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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】医療器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/95 20130101AFI20240903BHJP
【FI】
A61F2/95
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020155218
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049152
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 偉師
(72)【発明者】
【氏名】大塚 渉
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-8862(JP,A)
【文献】特開2016-112201(JP,A)
【文献】特開2020-78459(JP,A)
【文献】米国特許第5531741(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の留置具と、前記留置具に挿通されているインナーカテーテルと、を有する医療器具であって、
前記インナーカテーテルは、当該インナーカテーテルの軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な易屈曲構造部を、前記留置具に挿通されている領域に有し、
前記留置具は、予め屈曲形状に賦形された屈曲部を有し、前記屈曲部に前記易屈曲構造部が挿通されており、
前記易屈曲構造部は、前記インナーカテーテルの全長の一部の区間に配置された蛇腹構造である、又は、前記インナーカテーテルの全長の一部の区間に配置されたコイルスプリングの全長の少なくとも一部分を含んで構成されている医療器具。
【請求項2】
前記コイルスプリングは、樹脂コート付きの構造である請求項に記載の医療器具。
【請求項3】
前記樹脂コートは、前記コイルスプリングと同軸に配置されており、前記コイルスプリングの内周側の領域と外周側の領域とが相互に遮蔽されている請求項に記載の医療器具。
【請求項4】
管状の留置具と、前記留置具に挿通されているインナーカテーテルと、を有する医療器具であって、
前記インナーカテーテルは、当該インナーカテーテルの軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な易屈曲構造部を、前記留置具に挿通されている領域に有し、
前記留置具は、予め屈曲形状に賦形された屈曲部を有し、前記屈曲部に前記易屈曲構造部が挿通されており、
前記易屈曲構造部は、蛇腹構造であり、
前記易屈曲構造部は、前記インナーカテーテルの軸回りに巻回して形成されている螺旋状の板状部である第1面状部及び第2面状部を含み、
前記第1面状部の各巻回部及び前記第2面状部の各巻回部の各々の周方向における全体又は一部分において、前記第1面状部と前記第2面状部とがそれぞれ折り畳まれた状態と、前記第1面状部と前記第2面状部とがそれぞれ展開された状態と、に切り替え可能となっており、
前記折り畳まれた状態では、前記インナーカテーテルの軸方向に沿った前記第1面状部及び前記第2面状部の各々の断面形状は、ともに先端側又は基端側の同一方向に向けて窄まっている医療器具。
【請求項5】
前記留置具の先端から前記インナーカテーテルの先端部が突出しており、
前記留置具の内周面と前記インナーカテーテルの外周面とのクリアランスが、前記留置具の先端部において局部的に小さくなっている請求項1からのいずれか一項に記載の医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。
特許文献1の医療器具(同文献には、ステントデリバリーシステムと記載)は、管状の留置具(同文献には、ステントと記載)と、留置具に挿通されているインナーカテーテル(同文献には、ガイドカテーテルと記載)と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-297502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者の検討によれば、特許文献1の技術は、留置具の自然状態の形状を維持する構造について、なお改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、留置具の自然状態の形状を良好に維持することが可能な構造の医療器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、管状の留置具と、前記留置具に挿通されているインナーカテーテルと、を有する医療器具であって、
前記インナーカテーテルは、当該インナーカテーテルの軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な易屈曲構造部を、前記留置具に挿通されている領域に有する医療器具が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、留置具の自然状態の形状を良好に維持することが可能な構造の医療器具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る医療器具の全体構成を示す図である。
図2】第1実施形態に係る医療器具における留置具及びその周辺構造を示す側面図である。
図3】第1実施形態における留置具の側面図である。
図4】第1実施形態におけるインナーカテーテルの側面図であり、先端部及びその周辺構造を示している。
図5】第1実施形態における留置具の屈曲部及びその周辺構造を示す断面図である。
図6図6(a)、図6(b)及び図6(c)は第1実施形態における易屈曲構造部の部分拡大図であり、このうち図6(a)は易屈曲構造部の短縮状態を示しており、図6(b)は易屈曲構造部の伸長状態を示しており、図6(c)は易屈曲構造部の屈曲状態を示している。
図7図7(a)及び図7(b)は第1実施形態の変形例における易屈曲構造部の部分拡大図であり、このうち図7(a)は易屈曲構造部の伸長状態を示しており、図7(b)は易屈曲構造部の短縮状態を示している。
図8図8(a)及び図8(b)は第2実施形態におけるインナーカテーテルの先端部及びその周辺構造を示す図であり、このうち図8(a)は側面図であり、図8(b)は図8(a)に示すA部の部分拡大である。
図9図8(a)に示すB-B線に沿った断面図である。
【0009】
〔第1実施形態〕
先ず、図1から図6(c)を用いて第1実施形態を説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。なお、図3では、留置具10の自然状態の形状を示しており、図4では、インナーカテーテル20の自然状態における形状を示している。また、図5は、インナーカテーテル20の軸方向に沿った断面図である。
また、本発明の医療器具100の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要は無く、一つの構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
以下の説明において、先端部21とは、医療器具100のインナーカテーテル20において、当該インナーカテーテル20の挿入先端側の端(遠位端)を含む所定の長さの領域をいう。また基端部とは、インナーカテーテル20の各部において、インナーカテーテル20の基端側の端(近位端)を含む所定の長さの領域をいう。また、先基端方向とは、インナーカテーテル20の長手方向である。軸心とは、インナーカテーテル20の長手方向に沿った中心軸を意味する。
また、以下において、インナーカテーテル20の軸方向を単に軸方向と称したり、インナーカテーテル20の径方向を単に径方向と称したりする場合がある。
また、医療器具100の各部の形状の説明は、特に断りが無い限り、外力が付与されていない自然状態での形状を説明したものである。
【0010】
本実施形態に係る医療器具100は、管状の留置具10と、留置具10に挿通されているインナーカテーテル20と、を有する。
インナーカテーテル20は、当該インナーカテーテル20の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な易屈曲構造部30を、留置具10に挿通されている領域に有する。
【0011】
本実施形態の場合、インナーカテーテル20が留置具10に収容されている状態において、インナーカテーテル20における留置具10に挿通されている部分は、留置具10の形状と対応する形状となって当該留置具10に収容されている。
そして、医療器具100は、生体管腔の内部における所望の部位に留置具10を留置するために用いられる。留置具10及びインナーカテーテル20が生体の所望の部位に挿入された後、インナーカテーテル20が留置具10から抜去されることによって、留置具10は、上記所望の部位に留置される。この状態において、留置具10は、自然状態の形状(図3に示す形状)もしくは自然状態に近い形状となっている。
【0012】
本実施形態によれば、インナーカテーテル20は、当該インナーカテーテル20の軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な易屈曲構造部30を、留置具10に挿通されている領域に有する。これにより、インナーカテーテル20が留置具10に挿通されている状態において、インナーカテーテル20は留置具10の形状に良好に追従して屈曲することができるので、留置具10がインナーカテーテル20の形状に変形してしまうことを抑制できる。よって、留置具10の自然状態の形状を良好に維持することができる。
【0013】
本実施形態の場合、一例として、留置具10はステントである。ただし、留置具10は、例えば、ステントグラフトであってもよい。
【0014】
本実施形態の場合、留置具10は、予め屈曲形状に賦形された屈曲部15を有し、屈曲部15に易屈曲構造部30が挿通されている。
留置具10が屈曲部15を有することによって、生体管腔の内壁に対する留置具10のアンカー性が良好となる。また、屈曲部15には易屈曲構造部30が挿通されているので、屈曲部15が易屈曲構造部30の形状に変形してしまうことを抑制できる。よって、留置具10のアンカー性を良好に維持することができる。
【0015】
留置具10は、長尺な中空の管状部材である。図3に示すように、留置具10は、先端部11と、基端部12と、先端部11と基端部12との間に位置する中間部13と、を有する。例えば、このうち、先端部11と基端部12とが、それぞれ屈曲部15を構成している。ただし、本発明はこの例に限らず、留置具10の先端部11と基端部12とのうちいずれか一方が屈曲部15を構成していてもよい。
中間部13は、例えば、直線状に延在している。中間部13の先端は、先端部11の基端と接続されており、中間部13の基端は、基端部12の先端と接続されている。
先端部11と基端部12とは、例えば、中間部13を基準として、互いに先基端方向において略対称形状に形成されている。より詳細には、先端部11及び基端部12は、例えば、中間部13の軸方向において中間部13から遠ざかる方向に向けて凸の円弧状に、それぞれ形成されている。
先端部11の一般角R1と基端部12の一般角R2とは、例えば、互いに同等の角度に設定されている。より詳細には、一例として、先端部11の中心角(一般角R1)及び基端部12の中心角(一般角R2)の各々は、200度前後であることが挙げられる。
先端部11の曲率半径と基端部12の曲率半径とは、例えば、互いに同等の曲率半径に設定されている。すなわち、先端部11と基端部12とは、例えば、互いに同一形状に形成されている。
ただし、先端部11と基端部12とは、例えば、互いに異なる形状に形成されていてもよい。すなわち、先端部11の一般角R1と基端部12の一般角R2とは、例えば、互いに異なる角度に設定されてもよいし、先端部11の曲率半径と基端部12の曲率半径とは、例えば、互いに異なる曲率半径に設定されていてもよい。
また、留置具10は、屈曲部15を有しておらず、その全体が略直線状に形成されていてもよい。
また、先端部11の外周面及び基端部12の各々の外周面10bには、例えば、複数(例えば、5つ)の開口部17が形成されている。開口部17は、例えば、留置具10の軸方向に対して直交する方向を深さ方向とする側孔であり、留置具10の外周面10bに開口している。
【0016】
また、図1図2及び図3に示すように、留置具10には、例えば、基端部12の配置領域を示すマーキング部19が形成されている。なお、図1図2及び図3において、マーキング部19の形成箇所には、ドットの網掛けを付している。
マーキング部19の位置を指標とすることにより、例えば、内視鏡による撮影画像を介して生体管腔内における基端部12の位置を適確に認識することができる。
マーキング部19は、例えば、インクを塗布することによって形成されている。インクの色は特に限定されないが、一例として、黒色である。
また、例えば、マーキング部19は、白金やタングステンなどのX線不透過性の材料からなるインクやリング部材によって構成されていてもよい。
【0017】
留置具10は、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、シリコーン、ポリアミド、ポリアミドイミド、塩化ビニル、ポリエーテルスルホンなどの樹脂材料によって構成されている。特に留置具10をポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアミドイミドなどの樹脂材料で構成することにより、留置具10の加工性が良好となる。
【0018】
留置具10の外周面には、例えば、親水層(不図示)が形成されていることも好ましい。これにより、医療器具100が生体管腔に挿入される際の摺動抵抗を低減することができる。
親水層は、留置具10の全長に亘って形成されていてもよく、または留置具10の先端側における一部の長さの領域に形成されていてもよい。
親水層の材料は、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)などの無水マレイン酸系ポリマーやその共重合体、ポリビニルピロリドンなどの親水性の樹脂材料であることが挙げられる。
【0019】
留置具10の全長は、特に限定されないが、60mm以上1000mm以下であることが好ましく、90mm以上500mm以下であることが更に好ましい。
留置具10の外径は、特に限定されないが、2mm以上5mm以下であることが好ましい。
留置具10の先端部11及び基端部12の各々の長さ寸法(軸方向における寸法)は、特に限定されないが、30mm以上100mm以下であることが好ましい。
留置具10の先端部11及び基端部12の各々の一般角R1、R2は、特に限定されないが、180度以上360度以下であることが好ましい。
留置具10の先端部11及び基端部12の各々の曲率半径は、特に限定されないが、5mm以上15mm以下であることが好ましい。
【0020】
本実施形態の場合、例えば、留置具10は、その内径及び外径は略一定であり、したがってその肉厚は略一定である。ただし、後述するように、留置具10の最先端部の内径及び外径の各々は軸方向において変化していてもよい。
また、留置具10の内径は、インナーカテーテル20の外径よりも大きいことが好ましい。これにより、インナーカテーテル20に対する留置具10の着脱を容易に行うことができる。
【0021】
本実施形態の場合、インナーカテーテル20は、留置具10に対して軸方向に摺動させることによって抜去可能に当該留置具10に挿通されている。
初期状態では、インナーカテーテル20の少なくとも易屈曲構造部30は、留置具10に挿通されている。この状態において、易屈曲構造部30は、例えば、屈曲部15(先端部11及び基端部12)の屈曲形状に沿って屈曲している。
図4に示すように、インナーカテーテル20は、長尺な中空の管状部材である。また、易屈曲構造部30を除いて、自然状態におけるインナーカテーテル20は、例えば、略直線状に形成されている。
易屈曲構造部30を除いて、インナーカテーテル20の内径は、例えば、軸方向における位置にかかわらず略一定であり、インナーカテーテル20の外径は、例えば、軸方向における位置にかかわらず略一定である。
ここで、以下の説明において、インナーカテーテル20の先端部21の先端部を、インナーカテーテル20の最先端部と称する。
そして、本実施形態の場合、インナーカテーテル20の最先端部は、先端側に向けて外径及び内径が縮径しているテーパ状に形成されている。
【0022】
ここで、図2図4及び図5においては、易屈曲構造部30の形状を模式的に示している。また、図6(a)、図6(b)及び図6(c)は、インナーカテーテル20の軸方向に沿った断面図である。なお、図6(c)においては、易屈曲構造部30が屈曲部15に挿通された状態を示している。
本実施形態の場合、図6(a)、図6(b)及び図6(c)に示すように、易屈曲構造部30は、蛇腹構造である。これにより、易屈曲構造部30は、軸方向に伸縮可能となっているとともに、軸方向に対して交差する方向へ屈曲可能となっている。また、易屈曲構造部30は、外力の付与によって直線状態又は屈曲状態に変形させることができるとともに、新たな外力が付与されるまではその形状(新たな外力が付与される前の形状)に維持可能に構成されている。
ここで、以下の説明において、易屈曲構造部30の各部の形状の説明は、特に断りがない限り、伸長状態(図6(b)に示す形状)での形状を説明したものである。
図6(b)に示すように、易屈曲構造部30は、例えば、軸回りに巻回して形成されている螺旋状の板状部である第1面状部31a及び第2面状部31bによって構成されている。
第1面状部31aは、例えば、第2面状部31bの各巻回部どうしの間隙を埋めるようにして配置されている。同様に、第2面状部31bは、第1面状部31aの各巻回部どうしの間隙を埋めるようにして配置されている。このように第1面状部31a及び第2面状部31bが配置されることによって、径方向における外方に向けて凸の1本の螺旋状の突条部31に形成されている。換言すると、径方向における内方に向けて凹の1本の螺旋状の溝部32が形成されている。
軸方向に沿った断面において、例えば、第1面状部31aの各巻回部は先端側に向けて広がっており、第2面状部31bの各巻回部は先端側に向けて窄まっており、このような第1面状部31aの各巻回部と第2面状部31bの各巻回部とによって、複数の山部33が形成されている。
そして、第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部の各々において、第1面状部31aと第2面状部31bとがそれぞれ折り畳まれた状態(図6(a)参照)と、第1面状部31aと第2面状部31bとがそれぞれ展開された状態(図6(b)参照)と、に切り替え可能となっている。これにより、易屈曲構造部30は、軸方向に伸縮したり、軸方向に対して交差する方向へ屈曲したりすることができる。
より詳細には、例えば、インナーカテーテル20の基端部を基端側に牽引すると、図6(b)に示すように、第1面状部31aと第2面状部31bとが軸方向において互いに離間することによって、第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部の各々が展開された状態となる。これにより、易屈曲構造部30(蛇腹構造)は軸方向に伸長するとともに、縮径することとなる。
一方、例えば、インナーカテーテル20の基端部を先端側に押し込むと、第1面状部31aと第2面状部31bとが軸方向において互いに近づくことによって、易屈曲構造部30(蛇腹構造)は軸方向に縮むとともに、易屈曲構造部30は拡径することとなる。この状態から、更にインナーカテーテル20の基端部を先端側に押し込むと、図6(a)に示すように、第1面状部31aの内面と第2面状部31bの内面とが互いに面接触し、第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部が折り畳まれた状態となる。この状態において、例えば、軸方向に沿った第1面状部31aの各巻回部の断面形状は、先端側に向けて窄まっており、軸方向に沿った第2面状部31bの各巻回部の断面形状は、先端側に向けて窄まっている。
また、易屈曲構造部30は、周方向における、第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部の各々の全体が折り畳まれた状態、もしくは、周方向における第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部の各々の一部分が折り畳まれた状態にできるように構成されている。これにより、易屈曲構造部30は複数の方向に屈曲可能となり、図6(c)に示すように、易屈曲構造部30を屈曲させると、易屈曲構造部30の屈曲した部分においては、インコース側の第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部はそれぞれ折り畳まれた状態となり、アウトコース側の第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部は展開された状態となる。
【0023】
上述の構成によれば、インナーカテーテル20を生体管腔内に挿入する際に、インナーカテーテル20を先端側(生体側)に押し込むと、易屈曲構造部30は短縮状態となりやすくなり、インコース側において、第1面状部31aの各巻回部及び第2面状部31bの各巻回部が折り畳まれやすくなる。このため、軸方向における押し込み力がインナーカテーテル20に対して良好に作用することとなるので、プッシャビリティ(押し込み性)が十分に確保され、インナーカテーテル20の貫通性が良好となる。また、易屈曲構造部30が拡径することとなるので、易屈曲構造部30を屈曲部15に対して良好に係合させることができる。これにより、インナーカテーテル20を生体管腔内に挿入する際に、軸方向において、留置具10がインナーカテーテル20に対して相対的に変位してしまうことを抑制できる。なお、後述する第1実施形態の変形例と比較して、本実施形態における易屈曲構造部30の方が、プッシャビリティ(押し込み性)をより十分に確保することができる。
一方、インナーカテーテル20を留置具10から抜去する際には、インナーカテーテル20が基端側に牽引されることによって、易屈曲構造部30は軸方向に伸長し縮径することとなる。このため、易屈曲構造部30が短縮状態となって拡径した状態と比較して、留置具10の内周面10aとインナーカテーテル20の外周面20bとのクリアランスが良好に確保されるので、インナーカテーテル20を留置具10から容易に抜去することができる。
【0024】
ここで、本実施形態の場合、図5に示すように、留置具10の先端からインナーカテーテル20の先端部21が突出しており、留置具10の内周面10aとインナーカテーテル20の外周面20bとのクリアランスが、留置具10の先端部11において局部的に小さくなっている。より詳細には、留置具10の先端部11において、留置具10の内周面10aの少なくとも一部分が、インナーカテーテル20の外周面20bに対して接している。もしくは、留置具10の先端部11において、インナーカテーテル20の外周面20bの少なくとも一部分が、留置具10の内周面10aに対して接している。
これにより、軸方向において、インナーカテーテル20に対する留置具10の意図しない変位を抑制することができる。
更には、インナーカテーテル20を生体管腔に挿入する時に、インナーカテーテル20を先端側に押し込む際に、軸方向において、留置具10に対するインナーカテーテル20の相対的な前進(先端側への変位)が抑制される。
ここで、以下の説明では、先端部11の先端部を留置具10の最先端部と称する。そして、留置具10の最先端部の内径及び外径は、例えば、それぞれ先端側に向けて縮径している。そして、留置具10の最先端の内径は、例えば、インナーカテーテル20の外径と略同等の寸法に設定されている。よって、留置具10の内周面10aにおける最先端は、インナーカテーテル20の先端部21の外周面20bに対して周回状に当接している。
これにより、留置具10の外周面10bとインナーカテーテル20の外周面20bとの境界部の段差を小さくすることができるので、生体器官の内壁に対する医療器具100の摺動抵抗を低減することができる。
なお、留置具10の最先端部の内径及び外径が縮径している代わりに、もしくは当該内径及び外径が縮径しているのに加えて、インナーカテーテル20の外周面20bにおいて、留置具10の最先端部の内周面10aと対応する部位、又は留置具10の最先端に接する部位に凸部が形成されていてもよいし、当該部位が局部的に大径となっていてもよいし、当該部位が粗面化されていてもよい。このような構成によっても、留置具10の内周面10aとインナーカテーテル20の外周面20bとのクリアランスを、留置具10の先端部11において局部的に小さくすることができる。
【0025】
また、本実施形態の場合、インナーカテーテル20において、易屈曲構造部30は先端部21よりも基端側に形成されている。換言すると、インナーカテーテル20の先端部21は、易屈曲構造部30の非形成領域となっている。
これにより、インナーカテーテル20の先端部21の適度なコシが得られるので、生体管腔への医療器具100の挿入を容易に行うことができる。
易屈曲構造部30は、例えば、インナーカテーテル20において、少なくとも留置具10の屈曲部15に挿通される領域に形成されていることが好ましい。すなわち、易屈曲構造部30は、インナーカテーテル20において、留置具10の先端部11に挿通される領域及び留置具10の基端部12に挿通される領域にそれぞれ形成されていることが好ましい。
なお、易屈曲構造部30は、例えば、インナーカテーテル20において、留置具10に挿通されている領域の全域に亘って形成されていてもよいし、当該領域及び当該領域よりも基端側の領域にそれぞれ形成されていてもよい。
【0026】
インナーカテーテル20は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレンなどの摩擦抵抗が低いフッ素系樹脂によって一体成形されていることが好ましい。これにより、生体器官内を移動する際において、インナーカテーテル20の、生体器官の内壁に対する摺動抵抗を低減することができる。
【0027】
インナーカテーテル20の全長は特に限定されず、少なくとも留置具10の全長に亘って挿入することのできる長さであればよい。
より詳細には、インナーカテーテル20の全長は、例えば、350mm以上5000mm以下であることが好ましく、500mm以上2000mm以下であることが更に好ましい。
インナーカテーテル20の外径は、特に限定されないが、0.8mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.5mm以下であることが更に好ましい。
インナーカテーテル20の自然状態において、易屈曲構造部30の長さ寸法(軸方向における寸法)は、特に限定されないが、20mm以上250mm以下であることが好ましく、30mm以上100mm以下であることが更に好ましい。
インナーカテーテル20の自然状態において、易屈曲構造部30の外径は、特に限定されないが、0.8mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.5mm以下であることが更に好ましい。
ただし、インナーカテーテル20の各部の長さや外径及び内径に関しては、医療器具100の用途などに応じて、上記した以外の寸法に設定されてもよい。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の場合、医療器具100は、例えば、プッシャーカテーテル40と、プッシャーカテーテル40の基端部に接続されている操作部50と、を更に備えている。
プッシャーカテーテル40は、長尺な中空の管状部材である。プッシャーカテーテル40は、例えば、インナーカテーテル20から取り外し可能にインナーカテーテル20に装着されている。
プッシャーカテーテル40の内径は、インナーカテーテル20の外径よりも大きい寸法に設定されている。
プッシャーカテーテル40の外径は、例えば、留置具10の外径と略同等の寸法に設定されている。
操作部50は、例えば、プッシャーカテーテル40の基端部に接続されている第1部材51と、インナーカテーテル20の基端部に接続されている第2部材52と、を備えている。
第1部材51は、例えば、インナーカテーテル20を挿通可能な筒状に形成されている。
第1部材51の内径は、インナーカテーテル20の外径よりも大きい寸法に設定されている。このため、第1部材51の内腔にインナーカテーテル20を挿通可能となっている。また、第1部材51の先端部には、プッシャーカテーテル40の基端部が接続されており、第1部材51の内腔は、当該第1部材51の先端側の開口を介して、プッシャーカテーテル40の内腔と連通している。
第2部材52は、例えば、後述するガイドワイヤを挿通可能な筒状に形成されている。第2部材52は、例えば、第1部材51に対して取り外し可能に装着されている。第2部材52が第1部材51に装着されている状態において、インナーカテーテル20は、第1部材51の内腔を介して、プッシャーカテーテル40及び留置具10に挿入されている。
そして、プッシャーカテーテル40は、留置具10よりも基端側に配置されており、留置具10の基端側の端面は、プッシャーカテーテル40の先端側の端面と対向している。
【0029】
プッシャーカテーテル40の材料は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレンなどの摩擦抵抗が低いフッ素系樹脂であることが好ましい。これにより、生体器官内を移動する際において、プッシャーカテーテル40の、生体器官の内壁に対する摺動抵抗を低減することができる。
【0030】
ここで、留置具10の基端には、例えば、紐状の部材で構成された連結部材(不図示)が接続されていてもよい。連結部材の基端部は、プッシャーカテーテル40の先端縁に対して固定されている。すなわち、連結部材を介して、留置具10とプッシャーカテーテル40とが互いに連結されている。連結部材の先端部は、インナーカテーテル20の外周面20bと留置具10の内周面10aとの間で挟持されている。
インナーカテーテル20が留置具10から抜去されると、留置具10に対する連結部材の接続が解除され、留置具10とプッシャーカテーテル40との連結を解除することができる。
【0031】
例えば、プッシャーカテーテル40の外周面やインナーカテーテル20の外周面には、親水性剤がコーティングされていることも好ましい。これにより、生体器官の内壁に対するプッシャーカテーテル40及びインナーカテーテル20の摺動抵抗を低減することができ、医療器具100の操作性が良好となる。
【0032】
本実施形態の場合、医療器具100は、使用前の状態では、例えば、滅菌処理が施された状態で包装具(不図示)に収容されている。この状態において、インナーカテーテル20は、留置具10の内腔に挿通された状態となっている。
ここで、上述のように、本実施形態の場合、インナーカテーテル20が留置具10の屈曲部15に挿通されているが、屈曲部15に挿通されている部分の少なくとも一部分は易屈曲構造部30である。このため、インナーカテーテル20が留置具10に挿通された状態で医療器具100が長期間保存されたとしても、留置具10の自然状態の形状を良好に維持することができる。
【0033】
以下では、一例として、医療器具100が留置具10を胆管(不図示)の内部に留置する手技に用いられる例について説明する。
なお、予め内視鏡(不図示)の挿入部の先端部が、十二指腸(不図示)の内部において、十二指腸乳頭部(ファーター乳頭部)の近傍に留置されているとともに、予め胆管(不図示)内に針孔が形成されており、ガイドワイヤ(不図示)の先端部が、当該針孔に対してアンカーされている(係止されている)状態から説明する。
まず、医療器具100を、ガイドワイヤに沿って導入する。より詳細には、インナーカテーテル20をガイドワイヤに外挿し、インナーカテーテル20をガイドワイヤの軸方向に沿って基端側から先端側に摺動させながら、インナーカテーテル20を上記針孔まで送り込む。この際に、留置具10は、弾性復元力に抗してガイドワイヤに沿った略直線状に変形させられている。次に、留置具10をインナーカテーテル20に沿って基端側から先端側に摺動させながら、留置具10を胆管の内部まで送り込む。ここで、例えば、留置具10の先端部11及び中間部13は、十二指腸乳頭部を介して胆管の内部に配置されており、留置具10の基端部12は、十二指腸の内部において、十二指腸乳頭部の近傍に配置されている。次に、この状態で留置具10を留置する。より詳細には、ガイドワイヤ及びインナーカテーテル20をそれぞれ後退させることによって、当該ガイドワイヤ及びインナーカテーテル20の各々を留置具10から抜去する(取り外す)。そして、留置具10の屈曲部15(先端部11及び基端部12)は、弾性復元力により、自然状態の形状、すなわち図3に示す円弧状の形状、もしくは当該自然状態に近い形状に復元する。これにより、円弧状の先端部11が、胆管の内壁に対して係止され、円弧状の基端部12が、十二指腸の内部において、十二指腸乳頭部に対して係止される。なお、インナーカテーテル20を後退させる際において、留置具10の基端側に配置されているプッシャーカテーテル40によって、留置具10の後退が規制される。
【0034】
<変形例>
次に、図7(a)及び図7(b)を用いて第1実施形態の変形例を説明する。なお、図7(a)及び図7(b)は、インナーカテーテル20の軸方向に沿った断面図である。
本変形例に係る医療器具100は、以下に説明する点で、上記の第1実施形態に係る医療器具100と相違しており、その他の点では、上記の第1実施形態に係る医療器具100と同様に構成されている。
【0035】
本変形例の場合も、易屈曲構造部30は、蛇腹構造である。ただし、本変形例の場合、易屈曲構造部30は、軸回りに巻回して形成されている螺旋状の突条部31と、軸回りに巻回して形成されている螺旋状の板状部である中間部34と、を有する。
突条部31は、中間部34の各巻回部どうしの間隙を埋めるようにして配置されている。同様に、中間部34は、突条部31の各巻回部どうしの間隙を埋めるようにして配置されている。
軸方向に沿った断面において、突条部31の各巻回部は、それぞれ径方向における外方に向けて凸の逆U字状となっている。
そして、易屈曲構造部30は、軸方向において、突条部31の各巻回部どうしが互いに近接又は密着しているとともに中間部34が撓んで縮んでいる状態と、軸方向において、突条部31の各巻回部どうしが互いに離間しているとともに、中間部34が伸びている状態と、に切り替え可能となっている。これにより、易屈曲構造部30は、軸方向に伸縮したり、軸方向に対して交差する方向へ屈曲したりすることができる。
より詳細には、図7(a)に示すように、インナーカテーテル20の基端部が基端側に牽引されると、軸方向において、突条部31の各巻回部どうしが互いに離間しているとともに、中間部34が伸びている状態となる。これにより、易屈曲構造部30は、伸長状態となるとともに縮径する。
一方、図7(b)に示すように、インナーカテーテル20の基端部が先端側に押し込まれると、突条部31の各巻回部どうしが互いに近接又は密着しているとともに中間部34が撓んで縮んでいる状態となる。これにより、易屈曲構造部30は、軸方向に縮むとともに拡径する。
【0036】
〔第2実施形態〕
次に、図8(a)、図8(b)及び図9を用いて第2実施形態を説明する。なお、図8(b)はインナーカテーテル20の軸方向に沿った断面図である。また、図9は、インナーカテーテル20の径方向に沿った断面図であり、インナーカテーテル20が留置具10に挿通されている状態を示している。
【0037】
図8(a)、図8(b)及び図9に示すように、本実施形態の場合、インナーカテーテル20は、当該インナーカテーテル20の全長の一部の区間に配置されたコイルスプリング36を含んで構成されており、易屈曲構造部30は、コイルスプリング36の全長の少なくとも一部分を含んで構成されている。
このような構造によっても、インナーカテーテル20は留置具10の形状に追従して良好に屈曲することができる。このため、インナーカテーテル20が留置具10に挿通されている状態において、留置具10がインナーカテーテル20の形状に変形してしまうことを抑制できる。よって、留置具10の自然状態の形状を良好に維持することができる。
コイルスプリング36は、コイルスプリング36の軸心方向に伸縮可能であるため、インナーカテーテル20を生体管腔内に挿入する際において、インナーカテーテル20の基端部を先端側に押し込むと、コイルスプリング36は軸方向において縮んだ状態となり、コイルスプリング36のピッチが密状態となる。このため、軸心方向における押し込み力がインナーカテーテル20に対して良好に作用することとなるので、プッシャビリティ(押し込み性)が十分に確保され、インナーカテーテル20の貫通性が良好となる。
一方、インナーカテーテル20を留置具10から抜去する際には、インナーカテーテル20の基端部が基端側に牽引されることによって、コイルスプリング36はその軸心方向に引き伸ばされて縮径することとなる。このため、インナーカテーテル20を留置具10から容易に抜去することができる。
【0038】
図8(a)及び図8(b)に示すように、コイルスプリング36は、例えば、ワイヤ部材を螺旋状に巻回することにより長尺な管状に構成されている。コイルスプリング36は、例えば、ワイヤ部材が等間隔ピッチ(密巻きの場合も含む)で巻回されることによって構成されている。
ワイヤ部材は、例えば、金属材料によって構成されていることが好ましいが、樹脂材料によって構成されていてもよい。
本実施形態の場合、一例として、コイルスプリング36は、インナーカテーテル20において、少なくとも留置具10に挿通されている区間に配置されている。したがって、コイルスプリング36は、屈曲部15(先端部11及び基端部12)に挿通されており、当該屈曲部15に挿通されている部分の少なくとも一部分が、易屈曲構造部30を構成している。
また、自然状態において、コイルスプリング36の軸心は直線状に延在する。したがって、コイルスプリング36の易屈曲構造部30は、当該易屈曲構造部30の弾性復元力に抗して留置具10に収容されている。
【0039】
インナーカテーテル20の自然状態において、コイルスプリング36の全長は、特に限定されないが、20mm以上250mm以下であることが好ましく、30mm以上100mm以下であることが更に好ましい。
インナーカテーテル20の自然状態において、コイルスプリング36の外径は、特に限定されないが、0.8mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.5mm以下であることが更に好ましい。
インナーカテーテル20の自然状態において、コイルスプリング36のワイヤ部材の線径は特に限定されないが、0.05mm以上2mm以下であることが好ましく、0.05mm以上0.5mm以下であることが更に好ましい。
【0040】
ここで、本実施形態の場合、コイルスプリング36は、樹脂コート37(図9参照)付きの構造である。より詳細には、図8(b)に示すように、樹脂コート37は、例えば、少なくともコイルスプリング36の螺旋状の個々の巻回部どうしの間に設けられている。
これにより、コイルスプリング36の個々の巻回部どうしが互いに干渉してしまうことを抑制できるので、各巻回部が軸方向において整列した状態を、良好に維持することができる。
【0041】
また、図9に示すように、樹脂コート37は、例えば、コイルスプリング36と同軸に配置されており、コイルスプリング36の内周側の領域38と外周側の領域39とが相互に遮蔽されている。本実施形態の場合、樹脂コート37によって、コイルスプリング36の内周側の領域38と外周側の領域39とが相互に遮蔽されている。ただし、本発明において、樹脂コート37とコイルスプリング36の協働によって、内周側の領域38と外周側の領域39とが相互に遮蔽されていてもよい。
これにより、例えば、コイルスプリング36の内腔、すなわちコイルスプリング36の内周側の領域38に薬液又は造影剤などの液体を流動させることができる。
【0042】
樹脂コート37は、例えば、長尺な中空の略管状に形成されている。
より詳細には、図8(b)及び図9に示すように、樹脂コート37の外周面37bはコイルスプリング36の外周側の領域39に配置されており、樹脂コート37の内周面37aはコイルスプリング36の内周側の領域38に配置されており、このようにして樹脂コート37はコイルスプリング36の全体を内包している。換言すると、コイルスプリング36は、樹脂コート37の内部に埋設されている。
これにより、インナーカテーテル20を上述のガイドワイヤに外挿する際に、当該ガイドワイヤとコイルスプリング36とが互いに干渉したり、ガイドワイヤがコイルスプリング36の個々の巻回部どうしの間隙に挟まったり、ガイドワイヤが当該間隙から外周側の領域39に突出してしまうことを抑制できる。
本実施形態の場合、樹脂コート37は、コイルスプリング36の全長に亘って形成されている。
【0043】
本実施形態の場合、例えば、樹脂コート37の形成範囲において、樹脂コート37の内周面37aが、インナーカテーテル20の内周面20aを構成している。また、樹脂コート37の外周面37bがインナーカテーテル20の外周面20bの一部分を構成している。そして、インナーカテーテル20の自然状態において、樹脂コート37を含むインナーカテーテル20の外径は、軸方向における位置にかかわらず略一定に設定されており、樹脂コート37を含むインナーカテーテル20の内径は、軸方向における位置にかかわらず略一定に設定されている。
ただし、本変形例の場合、インナーカテーテル20の最先端部の外径は、先端側に向け縮径している。
【0044】
インナーカテーテル20において、コイルスプリング36及び樹脂コート37は、例えば、先端部21よりも基端側の領域に配置されている。換言すると、インナーカテーテル20の先端部21は、コイルスプリング36の非形成領域となっている。
これにより、インナーカテーテル20の先端部21の適度なコシが得られるので、インナーカテーテル20を生体管腔に容易に挿入することができる。
また、本実施形態の場合、一例として、先端部21は、樹脂コート37及びコイルスプリング36とは別体に成形されたチューブ部材によって構成されており、当該チューブ部材が、熱融着又は熱収縮テープ等によって樹脂コート37の先端に対して固定されている。
【0045】
樹脂コート37を構成している材料は、特に限定されないが、例えば、伸縮性を有する樹脂材料であることが好ましい。これにより、コイルスプリング36の伸縮に追従して樹脂コート37が良好に伸縮することができる。
このような伸縮性を有する樹脂材料としては、例えば、シリコーン、ウレタンなどのゴム材料が挙げられるが、ナイロンエラストマー等の樹脂材料であってもよい。
【0046】
以上、図面を参照して各実施形態を説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0047】
例えば、上記の第1実施形態では、易屈曲構造部30(蛇腹構造)が、軸回りに巻回して形成されている螺旋状の板状部である第1面状部31a及び第2面状部31bによって構成されている例を説明した。ただし、本発明はこの例に限らず、易屈曲構造部30(蛇腹構造)は、例えば、軸方向に並んで配置されている複数の環状部(不図示)によって構成されていてもよい。そして、例えば、各環状部が軸方向において折り畳まれた状態と展開された状態とに切り替わることによって、易屈曲構造部30は、軸方向に伸縮したり、軸方向に対して交差する方向へ屈曲したりすることができる。もしくは、例えば、軸方向において、各環状部どうしが互いに近接又は密着した状態と互いに離間した状態とに切り替わることによって、易屈曲構造部30は、軸方向に伸縮したり、軸方向に対して交差する方向へ屈曲したりすることができる。
【0048】
また、上記の第1実施形態では、伸長状態において、軸方向に沿った第1面状部31aの各巻回部の断面形状は先端側に向けて広がっており、軸方向に沿った第2面状部31bの各巻回部の断面形状は先端側に向けて窄まっているとともに、短縮状態において、軸方向に沿った第1面状部31aの各巻回部の断面形状は、先端側に向けて窄まっており、軸方向に沿った第2面状部31bの各巻回部の断面形状は、先端側に向けて窄まっている例を説明した。ただし、本発明はこの例に限らず、例えば、伸長状態において、軸方向に沿った第1面状部31aの各巻回部の断面形状は基端側に向けて広がっており、第2面状部31bの各巻回部は基端側に向けて窄まっているとともに、例えば、短縮状態において、軸方向に沿った第1面状部31aの各巻回部の断面形状は、基端側に向けて窄まっており、軸方向に沿った第2面状部31bの各巻回部の断面形状は、基端側に向けて窄まっていてもよい。
【0049】
また、上記の第2実施形態においては、コイルスプリング36が樹脂コート37の内部に埋設されている例を説明したが、樹脂コート37は、例えば、コイルスプリング36とは別体に成形されている樹脂チューブであってもよい。この場合、樹脂コート37(樹脂チューブ)は、コイルスプリング36の内腔に挿通されていてもよいし、コイルスプリング36に外挿されていてもよい
樹脂コート37がコイルスプリング36の内腔に挿通されている場合、コイルスプリング36が留置具10の内周面10aに対して点接触することとなるので、留置具10に対するコイルスプリング36の摺動抵抗を低減させることができる。
また、樹脂コート37がコイルスプリング36に外挿されている場合、ガイドワイヤがコイルスプリング36に対して点接触することとなるので、コイルスプリング36に対するガイドワイヤの摺動抵抗を低減させることができる。
また、例えば、医療器具100は2つの樹脂チューブを備えており、2つの樹脂チューブのうち一方の樹脂チューブがコイルスプリング36の内腔に挿通されており、他方の樹脂チューブがコイルスプリング36に外挿されていてもよい。
【0050】
また、例えば、上記の第2実施形態においては、樹脂コート37が、コイルスプリング36の外周側の領域39に配置されているとともに、コイルスプリング36の内周側の領域38に配置されている例を説明したが、樹脂コート37は、例えば、内周側の領域38と外周側の領域39とのうちいずれか一方に配置されていてもよい。また、樹脂コート37は、例えば、内周側の領域38及び外周側の領域39には存在せず、コイルスプリング36の個々の巻回部どうしの間隙に選択的に設けられていてもよい。
【0051】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)管状の留置具と、前記留置具に挿通されているインナーカテーテルと、を有する医療器具であって、
前記インナーカテーテルは、当該インナーカテーテルの軸方向に対して交差する方向への屈曲が容易な易屈曲構造部を、前記留置具に挿通されている領域に有する医療器具。
(2)前記易屈曲構造部は、蛇腹構造である(1)に記載の医療器具。
(3)前記インナーカテーテルは、当該インナーカテーテルの全長の一部の区間に配置されたコイルスプリングを含んで構成されており、
前記易屈曲構造部は、前記コイルスプリングの全長の少なくとも一部分を含んで構成されている(1)に記載の医療器具。
(4)前記コイルスプリングは、樹脂コート付きの構造である(3)に記載の医療器具。
(5)前記樹脂コートは、前記コイルスプリングと同軸に配置されており、前記コイルスプリングの内周側の領域と外周側の領域とが相互に遮蔽されている(4)に記載の医療器具。
(6)前記留置具は、予め屈曲形状に賦形された屈曲部を有し、前記屈曲部に前記易屈曲構造部が挿通されている(1)から(5)のいずれか一項に記載の医療器具。
(7)前記留置具の先端から前記インナーカテーテルの先端部が突出しており、
前記留置具の内周面と前記インナーカテーテルの外周面とのクリアランスが、前記留置具の先端部において局部的に小さくなっている(1)から(6)のいずれか一項に記載の医療器具。
【符号の説明】
【0052】
10 留置具
10a 内周面
10b 外周面
11 先端部
12 基端部
13 中間部
15 屈曲部
17 開口部
19 マーキング部
20 インナーカテーテル
20a 内周面
20b 外周面
21 先端部
30 易屈曲構造部
31 突条部
31a 第1面状部
31b 第2面状部
32 溝部
33 山部
34 中間部
36 コイルスプリング
37 樹脂コート
37a 内周面
37b 外周面
38 内周側の領域
39 外周側の領域
40 プッシャーカテーテル
50 操作部
51 第1部材
52 第2部材
100 医療器具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9