(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/38 20060101AFI20240903BHJP
F16H 61/00 20060101ALI20240903BHJP
F16H 61/28 20060101ALI20240903BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F16H63/38
F16H61/00
F16H61/28
F16H63/50
(21)【出願番号】P 2021105250
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】舘野 允人
(72)【発明者】
【氏名】小澤 和紘
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-048662(JP,A)
【文献】特開2014-190349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/00-61/02
F16H 61/28
F16H 63/38
F16H 63/48-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、電動式のアクチュエータによりディテントプレートを回転させてシフト位置を切り換えるシフト制御機構とを備えた車両において、予め設定された開始条件が成立すると、前記アクチュエータによって前記シフト制御機構を切り換えるときの基準となる前記アクチュエータの基準位置の学習を実施する基準位置学習手段を備えた、車両の制御装置であって、
前記基準位置学習手段による前記基準位置の学習の実施中は、前記車両の駆動輪の回転を抑止する駆動輪回転抑止手段を、含み、
前記駆動輪回転抑止手段は、前記基準位置学習手段による前記基準位置の学習の実施中は、前記エンジンの始動を禁止する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式のアクチュエータを用いてシフトレンジを切り換える機構を有する車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者のシフト操作を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて電動式のアクチュエータを駆動させて駆動装置のシフトレンジを切り換えるシフト制御システムを備えた車両の制御装置が知られている。特許文献1に記載の制御装置がそれである。特許文献1には車両の制御装置が、車両電源スイッチがオンにされてシフト制御システムが起動すると、P壁位置検出制御として、アクチュエータを回転させてディテントプレートの非P位置であるR位置又はD位置から、アクチュエータの基準位置であるP位置を学習する基準位置学習手段を備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記車両の制御装置においてP位置を学習する基準位置学習手段では、ディテントプレートの非P位置であるR位置又はD位置を通過するとき、Rレンジ又はDレンジの動力伝達経路が一時的に形成されてしまい、エンジンが回転中であると、ドライバーにとって意図しない車両の駆動力が発生してしまう懸念があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とすると係合ローラは、基準位置学習手段による基準位置を学習する制御中に意図しないで車両の駆動力が発生する懸念のない車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、電動式のアクチュエータによりディテントプレートを回転させてシフト位置を切り換えるシフト制御機構とを備えた車両において、予め設定された開始条件が成立すると、前記アクチュエータによって前記シフト制御機構を切り換えるときの基準となる前記アクチュエータの基準位置の学習を実施する基準位置学習手段を備えた、車両の制御装置であって、(b)前記基準位置学習手段による前記基準位置の学習の実施中は、前記車両の駆動輪の回転を抑止する駆動輪回転抑止手段を、含み、(c)前記駆動輪回転抑止手段は、前記基準位置学習手段による前記基準位置の学習の実施中は、前記エンジンの始動を禁止することにある。
【発明の効果】
【0010】
第1発明の車両の制御装置によれば、前記基準位置学習手段による前記基準位置の学習の実施中は、前記車両の駆動輪の回転を抑止する前記駆動輪回転抑止手段により前記車両の駆動輪の回転が抑止される。このように、基準位置学習手段による基準位置を設定する制御中には、前記駆動輪回転抑止手段により前記車両の駆動輪の回転が抑止されるので、意図しないで車両の駆動力が発生する懸念のない車両の制御装置が得られる。
また、前記駆動輪回転抑止手段は、前記基準位置学習手段による前記基準位置の学習の実施中は、前記エンジンの始動を禁止する。このように、基準位置学習手段による基準位置を設定する制御中には、駆動輪回転抑止手段によってエンジンの回転に由来する車両の駆動輪の回転が抑止されるので、意図しないで車両の駆動力が発生する懸念のない車両の制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明が適用された車両の概略構成を説明する図である。
【
図2】
図1のシフト制御機構の構造を示す図である。
【
図3】
図2のディテントプレートのカム面を拡大して示す図である。
【
図4】
図1の電子制御装置における制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【
図5】本発明の他の実施例の電子制御装置における制御作動の要部を説明するフローチャートであり、
図4に相当する図である。
【
図6】本発明のさらに他の実施例の電子制御装置における制御作動の要部を説明するフローチャートであり、
図4に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が好適に適用される車両10の駆動装置及びその制御系の一部を模式的に示す図である。車両10の駆動装置は、エンジン12、自動変速機14、トルクコンバータ16等を備えている。エンジン12により発生させられた駆動力は、トルクコンバータ16を介して自動変速機14に伝達される。そして、自動変速機14により変速された駆動力が差動歯車装置18を介して左右の駆動輪20へ伝達される。エンジン12は、車両10の走行用駆動力を発生させる駆動力源であり、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、ブレーキ制御回路19からの油圧によって駆動輪20を制動するブレーキ装置21が設けられている。
【0017】
また、車両10は、その車両10に関する各種制御を行うための電子制御装置22を備えている。電子制御装置22は、例えばCPU、RAM、ROM、入力インターフェイス等を備えた所謂マイクロコンピュータであり、そのCPUによりRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御をはじめとし、自動変速機14の変速制御、シフトバイワイヤ制御等の各種制御を実行するように構成されている。この電子制御装置22は、エンジン12の燃焼状態や出力を制御するエンジン制御用コンピュータE/G-ECU、自動変速機14の変速を制御する変速制御用コンピュータECT-ECU、後述のシフトレンジ切換装置38およびパーキングロック装置46を制御するシフトバイワイヤ制御用コンピュータSBW-ECU、ブレーキ制御回路19を介してブレーキ装置21を制御するECB-ECUを、含んでいる。
【0018】
図1に示すように、各種センサやスイッチ等からそれぞれの検出値を示す信号が電子制御装置22へ供給されるようになっている。すなわち、図示されていないエンジン回転速度センサからエンジン12の回転速度Neを表す信号、図示されていない入力回転速度センサから自動変速機14の入力回転速度Ninすなわちトルクコンバータ16からの出力回転速度を表す信号、図示されていない車速センサから自動変速機14の出力回転速度Noutに相当する車速Vを表す信号、アクセル開度センサ32からアクセルペダル28の踏込操作の有無乃至操作量(踏込量)Accを表す信号、ブレーキスイッチ30からブレーキペダル26の作動を表す信号Bon、およびシフト位置センサ36からシフトレバー24のシフト方向操作位置例えばP操作位置、R操作位置、N操作位置、D操作位置のいずれかの操作位置を表す操作信号Sspが、それぞれ電子制御装置22へ供給されるようになっており、電子制御装置22により操作信号Sspに基づいてシフトレバー24の操作位置が判定される。これらのアクセルペダル28、ブレーキペダル26およびシフトレバー24の操作、操作量は電気的な信号で供給されており、バイワイヤ方式とも呼ばれている。
【0019】
電子制御装置22からは、車両10に備えられた各種装置の作動を制御するための信号が出力されるようになっている。すなわち、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号として、例えば図示されていない、アクセル開度(踏込量)Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータを駆動する信号、エンジン12内へ噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、及び点火装置によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号等が出力されるようになっている。
【0020】
油圧制御回路34は、電子制御装置22からの信号に基づいて、トルクコンバータ16および自動変速機14内の複数のクラッチおよびブレーキ、すなわち油圧式の摩擦係合装置への油圧を制御することで複数の変速段のうちの1つを択一的に切り換える。また油圧制御回路34は、シフトレバー24の操作信号Sspに基づいてシフトレンジの切換を行なうシフトレンジ切換装置38を備えている。シフトレンジ切換装置38は、シフトレンジ切換装置38によって作動状態が切り換えられるマニュアルバルブ40をさらに備えている。
【0021】
このマニュアルバルブ40は、ライン圧が入力される入力ポート、自動変速機14内の前進変速段の成立に関与する油圧式摩擦係合装置に油圧を供給する前進変速段用出力ポート、自動変速機14内の後進変速段の成立に関与する油圧式摩擦係合装置に油圧を供給する後進変速段用出力ポート、および各油圧式摩擦係合装置に供給された油圧を排出するための排出ポート等を有するバルブボデー42を有している。また、マニュアルバルブ40は、上記バルブボデー42内に挿入され、その挿入方向すなわち軸心方向に移動させられることでその移動位置に応じて上記各ポートを開閉するとともに各ポート同士を連通させるスプール弁子44を有している。
【0022】
シフトレバー24は、例えば運転席の近傍に配置され、順に設けられた複数のシフトポジション、例えば5つのシフトレバーポジション「P」「R」「N」「D」「L」といったポジションの何れかへ手動操作されるようになっている。「P」ポジションはエンジン12からの動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に自動変速機14の図示しない出力軸の回転を阻止するためのパーキングポジション(位置)であり、「R」ポジションは前記出力軸の回転方向を逆回転とするための後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは自動変速機14での動力伝達が遮断されるニュートラル状態とするための中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは自動変速機14を自動的に変速しつつ前進走行する自動変速モードを成立させる前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは、自動変速機14をローギヤ側に保持して強いエンジンブレーキを発生させるエンジンブレーキポジション(位置)である。
【0023】
図2は、自動変速機14のシフトレンジを切り換えるシフトレンジ切換装置38と、自動変速機14の出力軸を回転不能に固定するパーキングロック装置46とのシフトバイワイヤ方式を用いたシフト制御機構を示す斜視図である。シフトレンジ切換装置38は、
図1に示すシフトレバー24のシフト操作に応答して出力される電気的信号(操作信号)Sspに基づいて作動させられる電動式のアクチュエータ56と、そのアクチュエータ56の出力軸に例えば減速装置等を介して連結されたマニュアルシャフト58と、マニュアルシャフト58に固設されると共にマニュアルバルブ40のスプール弁子44と係合させられ、各シフトレンジに応じて予め設定されたスプール弁子44の複数の移動位置に対応する複数の回動位置のいずれか1に回動させられる板状のディテントプレート60とを備えている。
【0024】
図2に示すように、マニュアルシャフト58とディテントプレート60とはボス88を介して固定されており、マニュアルシャフト58とボス88とは固定ピン89によってマニュアルシャフト58の軸心の周方向に回転不能に固定されている。またディテントプレート60とボス88とは、例えばディテントプレート60に挿入されたボス88に力を加えて塑性変形させることすなわちかしめることによって固定されている。アクチュエータ56は、例えばスイッチドリラクタンスモータ(SRモータ)等のステップモータにて構成されている。そして、アクチュエータ56の作動位置すなわちアクチュエータ56のロータの回転角度は、ロータリエンコーダ62により検出される。
【0025】
ディテントプレート60は、ディテントプレート60の一側面から板厚方向へ突設され、スプール弁子44の軸心方向(移動方向)においてそのスプール弁子44と係合するスプール弁子係合ロッド64を備えている。スプール弁子44は、ディテントプレート60がマニュアルシャフト58の軸心まわりに回動させられると、その回動位置に応じて、スプール弁子係合ロッド64によりスプール弁子44の軸心方向へ移動させられる。
【0026】
また、ディテントプレート60は、その外周端縁部のカム面形状に従って、スプール弁子44を予め設定された複数の移動位置のいずれか1に位置決めする機能を備えている。ディテントプレート60の上方に位置する外周端縁部のカム面66には、スプール弁子44を各シフト位置に応じて予め設定されたスプール弁子44の複数の移動位置に対応する複数の回動位置に位置決めするための、複数のカム面凹部68が形成されている。そして、カム面凹部68には、基端部が固定されたディテントスプリング76の先端部に回転可能に支持された係合ローラ78が当接されている。
【0027】
ディテントスプリング76は、カム面66に向けて係合ローラ78を所定の押圧力で付勢している。これにより、基本的には、係合ローラ78が複数のカム面凹部68のいずれかに落ち込むことによりディテントプレート60が複数の回動位置のいずれか1に位置決めされ、スプール弁子44が各シフト位置に応じて予め設定された複数の移動位置のいずれか1に位置決めされるようになっている。
図3は、
図2のディテントプレート60のカム面66を拡大して示す図である。カム面66には、複数のカム面凹部68として、D位置凹部68d、N位置凹部68n、R位置凹部68r、P位置凹部68pが順に形成されている。
【0028】
パーキングロック装置46は、
図1に示す自動変速機14の図示しない出力軸に連結されたパーキングギヤ48と、一軸心まわりに回動させられることでパーキングギヤ48に接近および離間可能とされ、パーキングギヤ48に接近させられたときにそのパーキングギヤ48と噛み合う爪部80aを有し、爪部80aがパーキングギヤ48に噛み合わされることにより出力軸を回転不能に固定するパーキングロックポール80と、パーキングロックポール80に係合するテーパ部材82に挿し通されてそのテーパ部材82を一端部において支持するパーキングロッド84と、テーパ部材82をその小径側へ付勢するスプリング86とを備えて構成されている。
【0029】
上記パーキングロッド84の他端部は、ディテントプレート60の下端部のパーキングロッド穴100に連結されており、テーパ部材82は、ディテントプレート60が回動させられることでそのテーパ部材82の小径側または大径側へ移動させられるようになっている。
【0030】
図2は、ディテントプレート60がPレンジに対応する回動位置に位置させられ、パーキングロックポール80がパーキングギヤ48に噛み合っている状態を示している。この状態では、マニュアルバルブ40のスプール弁子44がPレンジに対応する移動位置に位置させられ、自動変速機14内の油圧式の摩擦係合装置が解放されて動力伝達が行なわれない。また、パーキングロックポール80の爪部80aがパーキングギヤ48に噛み合うことで自動変速機14の出力軸の回転が阻止される。
【0031】
この状態から、アクチュエータ56が用いられてマニュアルシャフト58が
図2に示す矢印Aの方向に回転させられると、スプール弁子44が矢印Bの方向へ移動させられて他のシフトレンジに対応する移動位置に位置させられ、また、パーキングロッド84の一端部が矢印Cの方向へ移動させられてその一端部の先端部に設けられたテーパ部材82の移動によりパーキングロックポール80が矢印Dの方向へ移動させられる。そして、パーキングロックポール80が矢印Dの方向へ移動させられることで爪部80aがパーキングギヤ48に噛み合わない位置へ回動させられると、前記出力軸のロックが解除される。
【0032】
電子制御装置22は、予め学習によって設定されたアクチュエータ56の基準位置を記憶し、さらにシフトレンジ毎の基準位置からのロータリエンコーダ62のエンコーダカウントCP(回転量)を記憶している。従って、電子制御装置22は、ロータリエンコーダ62によってエンコーダカウントCPを随時検出し、そのエンコーダカウントCPに基づいてマニュアルシャフト58をPレンジ、または他のRレンジ、Nレンジ、Dレンジに対応する回転角度まで回転させることで、シフトレバー24の操作位置に対応したマニュアルバルブ40の位置へ切り換える。
【0033】
以下において、電子制御装置22によるアクチュエータ56の基準位置(P位置)の学習について説明する。電子制御装置22は、アクチュエータ56の基準位置の学習を開始する学習開始条件が成立したことを判定する学習開始条件判定手段90と、アクチュエータ56の制御に用いられるアクチュエータ56の基準位置すなわちディテントプレート60のPポジション位置を学習して設定する基準位置学習手段92と、基準位置学習手段92による学習の実施中は、車両10の駆動輪20の回転を抑止する駆動輪回転抑止手段94とを、機能的に備えている。
【0034】
学習開始条件判定手段90は、運転者によるシフトレバー24のNポジションへの操作、図示しない学習開始入力操作装置の運転者による操作、車両10の電源から電力の再供給が開始されたことなどのいずれか1つの学習開始条件が成立したか否かを判定する。
【0035】
基準位置学習手段92は、学習開始条件判定手段90によって学習開始条件が成立したと判定される毎に、アクチュエータ56の基準位置の学習を実施する。基準位置学習手段92は、学習開始条件判定手段90により学習開始条件が成立したと判定されると、アクチュエータ56を係合ローラ78がディテントプレート60のD位置凹部68dに係合する位置するまで
図2のA方向へ一旦回転させた後、係合ローラ78がP位置凹部68pに係合するまで、
図2のA方向とは反対方向にディテントプレート60を回転させる。このとき、係合ローラ78がP位置凹部68pを形成するP壁70に衝突させられる。
【0036】
係合ローラ78がP壁70に衝突すると、係合ローラ78の移動が規制される。基準位置学習手段92は、係合ローラ78がP壁70に衝突した後もアクチュエータ56を回転させる。これより、ディテントスプリング76に撓みが生じる。そして、アクチュエータ56の回転力と、ディテントスプリング76の撓みによる弾性復帰力およびパーキングロッド84の押し戻し力とが釣り合うと、ディテントスプリング76に撓みが生じた状態でディテントプレート60の回転が停止する。
【0037】
基準位置学習手段92は、ディテントプレート60の回転(すなわちアクチュエータ56の回転)が停止したことを判断すると、そのときのアクチュエータ56の回転位置を暫定の基準位置(P位置)に設定する。そして、基準位置学習手段92は、ディテントスプリング76の撓み量を算出し、算出された撓み量に基づいて暫定の基準位置を補正して基準位置を決定(学習、P壁学習)する。この補正後の基準位置は、係合ローラ78とディテントプレート60のP壁70が接触する状態であって、且つ、ディテントスプリング76の撓み量がゼロになる位置とされている。
【0038】
駆動輪回転抑止手段94は、基準位置学習手段92による基準位置の学習の実施中は、車両10の駆動輪20の回転を抑止することで、基準位置学習手段92により係合ローラ78がディテントプレート60のD位置凹部68dに係合する位置するまで、およびその後の係合ローラ78がP位置凹部68pに係合するまでの過程でマニュアルバルブ40がD位置およびR位置に一時的に位置させられことに起因して、車両10の意図しない駆動力が発生する懸念を解消する。例えば、駆動輪回転抑止手段94は、基準位置学習手段92による基準位置学習の実施中は、車両10の駆動輪20の回転を抑止するために、エンジン12の回転を停止させること、自動変速機14内の摩擦係合装置を解放させて動力伝達を不能とすること、ブレーキ装置21により駆動輪20の回転を停止させることの少なくとも1つを実行する。
【0039】
電子制御装置22のE/G-ECUは、エンジン12を始動させる指令が出力されると、エンジン12のクランク軸に機械的に連結されている図示しないスタータモータを駆動させてクランク軸を回転させ、クランク軸の回転速度がエンジン12の自立運転可能な回転速度まで上昇すると、燃料を噴射するとともに点火装置を作動させてエンジン12を始動させる。
【0040】
図4は、電子制御装置22のSBW-ECUの制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図4において、ステップS11(以下、ステップを省略する)では、アクチュエータ56の基準位置であるP位置(ACTポジション)の学習の開始条件が成立したか否か、例えば、運転者により学習開始操作が行なわれたか否か、シフトレバー24がN位置へ操作されたか否か、或いは図示しない車両電源から電力が供給されたか否かが判断される。S11の判断が否定される場合はS11の実行が繰り返されることで待機させられる。
【0041】
S11の判断が肯定されると、S12において、基準位置学習の他の開始条件であるエンジン12が停止中であるか否かが判断される。S12の判断が否定される場合はS1の実行が繰り返されることで待機させられるが、S12の判断が肯定されると、基準位置学習手段92に対応するS13において、アクチュエータ56の基準位置学習が実施される。
【0042】
次いで、S14では、基準位置学習が終了したか否か、すなわちアクチュエータ56の基準位置(P位置)が決定されたか否かが判断される。このS14の判断が否定される場合は、基準位置学習の実行中であるので、駆動輪回転抑止手段94に対応するS15において、エンジン12の始動が禁止され、基準位置学習の実行中にエンジン12の回転に由来する車両10の駆動輪20の回転が抑止されて、意図しないで車両10の駆動力が発生することが回避される。しかし、S14の判断が肯定されると、S16において、エンジン12の始動が許可される。
【0043】
本実施例の制御装置として機能する電子制御装置22のSBW-ECUによれば、駆動輪回転抑止手段94に対応するS15は、基準位置学習手段92に対応するS13による基準位置の学習の実施中は、エンジン12の始動を禁止する。これにより、基準位置学習手段92による基準位置を設定する制御中に、エンジン12の回転に由来する車両10の駆動輪20の回転が抑止されるので、アクチュエータ56の基準位置学習中に意図しないで車両10の駆動力が発生する懸念が解消される。
【0044】
次に、本発明の他の実施例を説明する。以下の説明において前述の実施例と共通する部分には説明を省略する。
【実施例2】
【0045】
本実施例2では、前述の実施例1と比較して、駆動輪回転抑止手段94が、基準位置学習手段92によるアクチュエータ56の基準位置学習の実施中は、自動変速機14内の摩擦係合装置を解放させて動力伝達を不能とし、意図しないで車両10の駆動力が発生することを解消する点で、相違している。
【0046】
図5は、本実施例2の電子制御装置(SBW-ECU)22の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図5において、S21では、S11と同様に、アクチュエータ56の基準位置であるP位置(ACTポジション)の学習の開始条件が成立したか否かが判断される。S21の判断が否定される場合はS21の実行が繰り返されることで待機させられる。
【0047】
S21の判断が肯定されると、駆動輪回転抑止手段94に対応するS22において、自動変速機14への油圧を供給するオイルポンプを停止させ、或いは電子制御装置22のECT-ECUから自動変速機14内の油圧式摩擦係合装置を解放指令を出力させる。これにより、自動変速機14内の油圧式摩擦係合装置が解放させられて、自動変速機14の動力伝達が禁止される。続いて、基準位置学習手段92に対応するS23において、アクチュエータ56の基準位置学習が実施される。
【0048】
次いで、S24では、S14と同様に、基準位置学習が終了したか否か、すなわちアクチュエータ56の基準位置(P位置)が決定されたか否かが判断される。このS24の判断が否定される場合は、S24が繰り返し実行されることで待機させられる。
【0049】
S24の判断が肯定されると、S25において、自動変速機14の動力伝達が許可され、自動変速機14への油圧を供給するオイルポンプが起動させられ、或いは、電子制御装置(ECT-ECU)22から自動変速機14に要求されるギヤ段が成立するように油圧式摩擦係合装置の係合が行なわれる。
【0050】
本実施例の制御装置として機能するSBW-ECUによれば、駆動輪回転抑止手段94に対応するS22は、基準位置学習手段92に対応するS23によるアクチュエータ56の基準位置学習の実施中は、自動変速機14内の摩擦係合装置を解放させて動力伝達を不能とするので、駆動輪20の回転が抑止される。これにより、アクチュエータ56の基準位置学習中に意図しないで車両10の駆動力が発生する懸念が解消される。
【実施例3】
【0051】
本実施例3では、前述の実施例1と比較して、駆動輪回転抑止手段94が、基準位置学習手段92によるアクチュエータ56の基準位置学習の実施中は、ブレーキ装置21により駆動輪20の回転を停止させることで駆動輪20の回転を抑止し、意図しないで車両10の駆動力が発生することを解消する点で、相違している。
【0052】
図6は、本実施例3の電子制御装置(SBW-ECU)22の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図6において、S31では、S11と同様に、アクチュエータ56の基準位置であるP位置(ACTポジション)の学習の開始条件が成立したか否かが判断される。S31の判断が否定される場合はS31の実行が繰り返されることで待機させられる。
【0053】
S31の判断が肯定されると、S32において、駆動輪回転抑止手段94によるブレーキ装置21の作動或いはパーキングロックが作動させられているか否かが判断される。S32の判断が否定される場合は、S31以下の実行が繰り返されることで待機させられる。しかし、S32の判断が肯定されると、基準位置学習手段92に対応するS33において、アクチュエータ56の基準位置学習が実施される。
【0054】
次いで、S34では、S14と同様に、アクチュエータ56の基準位置学習が終了したか否か、すなわちアクチュエータ56の基準位置(P位置)が決定されたか否かが判断される。このS34の判断が否定される場合は、S35において、ブレーキ装置21の作動或いはパーキングブレーキの作動が解除されたか否かが判断される。通常は、このS35の判断が否定されるので、S34以下が実行され、S34の判断が肯定されると、本ルーチンが終了させられる。
【0055】
しかし、S35の判断が肯定されると、S36においてアクチュエータ56の基準位置学習が中断させられた後、本ルーチンが終了させられる。
【0056】
上述のように、本実施例3の制御装置として機能するSBW-ECUによれば、基準位置学習手段92に対応するS33によるアクチュエータ56の基準位置学習の実施中は、駆動輪回転抑止手段94に対応するS35により、ブレーキ装置21により駆動輪20の回転の阻止が継続されるので、意図しないで車両の駆動力が発生することが解消され、アクチュエータ56の基準位置学習中に意図しないで車両10の駆動力が発生する懸念が解消される。
【0057】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0058】
例えば、前述の実施例において、電子制御装置(SBW-ECU)22が、本発明の制御装置に対応して、
図4、
図5、或いは
図6の制御を実行するものであったが、SBW-ECUとは異なる他の電子制御装置、例えばECT-ECU、E/G-ECUにより、
図4、
図5、或いは
図6の制御が実行されるようにしてもよい。
【0059】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
10:車両
12:エンジン
14:自動変速機
20:駆動輪
21:ブレーキ装置
22:電子制御装置(車両の制御装置)
38:シフトレンジ切換装置
46:パーキングロック装置
56:アクチュエータ
60:ディテントプレート
90:学習開始条件判定手段
92:基準位置学習手段
94:駆動輪回転抑止手段