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特許7548009熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑ポリエステル樹脂組成物、および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑ポリエステル樹脂組成物、および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/50 20060101AFI20240903BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240903BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20240903BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240903BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240903BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08G63/50
B29C45/14
C08G63/183
C08K3/013
C08L67/02
H01B3/42 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020541456
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028092
(87)【国際公開番号】W WO2021020208
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019140544
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019234367
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020055299
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓平
(72)【発明者】
【氏名】横江 牧人
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-319372(JP,A)
【文献】特開平01-234419(JP,A)
【文献】特開平10-310638(JP,A)
【文献】特開平09-255856(JP,A)
【文献】特開2016-027132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
C08G
C08K
C08L
H01B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする熱可塑性ポリエステル樹脂であって、熱可塑性ポリエステル樹脂の分子末端に炭素数が10以上50以下の脂肪族基が熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基に対してエステル結合で導入されており、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた水酸基濃度が0.050mmol/g以下であり、脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であり、23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接が0.0060以下であり、前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである熱可塑性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂の融点が180℃以上である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記脂肪族基が、炭素数が20以上50以下の脂肪族基である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記脂肪族基が、炭素数が16以上36以下の脂肪族基である請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記脂肪族基が、炭素数が10以上50以下の、分岐を有する飽和脂肪族基である請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂。
【請求項6】
熱可塑性ポリエステル樹脂の数平均分子量に対する、脂肪族基の分子量の比((脂肪族基の分子量)/(熱可塑性ポリエステル樹脂の数平均分子量))が、0.001~0.10である請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂。
【請求項7】
熱可塑性ポリエステル樹脂の重合工程における、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体のエステル化反応、エステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの反応工程で、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを添加する請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、円筒型空洞共振器摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂(B)10~150重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する反応性化合物(C)1~50重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、無機充填材(D)1~100重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂、または請求項10のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項12】
高周波伝送用部品として用いられる、請求項11に記載の成形品。
【請求項13】
請求項11または12に記載の成形品と、金属部品とが一体化された金属複合成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、およびそれを成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
さらに近年、新たな通信周波数帯である1GHz以上の周波数の高周波を利用した高速通信規格に基づき、大容量高速通信や自動運転などの次世代サービス実現を目指し、高周波に対応した通信機器や自動車用ミリ波センサーなど高周波対応製品の開発が盛んに行われている。
【0004】
高周波対応製品において、1GHz以上の周波数の電磁波は減衰しやすいという特徴から、通信距離や精度を向上するために製品を構成するカバーやレドームなどの高周波伝送部品には、電磁波の吸収損失をなるべく抑えた材料設計が課題となっている。
【0005】
例えば材料の誘電特性(誘電正接)が高い場合、高周波信号と材料が接した場合に高周波が誘電損失により熱に変換されてしまうため、信号強度が低下し、通信距離などの通信精度が低下することが課題となるため、高周波帯での誘電特性の改善が求められている。
【0006】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の誘電特性を改善する方法として、テレフタル酸および/またはテレフタル酸誘導体を含む酸成分と2,2-アルキル置換-1,3-プロパンジオ-ルを含むジオール成分とを共重合して得られる固有粘度0.3~1.2dl/gを有する低誘電性ポリエステル樹脂を使用する方法(特許文献1)や、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に(B)オレフィン樹脂と、(C)繊維状無機充填材とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(特許文献2)のように、低誘電性に優れるポリオレフィン樹脂等を併用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-126364号公報
【文献】特開2013-131576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、1MHz以下の低周波帯での比誘電率の低減の効果はあるものの、高周波帯の誘電正接が不十分である課題があった。
【0009】
また、特許文献2に開示された発明は、誘電正接の低いオレフィン樹脂を多量に配合するため、高周波帯における誘電正接は低下するものの、得られた成形品の剛性や耐熱性が不十分であるという課題があった。
【0010】
本発明は、優れた機械物性、耐熱性を有し、さらに1GHz以上の高周波帯の誘電正接が小さい成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、高周波での誘電正接は、分子の局所的な運動に起因したエネルギー損失と相関していることを見出し、高分子の設計として、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする熱可塑性ポリエステル樹脂において、水酸基濃度を特定量以下にすることにより、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
【0012】
芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする熱可塑性ポリエステル樹脂であって、熱可塑性ポリエステル樹脂の分子末端に炭素数が10以上50以下の脂肪族基が熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基に対してエステル結合で導入されており、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた水酸基濃度が0.050mmol/g以下であり、脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であり、23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接が0.0060以下であり、前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである熱可塑性ポリエステル樹脂。
【0013】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂の重合工程における、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体のエステル化反応、エステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの反応工程で、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを添加する上記の熱可塑性ポリエステル樹脂の製造方法を含む。
【0014】
また、本発明は、上記の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、円筒型空洞共振器摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂(B)10~150重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を含む。
【0015】
また、本発明は、上記の熱可塑性ポリエステル樹脂、または上記の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物によれば、優れた機械物性、耐熱性を有し、さらに1GHz以上の高周波帯の誘電正接の小さい成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂について、詳細に説明する。
【0018】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とし、水酸基濃度が0.050mmol/g以下であり、23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接が0.0060以下である熱可塑性ポリエステル樹脂である。
【0019】
鋭意研究の結果、1GHz以上の高周波での熱可塑性ポリエステル樹脂の誘電損失は、特定の分子構造に由来するということを見出した。特に高分子の末端に存在するジオール由来の水酸基量を低減することで高分子末端の運動が抑制され、誘電正接を低減することができることを見出した。
【0020】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体である。「主構造単位とする」とは、上記の残基を全構造単位中の50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。熱可塑性ポリエステル樹脂は、共重合体であってもよい。
【0021】
芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0022】
また、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコールおよびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0023】
芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。ここで、「/」は共重合体を表す。
【0024】
これらの中でも、機械物性および耐熱性をより向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体が好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種の残基と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、および1,4-ブタンジオールまたはそれらのエステル形成性誘導体から選ばれた少なくとも1種の残基を主構造単位とする重合体がさらに好ましい。
【0025】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレートおよびポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましい。ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンナフタレートがより好ましく、成形性や結晶性に優れる点でポリブチレンテレフタレートがさらに好ましい。また、これらの2種以上を任意の含有量で混合して用いることもできる。
【0026】
上記の熱可塑性ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸残基に対するテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の残基の割合は、30mol%以上であることが好ましく、40mol%以上であることがより好ましい。耐熱性を向上することができる点で、50mol%以上が好ましく、より好ましくは60mol%以上であり、さらに好ましくは70mol%以上である。
【0027】
上記の熱可塑性ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸残基に対するイソフタル酸もしくは2,6-ナフタレンジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体の残基の割合は、テレフタル酸由来の構造による誘電損失を抑制し、誘電正接を低下させることができる点で、3mol%以上が好ましい。より好ましくは5mol%以上であり、さらに好ましくは10mol%以上である。耐熱性の低下やコストの上昇を抑えられる点で、50mol%以下が好ましく、より好ましくは40mol%以下であり、さらに好ましくは30mol%以下である。
【0028】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は水酸基濃度が0.050mmol/g以下である。水酸基濃度は、さらに誘電正接を低減できる点で、より好ましくは0.040mmol/g以下、さらに好ましくは0.030mmol/g以下、さらに好ましくは0.020mmol/g以下である。なお、水酸基濃度の下限は0mmol/gである。熱可塑性ポリエステル樹脂の水酸基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0029】
また、水酸基濃度は特開平6-9858号公報に記載されるように固有粘度から全末端基量を算出し、全末端基量から滴定法により求めたカルボキシル末端基を引くことでも求められる。しかしながら、固有粘度から末端基量を算出すると、その値は不正確であり、上記のH-NMRにより求めた水酸基濃度と比較し大幅に低い値が得られる。これは、固有粘度から全末端基量を算出する過程で末端基が低く見積もられているためであり、H-NMRにより水酸基濃度を求めた方が正確に定量される。したがって、誘電正接を低減するにはH-NMRにより求めた水酸基濃度を特定量以下にする必要があり、本発明における水酸基濃度は、当該測定方法により求めた水酸基濃度で特定される。
【0030】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基濃度は、流動性、耐加水分解性および耐熱性の点で、0.070mmol/g以下であることが好ましい。カルボキシル基濃度は、好ましくは0.060mmol/g以下であり、より好ましくは0.50mmol/g以下である。カルボキシル基濃度の下限値は、0mmol/gである。ここで、熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し、測定した値である。
【0031】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂の融点は180℃以上であることが好ましい。融点が180℃以上であることで、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。融点は耐熱性の点で、好ましくは190℃以上であり、より好ましくは200℃以上である。熱可塑性ポリエステル樹脂の融点は、DSC(示差走査熱量測定)にて、25℃から20℃/minで昇温した時に得られる吸熱融解ピークのピーク温度の値である。
【0032】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械物性をより向上させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは9,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、熱可塑性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0033】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械物性をより向上させる点で、固有粘度(IV)が0.6dl/g以上であることが好ましい。固有粘度は、より好ましくは0.65dl/g以上、さらに好ましくは0.7dl/g以上である。また、固有粘度が2dl/g以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。固有粘度は、より好ましくは1.7dl/g以下であり、さらに好ましくは1.4dl/g以下である。本発明において、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、オルトクロロフェノールを溶媒にし、25℃における測定により求められる値である。
【0034】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂の23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接は、0.0060以下である。誘電正接が0.0060以下であれば、誘電損失を低減することができ、高周波信号の劣化を抑えることができるため、アンテナの利得やレーダーの精度などに優れるため、高周波伝送部品に好適に用いられる。より好ましくは0.0055以下であり、さらに好ましくは0.0050以下である。
【0035】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂の23℃で遮断円筒導波管法にて測定した68GHzでの誘電正接は、0.0080以下である。誘電正接が0.0080以下であれば、より高周波帯での誘電損失を低減することができ、高周波信号の劣化を抑えることができるため、アンテナの利得やレーダーの精度などに優れるため、高周波伝送部品に好適に用いられる。より好ましくは0.0070以下であり、さらに好ましくは0.0060以下である。
【0036】
熱可塑性ポリエステル樹脂の誘電正接は、自由空間Sパラ法、コルゲート円形導波管Sパラ法などのSパラメータ法や平衡型円板共振器法、ファブリーペロー開放型共振器法、スプリットシリンダー空洞共振器法、スプリットポスト誘電体共振器法、円筒型空洞共振器摂動法、遮断円筒導波管法などの空洞共振法から求められるが、測定値の精度の観点から、本発明においては空洞共振法により求めた値により定義する。また、本発明においては、空洞共振法のうち円筒型空洞共振器摂動法により求めた値を用いて発明を定義する。
【0037】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法で熱可塑性ポリエステル樹脂を重合しながら水酸基を低減する方法(重縮合反応による製造方法)や、熱可塑性ポリエステル樹脂を固相重合することにより水酸基を低減する方法(固相重合による製造方法)により製造することができる。重縮合反応による製造方法としてはバッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応、ならびに直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、水酸基を低減する観点からはバッチ重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0038】
重縮合反応による製造方法の場合は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応する過程において、単官能アルコールの使用、水酸基と反応する化合物(水酸基封鎖剤)の使用により水酸基を低減することができる。それらはエステル交換反応、もしくは重縮合反応の任意の段階で加えることができる。これらの詳細については、後述する。
【0039】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂の分子末端の一部には炭素数が10以上50以下の脂肪族基が導入されていることが誘電正接の低下および流動性を向上できる点で好ましい。
【0040】
上記脂肪族基は炭素原子および水素原子からなる炭化水素を主骨格とした官能基であり、炭素原子が鎖状につながった構造において直鎖もしくは分岐、環状構造を有していてよい。その例として、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、トリデシル基(C13)、テトラデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキサデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)、オクタデシル基(C18)、ノナデシル基(C19)、イコシル基(C20)、ヘンイコシル基(C21)、ドコシル基(C22)、トリコシル基(C23)、テトラコシル基(C24)、ペンタコシル基(C25)、ヘキサコシル基(C26)、ヘプタコシル基(C27)、オクタコシル基(C28)、トリアコンチル基(C30)、テトラコンチル基(C40)などの直鎖の飽和脂肪族基、ブチルヘキシル基(C10)、ブチルオクチル基(C12)、ヘキシルオクチル基(C14)、ヘキシルデシル基(C16)、オクチルデシル基(C18)、ヘキシルドデシル基(C18)、トリメチルブチルトリメチルオクチル基(C18)、ブチルテトラデシル基(C18)、ヘキシルテトラデシル基(C20)、オクチルテトラデシル基(C22)、オクチルヘキサデシル基(C24)、デシルテトラデシル基(C24)、ドデシルテトラデシル基(C26)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、デシルオクタデシル基(C28)、テトラデシルオクタデシル基(C32)、ヘキサデシルイコサシル基(C36)などの分岐を有する飽和脂肪族基、パルミトレイル基(C16)、オレイル基(C18)、リノレイル基(C18)、エルシル基(C22)などの不飽和脂肪族基が挙げられる。上記Cの後に記載した数字は炭素数を表す。これらの中で、色調の点から直鎖や分岐を有する飽和脂肪族基が好ましく、さらに流動性の点から分岐を有する飽和脂肪族基であることが好ましい。脂肪族基の炭素数は10以上50以下であれば流動性向上効果が得られるため好ましい。さらに流動性を向上できる点で、炭素数の下限は16以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。炭素数の上限は36以下であることが好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、分子末端に有する前記脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であることが好ましい。脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上であれば流動性および誘電特性を向上できる。より好ましくは0.010mmol/g以上、さらに好ましくは0.020mmol/g以上である。脂肪族基の官能基濃度が0.20mmol/g未満であれば、機械物性や耐熱性を向上することができる。より好ましくは0.18mmol/g未満であり、さらに好ましくは0.15mmol/g未満である。
【0042】
本発明において、分子末端に存在する脂肪族基の官能基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0043】
前記炭素数が10以上50以下の脂肪族基は、熱可塑性ポリエステル樹脂の末端基に任意の結合により導入されている。例えば、ジカルボン酸成分由来のカルボキシル末端基に対しては、エステル結合やアミド結合などにより導入される。ジオール成分由来のアルコール末端基に対しては、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合などにより導入される。誘電特性に優れる点で、熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基に対してエステル結合で導入されていることが好ましい。
【0044】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、脂肪族基として、炭素数が10以上50以下の分岐を有する飽和脂肪族アルコールまたはそのエステル形成性誘導体に由来する構造を有していることが好ましい。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂が上記の化合物に由来する構造を有していることで、分子末端の水酸基量が低減し、かつ高周波との相互作用の小さい低極性の末端基となり、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂の誘電正接を低減することができるため好ましい。
【0045】
炭素数が10以上50以下の分岐を有する飽和脂肪族アルコールまたはそのエステル形成性誘導体は、炭素原子および水素原子からなる炭化水素を主骨格としたアルコールまたはそのエステル形成性誘導体であり、炭素原子が鎖状につながった構造において分岐構造を有している。分岐構造の例としては、前述の分岐を有する飽和脂肪族基として示した構造が挙げられる。
【0046】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂において、熱可塑性ポリエステル樹脂の数平均分子量に対する、脂肪族基の分子量の比((脂肪族基の分子量)/(熱可塑性ポリエステル樹脂の数平均分子量))は、0.001以上0.10以下であることが好ましい。分子末端に存在する脂肪族基の分子量が上記の範囲にあることにより、耐熱性と流動性を向上する効果が得られる。好ましくは、0.007以上0.05以下の範囲であり、より好ましくは0.010以上0.04以下の範囲である。
【0047】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂について、重縮合反応による製造方法の場合は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応する過程において、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの任意の段階で加えることにより製造することができる。特に誘電特性に優れる樹脂が得られる点で、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応のいずれかの任意の段階で加えることにより製造することが好ましい。
【0048】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂は、水酸基と反応する化合物(以下、水酸基封鎖剤と表す場合がある)を熱可塑性ポリエステル樹脂の製造工程におけるエステル交換反応、もしくは重縮合反応の任意の段階で加えることにより、熱可塑性ポリエステル樹脂の水酸基濃度を低減することができる。
【0049】
水酸基封鎖剤は、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の水酸基と反応し、熱可塑性ポリエステル樹脂中の水酸基濃度を低減する化合物であり、例えば単官能のカルボン酸や酸無水物、イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0050】
単官能のカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、シクロヘキサンカルボン酸などの炭素数1~50の脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、アントラセンカルボン酸、フェニル安息香酸、クロロ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フタル酸などの炭素数1~50の芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0051】
酸無水物としては、例えば上記のカルボン酸化合物を脱水縮合した無水酢酸や無水安息香酸などの酸無水物が挙げられる。
【0052】
イソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、フェニレンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシネートなどの化合物が挙げられる。
【0053】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂のエステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0054】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。反応触媒の添加量は0.01重量部以上であれば重合を短時間で完結できるため好ましく、より好ましくは0.03重量部以上であり、さらに好ましくは0.04重量部以上である。一方、反応触媒の添加量は0.2重量部以下であれば色調を向上できることから好ましく、より好ましくは0.15重量部以下であり、さらに好ましくは0.1重量部以下である。
【0055】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂を固相重合により製造する場合は、熱可塑性ポリエステル樹脂を固相重合装置にて窒素下もしくは真空減圧下で150~210℃の温度範囲の中で加熱し、固相でのエステル化反応もしくはエステル交換反応を低減させることにより、水酸基濃度を低減させることができる。このとき、樹脂中に前記の水酸基封鎖剤を含んでいる場合は、より効率的に水酸基を封鎖することができ、その結果水酸基濃度を低減させることができる。
【0056】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂以外の、円筒型空洞共振器摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂(B)(以下、熱可塑性樹脂(B)と表す場合がある)を配合してもよい。熱可塑性樹脂(B)を配合することで、低誘電性、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性などを向上させることができる。熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、液晶ポリマーなどを挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。
【0057】
上記の熱可塑性樹脂(B)は、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、10~150重量部配合することが好ましい。熱可塑性樹脂(B)を10重量部以上配合することにより、低誘電性や靱性を向上させることができる。15重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、熱可塑性樹脂(B)を150重量部以下配合することにより、成形時の特性ばらつきを抑制することができる。100重量部以下がより好ましく、50重量部以下がさらに好ましい。
【0058】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、反応性化合物(C)を配合してもよい。反応性化合物(C)を配合することで熱可塑性ポリエステル樹脂の耐加水分解性や耐熱老化性を向上し、さらに熱可塑性樹脂(B)の分散性が向上し、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性に優れるため好ましい。ここで、反応性化合物(C)とは、エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基、イソシアネート基およびカルボジイミド基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する化合物である。反応性化合物(C)は、相溶性向上の点から反応性官能基を有することが好ましく、反応性制御の点からエポキシ基もしくは酸無水物基を有していることが好ましい。
【0059】
反応性化合物(C)の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、1~50重量部であることが好ましい。反応性化合物(C)の配合量が1重量部以上であることで(A)成分と(B)成分の相溶性が向上し、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性に優れるため好ましい。より好ましくは3重量部以上であり、さらに好ましくは5重量部以上である。一方、反応性化合物(C)の配合量は50重量部以下であることで誘電特性の増加が抑制されるため好ましい。より好ましくは40重量部以下であり、さらに好ましくは30重量部以下である。
【0060】
反応性化合物(C)の官能基濃度は、流動性を向上できる点から200g/eq以上が好ましい。より好ましくは250g/eq以上であり、さらに好ましくは500g/eq以上である。一方で反応性化合物(C)の官能基濃度は、機械特性の点から50000g/eq以下が好ましい。さらに好ましくは20000g/eq以下であり、特に好ましくは10000g/eq以下である。
【0061】
反応性化合物(C)が結晶性化合物の場合は融点について、非晶性化合物の場合はガラス転移点について、好ましい範囲を規定できる。反応性化合物(C)の融点またはガラス転移点は、耐熱性を向上できる点から50℃以上であることが好ましい。より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。一方、反応性化合物(C)の融点またはガラス転移点は、機械特性を向上できる点から、300℃以下であることが好ましい。より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは250℃以下である。
【0062】
反応性化合物(C)の数平均分子量は、耐熱性を向上できる点から、200以上であることが好ましい。より好ましくは1000以上、さらに好ましくは2000以上である。一方、反応性化合物(C)の数平均分子量は流動性を向上できる点から、50000以下であることが好ましく、より好ましくは20000以下であり、さらに好ましくは10000以下である。
【0063】
反応性化合物(C)を使用する場合は、必要に応じて反応触媒を使用してもよい。反応触媒を使用することで反応性化合物(C)の反応が促進され、熱可塑性ポリエステル樹脂と熱可塑性樹脂(B)との相溶性が向上するため好ましい。反応触媒は、第3級アミン、アミジン化合物、有機ホスフィンおよびその塩、イミダゾール、およびホウ素化合物などが挙げられる。これらを2種以上使用してもよい。
【0064】
反応触媒の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1~5重量部であることが好ましい。反応触媒の配合量が0.1重量部以上であることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は(B)成分が微分散化し、機械特性、耐熱性に優れるため好ましい。より好ましくは0.2重量部以上であり、さらに好ましくは0.3重量部以上である。一方、反応触媒の配合量が5重量部以下であると、熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量低下が抑制されるため好ましい。より好ましくは3重量部以下であり、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0065】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂に、さらに無機充填材(D)を配合することが好ましい。無機充填材(D)を配合することにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができ、さらに得られる成形品のそりが抑制でき低そり性に優れる。
【0066】
本発明の無機充填材(D)の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し1~100重量部である。無機充填材(D)を1重量部以上とすることで、機械強度、耐熱性が向上し、また成形品のそり量を抑制できる。10重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましく、25重量部以上がさらに好ましい。一方、無機充填材(D)を100重量部以下とすることで、流動性を維持し成形性が悪化することがない。また、誘電正接も低い値を維持できる。90重量部以下が好ましく、80重量部以下がより好ましく、70重量部以下がさらに好ましい。
【0067】
前記の無機充填材(D)の具体例としては、例えば、繊維状、ウィスカー状、針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、針状酸化チタン、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられる。本発明に使用する上記の無機充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用する上記の無機充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本発明の無機充填材(D)は、特に機械強度、耐熱性の点からガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、その表面をアミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの1種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。
【0069】
本発明の無機充填材(D)は、エポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が、熱可塑性ポリエステル樹脂との反応性に優れ、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性に優れる点から、さらに好ましい。シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。また、繊維状強化材の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械強度の観点からその上限値は好ましくは15μmである。また、前記の繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維状強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、反りの少ない成形品が得られる特徴がある。また、ガラス繊維の種類としては一般に樹脂の強化材として用いるものであれば特に限定はないが、機械特性、耐熱性に優れるEガラスや、低誘電性に優れる低誘電ガラスが好ましい。
【0070】
本発明で用いられるガラス繊維は、空洞共振法にて周波数1GHzで測定したときの比誘電率が7未満であることが好ましく、5未満がさらに好ましい。ガラス繊維の比誘電率が上述の範囲であることで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の比誘電率および誘電正接を低く抑えることができる。
【0071】
また、本発明で用いられる無機充填材(D)として、例えばミルドファイバー、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性低減に効果があるため反りの少ない成形品が得られる。また、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素を熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~1重量部の範囲で配合した場合は、滞留安定性をより向上させることができる。
【0072】
粒状、粉末状および層状の無機充填材の平均粒径は、衝撃強度の点から0.1~20μmであることが好ましい。無機充填材の樹脂中での分散性の観点から、特に0.2μm以上であることが好ましく、機械強度の観点から10μm以下であることが好ましい。
【0073】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の、23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接は、0.0080以下であることが好ましい。誘電正接が0.0080以下であれば、誘電損失を低減することができ、高周波信号の劣化を抑えることができるため、アンテナの利得やレーダーの精度などに優れるため、高周波伝送部品に好適に用いることができる。より好ましくは0.0070以下であり、特に好ましくは0.0060以下である。上記の誘電正接を有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、水酸基濃度が特定量以下である熱可塑性ポリエステル樹脂と無機充填材(D)とを特定の配合量で用いることで得ることができる。
【0074】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の、23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの比誘電率は、成形品表面での高周波の反射による透過損失を低減することができる点で4.0以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5以下である。
【0075】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、顔料、染料および帯電防止剤などの任意の添加剤を配合することができる。
【0076】
難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌル酸との塩、シリコーン系難燃剤および無機系難燃剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0077】
難燃剤の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、1~50重量部が好ましい。配合量は、難燃性の観点から、5重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から40重量部以下がより好ましい。
【0078】
離型剤としては、例えばモンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。離型剤を配合することで溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。
【0079】
離型剤の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~1重量部が好ましい。配合量は、離型性の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から0.6重量部以下がより好ましい。
【0080】
顔料や染料を1種以上配合することにより、種々の色に調色することや、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。顔料としては、例えばカーボンブラックや酸化チタンなどが挙げられる。
【0081】
顔料や染料の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~3重量部が好ましい。配合量は、着色ムラ防止の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、機械強度の観点から1重量部以下がより好ましい。
【0082】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂と、必要に応じて各種添加剤を予備混合して、溶融混練機に供給して溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量溶融混練機に供給して溶融混練する方法などが挙げられる。溶融混練機としては、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いることができる。
【0083】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、無機充填材(D)は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0084】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ペレット化して、成形加工に供することが好ましい。ペレット化の方法として、溶融混練機などを用いて溶融混練された熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0085】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0086】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0087】
本発明の成形品は、機械物性および耐熱性に優れる特徴を活かして、機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品から選ばれる成形品として好適に用いることができる。
【0088】
本発明の成形品は、高周波帯での誘電特性に優れることから、特に高周波伝送部品に有用である。
【0089】
さらに、本発明の樹脂組成物は、低誘電特性に優れるため、インサート成形により金属部品と一体化し金属複合成形品を構成する。係る金属複合成形品は、移動用通信機器部品に好適に使用することができる。
【0090】
機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などが挙げられる。
【0091】
さらに高周波伝送部品の具体的な例としては、携帯通信端末や通信基地局、ミリ波センサー、車載通信機器などに使われる電気・電子部品のアンテナ基材、コネクター、筐体、アンテナカバー、センサーカバーが挙げられる。
【実施例
【0092】
次に、実施例により本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について具体的に説明する。ここで%および部とは、すべて重量%および重量部を表し、下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。なお、実施例1~5、および37~41は参考例とする。
【0093】
[各特性の測定方法]
各実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0094】
1.融点
株式会社パーキンエルマー製DSC7を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂を25℃から300℃まで窒素雰囲気下10℃/minの昇温速度で分析し、得られた吸熱ピークの中で最も高温のピーク温度を求めた。
【0095】
2.固有粘度
ウベローデ型粘度計とo-クロロフェノールを用い、25℃において、熱可塑性ポリエステル樹脂の濃度が1.0dl/g、0.5dl/gおよび0.25dl/gの場合の溶液粘度を測定し、得られた溶液粘度の値を濃度0に外挿して固有粘度(dl/g)を求めた。
【0096】
3.官能基濃度(水酸基、脂肪族基)
熱可塑性ポリエステル樹脂2gをヘキサフルオロイソプロパノール5mLに溶解させ、エタノール50mLにより再沈殿させ、沈殿物を捕集して真空乾燥機にて真空下80℃で乾燥し、精製した。精製物30mgを重ヘキサフルオロイソプロパノール0.7mLに溶解させて、日本電子(株)製JNM-ECZ500Rにて、H-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルを、Macromol.Chem.Phys.2014,215,2138-2160に記載の方法でスペクトルのピークを帰属し、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基のピークの積分値Saとその水素原子数Ha、および官能基由来のピークの積分値Sbとその水素原子数Hbを求め、以下の式(1)から官能基を求めた。
官能基(mmol/g)={(Sb/Sa)×(Ha/Hb)}/ユニット平均分子量×1000・・・(1)。
【0097】
ここで、ユニット平均分子量は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体由来の残基と芳香族ヒドロキシカルボン酸の残基またはエステル形成性誘導体由来の残基の分子量に共重合比を掛け合わせた合計である。
【0098】
4.カルボキシル基濃度
熱可塑性ポリエステル樹脂2gをo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液50mLに溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定し、樹脂中のカルボキシル基濃度を算出した。
【0099】
5.流動性(溶融粘度)
東洋精機製キャピログラフ1C型を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点より20℃高い設定温度とし、剪断速度1216(/sec)、オリフィス径1mmの条件で熱可塑性ポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。試料をキャピログラフに投入してから5分後に測定を開始した。測定は2回行い、その平均値を溶融粘度とした。この溶融粘度の値が小さい程、高い流動性を有することを示す。溶融粘度が90Pa・s以下であると流動性に優れ、70Pa・s以下であるとより優れ、50Pa・s以下であるとさらにより優れると判断した。
【0100】
6.機械物性(引張強度および引張伸度)
日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で射出成形し、厚み1/8インチ(約3.2mm)のASTM1号ダンベルの引張物性評価用試験片を得た。成形温度は熱可塑性ポリエステル樹脂の融点により変更し、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点より20℃高い温度を設定温度とした。得られた引張物性評価用試験片を用い、ASTM D638(2005年)に従い、引張最大点強度(引張強度)および引張最大点伸び(引張伸度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。引張強度の値が大きい材料を機械強度に優れていると判断し、引張伸度の値が大きい材料を靭性に優れていると判断した。さらに無機充填材(D)を含まない組成物では引張伸度が5.0%以上だとより優れ、6.0%以上だとさらに優れると判断し、無機充填材(D)を含む組成物では引張強度が100MPa以上だとより優れ、120MPa以上だとさらに優れると判断した。
【0101】
7.耐熱性(熱変形温度)
日精樹脂工業株式会社製NEX1000を用いて、上記6.項で引張物性評価用試験片を得た場合と同一の射出成形条件で、厚み1/8インチ(約3.2mm)、縦127mm、幅13mmの熱変形温度評価用試験片を得た。得られた熱変形温度評価用試験片を用い、ASTMD648(2005年)に従い、測定荷重0.45MPaの条件で熱変形温度を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。熱変形温度が80℃未満の材料は耐熱性に劣ると判断し、熱変形温度が高い材料ほど耐熱性に優れ、熱変形温度が120℃以上だと優れていると判断し、150℃以上だと特に優れていると判断した。
【0102】
8.耐熱老化性
上記6.項で引張物性評価用試験片を得た場合と同一の射出成形条件で、厚み1/8インチ(約3.2mm)のASTM1号ダンベルの引張物性評価用試験片を得た。試験片を175℃に加熱設定したエスペック製熱風オーブン内に250時間静置した(熱老化処理)後、取り出し、1日大気下に放置した後にASTM D638(2005年)に従い、熱老化処理後の引張最大点強度(引張強度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。下式(2)に従い、強度保持率を算出した。強度保持率が50%未満だと耐熱老化性に劣ると判断し、強度保持率の値が大きいほどに耐熱老化性に優れ、70%以上だと優れ、80%以上だとより優れていると判断した。
強度保持率(%)=(熱老化処理後の引張最大点強度/熱老化処理前の引張最大点強度)×100・・・(2)。
【0103】
9.低そり性評価
熱可塑性ポリエステル樹脂および熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で射出成形し、試験片厚み1mmの80mm×80mm角板を得た。得られた角板のいずれか一点の角を定盤上で押さえた際の、対角の浮き上がり量をそり量として評価した。そり量が小さいほど低そり性に優れるとした。
【0104】
10.高周波誘電特性(比誘電率、誘電正接)
熱可塑性ポリエステル樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、ソディック製TR30EHA射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて3秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で射出成形し、厚み0.5mmの30mm×30mm角板を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、30mm×1mm×0.5mm厚の誘電特性評価用試験片を得た。また、実施例および比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、上記9.項で低そり性評価に用いる試験片を得た場合と同一の条件で、厚み1mmの80mm×80mm角板を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、80mm×1mm×1mm厚の誘電特性評価用試験片を得た。誘電特性評価用試験片を使用して、アジレント・テクノロジー(株)製ネットワークアナライザE5071Cおよび(株)関東電子応用開発製空洞共振器CP521を用いた円筒型空洞共振器摂動法によって23℃、5.8GHzにおける比誘電率および誘電正接を求め、キーサイト・テクノロジー(株)製ネットワークアナライザN5227Aおよびサムテック(有)製遮断円筒導波管共振器SUMCYLINDER ver2を用いた遮断円筒導波管法によって68GHzにおける比誘電率および誘電正接を求めた。熱可塑性ポリエステル樹脂の5.8GHzおよび68GHzにおける比誘電率は3.1以下だと優れ、3.0以下だとより優れると判断した。熱可塑性ポリエステル樹脂の5.8GHzにおける誘電正接は0.0060以下だと優れ、0.0055以下だとより優れ、0.0050以下だとさらにより優れると判断した。熱可塑性ポリエステル樹脂の68GHzにおける誘電正接は0.0080以下だと優れ、0.0070以下だとより優れ、0.0060以下だとさらにより優れると判断した。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の5.8GHzにおける比誘電率は3.2以下だと優れ、3.1以下だとより優れると判断した。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の5.8GHzにおける誘電正接は0.0080以下だと優れ、0.0070以下だとより優れ、0.0060以下だとさらにより優れると判断した。
【0105】
実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。
【0106】
[原料]
テレフタル酸:三井化学社製
ジメチルテレフタレート:SKケミカル社製
イソフタル酸:東京化成工業社製
ブタンジオール:三菱ケミカル社製
エチレングリコール:三菱ケミカル社製
シクロヘキサンジメタノール:東京化成工業社製
安息香酸:東京化成工業社製
1-ドデカノール:東京化成工業社製、炭素数12
1-オクタデカノール:東京化成工業社製、炭素数18
1-ドコサノール:東京化成工業社製、炭素数22
1-ブチルオクタノール:東京化成工業社製、炭素数12
2-ヘキシル-1-ドデカノール:東京化成工業社製、炭素数18
2-オクチル-1-ドデカノール:東京化成工業社製、炭素数20
2-デシル-1-テトラデカノール:東京化成工業社製,炭素数24
2-ドデシル-1-ヘキサデカノール:サソール社製ISOFOL28、炭素数28
2-テトラデシル-1-オクタデカノール:サソール社製ISOFOL32、炭素数32
オレイルアルコール:東京化成工業社製、炭素数18
1-オクタデカン酸:東京化成工業社製、炭素数18
ブタノール:東京化成工業社製、炭素数4
オクタノール:東京化成工業社製、炭素数8
2-エチル-1-ヘキサノール:東京化成工業社製、炭素数8
MPEG:分子量550の片末端メチル化ポリエチレングリコール、東京化成工業社製
テトラブチルチタネート:東京化成工業社製
酢酸マグネシウム四水和物:東京化成工業社製
三酸化アンチモン:日本精鉱社製
リン酸トリメチル:東京化成工業社製。
【0107】
熱可塑性樹脂(B)
(B-1)直鎖状低密度ポリエチレン樹脂:(株)プライムポリマー製“ウルトゼックス”(登録商標)4570(5.8GHzでの誘電正接0.0009)を用いた。
(B-2)ポリスチレン樹脂:PSジャパン(株)製GPPS、HF77(5.8GHzでの誘電正接0.0013)を用いた。
(B-3)ポリカーボネート樹脂:出光興産(株)製“タフロン”(登録商標)A2200(5.8GHzでの誘電正接0.0049)を用いた。
【0108】
反応性化合物(C)
(C-1)エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体:グリシジルメタクリレート含有割合6%、住友化学(株)製“ボンドファースト”(登録商標)BF-2C(官能基濃度600g/eq)を用いた。
(C-2)スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物:(株)ダイセル製“エポフレンド”(登録商標)AT501(官能基濃度1000g/eq)を用いた。
(C-3)無水マレイン酸変性ポリプロピレン:ダウ製“フサボンド” (登録商標)P613(官能基濃度4500g/eq)を用いた。
【0109】
無機充填材(D)
(D-1)ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―187、断面の直径13μm、繊維長3mm、誘電率(1GHz)=約6.6、エポキシ系集束剤処理品を用いた。
(D-2)ガラス繊維:CPIC製ガラス繊維ECS303N-3KNHL、断面の直径13μm、繊維長3mm、誘電率(1GHz)=約4.5、エポキシ系集束剤処理品を用いた。
【0110】
その他添加剤(E)
(E-3)有機ホスホニウム塩:テトラフェニルホスホニウムブロマイド、東京化成工業(株)製テトラフェニルホスホニウムブロマイド(試薬)を用いた。
【0111】
[実施例1]
エステル化反応におけるジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)のモル比((a)/(b))を1.7とし、ジカルボン酸成分(b)としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分(a)としてブタンジオール(BDO):1840g、安息香酸:58g(テレフタル酸100モル%に対して4モル%)、エステル化反応触媒としてTBT(テトラブチルチタネート):生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を170分間とし、合計350分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0112】
[実施例2]
エステル化反応におけるジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)のモル比((a)/(b))を1.7とし、ジカルボン酸成分(b)としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分(a)としてブタンジオール(BDO):1840g、安息香酸:116g(テレフタル酸100モル%に対して8モル%)、エステル化反応触媒としてTBT:生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を200分間とし、合計380分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0113】
[実施例3]
実施例1で得た熱可塑性ポリエステル樹脂1000gを、エスペック製真空乾燥機LCV-233にて、窒素気流下にて190℃で24時間加熱し、固相重合反応を行った。
【0114】
[実施例4]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、東レ(株)製ポリブチレンテレフタレート樹脂“トレコン”(登録商標)1100M(融点225℃)3000gと安息香酸無水物150gをドライブレンドし、二軸押出機の元込め部から添加した。混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0115】
[実施例5]
実施例4のポリブチレンテレフタレート樹脂を東レ(株)製ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点250℃、IV=1.2)に変更し、それ以外の条件を同じにして実施した。
【0116】
[比較例1]
エステル化反応におけるジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)のモル比((a)/(b))を1.7とし、ジカルボン酸成分(b)としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分(a)としてブタンジオール(BDO):1840g、エステル化反応触媒としてTBT:生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を150分間とし、合計330分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0117】
[比較例2]
エステル化反応におけるジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)のモル比((a)/(b))を1.2とし、ジカルボン酸成分(b)としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分(a)としてブタンジオール(BDO):1300g、エステル化反応触媒としてTBT:生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を260分間とし、合計440分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0118】
[比較例3]
比較例1で得た熱可塑性ポリエステル樹脂1000gを、エスペック製真空乾燥機LCV-233にて、窒素気流下にて190℃で24時間加熱し、固相重合反応を行った。
【0119】
[比較例4]
東レ(株)製ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点250℃、IV=1.2)をそのまま用いた。
【0120】
[実施例6]
エステル化反応におけるジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)のモル比((a)/(b))を1.5とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分としてブタンジオール(BDO):1627g、直鎖脂肪族アルコールとして1-オクタデカノール:49g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)、エステル化反応触媒としてTBT(テトラブチルチタネート):生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、窒素気流下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度260℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計360分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0121】
[実施例7~39]
表2~表5に記載された組成および反応時間に従い、原料、エステル化反応時間および重縮合時間を変更した以外は実施例6に記載の条件と同じ条件にて重合反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0122】
[実施例40]
エステル化反応におけるジオール成分(a)とジカルボン酸成分(b)のモル比((a)/(b))を1.2とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル:2000g、ジオール成分としてエチレングリコール(EG):770g、直鎖脂肪族アルコールとしてドデシルヘキサデカノール:74g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)、エステル交換反応触媒として酢酸マグネシウム四水和物:生成する熱可塑性樹脂100gに対して2.8×10-4モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.06重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、窒素気流下にてエステル交換反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度240℃の条件下でエステル交換反応を行った。留出液の状態などによりエステル交換反応の終了を確認し、エステル交換反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒として三酸化アンチモン:生成するポリエステル樹脂100gに対して1.0×10-4モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.029重量部)、リン酸トリメチル:生成するポリエステル樹脂100gに対して1.0×10-4モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.014重量部)を添加し、温度290℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計3600分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0123】
[実施例41]
実施例40のジオール成分を、エチレングリコール:193gおよびシクロヘキサンジメタノール(CHDM):1313gに変更した以外は同じ条件にて重合反応を実施した。
【0124】
[実施例42]
直鎖脂肪族アルコールであるドデシルヘキサデカノールを、エステル化反応工程ではなく重縮合反応工程の反応開始時に添加した以外は、実施例12と同じ条件にて重合反応を実施した。
【0125】
[比較例5~11]
表6に記載された組成および反応時間に従い、原料、エステル化反応時間および重縮合時間を変更した以外は実施例6に記載の条件と同じ条件にて重合反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0126】
[比較例12]
表6の組成および反応時間に従い、原料、エステル交換反応時間および重縮合時間を変更した以外は実施例40に記載の条件と同じ条件にて重合反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0127】
[実施例43~57、比較例13]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性樹脂(B)および反応性官能基を有する化合物(C)、その他添加剤(E)を表7および表8に示した組成で混合した後、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、無機充填材(D)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0128】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表7および表8にその結果を示した。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
【表7】
【0136】
【表8】
【0137】
実施例1~42と比較例1~12の比較より、H-NMR法で測定した水酸基濃度が0.050mmol/g以下である熱可塑性ポリエステル樹脂が機械物性、耐熱性に優れるとともに、高周波誘電特性にも優れることがわかった。
【0138】
実施例12、38と実施例39の比較より、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点が180℃以上であると、耐熱性に優れることが分かった。
【0139】
実施例6~36と実施例37、比較例5~9、11の比較より、熱可塑性ポリエステル樹脂の分子末端に炭素数が10以上50以下の脂肪族基を有し、脂肪族基の官能基濃度が特定量であると機械物性、流動性、耐熱性、耐熱老化性、高周波誘電特性に優れることがわかった。
【0140】
実施例6、7、9~13と実施例8の比較より、脂肪族基が、炭素数が16以上36以下の脂肪族基であると流動性、耐熱性、高周波誘電特性により優れることがわかった。
【0141】
実施例9~13と実施例6、7、14の比較より、脂肪族基が、炭素数が10以上50以下の、分岐を有する飽和脂肪族基であると流動性、耐熱性、耐熱老化性、高周波誘電特性により優れることがわかった。
【0142】
実施例12と実施例40、41の比較より、熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂であると流動性および高周波誘電特性により優れることがわかった。
【0143】
実施例6、9と比較例9の比較により、熱可塑性ポリエステル樹脂の重合工程における、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体のエステル化反応、およびエステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの反応工程で、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを添加する製造方法により得られた熱可塑性ポリエステル樹脂は機械物性、流動性および高周波誘電特性により優れることがわかった。
【0144】
実施例12と実施例42の比較により、炭素数10以上50以下脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応のいずれかの任意の段階で加えることにより製造する製造法により得られた熱可塑性ポリエステル樹脂は流動性および高周波誘電特性により優れることがわかった。
【0145】
実施例44と実施例12の比較より、円筒型空洞共振器摂動法で測定した周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である熱可塑性樹脂(B)10~150重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、機械物性、耐熱性に優れるとともに、高周波誘電特性にも優れることがわかった。
【0146】
実施例43、44と実施例12の比較より、反応性化合物(C)1~50重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、機械物性に優れるとともに、高周波誘電特性にも優れることがわかった。
【0147】
実施例46~50と実施例55、57、比較例13の比較より、無機充填材(D)1~100重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は機械物性、耐熱性、低そり性および高周波誘電特性を高いバランスで得られることがわかった。
【0148】
さらに実施例47、51の比較より、無機充填材(D)として低誘電性に優れるガラス繊維を配合することで、高周波誘電特性がより優れることがわかった。