(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ワニスおよび樹脂膜
(51)【国際特許分類】
C09D 145/00 20060101AFI20240903BHJP
C08F 32/04 20060101ALI20240903BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240903BHJP
【FI】
C09D145/00
C08F32/04
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2020162323
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】池田 陽雄
(72)【発明者】
【氏名】穴田 亘平
(72)【発明者】
【氏名】大西 治
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141446(JP,A)
【文献】特開2010-145959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0280128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される構造単位aを少なくとも1種
と、下記一般式(2)で表される構造単位bを少なくとも1種と、を含み、フッ素含有量が45重量%以上65重量%以下であるポリマーと、
(B)溶媒と、
を含むワニス。
【化1】
(一般式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立して水素、炭素数1~30の炭化水素基、置換または無置換の炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基を示し、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは前記フッ素含有炭化水素基である。nは0、1または2である。)
【化2】
(一般式(2)中、mは0、1または2である。)
【請求項2】
(A)下記一般式(1)で表される構造単位aを少なくとも1種と、下記一般式(3)で表される構造単位cを少なくとも1種と、を含み、フッ素含有量が45重量%以上65重量%以下であるポリマーと、
(B)溶媒と、
を含むワニス。
【化3】
(一般式(1)中、R
1
、R
2
、R
3
およびR
4
はそれぞれ独立して水素、炭素数1~30の炭化水素基、置換または無置換の炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基を示し、R
1
、R
2
、R
3
およびR
4
の少なくとも1つは前記フッ素含有炭化水素基である。nは0、1または2である。)
【化4】
(一般式(3)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基または炭素数1~3のアルキル基を示し、少なくとも2つのRは炭素数1~3のアルコキシ基である。lは0、1または2である。pは0~3の整数である。)
【請求項3】
ポリマー(A)は、さらに下記一般式(2)で表される構造単位bを少なくとも1種含む、請求項
2に記載のワニス。
【化5】
(一般式(2)中、mは0、1または2である。)
【請求項4】
ポリマー(A)の前記フッ素含有炭化水素基は、-(CF
2)
n-(nは1~29の整数である。)で表される構造単位を含み、当該構造単位は構造単位aの脂環式骨格に直接結合している、請求項1
~3のいずれかに記載のワニス。
【請求項5】
さらに、無機粒子(C)を含む、請求項1~4のいずれかに記載のワニス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のワニスから得られた樹脂膜。
【請求項7】
屈折率が1.31以上1.45以下である請求項6に記載の樹脂膜。
【請求項8】
周波数1MHzにおける比誘電率は2.5以下であり、誘電正接(tanδ)は0.005以下である、請求項6または7に記載の樹脂膜。
【請求項9】
表面の水接触角が100°以上115°以下である、請求項6~8のいずれかに記載の樹脂膜。
【請求項10】
前記樹脂膜を230℃で60分間加熱した後、波長400nmで測定された透過率が70%以上である、請求項6~9のいずれかに記載の樹脂膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワニスおよび樹脂膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノルボルネン系樹脂は電気特性、光学特性、低吸湿性などに優れるという特徴を有し、成形品として種々の用途に用いられている。
ネガ型感光性樹脂組成物の分野においては、パターンの微細化に伴うレジストパターン高精度化を目的として様々な技術が開発されている。
【0003】
この種の技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術が挙げられる。
同文献によれば、[A]重合体および[B]酸発生体を含有する感放射線性樹脂組成物が記載されている。そして、[A]重合体が、構造単位(I)と構造単位(II)とを有することで、線幅のガタつきの小ささを示すLWR(Line Width Roughness)性能および欠陥抑制性に優れる、と記載されている(特許文献1の段落0012)。ここで、構造単位(I)はN-(t-ブチルオキシカルボニルメチル)マレイミド、N-(1-メチル-1-シクロペンチルオキシカルボニルメチル)マレイミド、または、N-(2-エチル-2-アダマンチルオキシカルボニルメチル)マレイミドに由来する構造単位であることが記載されている。また、構造単位(II)は、2-ノルボルネンに由来する構造単位であることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、パーフルオロヘキシルノルボルネンを基板上で重合させて得られたポリマーからなるフィルムが記載されている(実施例270)。当該文献には、得られたフィルムはフッ素系溶剤に不溶であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-184458号公報
【文献】国際公開第2000/20472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の樹脂組成物において、低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性の点で改善の余地があった。
本発明者は検討したところ、環状オレフィンポリマーの構造単位の構造を適切に選択しワニスとすることで、これらの特性に優れる硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の構造単位を有するポリマーを含むワニスを用いることにより、前記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0008】
本発明によれば、
(A)下記一般式(1)で表される構造単位aを少なくとも1種含み、フッ素含有量が45重量%以上65重量%以下であるポリマーと、
(B)溶媒と、
を含むワニスが提供される。
【化1】
(一般式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立して水素、炭素数1~30の炭化水素基、置換または無置換の炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基を示し、R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも1つは前記フッ素含有炭化水素基である。nは0、1または2である。)
【0009】
本発明によれば、
前記ワニスから得られた樹脂膜が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のワニスによれば、低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。言い換えれば、本発明のワニスから得られる硬化物は、これらの特性のバランスに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0012】
本実施形態のワニスは、ポリマー(A)と、溶媒(B)と、を含む。
以下、ワニスに含まれる成分について説明する。
【0013】
[ポリマー(A)]
本実施形態のポリマー(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位aを少なくとも1種含む。
【0014】
【0015】
一般式(1)中、nは0、1または2であり、好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して水素、炭素数1~30の炭化水素基、置換または無置換の炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基を示す。ポリマー(A)中に複数存在するR1同士、R2同士、R3同士およびR4同士は、同一でも異なっていてもよい。
【0016】
炭素数1~30の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、およびシクロアルキル基が挙げられる。
【0017】
アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。
アルケニル基としては、たとえばアリル基、ペンテニル基、およびビニル基が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基が挙げられる。
アルキリデン基としては、たとえばメチリデン基、およびエチリデン基が挙げられる。
【0018】
アリール基としては、たとえばフェニル基、ナフチル基、およびアントラセニル基が挙げられる。アラルキル基としては、たとえばベンジル基、およびフェネチル基が挙げられる。
【0019】
アルカリル基としては、たとえばトリル基、キシリル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、およびシクロオクチル基が挙げられる。
【0020】
炭素数1~30の炭化水素基は、その構造中に、O、N、S、PおよびSiから選択される少なくとも1つの原子を含んでいてもよい。
【0021】
本実施形態において、前記炭素数1~30の炭化水素基は、炭素数1~15の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10の炭化水素基であることがより好ましい。また、炭素数1~30の炭化水素基は、炭素数1~30のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~15のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがさらにより好ましい。
【0022】
R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは置換または無置換の炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基である。炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基としては、炭素数1~30のフルオロアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有する炭素数1~30のフルオロアルキル基が挙げられる。炭素数1~30のフルオロアルキル基としては、アルキル基中の1以上の水素原子が、フッ素原子により置換された炭化水素基をいう。このようなフルオロアルキル基としては、フッ化アルキル基、およびパーフルオロアルキル基を含む。
【0023】
前記炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基は、炭素数1~15のフッ素含有炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10のフッ素含有炭化水素基であることがより好ましい。また、炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基は、炭素数1~30のフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1~15のフルオロアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~10のフルオロアルキル基であることがさらにより好ましい。
【0024】
本実施形態において、前記フッ素含有炭化水素基は、
-(CF2)n-
(nは1~29、好ましくは1~14、さらに好ましくは1~9の整数である。)
で表される構造単位を含み、当該構造単位は構造単位aの脂環式骨格に直接結合していることが本発明の効果の観点から好ましい。
【0025】
置換された炭素数1~30の前記フッ素含有炭化水素基の置換基は、水酸基、アミノ基、シアノ基、エステル基、エーテル基、アミド基、スルホンアミド基等を挙げることができ、少なくとも1種の基で置換されていてもよい。
【0026】
本実施形態において、R1、R2、R3およびR4のいずれか1つが、置換または無置換の炭素数1~30のフッ素含有炭化水素基、残りが水素原子であることが好ましい。R1、R2、R3およびR4のいずれか1つが、置換または無置換の炭素数1~30のフルオロアルキル基であり、残りが水素原子であることがより好ましく、R1、R2、R3およびR4のいずれか1つが、炭素数1~10のフルオロアルキル基であり、残りが水素原子であることがさらに好ましい。R1、R2、R3およびR4が上記の基であることにより、このポリマー(A)を含む硬化物は、低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性により優れる。
【0027】
本実施形態において、本発明の効果の観点から、ポリマー(A)は、さらに下記一般式(2)で表される構造単位bを少なくとも1種含むことが好ましい。
【0028】
【0029】
一般式(2)中、mは0、1または2あり、好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
【0030】
ポリマー(A)が構成単位aと構成単位bとを含む場合、本発明の効果の観点から、構成単位合計100モル%に対し、構成単位aを50~95モル%、好ましくは60~90モル%、より好ましくは70~85モル%含むことができ、構成単位bを5~50モル%、好ましくは10~40モル%、より好ましくは15~30モル%含むことができる。
【0031】
本実施形態において、本発明の効果の観点から、ポリマー(A)は、さらに下記一般式(3)で表される構造単位cを少なくとも1種含むことが好ましい。
【0032】
【0033】
一般式(3)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルコキシ基または炭素数1~3のアルキル基を示し、少なくとも2つのRは炭素数1~3のアルコキシ基である。lは0、1または2である。pは0~3の整数である。
【0034】
ポリマー(A)が構成単位aと構成単位cとを含む場合、本発明の効果の観点から、構成単位合計100モル%に対し、構成単位aを50~95モル%、好ましくは60~90モル%、より好ましくは70~85モル%含むことができ、構成単位cを5~50モル%、好ましくは10~40モル%、より好ましくは15~30モル%含むことができる。
【0035】
ポリマー(A)が構成単位a、構成単位b、および構成単位cを含む場合、本発明の効果の観点から、構成単位合計100モル%に対し、構成単位aを50~95モル%、好ましくは60~90モル%、より好ましくは70~85モル%含むことができ、構成単位bを4~35モル%、好ましくは8~30モル%、より好ましくは12~22モル%含むことができ、構成単位cを1~15モル%、好ましくは2~10モル%、より好ましくは3~8モル%含むことができる。
【0036】
本実施形態のポリマー(A)のフッ素含有量は、45重量%以上65重量%以下、好ましくは47重量%以上60重量%以下とすることができる。これにより、低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。
【0037】
本実施形態のポリマー(A)は、マレイン酸またはマレイミドから誘導される構成単位を含まない。これにより、泡立が抑制され取り扱い性に優れたワニスを得ることができる。
【0038】
ポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)の下限は、例えば、80℃以上であり、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。これにより、樹脂材料の熱時特性をさらに向上させることができる。一方で、上記ポリマー(A)のガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、例えば、400℃以下、350℃以下、290℃以下でもよい。これにより、樹脂ワニスの塗膜性や、樹脂材料の成形性を高めることが可能になる。
【0039】
[ポリマー(A)の合成方法]
本実施形態のポリマー(A)は、たとえば、次のようにして合成することができる。
まず、モノマーとして、例えば、所定のノルボルネン系モノマーを用意する。例えば、下記一般式(1a)で表されるモノマー(1a)から選択される少なくとも1種を準備する。
【0040】
【0041】
一般式(1a)のR1、R2、R3およびR4、nは一般式(1)と同義である。
モノマー(1a)としては、例えば、以下のノルボルネンが挙げられる。
【0042】
【0043】
さらに、モノマー(1a)とともに、下記一般式(2a)で表されるモノマー(2a)から選択される少なくとも1種や、下記一般式(3a)で表されるモノマー(3a)から選択される少なくとも1種を準備することもできる。
【0044】
【0045】
一般式(2a)のmは一般式(2)と同義である。
モノマー(2a)としては、ビニルノルボルネンを挙げることができる。
【0046】
【0047】
一般式(3a)中、R、l、pは一般式(3)と同義である。
モノマー(3a)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0048】
【0049】
本実施形態においては、モノマーとして、マレイン酸またはマレイミドを含まない。これにより、泡立が抑制され取り扱い性に優れたワニスを得ることができる。
【0050】
次いで、モノマー(1a)、必要に応じてモノマー(2a)および/またはモノマー(3a)を付加重合して重合体を得る。たとえば配位重合により、付加重合が行われる。
【0051】
本実施形態においては、上記モノマーと、有機金属触媒と、を溶剤に溶解した後、所定時間加熱することにより溶液重合を行うことができる。このとき、加熱温度は、たとえば50℃以上、好ましくは60℃~200℃、さらに好ましくは70℃~150℃、特に好ましくは80℃~120℃とすることができる。本実施形態においては、従来よりも加熱温度を高温とすることでポリマー(A)の収率を向上させることができる。
【0052】
また、加熱時間は、たとえば0.5時間~72時間とすることができる。なお、窒素バブリングにより溶剤中の溶存酸素を除去したうえで、溶液重合を行うことがより好ましい。
【0053】
また、必要に応じて分子量調整剤や連鎖移動剤を使用する事ができる。連鎖移動剤としては、例えば、トリメチルシラン、トリエチルシラン、トリブチルシラン、等のアルキルシラン化合物を挙げることができる。これらの連鎖移動剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
上記重合反応に用いられる溶剤としては、たとえば、構造中にハロゲン原子を含む溶剤を含むことができる。構造中にハロゲン原子を含む溶剤としては、テトラデカフルオロヘキサン、オクタデカフルオロオクタン、オクタフルオロシクロペンタン、テトラデカフルオロメチルシクロヘキサン、ヘキサデカフルオロ1,3-ジメチルシクロヘキサン、オクタデカフルオロデカヒドロナフタレン等の含フッ素脂肪族炭化水素類、ヘキサフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、ヘキサフルオロ-m-キシレン等の含フッ素芳香族炭化水素類、フッ素化トリエチルアミン、フッ素化トリブチルアミン等の含フッ素アルキルアミン類、フッ素化プロパノール、フッ素化ペンタノール等の含フッ素アルコール類、フッ素化ブチルメチルエーテル、フッ素化ブチルエチルエーテル等の含フッ素脂肪族エーテル類、1、1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類等を挙げることができる。本実施形態において、構造中にハロゲン原子を含む溶剤を用いることにより、反応後の溶液をワニスとして用いることもできる。
【0055】
本実施形態の溶剤は、構造中にハロゲン原子を含む溶剤とともに他の溶剤を含むことができる。他の溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類を挙げることができ、これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0056】
上記有機金属触媒としては、付加重合が進行すれば特に選ばないが、後期遷移金属触媒を用いることができる。
例えばパラジウム錯体およびニッケル錯体に対してホスフィン系や、ジイミン系などの配位子を配位させ、カウンターアニオンなどを用いても良い。このうちの一種または二種以上を使用できる。
【0057】
上記パラジウム錯体としては、たとえば(アセタト-κ0)(アセトニトリル)ビス[トリス(1-メチルエチル)ホスフィン]パラジウム(I)テトラキス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)ボレート、π-アリルパラジウムクロリドダイマーなどのアリルパラジウム錯体、パラジウムの酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、ナフトエ酸塩などのパラジウムの有機カルボン酸塩、酢酸パラジウムのトリフェニルホスフィン錯体、酢酸パラジウムのトリ(m-トリル)ホスフィン錯体、酢酸パラジウムのトリシクロヘキシルホスフィン錯体などのパラジウムの有機カルボン酸の錯体、パラジウムのジブチル亜リン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などのパラジウムの有機スルフォン酸塩、ビス(アセチルアセトナート)パラジウム、ビス(ヘキサフロロアセチルアセトナート)パラジウム、ビス(エチルアセトアセテート)パラジウム、ビス(フェニルアセトアセテート)パラジウムなどのパラジウムのβ-ジケトン化合物、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス[トリ(m-トリルホスフィン)]パラジウム、ジブロモビス[トリ(m-トリルホスフィン)]パラジウム、アセトニルトリフェニルホスフォニウム錯体などのパラジウムのハロゲン化物錯体が挙げられる。
【0058】
上記ホスフィン配位子としては、トリフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどが挙げられる。
【0059】
上記カウンターアニオンとしては、例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6-トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルボレート、トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジフェニルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなど挙げられる。
【0060】
有機金属触媒の量は、ノルボルネン系モノマーに対して300ppm~5000ppm、好ましくは1000ppm~3500ppm、さらに好ましくは1500ppm~2500ppmとすることができる。これにより、ポリマー(A)の収率を向上させることができる。
【0061】
前記有機金属触媒を用いて、一般式(1)で表される構造単位aの原料化合物であるビニルノルボルネンモノマーを重合する場合、従来反応が進行し難く収率が低かった。本実施形態においては、前記有機金属触媒を用いた場合であっても、上述のように加熱温度を従来よりも高温とし、さらに好ましくは上述のように有機金属触媒の量を所定の範囲とすることにより、前記有機金属触媒を用いた場合であってもビニルノルボルネンモノマーの重合反応が進行し、収率を向上させることができる。
【0062】
得られた重合体を含む反応液を、例えば、ヘキサンやメタノール等のアルコール中に添加してポリマー(A)を析出させる。次いで、ポリマー(A)を濾取し、例えば、ヘキサンやメタノール等のアルコール等により洗浄した後、これを乾燥させることもできる。
本実施形態においては、たとえばこのようにしてポリマー(A)を合成することができる。
本実施形態の製造方法によれば、ポリマー(A)を、70%以上の高収率で得ることができる。
【0063】
[溶媒(B)]
溶媒(B)は、ポリマー(A)を溶解することができれば特に限定されないが、構造中にハロゲン原子を含有する溶媒を含むことが好ましい。
構造中にハロゲン原子を含有する溶媒としては、当該構造を備え、本発明の効果を発揮する範囲で公知の溶剤を用いることができるが、例えば、テトラデカフルオロヘキサン、オクタデカフルオロオクタン、オクタフルオロシクロペンタン、テトラデカフルオロメチルシクロヘキサン、ヘキサデカフルオロ1,3-ジメチルシクロヘキサン、オクタデカフルオロデカヒドロナフタレン等の含フッ素脂肪族炭化水素類、ヘキサフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、ヘキサフルオロ-m-キシレン等の含フッ素芳香族炭化水素類、フッ素化トリエチルアミン、フッ素化トリブチルアミン等の含フッ素アルキルアミン類、フッ素化プロパノール、フッ素化ペンタノール等の含フッ素アルコール類、フッ素化ブチルメチルエーテル、フッ素化ブチルエチルエーテル等の含フッ素脂肪族エーテル類、1、1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類等を用いることができる。
【0064】
[無機粒子(C)]
本実施形態のワニスは、ポリマー(A)および溶媒(B)に加えて、さらに無機粒子(C)を含むことができる。無機粒子(C)を含むことにより、屈折率や熱膨張係数等の膜物性を向上させることができる。
【0065】
無機粒子(C)としては、シリカやフッ化マグネシウム等の無機粒子が好ましい。さらにこれらの無機粒子は中空状や多孔質のものが好ましい。特に中空状のシリカやフッ化マグネシウムが好ましく用いられる。これらの無機微粒子の屈折率は、1.20~1.35であるのが好ましい。
無機粒子の含有量は、ワニスの固形分総量100質量%に対して10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、特に30質量%以上が好ましい。上限は75質量%以下が好ましく、70質量%以下が好ましく、特に60質量%以下が好ましい。
【0066】
(その他の成分)
本実施形態のワニスは各用途の目的や要求特性に応じて、ポリマーA以外の樹脂、フィラー、架橋剤、酸発生剤、耐熱向上剤、現像助剤、可塑剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤、揺変化剤、揺変助剤、界面活性剤、シラン系やアルミニウム系、チタン系などのカップリング剤、多価フェノール化合物等のその他の成分が配合されても良い。
【0067】
本実施形態のワニスは、ポリマー(A)と、溶剤(B)と、必要に応じて添加されるその他の成分とを、従来公知の方法で混合することにより調製することができる。
【0068】
本実施形態のワニスは、液温25℃で、少なくとも一部のポリマー(A)が溶解していればよいが、全てのポリマー(A)が溶解していることが好ましい。
【0069】
ここで、固形分濃度とは、液温25℃のワニス100質量%に対する、溶剤に溶解したポリマー(A)の質量比率(質量%)としてよい。ポリマー(A)の含有量は、固形分濃度で表されてもよい。
【0070】
ワニス中のポリマー(A)の含有量の下限は、ワニス100質量%に対して、例えば、5質量%以上、好ましくは7質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。一方、ワニス中のポリマー(A)の含有量の上限は、ワニス100質量%に対して、例えば、50質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。このような数値範囲内とすることで、ワニスのハンドリング性を向上でき、低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性に優れた樹脂材料を実現できる。
【0071】
上記樹脂ワニス中の不揮発分の主成分が、ポリマー(A)で構成されてもよい。すなわち、ポリマー(A)の含有量は、当該不揮発分100質量%に対して、例えば、90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%である。
ここで、不揮発分とは、ワニスから溶剤等の揮発成分を除いた残部を指す。
【0072】
ポリマー(A)は低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性に優れることから、本実施形態のワニスからなる硬化物(樹脂膜)は、撥液性コーティング材、透明封止材、絶縁膜、反射防止膜等に好適に用いることができる。
【0073】
[用途]
本実施形態のワニスは、必要に応じて有機溶剤を乾燥等により除去し、光または加熱、または光と加熱を併用することにより硬化させることにより硬化物を得ることができる。
【0074】
熱硬化は大気下、窒素雰囲気下、真空下等で行うことができる。得られる硬化物に透明性が要求される場合は、窒素雰囲気下や真空下で実施することが好ましく、または酸化防止剤を併用することが好ましい。
【0075】
本実施形態においては基板上にワニスを塗布し、樹脂膜として得ることができる。樹脂膜の膜厚は用途により適宜選択される。
【0076】
本実施形態の樹脂膜は低屈折性であり、当該樹脂膜の屈折率は、好ましくは1.31以上1.45以下、より好ましくは1.33以上1.42以下とすることができる。
【0077】
本実施形態の樹脂膜は低誘電性であり、当該樹脂膜の周波数1MHzにおける比誘電率は、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.4以下とすることができる。
【0078】
本実施形態の樹脂膜は撥水性に優れており、その表面の水接触角は、好ましくは100°以上115°以下、さらに好ましくは102°以上113°以下とすることができる。
【0079】
本実施形態の樹脂膜は耐熱性に優れており、樹脂膜を230℃で60分間加熱した後、波長400nmで測定された透過率が好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上とすることができる。
【0080】
さらに、本実施形態の樹脂膜は低誘電性であり、樹脂膜の周波数1MHzにおける誘電正接(tanδ)は、好ましくは0.005以下であり、より好ましくは0.003以下とすることができる。
【0081】
本実施形態の樹脂膜は、上記のように低誘電性、低屈折性、撥水性、および耐熱性に優れることから、言い換えればこれらの特性のバランスに優れていることから、各種用途に用いることできる。具体的には、撥液性コーティング材、透明封止材、絶縁膜、反射防止膜等に好適に用いることができる。
【0082】
具体的には、本実施形態の樹脂膜からなる撥液性コーティング材は、住宅の外装や内装等に用いる建材、水周り部材、フィルム等の樹脂製品、繊維または繊維製品(紙、布、衣料品等)、金属製品、ガラス製品、セラミック製品、電子部品材料等、撥水性が要求される基材に形成することで、撥液性を付与することができる。
本実施形態の樹脂膜は、透明であり低屈折性や耐熱性等に優れることから、光学素子等の透明封止材として好適に用いることができる。
本実施形態の樹脂膜は、低誘電性や耐熱性等に優れることから、半導体装置の層間絶縁膜やゲート絶縁膜等として好適に用いることができる。
本実施形態の樹脂膜は、低屈折性や耐熱性等に優れることから、CRTや液晶画面などの表示装置が表示する画像の視認性を向上させるために、表示装置の基板(ガラスまたはアクリルなど)上に設けて反射防止膜として好適に用いることができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例においては以下の原料を用いた。
【0085】
NBC6F13:5-トリデカフルオロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン
NBC4F9:5-ノナフルオロブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン
NBCOOC2H4C4F9:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-5-エン-2-カルボキシレート
VNB:5-ビニル-2-ノルボルネン
TESNB:5-トリエトキシシリル-2-ノルボルネン
HFX:ヘキサフルオロ-m-キシレン
【0086】
(触媒溶液1の調製)
あらかじめ水分を除去済みの窒素雰囲気化にしたガラス製容器に、(アセタト-κ0)(アセトニトリル)ビス[トリス(1-メチルエチル)ホスフィン]パラジウム(I)テトラキス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)ボレート0.517g(0.00043mol)、HFX20gを添加し、室温で1時間攪拌させて溶解させた後、次にN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.859g(0.0011mol)を加えてさらに30分攪拌して、窒素気流下フィルターで溶液をろ過して触媒溶液1とした。
【0087】
[合成例1]
(ポリマ-Aの合成)
撹拌機、冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、NBC6F13(1236.6g、3.0mol)、250gのHFXに溶解させた。この溶解液に対して、窒素バブリングにより系内の溶存酸素を除去した後、撹拌しつつ、70℃に到達した際、あらかじめ調整した触媒溶液1を窒素気流下で添加して70℃で6時間の条件で内温を保持させながら反応を行った後、トリエチルシランを6g添加した。これにより、以下の構造単位を有するポリマーAを得た。
【0088】
【化10】
次いで、室温まで冷却した上記溶解液を大量のメタノールを用いて再沈させた後、析出物をろ取し、そのろ取物を大量のアセトンを用いて洗浄し、固液分離にてポリマーを取り出し、真空乾燥機にて乾燥させ、989gの白色粉末ポリマーを得た。
【0089】
[合成例2]
(ポリマ-Bの合成)
モノマーとして、NBC6F13(989.3g、2.4mol)及びVNB(72.1g、0.6mol)を用いた以外は合成例1と同様にして、以下の構造単位を有するポリマーBを合成した。収量は849gであった。
【0090】
【0091】
[合成例3]
(ポリマ-Cの合成)
モノマーとして、NBC6F13(989.3g、2.4mol)、VNB(54.1g、0.45mol)及びTESNB(38.5g、0.15mol)を用いた以外は合成例1と同様にして、以下の構造単位を有するポリマーCを合成した。収量は866gであった。
【0092】
【0093】
[合成例4]
(ポリマ-Dの合成)
モノマーとして、NBC4F9(936.5g、3.0mol)を用いた以外は合成例1と同様にして、以下の構造単位を有するポリマーDを合成した。収量は750gであった。
【0094】
【0095】
[合成例5]
(ポリマ-Eの合成)
モノマーとして、NBCOOC2H4C4F9(1152.7g、3.0mol)を用いた以外は合成例1と同様にして、以下の構造単位を有するポリマーEを合成した。収量は922gであった。
【0096】
【0097】
【0098】
[実施例1~4、比較例1]
合成例で得られたポリマーA~Eと、溶剤であるHFXとを表2に記載の量で混合してワニスを得た。ワニスを、無アルカリガラス(100mm×100mm、厚さ1.0mm)上にスピンコート法で塗布し、その後ホットプレートにて100℃、2分間加熱して溶媒を除去した後、200℃のオーブンで60分間加熱して膜厚約7μmの樹脂膜を得た。得られた樹脂膜を以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0099】
(屈折率)
プリズムカプラ(メトリコン社製、Model2010-M)を用いて、樹脂膜の632.8nmにおける屈折率を測定した。
【0100】
(比誘電率、誘電正接)
上記の樹脂膜の作製方法において、製膜する基板を4インチウェハー(抵抗値≦0.005Ω)に変更して、誘電率測定用の樹脂膜つき基板を作製した。樹脂膜上にアルミ蒸着にてφ5mmの電極を作製し、LCRメーター(アジレントテクノロジー社製HP-4284A)を用いて、樹脂膜の比誘電率および誘電正接を周波数1MHzで測定した。
【0101】
(接触角)
接触角計(協立界面科学社製、DM-501)を用いて、純水の静的接触角を測定した。
【0102】
(耐熱変色性)
樹脂膜を230℃のオーブンで大気下、60分間加熱した後、紫外可視光分光装置にて波長400nmにおける透過率を測定した。
【0103】
(フッ素含有率)
ポリマー約10mgを酸素と置換した密封系のフラスコ内で完全燃焼させ、発生したガスをあらかじめ添加されているフラスコ内の過酸化水素アルカリ吸収液に捕集し、50mLに定容したものを検液とした。イオンクロマト分析装置(ダイオネクス社製ICS-3000)に検液及び標準液を導入し、検量線法によりフッ化物イオン濃度を求め、試料中に含まれるフッ素量を算出した。
【0104】