(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ボイラシステム
(51)【国際特許分類】
F22B 35/00 20060101AFI20240903BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F22B35/00 G
F22B35/00 E
G05B11/36 L
(21)【出願番号】P 2021060134
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山田 和也
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-205678(JP,A)
【文献】特開2014-156976(JP,A)
【文献】特開2016-142500(JP,A)
【文献】特開2016-205700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 1/18 - 35/18
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のボイラからなる台数制御ボイラ群と前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラと、からなるボイラ群と、
前記ボイラ群において生成された蒸気を集合させる蒸気ヘッダと、
前記蒸気ヘッダの内部の蒸気圧であるヘッダ圧力値を測定する蒸気圧測定手段と、
を備えるボイラシステムであって、
前記台数制御ボイラ群は、前記台数制御ボイラ群の燃焼状態を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記蒸気圧測定手段により測定されるヘッダ圧力値が予め設定された目標圧力値に保つように、現時点の必要蒸気量MV
nを速度形PIアルゴリズム又は速度形PIDアルゴリズムにより算出する必要蒸気量算出部と、
前記必要蒸気量算出部により算出された現時点の必要蒸気量MV
nを発生させるよう前記台数制御ボイラ群のボイラの燃焼状態を制御する出力制御部と、
前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラが稼働し、前記ヘッダ圧力値が前記台数制御ボイラ群の目標圧力値よりも低い値で推移している状態で、前記出力制御部による前記台数制御ボイラ群の制御を始動させた場合、前記ヘッダ圧力値が所定時間上昇し続けるとともに、前記必要蒸気量MV
nが前記台数制御ボイラ群の蒸気の供給を行っているすべてのボイラの発生蒸気量の合計値を上回っているときに、前記ヘッダ圧力値が、前記目標圧力値から予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から前記境界値を超えるか又はそれ以上の値となったか否かを検出する検出部と、を備え、
前記必要蒸気量算出部は、さらに、
前記検出部により、前記ヘッダ圧力値が、前記境界値より小さい値から前記境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された場合、現時点の必要蒸気量MV
nを算出する処理において、現時点の必要蒸気量MV
nとして、又は前回の必要蒸気量MV
n-1として、前記ヘッダ圧力値が前記境界値より小さい値から前記境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された時点に、前記台数制御ボイラ群の蒸気の供給を行っているすべてのボイラの発生蒸気量の合計値を設定するボイラシステム。
【請求項2】
前記台数制御ボイラ群が始動するとき、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラが稼働し、前記ヘッダ圧力値が前記目標圧力値から前記圧力値αを減算した値よりも低い値で推移している請求項1に記載のボイラシステム。
【請求項3】
前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラは、連続制御ボイラを含み、ボイラ缶内圧力値又はヘッダ圧力値が、前記目標圧力値よりも低い値で推移している請求項1又は請求項2に記載のボイラシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上のボイラを有する台数制御ボイラ群と、台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラと、が混在するボイラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のボイラからなるボイラ群において生成された蒸気を蒸気ヘッダに集合し、この蒸気ヘッダから負荷機器に対して蒸気を供給するボイラシステムにおいて、ボイラ群を2種類に大別し、これらを制御するボイラシステムが知られている。例えば、片方のボイラ群(「第1ボイラ群」)を、各ボイラの缶体内の圧力値である缶内圧力値(以下、「缶内圧力値」ともいう)が予め設定された第1目標圧力値と一致するように各ボイラの燃焼状態がローカル制御されるボイラ群とし、もう片方のボイラ群(「第2ボイラ群」)を蒸気ヘッダの内部の蒸気圧力値(以下、「ヘッダ圧力値」ともいう)が予め設定された第2目標圧力値になるように、第1ボイラ群の燃焼状態を台数制御されるボイラ群とする、ボイラシステムが知られている(例えば特許文献1)。ここでは、主として第1ボイラ群を燃焼させ、第2ボイラ群を、不足分を補うように燃焼させるように、第1目標圧力値を第2目標圧力値より高く設定されている。
他方、1つ以上のボイラを有する台数制御ボイラ群と、台数制御ボイラ群に属さない1つ以上のボイラと、が混在するボイラシステムにおいては、例えば、台数制御ボイラ群に属さない1つ以上のボイラを夜間等の低負荷時に稼働させ、ヘッダ圧力値が台数制御ボイラ群の目標圧力値よりも低い圧力を維持するように推移させておき、台数制御ボイラ群の台数制御を例えば工場の本稼働開始に合わせてヘッダ圧力値が前記目標圧力値になるように始動させる運用を行う場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この場合、台数制御ボイラ群に属さない1つ以上のボイラのみが稼働しているときは、ヘッダ圧力値は、台数制御ボイラ群の目標圧力値よりも低い圧力を維持するように推移している。その後、台数制御ボイラ群の台数制御を始動させると、ヘッダ圧力値<目標圧力値であるため、台数制御ボイラ群のほうが優先して燃焼するように制御され、台数制御ボイラ群においては、ヘッダ圧力値に基づいて蒸気使用設備の消費蒸気量(要求負荷)に応じて必要とされる蒸気量(操作量)MVが算出される。しかしながら、算出された操作量MVに合わせて、台数制御ボイラ群を制御する台数制御装置から台数制御ボイラ群の複数ボイラに燃焼指令は出力されるが、例えばプレパージ経由による応答遅れ、及び缶内圧力上昇までの応答遅れ等により、台数制御ボイラ群の台数制御の始動後の数分間は蒸気出力が行われない状態がある。
そうすると、ヘッダ圧力値<目標圧力値の状態が継続するため、台数制御ボイラ群の台数制御において算出される操作量MVが増加し続けることとなり、例えば、操作量MVが台数制御ボイラ群の発生蒸気量の最大値である全制御ボイラ最大出力合計値に到達する可能性がある。その後、台数制御ボイラ群のボイラが、例えば1台ずつ給蒸を開始することで、ヘッダ圧力値が上昇することとなり、ヘッダ圧力値の上昇に伴い、操作量MVが減少し始めることとなる。しかしながら、操作量MVは減少するものの、操作量MV>>発生蒸気量であることから、さらにボイラ発生蒸気量が増加し続けることとなる。
このため、ヘッダ圧力値が急激に上昇し、操作量MVの減少量は増えるものの、操作量MVが全制御ボイラ最大出力合計値となっていたことから、操作量MVが結局下げきることができずに、オーバーシュートが発生し、そのとき、仮にヘッダ圧力値が制御上限圧力値を超えた場合に、すべてのボイラを停止(以下、「全缶停止」ともいう)とする台数制御を行うことがある。
【0005】
本発明は、ヘッダ圧力値が予め設定された目標圧力値になるように台数制御される台数制御ボイラ群と、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラと、を備えるボイラシステムにおいて、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラのみが稼働し、ヘッダ圧力値が、前記台数制御ボイラ群の目標圧力値よりも低い圧力を維持するように推移しているときに、前記台数制御ボイラ群の台数制御を始動させた場合に、ヘッダ圧力のオーバーシュートを抑止し、安定稼働することができるボイラシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つ以上のボイラからなる台数制御ボイラ群と前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラと、からなるボイラ群と、
前記ボイラ群において生成された蒸気を集合させる蒸気ヘッダと、
前記蒸気ヘッダの内部の蒸気圧であるヘッダ圧力値を測定する蒸気圧測定手段と、
を備えるボイラシステムであって、
前記台数制御ボイラ群は、前記台数制御ボイラ群の燃焼状態を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記蒸気圧測定手段により測定されるヘッダ圧力値が予め設定された目標圧力値に保つように、現時点の必要蒸気量MVnを速度形PIアルゴリズム又は速度形PIDアルゴリズムにより算出する必要蒸気量算出部と、
前記必要蒸気量算出部により算出された現時点の必要蒸気量MVnを発生させるよう前記台数制御ボイラ群のボイラの燃焼状態を制御する出力制御部と、
前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラが稼働し、前記ヘッダ圧力値が前記台数制御ボイラ群の目標圧力値よりも低い値で推移している状態で、前記出力制御部による前記台数制御ボイラ群の制御を始動させた場合、前記ヘッダ圧力値が所定時間上昇し続けるとともに、前記必要蒸気量MVnが前記台数制御ボイラ群の蒸気の供給を行っているすべてのボイラの発生蒸気量の合計値を上回っているときに、前記ヘッダ圧力値が、前記目標圧力値から予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から前記境界値を超えるか又はそれ以上の値となったか否かを検出する検出部と、を備え、
前記必要蒸気量算出部は、さらに、
前記検出部により、前記ヘッダ圧力値が、前記境界値より小さい値から前記境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された場合、現時点の必要蒸気量MVnを算出する処理において、現時点の必要蒸気量MVnとして、又は前回の必要蒸気量MVn-1として、前記ヘッダ圧力値が前記境界値より小さい値から前記境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された時点に、前記台数制御ボイラ群の蒸気の供給を行っているすべてのボイラの発生蒸気量の合計値を設定するボイラシステムに関する。
【0007】
また、前記台数制御ボイラ群が始動するとき、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラが稼働し、前記ヘッダ圧力値が前記目標圧力値から前記圧力値αを減算した値よりも低い値で推移していることが好ましい。
【0008】
また、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラは、連続制御ボイラを含み、ボイラ缶内圧力値又はヘッダ圧力値が、前記目標圧力値よりも低い値で推移しているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘッダ圧力値が予め設定された目標圧力値になるように台数制御される台数制御ボイラ群と、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラと、を備えるボイラシステムにおいて、前記台数制御ボイラ群に含まれない1つ以上のボイラのみが稼働し、ヘッダ圧力値が、前記台数制御ボイラ群の目標圧力値よりも低い圧力で推移しているときに、前記台数制御ボイラ群の台数制御を始動させた場合に、ヘッダ圧力のオーバーシュートを抑止し、安定稼働することができるボイラシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るボイラシステム1の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るボイラシステム1をモデルとして、通常の速度形PIDアルゴリズムによる圧力制御を実施した場合におけるヘッダ圧力値と必要蒸気量(操作量)と実際の発生蒸気量との時間的推移を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る台数制御装置3の制御部4の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係るボイラシステム1をモデルとして、圧力値を0.10MPaに設定した場合におけるヘッダ圧力値と必要蒸気量(操作量)と実際の発生蒸気量との時間的推移を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係るボイラシステム1をモデルとして、圧力値を0.00MPaに設定した場合におけるヘッダ圧力値と必要蒸気量(操作量)と実際の発生蒸気量との時間的推移を示す図である。
【
図6】第1実施形態に係るボイラシステム1をモデルとして、圧力値を0.05MPaに設定した場合におけるヘッダ圧力値と必要蒸気量(操作量)と実際の発生蒸気量との時間的推移を示す図である。
【
図7】第1実施形態に係るボイラシステム1をモデルとして、圧力値を0.15MPaに設定した場合におけるヘッダ圧力値と必要蒸気量(操作量)と実際の発生蒸気量との時間的推移を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係るボイラシステム1の台数制御ボイラ群2におけるフィードバック制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態(以下「第1実施形態」という)に係るボイラシステム1について説明する。
図1は、ボイラシステム1の概略を示す図である。なお、本実施形態では、台数制御ボイラ群2に属さないボイラとして、1台の台数制御外ボイラ20A(以下、単に「台数制御外ボイラ20A」ともいう)と、8台のボイラ20からなる台数制御ボイラ群2と,からなるボイラシステムを例示する。
ここで、ボイラ20A及び20は、いずれも燃焼量を連続的に変更して燃焼可能な連続制御ボイラからなる。連続制御ボイラとは、少なくとも、最小燃焼状態S1(例えば、最大燃焼量の20%の燃焼量における燃焼状態)から最大燃焼状態S2の範囲で、燃焼量が連続的に制御可能とされているボイラである。連続制御ボイラは、例えば、燃料をバーナに供給するバルブや、燃焼用空気を供給するバルブの開度(燃焼比)を制御することにより、燃焼量を調整するようになっている。より具体的には、ボイラ20A及び20それぞれには、変動可能な蒸気量の単位である単位蒸気量Uが設定されている。これにより、ボイラ20A及び20は、最小燃焼状態S1から最大燃焼状態S2の範囲において、単位蒸気量U単位で、蒸気量を変更可能となっている。
なお、本実施形態に例示する台数制御ボイラ群2に属さないボイラ及び台数制御ボイラ群2の構成は一例である。本願発明においては、台数制御ボイラ群の台数制御を始動させるときに、(i)台数制御ボイラ群に属さないボイラが蒸気供給を行っていること、及び(ii)ヘッダ圧力値が台数制御ボイラ群に設定されている目標圧力値よりも低い圧力を維持するように推移していることを満たすボイラであればよい。例えば、台数制御ボイラ群に属さないボイラ20Aを複数の台数制御外ボイラ20Aとしてもよい。
具体的には、台数制御外ボイラ20Aは、ボイラ缶内圧力値が、台数制御ボイラ群に設定されている目標圧力値よりも低い目標圧力値を維持するようにローカル制御されるボイラでもよい。また、台数制御ボイラ群に属さないボイラとして、ヘッダ圧力値が台数制御ボイラ群2に設定されている目標圧力値よりも低い目標圧力値を維持するように制御されるボイラを含むようにしてもよい。また、台数制御ボイラ群に属さないボイラとして、ヘッダ圧力値の最大設定圧力値が、台数制御ボイラ群2に設定されている目標圧力値よりも低い値で設定されている制御圧力帯域に収まるよう制御されている段階値制御ボイラを含むようにしてもよい。また、台数制御ボイラ群に属さないボイラは複数のボイラ群から構成されるようにしてもよい。なお、台数制御ボイラ群2は、任意の台数のボイラとしてもよい。ボイラ容量(最小燃焼量、単位蒸気量、最大燃焼量等)が異なる場合でもよい。
【0012】
図1に示すように、ボイラシステム1は、1台の台数制御外ボイラ20A、及び8台のボイラ20において生成された蒸気を集合させる蒸気ヘッダ6を備える。蒸気ヘッダ6は、蒸気管11を介して台数制御外ボイラ20A及び8台のボイラ20に接続されている。この蒸気ヘッダ6の下流側は、蒸気管12を介して蒸気使用設備18に接続されている。このように、蒸気ヘッダ6は、ボイラ群2で生成された蒸気を集合させて貯留することにより、台数制御外ボイラ20A及び複数のボイラ20の相互の圧力差及び圧力変動を調整し、圧力が調整された蒸気を蒸気使用設備18に供給する。
【0013】
ボイラシステム1は、蒸気ヘッダ6の内部の蒸気圧力値(以下「ヘッダ圧力値」ともいう)を測定する、蒸気圧測定手段としての蒸気圧センサ7と、台数制御ボイラ群2の燃焼状態を制御する制御部4を有する、制御装置としての台数制御装置3と、を備える。なお、蒸気圧センサ7により測定された蒸気ヘッダ6の内部の蒸気圧力値を以下、「ヘッダ圧力値PV」ともいう。
図1に示すように蒸気圧センサ7は、信号線13を介して、台数制御装置3に電気的に接続されている。蒸気圧センサ7は、ヘッダ圧力を測定し、測定したヘッダ圧力値PVに係る信号(蒸気圧信号)を、信号線13を介して、台数制御装置3に送信する。また、台数制御装置3は、信号線16を介して、複数のボイラ20と電気的に接続されている。こうすることで、この台数制御装置3は、後述するように、蒸気圧センサ7により測定されるヘッダ圧力値PVに基づいて、それぞれボイラ20の燃焼状態を制御する。
次にボイラシステム1を構成する台数制御ボイラ群2及び台数制御外ボイラ20Aについて説明する。
【0014】
<台数制御ボイラ群2>
台数制御ボイラ群2のボイラ20は、例えば、多管式貫流ボイラから構成される。ボイラ20は、燃焼が行われるボイラ本体21と、連続制御ボイラ20の燃焼状態を制御するローカル制御部22と、を備える。ボイラ20は、例えば、燃焼量が100%の時に、相当蒸発量が3t/hの蒸気出力が可能に構成されている。
【0015】
前述したように、制御装置としての台数制御装置3は、信号線16を介して、複数のボイラ20と電気的に接続されている。この台数制御装置3は、蒸気圧センサ7により測定されるヘッダ圧力値PVに基づいて、ヘッダ圧力値PVが予め設定された目標圧力値PTVで維持されるように、それぞれボイラ20の燃焼状態を制御する。すなわち、ローカル制御部22は、信号線16を介して台数制御装置3から送信される制御信号に基づいて、ボイラ20の燃焼状態を制御する。逆に、ローカル制御部22は、台数制御装置3で用いられる信号(例えば、ボイラ20の実際の燃焼状態等)を、信号線16を介して台数制御装置3に送信する。以上、台数制御ボイラ群2について説明した。次に台数制御外ボイラ20Aについて説明する。
【0016】
<台数制御外ボイラ20A>
台数制御外ボイラ20Aは、例えば、貫流ボイラ及び/又は水管ボイラ等から構成される。ボイラ20Aは、燃焼が行われるボイラ本体21Aと、ボイラ20Aの缶内圧力値を測定する缶内圧力測定手段としてのボイラ圧検出部23Aと、ローカル制御部22Aと、を備える。
台数制御外ボイラ20Aは、例えば、燃焼量が100%の時に、相当蒸発量が6t/hの蒸気出力が可能に構成されている。
【0017】
ボイラ圧検出部23Aは、ボイラ20Aの缶内圧力値PVAを測定し、測定した缶内圧力値PVAをローカル制御部22Aに送信する。
ローカル制御部22Aは、ボイラ圧検出部23Aにより測定される缶内圧力値PVAに基づいて、缶内圧力値PVAが、目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように、ボイラ20Aの燃焼状態を制御する。
【0018】
より具体的には、ローカル制御部22Aは、ボイラ20Aから発生した蒸気の缶体内の圧力値、すなわちボイラ圧検出部23Aにより測定される缶内圧力値PVAが、目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVとなるような制御量を算出し、この制御量に基づいてボイラ20Aの燃焼量を制御する。
すなわち、ローカル制御部22Aは、制御周期毎に、ボイラ20Aの缶内圧力値PVAと予めローカル記憶部(図示せず)に設定されたボイラ20Aの圧力値PLVとの偏差に対して、所定のPIアルゴリズム又はPIDアルゴリズムに基づくフィードバック制御を行うことで、缶内圧力値PVAが圧力値PLVとなるために必要な蒸気量MVAnを算出し、算出した蒸気量MVAnを発生するようにボイラ20Aを制御する。ここで、nは、例えば、制御開始時の初期値を1とし、次の制御周期毎に1を加算することで当該制御周期を識別するためのインデックス(自然数)である。以上、台数制御外ボイラ20Aについて説明した。
【0019】
本実施形態のボイラシステム1は、台数制御外ボイラ20Aが、缶内圧力値PVAを目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、例えば工場の本稼働開始に合わせて、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させるものである。なお、台数制御ボイラ群2は、前述したようにヘッダ圧力値が、圧力値PLVより高い値に設定されている目標圧力値PTVを維持するように台数制御される。
【0020】
本実施形態におけるボイラシステム1において、本発明を適用しない場合について、具体例を挙げて説明する。
図2は、圧力値PLVを1.30MPa、目標圧力値PTVを1.50MPaに設定し、台数制御外ボイラ20Aが、台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後のヘッダ圧力値PVの変動を示すシミュレーション図である。ここで、横軸は経過時間(秒)、左縦軸はヘッダ圧力値(MPa)を、右縦軸は発生蒸気量(t/h)を、それぞれ示している。また、太い実線(A)はヘッダ圧力値PVを、太い破線(B)は必要蒸気量(操作量)MVを、実線(C)は、要求蒸気量(蒸気負荷)を、破線(D)及び(E)は、それぞれ台数制御外ボイラ20Aの発生蒸気量及びボイラ群2の発生蒸気量を表している。なお、要求蒸気量(蒸気負荷)は、ボイラ群2の台数制御始動時は、2.2t/hで一定、台数制御始動時から270秒後に増加傾向に変化するものとする。
【0021】
図2に示すように、ボイラ群2の台数制御が始動されると、ヘッダ圧力値PV(実線A)(≒圧力値PLV)<目標圧力値PTVであるため、台数制御ボイラ群2のほうが優先して燃焼するように制御され、台数制御ボイラ群2においては、ヘッダ圧力値PVに基づいて算出される、蒸気使用設備の消費蒸気量(要求負荷)に応じて必要とされる蒸気量(操作量)MVが増加し続ける。
具体的には、算出された操作量MV(破線B)に合わせて、台数制御ボイラ群2を制御する台数制御装置3から台数制御ボイラ群2の複数ボイラ20に燃焼指令が出力されるが、例えばプレパージ経由による応答遅れ、及び缶内圧力上昇までの応答遅れ等により、
図2(破線E)に示すように、台数制御ボイラ群2の台数制御の始動から約170秒後の間は蒸気出力が行われない状態がある。
他方、ヘッダ圧力値PV(実線A)(実線A)<目標圧力値PTV(1.50MPa)の状態が継続するため、台数制御ボイラ群2の台数制御において算出される操作量MV(破線B)が増加し続けることとなり、例えば、操作量MV(破線B)が台数制御ボイラ群2の発生蒸気量の最大値である全制御ボイラ最大出力合計値(24/t)に約75秒後に到達し、その後、台数制御ボイラ群2のボイラ20が、例えば1台ずつ給蒸を開始すること(破線E)で、約170秒後以降に、ヘッダ圧力値PV(実線A)が圧力値PLVより上昇することとなる。その後、ヘッダ圧力値PV(実線A)の上昇に伴い、台数制御外ボイラ20Aの発生蒸気量が減少するとともに、操作量MV(破線B)が減少し始めることとなる。
しかしながら、操作量MV(破線B)は大きく減少するが、操作量MV(破線B)は依然として台数制御ボイラ群2の発生蒸気量(破線E)を大きく上回っていることから、発生蒸気量(破線E)はさらに増加し、ヘッダ圧力値PV(実線A)は上昇し続ける。
その後、約195秒後に操作量MV(破線B)が台数制御ボイラ群2の発生蒸気量(破線E)を下回ることで、発生蒸気量(破線E)は減少に転じるが、ヘッダ圧力値PV(実線A)は上昇し、オーバーシュートして、約200秒後に1.812MPaになることが表されている。
【0022】
このような課題を解決するために、台数制御外ボイラ20Aが、台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた場合であっても、ヘッダ圧力のオーバーシュートを抑止し、安定稼働することを可能とする台数制御装置3の備える機能について詳細に説明する。
【0023】
前述したように、台数制御装置3は、蒸気圧センサ7からの蒸気圧信号に基づいて、要求負荷に応じた各ボイラ20の燃焼状態を算出し、各ボイラ20(ローカル制御部22)に台数制御信号を送信する。この台数制御装置3は、
図1に示すように、記憶部5と制御部4とを備え、信号線16を介して各ボイラ20に電気的に接続されている。
【0024】
制御部4は、信号線16を介してボイラ20に各種の指示を送信したり、各ボイラ20から各種のデータを受信したりして、ボイラ20の燃焼状態及び運転台数の制御を実行する。各ボイラ20は、台数制御装置3から燃焼状態の変更指示の信号を受けると、その指示に従って該当するボイラ20の燃焼量を制御する。なお、制御部4は、信号線16を介してボイラ20の燃焼状態に関する情報を受信する。
制御部4の詳細な構成について説明する前に、記憶部5について説明する。
【0025】
記憶部5は、制御部4の制御により各ボイラ20に対して行われた指示の内容や、各ボイラ20から受信した燃焼状態等の情報、複数のボイラ20の優先順位の設定の情報、優先順位の変更(ローテーション)に関する設定の情報等を記憶する。こうすることで、記憶部5は、給蒸中ボイラ20により出力されている発生蒸気量の合計値を記憶部5に記憶することができる。
なお、給蒸中のボイラ20とは、実際に燃焼状態にあり、なおかつボイラ缶内圧力値がヘッダ圧力値PV相当であるボイラ20を指すものとする。より具体的には、例えば、ヘッダ圧力値PVとボイラ缶内圧力値との差が予め設定された圧力ズレ以下である場合に、当該ボイラ20が給蒸中であると判定する。また、ヘッダ圧力値PVとボイラ缶内圧力値との差が圧力ズレ以下となった後、所定時間(例えば、3秒)経過後に当該ボイラ20が給蒸中ボイラになったと判定してもよい。また、ヘッダ圧力値PVとボイラ缶内圧力との差から所定の裕度(例えば、0.01MPa~0.02MPa)を減じた値が圧力ズレ以下となった場合に、当該ボイラ20が給蒸中であると判定してもよい。
また、記憶部5には、蒸気圧センサ7により測定されるヘッダ圧力値PVに係る設定条件として予め設定される、台数制御ボイラ群2の燃焼制御に係る目標圧力値PTVを記憶するようにしてもよい。
【0026】
台数制御ボイラ群2の燃焼制御を実行する制御部4の詳細な構成について説明する。
図3は、台数制御装置3の制御部4の構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、制御部4は、検出部41と、必要蒸気量算出部42と、出力制御部43と、を含んで構成される。次に制御部4の各機能部について説明する。
【0027】
<検出部41>
検出部41は、前述したように、台数制御外ボイラ20Aが、台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた場合に、制御周期毎に、予め設定された所定の条件を満たすか否かを検出する。
ここで、所定の条件とは、(i)台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後に、ヘッダ圧力値PVが所定時間上昇し続けていること、(ii)必要蒸気量MVnが台数制御ボイラ群2の給蒸中のボイラ20による発生蒸気量の合計値(すなわち、蒸気の供給を行っている各ボイラ20の発生蒸気量の合計値)を上回っていること、及び(iii)ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったこと、の3つの条件を同時に満たすことを指す。なお、圧力値αは、目標圧力値PTVと圧力値PLVとの差分未満の値とする。また、条件(iii)として、「ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったこと」としたが、それに換えて「ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値以下の値から当該境界値を超える値となったこと」としてもよい。
【0028】
<必要蒸気量算出部42>
必要蒸気量算出部42は、制御周期毎にヘッダ圧力値PVと予め記憶部5に設定された台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVとの偏差(en=P1-PV)に対して、所定のPIアルゴリズム又はPIDアルゴリズムに基づき、ヘッダ圧力値PVが目標圧力値PTVとなるために必要な必要蒸気量MVnを算出する。ここで、添字nは、例えば台数制御開始時の初期値を1とし、制御周期毎に1を加算することで当該制御周期を識別するためのインデックス(自然数)であり、繰り返し演算の演算回数(n回目:n=1,2,…)を示す。
本発明の必要蒸気量算出部42においては、PID制御アルゴリズムとして、制御周期毎に前回から今回までの必要蒸気量変化分ΔMVnのみを計算し、これに前回必要蒸気量MVn-1を加算して、今回必要蒸気量MVnを計算する速度形演算を適用する。なお、速度形演算とは別に、制御周期毎に今回必要蒸気量MVnを直接計算する位置形演算があるが、本発明では採用しない。
より具体的には、必要蒸気量算出部42は、今回必要蒸気量MVnを次のように算出する。
【0029】
必要蒸気量算出部42は、台数制御ボイラ群2を構成する複数のボイラ20から発生させるべき現時点の必要蒸気量MVnを、下記の速度形演算式(式1)により算出する。
MVn=MVn-1+ΔMVn ・・・・・・・・(式1)
(式1)において、MVn:現時点の必要蒸気量(今回必要蒸気量)、MVn-1:前回の制御周期時点の必要蒸気量(前回必要蒸気量)、ΔMVn:前回から今回までの必要蒸気量変化分である。
【0030】
前回から今回までの必要蒸気量変化分ΔMVnは、下記の(式2)により算出される。
ΔMVn=ΔPn+ΔIn+ΔDn ・・・・・・(式2)
(式2)において、ΔPn:P制御出力(変化分)、ΔIn:I制御出力(変化分)、ΔDn:D制御出力(変化分)であり、それぞれ下記の(式3)~(式5)により求められる。
ΔPn=KP×(en-en-1) ・・・・・・・・・(式3)
ΔIn=KP×(Δt/TI)×en ・・・・・・・・・・・・(式4)
ΔDn=KP×(TD/Δt)×(en-2en-1+en-2) ・・(式5)
(式3)~(式5)において、Δt:制御周期、KP:比例ゲイン、TI:積分時間、TD:微分時間、en:現時点の偏差量、en-1:前回の制御周期時点の偏差量、en-2:前々回の制御周期時点の偏差量である。
現時点の偏差量enは、目標圧力値PTVと、蒸気圧センサ7で測定されたヘッダ圧力値PVnとの差であって、下記の(式6)により求められる。
en=PTV-PVn ・・・・・・・・・・・・・・・・(式6)
【0031】
必要蒸気量算出部42は、(式3)、(式4)、(式5)で算出された各出力(変化分)を、(式2)に従って合計することにより、前回から今回までの必要蒸気量変化分ΔMVnを算出する。
そして、必要蒸気量算出部42は、(式1)のように、前回必要蒸気量MVn-1に必要蒸気量変化分ΔMVnを加算して、今回必要蒸気量MVnを計算することができる。
【0032】
さらに、必要蒸気量算出部42は、検出部41により、前述した所定の条件、すなわち(i)台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後に、ヘッダ圧力値PVが所定時間上昇し続けていること、(ii)必要蒸気量MVnが台数制御ボイラ群2の給蒸中のボイラ20による発生蒸気量の合計値を上回っていること、及び(iii)ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったこと、の3つの条件を同時に満たすことが検出されると、現時点の必要蒸気量MVnを算出する処理において、現時点の必要蒸気量MVnとして、又は前回の必要蒸気量MVn-1として、ヘッダ圧力値PVが境界値より小さい値から境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された時点に、台数制御ボイラ群2の蒸気の供給を行っているすべてのボイラ20の発生蒸気量の合計値を設定する。
より具体的には、前述した3条件を満たした時点tnにおいて、必要蒸気量算出部42は、前回必要蒸気量MVn-1又は今回必要蒸気量MVnの値を実際の給蒸中ボイラにより出力されている発生蒸気量の合計値により置き換え、今回必要蒸気量MVnを算出する。
【0033】
<出力制御部43>
出力制御部43は、必要蒸気量算出部42が算出した今回必要蒸気量MVnに基づいてボイラ20の燃焼状態(燃焼量)を制御する。出力制御部43は、ボイラ群2から必要蒸気量分の蒸気が発生するように各ボイラ20の燃焼状態を制御する。
【0034】
出力制御部43は、必要蒸気量算出部42において、蒸気消費量(蒸気負荷)に応じて算出された必要蒸気量に基づいて、燃焼させるボイラ20の台数を設定する。出力制御部43は、記憶部5に記載されている優先順位に従って燃焼を開始又は停止するボイラ20を設定するとともに、それらボイラ20のローカル制御部22に対して、台数制御信号(運転の開始又は停止)を出力する。これにより、ボイラ群2から必要蒸気量分の蒸気が発生するように各ボイラ20の燃焼状態を制御することで、必要蒸気量に対応する発生蒸気量が蒸気ヘッダ6に供給される。
【0035】
本実施形態におけるボイラシステム1において、所定条件を満たすときに必要蒸気量を実際の給蒸中ボイラにより出力されている発生蒸気量の合計値により置き換える処理について、具体例を挙げて説明する。
図4は、
図2と同様に、圧力値PLVを1.30MPa、目標圧力値PTVを1.50MPaに設定し、さらに圧力値αを0.10MPaに設定し、台数制御外ボイラ20Aが台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後のヘッダ圧力値PVの変動を示すシミュレーション図である。
【0036】
図4を参照すると、条件(i)と条件(ii)を満たしている期間において、約180秒の手前において、ヘッダ圧力値PV(実線A)が、目標圧力値1.50MPaから予め設定された圧力値α(0.1MPa)を減じた値である境界値(1.40MPa)より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となり、条件(iii)を満たすことがわかる。
そうすると、約180秒の手前の時点(制御周期nとする)において、所定条件を満たすことが検出されることから、必要蒸気量算出部42は、前回必要蒸気量MV
n-1又は今回必要蒸気量MV
nの値を、実際の給蒸中ボイラにより出力されている発生蒸気量の合計値により置き換え、今回必要蒸気量MV
n(破線B)を算出することとなる。そうすると、
図4に示すとおり、約190秒後付近でヘッダ圧力値PV(実線A)が1.50MPaになり、その後、約220秒後過ぎからは、1.50MPaを維持していることがわかる。このように、ボイラシステム1は、
図4に示すように、約190秒後付近以降において、ヘッダ圧力値PV(実線A)がオーバーシュートすることなく、実際の発生蒸気量は、蒸気消費量(要求負荷)の変動に速やかに追従することになる。そして、ヘッダ圧力値PV(実線A)は、目標圧力値PTV(1.50MPa)の付近で収束する。
【0037】
次に、圧力値αを0.00MPa、0.05MPa、及び0.15MPaに設定した場合のシミュレーション結果について説明する。
図5、
図6、及び
図7はそれぞれ、圧力値αを0.00MPa、0.05MPa、及び0.15MPaに設定した場合のシミュレーションを示す。
【0038】
圧力値αを0.00MPaとしたときに、所定の条件を満たす時点を調べる。
図5を参照すると、条件(i)と条件(ii)を満たしている期間において、約185秒付近(制御周期nとする)で、条件(iii)を満たしていることがわかる。そうすると、この時点で必要蒸気量算出部42は、前回必要蒸気量MV
n-1又は今回必要蒸気量MV
nの値を、実際の給蒸中ボイラにより出力されている発生蒸気量の合計値により置き換え、今回必要蒸気量MV
n(破線B)を算出することとなる。そうすると、
図5に示すとおり、約195秒後付近でヘッダ圧力値PV(実線A)が1.627MPaになり、その後、約250秒後過ぎからは、1.50MPaを維持していることがわかる。
【0039】
次に、圧力値αを0.05MPaとしたときに、所定の条件を満たす時点を調べる。
図6を参照すると、条件(i)と条件(ii)を満たしている期間において、約180秒から2、3秒後付近(制御周期nとする)で、条件(iii)を満たしていることがわかる。そうすると、この時点で必要蒸気量算出部42は、前回必要蒸気量MV
n-1又は今回必要蒸気量MV
nの値を、実際の給蒸中ボイラにより出力されている発生蒸気量の合計値により置き換え、今回必要蒸気量MV
n(破線B)を算出することとなる。そうすると、
図6に示すとおり、約190秒を過ぎた付近でヘッダ圧力値PV(実線A)が1.584Paになり、その後、約240秒の手前辺りからは、1.50MPaを維持していることがわかる。
【0040】
次に、圧力値αを0.15MPaとしたときに、所定の条件を満たす時点を調べる。
図7を参照すると、条件(i)と条件(ii)を満たしている期間において、約180秒よりも5秒程度手前付近(制御周期nとする)で、条件(iii)を満たしていることがわかる。そうすると、この時点で必要蒸気量算出部42は、前回必要蒸気量MV
n-1又は今回必要蒸気量MV
nの値を、実際の給蒸中ボイラにより出力されている発生蒸気量の合計値により置き換え、今回必要蒸気量MV
n(破線B)を算出することとなる。
図7を参照すると、条件(i)と条件(ii)を満たしている期間において、約180秒から2、3秒後付近(制御周期nとする)で、条件(iii)を満たしていることがわかる。そうすると、
図7に示すとおり、ヘッダ圧力値PV(実線A)は、オーバーシュートすることなく、約240秒の辺りからは、1.50MPaを維持していることがわかる。
【0041】
以上のように、ボイラシステム1は、圧力値αを適切な値に設定することで、
図4及び
図7に示すように、ヘッダ圧力値PV(実線A)がオーバーシュートすることなく、実際の発生蒸気量は、蒸気消費量(要求負荷)の変動に速やかに追従することになる。そして、ヘッダ圧力値PV(実線A)は、目標圧力値PTVの付近で収束する。なお、
図4及び
図7を参照すると、ヘッダ圧力値PV(実線A)は、
図4の示すシミュレーションの方が、より早く目標圧力値PTVに達していることがわかる。このことから、圧力値αとしては、例えば0.1MPaが適切な値であるといえる。
【0042】
次に、第1実施形態のボイラシステム1の動作について、
図8を参照して説明する。
図8は、ボイラシステム1において、台数制御外ボイラ20Aが稼働中であって、ヘッダ圧力値が圧力値PLV近辺を維持している場合に、ヘッダ圧力値が目標圧力値PTVを保つように台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後の制御部4の制御を示すフローチャートである。
【0043】
前述したように、制御部4は、信号線16を介して台数制御ボイラ群2に含まれる各ボイラ20のローカル制御部22から、各ボイラ20から取得された、給蒸中ボイラ20により実際に出力される発生蒸気量の合計値を記憶部5に記憶するように構成されている。
【0044】
台数制御ボイラ群2におけるフィードバック制御の流れは、次のとおりである。
ステップST1において、必要蒸気量算出部42は、制御周期n毎に、蒸気圧センサ7から送信された蒸気圧信号に基づいて、ヘッダ圧力値PVnを取得する。
【0045】
ステップST2において、必要蒸気量算出部42は、式(1)~式(6)に基づいて、制御周期nにおける必要蒸気量変化分(ΔMVn)を算出する。
【0046】
ステップST3において、必要蒸気量算出部42は、記憶部5に記憶された給蒸中のすべてのボイラ20により出力されている発生蒸気量を取得する。
【0047】
ステップST4において、検出部41は、前述した3つの条件(i)台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後に、ヘッダ圧力値PVが所定時間上昇し続けていること、(ii)必要蒸気量MVnが台数制御ボイラ群2の給蒸中のボイラ20による発生蒸気量の合計値を上回っていること、及び(iii)ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったこと、を満たしているか否かを判定する。3つの条件(所定条件)を満たしている場合(Yes)、ステップST5に移る。満たしていない場合(No)、ステップST6に移る。
【0048】
ステップST5において、必要蒸気量算出部42は、今回の必要蒸気量MVnとして、ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となった時点に燃焼している、すべての給蒸中ボイラによる発生蒸気量の合計値を設定する。
その後、ステップST7に移る。
【0049】
ステップST6において、必要蒸気量算出部42は、制御周期nにおける必要蒸気量MVnを算出する。
【0050】
ステップST7において、必要蒸気量算出部42は、今回必要蒸気量MVnを出力制御部43に出力する。
【0051】
ステップST8において、出力制御部43は、必要蒸気量算出部42が算出した今回必要蒸気量MVnに基づいてボイラ20の燃焼状態(燃焼量)を制御する。出力制御部43は、ボイラ群2から必要蒸気量分の蒸気が発生するように各ボイラ20の燃焼状態を制御する。
その後、ステップST1に戻る。
【0052】
なお、
図8に示した、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後の制御部4の制御を示すフローチャートのステップST5においては、必要蒸気量算出部42は、今回の必要蒸気量MV
nとして、ヘッダ圧力値PVが目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となった時点に燃焼しているすべての給蒸中ボイラによる発生蒸気量の合計値を設定したが、これに限られない。例えば、ステップST5において、必要蒸気量算出部42は、前回の必要蒸気量MV
n-1として、ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となった時点に燃焼しているすべての給蒸中ボイラによる発生蒸気量の合計値を設定して、制御周期毎の必要蒸気量変化分ΔMV
nを加算することで、今回の必要蒸気量MV
nを算出するようにしてもよい。
【0053】
以上、第1実施形態に係るボイラシステム1において、台数制御外ボイラ20Aが、缶内圧力値PVAを台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群を、ヘッダ圧力値が目標圧力値を維持する台数制御を行うように始動させた場合に、ヘッダ圧力のオーバーシュートを抑止し、安定稼働することができる。
【0054】
以上説明した第1実施形態のボイラシステム1によれば、以下のような効果を奏する。
【0055】
上述した第1実施形態に係るボイラシステム1においては、台数制御外ボイラ20Aの稼働中の缶体内の圧力値である缶内圧力値が台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持している状態で、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた場合、(i)ヘッダ圧力値が所定時間上昇し続けるとともに、(ii)必要蒸気量MVnが台数制御ボイラ群2の蒸気の供給を行っているすべてのボイラ20の発生蒸気量の合計値を上回っているときに、(iii)ヘッダ圧力値が、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったか否かを検出し、ヘッダ圧力値が、当該境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された場合、必要蒸気量算出部42は、現時点の必要蒸気量MVnを算出する処理において、現時点の必要蒸気量MVnとして、又は前回の必要蒸気量MVn-1として、ヘッダ圧力値が当該境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったと検出された時点に、台数制御ボイラ群2の蒸気の供給を行っているすべてのボイラ20の発生蒸気量の合計値を設定する。
これにより、台数制御外ボイラ2Aが台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた場合に、ヘッダ圧力のオーバーシュートを抑止し、安定稼働させることができる。その結果、ボイラシステム1の圧力安定性を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明に係るボイラシステムの好ましい一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0057】
上述した第1実施形態では、1台の台数制御外ボイラ20Aと、8台のボイラ20からなる台数制御ボイラ群2と、からなるボイラシステム1を例示したが、これに限られない。前述したように、台数制御ボイラ群の台数制御を始動させるときに、(i)台数制御ボイラ群に属さないボイラが蒸気供給を行っていること、及び(ii)ヘッダ圧力値が台数制御ボイラ群に設定されている目標圧力値よりも低い圧力を維持するように推移していることを満たすボイラであればよい。
前述したように、例えば、台数制御外ボイラ20Aは連続制御ボイラとして、ヘッダ圧力値が、台数制御ボイラ群2に設定されている目標圧力値よりも低い目標圧力値を維持するように独立して台数制御されるボイラ群を含むようにしてもよい。また、台数制御外ボイラ20Aは、ボイラ缶内圧力値が、台数制御ボイラ群に設定されている目標圧力値よりも低い目標圧力値を維持するようにローカル制御されるボイラでもよい。また、台数制御ボイラ群に属さないボイラとして、ヘッダ圧力値の最大設定圧力値が、台数制御ボイラ群2に設定されている目標圧力値よりも低い値で設定される制御圧力帯域に収まるよう制御されている段階値制御ボイラを含むようにしてもよい。また、台数制御ボイラ群に属さないボイラは複数のボイラ群から構成されるようにしてもよい。なお、台数制御ボイラ群2は、任意の台数のボイラとしてもよい。ボイラ容量(最小燃焼量、単位蒸気量、最大燃焼量等)が異なる場合でもよい。
【0058】
上述した第1実施形態では、検出部41が、目標圧力値PTVを圧力値PLVより高い値として、台数制御外ボイラ20Aが、台数制御ボイラ群2の目標圧力値PTVよりも低い圧力値PLVを維持するように推移しているときに、台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた場合に、制御周期毎に、予め設定された所定の条件を満たすか否かを検出する際の条件(iii)として、「ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値より小さい値から当該境界値を超えるか又はそれ以上の値となったこと」としたが、それに換えて「ヘッダ圧力値PVが、目標圧力値PTVから予め設定された圧力値αを減じた値である境界値以下の値から当該境界値を超える値となったこと」としてもよい。なお、αが、予め設定された第2の圧力値β以上の値であって、台数制御ボイラ群2が停止している段階で、ヘッダ圧力値PV < 境界値(PTV-α)である場合、(i)台数制御ボイラ群2の台数制御を始動させた後に、ヘッダ圧力値PVが所定時間上昇し続けていること、及び(ii)必要蒸気量MVnが台数制御ボイラ群2の給蒸中のボイラ20による発生蒸気量の合計値を上回っていることを共に満たした時点で前述した補正を実施するようにしてもよい。
【0059】
上述した第1実施形態では、制御部4における蒸気量の制御を行うに際して、その制御アルゴリズムとして、PID制御について主に説明し、PI制御についての詳細は省略したが、この点、制御部4が実行する蒸気量の制御は、PID制御に限らずPI制御であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ボイラシステム
11 蒸気管
12 蒸気管
13 信号線
20A 台数制御外ボイラ
21A ボイラ本体
22A ローカル制御部
23A ボイラ圧検出部
2 台数制御ボイラ群
20 ボイラ
21 ボイラ本体
22 ローカル制御部
3 台数制御装置
4 制御部
41 検出部
42 必要蒸気量算出部
43 出力制御部
5 記憶部
6 蒸気ヘッダ
7 蒸気圧センサ
16 信号線
18 蒸気使用設備