(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】回転電機ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/28 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
H02K1/28 A
(21)【出願番号】P 2021023133
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小寺 広明
(72)【発明者】
【氏名】金重 慶一
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-082862(JP,A)
【文献】特開2016-123240(JP,A)
【文献】特開2011-147310(JP,A)
【文献】特開2014-064409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸方向に延在するロータシャフトと、
前記ロータシャフトの外周に嵌合固定され、積層鋼板から構成されるロータコアと、
を備え、
前記ロータコアの内径は、前記ロータシャフトの外径より小さく、
前記積層鋼板の内縁部は、外縁部よりも薄く形成されており、前記ロータシャフトの外周面に当接するとともに、前記ロータシャフトの外周面に沿って前記回転軸方向に湾曲して
おり、
前記ロータシャフトの周縁部には、前記回転軸方向に延設された複数の貫通孔が周方向に配列されており、
前記貫通孔に、前記ロータシャフトを構成する金属よりも比重の大きい金属から構成された棒状部材が挿入された、
回転電機ロータ。
【請求項2】
前記ロータコアは、内周面に凹凸が形成されている、
請求項1に記載の回転電機ロータ。
【請求項3】
前記ロータコアは、前記凹凸の凸部に、前記回転軸方向に延在する貫通孔を備えた、
請求項2に記載の回転電機ロータ。
【請求項4】
前記ロータシャフトの外周面と前記ロータコアの内周面とは、断面多角形状である、
請求項1~
3のいずれか1項に記載の回転電機ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機においては、ロータの高速回転に起因する遠心力により、嵌合固定されたロータシャフトとロータコアが互いに離れるという現象が生じ得る。このような問題を解決するため、単にロータシャフトの外径よりもロータコアの内径を小さくするだけでは、ロータコアが破損しやすくなる。特許文献1には、このような問題を解決するために、ロータシャフトの外周面を断面多角形状にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において開示された技術のように、ロータシャフトの外周面を断面多角形状にすると、外周面の角部において応力が集中することにより、ロータコアの劣化等の一因となり得る。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、高速回転時においてもロータシャフトとロータコアとの拘束を保ちつつ、ロータコアへの応力負担を軽減可能な回転電機ロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる回転電機ロータは、回転軸方向に延在するロータシャフトと、前記ロータシャフトの外周に嵌合固定され、積層鋼板から構成されるロータコアとを備え、前記ロータコアの内径は、前記ロータシャフトの外径より小さく、前記積層鋼板の内縁部は、外縁部よりも薄く形成されており、前記ロータシャフトの外周面に当接するとともに、前記ロータシャフトの外周面に沿って前記回転軸方向に湾曲している。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高速回転時においてもロータシャフトとロータコアとの拘束を保ちつつ、ロータコアへの応力負担を軽減可能な回転電機ロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明にかかる実施形態1における回転電機ロータを用いた回転電機の垂直断面図である。
【
図2】本発明にかかる実施形態1における回転電機ロータの静止時におけるロータシャフト及びロータコアの締結部の垂直断面図である。
【
図3】本発明にかかる実施形態1における回転電機ロータの高速回転時におけるロータシャフト及びロータコアの締結部の垂直断面図である。
【
図4】本発明にかかる実施形態1における回転電機ロータのロータシャフト及びロータコアの締結部の水平断面図である。
【
図5】本発明にかかる実施形態1における回転電機ロータのロータコアに設けた貫通孔の例を示す図である。
【
図6】本発明にかかる実施形態2における回転電機ロータのロータシャフト及びロータコアの締結部の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図面は簡略的なものであるから、この図面の記載を根拠として実施の形態の技術的範囲を狭く解釈してはならない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む。)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0010】
以下、説明の明確化のため、xyz3次元直交座標系を用いて説明を行う。z方向はロータの厚さ方向であり、積層鋼板の積層方向となる。xy平面は、ロータ及び積層鋼板の主面に平行な平面である。また、+z方向が上方向であるとして説明を行うが、回転電機が配置される向きに応じて変化するものである。
【0011】
<実施形態1>
本実施形態に係る回転電機ロータ10について、
図1、
図2及び
図3を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る回転電機ロータ10を用いた回転電機1の垂直断面図である。
図2は、本実施形態に係る回転電機ロータ10の静止時におけるロータシャフト11及びロータコア12の締結部の垂直断面図である。また、
図3は本実施形態に係る回転電機ロータ10の高速回転時におけるロータシャフト11及びロータコア12の締結部の垂直断面図である。さらに、
図4は本実施形態に係る回転電機ロータ10のロータシャフト11及びロータコア12の締結部の水平断面図である。
【0012】
図1に示す回転電機1は、本実施形態に係る回転電機ロータ10及びステータ20により構成される。回転電機ロータ10は、ロータシャフト11、ロータコア12を備える。ロータコア12には磁石13を含む。さらに、ステータ20は、ステータコア21及びコイル22を備える。ロータコア12は、積層鋼板14により構成される。
【0013】
図1に示すように、ロータシャフト11は、+z方向に延設されたパイプ状部材であって、回転電機ロータ10の回転軸方向に延在する。ロータシャフト11は、ロータコア12に設けられた軸孔15に挿入されている。ロータシャフト11は、例えば低炭素鋼や鉄基合金などの金属を用いることができる。ロータシャフト11の内部に冷媒路16を設けてもよい。このとき、冷媒路16に冷媒を流すことにより、回転電機ロータ10を冷却することができる。
【0014】
図1に示すように、ロータコア12は、ロータシャフト11の外周に嵌合固定され、積層鋼板14から構成される。ロータコア12は、円環状に打ち抜き加工された積層鋼板14を上方向(+z方向)に積層することによって形成される。ロータコア12を構成する複数の積層鋼板14は、接着や溶接などにより一体的に連結されている。ロータコア12内で生じる渦電流によるエネルギー損失をできるだけ低減すべく、ロータコア12を構成する各積層鋼板14は、両側の表面に形成された絶縁皮膜によって互いに電気的に絶縁されていてもよい。
【0015】
図1に示すように、積層鋼板14の外縁部において円周方向に延設された磁石孔17に、磁石13が挿入され、磁石固定材18により封止される。コイル22に電流が流れることにより回転磁界が発生し、この回転磁界とロータコア12との間に働く電磁的作用により回転電機ロータ10が回転する。
【0016】
ここで、ロータコア12が高速回転すると、遠心力によってロータシャフト11とロータコア12の締結部に隙間が生じやすくなるという問題がある。隙間が生じることにより、ロータコア12の高速回転時、ロータシャフト11とロータコア12との回転位相ずれや分解が発生する可能性が生じる。この問題を解決するために、ロータシャフト11の外径よりもロータコア12の内径を小さくする方法がある。しかし、このような構造にすることにより、ロータコア12が破損しやすくなるという新たな問題が生じる。
【0017】
このような問題を解決するために、
図2及び
図3に示すように本実施形態におけるロータコア12を構成する積層鋼板14の内縁部は、外縁部よりも薄く形成されている。ここで、ロータコア12の内径は、ロータシャフト11の外径より小さい。そのため、積層鋼板14の軸孔15にロータシャフト11を嵌入する際、積層鋼板14の内縁部は、ロータシャフト11の外周面に当接しつつ、ロータシャフト12の外周面に沿って回転軸方向に湾曲する。その結果、
図2に示すように、ロータコア静止時において、積層鋼板14の内縁部は、バネ状に弾性変形しつつロータシャフト11の外周面に接触している。
【0018】
ここで、本実施形態におけるロータシャフト11の外周面とロータコア12の内周面は、八角形状である。断面八角形状とは、角がR加工されたものや、角が面取り加工された形状を含んでもよい。なお、ロータシャフト11の外周面とロータコア12の内周面は、八角形状に限らず、他の多角形状であってもよい。本実施形態におけるロータシャフト11及びロータコア12のように。八角形状を採用することによって、ナットによる締固めが不要となる。
【0019】
図3に示すように、ロータコア12が高速回転している場合に、ロータコア12の回転数、すなわち遠心力の大きさに合せて、積層鋼板14の湾曲部、すなわちバネ状に弾性変形している内縁部が伸縮する。そのため、高速回転時にロータコア12は、ロータシャフト11に密着し、互いに拘束し続けることができる。その結果、ロータコア12の高速回転時におけるロータシャフト11とロータコア12との回転位相ずれや分解を抑制できる。また、薄く形成された積層鋼板14の内縁部が、弾性変形しつつロータコア12に密着することによって、ロータシャフトとロータコアとの拘束が保持されるため、ロータコアへの応力負担を軽減できる。
【0020】
図4に示すように、本実施形態におけるロータシャフト11の外周面とロータコア12の内周面は、八角形状となっている。なお、八角形状に限らず、他の多角形状であってもよい。本実施形態におけるロータシャフト11及びロータコア12のように、断面多角形状であることによって、ナットによる締固めが不要となる。
【0021】
さらに、
図4に示すようにロータコア12は、内周面に凹凸が形成されている。ロータコア12の角部が、凹凸の凹部となっている。八角形状であるロータコア12の角部において応力が集中することにより、ロータコアの劣化等の一因となり得るが、角部を凹部とすることによって、ロータコア12の高速回転時に角部に応力が集中することを抑制することができる。したがって、ロータコア12の内周面に凹凸を形成することにより、積層鋼板14の局所変形を避けることができ、積層鋼板14の変形による割れを防ぐことができる。そのため、ロータシャフト11及びロータコア12が破損しにくい構造となる。
【0022】
また、
図4に示すように、ロータコア12の凸部に回転電機ロータ10回転軸方向に延在する貫通孔19を備える。ここで、ロータコア12すなわち積層鋼板14の内縁部に形成された凸部が、
図2、
図3に示すように湾曲し、バネ状に弾性変形している。貫通孔19をロータコア12に設けることにより、高速回転時の応力による鉄損の増加を抑制することができる。また、積層鋼板14の厚みがある場合、積層鋼板14の剛性が高いことから、ロータコア12にロータシャフト11を挿入する際に割れが生じやすい。そのため、貫通孔19を設けることにより、積層鋼板14の内縁部を湾曲させやすくなり、ロータシャフト11を挿入する際の割れを抑制できる。
【0023】
図5は、ロータコア12内に貫通孔19を設けた例を示す図である。
図5に示すように、貫通孔19の形状は、丸形や多角形など、様々な形状を用いることができる。
【0024】
したがって、ロータコア12の高速回転による遠心力によってロータシャフト11とロータコア12の締結部に生じる隙間を抑制できる。
【0025】
本実施形態における回転電機ロータ10によれば、高速回転時においてもロータシャフト11とロータコア12の拘束を保ちつつ、ロータコア12にかかる応力負担を軽減することができる。
【0026】
<実施形態2>
本実施形態に係る回転電機ロータ10について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係る回転電機ロータ10のロータシャフト11及びロータコア12の締結部の水平断面図である。
【0027】
図6に示すように、実施形態1の場合と同様にロータシャフト11の外周面とロータコア12の内周面は、八角形状となっている。なお、八角形状に限らず、他の多角形状であってもよい。なお、
図6では、
図4に示すロータコア12の内周面に形成された凹凸は省略されている。
【0028】
実施形態1と異なる点は、ロータシャフト11の周縁部には、回転電機ロータ10の回転軸方向に延設された複数の貫通孔が周方向に配列されており、貫通孔に金属製の棒状部材11aが挿入されている点である。棒状部材11aは、タングステン等、ロータシャフト11を構成する鉄より比重が大きい金属であることが好ましい。また、棒状部材11aはワイヤー等の線状部材を含む。また、ロータシャフトの周縁部に肉厚差を設け、遠心力による変形量をロータコアよりもロータシャフトを大きくすることによって、ロータシャフト11とロータコア12の締結部に生じる隙間を抑制できる。
【0029】
図6に示すように、ロータシャフト11に棒状部材11aを挿入させることによって、ロータシャフト11の高速回転時における遠心力によって、ロータシャフト11の外径が大きくなる。そのため、ロータシャフト11とロータコア12の締結部に生じる隙間を抑制できる。
【0030】
本実施形態における回転電機ロータによれば、高速回転時においてもロータシャフトとロータコアの拘束を保ちつつ、ロータコアへの応力負担を軽減することができる。
【0031】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
1 回転電機
10 回転電機ロータ
11 ロータシャフト
11a 棒状部材
12 ロータコア
13 磁石
14 積層鋼板
15 軸孔
16 冷媒路
17 磁石孔
18 磁石固定材
19 貫通孔
20 ステータ
21 ステータコア
22 コイル