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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】車両用空調制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20240903BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20240903BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20240903BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20240903BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240903BHJP
   B60L 53/14 20190101ALI20240903BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20240903BHJP
   B60L 58/15 20190101ALI20240903BHJP
【FI】
B60H1/22 671
B60H1/22 651C
B60H1/32 623C
B60H1/32 623Z
B60H1/00 101Z
B60L1/00 L
B60L50/60
B60L53/14
B60L58/13
B60L58/15
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020167163
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059423
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和定
(72)【発明者】
【氏名】豊田 明寿
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良典
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-076517(JP,A)
【文献】特開2007-076544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60H 1/32
B60H 1/00
B60L 1/00
B60L 50/60
B60L 53/14
B60L 58/13
B60L 58/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に入力された指示に応じてコンプレッサによって車両の空調を行う車両用空調制御方法において、
前記車両のバッテリが充電中であって所定の時刻が設定されていれば該所定の時刻に基づいて空調を行う予約空調モードで前記コンプレッサを動作させる工程と、
前記所定の時刻が設定されておらず前記指示が車外から入力されたものであれば前記車両の駐車中に車外からのリモート操作により空調を行うリモート空調モードで前記コンプレッサを動作させる工程と、
前記バッテリが充電中でなく前記指示が車内から入力されたものであれば前記車両の走行中または駐停車中に車内からの操作により空調を行う通常空調モードで前記コンプレッサを動作させる工程とを含み、
前記コンプレッサは、空調モード毎に異なる回転数で動作することを特徴とする車両用空調制御方法。
【請求項2】
前記予約空調モードでは、
前記バッテリが満充電でなく充電要求を発していれば、前記バッテリの充電量が低いほど前記コンプレッサの回転数を低くし充電量が高いほど回転数を高くするよう設定された所定の第1マップを用いて前記コンプレッサの回転数を算出し、
前記バッテリが満充電であり充電要求を発していなければ、供給される充電電力に応じて前記コンプレッサの回転数が設定された所定の第2マップを用いて該コンプレッサの回転数を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調制御方法。
【請求項3】
前記第1マップは、前記バッテリの充電量に応じて決定される空調で使用可能な電力すべてを使用することで得られる前記コンプレッサの最大回転数を上限として、該コンプレッサの回転数を制限していることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調制御方法。
【請求項4】
前記第2マップは、前記バッテリが満充電状態であるとき、供給される充電電力すべてを空調に使用するよう前記コンプレッサの回転数を設定していることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用空調制御方法。
【請求項5】
前記リモート空調モードでは、充電電力以上の電力の使用を許可し、前記コンプレッサの性能上の最大回転数が設定された所定の第3マップを用いて前記コンプレッサの回転数を算出することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の車両用空調制御方法。
【請求項6】
前記通常空調モードでは、車速が低いほど前記コンプレッサの回転数を低くし車速が高いほど回転数を高くするよう設定された所定の第4マップを用いて前記コンプレッサの回転数を算出することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の車両用空調制御方法。
【請求項7】
前記予約空調モードでは、前記バッテリが充電中であっても前記所定の時刻が設定されていない場合には前記指示が車外から入力されたものであれば前記リモート空調モードに移行することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用空調制御方法。
【請求項8】
前記予約空調モードでは、前記所定の時刻に基づく空調を完了した後、前記通常空調モードに移行し、
前記リモート空調モードでは、乗員の着座を検知または所定のタイマの計時が完了した後、前記通常空調モードに移行することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の車両用空調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、車両用空調装置が設置されている。車両用空調装置は、インストルメントパネル内などに配置された空調ユニット(HVACとも称される)を制御し、空調ユニットから吹き出される空調風によって車室内の快適性を保つ装置である。
【0003】
近年の車両には、通勤等のように乗車予定時刻が決まっている場合に、それよりも前に空調装置を稼働させて車室内の快適性を向上させておくプレ空調機能が実用化されている。電気自動車(EV:Electric Vehicle)やプラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-In Hybrid Electric Vehicle)などの車両では、車載バッテリの充電が可能であるが、上記のプレ空調を利用する場合には、充電した車載バッテリ内の電力を空調装置で利用して消費することになる。プレ空調によって電力を消費した分、車両の航続可能距離は短くなるため、プレ空調はバッテリの充電状況を考慮しながら行う必要がある。
【0004】
特許文献1には、バッテリを搭載した車両の空調の制御システムが記載されている。この制御システムでは、車両の駐車中に、ユーザがリモコンキーのプレ空調ボタンによりプレ空調を指令した場合に、指令した時点がバッテリの充電が実行されている期間内であれば、バッテリの充電が終了するまでプレ空調を禁止する。そして、バッテリの充電が終了したら、プラグが接続された商用電力を用いてプレ空調を開始する。
【0005】
特許文献1の制御システムでは、プレ空調が指令されても、バッテリの充電中である場合は充電を優先させてプレ空調の作動を禁止するので、バッテリの充電率を向上させることができる、としている。
【0006】
特許文献2には、外部電源を通じて車載バッテリの充電を行う電気自動車の空調制御装置が記載されている。この空調制御装置では、外部電源による車載バッテリの充電時であって乗車予定時刻の一定時間前にバッテリの充電率と予め設定した判定値とを比較する。そしてバッテリの充電率が予め設定した判定値以上であれば、プレ空調ONの信号を出力し、バッテリの充電率が予め設定した判定値より低い場合はプレ空調OFFの信号を出力する。
【0007】
特許文献2の空調制御装置では、バッテリの充電時において、プレ空調開始時刻にバッテリの充電率が所定の充電率に満たない場合は、バッテリの充電を優先しプレ空調を行わないよう制御している。このため、特許文献2では、バッテリの充電率の確保を優先することで、プレ空調を設定したことに伴って走行可能距離が短くなることを防止できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-76666号公報
【文献】特開2009-83567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし特許文献1、2に記載の技術はいずれも、プレ空調(以下本文では「予約空調」と称する)よりもバッテリの充電を優先させた空調制御を行うものにすぎない。このため、充電不足となることを回避できたとしても、予約空調で設定された乗車予定時刻に車室内の温度が設定温度に到達しないなど、所望の時刻に車室内の快適性を確保できない場合がある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、車両のバッテリの充電と車室内の快適性とを両立できる車両用空調制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用空調制御方法の代表的な構成は、車両に入力された指示に応じてコンプレッサによって車両の空調を行う車両用空調制御方法において、車両のバッテリが充電中であって所定の時刻が設定されていれば所定の時刻に基づいて空調を行う予約空調モードでコンプレッサを動作させる工程と、所定の時刻が設定されておらず上記の指示が車外から入力されたものであれば車両の駐車中に車外からのリモート操作により空調を行うリモート空調モードでコンプレッサを動作させる工程と、バッテリが充電中でなく指示が車内から入力されたものであれば車両の走行中または駐停車中に車内からの操作により空調を行う通常空調モードでコンプレッサを動作させる工程とを含み、コンプレッサは、空調モード毎に異なる回転数で動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両のバッテリの充電と車室内の快適性とを両立できる車両用空調制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係る車両用空調制御方法が適用される車両を概略的に示す図である。
図2図1の車両のバッテリの充電状態と電力割合の関係およびコンプレッサの回転数と消費電力の関係を示すグラフである。
図3】本発明の実施例に係る車両用空調制御方法の処理を示すフローチャートである。
図4】予約空調モードでの車両のバッテリの充電状態とコンプレッサの回転数の関係を示すグラフである。
図5】予約空調モードで用いられる各マップを示す図である。
図6図3の車両用空調制御方法の1つの処理を詳細に示すフローチャートである。
図7】リモート空調モードで用いられるマップを示す図である。
図8】通常空調モードで用いられる各マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施の形態に係る車両用空調制御方法の代表的な構成は、車両に入力された指示に応じてコンプレッサによって車両の空調を行う車両用空調制御方法において、車両のバッテリが充電中であって所定の時刻が設定されていれば所定の時刻に基づいて空調を行う予約空調モードでコンプレッサを動作させる工程と、所定の時刻が設定されておらず指示が車外から入力されたものであれば車両の駐車中に車外からのリモート操作により空調を行うリモート空調モードでコンプレッサを動作させる工程と、バッテリが充電中でなく指示が車内から入力されたものであれば車両の走行中または駐停車中に車内からの操作により空調を行う通常空調モードでコンプレッサを動作させる工程とを含み、コンプレッサは、空調モード毎に異なる回転数で動作することを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、車両の空調を行うとき、予約空調モード、リモート空調モード、通常空調モードという3つの空調モードのうちいずれか1つが選択され実行される。そしてコンプレッサは、空調モード毎に異なる回転数で動作する。したがって、一例として、予約空調モードにおいて車両のバッテリの充電を優先させるようにコンプレッサの回転数を制限したり、リモート空調モードにおいて車室内の快適性を優先させるようにコンプレッサの回転数を高めたりするなどして、バッテリの充電と車室内の快適性とを両立できる。
【0016】
上記の予約空調モードでは、バッテリが満充電でなく充電要求を発していれば、バッテリの充電量が低いほどコンプレッサの回転数を低くし充電量が高いほど回転数を高くするよう設定された所定の第1マップを用いてコンプレッサの回転数を算出し、バッテリが満充電であり充電要求を発していなければ、供給される充電電力に応じてコンプレッサの回転数が設定された所定の第2マップを用いてコンプレッサの回転数を算出する。
【0017】
このように、予約空調モードでは、車両のバッテリが充電要求を発しているか否かによって第1マップと第2マップを使い分けている。すなわち予約空調モードでは、バッテリが満充電でなく充電要求を発していれば、第1マップを用いて、充電量に応じてコンプレッサの回転数を制限することで充電を優先させている。また予約空調モードでは、バッテリが満充電であり充電要求を発していなければ、第2マップを用いて、充電電力に応じてコンプレッサの回転数を制御することで車室内の快適性を優先させている。したがって上記構成によれば、予約空調モードでは、バッテリの充電と車室内の快適性とを両立できる。
【0018】
上記の第1マップは、バッテリの充電量に応じて決定される空調で使用可能な電力すべてを使用することで得られるコンプレッサの最大回転数を上限として、コンプレッサの回転数を制限している。
【0019】
このように予約空調モードでは、車両のバッテリの充電中には、充電量に応じてコンプレッサの使用可能な最大回転数が変化するため、充電を優先させてコンプレッサを制御することができる。したがって上記構成によれば、車両のバッテリが出発時刻に充電不足となることを回避できる。
【0020】
上記の第2マップは、バッテリが満充電状態であるとき、供給される充電電力すべてを空調に使用するようコンプレッサの回転数を設定している。
【0021】
このように予約空調モードでは、車両のバッテリが満充電状態である場合には、充電電力すべてを空調に使用するよう設定されたコンプレッサの回転数により空調を行う。したがって上記構成によれば、予約空調モードにおいて、車両の出発時刻に車室内が設定温度に到達していないという状況を回避できる。
【0022】
上記のリモート空調モードでは、充電電力以上の電力の使用を許可し、コンプレッサの性能上の最大回転数が設定された所定の第3マップを用いてコンプレッサの回転数を算出する。
【0023】
このようにリモート空調モードでは、第3マップを用いて充電電力以上の電力を使用してコンプレッサの性能上の最大回転数で空調を行い、充電よりも車室内の快適性を優先させている。したがって上記構成によれば、リモート空調モードにおいて、室内温度を短時間で設定温度に到達させることができ、車室内の快適性を確実に確保できる。
【0024】
上記の通常空調モードでは、車速が低いほどコンプレッサの回転数を低くし車速が高いほど回転数を高くするよう設定された所定の第4マップを用いてコンプレッサの回転数を算出する。
【0025】
このように通常空調モードでは、第4マップを用いて車速に応じてコンプレッサの回転数を制限して空調を行う。これにより、コンプレッサによるNVHを考慮した空調制御を行うことができる。なおNVHとは、Noise(騒音)、Vibration(振動)、Harshness(乗り心地)をいう。また、通常空調モードにおいては、車両の冷房要求に対し、そのときの車速でのNVHを考慮したコンプレッサの回転数で空調を行うことができる。
【0026】
上記の予約空調モードでは、バッテリが充電中であっても所定の時刻が設定されていない場合には指示が車外から入力されたものであればリモート空調モードに移行する。
【0027】
これにより、例えばリモコンキーの位置を判定したり、着座センサにより乗員が車内にいるか否かを判定したり、リモコンキーからの信号を判定したりすることで、空調を行う指示が車外から入力されたことを判定すると、リモート空調モードを実行できる。またリモート空調モードでは、車両のバッテリの充電状況にかかわらず、車室内の快適性を優先する制御を行い、短時間で設定温度に達するように空調制御を行うことで、乗員が乗車する際に車室内の快適性を確保できる。
【0028】
上記の予約空調モードでは、所定の時刻に基づく空調を完了した後、通常空調モードに移行し、リモート空調モードでは、乗員の着座を検知または所定のタイマの計時が完了した後、通常空調モードに移行する。
【0029】
これにより、3つの空調モードのうち予約空調モードまたはリモート空調モードが選択されると、これらの空調モードを完了した後、通常空調モードに移行する。なお予約空調モードまたはリモート空調モードのいずれも選択しない場合には、通常空調モードを選択し実行する。このように、3つの空調モードを選択し実行できるため、車室内の快適性をより確実に確保できる。
【実施例
【0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0031】
図1は、本発明の実施例に係る車両用空調制御方法が適用される車両100を概略的に示す図である。車両100は、例えば電気自動車(EV:Electric Vehicle)やプラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-In Hybrid Electric Vehicle)であって、充電が可能なバッテリ102(図1(b)参照)を搭載している。
【0032】
車両100は、図1(a)に示す車両用空調装置104を備える。車両用空調装置104は、車両100のインストルメントパネル106内に配置された空調ユニット(HVAC)108を有する。車両用空調装置104では、まず、電動エアコンコンプレッサ(コンプレッサ110)が冷媒ガスを圧縮して高温高圧の状態にする。コンプレッサ110で高温高圧となったガス状の冷媒は、冷媒配管112を介してコンデンサ114に送られる。
【0033】
コンデンサ114は、高温高圧のガス状の冷媒を外気によって強制的に冷却して液化させる。コンデンサ114で液化された冷媒は、冷媒配管116を介して、膨張弁118を通って減圧され、さらに空調ユニット108内のエバポレータ120まで送られる。エバポレータ120は、膨張弁118で減圧された冷媒と車室内の空気と熱交換し、これにより冷却される。
【0034】
この冷却されたエバポレータ120に、空調ユニット108内のブロワモータ122で発生させた風を通過させることで冷風を発生させる。そして車両用空調装置104では、空調ユニット108内で発生した冷風を、送風ダクト124を通して吹き出すことで車室内126を冷房する。
【0035】
車両用空調装置104はさらに、図1(a)に示すコントローラ128を備える。コントローラ128は、エアコンパネル130の設定値と、内気温センサ132、外気温センサ134、日射センサ136およびサーミスタ138の出力値を用いて、コンプレッサ110の回転数を制御する。なおサーミスタ138は、空調ユニット108内に配置され、エバポレータ120の温度を測定する。
【0036】
また車両用空調装置104は、後述する3つの空調モードのうちいずれか1つを選択して実行し、さらにコンローラ128によってコンプレッサ110を空調モード毎に異なる回転数で動作させる機能を有する。このため、コントローラ128は、図1(b)に示すように、空調モードを判定する空調モード判定部140と、コンプレッサ回転数算出部142と、メモリ144とを有する。コンプレッサ回転数算出部142は、メモリ144に記憶されている空調モード毎に用いられる各マップ(後述)を読み出して、各マップを用いてコンプレッサ110の回転数を算出する。
【0037】
また車両100は、図1(b)に示すリモコンキー146と、リモコンキー146を検出するリモコンキー検出部148と、着座センサ150とを有する。さらに車両用空調装置104は、所定の空調モードが作動した時間を計測するタイマ152と、バッテリ102の充電状態を検出する充電状態検出部154とを有する。
【0038】
図2は、図1の車両100の充電状態と電力割合の関係およびコンプレッサ110の回転数と消費電力の関係を示すグラフである。図2(a)は、横軸をバッテリ102の充電量とし、縦軸を電力割合としている。図2(b)は、横軸をコンプレッサ110の回転数とし、縦軸を空調時での消費電力としている。
【0039】
外部電源(図示省略)からの充電が可能なバッテリ102を搭載する車両100では、図2(a)に示すように充電時にバッテリ102の充電量が少ない場合は、供給される電力(充電電力)は充電を優先して振り分けられる。そして、バッテリ102の充電量がある程度増えたら、空調で使用可能な電力(空調使用可能電力)が生じる。さらに図2(a)に示すように、バッテリ102の充電量が100%に近付くにつれて、空調使用可能電力の割合が徐々に増加する。
【0040】
また車両100では、図2(b)に示すようにコンプレッサ110の回転数を高くするにつれて消費電力も大きくなり、コンプレッサ110の回転数と消費電力とは比例関係になっている。
【0041】
本実施例に係る車両用空調制御方法では、このような車両100のバッテリ102の充電状態、電力割合、コンプレッサ110の回転数および消費電力の関係を考慮した上で、コンプレッサ110を空調モード毎に異なる回転数で動作させている。
【0042】
図3は、本発明の実施例に係る車両用空調制御方法の処理を示すフローチャートである。まず、車両用空調装置104は、図1(b)に示す充電状態検出部154によりバッテリ102の充電状態を検出し、バッテリ102が充電中か否かを判定する(ステップS100)。バッテリ102が充電中であれば(Yes)、コントローラ128は、空調モード判定部140によって空調モードが予約空調モードか否かを判定する(ステップS102)。
【0043】
ここで、予約空調モードとは、バッテリ102の充電中に予め出発時刻などの所定の時刻が設定されていて、この所定の時刻に合わせて空調を行うモードである。ステップS102では、所定の時刻の設定の有無で予約空調モードか否かを判定する。ただしステップS102は、所定の時刻の設定の有無だけで予約空調モードか否かを判定することに限定されない。一例として、充電プラグ(不図示)が装着され、車両100が充電モードになっていること、また、着座センサ150がOFFであり、リモコンキー検出部148によりリモコンキー146が車室内126に存在しないことなどから、予約空調モードか否かを判定してもよい。
【0044】
つぎに、ステップS102で空調モードが予約空調モードであれば(Yes)、コントローラ128は、設定された出発時刻に基づいて空調を作動させる時間を算出する(ステップS104)。そしてコンプレッサ回転数算出部142は、予約空調モード用のコンプレッサ110の回転数を算出する(ステップS106)。
【0045】
ここでステップS106の処理について説明する。図4は、予約空調モードでの車両100のバッテリ102の充電状態とコンプレッサ110の回転数の関係を示すグラフである。予約空調モードでは、図4に示すように、バッテリ102が満充電ではなく所定の充電量Aであって充電要求を発している場合、コンプレッサ110は回転数Bとなっている。このコンプレッサ110の回転数Bは、所定の充電量Aであるときの空調使用可能電力(図2参照)により決定されるコンプレッサ110の最大回転数である。
【0046】
さらに図4に示すように、バッテリ102の充電量Aが高くなり満充電となり、充電要求を発していない場合、コンプレッサ110は回転数Cとなっている。このコンプレッサ110の回転数Cは、外部からの供給電力すなわち充電電力により決定されるコンプレッサ110の最大回転数である。なお充電電力は、所定の値で一定に供給されるため、コンプレッサ110の回転数Cは固定される。図中のコンプレッサ110の回転数Dは、コンプレッサ110の性能上の最大回転数であって、予約空調モードにおいては到達しない回転数である。
【0047】
このように、予約空調モードでは、車両100のバッテリ102が充電要求を発しているか否か、すなわちバッテリ102への充電要求の有無によって、コンプレッサ110の最大回転数が異なる。これは、コンプレッサ回転数算出部142が、予約空調モードにおいてコンプレッサ110の回転数を算出するとき、異なるマップ(図5参照)を使い分けているためである。以下、具体的に説明する。
【0048】
図5は、予約空調モードで用いられる各マップを示す図である。コントローラ128のメモリ144(図1(b)参照)は、図5(a)に示す第1マップ156と、図5(b)に示す第2マップ158とを記憶している。
【0049】
第1マップ156は、車両100のバッテリ102が満充電でなく充電要求を発していれば、車両100の所定の充電量A(図4参照)が低いほどコンプレッサ110の回転数Bを低くし充電量Aが高いほど回転数Bを高くするよう設定されている。そして第1マップ156は、車両100の充電量Aに応じて決定される空調使用可能電力すべてを使用することで得られるコンプレッサ110の最大回転数Bを上限として、コンプレッサ110の回転数を制限している。
【0050】
第1マップ156では、図5(a)に示すように車両冷房要求が高くなるにつれて、コンプレッサ110の回転数を高くするが、最大回転数Bを上限として回転数を制限しているため、充電を優先させている。なお車両冷房要求が高いとは、冷房の設定温度が低い場合や風量が大きい場合をいう。
【0051】
第2マップ158では、車両100のバッテリ102が満充電であり充電要求を発していなければ、供給される充電電力すべてを空調に使用し、この充電電力に応じてコンプレッサ110の回転数Cが設定されている。そして第2マップ158では、車両100のバッテリ102が満充電状態にあるとき、図5(b)に示すように車両冷房要求が高くなるにつれて、コンプレッサ110の回転数を高くして、最大回転数Cまで到達している。
【0052】
図6は、図3の車両用空調制御方法の1つの処理を詳細に示すフローチャートである。ここではステップS106の処理、すなわちコンプレッサ回転数算出部142が、予約空調モード用のコンプレッサ110の回転数を算出する処理を示している。
【0053】
ステップS106において、コントローラ128は、充電状態検出部154によりバッテリ102が満充電ではなく充電要求があるか否かを判定する(ステップS200)。ステップS200でバッテリ102への充電要求があれば(Yes)、コンプレッサ回転数算出部142は、メモリ144から図5(a)に示す第1マップ156を読み出し、これを用いてコンプレッサ110の回転数を算出する(ステップS202)。一方、バッテリ102が満充電であり充電要求がなければ(No)、コンプレッサ回転数算出部142は、メモリ144から図5(b)に示す第2マップ158を読み出し、これを用いてコンプレッサ110の回転数を算出する(ステップS204)。
【0054】
このように、予約空調モードでは、車両100のバッテリ102が充電要求を発しているか否かによって第1マップ156と第2マップ158を使い分けている。すなわち予約空調モードでは、バッテリ102が満充電でなく充電要求を発していれば、第1マップ156を用いて、充電量に応じてコンプレッサ110の回転数を制限することで充電を優先させている。このため、バッテリ102が出発時刻に充電不足となることを回避できる。
【0055】
また、車両100のバッテリ102が満充電であり充電要求を発していなければ、第2マップ158を用いて、充電電力すべてを空調に使用するよう設定されたコンプレッサ110の回転数により空調を行うため、車室内126の快適性を優先させている。すなわち予約空調モードにおいて、バッテリ102が満充電であるとき、車両100の出発時刻に車室内126が設定温度に到達していないという状況を回避できる。したがって予約空調モードでは、車両100の充電と車室内126の快適性とを両立できる。
【0056】
続いてステップS202、204の後、コントローラ128は、図3に示すステップS108の処理を行う。ステップS108において、コントローラ128は、出発時刻に基づく予約空調モードによる空調を完了したか否かを判定し、空調が完了していない場合(No)、再びステップS106の処理を行う。
【0057】
ここで、上記ステップS100でバッテリ102が充電中でない場合(No)、ステップS102で空調モードが予約空調モードでない場合(No)には、コントローラ128は、空調モード判定部140によって空調モードがリモート空調モードか否かを判定する(ステップS110)。
【0058】
リモート空調モードとは、出発時刻が設定されていない状態で、さらに車両100の駐車中に車外からのリモート操作により空調を行うモードである。このため、バッテリ102が充電中であっても出発時刻が設定されていない場合には、空調を行う指示が車外から入力されたものであれば、予約空調モードからリモート空調モードに移行することになる。
【0059】
またステップS110では、出発時刻が設定されていないだけでなく、着座センサ150がOFFであり、リモコンキー検出部148によりリモコンキー146が車室内126に存在しないことなどを判定してもよい。さらにリモコンキー146の信号から、空調を行う指示が車外から入力されたリモート操作であることを判定してもよい。
【0060】
このようにしてステップS110で空調モードがリモート空調モードであると判定されると(Yes)、コンプレッサ回転数算出部142は、リモート空調モード用のコンプレッサ110の回転数を算出する(ステップS112)。
【0061】
図7は、リモート空調モードで用いられるマップを示す図である。ステップS112において、コンプレッサ回転数算出部142は、図7に示す第3マップ160を用いてコンプレッサ110の回転数を算出する。第3マップ160は、メモリ144に記憶されている。
【0062】
第3マップ160では、充電電力以上の電力の使用を許可し、コンプレッサ110の性能上の最大回転数Dが設定されている。そして第3マップ160では、図示のように車両冷房要求が高くなるにつれて、コンプレッサ110の回転数を高くして、最大回転数Dまで到達している。
【0063】
このようにリモート空調モードでは、第3マップ160を用いて充電電力以上の電力を使用してコンプレッサ110の性能上の最大回転数Dで空調を行い、充電よりも車室内126の快適性を優先させている。したがってリモート空調モードでは、室内温度を短時間で設定温度に到達させることができ、車室内126の快適性を確実に確保できる。
【0064】
つぎに、コントローラ128は、リモート空調モードにおいて着座センサ150により乗員の着座を検知または所定のタイマ152の計時が完了すると(ステップS114)、通常空調モードに移行する。そしてコンプレッサ回転数算出部142は、通常空調モード用のコンプレッサ110の回転数を算出する(ステップS116)。
【0065】
ここでコントローラ128は、ステップS108で出発時刻に基づく予約空調モードによる空調が完了した場合(Yes)、ステップS110で空調モードがリモート空調モードでない場合(No)にもステップS116の処理に進む。つまり、3つの空調モードのうち予約空調モードまたはリモート空調モードが選択されると、これらの空調モードを完了した後、通常空調モードに移行する。さらに予約空調モードまたはリモート空調モードのいずれも選択しない場合には、通常空調モードを選択し実行する。したがって、コントローラ128は、3つの空調モードを選択し実行することができる。
【0066】
通常空調モードとは、バッテリ102が充電中でなく、空調を行う指示が車内から入力されたものであれば、車両100の走行中または駐停車中に車内からの操作により空調を行うモードである。
【0067】
図8は、通常空調モードで用いられる各マップを示す図である。ステップS116において、コンプレッサ回転数算出部142は、図8(a)、図8(b)に示す第4マップ162、164を用いてコンプレッサ110の回転数を算出する。第4マップ162、164は、メモリ144に記憶されている。
【0068】
第4マップ162では、図8(a)に示すように車速が低いほどコンプレッサ110の回転数を低くし車速が高いほど回転数を高くするよう設定されていて、最大回転数Dまで到達している。このように、通常空調モードでは、第4マップ162を用いて車速に応じてコンプレッサ110の回転数を制限して空調を行う。
【0069】
また第4マップ164では、図8(b)に示す車両冷房要求に対して、そのときの車速でのNVHを考慮したコンプレッサ110の最大回転数で空調を行うように設定されている。第4マップ164では、車両冷房要求が高くなるにつれて、コンプレッサ110の回転数を高くして、最大回転数Dまで到達している。なおNVHとは、Noise(騒音)、Vibration(振動)、Harshness(乗り心地)をいう。したがって通常空調モードでは、コンプレッサ110によるNVHを考慮した空調制御を行うことができる。
【0070】
上記実施例では、冷房時の空調制御について説明したが、これに限定されず、コンプレッサ制御をヒーター制御に置き換えることで、暖房時の空調制御においても、同様の制御を行い、車両100の充電と車室内126の快適性を両立できる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、車両用空調制御方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
100…車両、102…バッテリ、104…車両用空調装置、106…インストルメントパネル、108…空調ユニット、110…コンプレッサ、112、116…冷媒配管、114…コンデンサ、118…膨張弁、120…エバポレータ、122…ブロワモータ、124…送風ダクト、126…車室内、130…エアコンパネル、132…内気温センサ、134…外気温センサ、136…日射センサ、138…サーミスタ、140…空調モード判定部、142…コンプレッサ回転数算出部、144…メモリ、146…リモコンキー、148…リモコンキー検出部、150…着座センサ、152…タイマ、154…充電状態検出部、156…第1マップ、158…第2マップ、160…第3マップ、162、164…第4マップ
図1
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図8