(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】電気化学セル及び光合成装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240903BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240903BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240903BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20240903BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B1/04
C25B3/26
C25B9/00 A
C25B9/60
(21)【出願番号】P 2021064292
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021014471
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-032745(JP,A)
【文献】特開平11-050287(JP,A)
【文献】特開2018-009879(JP,A)
【文献】特開2017-203206(JP,A)
【文献】特開2010-133007(JP,A)
【文献】特開2003-268581(JP,A)
【文献】特開2019-189929(JP,A)
【文献】中国実用新案第211497804(CN,U)
【文献】中国実用新案第209276646(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0105307(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111304672(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 3/26
C25B 9/60
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極対間に電圧を印加して水及び二酸化炭素を供給することで、水を酸化する反応及び二酸化炭素を還元する反応を生じさせる電気化学セルであって、
金属製の金属筐体
であって、前記金属筐体の内側面に絶縁性のライニングが施されている金属筐体と、
前記金属筐体内において互いに対向して設置された、酸化触媒機能を持つ部材を含む板状の酸化電極及び還元触媒機能を持つ部材を含む板状の還元電極と、
前記酸化電極と前記還元電極との間に充填された電解液と、
前記金属筐体に設けられたボルト穴に前記金属筐体の内側から挿通されるボルトによって前記金属筐体に
固定された光学窓であって、前記酸化電極と前記還元電極との対向部分から、前記酸化電極又は前記還元電極の延伸方向と平行な方向に設けられた透明の光学窓と、
前記金属筐体の内側面と前記ボルトの頭部との間に設けられたワッシャと、
前記金属筐体の内側面と前記ワッシャとの間に設けられた第1ボルト穴用シール部材と、
前記ワッシャと前記ボルトの頭部との間に設けられた第2ボルト穴用シール部材と、
を備えることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記金属筐体の外側面に、前記光学窓の縁部を覆うように取り付けられたカバー部材と、
をさらに備えることを特徴とする請求項
1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記金属筐体の外側面と前記光学窓との間に設けられた光学窓用シール部材と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1
又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記光学窓は、ガラス製、樹脂製、又は石英製である、
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記金属筐体内に、前記酸化電極と前記還元電極との組が、その対向面が平行となるように複数並べられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の電気化学セルと、
前記酸化電極と前記還元電極との間に接続された太陽電池と、
を備え、
前記太陽電池によって、前記酸化電極と前記還元電極との間に電圧が印加される、
ことを特徴とする光合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル及び光合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筐体と、当該筐体の内部に配置される電極対と、電極対間に充填されるように筐体内に入れられた電解液とを含む電気化学セルが知られている。このような電気化学セルは、電極対間に電圧を印加することで電気化学反応を生じさせるものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、酸化反応用電極、還元反応用電極、酸化反応用電極と還元反応用電極との間に充填された電解液、及び、酸化反応用電極、還元反応用電極とを対向した姿勢で支持する枠材を含む電気化学セルが開示されている。また、特許文献2には、電極、電極に対向して配置されたリング状の対極、及び、電極と対極との間に充填された電解液を含む電気化学セルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-189929号公報
【文献】特開2018-9879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電気化学セルの筐体として金属筐体を用いることが考えられる。例えば、電気化学セルを屋外で使用することを考えた場合、電気化学セルの筐体の対候性(気候の変化への耐性を意味し、例えば、太陽光、紫外線、温度の変化などの影響によって変形、変色、劣化などの変質の起こしにくさを表すもの)が問題となり得るところ、筐体の対候性を向上させるべく、筐体を金属製の金属筐体とすることが考えられる。なお、特許文献1には、電気化学セルの対候性に関する言及はないが、枠体を金属製としてもよいとの記載がある。
【0006】
一方、電気化学セルの筐体内の様子(例えば電気化学反応の様子)を筐体の外から視認したいという要求がある。筐体が樹脂製である場合には、筐体を透明な樹脂材で形成することにより、筐体の外から内部を視認することができる。しかしながら、筐体を金属筐体とした場合、筐体の外から内部を視認することができなくなる。
【0007】
そこで、金属筐体に内部を視認するための光学窓を設けることが考えられる。特許文献2には、電気化学セルの筐体に観察窓(光学窓)を設けることが示されている。特に、特許文献2における光学窓は、電極から対極を介した先(電極と対極とを結ぶ延長線上)にあり、リング状の対極を通して電極の表面を観察するものとなっている。
【0008】
ここで、特許文献2に係る電気化学セルとは異なり、電極対が板状である場合、特に、電極対の対向部分を、その側方から、すなわち電極の延伸方向と平行な方向から視認できるのが望まれる。電極対が板状である場合、電極の延伸方向と垂直な方向から筐体内を視認した場合、電極対のうちの一方のみしか視認できない。これにより、電極対の対向部分が良く見えず、例えば、電極対間における電気化学反応が好適に視認できないなどの問題が生じ得る。
【0009】
本発明の目的は、金属製の筐体を有する電気化学セルにおいて、板状の酸化電極と板状の還元電極の対向部分を好適に視認可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電極対間に電圧を印加して水及び二酸化炭素を供給することで、水を酸化する反応及び二酸化炭素を還元する反応を生じさせる電気化学セルであって、金属製の金属筐体であって、前記金属筐体の内側面に絶縁性のライニングが施されている金属筐体と、前記金属筐体内において互いに対向して設置された、酸化触媒機能を持つ部材を含む板状の酸化電極及び還元触媒機能を持つ部材を含む板状の還元電極と、前記酸化電極と前記還元電極との間に充填された電解液と、前記金属筐体に設けられたボルト穴に前記金属筐体の内側から挿通されるボルトによって前記金属筐体に固定された光学窓であって、前記酸化電極と前記還元電極との対向部分から、前記酸化電極又は前記還元電極の延伸方向と平行な方向に設けられた透明の光学窓と、前記金属筐体の内側面と前記ボルトの頭部との間に設けられたワッシャと、前記金属筐体の内側面と前記ワッシャとの間に設けられた第1ボルト穴用シール部材と、前記ワッシャと前記ボルトの頭部との間に設けられた第2ボルト穴用シール部材と、を備えることを特徴とする電気化学セルである。
【0012】
望ましくは、前記金属筐体の外側面に、前記光学窓の縁部を覆うように取り付けられたカバー部材と、をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
望ましくは、前記金属筐体の外側面と前記光学窓との間に設けられた光学窓用シール部材と、をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
望ましくは、前記光学窓は、ガラス製、樹脂製、又は石英製である、ことを特徴とする。
【0016】
望ましくは、前記金属筐体内に、前記酸化電極と前記還元電極との組が、その対向面が平行となるように複数並べられている、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の電気化学セルと、前記酸化電極と前記還元電極との間に接続された太陽電池と、を備え、前記太陽電池によって、前記酸化電極と前記還元電極との間に電圧が印加される、ことを特徴とする光合成装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属製の筐体を有する電気化学セルにおいて、板状の酸化電極と板状の還元電極の対向部分を好適に視認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る大型光合成装置の分解斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る大型光合成装置の断面図である。
【
図3】本実施形態に係る電気化学セルの上部側面図である。
【
図5】電気化学反応が起きていないときの、光学窓から見える筐体内部の様子を示す図である。
【
図6】電気化学反応が起きているときの、光学窓から見える筐体内部の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施形態に係る大型光合成装置1の分解斜視図である。また、
図2は、大型光合成装置1のYZ断面図である。大型光合成装置1は、電気化学セル10と、太陽電池24とを含んで構成されている。本明細書の図面において、大型光合成装置1の横幅方向をX軸とし、奥行方向をY軸とし、高さ方向をZ軸としている。なお、X軸の正側を左側と、X軸の負側を右側と、Y軸の正側を後側と、Y軸の負側を前側と、Z軸の正側を上側と、Z軸の負側を下側とそれぞれ呼ぶ場合がある。電気化学セル10は、中空であって内部空間が密閉された筐体12、筐体12内に配置された、酸化触媒機能を持つ部材を含む酸化電極14及び還元触媒機能を持つ部材を含む還元電極16、並びに、筐体12内、特に、酸化電極14と還元電極16との間に充填された電解液18(
図2参照)を含んで構成されている。
【0021】
電気化学セル10は、酸化電極14と還元電極16との間に電圧を印加し、それにより酸化電極14と還元電極16との間で電解液18を介した電気化学反応を生じさせて所定の物質を生じさせるものである。本実施形態では、酸化電極14は、酸化触媒機能を持つ部材としてIrOxナノコロイドが表面に担持されたTi(チタン)基板であり、還元電極16は、還元触媒機能を持つ部材としてRu錯体ポリマー(RuCP)と炭素担体が表面に担持されたTi基板であり、電解液18は、二酸化炭素を溶解したリン酸カリウム緩衝水溶液である。これにより、電気化学セル10における電気化学反応により、水が酸化されると共に、二酸化炭素が還元されてギ酸が生成される。なお、酸化電極14、還元電極16、及び電解液18は上記の物には限られない。例えば、酸化電極14及び還元電極16用の基板は、Ti基板の他、Agなどの金属導電線を有する透明導電膜付きガラス基板(例えば、フッ素ドープSnO2膜(FTO)基板)でもよい。Agの導電線には、ガラス、樹脂の保護層が形成されていてもよい。
【0022】
酸化電極14及び還元電極16は板状の部材であり、互いに対向して配置される。本実施形態では、酸化電極14及び還元電極16は、その延伸方向がXZ平面と平行な向きで筐体12内に配置される。本実施形態の酸化電極14及び還元電極16は、サイズが大きい大型の電極となっている。具体的には、酸化電極14及び還元電極16は、1m(メートル)×1m程度のサイズとなっている。
【0023】
また、本実施形態においては、筐体12内に、酸化電極14と還元電極16との組が複数並べられている。詳しくは、筐体12内において、酸化電極14と還元電極16との組が、その対向面が平行となるように複数並べられている。具体的には、
図2に示すように、XZ面に平行に立設された複数の酸化電極14と複数の還元電極16が、互い違いになるようにY軸方向に並べられている。対向面がXZ面に平行となる酸化電極14と還元電極16との組が、Y軸方向に複数並べられることとなる。なお、この場合、酸化電極14と還元電極16の基板の両面に酸化又は還元触媒機能を持つ部材が担持されている。
【0024】
本実施形態に係る大型光合成装置1は、太陽電池24を含んで構成されている。太陽電池24は、筐体12の一面(詳しくは後述する筐体12の蓋部22)の外側面(前側面)に取り付けられる。
図2に示すように、太陽電池24は、酸化電極14と還元電極16との間に接続され、太陽電池24が光照射されることにより発生した電圧が酸化電極14及び還元電極16に印加される。このように、本実施形態に係る大型光合成装置1は、太陽光により電気化学反応を生じさせて所定の物質を生じさせるものである。なお、
図2における、太陽電池24から酸化電極14までの配線(実線)及び太陽電池24から還元電極16までの配線(一点鎖線)は、配線の概念を示したものであり、実際にこのような線材の引き回しがされるものではない。
【0025】
筐体12は、略直方体すなわち箱型の形状を呈しており、その内部に酸化電極14、還元電極16、及び電解液18を入れるための空間が設けられている。上述のように、本実施形態では、筐体12は、大型の酸化電極14及び還元電極16を複数収容する必要があるため、必然的にそのサイズが大きくなっている。筐体12の幅(左右方向の長さ)及び高さは少なくとも1m以上となっている。したがって、本実施形態に係る電気化学セル10は、従来の電気化学セルよりもかなりサイズが大きい大型電気化学セルであると言える。
【0026】
本実施形態における筐体12は、開口20aを有する容器部20と、開口20aを塞ぐ蓋部22とを含んで構成されている。容器部20に蓋部22が取り付けられることで、内部空間が密閉された筐体12が形成される。具体的には、容器部20は、XZ面に広がる後壁20bと、後壁20bの各辺から前側に立設する複数の側壁20cと、開口20aを取り囲むように側壁20cよりも外側に広がるフランジ部20dとを含んで構成される。開口20aは前方に開口している。また、フランジ部20dには周方向に沿って並ぶ複数のボルト穴30が設けられている。また、蓋部22にも、その外縁部に沿って並ぶ複数のボルト穴32が設けられている。ボルト穴30と32を位置合わせするように、容器部20(詳しくはフランジ部20d)に蓋部22を接触させ、ボルト穴30及び32にボルト34(
図2参照)が挿通されることで、容器部20と蓋部22が密着され、筐体12が形成される。なお、後述のシール部材36を設けない場合には、ボルト34、ボルト穴30,32、及びフランジ部20dの周方向に沿った溝を設けないことがある。この場合、容器部20と蓋部22を接着又は溶接などによって密着させることで、筐体12の気密性を確保する。
【0027】
本実施形態では、容器部20と蓋部22との間の気密性を向上させるべく、容器部20のフランジ部20dに、弾性力のある樹脂又はゴムで形成されたシール部材36が設けられている。具体的には、フランジ部20dの前側面に、周方向に沿った溝が形成されており、当該溝にシール部材36が半埋め込み状態で配置される。これにより、容器部20(フランジ部20d)と蓋部22が密着されたときに、シール部材36が、フランジ部20dと蓋部22との間に位置して両者間の隙間を塞ぐことで、容器部20と蓋部22との間の気密性、すなわち筐体12の気密性が向上される。
【0028】
容器部20の下側の側壁20cには、電解液供給口38が設けられている。電解液供給口38から電解液18が筐体12内に供給される。また、容器部20の後壁20bの上部には、電解液排出口40が設けられる。電気化学反応により生成したギ酸を含む電解液18が電解液排出口40から排出される。排出された電解液18は、タンクなどに回収される。
【0029】
本実施形態では、筐体12には、筐体12の内圧に対する剛性を向上させるための補強構造が設けられている。なお、筐体12内からの内圧には、筐体12に対して内側から外側への力を加える正の内圧(例えば電解液18やガスなどによる内圧)、及び、筐体12に対して外側から内側への力(内側へ引き込む力)を加える負の内圧(ガス抜き処理などの際に加わる内圧)がある。正の内圧は陽圧と、負の内圧は陰圧と呼ばれる場合もある。本実施形態では、補強構造として、筐体12の外側面に沿って材軸方向に長い構造部材42,44が、筐体12の外側面に設けられている。構造部材42,44は、剛性の高い材質で形成されるとよく、本実施形態では金属で形成される。構造部材42,44は、溶接によって筐体12に取り付けられる。筐体12に構造部材42,44を取り付けることで、筐体12の、構造部材42,44の材軸方向における曲げ剛性が向上される。なお、筐体12の容器部20に構造部材42が設けられ、蓋部22に構造部材44が設けられている。
【0030】
筐体12は、金属製の金属筐体である。筐体12を金属製とすることで、少なくとも筐体12が樹脂製である場合に比して、その対候性が向上される。これにより、電気化学セル10を屋外で使用することも可能となる。なお、筐体12は金属製であるがゆえに透明ではない。
【0031】
金属製の筐体12(の内側面)と酸化電極14又は還元電極16との間に電解液18が充填されていることから、筐体12と酸化電極14又は還元電極16との間で、意図しない電気化学反応(副反応)が生じてしまうおそれがある。また、筐体12が例えば鉄製である場合などにおいては、腐食性のある電解液18や、電気化学反応により生成された液体生成物が筐体12に触れることで、筐体12が腐食してしまうおそれがある。
【0032】
このことに鑑み、本実施形態では、金属製の筐体12の内側面に対して、当該内側面を絶縁性の物質で覆うライニング処理が施してある。
図2に示すように、筐体12の容器部20の後壁20b及び側壁20cの内側面にライニング処理が施され、ライニング層50が形成されている。また、蓋部22の内側面にもライニング処理が施され、ライニング層52が形成されている。ライニング層50を形成する絶縁性の物質は例えば樹脂(例えばフッ素系樹脂)である。具体的には、ライニング層50を形成する物質として、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、あるいは、PE(ポリエチレン)を用いることができる。ライニング層50及び52により、筐体12と電解液18との間の絶縁が確保され、筐体12と酸化電極14又は還元電極16との間における電気化学反応を抑制することができる。また、ライニング層50及び52により、電解液18が直接筐体12に触れることがないから、筐体12の腐食を抑制することができる。
【0033】
筐体12は金属筐体であり不透明であるから、外部から筐体12を介してその内部を視認することができない。したがって、筐体12には、筐体12の外部から内部を視認するために、透明の光学窓(
図1及び
図2においては不図示)が取り付けられる。特に、筐体12に対向配置された酸化電極14と還元電極16との対向部分が好適に視認可能なように、光学窓は、酸化電極14と還元電極16との対向部分から、酸化電極14又は還元電極16の延伸方向と平行な方向に設けられる。
【0034】
筐体12には、光学窓を取り付けるための窓用穴60、及び、窓用穴60の近傍に設けられる複数のボルト穴62が設けられる。本実施形態では、窓用穴60は円形であり、複数のボルト穴62は、窓用穴60の外周に沿って並んで設けられている。後述するように、光学窓は窓用穴60に取り付けられた上で、ボルト穴62に挿通されるボルトによって固定される。
【0035】
上述の通り、光学窓は、酸化電極14と還元電極16との対向部分から、酸化電極14又は還元電極16の延伸方向と平行な方向に設けられるところ、酸化電極14及び還元電極16はXZ面に平行な方向に延伸しているから、光学窓は、筐体12の左右側面又は上下側面に設けられることとなる。本実施形態では、光学窓は、容器部20の左右の側壁20cの上部にそれぞれ設けられる。したがって、容器部20の左右の側壁20cの上部にそれぞれ、窓用穴60及び複数のボルト穴62が設けられている。なお、光学窓(すなわち窓用穴60及び複数のボルト穴62)は、左右の側壁20cのいずれかのみに設けられてもよいし、上下の側壁20cに設けられてもよい。
【0036】
図3は、電気化学セル10の上部側面図(右から見た図)であり、
図4は、光学窓70及びその周辺部の断面図である。なお、
図4において、光学窓70の右側が筐体12の内部であり、光学窓70の左側が筐体12の外部である。なお、以下の説明において内側とは筐体12の内部側を意味し、外側とは筐体12の外部側を意味する。
【0037】
光学窓70は、平面視で略円形であり、上述のように透明の部材である。光学窓70は、例えば、ガラス製、樹脂製(例えばポリカーボネートなど)、又は石英製である。なお、石英は透明度が高く光学窓70の材質に適しているが高価である。樹脂やガラスは石英に比して透明度が低いが廉価であるという特徴がある。
【0038】
図4に示すように、光学窓70は、取付状態において内側に位置する内側部分70aの径が、取付状態において内側部分70aよりも外側に位置する中央部分70bの径よりも小さくなっている。窓用穴60の径と、内側部分70aとの径が略同一となっており、内側部分70aが窓用穴60に丁度嵌合するようになっている。内側部分70aが窓用穴60に嵌合した状態において、中央部分70bの外縁(内側部分70aよりも側方(
図4では上下方向)に突出した部分)の内側面が側壁20cに当接することで、光学窓70の内側への移動が規制される。
【0039】
側壁20cの外側面には、光学窓70の縁部を覆うカバー部材72が設けられる。
図3及び
図4に示される通り、カバー部材72は全体として略円筒の形状を呈しており、樹脂などで形成される部材である。カバー部材72は、取付状態における外側端部において、円筒形状の中心軸側に突出したフランジ部72aを有している。光学窓70は、取付状態において中央部分70bよりも外側に位置する外側部分70cの径が、中央部分70bの径よりも小さくなっており、カバー部材72のフランジ部72aの内側面が、光学窓70の中央部分70bの外縁(外側部分70cよりも側方に突出した部分)の外側面に当接するようにカバー部材72が取り付けられることで、カバー部材72が光学窓70の縁部を覆う形となる。
【0040】
カバー部材72には、円周方向に沿って複数のボルト穴72bが設けられている。複数のボルト穴72bと、側壁20cに設けられた複数のボルト穴62とを位置合わせした上で、ボルト74が側壁20cの内側から各ボルト穴62,72bに挿通される。各ボルト74に外側からナット76を挿通させて締めることで、側壁20cにカバー部材72が固定される。上述のように、カバー部材72は光学窓70の縁部を覆っているから、ボルト74及びナット76にて側壁20cにカバー部材72が固定されることで、光学窓70(の中央部分70bの外縁)が側壁20cに押し付けられて、側壁20cと光学窓70とが密着する。これにより、側壁20cと光学窓70の隙間が無くなり、筐体12の内部空間の気密性が担保される。
【0041】
ここで、筐体12の外側面と光学窓70との間に、光学窓用シール部材77が設けられてもよい。例えば、
図4に示されるように、側壁20cの外側面と、光学窓70の中央部分70bの外縁の内側面との間に光学窓用シール部材77が設けられてもよい。光学窓用シール部材77は、例えば樹脂製のパッキン、Oリング、あるいはガスケットなどであってよい。光学窓用シール部材77は、側壁20cと光学窓70との間の隙間を埋める役割を果たす。これにより、光学窓用シール部材77により筐体12の内部空間の気密性がより担保される。
【0042】
側壁20cの内側面と、ボルト74の頭部74aとの間には、ボルト穴用シール部材78が設けられる。ボルト穴用シール部材78は、側壁20cに設けられたボルト穴62とボルト74との間を塞ぐことで、筐体12の内部空間の気密性を担保するものである。特に、ボルト穴62が形成されることで、側壁20cの内側面のボルト穴62付近がわずかに(内側から見て)凹んでいる場合がある。また、側壁20cの内側面には、ライニング層50が形成されているところ、ライニング層50(の内側面)には微視的に凹凸が形成されている場合もある。側壁20cに凹みがあったり、ライニング層50に凹凸がある場合、ボルト穴62とボルト74との間に隙間ができて、筐体12の内部空間の気密性が低下するおそれがある。ボルト穴用シール部材78を用いることで、側壁20cの凹みや、ライニング層50に凹凸が形成されている場合であっても、ボルト穴用シール部材78がそれらの影響を吸収し、筐体12の内部空間の気密性が担保される。
【0043】
具体的には、ボルト穴用シール部材78は、中央に穴が開いた円形部材であり、シリコンなどの弾性力のある樹脂で形成される。ボルト穴用シール部材78は、側壁20cの内側に配置され、ボルト穴用シール部材78の穴にボルト74が挿通される。これにより、ボルト穴用シール部材78は、側壁20cの内側において、ボルト穴62を塞ぐようにボルト74により固定される。
【0044】
なお、本実施形態では、側壁20cとボルト74の頭部74aとの間に丸形ワッシャ80が挿入されている。したがって、ボルト穴用シール部材78は、側壁20cと丸形ワッシャ80との間に第1ボルト穴用シール部材78aが設けられると共に、丸形ワッシャ80と頭部74aとの間に第2ボルト穴用シール部材78bが設けられている。
【0045】
以上説明した通り、本実施形態に係る電気化学セル10においては、金属製の筐体12の左右の側壁20cの上部、すなわち、酸化電極14と還元電極16との対向部分から、酸化電極14又は還元電極16の延伸方向と平行な方向に、光学窓70が設けられる。これにより、筐体12の外部から光学窓70を通して筐体12の内部を視認することができる。特に、酸化電極14と還元電極16との対向部分を好適に視認することができる。
【0046】
図5は、電気化学反応が起きていないときの、光学窓70から見える筐体12の内部の様子を示す図であり、
図6は、電気化学反応が起きているときの、光学窓70から見える筐体12の内部の様子を示す図である。
【0047】
図5に示される通り、酸化電極14と還元電極16との対向部分が光学窓70から良く見えることが分かる。特に、本実施形態のように、複数の酸化電極14と複数の還元電極16が一列に並んでいる場合、各酸化電極14と各還元電極16との間の複数の対向部分が光学窓70から好適に視認できる。また、
図6に示されるように、電気化学反応が起きたときには、電解液18に泡が混じり、電気化学反応によりガス(例えば酸素など)が生じていることが好適に視認できる。また、電解液18の流れも視認可能である。
【0048】
光学窓70により、筐体12内における電気化学反応の様子や、電解液18の流れの様子が観察可能となることで、センサによる電気化学反応に関する異常の検出に先立って、目視により、筐体12の内部の異変(例えば、電解液18中の析出に伴う圧力損失の増加など)を迅速に検知することも可能となる。例えば、目視により、筐体12の内部の異変を検知できれば、電解液18用のフィルタの交換などの処置を行うことで、電気化学セル10に致命的な性能劣化が生じる前に対処することができる。また、工場排ガスなどに電気化学セル10を適用した場合、電解液18中に混入した、二酸化炭素以外のSOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)による副反応も懸念される。副反応で生成された堆積物の発生に伴う性能劣化の前に、光学窓70から筐体12の内部を目視で確認し、電解液18の交換やフィルタ交換を行うことで、性能を維持することも可能となる。
【0049】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 大型光合成装置、10 電気化学セル、12 筐体、14 酸化電極、16 還元電極、18 電解液、20 容器部、20a 開口、20b 後壁、20c 側壁、20d,72a フランジ部、22 蓋部、24 太陽電池、30,32 ボルト穴、34,74 ボルト、36 シール部材、38 電解液供給口、40 電解液排出口、42,44 構造部材、50,52 ライニング層、60 窓用穴、62 ボルト穴、70 光学窓、70a 内側部分、70b 中央部分、70c 外側部分、72 カバー部材、74a 頭部、76 ナット、77 光学窓用シール部材、78 ボルト穴用シール部材、78a 第1ボルト穴用シール部材、78b 第2ボルト穴用シール部材、80 丸形ワッシャ。