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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】乗員監視システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/127 20060101AFI20240903BHJP
   G08G 1/123 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G08G1/127 A
G08G1/123 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021128179
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023023029
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 峻
(72)【発明者】
【氏名】田岡 巧
(72)【発明者】
【氏名】石川 天童
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】野倉 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 祥宜
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍司
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-190072(JP,A)
【文献】特開2011-154618(JP,A)
【文献】特開2016-062414(JP,A)
【文献】特開2018-062197(JP,A)
【文献】特開2020-003936(JP,A)
【文献】特開2016-091058(JP,A)
【文献】特開2017-177960(JP,A)
【文献】特表2006-500276(JP,A)
【文献】特開2019-149641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/127
G08G 1/123
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の乗員室において仮想的に区画された異なる複数のエリアの乗員情報を前記エリア毎に個別に取得する複数の監視要素と、
前記乗物の運転席付近および/または自動運転時における管制席付近に配置され、各々異なる前記乗員情報をリアルタイムで表示する複数の表示要素と、
前記監視要素および前記表示要素に接続されている制御要素と、を具備し、
前記監視要素は、前記乗員情報として画像を取得するか、または、前記乗員情報として乗員の位置変化や状態変化を検知し、
前記制御要素は、各々の前記乗員情報を基に前記乗員情報毎の危険度を演算し、前記危険度が所定の危険水準に達したと判断した場合に、前記複数の表示要素のうち前記危険度が前記危険水準に達した前記乗員情報を表示している前記表示要素に、注意喚起サインを表示させる、乗員監視システム。
【請求項2】
前記制御要素は、前記乗員情報に含まれる個々の前記乗員を識別するとともに前記乗員毎に前記判断を行い、前記注意喚起サインを前記乗員毎に表示させる、請求項1に記載の乗員監視システム。
【請求項3】
前記注意喚起サインは、前記表示要素のフレームに表示されるか、または、前記表示要素に表示される乗員の画像に重畳される、請求項2に記載の乗員監視システム。
【請求項4】
前記乗員室は通路を具備し、
座席に着座している乗員が、前記座席上を前記通路側に移動すると前記注意喚起サインを表示し、
前記乗員が前記通路に起立すると前記注意喚起サインをさらに強調する、請求項2または請求項3に記載の乗員監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗員監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物に乗っている乗員を転倒等から保護するために、客室内を監視し、乗員に危険が生じたことを運転者に知らせるための乗員監視システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、着席又は起立した状態の乗客を輸送する車両に搭載される車内監視装置であって、前記乗客の乗車状態を把握する乗車状態把握手段と、前記車両の走行状態を把握する走行状態把握手段と、前記乗車状態及び前記走行状態に基づいて前記乗客の安全に関する報知を行う報知手段と、を備える車内監視装置が紹介されている。
当該特許文献1には、報知手段13として表示装置(モニタ103)を使用できる旨が記載されている。また、危険度が高くなった場合の警告手段としては、運転士の前方への注意や集中を極力妨げない観点から、音声アラーム等での警告が望ましい旨が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-65414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来から、運転者は客室の内外を直接またはミラー等を介して目視することで、視覚による安全確認を行っている。また、乗物が自動運転する際には、客室の内外を撮像した画像データ等が乗物外の管制者に伝送され、当該管制者が当該画像データ等を目視することで、視覚による安全確認を行うと考えられる。以下、運転者と管制者とを総称して運転制御者と称する場合がある。
【0006】
上記特許文献1に紹介されている技術のように、音声アラーム等により警告を行う場合にも、当該警告を知覚した運転制御者は、先ず、目視によって危険の程度を確認すると推測される。この場合、運転制御者は、視覚器官と聴覚器官という異なる二種の感覚器を用いて重複した安全確認を行う必要があるために、運転制御者への負荷が過大になる虞がある。
【0007】
また、この場合には、運転制御者は聴覚器官により得られた情報を基に、危険の発生したエリアを目視する必要がある。つまり運転制御者は、危険の発生したエリアを特定するために、聴覚器官で取得した音の情報を視覚器官で取得されるであろう画像の情報に脳内で変換する必要がある。運転制御者がこの変換を瞬時に行うことができなければ、運転制御者が警告を知覚してから危険の発生したエリアを目視するまでにタイムラグが生じて、迅速な対応が困難になる虞もある。
このように従来の乗員監視システムでは、危険発生時に運転制御者が迅速に対応できない虞があった。このため、危険発生時において運転者の迅速な対応を導き得る乗員監視システムが望まれている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、乗員に危険のあることを、運転制御者に迅速かつ信頼性高く伝えることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の乗員監視システムは、
乗物の乗員室における異なるエリアの乗員情報を個別に取得する複数の監視要素と、
前記乗物の運転席付近および/または自動運転時における管制席付近に配置され、各々異なる前記乗員情報を表示する複数の表示要素と、
前記監視要素および前記表示要素に接続されている制御要素と、を具備し、
前記制御要素は、各々の前記乗員情報を基に前記乗員情報毎の危険度を演算し、前記危険度が所定の危険水準に達したと判断した場合に、前記危険度が前記危険水準に達した前記乗員情報を表示する前記表示要素に、注意喚起サインを表示させる、乗員監視システムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乗員監視システムによると、乗員に危険のあることを、運転制御者である運転者や管制者に迅速かつ信頼性高く伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】乗物に搭載された実施例1の乗員監視システムを模式的に説明する説明図である。
図2】実施例1の乗員監視システムの概要を説明するブロック図である。
図3】実施例1の乗員監視システムの動作を説明するフローチャートである。
図4】実施例2の乗員監視システムの概要を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例等に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0013】
本発明の乗員監視システムは、複数の監視要素および複数の表示要素を具備する。
【0014】
各監視要素は、乗物の乗員室における異なるエリアの乗員情報を個別に取得する。また、各表示要素は、乗物の運転席付近および/または自動運転時における管制席付近に配置され、各々異なる乗員情報を表示する。
換言すると、本発明の乗員監視システムでは、複数の監視要素により、エリア毎の乗員情報を個別に取得する。そして、取得された当該個別の乗員情報を、各々異なる表示要素に表示する。したがって、運転制御者、すなわち、運転席に着座する運転者や管制席に着座する管制者は、当該表示要素を目視することで、乗員室の安全確認をエリア毎にかつ視覚的に行い得る。
【0015】
また、本発明の乗員監視システムは、上記の監視要素および表示要素に接続されている制御要素を具備する。
【0016】
当該制御要素は、各々の乗員情報を基に当該乗員情報毎の危険度を演算する。そして、当該危険度が所定の危険水準に達したと判断した場合に、危険度が危険水準に達した乗員情報を表示する特定の表示要素に、注意喚起サインを表示させる。注意喚起サインを知覚した運転制御者は、自ずと、当該注意喚起サインが表示されている表示要素を目視し、同時に、当該表示要素に表示されている乗員情報に注視する。これにより、運転制御者は、危険の発生したエリアや危険の発生した乗員の位置の詳細を、正確にかつ瞬時に把握することが可能であり、ひいては、危険発生時に迅速な対応を行い得る。
【0017】
したがって、本発明の乗員監視システムによると、乗員に危険があることを運転制御者に迅速かつ信頼性高く伝えることができ、危険発生時に運転制御者の迅速な対応を導くことが可能である。
以下、本発明の乗員監視システムをその構成要素毎に説明する。
【0018】
本発明の乗員監視システムは、乗物の乗員を監視し、乗員に危険がある場合に、運転制御者にその旨を伝えるためのシステムである。
【0019】
本発明の乗員監視システムを搭載する乗物としては、自動車、船舶、航空機等に代表される各種の乗物を挙げることができ、当該乗物は、自家用のものであっても良いし、公共交通機関であっても良い。特に、当該乗物としては、乗員が通行できる通路を具備する公共交通機関であって乗員が座席と当該通路との間を移動することが想定されるもの、例えばバスや電車等を好ましく例示できる。また、本明細書において、運転者とは上記した各種の乗物を運転する者を意味し、ドライバー、パイロット、ナビゲーター等とも称される。
【0020】
本発明の乗員監視システムにおける監視要素は、上記した乗物の乗員室において、異なるエリアの乗員情報を個別に取得する。
当該エリアは、乗客が搭乗するための客室のみを対象としても良い。また、これに加えて、コックピットすなわち運転席、操縦席または操舵席のある室内を対象としても良い。更には、バスにおけるステップや船舶における甲板等の、半室内ともいい得る場所も対象にし得る。
【0021】
監視要素は、一つのエリアに対して一つずつ設けても良いし、一つのエリアに対して二以上設けても良い。例えば、同じエリアに対して二以上の監視要素を設け、当該同じエリアにつき異なる二以上の角度から乗員情報を取得しても良い。
【0022】
監視要素は、乗員の危険度を判断する材料としての乗員情報を経時的に取得できるものであれば良く、乗員情報の種類や乗員情報の取得方法は特に限定されない。
【0023】
例えば、監視要素は、上記エリアの動画や静止画を撮像するカメラであっても良いし、上記エリアにおける乗員の位置変化や状態変化を検知するセンサであっても良い。当該センサとしては、赤外線等の電磁波を用いた人感センサや、ひずみゲージや圧電素子等を用いた荷重センサを例示できる。
【0024】
監視要素としては、上記の何れかを単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
例えば監視要素として、カメラと、乗合型のバスにおける降車ボタンとを併用しても良い。降車ボタンは乗員自身が操作するものであるが、降車ボタンを押した乗員は、降車するために立ち上がったり移動したりする可能性がある。このために、当該降車ボタンは乗員の位置変化や状態変化を監視するための監視要素として機能し得る。
【0025】
各監視要素が取得した乗員情報は、制御要素で危険度を判断するのに利用される。このため、監視要素は少なくとも制御要素に接続される。また、当該乗員情報は各々対応する表示要素に表示されるため、監視要素は表示要素にも接続されるか、または、制御要素を介して間接的に表示要素に接続される。
ここでいう接続とは、電子信号を送受信できる状態を意味し、監視要素と制御要素および表示要素とは、無線的に接続されても良いし、有線で接続されても良い。
【0026】
各表示要素は、各監視要素が取得した乗員情報を、そのまま表示しても良いし、何らかの方法で視覚情報に変換したものを表示しても良い。
【0027】
例えば、監視要素がカメラであれば、当該監視要素が取得した画像をそのまま表示しても良いし、当該画像に各種の追加情報、例えばテキストデータ等を付与したものを表示しても良い。また、監視要素が各種のセンサであれば、当該監視要素が取得した画像以外の情報を基に視覚情報を生成し、当該視覚情報を表示要素に表示しても良い。勿論、当該視覚情報として画像を生成しても良い。
上記のような変換した乗員情報もまた、実質的に、監視要素が取得した乗員情報といい得る。
【0028】
表示要素としては、運転制御者が乗員情報を短時間で把握できる程度に、乗員情報を高精細に表示できるものが好ましく、具体的には、モニタや電子ミラー等を用いるのが好適である。勿論、当該表示要素は光学ミラー(つまり、ただの鏡)であってもよい。
【0029】
各表示要素は、既述したように、乗物の運転席および/または自動運転時における管制席付近に配置される。ここでいう運転席や管制席の付近とは、表示要素の表示する乗員情報や後述する注意喚起サインが、運転席に着座する運転者や、管制席に着座する管制者から視認され得るような位置に、当該表示要素が配置されることを意味する。
【0030】
各表示要素は、各々別体であっても良いし、一体化されていても良い。例えば、一つのモニタを複数の区画に分割し、各区画を個別の表示要素と見なして、これら各表示要素に各々異なる乗員情報を表示しても良い。
また、本発明の乗員監視システムは、監視要素に対応する数以上の表示要素を具備しても良い。そして、場合によっては、一つの監視要素に由来する乗員情報を2以上の表示要素に表示しても良い。例えば、大型のモニタに複数の乗員情報を表示するとともに、個別の乗員情報については各々専用のモニタに別途表示しても良い。
【0031】
制御要素は、上記した各乗員情報を基に、当該乗員情報毎の危険度を演算する。乗員の位置変化や状態変化に伴う危険度は、乗物の種類によって種々に異なる。また、当該危険度は、乗物が自家用であるか、または、公共交通機関であるかによっても種々に異なる。更には、乗物の移動経路やその経路の状況によっても種々に異なる。
【0032】
例えば、乗物が乗合型のバスである場合には、乗物の移動中に乗員が立っている場合がある。また、乗物が乗合型のバスである場合、座席に着座している乗員が、窓側から通路側に座席上をスライド移動したり、さらに通路に起立したりする場合もある。一方、乗物が自家用車であれば、乗物の移動中には乗員は座っている。したがって乗員が動き、乗員が位置変化したという乗員情報を監視要素が取得した場合にも、制御要素は、乗物の種類に応じて当該乗員の危険度を演算するのが好ましい。
【0033】
つまり本発明の乗員監視システムにおける制御要素は、本発明の乗員監視システムが搭載される乗物の種類等に応じて、危険度の演算を適宜適切に行えば良い。
【0034】
制御要素は、当該危険度の演算を乗員情報の基になるエリア毎に纏めて行っても良いし、乗員情報に含まれる個々の乗員を識別するとともに危険度の演算を乗員毎に行っても良い。運転制御者が、多様な乗員に対応して、乗員に危険のあることを知覚するためには、当該危険度の演算は乗員毎に行うのが好ましい。
【0035】
ここで、乗員が幼児や高齢者である場合と、乗員が若者である場合とで、同じ動作をした場合の危険度は大きく異なる。このような乗員毎の危険度の違いは、乗員の体型や性別、健康状態等によっても生じ得る。したがって制御要素は、年齢、体型、性別、健康状態等の乗員毎の属性情報も加味して、乗員の危険度を演算するのが好ましい。
【0036】
つまり、本発明の乗員監視システムは、制御要素による危険度の演算に、乗員毎の属性情報を用いるのが好ましい。換言すると、制御要素は、監視要素が取得した乗員情報を基に、乗員の姿勢や乗員の属性情報、乗員の着座位置、着座の有無等を判別し、さらに、当該判別結果を基に乗員の危険度を演算するのが好ましい。
【0037】
さらに、例えば乗物が乗合型のバスであり、当該乗物がバス停に近づくと、当該乗物が停車するために減速すると考えられる。乗員が立っている場合に乗物が減速すれば、監視要素が取得した乗員情報に変化がなくても、乗員の危険度は高まる。したがって、本発明の乗員監視システムは、乗員室を監視する監視要素に加えて、乗物の移動状態や乗物の外部を監視する第2監視要素を具備するのが好ましい。
【0038】
このような第2監視要素としては、乗物の移動速度を監視するための速度センサや加速度センサ、乗物の位置を監視するためのGPS(グローバル・ポジショニング・システム)等を例示できる。
また、第2監視要素は、予め内蔵された地図データを利用しても良いし、乗物外のデータベースにアクセスして地図情報や交通情報等を取得しても良い。
【0039】
制御要素は、上記のように演算した危険度が、所定の危険水準に達したと判断した場合に、当該危険度の基となる乗員情報を表示する表示要素に、注意喚起サインを表示させる。
【0040】
危険度が危険水準に達したか否かの判断は、上記の危険度を予め定めた危険水準に照らし合わせることで行い得る。当該危険水準は、乗物の種類や乗物の形態、例えば、乗物が自家用車であるか乗合型の公共交通機関であるかによって大きく異なるため、乗物の種類や乗物の形態に応じて適宜設定すれば良い。
【0041】
例えば、乗物が乗合型の公共交通機関である場合に、乗員情報を基に座席に着座していた乗員が立ち上がろうとしていることを検知したときに、危険度が危険水準に達したと判断することができる。または、立っていた乗員が歩き出そうとしていること、立っていた乗員が網棚に手を伸ばそうとしていること、乗員が歩いていること等を検知した場合にも、危険度が危険水準に達したと判断することができる。
【0042】
その他、例えば10歳以下と推測される低年齢の乗員や75歳以上と推測される高齢の乗員が一人で乗車している場合や、乗物の乗員が当該低年齢の乗員、当該高齢の乗員、または女性一人のみである場合にも、危険度が危険水準に達したと判断するのが好ましい。これらの場合、その後に乗物に搭乗した乗員によっては、先に搭乗していた乗員に人為的な危険が及ぶ可能性があるためである。特に運転者不在の自動運転の車両においては、上記の場合に危険度が危険水準に達したと判断し、管制者に向けて注意喚起サインを表示するのが好適である。
【0043】
本発明の乗員監視システムでは、注意喚起サインの表示方法は特に限定しない。
例えば、表示要素における乗員情報表示領域の外や奥側に、注意喚起サインを表示するサイン表示部を予め設けておいても良い。例えばサイン表示部がランプであれば、当該ランプを点灯させたり点滅させたりすることで、注意喚起サインを表示できる。この場合、例えば表示要素が光学ミラーであっても、当該表示要素のフレームが光ったり、半透明の表示要素の奥側から光が透過したりすることで、運転制御者に注意喚起を行うことが可能である。勿論、この場合の表示要素はモニタや電子ミラー等であっても良い。
【0044】
また例えば、テキストや図形等からなる注意喚起サインを、乗員情報とともに表示要素に表示しても良い。具体的には、表示要素が乗員情報として動画を表示する場合、当該動画における乗員に相当する領域を囲ったりまたはその領域全体に着色したりすることで注意喚起サインを表示しても良い。または、動画中に「注意」「危険」等のテキストを挿入することにより注意喚起サインを表示しても良い。
【0045】
注意喚起サインを運転制御者に迅速に知覚させるためには、これらの注意喚起サインは運転制御者の注意を惹き得る色、例えば、彩度や明度の高い色で表示するのが好適である。また、この場合にも注意喚起サインを点滅させることで、運転制御者の注意を惹くことができる。
【0046】
注意喚起サインの色や形状等は、乗員の危険度がより高まった場合や、危険度が危険水準に達してから所定時間が経過した場合に、運転制御者の注意をより惹き易いように、段階的に変化させ、強調しても良い。
【0047】
例えば、危険度が比較的低い場合や、危険度が危険水準に達してからの経過時間が所定時間に満たない場合には、黄色の注意喚起サインを表示すれば良い。当該注意喚起サインは、単に点灯するだけであっても良いし、比較的低速で点滅させても良い。具体的には、このときの点滅周波数は0.2Hz程度であるのが好適である。
そして、危険度が高まった場合や、危険度が危険水準に達してからの経過時間が所定時間に達した場合には、赤色の注意喚起サインを表示すると良い。これにより、注意喚起サインがさらに強調される。当該注意喚起サインは、比較的高速で点滅させるのも効果的である。具体的には、このときの点滅周波数は低速時の3倍以上すなわち0.6Hz以上であるのが好ましく、低速時の5倍以上すなわち1Hz以上であるのがより好ましい。
【0048】
以下、具体例を挙げて本発明の乗員監視システムを説明する。
【0049】
(実施例1)
実施例1の乗員監視システムは、乗合型の公共交通機関の一種であるバスに搭載され、当該車両に乗車している乗員を監視することで当該乗員の安全を図るものである。
乗物に搭載された実施例1の乗員監視システムを模式的に説明する説明図を図1に示し、実施例1の乗員監視システムの概要を説明するブロック図を図2に示し、実施例1の乗員監視システムの動作を説明するフローチャートを図3に示す。
図1中の前、後、左、右は車両進行方向における前、後、左、右を意味する。
【0050】
図2に示すように、実施例1の乗員監視システム1は、3つの監視要素2、3つの第2監視要素3、3つの表示要素4、および制御要素5を具備する。
【0051】
実施例1の乗員監視システム1における監視要素2は、赤外線カメラであり、乗員情報として動画および距離情報を取得可能である。距離情報は、具体的には、画像情報に含まれる乗員や座席96等の個々の要素の基準位置からの距離である。各赤外線カメラには個別のIDが割り当てられている。各々の赤外線カメラを第1カメラ21、第2カメラ22、第3カメラ23と称する。
【0052】
図1に示すように、バス9の乗員室98は3つのエリア(第1エリア91、第2エリア92、第3エリア93)に仮想的に区画され、第1カメラ21、第2カメラ22、第3カメラ23は、各々、第1エリア91、第2エリア92、第3エリア93に対応する位置に配置されている。第1カメラ21は第1エリア91の乗員情報を取得し、第2カメラ22は第2エリア92の乗員情報を取得し、第3カメラ23は第3エリア93の乗員情報を取得する。
【0053】
実施例1の乗員監視システム1は、3つの第2監視要素3として、速度センサ31、加速度センサ32およびGPS33を具備する。これらの第2監視要素3は、バス9における乗員室98の外部に配置され、バス9の移動速度やバス9の位置を監視する。
【0054】
実施例1の乗員監視システム1における制御要素5は、AI解析エンジン51であり、バス9に搭載されているとともに監視要素2に接続されている。
【0055】
実施例1の乗員監視システム1における表示要素4は、電子ミラーであり、制御要素5に接続され、監視要素2が取得した乗員情報のうち動画を表示する。3つの電子ミラーの一つを第1電子ミラー41と称し、他の一つを第2電子ミラー42と称し、他の一つを第3電子ミラー43と称する。
図1に示すように、第1電子ミラー41、第2電子ミラー42および第3電子ミラー43は、運転席95の前方において各々異なる位置に配置され、運転席95を向く。第1電子ミラー41は第1カメラ21が取得した動画を表示し、第2電子ミラー42は第2カメラ22が取得した動画を表示し、第3電子ミラー43は第3カメラ23が取得した動画を表示する。
【0056】
以下、実施例1の乗員監視システム1の動作を、図3に示すフローチャートを基に説明する。
【0057】
実施例1の乗員監視システム1は、バス9が起動すると開始し(スタート)、運行を開始したか否かを判断する(S1)。バス9が運行を開始すると(S1のYES)、監視要素2による乗員情報の取得を開始する(S2)。
【0058】
制御要素5には、監視要素2からの乗員情報が送信される。
乗員情報を受信した制御要素5は、乗員情報の一部である動画を表示要素4に表示する(S3)。そして、バス9の運行が停止したか否かを判断し(S10)、運行が停止した場合には(S10のYES)、乗員監視システム1を終了する(エンド)。監視要素2は、バス9の運行が停止するまでS2~S10を繰り返し、動画を表示する。
【0059】
また、このとき、当該制御要素5は、AIすなわち人工知能によって、監視要素2が所得した乗員情報を基に危険度を演算し(S4)、危険度が所定の危険水準に達したか否かを判断する(S5)。
【0060】
危険度が所定の危険水準に達した場合(S5のYES)、制御要素5は、注意喚起サインを表示する表示要素4を選定し(S6)、注意喚起サインを表示する(S7)。具体的には、実施例1の乗員監視システム1においては、表示要素4である第1電子ミラー41、第2電子ミラー42および第3電子ミラー43におけるフレームに、各々、LEDランプからなるサイン表示部(図略)が設けられている。制御要素5は、当該サイン表示部を点灯することにより、注意喚起サインを表示する。
制御要素5は、危険度が所定の危険水準に達しない場合(S5のNO)には、S2~S5を繰り返す。
【0061】
ここで、実施例1の乗員監視システム1は、運転席95の近傍に配置された図略のオフスイッチを具備する。注意喚起サインが表示されていることを知覚した運転者は、当該オフスイッチをオンすることで、注意喚起サインをオフすることが可能である。
【0062】
S7により注意喚起サインを表示した後に、制御要素5は、当該オフスイッチがオンされたか否かを判断する(S8)。オフスイッチがオンされていれば(S8のYES)、制御要素5は注意喚起サインの表示をオフする(S9)。そして制御要素5は、バス9の運行が停止したか否かを判断し(S10)、運行が停止した場合には(S10のYES)、乗員監視システム1を終了する(エンド)。監視要素2は、バス9の運行が停止するまでS2~S10を繰り返し、危険度が所定の危険水準に達した場合にはサイン表示部に注意喚起サインを表示する。
【0063】
なお、実施例1の乗員監視システム1では、危険状態にある乗員が複数存在する場合、対応する全ての表示要素4のサイン表示部に同じ注意喚起サインを表示するのではなく、最も危険度の高いサイン表示部のみの光量を大きくし、その他の光量を小さくする。これは、運転制御者の無用な混乱を避けるためである。
【0064】
運転者は、通常時にも、表示要素4を目視することで、乗員室98の安全確認をエリア毎にかつ視覚的に行う。このような表示要素4に注意喚起サインが表示されることで、運転者は迅速に注意喚起サインを知覚する。また、注意喚起サインが表示されている表示要素4には、当該注意喚起サインが表示される原因である乗員の画像が表示されている。このため、運転者は、危険の発生したエリアや危険の発生した乗員の位置の詳細を、正確にかつ瞬時に把握することが可能であり、危険に対して迅速に対応することが可能である。
【0065】
実施例1の乗員監視システムでは、表示要素4である電子ミラー(第1電子ミラー41、第2電子ミラー42および第3電子ミラー43)のフレームに、LEDランプからなるサイン表示部を設け、当該サイン表示部を点灯することにより注意喚起サインを表示したが、注意喚起サインは、フレームの内側、すなわち、電子ミラー自体に表示しても良い。例えば、危険度が所定の危険水準に達した場合に、電子ミラーに表示されている動画のうち、該当する乗員の像に、重畳するように文字や図形等を表示し、これを注意喚起サインとしても良い。
【0066】
(実施例2)
実施例2の乗員監視システムは、乗物すなわちバスが自動運転され、運転者の代わりに管制者に向けて注意喚起サインが表示される点で実施例1の乗員監視システムと相違し、その余については実施例1の乗員監視システムと概略同じである。
したがって、以下、実施例1の乗員監視システムとの相違点を中心に、実施例2の乗員監視システムを説明する。
実施例2の乗員監視システムの概要を説明するブロック図を図4に示す。
【0067】
図4に示すように、実施例1の乗員監視システム1は、乗物に搭載される乗物側システム10と、乗物の外部に配置される管制側システム11とで構成される。
監視要素2および第2監視要素3と、制御要素5の一部とは乗物側システム10に属し、制御要素5の残部および表示要素4は管制側システム11に属する。実施例2の乗員監視システム1は、表示要素4として、第1電子ミラー41、第2電子ミラー42および第3電子ミラー43に代えて、第1モニタ45、第2モニタ46および第3モニタ47を具備する。第1モニタ45、第2モニタ46および第3モニタ47は、管制室において管制席の前方に配置されている。
【0068】
制御要素5のうちAI解析エンジン51と送信部52は乗物側システム10に属する。受信部53は管制側システム11に属する。制御要素5は、送信部52から受信部53に向けて動画表示信号を送信し、信号を受けた受信部53は、監視要素2すなわち第1カメラ21、第2カメラ22および第3カメラ23が取得した動画を第1モニタ45、第2モニタ46および第3モニタ47の各々に個別に表示する。そして、実施例1の乗員監視システム1と同様に、危険度が所定の危険水準に達した場合には、送信部52から受信部53に向けてサイン表示信号を送信し、サイン表示部に注意喚起サインを表示する。
【0069】
実施例2の乗員監視システム1によっても、実施例1の乗員監視システム1と同様に、管制者は、危険の発生したエリアや危険の発生した乗員の位置の詳細を、正確にかつ瞬時に把握することが可能であり、危険に対して迅速に対応することが可能である。
【0070】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0071】
1:乗員監視システム
4:表示要素
5:制御要素
2:監視要素
9:バス(乗物)
91:第1エリア(エリア)
92:第2エリア(エリア)
93:第3エリア(エリア)
95:運転席
98:乗員室
図1
図2
図3
図4