(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】α-アシロキシカルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20240903BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20240903BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/675
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021533932
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026874
(87)【国際公開番号】W WO2021014988
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2019134070
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】平岡 杏子
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02445911(US,A)
【文献】米国特許第02518456(US,A)
【文献】特開2008-174483(JP,A)
【文献】国際公開第2006/064685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化鉄
の無水物及びハロゲン化鉄の水和物から選ばれる1つ、又は2つ以上の混合物からなる触媒の存在下に、下記式(2)で表されるα-ヒドロキシカルボン酸エステル化合物と下記式(3)で表されるアシル化剤を反応させることを特徴とする下記式(1)で表されるα-アシロキシカルボン酸エステル化合物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示し、R
4は炭素数1~6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。)
【化2】
(式(2)中、R
2、R
3及びR
4は式(1)中のR
2、R
3及びR
4とそれぞれ同じである。)
【化3】
(式(3)中、R
1は式(1)中のR
1と同じであり、Zは塩素、臭素、又はR
5C(=O)O-で表されるアシルオキシ基であり、R
5は水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基を示す。)
【請求項2】
前記触媒が、FeCl
3、FeBr
3、FeCl
2、FeBr
2、
及びこれらの水和
物から選ばれる1つ、又は2つ以上の混合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が、FeCl
3、
及びこれの水和
物から選ばれる1つ、又は2つ以上の混合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アシル化剤が下記式(7)で表されるカルボン酸無水物である請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【化4】
(式(7)中、R
1は式(1)中のR
1と同じである。)
【請求項5】
前記式(1)で表されるエステル化合物において、R
4が、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、ノルマルヘキシル基、2-メチルペンチル基、4-メチルペンタン-2-イル基、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基である請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(1)で表されるエステル化合物において、R
2及びR
3が共にメチル基である、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
無溶媒下で反応を行う請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸エステルとアシル化剤を反応させることにより、α-アシロキシカルボン酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールをアシル化剤によってエステル化する反応は有機化学では極めて一般的な方法である。同様にα-ヒドロキシカルボン酸エステルのアルコール部位をアシル化剤によってアシル化(エステル化)する方法もよく知られている。しかしながら、α-ヒドロキシカルボン酸エステルをアシル化剤によってアシル化する反応例の殆どは乳酸エステルに関するもので占められており、文献例として特許文献1、非特許文献1、非特許文献2といったものがあり、これらの文献には引用を含めて非常に多種類の触媒例の記載がある。具体的には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩、塩化コバルト、塩化亜鉛、臭化マグネシウム、トリブチルホスフィン、トリメチルシリルクロライド、スカンジウムトリフラート、トリメチルシリルトリフラート、ビスマストリフラート、過塩素酸マグネウム、過塩素酸亜鉛、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンなどが記載されている。
【0003】
α位の炭素が水素と結合しておらず、2つのアルキル基で置換されたα-ヒドロキシカルボン酸エステルのアルコール部位をアシル化剤によってアシル化する反応の報告例としては、例えば非特許文献3、特許文献2には、アシル化剤として酢酸、触媒として硫酸を用いて、α-ヒドロキシイソ酪酸エステルからα-アセトキシイソ酪酸エステルを合成する方法が記載されている。
また、非特許文献4には、アシル化剤として無水酢酸、触媒として塩酸を用いて、α-ヒドロキシイソ酪酸メチルからα-アセトキシイソ酪酸メチルを合成する方法が記載されている。
また、特許文献3には、アシル化剤として無水酢酸、触媒として濃硫酸を用いて、α-ヒドロキシイソ酪酸メチルからα-アセトキシイソ酪酸メチルを合成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】ドイツ特許1,134,670号明細書
【文献】米国特許2,518,456号明細書
【文献】米国特許2,445,911号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】European Journal of Organic Chemistry,2003,23,4611-4617.
【文献】Journal of Organic Chemistry,2001,66(26),8926-8934.
【文献】INDUSTRIAL AND ENGINEERING CHEMISTRY,1948,Vol.40,No.3,Page534-538.
【文献】Journal of Applied Chemistry of USSR,1993,Vol.66,No.6,Page1058-1062.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献3、特許文献2に記載された方法では、相当量のα-アセトキシイソ酪酸が副生するため、目的のα-アセトキシイソ酪酸エステルの収量が十分ではない。また、非特許文献4及び特許文献3には、合成反応の収率に関する記載はなく、非特許文献4には、単離収率として47.5モル%の記載があるのみである。
乳酸エステルに対して、α位の炭素が水素と結合しておらず、2つのアルキル基で置換されたα-ヒドロキシカルボン酸エステルのアルコール部位をアシル化剤によってアシル化する反応では、1)α位の水酸基が酸触媒によって脱離して不飽和カルボン酸エステルを生成しやすい、2)α位の炭素に置換基が多く、その立体障害のためにα位の水酸基のアシル化反応が進行しにくいか、あるいはより厳しい反応条件が必要となる、等の懸念があり、より反応選択性、収率の観点で不利であることが予見される。
本発明が解決しようとする課題は、効率よく、経済性に優れたα-アシロキシカルボン酸エステルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、α位の炭素が水素と結合しておらず、2つのアルキル基で置換されたα,α-ジアルキル-α-ヒドロキシカルボン酸エステル(本明細書において、単に「α-ヒドロキシカルボン酸エステル」ともいう)とアシル化剤を反応させることによりα,α-ジアルキル-α-アシロキシカルボン酸エステル(以下、単に「α-アシロキシカルボン酸エステル」ともいう)を製造する方法ついて鋭意検討したところ、少量の廉価なハロゲン化鉄化合物からなる触媒の存在下に反応を行うことにより、穏やかな反応条件でα-アシロキシカルボン酸エステルが高収率で得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
<1> ハロゲン化鉄化合物からなる触媒の存在下に、下記式(2)で表されるα-ヒドロキシカルボン酸エステル化合物と下記式(3)で表されるアシル化剤を反応させることを特徴とする下記式(1)で表されるα-アシロキシカルボン酸エステル化合物の製造方法。
【0009】
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示し、R
4は炭素数1~6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。)
【0010】
【化2】
(式(2)中、R
2、R
3及びR
4は式(1)中のR
2、R
3及びR
4とそれぞれ同じである。)
【0011】
【化3】
(式(3)中、R
1は式(1)中のR
1と同じであり、Zは塩素、臭素、又はR
5C(=O)O-で表されるアシルオキシ基であり、R
5は水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基を示す。)
【0012】
<2> ハロゲン化鉄化合物からなる触媒が、FeCl3、FeBr3、FeCl2、FeBr2、これらの水和物、及びこれらに配位子が配位した錯体類から選ばれる1つ、又は2つ以上の混合物である、<1>に記載の製造方法。
<3> ハロゲン化鉄化合物からなる触媒が、FeCl3、これの水和物、及びこれに配位子が配位した錯体類から選ばれる1つ、又は2つ以上の混合物である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> アシル化剤が下記式(7)で表されるカルボン酸無水物である<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
【化4】
(式(7)中、R
1は式(1)中のR
1と同じである。)
【0014】
<5> 前記式(1)で表されるエステル化合物において、R4がメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-メチルペンチル基、2,2-ジメチルプロピル基、4-メチルペンタン-2-イル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びノルマルヘキシル基よりなる群から選択される、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6> 前記式(1)で表されるエステル化合物において、R2及びR3が共にメチル基である、<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7> 無溶媒下で反応を行う、<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、効率よく経済性に優れたα-アシロキシカルボン酸エステルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[α-アシロキシカルボン酸エステルの製造方法]
本実施形態のα-アシロキシカルボン酸エステルの製造方法(以下、単に「本製造方法」ともいう)は、ハロゲン化鉄化合物からなる触媒(以下、単に「本触媒」ともいう)の存在下に下記式(2)で表されるα-ヒドロキシカルボン酸エステルを、下記式(3)で表されるアシル化剤と反応させることにより下記式(1)で表されるα-アシロキシカルボン酸エステルを得るものである。
【0017】
【化5】
(式(1)中、R
1は水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基を示し、R
2及びR
3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示し、R
4は炭素数1~6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。)
【0018】
【化6】
(式(2)中、R
2、R
3及びR
4は式(1)中のR
2、R
3及びR
4とそれぞれ同じである。)
【0019】
【化7】
(式(3)中、R
1は式(1)中のR
1と同じであり、Zは塩素、臭素、又はR
5C(=O)O-で表されるアシルオキシ基であり、R
5は水素原子、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、又はターシャリーブチル基を示す。)
【0020】
本製造方法のα-アシロキシカルボン酸エステルの生成反応は下記式(4)で表される。
【0021】
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、Zは、上記式(1)~(3)中のR
1、R
2、R
3、R
4、及びZとそれぞれ同義である。)
【0022】
<α-ヒドロキシカルボン酸エステル>
本製造方法に用いられる原料化合物の一つは、上記式(2)で表されるα-ヒドロキシカルボン酸エステルである。具体的には、α-ヒドロキシイソ酪酸エステル(R2=メチル基、R3=メチル基)、α-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸エステル(R2=メチル基、R3=エチル基)、α-ヒドロキシ-2-エチルブタン酸エステル(R2=エチル基、R3=エチル基)が例示される。
これらの中でも、入手容易性及び優れた反応収率の観点から、R2及びR3が共にメチル基であることが好ましい。すなわち、式(2)で表される化合物は、α-ヒドロキシイソ酪酸エステルであることが好ましい。
【0023】
これらの個々のエステルは分子内にR4基を持ち、これは炭素数1~6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基(2-メチルプロピル基)、セカンダリーブチル基(1-メチルプロピル基)、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、1-メチルブチル基(2-ペンチル基)、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、2-メチルブタン-2-イル基、1-エチルプロピル基(3-ペンチル基)、3-メチルブタン-2-イル基、ノルマルヘキシル基、1-メチルペンチル基(2-ヘキシル基)、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2-メチルペンタン-2-イル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、3-メチルペンタン-2-イル基、2,3-ジメチルブチル基、4-メチルペンタン-2-イル基、3-ヘキシル基、2-エチルブチル基、2,3-ジメチルブタン-2-イル基、3,3-ジメチルブタン-2-イル基、4-メチルペンタン3-イル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、R4は、入手容易性の観点から、好ましくはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、ノルマルヘキシル基、2-メチルペンチル基、4-メチルペンタン-2-イル基、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基、より好ましくはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、又はノルマルヘキシル基、更に好ましくはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、又はセカンダリーブチル基であり、より更に好ましくはメチル基又はイソプロピル基である。
【0025】
これらのα-ヒドロキシカルボン酸エステルには、R2基とR3基の組み合わせ、及びR4基の構造に由来して、1つ以上の不斉炭素を持つ場合があり、それによって生じる立体異性体のいずれか1つ又は任意の割合の2つ以上の混合物も本製造方法の原料化合物に含まれる。
式(2)で表されるα-ヒドロキシカルボン酸エステルは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
α-ヒドロキシカルボン酸エステルとして、工業的に入手しやすく、利用されやすいのはα-ヒドロキシイソ酪酸エステルであり、具体的には、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸エチル、α-ヒドロキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル、α-ヒドロキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-ヒドロキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-ヒドロキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-ヒドロキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-ヒドロキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-ヒドロキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-ヒドロキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-ヒドロキシイソ酪酸ノルマルヘキシル、α-ヒドロキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-ヒドロキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-ヒドロキシイソ酪酸シクロペンチル、α-ヒドロキシイソ酪酸シクロヘキシル、などが挙げられる。
【0027】
本製造方法に用いられる式(2)で表されるα-ヒドロキシカルボン酸エステルの合成原料や製法等に特に制限はなく、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。
【0028】
<アシル化剤>
本製造方法に用いられる原料化合物の一つは、上記式(3)で表されるアシル化剤であり、例えば、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸無水物である。
カルボン酸塩化物の具体的な例としては、アセチルクロリド、プロパノイルクロリド、ノルマルブチリルクロリド、イソブチリルクロリド、ピバロイルクロリド、等が挙げられる。
カルボン酸臭化物の具体的な例としては、アセチルブロミド、プロパノイルブロミド、ノルマルブチリルブロミド、イソブチリルブロミド、ピバロイルブロミド、等が挙げられる。
カルボン酸無水物の具体的な例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水ピバリン酸、ギ酸酢酸無水物、酢酸プロピオン酸無水物、酢酸酪酸無水物、酢酸イソ酪酸無水物、酢酸ピバリン酸無水物、等が挙げられる。
【0029】
アシル化剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本製造方法に用いられるアシル化剤の合成原料や製法等に特に制限はなく、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。
【0030】
アシル化剤として、カルボン酸塩化物を用いた場合には塩化水素(塩酸)が、カルボン酸臭化物を用いた場合には臭化水素が、カルボン酸無水物を用いた場合にはカルボン酸が副生する。このような副生物の生成が好ましくない場合には、塩基性の中和剤を共存させるか、又は添加するなどして中和してもよい。
特に塩化水素、臭化水素は強酸性であり、これらが副生する場合には中和剤としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩や、トリエチルアミン、ピリジンといった塩基性物質などを使用して中和することが好ましい。中和剤の添加量としては、生成する塩化水素や臭化水素と等量モル程度を用いることが好ましい。
カルボン酸は弱酸性物質であり副生しても、必ずしも中和しなくてもよいが、中和剤としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩や、トリエチルアミン、ピリジンといった塩基性物質などを使用して、中和してもよい。
【0031】
カルボン酸無水物は工業的に入手しやすいため、好適に用いられる。ここで、下記式(5)で表されるような異種のカルボン酸化合物から構成されるカルボン酸無水物を用いると、本製造方法のα-アシロキシカルボン酸エステルの生成反応は下記式(6)で表されるように生成物種が多くなり、個々の分離、精製を考えると煩雑となる。
【0032】
【化9】
(式(5)中、R
1は式(1)中のR
1と同じである。R
1*は式(1)のR
1と同じである。ただし、R
1とR
1*は異なる。)
【0033】
【0034】
そのため、下記式(7)で表されるような単一のカルボン酸化合物から構成されるカルボン酸無水物を用いた方が、アシル化生成物は単一となり、反応生成物の分離、精製工程を簡略化することができ、好ましい。単一のカルボン酸化合物から構成されるカルボン酸無水物を用いた本製造方法のα-アシロキシカルボン酸エステルの生成反応は下記式(8)で表される。
【0035】
【化11】
(式(7)中、R
1は式(1)中のR
1と同じである。)
【0036】
【0037】
上記式(7)で表される単一のカルボン酸化合物から構成されるカルボン酸無水物の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水ピバリン酸、等が挙げられる。
【0038】
本製造方法に用いられるα-ヒドロキシカルボン酸エステルとアシル化剤の比率に制限はないが、本来、当モルの反応であるため、極端な比率を採用すると、どちらかが大量に残ることになり、好ましくない。そのため、本製造方法に用いられるα-ヒドロキシカルボン酸エステル/アシル化剤のモル比の範囲は、好ましくは0.05~20、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2.0、より更に好ましくは0.9~1.1である。
【0039】
α-ヒドロキシカルボン酸エステルを完全に転化させるためには少なくともα-ヒドロキシカルボン酸エステルに対してアシル化剤を当量モル、又はそれ以上に用いることが好ましい。
また、α-アシロキシカルボン酸エステルと未反応のアシル化剤の分離が容易でない場合などには、α-ヒドロキシカルボン酸エステルに対してアシル化剤を当量モル以下で用いて、アシル化剤を完全に転化させることで、不具合を回避することができる。
このように目的に応じて、α-ヒドロキシカルボン酸エステルとアシル化剤の比率は適宜、選択して用いることができる。
【0040】
<α-アシロキシカルボン酸エステル>
本製造方法によって得られるα-アシロキシカルボン酸エステルは、上記式(1)で表される。
上記式(4)に表されるように、α-ヒドロキシイソ酪酸エステル(R2=メチル基、R3=メチル基)、α-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸エステル(R2=メチル基、R3=エチル基)、又はα-ヒドロキシ-2-エチルブタン酸エステル(R2=エチル基、R3=エチル基)の水酸基部位にアシル化剤のR1基を含むアシル基部位が反応して、エステル結合が形成されることにより、上記式(1)に示されるような構造となる。
【0041】
α-ヒドロキシカルボン酸エステルとしてα-ヒドロキシイソ酪酸エステルを用いた場合に得られるα-アシロキシカルボン酸エステルとしては、具体的には、α-ホルミルオキシイソ酪酸メチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸エチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-ホルミルオキシイソ酪酸イソプロピル、α-ホルミルオキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-ホルミルオキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-ホルミルオキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-ホルミルオキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-ホルミルオキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-ホルミルオキシイソ酪酸シクロペンチル、α-ホルミルオキシイソ酪酸シクロヘキシル、α-ホルミルオキシイソ酪酸ノルマルヘキシル
【0042】
α-アセトキシイソ酪酸メチル、α-アセトキシイソ酪酸エチル、α-アセトキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-アセトキシイソ酪酸イソプロピル、α-アセトキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-アセトキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-アセトキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-アセトキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-アセトキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-アセトキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-アセトキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-アセトキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-アセトキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-アセトキシイソ酪酸シクロペンチル、α-アセトキシイソ酪酸シクロヘキシル、α-アセトキシイソ酪酸ノルマルヘキシル
【0043】
α-プロパノイルオキシイソ酪酸メチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸エチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸イソプロピル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-プロパノイルオキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-プロパノイルオキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-プロパノイルオキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸シクロペンチル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸シクロヘキシル、α-プロパノイルオキシイソ酪酸ノルマルヘキシル
【0044】
α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸メチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸エチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸イソプロピル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸シクロペンチル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸シクロヘキシル、α-ノルマルブチリルオキシイソ酪酸ノルマルヘキシル
【0045】
α-イソブチリルオキシイソ酪酸メチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸エチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸イソプロピル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-イソブチリルオキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-イソブチリルオキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-イソブチリルオキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸シクロペンチル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸シクロヘキシル、α-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルヘキシル
【0046】
α-ピバロイルオキシイソ酪酸メチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸エチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸イソプロピル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸ノルマルブチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸イソブチル(2-メチルプロピル)、α-ピバロイルオキシイソ酪酸セカンダリーブチル(ブタン-2-イル)、α-ピバロイルオキシイソ酪酸ターシャリーブチル(1,1-ジメチルエチル)、α-ピバロイルオキシイソ酪酸2-メチルブチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸3-メチルブチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸2,2-ジメチルプロピル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸2-メチルペンチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸4-メチルペンタン-2-イル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸シクロペンチル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸シクロヘキシル、α-ピバロイルオキシイソ酪酸ノルマルヘキシルなどが例示される。
【0047】
また、本製造方法によって得られるα-アシロキシカルボン酸エステルとしては、上述したα-ヒドロキシイソ酪酸エステルを原料として使用したα-アシロキシイソ酪酸エステルの原料を、α-ヒドロキシ-2-メチルブタン酸エステル又はα-ヒドロキシ-2-エチルブタン酸エステルに変更して得られる、α-アシロキシ-2-メチルブタン酸エステル及びα-アシロキシ-2-エチルブタン酸エステルが例示される。
【0048】
<触媒>
本製造方法に用いられる触媒は、ハロゲン化鉄化合物からなる触媒を用いることができる。なお、本発明において、「ハロゲン化鉄化合物からなる触媒」とは、触媒成分としてハロゲン化鉄化合物を含有していれば、特に制限はなく、他の触媒成分を併用してもよい。
なお、他の触媒成分を併用する場合、ハロゲン化鉄化合物の含有量は、触媒全体の好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0049】
ハロゲン化鉄としてはFeCl3、FeBr3、FeCl2、FeBr2が挙げられ、ハロゲン化鉄化合物としては、これらの無水物、水和物、これらに配位子が配位した錯体類、複塩等も用いることができる。
これらの中でも、入手容易性及び反応性の観点から、FeCl3、その水和物、及びこれに配位子が配位した錯体類から選ばれる1つ又は2つ以上の混合物であることが好ましい。
具体的には、FeCl3、FeCl3・2H2O、FeCl3・2.5H2O、FeCl3・3.5H2O、FeCl3・6H2O、FeCl2、FeCl2・H2O、FeCl2・2H2O、FeCl2・4H2O、FeCl2・6H2O、FeBr3、FeBr3・6H2O、FeBr2、FeBr2・2H2O、FeBr2・4H2O、FeBr2・6H2O、FeBr2・9H2O、等が例示され、これらにアンモニア、アルキルアミン、ピリジン、アルキルピリジン、ピペリジン、ピペラジンのように分子内に窒素原子を有する含窒素配位子や、ホスフィン、アルキルホスフィン、ホスフィンオキシド、アルキルホスフィンオキシドのように分子内にリン原子を有する含リン配位子などの従来公知な配位子がハロゲン化鉄化合物中の鉄原子に配位した錯体も用いることができる。
【0050】
また、FeCl2とFeCl3からできる複塩である、2FeCl2・FeCl3(Fe3Cl7)、FeCl2・2FeCl3(Fe3Cl8);FeBr2とFeBr3からできる複塩である2FeBr2・FeBr3(Fe3Br7)、FeBr2・2FeBr3(Fe3Br8)、及び、これらの水和物や従来公知な配位子がハロゲン化鉄化合物中の鉄原子に配位した錯体を用いることができる。
更に、FeCl2又はFeCl3と他の元素化合物からできる複塩である、KCl・FeCl2(KFeCl3)、2KCl・FeCl2(K2FeCl4)、2KCl・FeCl3(K2FeCl5)、3KCl・NaCl・FeCl2(K3NaFeCl6)、及び、これらの水和物や従来公知な配位子がハロゲン化鉄化合物中の鉄原子に配位した錯体なども用いることができる。
これらから選ばれる1つ又は任意の割合の2つ以上の混合物を本触媒として用いることができる。
【0051】
安価に製造され、安定性、反応活性に優れるために本触媒として三価のハロゲン化鉄化合物からなる触媒を用いることが好ましく、中でも工業的にも簡単に製造でき、極めて安価な三価のハロゲン化鉄化合物としてFeCl3、FeCl3・6H2O、FeBr3、FeBr3・6H2Oを用いることがより好ましく、中でも触媒活性に優れるFeCl3、FeCl3・6H2Oを用いることが特に好ましい。
【0052】
本製造方法に用いられるα-ヒドロキシカルボン酸エステルと触媒との比率に制限はない。本触媒の活性が極めて高いため、α-ヒドロキシカルボン酸エステルに対する触媒であるハロゲン化鉄化合物中の鉄原子のモル比(ハロゲン化鉄化合物中の鉄原子/α-ヒドロキシカルボン酸エステル)の範囲は、好ましくは5×10-6~50×10-2、より好ましくは20×10-6~10×10-2、更に好ましくは50×10-6~1×10-2である。
【0053】
<反応>
本製造方法の反応はα-ヒドロキシカルボン酸エステルとアシル化剤が本触媒の存在下に接触して行われるものであれば、特に制限はなく、例えば気相でも液相でも行うことができる。本製造方法の触媒は活性が高く、低い反応温度でも充分な反応速度を示す。また、十分な触媒活性が得られる温度条件下では、どちらの反応原料も液体であることが多く、液相下で反応を行うことが可能であり、液相下で行うことが好ましい。
【0054】
本製造方法ではα-ヒドロキシカルボン酸エステル、アシル化剤及び本触媒に、反応溶媒を加えて実施してもよい。その場合に用いられる反応溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限はない。
例えば脂肪族飽和炭化水素、脂肪族ハロゲン化炭化水素、エーテル化合物、エステル化合物、アミド化合物等を用いることができる。より具体的には、
脂肪族飽和炭化水素として、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、2,2-ジメチル-ブタン、ノルマルヘプタン、イソヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、ノルマルオクタン、イソオクタン、ノルマルノナン、イソノナン、ノルマルデカン、ノルマルペンタデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリンなど、
脂肪族ハロゲン化炭化水素として、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、ブロモメタン、ブロモエタン、ブロモホルムなど、
エステル化合物として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ノルマル酪酸メチル、ノルマル酪酸エチル、ノルマル酪酸ブチル、イソ酪酸メチル、ノルマル酪酸シクロヘキシル、イソ酪酸シクロヘキシル及び吉草酸メチルなど、
エーテル化合物として、ジエチルエーテル、ジノルマルプロピルエーテル、ジイソプロプルエーテル、ジノルマルブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、エチルシクロペンチルエーテル、エチルシクロヘキシルエーテル、プロピルシクロペンチルエーテル、プロピルシクロヘキシルエーテル、ブチルシクロペンチルエーテル、ブチルシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン及びジメチル-1,4-ジオキサンなど、
アミド化合物として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが挙げられる。
【0055】
逆に芳香族炭化水素やアルコール化合物を反応溶媒に用いた場合、本触媒の作用によりアシル化されてしまうため、使用は好ましくない。
本発明では上記の中から選ばれる1つ又は任意の割合の2つ以上の混合物を反応溶媒として用いることができる。
【0056】
また、α-ヒドロキシカルボン酸エステル、アシル化剤及び本触媒のみで、反応溶媒を用いることなく無溶媒下で実施することも可能である。反応溶媒の回収、精製、再利用等の手間を考えると、無溶媒下で反応を行うことが好ましい。
【0057】
本製造方法の反応温度の範囲は好ましくは-50~300℃、より好ましくは-30~200℃、更に好ましくは0~100℃、より更に好ましくは20~90℃である。
【0058】
本製造方法に用いられる反応方式に特に制限はなく、従来公知な反応方式を用いることができる。流通(フロー)反応方式でも回分(バッチ)反応方式でもよい。原料のα-ヒドロキシカルボン酸エステル、アシル化剤、触媒、場合によって反応溶媒の種類及び量を適宜組み合わせて、反応器に連続して流通、又は充填(チャージ、仕込み)して、反応を行うことができる。
【0059】
より具体的には、
(i)反応器にα-ヒドロキシカルボン酸エステル、アシル化剤、触媒を一括で仕込んで反応を行う方法、
(ii)反応器にα-ヒドロキシカルボン酸エステルと触媒を先に仕込み、アシル化剤を反応器に後から連続又は分割して供給して反応を行う方法、
(iii)反応器にアシル化剤と触媒を先に仕込み、α-ヒドロキシカルボン酸エステルを反応器に後から連続又は分割して供給して反応を行う方法、
(iv)反応器にα-ヒドロキシカルボン酸エステルとアシル化剤を先に仕込み、触媒単独あるいは触媒を反応溶媒に溶解させた溶液を後から連続又は分割して供給して反応を行う方法
などが例示される。
【0060】
本製造方法の反応は発熱反応であるため、これを工業的に行うためには除熱する必要が生じ、従来公知な除熱方式を適宜、反応方式と組み合わせて用いることができる。
【0061】
本製造方法によって得られたα-ヒドロキシカルボン酸エステルの精製方法にも特に制限はなく、抽出、蒸留といった従来公知な精製方法を用いることができ、何ら制限はない。
【0062】
なお、本発明者は、3級水酸基を持つ(水酸基のα位の炭素が水素と結合していない)化合物として、2-メチル-1-フェニル-2-プロパノール(ジメチルベンジルカルビノール)、2,6-ジメチル-2-ヘプタノール、2-メチル-2-ブタノール(ターシャリーアミルアルコール)についても、無水塩化鉄(III)触媒、無水酢酸によるアセチル化(アシル化)反応を試みた。
本製造方法でα-アシロキシカルボン酸エステルが極めて高い反応収率で得られる反応条件で、これらのアルコールを用いた場合にはアセチル化生成物の収率は70~80%に留まり、それ以外にアルコールの脱水反応による複数の異性体を含むオレフィン化合物や、水酸基が触媒中のハロゲン元素と置換したハロゲン化物等の多種の副生成物を生じる結果となり、3級アルコール化合物のアシル化反応が必ずしも容易ではなく、選択的に目的物を与える訳ではないことを確認している。
本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸エステルを、特定の触媒の存在下に、特定のアシル化剤によってエステル化すると、極めて高収率でアシル化物が得られることを見出したものである。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例を以って本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
反応成績の評価は下記の式によって評価した。
原料転化率(%)=[1-(反応液中の原料物質のモル数)/(原料仕込液中の原料物質のモル数)]×100%
反応収率(%)=[(反応液中の生成物質のモル数)/(原料仕込液中の原料物質のモル数)]×100%
【0065】
<ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)>
装置:GC-2010((株)島津製作所製、製品名)
検出器:FID
カラム:DB-1(J&W製キャピラリーカラム、製品名)(0.25mmφ×60m×0.25μm)
ピークの同定は、標品を用いて行った。
【0066】
<参考例1:α-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピルの合成>
蒸留管、撹拌装置を備えた500mlガラス製フラスコにα-ヒドロキシイソ酪酸メチル(三菱ガス化学(株)製、以下、MHIBともいう)118.0g、イソプロパノール(富士フイルム和光純薬(株)製)141.0g、チタンテトライソプロポキシド(富士フイルム和光純薬(株)製)1.29gを仕込んだ。常圧下で加熱還流しながらエステル交換反応を行い、生成するメタノールを系外に抜き出しながら50時間反応を行った。その結果、下記式(9)の反応により反応収率97.4%でα-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル(以下、iPHIB)が得られた。反応系に加水して触媒を失活させた後に減圧蒸留を行い、40mmHg(53.3hPa)、65℃の留分として、101.0gのα-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル(GC分析による純度(以下、GC純度ともいう):99.6%)を得た。
【0067】
【0068】
<実施例1:α-アセトキシイソ酪酸イソプロピルの合成>
冷却管、撹拌装置を備えた100mlガラス製フラスコに参考例1で調製したα-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル(以下、iPHIBともいう)15.2g、無水酢酸(富士フイルム和光純薬(株)製)11.7g、無水塩化鉄(III)(塩化第二鉄、富士フイルム和光純薬(株)製)0.055gを仕込んだ。常圧下でフラスコの温度を15℃に保ちながら撹拌して4時間反応を行った。その結果、下記式(10)の反応により原料iPHIB転化率100%、反応収率99.1%でα-アセトキシイソ酪酸イソプロピル(以下、iPAIBともいう)が得られた。その後、10%炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回の洗浄操作を行い、硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮した。引き続き、減圧蒸留を行い、47hPa、95℃の留分として16.8gのiPAIB(GC純度99.9%)を得た。
【0069】
【0070】
<実施例2~3、比較例1~8:α-アセトキシイソ酪酸イソプロピルの合成>
実施例1と同様の反応装置を用い、参考例1で調製したiPHIBと無水酢酸(富士フイルム和光純薬(株)製)及び各種触媒(いずれも富士フイルム和光純薬(株)製)、並びに反応条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、iPAIBを合成した。その時の反応条件、原料iPHIBの転化率、及び生成iPAIBの収率を表1にまとめて記載した。
【0071】
【0072】
<実施例4:α-イソブチリルオキシイソ酪酸メチルの合成>
冷却管、撹拌装置を備えた100mlガラス製フラスコにMHIB(三菱ガス化学(株)製)12.6g、無水イソ酪酸(富士フイルム和光純薬(株)製)18.5g、無水塩化鉄(III)(塩化第二鉄、富士フイルム和光純薬(株)製)0.069gを仕込んだ。常圧下でフラスコの温度を15℃に保ちながら撹拌して22.7時間反応を行った。その結果、下記式(11)の反応により原料転化率100%、反応収率99.6%でα-イソブチリルオキシイソ酪酸メチル(以下、MiBIBともいう)が得られた。
【0073】
【0074】
<実施例5、比較例9~14:α-イソブチリルオキシイソ酪酸メチルの合成>
実施例4と同様の反応装置を用い、MHIB(三菱ガス化学(株)製)と無水イソ酪酸(富士フイルム和光純薬(株)製)及び各種触媒(いずれも富士フイルム和光純薬(株)製)を並びに反応条件を表2に示すように変更した以外は、実施例4と同様にして、MiBIBを合成した。その時の反応条件、原料MHIBの転化率及び生成MiBIBの収率を表2にまとめて記載した。
【0075】
【0076】
<実施例6:α-ピバロイルオキシイソ酪酸メチルの合成>
冷却管、撹拌装置を備えた100mlガラス製フラスコにMHIB(三菱ガス化学(株)製)10.3g、無水ピバリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)17.9g、無水塩化鉄(III)(塩化第二鉄、富士フイルム和光純薬(株)製)0.037gを仕込んだ。常圧下でフラスコの温度を60℃に保ちながら撹拌して4.8時間反応を行った。その結果、下記式(12)の反応により原料転化率100%、反応収率99.2%でα-ピバロイルオキシイソ酪酸メチル(以下、MPIBともいう)が得られた。
【0077】
【0078】
<実施例7~12、比較例15~18:α-ピバロイルオキシイソ酪酸メチルの合成>
実施例6と同様の反応装置を用い、MHIB(三菱ガス化学(株)製)と無水ピバリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)及び各種触媒(いずれも富士フイルム和光純薬(株)製)並びに反応条件を表3に示すように変更した以外は、実施例6と同様にして、MPIBを合成した。その時の反応条件、原料MHIBの転化率及び生成MPIBの収率を表3にまとめて記載した。
【0079】
【0080】
<実施例13:α-アセトキシイソ酪酸イソプロピルの合成>
冷却管、撹拌装置を備えた内容積1リットルの三口フラスコに、参考例1と同様の方法で調製したiPHIB250gと無水塩化鉄(III)(塩化第二鉄、富士フイルム和光純薬(株)製)0.0277g(対iPHIBモル濃度0.01%)を入れ、55℃まで昇温した。無水酢酸(富士フイルム和光純薬(株)製)192gを、送液ポンプにより毎時64gの速度で3時間かけて滴下し、液温60℃で反応を行った。反応液組成を経時的にGC分析で確認し、滴下開始から5時間後に原料iPHIBの消失(iPHIB転化率100%)と、反応収率99.6%でiPAIBの生成を確認した。
冷却後、反応液を炭酸ナトリウム水溶液へ注ぎ入れ、分液による水洗操作を4回行い、その後、イオン交換水による洗浄操作を1回行った。分液後の粗生成物を25mmφ×300mm長のマクマホンパッキン充填蒸留塔を備えた内容積1リットルの三口フラスコに移し、減圧蒸留を行い、55hPa、97℃の留分として276.7gのiPAIB(GC純度99.9%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の方法により効率よく経済性に優れたα-アシロキシカルボン酸エステルの製造方法を提供することができる。