(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
B60K 35/23 20240101AFI20240903BHJP
【FI】
B60K35/23
(21)【出願番号】P 2020180062
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【氏名又は名称】白井 健朗
(72)【発明者】
【氏名】江尻 剛士
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 幸朗
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 竜二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 祐介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162154(JP,A)
【文献】特開2020-041916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0350720(US,A1)
【文献】再公表特許第2018/088362(JP,A1)
【文献】特開2006-017626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00-37/20
G02B 27/00-30/60
G09G 5/00-5/42
G01C 21/00-21/36,23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方の実景と重なって視認される重畳画像の表示制御を行い、前記実景の中にある前方対象を報知するための報知画像を前記重畳画像の表示領域内に表示する表示制御手段と、
前記車両の前方空間のセンシングを行う前方センサからの情報に基づき、前記前方空間における前記前方対象の実位置を特定する特定手段と、
前記車両の走行状態に関する情報である自車情報を少なくとも含み、前記前方空間のセンシングにより得られる情報を含まない車両関連情報に基づき、前記表示領域内における前記前方対象の推定位置を定める推定手段と、を備え、
前記表示制御手段は、前記実位置が特定された場合には、前記前方対象又は前記前方対象に関連する箇所に重なって視認される前記報知画像を表示するAR処理を実行し、
前記実位置が特定されない場合には、前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する擬似AR処理を実行する
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記表示制御手段は、前記擬似AR処理として第1擬似AR処理又は第2擬似AR処理を選択して実行可能であり、
前記車両関連情報は、互いに異なる種別の複数の情報からなり、
前記第1擬似AR処理は、前記複数の情報のうち前記自車情報を含む情報群に基づいて前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する処理であり、
前記第2擬似AR処理は、前記複数の情報のうち前記自車情報を含むとともに前記情報群よりも少ない数の限定情報に基づいて前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する処理である、
請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
車両の前方の実景と重なって視認される重畳画像の表示制御を行い、前記実景の中にある前方対象を報知するための報知画像を前記重畳画像の表示領域内に表示する表示制御手段と、
前記車両の走行状態に関する情報である自車情報を少なくとも含み、前記車両の前方空間のセンシングにより得られる情報を含まない車両関連情報に基づき、前記表示領域内における前記前方対象の推定位置を定める推定手段と、を備え、
前記表示制御手段は、前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する擬似AR処理を実行し、
前記擬似AR処理は、第1擬似AR処理及び第2擬似AR処理から選択され、
前記車両関連情報は、互いに異なる種別の複数の情報からなり、
前記第1擬似AR処理は、前記複数の情報のうち前記自車情報を含む情報群に基づいて前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する処理であり、
前記第2擬似AR処理は、前記複数の情報のうち前記自車情報を含むとともに前記情報群よりも少ない数の限定情報に基づいて前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する処理である、
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記情報群は、前記車両の現在地を示す現在地情報と、地図及び当該地図における前記前方対象の位置を示す地図情報とを含む、
請求項
3に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記限定情報は、前記地図情報を含む一方で前記現在地情報を含まない、
請求項
4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記自車情報は、前記車両の姿勢、走行速度及び走行距離の少なくともいずれかを示し、
前記表示制御手段は、前記擬似AR処理の実行中に前記報知画像を前記自車情報に応じて変化させる、
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前方の実景と重なって視認される重畳画像の表示制御を行うヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up Display)装置が知られている。重畳画像は、車両が備える透光部材(例えばウインドシールド)に画像を表す表示光を投射することによってユーザに視認される当該画像の虚像である。特許文献1に記載のHUD装置は、車両の前方空間のセンシングを行う前方センサからの情報に基づいて車両の前方対象を特定し、特定した前方対象に重なって視認される報知画像を虚像として表示することで、AR(Augmented Reality)を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実景の中にある前方対象に報知画像を高精度で重ねてARを実現するには、前方センサだけでなく、ユーザの視点を検出するシステムを含む複数の車載システムが必要である。しかしながら、当該複数の車載システムの一部が何らかの理由で使用できなくなる状況もあれば、そもそも当該複数の車載システムをコストの理由で構築できない状況もある。これらの状況を踏まえると、簡潔な構成でユーザにARに類似した体験を与えることができれば有用である。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡潔な構成でユーザに擬似的なARを感じさせることができるヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係るヘッドアップディスプレイ装置の別の態様は、
車両の前方の実景と重なって視認される重畳画像の表示制御を行い、前記実景の中にある前方対象を報知するための報知画像を前記重畳画像の表示領域内に表示する表示制御手段と、
前記車両の前方空間のセンシングを行う前方センサからの情報に基づき、前記前方空間における前記前方対象の実位置を特定する特定手段と、
前記車両の走行状態に関する情報である自車情報を少なくとも含み、前記前方空間のセンシングにより得られる情報を含まない車両関連情報に基づき、前記表示領域内における前記前方対象の推定位置を定める推定手段と、を備え、
前記表示制御手段は、前記実位置が特定された場合には、前記前方対象又は前記前方対象に関連する箇所に重なって視認される前記報知画像を表示するAR処理を実行し、
前記実位置が特定されない場合には、前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する擬似AR処理を実行する。
上記目的を達成するため、本開示に係るヘッドアップディスプレイ装置の別の態様は、
車両の前方の実景と重なって視認される重畳画像の表示制御を行い、前記実景の中にある前方対象を報知するための報知画像を前記重畳画像の表示領域内に表示する表示制御手段と、
前記車両の走行状態に関する情報である自車情報を少なくとも含み、前記車両の前方空間のセンシングにより得られる情報を含まない車両関連情報に基づき、前記表示領域内における前記前方対象の推定位置を定める推定手段と、を備え、
前記表示制御手段は、前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する擬似AR処理を実行し、
前記擬似AR処理は、第1擬似AR処理及び第2擬似AR処理から選択され、
前記車両関連情報は、互いに異なる種別の複数の情報からなり、
前記第1擬似AR処理は、前記複数の情報のうち前記自車情報を含む情報群に基づいて前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する処理であり、
前記第2擬似AR処理は、前記複数の情報のうち前記自車情報を含むとともに前記情報群よりも少ない数の限定情報に基づいて前記推定手段が定めた前記推定位置に前記報知画像を表示する処理である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、簡潔な構成でユーザに擬似的なARを感じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ(HUD)装置の車両への搭載態様を示す図。
【
図2】同上実施形態に係る車両用表示システムのブロック図。
【
図3】同上実施形態に係る表示制御処理を示すフローチャート。
【
図4A】同上実施形態に係るAR画像の表示例を示す図。
【
図4B】同上実施形態に係る第1擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図4C】同上実施形態に係る第2擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図5A】同上実施形態に係るAR画像の表示例を示す図。
【
図5B】同上実施形態に係る第1擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図5C】同上実施形態に係る第2擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図6A】同上実施形態に係るAR画像の表示例を示す図。
【
図6B】同上実施形態に係る第1擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図6C】同上実施形態に係る第2擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図7A】同上実施形態に係るAR画像の表示例を示す図。
【
図7B】同上実施形態に係る第1擬似AR画像の表示例を示す図。
【
図7C】同上実施形態に係る第2擬似AR画像の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ(HUD)装置100は、
図1に示すように、車両1に設けられたウインドシールド2(透光部材の一例)に画像を表す表示光Lを投射するものであり、ダッシュボード3の内部に設けられる。ウインドシールド2で反射した表示光Lによって、ユーザ4(主に車両1の運転者)は、ウインドシールド2の前方において当該画像の虚像である重畳画像Vを視認できる。つまり、HUD装置100は、車両1の前方の実景と重なってユーザ4視認される重畳画像Vを表示する。HUD装置100は、
図2に示す車両用表示システムSの一部を構成する。
【0011】
車両用表示システムSは、車両1に搭載され、HUD装置100と、前方センサ30と、視点検出部40と、車両関連情報供給部50と、を備える。
【0012】
HUD装置100は、
図2に示す表示部10及び制御部20と、図示しない反射部とを備える。
【0013】
表示部10は、制御部20の制御によって表示光Lを生成して放射する。表示部10は、例えば、透過型スクリーンと、当該スクリーンに表示光Lを投射するプロジェクタとを備える。プロジェクタとしては、DMD(Digital Micromirror Device)、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)などの反射型表示デバイスを用いることができる。なお、表示部10は、LCD(Liquid Crystal Display)、OLED(Organic Light Emitting Diodes)等の画像表示ディスプレイから構成されてもよい。
【0014】
表示部10に表示される画像(つまり、表示光Lが表す画像)の虚像がユーザ4に視認される重畳画像Vである。表示部10に表示される画像と重畳画像Vとは光学的に共役関係にあるため、重畳画像Vの表示領域は、表示部10における画像の表示領域に対応する。したがって、表示光Lが表す画像の表示制御と、重畳画像Vの表示制御とは同義である。
【0015】
図示しない反射部は、表示部10からの表示光Lをウインドシールド2へ導く構成である。反射部は、例えば、表示部10からの表示光Lを反射する1枚又は複数枚の反射鏡と、反射鏡で反射した表示光Lをウインドシールド2に向かって反射する凹面鏡とを有する。なお、反射鏡は、平面鏡であっても曲面鏡であってもよい。また、反射部を構成する鏡の枚数は、設計に応じて任意に変更可能である。
【0016】
制御部20は、HUD装置100の全体動作を制御するマイクロコンピュータからなる。例えば、制御部20は、重畳画像Vを表示制御するための動作プログラム及び画像データを予め記憶するROM(Read Only Memory)、各種の演算結果などを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、ROMに記憶された動作プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)、CPUと協働して表示部10の動作を制御し、表示光Lが表す画像の表示制御(つまり、重畳画像Vの表示制御)を実行するGPU(Graphics Processing Unit)等を備えて構成されている。制御部20は、車載LAN(Local Area Network)等からなるバス5を介して車両表示システムSにおけるHUD装置100の外部構成と通信を行う。なお、制御部20の構成は、以下に説明する機能を充足する限りにおいては任意である。制御部20は、1つのマイクロコンピュータから構成されてもよいし、互いに通信を行う複数のマイクロコンピュータから構成されてもよい。制御部20の主な機能については後述する。
【0017】
前方センサ30は、車両1の前方空間のセンシングを行う。前方センサ30は、例えば、ステレオカメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection And Ranging)、ソナー、超音波センサ、ミリ波レーダ等から構成される。前方センサ30は、公知の手法で車両1の前方空間における物体形状を解析し、解析結果を示す前方空間情報Dfを制御部20に供給する。
【0018】
視点検出部40は、重畳画像Vを視認するユーザ4の視点位置を検出する。視点検出部40は、例えば、赤外線カメラ、ステレオカメラ、TOF(Time of Flight)カメラ等から構成される。視点検出部40は、ユーザ4の顔を撮像することによって得られた撮像データを公知の手法で解析してユーザ4の視点位置を特定する。視点検出部40は、特定した視点位置を示す視点情報Dvを制御部20に供給する。
【0019】
車両関連情報供給部50は、前方空間情報Df以外の車両1に関連した情報であって、互いに異なる種別の複数の情報からなる車両関連情報を制御部20に供給する。例えば、車両関連情報は、後述する自車情報Dc、地図情報Dm、現在地情報Dp及び車外情報Doの複数の情報からなる。車両関連情報供給部50は、自車情報供給部51と、ナビゲーション装置52と、車外情報供給部53と、を備える。
【0020】
自車情報供給部51は、車両1の走行状態に関する情報である自車情報Dcを制御部20に供給する構成である。自車情報供給部51は、例えば、車速センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ、地磁気センサ、舵角センサ等からなるセンサ群と、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)とを備える。自車情報Dcは、車両1の姿勢、走行速度、及び、任意の期間における走行距離の少なくともいずれか示す情報である。自車情報供給部51は、ジャイロセンサが検出した角速度、加速度センサが検出した加速度、地磁気センサが検出した車両1の向き、及び舵角センサが検出した操舵角の少なくともいずれかに基づいて車両1の姿勢を特定する。また、自車情報供給部51は、車速センサからの検出信号に基づいて走行速度を特定し、計器と通信を行って走行距離を特定する。
【0021】
ナビゲーション装置52は、カーナビゲーションを実行する構成であり、車両1の現在位置を報知するとともに、ユーザ4により設定された目的地への経路案内を行なう。ナビゲーション装置52は、GNSS(Global Navigation Satellite System)によって人工衛星などから受信した信号に基づき車両1の現在地を示す現在地情報Dpを算出する。ナビゲーション装置52は、地図データベースDBを記憶するSSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等からなる記憶媒体を備える。ナビゲーション装置52は、地図データベースDBから現在地近傍の地図を読み出し、ユーザ4により設定された目的地までの経路案内の内容を決定する。ナビゲーション装置52は、算出した現在地情報Dpと、車両1の周辺の地図及び当該地図における前方対象の位置を示す地図情報Dmとを制御部20に供給可能である。なお、地図情報Dmには、ナビゲーション装置52が決定した経路案内の内容を示す経路案内情報が含まれる。なお、前方対象は、後述の報知画像によって報知される対象である。
【0022】
地図データベースDBは、地図及び当該地図における各種情報を示す地図情報Dmのデータ群からなる。地図情報Dmは、例えば、道路形状情報(車線、道路の幅員、車線数、交差点、カーブ、分岐路等)、制限速度などの道路標識に関する規制情報、地図上の施設に関する施設情報などの各種の対象情報を含むとともに、各対象情報に対応する位置座標情報を含む。前記の道路標識は、案内標識、警戒標識、規制標識、指示標識などあらゆるものを含む。なお、ナビゲーション装置52は、車両1に搭載されたものに限られず、ナビゲーション機能を有する携帯端末であってもよい。当該携帯端末は、制御部20との間で有線又は無線により通信可能なスマートフォン、スマートウォッチ、タブレットPC(Personal Computer)等であればよい。
【0023】
車外情報供給部53は、車両1の外部と通信して取得した車外情報Doを制御部20に供給する。例えば、車外情報供給部53は、路側のインフラストラクチャーの通信(V2I:Vehicle To roadside Infrastructure)を可能とする無線通信モジュールを有し、安全運転支援システム(DSSS:Driving Safety Support Systems)の基地局から、インフラストラクチャーとして設置された路側無線装置を介して交通情報を取得する。交通情報は、信号機、道路標識、分岐路などの交通に関する各種の対象を示す情報であって、当該対象の位置情報も含む。車外情報供給部53は、V2Iで取得した交通情報を車外情報Doとして制御部20に供給する。
【0024】
ここからは、制御部20の主要機能について説明する。制御部20は、機能部として、特定部21(特定手段の一例)と、推定部22(推定手段の一例)と、表示制御部23(表示制御手段の一例)とを備える。
【0025】
特定部21は、前方センサ30からの前方空間情報Dfに基づき、車両1の前方空間における前方対象の実際の位置である実位置を特定する。前方対象の具体例については後述する。
【0026】
推定部22は、車両関連情報供給部50からの車両関連情報に基づき、重畳画像Vの表示領域内における前方対象の推定位置を定める。なお、推定位置は、前方対象そのものを推定した位置に限られず、前方対象と関連する箇所を推定した位置であってもよい。推定位置の具体例については後述する。
【0027】
表示制御部23は、表示部10の動作を制御して重畳画像Vの表示制御を行い、車両1の前方の実景(以下、単に実景とも言う。)の中にある前方対象を報知するための報知画像を重畳画像Vの表示領域内に表示する。表示制御部23は、以下に順に述べるように、AR(Augmented Reality)処理及び擬似AR処理を実行可能である。
【0028】
(AR処理)
AR処理は、特定部21によって特定された実位置に基づき、前方対象に重なって視認される報知画像を表示する処理である。以下、AR処理の実行中に表示される報知画像を、AR画像とも言う。なお、AR画像は、特定部21によって特定された実位置に基づき、前方対象に関連した箇所に重なって視認されるものであってもよい。
表示制御部23は、少なくとも、前方センサ30からの前方空間情報Dfと、視点検出部40からの視点情報Dvとに基づいて公知の手法でAR処理を実行する。表示制御部23は、前方空間情報Dfによって特定される前方空間内における前方対象の実位置と、視点情報Dvによって特定されるユーザ4の視点位置とに基づいて、前方対象又は前方対象に関連した箇所に重なって視認されるAR画像を表示する。これにより、ユーザ4は視線を動かしても前方対象に重なる報知画像を視認することができる。例えば、表示制御部23は、
図4Aに示すように、前方対象T1が道路の区画線(例えば白線)であった場合、実景としての区画線に重畳して視認されるAR画像Eを表示領域VA内に表示する。表示領域VAは、ウインドシールド2の前方に設定された重畳画像V(虚像)の表示可能領域である。つまり、表示制御部23は、表示領域VA内において報知画像を含む任意のコンテンツ画像を表示可能である。表示制御部23は、車両関連情報供給部50からの車両関連情報、車外情報供給部53からの車外情報Doも適宜用いてAR処理を実行する。例えば、表示制御部23は、自車情報Dcが示す車両1の姿勢及び走行速度に応じてAR画像を変形させ、前方対象又は前方対象に関連する箇所に正確にAR画像を重ねて視認することができる。AR処理の具体例については後述する。
【0029】
なお、
図4A及び後述する
図4B以降の各図では、表示領域VAと重なる実景を破線で表している。
【0030】
(擬似AR処理)
擬似AR処理は、前方センサ30からの前方空間情報Dfと視点検出部40からの視点情報Dvを用いずに実行される。したがって、擬似AR処理では、実景の中の前方対象と正確に重なる報知画像を表示することは困難である。しかしながら、表示制御部23は、推定部22が推定した表示領域VA内における前方対象の推定位置に報知画像を表示する擬似AR処理を実行することで、ユーザ4に擬似的なARを感じさせる。本実施形態では、表示制御部23は特定部21によって前方対象の実位置が特定されない場合に擬似AR処理を実行する。表示制御部23は、擬似AR処理として第1擬似AR処理又は第2擬似AR処理を選択して実行可能である。以下、第1擬似AR処理の実行中に表示される報知画像を第1擬似AR画像とも言い、第2擬似AR処理の実行中に表示される報知画像を第2擬似AR画像とも言う。
【0031】
第1擬似AR処理は、車両関連情報のうち自車情報Dcを含む情報群に基づいて推定部22が定めた推定位置(以下、第1推定位置とも言う。)に報知画像としての第1擬似AR画像を表示する処理である。具体的に、情報群は、自車情報Dc、地図情報Dm及び現在地情報Dpを含む。例えば、制御部20のROMには、自車情報Dcと、現在地情報Dpと、地図情報Dmによって示される前方対象の位置座標と、前方対象の種別に応じて設定された第1推定位置とが対応して構成された第1推定位置制御データが予め記憶されている。推定部22は、第1推定位置制御データを参照して、表示領域VA内における第1推定位置を定める。なお、第1推定位置制御データは、テーブルデータであっても数式のデータであってもよい。
【0032】
第2擬似AR処理は、車両関連情報のうち自車情報Dcを含むとともに、前記の情報群よりも少ない数の限定情報に基づいて推定部22が定めた推定位置(以下、第2推定位置とも言う。)に報知画像としての第2擬似AR画像を表示する処理である。具体的に、限定情報は、自車情報Dc及び地図情報Dmを含む一方で、現在地情報Dpを含まない。つまり、第2擬似AR処理は、ナビゲーション装置52から現在地情報Dpが出力されない条件において実行される。当該条件では、制御部20は、車両1の現在地をリアルタイムで正確に把握できない状態にあるが、ナビゲーション装置52から、前方対象の存在と存在する前方対象までの距離とを示す情報(以下、イベント情報と言う。)を取得可能である。イベント情報は、地図情報Dmに含まれる。例えば、制御部20のROMには、自車情報Dcと、イベント情報と、前方対象の種別に応じて設定された第2推定位置とが対応して構成された第2推定位置制御データが予め記憶されている。推定部22は、第2推定位置制御データを参照して、表示領域VA内における第2推定位置を定める。なお、第2推定位置制御データは、テーブルデータであっても数式のデータであってもよい。
【0033】
続いて、HUD装置100の制御部20が実行する表示制御処理の一例を、
図3を参照して説明する。表示制御処理は、例えば、車両1のイグニッションがオン状態でHUD装置100の動作中に継続して実行される。
【0034】
(表示制御処理)
制御部20は、表示制御処理を開始すると、イベントが検出されたか否か(報知画像によって報知すべき前方対象が存在するか否か)を判別する(ステップS1)。制御部20は、バス5を介して取得可能な各種情報に基づいてイベントの有無を判別する。当該判別手法は、前方対象及び表示すべき報知画像の種別に応じて異なるため、後に具体例を説明する。
【0035】
イベントが検出された場合(ステップS1;Yes)、制御部20は、AR処理を実行可能か否かを判別する(ステップS2)。制御部20は、例えば、前方空間情報Df、視点情報Dv及び地図情報Dmを少なくとも取得している場合には、AR処理を実行可能であると判別し(ステップS2;Yes)、AR処理を実行する(ステップS3)。AR処理を実行する制御部20は、特定部21の機能で前方空間における前方対象の実位置を特定する。そして、制御部20は、表示制御部23の機能で、実位置に応じた表示領域VA内の位置にAR画像を表示する。
【0036】
AR処理を実行不能である場合(ステップS2;No)、制御部20は、第1擬似AR処理を実行可能か否かを判別する(ステップS4)。制御部20は、例えば、車両関連情報のうち自車情報Dcを含む前記の情報群を取得している場合には、第1擬似AR処理を実行可能であると判別し(ステップS4;Yes)、第1擬似AR処理を実行する(ステップS5)。第1擬似AR処理を実行する制御部20は、推定部22の機能で表示領域VA内における第1推定位置を定める。そして、制御部20は、表示制御部23の機能で、第1推定位置に第1擬似AR画像を表示する。
【0037】
第1擬似AR処理を実行不能である場合(ステップS4;No)、制御部20は、第2擬似AR処理を実行する(ステップS6)。第2擬似AR処理を実行する制御部20は、前記の情報群よりも少ない数の限定情報に基づき、推定部22の機能で表示領域VA内における第2推定位置を定める。そして、制御部20は、表示制御部23の機能で、第2推定位置に第2擬似AR画像を表示する。
【0038】
ステップS1でイベントが検出されない場合(ステップS1;No)、制御部20は、報知画像(AR画像、第1擬似AR画像又は第2擬似AR画像)を非表示の状態に制御する(ステップS7)。ステップS3、S5、S6、S7の処理後、制御部20は、ステップS1に戻って処理を実行する。なお、制御部20が限定情報を取得できずに第2擬似AR処理を実行できない場合は、ステップS1の時点でイベントを検出できないため、報知画像は表示されない(ステップS7)。以上が表示制御処理である。以下、前方対象と報知画像の具体例を説明する。
【0039】
(LDW)
図4A~
図4Cは、LDW(Lane Departure Warning)に係る報知画像の表示例であり、
図4AはAR処理実行中、
図4Bは第1擬似AR処理実行中、
図4Cは第2擬似AR処理実行中を示す。
【0040】
制御部20は、前方空間情報Df及び車両関連情報の少なくともいずれかに基づいて車両1が走行車線から逸脱したこと(レーン逸脱)を特定した場合、又は、自車情報Dcに基づきレーン逸脱を推定した場合に、LDWに係るイベントが検出された(ステップS1;Yes)と判別する。この場合、前方対象T1は、道路の区画線(例えば白線)である。
【0041】
AR処理を実行可能である場合(ステップS2;Yes)、表示制御部23は、
図4Aに示すように、実景の区画線である前方対象T1に重なってユーザ4に視認されるAR画像Eを表示するAR処理を実行する(ステップS3)。AR画像Eは、例えば帯状の赤色画像であり、実景の区画線に重なって表示されることで当該区画線の存在を強調する。
【0042】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理を実行可能である場合(ステップS4;Yes)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第1推定位置に、
図4Bに示す第1擬似AR画像E1を表示する。この場合、推定部22は、現在地情報Dpと地図情報Dmが含む道路形状情報とに基づき、前方の道路形状を特定する。そして、推定部22は、特定された道路形状から区画線の位置を推定し、推定される区画線の位置よりも走行車線の中央に寄った位置を第1推定位置と定める。第1推定位置をこのように定めることで、第1擬似AR画像E1が実際の区画線(前方対象T1)の外側、つまり、隣の車線にはみ出て表示されてしまうことを抑制できる。このように第1推定位置を定めるためのデータは、LDW用に構成された第1推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。上記のように定めた第1推定位置に、表示制御部23は、区画線を模した帯状の第1擬似AR画像E1を表示する。第1擬似AR画像E1は、例えばAR画像Eと同様に赤色で表示される。
なお、第1擬似AR画像は、前方空間情報Dfを用いずに表示制御されるため、実際の区画線(前方対象T1)からの表示位置のずれが目立つ虞がある。当該表示位置のずれをユーザ4に極力感じさせないように、第1擬似AR画像E1は、AR画像Eよりも車両1の走行方向に短い形状で表示されることが好ましい。また、表示制御部23は、第1擬似AR画像E1を、自車情報Dcによって示される車両1の姿勢に応じて変化させる。具体的に、表示制御部23は、ジャイロセンサからの角速度、舵角センサからの操舵角等によって特定された車両1の姿勢に基づき、車両1の走行車線の曲率を推定し、推定した曲率に沿うように第1擬似AR画像E1を変化させる。これにより、AR感を高めることができる。
【0043】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理も実行不能である場合(ステップS4;No)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第2推定位置に、
図4Cに示す第2擬似AR画像E2を表示する。この場合、推定部22は、ジャイロセンサからの角速度、舵角センサからの操舵角などに基づいて車両1の横ずれの時間変化量を解析し、解析した時間変化量に基づいて、レーン逸脱と、左右いずれの方向にレーン逸脱が生じているかを推定する。そして、推定部22は、実験、シミュレーション等により予め定めた表示領域VA内の設定位置であって、走行車線の中央よりも左側に視認されるように定めた左設定位置と、走行車線の中央よりも右側に視認されるように定めた右設定位置とのいずれかを第2推定位置に決定する。このように第2推定位置を定めるためのデータは、LDW用に構成された第2推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。例えば、推定部22は、右方向にレーン逸脱が生じていると推定した場合、右設定位置を第2推定位置に決定する。このように定めた第2推定位置に、表示制御部23は、
図4Cに示すように、区画線を想起させる帯状の第2擬似AR画像E2を表示する。第2擬似AR画像は、例えばAR画像E及び第1擬似AR画像と同様に赤色で表示される。なお、表示制御部23は、横ずれ量に応じて帯状の第2擬似AR画像E2の幅を変化させたり、色を変化させたりしてもよい。
【0044】
上記のように、LDWに係る第1擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する情報群は、例えば、自車情報Dc、現在地情報Dp及び地図情報Dmである。また、LDWに係る第2擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する限定情報は、例えば、自車情報Dcである。
【0045】
(ルートガイダンス)
図5A~
図5Cは、ルートガイダンスに係る報知画像の表示例であり、
図5AはAR処理実行中、
図5Bは第1擬似AR処理実行中、
図5Cは第2擬似AR処理実行中を示す。報知画像は、地図情報Dmが含む経路案内情報に応じて表示されるターンバイターン方式の画像である。
【0046】
制御部20は、前方空間情報Df、地図情報Dm及び現在地情報Dpの少なくともいずれかに基づいて分岐路(例えば交差点)である前方対象T2を特定した場合に、ルートガイダンスに係るイベントが検出された(ステップS1;Yes)と判別する。
【0047】
AR処理を実行可能である場合(ステップS2;Yes)、表示制御部23は、
図5Aに示すように、実景の分岐路である前方対象T2に重なってユーザ4に視認されるAR画像Fを表示するAR処理を実行する(ステップS3)。AR画像Fは、例えば矢印形状をなし、車両1が分岐路に近付いたり、分岐路を曲がりかけたりした状態であっても、ユーザ4の視点に応じて表示制御され、分岐路上に配置されたかのように表示される。
【0048】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理を実行可能である場合(ステップS4;Yes)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第1推定位置に、
図5Bに示す第1擬似AR画像F1を表示する。この場合、推定部22は、現在地情報Dpと地図情報Dmが含む道路形状情報とに基づき、前方の分岐路の形状を推定する。そして、推定部22は、分岐路に重なってユーザ4に視認されると想定される位置であって、表示領域VA内に予め定めた位置を第1推定位置と定める。このように第1推定位置を定めるためのデータは、ルートガイダンス用に構成された第1推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。上記のように定めた第1推定位置に、表示制御部23は、第1擬似AR画像F1を表示する。
第1擬似AR画像F1は、行く先(曲がる方向)を示す矢印部F1aと、車両1の走行方向に沿って延びる帯状部F1bと、を有する。表示制御部23は、分岐路までの距離に応じて帯状部F1bの車両1の走行方向に沿う長さを変化させる。具体的に、表示制御部23は、分岐路までの距離が短くなるに連れて、帯状部F1bの長さが短くなるように第1擬似AR画像F1を変化させる。分岐路までの距離は、例えば、現在地情報Dp及び地図情報Dmによって推定可能である。また、表示制御部23は、ジャイロセンサからの角速度、舵角センサからの操舵角、地磁気センサが検出した車両1の向き等に基づき、車両1が曲がる際の曲率を算出し、算出した曲率に応じて第1擬似AR画像F1が回転するアニメーションを実行する。上記のように、車両1の走行状態に応じて第1擬似AR画像F1を変化させることで、AR感を高めることができる。
【0049】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理も実行不能である場合(ステップS4;No)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第2推定位置に、
図5Cに示す第2擬似AR画像F2を表示する。この場合、推定部22は、前方対象T2までの距離を示す前述のイベント情報(地図情報Dmに含まれる情報)に基づいて、当該距離が所定値以下になった場合に、第2推定位置を定める。なお、推定部22は、当該距離が所定値以下になったか否かを、自車情報Dcによって示される車両1の走行距離に基づいて判別可能である。また、第2推定位置は、実験、シミュレーション等により予め定めた表示領域VA内の位置である。このように第2推定位置を定めるためのデータは、ルートガイダンス用に構成された第2推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。上記のように定めた第2推定位置に、表示制御部23は、第2擬似AR画像F2を表示する。
第2擬似AR画像F2は、行く先(曲がるべき方向)を示す矢印部F2aと、車両1の走行方向に沿って延びる帯状部F2bと、を有する。表示制御部23は、分岐路までの距離に応じて帯状部F2bの車両1の走行方向に沿う長さを変化させる。具体的に、表示制御部23は、分岐路までの距離が短くなるに連れて、帯状部F2bの長さが短くなるように第2擬似AR画像F2を変化させる。分岐路までの距離は、例えば、地図情報Dmに含まれるイベント情報と、自車情報Dcによって示される走行距離に基づいて推定可能である。また、表示制御部23は、ジャイロセンサからの角速度、舵角センサからの操舵角、地磁気センサが検出した車両1の向き等に基づき、車両1が曲がる際の曲率を算出し、算出した曲率に応じて第2擬似AR画像F2が回転するアニメーションを実行する。上記のように、車両1の走行状態に応じて第2擬似AR画像F2を変化させることで、AR感を高めることができる。なお、第2擬似AR画像F2を、第1擬似AR画像F1のように自車情報Dcに応じて変化させずに、第2推定位置に固定表示してもよい。
【0050】
上記のように、ルートガイダンスに係る第1擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する情報群は、例えば、自車情報Dc、現在地情報Dp及び地図情報Dmである。また、ルートガイダンスに係る第2擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する限定情報は、例えば、自車情報Dc及び地図情報Dmである。
【0051】
(一時停止警報)
図6A~
図6Cは、一時停止警報に係る報知画像の表示例であり、
図6AはAR処理実行中、
図6Bは第1擬似AR処理実行中、
図6Cは第2擬似AR処理実行中を示す。
【0052】
制御部20は、前方空間情報Df、地図情報Dm及び現在地情報Dpの少なくともいずれかに基づいて停止線である前方対象T3を特定した場合に、一時停止警報に係るイベントが検出された(ステップS1;Yes)と判別する。
【0053】
AR処理を実行可能である場合(ステップS2;Yes)、表示制御部23は、
図6Aに示すように、実景の停止線である前方対象T3と関連する箇所(以下、関連箇所とも言う。)に重なってユーザ4に視認されるAR画像Gを表示するAR処理を実行する(ステップS3)。この場合、関連箇所は、道路における停止線の直前の箇所(実景)である。AR画像Gは、停止線である前方対象T3に至るまでに減速を促す態様であり、例えば、概ね台形状をなす。AR画像Gは、車両1が停止線に近付いていっても、停止線の直前の関連箇所に重なってユーザ4に視認される。
【0054】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理を実行可能である場合(ステップS4;Yes)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第1推定位置に、
図6Bに示す第1擬似AR画像G1を表示する。この場合、推定部22は、現在地情報Dpと地図情報Dmが含む道路形状情報とに基づき、停止線の存在を特定する。続いて、推定部22は、停止線の存在を特定すると、自車情報Dcによって示される車両1の走行速度と、車両1の制動性能とに基づき、現在の制動距離を算出し、算出した制動距離に応じた位置に仮想停止線6を設定する。なお、制動距離の算出に、図示しない温度センサから取得可能な外気温を考慮してもよい。例えば、仮想停止線6は、第1擬似AR画像G1の表示制御で用いられる仮想線であり、表示領域VA内に画像として表示されない。なお、ユーザ4に現在の制動距離を報知すべく、仮想停止線6を画像として表示してもよい。推定部22は、仮想停止線6を設定すると、仮想停止線6よりも手前に視認される任意の位置を第1推定位置と定める。このように定めた第1推定位置に、表示制御部23は、第1擬似AR画像G1をまずは固定表示する。第1擬似AR画像G1は、前述のAR画像Gと同様に、ユーザ4に減速を促す態様の画像である。ここで、車両1が減速して実際の停止線に近付くに連れて、表示領域VA内に固定表示された第1擬似AR画像G1は、仮想停止線6に接近する。そして、第1擬似AR画像G1が仮想停止線6に到達すると、表示制御部23は、第1擬似AR画像G1が仮想停止線6を超えないように、表示領域VAにおける下方(ユーザ4にとっては手前方向)に第1擬似AR画像G1をスクロールする表示制御を実行する。なお、このスクロールは、推定部22による第1推定位置の表示領域VA内での移動制御と言い換えることもできる。第1推定位置を定めるためのデータは、一時停止警報用に構成された第1推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。また、表示制御部23は、ジャイロセンサからの角速度、舵角センサからの操舵角、地磁気センサが検出した車両1の向き等に基づいて特定される車両1の姿勢に応じて、第1擬似AR画像G1を傾けたり、曲げたりして表示してもよい。このように、車両1の姿勢に応じて第1擬似AR画像F1を変化させることで、AR感を高めることができる。
【0055】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理も実行不能である場合(ステップS4;No)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第2推定位置に、
図6Cに示す第2擬似AR画像G2を表示する。この場合、推定部22は、前方対象T3までの距離を示す前述のイベント情報(地図情報Dmに含まれる情報)に基づいて、当該距離が所定値以下になった場合に、第2推定位置を定める。なお、推定部22は、当該距離が所定値以下になったか否かを、自車情報Dcによって示される車両1の走行距離に基づいて判別可能である。また、第2推定位置は、実験、シミュレーション等により予め定めた表示領域VA内の位置である。このように第2推定位置を定めるためのデータは、一時停止警報用に構成された第2推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。上記のように定めた第2推定位置に、表示制御部23は、第2擬似AR画像G2を固定表示する。第2擬似AR画像G2は、AR画像G、第1擬似画像G1と同様に、ユーザ4に減速を促す態様の画像である。
なお、表示制御部23は、第2擬似AR画像G2を表示する際にも第1擬似画像G1と同様に、推定部22によって設定された仮想停止線6に基づき、第2擬似AR画像G2をスクロールする表示制御を実行してもよい。同様に、表示制御部23は、自車情報Dcによって示される車両1の姿勢に応じて、第2擬似AR画像G2を傾けたり、曲げたりして表示してもよい。また、表示制御部23は、停止線までの距離に応じて第2擬似AR画像G2の車両1の走行方向に沿う長さを変化させてもよい。
【0056】
上記のように、一時停止警報に係る第1擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する情報群は、例えば、自車情報Dc、現在地情報Dp及び地図情報Dmである。また、一時停止警報に係る第2擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する限定情報は、例えば、自車情報Dc及び地図情報Dmである。
【0057】
(TSR)
図7A~
図7Cは、TSR(Traffic Sign Recognition assist)に係る報知画像の表示例であり、
図7AはAR処理実行中、
図7Bは第1擬似AR処理実行中、
図7Cは第2擬似AR処理実行中を示す。
【0058】
制御部20は、前方空間情報Df、地図情報Dm及び現在地情報Dpの少なくともいずれかに基づいて道路標識である前方対象T4を特定した場合に、TSRに係るイベントが検出された(ステップS1;Yes)と判別する。
【0059】
AR処理を実行可能である場合(ステップS2;Yes)、表示制御部23は、
図7Aに示すように、実景の道路標識である前方対象T4の関連箇所に重なってユーザ4に視認されるAR画像Hを表示するAR処理を実行する(ステップS3)。この場合、関連箇所は、前方路面内の箇所(実景)であって、道路標識が示す制限速度に変わる箇所(以下、制限速度変化箇所)である。AR画像Hは、道路標識の内容を示す標識内容画像Haと、制限速度変化箇所を示す制限速度変化箇所画像Hbとを備える。例えば、標識内容画像Haは道路標識を模した画像であり、制限速度変化箇所画像Hbは車両1の走行車線に横たわる態様の帯状の画像である。
【0060】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理を実行可能である場合(ステップS4;Yes)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第1推定位置に、
図7Bに示す第1擬似AR画像H1を表示する。この場合、推定部22は、現在地情報Dpと地図情報Dmが含む道路形状情報とに基づき、前方の道路標識を特定する。具体的に、推定部22は、地図情報Dmによって示される道路標識の位置と、現在地情報Dpと前方の道路標識までの概算距離を算出する。そして、推定部22は、特定された道路標識の関連箇所に重なってユーザ4に視認されると想定される位置であって、表示領域VA内に予め定めた位置を第1推定位置と定める。このように第1推定位置を定めるためのデータは、TSR用に構成された第1推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。上記のように定めた第1推定位置に、表示制御部23は、第1擬似AR画像H1を表示する。
第1擬似AR画像H1は、AR画像Hと同様に構成され、道路標識の内容を示す標識内容画像H1aと、制限速度変化箇所を示す制限速度変化箇所画像H1bとを備える。なお、第1擬似AR画像H1の実景への重畳精度はAR画像Hに劣るため、第1擬似AR画像H1における制限速度変化箇所画像H1bの幅を、AR画像Hにおける制限速度変化箇所画像H1bの幅よりも広くしてもよい。また、表示制御部23は、ジャイロセンサからの角速度、舵角センサからの操舵角、地磁気センサが検出した車両1の向き等に基づいて特定される車両1の姿勢に応じて、第1擬似AR画像H1を傾けたり、曲げたりして表示してもよい。このように、車両1の姿勢に応じて第1擬似AR画像H1を変化させることで、AR感を高めることができる。
【0061】
AR処理を実行不能で(ステップS2;No)、第1擬似AR処理も実行不能である場合(ステップS4;No)、表示制御部23は、推定部22が定めた表示領域VA内の第2推定位置に、
図7Cに示す第2擬似AR画像H2を表示する。第2擬似AR画像H2は、道路標識の内容を示す標識内容画像H2aと、台形状の台形画像H2bとを備える。ここで、現在の車両1の走行速度が道路標識に示される制限速度よりも大きい場合、推定部22は、自車情報Dcによって示される車両1の走行速度と、制限速度と、車両1の制動性能とに基づき、制限速度に落とすまでに必要な推定距離を算出し、算出した推定距離を基準に表示領域VA内の第2推定位置を定める。具体的に、第2推定位置は、第2擬似AR画像H2の表示位置であって、台形画像H2bが示す台形の上底(この上底は下底よりも短い)が、算出した推定距離だけ車両1から前方に離れた位置に視認されるように設定された位置である。標識内容画像H2aは、台形画像H2bが示す台形の上底の近傍に表示されることが好ましい。また、現在の車両1の走行速度が道路標識に示される制限速度よりも小さい場合、推定部22は、自車情報Dcによって車両1の走行速度と、制限速度と、車両1の加速性能とに基づき、制限速度に至るまでに必要な推定距離を算出し、算出した推定距離を基準に表示領域VA内の第2推定位置を定めてもよい。この場合、第2推定位置は、第2擬似AR画像H2の表示位置であって、台形画像H2bが示す台形の上底(この上底は下底よりも長い)が、算出した推定距離だけ車両1から前方に離れた位置に視認されるように設定された位置である。この場合、
図7Cに示す台形画像H2bと上下逆の形状となる。なお、現在の車両1の走行速度が道路標識に示される制限速度よりも小さい場合は、第2擬似AR画像H2を表示しなくともよい。以上のように表示制御部23によって表示される第2擬似AR画像H2は、自車情報Dcによって示される走行速度に応じて台形画像H2bの高さが変化する。なお、以上のように第2推定位置を定めるためのデータは、TSR用に構成された第2推定位置制御データとして制御部20のROMに予め記憶されている。
【0062】
上記のように、TSRに係る第1擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する情報群は、例えば、自車情報Dc、現在地情報Dp及び地図情報Dmである。また、TSRに係る第2擬似AR処理を実行する際に推定部22が使用する限定情報は、例えば、自車情報Dc及び地図情報Dmである。
【0063】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、実施形態に適宜の変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。
【0064】
表示制御部23が擬似AR処理の実行中に報知画像(第1擬似AR画像又は第2擬似AR画像)を自車情報Dcに応じて変化させる態様は、以上の例に限られず任意である。表示制御部23は、当該報知画像の形状、サイズ、色、表示領域VA内における位置などを自車情報Dcの内容に応じて変化させればよい。
【0065】
制御部20は、前方対象情報Dfを取得不能である際に、擬似AR処理を実行するが、視点情報Dvが取得可能である場合には、視点情報Dvを用いて擬似AR処理を実行してもよい。つまり、推定部22が推定位置を定める際に、視点情報Dvを用いてもよい。
【0066】
以上では、HUD装置100がAR処理を実行可能である例を示したが、HUD装置100は、AR処理を実行不能であってもよい。この場合、HUD装置100は、第1擬似AR処理と第2擬似AR処理の少なくともいずれかを実行可能に構成されていればよい。AR処理を実行不能な構成のHUD装置100を採用した場合、車両用表示システムSから前方センサ30、視点検出部40を省略可能である。
【0067】
報知画像の種別、及び、報知画像によって報知すべき前方対象は、以上の例に限られず任意である。例えば、前方対象は、ユーザ4によってナビゲーション装置52に設定された、目的地、POI(Point Of Interest)等であってもよい。
【0068】
制御部20は、イベントの検出(報知画像によって報知すべき前方対象の検出)や、推定部22の機能で推定位置を定める際に、地図情報Dmに加えて車外情報Doを用いてもよいし、地図情報Dmの代わりに車外情報Doを用いてもよい。
【0069】
第1推定位置と第2推定位置とは、車両関連情報を構成する複数の情報のうち、推定部22がこれらの位置を定める際に用いる情報の数が異なっていればよく、結果として、表示領域VA内における位置が同じであってもよい。
【0070】
以上では、車外情報供給部53がV2Iの通信を行う例を示したが、これに限られない。車外情報供給部53は、V2N(Vehicle To cellular Network)、V2V(Vehicle To Vehicle)、V2P(Vehicle To Pedestrian)によって車両1の外部情報を取得し、取得した情報を車外情報Doとして制御部20に供給可能であってもよい。
【0071】
表示光Lの投射対象である透光部材は、車両1のウインドシールド2に限定されず任意であり、ハーフミラー、ホログラム素子等により構成されるコンバイナであってもよい。また、HUD装置100が搭載される車両1の種類は限定されず任意であり、自動四輪車や、自動二輪車など種々の車両であってもよい。また、HUD装置100は、前方センサ30、視点検出部40及び車両関連情報供給部50の少なくとも一部の機能を備えていてもよい。
【0072】
以上の説明では、本開示の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【0073】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0074】
100…ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置
10…表示部
20…制御部
21…特定部(特定手段の一例)
22…推定部(推定手段の一例)
23…表示制御部(表示制御手段の一例)
30…前方センサ、Df…前方空間情報
40…視点検出部、Dv…視点情報
50…車両関連情報供給部
51…自車情報供給部、Dc…自車情報
52…ナビゲーション装置、Dm…地図情報、Dp…現在地情報
53…車外情報供給部、Do…車外情報
S…車両用表示システム
1…車両、2…ウインドシールド、3…ダッシュボード、4…ユーザ
5…バス、6…仮想停止線
L…表示光、V…重畳画像、VA…表示領域
T1~T4…前方対象
E,F,G,H…AR画像
E1,F1,G1,H1…第1擬似AR画像
E2,F2,G2,H2…第2擬似AR画像