(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】成形条件決定支援装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
B29C45/76
(21)【出願番号】P 2020098736
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 幸子
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】溝口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】馬場 紀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】足立 智也
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119425(JP,A)
【文献】特開2020-087446(JP,A)
【文献】特開平05-309711(JP,A)
【文献】特開2020-049929(JP,A)
【文献】特開2006-239940(JP,A)
【文献】特開2017-030152(JP,A)
【文献】特開2006-281662(JP,A)
【文献】特開平05-096592(JP,A)
【文献】特開2020-049843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形機の型のキャビティに成形材料を溶融した溶融材料を供給することにより成形品を成形する成形方法に適用され、前記成形品の成形条件を決定する成形条件決定支援装置であって、
前記成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出された検出データを取得する検出データ取得部と、
前記検出データに基づいて機械学習により前記成形品の品質を推定する品質推定部と、
推定された前記成形品の品質を蓄積し、蓄積された複数個の前記成形品
の品質を成形順に配列した情報である品質推移を記憶する品質推移記憶部と、
前記品質推移に基づいて所定の品質基準に対する品質変化傾向を評価する傾向評価部と、
前記検出データに基づいて前記キャビティにおける前記溶融材料の溶融状態を推定する溶融状態推定部と、
前記品質変化傾向と前記品質を前記
所定の品質基準に戻すための成形条件の修正量との関係を、前記溶融状態に対応付けて記憶する関係記憶部と、
前記傾向評価部により評価された前記品質変化傾向と、前記溶融状態推定部により推定された前記溶融状態と、前記関係記憶部に記憶されている前記関係とに基づいて、前記成形条件の修正量を決定する修正条件決定部と、を備え
、
良品を表す前記品質の許容範囲の上限値をThmaxとし、前記品質の前記許容範囲の下限値をThminとし、前記所定の品質基準Stdは、前記品質の前記許容範囲のなかでも理想的な状態を表す値に設定され、
前記傾向評価部は、
前記品質推移に含まれる前記成形品の品質のうち突発異常による品質変化を除外し、
残りの前記成形品のうち予め設定された成形品数の分の前記成形品の品質についての前記品質推移が前記品質の前記許容範囲の含まれる場合において、前記成形品数の分の前記品質推移が前記所定の品質基準Stdからずれている度合に基づいて、前記品質が前記所定の品質基準Stdからずれている状態を継続していることを表す前記品質変化傾向を評価する、成形条件決定支援装置。
【請求項2】
前記溶融状態推定部は、機械学習により、前記溶融材料の前記溶融状態として前記溶融材料の流動性の程度を推定する、請求項1に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項3】
前記溶融状態推定部は、前記検出データとして、前記キャビティ内に前記溶融材料の充填が開始されてから完了するまでに要する充填時間に基づいて、機械学習により、前記溶融材料の前記溶融状態として前記溶融材料の流動性の程度を推定する、請求項2に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項4】
前記溶融状態推定部は、前記検出データおよび前記成形条件に基づいて前記溶融材料の前記溶融状態を推定する、請求項1に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項5】
前記溶融状態推定部は、前記検出データに加えて、さらに前記成形材料の素材に対する検査成績書を参照して、前記溶融材料の前記溶融状態を推定する、請求項1-4の何れか1項に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項6】
前記傾向評価部は、前記品質変化傾向として複数の品質種
について評価し、
前記関係記憶部は、前記品質変化傾向としての前記品質種毎に、前記ずれ
ている度合いの段階と前記成形条件の修正量とをマトリックスで表現した前記関係を記憶する、請求項1-
5の何れか1項に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項7】
前記修正条件決定部は、
前記マトリックスで表現した前記関係において、前記傾向評価部により評価された前記ずれ
ている度合いに最も近い段階を決定し、
当該段階に対応する前記成形条件の修正量を、決定する前記成形条件の修正量とする、請求項
6に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項8】
前記関係記憶部は、
機械学習により推定された前記品質変化傾向としての品質種と前記成形条件の種との関係情報に基づいて決定された前記関係を記憶する、
または、機械学習により推定された前記検出データの特徴量と前記品質変化傾向としての品質種との関係情報、および、機械学習により推定された前記検出データの特徴量と前記成形条件の種との関係情報に基づいて決定された前記関係を記憶する、請求項1-
7の何れか1項に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項9】
前記検出データの種は、前記キャビティ内の前記溶融材料の温度、前記型が前記溶融材料から受ける圧力の少なくとも1つであり、
前記成形品の品質種は、前記成形品の質量、前記成形品の寸法、前記成形品におけるボイド体積の少なくとも1つであり、
前記成形条件の種は、射出速度、保圧力、保圧時間、保圧時の型温度、冷却時間の少なくとも1つである、請求項1-
8の何れか1項に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項10】
前記成形条件決定支援装置は、前記成形品を連続成形する成形方法に適用され、
第一成形品の次に第二成形品が成形される場合において、
前記検出データ取得部は、前記第一成形品に関する前記検出データに基づいて処理を行い、
前記品質推定部、前記傾向評価部、前記修正条件決定部は、前記第二成形品の成形開始までの前記成形機の準備工程と並行処理され、
前記修正条件決定部は、前記第二成形品に関する前記成形条件の修正量を決定する、請求項1-
9の何れか1項に記載の成形条件決定支援装置。
【請求項11】
前記成形条件決定支援装置は、複数の前記成形機と同一ネットワークを構成するサーバを備え、
前記サーバは、
少なくとも前記関係記憶部および前記修正条件決定部を備え、
前記センサにより検出された前記検出データ、前記検出データ取得部により取得された前記検出データ、前記品質推定部により推定された前記成形品の品質の何れか1つを、前記成形機または前記成形機のそれぞれに一体的に構成されたコンピュータから受信し、
受信した情報に基づいて前記成形条件の修正量を決定し、
決定した前記成形条件の修正量を前記成形機に送信する、請求項1-
10の何れか1項に記載の成形条件決定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形条件決定支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形等のように、成形機の型のキャビティに成形材料を溶融した溶融材料を供給することにより成形品を成形する方法において、不良品が発生した場合には、作業者は、成形条件を修正する必要がある。成形条件の修正には、熟練技術が要求される。未熟練者にとっては、どの成形条件をどの程度変更するべきかについて判断することが容易ではない。
【0003】
そこで、近年では人工知能に関する研究が進んでおり、例えば、特許文献1,2には、機械学習により成形条件の修正量を決定することが開示されている。特許文献1に記載の技術においては、成形品の品質の種と成形条件の種との関係を機械学習により取得しておくことにより、ある品質の種において不良が発生した場合に、どの成形条件を修正すれば良いかが出力される。特許文献2に記載の技術においては、成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出された検出データに基づいて、機械学習により、成形条件の修正量を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-49843号公報
【文献】特開2020-49929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、同一の成形条件で成形していたとしても、環境温度等が変化することによって、成形品の品質が異なることがある。例えば、一日においても、朝方と日中とでは、環境温度が異なる。朝方から昼にかけて環境温度が高くなっていくに従って、成形品の品質が変化することがある。また、昼から夕方にかけて環境温度が低くなっていく場合にも、同様である。また、季節の変化においても、同様に、成形品の品質が徐々に変化することがある。さらに、成形材料の素材の製造ロットが変更されることで、変更前と変更後とでは、成形品の品質が変化することがある。
【0006】
さらに、同一の成形条件で成形していたとしても、成形材料の素材の成分成分の僅かな違いによって、成形品の品質が異なることがある。上記のように外部要因や成形材料の素材の含有成分の僅かな違いによって成形品の品質が変化する場合において、成形品の品質を品質基準に近づけるように、成形条件を修正することが望まれる。
【0007】
本発明は、外部要因や成形材料の素材の含有成分の僅かな違いによって成形品の品質が変化する場合において、成形品の品質を品質基準に近づけるように成形条件を修正することができる成形条件決定支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、成形機の型のキャビティに成形材料を溶融した溶融材料を供給することにより成形品を成形する成形方法に適用され、前記成形品の成形条件を決定する成形条件決定支援装置であって、
前記成形機に取り付けられたセンサにより成形時に検出された検出データを取得する検出データ取得部と、
前記検出データに基づいて機械学習により前記成形品の品質を推定する品質推定部と、
推定された前記成形品の品質を蓄積し、蓄積された複数個の前記成形品の品質を成形順に配列した情報である品質推移を記憶する品質推移記憶部と、
前記品質推移に基づいて所定の品質基準に対する品質変化傾向を評価する傾向評価部と、
前記検出データに基づいて前記キャビティにおける前記溶融材料の溶融状態を推定する溶融状態推定部と、
前記品質変化傾向と前記品質を前記所定の品質基準に戻すための成形条件の修正量との関係を、前記溶融状態に対応付けて記憶する関係記憶部と、
前記傾向評価部により評価された前記品質変化傾向と、前記溶融状態推定部により推定された前記溶融状態と、前記関係記憶部に記憶されている前記関係とに基づいて、前記成形条件の修正量を決定する修正条件決定部と、を備え、
良品を表す前記品質の許容範囲の上限値をThmaxとし、前記品質の前記許容範囲の下限値をThminとし、前記所定の品質基準Stdは、前記品質の前記許容範囲のなかでも理想的な状態を表す値に設定され、
前記傾向評価部は、
前記品質推移に含まれる前記成形品の品質のうち突発異常による品質変化を除外し、
残りの前記成形品のうち予め設定された成形品数の分の前記成形品の品質についての前記品質推移が前記品質の前記許容範囲の含まれる場合において、前記成形品数の分の前記品質推移が前記所定の品質基準Stdからずれている度合に基づいて、前記品質が前記所定の品質基準Stdからずれている状態を継続していることを表す前記品質変化傾向を評価する、成形条件決定支援装置にある。
【0009】
品質推移記憶部が、機械学習により推定された成形品の品質を蓄積して、品質推移を記憶している。品質推移とは、複数個の成形品の品質を、成形順に配列した情報である。従って、傾向評価部が、連続する複数個の成形品の品質推移に基づいて、品質変化傾向を評価することができる。
【0010】
特に、傾向評価部は、所定の品質基準に対する品質変化傾向を評価している。例えば、傾向評価部は、品質変化傾向として、品質が所定の品質基準からずれている状態を継続していることや、品質が所定の品質基準を含む品質許容範囲内を変動していること等を評価することができる。
【0011】
さらに、溶融状態推定部は、検出データに基づいて、キャビティ内における溶融材料の溶融状態を推定している。ここで、溶融状態は、成形材料の素材の含有成分に依存する。例えば、成形材料の素材における含有成分のばらつきには、水分量、強化繊維の長さ、強化繊維の割合、主成分の分子量等が含まれる。そして、キャビティ内における溶融状態は、成形時における検出データに影響を及ぼす。そこで、溶融状態推定部は、実際に成形時における溶融状態に依存する検出データを用いることで、溶融状態を推定することができる。
【0012】
関係記憶部には、予め、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係を、キャビティにおける溶融材料の溶融状態に対応付けて記憶している。つまり、関係記憶部には、溶融材料の溶融状態の種類毎に、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係が記憶されている。この関係は、熟練者のノウハウ、機械学習による出力結果、実験結果等を用いて設定されれば良い。
【0013】
修正条件決定部が、新たに評価された品質変化傾向と、新たに推定されたキャビティにおける溶融材料の溶融状態と、関係記憶部に記憶されている関係とに基づいて、成形条件の修正量を決定する。ここで、関係記憶部に記憶されている関係は、品質を所定の品質基準に戻すための成形条件の修正量に関するものである。特に、キャビティ内における溶融材料の溶融状態に応じて成形条件の修正量が決定されている。従って、修正条件決定部が決定した成形条件の修正量に従って、成形機の成形条件を修正した場合には、次に成形される成形品の品質を所定の品質基準に近づけることが可能となる。
【0014】
つまり、環境温度等の外部要因や成形材料の素材の含有成分の僅かな違いによって成形品の品質が変化する場合であっても、品質変化傾向を把握することによって、さらにはキャビティ内における溶融材料の溶融状態を把握することによって、成形品の品質を所定の品質基準とすることができるように成形条件を修正することができる。従って、熟練者に限られず、未熟練者であっても、成形品の品質を良好にするように成形条件の修正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】
図2のIII-III線における型の断面図である。
【
図4】成形条件決定支援装置の機能ブロック図を示す。
【
図9】品質のずれ度合いと修正量との関係を示す図である。
【
図10】品質のずれ度合いと修正量との関係の学習フェーズにおける第一例を説明する図である。
【
図11】品質のずれ度合いと修正量との関係の学習フェーズにおける第二例を説明する図である。
【
図12】成形機の処理と成形条件決定支援装置の処理との動作タイミングを示す図である。上から下に向かって時間が経過している図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1.適用対象)
成形条件決定支援装置は、成形機の型のキャビティに、成形材料を溶融した溶融材料を供給することにより、成形品を成形する成形方法に適用される。適用対象の成形機は、例えば、成形材料である樹脂またはゴム等の射出成形を行う射出成形機とすることができる。また、適用対象の他の成形機は、例えば、ブロー成形機や圧縮成形機とすることもできる。なお、成形材料である樹脂については、単体のポリアミド等の熱可塑性樹脂や、熱可塑性樹脂の基材に充填剤を添加した強化樹脂を例示することができる。充填剤としては、ミクロンサイズまたはナノサイズのフィラーを挙げることができる。フィラーとしては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等を挙げることができる。
【0017】
(2.成形機システム1)
成形条件決定支援装置を含む成形機システム1について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、成形機システム1は、成形機2と、成形条件決定支援装置3とを備える。
【0018】
成形機2は、射出成形機、ブロー成形機、または、圧縮成形機等である。本例では、成形機2は、射出成形機を例に挙げる。成形機2は、例えば樹脂の成形品を成形する。成形条件決定支援装置3は、成形機2における成形条件を決定するための装置である。特に、本例では、成形条件決定支援装置3は、既に適用された成形条件によって成形品の成形が行われた場合に、当該成形品の品質を向上させることができるようにするための成形条件の修正量を決定する。
【0019】
成形条件決定支援装置3は、成形機2とは別体の装置としても良いし、成形機2の組込み装置としても良い。また、成形条件決定支援装置3は、一部を成形機2に組み込み、残りを成形機2とは別体としても良い。成形条件決定支援装置3の全部または一部が成形機2と別体である場合において、当該別体部分は、1つの成形機2のみに接続される構成としても良いし、複数の成形機2に接続される構成としても良い。後者の場合には、成形条件決定支援装置3の当該別体部分と複数の成形機2とは、同一ネットワークを構成し、相互に通信可能な構成となる。
【0020】
(3.成形機2)
(3-1.成形機2の構成)
成形機2の一例である射出成形機の構成について
図1を参照して説明する。成形機2は、ベッド20と、射出装置30と、型40と、型締装置50と、制御装置60とを主に備える。
【0021】
射出装置30は、ベッド20上に配置される。射出装置30は、成形材料を溶融し、溶融材料に圧力を加えて溶融材料を型40のキャビティに供給する装置である。射出装置30は、ホッパ31と、加熱シリンダ32と、スクリュ33と、ノズル34と、ヒータ35と、駆動装置36と、射出装置用センサ37とを主に備える。
【0022】
ホッパ31は、成形材料の素材であるペレット(粒状の成形材料)の投入口である。加熱シリンダ32は、ホッパ31に投入されたペレットを加熱溶融してできた溶融材料を加圧する。また、加熱シリンダ32は、ベッド20に対して加熱シリンダ32の軸方向に移動可能に設けられる。スクリュ33は、加熱シリンダ32の内部に配置され、回転可能かつ軸方向への移動可能に設けられる。ノズル34は、加熱シリンダ32の先端に設けられた射出口であり、スクリュ33の軸方向移動によって、加熱シリンダ32の内部の溶融材料を型40に供給する。
【0023】
ヒータ35は、例えば、加熱シリンダ32の外側に設けられ、加熱シリンダ32の内部のペレットを加熱する。駆動装置36は、加熱シリンダ32の軸方向への移動、スクリュ33の回転および軸方向移動等を行う。射出装置用センサ37は、溶融材料の貯留量、保圧力、保圧時間、射出速度、駆動装置36の状態等を取得するセンサを総称する。ただし、射出装置用センサ37は、上記に限られず、種々の情報を取得するようにしても良い。
【0024】
型40は、固定側である第一型41と、可動側である第二型42とを備えた金型である。型40は、第一型41と第二型42とを型締めすることで、第一型41と第二型42との間にキャビティCを形成する。第一型41は、ノズル34から供給された溶融材料をキャビティCまで導く供給路43(スプルー、ランナー、ゲート)を備える。さらに、型40は、圧力センサ44および温度センサ45を備える。圧力センサ44は、供給路43における溶融材料から受ける圧力を検出する。温度センサ45は、供給路43における溶融材料の温度を直接検出する。
【0025】
型締装置50は、ベッド20上において射出装置30に対向配置される。型締装置50は、装着された型40の開閉動作を行うと共に、型40を締め付けた状態において、キャビティCに射出された溶融材料の圧力により型40が開かないようにする。
【0026】
型締装置50は、固定盤51、可動盤52、ダイバー53、駆動装置54、型締装置用センサ55を備える。固定盤51には、第一型41が固定される。固定盤51は、射出装置30のノズル34に当接可能であり、ノズル34から射出される溶融材料を型40へ導く。可動盤52には、第二型42が固定される。可動盤52は、固定盤51に対して接近および離間可能である。ダイバー53は、可動盤52の移動を支持する。駆動装置54は、例えば、シリンダ装置によって構成されており、可動盤52を移動させる。型締装置用センサ55は、型締力、金型温度、駆動装置54の状態等を取得するセンサを総称する。
【0027】
制御装置60は、射出装置30の駆動装置36および型締装置50の駆動装置54を制御する。例えば、制御装置60は、射出装置用センサ37および型締装置用センサ55から各種情報を取得して、動作指令データに応じた動作を行うように、射出装置30の駆動装置36および型締装置50の駆動装置54を制御する。
【0028】
(3-2.成形方法)
成形機2による成形品の成形方法について説明する。成形機2による成形方法では、1サイクルにおいて、計量工程、型締工程、射出充填工程、保圧工程、冷却工程、離型取出工程が順次実行される。つまり、次の成形品の成形において、再び、上記工程が順次実行される。ここで、計量工程および型締工程は、開始準備工程を構成し、射出充填工程、保圧工程、および、冷却工程は、成形工程を構成し、離型取出工程は、終了処理工程を構成する。なお、離型取出工程の初期(型開放直後)を成形工程に含めるようにし、後期を終了処理工程としても良い。
【0029】
計量工程において、ヒータ35の加熱およびスクリュ33の回転に伴うせん断摩擦熱によってペレットが溶融されながら、溶融材料が加熱シリンダ32の先端とノズル34との間に貯留される。溶融材料の貯留量の増加に伴ってスクリュ33が後退するため、スクリュ33の後退位置から溶融材料の貯留量の計量が行われる。
【0030】
計量工程に続く型締工程では、可動盤52を移動させて、第一型41に第二型42を合わせ、型締めを行う。さらに、加熱シリンダ32を軸方向に移動させて型締装置50に近づけ、ノズル34を型締装置50の固定盤51に接続する。続いて、射出充填工程において、スクリュ33の回転を停止した状態において、スクリュ33をノズル34に向けて所定の押し込み力で移動させることにより、溶融材料を高い圧力で型40に射出充填する。キャビティCに溶融材料が充填されると、引き続き、保圧工程に移行する。
【0031】
保圧工程では、キャビティCに溶融材料が充填された状態でさらに溶融材料をキャビティCに押し込み、キャビティC内の溶融材料に所定の圧力(保圧力)を所定時間加える保圧処理を行う。具体的には、スクリュ33に一定の押し込み力を付与することにより、溶融材料に所定の保圧力を付与する。
【0032】
そして、所定の保圧力により所定時間の保圧処理を行った後、冷却工程へ移行する。冷却工程では、溶融材料の押し込みを停止して保圧力を減少させる処理を行い、型40を冷却する。型40を冷却することにより、型40に供給された溶融材料が固化する。最後に、離型取出工程において、第一型41から第二型42を離間させて、成形品を取り出す。
【0033】
(3-3.型40)
型40の詳細な構成について、
図2および
図3を参照して説明する。なお、型40は、所謂、多数個取り金型であり、型40には複数のキャビティCが形成されているが、図面を簡素化するため、
図2および
図3には、1つのキャビティCをのみ図示している。また、本例において、成形機2が成形する成形品は、等速ジョイントに用いられる保持器である。従って、成形品は環状であり、キャビティCは保持器の形状に倣った環状に形成される。なお、成形品およびキャビティCの形状は、環状以外の形状、例えば、C形状や矩形枠状等としても良い。
【0034】
供給路43は、スプルー43aと、ランナー43bと、ゲート43cとを備える。スプルー43aは、ノズル34から溶融材料が供給される通路である。ランナー43bは、スプルー43aから分岐する通路であり、スプルー43aに供給された溶融材料は、ランナー43bに流入する。ゲート43cは、ランナー43bに流入した溶融材料をキャビティCに導く通路であり、ゲート43cの流路断面積は、ランナー43bの流路断面積よりも小さい。型40には、キャビティCと同数のランナー43bおよびゲート43cが形成され、スプルー43aに供給された溶融材料は、ランナー43bおよびゲート43cを介して各々のキャビティCに供給される。
【0035】
尚、キャビティCが環状である場合であって、第一型41が1つのゲート43cを備える場合、キャビティC内における溶融材料の流入経路は、ゲート43cからキャビティCの環状の周方向に流動する経路となる。即ち、キャビティCにおいて、溶融材料は、最初にゲート43cの近傍に流入し、最後にゲート43cからの最遠距離に流入する。
【0036】
又、型40には、供給路43における溶融材料から受ける圧力を検出する圧力センサ44が設けられている。本例では、複数の圧力センサ44が設けられている。例えば、圧力センサ44は、キャビティC内においてゲート43cから最遠位置付近やゲート43c付近に設けられている。なお、圧力センサ44は、スプルー43aやランナー43bに設けても良い。圧力センサ44は、接触式のセンサでも非接触式のセンサでも良い。
【0037】
また、型40には、供給路43における溶融材料の温度を検出する温度センサ45が設けられている。温度センサ45は、圧力センサ44と同様に、キャビティC内に設けると良く、スプルー43aやランナー43bに設けても良い。また、圧力センサ44も、複数設けても良い。
【0038】
(4.成形条件決定支援装置3の構成)
成形条件決定支援装置3の構成について
図4-
図9を参照して説明する。成形条件決定支援装置3は、例えば、プロセッサ、記憶装置、インターフェース等を備える演算処理装置と、演算処理装置のインターフェースに接続可能な入力機器と、演算処理装置のインターフェースに接続可能な出力機器とを備える。出力機器は、例えば、表示装置を含むようにしてもよい。また、演算処理装置、入力機器、および、出力機器が、インターフェースを介さずに、1つのユニットを構成するようにしてもよい。また、演算処理装置の一部および記憶装置の一部は、物理サーバやクラウドサーバを適用することもできる。
【0039】
図4に示すように、成形条件決定支援装置3は、検出データ取得部101、品質推定部102、品質推移記憶部103、傾向評価部104、溶融状態推定部105、関係記憶部106、修正条件決定部107を備える。
【0040】
検出データ取得部101は、成形機2に取り付けられたセンサ44,45により成形時に検出された検出データを取得する。つまり、検出データ取得部101が取得する検出データの種は、供給路43において型40が溶融材料から受ける圧力、供給路43における溶融材料の温度の少なくとも1つである。
【0041】
圧力センサ44による検出データは、例えば、
図5に示すようなデータである。
図5において、時刻T1は、充填開始時刻、時刻T2は、充填終了時刻であり保圧開始時刻、時刻T3は、保圧終了時刻であり冷却開示時刻、時刻T4は、冷却終了時刻であり型開放時刻である。つまり、T1-T2間が射出充填工程であり、T2-T3間が保圧工程であり、T3-T4間が冷却工程である。なお、
図5には、保圧工程における最大圧力を最大保圧力Pmaxとし、保圧工程における圧力積分値を保圧面積Saとし、冷却工程における圧力積分値を冷却面積Sbとする。
【0042】
品質推定部102は、検出データ取得部101により取得された検出データに基づいて、機械学習により成形品の品質を推定する。例えば、品質推定部102は、成形品において、1または複数の品質種における数値を推定する。成形品の品質種は、成形品の質量、成形品の寸法、成形品におけるボイド体積の少なくとも1つである。
【0043】
品質推定部102は、予め機械学習により、検出データと成形品の品質との関係を学習した学習済みモデルを生成しておく。学習済みモデルは、品質種毎に生成される。そして、品質推定部102は、学習済みモデルを記憶しておき、新たに取得した検出データと学習済みモデルとを用いて成形品の品質を推定する。
【0044】
品質推移記憶部103は、品質推定部102により推定された成形品の品質を蓄積し、蓄積された複数個の成形品についての品質推移を記憶する。品質推移とは、複数個の成形品の品質を、成形順に配列した情報である。品質推移は、例えば、
図6に示すようなデータである。
図6は、成形品の質量の例である。
図6において、所定の品質基準をStdとし、品質許容範囲の上限値をThmaxとし、品質許容範囲の下限値をThminとする。つまり、上限値Thmaxと下限値Thminとの間は、良品であることを意味し、外れ範囲は、不良品となる。良品であっても理想的には、所定の品質基準Stdとなる場合である。
【0045】
図6では、成形初期において、ほとんどの成形品の品質は、品質基準Std付近の値を示している。ただし、突発異常として、上限値Thmaxを超えた値を示した成形品が存在する(
図6のA2)。つまり、突発異常の成形品を除外したときには、成形初期の成形品の品質は、品質基準Std付近の値を示している(
図6のA1)。その後、成形を継続していくと、成形品の品質は、徐々に品質基準Stdから離れている。そして、成形品の品質は、品質基準Stdから+N%上昇した値付近を示すようになっている(
図6のA3)。
【0046】
傾向評価部104は、品質推移記憶部103に記憶されている品質推移に基づいて、品質基準Stdに対する品質変化傾向を評価する。
図7に示すように、傾向評価部104は、品質変化傾向として、複数の品質種、品質種毎において品質基準Stdに対する品質のずれ度合い、および、品質種毎において複数個の成形品の品質のばらつき度合いを評価する。
【0047】
傾向評価部104は、品質変化傾向の評価に用いる品質推移の成形品数は、予め設定されている。つまり、傾向評価部104は、予め設定された成形品数における品質のずれ度合いを算出する。例えば、傾向評価部104は、品質のずれ度合いとして、当該成形品数における品質の平均値が品質基準Stdからずれている程度(絶対値または相対値)を算出する。さらに、ばらつき度合いとは、予め設定された成形品数における品質がばらついているか、安定しているかの程度を示す。なお、ばらつき度合いは、例えば、標準偏差、分散等の値を用いても良い。
【0048】
図7に示すように、例えば、傾向評価部104は、質量について、ずれ度合い「+2.2%」、ばらつき度合い「安定」と評価し、寸法について、ずれ度合い「+0.3%」、ばらつき度合い「安定」と評価し、ボイド体積について、ずれ度合い「-0.5%」、ばらつき度合い「安定」と評価する。
【0049】
また、
図6に示す品質推移のA1においては、傾向評価部104は、品質変化傾向として、安定して品質基準Std付近に位置していると評価する。ここで、傾向評価部104は、
図6に示す品質推移のA1において、突発異常による品質変化を示すA2の成形品を除外して評価する。この場合、傾向評価部104は、対象の品質種について、品質基準Stdからのずれ度合いとして「0.1%」と評価し、ばらつき度合いとして「安定」と評価する。突発異常の後には、成形品の品質は正常に戻っていることからも、突発異常は、成形条件とは無関係である。そこで、突発異常を除外して評価している。
【0050】
また、
図6に示す品質推移のA3においては、傾向評価部104は、品質変化傾向として、安定して品質基準Stdに対して、+N%程度ずれた値を示していると評価される。この場合、傾向評価部104は、対象の品質種について、品質基準Stdからのずれ度合いとして「+N%」と評価し、ばらつき度合いとして「安定」と評価する。
【0051】
溶融状態推定部105は、検出データ取得部101により取得された検出データに基づいて、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態を推定する。特に、溶融状態推定部105は、溶融材料の溶融状態として溶融材料の流動性の程度を推定する。
【0052】
ここで、溶融状態は、成形材料の素材の含有成分に依存する。溶融状態に影響を及ぼす成形材料の素材における含有成分には、水分量、強化繊維の長さ、強化繊維の割合、主成分の分子量等が含まれる。そして、キャビティ内における溶融状態は、成形時における検出データに影響を及ぼす。そこで、溶融状態推定部は、実際に成形時における溶融状態に依存する検出データを用いることで、溶融状態を推定することができる。溶融状態は、例えば、
図8に示すように、4種類、すなわち、Type-A、Type-B、Type-C、Type-Dに分類される。
【0053】
関係記憶部106は、品質変化傾向と品質を品質基準に戻すための成形条件の修正量との関係を、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態に対応付けて記憶する。関係記憶部106は、例えば、
図9に示すように、溶融材料の溶融状態の種類毎に、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係が記憶されている。詳細には、関係記憶部106は、溶融材料の溶融状態の種類のそれぞれにおいて、品質種毎に、ずれ度合いの段階と成形条件の修正量とをマトリックスで表現した関係を記憶する。例えば、質量、寸法、ボイド体積のそれぞれについて、ずれ度合いの段階として6段階とする。また、修正対象の成形条件の種として、射出速度、保圧力、保圧時間、保圧時の型温度、冷却時間等の少なくとも1つとする。
【0054】
ここで、品質種と成形条件の種との関係の程度や、品質種のずれ度合いと成形条件の修正量との関係は、機械学習を用いて導き出すことができる。つまり、関係記憶部106に記憶される関係は、機械学習により生成することができる。もちろん、機械学習ではなく、実験や過去の経験等に基づいて、当該関係を設定しても良い。
【0055】
修正条件決定部107は、傾向評価部104により評価された品質変化傾向と、溶融状態推定部105により推定された溶融材料の溶融状態と、関係記憶部106に記憶されている関係とに基づいて、成形条件の修正量を決定する。
【0056】
修正条件決定部107は、まず、
図9に示す関係の中から、溶融状態推定部105により推定された溶融状態に対応するものを選択する。続いて、例えば、修正条件決定部107は、
図9に示すようなマトリックスで表現した関係において、傾向評価部104により評価されたずれ度合いに最も近い段階を決定し、当該段階に対応する成形条件の修正量を、決定する成形条件の修正量とする。例えば、
図7に示すように、質量のずれ度合いが「+2.2%」である場合には、
図9に示すマトリックスにおいて、質量のずれ度合いの段階「+2%」が選択される。
【0057】
ここで、修正条件決定部107は、複数の品質種のそれぞれについて、成形条件の修正量が決定される。そこで、修正条件決定部107は、同種の成形条件についての複数個の修正量に基づいて、当該成形条件について最終的な修正量を決定する。この場合、修正条件決定部107は、例えば、複数個の修正量を合算した値を最終的な修正量としても良いし、品質種に応じた重み付け係数を乗算した上で、さらに合算した値を最終的な修正量としても良い。
【0058】
さらに、修正条件決定部107は、最終的な修正量を成形機2の制御装置60に出力して、次の成形品における成形条件に対して当該修正量の分の修正を加える。従って、制御装置60は、修正された成形条件により次の成形品の成形を実行する。その結果、修正された成形条件により成形された成形品の品質を、品質基準Stdに近づかせることができる。
【0059】
(5.成形条件決定支援装置3による効果)
上述した成形条件決定支援装置3による効果について記載する。品質推移記憶部103が、機械学習により推定された成形品の品質を蓄積して、品質推移を記憶している。品質推移とは、複数個の成形品の品質を、成形順に配列した情報である。従って、傾向評価部104が、連続する複数個の成形品の品質推移に基づいて、品質変化傾向を評価することができる。
【0060】
特に、傾向評価部104は、所定の品質基準Stdに対する品質変化傾向を評価している。例えば、傾向評価部104は、品質変化傾向として、品質が所定の品質基準Stdからずれている状態を継続していることや、品質が所定の品質基準を含む品質許容範囲内を変動していること等を評価することができる。
【0061】
さらに、溶融状態推定部105は、検出データに基づいて、キャビティC内における溶融材料の溶融状態を推定している。ここで、溶融状態は、成形材料の素材の含有成分に依存する。例えば、成形材料の素材における含有成分のばらつきには、水分量、強化繊維の長さ、強化繊維の割合、主成分の分子量等が含まれる。そして、キャビティC内における溶融状態は、成形時における検出データに影響を及ぼす。そこで、溶融状態推定部105は、実際に成形時における溶融状態に依存する検出データを用いることで、溶融状態を推定することができる。
【0062】
関係記憶部106には、予め、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係を、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態に対応付けて記憶している。つまり、関係記憶部106には、溶融材料の溶融状態の種類毎に、品質変化傾向と成形条件の修正量との関係が記憶されている。この関係は、熟練者のノウハウ、機械学習による出力結果、実験結果等を用いて設定されている。
【0063】
修正条件決定部107が、新たに評価された品質変化傾向と、新たに推定されたキャビティCにおける溶融材料の溶融状態と、関係記憶部106に記憶されている関係とに基づいて、成形条件の修正量を決定する。ここで、関係記憶部106に記憶されている関係は、品質を所定の品質基準Stdに戻すための成形条件の修正量に関するものである。特に、キャビティC内における溶融材料の溶融状態に応じて成形条件の修正量が決定されている。従って、修正条件決定部107が決定した成形条件の修正量に従って、成形機2の成形条件を修正した場合には、次に成形される成形品の品質を所定の品質基準Stdに近づけることが可能となる。
【0064】
つまり、環境温度等の外部要因や成形材料の素材の含有成分の僅かな違いによって成形品の品質が変化する場合であっても、品質変化傾向を把握することによって、さらにはキャビティC内における溶融材料の溶融状態を把握することによって、成形品の品質を所定の品質基準Stdとすることができるように成形条件を修正することができる。従って、熟練者に限られず、未熟練者であっても、成形品の品質を良好にするように成形条件の修正が可能となる。
【0065】
(6.品質推定における学習フェーズ)
上述したように、品質推定部102は、機械学習により品質を推定する。品質推定部102には、学習済みモデルが記憶されている。当該学習済みモデルは、予め生成されている。学習済みモデルの生成、すなわち学習フェーズの例について説明する。
【0066】
まず、複数個の成形品についての検出データを取得する。ここで、検出データに基づいて、検出データの特徴量を抽出する。特徴量の抽出には、例えば、圧力センサ44により検出される圧力データより、保圧工程中の最大保圧力Pmax、保圧工程中の圧力ばらつき、保圧面積Sa(
図3に示す)、実際の保圧時間(圧力データに基づき得られる保圧時間)、保圧工程開始時における圧力の変化速度(圧力微分値)等を用いる。さらに、特徴量の抽出には、圧力データより、冷却面積Sb(
図3に示す)、冷却工程中の圧力の変化速度(圧力微分値)等を用いる。
【0067】
さらに、特徴量の抽出には、温度センサにより検出された温度データより、保圧工程中の最大温度、保圧工程中の温度ばらつき、保圧工程中の温度面積(温度×時間)、冷却工程中の冷却面積(温度×時間)、冷却工程中の温度の変化速度(微分値)等を用いる。また、型40には、圧力センサ44および温度センサ45は、複数設けられているため、センサ毎に上記の情報が特徴量の抽出に用いられる。
【0068】
そして、複数個の成形品について、上記の複数の情報を取得する。そして、上記のそれぞれの情報について、複数個の成形品における最大値、最小値、平均値、分散等を算出し、これらを特徴量とする。
【0069】
一方、複数個の成形品の品質を外部計測器等を用いて計測する。例えば、品質として、質量、寸法、ボイド体積等を計測する。そして、特徴量を説明変数とし、品質を目的変数として、機械学習を行うことで、学習済みモデルが生成される。当該学習済みモデルは、検出データの特徴量を入力として、品質を出力することができるモデルとなる。
【0070】
なお、上記では、特徴量を説明変数とする学習モデルについて説明したが、学習モデルによっては、特徴量を説明変数とするのではなく、検出データそのものを説明変数として、品質を目的変数として出力することができるものもある。
【0071】
(7.キャビティCにおける溶融材料の溶融状態)
(7-1.溶融状態と品質との関係)
キャビティCにおける溶融材料の流動性が高い場合には、キャビティCにおける溶融材料の比容積が増加し得る。そのため、溶融材料の溶融状態は、成形品の品質に影響を及ぼす。
【0072】
溶融材料の流動性は、例えば、成形材料の素材であるペレットが吸収している水分量が影響を及ぼす。ペレットの水分によって溶融材料に加水分解が生じ、その結果、溶融材料の流動性が高まる。加水分解は、成形材料の水分量が多いほど生じやすくなる傾向を有する。さらに、成形材料の素材であるペレットに含有されている強化繊維の長さ、割合等も、溶融材料の流動性に影響を及ぼすと考えられる。また、成形材料の主成分の分子量も、溶融材料の流動性に影響を及ぼすと考えられる。
【0073】
(7-2.溶融状態と検出データとの関係)
キャビティCにおける溶融材料の溶融状態によって、キャビティCに溶融材料が充填される時間(以下、「キャビティ充填時間」と称する)が変化する。キャビティ充填時間とは、キャビティC内に溶融材料の充填が開始されてから完了するまでに要する時間である。
【0074】
例えば、キャビティ充填時間の開始時刻は、キャビティC内の圧力センサ44のうちゲート43cに最も近い位置のセンサの検出データが上昇したタイミングとすることができる。また、キャビティ充填時間の開始時刻は、ランナー43bに設けられる圧力センサ44の検出データを用いることもできる。キャビティ充填時間の完了時刻は、キャビティC内の圧力センサ44のうちゲート43cから最も遠い位置のセンサの検出データが上昇したタイミングとすることができる。
【0075】
そして、溶融状態推定部105は、キャビティ充填時間を用いて、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態を推定することができる。ただし、キャビティ充填時間と溶融状態との関係は、機械学習を用いることにより、取得することができる。
【0076】
このとき、キャビティ充填時間と溶融状態との関係は、さらに成形材料の素材に対する検査成績書を参照した上で、機械学習を用いることにより、より高精度に把握することができる。つまり、溶融状態推定部は、検出データ(特に、キャビティ充填時間)に加えて、さらに成形材料の素材に対する検査成績書を参照して、機械学習により、溶融材料の溶融状態を推定することができる。なお、成形材料の素材の検査成績書には、主成分の分子量、水分量、強化繊維の種類、強化繊維の長さ、強化繊維の割合等が含まれている。
【0077】
(7-3.溶融状態の他の推定方法)
溶融状態は、上述したように、キャビティ充填時間を用いて推定することができる。この他に、以下の方法によっても溶融状態を推定することができる。
【0078】
ここで、成形時において圧力センサ44および温度センサ45等のセンサによる検出データの値は、成形機2の成形条件の影響を受けるのは明らかである。さらに、検出データの値は、成形条件に加えて、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態の影響を受けると考えられる。
【0079】
つまり、検出データの値は、成形条件と溶融材料の溶融状態との影響を受ける。この関係は、例えば、成形条件に関する値と溶融材料の溶融状態に関する値とを乗算した結果が検出データの値となると考えることができる。置換すると、溶融材料の溶融状態に関する値は、成形条件に関する値を、検出データの値で除算した結果となる。
【0080】
そこで、複数の検出データについての特徴量を取得し、これらを乗算する。さらに、複数の成形条件の値を取得し、これらを乗算する。そして、複数の成形条件の乗算値を、複数の検出データの特徴量の乗算値で除算した結果を、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態を表す指標とする。そして、得られた指標を分類分けすることによって、溶融状態がどの種類に属するかを判断することができる。このようにして、キャビティCにおける溶融材料の溶融状態を推定することができる。
【0081】
(8.関係決定の学習フェーズ)
関係記憶部106に記憶される品質のずれ度合いと修正量との関係について、例えば、機械学習を用いることにより生成することができる。以下に、当該関係の生成において、機械学習を用いる場合について説明する。
【0082】
(8-1.第一例)
学習フェーズの第一例について、
図10を参照して説明する。学習フェーズの第一例においては、
図10に示すように、品質種と成形条件の種との関係を、直接的に、機械学習により生成する。
【0083】
例えば、品質種毎における品質の値、および、成形条件の値を入力して、機械学習により、成形条件が品質種に影響を与える度合い(寄与度、影響度)を取得する。さらに、成形条件の値の修正量が、品質の値に影響を与える度合いを取得するようにしても良い。結果として、品質種と成形条件の種との関係情報、さらには品質の値と成形条件の修正量との関係情報を得ることができる。
【0084】
機械学習により得られた関係情報に基づいて、人が、
図9に示すようなマトリックスで表現した関係を決定する。もちろん、
図9に示すようなマトリックスを、機械学習により生成することもできる。
【0085】
(8-2.第二例)
学習フェーズの第二例について、
図11を参照して説明する。学習フェーズの第二例においては、
図11に示すように、品質種と成形条件の種との関係を、直接的に、機械学習により生成する。
【0086】
図10に示す上記第一例では、品質種と成形条件の種との関係を直接的に機械学習により生成することとした。ただし、品質種と成形条件の種との関係を直接的に得ることができない場合がある。ここで、成形条件は、成形時の状態を特定し、成形時の状態が、品質を特定することは明らかである。つまり、成形時の状態を介して、成形条件と品質とが関係性を持つと言える。成形時の状態とは、例えば、最大保圧力Pmax、保圧面積Sa、冷却面積Sb等である。
【0087】
そこで、まず、品質種毎における品質の値、および、検出データの特徴量(最大保圧力等から得られた特徴量)を入力して、機械学習により、検出データの特徴量が品質種に影響を与える度合い(寄与度、影響度)を取得する。さらに、検出データの特徴量の値が、品質の値に影響を与える度合いを取得するようにしても良い。結果として、品質種と検出データの特徴量との関係情報、さらには、品質の値と検出データの特徴量の値との関係情報を得ることができる。
【0088】
次に、検出データの特徴量、および、成形条件の種を入力して、機械学習により、成形条件の種が検出データの特徴量に影響を与える度合い(寄与度、影響度)を取得する。さらに、成形条件の値の修正量が、検出データの特徴量の値に影響を与える度合いを取得するようにしても良い。結果として、検出データの特徴量と成形条件の種との関係情報、さらには、検出データの特徴量の値と成形条件の値の修正量との関係情報を得ることができる。
【0089】
そして、品質種と検出データの特徴量との関係情報、および、検出データの特徴量と成形条件の種との関係情報等に基づいて、人が、
図9に示すようなマトリックスで表現した関係を決定する。もちろん、
図9に示すようなマトリックスを、機械学習により生成することもできる。
【0090】
(9.成形機システム1の動作タイミング)
(9-1.基本)
成形機システム1の動作タイミング、特に、成形機2による処理と成形条件決定支援装置による処理との動作タイミングについて、
図12を参照して説明する。まず、成形機2は、成形品を連続成形する場合とする。説明の容易化のため、第一成形品の次に、第二成形品を成形する場合について説明する。
【0091】
図12に示すように、成形機2が、第一成形品について開始準備工程を実行する(S11)。開始準備工程は、例えば、計量工程および型締工程を含む。続いて、成形機2が、第一成形品についての成形工程を実行する(S12)。成形工程は、例えば、射出充填工程、保圧工程、冷却工程を含む。続いて、成形機2が、第一成形品についての終了処理工程を実行する(S13)。終了処理工程は、例えば、離型取出工程を含む。
【0092】
ただし、成形条件決定支援装置3において、離型取出工程の初期(型開放直後)に圧力センサ44および温度センサ45により検出された検出データを用いる場合には、離型取出工程の初期を成形工程に含めるようにしても良い。
【0093】
第一成形品の成形に続いて、成形機2は、第二成形品の成形に関する処理を開始する。まず、成形機2は、第二成形品についての開始準備工程を実行する(S21)。続いて、成形機2は、第二成形品についての成形工程を実行する(S22)。続いて、成形機2は、第二成形品についての終了処理工程を実行する(S23)。
【0094】
一方、成形条件決定支援装置3は、成形機2の処理と並行処理される。具体的には、第一成形品の成形時における圧力センサ44および温度センサ45によるデータの検出と並行処理される一次処理工程(S101)と、第一成形品の終了処理工程および第二成形品の開始準備工程と並行処理される二次処理工程(S102)とが実行される。つまり、二次処理工程(S102)は、第一成形品の成形工程を終了してから第二成形品の成形工程を開始するまでの成形機2の準備工程(第一成形品の終了処理工程および第二成形品の開始準備工程)に実行される。
【0095】
一次処理工程(S101)は、少なくとも、検出データ取得部101による処理を含む。二次処理工程(S102)は、少なくとも、修正条件決定部107による処理を含む。修正条件決定部107は、第二成形品に関する成形条件の修正量を決定する。つまり、成形機2は、第二成形品の成形工程(S22)における成形条件は、第一成形品の成形工程におけるデータを用いて修正された成形条件となる。このように、成形品の成形の1サイクル内で、成形条件の修正量が決定される。従って、成形条件の修正量の決定において、直前の成形情報を用いることができるため、成形条件の修正量をより高精度に現状に適合させることができる。
【0096】
(9-2.第一例)
成形条件決定支援装置3の処理の第一例は、以下のとおりである。一次処理工程(S101)は、検出データ取得部101の処理を行う。一方、二次処理工程(S102)は、品質推定部102の処理、傾向評価部104の処理、修正条件決定部107の処理を行う。
【0097】
(9-3.第二例)
成形条件決定支援装置3の処理の第二例は、以下のとおりである。一次処理工程(S101)は、検出データ取得部101の処理、および、品質推定部102の処理を行う。一方、二次処理工程(S102)は、傾向評価部104の処理、修正条件決定部107の処理を行う。
【0098】
(10.成形機システム1の構成例)
(10-1.第一例)
成形機システム1の第一例の構成について、
図13を参照して説明する。
図13に示すように、成形機システム1は、複数の成形機2,2と、成形機2,2のそれぞれに一体的に構成されたエッジコンピュータ4,4、複数の成形機2,2と同一ネットワークを構成するサーバ5とを備える。なお、エッジコンピュータ4,4は、成形機2,2の一部を構成しても良いし、成形機2,2とは別体に構成しても良い。
【0099】
そして、エッジコンピュータ4,4とサーバ5とが、成形条件決定支援装置3を構成する。エッジコンピュータ4,4は、検出データ取得部101を備える。サーバ5は、品質推定部102、品質推移記憶部103、傾向評価部104、溶融状態推定部105、関係記憶部106、修正条件決定部107を備える。
【0100】
つまり、サーバ5は、検出データ取得部101により取得された検出データを、エッジコンピュータ4または成形機2に内蔵されたエッジコンピュータ4から受信する。サーバ5は、受信した情報に基づいて成形条件の修正量を決定し、決定した成形条件の修正量を成形機2に送信する。
【0101】
この場合、サーバ5が、複数の成形機2に関する情報を蓄積することができる。さらに、サーバ5が高速処理を実行可能なプロセッサを有するようにすることで、品質推定部102の処理、傾向評価部104の処理、溶融状態推定部105の処理および修正条件決定部107の処理を高速処理可能となる。一方、それぞれのエッジコンピュータ4を高スペックとする必要がないため、低コスト化を図ることができる。
【0102】
(10-2.第二例)
成形機システム1の第二例は、第一例と同様に、成形機システム1は、複数の成形機2,2と、成形機2,2のそれぞれに接続されたエッジコンピュータ4,4、複数の成形機2,2と同一ネットワークを構成するサーバ5とを備える。
【0103】
エッジコンピュータ4,4は、検出データ取得部101、品質推定部102、溶融状態推定部105を備える。サーバ5は、品質推移記憶部103、傾向評価部104、関係記憶部106、修正条件決定部107を備える。つまり、サーバ5は、品質推定部102により推定された成形品の品質、および、溶融状態推定部105により推定された溶融状態を、エッジコンピュータ4または成形機2に内蔵されたエッジコンピュータ4から受信する。サーバ5は、受信した情報に基づいて成形条件の修正量を決定し、決定した成形条件の修正量を成形機2に送信する。
【0104】
(10-3.第三例)
成形機システム1の第三例は、全ての機能をサーバ5が有する。この場合、エッジコンピュータ4,4は不要となる。サーバ5における検出データ取得部101が、センサ44,45により検出された検出データを、成形機2から受信する。そして、サーバ5における修正条件決定部107が、成形条件の修正量を、成形機2に送信する。
【符号の説明】
【0105】
1:成形機システム、 2:成形機、 3:成形条件決定支援装置、 4:エッジコンピュータ、 5:サーバ、 40:型、 43:供給路、 44:圧力センサ、 45:温度センサ、 50:型締装置、 60:制御装置、 101:検出データ取得部、 102:品質推定部、 103:品質推移記憶部、 104:傾向評価部、 105:溶融状態推定部、 106:関係記憶部、 107:修正条件決定部、 C:キャビティ