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特許7548017繊維強化複合材料およびサンドイッチ構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料およびサンドイッチ構造体
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/10 20060101AFI20240903BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240903BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240903BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240903BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
B29C70/10
B29B11/16
B29K101:12
B29K105:08
B29K105:12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020567173
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2020042587
(87)【国際公開番号】W WO2021106650
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2019216112
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 直吉
(72)【発明者】
【氏名】篠原 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189384(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0265043(US,A1)
【文献】国際公開第2014/103711(WO,A1)
【文献】特開昭57-043833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/10
B29B 11/16
B29K 101/12
B29K 105/08
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と強化繊維(B)とを含み、強化繊維(B)の平均繊維配向角が0°以上45°以下の面内配向部と、強化繊維(B)の平均繊維配向角が45°より大きく90°以下の面外配向部と、を有する繊維強化構造部と、該繊維強化構造部の前記面内配向部および前記面外配向部によって区画された空洞部とを有し、強化繊維(B)が、シート状の強化繊維基材(B’)であり、該強化繊維基材(B’)が複数の折り目を有する折り畳み状態で存在し、該空洞部は、強化繊維(B)の近接する1対の折り目の間が樹脂(A)によって結合された構造を有する繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記空洞部の延在方向と直交する断面において、面内配向部の断面積に対する、面外配向部の断面積が0.5倍以上、10倍以下である、請求項1に記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
前記空洞部が、平均繊維配向角が0°以上、30°以下の面内配向部および平均繊維配向角が60°以上、90°以下の面外配向部によって区画されている、請求項1または2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
樹脂(A)が熱可塑性樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、およびポリアリーレンエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、請求項4に記載の繊維強化複合材料。
【請求項6】
強化繊維(B)が、数平均繊維長が1mm以上50mm以下の不連続繊維である、請求項1~5のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項7】
前記繊維強化構造部において、強化繊維(B)がランダムに分散している、請求項6に記載の繊維強化複合材料。
【請求項8】
強化繊維(B)が炭素繊維である、請求項1~7のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項9】
前記繊維強化構造部が平均細孔直径が500μm以下の微多孔を有する、請求項1~8のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項10】
前記繊維強化構造部の比重が0.3g/cm以上0.8g/cm以下である、請求項1~9のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項11】
前記空洞部の断面開口部の最大長さの平均値が1000μm以上、10000μm以下である、請求項1~10のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項12】
比重が0.001g/cm以上0.2g/cm以下である、請求項1~11のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項13】
厚みが0.1mm以上、5mm以下である、請求項1~12のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項14】
前記空洞部の延在方向に直交する断面において、空洞部の開口部が面内方向に整列した層が複数層積層されてなる積層構造を有する、請求項1~13のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の繊維強化複合材料の両面にスキン層が配置されてなるサンドイッチ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量性と力学特性を両立させた繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックスとして用い、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や難燃性、耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築、電子機器、産業機械、およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。一方で、燃費の改善や携帯性の観点では、部材や筐体としてさらなる軽量化が求められており、内部に空孔を形成させた多孔質な繊維強化複合材料も開発されてきた。しかしながら、このような多孔質な繊維強化複合材料は、軽量化を目的に空孔の割合を大きくするほど劇的に力学特性が低下するという課題があった。このため繊維強化複合材料を軽量化させた上で、力学特性を両立させる技術が求められていた。
【0003】
繊維強化複合材料の軽量化と力学特性を両立させる技術として、特許文献1には、強化繊維と樹脂と空孔とを有し、補強のための突出部を有する複合構造体が示されている。特許文献2には、硬化樹脂と不織シートから構成される断面がジグザグ状のコア構造体が示されている。特許文献3には、異径断面の炭素繊維を含む紙から構成される構造体と、それを断面がジグザグ状になるように折ったコア構造体が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/117181号
【文献】特表2012-500864号公報
【文献】特表2013-511629号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、微細な空孔の総量を増やすことにより軽量化がなされる技術であり、軽量化に応じた力学特性の低下が大きいという課題があった。ここではリブやボスといった補強構造を取り入れているが、これは複合構造体の表面に配置される補強構造であり、特定の成形型を必要としたり、薄肉化の面で課題があった。特許文献2および特許文献3に記載の方法では、空孔の径や量を制御せずに樹脂が含浸されており、さらにジグザグ状の構造では曲げ方向の荷重によってジグザグ状の構造が目開きし易く、軽量化と力学特性を両立させるには不十分であった。本発明の目的は、軽量性と力学特性を両立させた繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するための本発明は、樹脂(A)と強化繊維(B)とを含み、強化繊維(B)の平均繊維配向角が0°以上45°以下の面内配向部と、強化繊維(B)の平均繊維配向角が45°より大きく90°以下の面外配向部と、を有する繊維強化構造部と、該繊維強化構造部の前記面内配向部および前記面外配向部によって区画された空洞部とを有する繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、軽量性と力学特性とを高いレベルで両立させた繊維強化複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の繊維強化複合材料の一実施形態示す模式図
図2】本発明の繊維強化複合材料の空洞部を区画する繊維強化構造部の一実施形態を拡大した模式図
図3】本発明の繊維強化複合材料の一実施形態を示す断面模式図
図4】本発明の繊維強化複合材料の一実施形態における繊維強化構造部を拡大した模式図
図5】プリプレグの一実施形態における強化繊維基材(B’)の折り角を説明するための模式図
図6】プリプレグの一実施形態における強化繊維基材(B’)の折り畳み状態を示す模式図
図7】プリプレグの一実施形態を示す断面模式図
図8図7に示す実施形態のプリプレグの一部を拡大した断面模式図
図9】プリプレグの一実施形態における、強化繊維基材(B’)の周辺を拡大した模式図
図10】実施例1で作製したプリプレグ中の強化繊維基材(B’)の折り畳み状態を示す模式図
図11】比較例1で作製したプリプレグ中の強化繊維基材(B’)の折り畳み状態を示す模式図
図12図7に示す実施形態のプリプレグの一部を拡大した断面模式図
図13】本発明の繊維強化複合材料の一実施形態を示す模式図
図14】比較例1および3で作製した繊維強化複合材料の一実施形態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
<繊維強化複合材料>
本発明の繊維強化複合材料は、樹脂(A)と強化繊維(B)とを含み、強化繊維(B)の平均繊維配向角が0°以上45°以下の面内配向部と、強化繊維(B)の平均繊維配向角が45°より大きく90°以下の面外配向部と、を有する繊維強化構造部と、該繊維強化構造部の前記面内配向部および前記面外配向部によって区画された空洞部とで構成される。
【0010】
以下、本発明の繊維強化複合材料を、適宜図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、図面に記載された実施形態に関する説明は、上位概念としての本発明の繊維強化複合材料に関する説明としても機能し得るものである。
【0011】
図1は、本発明の繊維強化複合材料の一実施形態を、繊維強化構造部の拡大像とともに示した模式図である。繊維強化構造部6によって区画された、断面(定義は後述)が略三角形状の空間である空洞部4が示されている。拡大像の通り、繊維強化構造部6は、樹脂(A)2と強化繊維(B)3を含んでいる。なお、図1の実施形態では、繊維強化構造部6は、微多孔5も含んでいる。
【0012】
図3は、図1の実施形態の繊維強化複合材料の、空洞部の延在方向に直交する断面における断面模式図である。また、図2は、空洞部を区画する繊維強化構造部の一実施形態を拡大した模式図である。なお、本明細書において、以降特に断らない場合には、繊維強化複合材料の「断面」は空洞部の延在方向に直交する断面を指すものとする。すなわち、本発明の繊維強化複合材料の空間部は延在している。
【0013】
繊維強化複合材料の断面においては、空洞部の開口部と、当該開口部を包囲する繊維強化構造部とが観察される。すなわち、空洞部は繊維強化構造部に包囲されたトンネル状の空間として存在している。
【0014】
空洞部は、断面開口部の最大長さの平均値が500μmを超えることが好ましい。ここで、断面開口部の最大長さとは、繊維強化複合材料の断面における開口部内に直線で引くことが可能な最大長さである。開口部の最大長さの平均値が500μmを超えていると、大きな軽量化の効果を得ることができる。空洞部の断面開口部の最大長さの平均値は、1000μm以上、10000μm以下が好ましく、1500μm以上、6500μm以下がより好ましく、2500μm以上、4500μm以下がさらに好ましい。
【0015】
図3に示す実施形態においては、断面において、空洞部の開口部は繊維強化構造部により三辺を包囲された略三角形状として図示されている。また、図13に示す実施形態においては、断面において、空洞部の開口部は繊維強化構造部によって三辺を構成した略台形状として図示されている。
【0016】
上述の通り、本発明の空洞部は繊維強化構造部に包囲されたものであるが、上記の、開口部が繊維強化構造部によって三辺を構成した略台形状の空洞部は、すなわち、一辺が包囲されていない空洞部であっても、後述の通り、繊維強化構造部が、平均繊維配向角が0°以上45°以下の面内配向部と、平均繊維配向角が45°より大きく90°以下の面外配向部と、を有する場合は、本発明の空洞部とする。本発明の空洞部は、繊維強化構造部に包囲されたものであることが好ましい。
【0017】
空洞部の断面開口部の形状は特に限定されないが、略多角形状または略楕円形状(略円形状を含む)が好ましく、略三角形状または略円形状であることがより好ましい。
【0018】
本発明において、繊維強化構造部は、強化繊維(B)の繊維配向すなわち平均繊維配向角が異なる面内配向部と面外配向部とを有し、空洞部は、かかる面内配向部と面外配向部とで区画されている。
【0019】
ここで、平均繊維配向角とは、繊維強化複合材料の断面において面内方向に基準線(0°)を仮定し、当該基準線と交差する強化繊維に着目した場合に、当該基準線と当該強化繊維がなす鋭角の算術平均値である。
【0020】
繊維強化構造部のある部分が面内配向部か面外配向部かの判定方法は以下の通りとする。図2に示すように、まず断面において観察される繊維強化複合材料の厚み7の算術平均値を求め、かかる厚み7の算術平均値の1/5の長さを1辺とする正方形状の格子に繊維強化構造部を分割する。以下、このように分割された繊維強化構造部の断面を「分割断面」と呼ぶ。そして、分割断面ごとに、上記基準線を厚み方向に移動させながら平均繊維配向角を測定し、平均繊維配向角が0°以上、45°以下の分割断面を有する部分を面内配向部、45°より大きく、90°以下の分割断面を有する部分を面外配向部とする。
【0021】
例えば図2において、上記のように分割された1つの繊維強化構造部の分割断面6Aについて例を挙げると、当該分割断面について平均繊維配向角を求め、かかる分割断面が面内配向部か面外配向部かを決定する。
【0022】
本発明の繊維強化複合材料において、空洞部は、上記のように識別される面内配向部および面外配向部によって区画された空間である。言い換えれば、空洞部は1つ以上の面内配向部および1つ以上の面外配向部と面している。空洞部は、平均繊維配向角が0°以上、30°以下の面内配向部によって区画されていることが好ましく、0°以上、15°以下の面内配向部によって区画されていることがより好ましい。また、空洞部は、平均繊維配向角は、60°以上、90°以下の面外配向部によって区画されていることが好ましく、75°以上、90°以下の面外配向部によって区画されていることがより好ましい。
【0023】
さらには、空洞部は、平均繊維配向角が0°以上、30°以下の面内配向部および平均繊維配向角60°以上、90°以下の面外配向部によって区画されていることが好ましく、平均繊維配向角が0°以上、15°以下の面内配向部および75°以上、90°以下の面外配向部によって区画されていることが一層好ましい。さらには、空洞部は、平均繊維配向角が0°以上、30°以下の面内配向部および平均繊維配向角60°以上、90°以下の面外配向部のみによって区画されていることが好ましく、平均繊維配向角が0°以上、15°以下の面内配向部および75°以上、90°以下の面外配向部のみによって区画されていることが一層好ましい。かかる構造を有することにより、強化繊維(B)による空洞部の補強効果が高めることができる。
【0024】
さらに、繊維強化構造部の分割断面6Aの断面積を求めることで、面内配向部および面外配向部の断面積が判る。観察像における全ての分割断面について同様の判定と断面積の測定を行い、面内配向部と面外配向部とのそれぞれで和を求めることで、繊維強化複合材料の観察像に占める、面内配向部の断面積と、面外配向部の断面積とを求めることができる。本発明の繊維強化複合材料の断面において、繊維強化構造部の面外配向部の断面積は、面内配向部の断面積の0.5倍以上、10倍以下であることが好ましく、0.6倍以上、2倍以下がより好ましく、0.6倍以上、0.8倍以下がさらに好ましい。かかる範囲とすることで、面内方向と面外方向の双方に補強効果が得られ、空洞部による軽量化と空孔の変形抑制とを両立させ、軽量化と力学特性の低下の抑制とを高いレベルで両立可能となるため好ましい。
【0025】
本発明において、繊維強化構造部のマトリックスを構成する樹脂(A)は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても良いが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂(A)を熱硬化性樹脂とした場合、耐熱性に優れるが、後述のプリプレグを用いた製造方法では樹脂(A)が硬化してしまうと、好ましくない場合がある。プリプレグは、樹脂(A)と、シート状の強化繊維(B)である強化繊維基材(B’)からなるが、樹脂(A)が硬化してしまうと、プリプレグの強化繊維基材(B’)の折り畳み構造の復元力が発現されない場合がある。樹脂(A)を熱可塑性樹脂とすることで、加熱成形における樹脂(A)の溶融や軟化が安定して行え、軽量性に優れる繊維強化複合材料が得られるために好ましい。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン、ポリアミド6、ポリアミド66等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニルや、ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、変性ポリスルホン、ポリエーテルスルホンや、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリアリーレンエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノキシ樹脂などが挙げられる。また、これら熱可塑性樹脂は、共重合体や変性体、および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0027】
これらの中でも、成形加工性と耐熱性や力学特性とのバランスから、熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテルケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、生産性とコストの観点からポリプロピレンであることがさらに好ましい。
【0028】
樹脂(A)は、さらに、用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0029】
樹脂(A)として用いる熱可塑性樹脂の融点は、100℃以上400℃以下が好ましく、120℃以上300℃以下がより好ましく、140℃以上250℃以下がさらに好ましい。かかる温度範囲とすることで、繊維強化複合材料への成形加工性と得られる繊維強化複合材料の耐熱性とが両立可能となることから好ましい。また、樹脂(A)として用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度としては、0℃以上250℃以下が好ましく、50℃以上200℃以下がより好ましく、100℃以上160℃以下がさらに好ましい。特に樹脂(A)が非晶性熱可塑性樹脂の場合、熱可塑性樹脂のガラス転移温度がかかる範囲とすることで繊維強化複合材料への成形加工性と得られる繊維強化複合材料の耐熱性とが両立可能となることから好ましい。
【0030】
強化繊維(B)は、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、適宜2種以上併用して用いてもよい。これらの中でも、強化繊維(B)は、軽量性と力学特性に優れる観点から炭素繊維であることが好ましい。強化繊維(B)は、弾性率200GPa以上であることが好ましい。また、強化繊維としては、炭素繊維が好ましく、弾性率200GPa以上の炭素繊維は特に好ましい。
【0031】
本発明において、強化繊維(B)は、不連続繊維であることが好ましく、より具体的には数平均繊維長1mm以上、50mm以下であることが好ましく、数平均繊維長は3mm以上、20mm以下であることがより好ましく、4mm以上、10mm以下であることがさらに好ましい。かかる範囲とすることで、強化繊維(B)間の間隔を広げやすくなり、微多孔の形成を制御し易くなるため好ましい。また、繊維強化構造部においては、不連続繊維がランダムに分散していることが好ましい。不連続繊維がランダムに分散していることにより、樹脂(A)と強化繊維(B)との濃度ムラが小さく、等方性に優れる繊維強化複合材料が得られる。
【0032】
図1に示されるように、繊維強化構造部6は、強化繊維(B)3と、マトリックスとしての樹脂(A)2とを含むとともに、樹脂(A)2中に多数の微多孔5を有していることが好ましい。なお、繊維強化構造部はその全体において微多孔を有している必要はなく、強化繊維(B)が存在する領域に微多孔が形成されていればよい。例えば図3に示すように、強化繊維(B)3が存在する領域の内部だけでなく、強化繊維(B)3が存在する領域の外部に樹脂(A)2のみからなる領域がある場合、本明細書においては両者(強化繊維(B)3が存在する領域および樹脂(A)2のみからなる領域)を含めて繊維強化構造部と呼称するが、後者の樹脂(A)2のみからなる領域には微多孔が形成されていなくてもよい。
【0033】
図4に示されるように、繊維強化構造部は、強化繊維(B)によって構成されるネットワークの間に樹脂(A)が含浸されてなり、前記強化繊維(B)間の樹脂(A)中に微多孔を有することが好ましい。かかる構造とすることで多孔質体として軽量化が成されるとともに、強化繊維(B)による補強効果が発揮できるようになる。
【0034】
繊維強化構造部は、水銀圧入法により測定される平均細孔直径が500μm以下の微多孔を有することが好ましい。平均細孔直径は、200μm以下が好ましく、10μm以上150μm以下がより好ましく、30μm以上100μm以下がさらに好ましい。平均細孔直径が小さすぎると軽量化効果が十分でない場合があり、大きすぎると力学特性が低下する場合がある。
【0035】
水銀圧入法とは、水銀圧入ポロシメーターを用いて行う細孔径の測定方法であり、サンプルに水銀を高圧で注入させ、加えた圧力と注入された水銀の量から細孔径を求めることができる。平均細孔直径は下記式(1)から求めることができる値である。
(平均細孔直径)=4×(細孔容積)/(比表面積) ・・・ 式(1)。
【0036】
また、本発明において、繊維強化構造部の比重は0.3g/cm以上、0.8g/cm以下であることが好ましく、0.4g/cm以上、0.7g/cm以下であることがより好ましい。かかる範囲より小さいと力学特性が低下する場合があり、かかる範囲より大きいと軽量化効果が不十分となる場合がある。ここでの比重は、繊維強化構造部のみを切り出したサンプルの質量[g]をサンプル形状から求められる体積[cm]で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した比重の算術平均値である。
【0037】
繊維強化複合材料全体としては、比重が0.001g/cm以上、0.2g/cm以下であることが好ましく、0.01g/cm以上、0.15g/cm以下であることがより好ましく、0.01g/cm以上、0.1g/cm以下であることがさらに好ましい。かかる範囲より小さいと力学特性が不十分となる場合がある。かかる範囲より大きいと軽量化効果が不十分となる場合がある。比重が0.1g/cm以下の場合、一般には力学特性を発現させることが特に困難となり、本発明の効果を効率的に発揮できるため好ましい。ここでの比重は、サンプル質量[g]をサンプル形状から求められる体積[cm]で除した値である。
【0038】
また、本発明の繊維強化複合材料は、樹脂(A)を100質量部とした際の、強化繊維(B)が10質量部以上、100質量部以下であることが好ましく、強化繊維(B)が20質量部以上、50質量部以下であることがより好ましい。かかる範囲より小さいと、強化繊維(B)による補強効果が不十分となる場合がある。かかる範囲より大きいと強化繊維(B)による軽量化効果が不十分となる場合がある。
【0039】
繊維強化複合材料の厚みは、0.1mm以上、5mm以下であることが好ましく、0.6mm以上、3mm以下であることがより好ましい。かかる範囲とすることで、薄肉でも軽量かつ力学特性に優れる本発明の効果が効率的に発揮できるため好ましい。特に空孔を有する繊維強化複合材料は、プレス工程のような他の材料を圧着させる工程で圧力を維持することが困難な傾向がある。空孔を制御することで、軽量性と力学特性を両立させた本発明における繊維強化複合化材料は、このような圧着工程にも好適に適用できるため好ましい。
【0040】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、断面において空洞部の開口部が面内方向に整列した構造を有することが好ましく、さらに、そのような構造を有する層が複数層積層されてなる積層構造を有していてもよい。かかる積層構造を有することにより、厚肉や偏肉の成形品が容易に得られることから好ましい。また、開口部が面内方向に整列した層が、各層ごとに空洞部の延在方向を変えつつ積層された積層構造を有することがより好ましく、各層ごとに空洞部の延在方向が直交するように積層された積層構造を有することがさらに好ましい。この場合、上記の本発明の繊維強化複合材料に関する説明において、空洞部の延在方向を用いて説明した内容は、各層ごとの説明として理解されるべきである。積層数としては、2層以上、50層以下が好ましく、2層以上、10層以下がより好ましい。
【0041】
積層方法には特に制限はなく、プリプレグを積層後に加熱する方法や、あらかじめ加熱、成形させた繊維強化複合材料を積層させる方法が例示できる。積層に際して各層間の接合には特に制限は無く、接着剤での接合や熱溶着などが例示できる。とりわけ後述のとおり膨張力に優れる本発明の繊維強化複合材料は、熱溶着時の加熱加圧プロセスにおいても空孔の保持能力に優れることから好ましい。
【0042】
<サンドイッチ構造体>
本発明の繊維強化複合材料は、その両面に別の繊維強化樹脂からなるスキン層が配置されたサンドイッチ構造体とすることも好ましい。好ましくは、スキン層は繊維強化複合材料よりも弾性率の高い層である。スキン層を接合する方法には特に制限は無く、接着剤での接合や熱溶着などが例示できる。とりわけ後述の膨張力に優れる本発明の繊維強化複合材料やその積層体は、熱溶着時の加熱加圧プロセスにおいても空孔の保持能力に優れることから好ましい。
【0043】
スキン層の繊維強化樹脂に含まれる強化繊維としては、前述の強化繊維(B)と同種のものを好適に用いることができ、軽量性と力学特性、経済性の観点から炭素繊維が好ましい。スキン層の繊維強化樹脂を構成する強化繊維は、数平均繊維長100mm以上であることが好ましく、150mm以上であることが好ましい。強化繊維の長さの上限は特に制限はなく、強化繊維は、繊維配向方向のスキン層の全幅にわたり連続していてもよく、途中で分断されていても良い。なお、サンドイッチ構造体の力学特性の観点からは、連続する強化繊維が一方向に配列されていることが好ましい。また、力学特性の等方性の観点からは、スキン層は、強化繊維が一方向に配列されている繊維強化樹脂層が、積層角度を変えつつ、すなわち各層の強化繊維の配列方向を変えつつ、複数層積層された構造を有することが特に好ましい。
【0044】
また、スキン層の繊維強化樹脂に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、またはこれらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂がある。中でも、熱硬化性樹脂としては、力学特性や耐熱性、強化繊維との接着性に優れるエポキシ樹脂が好ましい。
【0045】
<繊維強化複合材料の製造方法>
本発明の繊維強化複合材料は、一例として、樹脂(A)が、シート状の強化繊維(B)である強化繊維基材(B’)に含浸されてなるプリプレグであって、強化繊維基材(B’)が、プリプレグ中において、折り角が0°以上90°未満の複数の折り目を有する折り畳み状態で存在するプリプレグを、樹脂(A)が溶融または軟化する温度以上に加熱し、成形することで製造することができる。強化繊維基材(B’)が0°以上90°未満の折り角をもって折り畳まれることで、後で、折り畳まれる前の構造に戻ろうとして、折り目が伸張しようとする、すなわち、折り角が拡大する方向の力である復元力が解放され、プリプレグの繊維強化複合材料への成形において、プリプレグの厚み方向の膨張力を得ることができる。なお、プリプレグ中の強化繊維基材(B’)は、当該加熱、成形を経て繊維強化複合材料の繊維強化構造部中の強化繊維(B)となる。
【0046】
以下、このようなプリプレグについて説明する。なお、本明細書における折り角とは、折り目の方向に直交する断面(以下、本明細書において特に断った場合を除き、プリプレグの「断面」は折り目の方向に直交する断面を意味するものとする。)を見た場合に、図5に示すように、強化繊維基材(B’)3の折り目31を中心とする屈曲部がなす角度θである。強化繊維基材(B’)の折り角は、0°以上75°以下が好ましく、0°以上45°以下がより好ましく、0°以上15°以下がさらに好ましく、1°以上5°以下がとりわけ好ましい。かかる範囲とすることで繊維強化複合材料への成形における膨張力を高めることできるため好ましい。
【0047】
強化繊維基材(B’)は、断面において、任意に選択された折り目を第1の折り目とした場合に、当該第1の折り目の両側に隣接する2つの折り目を第2の折り目、該第2の折り目の外側にさらに隣接する2つの折り目を第3の折り目、該第3の折り目の外側にさらに隣接する2つの折り目を第4の折り目、と順に数えた場合に、前記第1の折り目と、第n(nは4以上の整数)の2つの折り目のうちの少なくとも一方とが近接する形態で折り畳まれていることが好ましい。このように折り畳むことにより、折り目が伸張した際に近接する折り目間に折り込まれた領域が空間を形成しやすくなり、空洞部を形成しやすくなる。なお、本明細書において「近接」という用語は接触している場合も含む概念を表す用語として用いる。また、以降本明細書において、このような形で近接している第1の折り目と、第1の折り目と近接する第nの折り目とを指して、単に「近接する一対の折り目」という場合がある。また、強化繊維基材(B’)が略台形状の場合、短い方の底辺の両端に対応する一対の折り目が「近接する一対の折り目」に対応する。
【0048】
また、この場合、断面において、近接する一対の折り目間の直線距離をLr、近接する一対の折り目間を強化繊維基材(B’)に沿って結んだ距離をLfとした場合、Lr/Lfが0.3以下かつLfが1mm以上200mm以下であることが好ましい。Lr/Lfは0.2以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。Lfは1mm以上100mm以下がより好ましく、2mm以上50mm以下がさらに好ましく、3mm以上10mm以下がとりわけ好ましい。かかる範囲とすることで繊維強化複合材料への成形における空孔径が制御し易くなるため好ましい。
【0049】
以下、さらに理解を容易にするため、強化繊維基材(B’)の折り畳み状態を具体的に図示した図面を参照しつつ強化繊維基材(B’)の折り畳み状態を説明する。強化繊維基材(B’)の折り畳み状態はこれらの図面によって限定されるものではない。
【0050】
図6は、一実施形態におけるプリプレグ中での強化繊維基材(B’)の折り畳み状態を説明するため、強化繊維基材(B’)のみを取り出して図示した斜視模式図である。また、図7は、同実施形態のプリプレグの断面模式図であり、図8はさらにその一部を拡大した断面模式図である。
【0051】
本実施形態において、強化繊維基材(B’)は、断面において、任意に選択された折り目を第1の折り目とした場合に、第1の折り目と、当該第1の折り目に隣接する第2の折り目のうちの一方とを屈曲点とするZ字状構造を含む折り畳み状態をとっている。例えば、図8中31Aで示される折り目を第1の折り目とすると、強化繊維基材(B’)は、当該断面において、当該第1の折り目と、当該第1の折り目に隣接する第2の折り目のうち一方の31Bで示される折り目とを屈曲点とするZ字状構造を形成するよう折り畳まれている。このような折り畳み構造とすることで、Z字状構造が上下に伸張しようとする力が生じ、繊維強化複合材料における空洞部の形成が容易となる。強化繊維基材(B’)が、このようなZ字状構造が連続した折り畳み状態で存在すると、全体として大きな復元力を得ることができる。
【0052】
さらに詳細には、本実施形態において、強化繊維基材(B’)は、断面において、ある折り目を第1の折り目とした際に、第1の折り目の両側に隣接する2つの折り目を第2の折り目、該第2の折り目の外側にさらに隣接する2つの折り目を第3の折り目、該第3の折り目の外側にさらに隣接する2つの折り目を第4の折り目、とした場合に、前記第1の折り目と、前記第4の折り目のうちの一方とが近接することによって形成される略三角形状の構造を含む折り構造を有している。例えば、図8中31Aで示される折り目を第1の折り目とすると、第2の折り目のうちの一方が31B、第3の折り目のうちの一方が31C、第4の折り目のうちの一方が31Dで示される折り目となり、強化繊維基材(B’)は、第1の折り目31Aと第4の折り目31Dとが近接することによって形成される略三角形構造を含む折り構造を有している。ここで、第1の折り目31Aと第4の折り目31Dは接していてもよく、ある程度離間していてもよい。すなわち、前述の説明に倣えば、本実施形態においては折り目31Aと折り目31Dとは近接する一対の折り目である。前者の場合、第1の折り目31Aと第4の折り目31Dの接点と、第2の折り目31Bと、第3の折り目31Cとによって略三角形状構造が形成され、後者の場合、第1の折り目31Aと第4の折り目31Dが離間していることにより一端が開口した略三角形状構造が形成されていると言える。本明細書において、「略三角形状」とはこうした構造を包含する用語として用いる。このような折り畳み構造とすることで、略三角形状構造が上下に伸張しようとする力が生じ、復元力を得ることができる。
【0053】
さらに、本実施形態においては、図7に示すように、強化繊維基材(B’)は、当該略三角形状構造を含む折り構造が反転しつつ連続した折り畳み構造を有している。このように規則的な折り畳み構造を有することで、所望の方向に膨張力を制御することが容易となる。なお、本実施形態に限らず、均等な膨張力を得るため、強化繊維基材(B’)がプリプレグ全体にわたり規則的な折り畳み構造を有することが好ましい。
【0054】
また、本実施形態において、第1の折り目と、当該第1の折り目と近接する第4の折り目との直線距離をLr、第1の折り目から第4の折り目まで強化繊維基材(B’)に沿って結んだ距離をLfとすると、Lr/Lfが0.3以下かつLfが1mm以上200mm以下であることが好ましい。Lrは図8に示すように、近接する1対の折り目における強化繊維基材(B’)表面同士の最短距離である。Lfは近接する1対の折り目間、すなわち図8における第1の折り目31Aから第4の折り目31Dまでの強化繊維基材(B’)の長さに対応する。Lr/Lfは0.2以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。Lfは1mm以上100mm以下がより好ましく、2mm以上50mm以下がさらに好ましく、3mm以上10mm以下がとりわけ好ましい。Lfに対するLrの比をかかる範囲とすることで、面内方向の復元力を打ち消し合わせることで面内方向への膨張を抑えやすくなり、Lfに対応する周長を有する空洞部が形成されやすくなり、空洞部の孔径制御が容易となる。
【0055】
また、第1の折り目と近接する第4の折り目との直線距離をLrとした際に、第1の折り目から第4の折り目まで強化繊維基材(B’)に沿って結んだ距離Lfを測定する方向と反対方向に存在する第2の折り目と第1の折り目との直線距離をLsとする。この場合、プリプレグの表面に沿って、前記LrとLsとが交互に連続した構成となる。例えば、図12中31Aで示される折り目を第1の折り目とすると、第2の折り目のうちの一方が31B、第3の折り目のうちの一方が31C、第4の折り目のうちの一方が31Dで示される折り目となり、強化繊維基材(B’)は、第1の折り目31Aと第4の折り目31Dとが近接することによって形成される断面が略三角形構造を含む折り構造を有している。一方で、第2の折り目のうちのもう一方31Eと31Aとのとの直線距離がLsとなる。
【0056】
Lsは0.1mm以上50mm以下であることが好ましく、1mm以上10mm以下であることがより好ましく、2mm以上5mm以下であることがさらに好ましい。さらに、Lr/Lsは、0以上0.8未満が好ましく、0以上0.3以下がより好ましく、0以上0.2以下がさらに好ましい。かかる範囲とすることで、プリプレグを膨張させて得られる繊維強化複合材料において、断面開口部の最大長さや面内配向部と面外配向部との比率を制御することが可能となり、荷重時たわみを制御できるようになるため好ましい。
【0057】
強化繊維基材(B’)は、不連続な強化繊維(B)によって構成される不織布であることが好ましい。図9は、前述したプリプレグに含まれる強化繊維基材(B’)の一実施形態を、そこに含浸された樹脂(A)とともに拡大した模式図である。本実施形態においては、強化繊維基材(B’)は、不連続な強化繊維よって構成される不織布である。樹脂(A)が含浸され、圧縮状態にある強化繊維基材(B’)は、樹脂(A)が溶融または軟化して圧縮状態が解放されることで、スプリングバックが生じる。このスプリングバックにより、図4に示すように、強化繊維間や樹脂(A)中に微細な空孔が形成される。すなわち、強化繊維基材(B’)中に微多孔が形成される。強化繊維基材(B’)としては、不連続な強化繊維(B)がランダムに分散した不織布形状であることが特に好ましく、かかる不織布は、エアレイド法、カーディング法、抄紙法などにより製造することが可能である。
【0058】
また、本発明の繊維強化複合材料が有する空洞部は、前述のプリプレグ中における強化繊維基材(B’)の折り畳み構造が伸張しようとする復元力によって形成可能である。図3は、図7に示すプリプレグを用いて成形した繊維強化複合材料の一例を示す断面模式図である。プリプレグが加熱されることで樹脂(A)が溶融または軟化した状態となり、強化繊維基材(B’)の折り畳み構造の復元力が解放される。この復元力がプリプレグの厚み方向の膨張力となり、この膨張力により強化繊維基材(B’)によって略包囲された空洞部が形成される。
【0059】
従って、強化繊維基材の折り畳み構造は、前述したプリプレグにおける折り畳み構造と略同様であり、折り畳み構造についての説明は前述のプリプレグにおける記載に準じる。但し、前述したプリプレグを用いて成形した場合、強化繊維基材(B’)の折り角は成形によって大きくなる。
【0060】
さらに、本実施形態においては、樹脂(A)は、強化繊維基材(B’)に含浸されている樹脂であり、より具体的には強化繊維基材(B’)の内部と、前述の強化繊維基材(B’)の折り畳みによって強化繊維基材(B’)間に形成される空間の両者に含浸されている樹脂である。さらに空洞部は、図3に示すように、強化繊維(B)の近接する1対の折り目31の間が樹脂(A)によって結合された構造をとることが好ましい。かかる構造とすることで、繊維強化複合材料に荷重が付加された際に、近接する1対の折り目での目開きによる変形が抑えられる。
【0061】
上記のようなプリプレグは、一例として、以下の工程[1]及び[2]をこの順に有する製造方法により製造することができる。
工程[1]:強化繊維基材(B’)を折り畳んで複数の折り目を有する折り畳み状態とする工程;
工程[2]:折り畳み状態の強化繊維基材(B’)に、樹脂(A)を複合化させる工程。
【0062】
工程[1]においては、強化繊維基材(B’)を前述した折り畳み状態に折り畳む。一般に、弾性率の高い強化繊維ほど、伸度が低く、屈曲により破壊し易い傾向がある。工程[1]において、強化繊維基材(B’)をあらかじめ折り畳むことで、強化繊維間の空隙により強化繊維単糸の曲率が抑えられ繊維の破壊を抑えて折りたたむことが可能となる。
【0063】
工程[2]において、樹脂(A)を強化繊維基材(B’)に複合化させる方法としては、溶融状態の樹脂(A)を強化繊維基材(B’)に直接注入させる方法や、フィルム状、粉末状、または繊維状の樹脂(A)を強化繊維基材(B’)に複合化させ、加熱溶融により含浸させる方法が挙げられる。樹脂(A)が溶融または軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維基材(B’)に含浸させる方法が、製造の容易さの観点から望ましい。かかる含浸方法を実現するための設備としては、プレス成形機やダブルベルトプレス機を好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるので連続生産性に優れる。
【0064】
本発明の繊維強化複合材料は、前述のプリプレグを樹脂(A)が溶融または軟化する温度以上に加熱し、成形することにより製造することができる。樹脂(A)が溶融または軟化する温度以上に加熱されて軟化することで、強化繊維基材(B’)の折り畳み構造が折り畳まれる前の構造に戻ろうとする復元力、すなわち、折り角が拡大する方向の力が解放される。この復元力がプリプレグの厚み方向の膨張力となり、この膨張力により強化繊維基材(B’)によって、強化繊維基材(B’)に押し上げられる形でプリプレグが膨張する。図3は、図7に示すプリプレグを用いて成形した繊維強化複合材料の一例を示す断面模式図である。このように、プリプレグが加熱されて樹脂(A)が軟化することで、強化繊維基材(B’)の折り角が拡大する方向に強化繊維基材(B’)が変形し、プリプレグは膨張する。典型的には、図3に示すように、この膨張によって面内配向部と面外配向部とを有する繊維強化構造部が形成されるとともに、繊維強化構造部の面内配向部および面外配向部によって区画された空洞部4が形成される。
【0065】
樹脂(A)が溶融または軟化する温度は、具体的には、樹脂(A)が結晶性熱可塑性樹脂の場合、融点より高い温度であればよいが、融点より20℃以上高い温度であることが好ましい。また、樹脂(A)が非晶性熱可塑性樹脂の場合、ガラス転移温度より高い温度であればよいが、ガラス転移温度より20℃以上高い温度が好ましい。上限温度としては、樹脂(A)の熱分解温度以下の温度を付与することが好ましい。
【0066】
また、成形においては、加熱によって膨張したプリプレグの厚み調整を行うことが好ましい。厚み制御を行う方法としては、得られる繊維強化複合材料が目的の厚みに制御できれば方法によらないが、金属板などを用いて厚みを拘束する方法、加圧力の調節により直接的に厚み制御する方法などが製造の簡便さの観点から好ましい。かかる方法を実現するための設備としては、プレス成形機やダブルベルトプレス機を好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であり、連続的な加工を容易に行うことができるため連続生産性に優れる。
【実施例
【0067】
実施例および比較例で用いた材料は以下の通りである。
【0068】
[PP樹脂]
ポリプロピレン(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)80質量%と、酸変性ポリプロピレン(三井化学(株)製“アドマー”QB510)20質量%とからなり、JIS K7121(2012)に準拠して測定した融点が160℃である結晶性のポリプロピレン樹脂組成物を用いた。かかるポリプロピレン樹脂組成物は、熱可塑性樹脂であるポリプロピレンと酸変性ポリプロピレンを原料として前記質量比で混合し、シリンダー温度200℃の二軸押出機で溶融混練させた樹脂ペレットとして作製した。さらにこの樹脂ペレットを、金型表面温度180℃、フィルム厚み0.22mmとなるように調節したプレス成形機を用いてプレス成形し、目付200g/cmのPP樹脂フィルムを作製した。
【0069】
[PC樹脂]
ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)H-4000)からなり、JIS K7121(2012)に準拠して測定したガラス転移温度が150℃である非晶性のポリカーボネート樹脂を用いた。熱可塑性樹脂であるポリカーボネートの樹脂ペレットを、金型表面温度240℃、フィルム厚み0.17mmとなるように調節したプレス成形機を用いてプレス成形し、目付200g/cmのPC樹脂フィルムを作製した。
【0070】
[炭素繊維不織布]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の特性は、JIS R7608(2007)に準拠して測定した引張弾性率が220GPaであり、単繊維直径7μmの円形断面であった。前記炭素繊維束を用い、カートリッジカッターで6mm長にカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維とを用いて、炭素繊維基材を作製した。製造装置は、分散槽として容器下部に開閉コックを有する直径1000mmの円筒状の容器、分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維および分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽は、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、炭素繊維基材(抄紙基材)を運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維濃度を0.05質量%として行った。抄紙した炭素繊維基材は200℃の乾燥炉で30分間乾燥し、炭素繊維の単糸の配向方向がランダムに分散した炭素繊維不織布とした。
【0071】
[スキン層に用いた熱硬化性プリプレグ]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、および表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の特性は、JIS R7608(2007)に準拠して測定した引張弾性率が220GPaであり、単繊維直径7μmの円形断面であった。
【0072】
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製”エピコート(登録商標)”828:30質量部、”エピコート(登録商標)”1001:35質量部、”エピコート(登録商標)”154:35質量部)にポリビニルホルマール(チッソ(株)製”ビニレック(登録商標)”K):5質量部をニーダーで加熱混練してポリビニルホルマールを均一に溶解させた後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7):3.5質量部と、硬化剤4,4-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)(ピイ・テイ・アイジャパン(株)”オミキュア”(登録商標)52):7質量部を、ニーダーで混練して未硬化のエポキシ樹脂組成物を調整した。これからナイフコーターを用いて目付132g/mのエポキシ樹脂フィルムを作製した。
【0073】
そして、炭素繊維束を一方向に配向させたシートを用意し、その両面にエポキシ樹脂フィルムをそれぞれ重ね、加熱、加圧することによってエポキシ樹脂を含浸させ、単位面積当たりの炭素繊維の質量が125g/m、繊維体積含有率60%、厚み0.125mmの熱硬化性プリプレグとした。
【0074】
各実施例・比較例における構造、物性などの評価方法は以下の通りである。
【0075】
[折り角の評価]
プリプレグから、炭素繊維不織布の折り目と直交する断面が観察面となるようにサンプルを切り出し、炭素繊維不織布の折り目の断面が観察できるように研磨を行った。得られたサンプルをレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で観察し、観察画像において、装置付属のソフトウェアによって角度の測定を行い、それぞれの折り目について図5に示すように、炭素繊維不織布3の折り目31を中心とする屈曲部がなす角度θを求めた。計20か所の折り目について折り角を求め、算術平均値を求めた。
【0076】
[LrおよびLfの評価]
プリプレグから、炭素繊維不織布の折り目と直交する断面が観察面となるようにサンプルを切り出し、炭素繊維不織布の近接する1対の折り目と、この近接する1対の折り目間を連続した炭素繊維不織布が結んだ断面が観察できるように研磨を行った。得られたサンプルをレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で観察し、観察画像において、装置付属のソフトウェアによって測長を行い、近接する1対の折り目間の直線距離(Lr)と、この近接する1対の折り目間を炭素繊維不織布に沿って結んだ距離(Lf)を求めた。計20か所の近接する折り目についてLr、LfおよびLr/Lfを求め、算術平均値を求めた。
【0077】
[Lsの評価]
プリプレグから、炭素繊維不織布の折り目と直交する断面が観察面となるようにサンプルを切り出し、炭素繊維不織布の近接する1対の折り目が複数箇所連なった断面が観察できるように研磨を行った。得られたサンプルをレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で観察し、観察画像において、装置付属のソフトウェアによって測長を行った。近接する1対の折り目の一方の折り目を起点に、対を成す折り目とは反対方向に存在するもう一方の折り目までの直線距離(Ls)を求めた。計20か所の異なる近接する折り目を起点にLsを求め、算術平均値を求めた。さらに前記Lrの算術平均値とでLr/Lsを求めた。
【0078】
[空洞部の評価]
繊維強化複合材料から、空洞部の延在方向に直交する断面が観察面となるようにサンプルを切り出し、炭素繊維不織布の近接する1対の折り目と、この近接する1対の折り目間を連続した炭素繊維不織布が結んだ断面が観察できるように研磨を行った。得られたサンプルをレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で観察することで、空洞部の断面を平面状の断面開口部として観察した。装置付属のソフトウェアによって測長を行い、断面開口部内に引くことができる最大の直線の長さを求めた。計20か所の断面開口部について測定を行い、その算術平均値を断面開口部の最大長さとした。なお、算術平均に用いる値には、近接するそれぞれの断面開口部や、奥行方向に5cm以上間隔を空けたサンプルを用意し、それらの測定結果を用いた。
【0079】
[面内配向部と面外配向部の評価]
繊維強化複合材料の厚み方向に平行な断面、すなわち繊維強化複合材料の空洞部の延在方向に直交する断面が観察面となるように研磨により観察サンプルを作製した。観察サンプルを用いて繊維強化構造部の断面観察を行い、観察はレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)を用いて行った。断面において観察される繊維強化複合材料の計10か所から厚みの算術平均値を求め、かかる厚みの算術平均値の1/5の長さを1辺とする正方形状の格子に繊維強化構造部の断面を分割した。
【0080】
分割断面ごとに、面内方向に基準線(0°)を仮定し、当該基準線と交差する個々の強化繊維に着目して、400倍の拡大像で当該基準線と当該強化繊維がなす鋭角として定義される繊維配向角を測定とした。なお、断面像において強化繊維(B)の断面のみが露出している場合は、強化繊維(B)の断面に内接する楕円を設け、強化繊維(B)の配向方向を近似した繊維楕円とし、当該繊維楕円の長軸長さ/短軸長さで表されるアスペクト比が20以上の強化繊維(B)について、繊維楕円の長軸方向と前記基準方向とがなす角をこの強化繊維(B)の繊維配向角として求めた。分割断面ごとに計400本の強化繊維(B)について繊維配向角を測定し、これらの算術平均値を平均繊維配向角として求めた。かかる方法により平均繊維配向角が0°以上、45°以下である分割断面を面内配向部、45°より大きく、90°以下である分割断面を面外配向部とした。
【0081】
次いで、観察像から面内配向部の断面積と面外配向部の断面積とをそれぞれを求めた。面内配向部の断面積比率は、面内配向部の断面積を面内配向部の断面積と面外配向部の断面積の和で除して100をかけた比率(%)として求め、面外配向部の断面積比率は、面外配向部の断面積を面内配向部の断面積と面外配向部の断面積の和で除して100をかけた比率(%)として求めた。面外配向部の断面積の面内配向部の断面積に対する倍率は、面外配向部の断面積を面内配向部の断面積で除することで求めた。
【0082】
さらに、前記面内配向部の強化繊維(B)の繊維配向角を合わせて算術平均値を再計算し、これを面内配向部全体の平均繊維配向角とした。また、前記面外配向部の強化繊維(B)の繊維配向角を合わせて算術平均値を再計算し、これを面外配向部全体の平均繊維配向角とした。
【0083】
[平均細孔直径の評価]
水銀圧入ポロシメーターとしてマイクロメリティックス社製オートポアIV9510を用い、水銀圧入圧力4kPaから400MPaの範囲で細孔径の測定を行った。平均細孔直径は、測定結果として得られた細孔容積と比表面積とから、式(1)により求めた。
(平均細孔直径)=4×(細孔容積)/(比表面積) ・・・ 式(1)。
【0084】
[繊維強化構造部の比重の評価]
繊維強化構造部の比重は、繊維強化複合材料から繊維強化構造部を切り出したサンプルを用意し、サンプル質量[g]をサンプルの外周から求められる体積[cm]で除した値であり、無作為に抽出した5つのサンプルで測定した比重の算術平均値により得られる。
【0085】
[繊維強化複合材料の比重の評価]
繊維強化複合材料の比重は、繊維強化複合材料の質量[g]を繊維強化複合材料の外周から求められる体積[cm]で除した値として求めることができる。
【0086】
[強化繊維(B)の数平均繊維長の評価]
繊維強化複合材料から、質量が2gとなるようにサンプルを切り出し、このサンプルを電気炉内で500℃下1時間加熱することにより樹脂(A)を焼き飛ばし、強化繊維(B)を単離した。レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)を用いて観察し、装置付属のソフトウェアによって計400本の強化繊維(B)について繊維長を測定し、これらの算術平均値を強化繊維(B)の数平均繊維長として求めた。
【0087】
[荷重時たわみの評価]
試験機として“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を用い、1辺100mmの正方形状の内径を有する下圧子の上に前記内径を覆うようにサンプルを設置し、前記正方形状の内径の対角線の交点の直上から平面の面積が10mmの円筒状の上圧子により荷重を徐々に負荷し、50N荷重時の変位から0.1N荷重時(接触開始時)の変位を引いた値をたわみ量[mm]として、以下の3段階で評価し、goodおよびfairを合格とした。
good:たわみ量が2mm以下である。
fair:たわみ量が2mmより大きく、3mm以下である。
bad:たわみ量が3mmより大きい。
【0088】
以下、実施例および比較例で作製したプリプレグ、繊維強化複合材料およびサンドイッチ構造体について説明する。
【0089】
[実施例1]
強化繊維基材(B’)として上記のように作製した炭素繊維不織布を図10に示す断面構造となるよう折りたたんだ目付100g/cmの折り畳み基材を用意した。この際、プリプレグとした際に、強化繊維基材(B’)の近接する1対の折り目8において、近接する1対の折り目間の直線距離(Lr)が0mm、すなわち接触するように折り畳み、かかる近接する1対の折り目間を炭素繊維不織布に沿って結んだ距離(Lf)が10mm、近接する1対の折り目の一方の折り目を起点に、対を成す折り目とは反対方向に存在するもう一方の折り目までの直線距離(Ls)が5mmとなるように折りたたんだ。さらに、折り畳み基材の表裏を合わせて見た近接する1対の折り目の構成比率9が対称構造になるように折り畳んだ。すなわち、一方の面において、近接する1対の折り目とその隣に配置された近接する1対の折り目との中間に、もう一方の面の近接する1対の折り目が配置されて繰り返すように折り畳んだ。次いで炭素繊維不織布に、樹脂(A)として目付が200g/cmのPP樹脂フィルムを積層し、加熱プレスを行った。加熱プレス工程では、金型温度180℃、圧力3MPaで10分間加圧することでPP樹脂を炭素繊維不織布に含浸させて1辺200mmのプリプレグを得た。
【0090】
また、得られたプリプレグ1枚を、金型表面温度180℃、成形品厚み2.8mmとなるように調節したプレス成形機を用いて、10分間加熱膨張させることにより、繊維強化複合材料を成形した。得られた繊維強化複合材料は図1に示すような繊維強化構造部により三辺を包囲された断面が略三角形状の開口部を有していた。空洞部の開口部が面内方向に整列していた。評価結果を表1に示す。
【0091】
[実施例2]
強化繊維基材(B’)として、Lrが1mm、Lfが9mmとなるよう折り畳み基材の構成を変更した以外は、実施例1と同様に加工を行い、プリプレグと繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料は図1に示すような繊維強化構造部により三辺を包囲された断面が略三角形状の開口部を有していた。空洞部の開口部が面内方向に整列していた。評価結果を表1に示す。
【0092】
[実施例3]
強化繊維基材(B’)として、Lrが2mm、Lfが8mmとなるよう折り畳み基材の構成を変更した以外は、実施例1と同様に加工を行い、プリプレグと繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料は図13に示すような繊維強化構造部によって三辺を構成した断面が略台形状の開口部を有していた。空洞部の開口部が面内方向に整列していた。評価結果を表1に示す。
【0093】
[実施例4]
強化繊維基材(B’)として、実施例1と同様の折り畳み基材を用い、樹脂(A)として目付が200g/cmのPC樹脂フィルムを積層し、加熱プレスを行った。加熱プレス工程では、金型温度240℃、圧力3MPaで10分間加圧することでPC樹脂を炭素繊維不織布に含浸させて1辺200mmのプリプレグを得た。得られたプリプレグ1枚を、金型温度240℃、成形品厚み2.2mmとなるように調節したプレス成形機を用いて、10分間加熱膨張させることにより、繊維強化複合材料を成形した。得られた繊維強化複合材料は図1に示すような繊維強化構造部により三辺を包囲された断面が略三角形状の開口部を有していた。空洞部の開口部が面内方向に整列していた。評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例5]
実施例1で得られたプリプレグを2枚積層してプリフォームとし、金型温度180℃、成形品厚み4.8mmとなるように調節したプレス成形機を用いて、10分間加熱することにより、積層体の繊維強化複合材料を成形した。得られた繊維強化複合材料は図1に示すような繊維強化構造部により三辺を包囲された断面が略三角形状の開口部を有し、これが2層に積層された構造であった。空洞部の開口部が面内方向に整列していた。評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例6]
強化繊維基材(B’)として、Lrが3mm、Lfが7mmとなるよう折り畳み基材の構成を変更した以外は、実施例1と同様に加工を行い、プリプレグと繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料は図13に示すような繊維強化構造部によって三辺を構成した断面が略台形状の開口部を有していた。空洞部の開口部が面内方向に整列していた。評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例7]
実施例1で得られた繊維強化複合材料をコア層に用い、その外側にスキン層として上記のように作製した熱硬化性プリプレグを配置させ、一方のスキン層の表面の強化繊維の配向方向を0°として基準とし、積層構成が、[0°/90°/繊維強化複合材料/90°/0°]となるように積層した。次いで、金型温度150℃、圧力1MPaで10分間加熱プレスすることで、熱硬化性プリプレグを硬化させ、サンドイッチ構造体を得た。得られたサンドイッチ構造体中の繊維強化複合材料の厚みは2.4mmであり、サンドイッチ構造体とする際も圧壊せずコア層として良好に用いることができた。
【0097】
[実施例8]
実施例5で得られた積層体の繊維強化複合材料をコア層に用い、その外側にスキン層として熱硬化性プリプレグを配置させ、一方のスキン層の表面の強化繊維の配向方向を0°として基準とし、積層構成が、[0°/90°/繊維強化複合材料/90°/0°]となるように積層した。次いで、金型温度150℃、圧力1MPaで10分間加熱プレスすることで、熱硬化性プリプレグを硬化させ、サンドイッチ構造体を得た。得られたサンドイッチ構造体中の積層体の厚みは4.3mmであり、サンドイッチ構造体とする際も圧壊せずコア層として良好に用いることができた。
【0098】
[比較例1]
炭素繊維不織布を図11に示す、ジグザグ構造の頂点10を有する断面構造となるよう折り目を付けた目付100g/cmの基材を用意した。この際、ジグザグ構造の頂点間の繰り返し間隔11が等間隔に5mmとなるように折り目を付けた。次いで前記基材に、目付が200g/cmのPP樹脂フィルムを積層し、加熱プレスを行った。加熱プレス工程では、金型温度180℃、圧力3MPaで10分間加圧することでPP樹脂を前記基材に含浸させて1辺200mmのプリプレグを得た。得られたプリプレグ1枚を、金型温度180℃、成形品厚み2.8mmとなるように調節したプレス成形機を用いて、10分間加熱膨張させることにより、繊維強化複合材料を成形した。得られた繊維強化複合材料は図14に示すような繊維強化構造部6の断面がジグザグ構造であった。評価結果を表1に示す。
【0099】
[比較例2]
平面状で折り目の無い100g/cmの炭素繊維不織布に、目付が200g/cmのPP樹脂フィルムを積層し、加熱プレスを行った。加熱プレス工程では、金型温度180℃、圧力3MPaで10分間加圧することでPP樹脂を前記基材に含浸させて1辺200mmのプリプレグを得た。得られたプリプレグ1枚を、金型温度180℃に調節したプレス成形機を用いて、10分間加熱膨張させることにより、繊維強化複合材料を成形した。金型の上型と下型との距離を2.8mmとし、成形品厚み2.8mmを目的に成形したが、プリプレグは金型の上型と下型の間の厚みまで膨張せず、得られた繊維強化複合材料に空洞部は形成されず厚みは0.9mmに留まった。評価結果を表1に示す。
【0100】
[比較例3]
強化繊維基材(B’)として、Lrが4mm、Lfが6mmとなるよう折り畳み基材の構成を変更した以外は、実施例1と同様に加工を行い、プリプレグと繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料は図14に示すような繊維強化構造部の断面がジグザグ構造であった。評価結果を表1に示す。
【0101】
[比較例4]
比較例1で得られた繊維強化複合材料をコア層に用い、その外側にスキン層として熱硬化性プリプレグを配置させ、一方のスキン層の表面の強化繊維の配向方向を0°として基準とし、熱硬化性プリプレグの積層構成が、[0°/90°/繊維強化複合材料/90°/0°]となるように積層した。次いで、金型温度150℃、圧力1MPaで10分間加熱プレスすることで、熱硬化性プリプレグを硬化させ、サンドイッチ構造体を得た。得られたサンドイッチ構造体中の繊維強化複合材料の厚みは0.6mmであり、サンドイッチ構造体とする成形圧力によって圧壊し、コア層として用いることができなかった。
【0102】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車構造部材およびICトレイやノートパソコンの筐体などの用途等に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0104】
1 プリプレグ
2 樹脂(A)
3 強化繊維(B)または強化繊維基材(B’)
31 強化繊維(B)の折り目または強化繊維基材(B’)の折り目
31A 強化繊維基材(B’)の折り目(第1の折り目)
31B 強化繊維基材(B’)の折り目(第2の折り目)
31C 強化繊維基材(B’)の折り目(第3の折り目)
31D 強化繊維基材(B’)の折り目(第4の折り目)
31E 強化繊維基材(B’)の折り目(もう一方の第2の折り目)
Lr 第1の折り目と最も近接する折り目(第4の折り目)との距離
Lf 第1の折り目から第1の折り目とも最も近接する折り目(第4の折り目)まで強化繊維基材(B’)に沿って結んだ距離
Ls 近接する1対の折り目の一方の折り目を起点に、対を成す折り目とは反対方向に存在するもう一方の折り目までの直線距離
θ 折り角
4 断面が略三角形状の空間(空洞部)
5 微多孔
6 繊維強化構造部
6A 繊維強化構造部の分割断面
7 繊維強化複合材料の厚み
8 強化繊維基材(B’)の近接する1対の折り目
9 折り畳み基材の表裏を合わせて見た近接する1対の折り目の構成比率
10 ジグザグ構造の頂点
11 ジグザグ構造の頂点間の繰り返し間隔
12 断面が略台形状の空間(空洞部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14