(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】接続部の構造及び接続方法
(51)【国際特許分類】
F16B 7/04 20060101AFI20240903BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F16B7/04 301E
F16B11/00 C
(21)【出願番号】P 2020205567
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】大久保 洋志
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-003311(JP,A)
【文献】特開昭56-046109(JP,A)
【文献】特開昭53-079142(JP,A)
【文献】特開昭59-222613(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017909(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 7/04
F16B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状端部を有する第1の部材と、
前記筒状端部に挿嵌された内筒部と、前記内筒部の先端から前記内筒部の軸方向に沿って延伸する少なくとも一つのスリットとを有する第2の部材と、
前記スリットに差し込まれ、該スリットを押し拡げて前記軸方向と直交する方向の寸法が拡大するように前記内筒部を変形させることで、前記内筒部の外周面を前記筒状端部の内周面に押し付けているピン部材と、
を備え
、
前記第2の部材は、前記内筒部の外側に同軸状に配置された外筒部を有しており、
前記第1の部材の前記筒状端部は、前記外筒部に挿嵌されており、
前記ピン部材は、前記外筒部に設けられた孔と前記筒状端部に設けられた孔とに挿通されている、接続部の構造。
【請求項2】
互いに押し付け合う前記外周面と前記内周面とが、それらの間に設けられた接着剤により接着されている、請求項1に記載の接続部の構造。
【請求項3】
前記筒状端部のうち前記外筒部に挿嵌された部分は、当該部分の外周面と前記外筒部の内周面との間に設けられた接着剤により前記外筒部と接着されている、請求項1又は2に記載の接続部の構造。
【請求項4】
前記ピン部材は、ボルトであり、
前記ボルトは、前記外筒部に形成されたボルト孔に螺合している、請求項3に記載の接続部の構造。
【請求項5】
前記第2の部材は、前記スリットを2つ有しており、
前記ピン部材が、前記2つのスリットに差し込まれている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の接続部の構造。
【請求項6】
前記内筒部は、前記ピン部材よりも前記内筒部の基端側における前記スリットの近傍部に、他の部分よりも剛性の低い低剛性部を有している、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の接続部の構造。
【請求項7】
前記第2の部材は、
前記内筒部の先端から前記内筒部の軸方向に沿って延伸する複数の前記スリットと
、
前記内筒部の基端側における前記複数のスリットの端部近傍に設けられ、前記内筒部の内部に形成された柱状空間の一端と、前記内筒部と前記外筒部との間に形成された環柱状の隙間の一端とを閉じている底壁部と、
を有しており、
前記内筒部の内周面に嵌合された、前記底壁部に接着剤を押し付けるためのピストン本体と、前記ピストン本体から、各々、前記各スリットを介して前記隙間内まで突出した複数のロッド部と、を有するピストン部材を更に備え、
前記複数のロッド部は、前記隙間に前記筒状端部が挿入されたときに当該筒状端部と干渉し得る位置まで延びており、
前記ピストン本体と前記底壁部との間、並びに、前記内筒部の外周面と前記筒状端部の内周面との間または前記筒状端部の外周面と前記外筒部の内周面との間のいずれか一方または両方に、接着剤が設けられている、請求項1に記載の接続部の構造。
【請求項8】
筒状端部を有する第1の部材と、第2の部材とを接続する方法であって、
前記第2の部材に、内筒部
と、前記内筒部の外側に同軸状に配置された外筒部とを設け、
前記内筒部に、その先端から前記内筒部の軸方向に延伸する少なくとも一つのスリットを形成し、
前記内筒部と前記外筒部との間に形成された環柱状の隙間に前記筒状端部を挿入し、
前記筒状端部に前記内筒部を挿嵌させた状態で、
前記外筒部に設けられた孔と前記筒状端部に設けられた孔とにピン部材を挿通させつつ前記スリットに
前記ピン部材を差し込み、
当該差し込みにより、前記スリットを押し拡げ、前記内筒部を前記軸方向と直交する方向の寸法が拡大するように変形させて、前記内筒部の外周面を前記筒状端部の内周面に押し付けることを含む、接続方法。
【請求項9】
前記外周面と前記内周面との間に接着剤を設け、
前記外周面で前記接着剤を前記内周面に押し付けることを含む、請求項8に記載の接続方法。
【請求項10】
前記内筒部に、前記スリットを複数形成し
、
前記内筒部の基端側における前記スリットの端部近傍において、前記内筒部の内部に形成された柱状空間の一端と、
前記環柱状の隙間の一端とを閉じる底壁部を設け、
前記柱状空間の内に接着剤を設置し、
設置された前記接着剤よりも前記内筒部の先端側の位置において、前記接着剤を前記底壁部に押し付けるためのピストン本体を、当該ピストン本体から突出した複数のロッド部を前記複数のスリットを介して前記隙間の内部にそれぞれ突出させた状態で、前記内筒部の内周面に嵌合させ、
前記筒状端部を前記隙間に挿入しつつ、前記複数のロッド部を前記筒状端部で押すことで、前記接着剤を前記ピストン本体で前記底壁部に押し付け、
当該接着剤を、前記複数のスリットを介して前記隙間の内部に押し出しつつ、前記内筒部の外周面と前記筒状端部の内周面との間または前記筒状端部の外周面と前記外筒部の内周面との間のいずれか一方または両方に前記筒状端部の先端側から流入させることを含む、請求項8又は9に記載の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続部の構造及び接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、被連結部材の適所に形成され、端面を開口した有底筒状の雌連結部と、パイプ部材端部の、端面を開口した雄連結部と、前記雄連結部に嵌合され、前記雄連結部の、雌連結部内挿嵌により、雌連結部の底面と衝合して雄連結部内に押込まれ、該雄連結部を末広状に拡開させその外壁を雌連結部の内面に係合させる、截頭錐体状の楔体と、前記雌、雄連結部間に形成されるクリアランスに充填され、それらを一体に結合する接着剤とよりなる、パイプ部材の連結装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記連結装置の構造では、楔体が衝合する底面が雌連結部に存在しなければ、雄連結部内に楔体が押し込まれず、雄連結部が拡開変形しない。その場合、雄連結部の外壁が雌連結部の内面に係合することができず、十分な接続強度を得ることができない。
【0005】
本発明の目的は、底面の有無に関わらず十分な接続強度を得ることができる接続部の構造及び接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる接続部の構造は、第1の部材と、第2の部材と、ピン部材とを備える。第2の部材は、第1の部材の筒状端部に挿嵌された内筒部と、前記内筒部の先端から前記内筒部の軸方向に沿って延伸する少なくとも一つのスリットとを有している。ピン部材は、前記スリットに差し込まれ、該スリットを押し拡げて前記軸方向と直交する方向の寸法が拡大するように前記内筒部を変形させることで、前記内筒部の外周面を前記筒状端部の内周面に押し付けている。
【発明の効果】
【0007】
上記接続部の構造によれば、底面の有無に関わらず十分な接続強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態にかかる接続部の正面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った断面図である。
【
図5A】第1実施形態にかかる接続方法を説明するための図である。
【
図6A】第1実施形態にかかる接続方法を説明するための図であり、
図5Aに続く状態を示す。
【
図7】第1実施形態の変形例にかかる接続部の縦断面図である。
【
図9】第2実施形態にかかる接続部の縦断面図である。
【
図10】第2実施形態にかかる接続方法を説明するための縦断面図である。
【
図11】第2実施形態にかかる接続方法を説明するための縦断面図であり、
図10に続く状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、いくつかの実施形態にかかる接続部Jの構造及び接続方法について、図面を参照して説明する。
【0010】
<第1実施形態>
第1実施形態にかかる接続部Jは、
図1乃至
図6Bに示すように、第1の部材1と、第1の部材1に接続された第2の部材2とを備える。また、接続部Jは、ピン部材であるボルト5を備える。
【0011】
第1の部材1は、例えば、炭素繊維強化樹脂(CFRP)、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)など繊維強化樹脂から形成された筒状端部11を有する。
図1乃至
図3に示した例では、筒状端部11は、円筒状の形状を有している。筒状端部11の内部には、柱状空間S
C1が形成されており、その入口となる開口12(
図5B参照)が、筒状端部11の先端部11Aによって画成されている。筒状端部11の側面2箇所には、ボルト5を挿通するためのボルト挿通孔13が設けられており、ボルト挿通孔13を介して、柱状空間S
C1と筒状端部11の外部とが連通している。なお、筒状端部11は、例えば、ステンレス鋼、アルミなど金属から構成されてもよい。
【0012】
第2の部材2は、内筒部21と、内筒部21の外側に同軸状に配置された外筒部31とを有する。
図1乃至
図4に示した例では、内筒部21及び外筒部31は、上記金属から構成され、円筒状の形状を有している。内筒部21の内部には、柱状空間S
C2が形成されており、その入口となる開口22が、内筒部21の先端部21Aによって画成されている。また、内筒部21と外筒部31との間には、環柱状の隙間S
Aが形成されており、その入口となる隙間開口32が、内筒部21の先端部21Aと外筒部31の先端部31Aとによって画成されている。なお、内筒部21及び外筒部31は、上記繊維強化樹脂から構成されてもよい。
【0013】
内筒部21には、
図4に示すように、内筒部21の先端21Aaから内筒部21の軸方向Xに沿って延伸する2つのスリット4が形成されている。上記の柱状空間S
C2と環柱状の隙間S
Aとは、各スリット4を介して連通している。各スリット4は、内筒部21の先端21Aaに開口41を有し、内筒部21の基端23側(以下、単に「基端23側」と称する)に端部42を有している。
【0014】
接続部Jでは、内筒部21は、筒状端部11に挿嵌され、筒状端部11は、外筒部31に挿嵌されている。即ち、自然状態における内筒部21の外周面21aの外径は、筒状端部11の内周面11aの内径より小さく、外筒部31の内周面31aの内径は、筒状端部11の外周面11bの外径より大きい。ここで、自然状態とは、内筒部21に後述する拡大変形が生じていない状態、即ち、スリット4にボルト5が差し込まれていない状態である。
【0015】
ボルト5は、
図3に示すように、ヘッド部51と、軸部52とを有する。軸部52の外周面には、雄ねじが形成されている。ボルト5は、図示した例のように、先端部に円柱状のガイド部53を有してもよいし、軸部52とガイド部53との間に、先端側に向かうに従って縮径する円錐台側面形状のテーパ部54を有してもよい。軸部52の外径(即ち、雄ねじの外径)は、自然状態におけるスリット4の幅W(以下、単に「スリット幅W」と称する)より大きく、ガイド部53の外径は、自然状態におけるスリット幅Wより小さい。テーパ部54の外径は、先端側に向かうに従って軸部52の外径からガイド部53の外径まで縮径している。
【0016】
外筒部31には、ボルト5と螺合するボルト孔33が形成されている。ボルト孔33の内周面には、軸部52の雄ねじと螺合する雌ねじが形成されている。一方、外筒部31の中心軸を挟んでボルト孔33と反対側には、ボルト挿通孔34が形成されている。ボルト挿通孔34の内周面には、雌ねじは形成されていない。
【0017】
ボルト孔33の向きは、螺合したボルト5の中心軸が、2つのスリット4の幅中心4cと、ボルト挿通孔34の中心とを通るように選択されている。そのため、ボルト孔33にボルト5を螺入すると、ボルト5の先端部は、ねじの作用によって進入方向をガイドされながら進行し、2つのスリット4を貫通してボルト挿通孔34に進入する。なお、軸部52の長さは、軸部52の先端部がボルト挿通孔34内に入ったときに、ヘッド部51が外筒部31のボルト孔33周縁部に当接するように設定されている。
【0018】
接続部Jでは、ボルト5は、2つのスリット4に差し込まれている。ボルト5は、スリット4を押し拡げて軸方向Xと直交する方向(以下、軸直交方向とも称する)の寸法が拡大するように内筒部21を変形させることで、内筒部21の外周面21aを筒状端部11の内周面11aに押し付けている。
【0019】
図1乃至
図3に示した例では、押し拡げられたスリット4は、基端23側よりも先端21Aa側でスリット幅Wが大きくなるように変形している。また、拡大変形した内筒部21は、先端部21Aにおいて筒状端部11の内周面11aに接触している。更に、ボルト5は、ボルト孔33に螺合した状態で、筒状端部11の2つのボルト挿通孔13と、外筒部31のボルト挿通孔34とに挿通されている。
【0020】
環柱状の隙間SAには、接着剤Adが充填されている。具体的には、互いに押し付け合っている内筒部21の外周面21aと筒状端部11の内周面11aとの間に、接着剤Adが設けられ、当該接着剤Adによって外周面21aと内周面11aとが接着されている。また、筒状端部11のうち外筒部31に挿嵌された部分の外周面11bと、外筒部31の内周面31aとの間にも、接着剤Adが設けられ、当該接着剤Adによって当該部分の外周面11bと内周面31aとが接着されている。
【0021】
第2の部材2は、図示した例のように、底壁部6を備えてもよい。底壁部6は、基端23側におけるスリット4の端部42近傍に設けられ、柱状空間SC2の一端と、環柱状の隙間SAの一端とを閉じている。底壁部6を設けることにより、環柱状の隙間SAの内部に接着剤Adを保持しやすくなる。
【0022】
本実施形態にかかる接続部Jの作用効果について説明する。
【0023】
(1)上記特許文献1の連結装置の構造では、楔体が衝合する底面が雌連結部側に存在しなければ、雄連結部内へ楔体が押し込まれず、雄連結部が拡開変形しない。そのため、雄連結部の外壁が雌連結部の内面に係合することができず、十分な接続強度を得ることができない。また、底面が存在している場合でも、雄連結体の拡開変形の変形量、即ち、雄連結部の外壁の雌連結部の内面への係合量は、雌連結部の内面と雄連結部の外壁との間の隙間の大きさや、雄連結部内への楔体の押し込み量に左右される。特に、押し込み量は、雄連結部の開口と楔体との軸直交方向の寸法関係、メインパイプの長さ(即ち、底面に対する雄連結部の先端部の位置)、楔体の軸方向寸法等に強く影響される。このため、特許文献1の連結装置では、これらの寸法の精度を厳密に管理する必要があった。
【0024】
これに対し、本実施形態では、ピン部材であるボルト5により、スリット4を押し拡げて軸直交方向寸法が拡大するように内筒部21を変形させることで、内筒部21の外周面21aを筒状端部11の内周面11aに押し付けている。このため、本実施形態によれば、第2の部材2側の底面の有無、或いは、当該底面と筒状端部11との位置関係に関わらず、十分な接続強度を得ることができる。
【0025】
(2)また、本実施形態では、ボルト5をスリット4に差し込むことで、スリット4を押し拡げ、内筒部21を軸直交方向に拡大変形させて、外周面21aを内周面11aに押し付けている。従って、ボルト5の軸部52の断面寸法をスリット幅Wに対して増減させることで、内筒部21の変形量、ひいては外周面21aから内周面11aに付与される押圧力の大きさを適正に調節することができる。即ち、外周面21aから内周面11aに付与される押圧力(または内周面11aと外周面21aとの間の摩擦力)の大きさは、軸方向Xにおける筒状端部11と内筒部21との相対的な位置関係によらない。従って、筒状端部11に対する内筒部21の軸方向位置にばらつきがあったとしても、十分な接続強度を安定して得ることができる。
【0026】
(3)更に、本実施形態では、外周面21aと内周面11aとの間の隙間Gの大きさに製品ごとのばらつきが存在しても、スリット幅Wに対するボルト5の断面寸法を調節することで、外周面21aから内周面11aに付与される押圧力を適正にすることができる。換言すれば、隙間寸法の厳密な管理を要することなく、接続強度の製品間のばらつきを抑えることができる。
【0027】
(4)また、本実施形態では、互いに押し付け合う面(内筒部21の外周面21a及び筒状端部11の内周面11a)同士が、接着剤Adによって接着されている。即ち、接着剤Adは、外周面21aによって内周面11aに押し付けられているので、押し付けられていない場合と比較して、外周面21aまたは内周面11aの表面に沿って広がりやすい。換言すれば、外周面21a及び内周面11aの接着剤Adとの接触面(接着面)の大きさが十分に確保される。このため、本実施形態によれば、接着剤Adによる接着強度を高めて、第1の部材1と第2の部材2との間の接続強度を向上させることができる。接着強度を高められるこの構造は、本実施形態のように、筒状端部11が繊維強化樹脂から構成されている場合に、特に好適である。
【0028】
(5)更に、本実施形態では、筒状端部11のうち外筒部31に挿嵌された部分が、当該部分の外周面11bと前記外筒部31の内周面31aとの間に設けられた接着剤Adにより外筒部31と接着されている。そのため、内筒部21の外周面21aと筒状端部11の内周面11aとのみが接着された場合より、接続強度を高めることができる。
【0029】
(6)また、本実施形態では、ボルト5は、外筒部31に形成されたボルト孔33に螺合しているので、ボルト5をスリット4に差し込む際、ねじの作用により、ボルト5の進入方向をガイドすることができ、かつ、高いボルト推力を得ることができる。これにより、スリット4へのボルト5の差し込みを容易にして、内筒部21をより確実に拡大変形させることができる。また、ボルト5を締め付ければ、ボルト5の位置が外筒部31に対して固定される。このため、ボルト5がスリット4に差し込まれた状態でボルト5の位置がずれにくくなり、内筒部21の変形量、即ち、外周面21aから内周面11aに付与される押圧力の大きさをより安定させることができる。
【0030】
(7)更に、本実施形態では、スリット4が2つ設けられているので、スリット4が1つだけ設けられた場合よりも、内筒部21が軸直交方向に拡大変形しやすくなり、その分、外周面21aから内周面11aに付与される押圧力が増大する。また、ボルト5が2つのスリット4に差し込まれているため、2つのスリット4を当該1つのボルト5で押し拡げることができ、2つのスリット4にそれぞれ別個のボルト5を差し込んだ場合よりも、部品点数を減らすことができる。
【0031】
(8)また、本実施形態では、筒状端部11にボルト挿通孔13が形成され、当該ボルト挿通孔13に、外筒部31に締結されたボルト5が挿通されているため、筒状端部11の外筒部31からの引き抜き強度を向上させることができる。
【0032】
次に、本実施形態において、第1の部材1と、第2の部材2とを接続する方法について説明する。
【0033】
まず、
図5A及び
図5Bに示すように、第1の部材1の筒状端部11の内周面11aと外周面11bとに、接着剤Adを塗布する。接着剤Adは、特に限定されず、例えば、エポキシ系、ウレタン系など公知の接着剤Adを用いることができる。
【0034】
次に、筒状端部11の先端部11Aを隙間開口32に差し込んで、環柱状の隙間S
Aに筒状端部11を挿入する。筒状端部11は、
図6A及び
図6Bに示すように、筒状端部11の2つのボルト挿通孔13が外筒部31のボルト孔33及びボルト挿通孔34にそれぞれ位置合わせされるまで挿入するとよい。これにより、筒状端部11に第2の部材2の内筒部21が挿嵌され、第2の部材2の外筒部31に筒状端部11が挿嵌される。また、接着剤Adが、環柱状の隙間S
Aに充填される。
【0035】
次に、スリット4にボルト5を差し込む。図示した例では、ボルト5をボルト孔33に螺入する。これにより、ボルト5の先端部は、ねじの作用によって進入方向をガイドされながら進行し、2つのスリット4の幅中心4cを通過して、ボルト挿通孔34に挿入される。ボルト5は、ヘッド部51が外筒部31のボルト孔33周縁部に当接する位置まで、即ち、ボルト挿通孔34の内部に軸部52の先端部が位置するまで螺入される。
【0036】
ボルト5の先端部がスリット4を通過する際は、テーパ部54の外周面が、スリット4の内周縁部43と接触する。このとき、スリット4の内周縁部43には、テーパ部54の外周面からボルト5の軸方向Yに沿った力(ボルト推力)が作用するが、この力は、外周面のカム作用によって、ボルト5の径方向外向きの力に変換される。従って、ボルト5の先端部が軸方向Yに沿って移動すると、スリット4の内周縁部43は、テーパ部54の外周面上を、スリット幅Wを拡大させる向きに滑りながら移動し、軸部52の外周面上に乗り上げる。内周縁部43の当該乗り上げた部分同士の間の間隔は、軸部52の外径に略等しく、自然状態のスリット幅Wより大きい。従って、このときの内筒部21の軸直交方向の寸法(最大外径、最大幅など)は、自然状態の内筒部21のそれよりも大きくなる。
【0037】
このように、本実施形態の接続方法では、スリット4へのボルト5の差し込みにより、スリット4を押し拡げ、内筒部21を軸直交方向の寸法が拡大するように変形させる。そして、内筒部21の外周面21aを筒状端部11の内周面11aに押し付ける。また、このとき接着剤Adを外周面21aによって内周面11aに押し付ける。
【0038】
その後、接着剤Adを硬化させる。これにより、第1の部材1と第2の部材2とが接続される。
【0039】
(9)上記接続方法によれば、接着剤Adは、外周面21aによって内周面11aに押し付けられているので、押し付けられていない場合と比較して、外周面21aまたは内周面11aの表面に沿って広がりやすい。このため、上記接続方法によれば、接着剤Adによる接着強度を高めて、第1の部材1と第2の部材2との間の接続強度を向上させることができる。
【0040】
(10)上記接続方法によれば、筒状端部11に内筒部21を挿入した際に、内周面11aに塗布された接着剤Adが内筒部21によって削り取られたとしても、筒状端部11と内筒部21との接着強度を高く維持することができる。即ち、外周面21aと内周面11aとの間の隙間Gに導入された接着剤Adの量が、内筒部21による削り取りによって意図していた量より少なくなったとしても、接着剤Adを外周面21aによって押し広げることができる。そのため、外周面21a及び内周面11aの接着剤Adとの接触面(接着面)の大きさを十分に確保できる。
【0041】
なお、上記第1実施形態では、筒状端部11にボルト挿通孔13が形成されていたが、
図7に示したように、ボルト挿通孔13は省略してもよい。この変形例は、ボルト5が筒状端部11を貫通しない点を除き、第1実施形態と同様の構成を備えている。従って、少なくとも上記(1)~(7)及び(9)~(10)の作用効果を得ることができる。
【0042】
次に、第2及び第3実施形態、並びに、他の実施形態にかかる接続部Jの構造及び接続方法について、
図8乃至
図12を参照して説明する。なお、各実施形態の説明では、先行する実施形態及び変形例と異なる構成についてのみ説明することとし、先行する実施形態等において既に説明した要素と同じ機能を有する要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0043】
<第2実施形態>
第2実施形態にかかる接続部Jは、
図8乃至
図11に示すように、第1の部材1、第2の部材2、ボルト5に加え、例えば樹脂または金属からなるピストン部材8を更に備える。
【0044】
図8に示すように、ピストン部材8は、第2の部材2の底壁部6に接着剤Adを押し付けるためのピストン本体81と、ピストン本体81から突出した2本のロッド部82と、を有する。
図9に示す接続部Jにおいて、ピストン本体81は、内筒部21の内周面21bに嵌合されている。ロッド部82は、各々、スリット4を介して隙間S
A内まで突出しており、筒状端部11が隙間S
Aに挿入されたときに当該筒状端部11と干渉し得る位置まで延びている。図示した例では、ピストン本体81は、円柱状の形状を有しており、柱状空間S
C2内でロッド部82周りの回転(裏返り)を、側面81aと内筒部21の内周面21bとの摺接により防止し得る程度に十分な厚さを有している。
【0045】
本実施形態にかかる接続部Jでは、ピストン本体81と底壁部6との間に、接着剤Adが設けられている。また、内筒部21の外周面21aと筒状端部11の内周面11aとの間または筒状端部11の外周面11bと外筒部31の内周面31aとの間のいずれか一方または両方にも、接着剤Adが設けられている。
【0046】
次に、本実施形態において、第1の部材1と、第2の部材2とを接続する方法について説明する。
【0047】
まず、内筒部21の柱状空間SC2の内に接着剤Adを設置する。
【0048】
次に、2本のロッド部82を、各々スリット4の開口41からスリット4内に進入させつつ、ピストン本体81を、内筒部21の開口22から柱状空間S
C2内に進入させる。そして、
図10に示すように、2本のロッド部82を各々スリット4を介して隙間S
Aの内部に突出させた状態で、ピストン本体81を、接着剤Adよりも先端21Aa側の位置で、内筒部21の内周面21bに嵌合させる。
【0049】
次に、
図11に示すように、筒状端部11の先端部11Aを隙間開口32に差し込んで、環柱状の隙間S
Aに筒状端部11を挿入する。このとき、筒状端部11の先端部11Aで2本のロッド部82を押すことで、ピストン本体81を底壁部6側へ移動させ、接着剤Adを底壁部6に押し付ける。そして、接着剤Adを、スリット4を介して隙間S
Aの内部に押し出しつつ、環柱状の隙間S
Aに筒状端部11の先端側から流入させる。より詳細には、接着剤Adを、内筒部21の外周面21aと筒状端部11の内周面11aとの間または筒状端部11の外周面11bと外筒部31の内周面31aとの間のいずれか一方または両方に、筒状端部11の先端側から隙間開口32に向けて流入させる。これにより、接着剤Adは、
図9に示すように、環柱状の隙間S
A内に行き渡ることができる。
【0050】
他の工程は、第1実施形態の接続方法と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
(11)本実施形態によれば、接着剤Adが、内筒部21の外周面21aと筒状端部11の内周面11aとの間または筒状端部11の外周面11bと外筒部31の内周面31aとの間に、筒状端部11の先端側から流入する。このため、接着剤Adを塗布した筒状端部11を隙間SAに挿入する場合に起こり得る、内筒部21や外筒部31による接着剤Adの削り取りや、隙間SA内への空気の巻き込みが起こらない。従って、本実施形態によれば、接着剤Adが、筒状端部11と内筒部21との間や筒状端部11と外筒部31との間に隙間なく充填されやすくなり、筒状端部11と内筒部21及び外筒部31との間の接着強度をより向上させることができる。
【0052】
<第3実施形態>
第3実施形態にかかる接続部Jでは、内筒部21に、他の部分よりも剛性の低い低剛性部9が形成されている。低剛性部9は、ボルト5よりも基端23側におけるスリット4の近傍部に設けられている。
図12に示した例では、低剛性部9は、その軸直交方向の断面積が、他の部分のそれよりも小さくなるように構成されている。具体的には、内筒部21の基端23側の端部42においてスリット4の内周縁部43に切欠き91が形成されている。切欠き91は、内筒部21の基端23に向かうに従って(即ち、ボルト5の位置から離れるに従って)スリット幅Wが増大するような形状を有している。従って、内筒部21の軸直交方向の断面は、基端23(ボルト5から最も離れた位置)において最も小さくなっている。
【0053】
(12)本実施形態によれば、ボルト5よりも基端23側におけるスリット4の近傍部に低剛性部9が設けられているので、低剛性部9を起点とする内筒部21の曲げ変形が起こりやすくなり、内筒部21が軸直交方向に拡大変形しやすくなる。一方、低剛性部9以外の部分は、相対的に剛性が高く、曲げ変形が起きにくい。そのため、スリット4を押し拡げようとするボルト5の力を、筒状端部11の内周面11aに押し付けられている外周面21aに、より確実に伝達することができ、外周面21aから内周面11aに付与される押圧力をより高めることができる。
【0054】
(13)また、本実施形態によれば、内筒部21のボルト5から最も離れた部分に低剛性部9が設けられている。このため、ボルト5の近くに低剛性部9が設けられた場合と比較して、外周面21aにおいてより大きな押圧力を得ることができる。
【0055】
なお、切欠き91の形状は、図示したものに限らず、半円状、三角形状などであってもよい。切欠き91の個数は、図示したものに限らず、スリット4に沿って複数形成されてもよい。また、スリット4の内周縁部43の切欠き91に替えて、または加えて、内筒部21の外周面21aに例えば周方向に延びるスロットを形成することによって低剛性部9を構成してもよい。
【0056】
<他の実施形態>
他の実施形態では、内周面11aと外周面21aとの間の摩擦力により十分な接続強度を得ることができる場合には、接着剤Adの一部または全部を省略してもよい。これにより、接着剤Adの使用量を低減することができる。
【0057】
また、別の他の実施形態では、外筒部31やボルト孔33を省略してもよい。この場合、例えば、ボルト5の先端部に、先端外径が自然状態におけるスリット幅Wよりも小さいテーパ雄ねじを形成してもよい。この先端部のテーパ雄ねじをスリット4にねじ込むことにより、スリット4を押し拡げながら、ボルト5をスリット4内に進入させることができる。
【0058】
更に別の他の実施形態では、外筒部31は、第2の部材2に固定されていなくてもよい。例えば、外筒部31を、筒状端部11の外周面11bに嵌着した環状の部材とし、当該部材にボルト孔33とボルト挿通孔34とを設けてもよい。
【0059】
更に別の実施形態では、ボルト5に替えて、または加えて、ピン部材として、例えば先細ピンを採用してもよい。先細ピンは、自然状態におけるスリット幅Wより小径の先端部と、スリット幅Wより大径の軸部と、先端部から軸部にかけて外径が漸増するテーパ部とを備えることで、スリット4に圧入可能に構成することができる。先細ピンは、外筒部31または筒状端部11に、接着剤Adを用いて固定してもよいし、先端部に雄ねじを設け、これに螺合するナットを用いて固定してもよい。
【0060】
更に別の実施形態では、内筒部21に形成されるスリット4の数は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。各スリット4には、それぞれ別個のピン部材(ボルト5、先細ピンなど)を差し込んでもよい。更に別の実施形態では、筒状端部11、内筒部21、及び外筒部31の断面形状は、楕円形状、多角形状などであってもよい。
【0061】
更に別の他の実施形態としては、上記の実施形態(それらの変形例含む)のなかから選択される2以上の実施形態を組み合わせたものがある。これら組み合わせにかかる実施形態では、組み合わされた各要素にあたる実施形態の各効果を得ることができる。
【0062】
上記実施形態及び変形例は、発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎない。発明の技術的範囲は、上記実施形態及び変形例で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含むものである。
【符号の説明】
【0063】
J 接続部
1 第1の部材
11 筒状端部
11a 内周面
11b 外周面
SC1 柱状空間
2 第2の部材
21 内筒部
21a 外周面
21b 内周面
21Aa 先端
23 基端
31 外筒部
31a 内周面
33 ボルト孔
SC2 柱状空間
SA 環柱状の隙間
6 底壁部
X 軸方向
4 スリット
42 端部
5 ボルト(ピン部材)
8 ピストン部材
81 ピストン本体
82 ロッド部
9 低剛性部
Ad 接着剤