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特許7548236ポリイミド樹脂組成物、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20240903BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20240903BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08L33/16
C08G73/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021542748
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 JP2020030894
(87)【国際公開番号】W WO2021039442
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019155627
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松丸 晃久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】末永 修也
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-137796(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073591(WO,A1)
【文献】特開2019-077863(JP,A)
【文献】国際公開第2005/061020(WO,A1)
【文献】特開昭57-195149(JP,A)
【文献】特開平03-181558(JP,A)
【文献】特開2019-104843(JP,A)
【文献】特開2019-038930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08L 33/16
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂(X)と、フッ素含有ポリマー(Y)とを含み、
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)から構成され、
前記式(2)で表される繰り返し単位が、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と、下記式(b-2-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-1)、下記式(b-2-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-2)、及び下記式(b-2-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する構成単位(B-2)から構成され、
ポリイミド樹脂(X)を構成するジアミンに由来する構成単位中の構成単位(B-1)の比率が10~50モル%であり、
ポリイミド樹脂(X)を構成するジアミンに由来する構成単位中の構成単位(B-2)の比率が50~90モル%であり、
フッ素含有ポリマー(Y)が、パーフルオロアルキル基を有するフッ素含有アクリルポリマーである、ポリイミド樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数であり、R5は炭素数4~39の4価の脂環基である。
式(2)中、R6は炭素数4~39の4価の脂環基であり、Φは合計の炭素数が2~39の2価の脂肪族基、脂環基、芳香族基又はこれらの組合せからなる基であって、結合基として-O-、-SO2-、-CO-、-CH2-、-C(CH32-、-C24O-及び-S-からなる群から選ばれる少なくとも1つを有していてもよい。)
【化2】

(式(b-1)中、R 1 ~R 4 は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z 1 及びZ 2 は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数である。)
【化3】
【請求項2】
フッ素含有ポリマー(Y)の含有量が、ポリイミド樹脂(X)100質量部に対して、0.01~1質量部である、請求項1に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリイミド樹脂(X)中の前記式(1)で表される繰り返し単位の比率が10~50モル%である、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリイミド樹脂(X)を構成するテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位中の構成単位(A-1)の比率が50モル%以上である、請求項1~3のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
構成単位(B-2)が構成単位(B-2-1)である、請求項のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
構成単位(B-2)が構成単位(B-2-2)である、請求項のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
構成単位(B-2)が構成単位(B-2-3)である、請求項のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物を含む、ポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂組成物、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた機械的特性及び耐熱性を有することから、電気・電子部品等の分野において様々な利用が検討されている。例えば、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置に用いられるガラス基板をポリイミドフィルム基板へ代替することが望まれており、光学材料としての性能を満たすポリイミド樹脂の開発が行われている。
たとえば、特許文献1には、光学部品又は光学素子の周辺部材として用いることを目的として、ヘキサヒドロ無水ピロメリット酸と芳香族酸二無水物とからなる酸二無水物と、多環の芳香族基、シロキサン含有基等の有機基を有するジアミンとを反応させて得られるポリイミド共重合体が開示されている。
【0003】
このようなポリイミドフィルムは、通常、ポリイミドと溶媒を含むワニスを、平滑な金属製ベルト等の上に塗布し、乾燥して、剥離することで製造される。
ベルトからの剥離性が悪い場合、フィルムの厚さにムラが生じたり、フィルム表面に傷が生じてしまう。そこで、剥離性を改善するための検討がなされている。
たとえば、特許文献2には、自己支持性フィルムの基体からの剥離を容易にすることを目的として、特定のリン酸エステル等を含有する芳香族ポリアミック酸溶液を基体上にフィルム上に流延し、加熱及び後加熱を行う芳香族ポリイミドフィルムの製造法が開示されている。
また、特許文献3には、極薄のポリイミドフィルムを製造する方法として、離型剤を含有するポリイミド樹脂前駆体溶液を基材上に塗布する工程、乾燥する工程、熱硬化する工程、剥離する工程を含む製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-222745号公報
【文献】特開昭60-244507号公報
【文献】特開2009-226632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の通り、ポリイミドフィルムは、平滑な金属製ベルト等の支持体から剥離して得るが、高い透明性と平滑性を必要とされる画像表示装置用途では、剥離時のわずかな破損が問題となる。なかでもフレキシブルデバイスに用いられる柔軟性を有する、低弾性率のポリイミド樹脂はフィルム成形時にベルト等の支持体からの剥離性が悪くなる傾向にあり、特に高い剥離性が要求される。
前記特許文献2、3では離型剤を用いることで剥離性は改善されるものの、樹脂と反応性を有するためか、特に高温多湿環境下で樹脂の分子量が低下する等の問題が生じていた。
更に離型剤等の添加剤を用いても、光学材料に必要な高い無色透明性を有するポリイミド樹脂組成物が求められていた。
そこで、本発明は、ベルト等の支持体からの剥離性に優れ、高温多湿環境下での分子量低下も抑制され、無色透明性にも優れるフィルムの形成が可能なポリイミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の繰り返し単位を含むポリイミド樹脂とフッ素含有ポリマーを含む組成物が上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[14]に関する。
[1]
下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂(X)と、フッ素含有ポリマー(Y)とを含む、ポリイミド樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数であり、R5は炭素数4~39の4価の脂環基である。
式(2)中、R6は炭素数4~39の4価の脂環基であり、Φは合計の炭素数が2~39の2価の脂肪族基、脂環基、芳香族基又はこれらの組合せからなる基であって、結合基として-O-、-SO2-、-CO-、-CH2-、-C(CH32-、-C24O-及び-S-からなる群から選ばれる少なくとも1つを有していてもよい。)
[2]
フッ素含有ポリマー(Y)の含有量が、ポリイミド樹脂(X)100質量部に対して、0.01~1質量部である、[1]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[3]
フッ素含有ポリマー(Y)が、フッ素含有アクリルポリマーである、[1]又は[2]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[4]
ポリイミド樹脂(X)中の前記式(1)で表される繰り返し単位の比率が10~50モル%である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
[5]
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)から構成される、[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
【化2】

(式(b-1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数である。)
[6]
前記式(2)で表される繰り返し単位が、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と、下記式(b-2-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-1)、下記式(b-2-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-2)、及び下記式(b-2-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する構成単位(B-2)から構成される、[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
【化3】

[7]
ポリイミド樹脂(X)を構成するテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位中の構成単位(A-1)の比率が50モル%以上である、[5]又は[6]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[8]
ポリイミド樹脂(X)を構成するジアミンに由来する構成単位中の構成単位(B-1)の比率が10~50モル%である、[5]~[7]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
[9]
ポリイミド樹脂(X)を構成するジアミンに由来する構成単位中の構成単位(B-2)の比率が50~90モル%である、[6]~[8]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
[10]
構成単位(B-2)が構成単位(B-2-1)である、[6]~[9]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
[11]
構成単位(B-2)が構成単位(B-2-2)である、[6]~[9]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
[12]
構成単位(B-2)が構成単位(B-2-3)である、[6]~[9]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物。
[13]
[1]~[12]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物が有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
[14]
[1]~[12]のいずれか1つに記載のポリイミド樹脂組成物を含む、ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ベルト等の支持体からの剥離性に優れ、高温多湿環境下での分子量低下も抑制され、無色透明性にも優れるフィルムの形成が可能なポリイミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ポリイミド樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂組成物は、下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂(X)と、フッ素含有ポリマー(Y)とを含む。
【化4】

(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数であり、R5は炭素数4~39の4価の脂環基である。
式(2)中、R6は炭素数4~39の4価の脂環基であり、Φは合計の炭素数が2~39の2価の脂肪族基、脂環基、芳香族基又はこれらの組合せからなる基であって、結合基として-O-、-SO2-、-CO-、-CH2-、-C(CH32-、-C24O-及び-S-からなる群から選ばれる少なくとも1つを有していてもよい。)
【0010】
<ポリイミド樹脂(X)>
本発明のポリイミド樹脂組成物に含まれるポリイミド樹脂(X)は、下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を含む。
【化5】

(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数であり、R5は炭素数4~39の4価の脂環基である。
式(2)中、R6は炭素数4~39の4価の脂環基であり、Φは合計の炭素数が2~39の2価の脂肪族基、脂環基、芳香族基又はこれらの組合せからなる基であって、結合基として-O-、-SO2-、-CO-、-CH2-、-C(CH32-、-C24O-及び-S-からなる群から選ばれる少なくとも1つを有していてもよい。)
【0011】
(式(1)で表される繰り返し単位)
ポリイミド樹脂(X)は、無色透明性と柔軟性の観点から、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む。
前記式(1)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、これらの基は少なくとも一部の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。一価の脂肪族基としては、一価の飽和炭化水素基、一価の不飽和炭化水素基、一価の炭化水素オキシ基等が挙げられる。一価の飽和炭化水素基としては炭素数1~22のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が例示できる。一価の不飽和炭化水素基としては炭素数2~22のアルケニル基が挙げられ、例えば、ビニル基、プロペニル基が例示できる。一価の炭化水素オキシ基としては炭素数1~22のアルコキシ基が挙げられ、例えば、前記で例示したアルキル基に酸素原子が結合してなる1価の基が例示できる。一価の芳香族基としては、炭素数6~24のアリール基、炭素数7~24のアラルキル基、炭素数6~24のアリールオキシ基等が挙げられ、例えば、フェニル基、フェノキシ基等が例示できる。R1、R2、R3及びR4としては、特に、メチル基又はフェニル基が好ましい。
1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、これらの基は少なくとも一部の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。二価の脂肪族基としては、二価の飽和炭化水素基又は二価の不飽和炭化水素基が挙げられる。二価の飽和炭化水素基としては炭素数1~22のアルキレン基が挙げられ、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基等が例示できる。二価の不飽和炭化水素基としては、炭素数2~22の不飽和炭素水素基が挙げられ、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、末端に不飽和二重結合を有するアルキレン基が例示できる。二価の芳香族基としては炭素数6~24のアリーレン基、炭素数7~24のアラルキレン基、炭素数6~24のアリーレンオキシ基等が例示できる。これらの基は芳香環を構成する水素原子の少なくとも一部がアルキル基で置換されていてもよい。Z1及びZ2における炭素数6~24のアリーレン基の具体例としては、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、4,4’-ビフェニリレン基、2,6-ナフチレン基等が挙げられる。炭素数7~24のアラルキレン基の具体例としては、ベンジレン基、フェネチレン基等が挙げられる。炭素数6~24のアリーレンオキシ基の具体例としては、前記で例示したアリーレン基に酸素原子が結合してなる2価の基が挙げられる。Z1及びZ2としては、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、p-フェニレン基、ベンジレン基が好ましく、トリメチレン基、テトラメチレン基、p-フェニレン基がより好ましい。
また、rは正の整数であり、2~50の整数であることが好ましい。rが2以上のとき、複数のR1及びR2はそれぞれ、互いに同一でも異なってもよい。
5は、炭素数4~39の4価の脂環基であり、炭素数4~8の4価の脂環基が好ましく、炭素数4~6の4価の脂環基がより好ましく、炭素数6の4価の脂環基が更に好ましい。
【0012】
ポリイミド樹脂(X)中の前記式(1)で表される繰り返し単位の比率は、好ましくは10~50モル%であり、より好ましくは10~40モル%であり、更に好ましくは15~30モル%であり、特に好ましくは15~25モル%である。
【0013】
ポリイミド樹脂(X)としては、無色透明性と柔軟性の観点から、前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)から構成されることが好ましい。
【化6】

(式(b-1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、rは、正の整数である。)
【0014】
式(a-1)で表される化合物は、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。
ポリイミド樹脂(X)が構成単位(A-1)を含むことによって、フィルムの無色透明性向上に寄与する。
【0015】
式(b-1)におけるR1~R4、Z1、Z2、rは、それぞれ前記式(1)におけるR1~R4、Z1、Z2、rと同義である。
【0016】
式(b-1)で表される化合物としては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,2,2-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-アミノブチル)-1,1,2,2-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(4-アミノフェニル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェノキシ-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(4-アミノブチル)ジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシ-1,3-ビス(4-アミノブチル)ジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(4-アミノフェニル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(4-アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(5-アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(2-アミノエチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(4-アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(5-アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサプロピル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン等が挙げられる。式(b-1)で表される化合物は単独で用いてもよく、又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。
式(b-1)で表される化合物の市販品として入手できるものとしては、信越化学工業株式会社製の「X-22-9409」、「X-22-1660B」、「X-22-161AS」、「X-22-161A」、「X-22-161B」等が挙げられる。
ポリイミド樹脂(X)が構成単位(B-1)を含むことによって、フィルムの低弾性率化に寄与する。
【0017】
(式(2)で表される繰り返し単位)
ポリイミド樹脂(X)は、前記式(2)で表される繰り返し単位を含む。
前記式(2)において、R6は、炭素数4~39の4価の脂環基であり、炭素数4~8の4価の脂環基が好ましく、炭素数4~6の4価の脂環基がより好ましく、炭素数6の4価の脂環基が更に好ましい。
Φは合計の炭素数が2~39の2価の脂肪族基、脂環基、芳香族基又はこれらの組合せからなる基であり、芳香族基を有する基であることが好ましい。
また、Φには、結合基として-O-、-SO2-、-CO-、-CH2-、-C(CH32-、-C24O-及び-S-からなる群から選ばれる少なくとも1つを有していてもよく、結合基として-O-を有することが好ましい。
【0018】
ポリイミド樹脂(X)としては、無色透明性の観点から、前記式(2)で表される繰り返し単位が、前記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)と、下記式(b-2-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-1)、下記式(b-2-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-2)、及び下記式(b-2-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する構成単位(B-2)から構成されることが好ましい。
【化7】
【0019】
式(b-2-1)で表される化合物は、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンである。
式(b-2-2)で表される化合物は、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンである。
式(b-2-3)で表される化合物は、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-5-アミンである。
本発明において、ポリイミド樹脂(X)が構成単位(B-2)を含むことにより、フィルムのガラス転移温度を向上させることができる。特に構成単位(B-1)は、フィルムの低弾性率化に寄与するが、他方で、ガラス転移温度を下げるという側面もある。そこで、構成単位Bが構成単位(B-2)を含むことにより、構成単位(B-1)によるガラス転移温度の低下幅を小さくし、フィルムのガラス転移温度を制御することができる。また、優れた無色透明性を有するフィルムを得る観点からも、ポリイミド樹脂(X)に構成単位(B-2)が含まれることが好ましい。
【0020】
構成単位(B-2)は、構成単位(B-2-1)のみであってもよく、構成単位(B-2-2)のみであってもよく、又は構成単位(B-2-3)のみであってもよい。
また、構成単位(B-2)は、構成単位(B-2-1)と構成単位(B-2-2)の組み合せであってもよく、構成単位(B-2-2)と構成単位(B-2-3)の組み合わせであってもよく、又は構成単位(B-2-1)と構成単位(B-2-3)の組み合わせであってもよい。
また、構成単位(B-2)は、構成単位(B-2-1)と構成単位(B-2-2)と構成単位(B-2-3)の組み合わせであってもよい。
【0021】
(各構成単位の比率及びその他の構成単位)
ポリイミド樹脂(X)を構成するテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位(以下、「構成単位A」ともいう。)中の構成単位(A-1)の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは99モル%以上である。構成単位(A-1)の比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Aは構成単位(A-1)のみからなっていてもよい。
【0022】
構成単位Aには、構成単位(A-1)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を与えるテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物;1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物及びノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a-1)で表される化合物を除く);並びに1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環を1つ以上含むテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂環式テトラカルボン酸二無水物とは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環も脂環も含まないテトラカルボン酸二無水物を意味する。
構成単位Aに任意に含まれる構成単位(A-1)以外の構成単位は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
また、ポリイミド樹脂(X)の一態様として、構成単位Aが9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物に由来する構成単位を含まないポリイミド樹脂が挙げられる。
【0023】
ポリイミド樹脂(X)を構成するジアミンに由来する構成単位(以下、「構成単位B」ともいう。)中の構成単位(B-1)の比率は、好ましくは10~50モル%であり、より好ましくは10~40モル%であり、更に好ましくは15~30モル%であり、特に好ましくは15~25モル%である。
構成単位B中における構成単位(B-2)の比率は、好ましくは50~90モル%であり、より好ましくは60~90モル%であり、更に好ましくは70~85モル%であり、特に好ましくは75~85モル%である。
構成単位B中における構成単位(B-1)及び構成単位(B-2)の合計の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは99モル%以上である。構成単位(B-1)及び構成単位(B-2)の合計の比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Bは構成単位(B-1)と構成単位(B-2)とのみからなっていてもよい。
【0024】
構成単位Bは構成単位(B-1)及び(B-2)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を与えるジアミンとしては、特に限定されないが、1,4-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、及び9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン(ただし、式(b-1)で表される化合物、式(b-2-1)で表される化合物、式(b-2-2)で表される化合物及び式(b-2-3)で表される化合物を除く);1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジアミン;並びにエチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン(ただし、式(b-1)で表される化合物を除く)が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族ジアミンとは芳香環を1つ以上含むジアミンを意味し、脂環式ジアミンとは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないジアミンを意味し、脂肪族ジアミンとは芳香環も脂環も含まないジアミンを意味する。
構成単位Bに任意に含まれる構成単位(B-1)及び(B-2)以外の構成単位は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
(ポリイミド樹脂(X)の特性)
ポリイミド樹脂(X)の数平均分子量は、得られるポリイミドフィルムの機械的強度の観点から、好ましくは5,000~100,000である。なお、ポリイミド樹脂の数平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
【0026】
ポリイミド樹脂(X)を用いることで、無色透明性に優れるフィルムを形成することができる。ポリイミド樹脂(X)を用いることで得られるフィルムの好適な物性値は以下の通りである。
【0027】
ポリイミド樹脂(X)の引張弾性率は、好ましくは2.1GPa以下であり、より好ましくは2.0GPa以下であり、更に好ましくは1.8GPa以下である。
引張弾性率がこの範囲であることによって、フレキシビリティーが高く、フレキシブルディスプレイ等に適したポリイミドフィルムを得ることができる。
引張強度は、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは50MPa以上であり、更に好ましくは60MPa以上である。
引張弾性率及び引張強度は、JIS K7127に準拠して測定される値であり、たとえば東洋精機株式会社製の引張試験機「ストログラフVG-1E」等を用いて測定することができる。
全光線透過率は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
ヘイズは、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.3%以下である。
イエローインデックス(YI)は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは6.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは1.5以下である。
全光線透過率、ヘイズ、イエローインデックス(YI)は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
厚み位相差(Rth)の絶対値は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましく30nm以下である。
ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは150~300℃、より好ましくは150~280℃、更に好ましくは150~250℃である。
【0028】
(ポリイミド樹脂(X)の製造方法)
ポリイミド樹脂(X)は、前記式(1)で表される繰り返し単位を与える化合物を含有するテトラカルボン酸成分とジアミン成分及び前記式(2)で表される繰り返し単位を与える化合物を含有するテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。なかでも、構成単位(A-1)を与える化合物を含有するテトラカルボン酸成分と、構成単位(B-1)を与える化合物及び構成単位(B-2)を与える化合物を含むジアミン成分とを反応させることにより製造することが好ましい。
【0029】
構成単位(A-1)を与える化合物としては、式(a-1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸(即ち、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸)、及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A-1)を与える化合物としては、式(a-1)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
【0030】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物を、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含み、特に好ましくは99モル%以上含む。構成単位(A-1)を与える化合物の含有量の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A-1)を与える化合物のみからなっていてもよい。
【0031】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物、並びにそれらの誘導体(テトラカルボン酸、テトラカルボン酸のアルキルエステル等)が挙げられる。
テトラカルボン酸成分に任意に含まれる構成単位(A-1)を与える化合物以外の化合物は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
構成単位(B-1)を与える化合物としては、式(b-1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b-1)で表されるジアミンに対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B-1)を与える化合物としては、式(b-1)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0033】
構成単位(B-2)を与える化合物としては、構成単位(B-2-1)を与える化合物、構成単位(B-2-2)を与える化合物、及び構成単位(B-2-3)を与える化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを用いる。
構成単位(B-2-1)を与える化合物、構成単位(B-2-2)を与える化合物、及び構成単位(B-2-3)を与える化合物としては、それぞれ、式(b-2-1)で表される化合物、式(b-2-2)で表される化合物、及び式(b-2-3)で表される化合物が挙げられるが、それらに限られず、同じ構成単位を与える範囲でそれらの誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b-2-1)で表される化合物で表されるジアミンに対応するジイソシアネート、式(b-2-2)で表される化合物で表されるジアミンに対応するジイソシアネート、及び式(b-2-3)で表される化合物で表されるジアミンに対応するジイソシアネートが挙げられる。構成単位(B-2-1)を与える化合物、構成単位(B-2-2)を与える化合物、及び構成単位(B-2-3)を与える化合物としては、それぞれ、式(b-2-1)で表される化合物(即ち、ジアミン)、式(b-2-2)で表される化合物(即ち、ジアミン)、及び式(b-2-3)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0034】
構成単位(B-2)を与える化合物として、構成単位(B-2-1)を与える化合物のみを用いてもよく、構成単位(B-2-2)を与える化合物のみを用いてもよく、又は構成単位(B-2-3)を与える化合物のみを用いてもよい。
また、構成単位(B-2)を与える化合物として、構成単位(B-2-1)を与える化合物と構成単位(B-2-2)を与える化合物の組み合せを用いてもよく、構成単位(B-2-2)を与える化合物と構成単位(B-2-3)を与える化合物の組み合わせを用いてもよく、又は構成単位(B-2-1)を与える化合物と構成単位(B-2-3)を与える化合物の組み合せを用いてもよい。
また、構成単位(B-2)を与える化合物として、構成単位(B-2-1)を与える化合物と構成単位(B-2-2)を与える化合物と構成単位(B-2-3)を与える化合物の組み合せを用いてもよい。
【0035】
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物を、好ましくは10~50モル%含み、より好ましくは10~40モル%含み、更に好ましくは15~30モル%含み、特に好ましくは15~25モル%含む。
ジアミン成分は、構成単位(B-2)を与える化合物を、好ましくは50~90モル%含み、より好ましくは60~90モル%含み、更に好ましくは70~85モル%含み、特に好ましくは75~85モル%含む。
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物及び構成単位(B-2)を与える化合物を合計で、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含み、特に好ましくは99モル%以上含む。構成単位(B-1)を与える化合物及び構成単位(B-2)を与える化合物の合計の含有量の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物と構成単位(B-2)を与える化合物とのみからなっていてもよい。
【0036】
ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物及び構成単位(B-2)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、及び脂肪族ジアミン、並びにそれらの誘導体(ジイソシアネート等)が挙げられる。
ジアミン成分に任意に含まれる構成単位(B-1)を与える化合物及び構成単位(B-2)を与える化合物以外の化合物は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
本発明において、ポリイミド樹脂(X)の製造に用いるテトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0038】
また、本発明において、ポリイミド樹脂(X)の製造には、前述のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分の他に、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、テトラカルボン酸成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.06モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0039】
前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的な反応方法としては、(1)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、室温~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(2)ジアミン成分及び反応溶剤を反応器に仕込んで溶解させた後、テトラカルボン酸成分を仕込み、必要に応じて室温~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(3)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、直ちに昇温してイミド化反応を行う方法等が挙げられる。
【0040】
ポリイミド樹脂(X)の製造に用いられる反応溶剤は、イミド化反応を阻害せず、生成するポリイミドを溶解できるものであればよい。例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤等が挙げられる。
【0041】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ピコリン、ピリジン等のアミン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0042】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
また、カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記反応溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましい。また、上記の反応溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0043】
イミド化反応では、ディーンスターク装置などを用いて、製造時に生成する水を除去しながら反応を行うことが好ましい。このような操作を行うことで、重合度及びイミド化率をより上昇させることができる。
【0044】
上記のイミド化反応においては、公知のイミド化触媒を用いることができる。イミド化触媒としては、塩基触媒又は酸触媒が挙げられる。
塩基触媒としては、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α-ピコリン、β-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の有機塩基触媒、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基触媒が挙げられる。
また、酸触媒としては、クロトン酸、アクリル酸、トランス-3-ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記のイミド化触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、取り扱い性の観点から、塩基触媒を用いることが好ましく、有機塩基触媒を用いることがより好ましく、トリエチルアミンを用いることが更に好ましく、トリエチルアミンとトリエチレンジアミンを組み合わせて用いること特に好ましい。
【0045】
イミド化反応の温度は、反応率及びゲル化等の抑制の観点から、好ましくは120~250℃、より好ましくは160~200℃である。また、反応時間は、生成水の留出開始後、好ましくは0.5~10時間である。
【0046】
<フッ素含有ポリマー(Y)>
本発明におけるフッ素含有ポリマー(Y)は、フッ素を含むモノマー由来の構成単位を有するポリマーであることが好ましく、フッ化アルキル基を含むモノマー由来の構成単位を有するポリマーであることがより好ましい。
本発明におけるフッ素含有ポリマー(Y)は、フッ素含有アクリルポリマーであることが好ましい。
【0047】
前記フッ素含有アクリルポリマーは、フッ素を含むアクリルモノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、フッ素を含むアクリルモノマー由来の構成単位と親水性基を有するアクリルモノマー由来の構成単位を含有することがより好ましい。
【0048】
フッ素を含むアクリルモノマーとしては、パーフルオロアルキル基を有するモノマーが好ましい。
親水性基を有するアクリルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
フッ素含有アクリルポリマーは、疎水性基を有するアクリルモノマーを含有していてもよい。疎水性基を有するアクリルモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ここで「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
フッ素を含むアクリルモノマーには、その他のビニル基を有するモノマーが共重合されていてもよい。
本発明のポリイミド樹脂組成物にフッ素を含むポリマーを用いることで、ポリイミド骨格中に高温多湿環境下で加水分解を受けやすく、柔軟性を有するシリコーン部分を有するポリイミドを用いたとしても、分子量低下もほとんどなく、ベルト等の支持体からの剥離性も良好となる。また、得られるフィルムの透明性にも優れる。
【0049】
フッ素含有ポリマー(Y)の市販品としては、共栄社化学株式会社製のLE-605、LE-607、LE-605DM、LE-607DM等が挙げられる。
【0050】
本発明のポリイミド樹脂組成物において、フッ素含有ポリマー(Y)の含有量は、ポリイミド樹脂(X)100質量部に対して、0.01~1質量部であることが好ましく、0.05~0.9質量部であることがより好ましく、0.1~0.8質量部であることが更に好ましく、0.2~0.7質量部であることがより更に好ましい。
【0051】
<ポリイミド樹脂組成物の特性>
本発明のポリイミド樹脂組成物を用いることで、ベルト等の支持体からの剥離性に優れ、高温多湿環境下での分子量低下も抑制され、無色透明性にも優れるフィルムの形成が可能である。本発明のポリイミド樹脂組成物を用いることで得られるフィルムの好適な物性値は以下の通りである。
【0052】
全光線透過率は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
ヘイズは、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.5%以下であり、更に好ましくは0.3%以下である。
イエローインデックス(YI)は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは6.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは1.5以下である。
全光線透過率、ヘイズ、イエローインデックス(YI)は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
厚み位相差(Rth)の絶対値は、厚さ30μmのフィルムとした際に、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましく30nm以下である。
ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは150~300℃、より好ましくは150~280℃、更に好ましくは150~250℃である。
また、引張弾性率は、好ましくは2.1GPa以下であり、より好ましくは2.0GPa以下であり、更に好ましくは1.8GPa以下である。
引張弾性率がこの範囲であることによって、フレキシビリティーが高く、フレキシブルディスプレイ等に適したポリイミドフィルムとすることができる。
引張強度は、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは50MPa以上であり、更に好ましくは60MPa以上である。
引張弾性率及び引張強度は、JIS K7127に準拠して測定される値であり、たとえば東洋精機株式会社製の引張試験機「ストログラフVG-1E」等を用いて測定することができる。
【0053】
[ポリイミドワニス]
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂組成物が有機溶媒に溶解してなるものである。すなわち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド樹脂組成物及び有機溶媒を含み、当該ポリイミド樹脂組成物は当該有機溶媒に溶解している。
有機溶媒はポリイミド樹脂(X)及びフッ素含有ポリマー(Y)が溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤として上述した化合物を、単独又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
本発明のポリイミドワニスは、重合法により得られるポリイミド樹脂(X)が反応溶剤に溶解したポリイミド溶液そのものであってもよいし、又は当該ポリイミド溶液に対して更に希釈溶剤を追加したものであってもよい。
【0054】
本発明のポリイミド樹脂組成物は溶媒溶解性を有しているため、室温で安定な高濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、ポリイミド樹脂(X)を5~40質量%含むことが好ましく、10~30質量%含むことがより好ましい。また、フッ素含有ポリマー(Y)をポリイミド樹脂(X)100質量部に対して、0.003~0.3質量部含むことが好ましく、0.015~0.3質量部含むことがより好ましく、0.03~0.25質量部含むことが更に好ましく、0.08~0.2質量部含むことがより更に好ましい。
ポリイミドワニスの粘度は1~200Pa・sが好ましく、5~150Pa・sがより好ましい。ポリイミドワニスの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定された値である。
【0055】
また、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、難燃剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
本発明のポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0056】
前記添加剤として例示した紫外線吸収剤は、任意の適切な紫外線吸収剤を採用することができる。その具体例としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、無機粒子系紫外線吸収剤、その他、蓚酸アニリド系紫外線吸収剤やマロン酸エステル系紫外線吸収剤等の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。紫外線吸収剤は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤がより好ましい。
【0057】
樹脂組成物における紫外線吸収剤の添加量は、ポリイミド樹脂(X)100質量部に対して好ましくは、0.01~6質量部、より好ましくは0.1~5質量部、更に好ましくは0.5~4質量部である。紫外線吸収剤の量が多いと、光学特性や耐熱性等のポリイミド樹脂の特性が低下したり、フィルムにヘイズが生じたりすることがある。
本発明において、紫外線吸収剤は、樹脂組成物中において紫外線吸収剤の効果を達成できるものである。従って、紫外線吸収剤として添加した化合物がそのままの構造で樹脂組成物中に存在していてもよく、あるいは当該化合物が、加熱処理によって、紫外線吸収の効果を依然として有する変性物に変性されていてもよい。また、紫外線吸収剤は、樹脂組成物中でポリイミド樹脂(X)と均一に混合されていることが好ましい。
【0058】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド樹脂組成物を含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、無色透明性に優れており、高温多湿環境下に置かれても分子量低下がないため、保存安定性にも優れている。
本発明のポリイミドフィルムが有する好適な物性値は<ポリイミド樹脂組成物の特性>に示した通りである。
【0059】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のポリイミドワニスを、ガラス板、金属板、プラスチックなどの平滑な支持体上に塗布、又はフィルム状に成形した後、該ワニス中に含まれる反応溶剤や希釈溶剤等の有機溶媒を加熱により除去し、支持体から剥離する方法等が挙げられる。工業的には、金属性のベルトにポリイミドワニスを塗布した後、該ワニス中に含まれる有機溶媒を加熱により除去し、ベルトから剥離する方法が好ましい。
有機溶媒は、好ましくは120℃以下の温度で有機溶媒を蒸発させて、自己支持性フィルムとした後、支持体から剥離する。
本発明のポリイミド樹脂組成物は、支持体からの剥離性に優れるため、得られる自己支持性フィルムが柔軟であっても、フィルムに損傷が生じることなく、剥離することができる。
次に支持体から剥離された自己支持性フィルムの端部を固定し、用いた有機溶媒の沸点以上の温度で乾燥してポリイミドフィルムを製造することが好ましい。また、窒素雰囲気下で乾燥することが好ましい。乾燥雰囲気の圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。自己支持性フィルムを乾燥してポリイミドフィルムを製造する際の加熱温度は、特に限定されないが、200~400℃が好ましい。
【0060】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは用途等に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1~250μm、より好ましくは5~100μm、更に好ましくは10~80μmの範囲である。厚さが1~250μmであることで、自立膜としての実用的な使用が可能となる。
ポリイミドフィルムの厚さは、ポリイミドワニスの固形分濃度や粘度を調整することにより、容易に制御することができる。
【0061】
本発明のポリイミドフィルムは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置の基板として、特に好適に用いられる。
【実施例
【0062】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例及び比較例で得たポリイミドワニスの固形分濃度及びポリイミドフィルムの各物性は以下に示す方法によって測定し、ポリイミドフィルムの各評価を行った。
【0063】
(1)固形分濃度
固形分濃度は、アズワン株式会社製の小型電気炉「MMF-1」で試料を320℃×120minで加熱して、加熱前後の試料の質量差から算出した。
(2)フィルム厚さ
フィルム厚さは、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
(3)剥離性
各実施例及び比較例に記載した通り、ポリイミドワニスを#1000番で仕上げたSUS基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させて一次乾燥フィルムを得た。SUS基板上から一次乾燥フィルムを剥がす際の剥離の可否を評価した。表1において、剥離できたものを〇、剥離できなかったものを×とした。ここで「剥離できなかったもの」とは、SUS基材とフィルムの密着性が強く、剥離時に一次乾燥フィルムの一部が破壊したものをいう。
(4)ポリイミドフィルムの対数粘度
ポリイミドフィルムの対数粘度は、ポリイミドフィルムを濃度が0.5g/dL溶液となるようにN-メチル-2-ピロリドンに均一に溶解した溶液を調整し、その溶液と溶媒との溶液粘度をキャノン-フェンスケ粘度計を用い30℃で測定して次式で算出した。
対数粘度={ln(ポリイミドフィルム調整液粘度/溶媒粘度)}/溶液の濃度
(5)湿熱環境試験(分子量変化の評価)
ポリイミドフィルムを、温度60℃、湿度90%RHの恒温恒湿機中で120時間処理を行った。その後、(4)ポリイミドフィルムの対数粘度と同様の方法で、湿熱環境試験後の対数粘度を測定した。このようにして得られたポリイミドフィルムの湿熱環境試験前後の対数粘度の差を算出し、分子量変化について評価した。湿熱環境試験前後の対数粘度の差が小さいほど、分子量の低下が抑制できている。
(6)全光線透過率、イエローインデックス(YI)及びヘイズ
全光線透過率、YI及びヘイズは、日本電色工業株式会社製の色彩・濁度同時測定器「COH400」を用いて測定した。
全光線透過率及びYIの測定はJIS K7361-1:1997に準拠し、ヘイズの測定はJIS K7136:2000に準拠して行った。
【0064】
実施例及び比較例にてポリイミド樹脂の原料として使用したテトラカルボン酸成分及びジアミン成分、並びにその略号は以下の通りである。
<テトラカルボン酸成分>
HPMDA:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(三菱ガス化学株式会社製;式(a-1)で表される化合物)
<ジアミン成分>
X-22-9409:両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製;式(b-1)で表される化合物)
HFBAPP:2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン(セイカ株式会社製;式(b-2-1)で表される化合物)
【0065】
<実施例1>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた0.3Lの5ツ口ガラス製丸底フラスコ中で、HFBAPPを29.034g(0.056モル)、X-22-9409を18.76g(0.014モル)、γ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)を50g、及び触媒としてトリエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)を0.039g、トリエチルアミン(関東化学株式会社製)を3.54g、窒素雰囲気下、200rpmで撹拌して溶液を得た。この溶液に、HPMDAを15.692g(0.070モル)とγ-ブチロラクトン(三菱ケミカル株式会社製)を13.5g、それぞれ一括で加えた後、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を200℃まで上げた。留去される成分を捕集し、反応系内温度を200℃に3時間維持した。N,N-ジメチルアセトアミド(三菱ガス化学株式会社製)を78.76g添加後、100℃付近で約1時間撹拌して、固形分濃度30質量%の均一なポリイミド溶液を得た。
得られたポリイミド溶液に、フッ素含有ポリマー(LE-607DM、共栄社化学株式会社製、30%ジメチルアセトアミド溶液)をポリイミド樹脂100質量部に対して0.5質量部(有効分換算)添加してポリイミドワニスを得た。
【0066】
続いて、得られたポリイミドワニスを#1000番で仕上げたSUS基板上に塗布し、100℃で20分保持し、溶媒を揮発させることで自己支持性を有する無色透明な一次乾燥フィルムを得た。このポリイミドフィルムをSUS板上から剥離する際に前記剥離性の評価を行った。更に該フィルムをステンレス枠に固定し、230℃で窒素雰囲気下、2時間乾燥することにより溶媒を除去し、厚さ66μmのフィルムを得た。得られたフィルムのFT-IR分析により原料ピークの消失及びイミド骨格に由来するピークの出現を確認した。剥離性の評価結果及びこのポリイミドフィルムの評価結果を表1に示す。
【0067】
<実施例2>
実施例1のLE-607DM(フッ素含有ポリマー、共栄社化学株式会社製)をポリイミド樹脂100質量部に対して0.1質量部(有効分換算)添加した以外は、実施例1と同じ方法で厚さ54μmのポリイミドフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0068】
<比較例1>
実施例1のLE-607DM(フッ素含有ポリマー、共栄社化学株式会社製)を、ポリイミド樹脂100質量部に対して0.2質量部のリン酸エステル系離型剤 JP-502(城北化学工業株式会社製、ジエチルホスファネート:モノエチルホスファネート=1:1(モル比))に変更した以外は、実施例1と同じ方法で厚さ47μmのポリイミドフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0069】
<比較例2>
実施例1において、LE-607DM(フッ素含有ポリマー、共栄社化学株式会社製)を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法で厚さ60μmのポリイミドフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示したように、本発明のポリイミド樹脂組成物からなる実施例のポリイミドフィルムは、剥離性に優れ、高温多湿環境下での分子量低下も抑制され、無色透明性にも優れることがわかる。