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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】タンク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/10 20060101AFI20240903BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20240903BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20240903BHJP
   B29C 70/30 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B29C70/10
F17C1/06
F16J12/00 A
B29C70/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021103973
(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公開番号】P2023003047
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里屋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
(72)【発明者】
【氏名】石川 武史
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】ロシア国特許出願公開第2748287(RU,C1)
【文献】特開2014-190495(JP,A)
【文献】特開2017-187153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/10
F17C 1/06
F16J 12/00
B29C 70/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナーと、前記ライナーを覆うとともに繊維束に樹脂が含浸された繊維強化樹脂によって形成された補強層と、を備えるタンクであって、
前記補強層は、
前記胴体部を覆うとともに前記繊維束の繊維が前記タンクの周方向に配向された周方向配向層と、
前記周方向配向層及び前記ドーム部を覆うヘリカル層と、
前記ヘリカル層のうち前記ドーム部を覆う部分の外側に配置され、前記タンクの軸方向から見たときに前記繊維束の繊維が前記ドーム部の径方向に沿って放射線状に配向された放射線状配向層と、を有し、
前記放射線状配向層は、前記補強層のうち最も外側に配置された層であり、その拡がり端部が前記ドーム部と前記胴体部との連結位置を越えて更に前記胴体部の一部まで覆うように延びていることを特徴とするタンク。
【請求項2】
前記放射線状配向層の外側には、プロテクタが配置されている請求項に記載のタンク。
【請求項3】
円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナーを形成するライナー形成工程と、繊維束に樹脂が含浸された繊維強化樹脂を用いて前記ライナーを覆う補強層を形成する補強層形成工程とを含むタンクの製造方法であって、
前記補強層形成工程は、
前記繊維束の繊維が前記タンクの周方向に配向されるように前記胴体部を覆う周方向配向層を形成する周方向配向層形成工程と、
前記周方向配向層及び前記ドーム部を覆うヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、
記タンクの軸方向から見たときに前記繊維束の繊維が前記ドーム部の径方向に沿って放射線状に配向されるように、前記ヘリカル層のうち前記ドーム部を覆う部分の外側に放射線状配向層を形成する放射線状配向層形成工程と、を有し、
前記放射線状配向層形成工程において、形成される前記放射線状配向層の拡がり端部が前記ドーム部と前記胴体部との連結位置を越えて更に前記胴体部の一部まで延びるように、前記補強層のうち最も外側に配置される前記放射線状配向層を形成すること特徴とするタンクの製造方法。
【請求項4】
前記放射線状配向層形成工程は、テーププレースメント法により行われる請求項に記載のタンクの製造方法。
【請求項5】
前記放射線状配向層形成工程において、前記繊維強化樹脂からなるテープを熱圧着する請求項に記載のタンクの製造方法。
【請求項6】
前記タンクは、前記放射線状配向層の外側に配置されたプロテクタを備え、
前記放射線状配向層形成工程において、予め作製された前記プロテクタの内面に、製造される前記タンクの軸方向から見たときに前記繊維束の繊維が前記ドーム部の径方向に沿って放射線状に配向されるように前記繊維強化樹脂からなるテープを貼り付け、前記テープが貼り付けられた前記プロテクタを前記ライナーの外側に装着し、前記繊維束に含浸された樹脂を硬化させる請求項又はに記載のタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車などに搭載されるタンクとして、円筒状の胴体部と該胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナーと、ライナーを覆うとともに繊維束に樹脂が含浸された繊維強化樹脂によって形成された補強層と、を備えるものが知られている。このような構造を有するタンクは、先にライナーを形成し、形成したライナーを巻き芯としてフィラメントワインディング法(FW法)で、樹脂が含浸された繊維束を該ライナーの外周面に巻き付けて補強層を形成することにより製造されている。そして、FW方で補強層を形成する際に、ライナーの胴体部に繊維束をフープ巻きしてフープ層を形成し、形成したフープ層とライナー全体とを覆うように更に繊維束をヘリカル巻きしてヘリカル層を形成する(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-169656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のようなタンクでは、胴体部の強度はフープ層によって確保されており、ドーム部の強度はヘリカル層によって確保されている。すなわち、ヘリカル層は、胴体部にも形成されるが、胴体部の補強にはほとんど寄与していない。しかしながら、連続した繊維束をヘリカル巻きによりライナーの両端部を往復するように巻き付ける場合、繊維束が胴体部を必ず通過することになる。このように胴体部にもヘリカル層が形成されることで、繊維強化樹脂の使用量が無駄になってしまうという問題点がある。
【0005】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、繊維強化樹脂の使用量を削減することができるタンク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るタンクは、円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナーと、前記ライナーを覆うとともに繊維束に樹脂が含浸された繊維強化樹脂によって形成された補強層と、を備えるタンクであって、前記補強層のうち前記ドーム部を覆う部分には、前記タンクの軸方向から見たときに前記繊維束の繊維が前記ドーム部の径方向に沿って放射線状に配向された放射線状配向層が含まれていることを特徴としている。
【0007】
本発明に係るタンクによれば、補強層のうちライナーのドーム部を覆う部分には、タンクの軸方向から見たときに繊維束の繊維がドーム部の径方向に沿って放射線状に配向された放射線状配向層が含まれているので、該放射線状配向層でドーム部を補強できるとともに、従来のようにドーム部を補強するヘリカル層の形成に伴って胴体部にもヘリカル層を形成する必要がなくなる。すなわち、放射線状配向層を用いることでドーム部の補強を実現しつつ、従来の胴体部にもヘリカル層を形成することを省くことができる。その結果、従来と比べて繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。
【0008】
本発明に係るタンクにおいて、前記補強層は、前記胴体部を覆うとともに前記繊維束の繊維が前記タンクの周方向に配向された周方向配向層と、前記周方向配向層及び前記ドーム部を覆うヘリカル層と、前記ヘリカル層のうち前記ドーム部を覆う部分の外側に配置された前記放射線状配向層と、を有することが好ましい。このようにすれば、周方向配向層を利用して胴体部を補強することができる。また、放射線状配向層がヘリカル層の外側に配置されるので、周方向配向層とヘリカル層との間に段差が生じることを防止でき、タンクの強度を向上することができる。
【0009】
本発明に係るタンクにおいて、前記補強層は、前記胴体部を覆うとともに前記繊維束の繊維が前記タンクの周方向に配向された周方向配向層と、前記ドーム部を覆う前記放射線状配向層と、前記周方向配向層及び前記放射線状配向層を覆うヘリカル層と、を有することが好ましい。このようにすれば、周方向配向層を利用して胴体部を補強することができる。また、放射線状配向層がヘリカル層の内側に配置されるので、放射線状配向層とドーム部との密着性を高めることができる。
【0010】
本発明に係るタンクにおいて、前記放射線状配向層の外側には、プロテクタが配置されていることが好ましい。このようにすれば、タンクの耐衝撃性を向上することができる。
【0011】
また、本発明に係るタンクの製造方法は、円筒状の胴体部と前記胴体部の軸方向の両端に設けられた一対のドーム部とを有するライナーを形成するライナー形成工程と、繊維束に樹脂が含浸された繊維強化樹脂を用いて前記ライナーを覆う補強層を形成する補強層形成工程とを含むタンクの製造方法であって、前記補強層形成工程は、前記ドーム部の外側に、前記タンクの軸方向から見たときに前記繊維束の繊維が前記ドーム部の径方向に沿って放射線状に配向される放射線状配向層を形成する放射線状配向層形成工程を有すること特徴としている。
【0012】
本発明に係るタンクの製造方法では、補強層形成工程は、ドーム部の外側にタンクの軸方向から見たときに繊維束の繊維がドーム部の径方向に沿って放射線状に配向される放射線状配向層を形成する放射線状配向層形成工程を有する。この放射線状配向層形成工程を利用し放射線状配向層を形成することにより、ドーム部を補強できるとともに、従来のようにドーム部を補強するヘリカル層の形成に伴って胴体部にもヘリカル層を形成する必要がなくなる。すなわち、放射線状配向層形成工程を利用することでドーム部の補強を実現しつつ、従来の胴体部にもヘリカル層を形成することを省くことができる。その結果、従来と比べて繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。
【0013】
本発明に係るタンクの製造方法において、前記放射線状配向層形成工程は、テーププレースメント法により行われることが好ましい。フィラメントワインディング法では放射線状配向層の形成が困難であり、テーププレースメント法を用いることで放射線状配向層を容易に形成することができる。
【0014】
本発明に係るタンクの製造方法において、前記放射線状配向層形成工程において、前記繊維強化樹脂からなるテープを熱圧着することが好ましい。このようにすれば、テープの貼り付けと同時に繊維束に含浸された樹脂を硬化できるので、放射線状配向層の形成を効率化できる。
【0015】
本発明に係るタンクの製造方法において、前記タンクは、前記放射線状配向層の外側に配置されたプロテクタを備え、前記放射線状配向層形成工程において、予め作製された前記プロテクタの内面に、製造される前記タンクの軸方向から見たときに前記繊維束の繊維が前記ドーム部の径方向に沿って放射線状に配向されるように前記繊維強化樹脂からなるテープを貼り付け、前記テープが貼り付けられた前記プロテクタを前記ライナーの外側に装着し、前記繊維束に含浸された樹脂を硬化させることが好ましい。このようにすれば、放射線状配向層を形成すると同時にプロテクタをライナーに固定することができるので、放射線状配向層の形成とプロテクタの固定を別々に行う場合と比べて製造工数を削減することができ、プロテクタとライナーとの密着性を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係るタンクの構造を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係るタンクの製造方法を示す工程図である。
図3】ライナー形成工程及び周方向配向層形成工程を説明するための断面図である。
図4】ヘリカル層形成工程を説明するための断面図である。
図5】放射線状配向層工程を説明するための模式図である。
図6】タンクの軸方向から見たときのテープの貼り付けを示す図である。
図7】第2実施形態に係るタンクの構造を示す概略断面図である。
図8】第3実施形態に係るタンクの構造を示す概略断面図である。
図9】プロテクタの内面にテープを貼り付けることを示す模式断面図である。
図10】プロテクタの装着を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係るタンク及びその製造方法の実施形態を説明する。本実施形態において、タンク1は、燃料電池車両に搭載されて内部に高圧の水素ガスが充填される例として説明するが、その他の用途についても適用されてもよい。また、タンク1に充填可能なガスとしては、高圧の水素ガスに限定されず、CNG(圧縮天然ガス)などの各圧縮ガス、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)などの各種液化ガス、その他のガスが充填されてもよい。
【0019】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係るタンクの構造を示す断面図である。本実施形態のタンク1は、両端がドーム状に丸みを帯びた略円筒形状の高圧ガス貯蔵容器であって、ガスバリア性を有するライナー2と、ライナー2の外面を覆う補強層3と、タンク1の一端部に取り付けられた口金4と、を備えている。
【0020】
ライナー2は、高圧水素を貯留する貯留空間5を有する中空の容器であって、水素ガスに対するガスバリア性を有する樹脂材料などによって形成されている。このライナー2は、円筒状の胴体部21と該胴体部21の両側に配置された一対のドーム部(第1ドーム部22、第2ドーム部23)とで構成されている。胴体部21は、タンク1の軸L方向に沿って所定の長さで延在している。第1ドーム部22及び第2ドーム部23は、胴体部21の両側に連続して形成されており、胴体部21から遠ざかるに従ってそれぞれ縮径するように半球状を呈している。
【0021】
第1ドーム部22及び第2ドーム部23のうち、第1ドーム部22の頂部には開口部が形成され、該開口部には上述の口金4が装着されている。一方、第2ドーム部23には開口部が形成されておらず、口金4も設けられていない。
【0022】
ライナー2は、例えばポリエチレンやナイロンなどの樹脂部材を用いて回転・ブロー成形法によって一体的に形成されている。また、ライナー2は、回転・ブロー成形法のような一体成形の製造方法に代えて、射出・押出成形などにより複数に分割された部材を連結することにより形成されてもよい。更に、ライナー2は、樹脂部材に代えてアルミニウムなどの金属材料によって形成されてもよい。
【0023】
補強層3は、ライナー2を補強してタンク1の剛性や耐圧性などの機械的強度を向上させる機能を有し、繊維強化樹脂により形成された層を複数(本実施形態では、3つ)有する。繊維強化樹脂は、例えば直径が数μm程度の繊維を束ねて構成された繊維束に、熱硬化性樹脂が含浸されることにより形成されている。繊維としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、天然繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの強化繊維を挙げることができ、特に軽量性及び機械的強度などの観点から炭素繊維を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂に代表される変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂を挙げることができる。なお、繊維束に含浸された樹脂として、熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0024】
本実施形態では、補強層3は、ライナー2の胴体部21を覆うとともに繊維束の繊維がタンク1の周方向に配向された周方向配向層31と、周方向配向層31、ライナー2の第1ドーム部22及び第2ドーム部23を覆うヘリカル層32と、ヘリカル層32のうち第1ドーム部22及び第2ドーム部23を覆う部分の外側に配置される放射線状配向層33a,33bと、を有する。
【0025】
周方向配向層31は、ライナー2の胴体部21の外周面に形成された繊維強化樹脂層である。周方向配向層31において、繊維束の繊維は胴体部21の周方向(言い換えれば、タンク1の周方向)に配向されている。本実施形態において「周方向に配向される」ことは、繊維束の繊維がタンク1の軸Lに対して略垂直になるように、タンク1の円周に沿って配置されることを意味する。また、「略垂直」とは、90°と、繊維束同士が重ならないように繊維束の巻き付け位置をずらすことによって生じ得る90°前後の角度との両方を含む。
【0026】
この周方向配向層31は、例えばライナー2の軸(すなわち、タンク1の軸L)と略垂直な巻き角度で、胴体部21の外周面に樹脂が含浸された繊維束をフープ巻きすることにより形成されたフープ層であってもよい。また、この周方向配向層31は、例えば円柱状のマンドレルの外周面に繊維強化樹脂からなるシートを、繊維束の繊維がマンドレルの軸方向に対して略垂直な角度で該マンドレルの円周に配向されるように巻き付けることで形成されてもよい。
【0027】
ヘリカル層32は、周方向配向層31と該周方向配向層31により覆われていない第1ドーム部22及び第2ドーム部23とを包むように、ライナー2の全体にわたって形成された繊維強化樹脂層である。このヘリカル層32は、タンク1の軸Lに対して0°より大きく90°未満の巻き角度で、タンク1の周方向に樹脂が含浸された繊維束をヘリカル巻きすることによって形成されている。従って、ヘリカル層32において繊維束の繊維は、タンク1の周方向に配向されておらず、タンク1の周方向と交差する様々な方向に配向されている。
【0028】
なお、周方向配向層31に用いられた繊維強化樹脂とヘリカル層32に用いられた繊維強化樹脂とは、同じ樹脂且つ同じ繊維であってもよく、異なる樹脂及び/又は異なる繊維であってもよい。
【0029】
一方、放射線状配向層33a,33bは、ヘリカル層32と同様にライナー2の全体にわたって形成されるものではなく、ヘリカル層32の外側において第1ドーム部22及び第2ドーム部23と対応する位置にのみ形成されている。ここでは、第1ドーム部22と対応する放射線状配向層を第1放射線状配向層33a、第2ドーム部23と対応する放射線状配向層を第2放射線状配向層33bとする。
【0030】
第1放射線状配向層33aは、その中心部に口金4を露出するための開口部が設けられたドーム状を呈しており、その開口部とは反対側の拡がり端部331は、第1ドーム部22と胴体部21との連結位置まで延びている。拡がり端部331は、第1ドーム部22と胴体部21との連結位置を越え、更に胴体部21の一部まで覆うように延びるのが好ましい。そして、第1放射線状配向層33aにおいて、タンク1の軸L方向から見たときに、繊維束の繊維は第1ドーム部22の径方向に沿って放射線状に配向されている。
【0031】
第2ドーム部23に口金4が装着されていないため、第2放射線状配向層33bは、ドーム状を呈しており、その拡がり端部332は第2ドーム部23と胴体部21との連結位置まで延びている。拡がり端部332は、第2ドーム部23と胴体部21との連結位置を越え、更に胴体部21の一部まで覆うように延びるのが好ましい。そして、第2放射線状配向層33bにおいて、タンク1の軸L方向から見たときに、繊維束の繊維は第2ドーム部23の径方向に沿って放射線状に配向されている。
【0032】
本実施形態のタンク1では、ヘリカル層32の外側において第1ドーム部22と対応する位置に第1放射線状配向層33a、第2ドーム部23と対応する位置に第2放射線状配向層33bがそれぞれ形成されている。第1放射線状配向層33aと第2放射線状配向層33bは、タンク1の軸L方向から見たときに、繊維束の繊維が第1ドーム部22の径方向又は第2ドーム部23の径方向に沿ってそれぞれ放射線状に配向されている。従って、第1放射線状配向層33aで第1ドーム部22を補強し、第2放射線状配向層33bで第2ドーム部23を補強できるとともに、従来のようにドーム部を補強するヘリカル層の形成に伴って胴体部にもヘリカル層を形成する必要がなくなる。すなわち、第1放射線状配向層33aと第2放射線状配向層33bを用いることで第1ドーム部22と第2ドーム部23の補強を実現しつつ、従来の胴体部にもヘリカル層を形成することを省くことができる。その結果、従来と比べて繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。
【0033】
また、補強層3は、ライナー2の胴体部21を覆う周方向配向層31と、周方向配向層31、第1ドーム部22及び第2ドーム部23を覆うヘリカル層32と、ヘリカル層32のうち第1ドーム部22を覆う部分の外側に配置された第1放射線状配向層33a、第2ドーム部23を覆う部分の外側に配置された第2放射線状配向層33bとを有する。このようにすれば、周方向配向層31を利用して胴体部21を補強することができるとともに、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bがヘリカル層32の外側に配置されるので、周方向配向層31とヘリカル層32との間に段差が生じることを防止でき、タンク1の強度を一層向上することができる。
【0034】
以下、図2図6を参照してタンク1の製造方法を説明する。図2は第1実施形態に係るタンクの製造方法を示す工程図である。タンク1の製造方法は、ライナー形成工程S1と、周方向配向層形成工程S2と、ヘリカル層形成工程S3と、硬化工程S4と、放射線状配向層形成工程S5とを含む。周方向配向層形成工程S2、ヘリカル層形成工程S3、硬化工程S4、及び放射線状配向層形成工程S5は、特許請求の範囲に記載の「補強層形成工程」を構成する。
【0035】
ライナー形成工程S1では、円筒状の胴体部21と該胴体部21の軸方向の両端に設けられた第1ドーム部22及び第2ドーム部23とを有するライナー2を形成する。具体的には、例えば回転・ブロー成形法を用いて樹脂製のライナー2を形成し、或いはアルミニウム板を利用して金属加工と溶接などでアルミニウム製のライナー2を形成してもよい。
【0036】
周方向配向層形成工程S2では、例えば熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)が含浸された繊維束をライナー2の胴体部21の外周面にフープ巻きして周方向配向層31を形成する(図3参照)。また、ここでは、例えば円柱状のマンドレルの外周面に繊維強化樹脂からなるシートを、繊維束の繊維がマンドレルの周方向に配向されるように巻き付けることで周方向配向層31を形成してもよい。この場合、形成した周方向配向層31にライナー2を挿入する必要がある。
【0037】
ヘリカル層形成工程S3では、まず、周方向配向層31が形成されたライナー2に口金4を装着する。次に、周方向配向層31、第1ドーム部22及び第2ドーム部23を覆うように、熱硬化性樹脂が含浸された繊維束をヘリカル巻きしてヘリカル層32を形成する(図4参照)。
【0038】
硬化工程S4では、周方向配向層31及びヘリカル層32の樹脂を硬化させる。例えば周方向配向層31及びヘリカル層32が形成されたライナー2を恒温槽に入れて、85℃程度の温度で加熱することで、繊維束に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0039】
放射線状配向層形成工程S5では、テーププレースメント法を用いて、ヘリカル層32の外側であって該ヘリカル層32における第1ドーム部22と対応する位置に第1放射線状配向層33a、ヘリカル層32の外側であって該ヘリカル層32における第2ドーム部23と対応する位置に第2放射線状配向層33bをそれぞれ形成する。この工程では、例えば繊維強化樹脂からなるテープ6を、タンク1の軸L方向から見たときに繊維束の繊維が第1ドーム部22又は第2ドーム部23の径方向に沿って放射線状に配向されるように熱圧着することで、これらの放射線状配向層を形成する。
【0040】
具体的には、図5に示すように、周方向配向層31及びヘリカル層32が形成されたライナー2を回転させながら、テーププレースメント装置7を使って口金4側から胴体部21と第1ドーム部22との連結位置側に向けてヘリカル層32の表面にテープ6を貼り付ける。テープ6は、その長手方向に繊維束の繊維が配向されるように形成されており、テーププレースメント装置7のヘッド71から吐出されながら該ヘッド71にヘリカル層32の表面に熱圧着される。
【0041】
図6はタンクの軸方向から見たときのテープの貼り付けを示す図である。図6に示すように、テープ6をヘリカル層32の表面に貼り付ける際に、テープ6の長手方向が口金4側から胴体部21と第1ドーム部22との連結位置側に延びるように、ヘリカル層32の表面に1層目のテープ6を放射線状に貼り付ける。このとき、第1ドーム部22の曲面形状によって隣接するテープ6同士の間に隙間が生じる。次に、生じた隙間を埋めるように1層目の上に2層目のテープ6を貼り付ける。このようにすることで、タンク1の軸L方向から見たときに、繊維束の繊維が第1ドーム部22の径方向に沿って放射線状に配向された第1放射線状配向層33aを形成することができる。
【0042】
次に、同じ方法で、ヘリカル層32における第2ドーム部23と対応する位置に、タンク1の軸L方向から見たときに繊維束の繊維が第2ドーム部23の径方向に沿って放射線状に配向された第2放射線状配向層33bを形成する。なお、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bの形成順序は上記内容に限定されず、第2放射線状配向層33bを形成した後に第1放射線状配向層33aを形成してもよい。
【0043】
本実施形態に係るタンク1の製造方法では、ヘリカル層32の外側において第1ドーム部22と対応する位置に第1放射線状配向層33a、第2ドーム部23と対応する位置に第2放射線状配向層33bをそれぞれ形成する放射線状配向層形成工程S5を含む。該放射線状配向層形成工程S5を利用し第1放射線状配向層33aと第2放射線状配向層33bを形成することにより、第1ドーム部22と第2ドーム部23を補強できるとともに、従来のようにドーム部を補強するヘリカル層の形成に伴って胴体部にもヘリカル層を形成する必要がなくなる。すなわち、放射線状配向層形成工程S5を利用することで第1ドーム部22及び第2ドーム部23の補強を実現しつつ、従来の胴体部にもヘリカル層を形成することを省くことができる。その結果、従来と比べて繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。
【0044】
また、放射線状配向層形成工程S5はテーププレースメント法により行われるので、放射線状配向層の形成が困難であるFW法と比べて、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bを容易に形成することができる。更に、繊維強化樹脂からなるテープを熱圧着することで第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bを形成するので、テープ6の貼り付けと同時に繊維束に含浸された熱硬化性樹脂を硬化できる。その結果、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bの形成を効率化できる。なお、本実施形態の放射線状配向層形成工程S5において、テープ6を熱圧着する例を説明したが、熱圧着に代えてテープ6を貼り付けた後に熱硬化するようにしてもよい。
【0045】
[第2実施形態]
以下、図7を参照して第2実施形態のタンクを説明する。第2実施形態のタンク1Aは、放射線状配向層がヘリカル層の内側に形成される点において、第1実施形態と相違している。ここでは、その相違点のみを説明する。
【0046】
具体的には、図7に示すように、第1放射線状配向層33aは、ライナー2の第1ドーム部22を覆うように第1ドーム部22の外周面に形成されている。第1放射線状配向層33aは、その中心部に口金4を露出するための開口部が設けられたドーム状を呈しており、その開口部とは反対側の拡がり端部331は、第1ドーム部22と胴体部21との連結位置まで延びている。好ましくは、拡がり端部331は、第1ドーム部22と胴体部21との連結位置を越え、更に胴体部21を覆う周方向配向層31の一部まで覆うように延びている。
【0047】
また、第2放射線状配向層33bは、第2ドーム部23を覆うように第2ドーム部23の外周面に形成されている。第2放射線状配向層33bは、ドーム状を呈しており、その拡がり端部332は第2ドーム部23と胴体部21との連結位置まで延びている。好ましくは、拡がり端部332は、第2ドーム部23と胴体部21との連結位置を越え、更に胴体部21を覆う周方向配向層31の一部まで覆うように延びている。
【0048】
そして、ヘリカル層32は、タンク1Aの最も外側に配置され、周方向配向層31、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bを覆うように形成されている。
【0049】
本実施形態のタンク1Aによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bがヘリカル層32の内側に配置されるので、第1放射線状配向層33aと第1ドーム部22との密着性、第2放射線状配向層33bと第2ドーム部23との密着性を高める効果を更に期待できる。
【0050】
このように構成されたタンク1Aを製造する際に、ライナー2の胴体部21を覆う周方向配向層31を形成した後に、テーププレースメント法で第1ドーム部22を覆う第1放射線状配向層33aと、第2ドーム部23を覆う第2放射線状配向層33bをそれぞれ形成し、その後、周方向配向層31、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bを覆うヘリカル層32を形成すればよい。この場合、第1ドーム部22及び第2ドーム部23の外周面にテープ6を熱圧着することにより第1放射線状配向層33aと第2放射線状配向層33bを形成するため、熱圧着を確実に実現する観点から、ライナー2が金属製(例えばアルミニウム製)であることが好ましい。
【0051】
[第3実施形態]
以下、図8を参照して第3実施形態のタンクを説明する。第3実施形態のタンク1Bは、放射線状配向層の外側に配置されたプロテクタを更に備える点において、第1実施形態と相違している。ここでは、その相違点のみを説明する。
【0052】
具体的には、図8に示すように、タンク1Bの両端部において、第1放射線状配向層33aの外側にはプロテクタ8a、第2放射線状配向層33bの外側にはプロテクタ8bがそれぞれ配置されている。
【0053】
プロテクタ8a,8bは、外部からの衝撃とタンク1Bの内圧による応力からタンク1Bを保護する保護部材であり、第1放射線状配向層33a又は第2放射線状配向層33bと固定されている。プロテクタ8aは、口金4が挿通できる開口部81を有する。プロテクタ8a、8bは、例えば耐衝撃性を有する樹脂材料によって形成されている。
【0054】
本実施形態のタンク1Bによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、プロテクタ8a,8bを更に備えるので、タンク1Bの耐衝撃性を向上することができる。
【0055】
タンク1Bの製造方法は、第1実施形態のタンク1の製造方法と同様に、ライナー形成工程S1と周方向配向層形成工程S2とヘリカル層形成工程S3と硬化工程S4と放射線状配向層形成工程S5とを含むが、放射線状配向層形成工程S5において第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0056】
具体的には、放射線状配向層形成工程S5では、まずテーププレースメント法を利用し、予め樹脂成形されたプロテクタ8aの内面に、製造されるタンク1Bの軸L方向から見たときに繊維束の繊維が第1ドーム部22の径方向に沿って放射線状に配向されるようにテープ6を貼り付ける(図9参照)。続いて、テープ6が貼り付けられたプロテクタ8aをライナー2の外側(より詳細には、ヘリカル層32における第1ドーム部22と対応する位置)に装着する(図10参照)。続いて、装着したプロテクタ8a及びテープ6を加熱し、テープ6の繊維束に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0057】
硬化することで、テープ6中の熱硬化性樹脂(例えばエポキシ)がテープ6とヘリカル層32との間に滲み込むので、プロテクタ8a,8bをヘリカル層32と接着させることができる。これによって、第1放射線状配向層33aを形成できるとともに、プロテクタ8aを、周方向配向層31及びヘリカル層32が形成されたライナー2と固定させることができる。
【0058】
次に、同じ方法でプロテクタ8bの内面にテープ6を貼り付け、テープ6が貼り付けられたプロテクタ8bをヘリカル層32における第2ドーム部23と対応する位置に装着して樹脂を硬化させることで、第2放射線状配向層33bを形成し、プロテクタ8bを周方向配向層31及びヘリカル層32が形成されたライナー2と接着して固定させる。
【0059】
本実施形態に係るタンク1Bの製造方法では、放射線状配向層形成工程S5において、予め樹脂成形されたプロテクタ8a,8bの内面に、製造されるタンク1Bの軸L方向から見たときに繊維束の繊維が第1ドーム部22又は第2ドーム部23の径方向に沿って放射線状に配向されるように繊維強化樹脂からなるテープ6を貼り付け、テープ6が貼り付けられたプロテクタ8a,8bをライナー2の外側に装着した後に、加熱により繊維束に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる。このようにすれば、第1放射線状配向層33a及び第2放射線状配向層33bを形成すると同時にプロテクタ8a,8bをライナー2に固定することができるので、放射線状配向層の形成とプロテクタの固定を別々に行う場合と比べて製造工数を削減することができ、プロテクタ8a,8bとライナー2との密着性を確保することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0061】
1,1A,1B タンク
2 ライナー
3 補強層
4 口金
5 貯留空間
6 テープ
7 テーププレースメント装置
8a,8b プロテクタ
21 胴体部
22 第1ドーム部
23 第2ドーム部
31 周方向配向層
32 ヘリカル層
33a 第1放射線状配向層
33b 第2放射線状配向層
71 ヘッド
81 開口部
331,332 拡がり端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10