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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】害虫駆除方法及び害虫駆除システム
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A01M1/20 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020146924
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041611
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 洲▲崎▼雄、四本瑞世、緒方浩基が、2020年度大会(関東)学術講演梗概集の第1625~第1626頁にて、洲▲崎▼雄、四本瑞世、緒方浩基、澤谷淳一、湯淺篤哉が発明した「害虫駆除防除方法及び害虫駆除システム」を含む「次亜塩素酸ナトリウム水溶液噴霧によるチャタテムシ防除の検討」について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】洲▲崎▼ 雄
(72)【発明者】
【氏名】四本 瑞世
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】澤谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 篤哉
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-201838(JP,A)
【文献】特開2003-206208(JP,A)
【文献】特開2016-027849(JP,A)
【文献】特開2019-163203(JP,A)
【文献】特開平10-316517(JP,A)
【文献】特開2015-007285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0208812(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内の居室以外の閉空間において、有効塩素濃度が2000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をミスト噴霧することにより、湿潤環境を好む菌類を餌とする食菌性の害虫を殺すことにより駆除することを特徴とする害虫駆除方法。
【請求項2】
前記有効塩素濃度は、3000ppm未満であり、
前記害虫の駆除とともに、前記菌類も駆除することを特徴とする請求項1に記載の害虫駆除方法。
【請求項3】
前記ミスト噴霧の後の湿度が80%以上になるように噴霧し、噴霧後30分以上放置することを特徴とする請求項1又は2に記載の害虫駆除方法。
【請求項4】
建物内の居室以外の閉空間に配置可能であって、有効塩素濃度が2000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をミスト噴霧する噴霧装置と、
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液のミスト噴霧によって、前記閉空間における湿度が80%以上となった場合に、前記噴霧装置からのミスト噴霧を停止する制御部とを備え、
湿潤環境を好む菌類を餌とする食菌性の害虫を殺すことにより駆除することを特徴とする害虫駆除システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉空間において、チャタテムシ等の害虫を駆除するための害虫駆除方法及び害虫駆除システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場や医薬品工場等においては、しばしば結露によってカビや菌類等が発生する。そこで、食品工場等の食品製造施設や医療・福祉施設の施設内を、殺菌効果がある次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の薬品を噴霧することにより、比較的乾燥した環境を好むアスペルギルス菌等を、除菌する技術が検討されている(例えば、特許文献1,2参照。)。この特許文献1には、室内空間内に二流体ノズルから薬液を、噴霧後の相対湿度が70%以上になるように噴霧することにより、除菌できることが記載されている。更に、特許文献2には、ポールを伸長して薬液の噴霧を行なう除菌装置が記載されている。
【0003】
一方、食品工場や医薬品工場等においては、カビを餌にするチャタテムシやヒメマキムシ等の害虫が繁殖して室内に混入し、製品に混入することが問題となっている。そこで、従来は、クリーンルーム等でチャタテムシが発生した場合には、有機リン系やカーバメート系等の殺虫剤を使用した駆除、又はアルコールの清拭による駆除を行なっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-27849号公報
【文献】特開2019-92922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、製品への薬剤の混入の可能性を考慮すると、有機リン系やカーバメート系等の殺虫剤の使用は好ましくない。また、アルコールによる清拭は、居室となるクリーンルーム内における駆除には有効であるが、場所を特定して行なう必要があるため、居室以外の場所であって発生源と考えられる天井裏や壁裏に適用することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する害虫駆除方法は、建物内の居室以外の空間において、有効塩素濃度2000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をミスト噴霧することにより、湿潤環境を好む菌類を餌とする食菌性の害虫を駆除する。
【0007】
また、上記課題を解決する害虫駆除装置は、建物内の居室以外の閉空間に配置可能であって、有効塩素濃度が2000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をミスト噴霧する噴霧装置と、前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液のミスト噴霧によって、前記閉空間における湿度が80%以上となった場合に、前記噴霧装置からのミスト噴霧を停止する制御部とを備え、湿潤環境を好む菌類を餌とする食菌性の害虫を駆除する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、閉空間において害虫を効率的に駆除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における害虫駆除システムを天井裏に設置した状態の説明図。
図2】実施形態における害虫駆除システムの構成を説明するブロック図。
図3】実施形態における害虫駆除方法の処理手順を説明する流れ図。
図4】実施形態の実験の噴霧方法におけるチャタテムシの設置場所を示す配置図。
図5】実施形態の噴霧例1における有効塩素濃度に対する殺虫効果を示すグラフ。
図6】実施形態の噴霧例2における噴霧直後の湿度に対する殺虫率を示すグラフ。
図7】実施形態の噴霧例2における噴霧30分後の湿度に対する殺虫率を示すグラフ。
図8】実施形態の噴霧例3における設置場所毎の平均殺虫率を示すグラフ。
図9】実施形態の噴霧例3における各噴霧条件における平均殺虫率を示すグラフ。
図10】実施形態における噴霧前後におけるクロカビの菌数を示すグラフ。
図11】変更例における害虫駆除方法の処理手順を説明する流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1図10を用いて、害虫駆除方法及び害虫駆除システムを具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、食品工場等の天井裏における害虫駆除を行なうために、天井裏において薬液を噴霧する。
【0011】
図1は、薬液を散布する噴霧装置16を天井裏S1に設置した状態を示す。本実施形態の天井裏S1は、例えば、複数の天井板C1で覆われている。
図2は、噴霧装置16を天井裏S1に設置する設置部材10を備える害虫駆除システム20の構成である。
【0012】
害虫駆除システム20は、噴霧装置16を備える。噴霧装置16は、設置部材10のポール11によって支持されて、天井裏S1に設置される。設置部材10及び噴霧装置16の詳細については、後述する。
【0013】
害虫駆除システム20は、制御部21、表示部23、操作部24、コンプレッサ25、薬液タンク26及び流量計27を備える。本実施形態では、制御部21、表示部23、操作部24、コンプレッサ25、薬液タンク26及び流量計27が、移動可能なカートに搭載される。このカートは、天井裏S1の下方の作業空間(居室)に移動して配置される。
【0014】
制御部21は、コンプレッサ25の稼働及び停止を制御して、噴霧装置16への圧縮空気の供給を制御する。この制御部21は、操作部24を介して、噴霧開始の指示を取得する。更に、制御部21は、噴霧終了条件及び放置基準時間を記憶している。制御部21は、操作部24を介して取得した害虫駆除の指示に応じて、噴霧を開始する制御を行なう。また、制御部21は、噴霧終了条件を満たした場合に、コンプレッサ25の稼働を停止する。本実施形態では、噴霧終了条件として、天井裏S1における相対湿度が80%以上であって、かつ天井裏S1における必要な薬液量以上を用いる。ここで、必要な薬液量は、薬液が有効塩素濃度0.2%(2000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(薬液)の場合には、害虫駆除の対象となる天井裏S1の容積に対して、29.4mg/mを乗算することにより算出される量(FAC量)である。
制御部21は、放置基準時間として、例えば30分を記憶している。制御部21は、コンプレッサ25の稼働を停止してからの時間(放置時間)を計測し、この放置時間が放置基準時間を経過したときには、放置時間が終了したことを表示部23に表示する。
更に、制御部21は、湿度を計測する湿度計M1に接続されている。
【0015】
表示部23には、噴霧装置16に薬液タンク26から供給された薬液の積算流量やコンプレッサ25から供給される圧縮空気の圧力、放置時間の終了等が表示される。
操作部24には、噴霧を開始する開始ボタンや強制停止ボタン等が含まれる。
コンプレッサ25は、空気を圧縮し、圧縮した空気を、エアホース17を介して噴霧装置16に供給する。更に、エアホース17の供給口には、コンプレッサ25から供給された圧縮空気の圧力を計測する圧力計(図示せず)が設けられる。
【0016】
薬液タンク26は、害虫駆除に用いる薬液を貯蔵し、噴霧装置16に薬液を供給する。本実施形態では、次亜塩素酸ナトリウム6%溶液を希薄して、有効塩素濃度0.2%(2000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(薬液)を用いる。更に、薬液タンク26からの吐出口には、流量計27を設ける。流量計27は、噴霧装置16に薬液チューブ18を介して供給される薬液の流量を計測する。
【0017】
(設置部材10及び噴霧装置16の構成)
図1に示すように、設置部材10は、噴霧装置16を天井裏S1に配置する部材である。設置部材10は、伸縮可能なポール11と、このポール11に設けられた封止部材12とを備える。封止部材12は、噴霧装置16を天井裏S1に配置するために、天井の孔h1を塞ぐ大きさを有する。
【0018】
ポール11は、制御部21等が搭載されたカートに設置される。ポール11の伸長状態を固定することにより、封止部材12が天井の孔h1を塞いだ状態を維持する。なお、孔h1は、噴霧装置16が貫通可能な大きさを有する。
【0019】
ポール11の上端部には、取付部材15を介して、噴霧装置16が取り付けられる。噴霧装置16は、薬液を一時的に貯蔵するタンクと、ミストを噴霧する複数のノズル16Nとを備える。このノズル16Nとして、本実施形態では、圧縮空気の空気圧により薬液を噴霧する二流体サイフォン式噴霧ノズルを用いる。具体的には、噴霧装置16として、スプレーイングシステムスジャパン株式会社製のクイックフォッガー(商品名)を用いる。この噴霧装置16は、圧縮空気の空気圧により、ノズル16Nの時間当たりの噴霧液量を制御することができる。本実施形態では、ノズル16Nは、配置可能な4方向のうち2方向(例えば対向する2方向)を選択して配置された後、粒子径が9~11μmのミストを噴霧する。
【0020】
噴霧装置16には、エアホース17及び薬液チューブ18が接続されている。エアホース17及び薬液チューブ18は、封止部材12を貫通して、居室に配置されたカートに延びている。そして、エアホース17は、コンプレッサ25に接続され、薬液チューブ18は、薬液タンク26に接続される。
【0021】
(害虫駆除方法)
次に、図3を用いて、害虫駆除処理について説明する。
まず、噴霧装置16を天井裏S1に配置する。具体的には、薬液を注入した噴霧装置16を、ポール11の取付部材15に取り付ける。次に、天井裏S1のほぼ中央に位置する天井板C1を取り外して孔h1を形成する。そして、ポール11を上昇させて、噴霧装置16を孔h1に貫通させた後、ポール11の封止部材12によって天井裏S1の孔h1を塞ぐように、ポール11を伸長させる。これにより、天井裏S1を閉空間にする。なお、封止部材12を孔h1で塞ぐ前に、天井裏S1の任意の箇所に湿度計M1を設置する。
【0022】
そして、害虫駆除システム20の制御部21は、現在湿度の取得処理を実行する(ステップS1-1)。具体的には、制御部21は、湿度計M1から測定された現在の湿度を取得する。
【0023】
次に、害虫駆除システム20の制御部21は、薬液の噴霧処理を実行する(ステップS1-2)。具体的には、コンプレッサ25を稼働させ、噴霧装置16のノズル16Nから、薬液を噴霧する。
【0024】
その後、害虫駆除システム20の制御部21は、薬液噴霧の終了条件を満足したか否かの判定処理を実行する(ステップS1-3)。具体的には、制御部21は、湿度計M1から取得した相対湿度が80%以上、かつ流量計27から取得した流量の積算量が、算出した必要薬液量以上となった場合には、薬液噴霧の終了条件を満足したと判定する。
【0025】
ここで、薬液噴霧の終了条件を満足しないと判定した場合(ステップS1-3において「NO」の場合)、害虫駆除システム20の制御部21は、薬液の噴霧を継続する(ステップS1-2)。
【0026】
一方、薬液噴霧の終了条件を満足したと判定した場合(ステップS1-3において「YES」の場合)、害虫駆除システム20の制御部21は、薬液噴霧を停止して密閉放置処理を実行する(ステップS1-4)。具体的には、制御部21は、コンプレッサ25の駆動を停止し、内蔵するシステムタイマで、放置時間の計測を開始する。
【0027】
そして、所定時間放置した後に、天井裏S1から噴霧装置16を取り外す。具体的には、制御部21は、放置時間の計測開始時からの経過時間が放置基準時間を超えた場合に、表示部23に、放置時間が終了した旨の通知を表示する。そして、作業者は、この通知表示後に、ポール11を縮小しながら、封止部材12を孔h1から取り外す。これにより、ポール11に取り付けられた噴霧装置16や湿度計M1を天井裏S1から除去する。
【0028】
(害虫駆除の実験結果)
上述した害虫駆除方法は、以下の害虫駆除の実験に基づく知見により行われたものである。
【0029】
(実験空間の説明)
図4は、薬液をミスト噴霧した実験空間(実験室SE1)の様子を示している。
実験室SE1は、横(長手方向)の長さXが5400mm、縦の長さYが3600mm、高さが2350mmの直方体形状を有する。この実験室SE1の中央(中心)に、ミスト噴霧装置30を配置する。このミスト噴霧装置30は、実験室SE1の長手方向に沿って対向する2方向に薬液をミスト状に噴霧する。
【0030】
そして、ミスト噴霧装置30の噴霧方向線上に配置した長机D1の上に、複数のシャーレPd1を配置する。このシャーレPd1は、直径90mmの高さ20mmの円筒形状を有し、ランダムに選定された20頭のヒラタチャタテ(チャタテムシ)の成虫を収容する。
【0031】
(噴霧例1の説明)
噴霧例1では、実験室SE1において、600gの薬液を8分間かけて噴霧し、その後、30分間養生(放置)し、ミストを部屋全体に行き渡らせる。そして、養生終了後、シャーレPd1に蓋をし、室温25℃、相対湿度60%のインキュベータ内に24時間静置した。この24時間後、実体顕微鏡下でチャタテムシの生死判定を行なうことにより、死亡率を算出した。
【0032】
図5は、ミスト噴霧実験による有効塩素濃度(ppm)に対応する死亡率(殺虫率)を示す。この図から明らかなように、有効塩素濃度が0.02%(200ppm)の薬液では、ほとんど殺虫効果を示さなかった。また、有効塩素濃度が500ppmと1000ppmの薬液は半数近くのヒラタチャタテを殺虫できた。更に、有効塩素濃度が2000ppm以上ではすべてのヒラタチャタテを殺虫することができた。
【0033】
(噴霧例2の説明)
次に、噴霧例2により、噴霧後の湿度と殺虫率との関係を調べた。この噴霧例2においては、有効塩素濃度が2000ppmの薬液を、複数回、ミスト噴霧することにより調べた。
【0034】
図6は、噴霧直後の湿度と殺虫率との関係を示し、図7は、噴霧30分後の湿度と殺虫率との関係を示す。
噴霧30分後の湿度は、閉空間におけるミスト噴霧のため、噴霧直後からあまり低下していない。また、噴霧直後の湿度及び噴霧30分後の湿度が約80%以上であれば、殺虫率も約90%以上になっている。このため、薬液のミスト噴霧は、80%以上の湿度になるまで継続すると、殺虫率を90%以上にすることができる。
【0035】
(噴霧例3の説明)
次に、噴霧例1の結果を踏まえて、噴霧例3により、有効塩素濃度を2000ppm、2500ppmの薬液をミスト噴霧したときの殺虫率(死亡率)を、噴霧開始時の相対湿度が20%と40%の場合において実験した。
【0036】
この噴霧例3においては、図4に示した実験室SE1の長机D1の上だけでなく、長机D1の下にも複数のシャーレを配置する。更に、実験室SE1の床の四隅にも、複数のシャーレPc1,Pc3,Pc4,Pc7を配置する。長机D1の下に配置したシャーレやシャーレPc1~Pc7は、シャーレPd1と同じく、同じ形状のシャーレであって、20頭の成虫のヒラタチャタテ(チャタテムシ)を収容する。そして、薬液を噴霧した後には、噴霧例1と同様に、シャーレに蓋をし、室温25℃、相対湿度60%のインキュベータ内に24時間静置し、その後、実体顕微鏡下でチャタテムシの生死判定を行なうことにより、死亡率を算出した。
【0037】
図8は、各噴霧条件における各設置場所における平均殺虫率を示し、図9は、各噴霧条件における平均殺虫率を示す。ここでは、開始時の相対湿度が40%の場合の殺虫率が高くなっていたことが判明した。更に、2000ppm、2500ppmの有効塩素濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた場合には、平均殺虫率を、75%以上とすることができた。なお、噴霧開始前の相対湿度が20%で、有効塩素濃度2500ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた場合には、他の場合よりも平均殺虫率が低下している。これは、この実験条件において、床1に配置したシャーレPc1付近の相対湿度が更に低かったためと推測される。
【0038】
(噴霧例4の説明)
上記噴霧例では、駆除対象(チャタテムシ)は、湿潤環境を好み、湿潤環境に生息するカビ等を好んで食べる。このため、駆除した害虫だけでなく、餌となるカビも同時に駆除できれば、駆除対象が再来することを抑制できる。そこで、餌となる湿潤環境を好むカビ(クロカビ)が、上記害虫駆除の条件で除菌できるか否かの実験を行った。
【0039】
図10は、上記噴霧例3と同じ条件で、薬液をミスト噴霧した前後におけるクロカビの菌数を示す。薬液をミスト噴霧する前には、1×10~1×10(cfu/BI)であったが、噴霧後は、何れの条件においても計測限界の50未満であった。
【0040】
(作用)
閉空間の天井裏S1において、有効塩素濃度が2000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をミスト噴霧することにより、薬液を天井裏S1全体に行き渡らせて、天井裏S1に存在するチャタテムシを殺虫することができる。
【0041】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の害虫駆除システム20は、天井裏S1において噴霧装置16を配置し、この噴霧装置16から、有効塩素濃度が2000ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液をミスト噴霧する。これにより、天井裏S1の閉空間においてチャタテムシ等の害虫が、どこにいるかを特定しなくても、効率的に駆除することができる。この場合、チャタテムシの餌となる湿潤環境を好むカビ(クロカビ)も併せて駆除することができるので、チャタテムシの駆除後にチャタテムシの再来を抑制することもできる。
【0042】
(2)本実施形態の害虫駆除システム20の制御部21は、薬液のミスト噴霧が80%以上となった場合に噴霧を停止する。これにより、天井裏S1において、平均90%以上のチャタテムシを駆除することができる。
【0043】
(3)本実施形態では、ミスト噴霧を停止した後、天井裏S1を閉鎖したまま30分放置する。これにより、天井裏S1における湿度を高く維持することができるので、チャタテムシを、より確実に駆除することができる。
【0044】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、有効塩素濃度0.2%(2000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(薬液)を用いた。害虫駆除を行なう次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素濃度が2000ppm以上であればよい。有効塩素濃度が0.25%(2500ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(薬液)を用いる場合には、相対湿度が80%以上で、害虫駆除の対象となる閉空間の容積に対して、36.8mg/mに相当する量(FAC量)を用いる。
【0045】
・上記実施形態においては、薬液噴霧を停止した後、放置基準時間として30分以上放置した。放置する時間は、30分に限定されない。例えば、30以上の長い時間であってもよい。また、害虫駆除を行なう閉空間の容積等によって変更してもよいし、予め定めた時間に限定されるものではない。例えば、害虫駆除の対象の閉空間に配置した湿度計において、開放基準湿度を下回ったときに、放置時間を終了としてもよい。
【0046】
・上記実施形態においては、害虫駆除システム20の制御部21は、現在湿度の取得処理(ステップS1-1)、薬液の噴霧処理を実行した(ステップS1-2)。これに加えて、薬液の噴霧を開始する湿度が低い場合には、噴霧開始湿度まで湿度を上げた後、薬液の噴霧を実行してもよい。例えば、制御部21は、噴霧開始湿度として、40%を記憶する。更に、封止部材12の上には、水を噴霧する加湿用噴霧装置を設ける。そして、この加湿用噴霧装置には、制御部21の制御によってコンプレッサ25からの圧縮空気が供給された場合に、ミストが噴霧される。この場合、コンプレッサ25には、噴霧装置16に圧縮空気を供給するエアホース17と、加湿用噴霧装置に圧縮空気を供給するホースとに、択一的に、圧縮空気供給する切換弁を設ける。
【0047】
そして、図11に示すように、害虫駆除システム20の制御部21は、S1-1と同様に、現在湿度の取得処理(ステップS2-1)を実行する。ここで、取得した現在湿度が、薬液噴霧開始湿度よりも低い場合(ステップS2-2において「NO」の場合)には、害虫駆除システム20の制御部21は、加湿処理を実行する(ステップS2-3)。具体的には、制御部21は、コンプレッサ25を稼働することにより、圧縮空気を加湿用噴霧装置に供給して、加湿用噴霧装置からミスト(水)を噴霧する。これにより、閉空間における湿度が上昇する。
【0048】
そして、湿度が噴霧開始湿度になった場合、又は現在湿度が薬液噴霧開始湿度以上(ステップS2-2において「YES」の場合)には、害虫駆除システム20の制御部21は、S1-2,S1-3と同様に、薬液の噴霧処理(ステップS2-4)、薬液噴霧の終了条件を満足したか否かの判定処理(ステップS2-5)を実行する。
【0049】
そして、S1-3と同様に、薬液噴霧の終了条件を満足したと判定した場合(ステップS2-5において「YES」の場合)、害虫駆除システム20の制御部21は、S1-4と同様に、薬液噴霧を停止して密閉放置処理を実行する(ステップS2-6)。これにより、薬液の使用量を減らしながら、害虫を効率的に駆除することができる。
【0050】
・上記実施形態においては、害虫駆除システム20は、天井に設けた孔h1を塞ぐ封止部材12を備えた設置部材10に固定した噴霧装置16を有する。害虫駆除システムは、害虫駆除の対象となる空間を閉空間とし、この空間にミスト噴霧できれば、この構成に限定されない。例えば、ポール11の上端部に封止部材12を設け、この封止部材12の上に、伸縮可能な取付板を介して、噴霧装置16を設置する構成であってもよい。
【0051】
・上記実施形態においては、害虫駆除システム20の制御部21は、天井裏S1内に設置した湿度計M1の検出湿度を有線で取得した。これに代えて、湿度計に無線通信機能を搭載し、この湿度計を、害虫駆除処理を行なう前に天井裏S1に予め設置し、制御部21が、無線通信により計測湿度を取得してもよい。
【0052】
・上記実施形態においては、噴霧装置16の2つのノズル16Nを対向する方向に配置した状態で、薬液を噴霧することにより、害虫を駆除した。噴霧条件は、これに限定されず、薬液が閉空間に満遍なく行き渡ればよく、例えば、4方向にノズル(噴霧口)を設けて、噴霧を実行してもよい。更に、複数の噴霧装置16を天井裏S1に設置してもよい。
【0053】
・上記実施形態においては、害虫駆除システム20の制御部21は、チャタテムシを駆除対象とした。本願発明の有効塩素濃度2000ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた害虫駆除方法によって駆除する害虫としては、チャタテムシに限られない。この駆除方法では、次亜塩素酸によるタンパク質の変性が考えられるため、チャタテムシ以外の他の食菌性害虫、例えば、ヒメマキムシ類、ハネカクシ類、ケシキスイ類等、湿潤環境を好む菌類を餌とする食菌性の害虫であれば、同様に駆除することができる。
【0054】
・上記実施形態では、食品工場等の天井裏S1において、害虫駆除を実行した。害虫駆除を行なう対象の閉空間は、天井裏S1に限定されず、例えば、開口部を塞いで閉空間にした配管等であってもよい。
【0055】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記空間の相対湿度が薬液噴霧開始湿度以下の場合、前記相対湿度を薬液噴霧開始湿度以上に加湿した後、前記ミスト噴霧を行なうことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の害虫駆除方法。
【符号の説明】
【0056】
X,Y…長さ、C1…天井板、D1…長机、h1…孔、M1…湿度計、S1…天井裏、SE1…実験室、Pc1,Pc3,Pc4,Pc7,Pd1…シャーレ、10…設置部材、11…ポール、12…封止部材、15…取付部材、16…噴霧装置、16N…ノズル、17…エアホース、18…薬液チューブ、20…害虫駆除システム、21…制御部、23…表示部、24…操作部、25…コンプレッサ、26…薬液タンク、27…流量計、30…ミスト噴霧装置。
図1
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