(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】遠隔支援管理システム、遠隔支援管理方法、及び遠隔支援管理プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/09 20060101AFI20240903BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240903BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240903BHJP
【FI】
G08G1/09 F
G08G1/00 A
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2021079312
(22)【出願日】2021-05-07
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 義貴
(72)【発明者】
【氏名】市川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 康治
(72)【発明者】
【氏名】平野 麻衣子
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-185279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/09
G08G 1/00
B60W 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行する複数の車両と通信し、前記車両からの支援要求を受けてオペレータに遠隔支援を行わせる遠隔支援管理システムにおいて、
少なくとも1つのプログラムを含む少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサと、を含み、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
各車両の運行状況に基づいて車両ごとに将来における前記支援要求の発生を予測すること
、
発生が予測された前記支援要求ごとに予測支援期間を計算すること、
及び、
発生が予測された前記支援要求ごとに前記支援要求の発生確率を計算すること、を実行し、
前記予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が所定数を超えて発生することが予測された場合、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のうち前記所定数を超える台数の車両に対し通常の運転モードである第1の運転モードから前記支援要求の発生を回避或いは遅延させるための第2の運転モードへの変更を指示すること
、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のそれぞれについて、前記支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させる車両を決定するための評価値を、前記発生確率が高い前記支援要求の発生が予測される車両ほど高い値に計算すること、及び、
前記評価値の高い順に前記第1の運転モードから前記第2の運転モードへの変更を指示する車両を選定すること、を実行する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
発生が予測された前記支援要求ごとに、前記支援要求の原因が周囲に与える影響の大きさを表す影響度を計算し、
前記影響度が高い前記支援要求の発生が予測される車両ほど前記評価値を高い値に計算する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
発生が予測された前記支援要求ごとに、前記支援要求の処理に必要な前記オペレータのスキルを計算し、
前記スキルが高い前記支援要求の発生が予測される車両ほど前記評価値を高い値に計算する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
発生が予測された前記支援要求ごとに、前記支援要求の処理に必要とされる処理時間を計算し、
前記処理時間が長い前記支援要求の発生が予測される車両ほど前記評価値を高い値に計算する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
発生が予測された前記支援要求ごとに、前記支援要求が発生するまでの余裕時間を計算し、
前記余裕時間が長い前記支援要求の発生が予測される車両ほど前記評価値を高い値に計算する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
所定の更新周期で前記支援要求の発生の予測を行い、
前記更新周期より長い所定の予測時間だけ将来の時刻まで前記予測を行う
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項7】
請求項6に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記少なくとも1つのプログラムの実行時、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のうち前記第1の運転モードから前記第2の運転モードへの変更を指示しない車両に対し前記オペレータを配置し、
前記更新周期ごとに前記オペレータの配置を更新する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのメモリと前記少なくとも1つのプロセッサとは、前記複数の車両と通信するサーバに設けられ、
前記サーバは、
対象車両の運行状況と前記対象車両以外の他の車両の運行状況とを取得し、
前記対象車両の運行状況と前記他の車両の運行状況とに基づいて前記対象車両の将来における前記支援要求の発生を予測する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項9】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の遠隔支援管理システムにおいて、
前記少なくとも1つのメモリと前記少なくとも1つのプロセッサとは、前記複数の車両のそれぞれに搭載された車載コンピュータと、前記車載コンピュータと通信するサーバとに分散して設けられ、
前記車載コンピュータは、
前記車載コンピュータが搭載された対象車両のセンサを用いて前記対象車両の運行状況を取得し、
前記対象車両の運行状況に基づいて当該車両の将来における前記支援要求の発生を予測し、
前記支援要求の発生が予測された場合、前記支援要求の発生の予測に関する情報を前記サーバに送信する
ことを特徴とする遠隔支援管理システム。
【請求項10】
自律走行が可能であり且つオペレータからの遠隔支援を受けることができる複数の車両に対する遠隔支援管理方法であって、
各車両の運行状況に基づいて車両ごとに将来における前記車両から前記オペレータへの支援要求の発生を予測するステップと、
発生が予測された前記支援要求ごとに予測支援期間を計算するステップと、
発生が予測された前記支援要求ごとに前記支援要求の発生確率を計算するステップと、
前記予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が所定数を超えて発生することが予測された場合に実行されるステップであって、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のうち前記所定数を超える台数の車両に対し通常の運転モードである第1の運転モードから前記支援要求の発生を回避或いは遅延させるための第2の運転モードへの変更を指示するステップと
、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のそれぞれについて、前記支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させる車両を決定するための評価値を、前記発生確率が高い前記支援要求の発生が予測される車両ほど高い値に計算するステップと、
前記評価値の高い順に前記第1の運転モードから前記第2の運転モードへの変更を指示する車両を選定するステップと、を含むステップと、を含むステップと、を含む
ことを特徴とする遠隔支援管理方法。
【請求項11】
自律走行する複数の車両と通信し、前記車両からの支援要求を受けてオペレータに遠隔支援を行わせることをコンピュータに実行させる遠隔支援管理プログラムにおいて、
各車両の運行状況に基づいて車両ごとに将来における前記支援要求の発生を予測すること
、
発生が予測された前記支援要求ごとに予測支援期間を計算すること、
及び、
発生が予測された前記支援要求ごとに前記支援要求の発生確率を計算すること、を前記コンピュータに実行させ、
前記予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が所定数を超えて発生することが予測された場合、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のうち前記所定数を超える台数の車両に対し通常の運転モードである第1の運転モードから前記支援要求の発生を回避或いは遅延させるための第2の運転モードへの変更を指示すること、
前記重複支援要求の発生が予測された車両のそれぞれについて、前記支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させる車両を決定するための評価値を、前記発生確率が高い前記支援要求の発生が予測される車両ほど高い値に計算すること、及び、
前記評価値の高い順に前記第1の運転モードから前記第2の運転モードへの変更を指示する車両を選定すること、を前記コンピュータに実行させる
ことを特徴とする遠隔支援管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律走行する複数の車両と通信し、前記車両からの支援要求を受けてオペレータに遠隔支援を行わせる遠隔支援管理システム、遠隔支援管理方法、及び遠隔支援管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転車両は基本的に自律で自動走行を継続する。しかし、自動運転車両の自律判断が不確実な場合や、より確実な安全判断が必要な場合がある。このため、自動運転車両の自律判断に全てを任せるのではなく、自動運転車両を遠隔で監視し、必要な場合には、オペレータが判断や遠隔走行指示を車両に伝えることで、自動運転車両の自動走行を支援することが検討されている。そのような遠隔支援管理システムに関する従来技術の一つが下記の特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された従来技術は、遠隔支援を必要とする自動運転車両に対するオペレータの割り当て方に関する提案である。この従来技術では、遠隔支援に掛かる作業時間及び優先度に基づき処理順序が決定され、その処理順序に従って遠隔支援の作業がオペレータに割り当てられる。これにより、遠隔支援を必要とする車両が交通を妨げることを回避し、自動運転システム全体としての交通の円滑化をはかることができる。
【0004】
このように、遠隔支援管理システムにおいては、自動運転車両を遠隔監視、操作するオペレータの役割は重要である。自動運転車両からの支援要求に速やかに応えることができる万全の体制を整えるのであれば、自動運転車両の総数に対するオペレータの人員は多ければ多いほどよい。
【0005】
しかし、オペレータの人員が増えるほど人件費が高くなり、ビジネスとしての成立が困難になってしまう。一方、オペレータの人員を単純に減らしてしまうと、オペレータ一人当たりの負荷が高くなるだけでなく、人員以上の支援要求が自動運転車両から届いた場合には、対応不可能となってしまう。
【0006】
上述の従来技術は、支援要求に対してオペレータの人数が足りていることが前提となっている。同時に多数の支援要求が発生した場合、上述の従来技術では、一部の支援要求に対してオペレータを割り当てることができない事態が起こりうる。この場合、オペレータからの判断又は走行指示をもらえない自動運転車両が路上で立ち往生する虞もあれば、不確実な情報で自動運転車両が走行することによってトラブルが発生する虞もある。
【0007】
なお、本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、上述の特許文献1の他にも下記の特許文献2を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-185279号公報
【文献】特開2020-042764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、自動運転車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、上記目的を達成するための遠隔支援管理システムを提供する。本開示に係る遠隔支援管理システムは、自律走行する複数の車両と通信し、車両からの支援要求を受けてオペレータに遠隔支援を行わせるシステムである。本遠隔支援管理システムは、少なくとも1つのプログラムを含む少なくとも1つのメモリと、その少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサとを含む。上記少なくとも1つのプロセッサは、上記少なくとも1つのプログラムの実行時、各車両の運行状況に基づいて車両ごとに将来における支援要求の発生を予測し、発生が予測された支援要求ごとに予測支援期間を計算する。予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が所定数を超えて発生することが予測された場合、上記少なくとも1つのプロセッサは、重複支援要求の発生が予測された車両のうち所定数を超える台数の車両に対し運転モードの変更を指示する。詳しくは、上記少なくとも1つのプロセッサは、通常の運転モードである第1の運転モードから支援要求の発生を回避或いは遅延させるための第2の運転モードへの変更を指示する。
【0011】
本遠隔支援管理システムによれば、将来における支援要求の発生が車両ごとに事前に予測される。そして、複数の支援要求について予測支援期間が同一時刻において重なり、その重複数が所定数を超える場合には、重複支援要求の発生が予測された車両のうち、所定数を超える台数の車両に対して、運転モードの変更が指示される。運転モードが変更されることで、支援要求の発生が回避されたり支援要求の発生が遅延したりする。これにより、実際に支援要求が発生した場合に、支援期間が同一時刻において重なる支援要求の数は所定数以下に抑えられる。その結果、遠隔支援を行うオペレータ全体の負荷は低減され、自動運転車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することができる。
【0012】
本遠隔支援管理システムにおいて、上記少なくとも1つのプロセッサは、重複支援要求の発生が予測された車両のそれぞれについて評価値を計算し、評価値の高い順に第1の運転モードから第2の運転モードへの変更を指示する車両を選定してもよい。評価値は、支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させる車両を決定するための指標である。運転モードを変更する車両はランダムに選択してもよい。しかし、このように運転モードを変更する車両を一定の指標に基づき選択することによって、遠隔支援に必要なオペレータの人員をより確実に低減することができる。
【0013】
評価値の計算方法としては、例えば、以下の方法が例示される。
【0014】
第1の例では、発生が予測された支援要求ごとに支援要求の発生確率が計算され、発生確率が高い支援要求の発生が予測される車両ほど評価値は高い値に計算される。第1の例によれば、発生確率が高い支援要求の発生を回避する或いはそのような支援要求の発生を遅延させることができ、オペレータ全体の負荷を低減することができる。
【0015】
第2の例では、発生が予測された支援要求ごとに、支援要求の原因が周囲に与える影響の大きさを表す影響度が計算され、影響度が高い支援要求の発生が予測される車両ほど評価値は高い値に計算される。第2の例によれば、周囲に与える影響の大きい現象の発生を回避する或いはそのような現象の発生を遅延させることができ、円滑な交通を維持することができる。
【0016】
第3の例では、発生が予測された支援要求ごとに、支援要求の処理に必要なオペレータのスキルが計算され、スキルが高い支援要求の発生が予測される車両ほど評価値は高い値に計算される。オペレータの利用コストはオペレータが有するスキルの高さに依存する場合がある。第3の例によれば、処理する上で高いスキルを要する支援要求の発生を回避する或いはそのような支援要求の発生を遅延させることができ、オペレータの利用コストを低減することができる。
【0017】
第4の例では、発生が予測された支援要求ごとに、支援要求の処理に必要とされる処理時間が計算され、処理時間が長い支援要求の発生が予測される車両ほど評価値は高い値に計算される。オペレータの利用コストは支援要求の処理に要した時間に依存する場合がある。第4の例によれば、長い処理時間を要する支援要求の発生を回避する或いはそのような支援要求の発生を遅延させることができ、オペレータの利用コストを低減することができる。また、第4の例によれば、1台の車両に対する支援にオペレータが専有されることを抑えることができる。
【0018】
第5の例では、発生が予測された支援要求ごとに、支援要求が発生するまでの余裕時間が計算され、余裕時間が長い支援要求の発生が予測される車両ほど評価値は高い値に計算される。第5の例によれば、余裕時間の長い支援要求の発生を回避する或いはそのような支援要求の発生を遅延させることにより、運転モードの変更を指示された車両が運転モードを変更するまでの応答時間に余裕を持たせることができる。その結果として、運転モードの変更の確実性を向上させることができる。
【0019】
本遠隔支援管理システムにおいて、上記少なくとも1つのプロセッサは、所定の更新周期で支援要求の発生の予測を行い、更新周期より長い所定の予測時間だけ将来の時刻まで予測を行ってもよい。支援要求の発生を予測する予測時間を予測結果の更新周期よりも長くすることで、予測の精度を高めることができる。
【0020】
本遠隔支援管理システムにおいて、上記少なくとも1つのプロセッサは、重複支援要求の発生が予測された車両のうち運転モードの変更を指示しない車両に対しオペレータを配置し、更新周期ごとにオペレータの配置を更新してもよい。支援要求の発生の予測を行う更新周期に併せてオペレータの配置を更新していくことで、実際の支援要求に速やかに応答できるようにオペレータを配置することができる。
【0021】
本遠隔支援管理システムにおいて、上記少なくとも1つのメモリと上記少なくとも1つのプロセッサとは、複数の車両と通信するサーバに設けられてもよい。この場合、サーバは、対象車両の運行状況と対象車両以外の他の車両の運行状況とを取得し、対象車両の運行状況と他の車両の運行状況とに基づいて対象車両の将来における支援要求の発生を予測してもよい。サーバにおいて対象車両の運行状況だけでなく他の車両の運行状況にも基づいて対象車両における支援要求の発生を予測することにより、支援要求の発生の予測精度を高めることができる。なお、対象車両及び他の車両の運行状況は各車両から取得してもよいし、車両の運行を管理・指示する運行管理サーバ(或いは、サーバ内のプログラム)から取得してもよい。
【0022】
本遠隔支援管理システムにおいて、上記少なくとも1つのメモリと上記少なくとも1つのプロセッサとは、複数の車両のそれぞれに搭載された車載コンピュータと、車載コンピュータと通信するサーバとに分散して設けられてもよい。この場合、車載コンピュータは、車載コンピュータが搭載された対象車両のセンサを用いて対象車両の運行状況を取得し、対象車両の運行状況に基づいて当該車両の将来における前記支援要求の発生を予測してもよい。そして支援要求の発生が予測された場合、車載コンピュータからサーバに、支援要求の発生の予測に関する情報が送信されてもよい。車載コンピュータが搭載された対象車両のセンサを用いて対象車両の運行状況を取得することにより、高い応答性をもって対象車両における支援要求の発生を予測することができる。
【0023】
また、本開示は、上記目的を達成するための遠隔支援管理方法を提供する。本開示に係る遠隔支援管理方法は、自律走行が可能であり且つオペレータからの遠隔支援を受けることができる複数の車両に対する遠隔支援管理方法である。本遠隔支援管理方法は、各車両の運行状況に基づいて、車両ごとに、将来における車両からオペレータへの支援要求の発生を予測するステップと、発生が予測された支援要求ごとに予測支援期間を計算するステップとを含む。さらに、本遠隔支援管理方法は、予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が所定数を超えて発生することが予測された場合に実行されるステップを含む。このステップでは、重複支援要求の発生が予測された車両のうち所定数を超える台数の車両に対し通常の運転モードである第1の運転モードから支援要求の発生を回避或いは遅延させるための第2の運転モードへの変更が指示される。
【0024】
さらに、本開示は、上記目的を達成するための遠隔支援管理プログラムを提供する。本開示に係る遠隔支援管理プログラムは、自律走行する複数の車両と通信し、車両からの支援要求を受けてオペレータに遠隔支援を行わせることをコンピュータに実行させるプログラムである。本遠隔支援管理プログラムは、各車両の運行状況に基づいて車両ごとに将来における支援要求の発生を予測すること、及び、発生が予測された支援要求ごとに予測支援期間を計算することをコンピュータに実行させる。さらに、本遠隔支援管理プログラムは、予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が所定数を超えて発生することが予測された場合、運転モードの変更を指示することをコンピュータに実行させる。詳しくは、本遠隔支援管理プログラムは、通常の運転モードである第1の運転モードから支援要求の発生を回避或いは遅延させるための第2の運転モードへの変更を指示することをコンピュータに実行させる。
【0025】
上述の本遠隔支援管理方法、及び本遠隔支援管理プログラムによれば、将来における支援要求の発生が車両ごとに事前に予測される。そして、複数の支援要求について予測支援期間が同一時刻において重なり、その重複数が所定数を超える場合には、重複支援要求の発生が予測された車両のうち、所定数を超える台数の車両に対して、運転モードの変更が指示される。運転モードが変更されることで、支援要求の発生が回避されたり支援要求の発生が遅延したりする。これにより、実際に支援要求が発生した場合に、支援期間が同一時刻において重なる支援要求の数は所定数以下に抑えられる。その結果、遠隔支援を行うオペレータ全体の負荷は低減され、自動運転車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
上述のように、本開示に係る遠隔支援システム、遠隔支援管理方法、及び本遠隔支援管理プログラムによれば、自動運転車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】自動運転車両の遠隔監視システムの構成図である。
【
図2】自動運転車両の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】監視センタの構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】複数の車両から支援要求が発せられた場合のオペレータの負荷の例を示す図である。
【
図5】潜在支援要求の評価値による順位付けの例を示す図である。
【
図6】支援要求の発生の回避によるオペレータの負荷の適正化の例を示す図である。
【
図7】支援要求の発生の遅延によるオペレータの負荷の適正化の例を示す図である。
【
図8】運転モードの変更の第1の具体例を示す図である。
【
図9】運転モードの変更の第2の具体例を示す図である。
【
図10】運転モードの変更の第3の具体例を示す図である。
【
図11】本開示の第1実施形態に係る遠隔支援管理システムのシステム構成図である。
【
図12】本開示の第1実施形態に係る遠隔支援管理システムによる、車両A(要支援車両)、車両B(支援不要車両)、遠隔支援管理プランナ、オペレータ間の情報の流れを示すシーケンス図である。
【
図13】本開示の第2実施形態に係る遠隔支援管理システムのシステム構成図である。
【
図14】本開示の第2実施形態に係る遠隔支援管理システムによる、車両A(要支援車両)、車両B(支援不要車両)、遠隔支援管理プランナ、オペレータ間の情報の流れを示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術思想に必ずしも必須のものではない。
【0029】
1.遠隔支援管理システムの基本構成
図1は、自動運転車両の遠隔監視システムの構成図である。遠隔監視システム100は、遠隔オペレータ35,36,38,39によって自動運転車両20を遠隔監視するシステムである。以下、遠隔オペレータ35,36,38,39を単にオペレータ35,36,38,39と呼ぶ。遠隔監視の対象とされる自動運転車両20の自動運転レベルとしては、例えば、レベル4又はレベル5が想定される。以下、自動運転車両20を単に車両20と呼ぶ。
【0030】
オペレータ35,36,38,39は、例えば、監視センタ30に常駐して車両20を監視する常駐オペレータ35,36と、在宅で車両20を監視する在宅オペレータ38,39とを含む。監視センタ30にはサーバ32が設置されている。常駐オペレータ35,36が操作する操作端末34は、監視センタ30内のLANを介してサーバ32に接続されている。在宅オペレータ38,39が操作する操作端末37は、インターネットを含む通信ネットワーク10を介してサーバ32に接続されている。操作端末34,37は、それぞれ、オペレータ35,36,38,39の人数に見合った台数が用意されている。
【0031】
遠隔監視システム100の一つの機能が車両20の遠隔支援管理である。そして、遠隔支援管理を行うシステムが本開示の各実施形態に係る遠隔支援管理システムである。第1実施形態では、監視センタ30内のサーバ32が遠隔支援管理システムとして機能し、第2実施形態では、監視センタ30内のサーバ32と車両20の車載コンピュータとによって遠隔支援管理システムが構成される。サーバ32は、4Gや5Gを含む通信ネットワーク10を介して複数台の車両20に接続されている。
【0032】
遠隔支援管理システムは、自律走行する複数の車両20と通信し、車両20からの支援要求を受けてオペレータ35,36,38,39に遠隔支援を行わせるシステムである。遠隔支援では、車両20による自動運転のための判断の一部はオペレータ35,36,38,39が行う。運転に必要な認知、判断、及び操作に関する基本的な計算は車両20において行われる。オペレータ35,36,38,39は、車両20から送信される情報に基づき、車両20が取るべき行動を判断し、車両20に指令する。オペレータ35,36,38,39から車両20に対して送られる遠隔支援の指令には、車両20の進行の指令及び車両20の停止の指令が含まれる。また、遠隔支援の指令には、前方の障害物に対するオフセット回避の指令、先行車の追い越しの指示、緊急退避の指示等が含まれていてもよい。
【0033】
なお、遠隔支援に対するオペレータ35,36,38,39のスキル、すなわち、熟練度は一様ではない。常駐オペレータ35,36は、高いスキルを持ったオペレータ35と、スキルが低いオペレータ36とに分けられる。同様に、在宅オペレータ38,39も、高いスキルを持ったオペレータ38と、スキルが低いオペレータ39とに分けられる。一般に、高いスキルを持ったオペレータ35,38の利用コスト(人件費)は相対的に高く、スキルが低いオペレータ36,39の利用コストは相対的に低い。オペレータ35,36,38,39の人数は1人以上、好ましくは複数人であることが好ましい。特に、高スキルの常駐オペレータ35は、少なくとも1人存在することが好ましい。
【0034】
図2は、車両20の構成の一例を示すブロック図である。車両20は、車載コンピュータ21を備える。車載コンピュータ21は、車両20に搭載される複数のECU(Electronic Control Unit)の集合体である。また、車両20は、外部センサ22、内部センサ23、アクチュエータ24、及び通信装置25を備える。これらは、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを用いて車載コンピュータ21に接続されている。
【0035】
車載コンピュータ21は、1つ又は複数のプロセッサ21a(以下、単にプロセッサ21aと呼ぶ)とプロセッサ21aに結合された1つ又は複数のメモリ21b(以下、単にメモリ21bと呼ぶ)とを備えている。メモリ21bには、プロセッサ21aで実行可能な1つ又は複数のプログラム21c(以下、単にプログラム21cと呼ぶ)とそれに関連する種々の情報とが記憶されている。
【0036】
プロセッサ21aがプログラム21cを実行することにより、プロセッサ21aによる各種処理が実現される。プログラム21cには、例えば、自動運転を実現するためのプログラムと、遠隔支援を実現するためのプログラムとが含まれる。また、第2実施形態の場合、プログラム21cには、車載コンピュータ21を遠隔支援管理システムの一部として機能させるプログラムが含まれる。メモリ21bは主記憶装置と補助記憶装置とを含む。プログラム21cは、主記憶装置に記憶されることもできるし、補助記憶装置であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されることもできる。また、補助記憶装置には、自動運転のための地図情報を管理する地図データベースが記憶されていてもよい。
【0037】
外部センサ22は、車両20の周囲、特に車両20の前方を撮像するカメラを含む。カメラは、複数台設けられていてもよく、車両20の前方の他、側方及び後方を撮像してもよい。また、カメラは、自動運転用とオペレータ35,36,38,39による遠隔支援用とで共用されてもよいし、自動運転用のカメラと遠隔支援用のカメラとが別々に設けられてもよい。
【0038】
外部センサ22は、カメラ以外の認識センサを含む。認識センサは、車両20の周囲の状況を認識するための情報をするセンサである。カメラ以外の認識センサとしては、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、及びミリ波レーダが例示される。また、外部センサ22は、車両20の位置及び方位を検出する位置センサを含む。位置センサとしては、GPS(Global Positioning System)センサが例示される。外部センサ22で得られた情報は車載コンピュータ21に送信される。また、外部センサ22は、車両20の周囲の音を集音するマイクを含む。
【0039】
内部センサ23は、車両20の運動に関する情報を取得する状態センサを含む。状態センサとしては、例えば、車輪速センサ、加速度センサ、角速度センサ、及び舵角センサが例示される。加速度センサと角速度センサとは、IMUであってもよい。内部センサ23で得られた情報は車載コンピュータ21に送信される。以下、内部センサ23で得られた情報と外部センサ22で得られた情報とを総称して車両20の運行状況情報という。ただし、運行状況情報には、車両20のセンサで取得される運行状況情報の他にも、車両20の運行を管理する運行管理サーバで取得される運行状況情報も存在する。
【0040】
アクチュエータ24は、車両20を操舵する操舵装置、車両20を駆動する駆動装置、及び車両20を制動する制動装置を含んでいる。操舵装置には、例えば、パワーステアリングシステム、ステアバイワイヤ操舵システム、及び後輪操舵システムが含まれる。駆動装置には、例えば、エンジン、EVシステム、及びハイブリッドシステムが含まれる。制動装置には、例えば、油圧ブレーキ、及び電力回生ブレーキが含まれる。アクチュエータ24は、車載コンピュータ21から送信される制御信号によって動作する。
【0041】
通信装置25は、車両20の外部との無線通信を制御する装置である。通信装置25は、通信ネットワーク10を介してサーバ32と通信を行う。車載コンピュータ21で処理された情報は、通信装置25を用いてサーバ32に送信される。サーバ32で処理された情報は、通信装置25を用いて車載コンピュータ21に取り込まれる。また、自動運転のために他の車両との車車間通信やインフラ施設との路車間通信が必要な場合、それら外部装置との通信も通信装置25によって行われる。
【0042】
図3は、監視センタ30の構成の一例を示すブロック図である。監視センタ30には、サーバ32と通信装置33と操作端末34が設置されている。通信装置33は、監視センタ30の外部との通信を制御する装置である。通信装置33は、通信ネットワーク10を介して行われるサーバ32と複数台の車両20との通信を仲介する。サーバ32で処理された情報は、通信装置33を用いて車両20に送信される。車両20で処理された情報は、通信装置33を用いてサーバ32に取り込まれる。また、通信装置33は、監視センタ30の外部に設置された操作端末37とサーバ32との通信を仲介する。
【0043】
サーバ32は、1つのコンピュータ、又は、通信ネットワークで接続された複数のコンピュータの集合体である。サーバ32は、1つ又は複数のプロセッサ32a(以下、単にプロセッサ32aと呼ぶ)とプロセッサ32aに結合された1又は複数のメモリ32b(以下、単にメモリ32bと呼ぶ)とを備えている。メモリ32bには、プロセッサ32aで実行可能な1つ又は複数のプログラム32c(以下、単にプログラム32cと呼ぶ)とそれに関連する種々の情報とが記憶されている。
【0044】
プロセッサ32aがプログラム32cを実行することにより、プロセッサ32aによる各種処理が実現される。第1実施形態の場合、プログラム32cには、サーバ32を遠隔支援管理システムとして機能させるプログラム(遠隔支援管理プログラム)が含まれる。第2実施形態の場合、プログラム32cには、サーバ32を遠隔支援管理システムの一部として機能させるプログラムが含まれる。メモリ32bは主記憶装置と補助記憶装置とを含む。プログラム32cは、主記憶装置に記憶されることもできるし、補助記憶装置であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されることもできる。また、補助記憶装置には、自動運転のための地図情報を管理する地図データベースが記憶されていてもよい。地図データベースは、サーバ32と車載コンピュータ21の少なくとも一方に記憶されていればよい。
【0045】
操作端末34,37は、情報出力部34a,37aを備える。情報出力部34a,37aは、オペレータ35,36,38,39に対して車両20の遠隔支援に必要な情報を出力する機器である。情報出力部34a,37aに出力される情報は、サーバ32から各操作端末34,37に送信される。情報出力部34a,37aは、映像を出力するディスプレイと音を出力するスピーカとを含む。ディスプレイには、例えば、車両20のカメラが撮像した車両20の前方の映像が表示される。ディスプレイは、複数の表示画面を有していてもよく、車両20の側方及び/又は後方の映像が表示されてもよい。スピーカは、例えば、マイクにより集音された車両20の周囲の状況を音声によりオペレータ35,36,38,39に伝える。
【0046】
操作端末34,37は、操作入力部34b,37bを備える。操作入力部34b,37bは、オペレータ35,36,38,39の遠隔支援のための操作を入力する機器である。操作入力部34b,37bで入力された情報は、サーバ32から車両20に送信される。入力機器の具体例としては、ボタン、レバー、及びタッチパネルを例示することができる。例えば、レバーを倒す方向によって、車両20に対して進行/停止を指示したり、横方向への移動を指示したりしてもよい。横方向への移動には、例えば、前方の障害物に対するオフセット回避、車線変更、先行車の追い越しが含まれる。
【0047】
2.遠隔支援管理システムの概要
本開示の遠隔支援管理システムの目的は、車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することにある。そこで、まず、複数の車両が運用されている場合にオペレータにかかる負荷について
図4を用いて説明する。
図4は、4台の車両A,B,C,Dが運用されている状況において、これらの車両A,B,C,Dから支援要求が発せられた場合のオペレータの負荷の例を示している。なお、ここでいうオペレータの負荷とは、支援要求の処理に必要なオペレータの人数を意味する。
【0048】
図4に示す例では、それぞれの車両A,B,C,Dからばらばらのタイミングで支援要求が出されている。チャートの横軸は時間であり、支援要求に対応する長方形の長さは、その支援要求の処理に必要な時間、すなわち、支援時間を表している。必要な支援時間は、支援要求の内容によって異なる。
図4に示す例では、複数の支援要求の間で支援時間が同一時刻で重なっている。例えば、支援要求Aは支援要求Bと重なり、同時に支援要求Cとも重なっている。このように同一時刻において支援要求が重複する場合、重複した支援要求の数だけのオペレータが必要となる。
図4に示す例では、必要なオペレータ人数は最大で3人である。しかし、仮にオペレータが2人しかいないとすると、支援要求A,B,Cのうちのどれか1つは処理することができず、破綻が生じてしまう。支援要求に対してオペレータを割り当てられない状況をオペレータ破綻と呼ぶ。
【0049】
本開示の遠隔支援管理システムは、上記のような破綻を生じさせないための処理を実行する。概略的には、本開示の遠隔支援管理システムは、各車両の運行状況に基づいて車両ごとに将来における支援要求の発生を予測し、発生が予測された支援要求ごとに予測支援期間を計算する。予測支援期間は、その支援要求の処理に必要と予測される期間である。支援要求の内容に応じて標準的な支援時間が統計的に求められているので、予測支援期間の計算にはその統計上の支援時間が用いられる。以下、将来において発生が予測される支援要求を潜在支援要求と呼ぶ場合がある。潜在支援要求の予測に用いられる運行状況の情報には、例えば、地図情報、車両位置、走行経路、及び車速が含まれる。
【0050】
支援要求の発生が予測される状況としては、例えば、以下のような状況を挙げることができる。第1の例は、路車間通信機器(V2I)のない信号交差点である。路車間通信機器のない信号交差点では、信号の点灯色および周囲の状況判断のために支援要求の発生が予測される。路車間通信機器の有無の情報を予めデータベースに登録しておくことで、車両の位置情報、走行経路情報、車速情報から潜在支援要求の予測発生時刻及び予測支援時間を計算することができる。
【0051】
第2の例は、大型貨物自動車及び大型乗用車の密集箇所である。車両長が大きい大型車両が隣接する場合、認識センサによる物体の認識精度に低下を招くために支援要求の発生が予測される。本遠隔支援管理システムの運用前及び運用中に各車両のセンサで大型車両の駐車実績データを収集し、収集された駐車実績データから傾向分析を行うことで、密集した大型車両との遭遇頻度の高い場所・時間帯を特定することができる。特定された大型車両の密集場所・時間帯をデータベースに登録しておくことで、車両の位置情報、走行経路情報、車速情報から潜在支援要求の予測発生時刻及び予測支援時間を計算することができる。
【0052】
第3の例は、LiDARの経時劣化による認識精度の低下である。LiDARは射出されるレーザ光の反射強度を用いてセンシングする。このため、射出される光強度の絶対値の低下は認識性能の低下を意味し、自動運転の信頼性を低下させる。よって、LiDARの認識精度が低下した状況では支援要求の発生が予測される。LiDARに用いられる半導体レーザには、熱や過電流等を起因とした光学損傷による速い劣化と、結晶生成と作製プロセスに起因する遅い劣化とが存在する。ここでは遅い劣化に着目し、ある基準対象物からの反射強度のモニタリング結果を運行状況情報として取得する。第1及び第2の例とは異なり、第3の例では、運行状況情報としてのモニタリング結果を長期間監視することで経時劣化に伴う支援要求の発生が予測される。
【0053】
本開示の遠隔支援管理システムは、潜在支援要求の予測結果を所定の更新周期で更新する。そして、更新のたびに、更新周期より長い所定の予測時間だけ将来の時刻まで、潜在支援要求を予測する。一例として、更新周期を1秒とし、潜在支援要求の予測時間を1分としてもよい。潜在支援要求を予測する予測時間を予測結果の更新周期よりも長くすることで、予測の精度を高めることができる。
【0054】
本開示の遠隔支援管理システムは、潜在支援要求を車両ごとに予測し、複数の潜在支援要求の間で予測支援期間が同一時刻において重なるかどうか判定する。予測支援期間は、オペレータが1つの支援要求に拘束される期間を意味している。ゆえに、複数の潜在支援要求の間で予測支援期間が重なるのであれば、少なくとも重複している潜在支援要求の数の分だけのオペレータの人数が必要となる。以下、予測支援期間が同一時刻において重なる潜在支援要求を重複支援要求と呼ぶ。
【0055】
重複支援要求が所定数を超えて発生しオペレータの不足が予測された場合、本開示の遠隔支援管理システムは、一部の車両に対し運転モードの変更を指示することでオペレータ不足を回避する。ここで行われる運転モードの変更は、通常の運転モードである第1の運転モードから、支援要求の発生を回避或いは遅延させて重複支援要求の発生を回避するための第2の運転モードへの変更である。通常の運転モードとは、最も効率的且つ乗員にとって快適に自動運転を行うことができる運転モードである。運転モードの変更を指示する車両は、重複支援要求の発生が予測された車両のうち所定数を超える台数の車両である。典型的には、所定数は利用可能な待機オペレータの数である。具体的にどの車両に対して運転モードの変更を指示するのかは、重複支援要求の発生が予測された車両ごとに計算される評価値に基づいて判断される。
【0056】
上記の評価値は、支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させる車両の決定に用いられる。重複支援要求の発生が予測された車両のうち、評価値が高い車両から優先的に運転モードの変更が行われる。評価値の計算には、発生確率、影響度、必要スキル、必要処理時間、及び余裕時間の5つの変数が用いられる。以下の計算式(1)は、これら5つの変数を用いて表される評価値の計算式の一例である。なお、無次元化係数は所定の固定値である。
評価値=無次元化係数×発生確率×必要スキル×処理時間×余裕時間/影響度
・・・式(1)
【0057】
第1の変数である発生確率は、支援要求の発生確率であって、潜在支援要求ごとに計算される。上記の計算式(1)によれば、発生確率が高い支援要求が予測される車両ほど、評価値は高い値に計算される。支援要求の発生確率が高いほど評価値を高い値にすることで、発生確率が高い支援要求の発生を回避或いは遅延させることができ、オペレータ全体の負荷を低減することができる。なお、発生確率の予測方法としては、以下の方法を例示することができる。第1の例では、過去のログデータから支援要求の発生箇所、発生時間帯、及び頻度を分析することにより、各時間帯における支援要求の発生確率が予測される。第2の例では、通過する地点の交通条件(トラックが多い等)、道路条件(交差点等))、及び気象条件から遠隔支援の発生確率が予測される。
【0058】
第2の変数である影響度は、潜在支援要求の原因が周囲に与える影響の大きさを表す数値である。以下のリストでは、影響度の考え方から想定される事象が大きく分類分けされている。各分類に付されている数値が影響度である。ここでは影響度は1から6までの6段階に設定され、数値1が影響度の最も大きな事象を対象とし、数値の増加に応じて影響度は低下する。異常・故障に関わる事象の影響度は高くされ、正常状態における事象の影響度は低くされている。
影響度1.交通事故の発生が予測されたこと
影響度2.故障・異常による走行の継続の困難が予測されたこと
影響度3.故障・異常による縮退運転が予測されたこと
影響度4.自車の振る舞いで後突されるリスクのある事象が予測されたこと
影響度5.交通流を乱すリスクのある事象が予測されたこと
影響度6.運行遅延や乗り心地に影響を与える事象が予測されたこと
【0059】
影響度は潜在支援要求ごとに計算される。上記の計算式(1)によれば、影響度が高い支援要求の発生が予測される車両ほど、評価値は高い値に計算される。潜在支援要求の原因が周囲に与える影響度が高いほど評価値を高い値にすることで、周囲に与える影響の大きい現象の発生を回避或いは遅延させることができ、円滑な交通を維持することができる。上記の影響度は、運転モードを変更する順番を決定する上での優先度ともいえる。
【0060】
第3の変数である必要スキルは、予測された潜在支援要求の処理に必要なオペレータのスキルであって、潜在支援要求ごとに計算される。必要スキルが高いほどオペレータの利用コストも高くなる。上記の計算式(1)によれば、必要スキルが高い支援要求の発生が予測される車両ほど、評価値は高い値に計算される。必要スキルが高いほど評価値を高い値にすることで、処理する上で高いスキルを要する支援要求の発生を回避或いは遅延させることができ、オペレータの利用コストを低減することができる。
【0061】
第4の変数である処理時間は、予測された潜在支援要求の処理に必要とされる時間であって、潜在支援要求ごとに計算される。処理に要した時間が長くなるほどオペレータの利用コストは高くなる。上記の計算式(1)によれば、処理時間が長い支援要求の発生が予測される車両ほど、評価値は高い値に計算される。処理時間が長いほど評価値を高い値にすることで、長い処理時間を要する支援要求の発生を回避或いは遅延させることができ、オペレータの利用コストを低減することができる。それと同時に、1台の車両の支援にオペレータが専有されることを抑えることもできる。なお、処理時間と必要スキルとから、支援要求の難易度を表すタスクレベルを計算することができる。タスクレベルの高い支援要求は、高いスキルを有するオペレータに割り当てられることが望ましい。
【0062】
第5の変数である余裕時間は、潜在支援要求が予測されてから実際に支援要求が発生するまでの時間であって、潜在支援要求ごとに計算される。支援要求が発生するまでに十分な余裕がなければ、運転モードを変更したところで支援要求の発生を回避或いは遅延させることは難しい。上記の計算式(1)によれば、余裕時間が長い支援要求の発生が予測される車両ほど、評価値は高い値に計算される。これによれば、余裕時間の長い支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させ、運転モードの変更を指示された車両が運転モードを変更するまでの応答時間に余裕を持たせることができる。その結果として、運転モードの変更による支援要求の発生の回避或いは遅延の確実性を向上させることができる。
【0063】
図5は、車両A,B,C,Dごとに潜在支援要求A,B,C,Dを予測し、上述の方法にて計算された車両A,B,C,Dごとの評価値に従って潜在支援要求A,B,C,Dの順位付けをした例を示している。
図5に示す例では、潜在支援要求A,B,Cの間の重複度が最も高く、潜在支援要求A,B,Cが重複する車両A,B,Cのうちで車両Cの評価値が最も高い。よって、支援要求の発生を回避或いは遅延させる場合、評価値が最も高い車両Cから優先的に運転モードの変更が行われる。
【0064】
図6は、支援要求の発生の回避によるオペレータの負荷の適正化の例を示す図である。ここでは、車両Cの運転モードが変更されることによって、潜在支援要求Cが回避されている。そして、残った潜在支援要求A,B,Dのうち潜在支援要求B,DはオペレータAに割り当てられ、潜在支援要求AはオペレータBに割り当てられている。潜在支援要求B,Dを割り当てられたオペレータAは、実際に車両B,Dから発せられる支援要求を受けて車両B,Dに対する遠隔支援を実行する。潜在支援要求Aを割り当てられたオペレータBは、実際に車両Aから発せられる支援要求を受けて車両Aに対する遠隔支援を実行する。また、潜在支援要求Cが回避されたことにより、車両Cからの支援要求の発生は回避される。
【0065】
図7は、支援要求の発生の遅延によるオペレータの負荷の適正化の例を示す図である。ここでは、車両Cの運転モードが変更されることによって、潜在支援要求Cは遅延され、潜在支援要求A,Bとの同一時刻での重複が解消されている。そして、潜在支援要求A,B,C,Dのうち潜在支援要求B,DはオペレータAに割り当てられ、潜在支援要求Aと遅延された潜在支援要求CとはオペレータBに割り当てられている。潜在支援要求B,Dを割り当てられたオペレータAは、実際に車両B,Dから発せられる支援要求を受けて車両B,Dに対する遠隔支援を実行する。潜在支援要求A,Cを割り当てられたオペレータBは、実際に車両A,Cから発せられる支援要求を受けて車両A,Cに対する遠隔支援を実行する。潜在支援要求Cが遅延されたことにより、実際に車両Cから発生される支援要求も遅延される。
【0066】
図6及び
図7に示す各例のように、重複支援要求の発生が予測された車両A,B,Cのうち、評価値が高い車両Cに対して運転モードの変更を指示することによって、重複支援要求の発生を回避し、オペレータの負荷を適正化することができる。具体的には、重複支援要求の発生を回避しない場合には、
図4に示す例のように3人のオペレータが必要とされるが、重複支援要求の発生を回避することでオペレータは2人で足りる。なお、
図6及び
図7に示す例におけるオペレータCは、予測とは異なる不測の事態に備えて待機している待機オペレータである。本開示の遠隔支援管理システムによれば、オペレータの負荷の適正化によって、このような待機オペレータを一定数確保しておくことができる。
【0067】
次に運転モードの変更について説明する。運転モードの変更には、走行計画を変更すること、車速・加減速を含む速度プロファイルを変更すること、走行軌跡を変更すること、停車を指示すること、灯火類を点灯することなどが含まれる。本開示の遠隔支援管理システムは、これらの制御の中から潜在支援要求の内容に応じて1つ或いは複数の制御を選択して実行する。
【0068】
具体例として、上述の影響度が設定された各事象に対して、以下のような制御が選択される。ただし、制御の種別は同じであっても、影響度が高くなるにつれて速度指示値などの程度は変更される。例えば、交通事故の発生が予測された場合と、運行遅延や乗り心地に影響を与える事象が予測された場合とでは、速度プロファイルの変更内容は異ならされる。
事象1.交通事故の発生が予測された場合
走行計画の変更
車速・加減速を含む速度プロファイルの変更
走行軌跡の変更
停車指示
事象2.故障・異常による走行の継続の困難が予測された場合
走行計画の変更
車速・加減速を含む速度プロファイルの変更
灯火類の点灯
停車指示
事象3.故障・異常による縮退運転が予測された場合
走行計画の変更
車速・加減速を含む速度プロファイルの変更
走行軌跡の変更
停車指示
事象4.自車の振る舞いで後突されるリスクのある事象が予測された場合
走行計画の変更
車速・加減速を含む速度プロファイルの変更
走行軌跡の変更
事象5.交通流を乱すリスクのある事象が予測された場合
車速・加減速を含む速度プロファイルの変更
走行軌跡の変更
事象6.運行遅延や乗り心地に影響を与える事象が予測された場合
車速・加減速を含む速度プロファイルの変更
走行軌跡の変更
【0069】
図8乃至
図10は、運転モードの変更の具体例を示す図である。各図の共通事項として、白い矢印線は第1運転モードによる車両の動きを示し、黒い矢印線は第2運転モードによる車両の動きを示している。また、各図の共通事項として、斜線によるハッチングが施された矢印線は、遠隔支援による車両の動きを示している。
【0070】
図8は、車速・加減速を含む速度プロファイルの変更の一例を示している。例えば、車両の進行方向の前方に交通事故の発生が予測された場合、交通事故の処理が行われている区間は、遠隔支援によって車両を通過させる必要がある場合がある。その区間を迂回できないのであれば、車両からの支援要求は回避することができないが、速度プロファイルを変更することによって車両から支援要求が発せられるタイミングを遅延させることができる。
【0071】
図8に示す例では、第1運転モードと第2運転モードのそれぞれについて時刻ごとの車両の目標位置が黒丸で示されている。この例では、第1運転モードでは時刻T(i+2)で遠隔支援区間に到達するところ、第2運転モードでは時刻T(i+4)で遠隔支援区間に到達する。つまり、第2運転モードでは、第1運転モードよりも車両速度を低下させることで、遠隔支援区間への到達時間が遅らされている。ゆえに、この例では、第1運転モードから第2運転モードへ変更することで、支援要求の発生を遅延させることができる。
【0072】
図9は、走行計画の変更の一例を示している。上述の
図8に示す例では、速度プロファイルを変更することによって遠隔支援区間への到達時間が遅らせているが、遠隔支援区間を迂回する迂回路が存在する場合には、車両がその迂回路を走行するように走行計画を変更してもよい。
図9に示す例では、第1運転モードでは遠隔支援区間を通るルートが選択されているのに対し、第2運転モードでは遠隔支援区間を迂回するルートが選択される。ゆえに、この例では、第1運転モードから第2運転モードへ変更することで、支援要求の発生を回避することができる。
【0073】
図10は、走行計画の変更の別の例を示している。例えば、右側通行の国(例えば米国、中国)の場合、信号機のない交差点や左折専用の矢印信号がない交差点では、車両が自動運転で交差点を左折することには困難を伴う。よって、そのような交差点では、車両から支援要求が発せられる確率が高い。
図10に示す例では、交差点を左折して目的地に到達する最短ルートが第1運転モードで選択されるルートになっている。しかし、このルートでは遠隔支援が必要となる確率は高い。これに対して、第2運転モードでは、左折は行わずに右折を繰り返しながら目的地に到達するルートが選択されている。左折とは異なり右折であれば遠隔支援が必要となる確率は低い。ゆえに、この例では、第1運転モードから第2運転モードへ変更することで、支援要求の発生を回避することができる。
【0074】
3.第1実施形態に係る遠隔支援管理システムの構成
次に、本開示の第1実施形態に係る遠隔支援管理システムの構成について説明する。第1実施形態では、サーバ32のメモリ32bに記憶されたプログラム(遠隔支援管理プログラム)32cがプロセッサ32aで実行されることにより、サーバ32が遠隔支援管理システムとして機能する。第1実施形態では、遠隔支援管理システムとして機能するサーバ32を遠隔支援管理プランナ32と呼ぶ。
【0075】
図11は、第1実施形態に係る遠隔支援管理システム、すなわち、遠隔支援管理プランナ32のシステム構成図である。遠隔支援管理プランナ32は、運行状況情報取得部321、支援要求発生予測部322、評価値計算部323、運転モード変更指示判断部324、運転モード変更指示部325、支援要求優先度判定部326、オペレータ最適配置部327、オペレータHMI機能部328、及びオペレータ専有率監視部329を備える。これらは、メモリ32bに記憶されたプログラム32cがプロセッサ32aで実行されたときに、遠隔支援管理プランナとしてのサーバ32の機能として実現される。
【0076】
遠隔支援管理プランナ32は、複数の車両と通信する。ここでは、遠隔支援管理プランナ32が通信する車両を、要支援車両20A、支援不要車両20B、及び支援不要車両20Cに分類する。要支援車両20Aは、現に遠隔支援を必要としている車両である。支援不要車両20Bは、現時点では遠隔支援の必要はないが、潜在支援要求を有し且つその評価値の高い車両である。支援不要車両20Cは、現時点では遠隔支援の必要はないが、潜在支援要求を有し且つその評価値の低い車両である。
【0077】
運行状況情報取得部321は、車両20A,20B,20Cを含む運行中の全車両の運行状況情報を取得する。運行状況情報は、各車両から取得された情報と、車両の運行を管理する運行管理サーバから取得された情報とが含まれる。サーバ32が運行管理サーバとしても機能しているのであれば、サーバ32を運行管理サーバとして機能させるプログラムから、サーバ32を遠隔支援管理プランナとして機能させるプログラムへ運行状況情報が渡される。
【0078】
支援要求発生予測部322は、運行状況情報取得部321で取得された各車両の運行状況情報に基づいて将来における支援要求(潜在支援要求)の発生を車両ごとに予測する。支援要求発生予測部322は、予測対象の車両から取得した情報だけでなく、対象車両以外の他の車両から取得した情報、遠隔支援管理プランナ32が有している情報、及び、運行管理サーバから取得した情報も用いて対象車両の潜在支援要求を予測する。潜在支援要求が予測される状況の具体例については上述の通りである。
【0079】
さらに、支援要求発生予測部322は、予測された潜在支援要求ごとに予測支援期間、つまり、その潜在支援要求の処理のためにオペレータが拘束される期間を計算する。そして、予測された潜在支援要求間で予測支援期間の時間的な重複を判定し、予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求の数を計数する。
【0080】
評価値計算部323は、重複支援要求の発生が予測された車両のそれぞれについて、支援要求の発生を優先的に回避或いは遅延させる車両を決定するための評価値を計算する。上述の通り、評価値計算部323は、5つの変数、すなわち、発生確率、影響度、必要スキル、処理時間、及び余裕時間を潜在支援要求ごとに取得し、それらを上記の計算式(1)に入力することによって評価値を算出する。
【0081】
運転モード変更指示判断部324は、後述するオペレータ専有率監視部329からオペレータの専有状況を受け取る。そして、利用可能な待機オペレータに対し、支援要求発生予測部322で予測された全ての潜在支援要求を割り当て可能かどうか判定する。この初期判定の結果、割り当て不可能な潜在支援要求が発生した場合、或いは、割り当て後のオペレータの予測専有率が上限(例えば90パーセント)を超える場合、運転モード変更指示判断部324はオペレータ破綻と判断する。なお、利用可能な待機オペレータには、常に一定数確保されている不測の事態のための待機オペレータ(
図6及び
図7に示すオペレータC)は含まれない。
【0082】
運転モード変更指示判断部324は、オペレータ破綻の場合、評価値計算部323から得た評価値に基づいて運転モードを変更する車両を選定する。詳しくは、運転モード変更指示判断部324は、オペレータ破綻の原因となった重複支援要求を生じさせている複数の潜在支援要求のうち、利用可能なオペレータ人数を超える分の潜在支援要求について、評価値が高い順に回避或いは遅延の対象を選定する。運転モード変更指示判断部324は、選定した潜在支援要求を回避或いは遅延させる前提で潜在支援要求のオペレータへの最終割り当てを行う。そして、運転モード変更指示判断部324は、回避或いは遅延の対象として選定された潜在支援要求を生じさせている車両を、第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの変更の対象として選定する。
【0083】
運転モード変更指示部325は、運転モード変更指示判断部324で選定された対象車両に対して第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの変更を指示する。対象車両は支援不要車両20Bに含まれる。運転モード変更指示部325は、潜在支援要求の内容、特に、影響度の内容に応じて選択した制御を第2運転モードとして対象車両に指示する。
【0084】
支援不要車両20Bの中の対象車両は、運転モード変更指示部325からの指示に従って運転モードを変更する。運転モードの変更の指示を受信した対象車両が潜在支援要求の回避或いは遅延のための行動を取ることで、利用可能な待機オペレータの人数を超える数の支援要求が重複して発生することは回避される。仮に、運転モードの変更後に遠隔支援が必要になったとしても、不測の事態のための待機オペレータは確保されているため、即座にオペレータ破綻を招くことはない。
【0085】
次に、要支援車両20Aから遠隔支援管理プランナ32に送信される支援要求の処理について説明する。
【0086】
支援要求優先度判定部326は、要支援車両20Aから支援要求を受信する。複数の要支援車両20Aから受信した支援要求が時間的に重複する場合、支援要求優先度判定部326は、以下の分類に従って支援要求間の優先順位付けを行う。各分類に付されている数値が優先度である。ここでは優先度は1から7までの7段階に設定され、数値1が優先度の最も大きな事象を対象とし、数値の増加に応じて優先度は低下する。優先度は異常・故障に関わる事象を高優先とされ、正常状態における事象は低優先とされる。ただし、正常状態においても事故リスクに関する事象の優先度を高くされている。
優先度1.交通事故発生時
優先度2.故障・異常による走行継続困難時
優先度3.故障・異常による縮退運転時
優先度4.自車が他車もしくは人へ衝突するリスクのある事象
優先度5.自車の振る舞いで後突されるリスクのある事象
優先度6.交通流を乱すリスクのある事象
優先度7.運行遅延や乗り心地に影響を与える事象
【0087】
支援要求優先度判定部326は、要支援車両20Aの車両位置、要支援車両20Aが通過する道路特性(交差点、合流路、制限速度など)、要支援車両20Aからの支援要求フラグの種別、及び、要支援車両20Aの車両速度に基づいて分類を判定する。上記の分類によれば、優先度が高いほど、速やかな対応と高いスキルとが求められる支援要求であると言える。
【0088】
オペレータ最適配置部327は、オペレータ専有率監視部329からオペレータの専有状況を受け取る。そして、支援要求優先度判定部326で判定された支援要求ごとの優先度に従って、利用可能な待機オペレータを配置する。例えば、優先度が相対的に高い支援要求に対しては、高いスキルを持ったオペレータ35,38を配置し、優先度が相対的に低い支援要求に対しては、スキルが低いオペレータ36,39を配置する。常駐オペレータ35,36と在宅オペレータ38,39とが利用可能な場合、例えば、常駐オペレータ35,36に対して優先的に支援要求を配分するようにしてもよい。
【0089】
オペレータHMI機能部328は、オペレータ最適配置部327で決定された支援要求と待機オペレータとの組み合わせに従い、要支援車両20Aとオペレータ35,36,38,39とをHMIで接続する。より詳しくは、要支援車両20Aとオペレータ35,36,38,39が操作する操作端末34,37とを接続する。これにより、要支援車両20Aのカメラで撮影された映像が操作端末34,37のディスプレイに表示され、オペレータ35,36,38,39は要支援車両20Aの状況を確認できるようになる。要支援車両20Aの状況を確認後、オペレータ35,36,38,39は操作端末34,37を操作し、要支援車両20Aからの支援要求に合った遠隔支援を要支援車両20Aに対して実行する。
【0090】
オペレータ専有率監視部329は、オペレータHMI機能部328によるオペレータ35,36,38,39の接続結果に基づいてオペレータ専有率を計算する。オペレータ専有率とは、例えば、現時点から所定時間(例えば60秒)内にどれだけのオペレータが遠隔支援操作に専有されるのかを示すパラメータである。オペレータ専有率監視部329は、所定の更新周期でオペレータ専有率を計算し、更新されたオペレータ専有率を運転モード変更指示判断部324とオペレータ最適配置部327とに供給する。
【0091】
ここで、上述のように構成される第1実施形態に係る遠隔支援管理システムにより実現される情報の流れについて
図12を用いて説明する。
図12は、第1実施形態に係る遠隔支援管理システムによる、車両A(要支援車両)、車両B(支援不要車両)、遠隔支援管理プランナ、及びオペレータ間の情報の流れを示すシーケンス図である。このシーケンス図は、本開示の第1実施形態に係る遠隔支援管理方法を表してもいる。
【0092】
図12に示す例では、車両Aと車両Bのそれぞれから遠隔支援管理プランナに運行状況情報が送信される。また、図示は省略するが、運行管理サーバからも各車両A,Bの運行状況情報が遠隔支援管理プランナに送信される。
【0093】
遠隔支援管理プランナは、取得した各車両A,Bの運行状況情報に基づき、車両A,Bそれぞれの将来における支援要求の発生を予測する。また、遠隔支援管理プランナは、発生が予測された支援要求、すなわち、潜在支援要求ごとに予測支援期間を計算する。
図12に示す例では、車両A,Bともに潜在支援要求が予測されたとする。
【0094】
予測支援期間が同一時刻において重なる重複支援要求が利用可能な所定数を超えて発生することが予測された場合、遠隔支援管理プランナは、重複支援要求の発生が予測された車両A,Bのそれぞれについて上述の評価値を計算する。
【0095】
次に、遠隔支援管理プランナは、利用可能な待機オペレータに対し、予測された全ての潜在支援要求を待機オペレータに割り当て可能かどうか判定する。オペレータ破綻が生じた場合、遠隔支援管理プランナは、評価値の高い順に第1の運転モードから第2の運転モードへの変更を指示する車両を選定する。
図12に示す例では車両Bが対象車両として選定される。
【0096】
そして、遠隔支援管理プランナは、対象車両として選定した車両Bに対して第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの変更を指示する。その際、遠隔支援管理プランナは、選潜在支援要求の内容、特に、影響度の内容に応じて選択した制御を第2運転モードとして車両Bに指示する。
【0097】
車両Bは、遠隔支援管理プランナから指示されたとおり第1の運転モードから第2の運転モードへ運転モードを変更する。これにより、将来、車両Bから発生するはずであった支援要求は回避されるか遅延される。
【0098】
一方、車両Aは、その後、予測されていたとおり遠隔支援が必要な状況となり、遠隔支援管理プランナに対して支援要求を送信する。
【0099】
遠隔支援管理プランナは、車両Aからの支援要求を受けてオペレータの最適配置を判断する。そして、車両Aの担当として選任したオペレータに対して、車両Aの状況、具体的には、車両Aのカメラで撮影された映像をディスプレイに表示する。
【0100】
オペレータはディスプレイに表示された映像から車両Aの状況を確認し、車両Aに対する遠隔支援操作を実行する。
【0101】
以上の説明から明らかなように、第1実施形態に係る遠隔支援管理システムによれば、実際に支援要求が発生した場合に、支援期間が同一時刻において重なる支援要求の数は利用可能な待機オペレータ数以下に抑えられる。その結果、遠隔支援を行うオペレータ全体の負荷は低減され、自動運転車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することができる。
【0102】
4.第2実施形態に係る遠隔支援管理システムの構成
次に、本開示の第2実施形態に係る遠隔支援管理システムの構成について説明する。第2実施形態では、サーバ32のメモリ32bに記憶されたプログラム32cがプロセッサ32aで実行されることにより、サーバ32は遠隔支援管理システムの一部として機能する。また、車載コンピュータ21のメモリ21bに記憶されたプログラム21cがプロセッサ21aで実行されることにより、車載コンピュータ21は遠隔支援管理システムの一部として機能する。そして、サーバ32と、複数の車両のそれぞれに搭載された車載コンピュータ21とが通信ネットワークを介して接続されることで、第2実施形態に係る遠隔支援管理システムが構成される。なお、ここでいう複数の車両とは、要支援車両20A、支援不要車両20B、及び支援不要車両20Cを含む、監視センタ30の監視下にある全車両を意味する。第2実施形態では、遠隔支援管理システムの一部として機能するサーバ32を遠隔支援管理プランナ32と呼ぶ。
【0103】
図13は、第2実施形態に係る遠隔支援管理システムのシステム構成図である。第2実施形態では、第1実施形態に係る遠隔支援管理プランナ32が備えていた機能の一部が、車載コンピュータ21に移されている。車載コンピュータ21は、運行状況情報取得部211、支援要求発生予測部212、及び評価値計算部213を備える。これらは、メモリ21bに記憶されたプログラム21cがプロセッサ21aで実行されたときに、車載コンピュータ21の機能として実現される。
【0104】
運行状況情報取得部211は、車載コンピュータ21が搭載された対象車両のセンサを用いて対象車両の運行状況情報を取得する。
【0105】
支援要求発生予測部212は、運行状況情報取得部211で取得された対象車両の運行状況情報に基づいて将来における支援要求(潜在支援要求)の発生を予測する。そして、予測された潜在支援要求の予測支援期間を計算する。第1実施形態に係る支援要求発生予測部322が他の車両の運行状況情報も用いて予測を行うのに対し、第2実施形態に係る支援要求発生予測部212は、対象車両のセンサで取得される対象車両の運行状況のみを用いて予測を行う。支援要求の発生の予測精度の面では第1実施形態のほうが有利であるが、第1実施形態によれば、高い応答性をもって対象車両における支援要求の発生を予測することができる。
【0106】
評価値計算部213は、支援要求発生予測部212で予測された潜在支援要求について評価値を計算する。評価値計算部213は、5つの変数、すなわち、予測された潜在支援要求の発生確率、影響度、必要スキル、処理時間、及び余裕時間を計算し、それらを上記の計算式(1)に入力することによって評価値を算出する。
【0107】
各車両20A,20B,20Cは、車載コンピュータ21で計算された潜在支援要求の予測支援期間と評価値とを遠隔支援管理プランナ32に送信する。
【0108】
第2実施形態に係る遠隔支援管理プランナ32は、運転モード変更指示判断部324、運転モード変更指示部325、支援要求優先度判定部326、オペレータ最適配置部327、オペレータHMI機能部328、及びオペレータ専有率監視部329を備える。これらは、メモリ32bに記憶されたプログラム32cがプロセッサ32aで実行されたときに、遠隔支援管理プランナとしてのサーバ32の機能として実現される。
【0109】
運転モード変更指示判断部324は、オペレータ専有率監視部329からオペレータの専有状況を受け取る。そして、利用可能な待機オペレータに対し、各車両20A,20B,20Cから取得した潜在支援要求の全てを割り当て可能かどうか判定する。この初期判定の結果、割り当て不可能な潜在支援要求が発生した場合、或いは、割り当て後のオペレータの予測専有率が上限を超える場合、運転モード変更指示判断部324はオペレータ破綻と判断する。オペレータ破綻の場合、運転モード変更指示判断部324は、各車両20A,20B,20Cから潜在支援要求とともに取得した評価値に基づいて運転モードを変更する車両を選定する。
【0110】
運転モード変更指示部325は、運転モード変更指示判断部324で選定された対象車両に対して第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの変更を指示する。対象車両は支援不要車両20Bに含まれる。運転モード変更指示部325は、潜在支援要求の内容、特に、影響度の内容に応じて選択した制御を第2運転モードとして対象車両に指示する。支援不要車両20Bの中の対象車両は、運転モード変更指示部325からの指示に従って運転モードを変更する。
【0111】
要支援車両20Aから遠隔支援管理プランナ32に送信される支援要求の処理については第1実施形態と共通である。よって、支援要求優先度判定部326、オペレータ最適配置部327、オペレータHMI機能部328、及びオペレータ専有率監視部329の各機能についての説明は省略する。
【0112】
次に、上述のように構成される第2実施形態に係る遠隔支援管理システムにより実現される情報の流れについて
図14を用いて説明する。
図14は、第2実施形態に係る遠隔支援管理システムによる、車両A(要支援車両)、車両B(支援不要車両)、遠隔支援管理プランナ、及びオペレータ間の情報の流れを示すシーケンス図である。このシーケンス図は、本開示の第2実施形態に係る遠隔支援管理方法を表してもいる。
【0113】
図14に示す例では、車両Aは、車両Aのセンサを用いて運行状況情報を取得し、取得した運行状況情報に基づいて支援要求の発生を予測するとともに予測された支援要求(潜在支援要求)の予測支援期間を計算し、予測された潜在支援要求の評価値を計算する。車両Bもまた、車両Bのセンサを用いて運行状況情報を取得し、取得した運行状況情報に基づいて支援要求の発生を予測するとともに予測された支援要求(潜在支援要求)の予測支援期間を計算し、予測された潜在支援要求の評価値を計算する。車両Aと車両Bは、それぞれが独立に、潜在支援要求の予測支援期間と評価値とを遠隔支援管理プランナに送信する。
【0114】
遠隔支援管理プランナは、利用可能な待機オペレータに対し、車両Aと車両Bとから取得した全ての潜在支援要求を待機オペレータに割り当て可能かどうか判定する。オペレータ破綻が生じた場合、遠隔支援管理プランナは、評価値の高い順に第1の運転モードから第2の運転モードへの変更を指示する車両を選定する。
図14に示す例では車両Bが対象車両として選定される。
【0115】
そして、遠隔支援管理プランナは、対象車両として選定した車両Bに対して第1運転モードから第2運転モードへの運転モードの変更を指示する。その際、遠隔支援管理プランナは、選潜在支援要求の内容、特に、影響度の内容に応じて選択した制御を第2運転モードとして車両Bに指示する。
【0116】
車両Bは、遠隔支援管理プランナから指示されたとおり第1の運転モードから第2の運転モードへ運転モードを変更する。これにより、将来、車両Bから発生するはずであった支援要求は回避されるか遅延される。
【0117】
一方、車両Aは、その後、予測されていたとおり遠隔支援が必要な状況となり、遠隔支援管理プランナに対して支援要求を送信する。
【0118】
遠隔支援管理プランナは、車両Aからの支援要求を受けてオペレータの最適配置を判断する。そして、車両Aの担当として選任したオペレータに対して、車両Aのカメラで撮影された映像をディスプレイに表示する。
【0119】
オペレータはディスプレイに表示された映像から車両Aの状況を確認し、車両Aに対する遠隔支援操作を実行する。
【0120】
以上の説明から明らかなように、第1実施形態と同様に、第2実施形態に係る遠隔支援管理システムによっても、実際に支援要求が発生した場合に、支援期間が同一時刻において重なる支援要求の数は利用可能な待機オペレータ数以下に抑えられる。その結果、遠隔支援を行うオペレータ全体の負荷は低減され、自動運転車両の遠隔支援によって円滑な交通を維持しつつ、遠隔支援に必要なオペレータの人員を低減することができる。
【符号の説明】
【0121】
10 通信ネットワーク
20 自動運転車両
21 車載コンピュータ
21a プロセッサ
21b メモリ
21c プログラム
30 監視センタ
32 サーバ(遠隔支援管理プランナ)
32a プロセッサ
32b メモリ
32c プログラム
34,37 操作端末
35,36,38,39 オペレータ
100 遠隔監視システム