(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2022042557
(22)【出願日】2022-03-17
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄貴
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-146177(JP,A)
【文献】特開2019-098914(JP,A)
【文献】特開2010-170239(JP,A)
【文献】特開2007-328410(JP,A)
【文献】特開2016-224718(JP,A)
【文献】特開2017-075803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0385459(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行方向での前方側に位置しかつ位置情報を取得可能な支援対象物の存在を前記自車両の運転者に告知する運転支援装置であって、
前記運転者への前記告知を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記自車両の位置情報と前記支援対象物の位置情報とに基づいて前記自車両と前記支援対象物との直線距離を求める直線距離算出部と、
前記自車両から前記支援対象物までの道程距離が前記直線距離とは異なっていることを推定する推定部と、
前記道程距離が前記直線距離と異なっていることが前記推定部で推定された場合に、前記自車両から前記支援対象物までの距離の前記運転者に対する告知を禁止する距離告知禁止部と
を備えていることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置であって、
前記推定部は、前記自車両と前記支援対象物とを結んだ直線の方向と前記自車両の方向とが予め定めた所定角度以上異なっている場合に、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの推定を成立させる
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援装置であって、
前記推定部は、一旦成立させた前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの前記推定を、前記直線距離が予め定めた判定基準距離より短くなるまで維持することを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の運転支援装置であって、
前記支援対象物は、前記支援対象物の向きである方位角を検出可能な他車両を含み、
前記推定部は、前記直線距離が予め定めた判定基準距離以上で、かつ前記自車両の方位角と前記他車両の方位角との相対方位角度が予め定めた判定基準角度以上の場合に、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの推定を成立させる
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項5】
請求項1に記載の運転支援装置であって、
前記推定部は、前記直線距離が予め定めた判定基準距離以上で、かつ前記自車両の走行状態の変化が予め定めた変化基準を超えている場合に、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの推定を成立させる
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の運転支援装置であって、
前記自車両の走行状態の変化は、現在時点より以前における自車両の方位角の変化と、車速の変化と、操舵もしくは方向指示器の操作の回数もしくは頻度とのいずれかを含むことを特徴とする運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の運転者に周辺情報を知らせ、さらには注意を喚起するなどのことによって、より容易に運転できるように運転者を支援する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両をいわゆる手動操作で走行させる場合に、追突や異常接近などによるヒヤリハットを未然に回避するためには、自車両の周囲の車両の存在や挙動を把握することが望まれる。その一例として、特許文献1には、交通渋滞や路面の状態あるいは信号機の設置位置などの車両前方の走行環境情報を路車間通信によって取得し、その走行環境情報を自車両に設けてあるディスプレイに表示して運転者に知らせるように構成された表示装置が記載されている。この特許文献1に記載された装置は、障害物が例えばレーダ手段によって検出され、かつその障害物が自車両から所定の距離の範囲内に存在する場合には、走行環境情報の表示を止めるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、自車両の走行に影響を及ぼす交通情報が前方に存在することを表示するように構成された装置が記載されている。この特許文献2に記載された装置では、前方の交通情報の地点に接近する速度が速いほど、あるいは当該地点が近いほど、交通情報を強調して表示することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-347853号公報
【文献】特開2016-224553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交通渋滞や路上障害物など、走行を阻害し、あるいは走行状態の変更を余儀なくされる走行環境を走行中の自車両で事前に把握できれば、それらの走行環境に備えた走行を余裕をもって行うことができるので、特許文献1や特許文献2に記載されているように、それらの情報を運転者に提供することは、有効な運転支援と言い得る。しかしながら、運転者に対する他車両についての情報の提供は、情報の内容のみならずタイミングが適切であることが必要であり、そのためには前方の交通渋滞や障害物などの走行環境の地点と自車両との間隔(距離)を知る必要がある。
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されている装置は、前方の走行環境の位置を地図データを使って特定しているが、例えば車両故障や事故などによる車両の停止や落下物などは地図データのない箇所で生じることがあり、そのような場合には、特許文献1や特許文献2に記載されている装置では、有効な運転支援を行えないことになる。すなわち、前方の走行環境の存在は車車間通信や路車間通信によって取得でき、またその位置情報はGPS(Global Positioning System)によって特定することができるが、地図データがない場合には、自車両と前方の走行環境との距離は、これらを直線で結んだ距離としてしか求められない。
【0007】
これに対して、前方の走行環境に到るまでの走行路は、必ずしも直線であるとは限らないから、前方の走行環境に到るまでの道程距離が直線距離より長くなることがある。このような場合、前方の走行環境までの距離を運転者に知らせたのでは、運転者は走行距離として遠方の走行環境を近隣に存在すると誤認してしまう。すなわち、運転者に誤った情報を提供することになってしまう。このような状況は、GPSなどによって位置情報を取得することができる車両であっても地図情報を備えていない車両においても、同様に生じる。
【0008】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、地図データを用いない場合であっても自車両の走行予定路での前方に位置する支援対象物と自車両との間の誤った距離情報の告知を回避もしくは抑制することのできる運転支援装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の目的を達成するために、自車両の走行方向での前方側に位置しかつ位置情報を取得可能な支援対象物の存在を前記自車両の運転者に告知する運転支援装置であって、前記運転者への前記告知を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記自車両の位置情報と前記支援対象物の位置情報とに基づいて前記自車両と前記支援対象物との直線距離を求める直線距離算出部と、前記自車両から前記支援対象物までの道程距離が前記直線距離とは異なっていることを推定する推定部と、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることが前記推定部で推定された場合に、前記自車両から前記支援対象物までの距離の前記運転者に対する告知を禁止する距離告知禁止部とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
この発明においては、前記推定部は、前記自車両と前記支援対象物とを結んだ直線の方向と前記自車両の方向とが予め定めた所定角度以上異なっている場合に、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの推定を成立させることとしてもよい。
【0011】
この発明においては、前記推定部は、一旦成立させた前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの前記推定を、前記直線距離が予め定めた判定基準距離より短くなるまで維持することとしてもよい。
【0012】
この発明においては、前記支援対象物は、前記支援対象物の向きである方位角を検出可能な他車両を含み、前記推定部は、前記直線距離が予め定めた判定基準距離以上で、かつ前記自車両の方位角と前記他車両の方位角との相対方位角度が予め定めた判定基準角度以上の場合に、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの推定を成立させることとしてもよい。
【0013】
この発明においては、前記推定部は、前記直線距離が予め定めた判定基準距離以上で、かつ前記自車両の走行状態の変化が予め定めた変化基準を超えている場合に、前記道程距離が前記直線距離と異なっていることの推定を成立させることとしてもよい。
【0014】
この発明においては、前記自車両の走行状態の変化は、現在時点より以前における自車両の方位角の変化と、車速の変化と、操舵もしくは方向指示器の操作の回数もしくは頻度とのいずれかを含んでいてよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明では、何らかの理由で停止している車両や工事箇所などの位置を特定できる支援対象物が、走行中の自車両の前方に存在している場合、その支援対象物が自車両の運転者に、画像情報や音声情報として告知される。その支援対象物の位置情報と自車両の位置情報とを比較するなどのことによって、支援対象物と自車両との間の直線距離が求められる。また、その支援対象物が存在している位置の自車両から見た方向が自車両が向かう方向と大きくずれているなどの場合には、自車両がこれから走行して支援対象物に到るまでの道程距離と上記の直線距離とが異なっていることの推定が行われる。支援対象物が自車両の前方に存在しているので、支援対象物が存在していることが運転者に告知されるが、上記の推定が成立した場合には、支援対象物までの距離の告知が禁止される。すなわち、支援対象物までの既に求められている距離は、直線距離であって道程距離から大きくずれている可能性があり、かつ道程距離は地図データが無いもしくは使用していないなどのことにより得られていないので、既に得られている距離を告知したのでは、自車両が支援対象物にたどり着くもしくは接近するまでの距離と異なる距離を運転者に告知してしまうことになるので、距離の告知を禁止して誤った支援制御を回避もしくは抑制する。
【0016】
また、この発明における上記の距離の告知の禁止は、直線距離が予め定めた判定基準距離以上の場合に実行し、直線距離が判定基準距離より短くなって自車両が支援対象物にある程度接近した場合には、上記の禁止が解除されて支援対象物までの距離が運転者に告知される。その場合の道程距離と直線距離との差は小さいから、告知によって運転者が想定する支援対象物への到達時間と実際の到達時間との差は僅かであって特に違和感を抱かせることがなく、しかも比較的近距離に支援対象物が存在していることを運転者が知ることの方が、運転支援として有効であって、車両の運転が、より容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施形態におけるハード構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】コントローラの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】この発明の実施形態におけるコントローラの機能的な構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】この発明の実施形態で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】合流部での距離告知のための表示の例を示す模式図である。
【
図6】ワインディングでの距離告知のための表示の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態を図を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態はこの発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、この発明を限定するものではない。
【0019】
この発明の実施形態における運転支援装置1は、渋滞や事故などの何らかの理由で停止している他車両あるいは何らかの障害物など、位置情報を取得可能な支援対象物が自車両の走行方向での前方に位置している場合に、その支援対象物の存在を自車両の運転者に告知して、支援対象物への過度な接近や追突などを避けるための回避操作を余裕をもって行うことを可能にする装置である。したがって、自車両は、自らの位置や車速さらには走行している方向である方位角などの走行情報を検出できる車両である。また、支援対象物についての情報を取得することのできる装置もしくは機能を備えている車両である。特に、この発明の実施形態における運転支援装置1は、地図データが無い場合であっても、あるいは地図データを使用しなくても、上記の告知による運転支援が可能な装置である。
【0020】
図1にそのような制御を行う運転支援装置1のハード構成をブロック図で示してある。この運転支援装置1は、無線通信用のアンテナ2、無線通信部3、GPS(Global Positioning System)信号を受信するためのGPSアンテナ4、GPS信号受信部5、コントローラ6などを備えている。また、自車両の動作状態もしくは車両情報を得るために各種センサ類7からデータを得るように構成されている。さらに、運転者Dへの告知のための告知出力部8が接続されている。
【0021】
アンテナ2は、自車両の周囲に存在する他車両の通信機器や、路側に設けられた路側通信装置と情報の送受信を行うためのものである。なお、路側通信装置には、光ビーコンや電波ビーコンあるいはFM放送などの放送装置、DSRC(Dedicated Short Range Communication:専用狭域通信)を備えた通信機などが含まれる。
【0022】
無線通信部3は、アンテナ2を介して他車両や路側通信装置に送信するように構成されている。また、無線通信部3は、アンテナ2を介して受信した信号を復調して、コントローラ6に伝達する。
【0023】
GPS信号受信部5は、GPS衛星からのGPS信号をGPSアンテナ4を介して受信し、コントローラ6に出力する。そのGPS信号に基づいて、自車両の現在位置(現在位置の座標)が算出される。なお、加速度センサの検出信号に基づいて車速や距離を求めるとともに、ジャイロセンサによって走行方向を求めて、慣性航法により自車両の現在位置を求めることもできる。
【0024】
コントローラ6は、走行中に周辺の他車両の位置情報(もしくは座標)や速度などの車両情報を、車車間通信や路車間通信によって取得する。さらに、コントローラ6は、周辺の他車両に関する車両情報(位置や速度など)を、告知出力部8から画像や音声として出力することにより自車両の運転者Dに告知する。運転者Dは、自車両の周囲に他車両もしくは障害物などが存在していることを知り得るので、それらを回避もしくは迂回するなど他車両もしくは障害物の存在に応じた走行を行うこと、すなわち安全運転を行うことができる。すなわち、自車両の運転支援を行う。
【0025】
センサ類7は、自車両の車両情報を更に取得するためのものであって、従来車両に搭載されているものであってよい。その例を挙げると、車速センサ、加速度センサ、操舵角センサ、ヨーレートセンサ、ジャイロセンサ、ブレーキセンサ、方位角センサ、方向指示器(ウィンカ)の動作状態を検出するセンサなどである。
【0026】
上述したコントローラ6は、マイクロコンピュータを主体とした演算装置であり、
図2にブロック図で模式的に示すように、CPU9、RAM10、ROM11、入出力インターフェース(I/F)12などを備えている。
【0027】
CPU9は、ROM11に記憶させてあるプログラムを読み込んで、そのプログラムに従って演算を行い、その演算の結果を指令信号として出力することにより所定の制御を実行する。なお、RAM10はCPU9による演算途中もしくは演算後のデータを記憶する。そのデータは、例えば自車両や他車両の車両情報である。
【0028】
コントローラ6は、上述したハード上の構成によって、後にフローチャートを参照して説明する制御を実行するように構成されており、その機能的手段を示すと、
図3のブロック図に示すとおりである。
【0029】
この発明の実施形態における運転支援装置1は、自車両の走行方向での前方に位置している支援対象物すなわち走行に際して注意すべき対象物について情報を取得し、自車両の運転者に告知することにより、自車両の運転を支援する装置である。なお、以下の説明では、支援対象物の例を位置情報(位置座標)を取得可能な停止車両とする。コントローラ6は、その停止車両までの直線距離を算出する直線距離算出部13を備えている。その直線距離は、自車両の位置座標値と停止車両の位置座標値とから算出することができる。
【0030】
また、コントローラ6は、自車両と停止車両との直線距離と道程距離とが異なっていることを推定する推定部14を備えている。地図データが無い場合、あるいは地図データを使用しない場合には、自車両から停止車両の位置もしくはその近辺まで走行する経路を求めることができないから、自車両と停止車両との間の距離は、幾何学的に直線距離として求めざるを得ない。しかしながら、自車両から停止車両に到る走行路は直線路であるとは限らないので、自車両から停止車両までの道程距離が直線距離とは異なっている場合がある。推定部14はこのような道程距離と直線距離とが異なっていることを推定するために設けられている。
【0031】
地図データが無い場合、あるいは使用しない場合には、停止車両までの走行経路を求めることができないので、現在の自車両の車両情報や現在に到るまでの間の直近の車両情報に基づいて、道程距離と直線距離とが異なっていることを推定する。その典型的な例は、自車両と停止車両とを結んだ直線の方向と自車両の走行方向(自車両が向いている方向)とが所定角度以上、相違している場合である。このような場合、自車両は停止車両に直接向かわずに、差し当たり、停止車両とは異なる方向に向けて走行するのであるから、道程距離と直線距離とが相違することになる。なお、このような場合、道程距離と直線距離とが異なることの推定を成立させるとしても、停止車両に接近する過程で自車両が停止車両の方向を向く場合があるが、そのような状態は一時的であって、道程距離と直線距離とが一致もしくは近似することにはならないので、成立した推定を維持することが好ましい。なお、成立した推定の維持は、自車両と停止車両との間の直線距離が予め定めた判定基準距離より短くなるまで行うことが好ましい。
【0032】
また他の例は、直線距離が予め定めた判定基準距離以上であることを条件とし、自車両と停止車両との相対方位角が予め定めた判定基準角度以上の場合に、道程距離と直線距離とが異なっていることの推定を成立させる。すなわち、自車両と停止車両とが直線上に並んでいれば、相対方位角はゼロになり、あるいはゼロに近い小さい角度になる。この場合、道程距離と直線距離とがほぼ同じになるので、上記の推定は成立しない。これに対して、停止車両が向いている角度である方位角に対して、自車両の方位角が大きく異なっていれば、自車両は停止車両に直ちに向かわずに、差し当たり、停止車両が位置している地点に向かう方向とは異なる方向に走行することになる。すなわち、自車両が停止車両に到る走行経路もしくは走行路が、自車両と停止車両とを結んだ直線に対して曲がっていることになる。そこで、このように相対方位角度が判定基準角度より大きい場合に、道程距離と直線距離とが異なっていることの推定を成立させる。なお、判定基準角度は、道路幅や車線数などを考慮して、設計上、適宜の値に設定してよい。
【0033】
さらに他の例を挙げると、推定部14は、直線距離が予め定めた判定基準距離以上であることを条件として、自車両の走行状態の変化が、予め定めた基準変化を超えている場合に、前述した推定を成立させるように構成することができる。ここで、走行状態の変化とは、要は、安定した直線走行を行っていないこと、もしくは行っていなかったことである。自車両がワインディング路と称される道路を走行している場合には、道路の形状に応じて操舵され、また加減速が行われ、分岐が続く場合には方向指示器(ウィンカ。図示せず)が繰り返し操作される。したがって方位角や操舵角、ヨーレート、もしくは車速や加速度などが変化したり、さらには方向指示器などの走行方向を変化させる操作が行われていたりすれば、自車両が曲線路を走行しているものと考えられる。このような走行状態の変化を、予め定めた基準変化と比較して判定し、基準変化を超えている場合に、道程距離と直線距離とが異なっていることの推定を成立させる。したがって、基準変化は、方位角や操舵角もしくはヨーレートの変化量あるいはその所定時間内での累積値についての基準値、車速や加速度の変化量あるいはその所定時間内での累積値についての基準値、方向指示器などの所定時間内での操作回数についての基準値などであってよい。
【0034】
さらに、コントローラ6は、距離告知禁止部15を備えている。距離告知禁止部15は、前述した告知出力部8によって運転者に対して告知する情報の内容を制御するためのものである。この距離告知禁止部15は、直線距離算出部13によって求められた直線距離が道程距離と異なっていることが推定部14で推定された場合は、自車両と停止車両との間の距離を告知することを禁止し、直線距離が前述した判定基準距離より短いなど、上記の推定が成立しない場合には、自車両と停止車両との間の距離を告知することの禁止を解除(すなわち許可)するように構成されている。
【0035】
この発明の実施形態における運転支援装置1は、支援対象物までの道程距離とは異なる距離を運転者に告知するなど誤った支援制御を行わないようにするために、停止車両についての情報の告知を以下のように制御する。その制御は、上述したハード構成および機能的手段によって実行される。その一例を以下に説明する。
【0036】
図4は支援対象物としての車両情報の通信が可能な停止車両についての情報(特に停止車両までの距離)を自車両の運転者に告知する制御の一例を説明するためのフローチャートであり、自車両の走行中に前述したコントローラ6によって実行される。先ず、自車両の走行方向での前方に通信可能な他の車両が存在するか否かが判断される(ステップS1)。例えば、自車両の走行方向で前方側に車両情報を通信できる車両が停止していた場合、すなわち停止車両が存在していた場合にはステップS1で肯定的に判断され、これとは反対に存在していない場合には否定的に判断される。通信可能な車両の存在の有無は、前述した車車間通信や路車間通信によって車両情報を取得し、その車両情報に含まれる位置情報に基づいて判断できる。すなわち、他車両の車両情報を取得できない場合や位置情報で示される地点が自車両の前方側ではない場合にはステップS1で否定的に判断される。これとは反対の場合には肯定的に判断される。
【0037】
ステップS1で否定的に判断された場合には、自車両の運転を支援するための情報が特にはないことになるので、
図4に示すルーチンを一旦終了する。これに対してステップS1で肯定的に判断された場合には、取得された他車両の車両情報に含まれる位置情報(座標)と自車両の位置情報(座標)とに基づいて車間距離を算出する(ステップS2)。ここで算出される車間距離は、自車両と停止車両とのそれぞれの座標値から算出されるから、自車両が位置する地点と停止車両が位置する地点とを結んだ直線距離である。このステップS2は前述した直線距離算出部13で実行される。
【0038】
算出された直線距離と自車両から停止車両までの道程距離が異なっていることを推定する(ステップS3)。これは前述した推定部14によって実行される制御であり、ステップS2で算出した直線距離が予め定めた判定基準距離以上であることを第1の条件とし、自車両が停止車両と同じ方向を向いているか否か(方位角が近似しているか否か)や、自車両と停止車両とを結んだ直線から外れた方向に走行する可能性があるか否かなどに基づいて推定される。その詳細は前述したとおりであり、自車両と停止車両との相対方位角が大きい場合、自車両は停止車両に直接には向かわずに、両車両を結んだ直線からずれた位置を一時的にも走行することになるので、このような場合には直線距離と道程距離とが異なることの推定が成立する。また、自車両が左右の転舵を繰り返して走行しており、あるいはそのために車速が頻繁に変化していたりした場合には、今後、停止車両に到る道程も同様に左右に曲がっている可能性があり、このような場合には直線距離と道程距離とが異なることの推定が成立する。なお、相対方位角や転舵の回数などは数字で表すことができるので、それらの数を評価するしきい値を予め用意しておき、そのしきい値との比較の結果を「推定の成立」もしくは「推定の不成立」とすることができる。なおまた、直線距離と道程距離とが異なることの推定は、直線距離が判定基準距離以上であることを第1の条件としているから、自車両が停止車両に近付いた状態ではその第1の条件が成立しないので、ステップS4では「推定の不成立」が判断される。
【0039】
ステップS4ではその推定の成立、不成立を判断する。ステップS4は前述した推定部14で実行され、上記の推定が成立していると判断された場合、すなわちステップS4の判断結果が肯定的である場合、停止車両までの距離の告知を禁止する(ステップS5)。このステップS5の制御は前述した距離告知禁止部15によって実行される。すなわち、自車両が停止車両の近くに到るまでには、算出されている直線距離より長い距離を走行することになるので、直線距離を告知可能であるとしてもこれを自車両の運転者に告知すると、運転者に事実とは異なる誤った情報を告知することになる可能性があり、このような事態を避けるために、この時点では、距離情報の告知を禁止する。
【0040】
これとは反対にステップS4で否定的に判断された場合、すなわち直線距離が道程距離とは大きく異なっていることの推定が成立しない場合には、距離情報の告知を許可する(ステップS6)。上記の推定が成立しない状態は、自車両が停止車両に向かって走行していく可能性が高い場合であり、自車両が停止車両まで実際に走行する道程距離がステップS2で算出した直線距離と同じもしくは近似している場合であるから、算出されている直線距離が、これから走行する停止車両までの道程距離から大きく外れる可能性が低い。したがって直線距離を距離情報として自車両の運転者に告知しても、誤った情報の告知(運転支援)となる可能性が低く、また運転者も違和感を抱く可能性が低いので、この場合は直線距離を距離情報として告知することとしてある。
【0041】
なお、自車両が停止車両に近付いて直線距離が判定基準距離より短くなった場合には、上述した推定が不成立になるのでステップS4で否定的に判断される。したがって、この場合は、ステップS6に進んで停止車両までの距離(算出されている直線距離)の告知が許可される。その判定基準距離は、停止車両を目視できる程度の距離、あるいは停止車両より手前であってかつ安全に停止できる程度の距離としてよい。そのような短距離であれば、直線距離と道程距離との乖離(偏差)が小さいので、距離の告知によって運転支援を行っても誤った運転支援となることはなく、また告知された距離と実際に走行して運転者が感じる距離との差が小さくなって違和感を生じることは殆どない。
【0042】
上記のステップS5での距離情報の告知の禁止や、ステップS6での距離情報の告知の許可は、飽くまでも算出されている直線距離を告知することの禁止あるいは許可であり、距離情報以外の車両情報、例えば停止車両が存在していることや停止の理由もしくは車種などは必要に応じて自車両の運転者に告知することとしてよい。
【0043】
上述した支援制御もしくは距離情報の告知の制御の具体例を模式図によって説明する。
図5に示す例は、自車両Voと前方に停止している停止車両V1との直線距離Loが所定の判定基準距離以上になっている時点で、自車両Voの方位角度と停止車両V1の方位角度との差である相対方位角度が予め定めた判定基準角度以上になっている例である。直線距離Loが判定基準距離以上の時点で、自車両Voの方位角がNになっており、これに対して停止車両V1が向いている方位角がWになっていると、自車両Voは停止車両V1に直接向かわずに、停止車両V1の地点から外れた方向にしばらく走行した後に、停止車両V1に向かうことになる。すなわち、自車両Voが停止車両V1の地点まで走行する道程距離が直線距離Loとは異なっている。したがって、この時点では、前述した推定が成立し、距離情報は告知されない。例えば、自車両Voの告知出力部(表示器)8には、三角マークと「前方停止車両あり」の表示が行われ、停止車両V1までの距離は表示されない。
【0044】
その後、自車両Voが走行を継続して停止車両V1に近づき、その直線距離Loが判定基準距離より短くなると(例えば50mになると)、前述した推定の第1の条件が成立しなくなるので、「推定の不成立」が判断される。その結果、距離の告知が許可されるので、例えば、自車両Voの告知出力部(表示器)8に、三角マークと「前方停止車両あり」および「50m」の表示が行われて、自車両Voの運転者に停止車両V1までの距離が告知される。
【0045】
このような距離の告知の禁止および許可は
図5に示すように走行車線の合流部Jで、合流部Jの前方に他車両V1が停止している場合に実行される。したがって、一般道からランプウェイR1を介して自動車専用道の本線R2に合流する場合、一般道路やランプウェイR1は本線R2に対して交差し、あるいは湾曲しているので、合流する以前の時点では、本線R2に停止している他車両(停止車両)V1との直線距離Loが短くなるが、ランプウェイR1は合流部Jに向けて湾曲しているから、道程距離は直線距離Loより長い。このような場合、停止車両V1までの道程距離を知ることができないことに加えて直線距離Loと道程距離とが大きく異なっていることが推定されて、自車両Voの運転者に対して距離情報は告知されず、したがって誤った運転支援が回避される。
【0046】
なお、一旦成立した推定は、停止車両V1に接近して距離の告知が許可されたり、あるいは停止車両V1が検出されなくなるなどのことによって制御が終了したりするまで、維持される。したがって例えば合流部Jに到るランプウェイR1が、円形になっていて自車両Voの方位が360度以上変化する場合や,左右に曲がっているなどのことにより、自車両Voの方位と停止車両V1の方位とが一時的に一致もしくは近似するとしても、直線距離Loと道程距離とが異なることの推定が維持される。その結果、実際に走行する距離とは異なる距離を運転者に告知してしまう事態が回避される。
【0047】
一方、
図6は走行路が左右に曲がっているいわゆるワインディング路R3の途中に停止車両V1が存在している場合の例を示している。自車両Voがその停止車両V1の手前側に大きく離れている時点で、直線距離Loが判定基準距離より長いことが検出され、かつその時点までの自車両Voの走行状態の変化が変化基準を超えていることにより、前述した推定が成立する。すなわち、自車両Voはワインディング路R3を走行してきたことにより、その時点までの操舵の回数もしくは頻度がある程度高く、あるいは進行方向である方位角の変化もしくはその累積値が大きく、またコーナへの進入に伴う減速とコーナから脱出した際の加速とによる速度の変化あるいはその累積値が大きいなどのことにより、走行状態の変化が変化基準を超えていることの判定が成立する。したがって直線距離Loと停止車両V1までの道程距離とが異なることの推定が成立してこの時点では、距離情報の告知が禁止される。例えば、自車両Voの告知出力部(表示器)8には、三角マークと「前方停止車両あり」の表示が行われ、停止車両V1までの距離は表示されない。
【0048】
その後、自車両Voが走行を継続して停止車両V1に近づき、その直線距離Loが判定基準距離より短くなると(例えば50mになると)、前述した推定の第1の条件が成立しなくなるので、「推定の不成立」が判断される。その結果、距離の告知が許可されるので、例えば、自車両Voの告知出力部(表示器)8に、三角マークと「前方停止車両あり」および「50m」の表示が行われて、自車両Voの運転者に停止車両V1までの距離が告知される。
【0049】
なお、自車両Voの変化の状態に基づいて前述した推定を成立させるように構成した場合、ワインディング路R3を走行して停止車両V1に接近する過程で自車両Voの方位と停止車両V1の方位とが一致もしくは近似するとしても、両者の車両Vo,V1の相対方位角を推定の条件としていないので、ワインディング路R3を走行して停止車両V1に接近する過程で前述した推定が不成立となることがなく、道程距離とは異なる直線距離Loを自車両Voの運転者に告知することはない。
【0050】
なお、上述した実施形態では、支援対象物を停止車両としたが、この発明では支援対象物は停止車両に限らないのであって、位置情報を取得できるのであれば、工事箇所や落下物など自車両の走行に障害となると考えられるものであればよい。また、停止車両以外に走行している前方車両であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 運転支援装置
3 無線通信部
5 GPS信号受信部
6 コントローラ
8 告知出力部
9 CPU
10 RAM
11 ROM
12 入出力インターフェース(I/F)
13 直線距離算出部
14 推定部
15 距離告知禁止部
D 運転者
J 合流部
Lo 直線距離
R1 ランプウェイ
R2 本線
R3 ワインディング路
V1 停止車両(他車両)
Vo 自車両