(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】磁石温度推定装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/66 20160101AFI20240903BHJP
H02K 11/25 20160101ALI20240903BHJP
【FI】
H02P29/66
H02K11/25
(21)【出願番号】P 2021073977
(22)【出願日】2021-04-26
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】永野 知哉
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-114167(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145267(WO,A1)
【文献】特開2019-185580(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170747(WO,A1)
【文献】特開2019-155573(JP,A)
【文献】特開昭61-018830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/66
H02K 11/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定時間毎に測定された、
ステータコイル温度と、モータ回転数と、オイル温度と、オイルポンプ回転数を含むパラメータを取得するパラメータ取得部と、
該パラメータの一定区間毎の移動平均値を算出する算出部と、
該パラメータの移動平均値が入力された場合に該モータのロータに取り付けられた磁石の温度を出力するように学習された学習モデルに、該算出部により算出された移動平均値を入力し、該学習モデルから出力された磁石温度の推定値を取得する温度取得部と、
該温度取得部が取得した磁石温度の推定値を出力する出力部とを有
し、
該学習モデルが、一次元畳み込みニューラルネットワークからなり、ステータコイル温度と、モータ回転数と、オイル温度と、オイルポンプ回転数の各移動平均値に対して、これらパラメータの数と同数のサイズのフィルタを少しずつ移動させながら該フィルタによる畳み込み処理を行うことにより各パラメータの値とフィルタの値との積和からなる出力値が求められ、該出力値を用いて一次元畳み込みニューラルネットワークの学習が行われる磁石温度推定装置。
【請求項2】
該パラメータは、ステータコイル温度と、モータ回転数と、オイル温度と、オイルポンプ回転数に加え、モータトルクと、モータ電流と、インバータ周波数とを含む請求項1に記載の磁石温度推定装置。
【請求項3】
該算出部は、該移動平均値として、指数平滑移動平均値を算出する請求項1に記載の磁石温度推定装置。
【請求項4】
該温度取得部による磁石温度の推定値の取得間隔を車両の駆動負荷に応じて変化させ、車両の駆動負荷が低いときの磁石温度の推定値の取得間隔を車両の駆動負荷が高いときの磁石温度の推定値の取得間隔よりも長くした請求項1に記載の磁石温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁石温度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を備えたロータとステータからなる回転型電動モータにおいて、永久磁石の温度が高くなると永久磁石の磁力が低下するために、電動モータは予定されている出力を出せなくなる。従って、永久磁石の温度を検出する必要が生ずる。しかしながら、市販車両において、ロータに取り付けられた永久磁石の温度を検出することは難しい。そこで、ロータに取り付けられた永久磁石の温度を推定するようにした磁石温度推定装置が公知である(例えば特許文献1を参照)。この磁石温度推定装置では、概略的に言うと、ロータ外周面と電動モータの周囲を流れるオイルの温度との温度差に基づき算出されたロータからオイルへの単位時間当たりの放熱量と、オイルの温度上昇量に基づき算出されたロータからオイルへの単位時間当たりの放熱量との差からロータの単位時間当たりの温度上昇量を算出し、算出されたロータの単位時間当たりの温度上昇量を積算することによりロータの温度、即ち、磁石の温度を推定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように算出されたロータの単位時間当たりの温度上昇量を積算することにより磁石の温度を推定すると、単位時間当たりの温度上昇量を積算している間に誤差が蓄積し、磁石温度の推定値が実際の磁石温度から大きく乖離する場合が多いという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明によれば、一定時間毎に測定された、ステータコイル温度と、モータ回転数と、オイル温度と、オイルポンプ回転数を含むパラメータを取得するパラメータ取得部と、
パラメータの一定区間毎の移動平均値を算出する算出部と、
パラメータの移動平均値が入力された場合にモータのロータに取り付けられた磁石の温度を出力するように学習された学習モデルに、算出部により算出された移動平均値を入力し、学習モデルから出力された磁石温度の推定値を取得する温度取得部と、
温度取得部が取得した磁石温度の推定値を出力する出力部とを有し、
学習モデルが、一次元畳み込みニューラルネットワークからなり、ステータコイル温度と、モータ回転数と、オイル温度と、オイルポンプ回転数の各移動平均値に対して、これらパラメータの数と同数のサイズのフィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込み処理を行うことにより各パラメータの値とフィルタの値との積和からなる出力値が求められ、この出力値を用いて一次元畳み込みニューラルネットワークの学習が行われる磁石温度推定装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
磁石温度を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図2は、磁石温度の推定方法を説明するためのタイムチャートである。
【
図3】
図3は、一次元畳み込み処理を説明するための図である。
【
図5】
図5は、一次元畳み込みニューラルネットワークの構造を示す図である。
【
図6】
図6は、一次元畳み込み処理を説明するための図である。
【
図7】
図7は、一次元畳み込み処理を説明するための図である。
【
図9】
図9は、磁石温度の推定方法を説明するためのタイムチャートである。
【
図12】
図12は、磁石温度を推定するためのフローチャートである。
【
図14】
図14は、磁石温度の推定誤差と頻度分布との関係を示す図である。
【
図15】
図15は、演算時間間隔と車両の駆動負荷との関係を示す図である。
【
図16】
図16は、磁石温度を推定するためのフローチャートである。
【
図17】
図17Aおよび
図17Bは、夫々、磁石温度と駆動電流上限との関係、および駆動電流制御を実行するためのフローチャートを示す図である。
【
図18】
図18Aおよび
図18Bは、夫々、磁石温度とオイルポンプ駆動モータの駆動電流との関係、およびオイルポンプの駆動制御を実行するためのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照すると、1はハイブリッド車両のトランスアクスルのハウジング、2は車両駆動用のモータ、3はオイルポンプ、4はオイルクーラを夫々示す。モータ2は、軸受5により回転可能に支承された回転軸6と、回転軸6上に固定されたロータ7と、ロータ7を包囲するステータ8からなる。本発明による実施例では、ロータ7に永久磁石(図示せず)が取り付けられている。この場合、この永久磁石は、ロータ7内に埋め込まれている場合もあるし、ロータ7の外周面上に固定されている場合もある。一方、ステータ8内にはステータコイル(図示せず)が配置されており、ステータコイルに駆動電流が供給されるとロータ7が備える永久磁石の磁場との相互作用によりロータ7が回転する。なお、モータ2は、車両の駆動力源として用いられるばかりでなく、発電機としても使用される。ステータコイルへの駆動電流の供給制御はインバータ9によって行われ、このインバータ9は電子制御ユニット20によって制御される。
【0009】
トランスアクスルのハウジング1内には、モータ2および減速歯車機構を潤滑しかつ冷却するためのオイルが供給されている。トランスアクスルのハウジング1内の底部に溜まっているオイルはオイルポンプ3によりオイルクーラ4に送り込まれ、オイルクーラ4内において、機関冷却水との間の熱交換作用により冷却されたオイルは、再び、トランスアクスルのハウジング1内に送り込まれる。オイルポンプ3は、エンジンにより駆動される場合と、オイルポンプ駆動モータにより駆動される場合がある。
図1に示される実施例では、オイルポンプ3は、エンジンにより駆動されている。
【0010】
図1に示されるように、電子制御ユニット20はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス21によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)22、RAM(ランダムアクセスメモリ)23、CPU(マイクロプロセッサ)24、入力ポート25および出力ポート26を具備する。ステータ8にはステータコイルの温度を測定するための温度センサ10が取付けられており、この温度センサ10の出力信号は、対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。モータ2の回転軸6には、モータ2の回転数を測定するための回転数センサ11が取付けられており、この回転数センサ11の出力信号は、対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。
【0011】
また、トランスアクスルのハウジング1内の底部には、オイルトランスアクスルのハウジング1内に溜まっているオイルの温度を測定するための温度センサ12が取り付られており、この温度センサ12の出力信号は、対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。更に、オイルポンプ3には、オイルポンプ3の回転数を測定するための回転数センサ13が取付けられており、この回転数センサ13の出力信号は、対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。なお、オイルポンプ3がエンジンにより駆動されている場合には、回転数センサ13として、機関回転数を検出する回転数センサを用いることもできる。
【0012】
一方、インバータ9からは、モータ2の駆動電流、モータ2の駆動電圧、およびインバータ周波数を表す信号が、夫々対応するAD変換器27を介して入力ポート25に入力される。この場合、電子制御ユニット20内では、モータ2の駆動電流およびモータ2の駆動電圧から、モータ2の駆動トルクが算出されている。
【0013】
さて、永久磁石は温度が高くなると磁力が低下する。従って、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度が高くなると、モータ7は予定されている出力を出せなくなる。従って、永久磁石の温度を検出する必要が生ずる。しかしながら、市販車両において、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度を検出することは難しく、従って、永久磁石の温度を推定することが必要となる。そこで、永久磁石の温度について検討を重ねた結果、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度は、モータ7の回転に関するパラメータと相関があり、しかも、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度は、これらパラメータの過去から現在までの時間的変化の影響を大きく受けることが判明したのである。
【0014】
この場合、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度は、モータの回転に関するパラメータのうちで、ステータコイルの温度と、モータ2の回転数と、オイルの温度と、オイルポンプ3の回転数との相関が特に強く、これらステータコイルの温度と、モータ2の回転数と、オイルの温度と、オイルポンプ3の回転数の過去から現在までの時間的変化が、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度に大きな影響を与えることが判明している。
図2には、これらステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの時間的変化の一例が示されており、更に、
図2には、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度Trの実際の時間的変化が実線で示されている。
【0015】
なお、
図2において、ステータコイルの温度Tsは温度センサ10により測定され、モータ2の回転数Rmは回転数センサ11により測定され、オイルの温度Tiは温度センサ12により測定され、オイルポンプ3の回転数Rpは回転数センサ13により測定される。一方、ロータ7に取り付けられた永久磁石の実際の温度Trの検出は、例えば、サーミスタにより検出された温度情報を無線でもって外部に送信可能なテレメータを用いて行われる。この場合、テレメータは永久磁石の実際の温度Trを検出可能なようにロータ7内に埋め込まれる。また、ロータ7に取り付けられた永久磁石の実際の温度Trとして、シミュレーションにより得られた温度を用いることもできる。
【0016】
さて、上述したように、ステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの過去から現在までの時間的変化が、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度に大きな影響を与えることが判明している。そこで、本発明のよる実施例では、ステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの過去から現在までの時間的変化から、一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、ロータ7に取り付けられた永久磁石の現在の温度Trを推定するようにしている。なお、
図2において破線は、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度Trの推定値の時間的変化を示している。
【0017】
さて、本発明のよる実施例では、ステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの測定値が1秒毎に取得される。この場合、本発明のよる実施例では、時刻t-9から時刻tまでの10秒間において1秒毎に取得されたステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの時系列データから、一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、ロータ7に取り付けられた永久磁石の現在の温度Trの推定値TTrが求められる。
【0018】
そこで、次に、
図2に示される場合を例にとって、
図3から
図5を参照しつつ、一次元畳み込みニューラルネットワークを用いた推定方法の概要について説明する。
図3の上方部分には、時刻t-9から時刻tまでの10秒間における1秒毎の各測定値a、b、c、dの一覧表が示されている。
図2に示される場合には、これらの各測定値a、b、c、dは、ステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの測定値を示している。
【0019】
一方、これらの各測定値a、b、c、dに対して適用されるフィルタが
図3の中央部分に示されている。このフィルタは、測定値a、b、c、dに対して、夫々4個の要素wa
(1)1~wa
(1)4、wb
(1)1~wb
(1)4、wc
(1)1~wc
(1)4、および wd
(1)1~wd
(1)4 が割り当てられている。即ち、このフィルタは、フィルタサイズが4とされており、チャネル数が4とされている。この場合、最初に、時刻t-6(
図3)では、
図3の上方部分において破線で囲まれた時刻t-9から時刻t-6の各測定値a、b、c、dと、フィルタの対応する各要素の値との積和が算出される。即ち、
図3の上方部分において破線で囲まれた時刻t-9から時刻t-6の各測定値a、b、c、dに対して、フィルタの対応する各要素の値を乗算し、16個得られる乗算結果の総和(a
t-9・wa
(1)1+a
t-8・wa
(1)2+・・・・+d
t-7・wd
(1)3+d
t-6・wd
(1)4)が算出される。この算出された積和の値が、
図3の下方部分において破線で囲まれた時刻t-6における出力値z
(1)t-6とされる。
【0020】
次いで、
図3の時刻t-5では、
図3の上方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-8から時刻t-5の各測定値a、b、c、dと、フィルタの対応する各要素の値との積和(a
t-8・wa
(1)1+a
t-7・wa
(1)2+・・・・+d
t-6・wd
(1)3+d
t-5・wd
(1)4)が算出される。この算出された積和の値が、
図3の下方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-5における出力値z
(1)t-5とされる。即ち、
図3の上方部分において破線で囲まれた時刻t-9から時刻t-6の各検出値a、b、c、dに対し、フィルタにより畳み込みを行った結果が出力値z
(1)t-6とされ、
図3の上方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-8から時刻t-5の各測定値a、b、c、dに対し、フィルタにより畳み込みを行った結果が出力値z
(1)t-5とされる。
【0021】
このように各測定値a、b、c、dに対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込みを行うことによって、時刻t-6から時刻tまでの出力値(z
(1)t-6・・・z
(1)t)が算出される。一方、この一次元畳み込みニューラルネットワークの例では、
図4Aに示されるように、フィルタサイズ=4でチャネル数=4のフィルタが更に19個用いられており、これら19個の各フィルタについて、
図3に示される各測定値a、b、c、dに対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込みを行うことによって、
図4Bに示されるように、19個の時刻t-6から時刻tまでの出力値(z
(2)t-6・・・z
(2)t)・・・(z
(20)t-6・・・z
(20)t)が算出される。即ち、全部で20個の時刻t-6から時刻tまでの出力値(z
(1)t-6・・・z
(1)t)・・・(z
(20)t-6・・・z
(20)t)が算出され、これら時刻t-6から時刻tまでの出力値を用いて、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習が行われ、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、ロータ7に取り付けられた永久磁石の現在の温度Trの推定値TTrが求められる。なお、この場合、フィルタの移動量を任意の移動量、即ち、任意のストライドとすることができる。
【0022】
図5に、一次元畳み込みニューラルネットワークの構造を示す。
図3に示されるような各測定値a、b、c、dが一次元畳み込みニューラルネットワーク入力されると、
図5の畳み込み層において、これらの測定値a、b、c、dに対し、各フィルタによる畳み込み処理が行われ、
図3および
図4Bに示されるような全部で20個の時刻t-6から時刻tまでの出力値(z
(1)t-6・・・z
(11t)・・・(z
(20)t-6・・・z
(20)t)が算出される。これらの各出力値には、シグモイド関数等の活性化関数が乗算され、活性化関数の乗算された各出力値が全結合層の各ノードに入力される。なお、この場合、全結合層の前にプーリング層を設けることもできる。全結合層の各ノードからの出力は出力層のノードに入力され、出力層のノードから永久磁石の現在の温度Trの推定値TTrが出力される。
【0023】
ところで、
図3の上方部分の一覧表に示されるような時刻t-9から時刻tまでの10秒間における1秒毎の各測定値a、b、c、dに対して、各フィルタによる畳み込み作業を行うと、記憶すべきデータ量が多いために大きな記憶容量が必要となり、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習すべき重みの量が多いために永久磁石の現在の温度Trの推定値TTrを求めるのに時間を要する。そこで本発明のよる実施例では、各測定値a、b、c、dの過去から現在までの時間的変化が、永久磁石の現在の温度Trの推定値TTrに与える影響を損なうことなく、データの記憶容量を低減し、学習すべき重みの量を低減するために、各測定値a、b、c、dの移動平均値を求めて、求められたに各測定値a、b、c、dの移動平均値に対して、各フィルタによる畳み込み処理を行うようにしている。
【0024】
そこで、次に、
図6から
図8Bを参照しつつ、移動平均値を用いた一次元畳み込み処理について説明する。最初に
図6を参照すると、
図6の上方部分には、
図3の上方部分に示される一覧表と同一の、時刻t-9から時刻tまでの10秒間における1秒毎の各測定値a、b、c、dの一覧表が示されている。本発明
による実施例では、
図6の上方部分に示される各測定値a、b、c、dに対して、移動平均処理が行われる。
図6に示される例においては、時刻t-5では、測定値aについて、
図6の上方部分において破線で囲まれた時刻t-9から時刻t-5までの過去5秒間の測定値(a
t-9、a
t-8、a
t-7、a
t-6、a
t-5)の移動平均値が算出され、この測定値(a
t-9、a
t-8、a
t-7、a
t-6、a
t-5)の移動平均値が、
図6の下方部分の一覧表の時刻t-5において破線で囲まれたma
t-5とされる。また、時刻t-4では、測定値aについて、
図6の上方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-8から時刻t-4までの過去5秒間の測定値(a
t-8、a
t-7、a
t-6、a
t-5、a
t-4)の移動平均値が算出され、この測定値(a
t-8、a
t-7、a
t-6、a
t-5、a
t-4)の移動平均値が、
図6の下方部分の一覧表の時刻t-4において一点鎖線で囲まれたma
t-4とされる。
【0025】
同様にして、時刻t-3から時刻tまでの各移動平均値ma
t-3、ma
t-2、ma
t-1、ma
tが算出される。また、
図6の下方部分の一覧表に示されるように、測定値bについても、同様にして、時刻t-5から時刻tまでの各移動平均値mb
t-5、mb
t-4、mb
t-3、mb
t-2、mb
t-1、mb
tが算出され、測定値cについても、同様にして、時刻t-5から時刻tまでの各移動平均値mc
t-5、mc
t-4、mc
t-3、mc
t-2、mc
t-1、mc
tが算出され、測定値dについても、同様にして、時刻t-5から時刻tまでの各移動平均値md
t-5、md
t-4、md
t-3、md
t-2、md
t-1、md
tが算出される。時刻t-9から時刻tまでの全ての各測定値a、b、c、dについて、
図6の下方部分の一覧表に示されるような移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tが算出されると、これらの移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対して一次元畳み込み処理が行われる。
【0026】
次に、この移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対する一次元畳み込み処理について、
図7から
図8Bを参照しつつ説明する。なお、この移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対する一次元畳み込み処理も、
図3から
図4Bを参照しつつ説明した一次元畳み込み処理と同様な方法で行われる。
図7を参照すると、
図7の上方部分には、
図6の下方部分に示される一覧表と同一の一覧表が示されている。一方、
図7の中央部分には、移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対して適用されるフィルタが示されている。このフィルタも、
図3の中央部分に示されるフィルタと同様に、フィルタサイズは4であり、チャネル数も4である。
【0027】
この場合にも、最初に、
図7の時刻t-2では、
図7の上方部分において破線で囲まれた時刻t-5から時刻t-2の各移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-3、md
t-2と、フィルタの対応する各要素の値との積和が算出される。即ち、
図7の上方部分において破線で囲まれた時刻t-5から時刻t-2の各移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-3、md
t-2に対して、フィルタの対応する各要素の値を乗算し、16個得られる乗算結果の総和(ma
t-5・wa
(1)1+ma
t-4・wa
(1)2+・・・・+md
t-3・wd
(1)3+md
t-2・wd
(1)4)が算出される。この算出された積和の値が、
図7の下方部分において破線で囲まれた時刻t-2における出力値z
(1)t-2とされる。
【0028】
次いで、
図7の時刻t-1では、
図7の上方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-4から時刻t-1の各移動平均値ma
t-4、ma
t-3・・・md
t-2、md
t-1と、フィルタの対応する各要素の値との積和(ma
t-4・wa
(1)1+ma
t-3・wa
(1)2+・・・・+md
t-2・wd
(1)3+md
t-1・wd
(1)4)が算出される。この算出された積和の値が、
図7の下方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-1における出力値z
(1)t-1とされる。即ち、
図7の上方部分において破線で囲まれた時刻t-5から時刻t-2の各移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-3、md
t-2に対し、フィルタにより畳み込み処理を行った結果が出力値z
(1)t-2とされ、
図7の上方部分において一点鎖線で囲まれた時刻t-4から時刻t-1の各移動平均値ma
t-4、ma
t-3・・・md
t-2、md
t-1に対し、フィルタにより畳み込みを行った結果が出力値z
(1)t-1される。
【0029】
このように各移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込み処理を行うことによって、時刻t-2から時刻tまでの出力値(z
(1)t-2・・・z
(1)t)が算出される。一方、この一次元畳み込みニューラルネットワークの例でも、
図8Aに示されるように、フィルタサイズ=4でチャネル数=4のフィルタが更に19個用いられており、これら19個の各フィルタについて、
図7に示される各移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込みを行うことによって、
図8Bに示されるように、19個の時刻t-2から時刻tまでの出力値(z
(2)t-2・・・z
(2)t)・・・(z
(20)t-2・・・z
(20)t)が算出される。即ち、全部で20個の時刻t-2から時刻tまでの出力値(z
(1)t-2・・・z
(1)t)・・・(z
(20)t-2・・・z
(20)t)が算出され、これら時刻t-2から時刻tまでの出力値を用いて、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習が行われ、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、ロータ7が備える永久磁石の現在の温度Trの推定値TTrが求められる。なお、この場合も、フィルタの移動量を任意の移動量、即ち、任意のストライドとすることができる。
【0030】
図9には、
図2に示されるステータコイルの温度Tsの測定値と、モータ2の回転数Rmの測定値と、オイルの温度Tiの測定値と、オイルポンプ3の回転数Rpの測定値の夫々について移動平均処理を行ったときのステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpの移動平均値の時間的変化と、ロータ7が備える永久磁石の実際の温度Trの時間的変化(実線)と、ロータ7が備える永久磁石の温度Trの推定値の時間的変化(破線)の一例が示されている。
【0031】
ところで、
図9に示される例では、上述したように、時刻t-2から時刻tまでの出力値を用いて、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習が行われ、従って、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習期間は、
図9においてSで示される範囲となる。これに対し、
図2に示される例では、前述したように時刻t-6から時刻tまでの出力値を用いて、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習が行われ、従って、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習期間は、
図2においてSで示される範囲となる。この場合、
図9に示される場合でも、
図2に示される場合でも、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習に用いられる情報量はほぼ同じである。従って、移動平均値ma
t-5、ma
t-4・・・md
t-1、md
tに対して、畳み込み処理を行った場合、即ち、
図9に示される場合、
図2に示される場合に比べて、学習に用いられる情報量をほぼ同一に維持しつつ、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習期間を短くすることができる。その結果、データ保持量を削減することができ、記憶容量を低減することが可能となる。
【0032】
次に、
図10Aおよび
図10Bを参照しつつ、一次元畳み込みニューラルネットワークの学習処理について説明する。この一次元畳み込みニューラルネットワークの学習処理は、例えば、
図1に示される電子制御ユニット20内において行われる。一次元畳み込みニューラルネットワークの学習を行うときには、最初に、車両の駆動負荷を種々に変化させ、このときに、単位時間毎に、例えば、1秒毎に測定されたステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpと、ロータ7が備える永久磁石の実際の温度Trとが、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶される。
図10Aは、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶された各時刻t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6、t
7、t
8・・・におけるステータコイルの温度Tsと、モータ2の回転数Rmと、オイルの温度Tiと、オイルポンプ3の回転数Rpと、ロータ7が備える永久磁石の実際の温度Trとを示している。なお、
図10Aにおける時刻t
1は、ステータコイルの温度Ts等の記憶が開始されたときの時刻を示している。
【0033】
電子制御ユニット20内では、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶された
図10Aに示される各測定値から移動平均値が算出され、算出された移動平均値は、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶される。
図10Bは、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶された移動平均値の一覧表を示している。なお、以下、一例として、過去4秒間の測定値の移動平均値を求めた場合を例にとって、
図10Bの一覧表に示された移動平均値について、
図11Aおよび
図11Bを参照しつつ説明する。
【0034】
図11Aは、移動平均値として、単純移動平均(SMA)により得られた移動平均値を用いた場合を示している。この場合には、
図11Aに示されるように、
図10Bの時刻t
4における移動平均値ma
4は、
図10Aの時刻t
1から時刻t
4までの測定値a
1、a
2、a
3、a
4の単純平均値であり、
図10Bの時刻t
4における移動平均値mb
4は、
図10Aの時刻t
1から時刻t
4までの測定値b
1、b
2、b
3、b
4の単純平均値である。
図10Bの時刻t
4における残りの移動平均値mc
4およびmd
4についても同様である。
【0035】
また、
図11Aに示されるように、
図10Bの時刻t
5おける移動平均値ma
5は、
図10Aの時刻t
2から時刻t
5までの測定値a
2、a
3、a
4、a
5の単純平均値であり、
図10Bの時刻t
5おける移動平均値mb
5は、
図10Aの時刻t
2から時刻t
5までの測定値b
2、b
3、b
4、b
5の単純平均値である。
図10Bの時刻t
5における残りの移動平均値mc
5およびmd
5についても同様である。なお、
図11Aには、この単純移動平均(SMA)の一般式が示されている。
【0036】
一方、
図11Bは、移動平均値として、指数平滑移動平均(EMA)により得られた移動平均値を用いた場合を示している。この指数平滑移動平均(EMA)は、過去の測定値の代わりに前回の指数平滑移動平均(EMA)を用い、現在の測定値に重みを持たせるために現在の測定値を2倍にして、これらの平均値を求めたものである。この指数平滑移動平均(EMA)は、前回の指数平滑移動平均(EMA)が算出されていないときには、各測定値を用いて、指数平滑移動平均(EMA)が算出される。
【0037】
例えば、
図10Bの時刻t
1、t
2、t
3では
、指数平滑移動平均(EMA)は算出されておらず、従って、
図10Bの時刻t
4では、各測定値を用いて、指数平滑移動平均(EMA)が算出される。即ち、
図11Bに示されるように、
図10Bの時刻t
4における指数平滑移動平均値ma
4は、
図10Aの時刻t
1から時刻t
3までの測定値a
1、a
2、a
3と
、時刻t
4での測定値a
4の2倍との和を分子の項数(=5)で除した値とされ、
図10Bの時刻t
4における指数平滑移動平均値mb
4は、
図10Aの時刻t
1から時刻t
3までの測定値b
1、b
2、b
3と
、時刻t
4での測定値b
4の2倍との和を分子の項数(=5)で除した値とされる。
図10Bの時刻t
4における残りの指数平滑移動平均値mc
4およびmd
4についても同様である。
【0038】
一方、
図11Bに示されるように、
図10Bの時刻t
5おける指数平滑移動平均値ma
5の算出には、
図10Aの時刻t
2から時刻t
4までの測定値a
2、a
3、a
4に代えて夫々前回の指数平滑移動平均値ma
4が用いられ
、指数平滑移動平均値ma
5は、3個の前回の指数平滑移動平均値ma
4と
、時刻t
5での測定値a
5の2倍との和を分子の項数(=5)で除した値とされ、
図10Bの時刻t
5おける指数平滑移動平均値mb
5は、3個の前回の指数平滑移動平均値mb
4と
、時刻t
5での測定値b
5の2倍との和を分子の項数(=5)で除した値とされる。
図10Bの時刻t
5における残りの移動平均値mc
5およびmd
5についても同様である。なお、
図11Bには、この指数平滑移動平均(EMA))の一般式が示されている。
【0039】
一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習は、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶された
図10Bに示される移動平均値の一覧表に基づき、
図5に示される一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて行われる。即ち、
図10Bは、一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習を行うための訓練用データセットを示している。一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習時には、最初に、時刻t
4から時刻t
9までの各移動平均値ma
4・・・ma
9、mb
4・・・mb
9、mc
4・・・mc
9、md
4・・・md
9が、
図5に示される一次元畳み込みニューラルネットワークに入力され、入力された時刻t
4から時刻t
9までの各移動平均値ma
4・・・ma
9、mb
4・・・mb
9、mc
4・・・mc
9、md
4・・・md
9に対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込み処理を行うことによって、時刻t
7から時刻t
9までの出力値(z
(1)7、z
(1)8、z
(1)9)・・・(z
(20)7、z
(20)8、z
(20)9)が算出される。
【0040】
これら時刻t
7から時刻t
9までの各出力値には、シグモイド関数等の活性化関数が乗算され、活性化関数の乗算された各出力値が全結合層の各ノードに入力される。全結合層の各ノードからの出力は出力層のノードに入力され、出力層のノードから永久磁石の温度を示す出力値が出力される。この出力値と教師データ、即ち、時刻t
9における永久磁石の実際の温度Tr
9との差が小さくなるように、誤差逆伝播法を用いて、各フィルタの各要素の値、および、全結合層の重み、即ち、一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習が行われる。時刻t
7から時刻t
9までの出力値を用いた一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習が終了すると、次に、時刻t
8から時刻t
10までの出力値を用いた一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習が行われる。このようにして、
図10Bの一覧表における最後の時刻に達するまで、一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習が行われる。
【0041】
一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習が終了すると、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークが、電子制御ユニット20のRAM23内に記憶され、この学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度Trの推定処理が行われる。
【0042】
図12は、この学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、車両の運転中に電子制御ユニット20内において行われる磁石温度の推定ルーチンを示している。なお、このルーチンは、1秒毎の割り込みによって実行される。
図12を参照すると、まず初めに、ステップ40において、温度センサ10により測定されたステータコイルの温度Tsと、回転数センサ11により測定されたモータ2の回転数Rmと、温度センサ12により測定されたオイルの温度Tiと、回転数センサ13により測定されたオイルポンプ3の回転数Rpとが取得され、RAM23内に記憶される。次いで、ステップ41では、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X1が経過したか否か、即ち、移動平均値を算出するのに必要な数の測定値が取得されたか否かが判別される。4個の測定値に基づいて移動平均値を算出している場合には、この一定時間X1は4秒とされる。
【0043】
ステップ41において、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X1が経過していないと判別されたときには、処理サイクルを終了する。これに対し、ステップ41において、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X1が経過したと判別されたときには、ステップ42に進んで、移動平均値が算出され、次いで、ステップ43に進んで、算出された移動平均値が、RAM23内に記憶される。なお、移動平均値として、単純移動平均(SMA)により得られた移動平均値を用いる場合には、ステップ42では、
図11Aの時刻t
4で示される移動平均値が算出される。また、1秒後の次の割り込みルーチンでは、
図11Aの時刻t
5で示される移動平均値が算出される。
【0044】
一方、移動平均値として、指数平滑移動平均(EMA)により得られた移動平均値を用いる場合には、ステップ42では、
図11Bの時刻t
4で示される移動平均値が算出される。また、1秒後の割り込みルーチンでは、
図11Bの時刻t
5で示される移動平均値が算出され、その後は、
図11Bの時刻t
5で示される移動平均値図と同様な移動平均値が算出される。
【0045】
次いで、ステップ44では、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X2が経過したか否か、即ち、一次元畳み込みニューラルネットワークを用いた磁石温度の推定が可能となる時刻になったか否かが判別される。ステップ44において、磁石温度の推定ルーチンが開始されてから一定時間X2が経過していないと判別されたときには、処理サイクルを終了する。これに対し、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X2が経過したと判別されたときには、ステップ45に進み、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、磁石温度の推定値の演算処理が行われる。即ち、算出された移動平均値が学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークに入力される。算出された移動平均値が学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークに入力されると、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークから磁石温度の推定値が出力される(ステップ46)。
【0046】
なお、一次元畳み込みニューラルネットワークの重みの学習時に、
図10Bにおいて、時刻t
4以降の各移動平均値ma
4・・・、mb
4・・・、mc
4・・・、md
4・・・に対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込み処理を行うことによって、最初に時刻t
7から時刻t
9までの出力値(z
(1)7、z
(1)8、z
(1)9)・・・(z
(20)7、z
(20)8、z
(20)9)を算出した場合には、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて磁石温度の推定を行う際にも、
図10Bにおいて、時刻t
4以降の各移動平均値ma
4・・・、mb
4・・・、mc
4・・・、md
4・・・に対し、フィルタを少しずつ移動させながらフィルタによる畳み込み処理を行うことによって、最初に時刻t
7から時刻t
9までの出力値(z
(1)7、z
(1)8、z
(1)9)・・・(z
(20)7、z
(20)8、z
(20)9)が算出される。従って、この場合には、時刻t
9において磁石温度の推定が可能となり、従って、この場合には、ステップ44における一定時間X2は9秒とされる。磁石温度の推定処理が開始されると、その後は、1秒毎に、磁石温度の推定値が出力される。
【0047】
このように、本発明による磁石温度推定装置は、
図13の発明の構成図に示されるように、一定時間毎に測定された、対象モータ2の回転に関するパラメータを取得するパラメータ取得部50と、これらパラメータの一定区間毎の移動平均値を算出する算出部51と、モータ2の回転に関するパラメータの移動平均値が入力された場合にモータ2のロータ7が備える磁石の温度を出力するように学習された学習モデルに、算出部51により算出された移動平均値を入力し、この学習モデルから出力された磁石温度の推定値を取得する温度取得部52と、温度取得部52が取得した磁石温度の推定値を出力する出力部53とを具備している。
【0048】
この場合、本発明による実施例では、上述の学習モデルは、一次元畳み込みニューラルネットワークから構成される。また、本発明による実施例では、モータ2の回転に関するパラメータは、ステータコイル温度Tsと、モータ回転数Rmと、オイル温度Tiと、オイルポンプ回転数Rpとを含んでいる。また、本発明による実施例では、移動平均値として、指数平滑移動平均(EMA)により得られた移動平均値を用いることができ、この場合、算出部51は、移動平均値として、指数平滑移動平均値を算出する。
【0049】
また、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度は、モータ2のトルクと、モータ2のステータコイルを流れるモータ電流と、モータ2の回転速度に関連するインバータ周波数とも相関があり、これらモータ2のトルクと、モータ電流と、インバータ周波数の過去から現在までの時間的変化も、ロータ7に取り付けられた永久磁石の温度に影響を与えることが判明している。従って、モータ2の回転に関するパラメータは、ステータコイル温度Tsと、モータ回転数Rmと、オイル温度Tiと、オイルポンプ回転数Rpに加え、モータトルクと、モータ電流と、インバータ周波数とを含ませることができる。
【0050】
図14は、車両の運転状態をランダムに変化させつつ車両を運転したときの磁石温度の推定誤差(推定値―実値)と頻度分布との関係を示している。
図14から、各測定値に対して移動平均処理を行ったとき(移動平均処理後)には、各測定値に対して
図3から
図4Bに示されるように移動平均処理を行っていないとき(移動平均処理前)に比べて、磁石温度の推定誤差が小さくなることがわかる。
【0051】
さて、
図12に示される磁石温度の推定ルーチンでは、前述したように、磁石温度の推定処理が開始されると、その後は、1秒毎に、磁石温度の推定値の演算処理が行われ、1秒毎に、磁石温度の推定値が出力される。ところが、車両の駆動負荷が小さいときには、磁石温度の変化速度は遅くなり、磁石温度の推定値を、短い間隔でもって取得する必要性が低下する。従って、車両の駆動負荷が小さいときには、消費電力を低減するために、磁石温度の推定値の演算処理の頻度を低下させることが好ましい。
図15および
図16に、
車両の駆動負荷が小さいときには、磁石温度の推定値の演算処理の頻度を低下させるようにした別の実施例を示す。
【0052】
この別の実施例では、
図15に示されるように、車両の駆動負荷が、設定負荷PKよりも小さくなると、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが大きくされる。この場合、
図15に示される例では、車両の駆動負荷が設定負荷PKよりも小さくなると、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが大きくされ、車両の駆動負荷が更に小さくなると、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが更に大きくされる。具体的に言うと、車両の駆動負荷が、設定負荷PKよりも大きいときには、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが1秒とされ、車両の駆動負荷が設定負荷PKよりも小さくなると磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが5秒とされ、車両の駆動負荷が更に小さくなると磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが10秒とされる。
【0053】
図16は、この別の実施例を実行するための磁石温度の推定ルーチンを示している。なお、このルーチンも、1秒毎の割り込みによって実行される。また、
図16に示される磁石温度の推定ルーチンのステップ60からステップ64は、
図12に示される磁石温度の推定ルーチンのステップ40からステップ44と同じである。
即ち、
図16を参照すると、まず初めに、ステップ60において、温度センサ10により測定されたステータコイルの温度Tsと、回転数センサ11により測定されたモータ2の回転数Rmと、温度センサ12により測定されたオイルの温度Tiと、回転数センサ13により測定されたオイルポンプ3の回転数Rpとが取得され、RAM23内に記憶される。次いで、ステップ61では、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X1、例えば、4秒が経過したか否かが判別される。
【0054】
ステップ61において、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X1が経過していないと判別されたときには、処理サイクルを終了する。これに対し、ステップ61において、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X1が経過したと判別されたときには、ステップ62に進んで、移動平均値が算出され、次いで、ステップ63に進んで、算出された移動平均値が、RAM23内に記憶される。なお、移動平均値として、単純移動平均(SMA)により得られた移動平均値を用いる場合には、ステップ62では、
図11Aの時刻t
4で示される移動平均値が算出され、1秒後の次の割り込みルーチンでは、
図11Aの時刻t
5で示される移動平均値が算出される。一方、移動平均値として、指数平滑移動平均(EMA)により得られた移動平均値を用いる場合には、ステップ62では、
図11Bの時刻t
4で示される移動平均値が算出され、1秒後の割り込みルーチンでは、
図11Bの時刻t
5で示される移動平均値が算出される。
【0055】
次いで、ステップ64では、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X2、例えば、9秒が経過したか否かが判別される。ステップ64において、磁石温度の推定ルーチンが開始されてから一定時間X2が経過していないと判別されたときには、処理サイクルを終了する。これに対し、磁石温度の推定ルーチンの実行が開始されてから一定時間X2が経過したと判別されたときには、ステップ65に進み、車両の駆動負荷が、設定負荷PKよりも大きいか否かが判別される。車両の駆動負荷が、設定負荷PKよりも大きいと判別されたときには、ステップ68にジャンプし、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、磁石温度の推定値の演算処理が行われる。即ち、算出された移動平均値が学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークに入力される。算出された移動平均値が学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークに入力されると、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークから磁石温度の推定値が出力される(ステップ69)。このときには、
図12に示される磁石温度の推定ルーチンが実行されたときと同様に、磁石温度の推定処理が開始されると、1秒毎に、磁石温度の推定値が出力される。
【0056】
一方、ステップ65において、車両の駆動負荷が、設定負荷PKよりも大きくないと判別されたときには、ステップ66に進んで、
図15に示す関係から、車両の駆動負荷に応じた磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが算出される。次いで、ステップ66では、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが経過したか否かが判別される。ステップ66において、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが経過していないと判別されときには、処理サイクルを終了する。これに対し、ステップ66において、磁石温度の推定値の演算時間間隔Δtが経過したと判別されときには、ステップ68に進み、学習済みの一次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、磁石温度の推定値の演算処理が行われる。従ってこのときには、車両の駆動負荷に応じた演算時間間隔Δtでもって、例えば、5秒毎、或いは10秒毎に磁石温度の推定値の演算処理が行われ、5秒毎、或いは10秒毎に磁石温度の推定値が出力される。
【0057】
即ち、この別の実施例では、温度取得部52(
図13)による磁石温度の推定値の取得間隔を車両の駆動負荷に応じて変化させ、車両の駆動負荷が低いときの磁石温度の推定値の取得間隔を車両の駆動負荷が高いときの磁石温度の推定値の取得間隔よりも長くしている。
【0058】
図17Aおよび
図17Bは、磁石温度の推定値を用いて行われるモータ2の駆動電流制御を示している。このモータ2の駆動電流制御では、
図17Aに示されるように、磁石温度が高くなるほど、モータ2の駆動電流の最大値Imax が低下せしめられる。
図17Bは、車両の運転中に電子制御ユニット20内において行われるモータ2の駆動電流制御ルーチンを示している。なお、このルーチンは、一定時間毎の割り込みによって実行される。
図17Bを参照すると、まず初めに、ステップ70において、車両の要求駆動負荷が算出される。次いで、ステップ71では、車両の要求駆動負荷に基づいて、モータ2の駆動電流Iが算出される。次いで、ステップ72では、磁石温度の推定値に基づいて、
図17Aに示す関係から、モータ2の駆動電流の最大値Imax が算出される。次いで、ステップ73では、算出されたモータ2の駆動電流Iが最大値Imax よりも大きいか否かが判別され、算出されたモータ2の駆動電流Iが最大値Imax よりも大きいときには、ステップ74に進んで、モータ2の駆動電流Iが最大値Imaxとされる。
【0059】
図18Aおよび
図18Bは、磁石温度の推定値を用いて行われるオイルポンプ3の駆動制御を示している。この場合、オイルポンプ3として、オイルポンプ駆動モータにより駆動されるオイルポンプが使用され、
図18Aに示されるように、磁石温度が高くなるほど、オイルポンプ駆動モータの駆動電流Ip が増大せしめられる。オイルポンプ駆動モータの駆動電流Ip が増大せしめられると、オイルクーラ4におけるオイルの冷却作用が高められるのでオイルの温度が低下し、磁石温度が低下せしめられる。
図18Bは、車両の運転中に電子制御ユニット20内において行われるオイルポンプ3の駆動制御ルーチンを示している。なお、このルーチンは、一定時間毎の割り込みによって実行される。
図18Bを参照すると、まず初めに、ステップ80において、
図18Aに示す関係から、磁石温度の推定値に基づいて、オイルポンプ駆動モータの駆動電流Ip が算出される。次いで、ステップ81では、オイルポンプ駆動モータの駆動電流が、算出された駆動電流Ip となるように、オイルポンプ3の駆動制御が行われる。
【0060】
1 ハウジング
2 モータ
3 オイルポンプ
7 ロータ
8 ステータ
10,12 温度センサ
11,13 回転数センサ