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特許7547807ゴルフボール用ゴム組成物及びゴルフボール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ゴルフボール用ゴム組成物及びゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20240903BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20240903BHJP
   C08F 291/02 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A63B37/00 512
A63B37/00 618
A63B37/00 328
A63B37/00 418
A63B37/00 542
C08F279/02
C08F291/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020107913
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022002608
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南馬 昌司
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0002519(US,A1)
【文献】特許第4485377(JP,B2)
【文献】特許第4035002(JP,B2)
【文献】特開2019-107229(JP,A)
【文献】特許第6709645(JP,B2)
【文献】特許第5161566(JP,B2)
【文献】特許第4447972(JP,B2)
【文献】特開2014-106266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
C08F 279/02
C08F 291/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)の各成分、
(A)基材ゴム、
(B)イソシアネート基またはブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、
(C)ジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩、及び
(D)有機過酸化物
を含有し、上記(B)成分が、2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート及び2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレートの群から選ばれる化合物であると共に、上記(B)成分の配合量が、(A)基材ゴム100質量部に対して0.1~50質量部であり、且つ、上記(B)成分と(C)成分との合計量に対する(B)成分の配合割合が3.2~16.7質量%の範囲内であることを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項2】
上記ゴム組成物の加硫成形物がゴルフボール用コアである請求項記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項3】
上記コア(加熱成形物)における初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷した時の変形量が2.0~4.0mmである請求項1又は2記載のゴルフボール用ゴム組成物。
【請求項4】
コアと該コアを被覆する単層又は複数層のカバーとを有するゴルフボールであって、上記コアが、請求項1~のいずれか1項記載のゴム組成物により形成されることを特徴とするゴルフボール。
【請求項5】
上記カバーが、最外層と、該最外層とコアとの中間に位置する中間層との2層からなり、この中間層の材料硬度がショアD硬度で62~74である請求項記載のゴルフボール。
【請求項6】
上記カバーが、最外層と、該最外層とコアとの中間に位置する中間層との2層からなり、上記最外層の材料硬度がショアD硬度で25~60である請求項4又は5記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用ゴム組成物及びこれを用いたゴルフボールに関し、特に、1層以上コア及び1層以上のカバーからなるゴルフボールのコア材料として好適に用いられるゴルフボール用ゴム組成物及びこれを用いたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、ゴルフボールはツーピースソリッドゴルフボールやスリーピースソリッドゴルフボールが主流となっている。これらのゴルフボールは、通常、ゴム組成物のコアに各種の樹脂材料からなる単層又は複数層のカバーを被覆した構造である。コアは、ゴルフボールの体積の大部分を占め、反発性や打感、耐久性等のボール諸物性に大きな影響を及ぼす。
【0003】
コアのゴム架橋構造がコア物性やボール物性に大きな影響を与えることが知られている。コアのゴム架橋構造を調整する方法については、コアのゴム組成物の配合成分や、加硫温度及び時間を適宜調整することなどが挙げられる。また、コアのゴム組成物の配合成分に関しては、共架橋剤や有機過酸化物の種類の選定や配合量を調整することなどが挙げられる。また、共架橋剤については、ゴルフボール分野では、メタクリル酸,アクリル酸及びこれら金属塩を使用することが知られている。しかし、上記の共架橋剤の配合の調整については、主にコアの硬度調整によるボールの打感調整を主眼としておりスピン特性を満足できるものにはなっていない。
【0004】
例えば、特開平3-207709号公報には、コア用ゴム組成物に特定量のアクリル酸の金属塩及びメタクリル酸の金属塩を配合する技術が提案されている。しかし、この技術は、打感の改良と耐久性の改善とを両立させることを目的としており、コア用ゴム組成物を配合成分の種類の選定等によりゴム成形物の内部硬度やボールの低スピン化をより一層実現するための技術の提案ではない。
【0005】
また、ドライバーショット時の飛距離を伸ばすために重要な要素の一つが、打撃時のボールに掛かるバックスピンの量であり、多すぎても少なすぎても飛ばないことが知られている。大半のゴルフプレーヤーにおいて、飛距離のロスはバックスピン量の過多によるところが多い。飛距離をロスしないために、打撃時に掛かるバックスピン量を抑えたボールが提供されている。これらのボールは、いずれも低コンプレッションに設計されており、小さな力でもボールを大きく変形させることができ、低ヘッドスピードのプレーヤーでもスピン量を抑えたドライバーショットが可能となる。このようにボールのたわみ量を調整してスピン量を減らすことは当業者にとって、最も簡便な手法である。しかしながら、たわみ量を大きくすることは、その分ボールを柔らかくすることと外ならず、打撃時のフィーリングも変わる。特に、高ヘッドスピードのプレーヤーにとっては、たわみ量の大きいボールは、ショット時の手応えがないものとなってしまう。従って、たわみ量の変形が一定以下であってもバックスピン量を低く抑えて、打撃時のフィーリングの違和感がなく飛距離離増大を図るゴルフボールを提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-207709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ゴルフボール打撃時の低スピン特性を発揮させて飛び性能を改善し得るゴルフボール用ゴム組成物及びこれを用いたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ゴルフボール用ゴム組成物の配合成分を、(A)基材ゴム、(B)イソシアネート基またはブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、(C)ジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩、及び(D)有機過酸化物の上記(A)~(D)成分を必須成分とすることにより、このゴム組成物の架橋成形物をコアとしてゴルフボールに用いた結果、意外にもゴルフボール打撃時の低スピン特性を十分に発揮できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。その理由は定かではないが、コアに、上記(B)成分であるイソシアネート基またはブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを配合することで、分子中にウレタン結合やウレア結合からなる網目構造を形成し、この特異な架橋成形物がボールの低スピン化に有効に働くものと推察される。
【0009】
従って、本発明は、下記のゴルフボール用ゴム組成物及びゴルフボールを提供する。
1.下記(A)~(D)の各成分、
(A)基材ゴム、
(B)イソシアネート基またはブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、
(C)ジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩、及び
(D)有機過酸化物
を含有し、上記(B)成分が、2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート及び2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレートの群から選ばれる化合物であると共に、上記(B)成分の配合量が、(A)基材ゴム100質量部に対して0.1~50質量部であり、且つ、上記(B)成分と(C)成分との合計量に対する(B)成分の配合割合が3.2~16.7質量%の範囲内であることを特徴とするゴルフボール用ゴム組成物。
.上記ゴム組成物の加硫成形物がゴルフボール用コアである上記記載のゴルフボール用ゴム組成物。
.上記コア(加熱成形物)における初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷した時の変形量が2.0~4.0mmである上記1又は2記載のゴルフボール用ゴム組成物。
.コアと該コアを被覆する単層又は複数層のカバーとを有するゴルフボールであって、上記コアが、上記1~のいずれかに記載のゴム組成物により形成されることを特徴とするゴルフボール。
.上記カバーが、最外層と、該最外層とコアとの中間に位置する中間層との2層からなり、この中間層の材料硬度がショアD硬度で62~74である上記記載のゴルフボール。
.上記カバーが、最外層と、該最外層とコアとの中間に位置する中間層との2層からなり、上記最外層の材料硬度がショアD硬度で25~60である上記4又は5記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボール用ゴム組成物よれば、該ゴム組成物をゴルフボールの各構成部材、特にコアとして適用した場合に、ゴルフボール打撃時の低スピン特性を発揮させて飛び性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施態様であるゴルフボールの概略断面図である。
図2】実施例1~4及び比較例1~3において、ボールの所定荷重時のたわみ量とドライバーで打撃したボールのバックスピン量との関係を示すグラフである。
図3】実施例5~8及び比較例4~6において、ボールの所定荷重時のたわみ量とドライバーで打撃したボールのバックスピン量との関係を示すグラフである。
図4】実施例9~12及び比較例7~9において、ボールの所定荷重時のたわみ量とドライバーで打撃したボールのバックスピン量との関係を示すグラフである。
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボール用ゴム組成物は、下記(A)~(D)の各成分を含有することを特徴とする。
(A)基材ゴム、
(B)イソシアネート基またはブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、
(C)ジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩、及び
(D)有機過酸化物
【0013】
上記(A)成分の基材ゴムについては、特に制限されるものではないが、特にポリブタジエンを用いることが好適である。
【0014】
上記のポリブタジエンは、そのポリマー鎖中に、シス-1,4-結合を60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上有することが好適である。ポリブタジエン分子中の結合に占めるシス-1,4-結合が少なすぎると、反発性が低下する場合がある。
【0015】
また、上記ポリブタジエンに含まれる1,2-ビニル結合の含有量としては、そのポリマー鎖中に、通常2%以下、好ましくは1.7%以下、更に好ましくは1.5%以下である。1,2-ビニル結合の含有量が多すぎると、反発性が低下する場合がある。
【0016】
上記ポリブタジエンは、(ML1+4(100℃))が、好ましくは20以上、より好ましくは30以上であり、上限としては、好ましくは120以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは80以下である。
【0017】
なお、本発明でいうムーニー粘度とは、回転可塑度計の1種であるムーニー粘度計で測定される工業的な粘度の指標(JIS K 6300)であり、単位記号としてML1+4(100℃)を用いる。また、Mはムーニー粘度、Lは大ロータ(L型)、1+4は予備加熱時間1分間、ロータの回転時間は4分間を示し、100℃の条件下にて測定したことを示す。
【0018】
上記ポリブタジエンは、希土類元素系触媒やVIII族金属化合物触媒を用いて合成したものを使用することができる。
【0019】
なお、基材ゴム中には、上記ランタン系列希土類元素化合物とは異なる触媒にて合成されたポリブタジエンゴムを配合してもよい。また、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等を配合してもよく、これら1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0020】
ゴム全体に占める上記ポリブタジエンの割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。また、基材ゴムの100質量%、即ち基材ゴムの全てが上記ポリブタジエンであってもよい。
【0021】
(B)成分は、イソシアネート基またはブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルである。後述する(C)成分であるジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩を配合したゴム組成物中に、上記(B)成分であるイソシアネート基又はブロックイソシアネート基を含有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを配合することにより、上記(B)成分と上記(C)成分との共重合体を生成することができる。そして、この共重合体に導入されたイソシアネート基は、原材料に含まれる水分、ジアクリル酸やジメタクリル酸由来のカルボン酸等の活性水素を持つ化合物との反応を経て、分子中にウレタン結合、ウレア結合を生成し、これらの結合を有する網目構造を形成する。このようにして得られたゴム組成物の架橋成形物よりなるゴルフボール用コア材料は、該コア材料からなるゴルフボールのスピン特性の改良に有効に働くと推察される。
【0022】
ただし、イソシアネート基は反応活性が強く、活性水素有する化合物と容易に常温で反応するので、原料の秤量、ゴム組成物中への混錬等において、大気中の湿度の影響を受け易い。このため、ゴム組成物の加熱温度に制約があり、配合の自由度が低くなり、配合成分の均一な組成物が得られ難くなり、混錬後の取り扱い時間に制限が生じるなどの様々な問題点がある。これらの問題は、活性なイソシアネート基をブロック剤でマスクされたブロックイソシアネートを用いることで解決されることが多い。なお、ブロックイソシアネートの解離温度は、イソシアネート化合物、ブロック剤、触媒及びその量、イソシアネートと反応する化合物の有無などより影響を受ける。
【0023】
上記ブロック剤としては、一般的には、フェノール、クレゾール、イソノニルフェノール等のアルコール類、フェノール類、メチルエチルケトオキシム等のオキシム類、ε-カプロラクタム等のアミド類、ラクタム類、アミン類、アミド類および、マロン酸ジエチル等のβ-ジカルボニル化合物類などが用いられる。
【0024】
上記ブロック剤でマスクされたブロックイソシアネートを(B)成分として用いる場合、ブロックイソシアネートの解離温度は、R-NHCO-B(BH:ブロック剤)において、Bとカルボニル基との結合力の影響を受ける。ウレタンのカルボニル炭素は正に荷電し、Bは負に荷電しており、これらの荷電の偏りの差が大きいほど結合力が大きくなり、解離温度が高くなる。上記ブロック剤の解離温度は以下の順である。
アルコール類 > ε-カプロラクタム > フェノール類 > オキシム類 > 活性メチレン化合物
【0025】
上記(B)成分としては、市販品を用いることができ、例えば、2-イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工社製の商品名「カレンズMOI」)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート(昭和電工社製の商品名「カレンズMOI-BP」)、2-[0-(1’-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート(昭和電工社製の商品名「カレンズMOI-BM」)などが挙げられる。
【0026】
(B)成分の配合量は、低スピン化効果とボール耐久性の点から、上記(A)成分である基材ゴム100質量部に対して0.1~50質量部、より好ましくは0.3~25質量部である。上記配合量が上記範囲より多いと、ボール耐久性が悪くなり割れやすくなる場合があり、一方、上記配合量が上記範囲より少ないと低スピン化の効果が得られない場合がある。
【0027】
また、上記(B)成分の配合割合については、(B)成分と(C)成分との合計量に対する(B)成分の配合割合が1~50質量%の範囲内であることが好適であり、より好ましい範囲は、2~30質量%の範囲内である。その理由は、基材ゴムは、(B)成分と(C)成分によって硬化されるが、硬化剤としての能力は(C)成分の方が優れる。よって(B)成分の割合を高くすると、基材ゴムを硬化させるために必要な(B)成分と(C)成分の必要量が増加する。このことは、コアの耐久性に対して不利に作用する場合がある。また、(B)成分の割合が低すぎると低スピン化の効果が得られない場合があるからである。
【0028】
(C)成分は、ジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩であり、これらは通常、ゴルフボールのコア等のゴム組成物の基材ゴムに対する共架橋剤として用いられることが知られている。上記のジアクリル酸やジメタクリル酸の金属として具体的には、亜鉛、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等が挙げられ、特に亜鉛が好ましい。従って、共架橋剤としては、ジアクリル酸亜鉛又はジメタクリル酸亜鉛が最も好ましい。
【0029】
(C)成分のジアクリル酸、ジメタクリル酸、またはこれらの金属塩は、平均粒度3~30μmを有することが好ましく、より好ましくは5~25μm、更に好ましくは8~15μmである。上記平均粒度が3μm未満では、ゴム組成物中で凝集しやすく、アクリル酸同士の反応性が向上してしまい、基材ゴム同士の反応性が減少してしまうため、ゴルフボールの反発性能を十分に得られないことがある。上記共架橋剤の平均粒度が30μmを超えると、共架橋剤粒子が大きくなり過ぎてしまい、得られるゴルフボールの特性のバラツキが大きくなる。
【0030】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分の基材ゴム100質量部に対し、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上であり、上限としては、好ましくは65質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは55質量部以下である。上記配合量が上記範囲より少ないと、軟らかくなり過ぎて反発性が悪いものとなり、上記範囲より多いと、硬くなり過ぎて打球感が悪くなるとともに、脆く耐久性に劣るものとなる。
【0031】
(D)成分は有機過酸化物であり、特に、1分間半減期温度が110~185℃である有機過酸化物を用いることが好適である。このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(日油社製「パークミルD」)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ25B」)、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製「パーブチルP」)等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドを好適に用いることができる。そのほかの市販品としては、「パーヘキサC-40」、「ナイパーBW」、「パーロイルL」等(いずれも日油社製)、または、Luperco 231XL(アトケム社製)などを例示することができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。
【0032】
(D)成分の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限値としては、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0033】
上述した(A)~(D)の各成分の他には本発明の効果を妨げない限り、例えば、充填材、老化防止剤及び有機硫黄化合物などの各種添加物を配合することができる。
【0034】
充填材としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることができる。また、この配合の上限は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは40質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0035】
老化防止剤としては、特に制限はないが、例えば、2,2-メチレンビス(4-メチル-6-tertブチルフェノール)、4,4-ブチリデンビス(3-メチル-6-tertブチルフェノール)、2,2-メチレンビス(4-エチル-6-tertブチルフェノール)などのフェノール系老化防止剤が挙げられ、市販品としてはノクラックNS-6、同NS-30、同NS-5(大内新興化学工業(株)製)等を採用することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。老化防止剤の配合量については、特に制限はないが、基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.4質量部以下である。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0036】
有機硫黄化合物としては、特に制限はないが、例えばチオフェノール類、チオナフトール類、ジフェニルポリスルフィド類、ハロゲン化チオフェノール類、又はそれらの金属塩等を挙げることができる。具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール等の亜鉛塩、硫黄数が2~4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。中でも、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、及び/又はジフェニルジスルフィドを好適に用いることができる。
【0037】
有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、上限として、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下であることが推奨される。有機硫黄化合物の配合量が多すぎると、ゴム組成物の加熱成形物の硬さが軟らかくなりすぎてしまう場合があり、一方、少なすぎると反発性の向上が見込めない場合がある。
【0038】
上記各成分を含有するゴム組成物を加熱硬化させることにより架橋成形物を製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形または射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、約100~200℃、10~40分の条件にてゴム組成物を加熱することにより、該ゴム組成物を硬化させ、架橋成形物を製造することができる。
【0039】
ここで、上述した配合により、加熱硬化後のゴル上記のゴルフボール用ゴム成型物をゴルフボール用コアとして採用することにより、ドライバーでのフルショット時のゴルフボールの低スピン化を高めることができる。
【0040】
また、上記コア(加熱成形物)における初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷した時のたわみ量(変形量)については、特に制限はないが、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは2.3mm以上であり、上限としては、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下であることが推奨される。上記の値よりも大きすぎると、コアが軟らかくなりすぎるため、十分な低スピン効果を得られず反発性も低下することがある。また、上記の値よりも小さすぎると、低スピン効果を得られず、打感が硬くなってしまうことがある。
【0041】
コアの直径としては、特に制限はなく製造するゴルフボールの層構造にも依るが、好ましくは20mm以上、より好ましくは25mm以上であり、上限として、好ましくは41mm以下、より好ましくは40mm以下である。コアの直径がこの範囲を逸脱すると、ボールの初速が低くなり、あるいは適切なスピン特性を得られない場合がある。
【0042】
上記ゴム組成物は、上述したようにゴルフボール用コアとして使用することが好適である。また、本発明のゴルフボールは、コアと、1層または複数層のカバーとを具備する構造を有する。複数層のカバーとする場合は、最外層と、該最外層とコアとの中間に位置する中間層との2層をカバーの構成とすることが好適である。例えば、図1に示すように、コア1と、該コア1を被覆する中間層2と、該中間層を被覆する最外層3を具備するゴルフボールGが挙げられる。なお、最外層3は、塗膜層を除き、ゴルフボールの層構造での最外層に位置するものである。最外層3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。また、最外層3の表面には、特に図示してはいないが、通常、塗膜層が形成される。
【0043】
次に、コアを被覆する1層または複数層のカバーについて説明する。
カバー材料については、特に制限はないが、ゴルフボールに用いられている各種のアイオノマー樹脂、ウレタンエラストマー等の公知の材料を使用することができる。
【0044】
また、ボールの低スピン化をより一層実現するために、コアに隣接する層にはアイオノマー材料を用いることが特に好ましい。具体的には、市販のアイオノマー樹脂や下記(i)~(iv)成分を配合した樹脂混合物を用いることが好ましい。
(i-1)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(ii-2)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0~0:100になるように配合した(i)ベース樹脂と、(ii)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを質量比で100:0~50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、
(iii)分子量が228~1500の脂肪酸及び/又はその誘導体 5~80質量部と、
(ix)上記(i)成分及び(iii)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1~17質量部
とを配合する混合材料。特に、上記(i)~(ix)成分の混合材料を用いる場合には、酸基が70%以上中和されているものを採用することが好ましい。
【0045】
また、カバーのうち最外層の材料としては、ウレタン材料、特に熱可塑性ウレタンエラストマーを主材とすることが好適である。
【0046】
更に、上記コアに隣接する層と最外層カバーとの間には、1層または2層以上のカバー(中間層)を成形してもよい。この場合、中間層材料としては、アイオノマー等の熱可塑性樹脂を用いることが好適である。
【0047】
本発明におけるカバーを得るには、例えば、ボールの種類に応じて予め作製した単層又は2層以上の多層コアを金型内に配備し、上記混合物を加熱混合溶融し、射出成形することにより、コアの周囲に所望のカバーを被覆する方法等を採用できる。カバーの形成方法は、上記のほかに、例えば、本発明のカバー材により予め一対の半球状のハーフカップを成形し、このハーフカップでコアを包んで120~170℃、1~5分間、加圧成形する方法などを採用することもできる。
【0048】
上記カバーが1層の場合、その厚さは0.3~3mmとすることができる。上記カバーが2層の場合、最外層の厚さは0.3~2.0mm、中間層の厚さは0.3~2.0mmの範囲とすることができる。
【0049】
また、上記カバーを構成する各層(カバー層)のショアD硬度は、特に制限はないが、カバーが単層の場合は40以上とすることが好ましく、より好ましくは45以上であり、上限としては、好ましくは70以下、より好ましくは65以下である。
【0050】
上記カバーが、最外層と、該最外層とコアとの中間に位置する中間層との2層からなる場合、中間層の材料硬度はショアD硬度で62以上とすることが好ましく、より好ましくは68以上であり、上限値として、好ましくは74以下、より好ましくは72以下である。一方、最外層の材料硬度はショアD硬度で25以上とすることが好ましく、上限値として、好ましくは60以下、より好ましくは50以下である。即ち、上記カバーが最外層と中間層とからなる場合、中間層の材料硬度は最外層の材料硬度より高いことが好適である。
【0051】
なお、上記カバーの最外層の表面には、多数のディンプルが形成されるものであり、更にカバー上には下地処理、スタンプ、塗装等種々の処理を行うことができる。特に本発明のカバー材で形成されたカバーにこのような表面処理を施す場合、カバー表面の成形性が良好であるため作業性を良好にして行うことができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0053】
〔実施例1~12,比較例1~9〕
下記表1に示すポリブタジエンを主成分とするコア材料を用いて、「C1」~「C7」の7種類のゴム配合によりコア組成物を調整した後、155℃で15分間加硫を行い、コア表面の研磨工程を経て、直径38.65mmのコアを作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
上記コア材料の詳細は下記のとおりである。
・「cis-1,4-ポリブタジエン」:JSR社製、商品名「BR01」
・「2-イソシアナトエチルメタクリレート」:商品名「カレンズMOI」昭和電工社製
・「ジアクリル酸亜鉛」 日本触媒社製
・有機過酸化物(1)(ジクミルパーオキサイド):商品名「パークミルD」(日油社製)
・有機過酸化物(2):1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカとの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・「老化防止剤」 商品名「ノクラックNS6」(大内新興化学工業社製)
・「酸化亜鉛」 堺化学工業社製
【0056】
カバー層(中間層及び最外層)の形成
次に、上記で得たコアの周囲に、下記表2に示す樹脂材料「M1」~「M3」の配合により、厚さ1.2mmの中間層を射出成形法により被覆して中間層被覆球体を製造し、次いで、該中間層被覆球体の周囲に、全ての例に共通する樹脂材料「O1」の配合により厚さ1.0mmの最外層材料(カバー材料)を射出成形法により被覆して、スリーピースゴルフボールを作製した。この際、各実施例、比較例のカバー表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成された。
【0057】
【表2】
【0058】
上記表中の配合成分の詳細は下記のとおりである。
・「ハイミランAM7318」三井ダウポリケミカル社製のNa系アイオノマー
・「ハイミラン1706」三井ダウポリケミカル社製のZn系アイオノマー
・「ハイミランAM7939」三井ダウポリケミカル社製のアイオノマー
・「ハイミランAM7938」三井ダウポリケミカル社製のアイオノマー
・「TPU」:ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、芳香族系及びエーテルタイプの熱可塑性ポリウレタン「ショアD硬度47」
【0059】
得られたゴルフボールについて、ドライバースピン量を下記方法で評価した。その結果を表3、表4及び表5に示す。また、コア及びボールのたわみ量(mm)については下記のとおり測定した。
【0060】
ドライバースピン量
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけて、ヘッドスピード45m/sにて打撃した直後のボールのスピン量を初期条件計測装置により測定した。クラブは、ブリヂストンスポーツ社 製の「TourB XD-3ドライバー(2016モデル)」(ロフト角9.5°)を使用した。
【0061】
コア及びボールの圧縮硬度
コア又はボールを硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときまでのたわみ量をそれぞれ計測した。なお、上記のたわみ量はいずれも23.9℃に温度調整した後の測定値である。
【0062】
中間層及び最外層の材料硬度(ショアD硬度)
中間層及び最外層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアD硬度はASTM D2240-95規格に準拠して計測した。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
表3~表5の各例のボール性能は、図2~4のグラフを参照して以下の点が考察される。
中間層材料として「M1」を用いたゴルフボールについて、コアのたわみ量が同一の場合、比較例1~3のように(B)成分を配合しないコアよりも、実施例1~4のように(B)成分を配合したコアの方が、図2に示されるように、ドライバーショット時のバックスピン量が常に小さい。
また、中間層材料として「M2」を用いたゴルフボールについて、コアのたわみ量が同一の場合、比較例4~6のように(B)成分を配合しないコアよりも、実施例5~8のように(B)成分を配合したコアの方が、図3に示されるように、ドライバーショット時のバックスピン量が常に小さい。
さらに、中間層材料として「M3」を用いたゴルフボールについて、コアのたわみ量が同一の場合、比較例7~9のように(B)成分を配合しないコアよりも、実施例9~12のように(B)成分を配合したコアの方が、図4に示されるように、ドライバーショット時のバックスピン量が常に小さい。
したがって、上記のとおり、中間層の材質や硬度に関係なく、(B)成分を配合したコアの方が、当該成分を配合しないコアよりも、たわみ量が同じ場合には、ボールの低スピン化を実現することができ、飛び性能が良好となることが分かる。
図1
図2
図3
図4