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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/08 20060101AFI20240903BHJP
   F02D 41/30 20060101ALI20240903BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F02D13/08 Z
F02D41/30
F02D29/00 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020204881
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092207
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 純一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 誠
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-174137(JP,A)
【文献】特開2020-112037(JP,A)
【文献】特開2008-120295(JP,A)
【文献】特開2009-154627(JP,A)
【文献】特開2014-004946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00-29/06
F02D 41/00-41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関からの動力を駆動輪に伝達する変速機と、前記内燃機関を熱源として車室内の空気調和を行う空気調和装置とを含み、アクセルペダルの踏み込みが解除されたことを含むフューエルカット実行条件の成立に応じて前記内燃機関でフューエルカットが実行される車両の制御装置において、
前記内燃機関の温度が予め定められたフューエルカット禁止要求温度以下である場合に、前記フューエルカットの禁止を要求するフューエルカット禁止要求部と、
前記フューエルカット禁止要求部による前記フューエルカットの禁止の要求に応じて、前記変速機の現変速比に対応した前記フューエルカットの禁止を許容する下限車速を取得し、車速が前記下限車速以上である場合、前記フューエルカットを禁止すると共に、前記車速が前記下限車速未満である場合、前記フューエルカットを許可するフューエルカット許否判定部と、
を備え
前記フューエルカット禁止要求温度は、外気温度ごとに、前記内燃機関でフューエルカットが実行されても前記空気調和装置の暖房性能を確保可能にする冷却水温の下限値よりも高く定められると共に、前記外気温度が低下するにつれて高く設定され、
前記下限車速は、前記変速機の変速段ごとに、前記アクセルペダルの踏み込みが解除されたときに要求される減速度をダウンシフトによって確保可能にする車速の下限値として定められると共に、前記変速段が高速側に移行するにつれて高く設定される車両の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関と、内燃機関からの動力を駆動輪に伝達する変速機と、内燃機関を熱源として車室内の空気調和を行う空気調和装置とを含む車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジン(内燃機関)の制御装置として、エンジンに対するフューエルカット要求がなされていると判定した際に、エンジンの冷却水を熱源とするヒータに対して暖房要求がなされているか否かを判定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この制御装置は、フューエルカット要求がなされ、かつ暖房要求がなされていない場合、エンジンのフューエルカットを実行し、フューエルカット要求がなされ、かつ暖房要求がなされている場合、通常の燃料噴射制御を実行する。これにより、暖房要求がなされている際には、例えばエンジンの燃費を向上させるためにフューエルカットが要求されてもフューエルカットが実行されず、燃料の供給(燃焼)の継続によりヒータの暖房性能を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-167856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記制御装置を含む車両では、例えば降坂路の走行中に暖房要求に応じてフューエルカットが禁止された場合、ヒータの暖房性能の低下が抑制されるものの、運転者によるアクセルペダルの踏み込みの解除に応じて充分な減速度を確保し得なくなり、車両のドライバビリティが悪化してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、空気調和装置の暖房性能の低下を抑制しつつ、車両のドライバビリティをより向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車両の制御装置は、内燃機関と、前記内燃機関からの動力を駆動輪に伝達する変速機と、前記内燃機関を熱源として車室内の空気調和を行う空気調和装置とを含み、アクセルペダルの踏み込みが解除されたことを含むフューエルカット実行条件の成立に応じて前記内燃機関でフューエルカットが実行される車両の制御装置であり、前記内燃機関の温度が予め定められたフューエルカット禁止要求温度以下である場合に、前記フューエルカットの禁止を要求するフューエルカット禁止要求部と、前記フューエルカット禁止要求部による前記フューエルカットの禁止の要求に応じて、前記変速機の現変速比に対応した前記フューエルカットの禁止を許容する下限車速を取得し、車速が前記下限車速以上である場合、前記フューエルカットを禁止すると共に、前記車速が前記下限車速未満である場合、前記フューエルカットを許可するフューエルカット許否判定部とを含むものである。
【0007】
本開示の制御装置において、フューエルカット禁止要求部は、内燃機関の温度が予め定められたフューエルカット禁止要求温度以下である場合に、空気調和装置の暖房性能を確保するためにフューエルカットの禁止を要求する。また、フューエルカット許否判定部は、フューエルカット禁止要求部によるフューエルカットの禁止の要求に応じて、変速機の現変速比に対応したフューエルカットの禁止を許容する下限車速を取得する。そして、フューエルカット許否判定部は、車速が下限車速以上である場合、フューエルカットを禁止すると共に、車速が下限車速未満である場合、フューエルカットを許可する。これにより、フューエルカット禁止要求部によりフューエルカットの禁止が要求され、かつ車速が下限車速以上である場合には、フューエルカット実行条件が成立してもフューエルカットが実行されなくなるので、空気調和装置の暖房性能を良好に確保することができる。また、この場合には、車両の車速が比較的高いことから、変速機の変速比を減速側に変更することで、アクセルペダルの踏み込みの解除に応じて充分な減速度を確保することが可能となる。これに対して、フューエルカット禁止要求部によりフューエルカットの禁止が要求され、かつ車速が下限車速未満である場合には、フューエルカット実行条件の成立に応じてフューエルカットが実行される。これにより、空気調和装置の暖房性能が若干低下することがあるものの、アクセルペダルの踏み込みの解除に応じて充分な減速度をフューエルカットによって確保することができる。この結果、本開示の車両の制御装置によれば、空気調和装置の暖房性能の低下を抑制しつつ、車両のドライバビリティをより向上させることが可能となる。
【0008】
また、下限車速は、変速機の変速比ごとに、アクセルペダルの踏み込みが解除されたときに要求される減速度を変速比の変更によって確保可能にする車速の下限値として予め定められてもよく、変速比が小さくなるにつれて高く設定されてもよい。これにより、フューエルカットの禁止が許容される領域を適正に確保して空気調和装置の暖房性能の低下を抑制しつつ、車両のドライバビリティをより向上させることが可能となる。
【0009】
更に、フューエルカット禁止要求温度は、外気温度が低下するにつれて高く設定されてもよい。これにより、空気調和装置の暖房性能を確保するためのフューエルカットの禁止を適正に要求することが可能となる。
【0010】
また、フューエルカット許否判定部は、内燃機関の暖機完了前に、フューエルカット禁止要求部によるフューエルカットの禁止の要求に拘わらず、フューエルカットを許可するものであってもよく、内燃機関の暖機完了後に、フューエルカット禁止要求部によるフューエルカットの禁止の要求に応じて、車速と下限車速とを比較するものであってもよい。これにより、車両の乗員に空気調和装置の暖房性能の低下を感じさせてしまうのを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の制御装置を含む車両を示す概略構成図である。
図2】フューエルカット禁止要求温度を設定するためのマップを例示する説明図である。
図3図1の車両において実行されるフューエルカット許否ルーチンを例示するフローチャートである。
図4】暖機判定水温を設定するためのマップを例示する説明図である。
図5】フューエルカット禁止許可下限車速を設定するためのマップを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
図1は、本開示の制御装置を含む車両1を示す概略構成図である。同図に示す車両1は、複数の燃焼室(気筒)を含むエンジン(内燃機関)10と、エンジン10からの動力を駆動輪DWに伝達する動力伝達装置20と、車室内を空気調和する空気調和装置30とを含む。エンジン10は、エンジン電子制御装置(以下、「エンジンECU」という。)100により制御される。また、動力伝達装置20は、エンジンECU100と相互に情報をやり取りする変速電子制御装置(以下、「TMECU」という。)200により制御される。更に、空気調和装置30は、空調電子制御装置(以下、「空調ECU」という。)300により制御される。車両1は、図示するように後輪駆動車両であってもよく、前輪駆動車両であってもよく、四輪駆動車両であってもよい。
【0014】
エンジン10は、図示しないインジェクタから噴射されるガソリン(炭化水素系燃料)と空気との混合気を複数の燃焼室内で燃焼させ、混合気の燃焼に伴うピストンの往復運動をクランクシャフト11の回転運動へと変換するガソリンエンジンである。ただし、エンジン10は、ディーゼルエンジンやLPGエンジンであってもよい。エンジン10を制御するエンジンECU100は、図示しないCPU,ROM,RAM、入出力インターフェース等を有するマイクロコンピュータや、各種駆動回路、各種ロジックIC等を含み、エンジン10の吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火時期制御等を実行する。各種制御の実行に際し、エンジンECU100は、クランク角センサ、エアフローメータ、吸気圧センサ、空燃比センサ等(何れも図示省略)の検出値、水温センサ101により検出されるエンジン10の冷却水(クーラント)の温度(以下、適宜「冷却水温」という。)Tw、外気温度センサ102により検出される外気温度Ta、車速センサ103により検出される車速(現車速)V、アクセルペダルポジションセンサ104により検出されるアクセル開度Acc(アクセルペダル105の踏み込み量)等を取得する。
【0015】
また、本実施形態において、エンジンECU100は、例えば、エンジン10の回転数が所定回転数以上であること、変速機25のシフトレジンが前進走行レンジであること、および運転者によりアクセルペダル105の踏み込みが解除されることを条件として含むフューエルカット実行条件が成立すると、すべての燃焼室に対する燃料の供給を停止させるように複数のインジェクタを制御する。各燃焼室に対する燃料供給の停止すなわちフューエルカットが実行されると、エンジン10からのフリクショントルクが変速機25等を介して駆動輪DWに伝達され、いわゆるエンジンブレーキにより車両1を減速させたり、車両1の惰性走行により燃費を向上させたりすることができる。
【0016】
動力伝達装置20は、トルク増幅機能を有するトルクコンバータ(流体伝動装置)21や、ロックアップクラッチ22、ダンパ機構23、機械式オイルポンプ24、変速機25、作動油を調圧する油圧制御装置28等を含む。トルクコンバータ21は、フロントカバー(入力部材)を介してエンジン10のクランクシャフト11に連結されるポンプインペラと、変速機25の入力軸26に連結されるタービンランナと、タービンランナからポンプインペラへと向かう作動油の流れを整流してトルクを増幅させるステータとを含む。ロックアップクラッチ22は、ダンパ機構23を介してフロントカバーと変速機25の入力軸26とを連結すると共に両者の連結を解除する多板摩擦式あるいは単板摩擦式の油圧クラッチである。
【0017】
変速機25は、入力軸26、出力軸27、複数の遊星歯車、それぞれ複数のクラッチおよびブレーキ(変速用係合要素)を含む例えば6段-10段変速式(本実施形態では、8段変速式)の有段(多段)変速機である。ただし、変速機25は、デュアルクラッチトランスミッションであってもよい。変速機25は、エンジン10のクランクシャフト11からトルクコンバータ21あるいはロックアップクラッチ22の何れか一方を介して入力軸26に伝達された動力を複数段階に変速して出力軸27からデファレンシャルギヤ29およびドライブシャフトDSを介して駆動輪DWに出力する。また、油圧制御装置28は、複数の油路が形成されたバルブボディや、複数のレギュレータバルブ、複数のリニアソレノイドバルブ等を含む。
【0018】
動力伝達装置20を制御するTMECU200は、図示しないCPU,ROM,RAM、入出力インターフェース等を有するマイクロコンピュータや、各種駆動回路、各種ロジックIC等を含み、機械式オイルポンプ24からの油圧を調圧してトルクコンバータ21やロックアップクラッチ22、変速機25のクラッチおよびブレーキ等に供給するように油圧制御装置28を制御する。また、TMECU200は、変速機25の変速段のアップシフトまたはダウンシフトに際し、予め作成された変速線図からアクセル開度Accおよび車速Vに対応した目標変速段を取得すると共に、取得した目標変速段が形成されるように油圧制御装置28を制御する。更に、運転者によりアクセルペダル105の踏み込みが解除された際、TMECU200は、図示しない加速度センサにより検出されるか、あるいは変速機25の出力軸27の回転速度の変化に基づいて算出される車両1の加速度と、車速ごとに予め定められたアクセルオフ状態での減速度とに基づいて、車速(現車速)Vに対応した減速度を得るための変速段を選択すると共に、当該変速段が形成されるように油圧制御装置28を制御する。
【0019】
空気調和装置30は、車室内に調和空気を導くための図示しない空調ダクト内で空気流を発生させるブロワ31や、主として車室内の暖房時に空調ダクト内を流通する空気を加熱するヒータコア32、主として車室内の冷房時に空調ダクト内を流通する空気を冷却する冷凍サイクル(図示省略)等を含む。ヒータコア32は、サーモスタットバルブ33を介してエンジン10の冷却水の循環通路に接続されている。冷却水は、循環通路のウォーターポンプ34により圧送されてエンジン10に供給され、エンジン10から熱を奪った冷却水は、当該冷却水の温度Twに応じてサーモスタットバルブ33からヒータコア32とラジエータ35との何れか一方に供給される。これにより、ヒータコア32は、サーモスタットバルブ33を介して供給されるエンジン10からの冷却水を熱源として空調ダクト内の空気(冷凍サイクルのエバポレータ側からの空気)を加熱する。
【0020】
空調ECU300は、CPU,ROM,RAM,入出力インターフェース等を有するマイクロコンピュータ等を含み、エンジンECU100と相互に情報をやり取りする。空調ECU300は、車室内のインストルメントパネル等に設けられた各種スイッチからの信号や、図示しない車室温センサにより検出された室温、水温センサ101により検出された冷却水温Tw、外気温度センサ102により検出された外気温度Ta等を取得し、これらの信号等に基づいて空気調和装置30を制御する。
【0021】
また、本実施形態において、空調ECU300は、車両1が走行可能状態(READY-ON状態)にある間、所定時間(微小時間)おきにエンジン10の温度を示す冷却水温Twと外気温度Taとを取得すると共に、図2に例示するマップから適宜線形補間を行いながら当該外気温度Taに対応した温度を導出してフューエルカットの禁止の要否を判定するためのフューエルカット禁止要求温度(以下、「F/C禁止要求温度」という。)Tfcに設定する。図2のマップは、外気温度TaとF/C禁止要求温度Tfcとの関係を規定するように予め実験・解析を経て作成されたものである。F/C禁止要求温度Tfcは、外気温度Taごとに、エンジン10でフューエルカットが実行されても空気調和装置30の暖房性能を確保可能にする冷却水温Twの下限値よりも若干高く定められ、図示するように、外気温度Taが低下するにつれて高く設定される。
【0022】
F/C禁止要求温度Tfcを設定した後、空調ECU300は、水温センサ101から取得した冷却水温TwとF/C禁止要求温度Tfcとを比較する。空調ECU300は、冷却水温TwがF/C禁止要求温度Tfc以下であると判定した場合、空気調和装置30の暖房性能を確保するためにフューエルカットを禁止する必要があるとみなし、暖房要求信号をエンジンECU100に送信する。エンジンECU100は、空調ECU300から暖房要求信号を受信した場合、フューエルカットの禁止が要求されていることを示すために、通常オフされているF/C禁止要求フラグをオンする。
【0023】
ここで、空調ECU300によるフューエルカットの禁止の要求に応じて一律にフューエルカットが禁止された場合、例えば車両1の降坂路の走行中にアクセルペダル105の踏み込みの解除に応じて充分な減速度を確保し得なくなり、車両1のドライバビリティが悪化してしまうおそれがある。その一方で、ドライバビリティを優先して空気調和装置30の暖房性能を確保するためのフューエルカットの禁止を制限すると、例えば低温環境下で車両1が惰性走行する間にフューエルカットされたエンジン10すなわち冷却水の温度Twが低下し、車両1の乗員に空気調和装置30の暖房性能の低下を感じさせてしまうおそれもある。これを踏まえて、本実施形態の車両1では、制御装置としてのエンジンECU100により図3に例示するフューエルカット許否ルーチンが実行される。
【0024】
図3のルーチンは、車両1が走行可能状態(READY-ON状態)にある間にエンジンECU100により所定時間(微小時間)おきに繰り返し実行されるものである。図3のルーチンの開始に際し、エンジンECU100(CPU)は、水温センサ101からの冷却水温Tw、外気温度センサ102からの外気温度Ta、車速センサ103からの車速(現車速)V、アクセルペダルポジションセンサ104からのアクセル開度Acc、TMECU200からの変速機25の現変速段Gn、上記F/C禁止要求フラグを含む各種フラグの値といった処理に必要な情報を取得する(ステップS100)。ステップS100の処理の後、エンジンECU100は、水温センサ101や外気温度センサ102を含む図3の処理に関連した各種センサが正常であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0025】
図3の処理に関連したセンサの少なくとも何れか1つに異常が発生していると判定した場合(ステップS110:NO)、エンジンECU100は、車両1のドライバビリティを優先してフューエルカットの実行を許可すべく、フューエルカット禁止フラグをオフし(ステップS190)、図3のルーチンを一旦終了させる。ステップS190にてフューエルカット禁止フラグがオフされた場合、エンジンECU100は、上述のフューエルカット実行条件の成立に応じて、エンジン10のすべての燃焼室に対する燃料の供給を停止させるように複数のインジェクタを制御する。
【0026】
また、各種センサが正常であると判定した場合(ステップS110:YES)、エンジンECU100は、図4に例示するマップから適宜線形補間を行いながらステップS100にて取得した外気温度Taに対応した温度を導出してエンジン10の暖機状態を判定するための暖機判定水温Trefに設定する(ステップS120)。図4のマップは、外気温度Taと暖機判定水温Trefとの関係を規定するように予め実験・解析を経て作成されたものである。暖機判定水温Trefは、エンジン10の暖機が完了しているときの最低温度に相当し、図示するように、外気温度Taが低下するにつれて低く設定される。
【0027】
ステップS120にて暖機判定水温Trefを設定した後、エンジンECU100は、ステップS100にて取得した冷却水温Tw(エンジン10の温度)が当該暖機判定水温Tref以上であるか否かを判定する(ステップS130)。冷却水温Twが暖機判定水温Tref未満であって、エンジン10の暖機が完了していないと判定した場合(ステップS130:NO)、エンジンECU100は、フューエルカット禁止フラグをオフし(ステップS190)、図3のルーチンを一旦終了させる。すなわち、エンジン10の暖機完了前には、冷却水温Twが比較的低く、フューエルカットによる冷却水の温度低下に起因した空気調和装置30の暖房性能の低下幅が比較的小さいことから、ドライバビリティを優先してフューエルカットの実行が許可される。
【0028】
また、冷却水温Twが暖機判定水温Tref以上であると判定した場合(ステップS130:YES)、エンジンECU100は、その時点でエンジン10においてフューエルカットが実行されておらず、かつ運転者によりアクセルペダル105が踏み込まれているか否かを判定する(ステップS140)。エンジン10でフューエルカットが実行されているか、あるいは運転者によりアクセルペダル105が踏み込まれていないと判定した場合(ステップS140:NO)、エンジンECU100は、フューエルカット禁止フラグをオフし(ステップS190)、図3のルーチンを一旦終了させる。これにより、フューエルカットの実行中に当該フューエルカットが中断されて減速度が低下するのを抑制することができる。
【0029】
エンジン10でフューエルカットが実行されておらず、かつ運転者によりアクセルペダル105が踏み込まれていると判定した場合(ステップS140:YES)、エンジンECU100は、ステップS100にて取得したFC禁止要求フラグがオンされているか否か、すなわち空調ECU300によりフューエルカットの禁止が要求されているか否かを判定する(ステップS150)。FC禁止要求フラグがオフされていると判定した場合(ステップS150:NO)、エンジンECU100は、フューエルカット禁止フラグをオフし(ステップS190)、図3のルーチンを一旦終了させる。
【0030】
一方、FC禁止要求フラグがオンされており、空調ECU300によりフューエルカットの禁止が要求されていると判定した場合(ステップS150:YES)、エンジンECU100は、図5に例示するマップからステップS100にて取得した変速機25の現変速段Gnに対応した車速を導出してフューエルカット禁止許可下限車速(以下、単に「下限車速」という。)Vfcに設定する(ステップS160)。図6のマップは、変速機25の変速段ごとに下限車速Vfcを規定するように予め実験・解析を経て作成されたものである。下限車速Vfcは、アクセルペダル105の踏み込みが解除されたときに要求される減速度を変速比の変更すなわちダウンシフトによって確保可能にする車速の下限値に相当し、変速段が高速側に移行するにつれて(変速比が小さくなるにつれて)高く設定される。
【0031】
ステップS160にて下限車速Vfcを設定した後、エンジンECU100は、ステップS100にて取得した車速Vが当該下限車速Vfc以上であるか否かを判定する(ステップS170)。車速Vが当該下限車速Vfc以上であると判定した場合(ステップS170:YES)、エンジンECU100は、空気調和装置30の暖房性能の確保を優先してフューエルカットの実行を禁止すべく、フューエルカット禁止フラグをオンし(ステップS180)、図3のルーチンを一旦終了させる。ステップS180にてフューエルカット禁止フラグがオンされた場合、フューエルカット実行条件が成立しても、エンジン10のすべての燃焼室に対して継続して燃料が供給される。この際、エンジンECU100は、吸入空気量が予め定められた最小吸入空気量になるようにスロットルバルブを制御すると共に、当該最小吸入空気量に応じた量の燃料を噴射するように複数のインジェクタを制御する。これにより、エンジン10は、走行抵抗を越える駆動力(トルク)を出力することなく当該最小吸入空気量に対応した回転数(例えば、アイドル回転数)で回転する。
【0032】
これに対して、車速Vが下限車速Vfc未満であると判定した場合(ステップS170:NO)、エンジンECU100は、フューエルカット禁止フラグをオフし(ステップS190)、図3のルーチンを一旦終了させる。これにより、空調ECU300によりフューエルカットの禁止が要求されていても、車速Vが変速機25の現変速段Gnに対応した下限車速Vfc未満である場合には、エンジンECU100は、フューエルカット実行条件の成立に応じて、エンジン10のすべての燃焼室に対する燃料の供給を停止させるように複数のインジェクタを制御する。
【0033】
上述のように、車両1は、エンジン10と、変速機25と、エンジン10を熱源とする空気調和装置30とを含み、制御装置としてのエンジンECU100および空調ECU300により制御される。また、フューエルカット禁止要求部としての空調ECU300は、エンジン10の温度を示す冷却水温Twが外気温度Taに対応したF/C禁止要求温度Tfc以下である場合、空気調和装置30の暖房性能を確保するためにフューエルカットの禁止を要求する。更に、フューエルカット許否判定部としてのエンジンECU100は、空調ECU300によるフューエルカットの禁止の要求に応じて、変速機25の現変速段(現変速比)Gnに対応したフューエルカットの禁止を許容する下限車速Vfcを取得する(ステップS150,S160)。そして、エンジンECU100は、車速Vが下限車速Vfc以上である場合(ステップS170:YES)、フューエルカットを禁止すると共に(ステップS180)、車速Vが下限車速Vfc未満である場合(ステップS170:NO)、フューエルカットを許可する(ステップS190)。
【0034】
これにより、空調ECU300によりフューエルカットの禁止が要求され、かつ車速Vが下限車速Vfc以上である場合には、フューエルカット実行条件が成立してもフューエルカットが実行されなくなるので、空気調和装置30の暖房性能を良好に確保することができる。また、この場合には、車両1の車速Vが比較的高いことから、変速機25のダウンシフトにより変速比を減速側に変更することで、アクセルペダル105の踏み込みの解除に応じて充分な減速度を確保することが可能となる。これに対して、空調ECU300によりフューエルカットの禁止が要求され、かつ車速Vが下限車速Vfc未満である場合には、フューエルカット実行条件の成立に応じてフューエルカットが実行される。これにより、空気調和装置30の暖房性能が若干低下することがあるものの、アクセルペダル105の踏み込みの解除に応じて充分な減速度をフューエルカットによって確保することができる。この結果、車両1では、空気調和装置30の暖房性能の低下を抑制しつつ、ドライバビリティをより向上させることが可能となる。
【0035】
また、車両1において、下限車速Vfcは、変速機25の変速段(変速比)ごとに、アクセルペダル105の踏み込みが解除されたときに要求される減速度をダウンシフト(変速比の変更)によって確保可能にする車速の下限値として予め定められ、変速段が高速側に移行するにつれて(変速比が小さくなるにつれて)高く設定される(図5参照)。これにより、フューエルカットの禁止が許容される領域を適正に確保して空気調和装置30の暖房性能の低下を抑制しつつ、車両1のドライバビリティをより向上させることが可能となる。
【0036】
更に、車両1において、F/C禁止要求温度Tfcは、外気温度Taが低下するにつれて高く設定される(図2参照)。これにより、空気調和装置30の暖房性能を確保するためのフューエルカットの禁止を適正に要求することが可能となる。また、車両1において、エンジンECU100は、エンジン10の暖機完了前(ステップS130:NO)に、空調ECU300によるフューエルカットの禁止の要求に拘わらず、フューエルカットを許可する(ステップS190)。更に、エンジンECU100は、エンジン10の暖機完了後に、空調ECU300によるフューエルカットの禁止の要求に応じて、車速Vと下限車速Vfcとを比較する(ステップS150-S170)。これにより、車両1の乗員に空気調和装置30の暖房性能の低下を感じさせてしまうのを良好に抑制することが可能となる。
【0037】
以上説明したように、本開示の車両の制御装置は、内燃機関(10)と、内燃機関(10)からの動力を駆動輪(DW)に伝達する変速機(25)と、内燃機関(10)を熱源として車室内の空気調和を行う空気調和装置(30)とを含み、アクセルペダル(105)の踏み込みが解除されたことを含むフューエルカット実行条件の成立に応じて内燃機関(10)でフューエルカットが実行される車両(1)を制御するものである。更に、当該制御装置は、内燃機関(10)の温度(Tw)が予め定められたフューエルカット禁止要求温度(Tfc)以下である場合に、フューエルカットの禁止を要求するフューエルカット禁止要求部(300)と、フューエルカット禁止要求部(300)によるフューエルカットの禁止の要求に応じて、変速機(25)の現変速比(Gn)に対応したフューエルカットの禁止を許容する下限車速(Vfc)を取得し、車速(V)が下限車速(Vfc)以上である場合、フューエルカットを禁止すると共に、車速(V)が下限車速(Vfc)未満である場合、フューエルカットを許可するフューエルカット許否判定部(100)とを含む。これにより、空気調和装置の暖房性能の低下を抑制しつつ、車両のドライバビリティをより向上させることが可能となる。
【0038】
なお、上記車両1では、空調ECU300がエンジン10の温度(冷却水温Tw)に応じてフューエルカットの禁止を要求するフューエルカット禁止要求部として機能するが、これに限られるものではない。すなわち、上述のF/C禁止要求温度Tfcの設定、および冷却水温TwとF/C禁止要求温度Tfcとの比較処理は、エンジンECU100により実行されてもよく、空調ECU300およびエンジンECU100の双方により実行されてもよい。また、フューエルカット実行条件は、触媒の劣化を抑制するためのものであってもよく、パティキュレートフィルタを再生するためのものであってもよい。更に、変速機25は、上述のような有段変速機に限られるものではなく、ベルト式無段変速機といった機械式無段変速機であってもよく、例えば2台のモータジェネレータ(および遊星歯車)を含む電気式無段変速機であってもよい。これらの無段変速機が変速機25として採用される場合、有段変速機における変速段の代わりに、予め定められた複数の変速比の範囲ごとに上記下限車速Vfcが割り当てられてもよい。更に、変速機25は、電気式無段変速機と、当該電気式無段変速機の出力軸に連結された機械式変速機とを含むものであってもよい。この場合、上記下限車速Vfcは、変速機25の電気式無段変速機に対して定められてもよく、機械式変速機に対して定められてよい。
【0039】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示の発明は、内燃機関と、変速機と、内燃機関を熱源として車室内の空気調和を行う空気調和装置とを含む車両の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 車両、10 エンジン、11 クランクシャフト、20 動力伝達装置、21 トルクコンバータ、22 ロックアップクラッチ、23 ダンパ機構、24 機械式オイルポンプ、25 変速機、26 入力軸、27 出力軸、28 油圧制御装置、29 デファレンシャルギヤ、30 空気調和装置、31 ブロワ、32 ヒータコア、33 サーモスタットバルブ、34 ウォーターポンプ、35 ラジエータ、100 エンジン電子制御装置(エンジンECU)、101 水温センサ、102 外気温度センサ、103 車速センサ、104 アクセルペダルポジションセンサ、105 アクセルペダル、200 変速電子制御装置(TMECU)、300 空調電子制御装置(空調ECU)、DS ドライブシャフト、DW 駆動輪。
図1
図2
図3
図4
図5