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特許7548096ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20240903BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20240903BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240903BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/387 ZHV
B60K6/48
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021053190
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150545
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 忠志
(72)【発明者】
【氏名】樫本 昂大
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-119273(JP,A)
【文献】特開2008-126780(JP,A)
【文献】特開平11-178113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0032990(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109532459(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/387
B60K 6/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に油圧により断続可能に設けられた摩擦締結要素と、前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御する油圧制御回路と、有するハイブリッド車両の制御方法であって、
前記ハイブリッド車両の走行中において停止している前記エンジンの始動要求が発せられたときに、前記摩擦締結要素を解放状態から所定のスリップ状態又は締結状態へ移行させるように、前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程と、
前記摩擦締結要素に付与する油圧の制御中に、前記モータのクランキングによって前記エンジンを始動させるように、前記モータ及び前記エンジンを制御する工程と、を有し、
前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程は、
前記ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、前記油圧制御回路への指示油圧を、前記摩擦締結要素が接続を開始したときの締結圧の上昇速度が所定値以下となる第1の油圧に設定して所定時間保持し、その後、前記指示油圧を、前記エンジンの始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧を前記摩擦締結要素に発生させる第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、前記指示油圧を、前記摩擦締結要素を締結状態にするための第3の油圧に設定する工程と、
前記ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値以上の場合に、前記指示油圧を、前記第1の油圧に設定することなく前記第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、前記指示油圧を前記第3の油圧に設定する工程と、を含む、
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程は、前記エンジンの始動要求が発せられたときに、最初に、前記指示油圧を、前記エンジン始動締結圧より高い締結圧を前記摩擦締結要素に発生させることが可能な第4の油圧に設定して所定時間保持する工程を更に含む、請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記目標駆動力が所定値以上の場合に前記指示油圧を前記第4の油圧に保持する時間は、前記目標駆動力が所定値未満の場合に前記指示油圧を前記第4の油圧に保持する時間よりも長い、請求項2に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程は、前記ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、前記指示油圧を前記第1の油圧に設定して所定時間保持した後、前記第2の油圧に設定する前に、前記指示油圧を、前記摩擦締結要素を接続直前の状態で待機させる第5の油圧に設定す工程を含む、請求項1乃至3の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
前記摩擦締結要素はノーマルオープン型のクラッチであり、前記第3の油圧前記第2の油圧より高く前記第2の油圧は前記第1の油圧より高い、請求項1乃至4の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記摩擦締結要素はノーマルクローズ型のクラッチであり、前記第3の油圧前記第2の油圧より低く前記第2の油圧は前記第1の油圧より低い、請求項1乃至4の何れか一項に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
ハイブリッド車両の制御システムであって、
エンジン及びモータと、
前記エンジンと前記モータとの間に油圧により断続可能に設けられた摩擦締結要素と、
前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御する油圧制御回路と、
前記エンジン、前記モータ、前記摩擦締結要素及び前記油圧制御回路を制御するよう構成された制御装置と、を有し、
前記制御装置は、
前記ハイブリッド車両の走行中において停止している前記エンジンの始動要求が発せられたときに、前記摩擦締結要素を解放状態から所定のスリップ状態又は締結状態へ移行させるように、前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御し、
前記摩擦締結要素に付与する油圧の制御中に、前記モータのクランキングによって前記エンジンを始動させるように、前記モータ及び前記エンジンを制御するように構成され、
前記制御装置は、前記摩擦締結要素に付与する油圧を制御するときに、
前記ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、前記油圧制御回路への指示油圧を、前記摩擦締結要素が接続を開始したときの締結圧の上昇速度が所定値以下となる第1の油圧に設定して所定時間保持し、その後、前記指示油圧を、前記エンジンの始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧を前記摩擦締結要素に発生させる第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、前記指示油圧を、前記摩擦締結要素を締結状態にするための第3の油圧に設定し、
前記ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値以上の場合に、前記指示油圧を、前記第1の油圧に設定することなく前記第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、前記指示油圧を前記第3の油圧に設定するように構成される、
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてのエンジン及びモータと、これらエンジンとモータとの間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替える摩擦締結要素(クラッチ)と、を有するハイブリッド車両の制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)と、車輪への動力伝達経路上においてエンジンの下流側に設けられたモータと、エンジンとモータとの間に断続可能に設けられた第1クラッチと、モータと車輪(駆動輪)との間に断続可能に設けられた第2クラッチと、を有するハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両は、エンジンのトルクを用いずにモータのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モード(EV走行モード)と、少なくともエンジンのトルクを用いてハイブリッド車両を走行させる走行モード(エンジン走行モード又はハイブリッド走行モード)と、を切り替え可能に構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、このようなハイブリッド車両に関して、モータ単独での走行中にエンジンを始動させる場合に、第2クラッチ(発進クラッチ)をスリップ制御しながらモータ回転数を上昇させ、モータ回転数が所定回転数に達したときに第1クラッチ(エンジンクラッチ)を締結する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-255285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなハイブリッド車両では、走行中において停止しているエンジンを始動させるときに、エンジンとモータとの間に設けられた第1クラッチが、解放状態から締結状態へと移行される。こうすることで、第1クラッチを介してモータのトルクをエンジンに伝達して、モータのクランキングによってエンジンを始動させるようにしている。
【0006】
エンジンを始動するために第1クラッチを解放状態から締結状態へ移行するときの締結圧の変化が急激すぎると、エンジン始動に伴う駆動力の落ち込みにより車両に発生するショック(車両ショック)が大きくなる。一方、第1クラッチを解放状態から締結状態へ移行するときの締結圧の変化が緩慢すぎると、エンジンの始動完了までの時間が長くなり、ドライバの要求に対するエンジン始動の応答性が悪化する。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ハイブリッド車両のエンジン始動時に、エンジンとモータとの間に設けられた第1クラッチを的確に制御することで、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間に油圧により断続可能に設けられた摩擦締結要素と、摩擦締結要素に付与する油圧を制御する油圧制御回路と、有するハイブリッド車両の制御方法であって、ハイブリッド車両の走行中において停止しているエンジンの始動要求が発せられたときに、摩擦締結要素を解放状態から所定のスリップ状態又は締結状態へ移行させるように、摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程と、摩擦締結要素に付与する油圧の制御中に、モータのクランキングによってエンジンを始動させるように、モータ及びエンジンを制御する工程と、を有し、摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程は、ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、油圧制御回路への指示油圧を、摩擦締結要素が接続を開始したときの締結圧の上昇速度が所定値以下となる第1の油圧に設定して所定時間保持し、その後、指示油圧を、エンジンの始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧を摩擦締結要素に発生させる第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を、摩擦締結要素を締結状態にするための第3の油圧に設定する工程と、ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値以上の場合に、指示油圧を、第1の油圧に設定することなく第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を第3の油圧に設定する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明では、エンジンの始動要求が発せられ、摩擦締結要素に付与する油圧を制御するときに、ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、油圧制御回路への指示油圧を、摩擦締結要素が接続を開始したときの締結圧の上昇速度が所定値以下となる第1の油圧に設定して所定時間保持し、その後、指示油圧を、第2の油圧に設定してエンジンの始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を、第3の油圧に設定して摩擦締結要素を締結状態にする。これにより、目標駆動力が所定値未満でありエンジンの始動の応答性よりも車両ショックの抑制を優先すべきときには、エンジンを始動するために摩擦締結要素が接続を開始したときの車両ショックの発生を抑制することができる。一方、目標駆動力が所定値以上の高応答モードの場合には、指示油圧を、第1の油圧に設定することなく第2の油圧に設定してエンジンの始動が完了するまで保持する。これにより、目標駆動力が所定値以上であり車両ショックの抑制よりもエンジンの始動の応答性向上を優先すべきときには、エンジンの始動要求が発せられたときに迅速にエンジンをクランキングして始動させることができ、エンジン始動の応答性を確保することができる。このように、本発明によれば、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程は、エンジンの始動要求が発せられたときに、最初に、指示油圧を、エンジン始動締結圧より高い締結圧を摩擦締結要素に発生させることが可能な第4の油圧に設定して所定時間保持する工程を更に含む。
このように構成された本発明によれば、エンジンの始動要求が発せられた直後に、摩擦締結要素へ迅速に作動油を供給することができ、その後の制御における摩擦締結要素の応答性を高めることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、目標駆動力が所定値以上の場合に指示油圧を第4の油圧に保持する時間は、目標駆動力が所定値未満の場合に指示油圧を第4の油圧に保持する時間よりも長い。
このように構成された本発明によれば、摩擦締結要素の応答性を更に高めることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、摩擦締結要素に付与する油圧を制御する工程は、ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、指示油圧を第1の油圧に設定して所定時間保持した後、第2の油圧に設定する前に、指示油圧を、摩擦締結要素を接続直前の状態で待機させる第5の油圧に設定す工程を含む
このように構成された本発明では、例えば他のデバイスの準備ができるまでエンジンの始動を待機する必要があるときに、モータとエンジンとの間のトルク伝達を遮断しつつ、他のデバイスの準備が完了次第迅速に摩擦締結要素を接続してエンジンの始動を開始することができるようになる。
【0013】
本発明において、摩擦締結要素はノーマルオープン型のクラッチであり、第3の油圧第2の油圧より高く第2の油圧は第1の油圧より高い。
あるいは、本発明において、摩擦締結要素はノーマルクローズ型のクラッチであり、第3の油圧、第2の油圧より低く第2の油圧は第1の油圧のより低い。
【0014】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、ハイブリッド車両の制御システムであって、エンジン及びモータと、エンジンとモータとの間に油圧により断続可能に設けられた摩擦締結要素と、摩擦締結要素に付与する油圧を制御する油圧制御回路と、エンジン、モータ、摩擦締結要素及び油圧制御回路を制御するよう構成された制御装置と、を有し、制御装置は、ハイブリッド車両の走行中において停止しているエンジンの始動要求が発せられたときに、摩擦締結要素を解放状態から所定のスリップ状態又は締結状態へ移行させるように、摩擦締結要素に付与する油圧を制御し、摩擦締結要素に付与する油圧の制御中に、モータのクランキングによってエンジンを始動させるように、モータ及びエンジンを制御するように構成され、制御装置は、摩擦締結要素に付与する油圧を制御するときに、ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値未満の場合に、油圧制御回路への指示油圧を、摩擦締結要素が接続を開始したときの締結圧の上昇速度が所定値以下となる第1の油圧に設定して所定時間保持し、その後、指示油圧を、エンジンの始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧を摩擦締結要素に発生させる第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を、摩擦締結要素を締結状態にするための第3の油圧に設定し、ハイブリッド車両の目標駆動力が所定値以上の場合に、指示油圧を、第1の油圧に設定することなく第2の油圧に設定して当該エンジンの始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を第3の油圧に設定するように構成される、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイブリッド車の制御方法及び制御システムによれば、ハイブリッド車両のエンジン始動時に、エンジンとモータとの間に設けられた第1クラッチを的確に制御することで、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による第1クラッチの制御を示すタイムチャートである。
図4】本発明の実施形態による第1クラッチの制御を示すタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態による始動制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムを説明する。
【0018】
[装置構成]
図1は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムが適用されるハイブリッド車両の概略構成図である。
【0019】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、主に、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するエンジン2(例えばガソリンエンジン)と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてエンジン2よりも下流側に設けられ、ハイブリッド車両1を駆動するためのトルクを発生するモータ4と、図示しないインバータ等を介してモータ4との間で電力の授受を行うバッテリ5と、ハイブリッド車両1の動力伝達経路上においてモータ4よりも下流側に設けられ、エンジン2及び/又はモータ4による回転速度を変速する変速機6と、変速機6からのトルクを下流側に伝達する動力伝達系8と、動力伝達系8からのトルクによって車輪12を駆動するドライブシャフト10と、当該車輪(駆動輪)12と、を有する。
【0020】
エンジン2の出力軸とモータ4の回転軸とは、油圧により断続(断接)可能な第1クラッチCL1を介して軸AX1によって同軸状に連結されている。この第1クラッチCL1(摩擦締結要素)により、エンジン2とモータ4との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。第1クラッチCL1は、油圧制御回路14により、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。第1クラッチCL1は、油圧が付与されないときに解放状態となるノーマルオープン型のクラッチ、又は、油圧が付与されないときに締結状態となるノーマルクローズ型のクラッチとして構成されている。また、油圧制御回路14は、エンジン2や図示しないモータにより駆動される油圧ポンプ、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2に供給する油圧を調圧するソレノイドバルブ、各バルブと第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2を接続する油路を備える。
【0021】
モータ4の回転軸と変速機6の回転軸とは、軸AX2によって同軸状に連結されている。変速機6は、典型的には、サンギヤS1、リングギヤR1、ピニオンギヤP1(遊星歯車)及びキャリアC1を含む1つ以上のプラネタリギヤセットと、クラッチやブレーキ等の摩擦締結要素とを内部に備えており、車速やエンジン回転数などに応じてギヤ段(変速比)を自動的に切り替える機能を備えた自動変速機である。リングギヤR1はサンギヤS1と同心円上に配置され、ピニオンギヤP1はサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合うようにサンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されている。キャリアC1は、ピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1の周りを公転可能に保持する。
【0022】
また、変速機6は、断続(断接)な第2クラッチCL2を内部に備え、この第2クラッチCL2により、変速機6の上流側(エンジン2及びモータ4)と変速機6の下流側(車輪12など)との間におけるトルクの伝達と遮断とを切り替えられるようになっている。例えば、第2クラッチCL2も、油圧制御回路14により、クラッチ作動油流量及び/又はクラッチ作動油圧を連続的又は段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な乾式多板クラッチや湿式多板クラッチなどによって構成されている。
なお、第2クラッチCL2は、実際には、変速機6において種々のギヤ段を切り替えるために用いられる多数のクラッチによって構成される。また、図1では単純化のためプラネタリギヤセットを1つだけ示しているが、実際には変速機6は複数のプラネタリギヤセットを備えている。第2クラッチCL2により代表される複数のクラッチや図示しない複数のブレーキ等の摩擦締結要素を選択的に締結して、各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えることにより、例えば複数の前進変速段と1段の後退速段とを実現可能となっている。
【0023】
動力伝達系8は、変速機6の出力軸AX3を介してトルクが入力される。動力伝達系8は、駆動力を左右一対の車輪12に対して分配するデファレンシャルギヤや、ファイナルギヤなどを含んで構成されている。
【0024】
上記のハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1の締結と解放とを切り替えることで、走行モードを切り替えることができる。すなわち、ハイブリッド車両1は、第1クラッチCL1を解放状態に設定して、エンジン2のトルクを用いずにモータ4のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第1走行モードと、第1クラッチCL1を締結状態に設定して、少なくともエンジン2のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させる第2走行モードと、を有する。第1走行モードは、所謂EV走行モードであり、第2走行モードは、エンジン2のトルクのみを用いてハイブリッド車両1を走行させるエンジン走行モード、及びエンジン2及びモータ4の両方のトルクを用いてハイブリッド車両1を走行させるハイブリッド走行モードを含む。
【0025】
次に、図2は、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、コントローラ20には、エンジン2の回転数を検知するエンジン回転数センサSN1からの信号と、モータ4の回転数を検知するモータ回転数センサSN2からの信号と、ドライバによるアクセルペダルの踏込み量に対応するアクセル開度を検知するアクセル開度センサSN3からの信号と、ハイブリッド車両1の車速を検知する車速センサSN4からの信号と、ハイブリッド車両1の前後方向の加速度を検知する加速度センサSN5からの信号と、バッテリ5の充電状態を示すSOC(State of Charge)を検知するSOCセンサSN6からの信号と、が入力されるようになっている。
【0027】
コントローラ20は、1つ以上のプロセッサ20a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを記憶するROMやRAMなどのメモリ20bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ20は、本発明における「制御装置」に相当し、また、本発明における「ハイブリッド車両の制御方法」を実行する。
【0028】
具体的には、コントローラ20は、上述したセンサSN1~SN6からの検知信号に基づき、主に、エンジン2、モータ4及び油圧制御回路14に対して制御信号を出力し、これらを制御する。例えば、コントローラ20は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御や、モータ4の回転数、トルクを調整する制御や、油圧制御回路14から第1及び第2クラッチCL1、CL2に付与される油圧を調整する制御などを行う。実際には、コントローラ20は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御し、インバータを介してモータ4を制御し、油圧制御回路14のモータやソレノイドなどを制御する。
【0029】
[ハイブリッド車両の制御]
次に、本実施形態においてコントローラ20が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ20は、エンジン2を停止した状態での走行中に、このエンジン2の始動要求が発せられたときに、エンジン2とモータ4との間に設けられた第1クラッチCL1を解放状態から所定のスリップ状態又は締結状態へと移行させるように、油圧制御回路14によって第1クラッチCL1に付与する油圧を制御する。こうすることで、第1クラッチCL1を介してモータ4のトルクをエンジン2に伝達して、モータ4によってエンジン2をクランキングすることでエンジン2を始動させるようにする。また、コントローラ20は、このようなエンジン2の始動時に、モータ4と車輪12との間に設けられた第2クラッチCL2を締結状態から所定のスリップ状態へと移行させる。こうすることで、動力源(特にエンジン2)と車輪12との間の第2クラッチCL2を介したトルク伝達をできるだけ低減させて、このトルク伝達によりハイブリッド車両1に発生するショック(車両ショック)を抑制するようにする。例えば、車両ショックには、走行しているハイブリッド車両1の運動エネルギーがエンジン2側に伝達されてエンジン始動に用いられることによる車両の減速がある。
【0030】
特に、本実施形態では、コントローラ20は、第1クラッチCL1を解放状態からスリップ状態又は締結状態へと移行させるときに、ドライバのアクセルペダル操作やハイブリッド車両1の走行状況(車速、加速度、ギヤ段、走行モードなどを含む)に基づき設定されるハイブリッド車両1の目標駆動力が所定値未満であるのか否かに応じて、油圧制御回路14への指示油圧を変更するようにしている。具体的には、目標駆動力が所定値未満である場合(以下では「通常モード」と呼ぶ)には、エンジン2の始動の応答性よりも車両ショックの抑制を優先し、コントローラ20は、第1クラッチCL1の解放状態から所定のスリップ状態への移行が緩やかになるように油圧制御回路14への指示油圧を設定する。一方、目標駆動力が所定値以上である場合(以下では「高応答モード」と呼ぶ)には、車両ショックの抑制よりもエンジン2の始動の応答性向上を優先し、コントローラ20は、第1クラッチCL1の解放状態から所定のスリップ状態への移行を通常モード時よりも急速に行うように油圧制御回路14への指示油圧を設定する。これにより、必要に応じてエンジン始動の応答性確保と車両ショックの抑制とを両立することができる。
【0031】
次に、図3及び図4を参照して、本実施形態による第1クラッチCL1の制御について具体的に説明する。図3は、ノーマルオープン型の第1クラッチCL1の制御を示すタイムチャートである。
【0032】
図3において、グラフG1aは通常モードにおいて第1クラッチCL1に付与する油圧を油圧制御回路14へ指示する際の指示油圧を示し、グラフG1bは通常モードにおいて第1クラッチCL1に付与される実油圧を示す。また、グラフG1cは高応答モードにおいて第1クラッチCL1に付与する油圧を油圧制御回路14へ指示する際の指示油圧を示し、グラフG1dは高応答モードにおいて第1クラッチCL1に付与される実油圧を示す。
【0033】
通常モードの場合、時刻t11において、エンジン2の始動要求が発せられると、時刻t11からt12までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧まで一時的にステップ状に上昇させる。プリチャージ用油圧は、第1クラッチCL1の実油圧がプリチャージ用油圧に達した場合に、エンジン2の始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧より高い締結圧を第1クラッチCL1に発生させることが可能な指示油圧(第4の油圧)である。第1クラッチCL1がノーマルオープン型のクラッチである場合、プリチャージ用油圧は第1クラッチCL1の油圧室へ作動油を充填するときの必要流量に応じて設定される。また、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧に設定する時間(時刻t11からt12までの時間)は、第1クラッチCL1の油圧室の容量に基づき設定される。このように、エンジン2の始動要求が発せられた直後に、相対的に高い指示油圧を一時的に設定することにより、第1クラッチCL1の油圧室へ迅速に作動油を充填することができ、その後の制御における第1クラッチCL1の応答性を高めることができる。
【0034】
この後、時刻t12からt13までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧まで一時的にステップ状に下降させる。保持油圧は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧に設定した状態で第1クラッチCL1が接続を開始したときに、締結圧の上昇速度が所定値以下となる指示油圧(第1の油圧)である。このように指示油圧を設定することで、第1クラッチCL1が接続を開始したときの車両ショックの発生を抑制することができる。
【0035】
この後、時刻t13からt14までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を待機油圧まで一時的にステップ状に下降させる。待機油圧は、第1クラッチCL1を接続直前の状態で待機させる指示油圧(第5の油圧)である。このように指示油圧を設定することにより、他のデバイスの準備ができるまで(例えば第2クラッチCL2が締結状態から所定のスリップ状態に移行するまで)エンジン2のクランキング開始を待機する必要があるときに、モータ4とエンジン2との間のトルク伝達を遮断しつつ、他のデバイスの準備が完了次第迅速に第1クラッチCL1を接続してエンジン2のクランキングを開始することができるようになる。
【0036】
そして、時刻t14において他のデバイスの準備が完了すると、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をエンジン始動用油圧まで上昇させ、時刻t15から時刻t16においてエンジン2の始動が完了するまでエンジン始動用油圧を保持する。エンジン始動用油圧は、エンジン2の始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧を第1クラッチCL1に発生させる指示油圧(第2の油圧)である。このように指示油圧を設定することにより、エンジン2の始動に必要なトルクを第1クラッチCL1を介してモータ4からエンジン2に伝達し、エンジン2をクランキングして始動させることができる。
【0037】
この後、時刻t16においてエンジン2の始動が完了すると、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を回転同期用油圧まで上昇させ、時刻t17から時刻t18においてエンジン2の回転数が上昇しモータ4とエンジン2との差回転が十分小さくなるまで回転同期用油圧を保持する。回転同期用油圧は、エンジン始動用油圧より高いが第1クラッチCL1に付与できる最大油圧よりは低い油圧を第1クラッチCL1に付与するための指示油圧である。このように指示油圧を設定することにより、エンジン2の始動が完了した後もエンジン2とモータ4との差回転が十分小さくなるまでは第1クラッチCL1をスリップ状態に保持し、エンジン2の回転数が過度に上昇した場合でも車両ショックの発生を抑制することができる。
【0038】
この後、時刻t18においてエンジン2の回転数が上昇しモータ4とエンジン2との差回転が十分小さくなると、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を上昇させ、時刻t19において指示油圧を最大油圧に設定する。最大油圧は、第1クラッチCL1を締結状態にするための指示油圧(第3の油圧)である。このように指示油圧を設定することにより、エンジン2の出力トルクが第1クラッチCL1を介してモータ4側に伝達されるようになる。
【0039】
一方、高応答モードの場合、時刻t21において、エンジン2の始動要求が発せられると、通常モードの場合と同様に、時刻t21からt22までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧まで一時的にステップ状に上昇させる。なお、図3では、通常モードにおいて指示油圧をプリチャージ用油圧に保持する時間と、高応答モードにおいて指示油圧をプリチャージ用油圧に保持する時間とがほぼ同じになっているが、高応答モードの場合に指示油圧をプリチャージ用油圧に保持する時間の方を通常モードの場合よりも長くしてもよい。これにより、第1クラッチCL1の応答性を更に高めることができる。
【0040】
この後、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧や待機油圧に設定することなくエンジン始動用油圧までステップ的に下降させ、時刻t22から時刻t23においてエンジン2の始動が完了するまでエンジン始動用油圧を保持する。このように指示油圧を設定することにより、車両ショックの抑制よりもエンジン2の始動の応答性向上を優先し、エンジン2の始動要求が発せられたときに迅速にエンジン2をクランキングして始動させることができる。
【0041】
この後、時刻t23においてエンジン2の始動が完了すると、通常モードの場合と同様に、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を回転同期用油圧まで上昇させ、時刻t24から時刻t25においてエンジン2の回転数が上昇しモータ4とエンジン2との差回転が十分小さくなるまで回転同期用油圧を保持する。この後、時刻t25においてエンジン2の回転数が上昇しモータ4とエンジン2との差回転が十分小さくなると、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を上昇させ、時刻t26において指示油圧を最大油圧に設定する。
【0042】
図4は、ノーマルクローズ型の第1クラッチCL1の制御を示すタイムチャートである。図4において、グラフG1eは通常モードにおいて第1クラッチCL1に付与する油圧を油圧制御回路14へ指示する際の指示油圧を示し、グラフG1fは通常モードにおいて第1クラッチCL1に付与される実油圧を示す。また、グラフG1gは高応答モードにおいて第1クラッチCL1に付与する油圧を油圧制御回路14へ指示する際の指示油圧を示し、グラフG1hは高応答モードにおいて第1クラッチCL1に付与される実油圧を示す。
【0043】
通常モードの場合、時刻t31において、エンジン2の始動要求が発せられると、時刻t31からt32までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧まで一時的にステップ状に下降させる。第1クラッチCL1がノーマルクローズ型のクラッチである場合、プリチャージ用油圧は、第1クラッチCL1の油圧室から作動油を排出するときの必要流量に応じて設定される。また、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧に設定する時間(時刻t31からt32までの時間)は、第1クラッチCL1の油圧室の容量に基づき設定される。このように、エンジン2の始動要求が発せられた直後に、相対的に低い指示油圧を一時的に設定することにより、第1クラッチCL1の油圧室から迅速に作動油を排出することができ、第1クラッチCL1の応答性を高めることができる。
【0044】
この後、時刻t32からt33までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧まで一時的にステップ状に上昇させる。このように指示油圧を設定することで、第1クラッチCL1がノーマルオープン型のクラッチである場合と同様に、第1クラッチCL1が接続を開始したときの車両ショックの発生を抑制することができる。
【0045】
この後、時刻t33からt34までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を待機油圧まで一時的にステップ状に上昇させる。このように指示油圧を設定することにより、第1クラッチCL1がノーマルオープン型のクラッチである場合と同様に、他のデバイスの準備ができるまで(例えば第2クラッチCL2が締結状態から所定のスリップ状態に移行するまで)エンジン2のクランキング開始を待機する必要があるときに、モータ4とエンジン2との間のトルク伝達を遮断しつつ、他のデバイスの準備が完了次第迅速に第1クラッチCL1を接続してエンジン2のクランキングを開始することができるようになる。
【0046】
そして、時刻t34において他のデバイスの準備が完了すると、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をエンジン始動用油圧まで下降させ、時刻t35から時刻t36においてエンジン2の始動が完了するまでエンジン始動用油圧を保持する。このように指示油圧を設定することにより、第1クラッチCL1がノーマルオープン型のクラッチである場合と同様に、エンジン2の始動に必要なトルクを第1クラッチCL1を介してモータ4からエンジン2に伝達し、エンジン2をクランキングして始動させることができる。
【0047】
この後、時刻t36においてエンジン2の始動が完了すると、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を下降させ、時刻t37において指示油圧を最小油圧(図4の例では0)に設定する。最小油圧は、第1クラッチCL1を締結状態にするための指示油圧(第3の油圧)である。このように指示油圧を設定することにより、エンジン2の出力トルクが第1クラッチCL1を介してモータ4側に伝達されるようになる。
【0048】
一方、高応答モードの場合、時刻t41において、エンジン2の始動要求が発せられると、通常モードの場合と同様に、時刻t41からt42までの間、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧まで一時的にステップ状に下降させる。
【0049】
この後、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧や待機油圧に設定することなくエンジン始動用油圧までステップ的に上昇させ、時刻t42から時刻t43においてエンジン2の始動が完了するまでエンジン始動用油圧を保持する。このように指示油圧を設定することにより、第1クラッチCL1がノーマルオープン型のクラッチである場合と同様に、車両ショックの抑制よりもエンジン2の始動の応答性向上を優先し、エンジン2の始動要求が発せられたときに迅速にエンジン2をクランキングして始動させることができる。
【0050】
この後、時刻t43においてエンジン2の始動が完了すると、通常モードの場合と同様に、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を下降させ、時刻t44において指示油圧を最小油圧に設定する。
【0051】
次に、図5を参照して、本実施形態によるエンジン2の始動制御の全体的な流れについて説明する。図5は、本実施形態による始動制御を示すフローチャートである。このフローは、コントローラ20によって所定の周期で繰り返し実行される。
【0052】
まず、ステップS100において、コントローラ20は、各種情報を取得する。具体的には、コントローラ20は、少なくとも上記したセンサSN1~SN6から検出信号を取得する。
【0053】
次いで、ステップS101において、コントローラ20は、現在停止しているエンジン2の始動要求が発せられているか否かを判定する。例えば、この始動要求は、ドライバがEVモードにおいて比較的大きな加速を要求している場合(つまり走行モードをEVモードからHVモードに切り替える必要があるような加速度をドライバが要求している場合)に発せられる。加えて、始動要求は、このようなドライバ要求以外に、パワートレイン等を含む制御システムから発せられる(以下では、この始動要求を適宜「システム要求」と呼ぶ)。このシステム要求は、車速や負荷やバッテリ状態やエンジン温度などに応じて、ハイブリッド車両1の走行モードをEVモードからHVモードに切り替えるべきである場合に発せられる。例えば、目標駆動力を実現するためにはモータ4の駆動力だけでは不足する場合や、バッテリ5を充電すべき場合(バッテリ5のSOCが所定値未満である場合)や、減速時にエンジン2によるエンジンブレーキを付与すべき場合などにおいて、システム要求が発せられる。
【0054】
ステップS101において、始動要求が発せられたと判定されなかった場合(ステップS101:No)、コントローラ20は、本始動制御に係る処理を終了する。これに対して、始動要求が発せられたと判定された場合(ステップS101:Yes)、コントローラ20は、第2クラッチCL2の締結状態から所定のスリップ状態への移行を開始すると共に、ステップS102に進む。ステップS102において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧に設定して所定時間保持する。
【0055】
次いで、ステップS103において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をプリチャージ用油圧に設定してから、事前に設定された所定時間が経過しプリチャージが完了したか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、所定時間が経過しプリチャージが完了したと判定された場合(ステップS103:Yes)、ステップS104に進む。これに対して、コントローラ20は、所定時間が経過しておらずプリチャージが完了したと判定されなかった場合(ステップS104:No)、ステップS102に戻る。この場合、コントローラ20は、プリチャージが完了するまで、ステップS102及びS103の処理を繰り返す。
【0056】
次いで、ステップS104において、コントローラ20は、ハイブリッド車両1の目標駆動力が所定値未満であるか否か、即ち通常モードか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、通常モードであると判定された場合(ステップS104:Yes)、ステップS105に進む。
【0057】
ステップS105において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧に設定して所定時間保持する。次いで、ステップS106において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を保持油圧に設定してから、所定時間が経過したか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、所定時間が経過したと判定された場合(ステップS106:Yes)、ステップS107に進む。これに対して、コントローラ20は、所定時間が経過したと判定されなかった場合(ステップS106:No)、ステップS105に戻る。この場合、コントローラ20は、所定時間が経過するまで、ステップS105及びS106の処理を繰り返す。
【0058】
次いで、ステップS107において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を待機油圧に設定して待機完了の条件が満たされるまで(例えば第2クラッチCL2が締結状態から所定のスリップ状態に移行するまで)保持する。次いで、ステップS108において、コントローラ20は、待機完了の条件が満たされたか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、待機完了の条件が満たされた場合(ステップS108:Yes)、例えば第2クラッチCL2が締結状態から所定のスリップ状態に移行した場合、ステップS109及びS110に進む。これに対して、コントローラ20は、待機完了の条件が満たされたと判定されなかった場合(ステップS108:No)、ステップS107に戻る。この場合、コントローラ20は、待機完了の条件が満たされるまで、ステップS107及びS108の処理を繰り返す。
【0059】
また、コントローラ20は、上述のステップS104において、ハイブリッド車両1の目標駆動力が所定値未満の通常モードであると判定されなかった場合(ステップS104:No)、即ちハイブリッド車両1の目標駆動力が所定値以上の高応答モードである場合、上述のステップS105からS108の処理を省略し、ステップS109及びS110に進む。
【0060】
ステップ109において、コントローラ20は、モータ4のクランキングによりエンジン2を始動させるようにモータ4を制御する。そして、エンジン2が始動すると、コントローラ20は、ステップS112に進む。
【0061】
また、上記のステップS109の処理と並行して、ステップS110において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧をエンジン始動用油圧に設定してエンジン2の始動が完了するまで保持する。次いで、ステップS111において、コントローラ20は、エンジン2の始動が完了したか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、エンジン2の始動が完了した場合(ステップS111:Yes)、ステップS112に進む。これに対して、コントローラ20は、エンジン2の始動が完了したと判定されなかった場合(ステップS111:No)、ステップS110に戻る。この場合、コントローラ20は、エンジン2の始動が完了するまで、ステップS110及びS111の処理を繰り返す。
【0062】
次いで、ステップS112において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を回転同期用油圧に設定して回転同期が完了するまで(つまりエンジン2の回転数が上昇しモータ4とエンジン2との差回転が十分小さくなるまで)保持する。次いで、ステップS113において、コントローラ20は、回転同期が完了したか否かを判定する。その結果、コントローラ20は、回転同期が完了した場合(ステップS113:Yes)、ステップS114に進む。これに対して、コントローラ20は、回転同期が完了したと判定されなかった場合(ステップS113:No)、ステップS112に戻る。この場合、コントローラ20は、回転同期が完了するまで、ステップS112及びS113の処理を繰り返す。
【0063】
次いで、ステップS114において、コントローラ20は、油圧制御回路14への指示油圧を最大油圧に設定して、第1クラッチCL1を締結状態にする。これと共に、コントローラ20は、第2クラッチCL2も締結状態とする。この後、コントローラ20は、本始動制御に係る処理を終了する。
【0064】
[作用及び効果]
次に、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御方法及び制御システムの作用及び効果について説明する。
【0065】
本実施形態によれば、コントローラ20は、エンジン2の始動要求が発せられ、第1クラッチCL1に付与する油圧を制御するときに、ハイブリッド車両1の目標駆動力が所定値未満の通常モードの場合に、油圧制御回路14への指示油圧を、第1クラッチCL1が接続を開始したときの締結圧の上昇速度が所定値以下となる保持油圧に設定して所定時間保持し、その後、指示油圧を、エンジン2の始動に必要なトルクを伝達するためのエンジン始動締結圧を第1クラッチCL1に発生させるエンジン始動用油圧に設定してエンジン2の始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を、第1クラッチCL1を締結状態にするための最大油圧に設定する。これにより、目標駆動力が所定値未満でありエンジン2の始動の応答性よりも車両ショックの抑制を優先すべきときには、エンジン2を始動するために第1クラッチCL1が接続を開始したときの車両ショックの発生を抑制することができる。一方、コントローラ20は、目標駆動力が所定値以上の高応答モードの場合には、油圧制御回路14への指示油圧を、保持油圧に設定することなくエンジン始動用油圧に設定してエンジン2の始動が完了するまで保持し、その後、指示油圧を最大油圧に設定する。これにより、目標駆動力が所定値以上であり車両ショックの抑制よりもエンジン2の始動の応答性向上を優先すべきときには、エンジン2の始動要求が発せられたときに迅速にエンジン2をクランキングして始動させることができ、エンジン始動の応答性を確保することができる。このように、本実施形態によれば、エンジン始動の応答性を確保しつつ、車両ショックを抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、エンジン2の始動要求が発せられたときに、最初に、指示油圧を、エンジン始動締結圧より高い締結圧を第1クラッチCL1に発生させることが可能なプリチャージ用油圧に設定して所定時間保持する。これにより、エンジン2の始動要求が発せられた直後に、第1クラッチCL1の油圧室へ迅速に作動油を充填することができ、その後の制御における第1クラッチCL1の応答性を高めることができる。
【0067】
また、高応答モードの場合に指示油圧をプリチャージ用油圧に保持する時間を、通常モードの場合に指示油圧をプリチャージ用油圧に保持する時間よりも長くすることにより、第1クラッチCL1の応答性を更に高めることができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、コントローラ20は、通常モードの場合に、指示油圧を保持油圧に設定して所定時間保持した後、エンジン始動用油圧に設定する前に、第1クラッチCL1を接続直前の状態で待機させる待機油圧に設定して所定条件が満たされるまで保持する。これにより、他のデバイスの準備ができるまでエンジン2の始動を待機する必要があるときに、モータ4とエンジン2との間のトルク伝達を遮断しつつ、他のデバイスの準備が完了次第迅速に第1クラッチCL1を接続してエンジン2の始動を開始することができるようになる。
【符号の説明】
【0069】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
4 モータ
5 バッテリ
6 変速機
8 動力伝達系
12 車輪
14 油圧制御回路
20 コントローラ(制御装置)
CL1 第1クラッチ(摩擦締結要素)
CL2 第2クラッチ
図1
図2
図3
図4
図5