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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】画像読取装置および重送検知方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 7/12 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
B65H7/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020217782
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102815
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】松山 公弥
(72)【発明者】
【氏名】本田 大介
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135201(JP,A)
【文献】特開2009-113926(JP,A)
【文献】特開2012-144307(JP,A)
【文献】特開2000-095390(JP,A)
【文献】特開2017-039591(JP,A)
【文献】特開2019-163130(JP,A)
【文献】米国特許第10356260(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 7/00- 7/20
B65H 43/00-43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部による前記媒体の搬送路を挟む位置に配置され、駆動電圧に応じて超音波を発する発信部および前記超音波を受信する受信部と、
前記搬送部が搬送する前記媒体を読み取る読取部と、
受信する前記超音波に応じて前記受信部が出力する受信レベル信号に基づいて前記媒体の重送の有無を検知する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記媒体の先端が前記搬送路における前記発信部および前記受信部の位置に到達した後に、
前記受信レベル信号が所定のしきい値に満たない場合に、前記駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させ、
前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、基準変化量よりも小さい場合に重送と判定し、
前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、前記基準変化量よりも大きい場合に重送ではないと判定する、ことを特徴とする画像読取装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記駆動電圧を前記第2電圧とした後、前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量と前記基準変化量との比較を繰り返し行い、前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が前記基準変化量よりも小さい場合の回数が所定回数を超えたら重送と判定する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像読取装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記駆動電圧と、前記搬送部が搬送可能な前記媒体のうち最も厚い第1媒体が一枚搬送されるときの前記受信レベル信号と、の相関を規定した第1相関式を、前記画像読取装置の電源投入に伴い前記搬送路に前記媒体が無い状況で得られる前記受信レベル信号の大きさに応じて補正し、
補正後の前記第1相関式により得られる、前記第1電圧から前記第2電圧への前記駆動電圧の上昇分に対応する前記受信レベル信号の変化量に基づいて、前記基準変化量を決定する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像読取装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記駆動電圧と、前記搬送部が搬送可能な前記媒体のうち最も薄い第2媒体が重送されるときの前記受信レベル信号と、の相関を規定した第2相関式を、前記画像読取装置の電源投入に伴い前記搬送路に前記媒体が無い状況で得られる前記受信レベル信号の大きさに応じて補正し、
補正後の前記第2相関式により得られる、前記第1電圧から前記第2電圧への前記駆動電圧の上昇分に対応する前記受信レベル信号の変化量に基づいて、前記基準変化量を決定する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像読取装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記媒体の後端が前記搬送路における前記発信部および前記受信部の位置を通過した後、前記駆動電圧を前記第2電圧から前記第1電圧へ戻す、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の画像読取装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記駆動電圧を前記第2電圧とした後に、前記受信レベル信号が、前記駆動電圧が前記第1電圧であったときの前記受信レベル信号を下回る場合に、重送と判定する、ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の画像読取装置。
【請求項7】
前記制御部は、重送と判定した場合、前記搬送部による前記媒体の搬送を停止させ、かつ、重送が発生した旨を外部へ通知する、ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の画像読取装置。
【請求項8】
媒体が搬送される搬送路を挟む位置に配置される、駆動電圧に応じて超音波を発する発信部および前記超音波を受信する受信部を使用し、受信する前記超音波に応じて前記受信部が出力する受信レベル信号に基づいて前記媒体の重送の有無を検知する重送検知方法であって、
前記媒体の先端が前記搬送路における前記発信部および前記受信部の位置に到達した後、前記受信レベル信号が所定のしきい値に満たない場合に、前記駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させ、
前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、基準変化量よりも小さい場合に重送と判定し、
前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、前記基準変化量よりも大きい場合に重送ではないと判定する、ことを特徴とする重送検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取装置および重送検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スキャナー等の画像読取装置において、原稿としての媒体の重送検知のために、超音波センサーを搭載したものがある。関連技術として、超音波を出力する発信器と、受信した超音波に応じた信号を出力する受信器と、受信器が出力する信号としきい値とに基づいて、用紙の重送が発生したことを検出する重送検出装置が知られている(特許文献1参照)。
媒体を一枚の状態で搬送することを単送と呼び、複数枚重なった状態の媒体を搬送することを重送と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017‐109858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波センサーの発信器と受信器との間を通過する媒体の厚みが厚いほど、受信器が出力する信号のレベルは低下するが、重送検知のためのしきい値は、画像読取装置が置かれる一般的な使用環境下では厚紙が単送されたときの前記レベルを下回るような値に設定されている。しかしながら、使用環境の標高が高かったり、超音波センサーに経年劣化や発信器と受信器との位置ずれが生じていたり、気温やその他種々の要因の影響を受けたりして、実際は単送であるにもかかわらず、受信器が出力する信号のレベルが前記しきい値を下回って、重送と判定してしまうことがある。このような誤判定を回避し、重送検知の精度を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
画像読取装置は、媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部による前記媒体の搬送路を挟む位置に配置され、駆動電圧に応じて超音波を発する発信部および前記超音波を受信する受信部と、前記搬送部が搬送する前記媒体を読み取る読取部と、受信する前記超音波に応じて前記受信部が出力する受信レベル信号に基づいて前記媒体の重送の有無を検知する制御部と、を備え、前記制御部は、前記媒体の先端が前記搬送路における前記発信部および前記受信部の位置に到達した後に、前記受信レベル信号が所定のしきい値に満たない場合に、前記駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させ、前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、基準変化量よりも小さい場合に重送と判定し、前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、前記基準変化量よりも大きい場合に重送ではないと判定する。
【0006】
媒体が搬送される搬送路を挟む位置に配置される、駆動電圧に応じて超音波を発する発信部および前記超音波を受信する受信部を使用し、受信する前記超音波に応じて前記受信部が出力する受信レベル信号に基づいて前記媒体の重送の有無を検知する重送検知方法であって、前記媒体の先端が前記搬送路における前記発信部および前記受信部の位置に到達した後、前記受信レベル信号が所定のしきい値に満たない場合に、前記駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させ、前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、基準変化量よりも小さい場合に重送と判定し、前記駆動電圧の上昇に応じた前記受信レベル信号の変化量が、前記基準変化量よりも大きい場合に重送ではないと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】装置構成を簡易的に示すブロック図。
図2】画像読取装置の外観を示す図。
図3】重送検知処理を示すフローチャート。
図4】ステップS140の詳細を示すフローチャート。
図5】ステップS150の詳細を示すフローチャート。
図6】駆動電圧に応じた受信レベル信号の変化をグラフにより示す図。
図7図7Aは厚紙の単送を想定して時間進行に応じた受信レベル信号の変化を示す図、図7Bは薄紙の重送を想定して時間進行に応じた受信レベル信号の変化を示す図、図7Cは付箋が貼られた厚紙の単送を想定して時間進行に応じた受信レベル信号の変化を示す図。
図8】第1関数の補正により第2しきい値TH2を決定する処理を説明するための図。
図9】第2関数の補正により第2しきい値TH2を決定する処理を説明するための図。
図10図10Aは先端に付箋が貼られた厚紙の単送を想定して時間進行に応じた受信レベル信号の変化を示す図、図10Bは薄紙の重送であって先端に付箋が貼られた状況を想定して時間進行に応じた受信レベル信号の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率や形状が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0009】
1.装置構成:
図1は、本実施形態にかかる画像読取装置10の構成をブロック図により簡易的に示している。画像読取装置10は、原稿としての媒体を読み取り可能な装置であり、スキャナー、ファクシミリ、複合機等である。画像読取装置10は、プロセッサーに相当する制御部20を備える。制御部20は、CPU21、ROM22、RAM23を有するICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。
【0010】
制御部20では、CPU21が、ROM22や、その他のメモリー等に保存されたプログラム24に従った演算処理を、RAM23をワークエリアとして用いて実行することにより、画像読取装置10を制御する。プログラム24の少なくとも一部は、重送検知プログラムに該当する。画像読取装置10は、重送検知方法を実行する。プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア回路により処理を行う構成であってもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成であってもよい。
【0011】
画像読取装置10は、媒体を搬送する搬送部30と、搬送される媒体を読み取る読取部40とを備える。読取部40は、例えば、複数の光電変換素子を1次元状に並べてなるラインセンサーである。搬送部30は、一または複数のモーター31や、モーター31の動力によって回転する一または複数のローラー32や、ローラー32によって搬送される媒体を通過させる搬送路を備える。搬送路については、図2の符号33を参照のこと。ローラー32は、搬送路の一部を構成するとも言える。制御部20からの制御信号に応じてモーター31が駆動されるとローラー32が回転し、搬送部30は、媒体を搬送路の上流から下流へ搬送する。以下では、搬送路の上流、下流を、単に、上流、下流とも言う。このような搬送部30を有する画像読取装置10を、媒体搬送装置の一種と捉えることもできる。
【0012】
制御部20が搬送部30を制御して媒体を搬送路に沿って搬送させると、長手方向が搬送路と交差するように配設されているラインセンサーとしての読取部40が、搬送中の媒体の明暗または色に対応した読取信号を制御部20に出力する。制御部20は、読取部40による媒体の読取信号に基づいて画像データを生成し、画像データや画像データをフォーマット変換した出力データを、図示しない外部のコンピューター等に出力する。
【0013】
搬送路を挟む位置には、互いに対向するスピーカー51とマイクロフォン52とが配置されている。マイクロフォンをマイクと略す。スピーカー51およびマイク52は、搬送路における読取部40よりも上流の位置に配置されている。スピーカー51およびマイク52を、まとめて超音波センサーと呼ぶ。スピーカー51は駆動信号が入力されるとマイク52に向けて超音波を出力する。スピーカー51は、超音波を発する発信部に該当する。マイク52は、受信した超音波の音量に対応する信号を出力する。マイク52は、超音波を受信する受信部に該当する。スピーカー51とマイク52との間に媒体が有る状況では、超音波は減衰する。スピーカー51とマイク52との間に、複数枚の媒体が重なった状態で有れば、超音波はより大きく減衰する。マイク52が出力する信号を、受信レベル信号とも言う。
【0014】
マイク52の出力端子は、増幅回路60の入力端子に接続され、増幅回路60の出力端子は、A/D変換器70の入力端子に接続されている。A/D変換器70の出力端子は、制御部20の入力端子の一つに接続されている。A/D変換器70を制御部20の一部と解すれば、増幅回路60の出力端子は、制御部20へ接続されている。増幅回路60は、マイク52が受信して出力する信号を入力し、増幅した上で出力する。増幅回路60は、所定の増幅率を有する一つ以上のアンプや、バンドパスフィルターや、ピークホールド回路等を有する。
【0015】
増幅回路60による増幅後の信号は、A/D変換器70によりアナログデジタル変換された上で、制御部20に入力する。制御部20にとっては、A/D変換器70から入力するデジタル信号が、受信レベル信号である。制御部20は、搬送部30が搬送する媒体が搬送路におけるスピーカー51とマイク52との間を通過する期間に入力される受信レベル信号に基づいて、媒体の重送の有無を検知する。
【0016】
駆動回路71は、スピーカー51へ駆動信号を出力する。駆動回路71は、スピーカー51が超音波を出力するように超音波の周波数の交流信号を出力する発振回路である。電圧調整回路72は制御部20によって制御されて、駆動回路71へ駆動電圧を供給する。駆動回路71が出力する駆動信号の大きさは、電圧調整回路72による駆動電圧にほぼ比例する。スピーカー51が発する超音波の音量も、この駆動電圧にほぼ比例する。マイク52の出力もスピーカー51が発する超音波の音量に比例する。従って、制御部20は、電圧調整回路72が供給する駆動電圧を調整することにより、マイク52の出力を調整することができる。電圧調整回路72は、異なる複数の駆動電圧のいずれかを、制御部20の指示に応じて設定して出力することが可能である。以下では、電圧調整回路72が供給する駆動電圧を、単に、駆動電圧と記載する。
【0017】
図2は、画像読取装置10の外観を、画像読取装置10の横からの視点により簡単に示している。画像読取装置10は、本体1と、本体1の支持部2とを備える。図2では省略しているが、本体1は図1に示す構成を含んでいる。支持部2は、画像読取装置10が載置面4に載置された状態で、本体1を支持する。図2では、本体1内の搬送路33を二点鎖線で示している。搬送路33の上流は、給紙口34となっており、給紙口34の上流には給紙トレイ35が延伸している。つまり、給紙トレイ35に置かれた媒体が、搬送部30によって給紙口34から本体1内部に取り込まれて、搬送路33に沿って搬送される。給紙トレイ35を、原稿トレイとも言う。搬送路33の下流には、排紙トレイ36が設けられている。搬送部30は、搬送路33の途中で読取部40により読み取られた媒体をさらに下流へ搬送することにより、読取後の媒体を排紙トレイ36へ排出する。
【0018】
図1に示すように、画像読取装置10は、通知部25を有する。通知部25は、外部へ通知を行うための手段であり、具体的には、文字や画像を表示するための表示部や、ユーザーに向けた音声を発するためのスピーカーが該当する。通知部25としてのスピーカーは、超音波を発するスピーカー51とは別の物である。
【0019】
2.重送検知処理:
制御部20がプログラム24に従って実行する重送検知処理について説明する。
図3,4,5は、重送検知処理をフローチャートにより示している。このような重送検知処理の少なくとも一部が、重送検知方法に該当する。
図3のステップS100では、制御部20は、搬送部30の駆動を開始し、搬送部30に給紙トレイ35からの媒体の搬送を開始させる。
【0020】
ステップS110では、制御部20は、電圧調整回路72による駆動回路71への駆動電圧の供給を開始することにより、超音波センサーの駆動を開始する。ステップS110では、制御部20は、駆動電圧としての所定の第1電圧の供給を、電圧調整回路72に開始させる。
ステップS110に続いて、ステップS120では、制御部20は、A/D変換器70から入力する受信レベル信号の、一定時間間隔でのサンプリングを開始する。
【0021】
制御部20は、搬送部30が搬送する媒体の先端が、搬送路33におけるスピーカー51およびマイク52の位置、つまり超音波センサーの位置に到達した後、ステップS130を実行する。媒体の先端とは、媒体の下流を向く端部である。媒体の上流を向く端部を、媒体の後端と呼ぶ。スピーカー51とマイク52との間に媒体が有る場合は、無い場合と比較して、受信レベル信号の値が大幅に低下する。従って、制御部20は、受信レベル信号の大きさに基づいて、媒体の先端が搬送路33における超音波センサーの位置に到達したか否かを判定することができる。
ステップS130では、制御部20は、受信レベル信号と、重送検知のための所定のしきい値(以下、第1しきい値TH1)とを比較する。
【0022】
制御部20は、基本的には、受信レベル信号が第1しきい値TH1を超えていれば、適切な搬送、つまり単送と判定し、受信レベル信号が第1しきい値TH1に満たなければ、不適切な搬送、つまり重送と判定することができる。ただし本実施形態では、このような単純な比較に加え、特に図5で説明するような第2重送判定を行うことで、重送の有無についての検知精度を向上させる。制御部20は、ステップS130において、受信レベル信号が第1しきい値TH1を超えていれば“Yes”の判定からステップS140の第1重送判定へ進み、受信レベル信号が第1しきい値TH1に満たなければ“No”の判定からステップS150の第2重送判定へ進む。しきい値と、比較対象とが等しい場合の扱いは、プログラム24の設計上どちらでもよいが、図3の例では、受信レベル信号≦第1しきい値TH1の場合にステップS130からステップS150へ進む。
【0023】
図4は、ステップS140の詳細をフローチャートにより示している。
ステップS200では、制御部20は、ステップS130と同様に、受信レベル信号と第1しきい値TH1とを比較する。制御部20は、ステップS200において、受信レベル信号が第1しきい値TH1を超えていれば“Yes”の判定からステップS260へ進み、受信レベル信号が第1しきい値TH1以下であれば“No”の判定からステップS210へ進む。
【0024】
ステップS260では、制御部20は、媒体の搬送が終了したか否かを判定し、媒体の搬送が終了した場合は“Yes”と判定して、図3,4のフローチャートを終了する。一方、媒体の搬送が終了していない場合は、制御部20は、ステップS260において“No”と判定し、ステップS200に戻る。媒体の先端が搬送路33における超音波センサーの位置に到達したときとは逆に、媒体の後端が超音波センサーの位置を通過したときは、受信レベル信号の値が大幅に上昇する。従って、制御部20は、受信レベル信号の大きさに基づいて、媒体の後端が超音波センサーの位置を通過したと判定できたとき、ステップS260で“Yes”と判定すればよい。
【0025】
ステップS260や、後述のステップS380における搬送終了とは、あくまで重送検知処理にとっての搬送が終了したという意味である。ステップS260,S380で“Yes”と判定した後も、制御部20は、搬送中の媒体について、排紙トレイ36へ排出するまで搬送部30による搬送を継続する。言うまでもなく、媒体は、排出されるまでの過程で読取部40によって読み取られる。ステップS260の“Yes”の判定は、搬送部30により搬送中の媒体について制御部20が重送と判定しなかったことを意味し、これは、非重送つまり単送と判定したことに等しい。
【0026】
一方、ステップS210では、制御部20は、重送距離が所定距離以上であるか否かを判定する。ここで言う距離は、搬送路33に沿った距離であり、所定距離は、例えば数センチである。制御部20は、重送距離が所定距離に満たない場合は、“No”の判定からステップS200へ戻り、重送距離が所定距離以上である場合は、“Yes”の判定からステップS220へ進む。重送距離とは、ステップS200による“No”の判定が継続している期間中の搬送部30による媒体の搬送距離である。搬送部30による媒体の搬送速度は、制御部20にとって既知である。
【0027】
ステップS220では、制御部20は、搬送中の媒体について重送と判定する。つまり、ある程度の長さ以上の重送距離が発生したときに、重送を検知する。ステップS200,S210,S220の流れによれば、二枚の媒体が搬送方向においてややずれて重なった典型的な重送だけでなく、一枚の媒体の一部分に、ある程度の大きさの付箋が貼られている状況についても重送と判定することが可能である。
【0028】
ステップS230では、制御部20は、重送と判定したときに行うべき処理の設定が「停止」であるか否かを判定する。ユーザーは、制御部20が重送と判定したときに行うべき処理を、予め設定しておくことができる。制御部20は、重送と判定したときに行うべき処理の設定が「停止」であれば、“Yes”の判定からステップS240へ進み、この「停止」が設定されていなければ“No”の判定からステップS250へ進む。
【0029】
ステップS240では、制御部20は停止処理を行う。停止処理では、搬送部30による媒体の搬送を停止させる。さらに、停止処理では、制御部20は、読取部40による媒体の読取も停止させる。ステップS240を経て、ステップS250へ進む。
ステップS230で“No”と判定してステップS240をスキップした場合は、制御部20は、重送と判定しつつも、搬送部30や読取部40に、搬送や読取を継続させる。
【0030】
ステップS250では、制御部20は、重送が発生した旨の外部への通知処理を行い、その上で図3,4のフローチャートを終了する。ステップS250では、制御部20は、通知部25を制御し、例えば、文字やイラストによる表示、又は警告音や音声メッセージにより、重送が発生した旨をユーザーに向けて通知させる。
ステップS230の判定は無くてもよい。つまり、ステップS220の次に必ずステップS240を実行する構成であってもよい。
【0031】
図5は、ステップS150の詳細をフローチャートにより示している。
ステップS300では、制御部20は、一期間の受信レベル信号を算出する。ここで言う一期間とは、ステップS150の第2重送判定において受信レベル信号を一回算出するための単位であり、予め長さが決められている。上述したように、ステップS120以降、制御部20は、A/D変換器70から入力される受信レベル信号を一定時間間隔でサンプリングしている。一期間は、受信レベル信号をN回サンプリングできる期間に相当する。Nは2以上の整数である。従って、制御部20は、一期間中にN回サンプリングした受信レベル信号の平均値を、この一期間の受信レベル信号とすればよい。
【0032】
ステップS310では、制御部20は、電圧調整回路72が駆動回路71へ供給する駆動電圧を、現在の第1電圧から所定の第2電圧へ変更させる。第1電圧<第2電圧である。
ステップS310の後、制御部20は、所定時間の待機(ステップS320)を経て、ステップS330において、一期間の受信レベル信号を算出する。ステップS330の処理は、ステップS300と同じである。ただし、ステップS330では、ステップS300とは駆動電圧が異なるため、算出される受信レベル信号も、ステップS300で算出される値とは異なる。
【0033】
駆動電圧が第1電圧から第2電圧へ上昇することに伴い、受信レベル信号が変化する。制御部20は、駆動電圧を第2電圧へ上昇させた後、受信レベル信号がある程度安定してから一期間の受信レベル信号を算出するために、ステップS310の後、ステップS330の実行を所定時間待機する。
【0034】
ステップS340では、制御部20は、ステップS330で算出した受信レベル信号から、駆動電圧が第1電圧であったときの受信レベル信号を差し引いた差分(以下、差分)が、プラスの値であるか否かを判定する。駆動電圧が第1電圧であったときの受信レベル信号とは、ステップS300で算出した受信レベル信号である。差分は「駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量」である。制御部20は、差分がプラスの値であれば“Yes”の判定からステップS350へ進み、一方、差分がマイナスの値であれば“No”の判定からステップS360へ進む。
【0035】
ステップS350では、制御部20は、差分が、差分に対する所定のしきい値(以下、第2しきい値TH2)よりも大きいか否かを判定する。第2しきい値TH2は「基準変化量」に該当する。制御部20は、重送検知処理を開始するよりも前の、画像読取装置10が電源投入されたタイミングで、第2しきい値TH2を決定済みである。第2しきい値TH2の決定方法については後述する。制御部20は、差分が第2しきい値TH2より大きい場合、“Yes”の判定からステップS380へ進み、差分が第2しきい値TH2より小さい場合、“No”の判定からステップS360へ進む。図5の例では、差分≦第2しきい値TH2の場合にステップS350からステップS360へ進む。
【0036】
ステップS360では、制御部20は、重送カウントの値に、+1を加算する。重送カウントは、その値が大きいほど、重送である可能性が高いことを示す。制御部20は、ステップS150の開始時、重送カウントの値を0にリセットしておく。
【0037】
ステップS360を経たステップS370では、制御部20は、重送カウントの値が、重送カウントに対する所定のしきい値(以下、第3しきい値TH3)より大きいか否かを判定する。第3しきい値TH3は、1以上の整数である。制御部20は、重送カウントの値が第3しきい値TH3より大きい場合、“Yes”の判定からステップS390へ進み、ステップS390では、搬送中の媒体について重送と判定する。
【0038】
一方、重送カウントの値が第3しきい値TH3を超えない場合、制御部20は、ステップS370の“No”の判定からステップS380へ進む。
ステップS380では、制御部20は、媒体の搬送が終了したか否かを判定し、媒体の搬送が終了した場合は“Yes”と判定して、ステップS430へ進む。一方、媒体の搬送が終了していない場合は、制御部20は、ステップS380において“No”と判定し、ステップS330に戻る。
【0039】
ステップS380では、制御部20は、図4のステップ260と同様に、媒体の後端が超音波センサーの位置を通過したと判定できたときに“Yes”と判定すればよい。ステップS380の“Yes”の判定は、ステップS260の“Yes”と同様、搬送中の媒体について制御部20が重送と判定しなかったことを意味し、非重送つまり単送と判定したことに等しい。
【0040】
図6は、単送と重送とのそれぞれについて、駆動電圧に応じて受信レベル信号が変化する様子をグラフにより示している。図6では、横軸が駆動電圧であり、縦軸が受信レベル信号である。図6において、実線のグラフは、ある厚紙を単送した場合の受信レベル信号を示し、一点鎖線のグラフは、ある薄紙を重送した場合の受信レベル信号を示している。薄紙、厚紙とは、相対的な表現であり、必ずしも特定の用紙を指す訳ではないが、薄紙には、例えば、坪量が25g程度の用紙が該当する。また、厚紙には、例えば、坪量が100gや200gを超えるような用紙が該当する。坪量は1平方メートルあたりの重量であり、坪量が多いほど媒体の厚みが大きいと解してよい。
【0041】
駆動電圧V1は、第1電圧であり、駆動電圧V2は、第2電圧である。図6の二つのグラフにおいて、駆動電圧V1に対応する受信レベル信号は、いずれも第1しきい値TH1よりも小さいとする。つまり、上述した標高やその他の様々な要因により、単送時の受信レベル信号が、重送時の受信レベル信号と同様に、第1しきい値TH1を下回り、図3のステップS130で“No”と判定されることが有り得る。
【0042】
しかしながら、単送と重送とでは、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が異なる。重送が発生している場合、媒体と媒体との間に空気層が存在する。媒体間の空気層は、マイク52が受信する超音波信号を大幅に減衰させる。従って、図6の一点鎖線のグラフが示すように、重送時は、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が小さく、駆動電圧V1から駆動電圧V2への上昇に応じた受信レベル信号の変化量はY2に過ぎない。一方、単送時は、上述の空気層による減衰効果が無いため、図6の実線のグラフが示すように駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が大きく、駆動電圧V1から駆動電圧V2への上昇に応じた受信レベル信号の変化量は、Y2よりも大きいY1となっている。このようなことから、本実施形態では、ステップS130で“No”と判定した場合に、ステップS150を実行し、差分が第2しきい値TH2よりも小さい場合に重送と判定し、差分が第2しきい値TH2よりも大きい場合に重送ではないと判定する。
【0043】
ステップS430では、制御部20は、電圧調整回路72が駆動回路71へ供給する駆動電圧を第2電圧から第1電圧へ戻し、その上で図3,5のフローチャートを終了する。
ステップS390に続くステップS400,S410,S420については、ステップS220に続くステップS230,S240,S250の説明を同様に適用する。制御部20は、ステップS420に続いて、ステップS430へ進んだ上で図3,5のフローチャートを終了する。
【0044】
図7A,7B,7Cを参照して、ステップS150の第2重送判定を具体的に説明する。図7A,7B,7Cはいずれも、時間の進行に応じた受信レベル信号の変化を示している。図7A,7B,7Cにおいて、期間T1は、ステップS300による受信レベル信号の算出の対象となる一期間である。期間T1よりも後の期間T2,T3,T4,T5,T6,T7…は、それぞれがステップS330による受信レベル信号の算出の対象となる一期間である。これまでの説明から解るように、期間T1では、駆動電圧は第1電圧である。
【0045】
図7A,7B,7Cにおいて、期間T1の受信レベル信号は、第1しきい値TH1に満たないものとする。期間T1の終わりから期間T2の開始までの期間は、ステップS310,S320に該当する。つまり、期間T1の後、駆動電圧が第1電圧から第2電圧に上昇し、この上昇に応じて受信レベル信号も変化する。そして、この変化を経て受信レベル信号が安定したところで、期間T2が始まる。
【0046】
図7A,7B,7Cにおいて、期間T2に対応させて記載したYは、期間T2を対象としてステップS330で算出した受信レベル信号から、期間T1を対象としてステップS300で算出した受信レベル信号を差し引いた“差分”である。同様に、期間T3に対応させて記載したYは、期間T3を対象としてステップS330で算出した受信レベル信号から、期間T1を対象としてステップS300で算出した受信レベル信号を差し引いた“差分”である。このような、期間T2,T3,T4,T5,T6,T7…毎の差分Yが、ステップS350で第2しきい値TH2と比較される。
【0047】
図7Aは、厚紙が単送されている状況を想定した図である。つまり、厚紙が単送されるとき、標高等の要因により、駆動電圧が第1電圧であるときの受信レベル信号が第1しきい値TH1を下回ることがあるが、駆動電圧を第2電圧へ上昇させた後に期間T2,T3,T4,T5,T6,T7…毎に得られる各差分Yは、比較的大きい。そのため、各差分Yが、第2しきい値TH2を上回ることにより、ステップS350の各回で“Yes”と判定され、重送ではない旨の正しい判定結果が得られる。
【0048】
一方、図7Bは、薄紙が重送されている状況を想定した図である。薄紙の重送時、駆動電圧が第1電圧であるときの受信レベル信号は第1しきい値TH1を下回る。その後、駆動電圧を第2電圧へ上昇させても、期間T2,T3,T4,T5,T6,T7…毎に得られる各差分Yは比較的小さい。そのため、各差分Yが、第2しきい値TH2を下回ることにより、ステップS350の各回で“No”と判定され、重送カウントが第3しきい値TH3を超え、重送である旨の正しい判定結果が得られる。
【0049】
図7Cは、先端からある程度上流へ離れた位置に付箋が貼られた厚紙が単送されている状況を想定した図である。図7Aの説明と同様に、厚紙の単送時、駆動電圧が第1電圧であるときの受信レベル信号は第1しきい値TH1を下回ることがあるが、駆動電圧を第2電圧へ上昇させた後、期間T2に得られる差分Yは比較的大きくなる。ただし、図7Cの例では、付箋の影響により部分的な重送となり、媒体と共に付箋が超音波センサーを通過する期間T3,T4,T5,T6では、受信レベル信号が、期間T1の受信レベル信号よりも低下し、期間T3,T4,T5,T6毎の各差分Yがマイナスの値となる。そのため、期間T3,T4,T5,T6毎の各差分Yに対しては、ステップS340の各回で“No”と判定され、重送カウントが第3しきい値TH3を超えたとき、重送である旨の判定結果が得られる。つまり、付箋による部分的な重送も、重送の一種として検知することができる。
【0050】
3.基準変化量の決定方法:
基準変化量、すなわち第2しきい値TH2の決定方法を、図8を参照して説明する。
図8の上段には、搬送路33に媒体が無い状態で得られる受信レベル信号と、第1媒体を単送するときに得られる受信レベル信号との相関関係を規定した関数Faを示している。搬送路33に媒体が無い状態とは、スピーカー51とマイク52との間に媒体が無いという意味である。また、第1媒体は、画像読取装置10の搬送部30が搬送可能な媒体のうち最も厚い媒体を指す。受信レベル信号は、所定の階調範囲で表現されるデジタル値である。
【0051】
また、図8の下段には、駆動電圧と第1媒体が単送されるときの受信レベル信号との相関を規定した「第1相関式」に該当する第1関数F1を示している。第1関数F1は、標高や、気温や、超音波センサーや、制御部20等の各回路がいずれも理想的な環境や状態にあるときに、駆動電圧の変化に応じて得られる受信レベル信号を規定している。これら関数Faおよび第1関数F1は、予め生成されて制御部20が参照できる状態でメモリーに記憶されている。
【0052】
制御部20は、画像読取装置10の電源が投入されたタイミングで、以下のように第2しきい値TH2を決定する。制御部20は、画像読取装置10の電源が投入されたら、まず、駆動電圧V1の供給を電圧調整回路72に開始させて、搬送路33に媒体が無い状態で受信レベル信号を取得する。ここでは、図8に示すように、画像読取装置10の電源を投入したとき、駆動電圧V1に応じて、搬送路33に媒体が無い状態で受信レベル信号=230が取得されたとする。なお、図8や、後述の図9に示す具体的な数値は例に過ぎず、これら数値により本実施形態の開示範囲は狭められない。
【0053】
制御部20は、画像読取装置10の電源投入に伴い搬送路33に媒体が無い状況で得られる受信レベル信号の大きさに応じて、第1関数F1を補正する。具体的には、制御部20は、搬送路33に媒体が無い状態で取得した受信レベル信号=230を、関数Faで変換することにより、第1媒体を単送するときに得られる受信レベル信号=200を取得する。第1関数F1によれば、駆動電圧V1を供給する状況で第1媒体を単送したとき、理想的には、受信レベル信号=300が得られるはずである。しかしながら、現在の画像読取装置10が置かれた状況下では、駆動電圧V1を供給して第1媒体を単送した場合、受信レベル信号=200となることが計算により解った。そこで、制御部20は、この理想的な受信レベル信号=300に対する、計算により得た受信レベル信号=200の比率で、第1関数F1を補正する。つまり、第1関数F1に、当該比率を掛けることにより、補正後の第1関数F1´を得る。図8では、第1関数F1´を、二点鎖線で示している。
【0054】
制御部20は、第1関数F1´から、駆動電圧をV1からV2へ上昇させたときの受信レベル信号の変化量Z1を算出する。これにより、現在の画像読取装置10が置かれた状況下では、駆動電圧をV1からV2へ上昇させたとき、媒体を単送していれば、受信レベル信号は、少なくともZ1程度は変化することが解る。従って、制御部20は、第2しきい値TH2=Z1と決定すればよい。あるいは、制御部20は、Z1を、所定の係数を用いて幾らか小さい値に補正し、この補正後の値を、第2しきい値TH2としてもよい。このように、制御部20は、補正後の第1相関式により得られる、第1電圧から第2電圧への駆動電圧の上昇分に対応する受信レベル信号の変化量に基づいて、基準変化量を決定する。
【0055】
第2しきい値TH2の決定方法であって、図8を参照して説明した方法とは別の方法を、図9を参照して説明する。
図9の上段には、搬送路33に媒体が無い状態で得られる受信レベル信号と、第2媒体を重送するときに得られる受信レベル信号との相関関係を規定した関数Fbを示している。第2媒体は、画像読取装置10の搬送部30が搬送可能な媒体のうち最も薄い媒体を指す。また、図9の下段には、駆動電圧と第2媒体が重送されるときの受信レベル信号との相関を規定した「第2相関式」に該当する第2関数F2を示している。第2関数F2は、標高や、気温や、超音波センサーや、制御部20等の各回路がいずれも理想的な環境や状態にあるときに、駆動電圧の変化に応じて得られる受信レベル信号を規定している。これら関数Fbおよび第2関数F2は、予め生成されて制御部20が参照できる状態でメモリーに記憶されている。
【0056】
制御部20は、画像読取装置10の電源が投入されたタイミングで、以下のように第2しきい値TH2を決定する。制御部20は、画像読取装置10の電源が投入されたら、まず、駆動電圧V1の供給を電圧調整回路72に開始させて、搬送路33に媒体が無い状態で受信レベル信号を取得する。ここでは、図9に示すように、画像読取装置10の電源を投入したとき、駆動電圧V1に応じて、搬送路33に媒体が無い状態で受信レベル信号=230が取得されたとする。
【0057】
制御部20は、画像読取装置10の電源投入に伴い搬送路33に媒体が無い状況で得られる受信レベル信号の大きさに応じて、第2関数F2を補正する。つまり、制御部20は、搬送路33に媒体が無い状態で取得した受信レベル信号=230を、関数Fbで変換することにより、第2媒体を重送するときに得られる受信レベル信号=100を取得する。第2関数F2によれば、駆動電圧V1を供給する状況で第2媒体を重送したとき、理想的には、受信レベル信号=150が得られる。しかし、現在の画像読取装置10が置かれた状況下では、駆動電圧V1を供給して第2媒体を重送した場合、受信レベル信号=100となることが計算により解った。そこで、制御部20は、この理想的な受信レベル信号=150に対する、計算により得た受信レベル信号=100の比率で、第2関数F2を補正する。図9では、第2関数F2を補正した第2関数F2´を、二点鎖線で示している。
【0058】
制御部20は、第2関数F2´から、駆動電圧をV1からV2へ上昇させたときの受信レベル信号の変化量Z2を算出する。これにより、現在の画像読取装置10が置かれた状況下では、駆動電圧をV1からV2へ上昇させたとき、媒体を重送していれば、受信レベル信号は、最大でもZ2程度しか変化しないことが解る。従って、制御部20は、第2しきい値TH2=Z2と決定すればよい。あるいは、制御部20は、Z2を、所定の係数を用いて幾らか大きい値に補正し、この補正後の値を、第2しきい値TH2としてもよい。このように、制御部20は、補正後の第2相関式により得られる、第1電圧から第2電圧への駆動電圧の上昇分に対応する受信レベル信号の変化量に基づいて、基準変化量を決定してもよい。
【0059】
4.まとめ:
このように本実施形態によれば、画像読取装置10は、媒体を搬送する搬送部30と、搬送部30による媒体の搬送路33を挟む位置に配置され、駆動電圧に応じて超音波を発する発信部および超音波を受信する受信部と、搬送部30が搬送する媒体を読み取る読取部40と、受信する超音波に応じて受信部が出力する受信レベル信号に基づいて媒体の重送の有無を検知する制御部20と、を備える。そして、制御部20は、媒体の先端が搬送路33における発信部および受信部の位置に到達した後に、受信レベル信号が所定のしきい値(第1しきい値TH1)に満たない場合に、駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させ、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が、基準変化量(第2しきい値TH2)よりも小さい場合に重送と判定し、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が、基準変化量よりも大きい場合に重送ではないと判定する。
【0060】
前記構成によれば、使用環境の標高や気温や製品劣化やその他の要因により、媒体の単送について、受信レベル信号が所定のしきい値に満たないと判定した場合であっても、制御部20は、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量に応じて重送であるか否かを改めて判定する。これにより、単送を重送と誤判定することを抑制し、重送検知の精度を高めることができる。また、誤判定の可能性を抑制することで、重送と判定されてユーザーが原稿の再スキャンをする事態を少なくし、ユーザーの利便性を向上させる。
【0061】
また、本実施形態によれば、制御部20は、駆動電圧を第2電圧とした後、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量と基準変化量との比較を繰り返し行い、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が基準変化量よりも小さい場合の回数が所定回数(第3しきい値TH3)を超えたら重送と判定するとしてもよい。
前記構成によれば、制御部20は、単送であるにも関わらず重送と判定してしまう確率を、より低減することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、制御部20は、駆動電圧と、搬送部30が搬送可能な媒体のうち最も厚い第1媒体が一枚搬送されるときの受信レベル信号と、の相関を規定した第1相関式を、画像読取装置10の電源投入に伴い搬送路33に媒体が無い状況で得られる受信レベル信号の大きさに応じて補正し、補正後の第1相関式により得られる、第1電圧から第2電圧への駆動電圧の上昇分に対応する受信レベル信号の変化量に基づいて、基準変化量を決定する。
あるいは、制御部20は、駆動電圧と、搬送部30が搬送可能な媒体のうち最も薄い第2媒体が重送されるときの受信レベル信号と、の相関を規定した第2相関式を、画像読取装置10の電源投入に伴い搬送路33に媒体が無い状況で得られる受信レベル信号の大きさに応じて補正し、補正後の第2相関式により得られる、第1電圧から第2電圧への駆動電圧の上昇分に対応する受信レベル信号の変化量に基づいて、基準変化量を決定してもよい。
これら構成によれば、制御部20は、現在の画像読取装置10の環境や状況に基づいて、駆動電圧の変化に応じた単送時の受信レベル信号の変化量と重送時の受信レベル信号の変化量とを区別するための適切な基準変化量を決定することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、制御部20は、媒体の後端が搬送路33における発信部および受信部の位置を通過した後、駆動電圧を第2電圧から第1電圧へ戻す。
前記構成によれば、制御部20は、ある媒体について重送検知処理を終えた後、次に搬送される媒体についての重送検知処理を円滑に開始することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態によれば、制御部20は、駆動電圧を第2電圧とした後に、受信レベル信号が、駆動電圧が第1電圧であったときの受信レベル信号を下回る場合に、重送と判定するとしてもよい。
前記構成によれば、制御部20は、媒体の途中に付箋が貼られていて部分的な重送が発生していると言えるような場合に、重送と判定することができる。
【0065】
なお、ステップS130で“No”と判定した場合に実行する第2重送判定は、図5に示す通りでなくてもよい。例えば、ステップS340においてマイナスの値と判定される差分であれば、ステップS350において、第2しきい値TH2に満たないと判定される。従って、図5のフローチャートでは、制御部20は、ステップS340の判定を省略し、ステップS330の次にステップS350を実行してもよい。
【0066】
また、重送カウントの値と比較する第3しきい値TH3は、2以上の整数であってもよいが、一方で、0であってもよい。つまり、ステップS130で“No”と判定しているのであるから、制御部20は、その後、ステップS340又はステップS350で一度“No”と判定した場合は、ステップS390で重送と判定してもよい。
【0067】
また、本実施形態によれば、制御部20は、重送と判定した場合、搬送部30による媒体の搬送を停止させ、かつ、重送が発生した旨を外部へ通知するとしてもよい。
つまり、制御部20は、ステップS240,S250や、ステップS410,S420を行う。例えば、図5において、ステップS340で“No”と判定したことによりステップS390へ進んだ場合、制御部20は、ステップS420では、媒体に付箋が貼られているために媒体の読取に支障が生じるおそれがある旨を通知部25によりユーザーに対して通知してもよい。
【0068】
本実施形態は、画像読取装置10以外にも、重送検知方法や、方法をプロセッサーに実行させるプログラム24の発明を開示する。
媒体が搬送される搬送路を挟む位置に配置される、駆動電圧に応じて超音波を発する発信部および超音波を受信する受信部を使用し、受信する超音波に応じて受信部が出力する受信レベル信号に基づいて媒体の重送の有無を検知する重送検知方法は、媒体の先端が搬送路における発信部および受信部の位置に到達した後、受信レベル信号が所定のしきい値(第1しきい値TH1)に満たない場合に、駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させ、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が、基準変化量(第2しきい値TH2)よりも小さい場合に重送と判定し、駆動電圧の上昇に応じた受信レベル信号の変化量が、基準変化量よりも大きい場合に重送ではないと判定する。
【0069】
図10A、10Bを参照して、ステップS150の第2重送判定の具体例をさらに説明する。図10A、10Bの見方は、図7A,7B,7Cの見方と同じである。図10A、10Bにおいても、図7A,7B,7Cと同様に、期間T1の受信レベル信号は、第1しきい値TH1に満たない。
【0070】
図10Aは、先端に付箋が貼られた厚紙が単送されている状況を想定した図である。先端に付箋が貼られている影響で、駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させた後の期間T2において、差分Yは比較的小さく、第2しきい値TH2を超えない。しかし、先端の付箋が超音波センサーの位置を通過し終えた結果、期間T3,T4,T5,T6,T7…では受信レベル信号が上昇し、各差分Yは比較的大きい値となる。そのため、期間T3,T4,T5,T6,T7…では各差分Yが、第2しきい値TH2を上回り、ステップS350の各回で“Yes”と判定され、重送ではない旨の判定がされ易い。
【0071】
図10Bは、薄紙が重送されており且つその先端に付箋が貼られている状況を想定した図である。重送および先端に付箋が貼られていることの影響で、駆動電圧を第1電圧から第2電圧へ上昇させた後の期間T2において、差分Yは比較的小さく、第2しきい値TH2を超えない。また、先端の付箋が超音波センサーの位置を通過し終えた期間T3,T4,T5,T6,T7…においても、重送の影響で各差分Yは比較的小さい。そのため、各差分Yが、第2しきい値TH2を下回ることにより、ステップS350の各回で“No”と判定され、重送である旨の正しい判定結果が得られる。
【0072】
本実施形態は、原稿としての媒体を読み取る画像読取装置10に限らず、媒体を搬送する搬送装置全般に適用可能である。例えば、給紙トレイから媒体の搬送を開始して、搬送される媒体へ印刷部によりインクやトナーで印刷する印刷装置の構成にも、本実施形態の特徴を適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1…本体、2…支持部、10…画像読取装置、20…制御部、21…CPU、22…ROM、23…RAM、24…プログラム、25…通知部、30…搬送部、31…モーター、32…ローラー、33…搬送路、40…読取部(ラインセンサー)、51…スピーカー、52…マイク、60…増幅回路、70…A/D変換器、71…駆動回路、72…電圧調整回路、F1…第1関数、F1´…補正後の第1関数、F2…第2関数、F2´…補正後の第2関数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10