(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金粉末の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/14 20220101AFI20240903BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240903BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B22F1/14 300
B22F1/00 M
H01M4/38 A
(21)【出願番号】P 2021031688
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 昌士
(72)【発明者】
【氏名】奥村 素宜
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310605(JP,A)
【文献】特開2020-100892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末の表面処理方法において、
前記水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程の後に前記水素吸蔵合金粉末を酸化剤に接触させて水素を脱離させる水素脱離工程と、
前記水素脱離工程の後に前記水素吸蔵合金粉末を含む液体を液体サイクロンに導入し、前記水素吸蔵合金粉末の表面に付着した前記水素吸蔵合金粉末よりも比重が小さい不要物質を除去する除去工程と、
を含む水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法において、
前記液体サイクロンは、液体導入口と、比重が大きい粒子を流出させる下側出口と、比重が小さい粒子を流出させる上側出口とを含み、
前記除去工程は、前記液体サイクロンの前記下側出口から流出する前記水素吸蔵合金粉末に水を加えて前記液体導入口に再度導入する水素吸蔵合金粉末の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末の表面処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケル水素二次電池の水素吸蔵合金電極(負極)の製造方法として、希土類元素、ニッケルおよびコバルトを構成元素として含むと共に平均粒径が20~35μmである水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬させると共に当該粉末を含む処理浴を攪拌する第1工程(アルカリ処理)と、第1工程で水素吸蔵合金粉末の表面に生じた希土類元素を主成分とする元素の水酸化物を当該表面から分離させる第2工程と、水素吸蔵合金粉末を洗浄する第3工程と、水素を脱離させる第4工程とを経て得られた粉末から電極を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかる方法によれば、アルカリ処理により水素吸蔵合金粉末にNiおよびCoを含む空洞のない連続した表面層を形成し、当該水素吸蔵合金粉末を活性化させることができる。また、上記方法の第2工程は、加圧濾過された水素吸蔵合金粉末の分散液に超音波を所定時間だけ当てた後、攪拌槽の下部より純水を注入しながら排水をフローさせることにより合金から遊離する水酸化物を除去するものである。更に、第3工程は、pH10以下になるまで塩酸水溶液を用いて合金の洗浄、加圧濾過を繰り返した後、純水にて水洗された合金を加圧濾過するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法は、アルカリ処理によって発生する不要物質である水酸化物を水素吸蔵合金粉末の表面から分離・除去するための第2および第3工程に多大な時間を要し、生産性やコスト面で課題を有している。その一方で、上記従来の方法において不要物質の除去工程の時間短縮を優先した場合、ニッケル等を含む表面層に電気絶縁性の水酸化物等が残存することにより水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵放出性能が損なわれてしまう。このため、水素吸蔵合金を利用した製品の製造分野では、アルカリ処理された水素吸蔵合金粉末の表面から不要物質を短時間に除去しつつ、当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させ得る手法が求められている。
【0005】
そこで、本開示は、水素吸蔵合金粉末の表面層から不要物質を充分かつ短時間に除去して当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させることができる水素吸蔵合金粉末の表面処理方法および装置の提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法は、希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末の表面処理方法において、前記水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬させる浸漬工程と、前記アルカリ水溶液に浸漬された前記水素吸蔵合金粉末を含む液体を液体サイクロンに導入し、前記水素吸蔵合金粉末の表面に付着した前記水素吸蔵合金粉末よりも比重が小さい不要物質を除去する除去工程とを含むものである。
【0007】
本発明者等は、アルカリ水溶液への浸漬により生じる水酸化物等の不要物質を水素吸蔵合金粉末の表面から短時間に除去すべく鋭意研究を行った。その結果、本発明者等は、アルカリ水溶液に浸漬された水素吸蔵合金粉末を含む液体体を液体サイクロンに導入(圧入)することで、水素吸蔵合金粉末の表面から当該水素吸蔵合金粉末よりも比重が小さい不要物質を充分かつ短時間に除去し得ることを見出した。すなわち、液体サイクロン内に導入された水素吸蔵合金粉末は、遠心力の作用により液体サイクロンの内周面に向けて移動し、それに伴い、水酸化物等の水素吸蔵合金粉末に比べて小さい比重を有する不要物質が粉末の表面から分離される。更に、比重の大きい水素吸蔵合金粉末は、液体サイクロンの下部へと下降し、比重の小さい不要物質は、液体サイクロン内を上昇していく。これにより、本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によれば、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を充分かつ短時間に除去して当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させることが可能となる。
【0008】
また、前記液体サイクロンは、液体導入口と、比重が大きい粒子を流出させる下側出口と、比重が小さい粒子を流出させる上側出口とを含むものであってもよく、前記除去工程は、前記液体サイクロンの前記下側出口から流出する前記水素吸蔵合金粉末に水を加えて前記液体導入口に再度導入するものであってもよい。
【0009】
これにより、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を除去するのに必要な時間の短縮化を図りつつ、液体サイクロンでの水素吸蔵合金粉末と不要物質との分離処理を繰り返し実行して当該水素吸蔵合金粉末を極めて良好に活性化させることが可能となる。
【0010】
更に、本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法は、前記浸漬工程の後に、前記水素吸蔵合金粉末を酸化剤に接触させて水素を脱離させる水素脱離工程を含むものであってもよく、前記除去工程を前記水素脱離工程の後に実行するものであってもよい。
【0011】
これにより、水素吸蔵合金粉末の表面処理に要する時間の短縮化を図りつつ、水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させることが可能となる。
【0012】
本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理装置は、希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末の表面処理装置において、処理槽と、前記処理槽から液体を吸入して吐出するポンプと、前記ポンプの吐出口に接続される液体導入口、比重が大きい粒子を流出させる下側出口、および比重が小さい粒子を流出させる上側出口を含む液体サイクロンとを含むものである。
【0013】
かかる表面処理装置を用いて水素吸蔵合金粉末に表面処理を施す際には、処理槽内で少なくとも水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬させた後、処理槽から液体を吸入して液体サイクロンの液体導入口に吐出(圧送)するようにポンプを作動させる。ポンプにより液体サイクロン内に導入(圧入)された水素吸蔵合金粉末は、遠心力の作用により液体サイクロンの内周面に向けて移動し、それに伴い、当該水素吸蔵合金粉末に比べて小さい比重を有する水酸化物等の不要物質が粉末の表面から分離される。更に、比重の大きい水素吸蔵合金粉末は、液体サイクロンの下部へと下降して下側出口から流出し、比重の小さい不要物質は、液体サイクロン内を上昇して上側出口から流出(オーバーフロー)する。これにより、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を充分かつ短時間に除去して当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させることが可能となる。なお、処理槽内では、水素を脱離させるために、アルカリ水溶液に浸漬させた水素吸蔵合金粉末を更に酸化剤に接触させてもよい。
【0014】
また、前記表面処理装置は、前記ポンプの吐出口と前記液体導入口とを結ぶ導入管と、前記液体サイクロンの前記下側出口と前記処理槽とを結ぶ返送管と、前記処理槽内に水を供給するための供給管と、前記導入路に開閉弁を介して接続された粉末回収管とを更に含むものであってもよい。
【0015】
かかる表面処理装置では、液体サイクロンの下側出口から流出する水素吸蔵合金を返送管を介して処理槽に戻すと共に、供給管を介して処理装置内に別途供給される水と共に導入管を介して液体導入口に再度導入することができる。これにより、液体サイクロンでの水素吸蔵合金粉末と不要物質との分離処理を繰り返し実行し、表面層から不要物質が充分に除去された水素吸蔵合金粉末を処理槽内に蓄積させていくことができる。この結果、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を除去するのに必要な時間の短縮化を図りつつ、水素吸蔵合金粉末の表面層から不要物質を充分に除去して当該水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵放出性能をより一層向上させることが可能となる。更に、開閉弁を開弁させてポンプを作動させることで、粉末回収管を介して処理槽内の水素吸蔵合金粉末を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理装置を示す概略構成図である。
【
図2】本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法と比較例の表面処理方法とで、工程処理能力、水素吸蔵合金粉末から形成された電極を含むニッケル水素二次電池の電池容量および低温時出力を比較する図表である。
【
図4】本開示の他の表面処理装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1は、本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理装置(以下、単に「表明処理装置」という。)1を示す概略構成図である。同図に示す表面処理装置1は、希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金からなるニッケル水素二次電池の電極(負極)の製造に際して、当該水素吸蔵合金に表面処理を施すために用いられるものである。図示するように、表面処理装置1は、処理槽2、ポンプ3,液体サイクロン4および貯蔵タンク5を含む。
【0019】
表面処理装置1の処理槽2は、水素吸蔵合金のアルカリ処理や水素の脱離に用いられるものであり、図示しない攪拌機構を有する。更に、処理槽2の上部には、供給管Lsが接続されており、当該供給管Lsを介して処理槽2の内部にアルカリ水溶液や水(純水)等を供給することができる。ポンプ3は、電動ポンプであり、処理槽2の下部に配管を介して接続される吸入口3iと、吐出口3oとを有する。ポンプ3は、吸入口3iを介して処理槽2内の液体を吸入して吐出口3oから吐出する。
【0020】
液体サイクロン4は、液体の旋回流によって生ずる遠心力を利用して粒子を分離させるものであり、水素吸蔵合金を含む液体が導入される本体40を含む。液体サイクロン4の本体40は、
図1に示すように、上端が閉鎖された円筒部41と、当該円筒部41の下端から下方に向かうにつれて縮径する円錐部42とを有する。本体40の円筒部41の側面には、当該円筒部41の内部に液体を接線方向に導入する液体導入口43が形成されており、液体導入口43は、導入管Liを介してポンプ3の吐出口3oに接続される。また、本体40の円錐部42の下部には、本体40内に導入された液体に含まれる比重の大きい粒子を流出させる下側出口44が形成されている。下側出口44には、返送管Lrの一端が接続されており、当該返送管Lrの他端は、処理槽2の上部に接続されている。
【0021】
更に、本体40の円筒部41および円錐部42の一部の内部には、当該円筒部41等の内周面と共に環状の通路を画成する円筒体45が配置されている。当該円筒体45の上端は、円筒部41の閉鎖端から上方(外方)に突出すると共に、排出管Loを介して図示しない廃液タンクに接続される。これにより、円筒体45の上端は、本体40内に導入された液体に含まれる比重の小さい粒子を流出させる液体サイクロン4の上側出口として機能する。
【0022】
また、ポンプ3の吐出口3oと液体サイクロン4の液体導入口43とを結ぶ導入管Liには、中途に開閉弁Vcを含む粉末回収管Lcの一端が接続されている。粉末回収管Lcの他端は、貯蔵タンク5の上部に接続されており、開閉弁Vcを開弁させることでポンプ3の吐出口3oと貯蔵タンク5とが連通する。ただし、開閉弁Vcの代わりに、三方弁が導入管Liに組み込まれてもよく、開閉弁Vcと液体導入口43との間に位置するように図示しない他の開閉弁が導入管Liに組み込まれてもよい。
【0023】
続いて、
図1および
図2を参照しながら、上述の表面処理装置1を用いた本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法について説明する。
【0024】
水素吸蔵合金粉末の表面処理に際しては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液あるいは水酸化リチウム水溶液といった所定濃度のアルカリ水溶液を所定量だけ処理槽2内に貯留すると共に、当該アルカリ水溶液内に予め定められた平均粒径(例えば、10~35μm)をもった希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末を所定量だけ投入する(ステップS100)。ステップS100では、処理槽2内の液体を所定温度に保つと共に攪拌機構により攪拌しながら、水素吸蔵合金粉末を所定時間だけアルカリ水溶液に浸漬させる。更に、水素吸蔵合金粉末を所定時間だけアルカリ水溶液に浸漬させた後、処理槽2内に所定濃度の過酸化水素水を酸化剤として所定量だけ導入し、水素吸蔵合金粉末中の水素を脱離させる(ステップS110)
【0025】
ステップS100(浸漬工程)およびS110(水素脱離工程)の処理により、水素吸蔵合金粉末にNiを含む表面層が形成される共に、当該水素吸蔵合金粉末中の水素が脱離させられる。ただし、ステップS100のアルカリ処理により水素吸蔵合金粉末から希土類元素やマンガン、アルミニウム等が溶出して水酸化され、水素吸蔵合金粉末の表面に電気絶縁性をもった希土類元素等の水酸化物等の不要物質が付着する。かかる不要物質は、水素吸蔵合金粉末により形成された負極を含むニッケル水素二次電池における電池反応を阻害するものである。従って、ニッケル水素二次電池の性能を良好に確保するためには、アルカリ処理が施された水素吸蔵合金粉末の表面から水酸化物等の不要物質をできるだけ除去する必要がある。その一方で、水素吸蔵合金粉末の分散液に超音波を当てたり、純水による洗浄および加圧濾過を繰り返し実行したりしても、水素吸蔵合金粉末の表面から不要物質を充分に除去するには、非常に多くの時間を要してしまう。
【0026】
このため、本発明者等は、アルカリ水溶液への浸漬により生じる水酸化物等の不要物質を水素吸蔵合金粉末の表面から充分かつ短時間に除去すべく鋭意研究を行い、研究の過程で粒子の分級等に用いられる液体サイクロンの使用に想到した。そして、本発明者等は、実験・解析等により、アルカリ水溶液に浸漬された水素吸蔵合金粉末を含む液体を液体サイクロンに導入(圧入)することで当該水素吸蔵合金粉末の表面から水酸化物等の不要物質を充分かつ短時間に除去し得ることを見出した。これを踏まえて、本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法では、ステップS100およびS110の処理の後、ステップS120にて、上述のような液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理(除去工程)が実行される。
【0027】
すなわち、ステップS110の処理が完了すると、開閉弁Vcを閉弁させた状態で処理槽2内に液体が無くなるまでポンプ3が作動させられる。ポンプ3は、処理槽2内の水素吸蔵合金粉末を含む液体を吸入して吐出口3oから予め定められた吐出圧で吐出し、当該液体は、導入管Liを介して液体サイクロン4の液体導入口43へと供給(圧送)される。ポンプ3により液体サイクロン4の円筒部41内に導入された液体中の水素吸蔵合金粉末は、遠心力の作用により本体40の内周面に向けて移動し、それに伴い、当該水素吸蔵合金粉末に比べて小さい比重を有する水酸化物等の不要物質が粉末の表面から分離される。更に、比重の大きい水素吸蔵合金粉末(比重≒6g/cc)は、液体サイクロン4の円錐部42の下部へと下降し、下側出口44から返送管Lr内に流出する。これに対して、比重の小さい水酸化物(比重≒2g/cc)は、液体と共に液体サイクロン4の本体40内を上昇し、上側出口としての円筒体45から排出管Lo内に流出(オーバーフロー)すると共に上記廃液タンク内に流入する。
【0028】
一方、液体サイクロン4の下側出口44から流出した水素吸蔵合金粉末は、若干の液体を含んだ状態で返送管Lrを介して処理槽2内に戻される。また、処理槽2内に水素吸蔵合金粉末が戻されるのに伴い、当該処理槽2内には、供給管Lsを介して水(純水)が所定量だけ供給され、水素吸蔵合金粉末および水は、処理槽2内で攪拌機構により所定時間だけ攪拌される。水素吸蔵合金粉末および水が攪拌された後、開閉弁Vcを閉弁させた状態で処理槽2内に液体が無くなるまで再度ポンプ3が作動させられる。これにより、水素吸蔵合金粉末は、処理槽2内に供給された水と共にポンプ3により液体サイクロン4に再度導入される。
【0029】
ポンプ3により液体サイクロン4の円筒部41内に再度液体が導入されると、遠心力の作用により水素吸蔵合金粉末の表面に付着している水酸化物が分離される。また、水素吸蔵合金粉末は、円錐部42、下側出口44および返送管Lrを介して処理槽2内に戻される。更に、水酸化物等の不要物質は、液体(水)と共に円筒体45から排出管Lo内に流出(オーバーフロー)する。これにより、液体サイクロン4での水素吸蔵合金粉末と不要物質との分離処理を繰り返し実行し、表面層から不要物質が充分に除去された水素吸蔵合金粉末を処理槽2内に蓄積させていくことができる。
【0030】
本実施形態では、1回(所定時間)のポンプ3の作動に応じた液体サイクロン4での水素吸蔵合金粉末と不要物質との分離処理が予め定められた回数(本実施形態では、例えば2回以上)だけ実行される(ステップS130:NO)。また、当該分離処理が繰り返し実行されることで、液体サイクロン4に導入される液体のpHは、最終的にpH10程度まで低下する。液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理が予め定められた回数だけ実行され、当該液体サイクロン4から処理槽2内に水素吸蔵合金粉末が戻されると(ステップS130:YES)、処理槽2内の水素吸蔵合金粉末が貯蔵タンク5内に回収され(ステップS140)、一連の水素吸蔵合金粉末の表面処理が完了する。ステップS140では、開閉弁Vcを開弁させた状態でポンプ3が作動させられる。これにより、処理槽2内の水素吸蔵合金粉末が、ポンプ3により吸入されて導入管Liの一部および粉末回収管Lcを介して貯蔵タンク5内へと圧送される。
【0031】
なお、本実施形態において、ポンプ3の諸元(吐出圧等)や液体サイクロン4の諸元(本体40の容積や円錐部42の頂角等)は、1回の液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理が施された水素吸蔵合金粉末の含水率が例えば4~10%、好ましくは、6~8%になるように定められる。これにより、貯蔵タンク5内の水素吸蔵合金粉末が酸素と反応して発熱したり、変質したりするのを良好に抑制することが可能となる。
【0032】
図3は、表面処理装置1を用いた上述の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法(
図3における実施例1参照)と比較例の表面処理方法とで、工程処理能力、本開示または比較例の表面処理方法が適用された水素吸蔵合金粉末から形成された電極(負極)を含むニッケル水素二次電池の電池容量および低温時出力を比較する図表である。比較例の表面処理方法は、液体サイクロン4を用いることなく、アルカリ水溶液への浸漬および水素脱離処理の後に、液体のpHが10程度になるまで純水による水洗および脱水処理を5回繰り返すと共に固まった水素吸蔵合金粉末を解砕して、実用上許容されるレベルまで水酸化物等の不要物質が除去された水素吸蔵合金粉末を得るものである。また、工程処理能力は、水素吸蔵合金粉末の表面処理に要する時間を示すものであり、比較例の表面処理方法における工程処理能力を100としている。更に、ニッケル水素二次電池の低温時出力は、周囲温度が-30℃の環境下におけるニッケル水素二次電池の出力(W)であり、比較例の表面処理方法における電池容量および低温時出力も比較例の表面処理方法におけるものを100としている。
【0033】
図3に示すように、表面処理装置1を用いた本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によれば、表面処理装置1により処理された水素吸蔵合金粉末製の電極(負極)を含むニッケル水素二次電池の電池容量および低温時出力を比較例によるものよりも向上させつつ、水素吸蔵合金粉末の表面処理に要する時間を比較例の40%程度にまで短縮化することができる。従って、表面処理装置1を用いた本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によれば、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を充分かつ短時間に除去して当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させ得ることが理解されよう。
【0034】
また、上記ステップS120における液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理(除去工程)は、当該液体サイクロン4の下側出口44から流出する水素吸蔵合金粉末に処理槽2内で水を加えて液体導入口43に再度導入するものである。これにより、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を除去するのに必要な時間の短縮化を図りつつ、液体サイクロン4での水素吸蔵合金粉末と不要物質との分離処理を繰り返し実行して当該水素吸蔵合金粉末を極めて良好に活性化させることが可能となる。
【0035】
ただし、1回(所定時間)のポンプ3の作動に応じた液体サイクロン4での水素吸蔵合金粉末と不要物質との分離処理は、3回以上繰り返し実行されてもよい。また、当該分離処理は、必ずしも繰り返し実行される必要はなく、1回だけ実行されてもよい。すなわち、水素吸蔵合金粉末の表面処理に際しては、
図4に示す表面処理装置1Bが用いられてもよい。表面処理装置1Bは、上記表面処理装置1から返送管Lrを省略すると共に、粉末回収管Lcを介して液体サイクロン4の下側出口44を貯蔵タンク5に直接接続したものに相当する。表面処理装置1Bを用いた場合、1回(所定時間)のポンプ3の作動に応じて液体サイクロン4に導入された水素吸蔵合金粉末は、円錐部42、下側出口44および粉末回収管Lcを介して貯蔵タンク5内に流入する。かかる表面処理装置1Bにおいても、ポンプ3の諸元(吐出圧等)や液体サイクロン4の諸元(本体40の容積や円錐部42の頂角等)は、1回の液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理が施された水素吸蔵合金粉末の含水率が例えば4~10%、好ましくは、6~8%になるように定められる。
【0036】
図3に示すように、表面処理装置1Bを用いた本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法(
図3における実施例2参照)によれば、当該表面処理装置1Bにより処理された水素吸蔵合金粉末製の電極(負極)を含むニッケル水素二次電池の電池容量および低温時出力を比較例によるものと同等以上に向上させつつ、水素吸蔵合金粉末の表面処理に要する時間を比較例の25%程度にまで短縮化することができる。従って、表面処理装置1Bを用いた本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法によっても、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を充分かつ短時間に除去して当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させ得ることが理解されよう。
【0037】
また、上記表面処理装置1,1Bにおいて、液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理(除去工程)は、水素吸蔵合金粉末中の水素を脱離させる処理(水素脱離工程)の後に実行されるが、これに限られるものではない。すなわち、液体サイクロン4を用いた不要物質の分離処理は、水素吸蔵合金粉末のアルカリ水溶液への浸漬処理の後かつ水素を脱離させる処理の前に実行されてもよい。また、表面処理装置1,1Bの液体サイクロン4は、上述のような、いわゆる折線型サイクロンに限られるものではなく、軸流側サイクロンであってもよい。
【0038】
以上説明したように、本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法は、希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末の表面処理方法であり、水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬させる浸漬工程(S100)と、アルカリ水溶液に浸漬された水素吸蔵合金粉末を含む液体を液体サイクロン4に導入し、水素吸蔵合金粉末の表面に付着した当該水素吸蔵合金粉末よりも比重が小さい不要物質を除去する異物除去工程(S120)とを含むものである。また、本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理装置1,1Bは、希土類元素およびニッケルを構成元素として含む水素吸蔵合金粉末に表面処理を施すものであって、処理槽2と、当該処理槽2から液体を吸入して吐出するポンプ3と、当該ポンプ3の吐出口3oに接続される液体導入口43、比重が大きい粒子を流出させる下側出口44、および比重が小さい粒子を流出させる上側出口を形成する円筒体45を有する液体サイクロン4とを含むものである。このような本開示の水素吸蔵合金粉末の表面処理方法および装置によれば、水素吸蔵合金粉末の表面層から水酸化物等の不要物質を充分かつ短時間に除去して当該水素吸蔵合金粉末を良好に活性化させることが可能となる。
【0039】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示の発明は、水素吸蔵合金を利用した製品の製造分野等において利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1,1B 表面処理装置、2 処理槽、3 ポンプ、3i 吸入口、3o 吐出口、4 液体サイクロン、40 本体、41 円筒部、42 円錐部、43 液体導入口、44 下側出口、45 円筒体、5 貯蔵タンク、Lc 粉末回収管、Li 導入管、Lo 排出管、Lr 返送管、Ls 供給管、Vc 開閉弁。