(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】プレスによる穴開け加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/24 20060101AFI20240903BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20240903BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B21D28/24 Z
B21D28/00 A
B21D22/20 E
(21)【出願番号】P 2020211086
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 茂
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-10860(JP,A)
【文献】特開平5-293557(JP,A)
【文献】実開昭57-003425(JP,U)
【文献】特開2017-024035(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109201(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1161822(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/00-28/36
B21D 22/20
B26F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランクのプレス加工によってプレス方向に対して傾斜した傾斜部を形成するとともに、この傾斜部に穴を形成するプレスによる穴開け加工方法であって、
上記ブランクに、上記傾斜部の傾斜方向に相対し各々上記穴の周縁部を部分的に形成する少なくとも2つの貫通部を形成し、
上記ブランクのプレス加工によって上記傾斜部を形成し、
上記傾斜部をプレスした状態で上記相対する少なくとも2つの貫通部が繋がるようにパンチによるピアス加工を行なって上記穴を形成することを特徴とするプレスによる穴開け加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記ピアス加工では、上記傾斜部を形成するときの上記ブランクのプレス方向に上記パンチを進出させることを特徴とするプレスによる穴開け加工方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記貫通部はピアス加工による貫通穴であることを特徴とするプレスによる穴開け加工方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
上記貫通部はブランキングと同時に形成することを特徴とするプレスによる穴開け加工方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
上記ブランクが高張力鋼板よりなることを特徴とするプレスによる穴開け加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレスによる穴開け加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス加工において、プレス方向に対して傾斜した傾斜部にピアス穴を設けることは一般に行なわれている。例えば、特許文献1には、ブランクに対してピアス加工を行なってピアス穴を形成した後、そのピアス穴を有する部分をプレス加工によって周辺部に対して傾斜させることが記載されている。特許文献2には、ブランク対してに上型を下降させてプレス曲げ加工により傾斜部を形成するとともに、その状態でさらに打抜きパンチを下降させて傾斜部にピアス穴を形成することが記載されている。
【0003】
特許文献3には、ブランクから製品の外形をプレス切断加工する際、加工中に製品が切り離されないように、ブランク本体と製品とを繋ぐミクロジョイントを残し、その後にミクロジョイントを切断して製品を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭63-041660号公報
【文献】特開平09-10860号公報
【文献】特開2001-179357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のように、上型を下降させてプレス曲げ加工により傾斜部を形成し、続けて打抜きパンチを下降させてピアス穴を形成する場合、パンチは傾斜部に対して直交する方向からではなく斜め方向から当たることになる。そのため、穴開け時に、パンチの刃損(刃の折損)やパンチの滑り、穴開け不良を招く懸念がある。
【0006】
これに対して、上型とパンチの間にカムを組み込み、上型が下降するときにカムによってパンチの進む方向が傾斜部に対して直交する方向になるようにすることが考えられる。所謂カムピアスである。この方法では、パンチの滑りは生じ難くなるものの、パンチの刃損を生じないというわけでは必ずしもない。特に、ブランクが高張力鋼板であるときには、刃損問題が顕著になる。また、カムピアスの場合は金型構造が複雑になると共に、金型の高コスト化を招く。
【0007】
そこで、本発明は、プレスによる傾斜部に対する穴開け加工においてパンチの刃損やパンチの滑りを招くことなく、穴を精度良く形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、プレス加工前のブランクに、形成すべき穴の周縁部を部分的に形成する貫通部を設けておくようにした。
【0009】
ここに開示するプレスによる穴開け加工方法は、ブランクのプレス加工によってプレス方向に対して傾斜した傾斜部を形成するとともに、この傾斜部に穴を形成する方法であって、
上記ブランクに、上記傾斜部の傾斜方向に相対し各々上記穴の周縁部を部分的に形成する少なくとも2つの貫通部を形成し、
上記ブランクのプレス加工によって上記傾斜部を形成し、
上記傾斜部をプレスした状態で上記相対する少なくとも2つの貫通部が繋がるようにパンチによるピアス加工を行なって上記穴を形成することを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、傾斜部に対するピアス加工では、形成すべき穴の周縁部を形成する2つの貫通部が既に設けられているから、傾斜部を打ち抜く際の抵抗が小さくなる。よって、ブランクが高張力鋼のような強度が高い材料からなる場合であっても、パンチの刃損を生じ難くなる。
【0011】
また、上記2つの貫通部は当該傾斜部の傾斜方向に相対しているから、パンチの当該傾斜方向に相対する部分が受ける抵抗が小さくなる。従って、傾斜部を形成するときのプレス方向にパンチを進める場合でも、傾斜部においてパンチが滑ることが抑制され、また、カムピアス方式を採用する場合において、パンチを傾斜部に対して必ずしも直交するように当てなくても、パンチの滑りを生じ難くなる。
【0012】
よって、本発明によれば、傾斜部に必要な穴を形状精度良く形成することができる。
【0013】
一実施形態では、上記ピアス加工では、上記傾斜部を形成するときの上記ブランクのプレス方向に上記パンチを進出させる。
【0014】
従って、傾斜部のピアス加工のために金型にカム機構を組み込む必要はなくなる。よって、金型構造の複雑化、金型コストの上昇が抑えられる。
【0015】
上記貫通部は、形成すべき穴の周縁に沿って延びる、切り込み加工によるスリットであっても、ピアス加工による貫通穴であってもよい。スリットとは違って貫通穴の場合は、その後の上記パンチによるピアス加工において、貫通穴から周囲に向かって亀裂が入ることが避けられる。
【0016】
一実施形態では、上記貫通部はブランキングと同時に形成される。ブランキング後に貫通部を形成することもできるが、ブランキングと同時に貫通部を形成するという工程集約により、生産性及び加工精度の向上に有利になる。
【0017】
一実施形態では、上記ブランクが高張力鋼板よりなる。引張強度が590MPa以上、さらには1180MPa以上の高張力鋼板よりなるブランクでは、上述のパンチの刃損や滑りを特に生じ易くなるところ、本発明によれば、その防止に有利になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、予めブランクにプレス成形すべき傾斜部の傾斜方向に相対する少なくとも2つの貫通部を形成しておき、このブランクのプレス加工によって上記傾斜部を形成し、しかる後に上記相対する少なくとも2つの貫通部が繋がるようにパンチによるピアス加工を行なうから、パンチの刃損や滑りを招くことなく、形状精度が高い穴を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】プレス成形品を車体フレームに組み付けた正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
<プレス成形品>
本実施形態では、
図1乃至
図3に示す鋼製成形品1をプレス加工によって得る。このプレス成形品1は、
図1に示すように、自動車の前部座席と後部座席の間に位置しサイドシル8からルーフレール9にわたって延びるBピラーのインナレインフォースメントであり、高張力鋼よりなる。図示は省略するが、そのBピラーは、アウタパネルとインナパネルを備えていて、この両パネル間に、
図3に示すように、当該成形品(インナレインフォースメント)1とアウタレインフォースメント2が設けられる。なお、
図1は成形品1等を車体内側から見た図であるが、
図3は成形品を車体外側から見た図である。
【0022】
アウタレインフォースメント2は上端がルーフレール8に接合され、下端がサイドシル9に接合される。成形品1は、アウタレインフォースメント2の上下方向に延びる凹部2aに嵌められてアウタレインフォースメント2に重ねられる。成形品1は自動車の側突対策としてBピラーのドアヒンジ部からルーフレール9の近辺に至る部分を補強する。
【0023】
成形品1はアウタレインフォースメント2にサブアッシーされる。そのための位置決め治具に2本の位置決めピンが設けられていて、その位置決めピンが嵌入する位置決め穴3,4が成形品1の上部と下部に形成されている。下部位置決め穴4への位置決めピンの挿入によって、成形品1はアウタレインフォースメント2に対する上下方向及び車体前後方向の相対的な位置決めがなされる。上部位置決め穴3への位置決めピン10の挿入により、成形品1はアウタレインフォースメント2に対して下部位置決め穴4の位置決めピンを軸として回転することがないように位置決めされる。
【0024】
成形品1の位置決め穴3は、
図4に示すように、上下の丸穴部3a,3bを中間の上下に延びる溝穴部3cで結んだ言わばひょうたん形状になっている。上述の如く、位置決め穴3は、回転方向の位置決めであるから、位置決めピン10が当たる中間の溝穴部3cの両側縁の形状精度が重要になる。
【0025】
後に行なうプレス成形装置の説明で明らかにするが、位置決め穴3は、成形品1をプレス加工するときのプレス方向A(
図6参照)に対して傾斜した態様となる傾斜部5に形成されている。
【0026】
<プレス成形品の成形>
図5に高張力鋼板からブランキングされたブランク6を示す。ブランク6の位置決め穴3が形成される部位に2つの貫通穴7(本発明でいうところの貫通部)がブランク6の長手方向に間隔をおいて形成されている。一方の貫通穴7は、
図4に示す位置決め穴3の上側丸穴部3aの上半周縁部を形成し、他方の貫通穴7は下側丸穴部3bの下半周縁部を形成する。この2つの貫通穴7は上記傾斜部5の傾斜方向Bに相対している。この貫通穴7は、鋼板のブランキングと同時にパンチによって形成する。ブランキング及びパンチによる穴開けでは、高張力鋼板をその板面に対して直交する方向に打ち抜く。
【0027】
続いて、貫通穴7が形成されたブランク6をプレス加工によって成形品1の形状に成形するとともに、位置決め穴3を形成する。
【0028】
図6にプレス成形装置を示す。同図において、11はプレス成形用の下型、12はプレス成形用の上型、13は位置決め穴3を形成するためのパンチ、14はパンチ13を上型プレート(図示省略)に固定するパンチホルダである。
【0029】
同図の上下方向が上型12の昇降方向であり、従って、矢符Aがプレス方向である。上型プレートと上型12の間には上型12をパンチ13に先んじてプレス方向Aに下降させる油圧シリンダ(又は上型12をプレス方向Aに弾性的に付勢する弾性部材)が設けられている。上型プレートがプレス機械の昇降するスライダに取り付けられている。
【0030】
上記説明から明らかなように、当該プレス成形装置では、プレス機械のスライダーのプレス方向Aへの移動(下降)によってパンチ13がプレス方向Aに進出する(下降する)ようになされており、ピアス用カムは設けられていない。
【0031】
下型11の下面側と上型12の上面側にブランク5から成形品1を成形する成形面11a,12aが形成されている。下型11及び上型12の同図に示す部分の成形面11a,12aは、プレス方向Aに対して傾斜しており、成形面11a,12aによって成形品1の傾斜部5が形成される。
【0032】
下型11は、その成形面11aに開口するダイス15を備えている。ダイス15はパンチ13に対応する位置に設けられていて、その上面は成形面11aと面一になっている。上型12は、下型11のダイスに対応する部位に下方に開口するパンチ穴を有する傾斜部押え16を備えている。傾斜部押え16の下面は成形面12aと面一になっている。
【0033】
下型11の上面側にはパンチ受け凹部17が設けられている。パンチ13には凹部17の底に当たるクッション材18が嵌められている。
【0034】
上記プレス成形装置において、下型11の上にブランク6を位置決めし、プレス機械を作動させて上型プレートを下降させる。これにより、上型12がパンチ13に先んじて下降する。ブランク6は下型11の成形面11aと上型12の成形面12aの間でプレスされて、
図1,2に示す成形品形状に成形される。すなわち、
図7に示すように、予め穿設されていた2つの貫通穴7が傾斜方向Bに相対する態様になった傾斜部5が形成される。
【0035】
続いてパンチ13が上型12のプレス方向に下降して傾斜部5の2つの貫通穴の間を打ち抜く。
図7に鎖線で示すように、パンチ13は2つの貫通穴7に跨がるように設けられた角パンチである。当該パンチ13による両貫通穴7の間の打ち抜きによって、
図4に示す貫通穴7に由来する上下の丸穴部3a,3bが溝穴部3cで繋がれた位置決め穴3が形成される。
【0036】
上記パンチ13によるピアス加工は傾斜部5に対する穴開けであるが、上述の如く、2つの貫通穴7に跨がるようパンチ13を進出させて両貫通穴7の間を打ち抜く。従って、打ち抜く際の抵抗が小さくなる。特に、両貫通穴7は傾斜部5の傾斜方向に相対しているから、パンチ13の当該傾斜方向に相対する部分が受ける抵抗が小さくなる。
【0037】
よって、ブランク6が高張力鋼のような強度が高い材料からなる場合であっても、パンチ13の滑りや刃損を生じ難くなり、パンチ13の断面形状に対応する溝穴部3cを精度良く形成することができる。
【0038】
ここに、丸穴部3a,3bは、ブランク6に予め形成されていた貫通穴7に由来するから、傾斜部5をプレス成形するときの材料の伸びによって、その形状や位置が多少変化する。しかし、溝穴部3cは、傾斜部5がプレス成形された後の打ち抜きで形成されるから、プレス成形の影響は受けず、そうして、上述の如く、パンチ13の滑りや刃損も回避されるから、溝穴部3cの両側縁の形状精度が高くなる。この溝穴部3cの両側縁は、先に説明したように位置決めピンの挿入によって当該成形品1の回転ずれを防止するものであり、その形状精度が高いことにより、所期の回転位置決めに有利になる。
【0039】
また、上記実施形態では、上述の如く、パンチ13を傾斜部5に対して鋭角に当ててもパンチ13の滑りや刃損を生じないという理由で、パンチ13をプレス方向に進出させるようにしている。すなわち、カム機構によってパンチ13を傾斜部5に対して直交するように進出させる必要がないということである。従って、カム機構の組み込みによる金型構造の複雑化や金型コストの上昇が避けられる。
【0040】
図8は本発明の別実施形態の説明図である。先の実施形態では、傾斜部5の傾斜方向に相対する貫通部をピアス加工による貫通穴とした。当該別実施形態は、
図8(a)に示すように、ブランク6に設ける貫通部を切り込み加工によるスリット21とし、
図8(b)に示すように傾斜部5に矩形穴22を形成する。2つのスリット21は、形成すべき矩形穴22の相対する(傾斜部5の傾斜方向に相対する)2辺の縁に沿って延ばしている。当該スリット21を有するブランクをプレス成形した後に、
図8(a)に鎖線で示す角パンチ23を両スリット21に跨がるように進出させて、両スリット21を打ち抜くことにより、
図8(b)に示す矩形穴22を形成する。
【0041】
当該別実施形態においても、パンチ23の進出方向が傾斜部5に対して鋭角になっていても、その滑りや刃損を招くことなく、矩形穴22を精度良く形成することができる。
【0042】
なお、傾斜部に形成する穴の形状は上述の各実施形態の例に限るものではなく、円形穴であっても、楕円形穴であってもよい。貫通部をスリットとするとき、そのスリットは直線スリットに限らず、円弧状スリットであってもよい。
【0043】
また、上記各実施形態では傾斜方向に相対する貫通部を2つとしたが、傾斜方向に相対する一方に1つの貫通部を設け、他方に複数の貫通部を、形成すべき穴の周縁に沿って並ぶように設けてもよく、或いは両方にそれぞれ複数の貫通部を並べて設けてもよい。
【0044】
また、本発明は、パンチをカム駆動することを排除するものではない。例えば、傾斜部5のプレス方向Aに対する傾斜角度(プレス方向Aと直交する場合を基準とする傾斜角度)が大きいときは、カムを利用する場合もある。その場合でも、パンチの進出方向を傾斜部に対して直交するようになるまでカムによって変向させる必要はない。すなわち、カムによるパンチ進出方向の変向角度を大きくする必要がなく、従って、カムの円滑な作動に有利になる。
【0045】
また、本発明が、高張力鋼板に限らず、普通鋼板その他の金属板にも適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0046】
1 成形品
3 位置決め穴(傾斜部の穴)
5 傾斜部
6 ブランク
7 貫通穴(貫通部)
13 パンチ
21 スリット(貫通部)
22 矩形穴(傾斜部の穴)
23 パンチ