(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】分取液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/80 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
G01N30/80 F
(21)【出願番号】P 2021032290
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003993
【氏名又は名称】弁理士法人野口新生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】上田 史織
(72)【発明者】
【氏名】舎川 知広
(72)【発明者】
【氏名】玉置 宗一朗
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥平
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179003(WO,A1)
【文献】特開平06-138115(JP,A)
【文献】特開平04-326058(JP,A)
【文献】特開昭50-105195(JP,A)
【文献】特開2012-103999(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163276(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/80
G01N 30/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の成分の分離及び分取を行なう分取液体クロマトグラフであって、
移動相が流れる分離流路と、
前記移動相中に前記サンプルを注入するインジェクタと、
前記分離流路上における前記インジェクタの下流に設けられ、前記移動相中に注入されたサンプル中の成分を分離させるための分離カラムと、
前記分離カラムにより分離された成分のピークを検出するための検出器と、
前記検出器の下流において前記分離カラムからの溶出液を複数の捕集容器に分画して捕集するためのフラクションコレクタと、
前記フラクションコレクタの動作を制御するためのコントローラと、を備え、
前記フラクションコレクタには、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含むピーク部分を捕集するためのピーク用捕集容器、及び、前記溶出液のうち前記捕集対象ピークを含まない廃液部分を捕集するための廃液用捕集容器が設けられ、
前記コントローラは、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含む前記ピーク部分を前記ピーク用捕集容器に捕集し、前記廃液部分のうちの
前記ピーク部分の前の所定量と前記ピーク部分の後の所定量を前記廃液用捕集容器に捕集するように構成され
、前記ピーク部分の前の所定量と前記ピーク部分の後の所定量とは前記廃液部分の一部であり前記ピーク用捕集容器で捕集しきれなかった捕集対象成分を含む部分である、分取液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ピーク用捕集容器に捕集すべき捕集対象ピークを、サンプルの予め取得されたクロマトグラム上でユーザに指定させ、ユーザにより指定された前記捕集対象ピークを含むピーク部分、及びそのピーク部分の前後の廃液部分を前記ピーク用捕集容器及び前記廃液用捕集容器にそれぞれ捕集するように構成されている、請求項1に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記コントローラは、前記廃液用捕集容器に捕集すべき前記前後の廃液部分の量をそれぞれユーザに指定させるように構成されている、請求項2に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記コントローラは、サンプルが前記移動相中に注入されて当該サンプルの分離及び分取が開始されてから当該分離及び分取が終了するまでの間に、前記廃液部分のすべてを前記廃液用捕集容器に捕集するように構成されている、請求項1に記載の分取液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分取液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフを始めとするクロマトグラフを利用して、サンプルに含まれる複数の成分を分離して捕集する分取液体クロマトグラフが知られている(特許文献1参照)。分取液体クロマトグラフは、分離流路を流れる移動相中に注入されたサンプル中の成分を分離カラムによって分離し、分離された成分のピークを検出器の信号に基づいて検出し、検出したピークを検出器の後段に設けられたフラクションコレクタにより個別の捕集容器に分画して捕集するシステムである。
【0003】
分取液体クロマトグラフによって分離及び分取されるサンプルは貴重であることが多い。そのため、分取条件の設定ミス等によって捕集対象成分が取りこぼされることは極力避けたい。捕集対象成分の取りこぼしを防止するために、フラクションコレクタのさらに下流に廃液ボトルを設けておき、分離カラムからの溶出液のうち捕集対象成分を含まない廃液部分を廃液ボトルに貯留しておくという方法も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/185872号
【文献】特開2010-014559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、フラクションコレクタの下流に設けた廃液ボトルに廃液部分を貯留する方法では、大量の廃液が同じ容器内に貯留されることになるため、廃液側へ流れた捕集対象成分が大きく希釈されてしまい、廃液ボトルに貯留された廃液を再利用する際に捕集対象成分の濃縮に長時間を要することになる。
【0006】
そこで、廃液部分を複数の廃液ボトルに分けて貯留することも考えられる。その場合、フラクションコレクタの下流にマルチポートバルブを設け、廃液部分を回収する廃液ボトルをマルチポートバルブによって選択するという構成が考えられる。しかし、その場合には、マルチポートバルブのポート数が廃液ボトルの設置数の上限となり、廃液を分ける数にも限界がある。
【0007】
また、フラクションコレクタの下流にマルチポートバルブを設けると、装置の構成が複雑化して装置コストが増大するだけでなく、不具合の発生率の増加を招く。例えば、フラクションコレクタの下流のマルチポートバルブにおいて流路の閉鎖が発生すると、それよりも上流の流路内の圧力が上昇して他の要素(切替バルブ等)を破損させる虞がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、装置の構成を複雑化させることなく、廃液を高効率に再利用することができるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る分取液体クロマトグラフは、サンプル中の成分の分離及び分取を行なう分取液体クロマトグラフであって、移動相が流れる分離流路と、前記移動相中に前記サンプルを注入するインジェクタと、前記分離流路上における前記インジェクタの下流に設けられ、前記移動相中に注入されたサンプル中の成分を分離させるための分離カラムと、前記分離カラムにより分離された成分のピークを検出するための検出器と、前記検出器の下流において前記分離カラムからの溶出液を複数の捕集容器に分画して捕集するためのフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタの動作を制御するためのコントローラと、を備え、前記フラクションコレクタには、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含む前記ピーク部分を捕集するためのピーク用捕集容器、及び、前記溶出液のうち前記捕集対象ピークを含まない廃液部分を捕集するための廃液用捕集容器が設けられ、前記コントローラは、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含むピーク部分を前記ピーク用捕集容器に捕集し、前記廃液部分のうちの少なくとも一部を前記廃液用捕集容器に捕集するように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る分取液体クロマトグラフによれば、フラクションコレクタには、分離カラムからの溶出液のうち検出器により検出された捕集対象ピークを含むピーク部分を捕集するためのピーク用捕集容器、及び、前記溶出液のうち前記捕集対象ピークを含まない廃液部分を捕集するための廃液用捕集容器が設けられ、コントローラは、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含むピーク部分を前記ピーク用捕集容器に捕集し、前記廃液部分のうちの少なくとも一部を前記廃液用捕集容器に捕集するように構成されているので、装置の構成を複雑化させることなく、廃液を高効率に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】分取液体クロマトグラフの一実施例を示す概略構成図である。
【
図2】同実施例の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】同実施例の動作の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る分取液体クロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1に示されているように、分取液体クロマトグラフは、分離流路2、送液ポンプ4(PUM)、インジェクタ6(INJ)、分離カラム8(COL)、検出器10(DET)、フラクションコレクタ12(FRA)、及びコントローラ14を備えている。
【0014】
送液ポンプ4は分離流路2中で移動相を送液する。インジェクタ6は、分離流路2を流れる移動相中にサンプルを注入する装置である。分離カラム8は分離流路2上におけるインジェクタ6の下流に設けられており、インジェクタ6により移動相中に注入されたサンプルの各成分が分離カラム8において互いに分離される。検出器10は分離流路2上における分離カラム8の下流に設けられており、検出器10の検出信号に基づいて分離カラム8において分離された各成分のピークが検出される。
【0015】
フラクションコレクタ12は、検出器10の下流において分離カラム8からの溶出液を複数の容器に分画して捕集するための装置である。フラクションコレクタ12は、移動式のプローブ16と、検出器10の出口側の流路をプローブ16側へ導くかドレイン側へ導くかを切り替えるための切替バルブ18と、を備えている。また、フラクションコレクタ12には、分離カラム8からの溶出液のうち捕集対象成分のピークを含む部分(ピーク部分)を捕集するための複数のピーク用捕集容器20のほかに、捕集対象ピークを含まない廃液部分を捕集するための複数の廃液用捕集容器22が設置されている。
【0016】
フラクションコレクタ12の動作はコントローラ14によって制御される。コントローラ14は、この分取液体クロマトグラフの動作管理を行なうためのコンピュータ装置によって実現することができる。コントローラ14は、予めユーザにより設定された分取条件に従って、検出器10の検出信号から得られるクロマトグラムから捕集対象ピークを検出し、その捕集対象ピークを含むピーク部分を個別のピーク用捕集容器20に分画して捕集するように構成されている。さらに、コントローラ14は、捕集対象成分の取りこぼしを防止するために、捕集対象ピークを含まない廃液部分の少なくとも一部を廃液用捕集容器22に捕集するように構成されている。
【0017】
ユーザは、例えばコントローラ14と通信可能なディスプレイに表示された、サンプルについて予め取得されたクロマトグラムを参照しながら、ピーク用捕集容器20に捕集すべき少なくとも1つの捕集対象ピークを指定することができる。コントローラ14は、ユーザにより指定された捕集対象ピークを含むピーク部分を個別のピーク用捕集容器に捕集するように、検出器10の検出信号に基づいてフラクションコレクタ12を制御する。
【0018】
ところで、ピーク用捕集容器20に捕集しきれなかった捕集対象成分は、その前後の廃液部分に含まれている可能性が高い。そのため、コントローラ14は、ユーザによって捕集対象ピークが指定されたときに、指定された捕集対象ピークの前後の廃液部分を廃液用捕集容器22に捕集すべき廃液部分として設定するように構成されていてもよい。その場合、捕集対象ピークの前後の廃液部分をどれだけ廃液用捕集容器22に捕集するかは、ユーザが任意に指定できるようになっていてもよい。
【0019】
この実施例におけるサンプルの分離及び分取の動作の一例について、
図1とともに
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0020】
インジェクタ6によってサンプルが分離流路2を流れる移動相中に注入されると、サンプル中の成分が分離カラム8において時間的に分離され、分離された各成分が検出器10に導入されることによって各成分の濃度に基づく検出信号が取得される。コントローラ14は、検出器10の検出信号に基づき、予めユーザによって指定された捕集対象ピークが分離カラム8から溶出したことを検知する(ステップ101)。なお、ピークの検出には、例えば、クロマトグラムにおける傾きを予め設定されたしきい値と比較してピークの開始点及び終了点を検出する方法を使用することができる。
【0021】
サンプルの分離及び分取が開始された当初は、フラクションコレクタ12の切替バルブ18が、検出器10の出口側の流路をドレイン側に接続する状態にされている。コントローラ14は、分離カラム8からの捕集対象ピークの溶出を検知すると、その捕集対象ピークの前の所定量の廃液部分が切替バルブ18に到達するタイミングで、検出器10の出口側の流路がプローブ16に接続する状態となるように切替バルブ18を切り替える(ステップ102)。これにより、分離カラム8からの溶出液がプローブ16の先端から滴下される状態となる。コントローラ14は、フラクションコレクタ12に、捕集対象ピークの前の所定量の廃液部分を廃液用捕集容器22に捕集させ(ステップ103)、その後、捕集対象ピークを含むピーク部分をピーク用捕集容器20に捕集させ(ステップ104)、さらに、捕集対象ピークの後の所定量の廃液部分を廃液用捕集容器22に捕集させる(ステップ105)。捕集対象ピークの前の廃液部分と捕集対象ピークの後の廃液部分は、互いに異なる廃液用捕集容器22に捕集する。
【0022】
捕集対象ピークの後の廃液部分を廃液用捕集容器22に捕集した後、コントローラ14は、検出器10の出口をドレイン側に接続するように切替バルブ18を切り替える(ステップ106)。その後、次の捕集対象ピークが存在する場合には、ステップ101に戻って、次の捕集対象ピークが分離カラム8から溶出するまで待機し、ステップ102~106を繰り返す。
【0023】
上記の動作では、分離カラム8からの溶出液のうち捕集対象ピークの前後の廃液部分のみを廃液用捕集容器22に捕集しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、サンプルの分離及び分取が開始されてから終了するまでのすべての廃液部分を廃液用捕集容器22に捕集してもよい。サンプルの分離及び分取が開始されてから終了するまでのすべての廃液部分を捕集用捕集容器22に捕集する動作の一例について、
図1とともに
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0024】
インジェクタ6によってサンプルが分離流路2を流れる移動相中に注入されると、この時点で、コントローラ14は、フラクションコレクタ12の切替バルブ18を、検出器10の出口側の流路をプローブ16側に接続する状態に切り替え(ステップ201)、フラクションコレクタ12に、廃液用捕集容器22への廃液部分の捕集を実行させる(ステップ202)。コントローラ14は、捕集対象ピークが分離カラム8から溶出したことを検知すると(ステップ203)、そのピーク部分が切替バルブ18に到達するタイミングで、プローブ16を空のピーク用捕集容器20上の位置へ移動させて当該ピーク用捕集容器20にピーク部分を捕集する(ステップ204)。
【0025】
ピーク用捕集容器20へのピーク部分の捕集が終了すると、再びプローブ6を廃液用捕集容器22上へ移動させて廃液部分を廃液用捕集容器22に捕集する(ステップ205)。その後、コントローラ14は、当該サンプルの分離及び分取が終了するまでステップ202~205を繰り返し実行し、サンプルの分離及び分取が終了すると、切替バルブ18をドレイン側へ切り替える(ステップ207)。なお、廃液部分を捕集するために複数の廃液用捕集容器22を使用することができる。
【0026】
以上において説明した実施例は本発明に係る分取液体クロマトグラフの実施形態の一例に過ぎない。本発明に係る分取液体クロマトグラフの実施形態は以下のとおりである。
【0027】
本発明に係る分取液体クロマトグラフの一実施形態では、サンプル中の成分の分離及び分取を行なう分取液体クロマトグラフであって、移動相が流れる分離流路と、前記移動相中に前記サンプルを注入するインジェクタと、前記分離流路上における前記インジェクタの下流に設けられ、前記移動相中に注入されたサンプル中の成分を分離させるための分離カラムと、前記分離カラムにより分離された成分のピークを検出するための検出器と、前記検出器の下流において前記分離カラムからの溶出液を複数の捕集容器に分画して捕集するためのフラクションコレクタと、前記フラクションコレクタの動作を制御するためのコントローラと、を備え、前記フラクションコレクタには、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含むピーク部分を捕集するためのピーク用捕集容器、及び、前記溶出液のうち前記捕集対象ピークを含まない廃液部分を捕集するための廃液用捕集容器が設けられ、前記コントローラは、前記溶出液のうち前記検出器により検出された捕集対象ピークを含む前記ピーク部分を前記ピーク用捕集容器に捕集し、前記廃液部分のうちの少なくとも一部を前記廃液用捕集容器に捕集するように構成されている。
【0028】
上記一実施形態の第1態様では、前記コントローラは、前記ピーク用捕集容器に捕集すべき捕集対象ピークを、サンプルの予め取得されたクロマトグラム上でユーザに指定させ、ユーザにより指定された前記捕集対象ピークを含むピーク部分、及びそのピーク部分の前後の廃液部分を前記ピーク用捕集容器及び前記廃液用捕集容器にそれぞれ捕集するように構成されている。このような態様により、ピーク用捕集容器に捕集されたピーク部分の前後に流れた捕集対象成分を、大幅に希釈させることなく回収することができる。
【0029】
上記第1態様において、前記コントローラは、前記廃液用捕集容器に捕集すべき前記前後の廃液部分の量をそれぞれユーザに指定させるように構成されていてもよい。これにより、ピーク部分の前後の廃液部分をどれだけ捕集しておくかを、予め取得されたクロマトグラム等に応じてユーザが任意に設定することが可能である。
【0030】
上記一実施形態の第2態様では、前記コントローラは、サンプルが前記移動相中に注入されて当該サンプルの分離及び分取が開始されてから当該分離及び分取が終了するまでの間に、前記廃液部分のすべてを前記廃液用捕集容器に捕集するように構成されている。これにより、分取条件の設定にミスがあったとしても、廃液部分のすべてが廃液用捕集容器に回収されているため、貴重なサンプルの損失を防いで再利用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
2 分離流路
4 送液ポンプ
6 インジェクタ
8 分離カラム
10 検出器
12 フラクションコレクタ
14 コントローラ
16 プローブ
18 切替バルブ
20 ピーク用捕集容器
22 廃液用捕集容器