(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】レーザ素子、レーザ素子の製造方法、レーザ装置およびレーザ増幅素子
(51)【国際特許分類】
H01S 3/08 20230101AFI20240903BHJP
H01S 3/0941 20060101ALI20240903BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20240903BHJP
H01S 3/11 20230101ALN20240903BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/0941
H01S5/183
H01S3/11
(21)【出願番号】P 2021561363
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043292
(87)【国際公開番号】W WO2021106757
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2019215087
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 将尚
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-199288(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010061891(DE,A1)
【文献】特開平08-316557(JP,A)
【文献】特開平07-183608(JP,A)
【文献】特開平10-084169(JP,A)
【文献】特開2007-173393(JP,A)
【文献】特開2015-084390(JP,A)
【文献】特開2019-176119(JP,A)
【文献】特開2002-141588(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221083(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0039274(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0159132(US,A1)
【文献】特表2008-542600(JP,A)
【文献】特開2016-076528(JP,A)
【文献】特開2007-173394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長に対する第1反射層と、前記第1波長の面発光を行う活性層と、を有する半導体層と、
前記半導体層と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体と、
前記第1反射層、前記活性層、及び前記第3反射層の順に配置されて、前記第1反射層および前記第3反射層の間で前記第1波長の光を共振させる第1共振器と、
前記第2反射層および前記第4反射層の間で前記第2波長の光を共振させる第2共振器と、を備え、
前記半導体層、前記レーザ媒質、および前記可飽和吸収体は一体に接合され、
前記半導体層は、前記レーザ媒質と対向する第4面に前記第1波長に対する第5反射層をさらに有し、
前記第5反射層は、前記第1波長の一部を透過させ、
前記第1波長に対する前記第1反射層の反射率は、前記第5反射層より高くなっている、
レーザ素子。
【請求項2】
前記第1波長は、前記半導体層が生成する前記レーザ媒質に対する励起光の波長であり、
前記半導体層の前記レーザ媒質と対向する第4面の少なくとも一部は、前記第1波長の透過面となっている、
請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項3】
前記半導体層は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、前記p型半導体多層反射層に接する正電極と、前記n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える、
請求項
1又は2に記載のレーザ素子。
【請求項4】
前記第1波長に対する前記第5反射層の透過率は、前記第1反射層より高くなっている、
請求項
1乃至3
のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項5】
前記第3反射層は、前記第1波長を反射させる、
請求項1
乃至4のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項6】
前記第4反射層は、前記第2波長の一部を透過させる、
請求項1
乃至5のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項7】
前記第2波長は、前記レーザ媒質の発振波長である、
請求項1
乃至6のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項8】
前記半導体層と前記レーザ媒質との間に前記第1波長に対する第1反射防止膜を有する、
請求項1
乃至7のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項9】
前記レーザ媒質と前記可飽和吸収体との間に前記第2波長に対する第2反射防止膜を有する、
請求項1
乃至8のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項10】
前記半導体層と前記レーザ媒質との間、前記レーザ媒質と前記可飽和吸収体との間、前記可飽和吸収体の前記第3面の少なくともいずれかに配置されたひとつまたは複数の放熱板をさらに備える、
請求項1
乃至9のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項11】
前記第2反射層と前記第4反射層との間に配置された波長変換材料をさらに備える、
請求項1
乃至10のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項12】
前記波長変換材料の前記半導体層と対向する第5面に前記波長変換材料による変換後の波長に対する第6反射層をさらに備える、
請求項
11に記載のレーザ素子。
【請求項13】
前記レーザ媒質は、4準位系のレーザ媒質または3準位系のレーザ媒質である、
請求項1
乃至12のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【請求項14】
第1波長に対する第1反射層と第2波長に対する第2反射層とを同一面に有する
とともに、前記第1波長の面発光を行う
活性層を有する半導体層と、
前記半導体層に接合される面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質に接合される面と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体と
、
前記第1反射層、前記活性層、及び前記第3反射層の順に配置されて、前記第1反射層および前記第3反射層の間で前記第1波長の光を共振させる第1共振器と、
前記第2反射層および前記第4反射層の間で前記第2波長の光を共振させる第2共振器と、を備え、
前記レーザ媒質は、前記第1共振器の共振および前記第2共振器の共振に共用され、
前記半導体層は、前記レーザ媒質と対向する第4面に前記第1波長に対する第5反射層をさらに有し、
前記第5反射層は、前記第1波長の一部を透過させ、
前記第1波長に対する前記第1反射層の反射率は、前記第5反射層より高くなっている、
レーザ素子。
【請求項15】
第1波長に対する第1反射層
と、前記第1波長の面発光を行う活性層と、を有する半導体層と、
前記半導体層と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体と、
前記第1反射層、前記活性層、及び前記第3反射層の順に配置されて、前記第1反射層および前記第3反射層の間で前記第1波長の光を共振させる第1共振器と、
前記第2反射層および前記第4反射層の間で前記第2波長の光を共振させる第2共振器と、を備え、
前記半導体層は、前記レーザ媒質と対向する第4面に前記第1波長に対する第5反射層をさらに有し、
前記レーザ媒質は、前記第1共振器の共振および前記第2共振器の共振に共用されるレーザ素子の製造方法であって、
前記第5反射層は、前記第1波長の一部を透過させ、
前記第1波長に対する前記第1反射層の反射率は、前記第5反射層より高くなっており、
半導体基板上に、前記半導体層、前記レーザ媒質、および前記可飽和吸収体を積層した後にダイシングすることにより、複数の前記レーザ素子を製造する、
レーザ素子の製造方法。
【請求項16】
請求項1
乃至14のいずれか一項に記載のレーザ素子を複数備える、
レーザ装置。
【請求項17】
複数の前記レーザ素子は、1次元のアレイ状または2次元のアレイ状に配列されている、
請求項
16に記載のレーザ装置。
【請求項18】
少なくともいずれかの前記レーザ素子に駆動用の電気信号を供給するように構成された駆動回路をさらに備える、
請求項
17に記載のレーザ装置。
【請求項19】
前記第1共振器は、前記半導体層の内部で前記第1波長の光を発生させると共に前記レーザ媒質の内部で前記第1波長の光を吸収させ、
前記第2共振器は、前記レーザ媒質及び前記可飽和吸収体の内部でQスイッチによる前記第2波長のパルス光を発生させる、請求項1
乃至14のいずれか一項に記載のレーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ素子、レーザ素子の製造方法、レーザ装置およびレーザ増幅素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ技術は、微細加工、医療機器または測距など複数の分野で応用されている。特に、短パルスレーザの技術は、高精度の加工技術または高効率の波長変換技術に向けた応用が期待されている。固体レーザを使い、MWを超えるピークパワーを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、固体レーザを使うためには、部品数が多く、調整の難しい装置を取り扱う必要がある。装置の複雑性やコストが固体レーザの普及における課題となっていた。
【0005】
上述の課題に鑑みて、本開示は、小型で高性能なレーザ素子、レーザ素子の製造方法、レーザ装置およびレーザ増幅素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によるレーザ素子は、第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、
前記励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備えていてもよい。
【0007】
前記第1波長は、前記励起光源が生成する励起光の波長であり、前記励起光源の前記レーザ媒質と対向する第4面の少なくとも一部は、前記励起光の出射面となっていてもよい。
【0008】
前記励起光源は、前記第4面に前記第1波長に対する第5反射層を有し、前記第5反射層は、前記第1波長の一部を透過させてもよい。
【0009】
前記励起光源は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、前記p型半導体多層反射層に接する正電極と、前記n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える面発光半導体レーザであってもよい。
【0010】
前記第1波長に対する前記第5反射層の透過率は、前記第1反射層より高くなっていてもよい。
【0011】
前記第1波長に対する前記第1反射層の反射率は、前記第5反射層より高くなっていてもよい。
【0012】
前記第3反射層は、前記第1波長の一部を透過させてもよい。
【0013】
前記第4反射層は、前記第2波長の一部を透過させてもよい。
【0014】
前記第2波長は、前記レーザ媒質の発振波長であってもよい。
【0015】
前記励起光源と前記レーザ媒質との間に前記第1波長に対する第1反射防止膜を有していてもよい。
【0016】
前記レーザ媒質と前記可飽和吸収体との間に前記第2波長に対する第2反射防止膜を有していてもよい。
【0017】
前記励起光源と前記レーザ媒質との間、前記レーザ媒質と前記可飽和吸収体との間、前記可飽和吸収体の前記第3面の少なくともいずれかに配置されたひとつまたは複数の放熱板をさらに備えていてもよい。
【0018】
前記第2反射層と前記第4反射層との間に配置された波長変換材料をさらに備えていてもよい。
【0019】
前記波長変換材料の前記励起光源と対向する第5面に前記波長変換材料による変換後の波長に対する第6反射層をさらに備えていてもよい。
【0020】
前記レーザ媒質は、4準位系のレーザ媒質または3準位系のレーザ媒質であってもよい。
【0021】
本開示の一態様によるレーザ素子は、第1波長に対する第1反射層と第2波長に対する第2反射層とを同一面に有する励起光源と、前記励起光源と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備えていてもよい。
【0022】
本開示の一態様によるレーザ素子の製造方法では、半導体基板上に複数の材料が積み重ねられた積層構造を形成した後にダイシングを行うことによって、第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、前記励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備えるレーザ素子を複数製造してもよい。
【0023】
本開示の一態様によるレーザ装置は、上述のいずれかのレーザ素子を複数備えていてもよい。
【0024】
複数の前記レーザ素子は、1次元のアレイ状または2次元のアレイ状に配列されていてもよい。
【0025】
少なくともいずれかの前記レーザ素子に駆動用の電気信号を供給するように構成された駆動回路をさらに備えていてもよい。
【0026】
本開示の一態様によるレーザ増幅素子は、第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、
前記励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層を有し、かつ前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長及び第2波長に対する第3反射層を有する増幅媒質と、を備えていてもよい。
【0027】
前記励起光源は、前記増幅媒質に対向する第3面を有し、
前記第1波長は、前記励起光源が生成する励起光の波長であり、
前記第3面の少なくとも一部は、前記励起光の出射面となっていてもよい。
【0028】
前記励起光源は、前記第3面に前記第1波長に対する第4反射層を有し、前記第4反射層は、前記第1波長の一部を透過させてもよい。
【0029】
前記励起光源は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、前記p型半導体多層反射層に接する正電極と、前記n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える面発光半導体レーザであってもよい。
【0030】
前記励起光源は、前記励起光源の一方の面に配置された複数の発光点を持つ面発光半導体レーザの活性層と、第1の多層膜反射鏡と、前記増幅媒質を介して設置された第2の多層膜反射鏡とを有してもよい。
【0031】
前記活性層に外部より電流注入することにより、前記第1及び第2の多層膜反射鏡の間で前記活性層のバンドギャップで定まる波長でレーザ発振が起こり、前記レーザ発振で生じた励起光が前記増幅媒質でポンピングされて、前記励起光源から前記増幅媒質を通るレーザ光が均一に増幅されてもよい。
【0032】
前記増幅媒質に外部よりパルスレーザ光を結合し、その出力を増幅してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】励起光の光軸およびレーザ光の光軸が角度をなすレーザ装置の例を示す図。
【
図2】レーザ光の光軸の方向から視たときのレーザ装置の構成の例を示す図。
【
図3】本開示によるレーザ装置の例を概略的に示す断面図。
【
図4】本開示によるレーザ装置の例を示した分解図。
【
図5】半導体レーザの製造方法の一例を示す断面図。
【
図6】
図5に続く、半導体レーザの製造方法の一例を示す断面図。
【
図7】
図6に続く、半導体レーザの製造方法の一例を示す断面図。
【
図8】
図7に続く、半導体レーザの製造方法の一例を示す断面図。
【
図9】
図8に続く、半導体レーザの製造方法の一例を示す断面図。
【
図11】
図9に続く、半導体レーザの製造方法の一例を示す断面図。
【
図12】複数のレーザ素子が一体的に形成された板状構造物をダイシングする例を示した図。
【
図13】マルチビームのレーザ装置の例を示した図。
【
図14】変形例1によるレーザ装置の例を示した図。
【
図15】変形例2によるレーザ装置の例を示した図。
【
図16】変形例3によるレーザ素子の例を示した分解図。
【
図17】変形例4によるレーザ素子の例を示した分解図。
【
図18】変形例5によるレーザ素子の例を示した断面図。
【
図19】変形例6によるレーザ素子の例を示した断面図。
【
図20】変形例7によるレーザ素子の例を示した断面図。
【
図21A】本実施形態によるレーザ増幅素子の上面図。
【
図21B】本実施形態によるレーザ増幅素子の断面図。
【
図21C】励起領域の間に励起されない領域を有するレーザ増幅素子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0035】
本開示によるレーザ素子およびレーザ装置について説明する前に、一般的な固体レーザ技術の例について述べる。
【0036】
(第1の実施形態)
図1は、励起光の光軸とレーザ光の光軸が角度をなしているレーザ装置の例を示している。
図1は、レーザ装置1000を励起光の光軸とレーザ光の光軸とを含む面で切断した断面図を示している。レーザ装置1000は、固体レーザ素子901と、半導体レーザアレイ902と、ヒートシンク906と、ヒートシンク1203とを備えている。レーザ装置1000は、レーザ媒質として固体材料を使った固体レーザ装置である。
【0037】
半導体レーザアレイ902は、直線状に配置された複数の発光部を備える。それぞれの発光部は、例えば、InGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)の活性層を有する。ただし、半導体レーザアレイ902の活性層は、その他の種類の半導体であってもよい。半導体レーザアレイ902は、レーザ装置1000における励起光を生成する。すなわち、半導体レーザアレイ902は、固体レーザ素子901の吸収帯と一致する中心波長940nmでレーザ発振する。半導体レーザアレイ902は、サブマウントを介して、ヒートシンク1203に固定されている。ヒートシンク1203は、半導体レーザアレイ902を冷却する。ヒートシンク1203として、例えば、水冷方式のヒートシンクを使うことができる。ただし、ヒートシンク1203の冷却方式については、問わない。また、ヒートシンク1203は、半導体レーザアレイ902の正電極(p電極)を備えているものとする。
【0038】
半導体レーザアレイ902の固体レーザ素子901とは反対側にある面1201には、波長940nmの電磁波に対する反射層r1が形成されている。また、半導体レーザアレイ902の固体レーザ素子901と対向する面1202には、波長940nmの電磁波に対する反射層r2が形成されている。波長940nmの電磁波に対する反射層r1の反射率は、反射層r2より高くなっている。
【0039】
固体レーザ素子901は、例えば、3準位系のレーザ媒質である。例えば、3準位系のレーザ媒質として、Yb(イットリビウム)をドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)結晶を使うことができる。固体レーザ素子901の発振波長は、1030nmである。固体レーザ素子901は、ヒートシンク906に固定されている。例えば、ハンダを使って固体レーザ素子901をヒートシンク906に固定することができる。ヒートシンク906として、例えば、水冷方式のヒートシンクを使うことができる。ただし、どのような冷却方式のヒートシンクを使ってもよい。
【0040】
固体レーザ素子901の光軸と直交する面1103には、波長1030nmの電磁波に対する反射層r3が形成されている。また、固体レーザ素子901の光軸と直交する他方の面1104には、波長1030nmの電磁波に対する反射層r4が形成されている。波長1030nmの電磁波に対する反射層r3の反射率は、反射層r4より高くなっている。さらに、固体レーザ素子901の半導体レーザアレイ902とは反対側にある面1101には、波長940nmの電磁波に対する反射層r5が形成されている。また、固体レーザ素子901の半導体レーザアレイ902と対向する面1102には、波長940nmの電磁波に対する反射層r6が形成されている。波長940nmの電磁波に対する反射層r5の反射率は、反射層r6より高くなっている。
【0041】
図1では、面1201と面1101との間に、半導体レーザアレイ902から放出された励起光903が破線で示されている。また、固体レーザ素子901から出射されるレーザ光905が点線の矢印で示されている。
図1のレーザ装置1000では、励起光903の光軸と、レーザ光905の光軸が直交している。
【0042】
図2は、レーザ装置1000を、レーザ光905の光軸の方向から視たときの構成を示している。
図2では、ヒートシンク(正電極)1203上に、半導体レーザアレイ902および絶縁板1205が配置されている。さらに、絶縁板1205の上には、負電極(n電極)1204が配置されている。絶縁板1205の上面(ヒートシンク1204側)および絶縁板1205の下面(ヒートシンク1203側)には、いずれも導電性膜が形成されている。導電性膜は、例えば、金属膜である。ただし、導電性膜は、その他の材料で形成されていてもよい。半導体レーザアレイ902の負電極は、配線1206を介して、絶縁板1205の上面の導電性膜に接続されている。絶縁板1205の上面の導電性膜は、負電極1204と接触している。負電極1204と、半導体レーザアレイ902の負電極との間は、電気的に導通している。このため、半導体レーザアレイ902は、負電極1204より電力の供給を受けることが可能である。半導体レーザアレイ902の正電極と、ヒートシンク(正電極)1203との間も、電気的に導通している。
【0043】
なお、半導体レーザアレイ902と、ヒートシンク(正電極)1203と、負電極1204と、絶縁板1205と、配線1206は、いずれも一体的に実装されたパッケージの一部であってもよい。
【0044】
次に、レーザ装置1000の動作を説明する。負電極1204と、正電極1203との間に電圧を印加すると、半導体レーザアレイ902に電流が供給される。これにより、半導体レーザアレイ902の活性層に反転分布が形成される。反転分布が形成されると、活性層の半導体におけるバンドギャップに相当する中心波長940nmの自然放出光が発生する。この自然放出光は、面1201の反射層r1と、面1101の反射層r2とによって形成される共振器1001内に閉じ込められるため、共振器1001内を往復する。自然放出光は、半導体レーザアレイ902の活性層を通過する際に、誘導放出によって増幅される。このため、共振器1001内の光強度は増大し、レーザ発振が始まる。反射層r1と、反射層r2における波長940nmの電磁波の反射率を高くすることにより、励起光903の強度を高めることができる。
【0045】
共振器1001内には、固体レーザ素子901が配置されている。共振器1001が発振している電磁波の波長940nmは、固体レーザ素子901の吸収帯に含まれている。このため、励起光903の一部は、固体レーザ素子901に吸収され、固体レーザ素子901のレーザ媒質を励起する。固体レーザ素子901にも反転分布が形成され、レーザ媒質のバンドギャップに相当する中心波長1030nmの自然放出光が発生する。
【0046】
図1に示したように、固体レーザ素子901の面1103には、反射層r3が形成されており、面1104には、反射層r4が形成されている。このため、固体レーザ素子901内の自然放出光は、面1103の反射層r3と、面1104の反射層r4とによって形成される共振器1002に閉じ込められるため、共振器1002内を往復する。自然放出光は、固体レーザ素子901のレーザ媒質を通過する際に、誘導放出によって増幅される。このため、共振器1002内の光強度は増大し、レーザ発振が始まる。これにより、レーザ光905が生成される。レーザ光905は、面1104の反射層r4における波長1030nmの電磁波の透過率に応じて、固体レーザ素子901の外側へ放出される。
【0047】
レーザ装置1000では、励起光における横モードを補正するために、光学素子を追加する必要がある。また、パルスレーザ光を生成するために、レーザ装置1000に受動Qスイッチを追加することができる。ただし、受動Qスイッチは、受動Qスイッチの光軸が共振器1001の光軸と平行となるか、直交するように配置される必要がある。レーザ装置1000では、高い性能を得るために、構成要素の精密なアラインメントを行う必要がある。レーザ装置1000は、サイズが大きく、装置の量産を実現することが容易ではない。
【0048】
一方、本開示によるレーザ素子を使うと、大型のレーザ装置を使わなくても、個々の素子でピーク強度の大きいパルスレーザ光を得ることができる。また、後述のように、本開示によるレーザ素子は、単純な積層構造によって形成される。本開示によるレーザ素子は、個々のレーザ素子およびレーザ素子を使ったレーザ装置の低コスト化や小型化を実現する。
【0049】
図3は、本開示の第1の実施形態によるレーザ素子の例を概略的に示した断面図である。
図3のレーザ素子10は、半導体レーザ1と、固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3とを備えている。レーザ素子10では、z軸方向に、半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、Qスイッチ3が積み重なるように配置されている。レーザ素子10の形状を略柱体状にすることができる。この場合、半導体レーザ1のz軸負方向側の面と、Qスイッチ3のz軸正方向側の面が略柱体状構造の底面となる。ここで、略柱体状とは、例えば、略平行六面体状、略円柱状、略楕円柱状、略三角柱状、略多角形柱状などの形状を含み、底面の形状については、限定しないものとする。ただし、レーザ素子10をその他の形状にしてもよい。
【0050】
半導体レーザ1は、レーザ素子10の励起光源に相当する。半導体レーザ1では、z軸正方向の面の少なくとも一部が励起光の出射面になっているものとする。半導体レーザ1は、例えば、AlGaAsを主成分とした発振波長940nmの面発光半導体レーザである。半導体レーザ1として、表面出射型の面発光半導体レーザまたは裏面出射型の面発光半導体レーザを使うことができる。半導体レーザ1の材料として、例えば、InGaAs、GaP、GaAs、InGaPまたはこれらの組み合わせを使うことができる。ただし、半導体レーザ1の材料の種類については、限定しない。また、レーザ素子10の励起光源として、半導体レーザ以外の種類の光源を使ってもよい。
【0051】
固体レーザ媒質2は、例えば、Yb(イットリビウム)をドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)結晶を含む。この場合、固体レーザ媒質2の発振波長は、1030nmとなる。例えば、固体レーザ媒質2のレーザ媒質として、Nd:YAG、Nd:YVO4、Nd:YLF、Nd:glass、Yb:YAG、Yb:YLF、Yb:FAP、Yb:SFAP、Yb:YVO、Yb:glass、Yb:KYW、Yb:BCBF、Yb:YCOB、Yb:GdCOB、YB:YABの少なくともいずれかの材料を使うことができる。固体レーザ媒質2は、4準位系のレーザ媒質であってもよいし、3準位系のレーザ媒質であってもよい。ただし、固体レーザ媒質2で使われるレーザ媒質の種類については、問わない。
【0052】
Qスイッチ3は、受動Qスイッチ素子(可飽和吸収体)である。Qスイッチ3は、例えば、Cr(クロム)をドープしたYAG(Cr:YAG)結晶を含む。Qスイッチ3は、Qスイッチ3中を通過するレーザ光の光強度に対して可飽和吸収特性を示す。また、Qスイッチ3の可飽和吸収体としてV:YAGを使うこともできる。ただし、Qスイッチ3として、その他の種類の可飽和吸収体を使ってもよい。また、Qスイッチ3として、能動Qスイッチ素子を使うことを妨げるものではない。
【0053】
レーザ素子10では、レーザ装置1000とは異なり、励起光の光軸と生成されるレーザ光の光軸がいずれもz軸方向になっている。すなわち、本開示によるレーザ素子では、励起光の光軸とレーザ光の光軸が同軸上にある。
【0054】
図4は、本開示によるレーザ素子10の例を示した分解図である。
図4では、説明のために、レーザ素子10が、半導体レーザ1と、固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3の部分に分けて示されている。ただし、実際のレーザ素子10は、層間に空隙のない構造であってもよい。一方、
図4のように、構成要素間に空隙を有する構成を採用することを妨げるものではない。
【0055】
半導体レーザ1には、固体レーザ媒質2に対向する(z軸正方向側の)面103と、固体レーザ媒質2と反対側(z軸負方向側)の面105との間に、活性層104が形成されている。半導体レーザ1の面105または面105と活性層104との間の内部層101には、波長940nmの電磁波に対する反射層R1が形成されている。
【0056】
また、半導体レーザ1の面103または面103と活性層104との間の内部層102には、波長940nmの電磁波に対する反射層R5が形成されている。また、固体レーザ媒質2のQスイッチ3に対向する(z軸正方向側の)面202には、940nmの電磁波に対する反射層R3が形成されている。波長940nmの電磁波に対する反射層R1の反射率を反射層R5より高くしてもよい。すなわち、反射層R5は、波長940nmの電磁波の一部を透過させる半透過層であってもよい。反射層R3は、波長940nmの電磁波の少なくとも一部を透過させるものとする。例えば、反射層R3における波長940nmの電磁波の透過率を、反射層R1より高く、反射層R5より低い値に設定することができる。一方、活性層104における発振光の電界を強くし、レーザ利得を得るために、反射層R1および反射層R3における波長940nmの電磁波に対する反射率を高くすることができる。
【0057】
レーザ素子10では、反射層R1と、反射層R3によって、光共振器res1が形成されている。光共振器res1は、波長940nmの電磁波を共振させることが可能である。
【0058】
半導体レーザ1の面103に、波長940nmの電磁波に対する反射防止膜n1が形成される。反射防止膜n1を、反射層R5より固体レーザ媒質2側(z軸正方向側)に形成することができる。また、固体レーザ媒質2の半導体レーザ1に対向する(z軸負方向側の)面201に波長940nmの電磁波に対する反射防止膜n2が形成される。ただし、反射防止膜n1または反射防止膜n2の少なくともいずれかを省略してもよい。
【0059】
固体レーザ媒質2の半導体レーザ1に対向する面201には、波長1030nmの電磁波に対する反射層R2が形成されている。面201に反射防止膜n2が形成されている場合、反射層R2を反射防止膜n2より固体レーザ媒質2側(z軸正方向側)に形成することができる。また、Qスイッチ3の固体レーザ媒質2と反対側の(z軸正方向側)の面302には、波長1030nmの電磁波に対する反射層R4が形成される。波長1030nmの電磁波に対する反射層R2の反射率を反射層R4より高くしてもよい。すなわち、反射層R4は、波長1030nmの電磁波の一部を透過させる半透過層であってもよい。
【0060】
レーザ素子10では、反射層R2と、反射層R4によって、光共振器res2が形成されている。光共振器res2は、波長1030nmの電磁波を共振させることが可能である。
【0061】
固体レーザ媒質2のQスイッチ3に対向する(z軸正方向側の)面202に、波長1030nmの電磁波に対する反射防止膜n3が形成される。反射防止膜n3は、反射層R3よりQスイッチ3側(z軸正方向側)に形成されていてもよい。また、反射防止膜n3は、反射層R3より固体レーザ媒質2側(z軸負方向側)に形成されていてもよい。また、Qスイッチ3の固体レーザ媒質2に対向する(z軸負方向側の)面301に、波長1030nmの電磁波に対する反射防止膜n4が形成される。ただし、反射防止膜n3または反射防止膜n4の少なくともいずれかを省略してもよい。
【0062】
上述の反射層R1~R5は、例えば、分布ブラッグ反射器(DBR)である。DBRとは、屈折率の異なる2種類の媒質を1/4波長の光学膜厚で交互に形成した反射器のことをいう。上述の反射防止膜n1~n4は、例えば、シリコン化合物またはフッ化マグネシウムなどの多層膜である。反射防止膜を設けることにより、界面における電磁波の透過率を高めることができる。
【0063】
半導体レーザ1と、固体レーザ媒質2を接合してもよい。同様に、固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3を接合してもよい。この場合、接合プロセスによって構成要素どうしを接合してもよい。また、機械的な接合を行って、構成要素どうしを固定してもよい。ここで、接合プロセスの例としては、常温接合、原子拡散接合、プラズマ接合が挙げられる。ただし、その他の種類のプロセスが使われてもよい。
【0064】
次に、レーザ素子10の動作について説明する。
【0065】
半導体レーザ1が生成した励起光4は、光共振器res1内に閉じ込められ、光共振器res1内を往復する。固体レーザ媒質2の吸収帯は、半導体レーザ1の発振波長940nmを含んでいる。このため、光共振器res1内の固体レーザ媒質2は、励起され、固体レーザ媒質2に反転分布が形成される。励起光4は、誘導放出により増幅されるため、光共振器res1は、波長940nmでレーザ発振する。半導体レーザ1は、固体レーザ媒質2を含む光共振器res1内で発振可能であればよい。反射層R5で波長940nmの電磁波の一部を透過させている場合、半導体レーザ1は、単体で発振しない可能性がある。したがって、半導体レーザ1として、必ず単独で発振可能な半導体レーザを使わなくてもよい。
【0066】
反射層R3を透過した光共振器res1の光の一部は、光共振器res2内のQスイッチ3に入り込む。入り込んだ光は、固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3とを含む光共振器res2内を往復し始める。Qスイッチ3は、光強度が大きくなると光を吸収し、基底準位の電子を励起させるため、光共振器res2内における発振が一時的に抑制される。固体レーザ媒質2では、誘導放出が抑制され、励起準位にある電子が増加する。一定期間の経過後、Qスイッチ3の励起準位は、電子で埋まり、Qスイッチ3による光の吸収率が低下する。固体レーザ媒質2で誘導放出が発生し、光共振器res2は、波長1030nmでレーザ発振をする。このとき、固体レーザ媒質2の励起準位に蓄積されたエネルギーは、パルスレーザ光5として、面302を介してレーザ素子10の外に放出される。
【0067】
パルスレーザ光5が放出されると、光共振器res2内の光強度が低下する。このため、Qスイッチ3の励起準位に空きができ、Qスイッチ3による光の吸収率が再び上昇する。光共振器res2には、反射層R3を透過した光共振器res1のレーザ光が供給され続ける。このため、光共振器res2内の光強度は、再び増大し、上述の過程が繰り返される。これにより、レーザ素子10は、パルスレーザ光5を繰り返し放出する。
【0068】
上述のように、光共振器内の光強度に応じて、吸収による光損失を変化させ、パルスレーザ光を発生させる構成要素は、受動Qスイッチとよばれる。受動Qスイッチが使われる場合、固体レーザ媒質2の利得を高くするほど、生成されるレーザ光のパルス時間幅を小さくすることができる。一方、生成されるレーザ光のパルス時間幅は、光共振器res2の共振器長に比例する。
【0069】
レーザ素子10では、固体レーザ媒質2が光共振器res1と、光共振器res2で共用されている。固体レーザ媒質2における励起領域は、励起光4のモード内部に限定されるため、利得密度を高めることができる。また、レーザ素子10では、固体レーザ媒質2およびQスイッチ3が光共振器res2における一対の反射器の機能を兼ね備えている。このため、光共振器res2の共振器長を短くすることが容易であり、レーザ素子を小型化することができる。レーザ素子10は、パルス時間幅が短く、ピーク強度の大きいパルスレーザ光を生成することができる。特に、各種の加工用にレーザ素子10を使う場合、短いパルス時間幅は、加工精度の向上に寄与する。一方、パルスのピーク強度の大きさは、加工時間の短縮に寄与する。
【0070】
固体レーザ媒質2の利得を大きくすると、パルスレーザ光5の繰り返し周波数が高くなる。上述のように、レーザ素子10では、固体レーザ媒質2の利得密度が高くなっているため、パルスレーザ光5の繰り返し周波数を高くすることが可能である。
【0071】
次に、レーザ素子10の製造方法の例について説明する。
【0072】
図5の断面図は、半導体レーザの製造方法の一例を示している。以下では、
図5~
図12を参照しながら、半導体レーザ1の製造方法の例について説明する。なお、製造方法の説明において「上」と記載した場合、それは紙面の上側を意味するものとする。
【0073】
はじめに、半導体基板401の上に、コンタクト層402が形成される。半導体基板401は、例えば、n型のGaAs基板である。ただし、半導体基板401は、その他の種類の化合物半導体またはシリコン半導体であってもよい。コンタクト層402として、例えば、n型半導体を使うことができる。例えば、シリコンにP(リン)またはAs(ヒ素)をドープし、n型半導体を形成することができる。さらに、コンタクト層402の上に、反射層403が形成される。反射層403は、例えば、1/4波長の光学膜厚で交互に異なる半導体材料を積層した分布ブラッグ反射器(DBR)である。反射層403は、n型半導体によって形成されるDBRであってもよい。この場合、反射層403は、n-DBRに相当する。
【0074】
反射層403の上には、クラッド層404が形成される。また、クラッド層404の上には、活性層405が形成される。さらに、活性層405の上には、クラッド層406が形成される。活性層405は、例えば、クラッド層404およびクラッド層406よりバンドギャップが小さく、屈折率が大きい材料で形成される。量子井戸または多重量子井戸を含む活性層405を形成してもよい。
【0075】
クラッド層406の上には、反射層408が形成されている。反射層408は、例えば、1/4波長の光学膜厚で交互に異なるp型化合物半導体を積層したDBR(p-DBR)である。例えば、AlAsまたはAlGaAsによって反射層408を形成することができる。ただし、反射層408の材料については、問わない。
【0076】
反射層408の上には、コンタクト層409が形成される。コンタクト層409として、例えば、p型半導体を使うことができる。例えば、シリコンにB(ホウ素)またはAl(アルミニウム)をドープし、p型半導体を形成することができる。p型半導体のコンタクト層409は、電極とのオーミック接触を実現する。
【0077】
なお、反射層408の一部の層を酸化し、酸化層407を形成してもよい。例えば、反射層408内のAlAsを選択的に酸化し、Al
2O
3層を形成することができる。なお、全面にわたって酸化層407を形成せず、面の一部に未酸化の開口部を残してもよい。これにより、
図6の狭窄構造501を形成することができる。狭窄構造501は、活性層405の近傍で電流を狭窄し、活性層405への効率的な電流の注入を実現する。狭窄構造501を設けることにより、半導体レーザ1を低いしきい値電流で動作させることが可能となる。また、酸化層407は、周囲と比べて屈折率が小さくなるため、光の閉じ込め効果が得られる。
【0078】
例えば、エッチングによって被酸化層を含むエピタキシャル多層膜にメサポスト構造を形成した後に、狭窄構造501を形成することができる。狭窄構造501は、例えば、加圧水蒸気雰囲気下でトレンチの側面より被酸化層を選択的に酸化させることによって形成される。
図6の断面図は、
図5においてメタポスト構造と狭窄構造501を形成した後の状態を示している。
図6のメサポスト構造では、コンタクト層409からクラッド層404までがエッチングされ、トレンチ506が形成されている。そして、トレンチ506の底面では、反射層403の一部が露出している。なお、上述とは異なる方法によってメタポスト構造と狭窄構造501を形成してもよい。
【0079】
上述の各層を形成するために、例えば、分子線エピタキシー(MBE)または有機金属気相成長法(MOCVD)を使うことができる。ただし、その他の技術によって層を形成してもよい。
【0080】
次に、半導体レーザ1の電極を形成する工程について説明する。
【0081】
メサポスト構造と狭窄構造501が形成されたら、メサポスト構造の外周に沿って正電極(p電極)503を形成する。
図7の断面図は、
図6において正電極503を形成した後の状態を示している。
図7では、メサポスト構造を囲むトレンチ506内、メサポスト構造の上部およびトレンチ開口部の近傍の範囲に正電極503が形成されている。正電極503は、反射層408(p-DBR)に接しており、金属などの導電性材料で形成されているものとする。なお、
図7のように、正電極503内に、正電極503の上面より活性層405の下方まで貫通している絶縁部511を形成してもよい。絶縁部511として、例えば、SiN、SiO
2、ポリイミドを使うことができる。ただし、絶縁部511は、その他の材料であってもよい。なお、絶縁部511を形成せず、
図7の絶縁部511に相当する空間を空隙にしてもよい。
【0082】
そして、
図8の断面図に示したように、エッチングによって、正電極503の外側にトレンチ507を形成する。
図8のトレンチ507では、コンタクト層409から反射層403までがエッチングされている。また、トレンチ507の底面では、コンタクト層402の一部が露出している。例えば、反応性イオンエッチングによってトレンチ507を形成することができる。ただし、その他の種類の方法によってトレンチを形成してもよい。
【0083】
図9の断面図に示したように、トレンチ507の底部、トレンチ507の外周側の側面およびコンタクト層409のトレンチ507の外周側にある部分には、負電極(n電極)502が形成される。負電極502は、反射層403(n-DBR)に接しており、金属などの導電性材料で形成されているものとする。また、トレンチ507の内周側の側面を含む、トレンチ507の負電極502が形成されていない部分には、絶縁部508が形成される。絶縁部508は、例えば、SiN、SiO
2、ポリイミドである。ただし、絶縁部508は、その他の材料であってもよい。なお、絶縁部508を形成せず、
図9の絶縁部508に相当する空間を空隙にしてもよい。
【0084】
図10は、
図9を上方向から平面視した場合の構造を示している。
図10の破線510は、
図9の断面図の切断位置を示している。
図10に示されているように、絶縁部508は、正電極503と負電極502が直接接触するのを防ぐ。
図10に示した正電極503および負電極502の位置および形状は、一例にしかすぎない。したがって、正電極503および負電極502の位置および形状は、これとは異なっていてもよい。
【0085】
図10の正電極503内には、円環状の開口部509が設けられている。開口部509内には、絶縁部511が円環状に形成されている。絶縁部511を円環状に形成することにより、円形状にレーザ光のビームを放出することが可能となる。なお、正電極503内にこれとは異なる平面視形状の開口部を形成してもよい。レーザ光が放出される方向に応じて、
図10とは異なる方向に開口部を形成してもよい。なお、必ず開口部509内を材料で充填しなくてもよい。また、開口部を省略してもよい。
【0086】
最後に、正電極503および負電極502の上側に、サブマウント504を装着する。
図11の断面図は、サブマウント504を装着した後における半導体レーザ1の例を示している。
図11に示したように、正電極503および負電極502は、サブマウント504の電極505に接触している。半導体レーザ1は、サブマウント504の電極505より供給された電気信号によって動作する。
【0087】
半導体レーザ1が裏面出射型の面発光半導体レーザである場合、レーザ光は、クラッド層404、反射層403および半導体基板401を透過して
図11の紙面下方向に出射される。一方、半導体レーザ1が表面出射型の面発光半導体レーザである場合、レーザ光は、
図11の紙面上方向に出射される。
【0088】
半導体レーザ1が表面出射型の面発光半導体レーザである場合、レーザ光が放出できるよう、正電極503、電極505およびサブマウント504に開口部を設けてもよい。例えば、平面視略円形状または平面視略円環状の開口部を形成することができる。ただし、開口部の形状は、限定しない。レーザ光放出用の開口部を形成するために、エッチングを行ってもよい。また、レーザ光が放出される部分をレーザ光の波長に対して透明な材料で形成してもよい。例えば、近赤外線のレーザ光が放出される場合、レーザ光が放出される部分をGaAsによって形成することができる。
【0089】
以下では、半導体レーザ1が裏面出射型の面発光半導体レーザである場合を例に、レーザ素子10の製造方法を説明する。ただし、半導体レーザ1は、表面出射型の面発光半導体レーザまたはその他の種類の半導体レーザであってもよい。上述のように、励起光源として、半導体レーザ以外の光源を使ってもよい。
【0090】
固体レーザ媒質2は、半導体レーザ1に対して
図11の紙面下側に配置される。すなわち、固体レーザ媒質2は、半導体レーザ1の半導体基板401に対向して配置される。固体レーザ媒質2を半導体基板401に直接接合してもよい。また、固体レーザ媒質2と半導体基板401をその他の構造物を介して間接的に連結してもよい。なお、半導体基板401を必ず固体レーザ媒質2に密着させなくてもよい。このため、固体レーザ媒質2と半導体基板401との間に空間が存在していてもよい。固体レーザ媒質2として、Yb:YAG結晶などの固体レーザ媒質を使うことができる。なお、表面出射型の面発光半導体レーザが使われる場合、固体レーザ媒質2は、半導体レーザ1に対して
図11の紙面上側に配置される。
【0091】
固体レーザ媒質2の半導体レーザ1と対向する面(
図4の面201)に、固体レーザ媒質2の発振波長に対する反射層R2を形成する。なお、半導体レーザ1の固体レーザ媒質2と対向する面(
図4の面103)に、固体レーザ媒質2の発振波長に対する反射層を形成してもよい。
【0092】
また、半導体レーザ1の固体レーザ媒質2と対向する面(
図4の面103)または固体レーザ媒質2の半導体レーザ1と対向する面(
図4の面201)の少なくともいずれかに、半導体レーザ1の発振波長に対する反射防止膜を形成してもよい。
【0093】
Qスイッチ3は、固体レーザ媒質2の半導体レーザ1の反対側の面に対向して配置される。Qスイッチ3を固体レーザ媒質2に直接接合してもよい。また、Qスイッチ3と固体レーザ媒質2をその他の構造物を介して間接的に連結してもよい。なお、Qスイッチ3必ず固体レーザ媒質2に密着させなくてもよい。このため、Qスイッチ3と固体レーザ媒質2との間に空間が存在していてもよい。Qスイッチ3として、Cr:YAG結晶などの可飽和吸収体を使うことができる。
【0094】
固体レーザ媒質2のQスイッチ3と対向する面(
図4の面202)には、半導体レーザ1の発振波長に対する反射層R3を形成する。なお、Qスイッチ3の固体レーザ媒質2と対向する面(
図4の面301)に、半導体レーザ1の発振波長に対する反射層を形成してもよい。
【0095】
また、固体レーザ媒質2のQスイッチ3と対向する面(
図4の面202)またはQスイッチ3の固体レーザ媒質2と対向する面(
図4の面301)の少なくともいずれかに、固体レーザ媒質2の発振波長に対する反射防止膜を形成してもよい。Qスイッチ3の固体レーザ媒質2と反対側の面(
図4の面302)には、固体レーザ媒質2の発振波長に対する反射層R4を形成する。
【0096】
半導体レーザ1の製造工程と同様、接合プロセス(例えば、常温接合、原子拡散接合、プラズマ接合)または、機械的接合によって、構成要素間の接合を行うことができる。
【0097】
レーザ素子10は、複数の材料を積層することによって形成されるため、並列的に複数のレーザ素子10を製造することが可能である。例えば、半導体レーザ1を複数形成することが可能な面積の半導体基板401Aを用意し、半導体基板401Aの複数箇所について、上述の製造工程を行うことができる。例えば、半導体基板401A上に、複数の半導体レーザ1をアレイ状に形成することができる。ただし、これとは異なる配列で複数の半導体レーザ1を半導体基板401A上に形成してもよい。半導体基板401A上に、複数の半導体レーザ1が形成されたら、上述の反射層の形成、固体レーザ媒質2およびQスイッチ3との接合などの工程を行う。これにより、複数のレーザ素子10を同時に形成することができる。
【0098】
そして、
図12に示したように、複数のレーザ素子10が一体的に形成された板状の構造物100をダイシングし、個々のレーザ素子10に分離することができる。例えば、ダイヤモンドブレードまたはレーザカッターにより、構造物100を切断することができる。
【0099】
上述のように、裏面出射型の面発光半導体レーザを使うと、電極への電気的な配線を行うことが容易となる。ただし、上述の製造方法およびレーザ素子10の構成は、一例にしかすぎない。したがって、レーザ素子の製造方法の少なくとも一部は、上述と異なっていてもよい。また、実際に製造される構造物の形状は、上述の各図と異なっていてもよい。
【0100】
本開示によるレーザ素子の製造方法は、半導体基板上に複数の材料が積み重ねられた積層構造を形成した後にダイシングを行うことによって、レーザ素子を複数製造するものであってもよい。ここで、レーザ素子は、第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および第1面と反対側の第2面に第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、レーザ媒質と反対側の第3面に第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備えていてもよい。
【0101】
ここでは、本開示によるレーザ素子の構成についてまとめる。
【0102】
本開示によるレーザ素子は、励起光源と、レーザ媒質と、可飽和吸収体とを備えていてもよい。励起光源は、第1波長に対する第1反射層を有する。レーザ媒質は、励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および第1面と反対側の第2面に第1波長に対する第3反射層を有する。可飽和吸収体は、レーザ媒質と反対側の第3面に第2波長に対する第4反射層を有する。第3反射層は、第1波長の一部を透過させてもよい。第4反射層は、第2波長の一部を透過させてもよい。第1波長は、励起光源が生成する励起光の波長であってもよい。第2波長は、レーザ媒質の発振波長であってもよい。励起光源のレーザ媒質と対向する第4面の少なくとも一部は、励起光の出射面となっていてもよい。
【0103】
上述の半導体レーザ1は、励起光源の一例である。固体レーザ媒質2は、レーザ媒質の一例である。Qスイッチ3は、可飽和吸収体の一例である。反射層R1は、第1反射層の一例である。
図4の面201は、第1面の一例である。反射層R2は、第2反射層の一例である。面202は、第2面の一例である。反射層R3は、第3反射層の一例である。面302は、第3面の一例である。反射層R4は、第4反射層の一例である。面103は、第4面の一例である。
【0104】
また、励起光源は、レーザ媒質と対向する第4面に第1波長に対する第5反射層を有していてもよい。第5反射層は、第1波長の一部を透過させてもよい。励起光源は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、p型半導体多層反射層に接する正電極と、n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える面発光半導体レーザであってもよい。第1波長に対する第5反射層の透過率は、第1反射層より高くなっていてもよい。また、第1波長に対する第1反射層の反射率は、第5反射層より高くなっていてもよい。
【0105】
図4の面103は、第5面の一例である。反射層R5は、第5反射層の一例である。反射層408(p-DBR)は、p型半導体多層反射層の一例である。反射層403(n-DBR)は、n型半導体多層反射層の一例である。活性層405は、量子井戸を含む活性層の一例である。
【0106】
本開示によるレーザ素子は、励起光源とレーザ媒質との間に第1波長に対する第1反射防止膜を有していてもよい。また、本開示によるレーザ素子は、レーザ媒質と可飽和吸収体との間に第2波長に対する第2反射防止膜を有していてもよい。
【0107】
上述の反射防止膜n1および反射防止膜n2は、いずれも第1反射防止膜の例である。反射防止膜n3および反射防止膜n4は、いずれも第2反射防止膜の例である。
【0108】
次に、レーザ素子10を使ったレーザ装置の例について説明する。
【0109】
図13は、マルチビームのレーザ装置の例を示している。
図13のレーザ装置20は、1次元のアレイ状に配列された複数のレーザ素子10と、複数のレーザ素子10を支持する支持部11と、駆動回路12とを備えている。例えば、それぞれのレーザ素子10の周りを金属シート(金属ホイル)などの熱伝導性の高い材料で包み、支持部11に収納することができる。支持部11は、例えば、熱硬化性樹脂、セラミックス、金属などの耐熱性に優れた材料で形成されている。ただし、支持部11は、その他の材料で形成されていてもよい。
【0110】
複数のレーザ素子10は、駆動回路12と電気的に接続されている。駆動回路12は、複数のレーザ素子10に駆動用の電気信号を供給するように構成されている。このため、複数のレーザ素子10は、同時に発光することができる。なお、
図13のレーザ装置20では、z軸正方向にレーザ光が放出される。
【0111】
図14は、変形例1によるレーザ装置の例を示している。
図14のレーザ装置21は、1次元のアレイ状に配列された複数のレーザ素子10と、複数のレーザ素子10を支持する支持部11と、複数の駆動回路13と、制御回路14とを備えている。複数のレーザ素子10および支持部11の構成は、レーザ装置20(
図13)と同様である。レーザ装置21では、それぞれのレーザ素子10に対応する個別の駆動回路13が設けられている。そして、それぞれのレーザ素子10は、対応する駆動回路13に電気的に接続されている。
図14のように、複数の駆動回路13と電気的に接続された制御回路14が設けられていてもよい。
【0112】
駆動回路13は、いずれかのレーザ素子10に電気信号を供給するように構成されている。一方、制御回路14は、複数の駆動回路13または少なくともいずれかの駆動回路13に制御信号を送信するように構成されている。例えば、制御回路14は、少なくともいずれかの駆動回路13を制御し、少なくともいずれかのレーザ素子10が発光させることができる。また、制御回路14は、複数のレーザ素子10のうち、一部のレーザ素子10が選択的に発光するよう、駆動回路13を制御してもよい。
図14においても、
図13と同様、レーザ光は、z軸正方向に放出される。
【0113】
図15は、変形例2によるレーザ装置の例を示している。
図15のレーザ装置22は、2次元のアレイ状に配列された複数のレーザ素子10と、複数のレーザ素子10を支持する支持部15とを備えている。レーザ装置22の複数のレーザ素子10は、レーザ装置20(
図13)のように、共通の駆動回路(図示せず)に接続されていてもよい。また、レーザ装置22の複数のレーザ素子10は、レーザ装置21(
図14)のように、それぞれ個別の駆動回路(図示せず)に接続されていてもよい。
図15においても、レーザ光は、z軸正方向に放出される。
【0114】
このように、本開示によるレーザ装置は、少なくともいずれかのレーザ素子に駆動用の電気信号を供給するように構成された駆動回路をさらに備えていてもよい。
【0115】
図13~
図15に例示したレーザ装置は、微細加工、リソグラフィ、医療など複数の分野に適用することが可能である。特に、微細加工の分野においては、複数のレーザ素子を配列したレーザ装置を使うことにより、高い加工精度と、高いエネルギー出力を両立させることが可能である。なお、
図13~
図15に示した複数のレーザ素子10の配列は、例にしかすぎない。したがって、レーザ装置は、上述とは異なるレーザ素子10の配列を採用していてもよい。複数のレーザ素子10は、同一列または同一平面状に周期的に配置されていてもよい。また、複数のレーザ素子10は、同一平面上に、場所によって異なる密度で配置されていてもよい。
【0116】
次に、本開示によるレーザ素子の変形例について説明する。
【0117】
図16の分解図は、変形例3によるレーザ素子の例を示している。
図16のレーザ素子10Aは、
図4のレーザ素子10に放熱板(ヒートシンク)を追加したものである。レーザ素子10Aでは、半導体レーザ1と、固体レーザ媒質2との間に、放熱板6が配置されている。また、レーザ素子10Aでは、固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3との間に、放熱板7が配置されている。さらに、Qスイッチの固体レーザ媒質2と反対側(z軸正方向側)の面には、放熱板8が配置されている。
【0118】
なお、
図16に示した放熱板の枚数と配置は、一例にしかすぎない。例えば、
図16とは異なる位置に放熱板が配置されていてもよい。また、放熱板6~8の少なくともいずれかが省略されていてもよい。放熱板6~8として、例えば、未ドープのYAG結晶、石英、サファイアを使うことができる。ただし、放熱板6~8の材料については、問わない。
【0119】
必要に応じて、放熱板6~8の表面に各種のコーティングを行ってもよい。例えば、放熱板6の半導体レーザ1と対向する面または放熱板6の固体レーザ媒質2と対向する面の少なくともいずれかに、波長940nmの電磁波に対する反射防止膜を形成してもよい。また、放熱板7の固体レーザ媒質2と対向する面または放熱板7のQスイッチ3と対向する面の少なくともいずれかに、波長1030nmの電磁波に対する反射防止膜を形成してもよい。
【0120】
レーザ素子には、励起光と発振光のフォトンエネルギーの差による量子欠損、誘導放出および自然放出に寄与しない熱緩和現象などの要因により、温度勾配が発生する可能性がある。レーザ素子に温度勾配がある場合、材料の屈折率が温度に応じて変化し、発振光に対して熱レンズ効果が発生する可能性がある。熱レンズ効果が発生すると、レーザ素子内で発振光が局所的に集光され、材料が損傷するおそれがある。そこで、
図16のように、レーザ素子に放熱板を設け、レーザ素子内の温度上昇を抑制し、熱レンズ効果の発生を防ぐことができる。
【0121】
放熱板との接合または放熱板の形成に係る工程が追加される点を除けば、レーザ素子10Aの製造工程は、上述のレーザ素子10と同様である。また、上述のレーザ装置20~22において、レーザ素子10の代わりに、
図16のレーザ素子10Aを使ってもよい。
【0122】
本開示によるレーザ素子は、さらにひとつまたは複数の放熱板を備えていてもよい。放熱板は、励起光源とレーザ媒質との間、レーザ媒質と可飽和吸収体との間、可飽和吸収体の第3面の少なくともいずれかの位置に配置することが可能である。
【0123】
ここで、半導体レーザ1は、励起光源の一例である。固体レーザ媒質2は、レーザ媒質の一例である。Qスイッチ3は、可飽和吸収体の一例である。面302は、第3面の一例である。
【0124】
レーザ素子およびレーザ装置の用途によっては、固体レーザ媒質の発振光とは、異なる波長のレーザ光が求められる場合もありうる。そこで、波長変換材料を使って所望の波長のレーザ光を生成することができる。
【0125】
図17の分解図は、変形例4によるレーザ素子の例を示している。
図17のレーザ素子10Bは、
図16のレーザ素子10Aに、波長変換材料9を追加したものである。
図17の波長変換材料9は、光共振器res2の放熱板7と、Qスイッチ3との間に配置されている。ただし、波長変換材料の配置は、これとは異なっていてもよい。例えば、波長変換材料をQスイッチ3よりz軸正方向側に配置してもよい。すなわち、波長変換材料を、反射層R2と反射層R4との間(光共振器res2内)の任意の位置に配置することができる。
【0126】
生成するレーザ光の波長に応じて、使用する波長変換材料に種類を選択することができる。波長変換材料の例としては、LiNbO3、BBO、LBO、CLBO、BiBO、KTP、SLTなどの非線形光学結晶が挙げられる。また、波長変換材料として、これらに類似する位相整合材料を使ってもよい。ただし、波長変換材料の種類については、問わない。波長変換材料9によって、光共振器res2の発振光5Aは、波長λcのレーザ光5Bに変換される。レーザ光5Bは、レーザ素子10Bよりz軸正方向に放出される。
【0127】
波長変換材料9の半導体レーザ1と対向する面に、波長λcのレーザ光5Bに対する反射層R6を形成してもよい。また、波長変換材料9のQスイッチ3と対向する面、Qスイッチ3の波長変換材料9と対向する面、Qスイッチ3の波長変換材料9とは反対側にある面、放熱板8のQスイッチ3と対向する面、放熱板8のQスイッチ3とは反対側にある面の少なくともいずれかに波長λcのレーザ光5Bに対する反射防止膜を形成してもよい。
【0128】
波長変換材料9との接合または波長変換材料9の形成に係る工程が追加される点を除けば、レーザ素子10Bの製造工程は、上述のレーザ素子10Aと同様である。また、上述のレーザ装置20~22において、レーザ素子10の代わりに、
図17のレーザ素子10Bを使ってもよい。なお、
図17には、複数の放熱板を備えるレーザ素子の例を示したが、少なくともいずれかの放熱板を省略してもよい。また、
図17と異なる位置に放熱板が配置されていてもよい。
【0129】
本開示によるレーザ素子は、第2反射層と第4反射層との間に配置された波長変換材料をさらに備えていてもよい。また、波長変換材料の励起光源と対向する第5面に波長変換材料による変換後の波長に対する第6反射層をさらに備えていてもよい。
【0130】
ここで、反射層R2は、第2反射層の一例である。反射層R4は、第4反射層の一例である。半導体レーザ1は、励起光源の一例である。
図17の波長変換材料9のz軸負方向側の面は、第5面の一例である。反射層R6は、第6反射層の一例である。
【0131】
上述のレーザ素子における反射層R2は、光共振器res1内に配置されている。このため、光共振器res1内における第1波長(例えば、940nm)の電磁波の共振の妨げとならないよう、反射層R2の第1波長の電磁波に対する透過率を高くすることが望ましい。一方、反射層R2は、光共振器res2における一対の反射器の一方に相当している。光共振器res2における利得を確保するためには、反射層R2の第2波長(例えば、1030nm)の電磁波に対する反射率を高くすることが望ましい。すなわち、(1)第1波長に対する透過率と、(2)第2波長に対する反射率のふたつの要件を考慮し反射層R2の設計を行う必要がある。
【0132】
以下では、反射層の設計が容易となるレーザ素子の例について説明する。ここでは、第1波長が940nmであり、第2波長が1030nmである場合を例に説明する。第1波長は、例えば、半導体レーザ1の発振波長である。第2波長は、例えば、固体レーザ媒質2の発振波長である。ただし、第1波長および第2波長の大きさを限定するものではない。
【0133】
図18の断面図は、変形例5によるレーザ素子の例を示している。
図18のレーザ素子10Cでは、上述の各図に示したレーザ素子と同様、z軸方向に、半導体レーザ1、固体レーザ媒質2、Qスイッチ3が積み重なるように配置されている。
【0134】
半導体レーザ1は、z軸正方向に励起光を出射するように構成された励起光源である。半導体レーザ1は、例えば、AlGaAsを主成分とした発振波長940nmの半導体レーザである。例えば、半導体レーザ1として、量子井戸構造を有する面発光半導体レーザを使ってもよい。例えば、レーザ素子10Cの半導体レーザ1として、上述の
図5~
図11で説明した半導体レーザを使うことができる。ただし、レーザ素子10Cでは、半導体レーザ以外の種類の励起光源が使われてもよい。
【0135】
固体レーザ媒質2として、例えば、Yb:YAGを使うことができる。ただし、上述のようにその他の種類のレーザ媒質を使ってもよい。Qスイッチ3として、例えば、Cr:YAGを使うことができる。ただし、上述のようにQスイッチ3として、V:YAGなど、その他の種類の可飽和吸収体を使ってもよい。
【0136】
半導体レーザ1の固体レーザ媒質2と反対側(z軸負方向側)の面には、反射層R2´および反射層R1が形成されている。反射層R2´は、1030nm(固体レーザ媒質2の発振波長)の電磁波に対する反射層である。一方、反射層R1は、940nm(半導体レーザ1の発振波長)の電磁波に対する反射層である。反射層R2´および反射層R1は、例えば、分布ブラッグ反射器(DBR)である。
【0137】
反射層R2´および反射層R1として、別々のDBRが形成されていてもよい。この場合、
図18のように、反射層R2´が反射層R1よりz軸負方向側に形成されていてもよい。また、反射層R1が反射層R1よりz軸負方向側に形成されていてもよい。なお、半導体レーザ1の固体レーザ媒質2と反対側(z軸負方向側)の面に、反射層R2´と反射層R1の機能を兼ね備えた、共通のDBRを形成してもよい。すなわち、半導体レーザ1の固体レーザ媒質2と反対側の面に、940nmの電磁波および1030nmの電磁波に対する反射層(DBR)が形成されていてもよい。
【0138】
上述のいずれの場合においても、反射層R2´および反射層R1は、半導体レーザ1の同一面上に形成されているといえる。
【0139】
また、半導体レーザ1の固体レーザ媒質2と対向する側(z軸正方向側)の面には、反射層R5が形成されている。反射層R5は、波長940nm(半導体レーザ1の発振波長)の電磁波に対する反射層である。反射層R5における波長940nmの電磁波に対する反射率を反射層R1より低く設定してもよい。また、反射層R5は、波長940nmの電磁波の一部を透過させる半透過層であってもよい。レーザ素子10Cの半導体レーザ1は、光共振器res1内で発振できればよい。このため、半導体レーザ1として、必ず単独で発振可能な半導体レーザを使わなくてもよい。反射層R5は、例えば、1/4波長の光学膜厚で交互に異なるp型化合物半導体を積層したDBR(p-DBR)である。例えば、AlAsまたはAlGaAsによって反射層R5を形成することができる。ただし、反射層R5の材料については、問わない。
【0140】
固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3との間の面には、反射層R3が形成されている。反射層R3は、波長940nm(半導体レーザ1の発振波長)の電磁波に対する反射層である。反射層R3として、例えば、DBRを使うことができる。反射層R1と、反射層R3によって、光共振器res1が形成されている。反射層R3は、波長940nmの電磁波の少なくとも一部を透過させるものとする。例えば、反射層R3における波長940nmの電磁波の透過率を、反射層R1より高く、反射層R5より低い値に設定することができる。反射層R3は、半導体レーザ1の発振波長)の電磁波の少なくとも一部を透過させる。このため、光共振器res1内の発振光の一部は、Qスイッチ3側に進むことができる。
【0141】
Qスイッチ3の固体レーザ媒質2と反対側の面(z軸正方向側の面)には、反射層R4が形成されている。反射層R4は、波長1030nm(固体レーザ媒質2の発振波長)の電磁波に対する反射層である。反射層R2´と、反射層R4によって、光共振器res2が形成される。反射層R4からは、光共振器res2内の発振光の一部がz軸正方向に出射される。このため、反射層R4は、波長1030nmの電磁波の一部を透過させる半透過層であってもよい。また、波長1030nmの電磁波に対する反射層R4の反射率を反射層R2´より低く設定してもよい。
【0142】
図18のレーザ素子10Cでは、光反射器res1内に光反射器res2が配置されている。上述の反射層R2は、半導体レーザ1の活性層に対して、z軸正方向側に配置されていた。一方、レーザ素子10Cの反射層R2´(第2反射層)は、半導体レーザ1の活性層に対して、z軸負方向側に配置されている。
【0143】
図18のレーザ素子10Cの構成においても、固体レーザ媒質2が光共振器res1と、光共振器res2で共用されている。このため、固体レーザ媒質2における利得密度を高めることができる。また、レーザ素子10Cにおいても、固体レーザ媒質2およびQスイッチ3が光共振器res2における一対の反射器の機能を兼ね備えている。よって、光共振器res2の共振器長を短くすることが容易であり、レーザ素子を小型化することができる。さらに、レーザ素子10Cでは、固体レーザ媒質2の利得密度を高くなっているため、パルスレーザ光5の繰り返し周波数を高くすることができる。
【0144】
加えて、レーザ素子10Cでは、反射層R2に代わり、性能に係る要件が緩和された反射層R2´を使うことができる。上述のように、反射層R2´を反射層R1と共通のDBRによって実現することができるため、反射層の設計が容易となる。このように、
図18のレーザ素子10Cを採用することにより、レーザ素子の設計および製造にかかるコストを抑制することが可能である。
【0145】
本開示によるレーザ素子は、励起光源と、レーザ媒質と、可飽和吸収体とを備えていてもよい。励起光源は、第1波長に対する第1反射層と第2波長に対する第2反射層とを同一面に有する。レーザ媒質は、励起光源と反対側の第2面に第1波長に対する第3反射層を有する。可飽和吸収体は、レーザ媒質と反対側の第3面に第2波長に対する第4反射層を有する。第3反射層は、第1波長の一部を透過させてもよい。第4反射層は、第2波長の一部を透過させてもよい。第1波長は、励起光源が生成する励起光の波長であってもよい。第2波長は、レーザ媒質の発振波長であってもよい。励起光源のレーザ媒質と対向する第4面の少なくとも一部は、励起光の出射面となっていてもよい。
【0146】
上述の半導体レーザ1は、励起光源の一例である。固体レーザ媒質2は、レーザ媒質の一例である。Qスイッチ3は、可飽和可飽和吸収体の一例である。反射層R1は、第1反射層の一例である。反射層R2は、第2反射層の一例である。面202は、第2面の一例である。反射層R3は、第3反射層の一例である。反射層R4は、第4反射層の一例である。
【0147】
また、励起光源は、レーザ媒質と対向する第4面に第1波長に対する第5反射層を有していてもよい。第5反射層は、第1波長の一部を透過させてもよい。励起光源は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、p型半導体多層反射層に接する正電極と、n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える面発光半導体レーザであってもよい。第1波長に対する第5反射層の透過率は、第1反射層より高くなっていてもよい。また、第1波長に対する第1反射層の反射率は、第5反射層より高くなっていてもよい。
【0148】
反射層R5は、第5反射層の一例である。反射層R5(p-DBR)は、p型半導体多層反射層の一例である。
【0149】
図19の断面図は、変形例6によるレーザ素子の例を示している。
図19のレーザ素子10Dは、
図18のレーザ素子10Cに、波長変換材料9および反射層R6を追加したものである。波長変換材料9は、固体レーザ媒質2と、Qスイッチ3との間に配置されている。ただし、波長変換材料の配置は、これとは異なっていてもよい。例えば、波長変換材料をQスイッチ3よりz軸正方向側に配置してもよい。波長変換材料9は、例えば、LiNbO
3、BBO、LBO、CLBO、BiBO、KTP、SLTなどの非線形光学結晶である。また、波長変換材料9として、これらに類似する位相整合材料を使ってもよい。ただし、波長変換材料の種類については、問わない。波長変換材料9によって、光共振器res2の発振光は、波長λ
cのレーザ光に変換される。
【0150】
また、固体レーザ媒質2と波長変換材料9との間の面には、反射層R6が形成されている。反射層R6は、波長λ
cのレーザ光に対する反射層である。反射層R6によって反射されたレーザ光は、レーザ素子10Dよりz軸正方向に放出される。なお、その他の構成要素は、
図18のレーザ素子10Cと同様である。
【0151】
本開示によるレーザ素子は、第2反射層と第4反射層との間に配置された波長変換材料をさらに備えていてもよい。また、波長変換材料の励起光源と対向する第5面に波長変換材料による変換後の波長に対する第6反射層をさらに備えていてもよい。
【0152】
ここで、反射層R2は、第2反射層の一例である。反射層R4は、第4反射層の一例である。半導体レーザ1は、励起光源の一例である。
図19の波長変換材料9のz軸負方向側の面は、第5面の一例である。反射層R6は、第6反射層の一例である。
【0153】
図20の断面図は、変形例7によるレーザ素子の例を示している。
図20のレーザ素子10Eは、
図19のレーザ素子10Dに、放熱板7を追加したものである。放熱板7は、反射層R3と、反射層R6との間に配置されている。放熱板7として、例えば、未ドープのYAG結晶、石英、サファイアを使うことができる。ただし、放熱板7の材料については、問わない。なお、
図20に示した放熱板の配置は、一例にしかすぎない。このため、これとは異なる面に放熱板を配置してもよい。また、放熱板の枚数は、
図20の例と異なっていてもよい。このように、本開示によるレーザ素子は、さらにひとつまたは複数の放熱板を備えていてもよい。
【0154】
本開示によるレーザ素子およびレーザ装置では、励起光の光軸と、レーザ光の光軸が同軸上となる積層構造を採用している。本開示によるレーザ素子およびレーザ装置では、複雑な位置および角度のアラインメントを行う必要がなく、構造が簡略化されている。このため、レーザ素子およびレーザ装置を小型化することが容易となっている。また、同一の半導体基板上に、複数の材料を積層または接合することによって、本開示によるレーザ素子を同時に複数個形成することが可能である。後工程でダイシングをし、それぞれのレーザ素子を分離すればよいため、低いコストで高性能なレーザ素子を量産することができる。
【0155】
さらに、本開示によるレーザ素子では、固体レーザ媒質の種類によって、繰り返し周波数を調整することができる。特に、開示によるレーザ素子では、利得密度が高くなっているため、パルスレーザ光の繰り返し周波数を高くすることが可能である。また、本開示によるレーザ素子では、固体レーザ媒質、Qスイッチ(可飽和吸収体)、波長変換材料(非線形光学結晶)の厚さを調整するだけで、共振器長を変更することが可能である。すなわち、材料の厚さによってレーザ光のパルス時間幅を変えることができるため、レーザの特性を容易に調整することができる。特に、レーザ光のパルス時間幅を短くすることにより、微細加工分野における加工精度を高くすることができる。さらに、本開示によるレーザ素子を1次元のアレイ状または2次元のアレイ状に配列することにより、高い加工精度と、高い出力エネルギーとを両立したレーザ装置を得ることができる。また、本開示によるレーザ素子およびレーザ装置は、高効率の波長変換技術、医療機器および測距などその他の分野に適用することが可能である。
【0156】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によるレーザ装置は、レーザ増幅素子30を備えている。
図21A及び
図21Bは本実施形態によるレーザ増幅素子30の上面図及び断面図である。本実施形態によるレーザ増幅素子30は、レーザ媒質である増幅媒質35を通してレーザ光31を増幅する。レーザ増幅素子30は、高反射コート層33と、ヒートシンク34と、レーザ媒質(増幅媒質)35と、ヒートシンク36と、面発光レーザ素子37とを積層したものである。
【0157】
面発光レーザ素子37は、面発光半導体レーザ(VCSEL)の一部であり、ハーフVCSELとも呼ばれる。面発光レーザ素子37は、VCSEL内の分布ブラッグ反射器(DBR)の一方と活性層を有する。高反射コート層33はポンプモジュールを構成している。
【0158】
レーザ媒質である増幅媒質35は、部分的にドープされ得る単結晶構造として形成された固体媒質である。増幅媒質35は矩形横断面を有し、単結晶スラブと呼ぶことができる。増幅媒質35は、、必ずしも単結晶で構成されていなくてもよく、ガラス又はセラミックであってもよい。加えて、スラブは、ドープ媒質が2つの非ドープ媒質の間にあるサンドイッチ構造に形成されていてもよい。
【0159】
被増幅光であるレーザ光31は、一般的に、主発振器と考えられるレーザ光源から発生される。低出力レーザ主発振器は、パルス状のレーザ光を発生させ、このパルスレーザ光はレーザ増幅素子30に入射される。レーザ主発振器からのパルスレーザ光は、増幅媒質35内での放射を刺激して、より高い出力エネルギーパルスを生じさせる。
【0160】
増幅媒質35は、レーザ増幅器として作用するために、二次光源からポンピングされる必要がある。このための原理を以下に説明する。面発光レーザ素子37は、VCSELの構造のうち、p側の高反射膜と活性層を有する構造である。n側に部分反射膜があってもよい。このレーザ素子37に外部から電流を注入することで、まず活性層で自然放出を起こし、その一部は増幅媒質35で吸収されながらも、高反射コート33で反射され、レーザ素子37に戻ってくることにより誘導放出を誘起する。このように、原理的にはVCSELの共振器内部に、その発振光で励起される増幅媒質35を設置することで、VCSELの発振と同時に増幅媒質35のポンピングがなされる。レーザ素子37をアレイ状に二次元配置することによって、
図21Cのように増幅媒質35の励起領域38を平面方向に拡張することが可能である。それぞれの励起領域38の間には発振光により励起されない領域が生じるが、レーザ素子37の間隔及び発光部の開口を適切に調整することで、回折効果により発振光が広がるようにすることで励起することが可能である。
【0161】
以上をまとめると、第2の実施形態によるレーザ増幅素子30は、励起光源として作用する面発光レーザ素子37を有する。面発光レーザ素子37は、第1波長に対する第1反射層を有する。また、第2の実施形態によるレーザ増幅素子30は、増幅媒質35を有する。増幅媒質35は、励起光源である面発光レーザ素子37と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および第1面と反対側の第2面に第1波長及び第2波長に対する第3反射層を有する。励起光源である面発光レーザ素子37は、増幅媒質35に対向する第3面を有する。第1波長は、励起光源が生成する励起光の波長であり、第3面の少なくとも一部は、励起光の出射面となっている。励起光源は、前記第3面に前記第1波長に対する第4反射層を有し、第4反射層は、第1波長の一部を透過させてもよい。励起光源である面発光レーザ素子37は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、p型半導体多層反射層に接する正電極と、n型半導体多層反射層に接する負電極とを備えていてもよい。励起光源は、励起光源の一方の面に配置された複数の発光点を持つ面発光半導体レーザ37の活性層と、第1の多層膜反射鏡と、増幅媒質を介して設置された第2の多層膜反射鏡とを有していてもよい。面発光半導体レーザ37の活性層に外部より電流注入することにより、第1及び第2の多層膜反射鏡の間で活性層のバンドギャップで定まる波長でレーザ発振が起こり、レーザ発振で生じた励起光が増幅媒質でポンピングされて、励起光の光軸に直交する方向に増幅媒質を通るレーザ光が均一に増幅される。増幅媒質35に外部よりパルスレーザ光を結合し、その出力を増幅する。
【0162】
第2の実施形態によるレーザ増幅素子30の利点は、単一の光学アセンブリにより、MOPAの結晶などの増幅媒質35のポンピングを実現することができることである。
【0163】
第2の実施形態によるレーザ増幅素子30のさらなる利点は、増幅媒質35のフットプリントがポンピング2次光源の波長で決まる吸収長によって制限されないため、出力スケーリングが可能なレーザ光を増幅する装置を提供できることである。第2の実施形態によるレーザ増幅素子30のさらなる利点は、従来技術よりも簡単でよりコンパクトな配置でポンピングされ、光学的に励起された単結晶スラブ活性領域を備えるレーザ増幅素子30を提供できることである。
【0164】
増幅媒質35は、例えば、Yb(イットリビウム)をドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)結晶を含む。この場合、固体レーザ媒質2の発振波長は、1030nmとなる。例えば、増幅媒質35のレーザ媒質として、Nd:YAG、Nd:YVO4、Nd:YLF、Nd:glass、Yb:YAG、Yb:YLF、Yb:FAP、Yb:SFAP、Yb:YVO、Yb:glass、Yb:KYW、Yb:BCBF、Yb:YCOB、Yb:GdCOB、YB:YABの少なくともいずれかの材料を使うことができる。増幅媒質35は、4準位系のレーザ媒質であってもよいし、3準位系のレーザ媒質であってもよい。ただし、増幅媒質35で使われるレーザ媒質の種類については、問わない。
【0165】
図21A~
図21Cで用いられている材料は、層間に空隙のない構造であってもよい。一方、構成要素間に空隙を有する構成を採用することを妨げるものではない。固体レーザ媒質35の間にヒートシンク材料があってもよい。ヒートシンク材料としては、サファイア、ノンドープYAG、CVDダイヤモンド、石英などを用いることができる。
【0166】
固体レーザ媒質35、ヒートシンク材料3を接合してもよい。ここで、接合プロセスの例としては、常温接合、原子拡散接合、プラズマ接合が挙げられる。ただし、その他の種類のプロセスが使われてもよい。また、機械的に構成要素同士を固定してもよい。
【0167】
なお、本技術は、以下のような構成をとることができる。
(1)
第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、
前記励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備える、
レーザ素子。
(2)
前記第1波長は、前記励起光源が生成する励起光の波長であり、
前記励起光源の前記レーザ媒質と対向する第4面の少なくとも一部は、前記励起光の出射面となっている、
(1)に記載のレーザ素子。
(3)
前記励起光源は、前記第4面に前記第1波長に対する第5反射層を有し、前記第5反射層は、前記第1波長の一部を透過させる、
(2)に記載のレーザ素子。
(4)
前記励起光源は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、前記p型半導体多層反射層に接する正電極と、前記n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える面発光半導体レーザである、
(3)に記載のレーザ素子。
(5)
前記第1波長に対する前記第5反射層の透過率は、前記第1反射層より高くなっている、
(3)または(4)に記載のレーザ素子。
(6)
前記第1波長に対する前記第1反射層の反射率は、前記第5反射層より高くなっている、
(3)ないし(5)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(7)
前記第3反射層は、前記第1波長の一部を透過させる、
(1)ないし(6)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(8)
前記第4反射層は、前記第2波長の一部を透過させる、
(1)ないし(7)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(9)
前記第2波長は、前記レーザ媒質の発振波長である、
(1)ないし(8)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(10)
前記励起光源と前記レーザ媒質との間に前記第1波長に対する第1反射防止膜を有する、
(1)ないし(9)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(11)
前記レーザ媒質と前記可飽和吸収体との間に前記第2波長に対する第2反射防止膜を有する、
(1)ないし(10)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(12)
前記励起光源と前記レーザ媒質との間、前記レーザ媒質と前記可飽和吸収体との間、前記可飽和吸収体の前記第3面の少なくともいずれかに配置されたひとつまたは複数の放熱板をさらに備える、
(1)ないし(11)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(13)
前記第2反射層と前記第4反射層との間に配置された波長変換材料をさらに備える、
(1)ないし(12)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(14)
前記波長変換材料の前記励起光源と対向する第5面に前記波長変換材料による変換後の波長に対する第6反射層をさらに備える、
(13)に記載のレーザ素子。
(15)
前記レーザ媒質は、4準位系のレーザ媒質または3準位系のレーザ媒質である、
(1)ないし(14)のいずれか一項に記載のレーザ素子。
(16)
第1波長に対する第1反射層と第2波長に対する第2反射層とを同一面に有する励起光源と、
前記励起光源と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備える、
レーザ素子。
(17)
半導体基板上に複数の材料が積み重ねられた積層構造を形成した後にダイシングを行うことによって、
第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、
前記励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層および前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長に対する第3反射層を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質と反対側の第3面に前記第2波長に対する第4反射層を有する可飽和吸収体とを備えるレーザ素子を複数製造する、
レーザ素子の製造方法。
(18)
(1)ないし(16)のいずれか一項に記載のレーザ素子を複数備える、
レーザ装置。
(19)
複数の前記レーザ素子は、1次元のアレイ状または2次元のアレイ状に配列されている、
(18)に記載のレーザ装置。
(20)
少なくともいずれかの前記レーザ素子に駆動用の電気信号を供給するように構成された駆動回路をさらに備える、
(19)に記載のレーザ装置。
(21)
第1波長に対する第1反射層を有する励起光源と、
前記励起光源と対向する第1面に第2波長に対する第2反射層を有し、かつ前記第1面と反対側の第2面に前記第1波長及び第2波長に対する第3反射層を有する増幅媒質と、を備える、レーザ増幅素子。
(22)
前記励起光源は、前記増幅媒質に対向する第3面を有し、
前記第1波長は、前記励起光源が生成する励起光の波長であり、
前記第3面の少なくとも一部は、前記励起光の出射面となっている、(21)に記載のレーザ増幅素子。
(23)
前記励起光源は、前記第3面に前記第1波長に対する第4反射層を有し、前記第4反射層は、前記第1波長の一部を透過させる、(22)に記載のレーザ増幅素子。
(24)
前記励起光源は、p型半導体多層反射層と、n型半導体多層反射層と、量子井戸を含む活性層と、前記p型半導体多層反射層に接する正電極と、前記n型半導体多層反射層に接する負電極とを備える面発光半導体レーザである、(21)に記載のレーザ増幅素子。
(25)
前記励起光源は、前記励起光源の一方の面に配置された複数の発光点を持つ面発光半導体レーザの活性層と、第1の多層膜反射鏡と、前記増幅媒質を介して設置された第2の多層膜反射鏡とを有する、(21)に記載のレーザ増幅素子。
(26)
前記活性層に外部より電流注入することにより、前記第1及び第2の多層膜反射鏡の間で前記活性層のバンドギャップで定まる波長でレーザ発振が起こり、前記レーザ発振で生じた励起光が前記増幅媒質でポンピングされて、前記励起光源から前記増幅媒質を通るレーザ光が均一に増幅される、(25)に記載のレーザ増幅素子。
(27)
前記増幅媒質に外部よりパルスレーザ光を結合し、その出力を増幅することを特徴とする、(21)に記載のレーザ増幅素子。
【0168】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0169】
res1、res2 光共振器
1 半導体レーザ(面発光半導体レーザ)
2 固体レーザ媒質
3 Qスイッチ(可飽和吸収体)
4 励起光
5 パルスレーザ光
5A 発振光
5B レーザ光
10 レーザ素子
11、15 支持部
12、13 駆動回路
14 制御回路
20、21、22 レーザ装置
401 半導体基板(n型のGaAs基板)
402 コンタクト層(n型半導体)
403 反射層(n-DBR)
404、406 クラッド層
405 活性層
407 酸化層
408 反射層(p-DBR)
409 コンタクト層(p型半導体)
501 狭窄構造
502 負電極(n電極)
503 正電極(p電極)
504 サブマウント
505 電極
508、511 絶縁部