本発明の積層体10と、本発明の積層体10’の一方の面に第一の透明電極4を備える第一の導電性部材201と、本発明の積層体10”の一方の面に第二の透明電極5を備える第二の導電性部材202とを有するタッチパネル部材20’と、液晶表示部30とを有する。液晶表示装置200において、積層体10と第一の導電性部材201、及び第一の導電性部材201と第二の導電性部材202とは、各々接着層6を介して貼り合わせられている。タッチパネル部材20’の構成は、例えば、図8に示すタッチパネル部材20’の構成と同様にすることができる。本発明の液晶表示装置に用いられる導電性部材としては、本発明のタッチパネル部材に用いられる導電性部材と同様のものを用いることができる。
【0211】
V.有機エレクトロルミネッセンス表示装置
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、前述した本発明の積層体と、前記積層体の一方の面側に配置された、対向基板間に有機エレクトロルミネッセンス層を有してなる有機エレクトロルミネッセンス表示部とを有する。
【0212】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、前述した本発明の積層体を備えるものであることから、屈曲耐性に優れたものであるため、フレキシブルディスプレイ用として特に好適に用いることができ、光学特性に優れる。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置に用いられる本発明の積層体は、ポリイミドフィルムの両面に隣接して、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有するハードコート層を有するものであることが好ましい。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、前述した本発明のタッチパネル部材を備えるものであっても良い。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置が有する対向基板は、本発明の積層体を備えるものであっても良い。
【0213】
図11は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の一例を示す概略断面図である。図11に示す有機エレクトロルミネッセンス表示装置300は、本発明の積層体10と、本発明の積層体10’の一方の面に第一の透明電極4を備え、もう一方の面に第二の透明電極5を備えるタッチパネル部材20と、有機エレクトロルミネッセンス表示部40とを有する。有機エレクトロルミネッセンス表示装置300において、積層体10は表面材として用いられており、積層体10とタッチパネル部材20とは、接着層6を介して貼り合わせられている。
【0214】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置(有機EL表示装置)に用いられる有機エレクトロルミネッセンス表示部(有機EL表示部)は、対向配置された基板の間に形成された有機エレクトロルミネッセンス層(有機EL層)を有するものであり、従来公知の有機EL表示装置に用いられている構成を採用することができる。
有機EL表示部は、さらに、支持基板と、有機EL層並びに有機EL層を挟持する陽極層及び陰極層を含む有機EL素子と、有機EL素子を封止する封止基材と、を有していてもよい。前記有機EL層としては、少なくとも有機EL発光層を有するものであれば良いが、例えば、上記陽極層側から、正孔注入層、正孔輸送層、有機EL発光層、電子輸送層および電子注入層がこの順で積層した構造を有するものを有するものを用いることができる。
本発明の有機EL表示装置は、例えば、パッシブ駆動方式の有機ELディスプレイにもアクティブ駆動方式の有機ELディスプレイにも適用可能である。本発明の有機EL表示装置に用いられる対向基板としては、有機EL表示装置の駆動方式等に応じて適宜選択して用いることができ、本発明の積層体を備えるものを用いても良い。
【0215】
図12は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置の別の一例を示す概略断面図である。図12に示す有機エレクトロルミネッセンス表示装置400は、本発明の積層体10と、本発明の積層体10’の一方の面に第一の透明電極4を備える第一の導電性部材201と、本発明の積層体10”の一方の面に第二の透明電極5を備える第二の導電性部材202とを有するタッチパネル部材20’と、有機エレクトロルミネッセンス表示部40とを有する。有機エレクトロルミネッセンス表示装置400において、積層体10と第一の導電性部材201、第一の導電性部材201と第二の導電性部材202とは、各々接着層6を介して貼り合わせられている。タッチパネル部材20’の構成は、例えば、図7に示すタッチパネル部材20’の構成と同様にすることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス表示装置に用いられる導電性部材としては、本発明のタッチパネル部材に用いられる導電性部材と同様のものを用いることができる。
【実施例
【0216】
[評価方法]
以下、特に断りがない場合は、25℃で測定又は評価を行った。
フィルムの試験片は、フィルムの中央部付近から切り出した。
【0217】
<ポリイミド前駆体の重量平均分子量>
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、ポリイミド前駆体を0.5質量%の濃度のN-メチルピロリドン(NMP)溶液とし、その溶液をシリンジフィルター(孔径:0.45μm)に通じて濾過させ、展開溶媒として、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr-NMP溶液を用い、GPC装置(東ソー製、HLC-8120、使用カラム:SHODEX製GPC LF-804)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行った。ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプル(重量平均分子量:364,700、204,000、103,500、44,360、27,500、13,030、6,300、3,070)を基準に測定した標準ポリスチレンに対する換算値とした。溶出時間を検量線と比較し、重量平均分子量を求めた。
【0218】
<ポリイミドの重量平均分子量>
ポリイミド粉体15mgを、15000mgのN-メチルピロリドン(NMP)に浸漬し、ウォーターバスで60℃に加熱しながら、スターラーを用いて回転速度200rpmで、目視で溶解を確認するまで3~60時間撹拌することにより、0.1質量%の濃度のNMP溶液を得た。その溶液をシリンジフィルター(孔径:0.45μm)に通じて濾過させ、展開溶媒として、含水量500ppm以下の30mmol%LiBr-NMP溶液を用い、GPC装置(東ソー製、HLC-8120、検出器:示差屈折率(RID)検出器、使用カラム:SHODEX製GPC LF-804を2本直列に接続)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.4mL/分、カラム温度37℃、検出器温度37℃の条件で測定を行った。ポリイミドの重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプル(重量平均分子量:364,700、204,000、103,500、44,360,27,500、13,030、6,300、3,070)を基準に測定した標準ポリスチレンに対する換算値とした。溶出時間を検量線と比較し、重量平均分子量を求めた。
【0219】
<ポリイミドワニスの粘度>
ポリイミドワニスの粘度は、JIS K7117-1に記載の方法で、単一円筒型回転粘度計(例えば、東機産業株式会社製、TVB-10形粘度計、M4ローター)を用いて、25℃において、サンプル量50mlとして測定した。
【0220】
<膜厚測定法>
10cm×10cmの大きさに切り出した積層体の試験片の四隅と中央の計5点の膜厚を、デジタルリニアゲージ(株式会社尾崎製作所製、型式PDN12 デジタルゲージ)を用いて測定し、測定値の平均を積層体の膜厚とした。
また、ハードコート層の膜厚は、走査型電子顕微鏡により観察される積層体の厚さ方向の断面から測定して得られた任意の10箇所の厚さの平均値から求めた。
また、積層体のポリイミドフィルムの膜厚は、走査型電子顕微鏡により観察される積層体の厚さ方向の断面から測定して得られた任意の10箇所の厚さの平均値から求めた。
【0221】
<YI値(黄色度)>
YI値は、JIS K7373-2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株) V-7100)を用い、分光測色方法により、補助イルミナントC、2度視野を用いて、250nm以上800nm以下の範囲を1nm間隔で測定される透過率をもとに、XYZ表色系における三刺激値X,Y,Zを求め、そのX,Y,Zの値から以下の式より算出した。また、当該測定結果から、380nmの透過率も求めた。
YI=100(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0222】
<ΔYI>
下記耐候性試験前後のYI値(黄色度)を、前述と同様にして測定し、試験前後のYI値の差から算出した。
ΔYI=試験後YI-試験前YI
(耐候性試験)
JIS K5600-7-8に準拠した耐候性試験機(Q-LAB製、QUV耐候性試験機、QUV)を用い、0.63W/m/nmに設定した出力で、365nmから295nmまで太陽光に類似した分光分布を持つUVA(340)ランプを使用して、積層体を96時間照射する。
【0223】
<ΔE>
前記耐候性試験前後の積層体について、JIS K7373-2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光(株) V-7100)を用い、分光測色方法により、補助イルミナントC、2度視野を用いて、250nm以上800nm以下の範囲を1nm間隔で測定される透過率をもとに、L表色系におけるL、a、bを求め、以下測定式からΔEを求めた。
ΔE={(試験後L-試験前L+(試験後a-試験前a+(試験後b-試験前b1/2
【0224】
<全光線透過率、ヘイズ値>
全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製 HM150)により測定した。
また、ヘイズ値は、JIS K-7136に準拠して、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製 HM150)により測定した。
【0225】
<引張弾性率>
10mm×150mmに切り出した積層体(ポリイミドフィルムとハードコート層の積層体)の試験片を、温度25℃で、JIS K7127に準拠し、引張り速度を50mm/分、チャック間距離を100mmとして、25℃における引張弾性率を測定した。引張り試験機は(島津製作所製:オートグラフAG-X 1N、ロードセル:SBL-1KN)を用いた。
【0226】
<複合弾性率>
ガラス基材を含む積層体におけるポリイミドフィルムの複合弾性率は以下のように求めた。
まず、ポリイミドフィルムのインデンテーション硬さを測定した。インデンテーション硬さ(HIT)の測定は、測定サンプルについてBRUKER社製の「TI950 TriboIndenter」を用いて行った。具体的には、まず、1mm×10mmに切り出した積層体を包埋樹脂によって包埋したブロックを作製し、このブロックから一般的な切片作製方法によって穴等がない均一な、厚さ50nm以上100nm以下の切片を切り出した。切片はポリイミドフィルム平面に対して鉛直方向に切り出された。切片の作製には、「ウルトラミクロトーム EM UC7」(ライカ マイクロシステムズ社製)を用いた。そして、この穴等がない均一な切片が切り出された残りのブロックを測定サンプルとした。次いで、このような測定サンプルにおける上記切片が切り出されることによって得られた断面において、以下の測定条件で、圧子としてバーコビッチ(Berkovich)圧子(三角錐、BRUKER社製のTI-0039)をポリイミドフィルムの断面中央に10秒かけて最大押し込み荷重25μNとなるまで垂直に押し込んだ。この際、バーコビッチ圧子は、ガラス基材の影響を避けるためおよびポリイミドフィルムの側縁の影響を避けるために、ガラス基材とポリイミドフィルムの界面、ポリイミドフィルムの両側端、及び、ポリイミドフィルムのガラス基材と反対側の面からそれぞれポリイミドフィルムの中央側に500nm離れたポリイミドフィルムの部分内に押し込んだ。その後、一定保持して残留応力の緩和を行った後、10秒かけて除荷させて、緩和後の最大荷重を計測し、該最大荷重Pmax(μN)と接触投影面積A(nm)とを用い、Pmax/Aにより、インデンテーション硬さ(HIT)を算出した。上記接触投影面積は、標準試料の溶融石英(BRUKER社製の5-0098)を用いてOliver-Pharr法で圧子先端曲率を補正した接触投影面積とした。なお、測定値の中に算術平均値から±20%以上外れるものが含まれている場合は、その測定値を除外し再測定を行った。
【0227】
(測定条件)
・荷重速度:2.5μN/秒
・保持時間:5秒
・荷重除荷速度:2.5μN/秒
・測定温度:25℃
【0228】
次いで、得られたポリイミドフィルムのインデンテーション硬さ(HIT)を測定する際に求められる上記接触投影面積Aを用いて、下記数式(1)から複合弾性率を求めた。複合弾性率は、インデンテーション硬さを10箇所測定し、その都度複合弾性率を求め、得られた10箇所の複合弾性率の算術平均値とした。
【0229】
【数1】
(上記数式(1)中、Aは接触投影面積であり、Eはポリイミドフィルムの複合弾性率であり、Sは接触剛性である。)
【0230】
<動的屈曲試験>
以下、動的屈曲試験の方法について、図2を参照して説明する。
可動部11aと非可動部11bとを備える可動式の金属板11(100mm×30mm)を2枚用意し、2枚の金属板11の非可動部11b間の距離が60mmとなるように、平行に配置した。金属板11の可動部11aを、図2の(A)に示すように、非可動部11bに対して垂直になるように折り曲げ、可動部11aの上に、20mm×100mmに切り出した積層体の試験片10を置き、試験片10の中央が金属板間の距離の中央に位置するように、積層体の試験片10の両端をカプトン(登録商標)テープで可動部11aに固定した。次いで、可動部11aと非可動部11bとを直線状に配置して、図2の(B)に示すような状態とし、すなわち、長辺の半分の位置で湾曲させた積層体の試験片10を両側から金属板11で挟み、両側の金属板11間の距離が60mmとなるように両側の金属板11を平行に配置した状態とした。このような状態と、図2の(C)に示すような、両側の金属板11間の距離が2.0mm(φ2mm動的屈曲試験の場合)又は4.0mm(φ4mm動的屈曲試験の場合)となるように両側の金属板を平行に配置した状態に、60℃、93%相対湿度(RH)の環境下で、1分間に90回の屈曲回数で繰り返し変化させ、20万回屈曲を繰り返した。試験治具としては、恒温恒湿器内耐久試験システム(ユアサシステム機器製、面状体無負荷U字伸縮試験治具 DMX-FS)を用いた。
(評価基準)
A:20万回屈曲を繰り返しても破断せず、且つクラックを生じない。
B:20万回屈曲を繰り返す間に、破断する、又はクラックが生じる。
【0231】
<耐候性試験後の伸び率の変化>
15mm×40mmに切り出した積層体(ポリイミドフィルムとハードコート層の積層体)の試験片を、温度25℃で、JIS K7127に準拠し、引張り速度を10mm/分、チャック間距離を20mmとして、25℃における引張試験を行い、破断するまでの引張伸び率の測定を行った。引張試験は、引張り試験機(島津製作所製:オートグラフAG-X 1N、ロードセル:SBL-1KN)を用いた。
耐候性試験前の積層体と、耐候性試験後の積層体とを測定した。
(評価基準)
A:耐候性試験後の伸び率が耐候性試験前を100%としたときに、70%以上130%以下
B:耐候性試験後の伸び率が耐候性試験前を100%としたときに、70%未満
【0232】
<耐候性試験後の密着性の変化>
JIS K5400-8.5(JIS D0202)に準拠した方法で付着性-碁盤目試験を実施した。カッターナイフを使用して、積層体をハードコート層面側から素地まで達する切込みを11本入れた後、90°向きを変えて11本切込みを入れた。カットした塗膜面にセロテープ(登録商標、(24mm×35m CT405AP-24)ニチバン製)を貼り付け、消しゴムでこすって塗膜に前記テープを付着させ、1~2分後に前記テープの端を持って塗膜面に直角に保ち、瞬間的にひきはがした。JIS K5400-8.5(JIS D0202)に準拠した碁盤目試験による塗膜の剥がれを0点~10点のいずれに該当するか評価した。
耐候性試験前の積層体と、耐候性試験後の積層体とを測定した。
(評価基準)
A:耐候性試験前後でいずれも分類が10点である。
B:耐候性試験前後で分類が変化する。
【0233】
<耐候性試験後の外観(白さ)>
耐候性試験後の積層体について、前記と同様にヘイズ値を測定した。
(評価基準)
A:ヘイズ値が1.0以下
B:ヘイズ値が1.0超過
【0234】
<ポリイミドフィルムの気泡欠陥の有無>
100mm×200mmに切り出したポリイミドフィルムの試験片の合計5枚、すなわち合計面積が100,000mmとなるよう試験片を採取して、目視観察を実施した。ポリイミドフィルムがロール状の場合、試験片は搬送のためにフィルムを把持した部分などの端部をトリミングして除去した残りのポリイミドフィルム原反の有効部の全幅にわたって等間隔で採取した。ポリイミドフィルムの試験片を、蛍光灯下、目視で観察し、気泡を検出した。さらに、目視観察で検出した気泡に対して、光学顕微鏡を用いて倍率100倍で気泡の直径を測定し、直径0.05mm以上の気泡を気泡欠点としてカウントした。100,000mm中の気泡欠点の合計個数から、20,000mm当たりの気泡発生個数を平均値として求めた。
枚葉試験片の場合は、観察した枚葉試験片の合計面積が100,000mmとなるよう試験片を採取し、上記と同様にして、20,000mm当たりの気泡発生個数を平均値として求めた。
表には、20,000mm当たりの気泡発生個数を示した。
【0235】
<ポリイミドフィルムの平均膜厚、膜厚均一性、外観>
100mm×200mmに切り出したポリイミドフィルムの試験片について、試験片の縦横2辺をx軸とy軸に見立て、試験片の4隅の座標を(0,0)、(0,100)、(200,0)、(200,100)とした時に、(10,10)、(10,50)、(10,90)、(100,10)、(100,50)、(100,90)、(190,10)、(190,50)、(190,90)に位置する計9点の膜厚を、デジタルリニアゲージ(株式会社尾崎製作所製、型式PDN12 デジタルゲージ)を用いて測定し、膜厚の測定値の標準偏差σを求めた。
また、外観評価として、うねりやムラの有無を評価した。
フィルムにカールがある場合に、下向きに凸の状態で、定盤の上にフィルムを置いた場合、フィルムの四隅を除いた部分が定盤から2mm以上浮いている状態、をうねりがあると評価した。
フィルムを透過光あるいは反射光で見た場合に、スジ状の模様が目視で確認できる状態、を外観ムラがあると評価した。
(評価基準)
A: フィルムにうねりや外観ムラがなく、膜厚均一性は3σが2μm以下で良好。
B: フィルムにうねりがある、外観ムラがある、及び膜厚均一性は3σが2μm超過で悪い、の少なくとも1つが該当する。
【0236】
(合成例1)
国際公開2014/046180号公報の合成例1を参照して、下記化学式(i)で表されるテトラカルボン酸二無水物を合成した。
【0237】
【化15】
【0238】
5Lのセパラブルフラスコに、脱水されたN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(1833.2g)、及び、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)(138.48g)を溶解させた溶液を入れ、液温30℃に制御されたところへ、前記化学式(i)で表されるテトラカルボン酸二無水物(TMPBPTME)(176.70g)を、温度上昇が2℃以下になるように徐々に投入し、メカニカルスターラーで30分撹拌した。そこへ、ピロメリット酸二無水物(PMDA)(64.20g)を温度上昇が2℃以下になるように数回に分けて徐々に投入し、ポリイミド前駆体Aが溶解したポリイミド前駆体A溶液(固形分18質量%)を合成した。ポリイミド前駆体Aに用いられたテトラカルボン酸二無水物のTMPBPTMEとPMDAとのモル比(TMPBPTME:PMDA)は90:10であった。ポリイミド前駆体Aの重量平均分子量は、75,000であった。
【0239】
窒素雰囲気下で、5Lのセパラブルフラスコに、室温に下げた上記ポリイミド前駆体A溶液(2162g)を加えた。そこへ、脱水されたN,N-ジメチルアセトアミド(432g)を加え均一になるまで撹拌した。次に触媒であるピリジン(6.622g)と無水酢酸(213.67g)を加え24時間室温で撹拌し、ポリイミドA溶液を合成した。
得られたポリイミドA溶液にN,N-ジメチルアセトアミド(2000g)を加え均一になるまで撹拌した。次に、ポリイミド溶液Aを5Lビーカーに3等分して移し、各ビーカーにイソプロピルアルコール(3500g)を徐々に加え白色スラリーを得た。上記スラリーをブフナー漏斗上に移してろ過し、続いてイソプロピルアルコール(合計9000g)でかけ流して洗浄し、その後ろ過するという工程を3回繰り返し、真空乾燥機を用いて110℃で乾燥し、ポリイミドA1(ポリイミド粉体)を得た。
GPCによって測定したポリイミドA1の重量平均分子量は100000であった。
【0240】
(合成例2)
合成例1において、ジアミンと酸二無水物のモル比を変更した以外は、合成例1と同様にして、ポリイミドA2を調製した。ポリイミドA2は、重量平均分子量が174000であった。
【0241】
(合成例3)
500mLのセパラブルフラスコをN置換し、脱水されたジメチルアセトアミド(DMAc)を233.62g、及び、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を19.22g(60.0mmol)を溶解させた溶液が液温30℃となるように制御したところに、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)を2.34g(11.9mmol)、TMPBPTMEを28.84g(46.6mmol)を温度上昇が2℃以下になるように徐々に投入し、メカニカルスターラーで3時間撹拌することでポリアミド酸溶液を得た。次に触媒であるピリジン0.581g(7.3mmol)及び無水酢酸18.75g(183.7mol)を投入して、25℃で240分間攪拌して溶液が均一であることを確認した。その後、常温まで冷却させた溶液に対して、2-プロピルアルコール(IPA)134gを徐々に加え、僅かに濁りが見られる溶液を得た。濁りの見られる溶液にIPA223gを一気に加え白色スラリーを得た。上記スラリーをろ過して5回IPAで洗浄した後、100℃に加熱したオーブンで減圧しながら6時間乾燥させることでポリイミド樹脂A3の粉体(38.9g)を得た。
GPCによって測定したポリイミドの重量平均分子量は、145,000であった。
【0242】
(合成例4)
500mLのセパラブルフラスコをN置換し、脱水されたジメチルアセトアミド(DMAc)を219.23g、及び、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を16.62g(51.9mmol)、下記式(DA4)で表されるジアミン(N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、DATA、和歌山精化工業(株)製)を0.97g(2.8mmol)を溶解させた溶液が液温30℃となるように制御したところに、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)を2.17g(11.1mmol)、TMPBPTMEを26.7g(43.2mmol)を温度上昇が2℃以下になるように徐々に投入し、メカニカルスターラーで3時間撹拌することでポリアミド酸溶液を得た。次に触媒であるピリジン0.814g(10.3mmol)及び無水酢酸26.274g(257.4mol)を投入して、25℃で240分間攪拌して溶液が均一であることを確認した。その後、常温まで冷却させた溶液に対して、2-プロピルアルコール(IPA)210gを徐々に加え、僅かに濁りが見られる溶液を得た。濁りの見られる溶液にIPA420gを一気に加え白色スラリーを得た。上記スラリーをろ過して5回IPAで洗浄した後、100℃に加熱したオーブンで減圧しながら6時間乾燥させることでポリイミド樹脂A4の粉体(35.6g)を得た。
GPCによって測定したポリイミドの重量平均分子量は、183,000であった。
【0243】
【化16】
【0244】
(合成例5)
合成例4のポリイミド樹脂の合成において、前記式(DA4)で表されるジアミン(DATA)の代わりに下記式(DA33)で表されるジアミン(4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、APAB、和歌山精化工業(株)製)を用い、且つ、TFMBとAPABの組成比率(モル比)を90:10に変更した以外は、合成例4と同様にして、ポリイミド樹脂A5を合成した。
GPCによって測定したポリイミドの重量平均分子量は、189,000であった。
【0245】
【化17】
【0246】
(合成例6)
合成例4のポリイミド樹脂の合成において、前記式(DA4)で表されるジアミン(DATA)の代わりに下記式(DA10)で表されるジアミン((2-フェニル-4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート、PHBAAB、日本純良薬品(株)製)を用い、且つ、TFMBとPHBAABの組成比率(モル比)を90:10に変更した以外は、合成例4と同様にして、ポリイミド樹脂A6を合成した。
GPCによって測定したポリイミドの重量平均分子量は、160,000であった。
【0247】
【化18】
【0248】
(合成例7)
合成例4のポリイミド樹脂の合成において、前記式(DA4)で表されるジアミン(DATA)の代わりに前記式(DA1)で表されるジアミン(ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、BPTP:和歌山精化工業製)を用い、且つ、TFMBとBPTPの組成比率(モル比)を90:10に変更した以外は、合成例4と同様にして、ポリイミド樹脂A7を合成した。
GPCによって測定したポリイミドの重量平均分子量は、147,000であった。
【0249】
【化19】
【0250】
(比較合成例1)
合成例1において、ジアミンと酸二無水物のモル比を変更した以外は、合成例1と同様にして、比較ポリイミドCA1を調製した。比較ポリイミドCA1の重量平均分子量は75000であった。
【0251】
(比較合成例2)
国際公開2014/046180号公報の実施例1のポリイミド前駆体の重合及び化学イミド化反応と同様にして、比較ポリイミドCA2を調製した。比較ポリイミドCA2の重量平均分子量は288000であった。
【0252】
(実施例1)
(1)ポリイミドフィルムの製造
合成例1のポリイミドA1を用い、下記(P1)~(P3)の手順を行うことで、厚さ30μmのポリイミドフィルムをそれぞれ作製した。
(P1)ポリイミドA1の固形分濃度が10質量%となるように、ポリイミドA1にジクロロメタンとメタノールの混合溶媒(ジクロロメタン:メタノール=98:2(質量比))を添加して、ポリイミドがワニス中に10質量%のポリイミドA1ワニスを作製した。ポリイミドA1ワニス(固形分濃度10質量%)の25℃における粘度は1200cpsであった。
(P2)シート状の支持体(厚さ100μm、SUS304、日新製鋼(株)製、SUS304 CSP-H-TA)に、ポリイミドA1ワニス(固形分濃度10質量%)を、後述する循環オーブン中での乾燥後のフィルム膜厚が30μmになるように塗布した。支持体に塗布されたワニスを、グローブバッグ内でジクロロメタン雰囲気としながら25℃で30分静置して乾燥後、グローブバッグ内を空気雰囲気にして25℃で5分静置して乾燥した。支持体と乾燥後塗膜をグローブバッグから取り出し、乾燥後塗膜を支持体から剥離した。
(P3)剥離した乾燥後塗膜を150mm×200mmの大きさに切り出した。金属の枠(外寸150mm×200mm、内寸130mm×180mm)を2枚使用して、切り出した乾燥後塗膜を挟持し固定治具で金属枠と乾燥後塗膜とを固定した。固定した乾燥後塗膜を循環オーブン中で、昇温速度5℃/分で昇温させ、140℃で2分、170℃で2分、及び200℃で10分乾燥し、ポリイミドフィルムを作製した。
得られたポリイミドフィルムの評価結果を表2の参考例1に示す。なお、光学特性、引張弾性率、動的屈曲試験は、前記積層体の評価と同様に行った。ポリイミドフィルムの残留溶剤は、明細書中に記載の方法で測定した。
【0253】
(2)積層体の製造
次いで、前記ポリイミドフィルム上に、下記組成のハードコート層用組成物1を塗布し、塗膜を形成し、形成した塗膜に対して、70℃1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を空気中にて積算光量が100mJ/cmになるように照射して塗膜をハーフキュアーさせて厚さ8μmのハードコート層を形成し、積層体を製造した。前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との合計膜厚は38μmであった。積層体の評価結果を表1に示す。
【0254】
(ハードコート層用組成物1)
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製) 25質量部
ジペンタエリスリトールEO変性ヘキサアクリレート(A-DPH-6E、新中村化学社製) 25質量部
異型シリカ微粒子(平均粒径25nm、日揮触媒化成社製) 50質量部(固形換算)
光重合開始剤(Irg184) 4質量部
フッ素系レベリング剤(F568、DIC社製) 0.2質量部(固形換算)
紫外線吸収剤1(DAINSORB P6、大和化成製) 3質量部
溶剤(MIBK) 150質量部
【0255】
(実施例2~6)
実施例1の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いる代わりに、紫外線吸収剤2,3,4、又は5を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5の積層体を製造した。
また、実施例1の積層体の製造において、ハードコート層の厚さを5μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0256】
(実施例7~12)
実施例1の積層体の製造におけるポリイミドフィルムの製造において、ポリイミドA1を用いる代わりに、ポリイミドA2、A3、A4、A5、A6、又はA7をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7~12の積層体を製造した。
但し、ポリイミドA3のワニスでは固形分濃度を12質量%とし、ポリイミドA4、A5、A6、及びA7のワニスでは固形分濃度を15質量%とした。
評価結果を表1に示す。
【0257】
(実施例13)
実施例1の積層体の製造におけるポリイミドフィルムの製造において、合成例2のポリイミドA2を用い、下記(P1’)~(P3’)の手順を行うことで、表1に記載の厚みのポリイミドフィルムを作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例13の積層体を製造した。
(P1’)ポリイミドA2の固形分濃度が10質量%となるように、ポリイミドA2にDMAcを添加して、ポリイミドがワニス中に10質量%のポリイミドA2’ワニスを作製した。ポリイミドA2’ワニス(固形分濃度10質量%)の25℃における粘度は7400cpsであった。
(P2’)シート状の支持体(厚さ100μm、SUS304、日新製鋼(株)製、SUS304 CSP-H-TA)に、前記ポリイミドA2’ワニス(固形分濃度10質量%)を、後述する循環オーブン中での乾燥後のフィルム膜厚が表1に示した膜厚になるように塗布した。支持体に塗布されたワニスを、25℃から80℃まで、10分間で昇温させ、80℃で30分、さらに100℃で30分乾燥し、塗膜を支持体から剥離した。
(P3’)剥離した乾燥後塗膜を150mm×200mmの大きさに切り出した。金属の枠(外寸150mm×200mm、内寸130mm×180mm)を2枚使用して、切り出した乾燥後塗膜を挟持し固定治具で金属枠と乾燥後塗膜とを固定した。固定した乾燥後塗膜を循環オーブン中で、昇温速度5℃/分で昇温させ、150℃で10分、180℃で10分、230℃で10分、及び250℃で30分乾燥し、ポリイミドフィルムを作製した。
【0258】
(比較例1~15)
実施例1の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の積層体を製造した。
実施例1の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いる代わりに、表1に示す紫外線吸収剤を用い、更に、ハードコート層の厚さを5μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2~10の積層体を製造した。
実施例1の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いる代わりに、紫外線吸収剤6,7,8、9又は10を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例11~15の積層体を製造した。
評価結果を表1に示す。
【0259】
【表1】
なお、表中の略号は、以下のとおりである。
紫外線吸収剤1:ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、商品名DAINSORB P6、大和化成製)
紫外線吸収剤2:ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、商品名DAINSORB P7、大和化成製)
紫外線吸収剤3:ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアリルオキシベンゾフェノン、商品名DAINSORB P61、大和化成製)
紫外線吸収剤4:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、商品名DAINSORB T-7、大和化成製)
紫外線吸収剤5:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、商品名DAINSORB T-0、大和化成製)
紫外線吸収剤6:トリアジン系紫外線吸収剤(商品名Tinuvin460、BASF製)
紫外線吸収剤7:トリアジン系紫外線吸収剤(商品名Tinuvin479、BASF製)
紫外線吸収剤8:トリアジン系紫外線吸収剤(商品名Tinuvin477、BASF製)
紫外線吸収剤9:トリアジン系紫外線吸収剤(商品名LA-F70、ADEKA製)
紫外線吸収剤10:トリアジン系紫外線吸収剤(商品名LA-46、ADEKA製)
HC:ハードコート層
PI:ポリイミドフィルム
【0260】
(比較例16~17)
実施例1の(P1)工程において、ポリイミドA1の代わりに、比較ポリイミドCA1を用い、ワニス中のポリイミド濃度(質量%)を表2に記載されているように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミドワニスを調製した。
各ポリイミドワニスを用いて、実施例1の(P2)工程及び(P3)工程と同様にして、ポリイミドフィルムを作製した。得られた比較例16~17のポリイミドフィルムの評価結果を表2に示す。なお、光学特性、弾性率、動的屈曲試験は、前記積層体の評価と同様に行った。ポリイミドフィルムの残留溶剤は、明細書中に記載の方法で測定した。
【0261】
(比較例18)
比較合成例2で得られた比較ポリイミドCA2を用いて、最終的な膜厚が30μmになるように塗布した以外は、国際公開2014/046180号公報の実施例1のポリイミド溶液の調整およびポリイミドフィルムの製膜と同様にして、ポリイミドフィルムを作製した。
得られた比較例18のポリイミドフィルムの評価結果を表2に示す。なお、光学特性、弾性率、動的屈曲試験は、前記積層体の評価と同様に行った。ポリイミドフィルムの残留溶剤は、明細書中に記載の方法で測定し、シクロペンタノンの定量イオンはm/z=55,98を用いた。
また、比較例18のポリイミドフィルムについて、実施例1の積層体と同様に、耐候性試験を行い、ΔYI/膜厚,ΔE/膜厚、380nm透過率を測定した。これらの評価結果を表1に併せて示す。
【0262】
【表2】
【0263】
(実施例14)
(1)ガラス基材の準備
厚さ30μmの化学強化されたガラス基材(UTG)を準備し、当該ガラス基材上に下記プライマー層用組成物を所定の厚さとなるように塗布し、80℃で3分間および150℃で60分間乾燥させ、厚さ1μmのプライマー層を形成した。
(プライマー層用組成物)
・ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(jER1256B40 三菱ケミカル製) 28質量部
・ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂(jER157S65B80 三菱ケミカル製) 5質量部
・2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業製) 1質量部
・溶剤(MEK) 11質量部
【0264】
(2)ポリイミドフィルムの積層
合成例1のポリイミドA1を用い、下記(L1)~(L3)の手順を行うことで、前記ガラス基材に形成されたプライマー層上に表3に記載の厚みのポリイミドフィルムを積層した。
(L1)ポリイミドA1の固形分濃度が10質量%となるように、ポリイミドA1にジクロロメタンとメタノールの混合溶媒(ジクロロメタン:メタノール=98:2(質量比))を添加して、ポリイミドがワニス中に10質量%のポリイミドA1ワニスを作製した。ポリイミドA1ワニス(固形分濃度10質量%)の25℃における粘度は1200cpsであった。
(L2)前記ガラス基材に形成されたプライマー層上に、ポリイミドA1ワニス(固形分濃度10質量%)を、後述する循環オーブン中での乾燥後のフィルム膜厚が表3に示した膜厚になるように塗布した。塗布されたワニスを、グローブバッグ内でジクロロメタン雰囲気としながら25℃で30分静置して乾燥後、グローブバッグ内を空気雰囲気に置換して25℃で5分静置して乾燥した。前記ガラス基材と乾燥後塗膜をグローブバッグから取り出した。
(L3)前記ガラス基材と乾燥後塗膜を循環オーブン中で、昇温速度5℃/分で昇温させ、140℃で2分、170℃で2分、及び200℃で10分乾燥し、前記ガラス基材にポリイミドフィルムを積層した。
【0265】
(3)積層体の製造
次いで、前記ガラス基材に積層されたポリイミドフィルム上に、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、積層体を製造した。積層体の評価結果を表3に示す。
【0266】
(実施例15~19)
実施例14の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いる代わりに、紫外線吸収剤2、3、4、又は5を用いた以外は、実施例14と同様にして、実施例15~18の積層体を製造した。
また、実施例14の積層体の製造において、ハードコート層の厚さを5μmに変更した以外は、実施例14と同様にして、実施例19の積層体を製造した。
積層体の評価結果を表3に示す。
【0267】
(実施例20~25)
実施例14の積層体の製造におけるポリイミドフィルムの製造において、ポリイミドA1を用いる代わりに、ポリイミドA2、A3、A4、A5、A6、又はA7をそれぞれ用いた以外は、実施例14と同様にして、実施例20~25の積層体を製造した。
但し、ポリイミドA3のワニスでは固形分濃度を12質量%とし、ポリイミドA4、A5、A6、及びA7のワニスでは固形分濃度を15質量%とした。
積層体の評価結果を表3に示す。
【0268】
(実施例26)
実施例14の積層体の製造におけるポリイミドフィルムの積層において、合成例2のポリイミドA2を用い、下記(L1’)~(L3’)の手順を行うことで、表3に記載の厚みのポリイミドフィルムを積層した以外は、実施例14と同様にして、実施例26の積層体を製造した。
(L1’)ポリイミドA2の固形分濃度が10質量%となるように、ポリイミドA2にDMAcを添加して、ポリイミドがワニス中に10質量%のポリイミドA2’ワニスを作製した。ポリイミドA2’ワニス(固形分濃度10質量%)の25℃における粘度は7400cpsであった。
(L2’)前記ガラス基材に形成されたプライマー層上に、前記ポリイミドA2’ワニス(固形分濃度10質量%)を、後述する循環オーブン中での乾燥後のフィルム膜厚が表3に示した膜厚になるように塗布した。塗布されたワニスを、25℃から80℃まで、10分間で昇温させ、80℃で30分、さらに100℃で30分乾燥した。
(L3’)前記ガラス基材と乾燥後塗膜を循環オーブン中で、昇温速度5℃/分で昇温させ、150℃で10分、180℃で10分、230℃で10分、及び250℃で30分乾燥し、前記ガラス基材にポリイミドフィルムを積層した。
積層体の評価結果を表3に示す。
【0269】
(比較例19~33)
実施例14の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いなかった以外は、実施例14と同様にして、比較例19の積層体を製造した。
実施例14の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いる代わりに、表3に示す紫外線吸収剤を用い、更に、ハードコート層の厚さを5μmに変更した以外は、実施例14と同様にして、比較例20~28の積層体を製造した。
実施例14の積層体の製造において、ハードコート層を形成するためのハードコート層用組成物1において、紫外線吸収剤1を用いる代わりに、紫外線吸収剤6、7、8、9又は10を用いた以外は、実施例14と同様にして、比較例29~33の積層体を製造した。
評価結果を表3に示す。
【0270】
(比較例34)
比較合成例2で得られた比較ポリイミドCA2を用いて、国際公開2014/046180号公報の実施例1と同様にしてポリイミド溶液の調整を行い、ガラス基板として実施例14と同じガラス基材(厚さ30μmの化学強化されたガラス基材(UTG)にプライマー層を積層)を準備し、最終的な膜厚が30μmになるように塗布し、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離しなかった以外は、国際公開2014/046180号公報の実施例1のポリイミドフィルムの製膜と同様にして、ポリイミドフィルムを作製した。ハードコート層は積層しなかった。
評価結果を表3に示す。
【0271】
【表3】
なお、表中、“no data”は、未測定を意味する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12