IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-産業車両 図1
  • 特許-産業車両 図2
  • 特許-産業車両 図3
  • 特許-産業車両 図4
  • 特許-産業車両 図5
  • 特許-産業車両 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】産業車両
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/22 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
B66F9/22 R
B66F9/22 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021134240
(22)【出願日】2021-08-19
(65)【公開番号】P2023028502
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木下 浩一
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-093867(JP,A)
【文献】特開昭59-194215(JP,A)
【文献】特開2018-155374(JP,A)
【文献】特許第6262915(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/00-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧機器を備える産業車両であって、
前記油圧機器は、
作動油によって動作する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータへの作動油の給排を行う給排部材と、を備え、
前記産業車両は、
前記油圧アクチュエータの動作速度を検出するセンサと、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記給排部材の動作量から前記油圧アクチュエータの動作速度の予測値を導出し、
前記センサにより検出された前記動作速度と前記予測値との速度差を導出し、
前記油圧機器が故障するときに対応する前記速度差であって予め定められた値を基準値、前記基準値よりも小さい値を通知閾値、前記速度差が前記通知閾値から前記基準値になるまでの期間であって予め定められた期間を猶予期間とすると、前記基準値、前記猶予期間、及び時間経過に対する前記速度差の増加量から前記通知閾値を導出し、
前記速度差が前記通知閾値よりも大きい場合に通知を行うように構成された、産業車両。
【請求項2】
前記産業車両はフォークリフトであり、
前記フォークリフトは、荷役装置を備え、
前記油圧アクチュエータは、前記荷役装置が備える油圧シリンダである、請求項1に記載の産業車両。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記油圧機器の使用開始から所定時間の間に、前記給排部材の動作量と前記センサにより検出された前記動作速度から、前記給排部材の動作量と前記動作速度との相関関係であって前記予測値を導出するための相関関係を導出するように構成された、請求項1又は請求項2に記載の産業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、産業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の車両は、油圧機器と、操作部材と、制御装置と、通知装置と、を備える。油圧機器は、油圧アクチュエータと、油圧アクチュエータに作動油を給排する給排部材と、を備える。操作部材が操作されると、制御装置は操作部材の操作量に応じた作動油が油圧アクチュエータに供給されるように給排部材を制御する。制御装置は、油圧アクチュエータが操作部材の操作に応じた動作をしているか否かを判定する。制御装置は、油圧アクチュエータが操作部材の操作に応じた動作をしていない場合、通知装置による通知を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-314316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧機器が故障した場合、交換用の油圧機器を発注する。そして、交換用の油圧機器が納品されると、当該油圧機器と故障した油圧機器との交換が行われる。油圧機器が故障してから交換用の油圧機器を発注すると、交換用の油圧機器が納品されるまで油圧機器を用いた作業を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する産業車両は、油圧機器を備える産業車両であって、前記油圧機器は、作動油によって動作する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータへの作動油の給排を行う給排部材と、を備え、前記産業車両は、前記油圧アクチュエータの動作速度を検出するセンサと、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記給排部材の動作量から前記油圧アクチュエータの動作速度の予測値を導出し、前記センサにより検出された前記動作速度と前記予測値との速度差を導出し、前記油圧機器が故障するときに対応する前記速度差であって予め定められた値を基準値、前記基準値よりも小さい値を通知閾値、前記速度差が前記通知閾値から前記基準値になるまでの期間であって予め定められた期間を猶予期間とすると、前記基準値、前記猶予期間、及び時間経過に対する前記速度差の増加量から前記通知閾値を導出し、前記速度差が前記通知閾値よりも大きい場合に通知を行うように構成されている。
【0006】
給排部材の動作量が同一であっても、油圧機器の劣化に伴い油圧アクチュエータの動作速度は低下していく。このため、油圧機器の劣化に伴い、速度差は大きくなっていく。速度差が大きくなるほど油圧機器は故障しやすい状態になっている。そして、速度差が基準値を上回った状態で油圧機器の使用を継続すると、油圧機器の故障を招くおそれがある。制御装置は、速度差が通知閾値より大きい場合に通知を行う。通知閾値は、基準値よりも小さい値である。通知閾値は、基準値、猶予期間、及び時間経過に対する速度差の増加量から導出される。時間経過に対する速度差の増加量は、産業車両の使用環境、産業車両の使用状況等によって異なる。時間経過に対する速度差の増加量から通知閾値を導出することで、産業車両に合わせた通知閾値を設定することができる。産業車両の管理者は、通知が行われてから油圧機器の発注を行うことによって速度差が基準値に到達する前に油圧機器の発注を行うことができる。従って、油圧機器を用いた作業を行うことができない事態が生じにくい。
【0007】
上記産業車両について、前記産業車両はフォークリフトであり、前記フォークリフトは、荷役装置を備え、前記油圧アクチュエータは、前記荷役装置が備える油圧シリンダであってもよい。
【0008】
上記産業車両について、前記制御装置は、前記油圧機器の使用開始から所定時間の間に、前記給排部材の動作量と前記センサにより検出された前記動作速度から、前記給排部材の動作量と前記動作速度との相関関係であって前記予測値を導出するための相関関係を導出するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油圧機器を用いた作業を行うことができない事態が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】産業車両を模式的に示すブロック図である。
図2】制御弁ユニットの構成を示す図である。
図3】制御装置が行う通知制御の処理手順を示すフローチャートである。
図4】通知制御により設定される通知閾値を示す図である。
図5】通知制御により設定される通知閾値を示す図である。
図6】制御装置が行う相関関係導出制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
産業車両の一実施形態について説明する。
図1に示すように、産業車両10は、荷役装置20と、リフトレバー11と、ティルトレバー12と、通知装置13と、を備える。産業車両10は、フォークリフトである。産業車両10は、搭乗者によって操作される。荷役装置20は、マスト21と、フォーク22と、油圧機器30と、を備える。フォーク22は、マスト21に取り付けられている。リフトレバー11は、例えば、産業車両10の搭乗者に操作される。リフトレバー11は、マスト21を昇降させるときに操作される。ティルトレバー12は、例えば、産業車両10の搭乗者に操作される。ティルトレバー12は、マスト21を傾動させるときに操作される。通知装置13は、産業車両10の搭乗者への通知を行う。通知装置13としては、例えば、表示部、ブザー、及びランプを挙げることができる。
【0012】
油圧機器30は、リフトシリンダ31と、ティルトシリンダ34と、タンク38と、ポンプ39と、モータ40と、制御弁ユニット41と、を備える。
リフトシリンダ31は、油圧シリンダである。リフトシリンダ31は、ボトム室32と、ロッド33と、を備える。ボトム室32への作動油の給排によってロッド33は移動する。リフトシリンダ31のロッド33の移動によってマスト21は昇降する。フォーク22は、マスト21とともに昇降する。リフトシリンダ31は、油圧アクチュエータである。
【0013】
ティルトシリンダ34は、油圧シリンダである。ティルトシリンダ34は、第1室35と、第2室36と、ロッド37と、を備える。第1室35、及び第2室36への作動油の給排によってロッド37は移動する。ティルトシリンダ34のロッド37の移動によってマスト21は傾動する。フォーク22は、マスト21とともに傾動する。ティルトシリンダ34は、油圧アクチュエータである。
【0014】
タンク38は、作動油を貯留している。
ポンプ39は、タンク38から作動油を汲み上げる。ポンプ39が汲み上げた作動油は、制御弁ユニット41に供給される。
【0015】
モータ40は、電動モータである。モータ40は、ポンプ39を駆動させる。
図2に示すように、制御弁ユニット41は、リフトバルブ42と、ティルトバルブ51と、を備える。油圧機器30は、第1油路43と、第2油路44と、給排路45と、第3油路52と、第4油路53と、第1給排路54と、第2給排路55と、を備える。
【0016】
リフトバルブ42は、リフトレバー11の操作状態に応じて作動油が流れる方向を切り替える手動式の切替弁である。リフトバルブ42には、第1油路43が接続されている。第1油路43には、ポンプ39から吐出された作動油が流れる。リフトバルブ42には、第1油路43によってポンプ39から吐出された作動油が供給される。リフトバルブ42には、第2油路44が接続されている。第2油路44は、タンク38に接続されている。第2油路44には、リフトシリンダ31から排出された作動油が流れる。リフトバルブ42には、給排路45が接続されている。給排路45は、リフトシリンダ31のボトム室32に接続されている。給排路45を介してボトム室32に作動油を供給することでマスト21が上昇するようにロッド33は移動する。給排路45を介してボトム室32から作動油を排出することでマスト21が下降するようにロッド33が移動する。
【0017】
リフトバルブ42は、中立位置、上昇位置、及び下降位置のうちのいずれかに切り替えられる。中立位置は、ポンプ39からボトム室32への作動油の供給、及びボトム室32からの作動油の排出を行わない位置である。上昇位置は、ポンプ39からボトム室32への作動油の供給が行われる位置である。下降位置は、ボトム室32からの作動油の排出が行われる位置である。リフトバルブ42は、リフトレバー11に連結されたスプールの移動により中立位置、上昇位置、及び下降位置が切り替わる。
【0018】
ティルトバルブ51は、ティルトレバー12の操作状態に応じて作動油が流れる方向を切り替える手動式の切替弁である。ティルトバルブ51には、第3油路52が接続されている。第3油路52には、ポンプ39から吐出された作動油が流れる。ティルトバルブ51には、第3油路52によってポンプ39から吐出された作動油が供給される。ティルトバルブ51には、第4油路53が接続されている。第4油路53は、タンク38に接続されている。第4油路53には、ティルトシリンダ34から排出された作動油が流れる。ティルトバルブ51には、第1給排路54が接続されている。第1給排路54は、ティルトシリンダ34の第1室35に接続されている。ティルトバルブ51には、第2給排路55が接続されている。第2給排路55は、ティルトシリンダ34の第2室36に接続されている。第1給排路54を介して第1室35に作動油を供給することでマスト21が前傾するようにロッド37が移動する。第2給排路55を介して第2室36に作動油を供給することでマスト21が後傾するようにロッド37が移動する。
【0019】
ティルトバルブ51は、中立位置、前傾位置、及び後傾位置のうちのいずれかに切り替えられる。中立位置は、ポンプ39から第1室35及び第2室36への作動油の供給、及び第1室35及び第2室36からの作動油の排出を行わない位置である。前傾位置は、ポンプ39から第1室35への作動油の供給が行われる位置である。後傾位置は、ポンプ39から第2室36への作動油の供給が行われる位置である。ティルトバルブ51は、ティルトレバー12に連結されたスプールの移動により中立位置、前傾位置、及び後傾位置が切り替わる。
【0020】
上記したように、油圧機器30では、ポンプ39から吐出された作動油がリフトバルブ42によってリフトシリンダ31に供給される。リフトバルブ42によってリフトシリンダ31から作動油が排出される。ポンプ39から吐出された作動油がティルトバルブ51によってティルトシリンダ34に給排される。ポンプ39、リフトバルブ42、及びティルトバルブ51は、給排部材である。
【0021】
図1に示すように、産業車両10は、揚高センサ61と、ティルト角センサ62と、第1操作量センサ63と、第2操作量センサ64と、回転数センサ65と、駆動装置66と、制御装置71と、を備える。
【0022】
揚高センサ61は、マスト21の揚高を検出する。マスト21の揚高とは、路面からフォーク22までの高さである。揚高センサ61は、例えば、リールセンサである。
ティルト角センサ62は、マスト21の傾動角度であるティルト角を検出する。傾動角度は、産業車両10の存在する面とフォーク22の上面とが平行であるときの角度を基準=0°とした場合のマスト21の傾動角度である。ティルト角センサ62としては、例えば、ポテンショメータが用いられる。
【0023】
第1操作量センサ63は、リフトレバー11の操作量を検出する。第1操作量センサ63としては、例えば、ポテンショメータが用いられる。
第2操作量センサ64は、ティルトレバー12の操作量を検出する。第2操作量センサ64としては、例えば、ポテンショメータが用いられる。
【0024】
回転数センサ65は、モータ40の回転数を検出する。
駆動装置66は、モータ40を駆動させるモータドライバである。駆動装置66は、制御装置71からの指令に応じてモータ40を回転させる。駆動装置66は、回転数センサ65の検出結果を取得可能である。駆動装置66は、モータ40の回転数を把握しながらモータ40の制御を行う。
【0025】
制御装置71は、プロセッサ72と、記憶部73と、補助記憶装置74と、を備える。記憶部73は、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部73は、処理をプロセッサ72に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部73、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置71は、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御装置71は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。補助記憶装置74としては、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、及びフラッシュメモリを挙げることができる。
【0026】
制御装置71は、通知制御を行う。通知制御は、油圧機器30が故障する前に、通知装置13による通知を行わせる制御である。通知制御は、例えば、油圧機器30の動作中に実行される。油圧機器30の動作中とは、リフトレバー11、及びティルトレバー12の少なくとも一方の操作中である。以下では、一例として、リフトレバー11が操作されている場合に行われる通知制御について説明する。
【0027】
図3に示すように、ステップS1において、制御装置71は、リフトシリンダ31の動作速度の予測値を導出する。リフトシリンダ31の動作速度は、マスト21の昇降速度ともいえる。リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量と、リフトシリンダ31の動作速度とを対応付けた相関関係が補助記憶装置74に記憶されている。制御装置71は、この相関関係からリフトシリンダ31の動作速度の予測値を導出する。リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材は、ポンプ39、及びリフトバルブ42である。制御装置71は、モータ40の回転数をポンプ39の動作量とする。モータ40の回転数は、制御装置71が駆動装置66に与える指令値であってもよいし、回転数センサ65によって検出された実測値であってもよい。制御装置71は、第1操作量センサ63によって検出されたリフトレバー11の操作量をリフトバルブ42の動作量とする。制御装置71は、モータ40の回転数、及びリフトレバー11の操作量に対応するリフトシリンダ31の動作速度を相関関係から求める。そして、相関関係から求めたリフトシリンダ31の動作速度を、リフトシリンダ31の動作速度の予測値とする。相関関係は、式、又はマップとして補助記憶装置74に記憶されている。
【0028】
次に、ステップS2において、制御装置71は、リフトシリンダ31の動作速度を検出する。制御装置71は、複数回に亘って揚高センサ61の検出結果を取得する。これにより、制御装置71は、揚高の変位量を導出することができる。制御装置71は、変位量を当該変位量が生じる間に経過した時間で除算することによって、リフトシリンダ31の動作速度を検出する。揚高センサ61は、リフトシリンダ31の動作速度を検出するセンサといえる。以下の説明において、リフトシリンダ31の動作速度の予測値と揚高センサ61の検出結果から得られたリフトシリンダ31の動作速度との差を速度差という。速度差は、予測値と実測値との差ともいえる。
【0029】
次に、ステップS3において、制御装置71は、速度差を時刻に対応付けて補助記憶装置74に記憶する。
次に、ステップS4において、制御装置71は、時間の経過に対する速度差の増加量を導出する。油圧機器30の劣化に伴い速度差は大きくなる。速度差は、例えば、作動油に含まれる異物の増加、リフトバルブ42やティルトバルブ51の摩耗、リフトシリンダ31やティルトシリンダ34に生じるリークを原因として生じる。リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量が同一であっても、リフトシリンダ31の動作速度が低下することで速度差は増加する。このため、時間の経過に対する速度差の増加量は、時間の経過に対するリフトシリンダ31の動作速度の低下量ともいえる。時間の経過に対する速度差の増加量は、単位時間当たりの速度差の増加量である。制御装置71は、ステップS2でリフトシリンダ31の動作速度が得られる度に、単位時間当たりの速度差の増加量を算出する。単位時間は、産業車両10の管理者等が任意に設定することができる。制御装置71は、例えば、ステップS4の処理を行う時点から単位時間遡った期間に導出されたリフトシリンダ31の動作速度から、時間の経過に対する速度差の増加量を導出する。
【0030】
次に、ステップS5において、制御装置71は、通知閾値を導出する。通知閾値とは、通知装置13による通知を行う際の速度差である。通知閾値は、予め定められた基準値と、ステップS4で導出された時間の経過に対する速度差の増加量と、予め定められた期間である猶予期間と、から導出することができる。
【0031】
基準値は、油圧機器30が故障するときの速度差として定義される。つまり、油圧機器30が故障するときに対応する速度差である。油圧機器30には、故障することなく使用できると想定される速度差の範囲が予め定められている。この範囲の上限値が故障に対応する速度差である。故障に対応する速度差とは、この速度差を上回った状態で油圧機器30の使用を継続した場合に、油圧機器30に故障が生じるおそれがあると想定される速度差ともいえる。油圧機器30が故障することなく使用できると想定される速度差の範囲は、例えば、ベンチ試験によって導出されている。
【0032】
猶予期間は、速度差が通知閾値に到達してから基準値に到達するまでの期間である。猶予期間は、例えば、リードタイムに基づき設定されている。猶予期間は、リードタイム、又はリードタイムにマージンを加えた期間に設定されている。リードタイムとは、油圧機器30の発注から当該油圧機器30の納品までに要すると想定される時間である。
【0033】
制御装置71は、時間の経過に対する速度差の増加量から、猶予期間の間に増加する速度差を予測することができる。制御装置71は、猶予期間の間に増加すると予測される速度差を、基準値から減算することで、通知閾値を導出する。通知閾値は、基準値よりも小さい値である。
【0034】
図4及び図5に示すように、時間の経過に対する速度差の増加量によって通知閾値は異なる値になる。時間の経過に対する速度差の増加量が多いほど、猶予期間T1の間に増加する速度差も大きくなる。このため、図4に示すように、時間の経過に対する速度差の増加量が多いほど、通知閾値は小さい値になる。図5に示すように、時間の経過に対する速度差の増加量が緩やかである程、通知閾値は大きい値になる。
【0035】
図3に示すように、ステップS6において、制御装置71は、速度差が通知閾値より大きいか否かを判定する。ステップS6の判定結果が否定の場合、制御装置71は、通知制御を終了する。ステップS6の判定結果が肯定の場合、制御装置71は、ステップS7の処理を行う。
【0036】
ステップS7において、制御装置71は、通知装置13による通知を行う。通知装置13が表示部であれば、制御装置71は、油圧機器30の交換を促す表示を行ったり、速度差が基準値になるまでの時間を表示したりしてもよい。通知装置13がブザーであれば、制御装置71は、ブザー音によって通知を行ってもよい。通知装置13がランプであれば、制御装置71は、ランプの点灯や点滅によって通知を行ってもよい。ステップS7の処理を終えると、制御装置71は、通知制御を終了する。
【0037】
なお、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量によって、油圧機器30の劣化具合が同一であっても速度差は異なる場合がある。このため、制御装置71は、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量を複数に区分し、区分毎に速度差の導出、及び通知閾値の導出を行ってもよい。例えば、リフトレバー11がマスト21を上昇させる方向に操作される場合、操作量が最大を第1区分、操作量が最大未満かつ所定値の範囲を第2区分としてもよい。所定値は、最大よりも小さい値である。説明の便宜上、リフトレバー11の操作量を例に挙げたが、リフトシリンダ31の動作速度にはモータ40の回転数も関連する。このため、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量を複数に区分する場合、当該区分は、リフトレバー11の操作量とモータ40の回転数の組み合わせになる。
【0038】
相関関係導出制御について説明する。相関関係導出制御は、油圧アクチュエータの動作速度と給排部材の動作量との相関関係を導出するために行われる。一例として、ステップS1で用いられる相関関係、即ち、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量とリフトシリンダ31の動作速度との相関関係を導出する場合について説明する。
【0039】
図6に示すように、ステップS11において、制御装置71は、油圧機器30の使用開始から所定時間が経過しているか否かを判定する。油圧機器30の使用開始は、例えば、産業車両10の製造時である。また、産業車両10の製造後に、油圧機器30の故障などを原因として油圧機器30を新たな油圧機器30に交換した場合には、油圧機器30の交換時である。所定時間とは、リフトシリンダ31の速度差が許容範囲に収まっている時間である。言い換えれば、リフトシリンダ31の劣化が進行していないとみなせる時間である。所定時間は、予め定められている。油圧機器30の使用開始からの経過時間は、産業車両10が起動状態の場合にカウントされてもよい。起動状態とは、荷役装置20を駆動させることができる状態である。油圧機器30の使用開始からの経過時間は、油圧機器30の動作中にカウントされてもよい。
【0040】
制御装置71は、ステップS12において、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量を取得する。リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量は、ステップS1と同様の手法により取得できる。即ち、制御装置71は、モータ40の回転数、及びリフトレバー11の操作量を取得する。
【0041】
次に、ステップS13において、制御装置71は、リフトシリンダ31の動作速度を検出する。リフトシリンダ31の動作速度は、ステップS2と同様の手法により検出できる。即ち、制御装置71は、揚高センサ61の検出結果を複数回取得し、この検出結果からリフトシリンダ31の動作速度を検出すればよい。
【0042】
次に、ステップS14において、制御装置71は、ステップS12で取得されたリフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量と、ステップS13で検出されたリフトシリンダ31の動作速度とを対応付ける。
【0043】
このように、油圧機器30の使用開始から所定時間の間に、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量と、リフトシリンダ31の動作速度との対応付けを複数回行うことで、相関関係を導出することができる。相関関係は、補助記憶装置74に記憶される。相関関係は、油圧機器30の劣化が進行していない場合におけるリフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量と、リフトシリンダ31の動作速度との対応を規定しているといえる。
【0044】
本実施形態の作用について説明する。
油圧機器30の劣化に伴い、速度差は大きくなっていく。速度差が大きくなるほど油圧機器30は故障しやすい状態になっている。そして、速度差が基準値を上回った状態で油圧機器30の使用を継続すると、油圧機器30の故障を招くおそれがある。制御装置71は、速度差が通知閾値より大きい場合に通知を行う。通知閾値は、基準値よりも小さい値である。従って、油圧機器30が故障する前に、通知を行うことができる。
【0045】
本実施形態の効果について説明する。
(1)産業車両10の管理者は、通知が行われてから油圧機器30の発注を行うことによって速度差が基準値に到達する前に油圧機器30の発注を行うことができる。油圧機器30が故障する前に、交換用の油圧機器30を発注することができる。従って、交換用の油圧機器30が納品されるまで油圧機器30を用いた作業を行うことができない事態が生じにくく、作業の効率の悪化を抑制することができる。
【0046】
(2)通知閾値は、基準値、猶予期間、及び時間経過に対する速度差の増加量から導出される。時間経過に対する速度差の増加量は、産業車両10の使用環境、産業車両10の使用状況等の影響によって、ユーザ毎に異なる場合がある。このため、一律に通知閾値を設定した場合、速度差が緩やかに上昇するように産業車両10を使用しているユーザにとっては、通知が過剰に早い段階で行われることになる。本実施形態のように、猶予期間と時間経過に対する速度差の増加量から通知閾値を導出すると、速度差が基準値に到達するよりも猶予期間の分だけ早い段階で通知が行われる。即ち、時間経過に対する速度差の増加量の大小に関わらず、速度差が基準値に到達するよりも猶予期間の分だけ早い段階で通知が行われる。個々の産業車両10毎に、通知閾値を設定できる。産業車両10の使用環境や使用状況に応じた通知を行うことができる。
【0047】
(3)制御装置71は、油圧機器30が故障する前に通知を行うことができる。油圧機器30が故障する前に、新たな油圧機器30への交換を行うことで、油圧機器30が故障することを抑制できる。これにより、油圧機器30が故障することによる作動油の流出を抑制できる。
【0048】
(4)制御装置71は、油圧機器30の使用開始から所定時間の間に相関関係を導出している。油圧機器30によって、モータ40、リフトバルブ42、及びティルトバルブ51の種類が異なっている場合がある。モータ40、リフトバルブ42、及びティルトバルブ51の種類に応じた全ての組み合わせについて、予め相関関係を導出しておくことは困難である。制御装置71が、給排部材の動作量と動作速度との実績から相関関係を導出することによって、相関関係を事前に導出しておかなくても、モータ40、リフトバルブ42、及びティルトバルブ51の種類に応じた相関関係が導出される。
【0049】
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量と、リフトシリンダ31の動作速度とを対応付けた相関関係は、産業車両10の製造段階で予め定められていてもよい。油圧機器30が備えるモータ40、リフトバルブ42、及びティルトバルブ51が既知であれば、相関関係は予め導出することができる。従って、相関関係としては、予め定められたものを用いてもよい。
【0050】
○通知制御は、ティルトシリンダ34を用いて行われてもよい。この場合、制御装置71は、ティルトシリンダ34の動作速度の予測値と、ティルト角センサ62により検出されるティルトシリンダ34の動作速度との速度差から通知制御を行う。ティルトシリンダ34の動作速度の予測値は、ティルトシリンダ34の動作速度に関連する給排部材の動作量と、ティルトシリンダ34の動作速度とを対応付けた相関関係から導出されればよい。当該相関関係は、相関関係導出制御によって導出することができる。この場合、制御装置71は、ティルトシリンダ34の動作速度に関連する給排部材の動作量と、ティルトシリンダ34の動作速度とを対応付けることで、相関関係を導出する。ティルトシリンダ34の動作速度に関連する給排部材は、ポンプ39、及びティルトバルブ51である。制御装置71は、モータ40の回転数をポンプ39の動作量とする。制御装置71は、第2操作量センサ64によって検出されたティルトレバー12の操作量をティルトバルブ51の動作量とする。制御装置71は、複数回に亘ってティルト角センサ62の検出結果を取得する。これにより、制御装置71は、マスト21の傾動角度の変位量を導出することができる。制御装置71は、変位量を当該変位量が生じる間に経過した時間で除算することによって、ティルトシリンダ34の動作速度を検出する。ティルト角センサ62は、ティルトシリンダ34の動作速度を検出するセンサである。
【0051】
制御装置71は、リフトシリンダ31を用いた通知制御に代えて、ティルトシリンダ34を用いた通知制御を行ってもよい。制御装置71は、リフトシリンダ31を用いた通知制御に加えて、ティルトシリンダ34を用いた通知制御を行ってもよい。
【0052】
○産業車両10は、建設機械であってもよい。この場合、建設機械は、油圧シリンダ、及び油圧モータの少なくともいずれかを備える。油圧シリンダ、及び油圧モータは、油圧アクチュエータである。
【0053】
○産業車両10は、制御装置71によって自動で運転されるものであってもよい。この場合、通知装置13としては、産業車両10に指令を与える上位制御装置に対して情報を送信可能な通信装置であってもよい。制御装置71は、速度差が通知閾値を上回ると、速度差が通知閾値を上回ったことを示す情報を上位制御装置に送信する。上位制御装置は、産業車両10の管理者に通知を行う。この際の通知は、表示部、ブザー、又はランプを用いて行われてもよい。
【0054】
○産業車両10は、遠隔操作されるものであってもよい。この場合、操作者は、産業車両10から離れた遠隔地で産業車両10の操作を行う。操作者は、遠隔地に設けられた操作端末を操作することで、産業車両10を操作する。この場合、通知装置13としては、操作端末に対して情報を送信可能な通信装置であってもよい。制御装置71は、速度差が通知閾値を上回ると、速度差が通知閾値を上回ったことを示す情報を操作端末に送信する。操作端末は、産業車両10の管理者に通知を行う。この際の通知は、表示部、ブザー、又はランプを用いて行われてもよい。
【0055】
○リフトバルブ42は、リフトレバー11の操作量に応じて、ソレノイドや油圧によってスプールを動作させるものであってもよい。同様に、ティルトバルブ51は、ティルトレバー12の操作量に応じて、ソレノイドや油圧によってスプールを動作させるものであってもよい。
【0056】
○制御装置71は、リフトシリンダ31に内蔵されたストロークセンサの検出結果からリフトシリンダ31の動作速度を検出してもよい。制御装置71は、ストロークセンサの検出結果から、リフトシリンダ31の変位量を導出することができる。制御装置71は、変位量を当該変位量が生じる間に経過した時間で除算することによって、リフトシリンダ31の動作速度を検出する。
【0057】
○制御装置71は、ティルトシリンダ34に内蔵されたストロークセンサの検出結果からティルトシリンダ34の動作速度を検出してもよい。制御装置71は、ストロークセンサの検出結果から、ティルトシリンダ34の変位量を導出することができる。制御装置71は、変位量を当該変位量が生じる間に経過した時間で除算することによって、ティルトシリンダ34の動作速度を検出する。
【0058】
○産業車両は、エンジン式のフォークリフトであってもよい。
○基準値は、油圧機器30の一部が故障するときに対応する速度差であってもよい。例えば、リフトシリンダ31の速度差に対応して設定された基準値は、リフトシリンダ31が故障するときに対応する速度差であってもよい。
【0059】
○時間の経過に対する速度差の増加量は、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量を一定とした場合の、時間の経過に対するリフトシリンダ31の動作速度の低下量ともいえる。このため、制御装置71は、リフトシリンダ31の動作速度に関連する給排部材の動作量を一定とした場合の、時間の経過に対するリフトシリンダ31の動作速度の低下量から通知制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…産業車両、20…荷役装置、30…油圧機器、31…油圧アクチュエータ及び油圧シリンダであるリフトシリンダ、34…油圧アクチュエータ及び油圧シリンダであるティルトシリンダ、39…給排部材であるポンプ、42…給排部材であるリフトバルブ、51…給排部材であるティルトバルブ、61…センサである揚高センサ、62…センサであるティルト角センサ、71…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6