(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】シート、およびシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/20 20060101AFI20240903BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240903BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240903BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20240903BHJP
C08F 283/00 20060101ALI20240903BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240903BHJP
C08B 5/00 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
D21H11/20
C08J5/18 CEY
C08L101/02
C08L1/00
C08F283/00
C08F2/44 C
C08B5/00
(21)【出願番号】P 2020219420
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶田 圭一
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-181255(JP,A)
【文献】特開2017-141394(JP,A)
【文献】特開2009-167397(JP,A)
【文献】特開2016-037031(JP,A)
【文献】特開2013-127141(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138589(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0055697(US,A1)
【文献】特開2009-155384(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 41/00-41/32
C08B 1/00-37/18
C08F 283/00
C08F 2/44
C08J 5/00-5/24
C08L 101/02
C08L 1/00
D21B 1/00-D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線重合性化合物、および繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を紫外線硬化してなるシートであって、
前記微細繊維状セルロースが、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する基を有し、
微細繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する基の導入量が0.50mmol/g以上3.00mmol/g以下であり、
前記シート用組成物中に、紫外線重合性化合物が分散または溶解し、かつ、微細繊維状セルロースが分散してなり、
前記紫外線重合性化合物の分子量が500以上であり、
100℃以上150℃以下における線熱膨張率が30ppm/K以下であり、かつ、
イエローインデックス(YI値)が5以下である、
シート。
【請求項2】
紫外線重合性化合物および微細繊維状セルロースの合計量に対する微細繊維状セルロースの含有量が、20質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記シートの引張弾性率が、3GPa以上である、請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
前記シートの全光線透過率が、70%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート。
【請求項5】
前記シートのヘーズが、10%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
前記シート用組成物が、重合開始剤を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項7】
前記紫外線重合性化合物が、ラジカル重合性化合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシート。
【請求項8】
前記微細繊維状セルロースの平均繊維幅が、2nm以上10nm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシート。
【請求項9】
前記重合性化合物が、多官能ウレタンアクリレート系化合物、多官能アクリルアミド系単量体、および多官能アクリル酸エステル系化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載のシート。
【請求項10】
紫外線重合性化合物および繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を調製する工程、
前記シート用組成物を塗布および乾燥して、未硬化のシート状組成物とする工程、および前記未硬化のシート状組成物に紫外線を照射して、紫外線硬化する工程を有する、シートの製造方法であり、
前記微細繊維状セルロースが、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する基を有し、
微細繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する基の導入量が0.50mmol/g以上3.00mmol/g以下であり、
前記紫外線重合性化合物の分子量が500以上であり、
得られたシートの100℃以上150℃以下における線熱膨張率が30ppm/K以下であり、かつ、イエローインデックス(YI値)が5以下である、
シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートおよびシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替および環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維幅が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、とくに木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースも知られている。また、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロースと樹脂とを含む複合シート、および成形体が開発されている。微細繊維状セルロースを含有するシートや成形体においては、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。
特許文献1には、高い透明性と耐水性とを兼ね備えた微細繊維状セルロース含有シートを提供することを目的として、繊維幅が1,000nm以下の繊維状セルロースと、ポリオール由来の単位および含窒素化合物由来の単位を含む重合体と、を含有するシートが開示されている。
また、特許文献2には、透明性と耐水性に優れたシートを得ることを目的として、繊維幅が1,000nm以下の繊維状セルロースと、カチオン樹脂と、を含み、ヘーズが6%以下であるシートが記載されている。
【0003】
特許文献3には、繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースと、水系樹脂エマルションおよび水系樹脂ディスパージョンから選ばれる少なくとも1つに由来する樹脂と、湿潤紙力増強剤とを配合してなるシートであって、該シートの固形分中の該微細繊維状セルロースの配合量が50質量%以下であり、該シートの吸水率が50%以下であり、100~150℃における線熱膨張率が60ppm/K以下であり、かつ、ヘーズが10%以下である、シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-9116号公報
【文献】国際公開第2017/138589号
【文献】特開2020-193258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載されたシートでは、引張弾性率には優れるものの、耐水性が低いという問題があった。
また、特許文献3に記載されたシートでは、耐水性に優れるものの、引張弾性率の点では、改良が望まれていた。
本発明は、線熱膨張率が低く、黄色味が抑制された高い透明性を有し、高い引張弾性率を有する、シート、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、紫外線重合性化合物、および微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を紫外線硬化してなるシートにより、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<12>に関する。
<1> 紫外線重合性化合物、および繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を紫外線硬化してなるシートであって、100℃以上150℃以下における線熱膨張率が30ppm/K以下であり、かつ、イエローインデックス(YI値)が5以下である、シート。
<2> 紫外線重合性化合物および微細繊維状セルロースの合計量に対する微細繊維状セルロースの含有量が、20質量%以上80質量%以下である、<1>に記載のシート。
<3> 前記シートの引張弾性率が、3GPa以上である、<1>または<2>に記載のシート。
<4> 前記シートの全光線透過率が、70%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のシート。
<5> 前記シートのヘーズが、10%以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のシート。
<6> 前記シート用組成物が、重合開始剤を含有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載のシート。
<7> 前記紫外線重合性化合物が、ラジカル重合性化合物である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のシート。
<8> 前記微細繊維状セルロースの平均繊維幅が、2nm以上10nm以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のシート。
<9> 前記微細繊維状セルロースが、アニオン性基を有する、<1>~<8>のいずれか1つに記載のシート。
<10> 前記微細繊維状セルロースが、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する基を有する、<1>~<9>のいずれか1つに記載のシート。
<11> 前記重合性化合物が、多官能ウレタンアクリレート系化合物、多官能アクリルアミド系単量体、および多官能アクリル酸エステル系化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含有する、<1>~<10>のいずれか1つに記載のシート。
<12> 紫外線重合性化合物および繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を調製する工程、前記シート用組成物を塗布および乾燥して、未硬化のシート状組成物とする工程、および前記未硬化のシート状組成物に紫外線を照射して、紫外線硬化する工程を有する、シートの製造方法であり、得られたシートの100℃以上150℃以下における線熱膨張率が30ppm/K以下であり、かつ、イエローインデックス(YI値)が5以下である、シートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、線熱膨張率が低く、黄色味が抑制された高い透明性を有し、高い引張弾性率を有する、シート、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[シート]
本実施形態のシートは、紫外線重合性化合物、および繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロース(以下、単に微細繊維状セルロースともいう)を含有するシート用組成物を紫外線硬化してなるシートであって、100℃以上150℃以下における線熱膨張率が30ppm/K以下であり、かつ、イエローインデックス(YI値)が5以下である。
本実施形態によれば、高い透明性を有し、耐水性に優れ、高い引張弾性率を有し、線熱膨張率が低いシートが得られる。
上述した効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。本実施形態では、紫外線重合性化合物および微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を重合したシートであるため、重合により架橋構造が形成される。また、微細繊維状セルロースを含有するシートは、透明性が極めて高く、また、微細繊維状セルロースがフィラーとして機能することにより、紫外線重合性化合物の重合と相まって、線熱膨張率が低く、高い引張弾性率を有するシートが得られたと考えられる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本明細書において使用される用語の意味は以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、その両端の数値を含む範囲を意味する。
「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の総称であり、個別にはアクリルおよびメタクリルを意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリロイルオキシ」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」および「(メタ)アクリルアミド」についても同様である。
【0011】
≪シート用組成物≫
本実施形態のシートは、シート用組成物を紫外線硬化してなり、該シート用組成物は、紫外線重合性化合物および微細繊維状セルロースを含有する。
【0012】
<紫外線重合性化合物>
紫外線重合性化合物は、紫外線照射により重合開始剤から発生するラジカルやカチオンなどの反応性活性種の作用で重合する特性を有する。これらの中でも、紫外線重合性化合物は、硬化性に優れる観点、高い透明性を有し、耐水性に優れ、高い引張弾性率を有し、線熱膨張率が低いシートを得る観点から、ラジカル重合性化合物であることが好ましく、エチレン性不飽和基を有する化合物であることが好ましい。
紫外重合性化合物としては、低分子のいわゆるオリゴマーおよびモノマーの他、一般に高分子と称される化合物をも含むものとする。
紫外線重合性化合物が高分子化合物である場合、その骨格となる構造としては、たとえば、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレンオキシド化ポリビニルアルコール等)、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシド等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸エステル共重合体、ウレタン系共重合体、ポリヒドロキシスチレン系共重合体、ポリアルキレンイミンなどを挙げることができる。上記の中でもポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、アクリル酸エステル共重合体、ウレタン系共重合体、ポリアルキレンイミンを含有する構造を用いることがとくに好ましい。
上記の骨格を有すると、微細繊維状セルロースとの親和性に優れるため、好ましい。
紫外線重合性化合物は、上記の骨格となる構造に加えて、ラジカル重合性基(たとえば、エチレン性不飽和基)またはヘテロ小員環基を有することが好ましい。
【0013】
ヘテロ小員環基としては、たとえばエポキシ基やオキセタン基を挙げることができ、重合開始剤として、光カチオン重合開始剤との併用がとくに好ましい。
エチレン性不飽和基としては、たとえばアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を挙げることができ、重合開始剤として、光ラジカル重合開始剤との併用がとくに好ましい。
【0014】
また、紫外線重合性化合物として、オリゴマーまたはモノマーを使用してもよい。
とくに、オリゴマーまたはモノマーとしては、重合性不飽和基を有するオリゴマーまたはモノマー(以下、これらを総称して、「重合性不飽和化合物」ともいう。)が好ましい。
重合性不飽和化合物は、重合開始剤の存在下において紫外線を照射することにより重合する不飽和化合物である。このような重合性不飽和化合物としては、とくに限定されるものではないが、たとえば、2官能または3官能以上の多官能(メタ)アクリル酸エステルが、重合性が良好であり、かつ形成されるシートの強度が向上する点から好ましい。
【0015】
上記2官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの市販品としては、商品名で、たとえば、アロニックス(登録商標)M-220、同M-240(以上、東亞合成株式会社製)、KAYARAD(登録商標)HX-220、同R-604(以上、日本化薬株式会社製)、ビスコート260(大阪有機化学工業株式会社製)、ライトアクリレート1,9-NDA(共栄社化学株式会社製)、NKエステル2G、同3G、同4G、同9G、同14G、同23G、同A200、同A400、同A600(以上、新中村化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0016】
上記3官能以上の(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートとジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートとの混合物;
エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート;
イソシアヌル酸EO変性ジアクリレートとイソシアヌル酸EO変性トリアクリレートとの混合物;
グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンカーボネートアクリレート、エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレートが例示される。
【0017】
また、多官能(メタ)アクリル酸エステルとして、直鎖アルキレン基および脂環式構造を有し、かつ2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、分子内に1個以上の水酸基を有し、かつ3個、4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物とを反応させて得られる多官能ウレタンアクリレート系化合物等を挙げることができる。
上述した3官能以上の(メタ)アクリル酸エステルの市販品としては、商品名で、たとえば、アロニックス(登録商標)M-309、同M-400、同M-405、同M-450(以上、東亞合成株式会社製)、KAYARAD(登録商標)TMPTA、同DPHA、同DPCA-20、同DPCA-30、同DPCA-60、同DPEA-12(以上、日本化薬株式会社製)、ビスコート295(大阪有機化学工業株式会社製)や、多官能ウレタンアクリレート系化合物を含有する市販品として、UCECOAT(登録商標)7571、同7655、同7770、同7773、同7788、同7850(以上、ダイセル・オルネクス株式会社製)、ビームセット(登録商標)EM-90、同94(以上、荒川化学工業株式会社製)、NKオリゴUA-7000、同7100(以上、新中村化学工業株式会社製)や多官能グリセリンアクリレート系化合物を含有する市販品としてアロニックス(登録商標)M-930(東亞合成株式会社製)、NKエステルA-GLY-3E、同A-GLY-6E、同A-GLY-9E、同A-GLY-20E、同A-GLY-3P、同A-GLY-6P、同A-GLY-9P、同GLY-3E、同GLY-6E、同GLY-9E、同GLY-20E(以上、新中村化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0018】
また、多官能(メタ)アクリルアミド系単量体としては、多官能アクリルアミド系単量体が好ましく、N,N’-{[(2-アクリルアミド-2-[(3-アクリルアミドプロポキシ)メチル]プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(プロパン-1,3-ジイル)}ジアクリルアミド、N,N’,N”-トリアクリロイルジエチレントリアミン、N,N’-ジアクリロイル-4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン、N,N’-ジアクリロイルエチレンジアミンなどが例示される。
上記の多官能アクリルアミド系単量体の市販品としては、FOM-03006、FOM-03007、FOM-03008(以上、富士フイルム和光純薬株式会社製)、E1086(東京化成工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0019】
これらのうち、とくに、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート;
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物;
トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートとトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートとの混合物;
エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、多官能ウレタンアクリレート系化合物、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート;
エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート;
N,N’-{[(2-アクリルアミド-2-[(3-アクリルアミドプロポキシ)メチル]プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(プロパン-1,3-ジイル)}ジアクリルアミド、N,N’,N”-トリアクリロイルジエチレントリアミン、N,N’-ジアクリロイル-4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン、N,N’-ジアクリロイルエチレンジアミンなどの多官能アクリルアミド系単量体;およびこれらを含有する市販品等が好ましく、多官能ウレタンアクリレート系化合物、多官能アクリルアミド系単量体、および多官能アクリル酸エステル系化合物がより好ましい。これらを含有する市販品を使用してもよい。
上記のような多官能重合性不飽和化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
紫外線重合性化合物の分子量(分子量分布を有する場合には重量平均分子量)はとくに限定されないが、200以上であればよく、300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。また、紫外線重合性化合物の分子量(重量平均分子量)は10万以下であることが好ましく、5万以下であることがより好ましく、3万以下であることがさらに好ましい。
なお、重量平均分子量は、たとえば、GPCを用いて測定することができる。
【0021】
シート用組成物の固形分中の紫外線重合性化合物の含有量は、高い透明性を有し、耐水性に優れ、高い引張弾性率を有し、線熱膨張率が低いシートを得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0022】
〔光重合開始剤〕
本発明において、シート用組成物は、光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤(以下、単に「重合開始剤」ともいう。)は、紫外線に感応して、重合性を備えた化合物の重合を開始し得る活性種を生じる成分である。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤および光カチオン重合開始剤を挙げることができ、紫外線重合性化合物に応じて選択すればよい。光重合開始剤としては、たとえば、紫外線、とくに365nm付近で最もラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
この光ラジカル重合開始剤としては、たとえば、O-アシルオキシム化合物、アセトフェノン化合物、ビイミダゾール化合物、アシルホスフィンオキシド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
O-アシルオキシム化合物としては、たとえば、1-〔4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)〕、1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン-1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)、1-〔9-エチル-6-ベンゾイル-9H-カルバゾール-3-イル〕-オクタン-1-オンオキシム-O-アセテート、1-〔9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、1-〔9-n-ブチル-6-(2-エチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-エタン-1-オンオキシム-O-ベンゾエート、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)、エタノン-1-〔9-エチル-6-(2-メチル-4-テトラヒドロピラニルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)、エタノン-1-〔9-エチル-6-(2-メチル-5-テトラヒドロフラニルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)、エタノン-1-〔9-エチル-6-{2-メチル-4-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラニル)メトキシベンゾイル}-9H-カルバゾール-3-イル〕-1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0024】
アセトフェノン化合物としては、たとえば、α-アミノケトン化合物、α-ヒドロキシケトン化合物等が挙げられる。
α-アミノケトン化合物としては、たとえば2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン等が挙げられる。
α-ヒドロキシケトン化合物としては、たとえば、1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-i-プロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-1-{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン等が挙げられる。
【0025】
ビイミダゾール化合物としては、たとえば、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール等が挙げられる。
アシルホスフィンオキシド化合物としては、たとえば2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、リチウム フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィネート等が挙げられる。
【0026】
光カチオン重合開始剤としては、光により酸を発生するものであればとくに限定されないが、たとえば、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C6F5)4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、CF3SO3
-塩;スルホン酸を発生するスルホン化物;ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物;鉄アレン錯体などが挙げられる。
【0027】
シート用組成物における光重合開始剤の含有量としては、紫外線重合性化合物100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。この範囲で光重合開始剤を使用することで、すぐれた重合性を付与することができる。また、光重合開始剤の含有量をこのような範囲とすることで、本実施形態のシート用組成物は、低露光量であっても、優れた重合性(硬化性)を発現することができる。
【0028】
紫外線重合性化合物および光重合開始剤は、水、アルコール、またはこれらの混合溶媒の少なくとも1つに溶解または分散することが好ましく、溶解することがより好ましい。これにより、後述する塗工の工程が容易となるので好ましい。
なお、紫外線重合性化合物および光重合開始剤が、水、アルコール、またはこれらの混合溶媒の少なくとも1つに溶解するとは、紫外線重合性化合物および光重合開始剤が、水、炭素数1以上6以下のアルコール(好ましくは炭素数1以上4以下のアルコール、より好ましくは炭素数1以上3以下のアルコール)、または、水と炭素数1以上6以下のアルコールとの混合溶媒100gに対して、25℃、大気圧下にて、1g以上溶解することを意味する。
また、紫外線重合性化合物および光重合開始剤が水、アルコール、またはこれらの混合溶媒の少なくとも1つに溶解または分散することにより、微細繊維状セルロースとの親和性が高く、均一な塗工液を調製することができるので好ましい。
【0029】
<微細繊維状セルロース>
本発明において、シート用組成物は、微細繊維状セルロースを含有する。
微細繊維状セルロースは、繊維幅が1,000nm以下である繊維状セルロースである。なお、繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
微細繊維状セルロースの繊維幅は、1,000nm以下である。微細繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。微細繊維状セルロースの繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。
【0030】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1,000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、2nm以上1,000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0031】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1,000倍、5,000倍、10,000倍あるいは50,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。ただし、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0032】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0033】
微細繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1,000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0034】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0035】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10,000以下であることが好ましく、50以上1,000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0036】
本実施形態における微細繊維状セルロースは、たとえばイオン性基および非イオン性基のうちの少なくとも1種を有する。分散媒中における繊維の分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高める観点からは、微細繊維状セルロースがイオン性基を有することがより好ましい。イオン性基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。また、非イオン性基としては、たとえばアルキル基およびアシル基などを含むことができる。本実施形態においては、イオン性基としてアニオン性基を有することがとくに好ましい。
なお、微細繊維状セルロースには、イオン性基を導入する処理が行われていなくてもよい。
【0037】
イオン性基としてのアニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基(単に硫黄オキソ酸基ということもある)、ザンテート基、ホスホン基、ホスフィン基、スルホン基、カルボキシアルキル基等を挙げることができる。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、硫黄オキソ酸基、硫黄オキソ酸基に由来する置換基、カルボキシメチル基、スルホン基よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基、リンオキソ酸基に由来する置換基、カルボキシ基、硫黄オキソ酸基、および硫黄オキソ酸基に由来する置換基よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることがとくに好ましい。アニオン性基としてリンオキソ酸基を導入することにより、たとえば、アルカリ性条件下や酸性条件下においても、繊維状セルロースの分散性をより高めることができ、結果として高強度かつ高透明なシートが得られやすくなる。
イオン性基としてのカチオン性基としては、たとえばアンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を挙げることができる。中でもカチオン性基はアンモニウム基であることが好ましい。
【0038】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(1)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(1)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
【0040】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。n個あるαおよびα’のうち少なくとも1つはO-であり、残りはRまたはORである。なお、各αおよびα’の全てがO-であっても構わない。n個あるαは全て同じでも、それぞれ異なっていてもよい。βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0041】
Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0042】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはn-ブチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、またはt-ブチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、またはアリル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、または3-ブテニル基等が挙げられるが、とくに限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、とくに限定されない。芳香族基としては、フェニル基、またはナフチル基等が挙げられるが、とくに限定されない。
【0043】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、カルボキシレート基(-COO-)、ヒドロキシ基、アミノ基およびアンモニウム基などの官能基から選択される少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられるが、とくに限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数はとくに限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。なお、式(1)中にRが複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、たとえば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、たとえば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、たとえば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、式(1)中にβb+が複数個存在する場合や繊維状セルロースに上記式(1)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、とくに限定されない。
【0045】
リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基としては、より具体的には、リン酸基(-PO3H2)、リン酸基の塩、亜リン酸基(ホスホン酸基)(-PO2H2)、亜リン酸基(ホスホン酸基)の塩が挙げられる。また、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえば、ピロリン酸基)、ホスホン酸が縮合した基(たとえば、ポリホスホン酸基)、リン酸エステル基(たとえば、モノメチルリン酸基、ポリオキシエチレンアルキルリン酸基)、アルキルホスホン酸基(たとえば、メチルホスホン酸基)などであってもよい。
【0046】
<硫黄オキソ酸>
また、硫黄オキソ酸基(硫黄オキソ酸基または硫黄オキソ酸基に由来する置換基)は、たとえば下記式(2)で表される置換基である。各繊維状セルロースには、下記式(2)で表される置換基が複数種導入されていてもよい。この場合、複数導入される下記式(2)で表される置換基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
【0048】
上記構造式中、bおよびnは自然数であり、pは0または1であり、mは任意の数である(ただし、1=b×mである)。なお、nが2以上である場合、複数あるpは同一の数であってもよく、異なる数であってもよい。上記構造式中、βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、有機オニウムイオンを挙げることができる。有機オニウムイオンとしては、たとえば、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンを挙げることができる。有機アンモニウムイオンとしては、たとえば、脂肪族アンモニウムイオンや芳香族アンモニウムイオンを挙げることができ、有機ホスホニウムイオンとしては、たとえば、脂肪族ホスホニウムイオンや芳香族ホスホニウムイオンを挙げることができる。無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、もしくはマグネシウム等の2価金属のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、繊維状セルロースに上記式(2)で表される複数種の置換基が導入される場合には、複数存在するβb+はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βb+を含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、とくに限定されない。
【0049】
微細繊維状セルロースに対するイオン性基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、微細繊維状セルロースに対するイオン性基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることがよりさらに好ましい。イオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、イオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの増粘剤などの種々用途において良好な特性を発揮することができる。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの微細繊維状セルロースの質量を示す。
【0050】
繊維状セルロースに対するイオン性基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【0051】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。
図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、
図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、
図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。たとえば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の強酸性基量と弱酸性基量を足した値)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0052】
図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、
図2に示すような滴定曲線を得る。なお、必要に応じて、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
図2に示されるように、この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測される。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、
図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H
+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。
【0053】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量であることから、酸型の繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))(mmol/g)を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0054】
また、微細繊維状セルロースに対する硫黄オキソ酸基の導入量は、得られた繊維状セルロースを過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定する。
この硫黄量を、供試した繊維状セルロースの絶乾質量で除した値を硫黄オキソ酸基量(単位:mmol/g)とする。
【0055】
なお、滴定法による置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低い置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、たとえば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒間に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、たとえば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
上述の方法によるイオン性基量の測定は、繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースに適用され、繊維幅が1,000nmを超えるパルプ繊維のイオン性基の量を測定する場合には、パルプ繊維を微細化してから測定する。
【0056】
〔微細繊維状セルロースの製造方法〕
(セルロースを含む繊維原料)
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。
セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、竹、およびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。
また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0057】
上述のようなイオン性基を導入した微細繊維状セルロースを得るためには、上述したセルロースを含む繊維原料にイオン性基を導入するイオン性基導入工程、洗浄工程、アルカリ処理工程(中和工程)、解繊処理工程をこの順で有することが好ましく、洗浄工程の代わりに、または洗浄工程に加えて、酸処理工程を有していてもよい。イオン性基導入工程としては、リンオキソ酸基導入工程、カルボキシ基導入工程、硫黄オキソ酸基導入工程、ザンテート基導入工程、ホスホン基またはホスフィン基導入工程、およびスルホン基導入工程が例示される。以下、それぞれについて説明する。
【0058】
(イオン性基導入工程)
-リンオキソ酸基導入工程-
リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、とくに乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、とくに水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0059】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、とくに限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、たとえばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、とくに限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0060】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、とくにトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0062】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加または混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0063】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へ、より均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、たとえば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒間以上300分間以下であることが好ましく、1秒間以上1,000秒間以下であることがより好ましく、10秒間以上800秒間以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0064】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リンオキソ酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0065】
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0066】
-カルボキシ基導入工程-
カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、とくに限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0067】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、とくに限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、とくに限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0068】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0069】
-硫黄オキソ酸基導入工程-
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえば、硫黄オキソ酸基導入工程を含んでもよい。硫黄オキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と硫黄オキソ酸が反応することで、硫黄オキソ酸基を有するセルロース繊維(硫黄オキソ酸基導入繊維)を得ることができる。
【0070】
硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Aに代えて、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、硫黄オキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物C」ともいう)を用いる。化合物Cとしては、硫黄原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、硫酸もしくはその塩、亜硫酸もしくはその塩、硫酸アミドなどが挙げられるがとくに限定されない。硫酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば96%硫酸(濃硫酸)を使用することができる。亜硫酸としては、5%亜硫酸水が挙げられる。硫酸塩または亜硫酸塩としては、硫酸塩または亜硫酸塩のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。硫酸アミドとしては、スルファミン酸などを使用することができる。硫黄オキソ酸基導入工程では、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることが好ましい。
【0071】
硫黄オキソ酸基導入工程においては、セルロース原料に硫黄オキソ酸、ならびに、尿素および/または尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、硫黄オキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0072】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫黄オキソ酸、ならびに、尿素および/または尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、たとえば、10秒間以上10,000秒間以下とすることが好ましい。加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0073】
セルロース原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.50mmol/g以上であることがよりさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、セルロース原料に対する硫黄オキソ酸基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄オキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。
【0074】
-塩素系酸化剤による酸化工程(第二のカルボキシ基導入工程)-
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえば塩素系酸化剤による酸化工程を含んでもよい。塩素系酸化剤による酸化工程では、塩素系酸化剤を湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
【0075】
塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、亜塩素酸、亜塩素酸塩、塩素酸、塩素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、二酸化塩素などが挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点から、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素が好ましい。
塩素系酸化剤は、試薬をそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。
【0076】
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤の溶液中濃度は、たとえば有効塩素濃度に換算して、1質量%以上1,000質量%以下であることが好ましく、5質量%以上500質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
塩素系酸化剤の繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上5,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0077】
塩素系酸化剤による酸化工程における塩素系酸化剤との反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。
反応時のpHは、5以上15以下であることが好ましく、7以上14以下であることがより好ましく、9以上13以下であることがさらに好ましい。また、反応開始時、反応中のpHは塩酸や水酸化ナトリウムを適宜添加しながら一定(たとえば、pH11)を保つことが好ましい。また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0078】
-ザンテート基導入工程(キサントゲン酸エステル化工程)-
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえばザンテート基導入工程(以下、ザンテート化工程ともいう。)を含んでもよい。ザンテート化工程では、二硫化炭素とアルカリ化合物を、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にザンテート基が導入される。具体的には、二硫化炭素を後述の手法でアルカリセルロース化した繊維原料に対して加え、反応を行う。
【0079】
≪アルカリセルロース化≫
繊維原料へのイオン性官能基導入に際しては、繊維原料が含むセルロースにアルカリ溶液を作用させ、セルロースをアルカリセルロース化することが好ましい。この処理により、セルロースの水酸基の一部がイオン解離し、求核性(反応性)を高めることができる。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、とくに限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが好ましい。アルカリセルロース化は、イオン性官能基の導入と同時に行ってもよいし、その前段として行ってもよいし、両方のタイミングで行ってもよい。
【0080】
アルカリセルロース化を始める際の溶液温度は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、5℃以上40℃以下であることがより好ましく、10℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0081】
アルカリ溶液濃度としては、モル濃度として0.01mol/L以上4mol/L以下であることが好ましく、0.1mol/L以上3mol/L以下であることがより好ましく、1mol/L以上2.5mol/L以下であることがさらに好ましい。とくに、処理温度が10℃未満である場合は、1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましい。
【0082】
アルカリセルロース化の処理時間は、1分間以上であることが好ましく、10分間以上であることがより好ましく、30分間以上であることがさらに好ましい。また、アルカリ処理の時間は、6時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、4時間以下であることがさらに好ましい。
【0083】
アルカリ溶液の種類、処理温度、濃度、浸漬時間を上述のように調整することで、セルロースの結晶領域へのアルカリ溶液浸透を抑制でき、セルロースI型の結晶構造が維持されやすくなり、微細繊維状セルロースの収率を高めることができる。
【0084】
イオン性官能基導入とアルカリセルロース化を同時に行わない場合、アルカリ処理で得られたアルカリセルロースは、遠心分離や、濾別などの一般的な脱液方法により、固液分離し、水分を除去しておくことが好ましい。これにより、次いで行われるイオン性官能基導入工程での、反応効率が向上する。固液分離後のセルロース繊維濃度は、5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましく、15%以上35%以下であることがさらに好ましい。
【0085】
-ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)-
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえば、ホスホン基またはホスフィン基導入工程(ホスホアルキル化工程)を含んでもよい。ホスホアルキル化工程では、必須成分として、反応性基とホスホ基またはホスフィン基とを有する化合物(化合物EA)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した尿素およびその誘導体から選択される化合物B、反応助剤としての化合物Cを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にホスホン基またはホスフィン基が導入される。
【0086】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物EAとしては、たとえばビニルリン酸、フェニルビニルホスホン酸、フェニルビニルホスフィン酸等が挙げられる。置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からビニルリン酸が好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0087】
化合物EAは、試薬をそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0088】
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0089】
化合物EAの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0090】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。
また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0091】
-スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)-
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえば、スルホン基導入工程(スルホアルキル化工程)を含んでもよい。スルホアルキル化では、必須成分として、反応性基とスルホン基とを有する化合物(化合物EB)と、任意成分としてアルカリ化合物、前述した、尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にスルホン基が導入される。
【0092】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物EBとしては、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。中でも、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からビニルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0093】
化合物EBは、試薬をそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0094】
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0095】
化合物EBの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0096】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。
また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0097】
-カルボキシアルキル化工程(第三のカルボキシ基導入工程)-
微細繊維状セルロースの製造工程は、イオン性置換基導入工程として、たとえば、カルボキシアルキル化工程を含んでもよい。必須成分として、反応性基とカルボキシ基とを有する化合物(化合物EC)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した、尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカルボキシ基が導入される。
【0098】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
化合物ECとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、2-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸ナトリウムが好ましい。
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましく、添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0099】
化合物ECは、試薬をそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0100】
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0101】
化合物ECの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0102】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。
また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0103】
-カチオン性基導入工程(カチオン化工程)-
必須成分として、反応性基とカチオン性基とを有する化合物(化合物ED)、任意成分としてアルカリ化合物、前述した、尿素およびその誘導体から選択される化合物Bを、湿潤あるいは乾燥状態の、水酸基を有する繊維原料に加えて反応を行うことで、繊維原料にカチオン基が導入される。
【0104】
反応性基としては、ハロゲン化アルキル基、ビニル基、エポキシ基(グリシジル基)などが挙げられる。
【0105】
化合物EDとしては、置換基の導入効率、ひいては解繊効率、コスト、取り扱いやすさの点からグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が好ましい。
【0106】
さらに任意成分として、上述した<リンオキソ酸基導入工程>における化合物Bを同様に用いることも好ましい。添加量も前述のようにすることが好ましい。
【0107】
化合物EDは、試薬をそのまま繊維原料に加えてもよいし、適当な溶媒に溶かして加えてもよい。繊維原料は事前にアルカリセルロース化するか、反応と同時にアルカリセルロース化されることが好ましい。アルカリセルロース化の方法は、前述のとおりである。
【0108】
反応時の温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。
【0109】
化合物EDの繊維原料100質量部に対する添加量は、1質量部以上100,000質量部以下であることが好ましく、2質量部以上10,000質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0110】
反応時間は、反応温度に応じて変わり得るが、たとえば1分間以上1,000分間以下であることが好ましく、10分間以上500分間以下であることがより好ましく、20分間以上400分間以下であることがさらに好ましい。
また、反応後は濾過等により、余剰の反応試薬、副生物等を水洗・除去してもよい。
【0111】
(洗浄工程)
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりイオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
【0112】
(アルカリ処理工程)
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえばアルカリ溶液中に、イオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、とくに限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、とくに限定されないが、たとえば5分間以上30分間以下であることが好ましく、10分間以上20分間以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、とくに限定されないが、たとえばイオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100,000質量%以下であることが好ましく、1,000質量%以上10,000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理は、微細繊維状セルロースがアニオン性基を有する場合は、そのアニオン性基の中和処理・イオン交換処理であってもよい。この場合、アルカリ溶液の温度は室温であることが好ましい。
【0113】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、イオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0114】
(酸処理工程)
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。たとえば、イオン性基導入工程、酸処理工程、アルカリ処理工程および解繊処理工程をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、とくに限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、とくに限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、とくに限定されないが、たとえば5分間以上120分間以下が好ましく、10分間以上60分間以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、とくに限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100,000質量%以下であることが好ましく、1,000質量%以上10,000質量%以下であることがより好ましい。
酸処理は、微細繊維状セルロースがカチオン性基を有する場合は、そのカチオン性基の中和処理・イオン交換処理であってもよい。この場合、酸溶液の温度は室温であることが好ましい。
【0115】
(解繊処理工程)
イオン性基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。
解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、とくに限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
【0116】
解繊処理工程においては、たとえばイオン性基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0117】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。
また、リンオキソ酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、たとえば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0118】
シート組成物の固形分中の微細繊維状セルロースの含有量は、シートの透明性の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
また、紫外線重合性化合物および微細繊維状セルロースの合計量に対する微細繊維状セルロースの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0119】
<その他の成分>
本発明のシート用組成物には、上述した紫外線重合性化合物、微細繊維状セルロース、および光重合開始剤に加え、他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、親水性高分子、単官能重合性不飽和化合物、湿潤紙力増強剤、有機イオン、架橋剤、界面活性剤、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、および分散剤が例示される。
【0120】
本発明で用いる親水性高分子としては、たとえば、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース、カルボキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等)、カゼインなどのタンパク質類等、デンプン類(デキストリン、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、およびアミロースなど)、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレンオキシド化ポリビニルアルコール等)、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシド等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類(ポリアクリル酸ナトリウム等)、ポリカチオン(ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等)、ポリアニオン、両性イオン型のポリマー、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、増粘性多糖類(キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、アルギン酸の金属塩、プルラン、カラギーナン、サクラン、ペクチン等)、ポリエステル、変性ポリエステル、変性ポリイミド、ポリグリセリンなどのグリセリン類、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩、カルボキシビニルポリマー、メタクリル酸アルキル、アクリル酸コポリマー、ポリアクリル酸塩(ポリアクリル酸ナトリウム等)などを挙げることができる。上記の中でもポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、および変性ポリビニルアルコールを用いることがとくに好ましい。
【0121】
親水性高分子の重量平均分子量は5,000以上であればとくに限定されないが、シートの形状安定性の観点および微細なパターニングを可能とする観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。また、親水性高分子の重量平均分子量は、好ましくは800万以下、より好ましくは500万以下、さらに好ましくは100万以下、よりさらに好ましくは10万以下である。
なお、重量平均分子量は、たとえば、GPCを用いて測定することができる。
【0122】
本発明のシートが親水性高分子を含有する場合、シートの固形分中の親水性高分子の含有量は、シートの形状安定性、透明性、耐水性、引張弾性率、線熱膨張率を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、よりさらに好ましくは15質量%以下である。
【0123】
上記単官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)(2-ヒドロキシプロピル)フタレート、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの市販品としては、商品名で、たとえば、アロニックス(登録商標)M-101、同M-111、同M-114、同M-5300(以上、東亞合成株式会社製);KAYARAD(登録商標)TC-110S、同TC-120S(以上、日本化薬株式会社製);ビスコート158、同2311(以上、大阪有機化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0124】
湿潤紙力増強剤は、紙が水に濡れたときに紙力の低下を抑えるための薬剤であり、水に対してほぐれやすいパルプ繊維に添加することにより、水に濡れてもパルプ繊維の結合を保持してほぐれにくくし、強度を高める効果を有する。
湿潤紙力増強剤としては、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が例示される。
ポリアミンポリアミドエピクロヒドリンは、たとえば、多価酸とポリエチレンポリアミンとを縮合した主鎖に、エピクロロヒドリンを付加して合成される。ポリアミンポリアミドエピクロヒドリンは、幅広いpH範囲で使用可能であり、また、低添加量で高い湿潤紙力増強効果を得られる。
メラミンホルムアルデヒド樹脂は、メラミンにホルムアルデヒドを付加後、酸縮合して合成される。
また、尿素ホルムアルデヒド樹脂は、尿素にホルムアルデヒドを付加した後、一部を架橋して合成される。
これらの中でも、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを使用することが、吸水率および線熱膨張率が低く、透明性に優れるシートを得る観点から好ましい。ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの中でも、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンがより好ましい。
【0125】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、たとえば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、たとえばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0126】
<シートの製造方法>
本発明のシートの製造方法は、紫外線重合性化合物および繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースを含有するシート用組成物を調製する工程、前記シート用組成物を塗布および乾燥して、未硬化のシート状組成物とする工程、および前記未硬化のシート状組成物に紫外線を照射して、紫外線硬化する工程を有する、シートの製造方法であり、得られたシートの100℃以上150℃以下における線熱膨張率が30ppm/K以下であり、かつ、イエローインデックス(YI値)が5以下である。
本発明のシートの製造方法に使用するシート用組成物は、上述するシートに使用するシート用組成物と同様であり、好ましい態様についても同様である。
シート用組成物を塗布する際に、孔を有しない基材(以下、単に基材ともいう)上に塗布および乾燥して形成された未硬化のシート状組成物を得てもよく、前記シート用組成物を多孔質の基材上に塗布し、いわゆる抄紙により未硬化のシート状組成物を得てもよいが、基材上に塗布および乾燥して未硬化のシート状組成物を得ることが好ましい。また、塗工装置とベルト状の基材を用いることで、連続的に未硬化のシート状組成物を得てもよい。これらの中でも、基材上に塗布および乾燥することにより得ることがより好ましい。
上述のようにして得られた未硬化のシート状組成物に紫外線を照射することにより、本発明のシートが得られる。なお、基材上に塗布する場合には、基材上で乾燥した紫外線硬化性シートに紫外線を照射して、基材上で硬化させた後に、剥離してもよい。
【0127】
塗布する際の基材の材質としてはとくに限定されないが、前記シート用組成物(スラリー)に対する濡れ性が高いものの方が、乾燥時のシートの収縮等を抑制する観点から好ましいが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離可能であるものであることが好ましい。樹脂製のフィルムや板、金属製のフィルムや板が好ましく例示されるが、とくに限定されるものではない。具体的には、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄板等の金属のフィルムや板、およびそれらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真鍮のフィルムや板等が例示される。
【0128】
塗布する際に、シート用組成物(スラリー)の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量の未硬化のシート状組成物を得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、とくに限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリプロピレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミニウム板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
【0129】
シート用組成物(スラリー)を基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
【0130】
シート用組成物(スラリー)を基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることがとくに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、シート用組成物(スラリー)をより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発や、熱による副反応を抑制できる。
【0131】
基材上に塗工したシート用組成物(スラリー)を乾燥する方法はとくに限定されないが、たとえば、非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
非接触の乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
加熱乾燥法における加熱温度は、とくに限定されないが、好ましくは20℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および繊維状セルロースの熱による変色や副反応の抑制を実現できる。
【0132】
抄紙する場合、すなわち、シート状組成物を多孔質の基材に塗布および乾燥する場合には、抄紙機により前記シート用組成物(スラリー)を抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、とくに限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
抄紙工程は、前記シート用組成物(スラリー)をワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。前記スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、とくに限定されないが、たとえば繊維状セルロースおよび紫外線重合性化合物は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、とくに限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしてはとくに限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
【0133】
抄紙工程において、前記シート用組成物(スラリー)から未硬化のシート状組成物を製造する方法は、たとえば前記スラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記スラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0134】
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
【0135】
紫外線を照射の際の照射光源としてはとくに限定されないが、たとえば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線LED(発光ダイオード)等の既知の露光光源が例示される。露光後ベーク(PEB)工程を有していてもよい。
紫外線としては、波長が313nm以上の紫外線が好ましく、とくに365nmの紫外線を含む紫外線が好ましいため、露光光源としては、365nmの紫外線を含む313nm以上の波長の放射線を照射させることができる高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプがより好ましい。これらの露光光源を使用することにより、313nm以上の波長領域において、10μm以上の厚みの紫外線硬化性シートであっても比較的高い透過率が得られ、光量を落とさずに紫外線硬化性シート裏面まで十分硬化させることができる。また、露光量は、放射線の波長365nmにおける強度を照度計(ウシオ電機株式会社製、UIT-150-A、センサー部はUVD-C365)により測定した値として、好ましくは3mJ/cm2以上1,500mJ/cm2以下、より好ましくは100mJ/cm2以上1,000mJ/cm2以下、さらに好ましくは500mJ/cm2以上1,000mJ/cm2以下である。
【0136】
<シートの特性>
〔線熱膨張率〕
本発明のシートは、100~150℃における線熱膨張率が30ppm/K以下である。
上記の線熱膨張率は、低いことが好ましいが、製造上の観点から、20ppm/K以下、より好ましくは15ppm/K以下、さらに好ましくは12ppm/K以下である。線熱膨張率の下限はとくに限定されず、たとえば、マイナスの値であってもよいが、-20ppm/K以上、より好ましくは-15ppm/K以上であることが好ましい。
シートの100~150℃における線熱膨張率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0137】
〔イエローインデックス(YI値)〕
本発明のシートは、透明かつ、黄色味を有しないことが好ましく、本発明のシートのイエローインデックス(YI値)は、5以下であり、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.5以下である。YI値の下限はとくに限定されず。0であってもよい。
【0138】
〔引張弾性率〕
本発明のシートの引張弾性率は、強度に優れたシートを得る観点から、好ましくは3GPa以上、より好ましくは5GPa以上、さらに好ましくは8GPa以上である。また、シートの引張弾性率の上限値は、とくに限定されないが、たとえば50GPa以下とすることができる。
ここで、シートの引張弾性率は、たとえばJIS P 8113:2006に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを測定用の試験片とし、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行う。
【0139】
〔全光透過率〕
本発明のシートは、光透過性に優れることが好ましく、全光透過率が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、そして、100%以下であり、製造容易性の観点から、好ましくは99.5%以下である。
全光透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠して、ヘーズメータにて測定される。
【0140】
〔ヘーズ〕
また、本発明のシートは透明性に優れることが好ましく、ヘーズが、好ましくは10%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、そして、0%以上であり、製造容易性の観点から、好ましくは0.1%以上である。
ヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘーズメータにて測定される。
【0141】
〔シートの厚み〕
シートの厚みは、形状安定性および微細なパターニングを可能とする観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは25μm以上であり、そして、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
シートの厚みが上記範囲内となるように、適宜塗工量および抄紙量を調整すればよい。
【0142】
<吸水率>
本発明のシートは、下記式(1)で表される吸水率が、好ましくは60%以下である。
吸水率=(W-Wd)/Wd×100 (1)
(ここで、Wはシートをイオン交換水に24時間浸漬した後の質量、Wdはシートを23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後の質量を示す。)
上記の吸水率は、低いことが好ましいが、製造上の観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。吸水率の下限はとくに限定されず、たとえば、0%であってもよい。
【0143】
<シートの坪量>
シートの坪量は、とくに限定されないが、たとえば、好ましくは10g/m2以上、より好ましくは20g/m2以上、さらに好ましくは30g/m2以上であり、そして、好ましくは200g/m2以下、より好ましくは150g/m2以下である。ここで、シートの坪量は、たとえば50mm角のシートを23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、シートの質量を測定することにより算出することができる。
【0144】
<シートの密度>
シートの密度は、とくに限定されないが、たとえば、好ましくは0.1g/cm3以上、より好ましくは0.5g/cm3以上、さらに好ましくは0.8g/cm3以上であり、そして、好ましくは5.0g/cm3以下、より好ましくは3.0g/cm3以下、さらに好ましくは1.5g/cm3以下である。ここで、シートの密度は、50mm角のシートを23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、シートの厚みおよび質量を測定することにより算出することができる。
【0145】
[シートの用途]
本発明のシートは、黄色味が低く、透明性や熱膨張、強度が問題となる各種の用途に適用可能である。具体的には、たとえば、各種のディスプレイ装置、太陽電池等の光透過性の基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種乗り物や建材の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適用可能である。
【0146】
また、本発明のシートは、さらに他の層と積層して、積層体としてもよい。他の層は、シートの両表面上に設けられていてもよく、シートの一方の面上にのみ設けられていてもよく、とくに限定されない。他の層としては、無機層および有機層が例示される。
有機層は、樹脂により形成された層であることが好ましく、有機層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、有機層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、有機層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがとくに好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0147】
天然樹脂としては、たとえば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0148】
合成樹脂としては、たとえば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂およびアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂およびアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリルおよびポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0149】
有機層を構成するポリカーボネート樹脂としては、たとえば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、たとえば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0150】
有機層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合または、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
【0151】
有機層の形成方法は、とくに限定されない。たとえば、有機層形成用の樹脂組成物をシート上に塗工することで形成してもよい。また、予め形成した有機層をシート上に積層してもよい。この場合、有機層とシートの間には接着層を設けてもよく、このような接着層も有機層に包含される。また、シート製造時の基材が樹脂の場合、基材を剥離せずに、有機層の一部としてもよい。
【0152】
シートと有機層との間には、接着層が設けられていてもよく、また接着層が設けられておらず、シートと有機層が直接密着をしていてもよい。シートと有機層との間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、たとえば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、たとえば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
【0153】
シートと有機層との間に接着層が設けられていない場合は、有機層が密着助剤を有してもよく、また、有機層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。
密着助剤としては、たとえば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基およびシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)および有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、たとえば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
【0154】
有機層の厚みは、とくに限定されないが、たとえば、100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。また、有機層の厚みは、透明性、フレキシブル性の観点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0155】
<無機層>
無機層を構成する物質としては、とくに限定されないが、たとえばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
【0156】
無機層の形成方法は、とくに限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
【0157】
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
【0158】
本発明のシートを備える積層体は、黄色味が低く、透明性および強度に優れ、線熱膨張率が低く、黄色味や、透明性、強度、熱膨張が問題となる各種の用途に適用が期待される。具体的には、上述した各種の用途への適用が期待される。
【実施例】
【0159】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0160】
<製造例1>
[微細繊維状セルロース分散液(1)の製造]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2、シート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。
まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒間加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプ1を得た。
【0161】
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプ1に対して洗浄処理を行った。
洗浄処理は、リンオキソ酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0162】
次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。
まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリンオキソ酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
【0163】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。
また、得られたリンオキソ酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶構造を有していることが確認された。
【0164】
得られたリンオキソ酸化パルプ1にイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(1)を得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を維持していること
が確認された。
また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。リンオキソ酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gであった。なお、総解離酸量は2.45mmol/gであった。
【0165】
<製造例2>
[微細繊維状セルロース分散液(2)の製造]
リン酸二水素アンモニウムの代わりに亜リン酸(ホスホン酸)33質量部を用いた以外は、製造例1と同様に操作を行い、リンオキソ酸化パルプ2および微細繊維状セルロース分散液(2)を得た。
【0166】
得られたリンオキソ酸化パルプ2に対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに(亜)リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。
【0167】
また、得られたリンオキソ酸化パルプ2を供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶構造を有していることが確認された。
【0168】
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。また、微細繊維状セルロース分散液(2)について、セルロースに導入された亜リン酸基量(第1解離酸量)および総解離酸量はそれぞれ、1.51mmol/g、1.54mmol/gであった。
【0169】
<製造例3>
[微細繊維状セルロース分散液(3)の製造]
リン酸二水素アンモニウムの代わりにアミド硫酸38質量部を用い、熱風乾燥機での加熱時間を、19分間とした以外は、製造例1と同様に操作を行い、硫酸化パルプおよび微細繊維状セルロース分散液(3)を得た。
【0170】
得られた硫酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1220-1260cm-1付近に硫酸基に基づく吸収が観察され、パルプに硫酸基が付加されていることが確認された。
【0171】
また、得られた硫酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0172】
X線回折により、得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。また、微細繊維状セルロース分散液(3)について、セルロースに導入された硫酸基量は1.12mmol/gだった。
【0173】
<製造例4>
[微細繊維状セルロース分散液(4)の製造]
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部とを、水10,000質量部に分散させた。次いで、13質量部の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0174】
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。
洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5,000質量部のイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0175】
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶構造を有していることが確認された。
【0176】
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(4)を得た。
微細繊維状セルロース分散液(4)について、セルロースに導入されたカルボキシ基量は、1.30mmol/gであった。
【0177】
<微細繊維状セルロースの繊維幅およびイオン性基量の測定方法>
[繊維幅の測定]
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEOL-2000EX)により観察した。
【0178】
[リンオキソ酸基量の測定]
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒間に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(
図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリン酸基量(mmol/g)とした。
【0179】
[硫黄オキソ酸基量の測定]
硫黄オキソ酸基量は、得られた繊維状セルロースを過塩素酸と濃硝酸を用いて湿式灰化した後に、適当な倍率で希釈してICP発光分析により硫黄量を測定した。
この硫黄量を、供試した繊維状セルロースの絶乾質量で除した値を硫黄オキソ酸基量(単位:mmol/g)とした。
【0180】
[カルボキシ基量の測定]
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒間に1回、50μLずつ加えた以外は[リンオキソ酸基量の測定]と同様に測定した。カルボキシ基量(mmol/g)は、計測結果のうち
図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
【0181】
<製造例5>
[紫外線硬化性組成物(1)の製造]
N,N’-{[(2-アクリルアミド-2-[(3-アクリルアミドプロポキシ)メチル]プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(プロパン-1,3-ジイル)}ジアクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、FOM-03006)100質量部と、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(IGM Resins B.V製、Omnirad1173)5質量部との混合物が0.5質量%となるよう、純水を加えて溶解して、紫外線硬化性組成物(1)を調製した。
【0182】
<製造例6>
[紫外線硬化性組成物(2)の製造]
ウレタンディスパージョン(ダイセル・オルネクス株式会社製、UCECOAT7788、固形分濃度40%)250質量部と、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(IGM Resins B.V製、Omnirad1173)5質量部との混合物が0.5質量%となるよう、純水を加えて溶解して、紫外線硬化性組成物(2)を調製した。
【0183】
<製造例7>
[紫外線硬化性組成物(3)の製造]
ポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステル14G)100質量部と、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(IGM Resins B.V製、Omnirad1173)5質量部との混合物が0.5質量%となるよう、純水を加えて溶解して、紫外線硬化性組成物(3)を調製した。
【0184】
<製造例8>
[紫外線硬化性組成物(4)の製造]
エトキシ化グリセリントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、NKエステルA-GLY-9E)100質量部と、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(IGM Resins B.V製、Omnirad1173)5質量部との混合物が0.5質量%となるよう、純水を加えて溶解して、紫外線硬化性組成物(4)を調製した。
【0185】
<実施例1>
固形分濃度が2.0質量%の微細繊維状セルロース分散液(1)にイオン交換水を加え、固形分濃度0.5質量%の微細繊維状セルロース分散液(A)とした。
得られた微細繊維状セルロース分散液(A)30質量部に対し、紫外線硬化性組成物(1)溶液70質量部を添加し、撹拌した。さらに、シートの仕上がり坪量が65g/m2になるように混合後の液を計量して、市販のアクリル板上に展開し、50℃の乾燥機で24時間乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には210mm×297mmの堰止用の板を配置した。以上の手順により、未硬化の紫外線硬化性シート状組成物を得た。
メタルハライドランプ(アイグラフィック株式会社製、M04-L41)を備えたベルトコンベア式露光装置(アイグラフィック株式会社製、ECS-401GX、IRカットフィルター付)に照度計(ウシオ電機株式会社製、UIT-150-A、センサー部はUVD-C365、感度波長域310~390nm)を用い、照度150mW/cm2、光量750mJ/cm2となるように設定した後に未硬化の紫外線硬化性シート状組成物を設置し、紫外線を照射して硬化させ、シートを得た。
得られたシートの厚みは、50μmであった。
【0186】
<実施例2>
微細繊維状セルロース分散液(A)50質量部に対し、紫外線硬化性組成物(1)溶液を50質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0187】
<実施例3>
微細繊維状セルロース分散液(A)70質量部に対し、紫外線硬化性組成物(1)溶液を30質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0188】
<実施例4>
固形分濃度が2.0質量%の微細繊維状セルロース分散液(2)にイオン交換水を加え、固形分濃度0.5質量%の微細繊維状セルロース分散液(B)とした。
微細繊維状セルロース分散液(A)の代わりに、微細繊維状セルロース分散液(B)を用いた以外は実施例2と同様にしてシートを得た。
【0189】
<実施例5>
固形分濃度が2.0質量%の微細繊維状セルロース分散液(3)にイオン交換水を加え、固形分濃度0.5質量%の微細繊維状セルロース分散液(C)とした。
微細繊維状セルロース分散液(A)の代わりに、微細繊維状セルロース分散液(C)を用いた以外は実施例2と同様にしてシートを得た。
【0190】
<実施例6>
固形分濃度が2.0質量%の微細繊維状セルロース分散液(4)にイオン交換水を加え、固形分濃度0.5質量%の微細繊維状セルロース分散液(D)とした。
微細繊維状セルロース分散液(A)の代わりに、微細繊維状セルロース分散液(D)を用いた以外は実施例2と同様にしてシートを得た。
【0191】
<実施例7>
紫外線硬化性組成物(1)の代わりに紫外線硬化性組成物(2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0192】
<実施例8>
紫外線硬化性組成物(1)の代わりに紫外線硬化性組成物(2)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシートを得た。
【0193】
<実施例9>
紫外線硬化性組成物(1)の代わりに紫外線硬化性組成物(2)を用いた以外は、実施例3と同様にしてシートを得た。
【0194】
<実施例10>
紫外線硬化性組成物(1)の代わりに紫外線硬化性組成物(3)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシートを得た。
【0195】
<実施例11>
紫外線硬化性組成物(1)の代わりに紫外線硬化性組成物(4)を用いた以外は、実施例2と同様にしてシートを得た。
【0196】
<比較例1>
微細繊維状セルロース分散液(A)10質量部に対し、紫外線硬化性組成物(1)溶液を90質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0197】
[測定方法]
<シートの全光線透過率>
JIS K 7361-1:1997に準拠し、ヘーズメータ(株式会社村上色彩研究所製、HM-150)を用いて全光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0198】
<シートのヘーズ>
JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメータ(株式会社村上色彩技術研究所製、HM-150)を用いてヘーズを測定した。結果を表1に示す。
【0199】
<シートのイエローインデックス(YI値)>
JIS K 7373:2006に準拠し、カラーコンピュータ(スガ試験機株式会社製、Colour Cute i)を用いてイエローインデックス(YI値)を測定した。結果を表1に示す。
【0200】
<線熱膨張率>
シートをレーザーカッターにより、幅4mm×長さ30mmに切り出した。これを、熱機械分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、TMA7100)にセットして、引張モードでチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下で25℃から180℃まで5℃/分で昇温し、10分間180℃で保持した後に180℃から10℃まで10℃/分で降温し、10℃から200℃まで5℃/分で昇温した際の2回目の昇温における100℃から150℃の測定値から線熱膨張率(ppm/K)を求めた。結果を表1に示す。
【0201】
<吸水率>
50mm角のシートを切り出し、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したシートの質量をWd(g)、イオン交換水に24時間浸漬した後のシート質量をW(g)とし、下記の式から吸水率を求めた。結果を表1に示す。
吸水率(%)=(W-Wd)/Wd×100
【0202】
<引張弾性率>
伸張速度を5mm/minに変更した以外は、JIS P 8113:2006に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いてシートの引張弾性率を測定した。なお、引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片として用いた。結果を表1に示す。
【0203】
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明により、線熱膨張率が低く、黄色味が抑制された高い透明性を有し、高い引張弾性率を有するシートを提供することができる。本発明のシートは、熱膨張、透明性、強度が問題となる各種の用途に適用が期待される。具体的には、たとえば、各種のディスプレイ装置、太陽電池等の光透過性の基板の用途、また、電子機器の基板、家電の部材、各種乗り物や建材の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適用が期待される。