(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】電池管理システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20240903BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240903BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240903BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240903BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240903BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M10/42 A
G01R31/392
G01R31/382
G01R31/385
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2022041022
(22)【出願日】2022-03-16
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 啓太
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-035825(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0067730(KR,A)
【文献】特開2016-008873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器に搭載された搭載電池と交換するための交換用電池を複数の候補電池の中から選択する電池管理システムであって、
前記搭載電池の電流レート履歴と、前記候補電池の劣化量を考慮した前記候補電池の容量と、から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出し、
複数の前記候補電池の内、算出された前記候補電池の前記想定最大電流レートが所定電流レート以下の電池を前記交換用電池として選択する、電池管理システム。
【請求項2】
前記搭載電池の電流レート履歴と、前記搭載電池の使用履歴に基づき算出した前記候補電池の劣化量を考慮した前記候補電池の容量と、前記候補電池の想定使用期間と、から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出する、請求項1に記載の電池管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池の交換に関する電池管理システムについては、様々な研究がなされている。
【0003】
特許文献1には、温度負荷を考慮した二次電池の交換を行うことができる二次電池管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池は所定の電流レート(電流Cレート)以上で使用される場合、電池の抵抗値が大きく増加してしまう。そのため、電池の交換を行う際に、温度負荷を考慮しただけでは、ユーザの使用環境によってはユーザに最適な電池に交換できない可能性がある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電池の交換を行う際に、ユーザに最適な電池に交換することができる電池管理システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電池管理システムは、機器に搭載された搭載電池と交換するための交換用電池を複数の候補電池の中から選択する電池管理システムであって、
前記搭載電池の電流レート履歴と、前記候補電池の劣化量を考慮した前記候補電池の容量と、から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出し、
複数の前記候補電池の内、算出された前記候補電池の前記想定最大電流レートが所定電流レート以下の電池を前記交換用電池として選択する、電池管理システムである。
【0008】
本開示の電池管理システムにおいては、前記搭載電池の電流レート履歴と、前記搭載電池の使用履歴に基づき算出した前記候補電池の劣化量を考慮した前記候補電池の容量と、前記候補電池の想定使用期間と、から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、電池の交換を行う際に、ユーザに最適な電池に交換することができる電池管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、負極活物質としてチタン酸リチウム(LTO)を用いた負極を用いた全固体電池の電流レート(電流Cレート)と抵抗値との関係の一例を示すグラフである。
【
図2】
図2は、電池の温度Tと劣化速度との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、電池の所定のSOCにおける各温度での通電時間の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の電池管理システムが実行する交換用電池の選択方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない電池管理システムの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0012】
本開示の電池管理システムは、機器に搭載された搭載電池と交換するための交換用電池を複数の候補電池の中から選択する電池管理システムであって、
前記搭載電池の電流レート履歴と、前記候補電池の劣化量を考慮した前記候補電池の容量と、から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出し、
複数の前記候補電池の内、算出された前記候補電池の前記想定最大電流レートが所定電流レート以下の電池を前記交換用電池として選択する、電池管理システムである。
【0013】
図1は、負極活物質としてチタン酸リチウム(LTO)を用いた負極を用いた全固体電池の電流レート(電流Cレート)と抵抗値との関係の一例を示すグラフである。
図1に示すように、LTO負極を用いた全固体電池の場合、40Cを超えると抵抗値が急激に上昇する。ユーザが使用する電池の電流レートを考慮しないで交換する電池を選択した場合、交換した電池の性能の劣化が促進される。
本開示は、搭載電池と交換用電池とを交換する際に、交換対象となる搭載電池の電流レートに関する使用履歴から、どの程度の電流レートで使用されているか、そのレート分布を算出し、ユーザの電池の使用環境を考慮し、交換用電池の候補となる候補電池の劣化量(劣化状態)を考慮した候補電池の容量から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出し、当該想定最大電流レートが所定電流レート以下の電池を交換用電池として選択することにより、搭載電池をユーザにとって最適な電池と交換することができる。これにより交換後の電池の性能劣化を抑制することができる。
【0014】
[使用履歴]
本開示において、電池の使用履歴は、電池の電流レート履歴、温度履歴、SOC履歴、及び、通電履歴等であってもよい。
電流レート履歴、温度履歴、SOC履歴、及び、通電履歴の定義は、以下の通りである。
電流レート履歴:電池が、現在(交換時点)までにおいて、使用された電流レート履歴。
温度履歴:電池が、現在(交換時点)までにおいて、受けた温度履歴(各温度において、どれだけの時間晒されたか)。
SOC履歴:電池が、現在(交換時点)までにおいて、受けたSOC履歴(各SOCにおいて、どれだけの時間滞在したか)。
通電履歴:電池が、現在(交換時点)までにおいて、流れた電流履歴(各電流値において、どれだけの時間電流を流したか)。
本開示において、充電状態値(SOC:State of Charge)は、電池の満充電容量に対する充電容量の割合を示すものであり、満充電容量はSOC100%である。
【0015】
[想定最大電流レート]
本開示においては、搭載電池の電流レート履歴と、候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量と、から、機器での使用時の候補電池の想定最大電流レートを算出する。
電流レート履歴は、電池の使用履歴から抽出してもよい。
候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量は、例えば、候補電池の現在の容量であってもよく、候補電池が機器で使用される際に想定される想定容量であってもよい。候補電池の現在の容量は、例えば、まず候補電池の劣化量を算出し、その後、候補電池の劣化量に応じて候補電池の初期容量を補正することにより算出してもよい。
候補電池の劣化量は、例えば、候補電池の現在の劣化量であってもよく、候補電池が機器で使用される際に想定される想定劣化量であってもよく、これらの両方を含む劣化量であってもよい。候補電池の劣化量は、搭載電池及び候補電池の内の少なくとも一方の電池の使用履歴から算出されてもよく、候補電池の劣化量は候補電池の使用履歴から算出されてもよい。候補電池の想定劣化量は候補電池を機器に搭載した場合に想定される劣化量であり、搭載電池の使用履歴から算出されてもよく、必要に応じて想定使用期間を考慮して算出されてもよい。候補電池の想定劣化量から候補電池の想定容量は、算出されてもよい。
想定最大電流レートは、電流レート履歴から、最大電流値を算出し、その最大電流値と候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量から算出されてもよい。
【0016】
本開示においては、前記搭載電池の電流レート履歴と、前記搭載電池の使用履歴に基づき算出した前記候補電池の劣化量を考慮した前記候補電池の容量と、前記候補電池の想定使用期間と、から、前記機器での使用時の前記候補電池の想定最大電流レートを算出してもよい。
この場合、想定最大電流レートは、候補電池の想定使用期間を加味した劣化量による候補電池の容量低下を踏まえ、算出される。候補電池の想定使用期間を加味した劣化量は、搭載電池の使用履歴から算出してもよく、上記想定劣化量であってもよい。
本開示において、想定使用期間とは、予め決められた所定値であってもよく、候補電池の使用予定期間であってもよく、ユーザの要望する今後どのくらい使用するか等の要望期間であってもよく、ユーザの要望する電池の交換費用等を考慮した期間であってもよい。
【0017】
[電流レート履歴]
搭載電池の使用履歴から抽出される電流レート履歴を基に、搭載電池がどの程度の電流レートで使用されているか、そのレート分布を算出してもよく、レート分布から所定電流レートを設定してもよい。また、電流レート履歴から最大電流値を算出してもよい。
本開示において、所定電流レートは、ユーザの電池の使用環境、電池の種類、及び、電池に用いる材料等によって、変動するため、適宜設定することができる。
【0018】
[劣化量]
搭載電池及び候補電池等の電池の各使用履歴から、電池の劣化量は、算出されてもよい。候補電池の想定劣化量は、搭載電池の使用履歴から算出されてもよい。
劣化量の定義は、以下の通りである。
劣化量:電池の抵抗値(mΩ)、または、電池出荷時の抵抗値を基準とした現在の電池の抵抗の抵抗増加率(%)で定義する。電池の劣化量の増加に紐づいて電池の容量は低下する。
【0019】
[劣化量の算出方法]
劣化量の算出方法は、以下の通りである。
各温度及び各SOCにおける劣化速度(機器放置中/機器運転中)と、温度履歴、SOC履歴、及び、通電履歴を基に、各温度の劣化量を算出する。通電履歴は、トータルの通電時間に換算する。
算出した各温度における劣化量を足し合わせることで、電池の総劣化量を算出する。
【0020】
図2は、電池の温度Tと劣化速度との関係を示すグラフである。
劣化速度は以下の式(1)から求めることができる。
劣化速度[%/√h]=α×EXP(β×温度T)・・・式(1)
各温度及びSOC毎の劣化速度を基にα(切片)、及び、β(傾き)を算出する。
劣化速度は予め試験等により劣化速度データ群として取得しておいてもよい。
【0021】
図3は、電池の所定のSOCにおける各温度での通電時間の一例を示す図である。
図3は電池が、所定のSOCにおいて、各温度でどれだけの時間、晒されたかを示したものである。
所定の温度T
1、所定のSOC
1の劣化量は、以下の式(2)から算出することができる。
(T
1_SOC1の劣化速度)
2×T
1_SOC1に晒された時間h
1 = (T
1_SOC1に晒されたときの劣化量C
1)
2・・・式(2)
上記式(2)により、各温度及びSOC毎の劣化量C
1~C
xxを算出することができる。機器が車両の場合、車両の放置中、及び、車両の走行中のそれぞれの場合の劣化量を算出してもよい。
総劣化量は、以下の式(3)から算出することができる。
総劣化量C
total = √{(劣化量C
1)
2+(劣化量C
2)
2+・・・(劣化量C
xx)
2}・・・式(3)
総劣化量C
totalは、各温度及びSOC毎の劣化量C
1~C
xxを足し合わせたものであり、上記式(3)より算出することができる。
【0022】
[候補電池の劣化診断]
交換候補リストの候補電池(中古、新品問わず)の劣化量及び容量を予め診断しておいてもよい。そして、その劣化量及び容量を基に候補電池のランク付けをしてもよい。例えば、下記表1に示すようにリスト化した診断情報としておいてもよい。得られた診断情報は、サーバに情報集約しておき、後述する制御部が診断情報を受信して、候補電池の選択に用いられてもよい。
候補電池の容量は、候補電池の劣化量と候補電池の製造ばらつきを含めて決定されてもよい。
表1において、想定最大電流レート(1)は、搭載電池の電流レート履歴から、搭載電池の最大電流値を算出し、搭載電池の最大電流値と、候補電池の容量(交換時点の容量)から算出した値である。
表1において、想定最大電流レート(2)は、搭載電池の最大電流値と、候補電池の想定使用期間を加味した候補電池の劣化量による候補電池の容量低下を踏まえて算出した候補電池の容量(交換後の想定劣化量を考慮した容量)から算出した値である。候補電池の容量低下を踏まえることによって、想定最大電流レート(2)の方が想定最大電流レート(1)よりも大きくてもよい。
【0023】
[交換用電池の選択]
電池管理システムは、機器に搭載された搭載電池と交換するための交換用電池を複数の候補電池の中から選択する。電池管理システムは、複数の前記候補電池の内、算出された前記候補電池の前記想定最大電流レートが所定電流レート以下の電池を前記交換用電池として選択する。候補電池は少なくとも2つあればよく、上限は特に限定されない。所定電流レート以下の電池が無い場合は、所定電流レートの設定を変更してもよいし、想定最大電流レートが所定電流レートに最も近い電池を選択してもよい。
所定電流レート以下の候補電池が2つ以上ある場合は、2つ以上の候補電池の内、最も容量の高い電池を交換用電池として選択してもよい。
【0024】
【0025】
図4は、本開示の電池管理システムが実行する交換用電池の選択方法の手順の一例を示すフローチャートである。
SP1.ユーザの搭載電池の使用履歴から電流負荷を解析し、電流レート履歴を取得し、所定電流レートを設定する。
SP2.搭載電池及び候補電池の内の少なくとも一方の電池の使用履歴から候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量を算出する。
SP3.搭載電池の電流レート履歴と、候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量と、必要に応じて候補電池の想定使用期間と、を考慮して、候補電池の想定最大電流レートを算出する。ここで、交換候補である複数の候補電池は、ランク付けし、リスト化してもよい。
SP4.複数の候補電池の内、想定最大電流レートが所定電流レート以下である電池を交換用電池として選択する。
表1に示すように、例えば、所定電流レートを40Cとした場合、想定最大電流レート(1)のみで候補電池を選択してしまうと最適な電池を見誤る場合がある。なお、ここで電流レート(電流Cレート)とは、電池に対して充放電するときの電流の大きさを表す。「1C」とは、満充電状態(SOC100%)の電池が1時間で完全に放電される(SOC0%)時の電流値を意味する。
一方、想定最大電流レート(2)を算出して用いることにより、より最適な電池を選択することができる。
【0026】
本開示において機器は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)、情報処理装置等の電気製品等であってもよい。
【0027】
本開示において電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。電池は、水系電池、非水系電池、及び、全固体電池等であってもよい。全固体電池は、正極集電体と正極層とを備えた正極、固体電解質層、および負極集電体と負極層とを備えた負極からなる単位セルを少なくとも1つ有していてもよい。
電池に用いられる材料は特に限定されず、従来公知の材料を用いることができる。
負極活物質は、チタン酸リチウム(LTO)であってもよい。チタン酸リチウムは、例えばLi4Ti5O12等である。
【0028】
本開示の電池管理システムは、検出部と、制御部と、演算部と、を備えていてもよい。
検出部は、搭載電池及び候補電池等の電池の使用履歴を検出してもよい。
演算部は、搭載電池の電流レート履歴からレート分布及び最大電流値等を算出してもよい。演算部は、使用履歴を基に搭載電池及び候補電池等の電池の劣化量及び劣化量を算出してもよい。演算部は、候補電池の劣化量を考慮して候補電池の容量を算出してもよい。演算部は、搭載電池の電流レート履歴と、候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量から、機器での使用時の候補電池の想定最大電流レートを算出してもよい。
制御部は、複数の候補電池の内、算出された候補電池の想定最大電流レートが所定電流レート以下の電池を交換用電池として選択してもよい。
制御部は、検出部にて検出した電池の使用履歴を基に電池の使用履歴を更新してもよい。
制御部は、交換候補となる候補電池の劣化量、候補電池の劣化量を考慮した候補電池の容量、及び、候補電池の想定最大電流レートを含む診断情報を予め準備してもよい。
【0029】
検出部と、制御部と、演算部を含む電池管理システムは、物理的には、例えば、CPU(中央演算処理装置)等の演算処理装置と、CPUで処理される制御プログラム及び制御データ等を記憶するROM(リードオンリーメモリー)、並びに、主として制御処理のための各種作業領域として使用されるRAM(ランダムアクセスメモリー)等の記憶装置と、入出力インターフェースとを有するものである。