(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物、インキ及び塗料
(51)【国際特許分類】
C08F 263/06 20060101AFI20240903BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20240903BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20240903BHJP
C09D 151/00 20060101ALI20240903BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08F263/06
C09D11/101
C09D11/106
C09D151/00
C09D4/00
(21)【出願番号】P 2021543637
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026872
(87)【国際公開番号】W WO2021044729
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019159282
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】長井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F263
C08F290
C08F299
C08L
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、
流れ性改善樹脂(B)と、を含有することを特徴とし、
流れ性改善樹脂(B)の含有量が、アリル系重合体(A)100重量部に対して、1~
25重量部であり、
流れ性改善樹脂(B)が、スチレンに基づく単量体単位を有するスチレン系樹脂、または、マレイン酸に基づく単量体単位を有するマレイン酸系樹脂である光硬化性樹脂組成物。
【化1】
[R
1およびR
2は、それぞれ、HまたはCH
3を表し、
Xは置換基を有しない飽和または一部不飽和の4~8員環の環状骨格であってa価の基を表し、aは2または3を表す。]
【請求項2】
流れ性改善樹脂(B)が、ポリスチレン樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂のいずれかである請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)中のXが下記のいずれかの環状骨格を有する請求項1または2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【化2】
【請求項4】
更に、エチレン性不飽和化合物(C)を含有する請求項1~3のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
更に、光重合開始剤を含有する請求項1~4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とするインキ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする塗料。
【請求項8】
オーバープリントワニスである請求項7に記載の塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリル系重合体(A)と流れ性改善樹脂(B)を含有する光硬化性樹脂組成物、並びにその樹脂組成物を含んでなるインキ、塗料に関する。さらに詳しく、インキまたは塗料として、流れ性に優れた光硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光(例えば、紫外線)により硬化させる種々の樹脂組成物は、インキ、塗料、接着剤、フォトレジスト等に使用されている。例えば、紫外線硬化タイプの印刷インキは、硬化速度が速く短時間で硬化できること、溶剤を使わないので環境に適合していること、省資源・省エネルギーであること等の点が高く評価され実用化が広がっている。
【0003】
そのような樹脂組成物の中で、ジアリルフタレート(ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート)から誘導されたジアリルフタレート樹脂を含有する樹脂組成物は、紙用のUVオフセットインキとして採用されている。
【0004】
しかしながら、オフセットインキとして用いる際にジアリルフタレート樹脂を配合するとプラスチック基材との密着性が充分でないことが知られている(例えば、特許文献1)。近年、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)といった様々な種類のプラスチック製品が市販されており、ジアリルフタレート樹脂の欠点であるプラスチック基材との密着性の向上が求められている。
【0005】
上記のような状況下、本出願人は、プラスチック基材との密着性に優れる光硬化性樹脂組成物を開発した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭52-4310号公報
【文献】再公表WO2016/125661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂成分と顔料の組み合わせによっては、印刷時の流れ性が不十分であるという課題があった。本発明の目的は、印刷時の流れ性の良い組成物を構成することができる光硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の構造を有するアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、流れ性改善樹脂(B)を含有する光硬化性樹脂組成物が、プラスチック基材との密着性に優れること、及び、印刷時の流れ性の良い組成物を構成することができることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の光硬化性樹脂組成物は、
下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、流れ性改善樹脂(B)とを含有することを特徴とする。
【化1】
[R
1およびR
2は、それぞれ、HまたはCH
3を表し、
Xは置換基を有しない飽和または一部不飽和の4~8員環の環状骨格であってa価の基を表し、aは2または3を表す。]
【0009】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と流れ性改善樹脂(B)を含有すると、合成高分子の基材、特にプラスチック基材に対する密着性に優れ、印刷時の流れ性にも優れる光硬化性樹脂組成物となる。
また、アリル系重合体(A)と流れ性改善樹脂(B)を含有すると、他の樹脂成分と組み合わせた場合に相溶性の良い組成物を構成することができる。
【0010】
本発明の光硬化性樹脂組成物では、上記一般式(I)中のXが下記のいずれかの環状骨格を有することが好ましい。
【化2】
【0011】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、エチレン性不飽和化合物(C)を含有することが好ましい。
エチレン性不飽和化合物(C)は、アリル系重合体(A)及び流れ性改善樹脂(B)との相溶性がよいので、相溶性の良い組成物とすることに適している。
【0012】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤を含有することによって、光照射による重合がスムーズに進むため、より高分子量の重合体を短時間に得ることができる。
【0013】
本発明のインキまたは塗料は、本発明の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする。
このインキまたは塗料は、流れ性に優れるものである。
また、このインキは、プラスチック基材に印刷するためのインキとして適しており、特にPP樹脂製のシート、フィルム等の基材に印刷するためのインキとして適している。
また、この塗料は、プラスチック基材に描画するための塗料として適しており、特にPP樹脂製のシート、フィルム等の基材に描画するための塗料として適している。
また、本発明の塗料はオーバープリントワニスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インキ、塗料、接着剤およびフォトレジストの成分として使用した場合に、印刷時の流れ性に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。また、エチレン性不飽和化合物(C)との相溶性にも優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
アリル系重合体(A)
本発明の光硬化性樹脂組成物は、下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)を含有する。
【化3】
[R
1およびR
2は、それぞれ、HまたはCH
3を表し、
Xは置換基を有しない飽和または一部不飽和の4~8員環の環状骨格であってa価の基を表し、aは2または3を表す。]
【0017】
上記一般式(I)におけるXの好ましい例として、以下の環状骨格を例示できる。
【化4】
【0018】
上記一般式(I)におけるXのより好ましい例として、以下の環状骨格を例示できる。
【化5】
【0019】
上記一般式(I)におけるXのさらに好ましい例として、以下の環状骨格を例示できる。
【化6】
【0020】
Xは種々のものであり得て、上記以外の環状骨格であってもよい。環状骨格が一部不飽和である場合において、環状骨格が有する二重結合の数は、1に限定されず、2以上であってもよい。ただし、Xは、芳香族の6員環骨格ではない。
【0021】
Xは、分子内で架橋されていても良く、分子内で架橋されたXの例としては、アダマンタン、ノルボルネン、ノルボルナン等が挙げられる。
【0022】
Xはa価の基であり、aは2又は3であるので、Xは2価又は3価の基である。Xの環状骨格には、一般式(I)中に示されるアリルエステル基[-CO-O-CH2-CR2=CHR1]がa個(2個又は3個)結合している。
【0023】
Xの環上におけるアリルエステル基[-CO-O-CH2-CR2=CHR1]の置換位置は何れの組み合わせであっても良く、アリル系化合物は異なる置換位置の組み合わせを有する物質の混合物でも良い。特に、2つのアリルエステル基が6員環のXに結合するときに、2つのアリルエステル基は、オルト配向、メタ配向またはパラ配向のいずれでもよいが、オルト配向またはパラ配向であることが好ましく、オルト配向であることがより好ましい。
【0024】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の具体例としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジアリル、2-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジアリル等を例示することができる。なかでも、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジアリル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルが好ましく、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルがより好ましい。
【0025】
上記アリル系化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上を重合することで得られるアリル系重合体(A)を光硬化性樹脂組成物に用いることができる。さらには、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物と他の重合可能な化合物を共重合したものを光硬化性樹脂組成物に用いることも可能である。共重合可能な化合物として、例えば、3-メチル-ヘキサヒドロ-1,2-ジアリルフタレート、4-メチル-ヘキサヒドロ-1,2-ジアリルフタレート、3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ-1,2-ジアリルフタレート、4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ-1,2-ジアリルフタレート等を例示することができる。
【0026】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の具体例として挙げた化合物を得る方法の例としては、シクロヘキサンジカルボン酸又はシクロヘキサンジカルボン酸無水物とアリルアルコール又はアリルクロライドをエステル化反応させる方法、及び、シクロヘキセンジカルボン酸又はシクロヘキセンジカルボン酸無水物とアリルアルコール又はアリルクロライドをエステル化反応させる方法が挙げられる。
また、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の具体例として挙げた化合物の市販品を用いてもよい。
【0027】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の重合方法は、特に限定されず、通常の重合反応を用いることができる。上記重合反応には、必要に応じて、適宜重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤を用いることで、より高分子量の重合体を短時間に得ることができる。
【0028】
アリル系化合物の重合反応に用いる重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ開始剤、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物開始剤、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド等のリン系、チオキサントン等のイオウ系、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン等のベンジル系の光重合開始剤が挙げられる。
【0029】
重合開始剤の量は、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の単量体100重量部に対して、5.0重量部以下であることが好ましく、3.0重量部以下であることがより好ましい。また、0.001~3.0重量部であることが特に好ましい。
【0030】
重合時の反応温度は60~240℃、例えば80~220℃であることが好ましい。反応時間は、0.1~100時間、例えば1~30時間であることが好ましい。
【0031】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物を上述の方法等により重合することにより、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物に基づく単量体単位を有するアリル系重合体(A)を調製できる。
【0032】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物に基づく単量体単位の含有量は、アリル系重合体(A)100重量%中、20重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが更に好ましく、98重量%以上であることが特に好ましく、100重量%であってもよい。
【0033】
アリル系重合体(A)の重量平均分子量は300,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。また、2,000~150,000であることがさらに好ましく、5,000~140,000であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の光硬化性樹脂組成物中におけるアリル系重合体(A)の含有量は、光硬化性樹脂組成物全量に対して、1~60重量%であることが好ましく、1~55重量%であることがより好ましく、1~50重量%であることがさらに好ましい。下限は、特に好ましくは5重量%であり、最も好ましくは10重量%であり、より最も好ましくは15重量%であり、さらに最も好ましくは20重量%、特に最も好ましくは30重量%である。上記範囲内であれば、後述するスチレンマレイン酸樹脂(B)やエチレン性不飽和化合物(C)を添加しても、充分に溶解した状態を保持し、相溶性に優れた組成物とすることが可能である。また、より流れ性に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。
【0035】
流れ性改善樹脂(B)
本発明の光硬化性樹脂組成物に用いることのできる流れ性改善樹脂(B)としては、流れ性を改善できる樹脂であれば特に限定されず、例えば、スチレンに基づく単量体単位を有するスチレン系樹脂、または、マレイン酸に基づく単量体単位を有するマレイン酸系樹脂であればよい。スチレン系樹脂として、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン-アクリル共重合体等が挙げられ、マレイン酸系樹脂として、マレイン酸樹脂を例示することができる。スチレンに基づく単量体単位とマレイン酸に基づく単量体単位の両方を有するものとして、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル-マレイン酸樹脂等を例示することができる。なかでも、ポリスチレン樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂が好ましく、スチレンマレイン酸樹脂がより好ましい。
【0036】
また、流れ性改善樹脂(B)としては、共重合体を用いる場合の各重合体の構成成分の比率は、任意のものを選択することができ、成分(1):成分(2)の比率が、1:99~99:1の範囲であればよい。例えば、スチレン-マレイン酸樹脂の場合、スチレン:マレイン酸の比率は1:10~10:1の範囲で重合したものの中から適宜選択することができる。なお、上記比率は、モル基準の比率である。
【0037】
さらに、流れ性改善樹脂(B)としては、流れ性を改善できるものであれば特に制限なく、用いることができるが、例えば、流れ性改善樹脂(B)の重量平均分子量は、2,000~50,000程度の範囲であればよい。酸価は、100~500の範囲であればよい。
【0038】
光硬化性樹脂組成物に含有される流れ性改善樹脂(B)の含有量は、光硬化性樹脂組成物のアリル系重合体(A)100重量部に対して、1~200重量部であることが好ましく、1~150重量部であることがより好ましく、1~100重量部であることがさらに好ましく、1~75重量部であることが特に好ましく、1~50重量部であることが最も好ましく、1~25重量部であることがより最も好ましい。流れ性改善樹脂(B)の含有量が、光硬化性樹脂組成物のアリル系重合体(A)に対して比較的少量であることにより、より流れ性に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。また、光硬化性樹脂組成物に含有される流れ性改善樹脂(B)の含有量は、0.1重量%~15重量%の範囲であればよく、0.1重量%~12重量%の範囲であることが好ましく、0.1重量%~11重量%の範囲であることがより好ましく、0.1重量%~9重量%の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、プラスチック基材との充分な密着性が得られ、かつ、アリル系重合体(A)と流れ性改善樹脂(B)が充分に溶解した状態を保持し、相溶性に優れた組成物となる。さらに、エチレン性不飽和化合物(C)を添加しても、充分に溶解した状態を保持することが可能である。さらに、より流れ性に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。
【0039】
エチレン性不飽和化合物(C)
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光照射により硬化可能であるエチレン性不飽和化合物(C)を含有することが好ましい。エチレン性不飽和化合物(C)は、炭素-炭素二重結合を1~20個有することが好ましく、1~10個有することがより好ましく、2~6個有することがさらに好ましい。エチレン性不飽和化合物(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アリル化合物およびビニル化合物等が挙げられる。また、エチレン性不飽和化合物は2種以上の化合物の混合物を用いることも可能である。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類の(メタ)アクリル酸エステル化合物、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した(メタ)アクリル酸エステル化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したものの(メタ)アクリル酸エステル化合物;エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、アルキッド(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;エポキシ化大豆油アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物を例示することができ、好ましくはペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類の(メタ)アクリル酸エステル化合物、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した(メタ)アクリル酸エステル化合物であり、より好ましくはペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン等のアルコール類の(メタ)アクリル酸エステル化合物、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
【0041】
(メタ)アリル化合物としては、ジ(メタ)アリルフタレート、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート等を例示することができる。
ビニル化合物としては、スチレン、ジビニルベンゼン、N-ビニルピロリドン、酢酸ビニル等を例示することができる。
【0042】
中でも、アリル系重合体(A)との相溶性、光硬化した際の硬化性の点で、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートが好ましく、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートがより好ましい。
【0043】
本発明の光硬化性樹脂組成物に含有されるエチレン性不飽和化合物(C)の含有量は、光硬化性樹脂組成物中におけるアリル系重合体(A)100重量部に対して、50~1000重量部であることが好ましく、100~950重量部であることがより好ましく、100~750重量部であることがさらに好ましい。上限は、特に好ましくは600重量部、最も好ましくは550重量部、より最も好ましくは500重量部、さらに最も好ましくは400重量部、特に最も好ましくは300重量部である。上記範囲内であると、より流れ性に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。
【0044】
また、光硬化性樹脂組成物に含有されるエチレン性不飽和化合物(C)の含有量は、光硬化性樹脂組成物の粘度が100~300Pa・s(25℃)の範囲内になるように添加することが好ましい。具体的には、光硬化性樹脂組成物に添加する流れ性改善樹脂(B)とエチレン性不飽和化合物(C)の比率が、流れ性改善樹脂(B):エチレン性不飽和化合物(C)=1:99~70:30の範囲であることが好ましく、1:99~60:40の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
その他の添加物
本発明の光硬化性樹脂組成物は、重合開始剤を含んでいてもよく、特に光重合開始剤を含有することが好ましい。光硬化性樹脂組成物に含有される光重合開始剤としては、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド等のリン系、チオキサントン等のイオウ系、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン等のジベンジル系が挙げられる。
【0046】
光硬化性樹脂組成物に含有される光重合開始剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、0.1~15重量%の範囲であることが好ましく、0.5~12重量%の範囲がより好ましく、1~10重量%の範囲がさらに好ましい。
【0047】
光硬化性樹脂組成物には、光開始助剤(例えば、トリエタノールアミン等のアミン系光開始助剤)を併用してもよい。
光開始助剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、0.1~5重量%の範囲であることが好ましく、0.5~3重量%の範囲がより好ましい。
【0048】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、種々の添加剤、例示すれば、安定剤(例えば、ハイドロキノン、メトキノン等の重合禁止剤)、顔料(例えば、シアニンブルー、ジスアゾエロー、カーミン6b、レーキッドC、カーボンブラック、チタンホワイト)等の着色剤、充填剤、粘度調整剤等の各種添加剤を目的に応じて含有することができる。光硬化性樹脂組成物に含有される安定剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、0.01~2重量%の範囲であることが好ましく、0.1~1重量%の範囲がより好ましい。
着色剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、1~50重量%の範囲であることが好ましく、1~45重量%の範囲がより好ましい。
【0049】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、アリル系重合体(A)に流れ性改善樹脂(B)を加え、必要に応じてエチレン性不飽和化合物(C)、さらには、光重合開始剤、光開始助剤、添加剤(例えば、安定剤、顔料)を混合することによって製造できる。本発明の光硬化性樹脂組成物は、光を照射することによって硬化する。硬化に用いる光は、一般に紫外線である。
【0050】
光硬化性樹脂組成物の硬化反応に用いる硬化装置、また、硬化条件は特に限定されず、通常の光硬化反応に用いられる方法であればよい。
【0051】
本発明の光硬化性樹脂組成物の用途は特に限定されない。インキ(例えば、光硬化性平版用印刷インキ、シルクスクリーンインキ、グラビアインキ等の印刷インキ)、塗料(例えば、紙用、プラスチック用、金属用、木工用等の塗料、例示すれば、オーバープリントワニス)、接着剤、フォトレジスト等の技術分野において使用できる。
本発明の光硬化性樹脂組成物を含むインキは本発明のインキであり、本発明の光硬化性樹脂組成物を含む塗料は本発明の塗料である。また、本発明の塗料はオーバープリントワニスであることが好ましい。
【0052】
例えば、インキの一般的作製方法は次のとおりである。エチレン性不飽和化合物(C)にアリル系重合体(A)、流れ性改善樹脂(B)及び安定剤等を60℃~100℃の温度で攪拌しながら溶解させワニスを作製する。このワニスに、顔料、光重合開始剤、その他添加剤を、バタフライミキサーで撹拌混合後、3本ロール等で練肉することでインキが得られる。
また、オーバープリントワニスの作製は、顔料を使用しない以外は、インキと同様の手順により行える。
【0053】
(実施例)
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
アリル系重合体の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定
重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)はGPCを用いて測定した。Mw、Mnは標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量の値である。
カラム:ShodexLF-804×2本を直列に接続
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出器:RID-20A
試料:試料20mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解させ測定用のサンプルとした。
【0055】
製造例1 重合体1の合成
1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルは、シクロヘキサンジカルボン酸無水物とアリルアルコールをエステル化反応させることによって製造した。
3Lのセパラブルフラスコに1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル2400gを加え、60gのベンゾイルパーオキサイドを加えて80℃で加熱攪拌した。2.5時間反応させた後、30℃まで冷却した。冷却後、フラスコにメタノールを加え、重合体を沈殿させた。得られた重合体を40℃で16時間減圧乾燥した(収量:408g、収率:17%、Mw=32,000、Mw/Mn=2.8)。得られた重合体を重合体1(1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル重合体)とした。
【0056】
1)光硬化性樹脂組成物の調製
下記表1に記載の各組成の光硬化性樹脂組成物を調製し、光硬化性樹脂組成物の特性を評価した。
【0057】
【表1】
表中の数字は重量部を示す。
※1;製造例1で得られた重合体1
※2;流れ性改善樹脂(B):TOTAL Cray Valley製 SMA EF80 スチレンマレイン酸樹脂
※3;DTMPTA:サートマー(株)製 SR355 ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
※4;MHQ:富士フイルム和光純薬(株)製 メチルハイドロキノン
【0058】
製造例1で得られたアリル系重合体(A)、流れ性改善樹脂(B)、エチレン性不飽和化合物(C)及び重合禁止剤を表1に記載の各組成量で添加し、100℃まで加熱混合して光硬化性樹脂組成物を調製した。
【0059】
2)インキの調製
1)で調製した各組成物1~3に各成分を表2に示す記載の各組成量にて、3本ロールで練肉してインキを得た。インキの特性を評価した。なお、実施例1、2、比較例1においてそれぞれ組成物1、2、3を用いた。
【0060】
【表2】
表中の数字は重量部を示す。
※1;酸化チタン1:石原産業製 CR-50
※2;1)で調整した各組成物1~3を用いた。
※3;DTMPTA:サートマー(株)製 SR355 ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
※4;ポリエチレンワックス;シャムロック社製 S-394
※5;:Omnirad907:IGM Resins B.V.製 2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン
【0061】
3)粘度測定
調製した各組成物につき、BROOKFIELD VISCOMETER DV-II+Proを用いて25℃での粘度(Pa・s)を測定した。結果を表3に示した。
【0062】
4)流れ性試験
60度に傾けた傾斜板の上に2)で調整した、各インキ0.5mlを垂らし、10分後に流れた距離を確認した。結果を表3に示す。
【0063】
【0064】
実施例1~2と比較例1を対比すると分かるように、一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)である重合体1に対し、流れ性改善樹脂(B)を配合することで、乳化後の流れ性が低下しないことがわかる。一方、流れ性改善樹脂(B)を配合しなかった場合、乳化後の流れ性が悪化していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、プラスチック基材用のインキ(例えば、オフセットインキ)、塗料、接着剤、フォトレジスト等に使用可能である。