(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】電力変換装置、診断システム、算出方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240903BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20240903BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M1/00 B
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2021046559
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】岡 章治
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-288955(JP,A)
【文献】特開2010-025667(JP,A)
【文献】特開2014-197969(JP,A)
【文献】特開2011-112582(JP,A)
【文献】特開平07-128399(JP,A)
【文献】特開2005-331340(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103308777(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 1/00
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、
前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、
前記コンデンサの両端間を短絡する短絡回路と、
前記直流電源と前記変換回路との接続点と前記コンデンサとの間に接続される第1スイッチと、
前記短絡回路と前記コンデンサとの間に接続される第2スイッチと、
前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、
前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値を算出する算出処理を実行する演算回路と、
を備え、
前記算出処理は、前記コンデンサの等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含み、
前記等価直列抵抗値算出処理は、前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記コンデンサの両端間に接続される放電抵抗と、
前記放電抵抗と前記コンデンサとの間に接続される第3スイッチと、
を備え、
前記評価値は、前記コンデンサの現在の容量を含み、
前記算出処理は、前記コンデンサの現在の容量を算出する容量算出処理を含み、
前記容量算出処理は、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオフ、前記第3スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数に基づいて前記コンデンサの現在の容量を算出する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記評価値は、前記コンデンサの絶縁抵抗値を含み、
前記算出処理は、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗値算出処理を含み、
前記絶縁抵抗値算出処理は、前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチをオフにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数及び前記コンデンサの現在の容量に基づいて、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出する、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記演算回路は、前記算出処理において、前記第1スイッチをオフに維持する、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記演算回路は、前記算出処理において、前記容量算出処理及び前記絶縁抵抗値算出処理よりも前記等価直列抵抗値算出処理を後に実行する、
請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記演算回路は、前記算出処理において、前記容量算出処理よりも前記絶縁抵抗値算出処理を後に実行し、
前記絶縁抵抗値算出処理は、前記容量算出処理で算出した前記コンデンサの現在の容量に基づいて、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出する、
請求項4または請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記等価直列抵抗値算出処理は、前記減衰振動波形から取得した時定数と前記コンデンサの等価直列インダクタンス値とを用いて、前記等価直列抵抗値を算出する、
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記等価直列抵抗値算出処理は、前記減衰振動波形から取得した時定数を前記短絡回路のインダクタンス値と前記コンデンサの等価直列インダクタンス値との合成インダクタンス値の2倍で除して得られる値から、前記短絡回路の抵抗値を減じて、前記等価直列抵抗値を算出する、
請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、
前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、
前記コンデンサと前記直流電源との間に接続される電源スイッチと、
前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、
前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値を算出する算出処理を実行する演算回路と、
を備え、
前記変換回路は、前記コンデンサの両端間に並列に接続される2以上のレグを有し、
前記2以上のレグの各々は、直列に接続された一対のスイッチを有し、
前記2以上のレグの一対のスイッチ間の接続点の各々が前記負荷に接続され、
前記算出処理は、前記コンデンサの等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含み、
前記等価直列抵抗値算出処理は、前記電源スイッチをオフ、前記2以上のレグの少なくとも一つの一対のスイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する、
電力変換装置。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一つに記載の電力変換装置と、
前記評価値に基づいて前記コンデンサの劣化を診断する診断回路と、
を備える、
診断システム。
【請求項11】
直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、
前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、
前記コンデンサの両端を短絡する短絡回路と、
前記直流電源と前記変換回路との接続点と、前記コンデンサとの間に接続される第1スイッチと、
前記短絡回路と前記コンデンサとの間に接続される第2スイッチと、
前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、
を有する電力変換装置の前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値の算出方法であって、
前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含む、
算出方法。
【請求項12】
容量算出処理及び絶縁抵抗値算出処理をさらに含み、
前記電力変換装置は、
前記コンデンサの両端間に接続される放電抵抗と、
前記放電抵抗と前記コンデンサとの間に接続される第3スイッチと、
をさらに備え、
前記評価値は、前記コンデンサの現在の容量と絶縁抵抗値とを含み、
前記容量算出処理は、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオフ、前記第3スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数に基づいて前記コンデンサの現在の容量を算出し、
前記絶縁抵抗値算出処理は、前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチをオフにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数及び前記コンデンサの現在の容量に基づいて、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出する、
請求項11に記載の算出方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の算出方法をコンピュータに実行させるための、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、診断システム、算出方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気回路に設けられたコンデンサの劣化を検知する技術が検討されてきた。例えば、特許文献1には、コイルと、スイッチング素子と、平滑化コンデンサと、コイルに流れる電流を検出する電流センサと、平滑化コンデンサの両端電圧を検出する電圧センサとを備えたDC-DCコンバータが開示されている。そして、当該DC-DCコンバータにおいて、スイッチング素子がオンからオフへと変化したタイミングにおける電圧値の上昇量と電流値とに基づいて、平滑化コンデンサの等価直列抵抗値を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている技術は、コイルの電流値を測定することが必要であり、一般的にコイルを使用しないような回路構成を備える装置(例えばモータ駆動用インバータ)には適用することができない。
【0005】
本開示は、コイルを有さない回路構成を備える装置であっても、コンデンサを取り外すことなくコンデンサの劣化を検知することができる電力変換装置、診断システム、算出方法およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電力変換装置は、直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、前記コンデンサの両端間を短絡する短絡回路と、前記直流電源と前記変換回路との接続点と前記コンデンサとの間に接続される第1スイッチと、前記短絡回路と前記コンデンサとの間に接続される第2スイッチと、前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値を算出する算出処理を実行する演算回路と、を備え、前記算出処理は、前記コンデンサの等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含み、前記等価直列抵抗値算出処理は、前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する。
【0007】
本開示に係る診断システムは、電力変換装置と、評価値に基づいて前記コンデンサの劣化を診断する診断回路と、を備える。
【0008】
本開示に係る算出方法は、直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、前記コンデンサの両端を短絡する短絡回路と、前記直流電源と前記変換回路との接続点と、前記コンデンサとの間に接続される第1スイッチと、前記短絡回路と前記コンデンサとの間に接続される第2スイッチと、前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、を有する電力変換装置の前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値の算出方法であって、前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含む。
【0009】
本開示にかかるコンピュータプログラムは、コンピュータに本開示に係る算出方法を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、コイルを有さない回路構成を備える装置であっても、コンデンサを取り外すことなくコンデンサの劣化を検知することができる電力変換装置、診断システム、算出方法およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る電力変換装置の構成例の概略的な回路図
【
図2】
図1の電力変換装置における容量算出処理時のコンデンサの接続状態を示す概略的な回路図
【
図3】容量算出処理時の放電によるコンデンサの両端電圧の変化を示すグラフ
【
図4】
図1の電力変換装置における絶縁抵抗値算出処理時のコンデンサの接続状態を示す概略的な回路図
【
図6】絶縁抵抗値算出処理時の放電によるコンデンサの両端電圧の変化を示すグラフ
【
図7】
図1の電力変換装置における等価直列抵抗値算出処理時のコンデンサの接続状態を示す概略的な回路図
【
図8】等価直列抵抗値算出処理時の放電によるコンデンサの両端電圧の変化を示すグラフ
【
図9】一実施形態に係る診断システムの構成例の概略的な回路図
【
図10】
図9の診断システムによる算出処理および診断処理のフローチャート
【
図11】一変形例にかかる電力変換装置の構成例の概略的な回路図
【
図12】
図11の電力変換装置における等価直列抵抗値算出処理時のコンデンサの接続状態を示す概略的な回路図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る実施形態を説明する。ただし、以下に説明する構成は、本開示の一例に過ぎず、本開示は下記の実施形態に限定されることはなく、これら実施形態以外であっても、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0013】
図1は、本開示の実施形態に係る電力変換装置1の構成例の概略的な回路図である。
図1に示すように電力変換装置1は、直流電源10からの直流電圧を所定の電圧に変換して負荷であるモータ50に出力する。電力変換装置1は、第1スイッチ11、平滑回路20、電圧検出装置30、変換回路40および制御装置60を備える。電力変換装置1は、例えば電動車両に搭載されるモータ駆動用インバータに使用され得る。
【0014】
直流電源10は、直流電圧を平滑回路20および変換回路40の両端に印加する電源装置である。それによって、直流電源10は、モータ50を駆動するための電流を変換回路40に供給する。直流電源10は、後述するようなモータ50による回生電流によって充電されてもよい。直流電源10は、例えば、直流電流を供給するバッテリであってもよい。また、直流電源10は、交流電圧を直流電圧に変換して変換回路40へと供給する、交流電源およびAC-DCコンバータを含む電源装置であってもよい。
【0015】
第1スイッチ11は、平滑回路20と、直流電源10および変換回路40とを電気的に接続したオン状態(閉状態)と、電気的に切り離したオフ状態(開状態)とに切り換えることができる電源スイッチとして機能する。第1スイッチ11は、例えばコンタクタ等のスイッチである。第1スイッチ11は、直流電源10と変換回路40との接続点と、平滑回路20との間に接続される。以下、電力変換装置1において、直流電源10、変換回路40およびモータ50を適宜「メイン回路」という。
【0016】
平滑回路20は、コンデンサ21、放電抵抗22、第2スイッチ23および第3スイッチ24を備える。
【0017】
コンデンサ21は、直流電源10からモータ50へと電流を供給する際に急峻な電流が流れることにより電圧に生じるノイズを、平滑化して抑制することができる。コンデンサ21は、直流電源10が印加する電圧に脈流成分がある場合、当該脈流成分を平滑化できてもよい。また、コンデンサ21は、モータ50が回転することで生じる回生電流が流れる際、当該回生電流によって生じる電圧の脈流成分を平滑化できてもよい。コンデンサ21は、DCリンクコンデンサとも称される。
【0018】
第2スイッチ23は、コンデンサ21の両端を短絡させる短絡回路25とコンデンサ21との間に接続される。第2スイッチ23は、短絡回路25をコンデンサ21に接続するオン状態と、当該短絡回路25を切り離してコンデンサ21の両端を開放するオフ状態とに切り換えることができる。
【0019】
第3スイッチ24は、放電抵抗22とコンデンサ21との間に接続される。第3スイッチ24は、コンデンサ21の両端に放電抵抗22を含む放電回路を接続するオン状態と、コンデンサ21に対する当該放電回路の接続を切り離すオフ状態とに切り換えることができる。放電抵抗22の抵抗値は、後述する記憶装置62に格納され、後述する演算回路61が使用することができる。
【0020】
放電抵抗22は、任意の放電抵抗値R10を有してもよく、上記しているように当該放電抵抗値R10は、記憶装置62に格納される。第1スイッチ11がオフされ、第3スイッチ24がオンされると、コンデンサ21および放電抵抗22を含む閉回路が形成される。閉回路が形成されると、コンデンサ21の電圧に基づいて、放電抵抗22に電流が流れる。それによって、コンデンサ21の電圧が低下する。
【0021】
第1スイッチ11、第2スイッチ23、第3スイッチ24および後述するスイッチ42A~42C、43A~43Cは、制御装置60に接続される。制御装置60の演算回路61は、第1スイッチ11、第2スイッチ23、第3スイッチ24のオン・オフを切り替える。制御装置60の演算回路61はスイッチ42A~42C、43A~43Cのスイッチングを制御する。
【0022】
各スイッチ23~24およびスイッチ42A~42C、43A~43Cは、機械的なリレーなどのスイッチであってもよいし、MOSFETなどの半導体スイッチやソリッドステートリレー(SSR)であってもよい。
【0023】
電圧検出装置30は、コンデンサ21の両端に接続され、コンデンサ21の両端の電圧を計測することができる。電圧検出装置30は、計測した電圧を制御装置60に出力する。
【0024】
変換回路40は、コンデンサ21で平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷であるモータ50に出力する。所定の電圧は、例えば、三相交流電圧である。本実施の形態において、変換回路40は、例えば、直流電源10から供給された直流電流を三相交流電流に変換し、モータ50へと伝達するインバータである。変換回路40は、モータ50が回転することで生じる回生電流が流れる際、交流電流を直流電流へと変換することができてもよい。
【0025】
変換回路40は、平滑回路20の両端間に並列に接続される二つ以上のレグを有する。本実施形態において、変換回路40は、三つのレグ41A、41B、41Cを備える。レグ41Aは、直列に接続された、上流側スイッチ42Aおよび下流側スイッチ43Aからなる一対のスイッチを有する。レグ41Bは、直列に接続された、上流側スイッチ42Bおよび下流側スイッチ43Bからなる一対のスイッチを有する。レグ41Cは、直列に接続された、上流側スイッチ42Cおよび下流側スイッチ43Cからなる一対のスイッチを有する。レグ41Aは、上流側スイッチ42Aと下流側スイッチ43Aとの間の接続点がモータ50に抵抗44Aを介して接続されている。レグ41Bは、上流側スイッチ42Bと下流側スイッチ43Bとの間の接続点がモータ50に抵抗44Bを介して接続されている。レグ41Cは、上流側スイッチ42Cと下流側スイッチ43Cとの間の接続点がモータ50に抵抗44Cを介して接続されている。演算回路61は、六つのスイッチ42A~42C、43A~43Cのオン・オフを制御することができる。それによって、演算回路61は、直流電源10から供給される直流電圧を交流電圧へと変換してモータ50に供給することができる。例えば、演算回路61は、各レグ41A、41B、41Cにおいて上流側スイッチ42A~42Cおよび下流側スイッチ43A~43Cを交互にオン・オフする動作を、三つのレグ41A、41B、41Cにおいて所定の位相差(例えば120度)を持たせて行うことで、モータ50に三相交流電圧を供給する。
【0026】
モータ50は、例えば、変換回路40を介して直流電源10から供給された電流に基づいて、任意の構成部品を回転させる負荷回路である。負荷回路は、構成部品を回転させる回路に限定されず、交流電流を使用する任意の負荷回路であってよい。モータ50は、電流が供給されていないときに外力によって回転されることで回生電流を生成し、変換回路40を介して直流電源10へと供給してもよい。
【0027】
制御装置60は、例えば、電力変換装置1の動作を制御するコンピュータである。制御装置60は、演算回路61および記憶装置62を備える。
【0028】
演算回路61は、プログラムを実行することで所定の機能を実現するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。演算回路61は、例えば記憶装置62に格納された演算プログラム等を呼び出して実行することにより、スイッチ11、23~24のオン・オフ制御処理、スイッチ42A~42C、43A~43Cのスイッチング制御処理など、制御装置60における各種の処理を実現する。演算回路61は、ハードウェアとソフトウェアとが協働して所定の機能を実現する態様に限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。すなわち、演算回路61は、CPU、MPU以外にも、GPU、FPGA、DSP、ASIC等、種々のプロセッサで実現され得る。このような演算回路61は、例えば、半導体集積回路である信号処理回路で構成され得る。後述する診断回路71も演算回路61と同様である。
【0029】
記憶装置62は、種々の情報を記憶できる記憶媒体である。記憶装置62は、電圧検出装置30が計測した電圧情報を格納し、演算回路61は、格納した情報を利用することができる。記憶装置62は、例えば、DRAMやSRAM、フラッシュメモリ等のメモリ、HDD、SSD、その他の記憶デバイスまたはそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶装置62は、上述しているように、制御装置60が演算回路61によって行う各種の処理を実現するためのプログラムを格納する。後述する記憶装置72も記憶装置62と同様である。記憶装置62は、放電抵抗値R10、演算回路61が算出したコンデンサ21の現在の容量C1、絶縁抵抗26の絶縁抵抗値R21(詳細は後述する)および等価直列抵抗27の等価直列抵抗値R31(詳細は後述する)など任意のパラメータを格納する。以下、コンデンサ21の現在の容量C1、絶縁抵抗値R21、等価直列抵抗値R31を適宜「評価値」という。
【0030】
本実施形態に係る電力変換装置1によるコンデンサ21の劣化を検出するための評価値の算出は、3つのステップにより実行される。コンデンサ21の現在の容量C1を算出する容量算出処理(S1)、コンデンサ21の絶縁抵抗26の絶縁抵抗値R21を算出する絶縁抵抗値算出処理(S2)、コンデンサ21の等価直列抵抗(ESR)27の等価直列抵抗値R31を算出する等価直列抵抗値算出処理(S3)である。
【0031】
(コンデンサの現在の容量の算出)
まず、演算回路61は、容量算出処理S1において、コンデンサ21の現在の容量C
1を算出する。モータ50の動作中、
図1に示すように、電力変換装置1において第1スイッチ11がオンされており、直流電源10は、コンデンサ21に電圧を印加する。モータ50の停止後、演算回路61は、コンデンサ21の容量を算出する場合、コンデンサ21の両端電圧が所定の放電時電圧である状態で、第1スイッチ11をオフし、平滑回路20をメイン回路から切り離す。次に、演算回路61は、第3スイッチ24をオンする。このとき、第2スイッチ23はオフである。また、スイッチ42A~42C、43A~43Cは、直流電源10からモータ50へと電流が流れないように、オフされる。
図2並びに後述する
図4および
図7は、
図1に示す電力変換装置1に対して、いずれかのスイッチのオン・オフ状態が切り換わっている電力変換装置1の回路構成を示す模式図である。
図2は、
図1の電力変換装置1における容量算出処理S1時のコンデンサ21の接続状態を示す概略的な回路図である。
図2は、
図1に示す電力変換装置1に対して、第1スイッチ11、上流側スイッチ42Aおよび下流側スイッチ43Bをオフし、第3スイッチ24をオンした電力変換装置1を示す。
図2において、矢印I1は、当該放電によって電流が流れる経路および方向を示す。
【0032】
第3スイッチ24がオンされると、放電抵抗22および第3スイッチ24を含む放電回路がコンデンサ21の両端に接続される。それによって、コンデンサ21、放電抵抗22および第3スイッチ24を含む閉回路が形成され、コンデンサ21に蓄えられている電荷が放電される。
図3は、容量算出処理S1時の放電によるコンデンサ21の両端電圧の変化を示すグラフである。
図2に示すように本実施形態では、演算回路61は、コンデンサ21の両端電圧が40Vである状態で第3スイッチ24をオンし、当該両端電圧が30Vまで低下すると、第3スイッチ24をオフする。
【0033】
演算回路61は、電圧検出装置30によりコンデンサ21の両端電圧が40Vから30Vへと低下するまでの電圧の変化を計測し、電圧の変化の時定数CRと放電抵抗値R10とから、コンデンサ21の容量C1を算出する。
【0034】
図3では、時定数CRは50秒となり、放電抵抗値R1
0は100kΩであるため、コンデンサ21の容量C
1は、500μFと算出される。
【0035】
上記のように容量算出処理S1におけるコンデンサ21の現在の容量C1の算出は、コンデンサ21に既知の抵抗値を有する任意の放電抵抗をコンデンサ21の両端に接続し、コンデンサ21の両端電圧の変化を計測することで行うことができる。演算回路61は、上記するように、所定の放電時電圧から別の所定の電圧へと低下するまでの変化を計測することで時定数を取得し、コンデンサ21の現在の容量C1を算出することができる。また、演算回路61は、所定の放電時電圧から所定時間放電して両端電圧の変化を計測することで時定数を取得し、コンデンサ21の現在の容量C1を算出してもよい。
【0036】
(コンデンサの絶縁抵抗値の算出)
次に、演算回路61は、絶縁抵抗値算出処理S2において、コンデンサ21の絶縁抵抗値R2
1を算出する。演算回路61は、コンデンサ21の両端電圧が所定の開放放電時電圧であり、かつメイン回路から電気的に切り離されている状態(すなわち、第1スイッチ11がオフ状態)で、コンデンサ21を平滑回路20の他の素子から切り離す。すなわち、演算回路61は、第2スイッチ23に加えて、第3スイッチ24をオフする。
図4は、
図1の電力変換装置1における絶縁抵抗値算出処理S2時のコンデンサ21の接続状態を示す概略的な回路図である。
図4は、
図2に示す電力変換装置1に対して、第3スイッチ24をオフした電力変換装置1を示す。
【0037】
コンデンサ21は、電荷を蓄える電極間は理想的には絶縁されているが、実際には微小な電流が流れており、有限値の絶縁抵抗26を備える。
図5は、コンデンサ21の等価回路図である。
図5において、点線21で囲まれている構成部品がコンデンサ21の実質的な回路構成を示す。
図5に示すように、コンデンサ21は、理想的なコンデンサ21Aが有する現在の容量C
1、絶縁抵抗値R2
1、等価直列抵抗値R3
1、および等価直列インダクタンス(ESL)28のインダクタンス値L1を有する素子として表現される。したがって、コンデンサ21は、他の回路から切り離されている状態であっても、理想的なコンデンサ21Aに蓄えられている電荷が絶縁抵抗26へと流れることで微小な電流が流れ、放電される。
図5において、矢印I2は、当該放電によって電流が流れる経路および方向を示す。
【0038】
図6は、絶縁抵抗値算出処理S2時の放電による、コンデンサ21の両端電圧の変化を示すグラフである。本実施形態において絶縁抵抗値算出処理S2は、容量算出処理S1の終了後に行われる。そのため、容量算出処理S1の終了時のコンデンサ21の両端電圧が、絶縁抵抗値算出処理S2の開始時のコンデンサ21の両端電圧、すなわち開放放電時である。
図6に示すように本実施形態では、演算回路61は、コンデンサ21の両端電圧が30Vである状態からのコンデンサ21の両端電圧の変化を計測している。
【0039】
演算回路61は、電圧検出装置30によりコンデンサ21の両端電圧が30Vから20Vに低下するまでの電圧の変化を計測し、時定数CRと容量算出処理S1で算出したコンデンサ21の容量C1とから、絶縁抵抗値R21を算出する。
【0040】
図6では、時定数CRは5000秒となり、コンデンサ21の現在の容量C
1は500μFであるため、コンデンサ21の絶縁抵抗値R2
1は、10MΩと算出される。
【0041】
上記のように絶縁抵抗値算出処理S2におけるコンデンサ21の絶縁抵抗値R21の算出は、コンデンサ21の両端を開放し、コンデンサ21の両端電圧の変化を計測することで行うことができる。演算回路61は、上記するように、所定の開放放電時電圧から別の所定の電圧へと低下するまでの変化を計測することで時定数を取得し、コンデンサ21の絶縁抵抗値R21を算出することができる。また、演算回路61は、所定の開放放電時電圧から所定時間放電して両端電圧の変化を計測することで時定数を取得し、コンデンサ21の絶縁抵抗値R21を算出してもよい。
【0042】
(コンデンサの等価直列抵抗値の算出)
次に、演算回路61は、等価直列抵抗値算出処理S3において、コンデンサ21の等価直列抵抗値R3
1を算出する。演算回路61は、コンデンサ21の両端電圧が所定の短絡時電圧であり、かつメイン回路から電気的に切り離されている状態(すなわち、第1スイッチ11がオフ状態)で、第2スイッチ23をオンする。このとき、第3スイッチ24はオフである。
図7は、
図1の電力変換装置1における等価直列抵抗値算出処理S3時のコンデンサ21の接続状態を示す概略的な回路図である。
図7は、
図4に示す電力変換装置1に対して、第2スイッチ23をオンした電力変換装置1を示す。
図7において、矢印I3は、当該短絡によって電流が流れる経路および方向を示す。
【0043】
第2スイッチ23がオンされると、第2スイッチ23を含む短絡回路25がコンデンサ21の両端に接続される。コンデンサ21および第2スイッチ23を含む閉回路が形成され、コンデンサ21の両端は短絡される。それによって、コンデンサ21に蓄えられている電荷が放電される。
図8は、等価直列抵抗値算出処理S3時の放電による、コンデンサ21の両端電圧の変化を示すグラフである。第2スイッチ23をオンすることでコンデンサ21に接続される短絡回路25は、例えば、銅製のバスバで構成され得る。
図5に記載するように、コンデンサ21は、実質的に、理想的なコンデンサ21Aの現在の容量C
1、理想的なコンデンサ21Aと並列に接続された絶縁抵抗26による抵抗値R2
1、理想的なコンデンサ21Aと直列に接続された等価直列抵抗27による抵抗値R3
1、理想的なコンデンサ21Aと直列に接続された等価直列インダクタンス28によるインダクタンス値L1を含む。ここで、等価直列抵抗値R3
1は非常に小さな抵抗値であるため、閉回路を流れる電流は、コンデンサ21および等価直列インダクタンス28によって、振幅を減衰しながら振動する。したがって、電圧検出装置30が検出するコンデンサ21の両端電圧は、振幅を減衰しながら振動する。
図8において、点線Aは、減衰振動波形の包絡線を示す。コンデンサ21の両端電圧のこのような減衰振動波形の包絡線は、一般的に次の式(1)で表すことができる。
【0044】
【0045】
演算回路61は、コンデンサ21の両端の電圧の変化を計測し、電圧の減衰振動波形の時定数(2L/R)から当該回路内の抵抗値を算出する。式(1)において、R=R31、L=L1であり、tは時間を意味する。また、Eは、電圧の初期値、すなわち短絡時電圧であり、本実施形態において、Eは20Vである。演算回路61は、減衰振動の波形から時定数を取得することで、等価直列インダクタンス値L1を用いて、等価直列抵抗値R31を算出することができる。具体的には、演算回路61は、取得した時定数を等価直列インダクタンス値L1の2倍で除することで、等価直列抵抗値R31を算出することができる。等価直列インダクタンス値L1は、コンデンサ21の劣化によって値が変化しづらい成分であるため、演算回路61は、等価直列インダクタンス値L1を用いることで、精度よく等価直列抵抗値R31を算出することができる。
【0046】
図8では、時定数(2L/R)は0.002秒となり、また、あらかじめ取得したコンデンサ21の等価直列インダクタンス値L1は、0.001mHであった。したがって、コンデンサ21の等価直列抵抗値R3
1は、1mΩと算出される。
【0047】
演算回路61は、あらかじめ上記の短絡の閉回路の分布定数回路の抵抗値R4およびインダクタンス値L2を計測し、等価直列抵抗値R31の算出に当該抵抗値R4およびインダクタンス値L2を用いることで、より正確に等価直列抵抗値R31を算出することができる。
【0048】
分布定数回路を考慮する場合、上記式(1)において、Rは合成抵抗であり、その合成抵抗値R5は、等価直列抵抗値R31と、抵抗値R4との和である。同様に、上記式(1)においてLは合成インダクタンスであり、その合成インダクタンス値L3は、等価直列インダクタンス値L1と、インダクタンス値L2との和である。
【0049】
演算回路61は、減衰振動波形から時定数を取得することで、合成インダクタンス値L3を用いて、合成抵抗値R5を算出することができる。演算回路61は、合成抵抗値R5と当該分布定数回路の抵抗値R4との差分を取得することで、等価直列抵抗値R31を算出することができる。すなわち、演算回路61は、時定数を当該合成インダクタンス値L3の2倍で除して得られる値から、抵抗値R4を減じて、等価直列抵抗値R31を算出することができる。
【0050】
演算回路61は、上記のような容量算出処理S1、絶縁抵抗値算出処理S2および等価直列抵抗値算出処理S3を実行することで、容量C1の減少、絶縁抵抗値R21の低下、等価直列抵抗値R31の増加といったコンデンサ21の劣化状態を診断するための、評価値を算出することができる。また、演算回路61は、電力変換装置1が搭載されているシステムの停止後に容量算出処理S1~等価直列抵抗値算出処理S3の処理を行うことで、コンデンサ21に蓄えられている電荷を放電することができる。
【0051】
演算回路61は、上記のように容量算出処理S1、絶縁抵抗値算出処理S2および等価直列抵抗値算出処理S3をこの順に実行することで、容量算出処理S1の終了時の電圧を開放放電時電圧として絶縁抵抗値算出処理S2を実行することができる。また、演算回路61は、絶縁抵抗値算出処理S2終了時の電圧を短絡時電圧として等価直列抵抗値算出処理S3を実行することができる。それによって、演算回路61は、各算出処理S2、S3の実行時にコンデンサ21の両端の電圧を所定の電圧にするために充電または放電することなく、各算出処理S2、S3を実行することができる。したがって、演算回路61は、第1スイッチ11をオフに維持したまま、容量算出処理S1、絶縁抵抗値算出処理S2および等価直列抵抗値算出処理S3を実行できる。
【0052】
上記した実施形態では、演算回路61は、各算出処理S1~S3を順番に実行することで、コンデンサ21の劣化状態を診断するための評価値を算出したが、これに限定されない。例えば、演算回路61は、各算出処理S1~S2を行う前に等価直列抵抗値算出処理S3を実行し、その後に各算出処理S1~S2を実行してもよい。また、演算回路61は、各算出処理S1~S2を行うことなく等価直列抵抗値算出処理S3のみを実行してもよい。また、演算回路61は、コンデンサ21の初期容量C0をあらかじめ記憶装置62に格納し、コンデンサ21の現在の容量C1ではなく当該初期容量C0を用いて、絶縁抵抗値を算出してもよい。したがって、演算回路61は、容量算出処理S1を行うことなく、絶縁抵抗値算出処理S2を実行してもよい。
【0053】
次に、上記算出処理S1~S3によって算出されたコンデンサ21の各評価値を用いた診断処理を説明する。
図9は、本実施形態に係る診断システム2の構成例の概略的な回路図である。
図9に示すように、診断システム2は、電力変換装置1に加えて診断装置70を備える。
【0054】
診断装置70は、例えば、演算回路61で算出された評価値を用いてコンデンサ21の劣化状態を診断するコンピュータである。診断回路71および記憶装置72を備える。
【0055】
診断回路71は、例えば記憶装置72に格納された演算プログラム等を呼び出して実行することにより、後述する診断処理など、診断装置70における種々の処理を実現する。
【0056】
記憶装置72は、コンデンサ21の初期容量C0、放電抵抗値R10、絶縁抵抗26の初期絶縁抵抗値R20、および等価直列抵抗27の初期等価直列抵抗値R30などを格納する。記憶装置72は、演算回路61が算出したコンデンサ21の現在の容量C1、絶縁抵抗値R21および等価直列抵抗値R31などを格納してもよい。
【0057】
診断回路71は、上記した各算出処理S1~S3の実行後、演算回路61が算出したコンデンサ21の評価値に基づいて、コンデンサ21の劣化状態を診断する診断処理S4を行う。診断回路71は、等価直列抵抗値算出処理のみが実行された後に診断処理S4を実行してもよい。
【0058】
診断回路71は、あらかじめ測定して記憶装置72に格納しているコンデンサ21の初期容量C0と、演算回路61が容量算出処理S1で算出した現在の容量C1とを比較することで、コンデンサ21の劣化を診断することができる。診断回路71は、例えば、現在の容量C1が初期容量C0に対して、所定の割合または所定値より大きく低下していると、コンデンサが許容可能な状態以上に劣化していると判断してもよい。診断回路71は、所定の閾値と演算回路61が算出した現在の容量C1とを比較して、コンデンサ21の劣化を診断してもよい。
【0059】
また、診断回路71は、あらかじめ測定して記憶装置72に格納しているコンデンサ21の初期絶縁抵抗値R20と、演算回路61が絶縁抵抗値算出処理S2で算出した抵抗値R21とを比較することで、コンデンサ21の劣化を診断することができる。診断回路71は、例えば、絶縁抵抗値R21が初期絶縁抵抗値R20に対して、所定の割合または所定値より大きく低下していると、コンデンサ21が許容可能な状態以上に劣化していると判断してもよい。診断回路71は、所定の閾値と演算回路61が算出した絶縁抵抗値R21とを比較して、コンデンサ21の劣化を診断してもよい。
【0060】
また、診断回路71は、あらかじめ測定して記憶装置72に格納しているコンデンサ21の初期等価直列抵抗値R30と、演算回路61が等価直列抵抗値算出処理S3で算出した等価直列抵抗値R31とを比較することで、コンデンサ21の劣化を診断することができる。診断回路71は、例えば、等価直列抵抗値R31が初期等価直列抵抗値R30に対して、所定の割合または所定値より大きく上昇していると、コンデンサが許容可能な状態以上に劣化していると判断してもよい。診断回路71は、所定の閾値と演算回路61が算出した等価直列抵抗値R31とを比較して、コンデンサ21の劣化を診断してもよい。
【0061】
上記のような方法で、診断回路71は、演算回路61が算出した一つ以上の評価値に基づいて、コンデンサ21の劣化状態を診断することができる。それによって、診断回路71は、コンデンサ21を当該コンデンサ21が取り付けられている部品から取り外すことなく、コンデンサ21の劣化を総合的に診断することができる。
【0062】
図10は、本実施形態に係る診断システム2の演算回路61および診断回路71による算出処理および診断処理を示すフローチャートである。まず、演算回路61は、上述しているように、コンデンサ21および放電抵抗22を含む閉回路を形成し、コンデンサ21に蓄えられている電荷を放電する。演算回路61は、放電によるコンデンサ21の両端電圧の変化を計測し、時定数を取得することで、コンデンサ21の容量C
1を算出する容量算出処理S1を行う。
【0063】
次に、演算回路61は、コンデンサ21に両端を開放し、コンデンサ21が有する絶縁抵抗26によってコンデンサ21に蓄えられている電荷を放電する。演算回路61は、放電によるコンデンサ21の両端電圧の変化を計測し、時定数を取得することで、容量算出処理S1で算出した容量C1を用いて、コンデンサ21の絶縁抵抗値R21を算出する絶縁抵抗値算出処理S2を行う。
【0064】
次に、演算回路61は、コンデンサ21の両端を短絡し、コンデンサ21に蓄えられている電荷を放電する。演算回路61は、放電によるコンデンサ21の両端電圧の変化を計測し、時定数を取得することで、コンデンサ21の等価直列抵抗値R31を算出する等価直列抵抗値算出処理S3を行う。
【0065】
そして、診断回路71は、各算出処理S1~S3で算出された、コンデンサ21の容量C1、絶縁抵抗値R21および等価直列抵抗値R31の少なくとも一つ基づいて、コンデンサ21の劣化状態を診断する診断処理S4を行う。
【0066】
本実施形態において、診断システム2は、制御装置60および診断装置70を設けているが、制御装置60に診断装置70の機能が組み込まれてもよい。また、診断装置70がサーバ装置であってもよい。この場合、例えば、制御装置60および診断装置70がそれぞれイーサネット端子等の通信回路を備え、算出したコンデンサ21のパラメータ等を含むデータの送受信を有線または無線通信によって行うことで、診断装置70は、コンデンサ21の劣化状態を診断することができる。
【0067】
等価直列抵抗値R3
1を算出するための閉回路は、上記のような構成に限定されない。
図11は、上記した実施形態とは異なる、等価直列抵抗値R3
1を算出することができる閉回路を備える電力変換装置1Aの構成の変形例の概略的な回路図である。また、
図12は、電力変換装置1Aにおける等価直列抵抗値算出処理S3時のコンデンサ21の接続状態を示す概略的な回路図である。
【0068】
電力変換装置1Aは、電力変換装置1に対して、第4スイッチ12をさらに備える。また、電力変換装置1Aは、電力変換装置1に対して、第2スイッチ23が取り除かれている。第4スイッチ12は、平滑回路20および変換回路40と、直流電源10とを電気的に接続したオン状態(閉状態)と、電気的に切り離したオフ状態(開状態)とに切り換えることができる、例えばコンタクタ等のスイッチである。演算回路61は、第1スイッチ11等と同様、第4スイッチ12のオン・オフを制御することができる。
【0069】
演算回路61は、例えば、
図12に示すように上流側スイッチ42Aおよび下流側スイッチ43Aをオンし、第3スイッチ24、および変換回路40の他のスイッチ42B、42C、43A、43Cをオフすることで、コンデンサ21の両端を短絡させる閉回路を形成することができる。
図12は、
図11に示す電力変換装置1Aに対して、第1スイッチ11、上流側スイッチ42Aおよび下流側スイッチ43Aをオンした電力変換装置1Aを示す。
図12において、矢印I4は、当該短絡によって電流が流れる経路および方向を示す。このような閉回路を形成することで、演算回路61は、上述した方法でコンデンサ21の等価直列抵抗値R3
1を算出することができる。このとき、第1スイッチ11はオン状態、第4スイッチ12はオフ状態である。上記のように少なくとも1組の上流側スイッチと下流側スイッチをオンすることで、平滑回路20において、電力変換装置1における第2スイッチ23を含む回路のようなコンデンサ21の両端を短絡させるための回路を設けることなく、コンデンサ21の等価直列抵抗値R3
1を算出することができる。
【0070】
以上のように、本開示に係る電力変換装置1,1Aによれば、コンデンサ21の容量、絶縁抵抗値および等価直列抵抗値の少なくとも一つを含む評価値の変化を検出することができる。また、本開示に係る診断システム2によれば、電力変換装置1で算出したコンデンサ21の評価値の変化に基づいて、コンデンサ21を当該コンデンサ21が取り付けられている部品から取り外すことなく、コンデンサ21の劣化を総合的に診断することができる。したがって、このような構成を備えた電力変換装置1または診断システム2を備えることで、任意のDC-DCコンバータまたはインバータ等に設けられたコンデンサ21を、DC-DCコンバータまたはインバータ等から取り外すことなく劣化状態を診断できるシステムを構築することができる。このようにコンデンサ21の劣化状態を複数の要素によって診断することで、様々な故障モードに対応することができる。
【0071】
本開示に係る電力変換装置を用いることで、コイルを備えないような装置(例えばモータ駆動用インバータ)であっても、コンデンサの劣化状態を診断することができる。また、コイルの電流を測定する必要がないため、電流センサを備える必要がなく、コストを低減することができる。
【0072】
さらに、コイルを用いてコンデンサの劣化状態を診断する場合、コイルによるインダクタンスだけでなく、回路の電線またはバスバ等によるインダクタンス成分が回路内に含まれるため、電流波形が乱れ、算出精度が低下する可能性がある。しかし、本開示に係る電力変換装置によれば、コイルに流れる電流を用いないため、上記のような精度低下の発生を防ぐことができる。
【0073】
(実施形態のまとめ)
以上のように説明した本実施形態に係る電力変換装置、診断システム、算出方法およびコンピュータプログラムは、以下のように構成してもよい。
【0074】
(態様1)電力変換装置は、直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、前記コンデンサの両端間を短絡する短絡回路と、前記直流電源と前記変換回路との接続点と前記コンデンサとの間に接続される第1スイッチと、前記短絡回路と前記コンデンサとの間に接続される第2スイッチと、前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値を算出する算出処理を実行する演算回路と、を備え、前記算出処理は、前記コンデンサの等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含み、前記等価直列抵抗値算出処理は、前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する。
【0075】
(態様2)態様1の電力変換装置において、前記コンデンサの両端間に接続される放電抵抗と、前記放電抵抗と前記コンデンサとの間に接続される第3スイッチと、を備え、前記評価値は、前記コンデンサの現在の容量を含み、前記算出処理は、前記コンデンサの現在の容量を算出する容量算出処理を含み、前記容量算出処理は、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオフ、前記第3スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数に基づいて前記コンデンサの現在の容量を算出してもよい。
【0076】
(態様3)態様2の電力変換装置において、前記評価値は、前記コンデンサの絶縁抵抗値を含み、前記算出処理は、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出する絶縁抵抗値算出処理を含み、前記絶縁抵抗値算出処理は、前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチをオフにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数及び前記コンデンサの現在の容量に基づいて、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出してもよい。
【0077】
(態様4)態様3の電力変換装置において、前記演算回路は、前記算出処理において、前記第1スイッチをオフに維持してもよい。
【0078】
(態様5)態様4の電力変換装置において、記演算回路は、前記算出処理において、前記容量算出処理及び前記絶縁抵抗値算出処理よりも前記等価直列抵抗値算出処理を後に実行してもよい。
【0079】
(態様6)態様4または態様5の電力変換装置において、前記演算回路は、前記算出処理において、前記容量算出処理よりも前記絶縁抵抗値算出処理を後に実行し、前記絶縁抵抗値算出処理は、前記容量算出処理で算出した前記コンデンサの現在の容量に基づいて、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出してもよい。
【0080】
(態様7)態様1から態様6のいずれか一つの電力変換装置において、前記等価直列抵抗値算出処理は、前記減衰振動波形から取得した時定数と前記コンデンサの等価直列インダクタンス値とを用いて、前記等価直列抵抗値を算出してもよい。
【0081】
(態様8)態様7の電力変換装置において、前記等価直列抵抗値算出処理は、前記減衰振動波形から取得した時定数を前記短絡回路のインダクタンス値と前記コンデンサの等価直列インダクタンス値との合成インダクタンス値の2倍で除して得られる値から、前記短絡回路の抵抗値を減じて、前記等価直列抵抗値を算出してもよい。
【0082】
(態様9)電力変換装置は、直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、前記コンデンサと前記直流電源との間に接続される電源スイッチと、前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値を算出する算出処理を実行する演算回路と、を備え、前記変換回路は、前記コンデンサの両端間に並列に接続される2以上のレグを有し、前記2以上のレグの各々は、直列に接続された一対のスイッチを有し、前記2以上のレグの一対のスイッチ間の接続点の各々が前記負荷に接続され、前記算出処理は、前記コンデンサの等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含み、前記等価直列抵抗値算出処理は、前記電源スイッチをオフ、前記2以上のレグの少なくとも一つの一対のスイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出してもよい。
【0083】
(態様10)診断システムは、態様1から態様9のいずれか一つの電力変換装置と、前記評価値に基づいて前記コンデンサの劣化を診断する診断回路と、を備える。
【0084】
(態様11)算出方法は、直流電源から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサと、 前記コンデンサで平滑化された直流電圧を所定の電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、前記コンデンサの両端を短絡する短絡回路と、前記直流電源と前記変換回路との接続点と、前記コンデンサとの間に接続される第1スイッチと、前記短絡回路と前記コンデンサとの間に接続される第2スイッチと、前記コンデンサの両端電圧を計測する電圧検出装置と、を有する電力変換装置の前記コンデンサの等価直列抵抗値を含む評価値の算出方法であって、前記第1スイッチをオフ、前記第2スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の減衰振動波形から取得した時定数に基づいて前記等価直列抵抗値を算出する等価直列抵抗値算出処理を含む。
【0085】
(態様12)態様11の算出方法において、容量算出処理及び絶縁抵抗値算出処理をさらに含み、前記電力変換装置は、前記コンデンサの両端間に接続される放電抵抗と、前記放電抵抗と前記コンデンサとの間に接続される第3スイッチと、をさらに備え、前記評価値は、前記コンデンサの現在の容量と絶縁抵抗値とを含み、前記容量算出処理は、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチをオフ、前記第3スイッチをオンにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数に基づいて前記コンデンサの現在の容量を算出し、前記絶縁抵抗値算出処理は、前記第1スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第3スイッチをオフにした状態で、前記電圧検出装置により測定した前記コンデンサの両端電圧の変化から取得した時定数及び前記コンデンサの現在の容量に基づいて、前記コンデンサの絶縁抵抗値を算出してもよい。
【0086】
(態様13)コンピュータプログラムは、態様11または態様12の算出方法をコンピュータに実行させることができる。
【0087】
本開示に記載の算出方法は、ハードウェア資源、例えば、プロセッサ、メモリ、と、ソフトウェア資源(コンピュータプログラム)との協働などによって実現される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示によれば、コイルを有さない回路構成を備える装置であっても、コンデンサを取り外すことなくコンデンサの劣化を検知することができる電力変換装置、診断システム、算出方法およびコンピュータプログラムを提供することができるため、この種の産業分野において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0089】
1 電力変換装置
1A 電力変換装置
2 診断システム
10 直流電源
11 第1スイッチ
12 第4スイッチ
20 平滑回路
21 コンデンサ
22 放電抵抗
23 第2スイッチ
24 第3スイッチ
25 短絡回路
26 絶縁抵抗
27 等価直列抵抗
28 等価直列インダクタンス
30 電圧検出装置
40 変換回路
50 モータ
60 制御装置
61 演算回路
62 記憶装置
70 診断装置
71 診断回路
72 記憶装置