(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】樹脂成形材料、成形品および当該成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240903BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240903BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240903BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240903BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20240903BHJP
B29C 45/02 20060101ALI20240903BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20240903BHJP
B29K 63/00 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/01
C08K5/54
C08K5/09
C08G59/62
B29C45/02
B29C43/34
B29K63:00
(21)【出願番号】P 2020135693
(22)【出願日】2020-08-11
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】野津 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将人
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-048948(JP,A)
【文献】特開2009-132780(JP,A)
【文献】特開2019-218516(JP,A)
【文献】特開2019-189703(JP,A)
【文献】特開平09-102409(JP,A)
【文献】特開2020-117618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 59/00- 59/72
B29C 45/02
B29C 43/34
B29K 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)磁性粒子と、
(D)シランカップリング剤と、
を含む、樹脂成形材料
(ただし、シロキサン構造を有するポリアミドイミドと、エポキシ樹脂と、金属元素含有粉と、を含む樹脂成型材料は除く)であって、
前記樹脂成形材料中の前記磁性粒子(C)の含有率が70体積%以上90体積%以下であり、
前記樹脂成形材料において、キュラストメーターを用いて、130℃における硬化トルク値を経時的に測定した際の、最大硬化トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT
10とし、Tの90%のトルク値をT
90としたとき、T
10に達する時間が、100秒以上350秒以下、T
90に達する時間が、400秒以上600秒以下である、樹脂成形材料。
【請求項2】
EMMI-1-66法に従い、金型温度130℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間300秒の条件で測定されるスパイラルフロー流動長が15cm以上である、請求項1に記載の樹脂成形材料。
【請求項3】
130℃におけるゲルタイムが、60秒以上400秒以下である、請求項1または2に記載の樹脂成形材料。
【請求項4】
定荷重細管押出式レオメータを用いて130℃の条件で測定される溶融粘度が、100Pa・s以上1000Pa・s以下である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項5】
前記樹脂成形材料を130℃、5分の条件で硬化させたときの硬化物の、室温25℃における曲げ強度が、30MPa以上200MPa以下である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項6】
前記樹脂成形材料を130℃、5分の条件で硬化させたときの硬化物の、室温25℃における曲げ弾性率が、10GPa以上60GPa以下である、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項7】
硬化剤(B)はフェノール系硬化剤を含む、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項8】
前記樹脂成形材料中のシランカップリング剤(D)の含有率が0.1質量%以上1
質量%以下である、請求項
1~7のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項9】
さらに、カルボン酸系分散剤(E)を含む、請求項1~
8のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項10】
カルボン酸系分散剤(E)は、下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種含む、請求項
9に記載の樹脂成形材料。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルカルボキシル基、炭素数1~5のアルコキシカルボキシル基、炭素数1~5のアルキルアルコール基、炭素数1~5のアルコキシアルコール基を示し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。Xは、酸素原子、炭素数1~30のアルキレン基、二重結合を1以上有する炭素数1~30の2価の鎖状炭化水素基、三重結合を1以上有する炭素数1~30の2価の鎖状炭化水素基を示し、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。nは0~20の整数、mは1~5の整数を示す。)
【請求項11】
磁性粒子(C)は、軟磁性粒子(C1)または硬磁性粒子(C2)である、請求項1~1
0のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項12】
23℃でタブレット状または顆粒状である、請求項1~1
1のいずれかに記載の樹脂成形材料。
【請求項13】
請求項1~1
2のいずれかに記載の樹脂成形材料を硬化してなる成形品。
【請求項14】
トランスファー成形装置を用いて、請求項1~1
2のいずれかに記載の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入する工程と、
前記溶融物を100℃~150℃で硬化する工程と、
を含む、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形材料、成形品および当該成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型・軽量化に伴い、成形性が高い、磁性粒子を含む樹脂成形材料が求められている。磁性粒子は軟磁性粒子と硬磁性粒子の2種類に分類される。
【0003】
特許文献1には、金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備え、 前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂、及びシロキサン結合を有する化合物を含有する、コンパウンドが開示されている。当該文献には、140℃でトランスファー成形により、成形体を作製したと記載されている。
【0004】
特許文献2には、金属元素含有粉と、樹脂組成物と、を備えるコンパウンドであって、所定の式で定義される前記コンパウンドの硬化物のストレス指数が、所定の範囲にあるコンパウンドが開示されている。当該文献には、140℃でトランスファー成形により、成形体を作製したと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/229960号
【文献】国際公開第2019/229961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、高温に弱い部品が増加しており、低温での成形プロセス(100~150℃程度)に対応できる材料が求められている。
しかしながら、成形時の温度が低いと、成形材料の粘度が上昇し、流動性が低下することから成形性に改善の余地があった。特許文献1~2に記載の従来の技術においては、低温での成形プロセスにおいて金型内に未充填部分が発生し、成形性が低かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、磁性粒子を含む樹脂成形材料が所定の特性を満たすことにより、低温での成形プロセスにおいて成形性が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0008】
本発明によれば、
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)磁性粒子と、
を含む、樹脂成形材料であって、
前記樹脂成形材料において、キュラストメーターを用いて、130℃における硬化トルク値を経時的に測定した際の、最大硬化トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの90%のトルク値をT90としたとき、T10に達する時間が、100秒以上350秒以下、T90に達する時間が、400秒以上600秒以下である、樹脂成形材料が提供される。
【0009】
本発明によれば、
前記樹脂成形材料を硬化してなる成形品が提供される。
【0010】
本発明によれば、
トランスファー成形装置を用いて、請求項1~12のいずれかに記載の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入する工程と、
前記溶融物を100℃~150℃で硬化する工程と、
を含む、成形品の製造方法が提供される。
【0011】
なお、本発明において「低温での成形プロセス」とは、注入工程、金型内での硬化工程の温度が100℃~150℃程度であるプロセスを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温での成形プロセスにおいて成形性に優れる樹脂成形材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0014】
本実施形態の樹脂成形材料(樹脂組成物)は、
(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)磁性粒子と、を含み、
前記樹脂成形材料において、キュラストメーターを用いて、130℃における硬化トルク値を経時的に測定した際の、最大硬化トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの90%のトルク値をT90としたとき、T10に達する時間が、100秒以上350秒以下、T90に達する時間が、400秒以上600秒以下である。
【0015】
T10に達する時間を100秒以上350秒以下とすることにより、樹脂成形材料の成形(圧縮成形またはトランスファー成形)において、低温成形プロセスでの当該材料の充填性を向上させることができる。さらに、T90に達する時間を400秒以上600秒以下とすることにより、低温成形プロセスでの十分な硬化時間を確保することができ、未充填部分の発生を好適に抑制することができる。
【0016】
このように、キュラストメーターにより測定される130℃での硬化特性を制御することにより、低温成形時(100~150℃程度)における充填性に優れ、未充填部分の発生が抑制された樹脂成形材料、すなわち成形性に優れた樹脂成形材料を実現することができる。また、成形性をより一層向上させる観点からは、T10に達する時間が150秒以上300秒以下であることがより好ましく、200秒以上300秒以下であることが特に好ましく、さらにT90に達する時間が450秒以上600秒以下であることがより好ましく、500秒以上600秒以下であることが特に好ましい。
【0017】
なお、T10に達する時間およびT90に達する時間は、例えば、樹脂成形材料に含まれる各成分の種類や含有量、樹脂成形材料の粒度分布等をそれぞれ適切に調整することにより制御することが可能である。本実施形態においては、例えば、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、磁性粒子(C)等の種類や含有量を調整することが挙げられる。
【0018】
また、本実施形態の樹脂成形材料は、EMMI-1-66法に従い、金型温度130℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間300秒の条件で測定されるスパイラルフロー流動長が15cm以上、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。上限値は特に限定されないが、70cm以下である。
スパイラルフロー流動長が上記範囲にあることにより、低温成形における樹脂成形材料の充填性がより優れ、未充填部分の発生がより抑制される。
【0019】
本実施形態の樹脂成形材料は、130℃におけるゲルタイムが、60秒以上400秒以下、好ましくは80秒以上350秒以下、より好ましくは100秒以上300秒以下である。
これにより、低温成形における樹脂成形材料の充填性に優れ、未充填部分の発生を抑制することができる。
ゲルタイムの測定は、130℃に加熱した熱板上で樹脂組成物を溶融した後、へらで練りながらタックフリーになるまでの時間(ゲルタイム)を測定することによりおこなうことができる。
【0020】
定荷重細管押出式レオメータを用いて130℃の条件で測定される溶融粘度が、100Pa・s以上1000Pa・s以下、好ましくは100Pa・s以上900Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以上800Pa・s以下である。
130℃の条件で測定される溶融粘度が前記範囲にあることにより、樹脂成形材料の低温成形時(溶融時)の流動性に優れ、成形性を高めることができる。
【0021】
定荷重細管押出式レオメータとしては、例えば、島津製作所製のフローテスタ「CFT―500D」などを用いることができる。また、ダイ穴径は例えば1.0mm、ダイ長さは例えば2.0mm、圧力(荷重)は例えば40kgf(392N)とすることができる。
【0022】
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、磁性粒子(C)とを含み、上述の特性を満たせば特に種類や含有量は限定されないが、樹脂成形材料に含まれる成分としては以下の化合物等を挙げることができる。
【0023】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。エポキシ樹脂としては、これらのうち、23℃で固形状のものを挙げることができる。
【0024】
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂を1種のみ含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。また、同種のエポキシ樹脂であっても異なる分子量のものを併用してもよい。
【0025】
エポキシ樹脂は、好ましくはトリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂および/またはビフェニル構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む。これらエポキシ樹脂の構造の適度な剛直性により、得られる成形体の耐熱性や耐久性を高めることができる。
【0026】
別観点として、エポキシ樹脂は、好ましくはビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂を含む。このエポキシ樹脂の樹脂骨格は適度に柔軟であるため、トランスファー成形時の流動特性を高めやすかったり、トランスファー成形時の設定温度を低くしたりすることができる。さらに、トランスファー成形時および圧縮成形時の成形性(充填性)が改善される。
【0027】
特に、(i)トリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂および/またはビフェニル構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかと、(ii)ビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂とを併用することが、種々の性能のバランスの点で好ましい。
【0028】
トリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、メタン(CH4)の4つの水素原子のうちの3つがベンゼン環で置換された部分構造を含むエポキシ樹脂である。ベンゼン環は、無置換であっても置換基で置換されていてもよい。置換基としては、ヒドロキシ基やグリシジルオキシ基などを挙げることができる。
【0029】
具体的には、トリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(a1)で表される構造単位を含む。この構造単位が2つ以上連なることで、トリフェニルメタン骨格が構成される。
【0030】
【0031】
一般式(a1)において、
R11は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
R12は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
iは、0~3の整数であり、
jは、0~4の整数である。
【0032】
R11およびR12の1価の有機基の例としては、後述の一般式(BP)におけるRaおよびRbの1価の有機基として列挙されているものを挙げることができる。
iおよびjは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0033】
一態様として、iおよびjはともに0である。つまり、一態様として、一般式(a1)中のベンゼン環の全ては、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
【0034】
ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造を含むエポキシ樹脂のことである。ここでのベンゼン環は、置換基を有していてもいなくてもよい。
具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP)で表される部分構造を有する。
【0035】
【0036】
一般式(BP)において、
RaおよびRbは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
【0037】
RaおよびRbの1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0038】
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
RaおよびRbの1価の有機基の総炭素数は、それぞれ、例えば1~30、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、特に好ましくは1~6である。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
より具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP1)で表される構造単位を有する。
【0039】
【0040】
一般式(BP1)において、
RaおよびRbの定義および具体的態様は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
Rcは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
tは、0~3の整数である。
Rcの1価の有機基の具体例としては、RaおよびRbの具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
tは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1である。
【0041】
ビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂(ビスフェノールAまたはビスフェノールFと、エピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるエポキシ樹脂)として具体的には、以下一般式(EP)で表されるエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0042】
【0043】
一般式(EP)中、
複数のRは、各々独立に、水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基であり、
Ra、Rb、RcおよびRdは、それぞれ、複数存在する場合は各々独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
p、q、rおよびsは、それぞれ独立に、0~4であり、好ましくは0~2であり、
nは0以上の整数であり、通常0~10、好ましくは0~5である。
【0044】
Ra、Rb、RcおよびRdの1価の有機基の具体例としては、一般式(BP)におけるRaおよびRbの1価の有機基の具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0045】
本実施形態の樹脂成形材料中のエポキシ樹脂の量は、例えば0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%である。
本実施形態の樹脂成形材料中のエポキシ樹脂の量は、例えば0.5~30体積%、好ましくは3~20体積%である。
【0046】
[硬化剤(B)]
硬化剤(B)は、エポキシ樹脂が有するエポキシ基と反応して結合形成可能なものである限り、特に限定されない。例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香族ジアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなフェノール化合物、イミダゾール化合物等を挙げることができる。特定硬化剤としては、これらの中から、23℃で固形のものを挙げることができる。
【0047】
硬化剤(B)は、特に特定硬化剤として、好ましくはフェノール系硬化剤(フェノール化合物)を含む。これにより、最終的に得られる成形体の耐久性の一層の向上などが期待できる。フェノール系硬化剤は、典型的には、1分子あたり2以上のヒドロキシ基を有する。
【0048】
フェノール系硬化剤は、好ましくは、ノボラック骨格およびビフェニル骨格からなる群より選ばれるいずれかの骨格を含む。フェノール系硬化剤がこれらの骨格のいずれかを含むことで、特に成形体の耐久性を高めることができる。
「ビフェニル骨格」とは、具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP)のように、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造である。
【0049】
ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤として具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP1)において、グリシジル基を水素原子に置き換えた構造のものなどを挙げることができる。
ノボラック骨格を有するフェノール系硬化剤として、具体的には以下一般式(N)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
【0050】
【0051】
一般式(N)において、
R4は、1価の置換基を表し、
uは、0~3の整数である。
R4の1価の置換基の具体例としては、一般式(BP)におけるRaおよびRbの1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
uは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0~1であり、更に好ましくは0である。
【0052】
硬化剤(B)が高分子またはオリゴマーである場合、硬化剤(B)の数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、例えば200~800程度である。
樹脂成形材料中の硬化剤の含有量は、例えば0.1~10質量%、好ましくは0.5~5質量%である。
また、樹脂成形材料中の硬化剤(B)の含有量は、例えば0.5~30体積%、好ましくは3~20体積%である。
硬化剤(B)の量を適切に調整することにより、流動性を一層向上させることができ、得られる硬化物の機械特性や磁気特性を向上させることができる。
【0053】
[磁性粒子(C)]
本実施形態の樹脂成形材料は、磁性粒子(C)を含む。
磁性粒子(C)としては、軟磁性粒子(C1)または硬磁性粒子(C2)が挙げられる。
【0054】
(軟磁性粒子(C1))
軟磁性とは、保磁力が小さい強磁性のことを指し、一般的には、保磁力が800A/m以下である強磁性のことを軟磁性という。
【0055】
軟磁性粒子(C1)の構成材料としては、構成元素としての鉄の含有率が85質量%以上である金属含有材料が挙げられる。このように構成元素としての鉄の含有率が高い金属材料は、透磁率や磁束密度等の磁気特性が比較的良好な軟磁性を示す。このため、例えば磁性コア等に成形されたとき、良好な磁気特性を示し得る樹脂成形材料が得られる。
【0056】
上記の金属含有材料の形態としては、例えば、単体の他、固溶体、共晶、金属間化合物のような合金等が挙げられる。このような金属材料で構成された粒子を用いることにより、鉄に由来する優れた磁気特性、すなわち、高透磁率や高磁束密度等の磁気特性を有する樹脂成形材料を得ることができる。
【0057】
また、上記の金属含有材料は、構成元素として鉄以外の元素を含んでいてもよい。鉄以外の元素としては、例えば、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。本実施形態においては、Fe、Ni、Si及びCoから選ばれる1種類以上の元素を主要元素として含むことができる。
【0058】
上記の金属含有材料の具体例としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼、鉄-コバルト合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、鉄-アルミニウム合金、カルボニル鉄、ステンレス鋼、またはこれらのうちの1種もしくは2種以上を含む複合材料等が挙げられる。入手性などの観点からケイ素鋼やカルボニル鉄を好ましく用いることができる。
軟磁性粒子(Fe基軟磁性粒子)はそれ以外の粒子であってもよい。例えば、Ni基軟磁性粒子、Co基軟磁性粒子等を含む磁性体粒子であってもよい。
【0059】
軟磁性粒子(C1)の、体積基準におけるメジアン径D50は、好ましくは0.5~75μm、より好ましくは0.75~65μm、さらに好ましくは1~60μmである。粒径(メジアン径)を適切に調整することで、成形時の流動性を更に良好にしたり、磁性性能を向上させたりすることができる。
【0060】
なお、D50は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、HORIBA社製の粒子径分布測定装置「LA-950」により、軟磁性粒子(C1)を乾式で測定することで粒子径分布曲線を得、この分布曲線を解析することでD50を求めることができる。
【0061】
本実施形態の樹脂成形材料は、軟磁性粒子(C1)を70体積%以上90体積%以下の量で含む。これにより得られる高飽和磁束密度の磁性材料を得ることができる。
【0062】
(硬磁性粒子(C2))
硬磁性粒子とは、保磁力が大きく、永久磁石とみなすことができる磁性粒子である。硬磁性粒子(C2)としては、磁力の強さやコストなどにより任意のものを選択可能である。
【0063】
磁力の強さの点では、好ましくは、硬磁性粒子(C2)は希土類元素を含む硬磁性粒子である。希土類元素としてはSm、Nd、Pr、Y、La、Ce、Gdなどを挙げることができる。
【0064】
具体的には、硬磁性粒子(C2)として、サマリウム鉄窒素磁石(Sm-Fe-N系磁性粒子)、サマリウムコバルト磁石(Sm-Co系磁性粒子)、ネオジム磁石(Nd-Fe-B系磁性粒子)などを好ましく挙げることができる。これら磁石中の各元素の比率は特に限定されない。最終的な成形品(ボンド磁石)において、必要な磁力やその他磁気特性が得られていればよい。
【0065】
また、フェライト磁石(ハードフェライト)も、使用可能な硬磁性粒子の一例として挙げることができる。フェライト磁石は、上記のサマリウム系磁石やネオジム磁石には磁力の強さでは劣るが、比較的安価である。用途によってはフェライト磁石で十分な場合も多い。硬磁性を示す限り、フェライト磁石の結晶構造などは特に限定されない。
【0066】
硬磁性粒子(C2)の表面には何らかの処理が施されていてもよい。例えば、硬磁性粒子(C2)の表面はカップリング剤で処理されていてもよいし、プラズマ処理されていてもよい。表面処理により、硬磁性粒子(C2)の表面が改質され、熱硬化性樹脂などとの相溶性向上や、流動性向上などの効果が得られる場合がある。
【0067】
例えば、熱硬化性樹脂などと混合する前の硬磁性粒子(C2)を、シランカップリング剤などのシラン化合物で表面処理することが考えられる。シラン化合物の具体例としては、後述のアルコキシシリル基を有する化合物(E)を挙げることができる。
【0068】
表面処理の具体的方法としては、硬磁性粒子(C2)をシラン化合物の希釈溶液に浸漬したり、硬磁性粒子(C2)にシラン化合物を直接噴霧したりする方法が挙げられる。
【0069】
表面処理の一環として、シラン化合物による表面処理の前に、プラズマ処理を施してもよい。例えば、酸素プラズマ処理を施すことで、硬磁性粒子(C2)の表面にOH基が生じて、硬磁性粒子(C2)とシラン化合物との結合が容易になる。これにより、より強固に官能基を結合させることができる。
硬磁性粒子(C2)の形状は特に限定されない。硬磁性粒子の形状は、破砕形状、球状、鱗片形状等であることができる。
【0070】
硬磁性粒子(C2)の体積基準のメジアン径D50は、好ましくは1~200μm、より好ましくは1~180μm、さらに好ましくは1~150μmである。D50が1μm以上であることで、成形時の流動性を一層高めやすい。また、D50が100μm以下であることで、硬化物(ボンド磁石)の磁気特性を十二分に高めやすい。
【0071】
メジアン径D50は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、HORIBA社製の粒子径分布測定装置「LA-950」により、硬磁性粒子(C2)を乾式で測定することで粒子径分布曲線を得、この分布曲線を解析することでD50を求めることができる。
【0072】
硬磁性粒子(C2)としては、公知または市販のものを適宜用いることができる。市販品としては、例えば、住友金属鉱山株式会社のサマリウム鉄窒素磁性粉(商品名:SFN合金微粉)などを挙げることができる。
【0073】
本実施形態の樹脂成形材料は、硬磁性粒子(C2)を70体積%以上90体積%以下の量で含む。これにより得られる高飽和磁束密度の磁性材料を得ることができる。
【0074】
[シランカップリング剤(D)]
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに、シランカップリング剤(D)を含むことができる。シランカップリング剤(D)を含むことにより、樹脂成形材料の硬化物の曲げ強度等を改善することができる。
【0075】
シランカップリング剤(D)は、本発明の効果を発揮し得る範囲で公知の化合物を用いることができるが、下記一般式(2)で表されるシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0076】
【0077】
一般式(2)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基または炭素数1~3のアルキル基を示し、少なくとも2つのRは炭素数1~3のアルコキシ基である。Rの全てが、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることがより好ましい。
【0078】
Lは、炭素数1~17の直鎖状または分岐状アルキレン基を示す。Lは、炭素数2~15の直鎖状または分岐状アルキレン基であることが好ましく、炭素数2~12の直鎖状または分岐状アルキレン基であることがより好ましい。
Lが長鎖のアルキレン基であることにより、軟磁性粒子の表面に対する樹脂の濡れ性が改善され、成形性や流動性が向上すると推察される。
【0079】
Xは、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、メチル基、アニリノ基を示す。Xは、本発明の効果の観点から、ビニル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、メチル基、アニリノ基が好ましく、エポキシ基、グリシジルエーテル基、メチル基、アニリノ基がより好ましい。樹脂成形材料の溶融時の流動性をより向上させる観点から、Xは、エポキシ基、グリシジルエーテル基、アニリノ基が好ましい。
【0080】
化合物(E)としては、KBM-1083(オクテニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-3103C(デシルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-4803(グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)、KBM-5803(メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)
CF-4083(N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング社製)等を挙げることができる。
【0081】
本実施形態の樹脂成形材料は、化合物(E)を0.1質量%以上1重量%以下、好ましくは0.2~0.8質量%の量で含むことができる。これにより、樹脂成形材料の硬化物の曲げ強度等により優れる。
【0082】
[カルボン酸系分散剤(E)]
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに、カルボン酸系分散剤(E)を含むことができる。カルボン酸系分散剤(E)を含むことにより、樹脂成形材料の流動性をより改善することができる。
【0083】
カルボン酸系分散剤(E)としては、本発明の効果を発揮することができれば特に限定されることなく従来公知の化合物を用いることができる。本実施形態においては、カルボン酸系分散剤(E)として、下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0084】
【0085】
一般式(1)中、Rは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルカルボキシル基、炭素数1~5のアルコキシカルボキシル基、炭素数1~5のアルキルアルコール基、炭素数1~5のアルコキシアルコール基を示し、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。
【0086】
Rは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルカルボキシル基であることが好ましい。
【0087】
Xは、酸素原子、炭素数1~30のアルキレン基、二重結合を1以上有する炭素数1~30の2価の鎖状炭化水素基、三重結合を1以上有する炭素数1~30の2価の鎖状炭化水素基を示し、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。2価の鎖状炭化水素基としては、アルキレン基等が挙げられる。
【0088】
Xは、酸素原子、炭素数1~20のアルキレン基、二重結合を1以上有する炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、酸素原子、炭素数1~20のアルキレン基、二重結合を1つ有する炭素数1~20のアルキレン基であることが好まし。
nは0~20の整数、mは1~5の整数を示す。
【0089】
一般式(1)で表される化合物は、以下の一般式(1a)または一般式(1b)で表される化合物であることが好ましい。カルボン酸系分散剤(E)は、これらから選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0090】
【0091】
一般式(1a)中、R、m、nは一般式(1)と同義である。
【0092】
【0093】
一般式(1b)中、Qは炭素数1~5のアルキレン基を示し、炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。Xは一般式(1)と同義である。
【0094】
カルボン酸系分散剤(E)の酸価は、5~500mgKOH/g、好ましくは10~350mgKOH/g、より好ましくは15~100mgKOH/gである。酸価が上記範囲であると、高飽和磁束密度を有する磁性材料が得られるとともに、流動性に優れており成形性に優れる。
カルボン酸系分散剤(E)は、固体状もしくはろう状であることが好ましい。
【0095】
カルボン酸系分散剤(E)の含有量は、本発明の効果の観点から、樹脂成形材料100質量%に対して、0.01質量%以上2質量%以下、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。
【0096】
磁性粒子(C)が軟磁性粒子(C1)である場合、カルボン酸系分散剤(E)の含有量は、樹脂成形材料100質量%に対して、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以上0.8質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。
一方、磁性粒子(C)が硬磁性粒子(C2)である場合、カルボン酸系分散剤(E)の含有量は、樹脂成形材料100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上1質量%以下である。
【0097】
カルボン酸系分散剤(E)に含まれる一般式(1)で表される化合物としては、CRODA社製の、Hypermer KD-4(質量平均分子量:1700、酸価:33mgKOH/g)、Hypermer KD-9(質量平均分子量:760、酸価:74mgKOH/g)、Hypermer KD-12(質量平均分子量:490、酸価:111mgKOH/g)、Hypermer KD-16(質量平均分子量:370、酸価:299mgKOH/g)等を挙げることができる。
【0098】
(硬化触媒)
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに硬化触媒を含むことができる。硬化触媒は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒は、本発明の効果を発揮し得る範囲で、公知のエポキシ硬化触媒を用いることができる。
【0099】
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化触媒);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができる。
これらの中でも低温硬化性の観点から、イミダゾール系硬化触媒を用いることが好ましい。
硬化触媒を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0100】
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.02~0.5質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0101】
(離型剤)
本実施形態の樹脂成形材料は、さらに離型剤を含むことができる。これにより、トランスファー成形後または圧縮成形後の離型性を高めることができる。
【0102】
離型剤としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン、アルケン・マレイン酸無水物の重縮合物とステアリルアルコールとの反応生成物等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0103】
離型剤を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体中、好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。これにより、離型性向上の効果を確実に得ることができる。
【0104】
(他の樹脂)
本実施形態の樹脂成形材料は、取扱い性などを過度に損なわない限り、熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0105】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド(ナイロン)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等を挙げることができる。
【0106】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂成形材料は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、低応力剤、密着助剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤等のうち1または2以上を含んでもよい。
【0107】
(揮発性有機溶剤について)
本実施形態の樹脂成形材料は、上述の種々の成分以外の成分として、揮発性有機溶剤を含まないか、含むとしても少量であることが好ましい。これにより、樹脂成形材料の取り扱い性が一層良好となる。
【0108】
具体的には、本実施形態の樹脂成形材料中の揮発性有機溶剤の含有率は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。特に好ましくは、本実施形態の樹脂成形材料は、揮発性有機溶剤を実質的に含まない。
【0109】
(樹脂成形材料の形態)
本実施形態の樹脂成形材料は、23℃で、好ましくはタブレット状または顆粒状であり、より好ましくはタブレット状である。樹脂成形材料がタブレット状または顆粒状であることにより、樹脂成形材料の流通や保管がしやすく、また、トランスファー成形や圧縮成形に適用しやすい。
【0110】
(樹脂成形材料の製造方法)
本実施形態の樹脂成形材料は、工業的には、例えば、まず(1)ミキサーを用いて各成分を混合し、(2)その後、ロールを用いて、90℃前後で5分以上、好ましくは10分程度混練することにより混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却し、(4)さらにその後、粉砕することにより製造することができる。以上により、粉末状の樹脂成形材料を得ることができる。なお、本発明の効果の観点から、磁性粒子にあらかじめ一般式(1)の化合物を処理してから混合してもよい。
【0111】
粉末状の樹脂成形材料を打錠し、顆粒状やタブレット状にしてもよい。これにより、特にトランスファー成形法や圧縮成形法に用いることに適した樹脂成形材料が得られる。
【0112】
本実施形態の樹脂成形材料から得られる硬化物は、曲げ強度および曲げ弾性率が高く、低温成形プロセスにおいて機械強度に優れた磁性材料を提供することができる。
本実施形態の樹脂成形材料を130℃、5分の条件で硬化させたときの硬化物は、室温25℃における曲げ強度が、30MPa以上200MPa以下、好ましくは50MPa以上150MPa以下、より好ましくは70MPa以上120MPa以下である。
本実施形態の樹脂成形材料を130℃、5分の条件で硬化させたときの硬化物の、室温25℃における曲げ弾性率が、10GPa以上60GPa以下、好ましくは15MPa以上50MPa以下、より好ましくは20MPa以上45MPa以下である。
【0113】
<成形品>
本実施形態の成形品は、上述の樹脂成形材料を硬化して得ることができる。
【0114】
本実施形態の成形品は上述のように飽和磁束密度が高い複合材料から構成されているため、高飽和磁束密度を実現することができ、1.0T以上、好ましくは1.2T以上、より好ましくは1.3T以上とすることができる。
【0115】
<成形品の製造方法>
成形品の製造方法は、特に限定されないが、トランスファー成形法または圧縮成形法等を挙げることができる。
【0116】
(トランスファー成形法)
トランスファー成形法による成形品の製造方法は、トランスファー成形装置を用いて、上述の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入する工程と、その溶融物を硬化させる工程とを含む。
【0117】
トランスファー成形については、公知のトランスファー成形装置を適宜用いるなどして行うことができる。具体的には、まず、予熱した樹脂成形材料を、トランスファー室とも言われる加熱室に入れて溶融し、溶融物を得る。その後、その溶融物をプランジャーで金型に注入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる。これにより、所望の成形物を得ることができる。
トランスファー成形は、成形品の寸法の制御性や、形状自由度の向上などの点で好ましい。
【0118】
トランスファー成形における各種条件は、任意に設定することができるが、本実施形態の樹脂成形材料は低温での成形プロセス(100~150℃程度)に成形性に優れていることから、例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は100~150℃、金型温度は100℃~150℃、金型に樹脂成形材料の溶融物を注入する際の圧力は1~20MPaの間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、成形物の収縮を抑えることができる。
【0119】
(圧縮成形法)
圧縮成形法(コンプレッション成形法)による成形品の製造方法は、前記樹脂成形材料を圧縮成形する工程を含む。
【0120】
圧縮成形については、公知の圧縮成形装置を適宜用いて行うことができる。具体的には、上方に開口した凹形状の固定金型の凹部内に前記樹脂成形材料を載置する。樹脂成形材料は予め加熱しておくことができる。これにより、成形品を均一に硬化させることができ、成形圧力を低くすることができる。
【0121】
次いで、上方から、凸形状の金型を凹形状の固定金型に移動して、凸部および凹部によって形成されたキャビティ内において樹脂成形材料を圧縮する。初めは低圧で樹脂成形材料を十分に軟化流動させ、次いで、金型を閉じて、再度加圧して所定時間硬化させる。
【0122】
圧縮成形における各種条件は、任意に設定することができるが、本実施形態の樹脂成形材料は低温での成形プロセス(100~150℃程度)に成形性に優れていることから、例えば、予熱の温度は60~100℃、溶融の際の加熱温度は100~150℃、金型温度は100~150℃、金型で樹脂成形材料を圧縮する際の圧力は1~20MPa、硬化時間60~300秒の間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、成形物の収縮を抑えることができる。
【0123】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0124】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0125】
<実施例1~3、比較例1~4>
まず、表1に記載の各成分を、記載の比率で準備し、均一に混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、90℃、10分の条件で混練した。混練終了後、得られた混練物を室温まで冷却して固形状とし、そして粉砕、打錠成形した。以上により、タブレット状の樹脂成形材料を得た。
表1に記載された原料成分を以下に示す。表1に記載された樹脂成形材料および成形品の評価方法を示す。なお、表1に記載された磁性体粒子の含有率(体積%)は、軟磁性粒子または硬磁性粒子を含む樹脂成形材料を100体積%としたときの含有率(すなわち充填率)である。
【0126】
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:
NC3000L(日本化薬株式会社製のビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、23℃
で固形、前掲の一般式(BP1)で表される構造単位含有)
・エポキシ樹脂2: jER YL6677(三菱ケミカル株式会社製のトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂と4,4'-ビフェノール型エポキシ樹脂の混合物、23℃で固形)
【0127】
(硬化剤)
・硬化剤1: MEH-7851SS(明和化成株式会社製のビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂、23℃で固形)
【0128】
(離型剤(ワックス))
・離型剤1: TOWAX-132(東亜化成株式会社製のカルナバワックス)
【0129】
(触媒)
・触媒1: 2PZ-PW(四国化成株式会社製の2-フェニルイミダゾール)
・触媒2: テトラフェニルホスホニウム・4,4'-スルフォニルジフェノラート
【0130】
(シランカップリング剤)
・シランカップリング剤1: CF-4083(フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング社製)
・シランカップリング剤2: KBM-4803(グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業社製)
【0131】
(カルボン酸系分散剤)
・カルボン酸系分散剤1: Hypermer KD-9(前記一般式(1a)で表される化合物、質量平均分子量:760、酸価:74mgKOH/g、CRODA社製)
【0132】
(軟磁性粒子)
・磁性粉1: アモルファス磁性粉(エプソンアトミックス(株)製、KUAMET6B2 053C03、メジアン径D50:23μm)
・磁性粉2: 結晶磁性粉(BASF社製、CIP-HQ、メジアン径D50:2μm)
【0133】
<評価>
(キュラストメーターによる測定)
キュラストメーター(オリエンテック社製、JSRキュラストメーターIVPS型)を用い、金型温度130℃にて樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した。得られた測定結果から、該測定結果における最大トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの90%のトルク値をT90としたとき、T10に達する時間およびT90に達する時間を算出した。
【0134】
(成形性(比重))
樹脂成形材料を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形した。これにより、直径50mmΦ、厚み3mmの円盤状成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して、比重評価用試験片を作製した。得られた円盤状成形品に対して、電子比重計(アルファーミラージュ(株)製「SD-200L」)を用いて比重を測定した。
そして、測定した比重を以下の評価基準に照らして評価した。なお、評価にあたっては、原料の比重から計算した成形物の理論比重を1としたとき、各測定値の相対値を算出し、その相対値に基づいて評価した。相対値が0.96未満であると未充填部分が存在し、1.04以上であるとフィラーと分離した樹脂が金型から漏れ出していることが想定された。
<比重の評価基準>
○:相対値が0.96以上1.04未満である。
△:相対値が0.96未満または1.04以上である。
×:未充填により成形物が得られない。
なお、圧縮成形で得られた試験片についても同様の効果が得られた。
【0135】
(流動性:スパイラルフロー試験)
実施例および比較例の樹脂成形材料を用いてスパイラルフロー試験を行った。
試験は、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度130℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間300秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定することにより行った。数値が大きいほど、流動性が良好であることを示す。
【0136】
(ゲルタイム)
130℃に設定されたホットプレート上に、粉体状の樹脂成形材料を置いた。材料が溶融した後、ヘラで練りながら、硬化するまでの時間(ヘラで練ることができなくなるまでの時間)を測定した。この時間がある程度長いことは、金型への溶融物の注入から完全硬化まである程度の時間的余裕があるということであり、複雑な形状の金型を用いることで複雑な形状の磁石を製造可能なことを表す。
【0137】
(機械強度の評価(曲げ強度/曲げ弾性率))
樹脂成形材料を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。これにより、機械的強度の評価用の試験片を作製した。そして、試験片の25℃または250℃における曲げ強度(MPa)および曲げ弾性率(GPa)を、JIS K 6911に準拠して測定した。
なお、圧縮成形で得られた試験片についても同様の効果が得られた。
【0138】
(溶融粘度)
島津製作所製のフローテスタ(定荷重細管押出式レオメータの一種)「CFT-500D」を用い、温度130℃、ダイ穴径1.0mm、ダイ長さ2.0mm、圧力40kgfの条件で、樹脂成形材料の溶融粘度を測定した。
【0139】
(比透磁率)
得られた樹脂成形材料を低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒間で注入成形し、直径16mmΦ、高さ32mmの円柱状成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間で後硬化して、比透磁率評価用試験片を作製した。得られた円柱状成形品に対して直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研(株)製「MTR-3368」)を用いて、B-H初磁化曲線をH=0~100kA/mの範囲で測定し、B-H初磁化曲線のB/Hの10kA/mの値を比透磁率とした。
【0140】
(飽和磁束密度)
飽和磁束密度は、室温(25℃)にて、直流交流磁化特性試験装置(メトロン技研株式会社製、MTR-3368)を用いて、上記成形品に、外部磁場100kA/mを印加した。これにより室温での飽和磁束密度を測定した。
【0141】
【0142】
表1の結果から、本発明の樹脂成形材料は、低温成形プロセスにおいて成形性に優れ、さらに流動性に優れていることから、トランスファー成形および圧縮成形において成形性に優れることが確認された。さらに、曲げ強度および曲げ弾性率が高く、低温成形プロセスにおいて機械強度に優れた磁性材料が得られることが確認された。