(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 7/06 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
H02P7/06 G
(21)【出願番号】P 2020186668
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊治
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148412(JP,A)
【文献】特開2011-176944(JP,A)
【文献】特開2010-148251(JP,A)
【文献】特開2019-071739(JP,A)
【文献】特開2013-183469(JP,A)
【文献】特開2000-274140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0079380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ(70、270)の出力軸部(75)と連動している直流モータ(71)の駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記直流モータを回転させる際の電流変動を検出して前記出力軸部の相対位置情報を取得する相対位置取得部(54)と、
ポテンショメータ(76)を用いて前記出力軸部の絶対位置情報を取得する絶対位置取得部(53)と、
前記絶対位置情報と前記相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて、前記出力軸部の実位置情報を設定する実位置設定部(56)と、
前記絶対位置情報と前記相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて前記実位置情報を補正する実位置補正部(57)と
、
前記絶対位置情報または前記相対位置情報における異常の有無を判定する異常判定部(59)と、
時間の経過をカウントするタイマ(55)とを備え、
前記実位置補正部は、前記異常判定部で異常があると判定された場合に、前記タイマを用いて取得した異常の発生しているタイミングにおける前記絶対位置情報または前記相対位置情報を用いた前記実位置情報の補正を行わないモータ制御装置。
【請求項2】
アクチュエータ(70、270)の出力軸部(75)と連動している直流モータ(71)の駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記直流モータを回転させる際の電流変動を検出して前記出力軸部の相対位置情報を取得する相対位置取得部(54)と、
ポテンショメータ(76)を用いて前記出力軸部の絶対位置情報を取得する絶対位置取得部(53)と、
前記絶対位置情報と前記相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて、前記出力軸部の実位置情報を設定する実位置設定部(56)と、
前記絶対位置情報と前記相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて前記実位置情報を補正する実位置補正部(57)と
、
前記絶対位置情報または前記相対位置情報における異常の有無を判定する異常判定部(59)と、
前記直流モータを駆動するための直流電源(5)における電圧を取得する電圧取得部(51)とを備え、
前記異常判定部は、前記電圧取得部で取得している電圧の変動量が閾値以上である場合には、そのタイミングにおける前記相対位置情報には異常があると判定し、
前記実位置補正部は、前記異常判定部で異常があると判定された場合に、異常の発生しているタイミングにおける前記絶対位置情報または前記相対位置情報を用いた前記実位置情報の補正を行わないモータ制御装置。
【請求項3】
前記実位置設定部は、前記絶対位置情報を用いて前記実位置情報を設定し、
前記実位置補正部は、前記相対位置情報を用いて前記実位置情報を補正する請求項1
または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記実位置補正部は、前記絶対位置情報と前記相対位置情報との差分を前記実位置情報に加えることで前記実位置情報を補正する請求項
3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記ポテンショメータの電圧と前記出力軸部の位置情報との関係を示す特性マップを記憶している記憶部(58)を備え、
前記記憶部は、前記ポテンショメータの電圧と補正後の前記実位置情報との関係を示す補正後マップ(Mc)を記憶する請求項
4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記実位置情報の補正を行う前の前記特性マップである初期マップ(Mi)と、前記補正後マップとを記憶する請求項
5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
複数の前記直流モータを駆動可能な駆動部(52)を備え、
前記駆動部は、前記相対位置取得部が1つの前記直流モータにおける前記相対位置情報を取得している間、残りの前記直流モータの駆動を停止している請求項1から請求項
6のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記出力軸部は、可動範囲の一端が機構的に突き当てられている突き当て位置に設定されており、
前記相対位置取得部は、少なくとも前記突き当て位置における前記相対位置情報を取得し、
前記絶対位置取得部は、少なくとも前記突き当て位置における前記絶対位置情報を取得し、
前記実位置設定部は、前記突き当て位置における前記出力軸部の前記実位置情報を設定し、
前記実位置補正部は、前記突き当て位置における前記実位置情報を補正する請求項1から請求項
7のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記実位置設定部は、前記出力軸部の回転位置が前記ポテンショメータの検出領域よりも外側に位置している場合に、前記相対位置情報を用いて前記実位置情報を設定し、前記絶対位置情報を用いた補正を行わない請求項1から請求項
8のいずれかに記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記実位置設定部は、前記出力軸部の現在の回転位置から目標の回転位置までの回転移動量が所定移動量未満である場合に、前記相対位置情報を用いて前記実位置情報を設定し、前記絶対位置情報を用いた補正を行わない請求項1から請求項
9のいずれかに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ブラシ付きの直流モータの回転状態を検出する回転検出装置を開示している。直流モータの回転状態を検出する方法として、ロータリエンコーダやポテンショメータ等のセンサを設ける方法が知られている。また、大がかりなセンサを用いることなく直流モータの回転状態を検出する方法として、直流モータの電流波形を検出する方法が知られている。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直流モータの回転状態を検出する方法として、ポテンショメータを用いる方法を採用した場合、ポテンショメータの抵抗値のばらつきなどにより細かな回転状態を正確に検出することが困難であった。また、電流波形を検出する方法を採用した場合、ノイズ等の影響により位置ずれなどが生じることがあり、回転状態を安定して正確に検出することが困難であった。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、モータ制御装置にはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示される1つの目的は、高精度に位置制御可能なモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示されたモータ制御装置は、アクチュエータ(70、270)の出力軸部(75)と連動している直流モータ(71)の駆動を制御するモータ制御装置であって、直流モータを回転させる際の電流変動を検出して出力軸部の相対位置情報を取得する相対位置取得部(54)と、ポテンショメータ(76)を用いて出力軸部の絶対位置情報を取得する絶対位置取得部(53)と、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて、出力軸部の実位置情報を設定する実位置設定部(56)と、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて実位置情報を補正する実位置補正部(57)と、絶対位置情報または相対位置情報における異常の有無を判定する異常判定部(59)と、時間の経過をカウントするタイマ(55)とを備え、実位置補正部は、異常判定部で異常があると判定された場合に、タイマを用いて取得した異常の発生しているタイミングにおける絶対位置情報または相対位置情報を用いた実位置情報の補正を行わない。
また、ここに開示されたモータ制御装置は、アクチュエータ(70、270)の出力軸部(75)と連動している直流モータ(71)の駆動を制御するモータ制御装置であって、直流モータを回転させる際の電流変動を検出して出力軸部の相対位置情報を取得する相対位置取得部(54)と、ポテンショメータ(76)を用いて出力軸部の絶対位置情報を取得する絶対位置取得部(53)と、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて、出力軸部の実位置情報を設定する実位置設定部(56)と、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて実位置情報を補正する実位置補正部(57)と、絶対位置情報または相対位置情報における異常の有無を判定する異常判定部(59)と、直流モータを駆動するための直流電源(5)における電圧を取得する電圧取得部(51)とを備え、異常判定部は、電圧取得部で取得している電圧の変動量が閾値以上である場合には、そのタイミングにおける相対位置情報には異常があると判定し、実位置補正部は、異常判定部で異常があると判定された場合に、異常の発生しているタイミングにおける絶対位置情報または相対位置情報を用いた実位置情報の補正を行わない。
【0007】
開示されたモータ制御装置によると、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて、出力軸部の実位置情報を設定する実位置設定部と、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて実位置情報を補正する実位置補正部とを備えている。このため、絶対位置情報と相対位置情報との異なる方法で取得した2つの位置情報から補正後の実位置情報を取得できる。したがって、絶対位置情報と相対位置情報とのどちらか一方の情報のみに基づいて出力軸部の位置を取得する場合に比べて、精度よく出力軸部の位置を取得しやすい。よって、高精度に位置制御可能なモータ制御装置を提供できる。
【0008】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】モータシステムの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】補正モードにおけるモータシステムの制御に関するフローチャートである。
【
図4】補正途中におけるポテンショメータの特性マップを示す図である。
【
図5】補正後におけるポテンショメータの特性マップを示す図である。
【
図6】第2実施形態におけるモータシステムの概略構成を示すブロック図である。
【
図7】第3実施形態におけるモータシステムの補正制御に関するフローチャートである。
【
図8】第4実施形態におけるモータシステムの補正制御に関するフローチャートである。
【
図9】第5実施形態におけるモータシステムの補正制御に関するフローチャートである。
【
図10】第6実施形態におけるモータシステムの補正制御に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0011】
第1実施形態
モータ制御装置50は、モータ装置の回転駆動を制御するための装置である。以下では、モータ制御装置50が、車両用空調装置1に設けられた各モータ装置を制御する場合を例に説明する。ただし、モータ制御装置50が制御対象とするモータ装置は、車両用空調装置1に設けられた各モータ装置に限られない。車両に搭載されている他のモータ装置を制御対象としてもよい。モータ制御装置50は、例えばエンジン冷却水などの液体の流れを切り替える三方弁などの弁装置の開度を調整するためのモータ装置を制御対象としてもよい。あるいは、車両以外に搭載されているモータ装置を制御対象としてもよい。
【0012】
図1において、車両用空調装置1は、車両に搭載されている。車両は、例えばガソリン駆動のエンジンを搭載した自動車である。ただし、車両としては、走行用モータを搭載した電気自動車や、エンジンとモータの両方を搭載したハイブリッド自動車なども採用可能である。車両用空調装置1は、取り込まれた空気の温度を調整して車室内に吹き出す装置である。言い換えると、車両用空調装置1は、車室内の暖房運転や冷房運転や除湿運転などの空調運転を行う装置である。
【0013】
車両用空調装置1は、内部に空気が流れる空気経路が形成されている空調ケース10を備えている。空調ケース10は、空調運転に用いる各種装置を内部に収納している。空調ケース10には、内気導入口11nと外気導入口11gとの2つの空気の取り込み口が形成されている。空調ケース10には、車両のフロントウィンドウに空調風を吹き出すデフロスタ吹き出し口15が形成されている。空調ケース10には、前席の上部に空調風を吹き出すフェイス吹き出し口16が形成されている。空調ケース10には、前席の下部に空調風を吹き出すフット吹き出し口17が形成されている。
【0014】
車両用空調装置1は、送風機31と蒸発器32とヒータコア33とを備えている。送風機31は、空調ケース10内に空気を流すための装置である。蒸発器32は、内部に冷媒が流れており、冷媒が液体から気体に気化する際の気化熱を周囲の空気から奪うことで空気を冷却する熱交換器である。ヒータコア33は、内部に高温のエンジン冷却水が流れており、エンジン冷却水の熱を用いて周囲の空気を加熱する熱交換器である。ただし、ヒータコア33に代えて、電力を消費して空気を加熱する電気ヒータなどを用いてもよく、ヒータコア33と電気ヒータとの両方のヒータを併用してもよい。
【0015】
車両用空調装置1は、内気導入口11nと外気導入口11gとを開閉するための内外気切り替えドア21を備えている。内外気切り替えドア21は、内気導入口11nや外気導入口11gから空調ケース10内部に導入される空気の量を調整するドア装置である。ドア装置は、フラップ装置とも呼ばれる。ドア装置は、ダンパー装置とも呼ばれる。
【0016】
内外気切り替えドア21は、内気導入口11nを開いて外気導入口11gを閉じることで空調風を車内で循環させる内気モードを実現する。内外気切り替えドア21は、内気導入口11nを閉じて外気導入口11gを開くことで空調風を車外から取り込む外気モードを実現する。ただし、外気モードにおいて、内気導入口11nを完全に閉じなくてもよい。例えば、内気導入口11nをわずかに開いておくことで、外気よりも少ない割合で内気を取り込んで空気を循環させてもよい。
【0017】
車両用空調装置1は、空調風の温度を調整するためのエアミックスドア23を備えている。エアミックスドア23は、空調ケース10内部の空気の流れにおいて、蒸発器32よりも下流であって、ヒータコア33よりも上流に設けられている。エアミックスドア23の開度を制御することで、ヒータコア33を通過して加熱される空気の量を調整することができる。
【0018】
車両用空調装置1は、デフロスタ吹き出し口15を開閉するためのデフロスタドア25を備えている。デフロスタドア25は、デフロスタ吹き出し口15からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整するドア装置である。車両用空調装置1は、フェイス吹き出し口16を開閉するためのフェイスドア26を備えている。フェイスドア26は、フェイス吹き出し口16からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整するドア装置である。車両用空調装置1は、フット吹き出し口17を開閉するためのフットドア27を備えている。フットドア27は、フット吹き出し口17からの空調風の吹き出しの有無や吹き出し量を調整するドア装置である。
【0019】
車両用空調装置1は、吹き出し口モードとしてデフロスタモード、フェイスモード、フットモード、バイレベル(B/L)モード、フットデフロスタ(F/D)モードの5つのモードを備えている。ただし、吹き出し口モードの種類は上述の5つのモードに限られない。デフロスタドア25とフェイスドア26とフットドア27とは、車両用空調装置1におけるモードを切り替えるドア装置であり、モードドアとも呼ばれる。
【0020】
内外気切り替えドア21は、内気導入口11nが閉じている状態から外気導入口11gが閉じている状態までの範囲を回動可能である。内外気切り替えドア21の回動可能角度は、例えば、100°である。エアミックスドア23は、ヒータコア33を通過する空気の量が最小となる状態からヒータコア33を通過しない空気の量が最小となる状態までの範囲を回動可能である。エアミックスドア23の回動可能角度は、例えば、180°である。
【0021】
デフロスタドア25は、デフロスタ吹き出し口15が閉じている状態からデフロスタ吹き出し口15が完全に開いている状態までの範囲を回動可能である。デフロスタドア25の回動可能角度は、例えば、90°である。フェイスドア26は、フェイス吹き出し口16が閉じている状態からフェイス吹き出し口16が完全に開いている状態までの範囲を回動可能である。フェイスドア26の回動可能角度は、例えば、90°である。フットドア27は、フット吹き出し口17が閉じている状態からフット吹き出し口17が完全に開いている状態までの範囲を回動可能である。フットドア27の回動可能角度は、例えば、90°である。
【0022】
デフロスタドア25とフェイスドア26とフットドア27とのモードドアを1つの連続するドア装置で構成してもよい。例えば、円弧面状に形成されたドア板部を回動させて各吹き出し口を開閉するロータリドアを採用してもよい。この場合、1つのドア板部が、デフロスタドア25とフェイスドア26とフットドア27との3つのドア装置としての機能を備えることとなる。ロータリドアの回動可能角度は、例えば、330°である。
【0023】
内外気切り替えドア21とエアミックスドア23とデフロスタドア25とフェイスドア26とフットドア27とは、サーボモータによってドア板部の角度が調整されるドア装置である。ドア板部の角度によって、当該部分における空気の流量が変化するため、各ドア装置のドア板部の角度は、できるだけ高精度に位置を制御することが好ましい。
【0024】
図2において、モータシステム100は、モータ制御装置50とアクチュエータ70とを備えている。アクチュエータ70は、直流モータ71と減速部72と出力軸部75とポテンショメータ76とを備えている。直流モータ71は、モータ制御装置50の制御対象のサーボモータである。直流モータ71は、ステッピングモータよりもトルクを大きく得やすいモータである。
【0025】
直流モータ71は、界磁極として機能する永久磁石を有する固定子を備えている。直流モータ71は、界磁極の内周にエアギャップを有して回転子を備えている。直流モータ71は、回転子の同軸上に整流子を備えている。整流子は、コンミテータとも呼ばれる。直流モータ71は、整流子と接触して整流子に電流を流すためのブラシを備えている。直流モータ71は、回転駆動することで、ブラシと接触する整流子が絶えず切り換わるように構成されている。
【0026】
出力軸部75は、アクチュエータ70において駆動力を外部に出力する部分である。出力軸部75は、車両用空調装置1の内外気切り替えドア21などのドア装置に接続されることで、ドア装置を回転駆動する。減速部72は、直流モータ71の回転を減速させて出力軸部75に伝達させる部分である。減速部72により、アクチュエータ70として必要なトルクや回転数を調整できる。減速部72は、ウォームギヤを含む複数の歯車を備えている。
【0027】
ポテンショメータ76は、出力軸部75の回転位置を計測するための装置である。ポテンショメータ76は、回転位置に応じて抵抗値が変化する可変抵抗器である。ポテンショメータ76には、所定の電圧が印加されており、ポテンショメータ76の抵抗値の変化を電圧の変化として取得することができる。ポテンショメータ76を用いることで出力軸部75の回転位置が現在どの位置にあるかを計測することができる。ポテンショメータ76は、ポテンショセンサとも呼ばれる。ポテンショメータ76は、エンコーダなどの回転位置検出センサに比べて、低コストで回転位置を検出しやすい。
【0028】
ポテンショメータ76は、例えば、出力軸部75と同軸の回転軸に対して周方向に沿って連続して設けられた抵抗膜と、抵抗膜上を摺動する接続端子とを備えた構成である。ポテンショメータ76の抵抗膜に電圧を印加することで、抵抗膜において段階的に電圧降下が引き起こされる。これにより、接続端子が抵抗膜のどの位置と接触しているかをポテンショメータ76の電圧の大きさで検出することができる。言い換えると、ポテンショメータ76の電圧の大きさから接続端子の回転位置を取得することができる。理想的なポテンショメータ76における抵抗膜は、始端部から終端部までが一様な厚さで形成されている。しかしながら、実際のポテンショメータ76は、製造時のばらつきや経年劣化によって抵抗値が理想的な状態から大きく乖離している場合がある。特に、保証回数を超える回数の動作が実行された場合には、経年劣化が顕著に表れ、抵抗膜の一部分の抵抗値が増加するなどの抵抗値の変化が引き起こされやすい。
【0029】
モータ制御装置50は、電圧取得部51と駆動部52とを備えている。電圧取得部51は、直流電源5の出力電圧である電源電圧を取得する部分である。電圧取得部51は、電源電圧が適切な値であるか否かをモニタするために電圧を取得している。ここで、直流電源5は、例えば、12Vの補機電池である。ただし、電源電圧をモニタする必要がない場合には、電圧取得部51を省略してもよい。
【0030】
駆動部52は、直流モータ71を駆動する部分である。駆動部52は、直流電源5の電源電圧を直流モータ71に印加するタイミングを制御することで、直流モータ71が駆動している状態と直流モータ71が駆動していない状態とを切り替える。駆動部52は、後に説明する補正後の実位置情報に基づいて、直流モータ71の回転駆動を制御することとなる。駆動部52と直流モータ71とは、信号線で互いに接続されている。
【0031】
モータ制御装置50は、絶対位置取得部53を備えている。絶対位置取得部53は、ポテンショメータ76を用いた位置情報を取得する。ここで、ポテンショメータ76を用いて取得できる位置情報は、出力軸部75と連動しているポテンショメータ76がどの回転位置にあるかを示す絶対位置情報である。ただし、ポテンショメータ76には、部品としての許容公差が存在する。このため、理想的な値に対して実際の値には、ずれが生じている。例えば、可変抵抗器であるポテンショメータ76の抵抗膜のばらつきによって、電圧と回転位置との関係を示す特性マップが理想的な特性マップに対してずれることになる。したがって、出力軸部75のより正確な位置を把握するためには、ポテンショメータ76のばらつきを補正することが重要である。絶対位置取得部53とポテンショメータ76とは、信号線で互いに接続されている。
【0032】
モータ制御装置50は、相対位置取得部54とタイマ55とを備えている。相対位置取得部54は、駆動部52を介して直流モータ71に供給されている電流の変動を相対位置信号として検出する。より詳細には、直流モータ71の電流波形を相対位置信号として検出する。直流モータ71が回転駆動している間、電流が正弦波のように滑らかに増減することとなる。正弦波をなす電流波形の周期よりも十分短い検出周期で電流値を検出することで、検出を開始した位置からの直流モータ71の回転数を取得できる。例えば、正弦波の周期が2ミリ秒である場合に、検出周期を2ミリ秒よりも十分に短い100マイクロ秒に設定することで、電流波形を得ることができる。この場合、20個の電流値を検出することで1周期分の電流波形を検出することとなる。仮に、50個の電流値を検出した場合には、2.5周期分の電流波形を検出することとなる。
【0033】
電流波形の検出方法は、上述したように電流波形の周期に対して十分短い間隔で電流値を取得する方法に限られない。例えば、抵抗素子とコンデンサ素子とを用いた正弦波検出回路を用いて電流波形を検出してもよい。電流波形の検出方法によらず、検出された電流波形が何周期分であるかを判断することで、直流モータ71の回転数を取得することができる。
【0034】
直流モータ71の回転数は、出力軸部75の回転と連動している。このため、相対位置取得部54が相対位置信号である電流値を検出することで、出力軸部75の回転移動量を計測することができる。相対位置取得部54を用いて取得できる位置情報は、直流モータ71の回転と連動している出力軸部75が検出を開始した位置を基準にどれだけ回転したかを示す相対位置情報である。
【0035】
タイマ55は、相対位置取得部54が相対位置信号を検出した時間を計測する装置である。タイマ55を用いることで、相対位置取得部54による位置検出の開始からの経過時間をカウントすることができる。これにより、相対位置取得部54は、タイマ55で取得した時間の情報を用いて検出した相対位置信号毎に、どのタイミングで検出した相対位置信号であるかを対応させて紐づけている。タイマ55を複数備えてもよい。この場合、絶対位置取得部53で取得したポテンショメータ76の電圧が、どのタイミングで取得した電圧であるかを紐づける専用のタイマ55を備えてもよい。また、電圧取得部51で取得した直流電源5の電圧が、どのタイミングで取得した電圧であるかを紐づける専用のタイマ55を備えてもよい。
【0036】
モータ制御装置50は、実位置設定部56と実位置補正部57とを備えている。実位置設定部56は、相対位置情報または絶対位置情報に基づいて出力軸部75の実際の位置を示す情報である実位置情報を設定する。例えば、ポテンショメータ76を用いて取得した絶対位置情報を出力軸部75の実位置情報とみなして、絶対位置情報を実位置情報として設定する。ただし、相対位置取得部54で取得した相対位置情報を実位置情報として設定してもよい。
【0037】
実位置補正部57は、実位置設定部56で設定した実位置情報を補正する部分である。実位置補正部57は、絶対位置取得部53で取得した絶対位置情報と、相対位置取得部54で取得した相対位置情報との2つの位置情報から補正情報を生成する。より詳細には、絶対位置情報と相対位置情報との位置の差分を実位置情報に加えることで実位置情報を補正する。例えば、実位置設定部56で絶対位置情報を実位置情報に設定した場合は、相対位置情報と実位置情報である絶対位置情報との差分を実位置情報に加えて、実位置情報が相対位置情報に一致するように補正することができる。ただし、実位置情報の補正方法は、上述の例に限られない。
【0038】
モータ制御装置50は、記憶部58と異常判定部59とを備えている。記憶部58は、補正後の実位置情報などの情報を記憶する部分である。記憶部58は、過去に実施した実位置情報の補正に関する補正情報を記憶している。
【0039】
異常判定部59は、モータ制御装置50における異常の有無を判定する部分である。異常判定部59は、電圧取得部51に接続されており、直流電源5における異常の有無を判定している。異常判定部59は、相対位置取得部54に接続されており、相対位置信号における異常の有無を判定している。異常判定部59の機能は、上述の例に限られない。異常判定部59は、電圧取得部51や相対位置取得部54以外の部分と接続して、接続した部分における様々な異常の有無を判定可能である。
【0040】
モータ制御装置50によって実位置情報の補正を行うモードである補正モードについて以下に説明する。補正モードにおいては、出力軸部75を回転駆動させることになる。このため、補正モード中は、ドア装置が空調制御での要求とは異なる駆動をすることとなる。したがって、車両用空調装置1に空調要求がある状態であれば、補正モードを実施せず、車両用空調装置1に空調要求がない状態で補正モードを実施することが好ましい。
【0041】
図3において、補正モードを開始した場合、ステップS101で駆動部52が出力軸部75を補正開始位置に移動させる。補正開始位置としては、ポテンショメータ76の電圧が最小となる位置を設定可能である。例えば、ポテンショメータ76の電圧が0Vから5Vまで変動する場合には、0Vを示す位置を補正開始位置とする。補正開始位置は、ポテンショメータ76の電圧が最小となる位置に限られない。例えば、補正開始位置として出力軸部75の可動範囲における一端の位置である始端位置を設定してもよい。相対位置情報は、この補正開始位置を基準として出力軸部75の相対的な移動の大きさから出力軸部75がどの位置にあるかを取得する。出力軸部75を補正開始位置に移動させた後、ステップS102に進む。
【0042】
ステップS102では、駆動部52が出力軸部75を補正終了位置に向けて移動開始させる。補正終了位置としては、ポテンショメータ76の電圧が最大となる位置を設定可能である。例えば、ポテンショメータ76の電圧が0Vから5Vまで変動する場合には、5Vを示す位置を補正終了位置とする。補正終了位置は、ポテンショメータ76の電圧が最大となる位置に限られない。例えば、補正終了位置として出力軸部75の可動範囲における他端の位置である終端位置を設定してもよい。終端位置は、出力軸部75の可動範囲における始端位置とは反対側の位置である。
【0043】
モータシステム100を内外気切り替えドア21に用いる場合には、例えば、内気モードの際のドア位置を補正開始位置とし、外気モードの際のドア位置を補正終了位置とすることができる。モータシステム100をエアミックスドア23の駆動に用いる場合には、例えば、ヒータコア33を通過する流路を覆う位置を補正開始位置とし、ヒータコア33を通過しない流路を覆う位置を補正終了位置とすることができる。
【0044】
モータシステム100をデフロスタドア25に用いる場合には、例えば、デフロスタ吹き出し口15を全開にする位置を補正開始位置とし、デフロスタ吹き出し口15を全閉にする位置を補正終了位置とすることができる。デフロスタ吹き出し口15を全開にする位置において、デフロスタドア25を空調ケース10に接触させて突き当て位置に突き当てることで、補正開始位置を正確に位置決めしやすい。デフロスタ吹き出し口15を全閉にする位置において、デフロスタドア25を空調ケース10に接触させて突き当てることで、補正終了位置を正確に位置決めしやすい。ただし、突き当ての際にはドア装置に大きな負荷が生じることがある。このため、補正開始位置までは低速で移動させて突き当て時の負荷を軽減し、補正終了位置については突き当てない位置に設定するなどしてもよい。あるいは、補正開始位置と補正終了位置との両方ともデフロスタドア25を空調ケース10に突き当てない位置に設定してもよい。
【0045】
モータシステム100をフェイスドア26に用いる場合においても、モータシステム100をデフロスタドア25に用いる場合と同様に補正開始位置や補正終了位置を設定できる。モータシステム100をフットドア27に用いる場合においても、モータシステム100をデフロスタドア25に用いる場合と同様に補正開始位置や補正終了位置を設定できる。
【0046】
出力軸部75を補正開始位置から補正終了位置まで移動させる際には、直流モータ71の回転速度を一定とする。言い換えると、駆動部52は、出力軸部75が一定の速度で回転するように直流モータ71を駆動する。出力軸部75を補正終了位置に向けて移動開始させた後、ステップS111に進む。
【0047】
ステップS111では、相対位置取得部54が対位置信号を検出したか否かを判定する。例えば、直流モータ71の回転駆動における電流波形を検出する場合、全体で電流波形をなす1つ1つの電流値が相対位置信号である。
【0048】
相対位置信号を検出した際には、タイマ55を用いてその相対位置信号を検出した時間を取得する。これにより、相対位置信号をいつ取得したかを把握できる状態とする。相対位置信号を検出した場合には、ステップS112に進む。一方、相対位置信号を検出していない場合には、ステップS121に進む。
【0049】
ステップS112では、相対位置信号を検出した瞬間における相対位置情報を相対位置取得部54が取得する。相対位置取得部54は、検出した相対位置信号に基づき基準となる補正開始位置からの出力軸部75の回転位置を算出することで、相対位置情報を取得する。この時、相対位置情報は、いつの時点で出力軸部75がどの相対位置にあるかを示す情報として機能する。相対位置情報を取得した後、ステップS113に進む。
【0050】
ステップS113では、相対位置信号を検出した瞬間における絶対位置情報を絶対位置取得部53が取得する。言い換えると、相対位置情報を取得したタイミングでの絶対位置情報を取得する。絶対位置取得部53は、検出したポテンショメータ76の電圧と記憶部58に記憶している特性マップから絶対位置を取得する。特性マップとは、ポテンショメータ76の電圧と出力軸部75の回転位置との関係を示すマップである。初期状態の特性マップである初期マップは、ポテンショメータ76の仕様によって決まる。ただし、初期マップにおいては、ポテンショメータ76の製造時のばらつきなどに起因する所定の公差が設定されており、出力軸部75の回転位置を精度よく取得することが困難である。絶対位置情報を取得した後、ステップS114に進む。
【0051】
ステップS114では、実位置設定部56が実位置情報を設定する。実位置情報の設定では、絶対位置情報と相対位置情報とのどちらか一方の位置情報を実位置情報とみなす。実位置情報を設定した後、ステップS115に進む。
【0052】
ステップS115では、実位置補正部57が実位置情報を補正する。実位置情報の補正では、絶対位置情報と相対位置情報とのうち、少なくとも1つの位置情報を用いて実位置情報を補正する。実位置情報に絶対位置情報を設定した場合には、少なくとも相対位置情報を用いて実位置情報を補正することとなる。一方、実位置情報に相対位置情報を設定した場合には、少なくとも絶対位置情報を用いて実位置情報を補正することとなる。
【0053】
以下では、実位置情報に絶対位置情報を設定し、相対位置情報を用いて実位置情報を補正する場合を例に、実位置情報の補正方法について説明する。
図4は、補正途中においてポテンショメータ76における回転位置Tpと電圧Vpとの関係を示す図である。ポテンショメータ76における回転位置は、出力軸部75における回転位置に相当する。図において、横軸は、回転位置を示し、縦軸は、電圧を示している。図において、抵抗値のばらつきを考慮していない初期状態の特性マップである初期マップを一点鎖線で示している。初期マップは、理想状態のポテンショメータ76における特性マップである。図において初期マップをMiと示している。
【0054】
相対位置情報に基づき、回転位置がT1に到達したタイミングにおけるポテンショメータ76の電圧V1をプロットする。初期マップに基づいた場合、回転位置がT1の時の電圧は、V1よりも低い電圧のVs1である。プロットした点と初期マップとのずれが補正情報に相当する。言い換えると、V1とVs1との差分がT1の回転位置における補正情報に相当する。実位置情報を補正した後、ステップS116に進む。
【0055】
図3のステップS116では、補正後の実位置情報を記憶部58が記憶する。ただし、補正後の実位置情報を記憶するのではなく、初期マップに対するずれを示す補正情報を記憶することで、実質的に補正後の実位置情報を記録するようにしてもよい。補正後の実位置情報を記憶部58に記憶した後、ステップS121に進む。
【0056】
ステップS121では、出力軸部75が補正終了位置に到達したか否かをモータ制御装置50が判定する。出力軸部75が補正終了位置に到達していれば、ステップS122に進む。一方、出力軸部75が補正終了位置に到達していなければ、ステップS111に戻る。これにより、出力軸部75が補正開始位置から補正終了位置に到達するまでの間、相対位置信号の検出とそれに伴う実位置情報の補正を繰り返す。
【0057】
ステップS122では、異常判定部59が相対位置信号の妥当性を検証する。より詳細には、相対位置信号が正常であるか否かを判定して、実位置情報の補正が正常な相対位置信号に基づいて行われているかを検証する。相対位置信号が正常である場合には、そのタイミングにおける補正後の実位置情報は適切であると判断して補正に反映する。一方、相対位置信号に異常がある場合には、そのタイミングにおける補正後の実位置情報は不適切であると判断して補正に反映しない。
【0058】
異常判定部59による異常判定の一例を以下に説明する。異常判定部59は、相対位置信号を取得してから次の相対位置信号を取得するまでのタイミングが所定時間よりも短い場合に異常があると判定する。例えば、正常であれば約100マイクロ秒の間隔で相対位置信号が取得できると想定される場合において、所定時間を50マイクロ秒に設定する。この場合、直前の相対位置信号を取得してから次に相対位置信号を取得するまでに要した時間が、所定時間である50マイクロ秒未満であるときには、取得した相対位置信号は異常な信号であると判断する。
【0059】
また、異常判定部59は、相対位置信号を取得してから次の相対位置信号を取得するまでのタイミングが長い場合であっても、間に本来取得すべき相対位置信号が存在していると判断できる場合は、相対位置信号自体には異常がないと判定する。例えば、正常であれば約100マイクロ秒の間隔で相対位置信号が取得できる場合を想定する。この場合、810マイクロ秒で取得した相対位置信号の次に1005マイクロ秒で相対位置信号を取得した場合には、900マイクロ秒付近で取得すべき相対位置信号が取得できなかったと判断できる。この場合、1005マイクロ秒で取得した相対位置信号は、前回取得した810マイクロ秒で取得した相対位置信号の相対位置から2つ分の相対位置信号だけ進んだ相対位置であると判断する。
【0060】
異常判定部59による異常判定の他の一例を以下に説明する。異常判定部59は、電圧取得部51で取得した電源電圧の変動量が閾値以上である場合に異常があると判定する。例えば、正常であれば直流電源5が12Vの電圧を安定して出力する場合において、電圧の変動量の閾値を2Vに設定する。この場合、直流電源5の電圧変動が2Vを超えているタイミングで取得した相対位置信号は異常な信号であると判断する。補正後の実位置情報を選定した後、ステップS123に進む。
【0061】
ステップS123では、記憶部58が適切な補正情報を記憶する。言い換えると、異常判定部59で正常と判断された妥当な補正情報について、1つ1つの補正情報を統合して、1つの補正情報として記憶する。より詳細には、補正後の特性マップである補正後マップを記憶部58に記憶する。ステップS122において、相対位置信号に異常があると判定された場合には、該当する相対位置信号を補正に使用しない。このため、補正後マップにおいて、プロット点が一部抜けることがある。補正後マップのプロット点に一部抜けがある場合であっても、正常なプロット点に基づいて補正後マップを作成可能である。ただし、異常があると判定された相対位置信号が多いなど、プロット点の数が少ない場合には、精度の低い補正後マップが作成されてしまう可能性がある。この場合には、補正後マップを作成せずに、補正モードを最初からやり直してもよい。
【0062】
図5は、補正完了後においてポテンショメータ76における回転位置Tpと電圧Vpとの関係を示す図である。図において、抵抗値のばらつきなどを考慮した補正後の特性マップである補正後マップの一例を実線で示している。補正後マップは、実際のポテンショメータ76における特性を示すマップである。図において、補正後マップをMcと示している。
【0063】
補正開始位置から補正終了位置までをT1からT10までの10段階に分割している。相対位置情報に基づき、回転位置がT1からT10のそれぞれの位置に到達した時間におけるポテンショメータ76の電圧をそれぞれプロットしている。ただし、本来であればT5に相当する回転位置については、正常な相対位置信号が取得できなかったと判断してプロットに反映していない状態である。回転位置とポテンショメータ76の電圧とがともにゼロであるゼロ点と複数のプロット点を通るように補正後マップの線を滑らかに引いている。ただし、補正後マップの線の引き方は、様々な近似方法から適切な方法を適宜採用可能である。
【0064】
初期マップにおいては、傾きが一定の直線をなしている。一方、補正後マップにおいては、回転位置によって傾きが若干異なっている。また、T1においては、補正後マップにおける電圧V1が初期マップにおける電圧Vs1よりも大きい。言い換えると、仮に初期マップに基づいて直流モータ71の回転をT1に制御した場合には、T1よりも小さい回転位置に制御されることとなる。一方、T8においては、補正後マップにおける電圧V8が初期マップにおける電圧Vs8の値よりも小さい。言い換えると、仮に初期マップに基づいて直流モータ71の回転をT8に制御した場合には、T8よりも大きい回転位置に制御されることとなる。
【0065】
初期マップは、補正前の実位置情報を示している。言い換えると、初期マップは、絶対位置情報を示している。補正後マップは、補正後の実位置情報を示している。初期マップと補正後マップとの差は、補正情報を示している。初期マップの代わりに補正後マップを用いて絶対値情報を取得して実位置情報を設定することは、絶対位置情報を取得して相対位置情報で補正することに相当する。
【0066】
補正後マップにおいて、回転位置をT1からT10までの10段階に分割して対応するポテンショメータ76の電圧をプロットする場合を例に説明を行ったが、分割する数は10段階に限られない。例えば、相対位置信号を検出する毎に、回転位置とポテンショメータ76の電圧との関係を全てプロットしてプロット点の数を1万以上としてもよい。相対位置信号が電流波形の電流値である場合、相対位置信号を検出してから次に相対位置信号を検出するまでの時間は、直流モータ71を回転させる速度などに依存するが、例えば100マイクロ秒である。信号の検出間隔が100マイクロ秒であり、補正開始位置から補正終了位置までの移動に5秒を要する場合には、プロット点の数が5万となる。
【0067】
回転位置に対するポテンショメータ76の電圧を細かく取得してプロット点の数を多く確保することで、より正確な補正を行うことができる。一方、プロット点の数が少ないほど、マップの作成に要する時間を短くできる。例えば、電流波形をなす電流値を2回検出する毎に相対位置信号を検出したとみなし、回転位置に対するポテンショメータ76の電圧をプロットするように設定してもよい。これによると、相対位置信号を検出する毎にプロットする場合に比べて、プロット点の数を半分にできる。このため、補正に要する時間を短くしやすい。プロット点の数は、必要な補正の精度と所要時間に応じて、適宜設定することが好ましい。
【0068】
ステップS111で相対位置信号を検出してからステップS116で補正後の実位置情報を記憶するまでの工程は、モータ制御装置50のマイコンを用いて実施される。このため、マイコンの処理性能が高いことが好ましい。より詳細には、スキャンチャンネルを設定して複数のチャンネルを変換できるマイコンが好ましい。また、記憶部58に情報を記憶する際にDMA(Direct Memory Access)によって高速に記憶可能なマイコンが好ましい。また、外部割り込みAD変換が可能であり、外部割り込み自体にノイズフィルタ機能が搭載されているロバスト性の高いマイコンが好ましい。特に、出力軸部75を補正開始位置から補正終了位置まで数秒で移動させ、かつ、プロット点数が数万点におよぶ場合には、短時間に膨大な情報の処理が必要になる。したがって、マイコンの性能が高く、極めて小さなタイムラグで処理を実行できることが精度よく実位置情報の補正を行うために重要である。
【0069】
記憶部58には、初期マップと補正後マップとの2つの特性マップが同時に記憶されている。ここで、異常判定部59によって、補正後マップが初期マップの許容公差の範囲内に含まれているか否かを判定してもよい。補正後マップ全体が初期マップの許容公差の範囲内に含まれていれば、補正後マップとポテンショメータ76には異常がないと判断する。一方、補正後マップの一部でも初期マップの許容公差の範囲内に含まれていなければ、補正後マップとポテンショメータ76との少なくともどちらかに異常があると判断する。異常があると判断した場合、ポテンショメータ76は正常であるが補正モードに異常があり、誤った補正後マップが得られた可能性がある。この場合には、補正モードを再度実施することで適切な補正後マップが得られる場合がある。補正後マップが初期マップの許容公差の範囲内に含まれていない場合には、ユーザなどに対して補正モードを再度実施することや、ポテンショメータ76の交換を促す報知を行うことが好ましい。
【0070】
記憶部58において、過去に実施した補正モードで得られた補正後マップがすでに記憶されている場合には、過去の補正後マップと最新の補正後マップとの両方を記憶してもよい。これによると、過去の補正後マップと最新の補正後マップとを比較して、ポテンショメータ76の経年劣化の進行度合いを推測することができる。適切な補正情報として補正後マップを記憶部58に記憶した後、補正モードを終了する。
【0071】
記憶部58に補正後マップが記憶されている場合、モータシステム100を駆動する際に絶対位置取得部53が補正後マップに基づいて出力軸部75の絶対位置情報を取得できる。ここで、補正後マップを用いて取得した絶対位置情報は、ポテンショメータ76のばらつきなどを考慮した位置情報であり、初期マップを用いて取得した絶対位置情報よりも出力軸部75の実際の回転位置を正確に取得しやすい。このため、相対位置取得部54による相対位置情報の取得などの相対位置情報を用いる制御をあらためて行うことなく、出力軸部75の回転位置を精度よく得ることができる。
【0072】
モータシステム100を駆動する際には、出力軸部75の実際の回転位置を検出しながら、目標の回転位置に近づくように直流モータ71を制御することとなる。補正後マップを用いることができる場合には、補正後マップを用いて出力軸部75の実際の回転位置を検出することとなる。モータシステム100の駆動方法は、補正後マップを用いる方法に限られない。補正後マップを用いることができない場合には、相対位置情報のみを用いて出力軸部75の回転位置を検出することができる。この場合、相対位置情報のみを用いた位置検出を開始する時の回転位置を正確に把握することで、補正後マップを用いる方法と同程度の精度で回転位置を検出することができる。
【0073】
ポテンショメータ76には、検出領域が設定されている。検出領域とは、連続する抵抗膜が設けられている領域のことである。ポテンショメータ76は、検出領域内において、回転位置Tpに応じた電圧Vpを検出可能である。ポテンショメータ76において、抵抗膜の端部に接続している導線などが設けられている領域には、抵抗膜を配することができない。このため、360°連続して環状に抵抗膜を配することができず、例えば300°連続して抵抗膜が設けられ、残りの60°は抵抗膜が設けられていない構成となる。この抵抗膜が設けられている300°相当の領域が検出領域である。一方、抵抗膜が設けられていない60°相当の領域が非検出領域である。
【0074】
ポテンショメータ76は、検出領域を出力軸部75の可動範囲に広く対応させるほど、出力軸部75の回転位置の変化を細かく検出しやすい。例えば、ポテンショメータ76の検出領域が300°、ポテンショメータ76の電圧変動が0Vから5Vの場合を想定する。可動範囲が300°の出力軸部75にポテンショメータ76の検出領域全体を対応させた場合には、0.1Vの電圧変動が、出力軸部75の6°相当の回転に相当する。可動範囲が150°の出力軸部75にポテンショメータ76の検出領域全体を対応させた場合には、0.1Vの電圧変動が、出力軸部75の3°相当の回転に相当する。
【0075】
補正後マップを用いて直流モータ71の回転駆動を制御する場合、ポテンショメータ76の検出領域を外れてしまうと、回転位置を検出できなくなる。例えば、ドア装置の回動可能角度が330°であり、ポテンショメータ76の検出領域が300°である場合を想定する。ドア装置の回動可能角度をポテンショメータ76の検出領域にそのまま対応させようとすると30°相当の領域において、ポテンショメータ76で回転位置を検出できないこととなる。このように、ドア装置に連動する出力軸部75の回転位置がポテンショメータ76の検出領域よりも外側に位置している場合には、相対位置情報のみに基づいて回転位置を検出する。言い換えると、相対位置情報を実位置情報に設定し、絶対位置情報による補正を行わない。これにより、補正後マップを用いた直流モータ71の駆動制御ができない状況においても、相対位置情報を用いて直流モータ71の駆動制御を継続できる。
【0076】
補正後マップを用いて直流モータ71を駆動制御する場合、ポテンショメータ76の電圧を取得する度に、補正後の実位置情報が更新される。このため、更新された補正後の実位置情報に基づいて、出力軸部75が目標の回転位置に近づくように直流モータ71が駆動制御されることとなる。したがって、ポテンショメータ76の電圧を取得してから次に電圧を取得するまでの間に、出力軸部75が目標の回転位置を超えてしまう場合がある。ポテンショメータ76の電圧取得間隔が長いほど、上述のハンチングが引き起こされやすい。電圧取得間隔は、例えば20ミリ秒である。また、目標の回転位置までに必要な回転移動量が小さいほど、上述のハンチングが引き起こされやすい。また、ドア装置の移動が速いほど、上述のハンチングが引き起こされやすい。
【0077】
相対位置情報を用いて直流モータ71を駆動制御する場合、電流波形の検出周期が経過する度に、電流波形が更新される。このため、更新された電流波形に基づいて、出力軸部75が目標の回転位置に近づくように直流モータ71が駆動制御されることとなる。電流波形の検出周期は、少なくともポテンショメータ76の電圧取得間隔よりも短い。電流波形の検出周期は、例えば100マイクロ秒である。このため、相対位置情報を用いた直流モータ71の駆動制御は、補正後マップを用いた直流モータ71の駆動制御よりも、ハンチングが引き起こされにくい。
【0078】
目標の回転位置までの回転移動量が所定移動量以上の場合には、補正後マップを用いて直流モータ71を駆動制御することが好ましい。これによると、シンプルな制御で出力軸部75の位置を目標の回転位置に近づけることができる。一方、目標の回転位置までの回転移動量が所定移動量未満の場合には、補正後マップを用いた直流モータ71の駆動制御を行わず、相対位置情報を用いて直流モータ71の駆動制御を行う。これによると、ハンチングが引き起こされやすい状況で、ハンチングが引き起こされにくい制御方法を採用することで、ハンチングを抑制できる。
【0079】
上述した実施形態によると、実位置設定部56は、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて、出力軸部75の実位置情報を設定している。さらに、実位置補正部57は、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報のうち、少なくとも1つの位置情報に基づいて実位置情報を補正している。このため、絶対位置情報と相対位置情報との2つの位置情報を用いて出力軸部75の回転位置を得ることができる。したがって、絶対位置情報と相対位置情報とのどちらか一方の位置情報のみを用いて出力軸部75の回転位置を得る場合に比べて、精度よく出力軸部75の回転位置を得ることができる。よって、高精度に位置制御可能なモータ制御装置50を提供できる。
【0080】
実位置設定部56は、絶対位置情報を用いて実位置情報を設定し、実位置補正部57は、相対位置情報を用いて実位置情報を補正する。ここで、絶対位置情報は、ポテンショメータ76の製造ばらつきや経年劣化などの影響を受けている。このため、出力軸部75の回転位置を精度よく得ることが困難である。ただし、絶対位置情報は、ポテンショメータ76の電圧から容易に得ることができる。一方、相対位置情報は、直流モータ71の回転数から出力軸部75の回転位置を精度よく得やすい。ただし、相対位置情報は、基準となる位置に位置合わせしてから、相対位置信号の検出を開始する必要がある。したがって、取得の容易な絶対位置情報を、精度の高い相対位置情報に基づいて補正することで、出力軸部75の回転位置を精度よく取得可能となる。
【0081】
実位置補正部57は、絶対位置情報と相対位置情報との差分を実位置情報に加えることで実位置情報を補正する。これにより、実位置情報を相対位置情報に一致させるように補正することができる。したがって、精度よく出力軸部75の回転位置を得やすい相対位置情報に一致させるように実位置情報を補正して、出力軸部75の回転位置を正確に取得しやすい。
【0082】
記憶部58は、ポテンショメータ76の電圧と補正後の実位置情報との関係を示す補正後マップを記憶する。このため、補正モード以外のモードで直流モータ71を駆動する際に、記憶部58に記憶した補正後マップを用いて直流モータ71を制御できる。したがって、ポテンショメータ76の製造ばらつきなどの影響により許容公差の大きな初期マップを用いる場合に比べて、出力軸部75の回転位置を精度よく得やすい。また、補正後マップを用いて直流モータ71を駆動することで、相対位置信号を取得して相対位置情報を取得しなくても、補正の加味された位置情報を得ることができる。
【0083】
記憶部58は、初期マップと補正後マップとを記憶している。このため、初期マップと補正後マップとを比較できる。これにより、例えば、補正後マップが初期マップの許容公差範囲から外れている場合に、ポテンショメータ76が故障している可能性があると判断できる。あるいは、補正後マップが初期マップの許容公差範囲から外れている場合に、補正モードが適切に実施されず、誤った補正後マップが得られている可能性があると判断できる。
【0084】
実位置補正部57は、相対位置信号に異常があると判定された場合に、補正後の実位置情報を補正に反映しない。言い換えると、実位置補正部57は、異常判定部59で異常があると判定された場合に、異常の発生しているタイミングにおける絶対位置情報または相対位置情報を用いた実位置情報の補正を行わない。このため、異常値を用いて実位置情報に対して誤った補正をしてしまうことを抑制できる。したがって、補正の精度を高く保ちやすい。
【0085】
実位置補正部57は、異常判定部59で異常があると判定された場合に、タイマ55を用いて取得した異常の発生しているタイミングにおける絶対位置情報または相対位置情報を用いた実位置情報の補正を行わない。このため、絶対位置情報や相対位置情報を取得した時間と、異常の発生した時間を後から照会できる。言い換えると、絶対位置情報や相対位置情報の取得と同時に、異常の有無を判定しなくてもよい。したがって、相対位置信号を検出すると同時に検出した相対位置信号の妥当性を検証する場合に比べて、モータ制御装置50が行う処理を時間的に分散させやすい。
【0086】
異常判定部59は、電圧取得部51で取得している電圧の変動量が閾値以上である場合には、そのタイミングにおける相対位置情報には異常があると判定する。このため、相対位置取得部54が、直流電源5の電圧の変動による電流変動を、電流波形の変動であると誤検出した場合でも、誤検出した信号を補正に用いることがない。したがって、異常値を用いて実位置情報に対して誤った補正をしてしまうことを抑制できる。
【0087】
出力軸部75は、可動範囲の一端が機構的に突き当てられている突き当て位置に設定されている。さらに、実位置補正部57は、例えば、突き当て位置における相対位置情報を用いて突き当て位置における絶対位置情報を補正することで実位置情報を補正している。ここで、突き当て位置は、ドア装置を全閉した状態に相当し得る位置であり、機構的に決まる位置であるため、正確な位置情報を取得しやすい。したがって、相対位置情報などの誤差を含み得る位置情報を、出力軸部75の突き当て位置に対応づけることができる。特に、突き当て位置を補正開始位置とすることで、出力軸部75の正確な位置を基準に補正を進めることができる。このため、実位置情報の補正精度を高めやすい。
【0088】
相対位置取得部54は、少なくともドア装置が空調ケース10に突き当てられている位置を含む複数の位置において出力軸部75の相対位置情報を取得する。このため、突き当てられている位置を相対位置情報に含めることができる。したがって、出力軸部75の正確な位置情報と相対位置情報とを対応づけることができる。特に、突き当てられている位置を補正開始位置とすることで、出力軸部75の正確な位置を基準に相対位置情報を取得することができる。このため、実位置情報の補正精度を高めやすい。
【0089】
実位置設定部56は、出力軸部75の回転位置がポテンショメータ76の検出領域よりも外側に位置している場合に、相対位置情報を用いて実位置情報を設定し、絶対位置情報を用いた補正を行わない。このため、ポテンショメータ76を用いて適切な絶対位置情報を検出できない場合であっても、相対位置情報を用いて出力軸部75を回転移動させることができる。また、出力軸部75の可動範囲がポテンショメータ76の検出領域よりも外側に位置しない構成に比べて、回転位置のより細かな変化を電圧変化として検出可能である。よって、出力軸部75の可動範囲のうち、細かな位置検出が必要となる範囲のみを抜き出してポテンショメータ76の検出領域全体に対応させるなどして、部分的に位置検出の精度を高めることができる。言い換えると、補正後マップを用いた制御方法と、相対位置情報のみを用いた制御方法との異なる制御方法を使い分けて、直流モータ71を制御することができる。
【0090】
実位置設定部56は、出力軸部75の回転移動量が所定移動量未満である場合に、相対位置情報を用いて実位置情報を設定し、絶対位置情報を用いた補正を行わない。このため、ハンチングが引き起こされやすい状況では、ハンチングが引き起こされにくい制御方法で直流モータ71を制御することができる。したがって、ハンチングが引き起こされることを抑制しやすい。
【0091】
補正モードの制御において、ステップS113では、相対位置信号を検出した瞬間の絶対位置情報のみを取得しなくてもよい。例えば、常に絶対位置情報を取得し続けてもよい。この場合、タイマ55を用いてどのタイミングでポテンショメータ76の電圧がいくつであるかを紐づけておくことになる。これにより、相対位置信号を検出した瞬間における絶対位置情報を後から照会して実位置情報をまとめて補正できる。言い換えると、ステップS114からステップS116までの工程をステップS121で出力軸部75が補正終了位置に到達した後でまとめて実行できる。
【0092】
補正モードの制御において、ステップS122を省略してもよい。この場合、得られた補正後の実位置情報は、全て適切な補正情報として扱われ、補正後マップとして記憶部58に記憶されることとなる。
【0093】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、駆動部52が複数のアクチュエータ装置を有するアクチュエータ270を駆動している。
【0094】
図6において、アクチュエータ270は、第1アクチュエータ270aと第2アクチュエータ270bと第3アクチュエータ270cと第4アクチュエータ270dとを備えている。アクチュエータ270を構成するアクチュエータ装置は、それぞれが異なるドア装置を駆動している。例えば、第1アクチュエータ270aは、内外気切り替えドア21を駆動している。例えば、第2アクチュエータ270bは、エアミックスドア23を駆動している。例えば、第3アクチュエータ270cは、デフロスタドア25を駆動している。例えば、第4アクチュエータ270dは、フェイスドア26を駆動している。
【0095】
アクチュエータ270を構成しているアクチュエータ装置の数は、4つに限られない。アクチュエータ270が4つよりも少ないアクチュエータ装置で構成されてもよい。あるいは、アクチュエータ270が4つよりも多いアクチュエータ装置で構成されていてもよい。
【0096】
駆動部52は、4つのアクチュエータ装置を有するアクチュエータ270を駆動可能な4チャンネル入りのドライバである。アクチュエータ270を構成している各アクチュエータ装置と駆動部52とは、それぞれ信号線で接続されている。アクチュエータ270を構成している各アクチュエータ装置と絶対位置取得部53とは、それぞれ信号線で接続されている。ただし、信号処理などに問題がなければ、無線通信でモータ制御装置50とアクチュエータ270とを接続して信号のやり取りを行ってもよい。
【0097】
補正モードを実施する場合には、補正対象とする1つのアクチュエータ装置のみを駆動し、補正対象としない残りのアクチュエータ装置の駆動を停止する。例えば、第1アクチュエータ270aを補正対象とする場合、第2アクチュエータ270bと第3アクチュエータ270cと第4アクチュエータ270dとは、駆動を停止した状態とする。この状態で、第1アクチュエータ270aを補正開始位置から補正終了位置まで移動させながら補正モードの制御を実施する。これにより、異なるアクチュエータ装置の電流変動が重畳してしまい、相対位置信号を正しく検出できないといった事態を抑制しやすい。
【0098】
第1アクチュエータ270aを対象とする補正モードによって取得した補正後マップである第1補正後マップは、第1アクチュエータ270a専用の補正後マップである。このため、第1アクチュエータ270a以外のアクチュエータ装置の駆動には使用しない。
【0099】
第1アクチュエータ270aの補正モードが終了した後、第2アクチュエータ270bを対象とする補正モードを実施する。この時、第1アクチュエータ270aと第3アクチュエータ270cと第4アクチュエータ270dとは、駆動を停止した状態とする。この状態で、第2アクチュエータ270bを補正開始位置から補正終了位置まで移動させながら補正モードの制御を実施する。これにより第2アクチュエータ270b専用の補正後マップである第2補正後マップを取得する。
【0100】
同様にして、第3アクチュエータ270c専用の補正後マップである第3補正後マップを取得する。さらに、第4アクチュエータ270d専用の補正後マップである第4補正後マップを取得する。これにより、アクチュエータ270を構成する各アクチュエータ装置について、専用の補正後マップが取得できる。補正モード以外のモードでアクチュエータ270を駆動する場合には、それぞれのアクチュエータ装置について、専用の補正後マップを用いて絶対位置情報を取得しながら駆動することができる。これにより、モータ制御装置50は、各アクチュエータ装置について、補正を加味した絶対位置情報を容易に取得して各直流モータ71を制御することができる。
【0101】
アクチュエータ270を構成する全てのアクチュエータ装置について補正モードを実施しなくてもよい。例えば、特に細かな回転位置制御が求められるドア装置を駆動するためのアクチュエータ装置に限定して補正モードを実行してもよい。
【0102】
上述した実施形態によると、駆動部52は、補正対象である1つのアクチュエータ装置を駆動している間、残りのアクチュエータ装置の駆動を停止している。言い換えると、駆動部52は、相対位置取得部54が1つの直流モータ71における相対位置情報を取得している間、残りの直流モータ71の駆動を停止している。このため、複数のアクチュエータ装置が同時に駆動されてしまうことを防止できる。したがって、複数のアクチュエータ装置の電流波形が重畳してしまい、相対位置信号を適切に取得できないといった事態を抑制できる。よって、補正モードによる補正の精度を安定して高めやすい。また、全てのアクチュエータ装置について補正を同時に行う場合に比べて、マイコンに加えられる負荷を分散することができる。
【0103】
駆動部52は、第1アクチュエータ270aと第2アクチュエータ270bと第3アクチュエータ270cと第4アクチュエータ270dとを駆動可能である。このため、1つの駆動部52で複数のアクチュエータ装置を駆動できる。したがって、複数のアクチュエータ装置毎に別の駆動部52を備える構成に比べて、モータシステム100を小型化しやすい。また、駆動部52での電流変動を検出する相対位置取得部54についても、複数のアクチュエータ装置毎に別の相対位置取得部54を設ける必要がない。このため、モータシステム100を小型で低コストに構成しやすい。
【0104】
第3実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、補正要求の有無を判定している。また、相対位置信号の妥当性を検証することなく補正情報を記憶している。
【0105】
図7において、直流モータ71の補正に関する制御を開始した場合に、ステップS300で補正要求があるか否かをモータ制御装置50が判定する。補正要求がある場合には、ステップS101に進み、上述の一連の補正に関する制御を行う。一方、補正要求がない場合には、直流モータ71の補正に関する制御を終了する。
【0106】
例えば、モータシステム100を初めて駆動する場合には、補正要求のある状態となる。また、前回の補正から所定期間経過している場合に補正要求のある状態となる。ここで、所定期間とは、例えば半年である。補正要求の切り替えは、予め設定されている場合に限られない。例えば、車両用空調装置1の製造過程における検査工程において、検査の作業者が補正要求のある状態に切り替えてもよい。あるいは、車両用空調装置1が自動車に搭載された状態において、ユーザが補正要求のある状態に切り替えてもよい。
【0107】
ステップS121で出力軸部75が補正終了位置に到達したと判定した場合には、ステップS323に進む。ステップS323では、記憶部58が補正情報を記憶する。この時、相対位置信号の妥当性については検証せずに補正情報を記憶する。言い換えると、検出した全ての相対位置信号が適切な信号であるとみなして補正情報を記憶することとなる。
【0108】
上述した実施形態によると、補正要求があるか否かを判定している。このため、補正要求の有無にかかわらず、常に補正に関する制御を実行する場合に比べて、直流モータ71が通常駆動に移行するまでの時間を短くできる。
【0109】
相対位置信号の妥当性を検証することなく補正情報を記憶している。このため、相対位置信号の妥当性を検証して補正を行う場合に比べて、素早く補正を完了させることができる。
【0110】
第4実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、電源電圧の変動量が閾値未満であるか否かを判定して補正に反映している。
【0111】
図8において、ステップS111で相対位置信号を検出した場合に、ステップS112で相対位置情報を取得し、ステップS113で絶対位置情報を取得するとともに、ステップS410で電圧取得部51が電源電圧を取得する。言い換えると、ステップS111で相対位置信号を検出したタイミングでの電源電圧を取得する。電源電圧を取得した後、ステップS114で実位置情報を設定し、ステップS115で実位置情報を補正する。ステップS115で実位置情報を補正した後、ステップS416に進む。
【0112】
ステップS416では、記憶部58が補正後の実位置情報と電源電圧とを記憶する。この時、同じタイミングにおける補正後の実位置情報と電源電圧とが記憶されることとなる。補正後の実位置情報と電源電圧とを記憶した後、ステップS121に進み、出力軸部75が補正終了位置に到達したか否かを判定する。出力軸部75が補正終了位置に到達している場合には、ステップS422に進む。一方、出力軸部75が補正終了位置に到達していない場合には、ステップS111に戻る。
【0113】
ステップS422では、電源電圧の変動量が閾値未満であるか否かを異常判定部59が判定する。ここで、判定に用いる電源電圧は、相対位置信号を検出したタイミングでの電源電圧のことである。相対位置信号を検出する度に電源電圧を取得し、記憶しているため、複数の電源電圧について判定することとなる。電源電圧の変動量が閾値未満である場合には、相対位置信号を取得しているタイミングで直流電源5が正常に動作していたと判断して、ステップS123に進む。一方、電源電圧の変動量が閾値以上である場合には、相対位置信号を取得しているタイミングで直流電源5に異常が発生していたと判断して、ステップS424に進む。
【0114】
ステップS123では、検出した全ての相対位置信号が適切な信号であるとみなして適切な補正情報を記憶することとなる。適切な補正情報を記憶した後、補正に関する制御を終了する。
【0115】
ステップS424では、検出した相対位置信号の中に不適切な信号が含まれているとみなしてモータ制御装置50が補正情報を削除する。ただし、削除する補正情報は、今回の補正モードで取得した補正情報であり、過去に実施した補正モードでの補正情報については、記憶した状態を維持する。補正情報を削除した後、補正に関する制御を終了する。ただし、補正に関する制御を終了するのではなく、ステップS101に戻って補正モードを最初から実行してもよい。
【0116】
上述した実施形態によると、相対位置信号を検出する度に電源電圧を取得し、その後、電源電圧の変動量が閾値未満であるか否かを判定している。このため、電源電圧の変動から相対位置信号が適切な信号であるか、電源電圧の変動の影響による不適切な信号であるかを判断できる。したがって、不適切な信号に基づく誤った補正が行われることを抑制できる。
【0117】
第5実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、出力軸部75を補正開始位置から補正終了位置まで移動させている間、電源電圧チェックを行っている。
【0118】
図9において、ステップS101で出力軸部75を補正開始位置に移動させた後、ステップS102で出力軸部75を補正終了位置に向けて移動を開始させる。その後、ステップS503に進む。
【0119】
ステップS503では、電圧取得部51が電源電圧チェックを開始する。電源電圧チェックでは、所定時間毎に電源電圧を取得して記憶する。これにより、どのタイミングで電源電圧がどのように変化したかを記憶することとなる。電源電圧を取得する所定時間の間隔は、相対位置信号を検出する間隔と同程度とすることが好ましい。例えば、相対位置信号を100マイクロ秒の間隔で検出することが想定される場合には、電源電圧を取得する間隔も100マイクロ秒とする。ただし、電源電圧を取得する間隔を相対位置信号の検出間隔よりも短い間隔に設定してもよい。あるいは、電源電圧を取得する間隔を相対位置信号の検出間隔よりも長い間隔に設定してもよい。電源電圧チェックを開始した後、電源電圧チェックを継続したままステップS111に進む。
【0120】
ステップS121で、出力軸部75が補正終了位置に到達したと判定した場合には、ステップS504に進む。ステップS504では、電圧取得部51が電源電圧チェックを終了する。これにより、出力軸部75が補正開始位置から補正終了位置に到達するまでの間、電源電圧を所定時間毎に取得したこととなる。電源電圧チェックを終了した後、ステップS422に進む。ステップS422で、電源電圧の変動量が閾値未満であれば、出力軸部75が補正開始位置から補正終了位置に到達するまでの間、直流電源5が正常に動作していたと判断して、ステップS123に進む。一方、電源電圧の変動量が閾値以上であれば、出力軸部75が補正開始位置から補正終了位置に到達するまでの間、直流電源5に異常が発生していたと判断して、ステップS424に進む。
【0121】
ステップS123では、検出した全ての相対位置信号が適切な信号であるとみなして適切な補正情報を記憶することとなる。適切な補正情報を記憶した後、補正に関する制御を終了する。一方、ステップS424では、検出した相対位置信号の中に不適切な信号が含まれているとみなし、補正情報を削除して、補正に関する制御を終了する。
【0122】
上述した実施形態によると、出力軸部75を補正開始位置から補正終了位置まで移動させている間、電源電圧チェックを行っている。このため、相対位置信号を検出している間、直流電源5が正常に動作しているかを判断できる。したがって、直流電源5の異常が補正に影響してしまうことを抑制し、補正の精度を高めやすい。また、相対位置信号を検出したタイミングで電源電圧を取得する場合と異なり、電源電圧を取得する間隔を任意に設定できる。よって、相対位置信号が検出されていないタイミングでの電源電圧を取得できる。これにより、本来であれば相対位置信号が検出されるべきタイミングで相対位置信号が検出されなかった場合に、電源電圧の変動が影響しているか否かを判断できる。
【0123】
第6実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、相対位置信号を取得した時間の間隔が正常な間隔であるか否かを判定して補正に反映している。
【0124】
図10において、ステップS111で相対位置信号を検出した場合に、ステップS112で相対位置情報を取得し、ステップS113で絶対位置情報を取得するとともに、ステップS610で時間の情報を取得する。時間の情報とは、相対位置信号が検出されたタイミングを示す情報である。時間の情報を取得した後、ステップS114で実位置情報を設定し、ステップS115で実位置情報を補正する。ステップS115で実位置情報を補正した後、ステップS616に進む。
【0125】
ステップS616では、記憶部58が補正後の実位置情報と時間とを記憶する。この時、補正後の実位置情報と相対位置信号を取得した時間の情報とがセットで記憶されることとなる。補正後の実位置情報と時間とを記憶した後、ステップS121に進み、出力軸部75が補正終了位置に到達したか否かを判定する。出力軸部75が補正終了位置に到達している場合には、ステップS622に進む。一方、出力軸部75が補正終了位置に到達していない場合には、ステップS111に戻る。
【0126】
ステップS622では、記憶した時間の間隔が正常な間隔であるか否かを異常判定部59が判定する。ここで、判定に用いる時間の間隔は、相対位置信号を検出してから次の相対位置信号を検出するまでの時間の間隔である。相対位置信号を検出する度に時間を取得し、記憶しているため、複数の時間の間隔について判定することとなる。時間の間隔が適切である場合には、相対位置信号を適切に取得できたと判断して、ステップS123に進む。一方、時間の間隔が不適切である場合には、相対位置信号を適切に取得できていないと判断して、ステップS424に進む。ここで、時間の間隔が不適切である場合には、時間の間隔が適切な間隔に比べて短すぎる場合と長すぎる場合とが該当する。
【0127】
ステップS123では、検出した全ての相対位置信号が適切なタイミングで取得された信号であるとみなして適切な補正情報を記憶することとなる。適切な補正情報を記憶した後、補正に関する制御を終了する。一方、ステップS424では、検出した相対位置信号の中に不適切なタイミングで取得された誤った信号が含まれているとみなし、補正情報を削除して、補正に関する制御を終了する。
【0128】
上述した実施形態によると、相対位置信号を取得した時間の間隔が正常な間隔であるか否かを判定して補正に反映している。このため、相対位置信号を適切なタイミングで取得できているかを判断できる。したがって、本来であれば取得されないタイミングで検出された誤った信号に基づいて誤った補正が行われることを抑制できる。あるいは、本来であれば取得されるべきタイミングで信号を検出できておらず、誤った相対位置情報を用いて補正が行われることを抑制できる。
【0129】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、1つの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0130】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0131】
本開示に記載の制御部およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つないしは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置およびその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置およびその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと1つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0132】
1 車両用空調装置、 5 直流電源、 10 空調ケース、 21 内外気切り替えドア(ドア装置)、 23 エアミックスドア(ドア装置)、 25 デフロスタドア(ドア装置)、 26 フェイスドア(ドア装置)、 27 フットドア(ドア装置)、 50 モータ制御装置、 51 電圧取得部、 52 駆動部、 53 絶対位置取得部、 54 相対位置取得部、 55 タイマ、 56 実位置設定部、 57 実位置補正部、 58 記憶部、 59 異常判定部、 70 アクチュエータ、 71 直流モータ、 75 出力軸部、 76 ポテンショメータ、 100 モータシステム、 270 アクチュエータ