(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】経腸栄養用オスコネクタ
(51)【国際特許分類】
A61M 39/10 20060101AFI20240903BHJP
A61J 15/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A61M39/10 120
A61J15/00 Z
(21)【出願番号】P 2020117728
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大輔
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-229550(JP,A)
【文献】特開2017-209149(JP,A)
【文献】特開2013-111166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/10
A61J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に設けられた経腸栄養用のメスコネクタに挿入可能なオスルアー部を上流側に有する本体部と、
前記メスコネクタと係合可能な第1の位置と、前記第1の位置よりも下流側で且つ前記オスルアー部が露出する第2の位置との間を移動可能なカプラーと、
前記本体部と一体に成形され、少なくとも前記第2の位置まで延びる延長部と、
前記カプラーの下流側への移動を制限するカプラーストッパとを備え
、
前記カプラーストッパは、前記延長部の表面から径方向外側に突出する複数の凸部であり、
前記カプラーは、前記凸部を側方から挟み込む切欠、及び、前記凸部と嵌合する内径の少なくとも一方によって、軸方向移動が規制されて前記第2の位置に一時的に保持される、経腸栄養用オスコネクタ。
【請求項2】
前記本体部は、前記オスルアー部の基端に形成された鍔状部を有し、
前記カプラーが前記カプラーストッパと係合した位置における前記カプラーの上流側端部と、前記オスルアー部の上流側端部との距離は、前記オスルアー部の上流側端部と前記鍔状部との距離の1.5倍以上2.5倍以下である、請求項1に記載の経腸栄養用オスコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は経腸栄養用のオスコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器においては、種々の接続部が存在する。近年、医療機器の増加により、医療機器の誤接続が大きな問題となっている。このため、医療機器の誤接続を防止するために、新しいコネクタの規格が定められつつある。具体的には、医療機器を6つのカテゴリーに分け、異なるカテゴリーの医療機器を互いに接続できないコネクタとすることが求められている。例えば、栄養に関する分野においては、患者側上流端にオスルアーを有するオスコネクタを設け、供給側下流端にオスルアーを受け入れるメスコネクタを設ける規格となっている。当該規格により、従来、患者側上流端に設けられるコネクタはメスコネクタであったが、オスコネクタに変更される。
【0003】
患者側上流端に設けられるオスコネクタは、長期に使用される場合もあり、清浄に維持することは非常に重要である。しかし、カプラーを有するオスコネクタの場合、オスルアーの先端から漏れ出した栄養剤が、オスルアーとカプラーとの隙間に浸入しやすい。このような問題に対してカプラー内を清掃する種々の器具が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-188522号公報
【文献】特開2017-099738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オスルアーとカプラーとの間に洗浄液を注入して洗浄する方法は、汚れの除去という点では優れているが、器具の取り付けや洗浄操作が煩雑であるという問題がある。
【0006】
オスルアーとカプラーとの間に拭き取り用のチップを挿入して汚れを拭き取る方法は、操作は簡便であるが、狭い隙間を十分に清掃できないという問題がある。
【0007】
そこで、発明者らは従来の経腸栄養液が付着したカプラーを後から清掃するという既存の発想ではなく、カプラーへの経腸栄養液の付着自体を未然に防止するという新たな方向性で検討を行った。本開示の課題は、経腸栄養液が付着する事態を未然に防止可能な経腸栄養用オスコネクタを実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
経腸栄養用オスコネクタの一態様は、上流側に設けられた経腸栄養用のメスコネクタに挿入可能なオスルアー部を上流側に有する本体部と、メスコネクタと係合可能な第1の位置と、第1の位置よりも下流側で且つオスルアー部が露出する第2の位置との間を移動可能なカプラーと、第2の位置に設けられ、カプラーの移動を制限するカプラーストッパとを備えている。
【0009】
経腸栄養用オスコネクタの一態様は、カプラーをオスルアーから離間した第2の位置に移動させて保持することができる。このため、カプラーがオスルアーから離間した状態で、メスコネクタとオスルアーの接続又は接続解除をすることで、ルアーから液が噴出してもカプラー内に入りにくくできる。また、カプラーが第2の位置に保持されることで、カプラーが患者の皮膚に当接する事態を防止することができ、消毒しにくいカプラーを消毒しなければならない事態を防止することができる。
【0010】
経腸栄養用オスコネクタの一態様において、カプラーストッパは、チューブを介して本体部と接続されていてもよい。このような構成とすれば、カプラーストッパの配置の自由度が向上する。また、チューブを曲げることにより第2の位置に移動させたカプラーの軸を本体部の軸とずらすことが容易にでき、経腸栄養液等がカプラー内へさらに浸入しにくくできる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の経腸栄養用オスコネクタによれば、特殊な器具を用いることなくカプラーを清潔に維持することが容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタを示す側面図である。
【
図2】一実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタを示す断面図である。
【
図4】一実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタの変形例を示す側面図である。
【
図5】第2の実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタを示す側面図である。
【
図6】第2の実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタを示す断面図である。
【
図7】第2の実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタの変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタ100Aは、
図1及び
図2に示すように、本体部101Aと、カプラー103と、カプラーストッパ104Aとを備えている。本体部101Aは、
図3に示すような、上流側のメスコネクタ300に挿入されるオスルアー部111と、患者(下流側)の体腔内に挿入される柔軟なカテーテル200が接続可能な接続部112とを有している。カテーテル200の上流側端部は接続部112に固着されており、体腔外に露出している。カテーテル200の下流側は患者の腹部等から体腔内に挿入され、下流側端部に形成された開口部である側孔から栄養液が胃や腸に流出可能とされている。なお、接続部112はカテーテル200を直接固定する形態に限らない。カテーテル200に組み付けたコネクタと接続できるようにしたり、体腔内に留置される胃瘻ボタンと容器とをつなぐ延長チューブに接続できるようにしたりすることができる。
【0014】
カプラー103は、メスコネクタ300の外表面に設けられた雄ネジ311と螺合可能な雌ネジ135を有する筒状であり、メスコネクタ300の雄ねじ311と螺合可能な第1の位置と、第1の位置よりも下流側でオスルアー部111が露出する第2の位置との間を移動可能である。
【0015】
カプラーストッパ104Aは、第2の位置に設けられており、カプラー103の最小内径よりも外径が大きい部分を有する部材であり、カプラー103がカプラーストッパ104Aを越えて下流側に移動しないようにすることができる。
【0016】
本実施形態の経腸栄養用オスコネクタ100Aは、カプラー103が第1の位置とオスルアー部111が露出する第2の位置とを移動可能である。このため、カプラー103を第2の位置に移動させてオスルアー部111を露出させた状態で、オスルアー部111をメスコネクタ300に挿入することができる。挿入の際に経腸栄養液があふれ出したとしても、下流側に離れたカプラー103内に経腸栄養液が付着することはほとんどない。また、オスルアー部111が露出しているため、オスルアー部111がメスコネクタ300に挿入された状態であっても、あふれ出した経腸栄養液を容易に拭き取ることができる。経腸栄養液を拭き取った後で、カプラー103を第1の位置に移動させれば、カプラー103の内側に経腸栄養液が付着することなくカプラー103をメスコネクタ300と係合させてロックさせることができる。
【0017】
コネクタを分離する際には、まずカプラー103とメスコネクタ300との係合を解除して、カプラー103を第2の位置に移動させる。次に、オスルアー部111をメスコネクタ300から引き抜く。このようにすれば、オスルアー部111をメスコネクタから引き抜く際に経腸栄養液があふれ出したとしても、カプラー103がオスルアー部111の上流側端部から離れているため、カプラー103の内側にあふれ出した経腸栄養液が入り込むことはほとんどない。
【0018】
カプラーストッパ104Aが設けられておらず、カプラー103が第2の位置を越えて患者の体表面に当接するまで移動可能な場合、体表面に当接したカプラー103が、患者の皮膚に接して、洗浄しにくいカプラー内面の清潔さを保てない場合がある。
【0019】
また、本実施形態において、カプラーストッパ104Aは、カプラー103と解除可能に係合する。このようにすれば、カプラー103が第2の位置を越えて下流側に移動しないように、カプラー103を一時的に第2の位置に保持することができる。これにより、カプラー103が意図せずに第1の位置側への移動し、経腸栄養液がカプラー103内に付着する事態を生じにくくすることができる。
【0020】
本実施形態においてカプラーストッパ104Aは、本体部101Aとチューブ205により接続された連結部121に設けられている。カプラーストッパ104Aは、連結部121に設けられた径方向外側に突出する等間隔に設けられた4つの凸部である。カプラーストッパ104Aの最大外径は、カプラー103の基部の内径とちょうど嵌合するように調整されており、カプラー103を第2の位置に一時的に保持することができる。
【0021】
カプラー103のカプラーストッパ104Aと当接する部分に窪みや開口部等を設け、カプラーストッパ104Aが窪み等と係合するようにしてもよい。このようにすれば、カプラーストッパ104Aとカプラー103との係合をより強固にすることができる。カプラーストッパ104Aが窪み等と係合する際に、クリック感を与えるようにすれば、使用者はカプラー103が第2の位置へ固定されたことを容易に把握でき、操作性をさらに向上させることができる。
【0022】
カプラー103が移動可能な第2の位置は、カプラー103を汚れにくくする観点から、オスルアー部111が露出して拭き取ることができる位置であればよいが、好ましくはさらに下流側の本体部101Aが完全に露出する位置である。第2の位置が第1の位置から離れすぎず、使用者にカプラー103を第2の位置まで確実に移動させるように促す観点からは、オスルアー部111の先端から好ましくは3cm程度から、好ましくは8cm程度までの位置である。
【0023】
本実施形態においてカプラーストッパ104Aは、本体部101Aとチューブ205により接続された連結部121の外面に設けられている。このため、第2の位置の設定が容易にできる。また、チューブ205を可撓性にすれば、チューブ205を曲げることにより、第2の位置に移動させたカプラー103の軸方向を本体部101Aの軸方向とずらすことが容易にできるので、経腸栄養液等がカプラー内へさらに浸入しにくくできる。
【0024】
本実施形態において、カプラーストッパ104Aは、チューブ205とカテーテル200とを連結する連結部121の外面に設けたが、本体部101Aに接続されたカテーテル200の所定の位置に固定できる部材の外面にカプラーストッパ104Aを設ける構成とすることもできる。例えば、カテーテル200を挟んで固定できる半割状の2つの部材の外面や、あらかじめカテーテルを通しておいて所定の位置においてかしめて固定する部材の外面等にカプラーストッパ104Aを設けることができる。また、カプラーストッパは弾性部材であってもよく、弾性変形による応力によってカプラーが保持されるようであってもよい。また、リブをカプラー内面に設けて筒状の連結部に固定可能にしてもよい。
【0025】
図4に示す変形例のように、カプラー103の基端部に4つのカプラーストッパ104Aのうちの1つがはまり込むように切欠145を設けてもよい。このようにすれば、第2の位置においてカプラー103が回転しないようにでき、操作性を向上させることができる。なお、切欠145は複数カ所に設けてもよい。また、切欠145がカプラーストッパ104Aを側方から挟み込むようにすれば、切欠145をカプラー103の軸方向の移動の制限にも寄与させることができる。
【0026】
本実施形態においてカプラーストッパ104Aは軸方向外側に突出する4つの凸部とした。但し、少なくとも1つの凸部が設けられていればよい。また、カプラーストッパ104Aは、周方向に連続する環状に設けられていてもよい。
【0027】
本実施形態において、本体部101Aは、オスルアー部111よりも下流側に、カプラー103の最小内径よりも外径が大きい鍔状部115を有しており、カプラー103が第1の位置を超えて上流側に移動しないようになっている。カプラー103が第1の位置よりも上流側に移動しないようにする機構はどのようなものであってもよく、鍔状部115を設ける以外の方法により実現してもよい。
【0028】
カプラー103がメスコネクタ300に螺合した状態において、カプラー103が緩むことを防ぐ弱嵌合機構を設けることもできる。弱嵌合機構は、例えば本体部101Aの外面をテーパーにしたり、カプラー103の内面の寸法を調整したりすることで実現できるが、他の方法により実現してもよい。なお、第1の位置においても、カプラー103は、本体部101Aの周りを自由に回転することができる。また、第1の位置においてカプラー103Aが、本体部111と一時的に係合するようにして、カプラー103の意図しない第2の位置側への移動を生じにくくすることもできる。
【0029】
本実施形態において、カプラー103を第2の位置へ移動させることにより露出する把持部を本体部101Aに設けることができる。このようにすればカプラー103を第2の位置へ移動させて把持部が露出した状態で、オスルアー部111の挿抜を行うように使用者を促すことができる。把持部は、例えば軸を挟んで相対する位置に設けられた、指にフィットしやすい径方向内側に凹んだ面とすることができる。また、オスルアー部111の挿抜の際にカプラー103を第2の位置へ移動するように促す表示を、カプラー103等に設けることもできる。
【0030】
カプラーストッパ104Aが本体部101Aとチューブ205を介して接続された例を示したが、カプラーストッパを本体部と一体にすることもできる。
図5及び
図6に示す第2の実施形態に係る経腸栄養用オスコネクタ100Bは、カプラーストッパ104Bと一体となった本体部101Bを有している。第2の実施形態の本体部101Bは、オスルアー部111と接続部112との間に延長部125を有し、延長部125の下流側端部には、カプラー103の下流側端部と係合するカプラーストッパ104Bが設けられている。第2の実施形態においては、本体部101Bにカプラーストッパ104Bが一体に成形されているため、
図1に示す構成よりも部品点数を低減できる。
【0031】
延長部125は、カプラーストッパ104Bとカプラー側係合部145とが係合した位置における、オスルアー部111の上流側端部からカプラー103の上流側端部までの長さL2が、オスルアー部111の上流側端部から鍔状部115の長さL1以上となるようにできればよい。オスルアー部111の拭き取りを容易にする観点からはL2がL1の1.5倍以上が好ましく、本体部101Bの大型化を防ぐ観点からはL2がL1の2.5倍以下が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示の経腸栄養用オスコネクタは、ISO80369-3に準拠した経腸栄養の分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0033】
100A 経腸栄養用オスコネクタ
100B 経腸栄養用オスコネクタ
101A 本体部
101B 本体部
103 カプラー
104A カプラーストッパ
104B カプラーストッパ
111 オスルアー部
112 接続部
115 鍔状部
121 連結部
125 延長部
135 雌ネジ
145 カプラー側係合部
200 カテーテル
205 チューブ
300 メスコネクタ
311 雄ネジ