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特許7548240口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤、口腔内の菌叢改善剤及び口腔用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤、口腔内の菌叢改善剤及び口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20240903BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240903BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61Q 11/02 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240903BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240903BHJP
   A61K 9/68 20060101ALI20240903BHJP
   A23G 4/10 20060101ALI20240903BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240903BHJP
   A23L 2/60 20060101ALI20240903BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240903BHJP
   A23G 3/42 20060101ALI20240903BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20240903BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/34
A61Q11/00
A61Q11/02
A61K31/702
A61K31/047
A61P1/02
A61P43/00 121
A61P31/04
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/70
A61K9/68
A23G4/10
A23L2/00 F
A23L2/60
A23L33/10
A23G3/42
A23L29/281
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021553507
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039636
(87)【国際公開番号】W WO2021079921
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019193959
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 悠菜
(72)【発明者】
【氏名】城 隆太郎
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/085956(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0262407(US,A1)
【文献】特表2019-506460(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0078574(US,A1)
【文献】国際公開第2019/208699(WO,A1)
【文献】Green Apple Flavour 2 in 1 Prebiotics and Dietary Fibre Gummy, ID 6056339,Mintel GNPD[online],2018年10月,[検索日2024.03.21],https://www.portal.mintel.com
【文献】Effervescent Zinc Plus Vitamin C Supplement,ID 2829327,Mintel GNPD[online],2014年12月,[検索日2024.03.21],https://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/0
A61K36/00
A23G 4/00
A23L33/00
A23L 2/00
A23G 3/42
Mintel GNPD
CAPLUS/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2’-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース及びラクト-N-フコペンタオースIから選ばれる1種以上のミルクオリゴ糖と、
(B)糖アルコールと
を含有し、(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)が、質量比として0.0050~0.5である口腔用組成物。
【請求項2】
(B)糖アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール及びマンニトールから選ばれる1種以上である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(A)成分を0.01~50質量%、(B)成分を1~90質量%含有する請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)が、質量比として0.0050.20である請求項1~のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項5】
歯磨剤、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤及び口中清涼剤から選ばれる口腔用製剤である請求項1~のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、可食フィルム、トローチ及び飲料から選ばれる飲食品である請求項1~のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項7】
(A)2’-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース及びラクト-N-フコペンタオースIから選ばれる1種以上のミルクオリゴ糖と、(B)糖アルコールとを含有する、口腔用組成物配合用の口腔内の菌叢改善剤。
【請求項8】
(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)が、質量比として0.0050~0.5である請求項7記載の口腔用組成物配合用の口腔内の菌叢改善剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤、口腔内の菌叢改善剤及びこれらを用いた口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの口腔内には様々な細菌が共生しており、細菌叢と呼ばれる細菌集団を形成している。この細菌叢には、いわゆる非病原性の常在菌と、病原性を示す細菌とが混在しているが、通常は細菌叢のバランスが保たれている、いわゆる健康な状態であり、病原性細菌を原因とする疾患は抑制されている。
【0003】
しかし、食生活や抗生剤の摂取、ストレス、加齢、清掃不良などが原因となって細菌叢のバランスが崩れると、病原性を有する病原菌や日和見感染菌が増加し疾患となる。このため、疾患の制御には、病原性細菌を抑制するだけではなく、非病原性の常在菌との細菌叢バランスを健康な状態に保つことが重要である。
【0004】
口腔内に生育する数百種類もの細菌の中で、病原性を示す細菌は、う蝕の原因菌であるストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、歯周病や口臭の原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ インターメディア(Prevotella intermedia)、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)を代表とする数種類の細菌に過ぎない。残りのほとんどは、通常、ヒトへの病原性を示さないストレプトコッカス ゴルドニアイ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス ペロリス(Streptococcus peroris)、ストレプトコッカス ラクタリウス(Streptococcus lactarius)を代表とする、ミティス(Mitis)グループなどのストレプトコッカス(連鎖球菌)属細菌や、ナイセリア サブフラバ(Neisseria subflava)等のナイセリア属細菌、アクチノマイセス ネスランディ(Actinomyces naeslundii)等のアクチノマイセス属細菌等の非病原性の常在菌である。
従って、口腔疾患の予防には、口腔内において、これら非病原性の常在菌からなる細菌叢をバランス良く健康な状態に維持、形成することが重要となる。
【0005】
しかしながら、口腔用組成物において、病原性細菌に対する殺菌力に優れたものは数多く報告されている一方で、上記のように非病原性細菌に着目し、口腔内細菌叢のバランス制御効果に優れたものは数少ない。プレバイオティクスに着目し、特定乳酸菌を有効成分とする口腔疾患の予防又は治療剤(特許文献1:特許第5982376号公報)、シソ属植物を含む植物等によるプレバイオティクス技術(特許文献2:特許第6235138号公報)、カフェインを用いて口腔細菌叢を改善する技術(特許文献3;特開2012-77053号公報)等が提案されているが、これら技術による効果は、口腔内細菌叢のバランス制御の点では十分ではなかった。
また、う蝕原因菌の増殖抑制やそのpH産生抑制の作用があるとして、砂糖の代替成分に甘味剤の糖アルコールが使用されているが、その作用効果は十分とは言えず、口腔内細菌叢のバランス制御には至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5982376号公報
【文献】特許第6235138号公報
【文献】特開2012-77053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、口腔用組成物配合用の口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤、口腔内の菌叢改善剤及びこれらを用いた口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、(A)ミルクオリゴ糖には、口腔内の病原性細菌に対する生育抑制作用があり、しかも、口腔内の非病原性細菌(口腔内の常在菌、以下同様)の生育を促進する作用があり、この(A)ミルクオリゴ糖と(B)糖アルコールとを併用すると、口腔内の非病原性細菌の生育を選択的に促進し、かつ病原性細菌の生育を選択的に抑制し、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在割合を高め、菌叢の細菌構成比のバランスを非病原性細菌主体に改善する菌叢改善の作用効果に優れることを知見した。そして、上記併用系を口腔用組成物に配合することで、上記優れた菌叢改善効果を付与でき、口腔疾患、特にう蝕の予防又は抑制に応用することもできることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
更に詳述すると、本発明者らが、口腔内の菌叢を非病原性の常在菌主体の細菌叢へと改善する口腔用組成物の開発に試みたところ、(A)ミルクオリゴ糖には、口腔内の非病原性細菌の生育を促進する作用があることがわかり、これを菌叢改善に応用しようと検討を進めた。
その結果、(A)ミルクオリゴ糖が、それ自身は口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果を有していないものの、非病原性の常在菌、特にストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスが存在する口腔内に適用すると、これら細菌が有する口腔内の病原性細菌に対する生育抑制作用を飛躍的に促進させ、口腔内の病原性細菌に対する顕著な生育抑制効果が得られることがわかった。また更に、(A)成分が、ストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスの生育を促進させ、口腔内の非病原性細菌に対して顕著に優れた生育促進効果を発揮することがわかった。
そして、(A)成分を(B)成分に併用すると、意外にも、両者が相互作用し、(A)成分自身の上記作用、特に非病原性細菌の生育促進作用が一層増強すると同時に、(B)成分の病原性細菌、特にう蝕原因菌に対する作用が改善し、その生育を抑制する作用が増強して発現した。これにより、(A)及び(B)成分の併用系によって、口腔内の非病原性細菌及び病原性細菌が共存し、このように複数菌種で形成される細菌叢において、非病原性細菌の生育を選択的に促進し、その菌数を増加させて存在割合を高め、かつ、特にう蝕の原因となる病原性細菌の生育を選択的に抑制し、その菌数を減少させて存在割合を低下させ、その結果、非病原性細菌の生育を格段に促進させて、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在割合を上げて高比率にすることができ、優れた菌叢改善効果を与えることができた。
本発明では、(A)及び(B)成分を併用することで特異かつ顕著な菌叢改善効果が得られ、(A)成分単独又は(B)成分単独では菌叢改善効果が低かった。
後述の実施例に示すように、本発明の(A)及び(B)成分が配合された口腔用組成物は、複数の非病原性細菌及び病原性細菌の混合菌液に対して処置すると、処置後のう蝕原因菌数(iii)の菌数が少なくその存在割合が低く、処置後の非病原性細菌数(i)+(ii)の菌数が多くこれらの存在割合が高く、かつ病原性細菌に対する非病原性細菌の存在比率({(i)+(ii)}/(iii))が、未処置のコントロール(サンプル未処理)に比べて高く、菌叢改善効果に優れていた。これに対して、後述の比較例に示すように、(B)成分が配合されていても、(A)成分が配合されていない口腔用組成物では、未処置のコントロール(サンプル未処理)に比べ、処置後にう蝕原因菌の菌数がやや減少するが、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在比率がほとんど変動せず、菌叢改善効果が低いものであった。
【0010】
本発明においては、口腔内の病原性細菌であるストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス ソブリナス(Streptococcus sobrinus)、ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ インターメディア(Prevotella intermedia)、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)等、特にう蝕原因菌であるストレプトコッカス ミュータンスやストレプトコッカス ソブリナスの生育及び増殖が選択的に抑制され、かつ口腔内に常在する非病原性細菌であるストレプトコッカス ゴルドニアイ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス ペロリス(Streptococcus peroris)、ストレプトコッカス ラクタリウス(Streptococcus lactarius)等のストレプトコッカス(連鎖球菌)属細菌、ナイセリア サブフラバ(Neisseria subflava)等のナイセリア属細菌、アクチノマイセス ネスランディ(Actinomyces naeslundii)等のアクチノマイセス属細菌の生育が選択的に促進され、口腔内の細菌叢バランスを非病原性の常在菌主体に改善できる。したがって、本発明によれば、口腔内の菌叢を非病原性の常在菌を主体とする健康な状態に維持、形成させることができ、口腔疾患、特にう蝕の予防又は抑制用として有効な口腔用組成物を提供できる。
【0011】
従って、本発明は、下記の口腔用組成物、口腔用組成物配合用の口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤及び口腔内の菌叢改善剤を提供する。
〔1〕
(A)ミルクオリゴ糖と、
(B)糖アルコールと
を含有することを特徴とする口腔用組成物。
〔2〕
(A)ミルクオリゴ糖が、2’-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース及びラクト-N-フコペンタオースIから選ばれる1種以上である〔1〕に記載の口腔用組成物。
〔3〕
(B)糖アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール及びマンニトールから選ばれる1種以上である〔1〕又は〔2〕に記載の口腔用組成物。
〔4〕
(A)成分を0.01~50質量%、(B)成分を1~90質量%含有する〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔5〕
(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)が、質量比として0.0005~1である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔6〕
歯磨剤、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤及び口中清涼剤から選ばれる口腔用製剤である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔7〕
チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、可食フィルム、トローチ及び飲料から選ばれる飲食品である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔8〕
(A)ミルクオリゴ糖を含有する、口腔用組成物配合用の口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤。
〔9〕
口腔内のストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスが有する口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果を促進させ、口腔内の病原性細菌の生育を抑制するものである〔8〕に記載の口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤。
〔10〕
〔8〕又は〔9〕に記載の口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤と、(B)糖アルコールとを含有する、口腔用組成物配合用の口腔内の菌叢改善剤。
〔11〕
(A)ミルクオリゴ糖を含有する、歯磨剤、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤及び口中清涼剤から選ばれる口腔用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤、口腔内の菌叢改善剤及びこれらを応用した口腔用組成物を提供することができる。本発明の(A)及び(B)成分を含有する口腔用組成物は、口腔内の非病原性細菌の生育を促進し、かつ病原性細菌の生育を抑制し、菌叢の細菌構成比のバランスを非病原性細菌主体に改善する、優れた菌叢改善効果を有する。この口腔用組成物は、特に非病原性細菌の生育促進、更には菌叢改善に有効であり、口腔疾患、特にう蝕の予防又は抑制用としても有効に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳述する。
本発明の口腔用組成物は、(A)ミルクオリゴ糖、又は(A)ミルクオリゴ糖及び(B)糖アルコールを含有する。
本発明においては、(A)及び(B)成分を併用すると、口腔内の非病原性細菌(口腔内の常在菌、以下「非病原性細菌」と記載)及び病原性細菌が共存し、複数菌種で形成される細菌叢において、非病原性細菌の生育を選択的に促進し、かつ病原性細菌の生育を選択的に抑制し、これにより、特に非病原性細菌の生育が促進されて、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在割合を高めることで、菌叢改善に優れる。したがって、(A)及び(B)成分が、特に口腔内の非病原性細菌の生育、更には口腔内の菌叢改善のための有効成分であり、これらを配合することで上記作用効果を得ることができる。
ここで、口腔内の菌叢改善とは、処置によって非病原性細菌が増加してその存在割合が上がり、かつ口腔内の病原性細菌が減少してその存在割合が低下し、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在比率が高まっており、口腔内の菌叢が非病原性細菌主体の健康的な状態のバランスに改善していることである。
【0014】
(A)ミルクオリゴ糖は、上記のように複数菌種が存在する細菌叢で、非病原性細菌の生育を促進させ、非病原性細菌を増加させる作用を奏し、また、(B)成分の非病原性細菌に対する生育抑制作用を高める作用も奏する。
(A)ミルクオリゴ糖としては、下記に示すミルクオリゴ糖を用いることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上を使用し得る。
ミルクオリゴ糖とは、遊離ラクトース単位を還元末端側にもち、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース(Gal)、フコース(Fuc)、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が付加したものである。
ミルクオリゴ糖の例として、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、ラクト-N-ヘキサオース、ラクト-N-ネオヘキサオース、6’-N-アセチルノイラミニルラクトース、3’-N-アセチルノイラミニルラクトース等が挙げられる。中でも、2’-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオースIが好ましく、より好ましくは2’-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、更に好ましくは3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトースである。
更に、ミルクオリゴ糖として、ラクツロースを用いることもできる。ラクツロースは、ガラクトースとフルクトースがβ-1,4-グリコシド結合した二糖であり、便秘改善等に用いられる。(A)ミルクオリゴ糖として、ラクツロースも好ましく用いることができる。
(A)ミルクオリゴ糖は、市販品を使用することもでき、例えばCarbosynth社製等の製品を用いることができる。
【0015】
(A)ミルクオリゴ糖の配合量は、非病原性細菌の生育促進及び菌叢改善の点から、組成物全体の0.01%(質量%、以下同様)以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.5%以上が更に好ましい。配合量が0.01%以上であると、非病原性細菌の生育促進効果及び菌叢改善効果を十分に得ることができる。配合量が多くなるほど上記効果は高まり、その上限量は特に限定されないが、製剤の安定性の観点、また服用性等の点から、(A)成分の配合量は、組成物全体の50%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。
【0016】
(B)糖アルコールは、上記のように複数菌種が存在する細菌叢で、病原性細菌の生育を抑制し、病原性細菌を減少させる作用を奏し、また、(A)成分の非病原性細菌に対する生育促進作用を高める作用も奏する。
糖アルコールは、例えばキシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、グリセリン、ラクチトール、イソマルト等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を使用し得る。中でも、病原性細菌の生育抑制及び菌強改善の点から、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトールが好ましく、より好ましくはキシリトール、ソルビトール、特にキシリトールである。
糖アルコールは、市販品を使用でき、例えば富士フイルム和光純薬工業社製等の製品を用いることができる。
【0017】
(B)糖アルコールの配合量は、病原性細菌の生育抑制及び菌叢改善の点から、組成物全体の1%以上が好ましく、より好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。配合量が1%以上であると、病原性細菌の生育抑制効果及び菌叢改善効果を十分に得ることができる。配合量が多くなるほど上記効果は高まり、その上限量は特に限定されないが、後述する(A)/(B)の質量比に応じて調整することが好ましい。なお、多く配合し過ぎると製剤安定性の低下を招くこともあり、(B)成分の配合量は、組成物全体の1~90%が好ましく、特に5~50%、とりわけ10~20%が好ましい。
【0018】
本発明において、(A)成分と(B)成分との量比を示す(A)/(B)は、質量比として0.0005~1が好ましく、より好ましくは0.005~0.5、特に好ましくは0.025~0.10である。(A)/(B)の質量比が上記範囲内であると、非病原性細菌の生育促進効果及び病原性細菌の生育抑制効果がより高まり、より優れた菌叢改善効果を得ることができる。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、液状(液体、液状)、ペースト状、固体(固体、固形状)といった各種形状に調製でき、剤型は特に限定されない。
なお、本発明において、口腔用組成物とは、主として口腔内で使用することを目的にするものであり、使用後は口腔内から排出される口腔用製剤だけでなく、摂取可能な飲食品でもよい。例えば、歯磨剤(練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、粉歯磨等)、洗口剤、塗布剤、マウススプレー、貼付剤、シート剤、口腔内徐放剤、咀嚼剤、口腔内溶解剤、口腔内崩壊剤、義歯ケア剤、舌ケア剤、口中清涼剤等の一般的な口腔用製剤に調製できる。また、口腔内に含んで使用するチューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、可食フイルム、トローチや、水に溶かして飲む粉末飲料等の飲食品に調製することもできる。調製法は、それぞれの常法を採用できる。なお、飲食品の形態は、いつでもどこでも使用可能な簡便性、携帯性の点から、チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、可食フイルムのいずれかが好ましい。
【0020】
本発明の口腔用組成物は、上記成分に加えて、必要に応じて、その他の公知成分を任意に含んでもよい。任意の成分としては、例えば、界面活性剤、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、着色剤、甘味料、防腐剤、香料、有効成分、更には、pH調整剤、光沢剤、流動化剤、除電剤、結合剤、酸味料、滑沢剤、保存料、崩壊剤、賦形剤、溶剤等が挙げられ、これらの配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整すればよく、常用量でもよい。
口腔用製剤、例えば歯磨剤、洗口剤では、界面活性剤、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、着色剤、甘味料、防腐剤、香料、有効成分、pH調整剤等を配合できる。
飲食品、例えばチューインガム、錠菓、キャンディ、グミでは、ガムベース、着色剤、甘味料、香料、光沢剤、流動化剤、結合剤、酸味料、滑沢剤、保存料、崩壊剤、賦形剤等を配合できる。
【0021】
界面活性剤は、口腔用として一般的なアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合できる。アニオン性界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ノニオン性界面活性剤は、糖脂肪酸エステル、糖アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル又は高級アルコールエステルが挙げられる。カチオン性界面活性剤はアルキルアンモニウム塩、両性界面活性剤はベタイン系やイミダゾリン系が挙げられる。界面活性剤の配合量は、通常、組成物全体の0~10%、特に0.01~5%である。
【0022】
研磨剤は、シリカ系研磨剤、リン酸カルシウム系研磨剤、炭酸カルシウム系研磨剤が挙げられ、その配合量は、通常、練歯磨等の歯磨剤では組成物全体の2~50%である。
【0023】
粘稠剤は、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。なお、(B)成分が粘稠剤としても作用するため、任意の粘稠剤は配合しなくてもよい。これら任意の粘稠剤の配合量は、組成物全体の0~89%がよく、(B)成分の配合量と合算した合計配合量が90%以下、特に50%以下、更に20%以下であることが好ましい。
【0024】
粘結剤は、有機粘結剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロール誘導体、ガム類等、無機粘結剤としてゲル化性シリカ等が挙げられる。その配合量は、通常、組成物全体の0.5~10%である。
【0025】
着色剤は、赤色2号、青色1号等、甘味料はサッカリンナトリウム等が挙げられ、防腐剤は、パラオキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
【0026】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及びこれら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等が挙げられ、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を使用できる。
これら香料の組成物中への配合量は、通常、歯磨剤、洗口剤等の口腔用製剤では0.00001~1%がよく、また、錠菓、グミ、チューインガム等の飲食品では0.001~50%がよい。上記香料素材を使用した賦香用香料は、組成物中に0.1~10%使用するのが好ましい。
【0027】
任意の有効成分としては、口腔用組成物に通常配合される公知のものを配合できる。例えば、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性殺菌剤、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸等の抗炎症剤、デキストラナーゼ等の酵素、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物、水溶性リン酸化合物、銅化合物、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、各種ビタミン類、植物抽出物が挙げられる。なお、上記有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で設定できる。
なお、本発明では、口腔内の病原性細菌と共に非病原性細菌をも殺菌する非選択的殺菌剤の配合は制限することが好ましい。前記非選択的殺菌剤は、従来から広く口腔用製剤に使用されている殺菌剤に多く見られ、例えば塩化セチルピリジニウム等のカチオン性殺菌剤、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤が挙げられる。これら非選択的殺菌剤は、本発明の効果が発揮される範囲で配合できるが、配合する場合は組成物全体の0.1%以下、特に0.05%以下が好ましく、配合しないことが最も好ましい。これらの非選択的殺菌剤は、病原性細菌と共に非病原性の口腔内常在菌をも殺菌してしまう、非選択的な殺菌作用を奏するため、これら殺菌剤が配合されていると、口腔内の菌叢バランスが崩れて制御できなくなる場合がある。従って、本発明においては、上記非選択的殺菌剤が配合されていないほうが、選択的な口腔内菌叢の改善、バランス制御にはより好適である。
【0028】
また、本発明では、(A)ミルクオリゴ糖からなる口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤、及び(A)ミルクオリゴ糖と(B)糖アルコールとからなり、好ましくは(B)/(A)が質量比として0.0005~1である口腔内の非病原性細菌の生育促進剤、更には口腔内の菌叢改善剤を提供する。この場合、(A)成分、又は(A)及び(B)成分のみを含んでいればよいが、必要に応じて上述のように任意成分を添加することもできる。(A)成分、(B)成分、その他の配合成分について、これらの種類、配合量、比率等の詳細はいずれも上記と同様である。
【0029】
本発明にかかわる口腔内の病原性細菌に対する生育抑制剤は、(A)成分を含有するものであり、特にこれを含有する口腔用組成物とすることによって上記口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果が得られる。後述する実験例の結果から明らかであるように、口腔内に存在するストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスは、口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果を有する。一方、(A)成分は、それ自身は口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果を有していないものの、これらを口腔内で適用することにより、ストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスが有する口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果を飛躍的に促進させる作用を奏し、口腔内の病原性細菌に対する顕著な生育抑制効果が得られる。以上のことから、(A)成分は、ストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスが有する口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果を促進する促進剤として有効である。また、(A)成分は、ストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスの生育促進効果を有することから、これらを含めた口腔内の非病原性細菌の生育を促進する促進剤としても有効である。
また、本発明にかかわる口腔内菌叢改善剤は、(A)成分と(B)成分とを含有するものであり、特にこれらを含有する口腔用組成物とすることによって、上述したように、口腔内の病原性細菌に対する生育抑制効果が得られ、かつ口腔内の非病原性細菌に対しては生育促進効果が得られ、これらによって、口腔内の菌叢の細菌構成比のバランスを非病原性細菌主体に改善する顕著な菌叢改善効果が得られる。
【実施例
【0030】
以下、実施例、比較例、実験例及び処方例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。なお、実施例5、6、10、11、14は参考例である。
【0031】
[実施例、比較例]
表1~3に示す組成の口腔用組成物について、下記に示す方法で細菌構成比への影響に関する評価を行い、口腔内の菌叢改善効果を評価した。
【0032】
使用した主原料を下記に示す。
(A)成分
3’-シアリルラクトース:Carbosynth社製
6’-シアリルラクトース:Carbosynth社製
2’-フコシルラクトース:Carbosynth社製
(B)成分
キシリトール:富士フイルム和光純薬工業社製
ソルビトール:富士フイルム和光純薬工業社製
【0033】
細菌構成比への影響の評価方法:
<使用菌株>
下記に示す各細菌をAmerican Type Culture Collectionより購入し、使用した。
非病原性細菌(口腔内の常在菌)
(i)ストレプトコッカス ゴルドニアイ(Streptococcus
gordonii:以下、S.gordoniiと略記。)ATCC
10558
(ii)アクチノマイセス ネスランディ(Actinomyces na
eslundii:以下、A.naeslundiiと略記。)AT
CC43146
病原性細菌(う蝕原因菌)
(iii)ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcu
s mutans:以下、S.mutans)ATCC25175
【0034】
<細菌のプレカルチャー>
上記各種細菌の凍結菌液を、馬脱繊血を含有するトッドへヴィットブロス(Todd Hewitt Broth、Becton and Dickinson社製)寒天培地に白金耳にて植菌し、37℃で72時間嫌気培養(80体積%窒素、10体積%二酸化炭素、10体積%水素)にて起菌した。続いて、増殖したコロニーを5mg/Lのヘミン(Sigma社製)及び1mg/LのビタミンK(富士フイルム和光純薬工業社製)を含むトッドへヴィットブロス(Todd Hewitt Broth、Becton and Dickinson社製)〔THBHM〕4mLに懸濁し、37℃で24時間嫌気培養した。更に、この培養液を20mLのTHBHMに1%接種し、37℃で24時間嫌気培養した。
【0035】
<混合菌液の調製>
上記培養後の菌液を遠心分離して菌体を回収し、下記組成の培地を用いて、非病原性細菌(i)、(ii)が各々2×108cfu/mL、う蝕原因菌(iii)が4×108cfu/mLになるように混合菌液を調製した。
培地組成
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社製)
10.0g/L(最終濃度1.0%)
トリプトン(Becton and Dickinson社製)
5.0g/L(最終濃度0.5%)
イーストエキス(Becton and Dickinson社製)
5.0g/L(最終濃度0.5%)
ムチン(Sigma社製) 12.5g/L(最終濃度1.25%)
ヘミン(Sigma社製) 1.0mg/L(最終濃度0.0001%)
ビタミンK(富士フイルム和光純薬工業社製)
0.2mg/L(最終濃度0.00002%)
KCl(富士フイルム和光純薬工業社製)
2.5g/L(最終濃度0.25%)
システイン(富士フイルム和光純薬工業社製)
0.5g/L(最終濃度0.05%)
蒸留水 残
合計 100.0%
【0036】
<評価サンプルの調製>
表1~3に示す各組成を常法により調製し、評価サンプルとした。
【0037】
<細菌構成比の評価>
試験管に上記評価サンプルを2mLずつ添加した。続いて混合菌液を2mL接種し、37℃で24時間嫌気培養した。その後、ボルテックスミキサーにて攪拌し、更に、超音波処理(200μA、10秒間)により分散させ、均一にした。この分散液を、トリプチックソイブロス(Tryptic Soy Broth、Becton and Dickinson社製)を用いて希釈して、10倍希釈系列を作製した。10-5、10-6、10-7希釈液を50μLずつトッドへヴィットブロス(Todd Hewitt Broth、Becton and Dickinson社製)寒天培地に塗抹し、好気培養後、生えてくる細菌コロニー数を計測することにより、各細菌の生菌数(処置後の非病原性細菌{(i)+(ii)}の菌数、処置後のう蝕原因菌(iii)の菌数、cfu/mL)と菌構成比(処置後の非病原性細菌{(i)+(ii)}の割合、処置後のう蝕原因菌(iii)の割合、%)を算出した。前記菌構成比は、処置後の各細菌の生菌数を合計した総生菌数に対する割合である。
寒天培地上の(i)S.gordonii、(ii)A.naeslundii(iii)S.mutansは、コロニー形態で判別した。
【0038】
<細菌叢改善の評価基準>
評価サンプルを処置した混合菌液中におけるう蝕原因菌(iii)の割合(%)に対する非病原性細菌{(i)+(ii)}の割合(%)を、以下の計算式にて算出した。
X={(i)+(ii)}/(iii)
算出したX値から、下記の判定基準にて口腔内の菌叢改善効果を判定した。
判定基準
a:4以上
b:2.5以上4未満
c:1.5以上2.5未満
d:1.5未満
コントロール(サンプル未処理)の各細菌の生菌数、菌構成比及びこれらから算出した{(i)+(ii)}/(iii)、菌叢改善効果は表1~3に示す通りであった。
混合菌液は調製後にも各細菌の菌数が初期菌数から変動するため、コントロール(サンプル未処理)の培養後の各細菌の生菌数等を基準とした。
【0039】
本発明の細菌叢改善の効果は、口腔内の病原性細菌(う蝕原因菌)の菌数の割合に対する、非病原性細菌の菌数の割合の比で評価し、この比が高ければ高いほど、菌叢改善効果が高い。
本発明の上記評価方法では、コントロール(サンプル未処理)においても、培養によって菌数が増加するものである。したがって、う蝕原因菌の菌数が、コントロール(サンプル未処理)の菌数より少なければ、う蝕原因菌の生育抑制効果があり、また、非病原性細菌の菌数が、コントロール(サンプル未処理)の菌数より多ければ、非病原性細菌の生育促進効果があるといえるが、菌叢改善効果において重要なのは、口腔内でのう蝕原因菌と非病原性細菌との比である。
この場合、本発明では、上記評価方法において、病原性細菌(う蝕原因菌)に対する非病原性細菌の存在比率{(i)+(ii)}/(iii)は、コントロール(サンプル未処理)における存在比率の好ましくは2倍以上、特に4倍以上、とりわけ6倍以上であり、このような存在比率であると、菌叢改善効果が優れる。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表3に示すように、(B)成分が配合され、(A)成分が配合されていないと(比較例1、2)、コントロール(サンプル未処理)と比べて、処置後にう蝕原因菌(iii)の菌数がやや減少するが、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在比率({(i)+(ii)}/(iii)の比率)がほとんど変動せず同等であり、菌叢改善効果に劣るものであった。
これに対して、表1、2に示すように、本発明の(A)及び(B)成分が配合された口腔用組成物(実施例)は、コントロール(サンプル未処理)と比べて、処置後に非病原性細菌{(i)+(ii)}の菌数及びその割合が増加し、う蝕原因菌(iii)の菌数及びその割合が減少し、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在比率({(i)+(ii)}/(iii)の比率)が高く、菌叢改善効果に優れていた。
【0044】
[実験例]
(A)成分について、下記試験を行った。
[I]病原性細菌に対する抗菌効果試験
下記方法で、病原性細菌に対する抗菌効果を評価した。
使用した主原料を下記に示す。
(A)成分
3’-シアリルラクトース:Carbosynth社製
ラクツロース:富士フイルム和光純薬工業社製
非病原性細菌(口腔内の常在菌)
ストレプトコッカス ペロリス(Streptococcus peroris):以下、S.perorisと略記。)ATCC 700780
ストレプトコッカス ラクタリウス(Streptococcus lactarius):以下、S.lactariusと略記。)CCUG 66490T
病原性細菌
ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis:以下、P.gingivalisと略記。)ATCC33277
【0045】
<細菌のプレカルチャー>
上記各種細菌の凍結菌液を、馬脱繊血を含有するトッドへヴィットブロス(Todd Hewitt Broth、Becton and Dickinson社製)寒天培地に白金耳にて植菌し、37℃で72時間嫌気培養(80体積%窒素、10体積%二酸化炭素、10体積%水素)にて起菌した。続いて増殖したコロニーを5mg/Lのヘミン(Sigma社製)及び1mg/LのビタミンK(富士フイルム和光純薬工業社製)を含むトッドへヴィットブロス(Todd Hewitt Broth、Becton and Dickinson社製)〔THBHM〕4mLに懸濁し、37℃で24時間嫌気培養した。さらに、この培養液を20mLのTHBHMに1%接種し、37℃で24時間嫌気培養した。
【0046】
上記培養後の菌液を11,000rpm 5minで遠心分離し、沈殿物をトッドへヴィットブロス培地を用いて、上記S.peroris、S.lactariusが各々濁度(O.D.550nm)1.0になるように再懸濁し、菌液を調製した。その後、(A)成分を1%添加したトッドへヴィットブロス培地40mLに、調製した菌液を1%添加して37℃で24時間嫌気培養した。
得られた培養液を11,000rpm 5minで遠心し、上清を回収した。上清のpHをpH7に調整した後、0.22μフィルターでろ過して菌体を取り除いた。ろ過後の培養液を小試験管に3mLずつ分注した(n=2)。上記と同様にして濁度(O.D.550nm)1.0に調整したP.gingivalis菌液を30μLずつ添加し、37℃で24時間嫌気培養後に濁度(O.D.550nm)を測定した。
【0047】
<濁度相対値(病原性細菌に対する生育抑制効果)>
評価サンプル((A)成分、又は(A)成分とS.perorisもしくはS.lactariusとの併用系)添加の濁度をa、コントロール(非病原性細菌なし、(A)成分の代わりに蒸留水添加)の濁度をbとしたときの下記式における、コントロールに対する評価サンプルの濁度相対値Xを生育抑制効果の指標とした。Xが低いほど病原性細菌に対する生育抑制効果が高いことを示す。結果をn=2の平均値で示す。
X=(a/b)×100
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
上記結果から明らかであるように、S.peroris又はS.lactariusは、口腔内病原性細菌に対する生育抑制効果を有する。一方、(A)成分は、それ自身は口腔内病原性細菌に対する生育抑制効果を有していないものの、S.peroris又はS.lactariusと併用することで、S.peroris又はS.lactariusの有する口腔内病原性細菌に対する生育抑制効果を飛躍的に促進させる効果があり、口腔内病原性細菌に対する顕著な生育抑制効果が得られた。
【0052】
より具体的に説明する。表4中のコントロールと、表5、6中の(A)成分が蒸留水(コントロール)の結果から明らかであるように、S.peroris又はS.lactariusは、P.gingivalisに対する生育抑制効果を有する。
一方、表4中のコントロールと、(A)成分が3’-シアリルラクトース又はラクツロースである場合の結果から明らかであるように、(A)成分は、それ自身は口腔内病原性細菌に対する生育抑制効果を有していないものの、その一方で、表5、6の結果から明らかであるように、(A)成分を、ストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスが存在する口腔内に適用することで、口腔内のストレプトコッカス ペロリス又はストレプトコッカス ラクタリウスが有する口腔内病原性細菌に対する生育抑制効果を飛躍的に促進させる効果が得られることがわかった。
【0053】
3’-シアリルラクトースのトッドへヴィットブロス培地への添加量を以下の表7に示すように変更して評価を行った。上記1%の場合の結果を併記する。
【0054】
【表7】
【0055】
[II]S.perorisの生育促進効果試験
下記方法で、S.perorisの生育促進効果を評価した。
評価サンプル((A)成分;3’-シアリルラクトース又はラクツロース)又は蒸留水(コントロール)を添加したトッドへヴィットブロス培地200μLに、上記[I]記載のように濁度(O.D.550nm)1.0になるように再懸濁したS.peroris菌液を1%添加し、96穴プレートを用いて37℃で18時間嫌気培養した。細菌の増殖量は、濁度(O.D.550nm)で測定し、菌の生育度を評価した。表8、9中の濃度(%)はトッドへヴィットブロス培地中の濃度である。
評価サンプル添加の濁度を(Ts)、コントロール(蒸留水添加)の濁度を(Tc)としたときの下記式における、コントロールに対する評価サンプルの濁度相対値Yを生育促進効果の指標とした。すなわち、Yが100より大きいと生育が促進されたことになる。
Y=Ts/Tc×100
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
以下に処方例を示す。なお、使用原料は上記と同様である。処方例の口腔用組成物は、病原性細菌に対する非病原性細菌の存在比率({(i)+(ii)}/(iii)の比率)を高めることができ、菌叢改善効果に優れていた。
【0059】
[処方例1]チューインガム
(A)3’-シアリルラクトース 2
(B)キシリトール 48
(B)マルチトール 20
ガムベース 20
アラビアガム 9
香料 1
合計 100%
(A)/(B)の質量比=0.029
【0060】
[処方例2]チューインガム
(A)6’-シアリルラクトース 2
(B)キシリトール 48
(B)マルチトール 20
ガムベース 20
アラビアガム 9
香料 1
合計 100%
(A)/(B)の質量比=0.029
【0061】
[処方例3]錠菓
(A)3’-シアリルラクトース 7
(B)ソルビトール 75
(B)キシリトール 10
ショ糖脂肪酸エステル 3
香料 4.5
微粒二酸化ケイ素 0.5
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.082
【0062】
[処方例4]錠菓
(A)6’-シアリルラクトース 7
(B)ソルビトール 75
(B)キシリトール 10
ショ糖脂肪酸エステル 3
香料 4.5
微粒二酸化ケイ素 0.5
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.082
【0063】
[処方例5]グミ
(A)3’-シアリルラクトース 1
(B)キシリトール 10
砂糖 32
水飴 30
ブドウ糖液糖 10
グリセリン 5
ゼラチン 5
香料 0.2
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.1
【0064】
[処方例6]グミ
(A)6’-シアリルラクトース 1
(B)キシリトール 10
砂糖 32
水飴 30
ブドウ糖液糖 10
グリセリン 5
ゼラチン 5
香料 0.2
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.1
【0065】
[処方例7]キャンディ
(A)3’-シアリルラクトース 1
(B)キシリトール 10
砂糖 44
水飴 33
クエン酸 2.0
香料 0.2
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.1
【0066】
[処方例8]キャンディ
(A)6’-シアリルラクトース 1
(B)キシリトール 10
砂糖 44
水飴 33
クエン酸 2.0
香料 0.2
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.1
【0067】
[処方例9]歯磨剤
(A)3’-シアリルラクトース 2
(B)ソルビトール 25
無水ケイ酸 10
ラウリル硫酸ナトリウム 1
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.5
サッカリンナトリウム 0.1
香料 1
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.08
【0068】
[処方例10]歯磨剤
(A)6’-シアリルラクトース 2
(B)ソルビトール 25
無水ケイ酸 10
ラウリル硫酸ナトリウム 1
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.5
サッカリンナトリウム 0.1
香料 1
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.08
【0069】
[処方例11]洗口剤
(A)3’-シアリルラクトース 0.5
(B)キシリトール 5
プロピレングリコール 5
グリセリン 5
クエン酸 0.03
クエン酸ナトリウム 0.25
香料 0.8
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.1
【0070】
[処方例12]洗口剤
(A)6’-シアリルラクトース 0.5
(B)キシリトール 5
プロピレングリコール 5
グリセリン 5
クエン酸 0.03
クエン酸ナトリウム 0.25
香料 0.8
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=0.1
【0071】
[処方例13]洗口剤
(A)3’-シアリルラクトース 1
(B)キシリトール 1
プロピレングリコール 5
グリセリン 5
クエン酸 0.03
クエン酸ナトリウム 0.25
香料 0.8
水 バランス
合計 100.0%
(A)/(B)の質量比=1