(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】時刻同期方式、時刻同期方法、通信装置
(51)【国際特許分類】
H04L 7/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
H04L7/00 990
(21)【出願番号】P 2020165013
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】田島 昌明
【審査官】原田 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-082278(JP,A)
【文献】国際公開第2020/165979(WO,A1)
【文献】特開2020-017877(JP,A)
【文献】特開2011-176479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/300795(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各TSN(Time-Sensitive Networking)ネットワークに配置されたTSN対応の通信装置間の時刻同期を、
PTP時刻同期機能を持たない通信装置で構成された「NON-PTP(Precision Time Protocol)」ネットワークを経由して行う方式であって、
前記各TSNネットワークと前記「NON-PTP」ネットワークとの境界には、それぞれ
PTP時刻同期機能を持つ通信装置が接続され、
前記境界に接続された
各通信装置は、
前記TSNネットワークの通信装置からTSN時刻同期パケットを受信すれば前記TSN時刻同期パケットをPTPパケットに変換し、変換されたPTPパケットを
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置に転送し、
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置から前記PTPパケットを受信すれば前記PTPパケットをTSN時刻同期パケットに
再変換し、
再変換されたTSN時刻同期パケットを
前記TSNネットワークの通信装置に転送する
ことを特徴とする時刻同期方式。
【請求項2】
前記TSNネットワークの通信装置からTSN時刻同期パケットを受信した前記境界の通信装置は、
受信した前記TSN時刻同期パケットに自装置のMACアドレスを送信元MACアドレスとしてセットし、PTP用MACのマルチキャストアドレスを送信先MACアドレスとしてセットし、PTPパケットのUDP(User Datagram Protocol)情報およびIP情報を追加し、TSNドメイン数を「gPTP」情報のドメイン番号に加算して転送する一方、
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置から前記PTPパケットを受信した前記境界の通信装置は、
受信した前記PTPパケットからUDP情報およびIP情報を削除し、前記受信パケットのPTP情報に基づきMACアドレスを生成し、生成したMACアドレスを送信元MACアドレスとしてセットし、PTP情報のドメイン番号からTSNドメイン数を減算して転送する
ことを特徴とする請求項1記載の時刻同期方式。
【請求項3】
各TSN(Time-Sensitive Networking)ネットワークと、
PTP時刻同期機能を持たない通信装置で構成された「NON-PTP(Precision Time Protocol)」ネットワークと、
前記各TSNネットワークと前記「NON-PTP」ネットワークとの境界にそれぞれ接続されたPTP時刻同期機能を持つ通信装置と、
を備え
前記NON-PTP(Precision Time Protocol)」ネットワーク経由で
前記各TSNネットワークに配置されたTSN対応の通信装置間の時刻同期を行う際、前記境界に接続された通信装置が実行する方法であって、
前記TSNネットワークの通信装置からTSN時刻同期パケットを受信すれば前記TSN時刻同期パケットをPTPパケットに変換し、変換されたPTPパケットを
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置に転送するステップと、
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置から前記PTPパケットを受信すれば前記PTPパケットをTSN時刻同期パケットに
再変換し、
再変換されたTSN時刻同期パケットを
前記TSNネットワークの通信装置に転送するステップと、
を有することを特徴とする時刻同期方法。
【請求項4】
各TSN(Time-Sensitive Networking)ネットワークと、
PTP時刻同期機能を持たない通信装置で構成された「NON-PTP(Precision Time Protocol)」ネットワークと、
の境界にそれぞれ接続され、かつPTP時刻同期機能を持つ通信装置であって、
前記TSNネットワークの通信装置からTSN時刻同期パケットを受信すれば前記TSN時刻同期パケットをPTPパケットに変換し、変換されたPTPパケットを
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置に転送し、
前記「NON-PTP」ネットワークの通信装置から前記PTPパケットを受信すれば前記PTPパケットをTSN時刻同期パケットに
再変換し、
再変換されたTSN時刻同期パケットを
前記TSNネットワークの通信装置に転送する
ことを特徴とする通信装置。
【請求項5】
前記
TSNネットワークの通信装置から受信した前記TSN時刻同期パケットが「SYNC」メッセージであれば、
前記変換された前記PTPパケットの送信時刻と前記TSN時刻同期パケットの受信時刻との時間差から残留時間を算出する一方、
前記
TSNネットワークの通信装置から
受信した前記TSN時刻同期パケットが「Follow_UP」メッセージであれば、
前記「Follow_UP」メッセージに記述された時刻情報に前記残留時間を加算することを特徴とする請求項
4記載の通信装置。
【請求項6】
スイッチングハブにより構成されていることを特徴とする請求項
4または5記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTP(Precision Time Protocol)による時刻同期の処理を使って、TSN領域間での時刻同期を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)PTP
PTP対応の中継装置(通信装置)には、「EtoE(マスターとスレーブ間)」のONEステップで時刻同期を行うことが可能なタイプが存在する。このタイプの中継装置によれば、
図1に示す時刻同期の処理手続を経て、式(1)により伝送時間Da(Meanpath)が計算される。
式(1):伝送時間Da=「(T4-T3)+(T2-T1)」/2
また、マスター・スレーブ間の時刻補正は、式2で算出されたオフセットの値に基づき行われる。
式(2):オフセット=「(T2-T1)-(T4-T3)」/2
なお、PTP時刻同期における伝送時間の変動の影響を抑えて時刻同期の精度の向上を図る技術として、特許文献1が公知となっている。
【0003】
(2)TSN
TSN(Time-Sensitive Networking)は、標準のイーサネット(登録商標)を拡張する産業用ネットワークとITネットワークを相互運用するネットワーク技術であって、複数の規格から構成されている。
【0004】
例えば「IEEE802.1AS」規格(gPPT)の時刻同期によれば、
図2に示すTSN時刻同期の処理手続、即ち「PtoP(隣接する機器同士)」のTWOステップを経て、式(3)により伝送時間Dが計算される。
式(3):伝送時間D=「(T4-T3)+(T2-T1)」/2=「(T4-T1)-(T3-T2)」/2
図3は、ONEステップとTWOステップとの違いを「SYNC」メッセージを例に示している。すなわち、ONEステップでは「T1」のタイムスタンプ情報を「SYNC」メッセージのパケットにセットして送信される。
【0005】
一方、TWOステップでは、「T1」は「SYNC」メッセージのパケットではなく、「Follow_UP」メッセージのパケットにセットして送信する(「Pdelay_Resp_Follow_UP」メッセージも同じ。)。
【0006】
そして、「gPTP」はTWOステップ方式で、
図3に基づく受信時間の遅れ(t3-T2)を考慮した式(4)を用いて「T1」からの経過時間(t1)を算出し、「t1」と「t3」との時刻差からマスター・スレーブ間の時刻補正を行う。
式(4):経過時間(t1)=T1+D+(T3-T4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
TSNは新しい技術であり、また「IEEE802.1AS」規格によればTSNの「gPTP」時刻同期に未対応の中継装置(スイッチングハブ)は使用することができない。
【0009】
そのため、既存のネットワークに中継装置を追加する場合には、TSNの使用される領域は限定的となる。また、新規にネットワークを構築する場合であっても、すべての中継装置をTSN対応とすることは難しく、同様に限定的な使用となる。
【0010】
その一方で、離れたTSN領域(TSNネットワーク)同士で統一した管理を希望する場合や、同様のタイミングで処理をしたい場合などPTP時刻同期で解決できる問題は少なくない。このような場合、TSNネットワーク間を直接接続するための専用線を用意する方法も考えられるが、現在のTSNを搭載した中継装置だけでは直ぐに対応することは難しい。
【0011】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、TSNネットワーク間の時刻同期を、PTP未対応領域(NON-PTPネットワーク)を介して可能とすることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一態様は、ネットワーク上の各TSN(Time-Sensitive Networking)領域に配置された通信機器間の時刻同期を、PTP(Precision Time Protocol)未対応領域を経由して行う方式であって、
前記各TSN領域と前記PTP未対応領域との境界には、PTP対応の通信装置が接続され、
前記境界に接続された通信装置は、
前記TSN領域側に隣接する通信装置からTSN時刻同期パケットを受信すれば前記TSN時刻同期パケットをPTPパケットに変換し、変換されたPTPパケットを前記TSN非対応領域側に隣接する通信装置に送信する一方、
前記TSN非対応領域側に隣接する通信装置から前記変換されたPTPパケットを受信すれば前記PTPパケットをTSNパケットに変換し、変換されたTSNパケットを前記TSN対応領域側に隣接する通信装置に送信することを特徴としている。
【0013】
(2)本発明の他の態様は、ネットワーク上の各TSN(Time-Sensitive Networking)領域と、PTP(Precision Time Protocol)未対応領域との境界に接続された通信装置が実行する方法であって、
前記TSN領域側に隣接する通信装置からTSN時刻同期パケットを受信すれば前記TSN時刻同期パケットをPTPパケットに変換し、変換されたPTPパケットを前記TSN非対応領域側に隣接する通信装置に送信するステップと、
前記TSN非対応領域側に隣接する通信装置から前記変換されたPTPパケットを受信すれば前記PTPパケットをTSNパケットに変換し、変換されたTSNパケットを前記TSN対応領域側に隣接する通信装置に送信するステップと、を有することを特徴としている。
【0014】
(3)本発明のさらに他の態様は、ネットワーク上のTSN(Time-Sensitive Networking)領域と、PTP(Precision Time Protocol)未対応領域との境界に配置された通信装置であって、
前記TSN領域側に隣接する通信装置からTSN時刻同期パケットを受信すれば前記TSN時刻同期パケットをPTPパケットに変換し、変換されたPTPパケットを前記TSN非対応領域側に隣接する通信装置に送信する一方、
前記TSN非対応領域側に隣接する通信装置から前記変換されたPTPパケットを受信すれば前記PTPパケットをTSNパケットに変換し、変換されたTSNパケットを前記TSN対応領域側に隣接する通信装置に送信することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、TSNネットワーク間の時刻同期が、「NON-PTPネットワーク」を介して可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】PTP時刻同期の処理手続(ONEステップ)の概要図。
【
図3】同 TWOステップの一例を示す処理手続の概要図。
【
図4】NON-PTPネットワークとTSNネットワークとが混在するネットワーク構成図。
【
図5】本発明の実施形態に係る時刻同期方式のネットワーク構成図。
【
図6】同 TSNパケット転送メイン処理を示すフローチャート。
【
図7】TSNパケット転送判定処理を示すフローチャート。
【
図8】TSNパケット転送処理を示すフローチャート。
【
図9】「SYNCメッセージ」用処理を示すフローチャート。
【
図10】「Follow_UPメッセージ」・「ANNOUNCEメッセージ」・「ELSEメッセージ用処理を示すフローチャート。
【
図11】PTPパケット送信処理を示すフローチャート。
【
図12】TSNパケット変換処理を示すフローチャート。
【
図13】TSNパケット・PTPパケット間の変換を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る時刻同期方式を説明する。この時刻同期方式は、例えば
図4に示すネットワーク構成を対象とする。
【0018】
ここでは工場などを結ぶ幹線としてPTP時刻同期機能を持たないスイッチングハブ(以下、ハブとする。)で構成された「NON-PTP」ネットワークCが存在する。このネットワークCにはTSNハブで構成されたTSNネットワークA,Bが隣接し、該TSNネットワークA,Bは互いに独立した領域とする。
【0019】
図5に基づき詳細を説明する。
図5中の1-1~1-4は、PTP時刻同期機能を持たない通常ハブ1を示している。この通常ハブ1-1~1-4は、「NON-PTP」ネットワークC内に配置されている。
【0020】
同3-1~3-3は、「IEEE802.1AS(gPTP)」時刻同期と「IEEE802.1Qbv(トラフィックのスケジューリング)」を搭載したTSNハブ3を示している。このTSNハブ3-1~3-3は、それぞれTSNネットワークA,B内に配置されている。ここではTSNハブ3-1をマスターとし、TSNハブ3-2,3-3をスレーブとする。
【0021】
同2-1,2-2は、「NON-PTP」ネットワークCとTSNネットワークA,Bとの境界に配置されたPTPハブ2を示している。すなわち、PTPハブ2-1は前記ネットワークA,C間に配置され、通常ハブ1-2とTSNハブ3-2とに接続されている。一方、PTPハブ2-2は前記ネットワークB,C間に配置され、通常ハブ1-3とTSNハブ3-3とに接続されている。
【0022】
ここではPTPハブ2は、通常ハブ1を経由してもPTP時刻同期の精度を維持すべく、通常のPTPの処理設定と異なる処理設定(特許文献1参照)が施されている。また、PTPハブ2とTSNハブ3との間(例えばPTPハブ2-1・TSNハブ3-2間、PTPハブ2-2・TSNハブ3-3間等)は、TSNポートを指定することにより、TSNの「PtoP」処理が可能なものとする。
【0023】
このように「NON-PTP」ネットワークCとTSNネットワークA,B間の境界にPTPハブ2を接続することにより、TSNネットワークA,B間の時刻同期が「NON-PTP」ネットワークCを介して可能としている。
【0024】
例えばTSNネットワークA内に配置されたTSNハブ3-1(マスター)がTSN時刻同期パケット(gPTP:SYNCメッセージ・Follow_UPメッセージ・ANNOUNCEメッセージ)を送信したとする。
【0025】
この場合にTSN時刻同期パケットは、PTPハブ2-1でPTPパケットに変換される。ここで変換されたPTPパケットは、通常ハブ1-2,1-3を経由してPTPハブ2-2でTSN時刻同期パケット(gPTP)に再変換され、TSNネットワークBのTSNハブ3-3(スレーブ)に送信される。
【0026】
これによりTSNネットワークA,BのTSNハブ3-1・3-3間での時刻同期が可能となる。このときPTPハブ2-1,2-2間の通過時間を補正することにより、TSNハブ3-1・3-3間で正確な時刻同期が可能となる。
【0027】
以下、PTPハブ2の具体的な処理内容を説明する。なお、TSN時刻同期(gPTP)の時刻同期パケットはL2層で、かつ「PtoP」透過機能のみしか使用できない点でPTPと異なる。
【0028】
(1)TSNパケット転送メイン処理
図6に基づきTSNパケット転送メイン処理、即ち「NON-PTP」ネットワークCとTSNネットワークA,Bとの境界に配置されたPTPハブ2の転送処理の全体的な処理内容を説明する。
【0029】
S01:処理の開始のため、事前に外部から初期設定に必要なデータをPTPハブ2に入力する。具体的にはTSNドメイン数D1,TSN転送有無フラグD2,TSNポートD3,TSN送信先MACアドレスD4,TSN送信元MACアドレスD5の初期設定値を入力する。ここで入力されたデータは、PTPハブ2内部の初期設定ファイルF1に初期設定値として書き込まれ、それぞれ保存される。
【0030】
S02:PTPハブ2の起動時(起動途中)に初期化処理を必要とするか否かを確認する。確認の結果、必要であればS03に進む一方、必要でなければS08に進む。
【0031】
S03,S04:S01で保存された初期設定値D1~D5でそれぞれの設定値を初期化する(S03)。この初期化後の設定値をPTPハブ2の内部データとしてセットする(S04)。
【0032】
S05:TSN転送有無フラグD2を確認する。確認の結果、有効であればS06に進む一方、無効であればS07に進む。
【0033】
S06,S07:S06では、TSNポートからのTSNパケット受信待ち状態に設定する。また、S07では、PTPポートからのPTPパケット受信待ち状態に設定する。
【0034】
S08,S09:S08では、パケット受信処理でパケットを受信し、受信パケットPを保存する。また、S09では、
図7のパケット転送判定処理が実行され、その実行後に処理を終了する。
【0035】
(2)TSNパケット転送判定処理
図7に基づきS09のパケット転送判定処理の詳細を説明する。
【0036】
S11:まず、処理が開始されるとS08の受信パケットPが、TSNパケット(gPTP)か否かを確認する。確認の結果、TSNパケットであればS12に進む一方、TSNパケットでなければS13に進む。
【0037】
【0038】
S13:受信パケットPがPTPパケットか否かを確認する。確認の結果、PTPパケットであればS14に進む一方、PTPパケットでなければ処理を終了する。
【0039】
S14:
図13中の矢印X1に示すように、受信パケットPのPTP情報から「Clock Identity」を取得する。その後、取得した「Clock Identity」情報に基づき送信元MACアドレスD6を生成する。
【0040】
S15:S14で生成した送信元MACアドレスD6と、TSN送信元MACアドレスD5が同じか否かを確認する。確認の結果、同じであればS16に進む一方、同じでなければS17に進んで従来のPTP処理を実行して処理を終了する。
【0041】
S16:
図12のTSNパケット変換処理を実行し、その後に処理を終了する。
【0042】
(3)TSNパケット転送処理
図8に基づきS12のTSNパケット転送処理の詳細を説明する。このTSNパケット転送処理は、例えば
図5のネットワーク構成であればTSNパケットを受信したPTPハブ2-1により実行される。ここではS11によれば、受信パケットPはTSNパケット(gPTP)となる。
【0043】
S21:処理が開始されると、TSN転送有無フラグD2を参照することでTSNパケット転送の有効/無効を確認する。確認の結果、有効であればS22に進む一方、無効であれば処理を終了する。
【0044】
S22,S23:受信パケットPから送信元MACアドレスD8を取得する(S22)。ここで取得された送信元MACアドレスD8と、TSN送信元MACアドレスD5とが同じか否かを確認する(S23)。確認の結果、同じであればS24に進む一方、同じでなければ処理を終了する。
【0045】
S24,S25:受信パケットPの「gPTP」情報(
図13参照)から「Messageld」、即ち種別情報D7を取得し(S24)、種別情報D7に基づき処理種別を確認する(S25)。
【0046】
確認の結果、処理種別が「SYNC」メッセージであればS26に進む。一方、「Follow_UP」メッセージ・「ANNOUNCE」メッセージ・「ELSE」(その他)のメッセージであれば、S27に進む。
【0047】
S26:「SYNC」用処理が実行される.
S27:「Follow_UP」・「ANNOUNCE」・「ELSE」用処理が実行される。なお、S26,S27の処理の実行後にTSNパケット転送処理を終了する。
【0048】
(4)「SYNC」用処理
図9に基づきS26の「SYNC」用処理の詳細を説明する。ここでは受信パケットPが、「SYNC」メッセージの場合の処理を示している。
【0049】
S31:処理が開始されると、受信パケットPがPTPハブ2に到着した時刻のタイムスタンプが収集される。ここで収集された到着時刻(受信時刻)を「Ta」として保存する。
【0050】
S32:
図11のPTPパケット送信処理を実行する。
【0051】
S33:S32のPTPパケット送信処理後、PTPパケット(受信パケットP)がPTPハブ2を出発した時刻のタイムスタンプが収集される。ここで収集された出発時刻(送信時刻)を「Tb」として保存する。
【0052】
S34,S35:受信パケットPのPTP2の滞留時間(滞留時間「Tc」=出発時刻「Tb」-到着時刻「Ta」)を算出する(S34)。ここで算出された滞留時間「Tc」が正常(マイナスではない等)か否かを確認する(S35)。
【0053】
確認の結果、正常であればS36に進む一方、正常でなければ処理を終了する。
【0054】
S36:処理の対象パケットの待ちフラグをセットする。ここでは受信パケットPが「SYNC」メッセージのため、対象パケットは後追いの「Follow_UP」メッセージとなる。この「Follow_UP」メッセージの待ちフラグD9をセットし、処理を終了する。
【0055】
(5)「Follow_UP」・「ANNOUNCE」・「ELSE」用処理
図10に基づきS27に示す前記処理の詳細を説明する。ここでは受信パケットPが、「SYNC」メッセージ以外である場合の処理の詳細を示している。
【0056】
S41:処理が開始されると、S25で取得した受信パケットPの処理種別に基づき受信パケットPが、「ANNOUNCE」メッセージか否かを確認する。確認の結果、「ANNOUNCE」メッセージであればS45のPTPパケット送信処理を実行し、この処理を終了する。一方、「ANNOUNCE」メッセージでなければS42に進む。
【0057】
S42:S25で取得した受信パケットPの処理種別に基づき受信パケットPが、「Follow_UP」メッセージか否かを確認する。確認の結果、「Follow_UP」メッセージでなければ処理を終了する(ELSE用処理)。一方、「Follow_UP」メッセージであればS43に進む。
【0058】
S43:「Follow_UP」待ちフラグを参照して、「Follow_UP」メッセージの待ち状態か否かを確認する。確認の結果、待ち状態であればS44に進む一方、待ち状態でなければ処理を終了する。
【0059】
S44:S34で計算された「SYNC」メッセージの滞留時間を、
図13に示す「PTP」情報の「Correction」に加算してS45に進む。
【0060】
S45:処理の対象パケットの待ちフラグをクリアする。すなわち、受信パケットPは対象パケットの「Follow_UP」メッセージなため、「Follow_UP」待ちフラグD9をクリアし、S46に進む。
【0061】
S46:PTPパケット送信処理を実行し、その実行後に処理を終了する。
【0062】
(6)PTPパケット送信処理
図11に基づきS46のPTPパケット送信処理の詳細を説明する。ここでは主に受信パケットPを通常ハブ1に転送する際の処理を示している。
【0063】
S51:処理が開始されると、PTPハブ2のMACアドレスを受信パケットP(TSNパケット)の送信元MACアドレス(
図13参照)にセットする。
【0064】
S52:PTP用MACのマルチキャストアドレスを受信パケットPの送信先MACアドレス(
図13参照)としてセットする。
【0065】
S53:受信パケットPに以下の事項を追加する。
(A)PTPパケットのIPアドレスを送信元IPアドレスとして追加
(B)PTPハブ2用のマルチキャストIPアドレスをIPアドレスの送信先IPアドレスとして追加
(C)PTP用のポート番号をUDPの送信先ポートと送信元ポートとして追加
S54:
図13に示すように、TSNドメイン数を受信パケットPの「gPTP」情報の「SubdomainNumber」に加算する。
【0066】
S55:受信パケットPをPTPパケットとしてPTPハブ2のPTPポートから送信する。例えば
図5のネットワーク構成の場合、PTP2-1はS51~S54の処理後の受信パケットPを通常ハブ1-2に送信する。この送信により処理を終了する。
【0067】
(7)PTPパケット変換処理
図12に基づきS16のTSNパケット変換処理の詳細を説明する。例えば通常ハブ1-2,1-3を経由して受信パケットPを受信したPTPハブ2-2が、同受信パケットPをTSNハブ3-3に転送する際にS16のPTPパケット変換処理を実行する。ここでは
図7のS13~S15によれば、受信パケットPはPTPパケットとなる。
【0068】
S61:処理が開始されると、TSNポートの設定の有無を確認する。確認の結果、前記ポートが設定されていればS62に進む一方、設定されていなければ処理を終了する。
【0069】
S62:受信パケットPからUDP/IP情報(
図13中のUDP送信元ポート等)情報を削除する。
【0070】
S63:
図13中の矢印X1に示すように、受信パケットPのPTP情報から「Clock Identity」を取得する。その後、取得した「Clock Identity」情報に基づき送信元MACアドレスD6を生成する。この変換方法はS14と同じとする。
【0071】
S64,S65:S63で変換されたMACアドレスD11を転送する受信パケットPの送信元MACアドレスとしてセットする(S64)。また、TSN用のマルチキャストMACアドレスを送信先MACアドレス(TSN)にセットする(S65)。
【0072】
S66:受信パケットPのPTP情報の「SubdomainNumber」からTSNドメイン数D1を減算する。
【0073】
S67:受信パケットのPTP情報の「MessageId」による処理種別が「Follow_UP」メッセージか否かを確認する。確認の結果、「Follow_UP」メッセージであればS68に進む一方、「Follow_UP」メッセージでなければS70に進む。
【0074】
S68,S69:通常のPTP時刻同期で算出した伝送遅延「Meanpath」D10を取得する(S68)。ここで取得された「Meanpath」D10を受信パケットPの「correction」に追加する。
【0075】
S70:受信パケットPをTSNパケットとしてTSNポートから送信し、処理を終了する。
【0076】
(8)作用効果
前記時刻同期方式によれば、次の効果を得ることができる。
【0077】
(A)時刻同期の実現化
前述のようにTSNネットワークAのTSNハブ3-1の送信したTSN時刻同期パケット(gPTP)は、TSNハブ3-2を経由してPTPハブ2-1に到達する。
【0078】
このときPTPハブ2-1の受信パケットPは、PTPパケットに変換された(S12)後に通常ハブ1-2に送信される(S46)。その後、受信パケットPは、通常ハブ1-2,1-3を経由してPTPハブ2-2に到達する。
【0079】
ここで受信パケットPを受信したPTPハブ2-2は、PTPパケット変換処理(S16)により受信パケットPをTSNパケット(gPTP)に変換し、TSNネットワークBのTSNハブ3-3に転送する。
【0080】
これによりマスター(TSNハブ3-1)の送信したTSN時刻同期パケット(gPTP)を、「NON-PTP」ネットワークCを介してスレーブ(TSNハブ3-3)が受審することが可能となる。なお、スレーブ(TSNハブ3-3)からマスター(TSNハブ3-1)への送信も、同様な手順で行うことができる。
【0081】
その結果、独立かつ遠方に存在するTSNネットワークA,BのTSNハブ3-1,3-3間を、専用線を引くことなく「NON-PTP」ネットワークCを介してPTP時刻同期させることが実現化する。
【0082】
このときTSN(gPTP)ネットワークA,B側の変更は不要であり、PTPハブ2を前記ネットワークA,Bと前記ネットワークCとの境界として接続するだけでよい。この点でTSNネットワークA,B間の時刻同期にかかる設備投資を抑制することができる。
【0083】
(B)時刻同期精度の低下防止
PTPハブ2によれば、「SYNC」メッセージのTSNパケットについて滞留時間が算出される(S34)。ここで算出された滞留時間は、「Follow_UP」メッセージの「Corection」(「SYNC」メッセージのマスター送信時刻)に加算される(S44)。また、PTPハブ2-1・2-2間の伝送時間も同様に加算される(S68)。
【0084】
したがって、TSN(gPTP)による時刻補正にあたって前記滞留時間を抗力することができ、この点で時刻同期精度の低下を防止することができる。なお、PTPハブ2内で送信元MACアドレス・送信先MACアドレスをチェック(S15,S23等)しているため、余分なパケットの誤送信を防ぐこともできる。
【符号の説明】
【0085】
1(1-1~1-4)…通常ハブ
2(2-1,2-2)…PTPハブ
3(3-1~3-3)…TSNハブ