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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】エンジン診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/20 20060101AFI20240903BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20240903BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240903BHJP
   G01L 27/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F01M1/20 Z
F02D13/02 Z
F02D45/00 360Z
F02D45/00 364
G01L27/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021127627
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022642
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊東 久幸
(72)【発明者】
【氏名】小田 純久
(72)【発明者】
【氏名】尾谷 紀明
(72)【発明者】
【氏名】細木 貴之
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-91233(JP,A)
【文献】特開2010-203390(JP,A)
【文献】特開2003-83148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/20
F02D 13/00
F02D 45/00
G01L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプが吐出したエンジンオイルが流れるオイル通路の油圧を検出する油圧センサと、前記オイル通路を通じて供給された前記エンジンオイルにより動作して機関バルブの動弁特性を可変とする油圧式の可変動弁機構と、を備えるエンジンの異常の有無を診断するエンジン診断装置であって、
前記油圧センサの出力の変動振幅が小さい状態が続いており、かつ同油圧センサの出力が既定の低油圧判定値を超える油圧を示す値である場合、
及び前記変動振幅が小さい状態が続いており、前記油圧センサの出力が前記低油圧判定値以下の油圧を示す値であって、かつ前記可変動弁機構の動作速度が低下した状態に無い場合、
の2つの場合に前記油圧センサの固着異常が発生していると判定する
エンジン診断装置。
【請求項2】
前記変動振幅が小さい状態が続いており、前記油圧センサの出力が前記低油圧判定値以下の油圧を示す値であって、かつ前記可変動弁機構の動作速度が低下した状態にある場合には、前記オイル通路の油圧低下異常と判定する請求項1に記載のエンジン診断装置。
【請求項3】
前記油圧センサの出力の移動平均値に対する同出力の瞬時値の差が既定の固着判定値以下の状態が既定時間以上継続している場合に、前記変動振幅が小さい状態が続いていると判定する請求項1又は請求項2に記載のエンジン診断装置。
【請求項4】
前記可変動弁機構の動作位置と同動作位置の制御目標値との差が既定の乖離判定値以上の状態が既定時間以上継続している場合に、同可変動弁機構の動作速度が低下した状態にあると判定する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエンジン診断装置。
【請求項5】
前記オイルポンプは前記エンジンの回転を受けて動作する機械式のポンプであり、前記油圧センサの固着異常が発生しているとの判定を、エンジン回転数が既定の診断下限値以上であることを条件に行う請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のエンジン診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの異常の有無を診断するエンジン診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等のエンジンにおいて、潤滑部等にエンジンオイルを供給するためのオイルポンプを備えるものがある。そして、オイルポンプを備えるエンジンにおいて、オイルポンプが吐出したエンジンオイルが流れるオイル通路に油圧センサが設置されたものがある。
【0003】
油圧センサのような圧力センサには、出力が殆ど変化しなくなる、固着異常と呼ばれる故障が発生することがある。特許文献1には、大気圧を検出する大気圧センサの固着異常の有無を、同センサの出力の変化量に基づき診断することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-106315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの運転中の同エンジンのオイル通路では、油圧の脈動が定常的に発生している。そのため、油圧センサの出力の変化量が、上記のような油圧脈動の振幅から想定される値よりも小さい状態が続いている場合には、油圧センサの固着異常が疑われる。
【0006】
ところで、オイルポンプ等の油圧系部品の故障や油路の閉塞などのため、オイル通路の油圧が著しく低下することがある。オイル通路の油圧が低下すれば、油圧の脈動振幅が小さくなる。そのため、油圧センサの出力の変化量を見ただけでは、油圧低下による油圧脈動の減少を固着異常と誤って診断する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するエンジン診断装置は、オイルポンプが吐出したエンジンオイルが流れるオイル通路の油圧を検出する油圧センサと、オイル通路を通じて供給されたエンジンオイルにより動作して機関バルブの動弁特性を可変とする油圧式の可変動弁機構と、を備えるエンジンの異常の有無を診断する。そして、同エンジン診断装置は、次の2つの場合に油圧センサの固着異常が発生していると判定する。すなわち、油圧センサの出力の変動振幅が小さい状態が続いており、かつ同油圧センサの出力が既定の低油圧判定値を超える油圧を示す値である場合と、上記変動振幅が小さい状態が続いており、油圧センサの出力が低油圧判定値以下の油圧を示す値であって、かつ可変動弁機構の動作速度が低下した状態に無い場合と、の2つの場合である。
【0008】
油圧センサに固着異常が生じると、同油圧センサの出力の変動振幅が小さい状態となる。ただし、オイル通路内が低油圧の状態にある場合には、固着異常が生じていなくても、油圧センサの出力の変動振幅が小さい状態となることがある。一方、オイル通路内が低油圧の状態となると、可変動弁機構へのエンジンオイルの供給が滞ることから、同可変動弁機構の動作速度が低下する。そこで、上記エンジン診断装置では、油圧センサの出力が低油圧を示しており、かつ可変動弁機構の動作速度が低下している場合には、油圧センサの出力の変動振幅が小さい状態が続いていても、固着異常とは判定しないようにしている。したがって、上記エンジン診断装置によれば、油圧センサの固着異常の診断精度が向上する。
【0009】
上記エンジン診断装置において、上記変動振幅が小さい状態が続いており、油圧センサの出力が低油圧判定値以下の油圧を示す値であって、かつ可変動弁機構の動作速度が低下した状態にある場合には、オイル通路の油圧低下異常と判定するようにするとよい。
【0010】
油圧センサの出力の変動振幅が小さい状態が続いているか否かは、例えば、油圧センサの出力の移動平均値に対する同出力の瞬時値の差が既定の固着判定値以下の状態が既定時間以上継続しているか否かで判定できる。また、可変動弁機構の動作速度が低下した状態にあるか否かは、同可変動弁機構の動作位置と同動作位置の制御目標値との差が既定の乖離判定値以上の状態が既定時間以上継続しているか否かで判定できる。
【0011】
上記エンジン診断装置が適用されるエンジンのオイルポンプが、エンジンの回転を受けて動作する機械式のポンプである場合、油圧センサの固着異常が発生しているとの判定を、エンジン回転数が既定の診断下限値以上であることを条件に行うことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エンジン診断装置の一実施形態の構成を模式的に示す図。
図2】同エンジン診断装置が実行する診断ルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、エンジン診断装置の一実施形態を、図1及び図2を参照して詳細に説明する。
(エンジン10のオイル循環系の構成)
まず図1を参照して、本実施形態のエンジン診断装置が診断するエンジン10のオイル循環系の構成を説明する。エンジン10のオイル循環系には、オイルポンプ11、オイルストレーナ14、及びオイルフィルタ15、油圧センサ20が設けられている。オイルポンプ11は、エンジン10のオイルパン13からエンジンオイルを吸引して吐出する。オイルストレーナ14は、オイルポンプ11が吸入するエンジンオイルに含まれる比較的大きめの異物を濾過する濾過器である。オイルフィルタ15は、オイルポンプ11が吐出したエンジンオイルに含まれる微細な異物を濾過する濾過器である。オイルポンプ11が吐出したエンジンオイルは、オイルフィルタ15を通過した後、メインギャラリ16に送られる。エンジン10の各潤滑部17には、メインギャラリ16からエンジンオイルが分配供給される。油圧センサ20は、メインギャラリ16の油圧POを検出するセンサである。本実施形態では、メインギャラリ16が、オイルポンプ11が吐出したエンジンオイルが流れるオイル通路に対応している。
【0014】
なお、このエンジン10では、クランクシャフト12の回転、すなわちエンジン10の回転を受けて動作する機械式のポンプが、オイルポンプ11として採用されている。また、エンジン10では、オイルの吐出量を制御可能な可変容量式のポンプがオイルポンプ11として採用されている。
【0015】
エンジン10は、OCV(Oil Control Valve)18と、VVT(Variable Valve Timing)19と、を備えている。VVT19は、機関バルブの動弁特性を可変とする油圧式の可変動弁機構である。メインギャラリ16のエンジンオイルの一部は、VVT19にも供給されている。そして、VVT19は、メインギャラリ16を通じて供給されたエンジンオイルにより動作する。OCV18は、VVT19のエンジンオイルの給排量を調整する電磁弁である。なお、このエンジン10には、VVT19として、クランクシャフト12に対する図示しないカムシャフトの回転位相差を変更することで、機関バルブのバルブタイミングを可変とする機構が採用されている。
【0016】
(エンジン10の制御系の構成)
次に、同図1を参照して、エンジン10の制御系の構成を説明する。エンジン10は、電子制御ユニット21により制御されている。電子制御ユニット21は、エンジン制御に係る各種処理を実行する演算処理装置22と、エンジン制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置23と、を備えている。エンジン10には、同エンジン10の運転状態を示す状態量を検出する各種のセンサが設置されている。センサには、上述の油圧センサ20が含まれる。また、状態量には、油圧センサ20が検出する油圧POに加え、クランクシャフト12の回転位相であるクランク角、カムシャフトの回転位相であるカム角、が含まれる。電子制御ユニット21には、エンジン10から、それらセンサによる状態量の検出信号が入力されている。電子制御ユニット21は、入力された検出信号に基づき、エンジン制御を実行する。なお、電子制御ユニット21は、検出信号が入力された状態量から、エンジン回転数NEやエンジン負荷KLを求めている。
【0017】
電子制御ユニット21が実行するエンジン制御には、オイルポンプ11の制御が含まれる。電子制御ユニット21は、エンジン回転数NEやエンジン負荷KL等に応じて油圧POの目標値を演算する。そして、電子制御ユニット21は、油圧センサ20による油圧POの検出値を目標値と一致させるべく、オイルポンプ11のエンジンオイルの吐出量を調整している。これにより、焼き付き防止等のために必要な量のエンジンオイルを供給可能な範囲で、オイルポンプ11の駆動に係るエンジン10の動力損失を抑えている。
【0018】
また、電子制御ユニット21が実行するエンジン制御には、VVT19の制御が含まれる。電子制御ユニット21は、エンジン回転数NEやエンジン負荷KL等に応じてVVT19の動作位置の制御目標値を演算する。また、電子制御ユニット21は、クランク角及びカム角から、VVT19の動作位置の現在値を求めている。なお、本実施形態では、クランクシャフト12及びカムシャフトの回転位相差をVVT19の動作位置として用いている。そして、電子制御ユニット21は、VVT19の動作位置の現在値を制御目標値と一致させるべく、OCV18を制御している。
【0019】
(油圧センサ20の固着異常の診断)
電子制御ユニット21は、エンジン制御の一環として、エンジン10の各種異常診断を実行している。本実施形態では、こうした電子制御ユニット21が、エンジン診断装置に対応している。そして、電子制御ユニット21が実施する診断の項目には、油圧センサ20の固着異常が含まれる。固着異常は、出力がほぼ一定の値のまま変化しない状態となる油圧センサ20の故障である。
【0020】
図2に、油圧センサ20の固着異常の診断のために電子制御ユニット21が実行する診断ルーチンのフローチャートを示す。電子制御ユニット21は、エンジン10の運転中に本ルーチンの処理を、既定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0021】
電子制御ユニット21は本ルーチンを開始すると、まずステップS100において、同診断の前提条件が満たされているか否かを判定する。前提条件は、下記の要件(イ)~要件(ハ)の全てを満たすこと、となっている。要件(イ)は、エンジン10の始動が完了していること、である。要件(ロ)は、エンジン回転数NEが既定の診断下限値N1以上であること、である。要件(ハ)は、固着異常以外の油圧センサ20の異常が確認されていないこと、である。なお、固着異常以外の油圧センサ20の異常には、レンジ外れ異常、断線異常が含まれる。レンジ外れ異常は、油圧センサ20の出力が、エンジン10の運転中に同出力が取り得る値の範囲から逸脱した値となる異常である。断線異常は、油圧センサ20の出力が電子制御ユニット21に入力されない状態となる異常である。電子制御ユニット21は、こうしたステップS100において前提条件が未成立であると判定した場合(NO)には、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。一方、電子制御ユニット21は、前提条件が成立していると判定した場合(YES)には、ステップS110に処理を進める。
【0022】
ステップS110に処理を進めた場合の電子制御ユニット21は、そのステップS110において、油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態が続く、同変動振幅の微小状態にあるか否かを判定する。本実施形態では、下記の要件(ニ)が成立した状態が既定時間T以上継続している場合に、上記変動振幅の微小状態であると判定している。要件(ニ)は、油圧センサ20の出力の移動平均値に対する同出力の瞬時値の差の絶対値が既定の固着判定値X1を超えていること、である。そして、電子制御ユニット21は、上記変動振幅の微小状態でないと判定した場合(NO)にはそのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。一方、電子制御ユニット21は、上記変動振幅の微小状態であると判定した場合(YES)には、ステップS120に処理を進める。
【0023】
ステップS120に処理を進めた場合の電子制御ユニット21は、そのステップS120において、油圧センサ20の出力が既定の低油圧判定値X2以下であるか否かを判定する。油圧センサ20の出力が低油圧判定値X2以下の場合(YES)には、電子制御ユニット21はステップS130に処理を進める。一方、油圧センサ20の出力が低油圧判定値X2を超えている場合(NO)には、電子制御ユニット21は、ステップS140に処理を進める。そして、電子制御ユニット21はそのステップS140において、油圧センサ20の固着異常であると判定した上で、今回の本ルーチンの処理を終了する。なお、電子制御ユニット21は、油圧センサ20の固着異常が発生したと判定すると、同異常の発生を記憶装置23に記録するとともに、警告灯の点灯等により、同異常の発生を運転者に通知する。
【0024】
なお、油圧センサ20の固着異常が発生すると、油圧POが不明となるため、潤滑部17等へのエンジンオイルの供給が足りているかどうかを正確に確認できなくなる。そこで、電子制御ユニット21は、油圧センサ20の固着異常が発生したと判定した場合には、オイルポンプ11のエンジンオイルの吐出量を制御範囲の最大値としている。
【0025】
一方、ステップS130に処理を進めた場合の電子制御ユニット21は、そのステップS130において、VVT19の動作速度が低下した状態にあるか否かを判定する。電子制御ユニット21は、VVT19の動作速度の低下の有無を、本ルーチンとは別ルーチンの処理において判定している。この別ルーチンでは、VVT19の動作位置の制御目標値と現在値との差が既定の乖離判定値以上の状態が既定時間以上継続した場合に、VVT19の動作速度が低下していると判定している。そして、電子制御ユニット21は、VVT19の動作速度が低下した状態に無い場合(NO)には、上述のステップS140において、油圧センサ20の固着異常であると判定した上で、今回の本ルーチンの処理を終了する。一方、電子制御ユニット21は、VVT19の動作速度が低下した状態にある場合(YES)には、ステップS150に処理を進める。
【0026】
ステップS150に処理を進めると、電子制御ユニット21はそのステップS150において、メインギャラリ16の油圧低下異常であると判定した上で、今回の本ルーチンの処理を終了する。油圧低下異常は、オイルポンプ11等の油圧系機器の故障や油路詰り等により、メインギャラリ16の油圧POが著しく低下した状態となる異常である。なお、電子制御ユニット21は、メインギャラリ16の油圧低下異常であると判定した場合には、同異常の発生を記憶装置23に記録するとともに、警告灯の点灯等により、同異常の発生を運転者に通知する。また、電子制御ユニット21は、オイル通路の油圧低下異常が発生したと判定した場合には、潤滑部17の焼き付きを避けるため、エンジン10の出力制限を実施する。
【0027】
(実施形態の作用、効果)
本実施形態の作用及び効果について説明する。
エンジン10の運転中、メインギャラリ16の油圧POには定常的に脈動が生じている。オイル循環系に異常が無い場合には、油圧センサ20の出力の変動振幅が、そうした油圧POの脈動振幅から想定される値よりも小さい状態が続いていれば、油圧センサ20の固着異常であると判定できる。
【0028】
一方、オイルポンプ11等の油圧系部品の故障や油路詰り等のため、メインギャラリ16内の油圧POが著しく低下した状態となっている場合、すなわち油圧低下異常が発生した場合には、油圧POの脈動振幅が小さくなる。そうした場合には、固着異常が生じていなくても、油圧センサ20の出力の変動振幅が小さくなる。
【0029】
なお、メインギャラリ16内の油圧POが実際に低下している場合には、VVT19へのエンジンオイルの供給が滞るため、同VVT19の動作速度が低下する。一方、メインギャラリ16内の油圧POが実際には低下しておらず、固着異常により油圧センサ20の出力が低油圧を示す値となっている場合には、VVT19の動作速度の低下は生じない。
【0030】
これに対して本実施形態では、次の2つの場合に、油圧センサ20の固着異常が生じていると判定している。第1の場合は、油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態が続いており、かつ同油圧センサ20の出力が低油圧判定値X2を超える油圧を示す値である場合である。第2の場合は、油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態が続いており、同出力が低油圧判定値X2以下の油圧を示す値であって、かつVVT19の動作速度が低下した状態に無い場合である。そのため、本実施形態では、メインギャラリ16の油圧低下異常が生じた場合に、油圧センサ20の固着異常が生じていると誤って診断されなくなる。
【0031】
以上の本実施形態のエンジン診断装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、メインギャラリ16の油圧低下により油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態となった場合に、油圧センサ20の固着異常が生じていると誤って診断されなくなる。そのため、油圧センサ20の固着異常の診断精度を向上できる。
【0032】
(2)本実施形態では、油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態が続いていても、油圧センサ20の固着異常では無いと判定した場合には、メインギャラリ16の油圧低下異常と判定している。すなわち、油圧センサ20の出力が低油圧判定値X2以下の油圧を示す値であって、かつVVT19の動作速度が低下した状態にある場合である。そのため、油圧センサ20の固着異常とメインギャラリ16の油圧低下異常とを正しく区別できる。そして、固着異常、油圧低下異常のそれぞれに応じた適切な対応を取ることができる。
【0033】
(3)変動振幅そのものを求めるとすると、油圧センサ20の出力の時系列データが必要となる。すなわち、変動振幅そのものの演算には、一定周期毎の油圧センサ20の出力のサンプリングと、サンプリングした多数のデータを用いた演算が必要となる。これに対して、本実施形態では、油圧センサ20の出力の移動平均値に対する同出力の瞬時値の差が既定の固着判定値X1以下の状態が既定時間T以上継続している場合に、油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態が続いていると判定している。こうした場合には、記録が必要な値は、センサ出力の移動平均値だけとなり、変動振幅が小さい状態にあるか否かの判定が容易となる。
【0034】
(4)VVT19の動作速度そのものを求める場合には、VVT19の動作位置の時系列データを記録する必要がある。一方、VVT19の動作速度が低下すると、制御目標値に対するVVT19の動作位置の収束が遅くなる。これに対して、本実施形態では、VVT19の動作位置と同動作位置の制御目標値との差が既定の乖離判定値以上の状態が既定時間以上継続している場合に、VVT19の動作速度が低下した状態にあると判定している。そのため、VVT19の動作位置の時系列データを記録せずとも、同VVT19の動作速度の低下の有無を判定可能となる。すなわち、VVT19の動作速度の低下の有無の判定が容易となる。
【0035】
(5)機械式のオイルポンプ11では、エンジン回転数NEが低くてメインギャラリ16が低油圧となる状態では、油圧センサ20の出力に基づく同油圧センサ20の固着異常の診断を正確に行うことが難しくなる。その点、本実施形態では、油圧センサ20の固着異常の有無の判定を、エンジン回転数NEが診断下限値N1以上であることを条件に行っており、これによっても固着異常の診断精度が向上される。
【0036】
(他の実施形態)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0037】
・オイルポンプ11として電動式のポンプを採用してもよい。なお、その場合には、オイルポンプ11の駆動電力が一定の値以上であること、を、前提条件の要件(ロ)として採用するとよい。
【0038】
・上記実施形態では、クランクシャフト12に対するカムシャフトの回転位相差を変更することで、機関バルブのバルブタイミングを可変とするVVT19を可変動弁機構として採用していたが、それ以外の可変動弁機構を採用してもよい。例えば、油圧駆動により、機関バルブのバルブリフト量を可変とする機構を可変動弁機構として採用してもよい。
【0039】
・油圧センサ20の出力の変動振幅が小さい状態にあるか否かの判定や、VVT19の動作速度が低下した状態にあるかの判定を、上記実施形態とは異なる態様で行うようにしてもよい。
【0040】
図2の診断ルーチンにおいて、油圧低下異常の診断を行わないようにしてもよい。すなわち、図2のステップS130で肯定判定(YES)の場合、そのまま図2のフローチャートの処理を終了するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…エンジン
11…オイルポンプ
12…クランクシャフト
13…オイルパン
14…オイルストレーナ
15…オイルフィルタ
16…メインギャラリ(オイル通路)
17…潤滑部
18…OCV
19…VVT(可変動弁機構)
20…油圧センサ
21…電子制御ユニット
22…演算処理装置
23…記憶装置
図1
図2