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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/138 20060101AFI20240903BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20240903BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B60T13/138 A
B60T13/122 A
B60T8/17 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021056729
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022153944
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】榊原 優一
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0144642(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106846(US,A1)
【文献】特開2021-037939(JP,A)
【文献】特表2023-533332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/138
B60T 13/122
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電動シリンダ、第2電動シリンダ、及び1つ以上のホイルシリンダを接続する液路と、
前記液路による、前記第1電動シリンダと前記ホイルシリンダとの接続である第1ホイル接続、及び前記第2電動シリンダと前記ホイルシリンダとの接続である第2ホイル接続を開閉可能に構成された弁部と、
前記第1電動シリンダと前記第2電動シリンダとの接続であるシリンダ間接続を開放させ、且つ前記第1ホイル接続及び前記第2ホイル接続を閉鎖させた状態において、前記第1電動シリンダにより前記第1電動シリンダ内のフルードを前記液路に吐出させ、且つ、前記第2電動シリンダにより前記液路内のフルードを前記第2電動シリンダ内に吸入させるフルード授受制御を実行可能に構成された制御部と、
を備える、車両用制動装置。
【請求項2】
前記ホイルシリンダは、第1ホイルシリンダ及び第2ホイルシリンダを含み、
前記液路は、前記第1電動シリンダと前記第2電動シリンダとを接続する連通路と、前記第1電動シリンダと前記第1ホイルシリンダとを接続する第1液路と、前記第2電動シリンダと前記第2ホイルシリンダとを接続する第2液路と、を含み、
前記弁部は、前記連通路を開閉する連通制御弁と、前記第1液路を開閉する第1電磁弁と、前記第2液路を開閉する第2電磁弁と、を含み、
前記制御部は、前記フルード授受制御において、前記連通制御弁を開弁させて前記シリンダ間接続を開放し、前記第1電磁弁及び前記第2電磁弁を閉弁させて前記第1ホイル接続及び前記第2ホイル接続を閉鎖させる、請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記フルード授受制御において、前記第1電動シリンダ内に形成され且つ前記液路に接続された第1液圧室の容積の減少量と、前記第2電動シリンダ内に形成され且つ前記液路に接続された第2液圧室の容積の増大量とを一致させる、請求項1又は2に記載の車両用制動装置。
【請求項4】
前記制御部は、制動要求がない場合に前記フルード授受制御を実行する、請求項1~3の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項5】
前記制御部は、制動要求値に変化がない場合に前記フルード授受制御を実行する、請求項1~4の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ホイルシリンダを加圧する加圧制御において前記第2電動シリンダのフルードが不足した場合に、前記フルード授受制御を実行する、請求項1~5の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許第5800437号公報には、電動シリンダと、ホイルシリンダと、リザーバと、を備えた制動装置が開示されている。この制動装置では、ピストン位置が所定位置を超えた場合、電動シリンダとホイルシリンダとの間の電磁弁を閉弁させた状態で、ピストンを初期位置方向に駆動させることにより、リザーバのブレーキ液を吸入する吸入制御が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5800437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、電動シリンダは、シリンダ、ピストン、電気モータ、及び直動変換部を備えている。電気モータの回転運動は、直動変換部によりピストンの直線運動に変換される。シリンダ内には、シリンダ内周面とピストンとにより液圧室が区画されている。直動変換部から伝達された電気モータの駆動力によって、ピストンが液圧室の容積を小さくするようにシリンダ内を摺動することで、電動シリンダは液路にフルードを吐出(供給)する。
【0005】
直動変換部は、例えば減速機やボールねじ機構を備えている。直動変換部は、電気モータの出力軸の回転運動を減速機及びボールねじ機構を介してピストンの直線運動に変換する。直動変換部では、制動力が発生する位置までピストンを移動させて且つ当該位置で液圧を保持する度に、同様の場所(例えばボールねじの一部やギヤの一部)に負荷が加わり、その部分は摩耗しやすくなる。つまり、従来の電動シリンダには、耐久性向上(高寿命化)の面で改良の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、電動シリンダの耐久性を向上させることができる車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用制動装置は、第1電動シリンダ、第2電動シリンダ、及び1つ以上のホイルシリンダを接続する液路と、前記液路による、前記第1電動シリンダと前記ホイルシリンダとの接続である第1ホイル接続、及び前記第2電動シリンダと前記ホイルシリンダとの接続である第2ホイル接続を開閉可能に構成された弁部と、前記第1電動シリンダと前記第2電動シリンダとの接続であるシリンダ間接続を開放させ、且つ前記第1ホイル接続及び前記第2ホイル接続を閉鎖させた状態において、前記第1電動シリンダにより前記第1電動シリンダ内のフルードを前記液路に吐出させ、且つ、前記第2電動シリンダにより前記液路内のフルードを前記第2電動シリンダ内に吸入させるフルード授受制御を実行可能に構成された制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1電動シリンダ及び第2電動シリンダとホイルシリンダとの接続が遮断された状態で、一方の電動シリンダから他方の電動シリンダにフルードを供給するフルード授受制御が実行される。例えば第2電動シリンダにより液路を高圧にした状態で、フルード授受制御により第1電動シリンダからフルードを吐出させ且つ且つ第2電動シリンダにフルードを吸入させることで、第2電動シリンダの負圧化を抑制しつつ、第2電動シリンダのうち負荷が加わっている部位を変えることができる。これを例えば定期的に行うことで、第2電動シリンダの直動変換部分の全体的に(例えば均等に)負荷を加えることができ、スポット的な摩耗が抑制される。また、フルード授受制御による直動変換部全体へのグリースの精度良い供給も期待できる。フルード授受制御の際、ホイルシリンダの液圧は保持され、制動力の変動は防止される。本発明によれば、電動シリンダの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の車両用制動装置の構成図である。
図2】第1実施形態のフルード授受制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】第2実施形態の車両用制動装置の構成図である。
図4】第1実施形態の変形例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。各実施形態の説明は、相互に参照できる。説明に用いる各図は概念図である。
【0011】
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用制動装置1は、図1に示すように、第1電動シリンダ2と、第2電動シリンダ3と、ホイルシリンダ41、42と、液路5と、弁部6と、制御部7と、マスタシリンダ装置9と、を備えている。第1電動シリンダ2及び第2電動シリンダ3は、ホイルシリンダ41、42を加減圧可能に構成された調圧装置である。
【0012】
第1電動シリンダ2は、第1シリンダ21、第1ピストン22、第1電気モータ23、及び、第1直動変換部24を有している。第1シリンダ21は、有底円筒状のシリンダ部材(部分)である。第1ピストン22は、第1シリンダ21内に摺動可能に配置されている。第1シリンダ21内には、第1シリンダ21の内周面と第1ピストン22とにより区画された第1液圧室21aが形成されている。
【0013】
第1シリンダ21には、出力ポート212が形成されている。出力ポート212は、第1液圧室21aと液路5とを接続するポートである。なお、説明において、第1液圧室21aの容積を小さくするように第1ピストン22が移動する移動方向を「前方」とする。
【0014】
第1ピストン22が前進すると、第1液圧室21aのフルードが出力ポート212を介して液路5に出力される。第1ピストン22の初期位置は、第1液圧室21aの容積が最大となる位置である。第1液圧室21aには、第1ピストン22を初期位置に向けて付勢する付勢部材25が配置されている。
【0015】
第1電気モータ23は、出力軸231を有し、制御部7により制御される。第1直動変換部24は、第1電気モータ23(出力軸231)の回転運動を第1ピストン22の直線運動に変換する機構である。第1直動変換部24は、出力軸231に連動する減速機241と、減速機に連動するボールねじ機構242と、を備えている。減速機241は、複数のギヤで構成されている。ボールねじ機構242は、図示略のボルト部と、ナット部と、その両者間に配置された複数のボールと、を備えている。第1直動変換部24の詳細については公知の構成であるため説明を省略する。
【0016】
このように、第1電動シリンダ2は、第1シリンダ21及び第1ピストン22で区画された第1液圧室21aの容積が小さくなるように第1ピストン22が摺動することでフルードを吐出する装置である。第1液圧室21aの容積が大きくなるように第1ピストン22が摺動することでフルードは第1液圧室21aに吸入される。
【0017】
第2電動シリンダ3は、第1電動シリンダ2と同様の構成であって、第1シリンダ21に相当する第2シリンダ31と、第1ピストン22に相当する第2ピストン32と、第1電気モータ23に相当する第2電気モータ33と、第1直動変換部24に相当する第2直動変換部34と、を備えている。第2電気モータ33は、出力軸331を備えている。
【0018】
第2シリンダ31内には、第1液圧室21aに相当する第2液圧室31aが形成されている。出力ポート312は、第2液圧室31aと液路5とを接続するポートである。説明において、第2液圧室31aの容積を小さくするように第2ピストン32が移動する移動方向を「前方」とする。
【0019】
第2液圧室31aには、付勢部材25に相当する付勢部材35が配置されている。第2直動変換部34は、出力軸331に連動する減速機341と、減速機341に連動するボールねじ機構342と、を備えている。
【0020】
第2電動シリンダ3は、第2シリンダ31及び第2ピストン32で区画された第2液圧室31aの容積が小さくなるように第2ピストン32が摺動することでフルードを吐出する装置である。第2液圧室31aの容積が大きくなるように第2ピストン32が摺動することでフルードは第2液圧室31aに吸入される。第2電動シリンダ3の詳細説明は、第1電動シリンダ2の説明を参照できるため省略する。ホイルシリンダ41、42は、それぞれ別の車輪に設けられ、液圧に応じた制動力を車輪に付与する。
【0021】
液路5は、第1電動シリンダ2と第2電動シリンダ3とホイルシリンダ41、42とを接続する液路である。詳細に、液路5は、連通路51、第1液路52、及び第2液路53で構成されている。連通路51は、第1電動シリンダ2(出力ポート212)と第2電動シリンダ3(出力ポート312)とを接続している。連通路51は、液路5において、第1電動シリンダ2と第2電動シリンダ3との接続であるシリンダ間接続を形成している。連通路51は、マスタ液路90及びマスタカット弁95を介してマスタシリンダ91に接続されている。連通路51とマスタ液路90との接続部分を接続部51aとする。
【0022】
第1液路52は、連通路51のうち第1電動シリンダ2と接続部51aとの間の部分と、ホイルシリンダ41とを接続している。つまり、第1液路52は、連通路51の一部を介して、第1電動シリンダ2とホイルシリンダ41とを接続している。第2液路53は、連通路51のうち第2電動シリンダ3と接続部51aとの間の部分と、ホイルシリンダ42とを接続している。つまり、第2液路53は、連通路51の一部を介して、第2電動シリンダ3とホイルシリンダ42とを接続している。
【0023】
弁部6は、複数の電磁弁で構成されている。弁部6は、液路5による、第1電動シリンダ2とホイルシリンダ41との接続である第1ホイル接続、及び第2電動シリンダ3とホイルシリンダ42との接続である第2ホイル接続をそれぞれ開閉可能に構成されている。第1ホイル接続は、連通路51及び第1液路52により形成されている。第2ホイル接続は、連通路51及び第2液路53により形成されている。
【0024】
弁部6は、第1液路52を開閉(連通・遮断)する第1電磁弁61と、第2液路53を開閉(連通・遮断)する第2電磁弁62と、を備えている。第1電磁弁61は、第1液路52に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。第2電磁弁62は、第2液路53に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。
【0025】
制御部7は、1つ以上のプロセッサ及びメモリ等を備える電子制御ユニット(ECU)である。制御部7は、複数の装置に通信可能に接続されている。具体的に、制御部7は、主に、第1電動シリンダ2(第1電気モータ23)、第2電動シリンダ3(第2電気モータ33)、弁部6、マスタカット弁95、及び後述するシミュレータカット弁82を制御する。制御部7は、図示略のストロークセンサや圧力センサから検出情報(例えばブレーキペダルZのストローク、液圧室21a、31aの液圧、及びマスタ室91aの液圧等)を受信する。制御部7の各種制御については後述する。
【0026】
マスタシリンダ装置9は、ドライバによるブレーキペダルZの操作に応じて、フルードをマスタ液路90に供給する装置である。マスタシリンダ装置9は、マスタシリンダ91と、マスタピストン92と、付勢部材93と、リザーバ94と、を備えている。マスタシリンダ91は、有底円筒状のシリンダ部材である。マスタピストン92は、マスタシリンダ91内に配置され、ブレーキペダルZの操作に応じてマスタシリンダ91内を摺動する。マスタシリンダ91内には、マスタシリンダ91の内周面とマスタピストン92とにより区画されたマスタ室91aが形成されている。なお、説明において、マスタ室91aの容積を小さくするようにマスタピストン92が移動する移動方向を「前方」とする。
【0027】
付勢部材93は、マスタピストン92を初期位置に向けて付勢するスプリングである。付勢部材93は、マスタ室91aに配置されている。初期位置とは、マスタ室91aの容積が最大となる位置である。マスタシリンダ91には、入力ポート911と、出力ポート912とが形成されている。入力ポート911は、液路943を介して、マスタ室91aとリザーバ94とを接続するポートである。出力ポート912は、マスタ室91aとマスタ液路90とを接続するポートである。
【0028】
マスタピストン92は、ブレーキ操作により初期位置から所定量前進すると、入力ポート911を閉鎖してマスタ室91aとリザーバ94との接続を遮断するように構成されている。マスタ室91aとリザーバ94とが遮断された状態で、マスタピストン92が前進すると、マスタ室91aのフルードが出力ポート912を介してマスタ液路90に出力される。マスタ液路90は、マスタシリンダ91と液路5(連通路51)とを接続する液路である。マスタ液路90には、ノーマルオープン型の電磁弁であるマスタカット弁95が設けられている。
【0029】
出力ポート912には、マスタ液路90から分岐した液路81を介してシミュレータカット弁82及びストロークシミュレータ83が接続されている。液路81がマスタ液路90から分岐する分岐点は、マスタ液路90においてマスタカット弁95よりもマスタシリンダ91側の部分に位置する。シミュレータカット弁82は、ノーマルクローズ型の電磁弁である。ストロークシミュレータ83は、シリンダ831、ピストン832、及び付勢部材833で構成され、ブレーキペダルZの操作に対して液圧により反力を付与する。
【0030】
(通常ブレーキ制御)
制御部7は、制動要求(例えばブレーキペダルZの操作量又は他の制御での要求)を検出すると、制動要求値(例えば要求減速度や目標制動力)に基づいて、通常ブレーキ制御を実行する。例えば両方のホイルシリンダ41、42を加圧する通常ブレーキ制御では、マスタカット弁95が閉弁され、第1電磁弁61、第2電磁弁62、及びシミュレータカット弁82が開弁される。この状態は、マスタシリンダ装置9とホイルシリンダ41、42とが液圧的に切り離されたバイワイヤ状態といえる。制御部7は、バイワイヤ状態で制動要求値に基づいて、第1電動シリンダ2及び第2電動シリンダ3の少なくとも一方を作動させる。
【0031】
(フルード授受制御)
制御部7は、フルード授受制御を実行可能に構成されている。フルード授受制御は、第1電動シリンダ2と第2電動シリンダ3との接続であるシリンダ間接続を開放させ、且つ第1ホイル接続及び第2ホイル接続を閉鎖させた状態において、第1電動シリンダ2により第1電動シリンダ2内のフルードを液路5に吐出させ、且つ、第2電動シリンダ3により液路5内のフルードを第2電動シリンダ3内に吸入させる制御である。より詳細に、フルード授受制御は、シリンダ間接続を開放させ、第1ホイル接続及び第2ホイル接続を閉鎖させ、且つ第2液圧室31aの容積が最大値よりも小さい状態において、第1電気モータ23により第1ピストン22を摺動させて第1液圧室21a内のフルードを液路5に吐出させ、かつ、第2電気モータ33により第2ピストン32を摺動させて液路5内のフルードを第2液圧室31a内に吸入させる制御である。
【0032】
制御部7は、所定のタイミング、例えば制動要求がない場合又は制動要求値に変化がない場合に、フルード授受制御を実行する。制動要求がない場合とは、例えばパーキングブレーキ等により車両が停車しており、且つドライバがブレーキペダルZを操作していない場合である。制動要求値に変化がない場合とは、例えばブレーキペダルZのストロークに変化がない(ブレーキペダルZが移動していない)場合であって、ホイルシリンダ41、42の液圧が保持されている場合である。
【0033】
図2を参照してフルード授受制御の一例を説明する。本制御例において、第1電動シリンダ2と第2電動シリンダ3とは、同スペック(電気モータの駆動力及び液圧室の容積が同じ)である。また、第2電動シリンダ3は、メインの調圧装置として設定されている。つまり、通常ブレーキ制御において、制御部7は、第2電動シリンダ3のみを作動させて、ホイルシリンダ41、42を加減圧する。メインの調圧装置の設定は、制御部7により定期的に変更される。
【0034】
第1実施形態の構成では、シリンダ間接続は常に開放(連通)されている。したがって、制御部7は、所定のタイミングでフルード授受制御を開始すると(S101)、第1電磁弁61、第2電磁弁62、及びマスタカット弁95を閉弁させる(S102)。この状態で、制御部7は、第2電動シリンダ3を作動させて連通路51を所定圧まで加圧する(S103)。所定圧は、通常ブレーキ制御において、制動要求値に応じた液圧である。第2ピストン32は、所定圧に対応する距離だけ前進した状態で停止される。つまり、第2液圧室31aの容積は最大値よりも小さい状態となる。
【0035】
各液圧室21a、31a及び連通路51が加圧された状態で、制御部7は、第1電気モータ23の作動により第1ピストン22を前進させるとともに、第2電気モータ33の作動により第2ピストン32を後進させる(S104)。この際の第1電動シリンダ2の作動量と第2電動シリンダ3の作動量とは同じである。換言すると、第1液圧室21aの容積の減少量と第2液圧室31aの容積の増大量とは同じである。本例のフルード授受制御において、制動部7は、第1電動シリンダ2内に形成され且つ液路5に接続された第1液圧室21aの容積の減少量と、第2電動シリンダ3内に形成され且つ液路5に接続された第2液圧室31aの容積の増大量とを一致させる。
【0036】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態によれば、第1電動シリンダ2及び第2電動シリンダ3とホイルシリンダ41、42との接続が遮断された状態で、一方の電動シリンダ2から他方の電動シリンダ3にフルードを供給するフルード授受制御が実行される。第2ピストン32を前進させて第1液圧室21a及び第2液圧室31aを高圧にした状態で、フルード授受制御により第1ピストン22を前進させ且つ第2ピストン32を後進させることで、第2液圧室31aの負圧化を抑制しつつ、第2直動変換部34(例えばボールねじ機構342)のうち負荷が加わっている部位を変えることができる。これを例えば定期的に行うことで、第2直動変換部34の全体的に(例えば均等に)負荷を加えることができ、スポット的な摩耗が抑制される。また、フルード授受制御による第2直動変換部34全体へのグリースの精度良い供給も期待できる。フルード授受制御の際、ホイルシリンダ41、42の液圧は保持され、制動力の変動は防止される。第1実施形態によれば、メイン電動シリンダの直動変換部(第2直動変換部34)の耐久性を向上させることができる。
【0037】
また、上記制御例では、フルード授受制御において、第1液圧室21aの容積の減少量と第2液圧室31aの容積の増大量とは同じであるため、連通路51、及び液圧室21a、31aが負圧になることが精度良く抑制される。負圧になることで、フルード中の溶存しているエアが気泡となり、それが液路5等に悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、本例では、それが効果的に抑制される。
【0038】
フルード授受制御が実行されると、ホイルシリンダ41、42の液圧(ホイル圧)を変動させることができなくなる。そこで、フルード授受制御が、目標制動力(目標ホイル圧)に変動がない場合、すなわち制動要求がない場合又は制動要求値に変化がない場合に実行されることで、目標制動力と実際の制動力との乖離発生を防止することができる。
【0039】
(フルード授受制御の別例)
フルード授受制御は、一方の電動シリンダ、本例ではメインの電動シリンダである第2電動シリンダ3のフルードが不足した場合に実行されてもよい。例えばブレーキパッド(図示略)が急激な摩耗により大きくすり減ってしまった場合、ブレーキパッドとブレーキディスク(図示略)との距離が大きくなり、第2電動シリンダ3を最大限(第2ピストン32がボトミングするまで)作動させても、目標制動力に到達しない場合が生じ得る。このような場合、制御部7は、フルード授受制御を実行し、第1電動シリンダ2から第2電動シリンダ3にフルードを移動させる。
【0040】
制御部7は、通常ブレーキ制御(バイワイヤ状態)において、目標制動力(制動要求値)に応じて、メインの第2電動シリンダ3を作動させる。上記のようなブレーキパッドの偏摩耗等により、第2ピストン32をボトミングさせても制動力が目標制動力に到達しない場合、制御部7は、フルード授受制御を開始して、第1電磁弁61及び第2電磁弁62を閉弁させる。ホイル圧が維持された状態で、制御部7は、第1ピストン22を所定量前進させ且つ第2ピストン32を所定量後進させる。
【0041】
第2液圧室31aにフルードが流入し第2液圧室31aの容積が増大した状態で、フルード授受制御を完了し、通常ブレーキ制御を再開させる。つまり、制御部7は、第1電磁弁61及び第2電磁弁62を開弁させ、第2ピストン32を前進させてホイル圧を加圧する。これにより、目標制動力が達成される。この例では、加圧制御を一旦停止してフルード授受制御を実行するため、フルード授受制御開始時にはすでに第2液圧室31aの容積は最大値よりも小さい状態であり、図2のS103は実行不要である。
【0042】
このように、制御部7は、ホイルシリンダ41、42を加圧する加圧制御において一方の電動シリンダ(ここでは第2電動シリンダ3)のフルードが不足した場合に、フルード授受制御を実行する。これにより、負圧の発生を抑制しつつ一方の電動シリンダにフルードを補充でき、目標制動力を達成させることができる。この作用は、一方の電動シリンダ(ここでは第2電動シリンダ3)が他方の電動シリンダ(ここでは第1電動シリンダ2)よりも高い駆動力を持っている場合に、より効果的に機能する。
【0043】
例えば、第1電気モータ23の最大駆動力がホイル圧10MPaに対応する値であり、第1液圧室21aの最大容積がホイル圧10MPaに対応する値であり、第2電気モータ33の最大駆動力がホイル圧20MPaに対応する値であり、第2液圧室31aの最大容積がホイル圧10MPaに対応する値であるケースを例に説明する。
【0044】
このケースにおいて、目標ホイル圧が12MPaであった場合、制御部7は、まずメインの第2電動シリンダ3で10MPaまで(すなわちボトミングするまで)ホイル圧を増大させる。そして、制御部7は、フルード授受制御を実行し、2MPa相当分以上のフルードを第1電動シリンダ2から第2電動シリンダ3に移動させる。その後、制御部7は、フルード授受制御を完了して、通常ブレーキ制御により12MPaまでホイル圧を増大させる。
【0045】
第1電気モータ23の最大駆動力がホイル圧10MPaに相当するため、第2電動シリンダ3でボトミングした後でも第1電動シリンダ2を作動させることができる。第1電気モータ23の最大駆動力は、第2電動シリンダ3でボトミングした後でも第1ピストン22を前進させることができるように設定されている。このように、スペックが異なる電動シリンダ2、3を備える車両用制動装置においても、フルード授受制御は有効である。
【0046】
本開示の別の目的は、一方の電動シリンダにフルード不足が発生した場合に、他方の電動シリンダを利用して、液圧室及び液路が負圧になるのを抑制しつつフルードを一方の電動シリンダに補充可能な車両用制動装置を提供することであるといえる。本開示によれば、この目的も達成可能となる。
【0047】
また、第2ピストン32の後進に加えて第1ピストン22の前進が行われるため、第2ピストン32の後進のみを実行しフルードを補充する従来のリフィル制御に比べて、第2電気モータ33の負荷トルクを小さくすることができる。第1実施形態のフルード授受制御は、いずれの制御例でも、第2ピストン32が前進した状態、すなわち液圧室21a、31aが所定圧まで加圧された状態で実行されている。
【0048】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制動装置1Aは、図3に示すように、第1実施形態の構成に加えて、さらに連通制御弁63を備えている。連通制御弁63は、連通路51に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。連通制御弁63は、連通路51のうち、連通路51と第1液路52との接続部51bと、連通路51と第2液路53との接続部51cとの間の部分(接続部51aを除く)に設けられている。換言すると、連通制御弁63は、連通路51のうち、接続部51bと接続部51aとの間の部分、又は接続部51cと接続部51aとの間の部分に設けられている。
【0049】
弁部6は、第1電磁弁61、第2電磁弁62、及び連通制御弁63で構成されている。弁部6は、液路5による、第1電動シリンダ2と第2電動シリンダ3との接続であるシリンダ間接続、第1電動シリンダ2とホイルシリンダ(「第1ホイルシリンダ」に相当する)41との接続である第1ホイル接続、及び第2電動シリンダ3とホイルシリンダ(「第2ホイルシリンダ」に相当する)42との接続である第2ホイル接続をそれぞれ開閉可能に構成されている。
【0050】
制御部7は、フルード授受制御において、連通制御弁63を開弁させてシリンダ間接続を開放し、第1電磁弁61及び第2電磁弁62を閉弁させて第1ホイル接続及び第2ホイル接続を閉鎖させる。フルード授受制御は、第1実施形態のように所定のタイミング(例えば、制動要求がない場合、制動要求値に変化がない場合、又はフルードが不足した場合)で実行される。
【0051】
第2実施形態によれば、フルード授受制御の実行により第1実施形態と同様の効果が発揮される。さらに第2実施形態によれば、通常ブレーキ制御において、連通制御弁63を閉弁させることで、各ホイルシリンダ41、42を独立して加減圧することができる。つまり、連通制御弁63が閉弁されることで、第1電動シリンダ2によりホイルシリンダ41を加減圧し、第2電動シリンダ3によりホイルシリンダ42を加減圧することができる。制御部7は、より効果的にアンチスキッド制御(ABS)や横滑り防止制御(ESC)を実行することができる。
【0052】
<その他>
本発明は、上記第1及び第2実施形態に限られない。例えば、マスタシリンダ装置9はなくてもよい。例えばホイルシリンダ41、42が後輪の2輪に設けられる場合、マスタシリンダ装置9は、液路5に接続されていなくても前輪のホイルシリンダに接続されていれば足りる。このように、上記実施形態において、車両用制動装置1、1Aは、マスタシリンダ装置9を備えなくてもよい。電動シリンダのリザーバは、リザーバ94とは別のものを用いてもよい。
【0053】
また、第1実施形態において、ホイルシリンダは1つであってもよい。図4に示すように、車両用制動装置1は、1つのホイルシリンダ4に対して2つの電動シリンダ2、3が設けられる構成であってもよい。この場合、弁部6は1つの電磁弁でも成立する。この構成であっても、第1実施形態同様の効果が発揮される。
【0054】
また、フルード授受制御は、例えばイニシャルチェック時に実行されてもよく、上記以外のタイミングで実行されてもよい。また、電動シリンダ2、3の構成において、ピストン22、32の位置は電気モータ23、33により制御できるため、付勢部材25、35はなくてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1、1A…車両用制動装置、2…第1電動シリンダ、21…第1シリンダ、21a…第1液圧室、22…第1ピストン、23…第1電気モータ、24…第1直動変換部、3…第2電動シリンダ、31…第2シリンダ、31a…第2液圧室、32…第2ピストン、33…第2電気モータ、34…第2直動変換部、41、42…ホイルシリンダ、5…液路、51…連通路、52…第1液路、53…第2液路、6…弁部、61…第1電磁弁、62…第2電磁弁、63…連通制御弁、7…制御部。
図1
図2
図3
図4