(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】受電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/40 20160101AFI20240903BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20240903BHJP
B60L 53/12 20190101ALI20240903BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20240903BHJP
B60L 5/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H02J50/40
H02J50/10
B60L53/12
B60M7/00 X
B60L5/00 B
(21)【出願番号】P 2022097273
(22)【出願日】2022-06-16
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196027(JP,A)
【文献】特開2013-021769(JP,A)
【文献】特開2018-121426(JP,A)
【文献】特開2008-259419(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115625(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
B60L 53/12
B60M 7/00
B60L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、前記移動体の移動経路に沿って配置された給電線から非接触で電力の供給を受ける受電装置であって、
前記給電線に流れる交流電流により誘導起電力を生じさせるピックアップコイルと、
前記ピックアップコイルに接続された整流回路と、
前記整流回路により整流された電圧を調整して前記移動体の電気的負荷に供給するチョッパ回路と、
前記チョッパ回路が備えるスイッチング素子のオンデューティを制御する制御部と、
前記チョッパ回路の出力電圧を検出する電圧検出部と、
前記チョッパ回路の出力電流を検出する電流検出部と、を備え、
前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記出力電圧と前記電流検出部により検出された前記出力電流とに基づいて、前記電気的負荷に供給される供給電力が、予め規定された設定電力以下となるように前記スイッチング素子のオンデューティを制御する、受電装置。
【請求項2】
前記設定電力は、前記給電線に供給される電力の上限値である給電上限電力を、前記給電線からの給電を受ける前記移動体の台数である受電台数で除算した値に応じて設定されている、請求項1に記載の受電装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記設定電力の設定値を受け付ける受付部と、前記受付部により受け付けた前記設定値が設定される設定部と、を備える請求項1又は2に記載の受電装置。
【請求項4】
前記電気的負荷に接続される一対の出力端子を受電出力端子対として、
前記チョッパ回路は、前記整流回路に接続されたコイルと、前記コイルと前記受電出力端子対の一方である第1出力端子との間に順方向接続されたダイオードと、をさらに備え、
前記スイッチング素子は、前記ダイオードのアノード端子側と、前記受電出力端子対の他方である第2出力端子との間に配置され、
前記電流検出部は、前記コイルを流れる電流を検出する電流センサを備え、前記電流センサにより検出された電流値と、前記スイッチング素子のオンデューティとに基づいて、前記受電出力端子対に出力される前記出力電流を推定する、請求項1又は2に記載の受電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に搭載され、その移動体の移動経路に沿って配置された給電線から非接触で電力の供給を受ける受電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5447413号公報には、移動体に搭載された受電装置に非接触で給電する非接触給電設備が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この受電装置は、移動体(17)(搬送台車)に搭載されて、当該移動体(17)の移動経路に沿って配置された給電線(14)から非接触で電力の供給を受ける。この非接触給電設備では、電源装置(12)より給電線(14)へ高周波電流を給電し、給電線(14)を介して複数の移動体(17)に非接触で電力を供給している。移動体(17)には、ピックアップコイル(51)及び受電ユニット(27)を備えた受電装置が備えられており、この受電装置から当該移動体(17)に搭載された負荷(走行用電動モータなど)に電力が供給される。
【0003】
受電ユニット(27)は、スイッチング素子(57)を備えたチョッパ回路と、受電ユニット(27)から負荷に出力される出力電圧(V2)を一定に維持するようにチョッパ回路を制御する制御部としてのコントローラ(61)とを備えている。コントローラ(61)は、出力電圧(V2)が予め設定された設定電圧よりも低い場合には出力電圧(V2)が高くなるように、出力電圧(V2)が設定電圧よりも高い場合には出力電圧(V2)が低くなるように、スイッチング素子(57)を制御する。
【0004】
このような非接触給電設備は、複数の移動体(17)が稼働する例えば物品搬送設備などに備えられている。非接触給電設備の起動時には、それぞれの移動体(17)に搭載された受電ユニット(27)の出力電圧(V2)がゼロであるから、全ての移動体(17)のコントローラ(61)が出力電圧(V2)を上げるようにスイッチング素子(57)を制御することになる。コントローラ(61)は、この際に、給電線(14)への電力の供給源である電源装置(12)の負荷が高くなりすぎないように、定常動作時に比べて出力電圧(V2)の上昇率が低くなるようにスイッチング素子(57)を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、負荷が電動モータである場合、一時的に電気的負荷が高くなり、受電装置の出力電圧(V2)が基準となる電圧よりも低下することがある。受電装置が定常動作状態の場合、コントローラ(61)は、通常の上昇率で出力電圧(V2)を上昇させる。ここで、同時期に複数の移動体(17)において一時的に電気的負荷が高くなった場合には、起動時と同様に、電源装置(12)の負荷が高くなりすぎる可能性がある。例えば、そのような一時的な負荷の増大を考慮して、同時に稼働させる移動体(17)の台数を制限することも考えられる。しかし、そのような制限を加えると、移動体(17)が稼働する設備(例えば物品搬送設備)の稼働率が低下するおそれがある。
【0007】
上記背景に鑑みて、一時的に複数の移動体において電気的負荷が高くなった場合であっても、給電線を介して適切に複数の移動体に電力を供給できるようにすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様として、上記に鑑みた受電装置は、移動体に搭載され、前記移動体の移動経路に沿って配置された給電線から非接触で電力の供給を受ける受電装置であって、前記給電線に流れる交流電流により誘導起電力を生じさせるピックアップコイルと、前記ピックアップコイルに接続された整流回路と、前記整流回路により整流された電圧を調整して前記移動体の電気的負荷に供給するチョッパ回路と、前記チョッパ回路が備えるスイッチング素子のオンデューティを制御する制御部と、前記チョッパ回路の出力電圧を検出する電圧検出部と、前記チョッパ回路の出力電流を検出する電流検出部と、を備え、前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記出力電圧と前記電流検出部により検出された前記出力電流とに基づいて、前記電気的負荷に供給される供給電力が、予め規定された設定電力以下となるように前記スイッチング素子のオンデューティを制御する。
【0009】
本構成によれば、移動体の電気的負荷に供給される供給電力が設定電力以下となるようにチョッパ回路のスイッチング素子のオンデューティが制御されるため、設定どおりの台数の移動体を運用した場合であって、全ての移動体に電力を供給したとしても、給電線への電力の供給源が過負荷となるような状態を回避することができる。即ち、本構成によれば、一時的に複数の移動体において電気的負荷が高くなった場合であっても、給電線を介して適切に複数の移動体に電力を供給することができる。
【0010】
受電装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】非接触給電設備を備えた物品搬送設備の平面図
【
図3】非接触給電設備のシステム構成を示す模式的なブロック図
【
図5】チョッパ回路を制御するスイッチングパルスの模式的波形図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、移動体に搭載され、その移動体の移動経路に沿って配置された給電線から非接触で電力の供給を受ける受電装置の実施形態を、物品搬送設備における非接触給電設備において利用される形態を例として図面に基づいて説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る物品搬送設備200は、物品搬送車30(移動体)の走行経路である移動経路10に沿って配置された走行レール20と、走行レール20に案内されて移動経路10に沿って走行する物品搬送車30とを備えている。本実施形態では、物品搬送車30による搬送対象の物品は、例えば、半導体基板を収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)や、ディスプレイの材料となるガラス基板等である。物品搬送設備200には、半導体基板を収容する収容庫(不図示)や、半導体基板に回路等を形成するための種々の処理を施す物品処理部Pも備えられている。例えば、移動経路10は、1つの環状の主経路10aと複数の物品処理部Pを経由する環状の副経路10bと、これら主経路10aと副経路10bとを接続する接続経路10cとを備えている。本実施形態では、物品搬送車30は、矢印で示す方向に一方通行で移動経路10を走行する。
【0013】
図2に示すように、本実施形態では、物品搬送車30は、移動経路10に沿って天井から吊り下げ支持されて配置された一対の走行レール20に案内されて移動経路10に沿って走行する走行部12と、走行レール20の下方に位置して走行部12に吊り下げ支持された本体部13と、移動経路10に沿って配設された給電線3から非接触で駆動用電力を受電する受電装置4とを備えている。図示及び詳細な説明は省略するが、本体部13には、本体部13に昇降自在に備えられて物品を吊り下げ状態で支持する物品支持部が備えられている。
【0014】
走行部12には、
図2に示すように、電動式の駆動モータ14にて回転駆動される一対の走行輪15が備えられている。走行輪15は、走行レール20のそれぞれの上面にて形成される走行面を転動する。また、走行部12には、上下方向Zに沿う軸心周り(上下軸心周り)で自由回転する一対の案内輪16が、一対の走行レール20における内側面に当接する状態で備えられている。また、走行部12は、走行用の駆動モータ14やその駆動回路等を備えて構成されており、物品搬送車30を走行レール20に沿って走行させる。本体部13には、物品支持部を昇降させるアクチュエータ、物品を把持する把持部を駆動するアクチュエータ等、及び、それらの駆動回路等が備えられている。これらの駆動モータ14や、アクチュエータ、駆動回路等は、物品搬送車30(移動体)における電気的負荷LD(
図4参照)に相当する。
【0015】
これらの駆動モータ14や、種々のアクチュエータ、これらを駆動する駆動回路等への電力は、給電線3から非接触で受電装置4に供給される。上述したように、受電装置4を介して物品搬送車30に駆動用電力を供給する給電線3は、移動経路10に沿って配設されている。本実施形態では、給電線3は、受電装置4に対して、移動経路10に沿った方向である経路方向Lに直交する経路幅方向H(ここでは、経路方向L及び上下方向Zの双方に直交する方向)の両側に配置されている。
【0016】
本実施形態の非接触給電設備100は、HID(High Efficiency Inductive Power Distribution Technology)と称されるワイヤレス給電技術を用いて、物品搬送車30の電気的負荷LDに駆動用電力を供給する。
図3に示すように、非接触給電設備100は、給電線3と、給電線3に接続され、給電線3に交流電流を供給する電源装置2とを備えている。本実施形態の物品搬送設備200は、
図1に例示したように比較的大きな規模の設備である。従って、送電の効率が低下することや、故障時に設備の全体が停止することなどを抑制するために、給電線3と電源装置2とを含む給電システム1が1系統だけではなく、複数系統設けられている。1系統の給電システム1は、複数の物品搬送車30に電力を供給する。
【0017】
物品搬送車30は、複数の給電システム1を乗り換えながら、連続して電力の供給を受けて、物品搬送設備200内を自在に走行する。物品搬送設備200には、不図示の設備コントローラが備えられており、それぞれの物品搬送車30に対して搬送指令を出して物品を搬送させている。物品搬送車30は、搬送指令に基づいて、自律走行し、例えば物品処理部Pと物品搬送車30との間で物品の受け渡しを行うと共に、上述した収容庫(不図示)と物品処理部Pとの間で物品を搬送する。この設備コントローラは、それぞれの給電システム1から電力を供給される物品搬送車30が予め規定された受電台数N以内となるように、搬送元及び搬送先に応じて物品搬送車30を選択し、選択された物品搬送車30に搬送指令を出している。
【0018】
給電装置5は、誘導線である給電線3に高周波電流を流し、給電線3の周囲に磁界を発生させる。給電線3は、電気的に十分長い閉回路を形成しており、給電線3のインピーダンスを構成する抵抗、インダクタンス、キャパシタンスが回路上に分布した分布定数回路となっている。また、給電システム1のインピーダンスは、給電線3と、物品搬送車30の受電装置4が備えるピックアップコイル40と結合することによる相互インダクタンスの影響も受ける。このため、非接触給電設備100は、例えばそれぞれの給電システム1のインピーダンスを適切に調整し、異なる給電システム1であっても給電線3に供給する交流電流の位相がほぼ一致するように調整している。複数の給電システム1の交流電流の位相が一致するように調整されていることにより、物品搬送車30は、複数の給電システム1から連続して電力の供給を受けながら、物品搬送設備200内を自律走行することができる。
【0019】
それぞれの給電システム1は、そのような調整回路を備えた給電装置5を備えており、電源装置2は給電装置5に含まれる。即ち、非接触給電設備100は、複数の給電システム1を備え、それぞれの給電システム1は、電源装置2を含む給電装置5と、給電線3とを備えている。
【0020】
受電装置4は、給電線3に対向するように物品搬送車30に配置されたピックアップコイル40(
図2参照)と、物品搬送車30の内部において配線基板上に形成された受電ユニット4u(
図4参照)とを備えている。上述したように、給電装置5は、誘導線である給電線3に高周波電流を流し、給電線3の周囲に磁界を発生させる。ピックアップコイル40は、給電線3に流れる交流電流により誘導起電力を生じさせる。
図4に示すように、このピックアップコイル40に対して受電ユニット4uが電気的に接続されており、受電ユニット4uに消費電力が変動する電気的負荷LDが電気的に接続されている。この電気的負荷LDは、例えば上述したような走行用の駆動モータ14、物品支持部を昇降させるアクチュエータ、物品を把持する把持部を駆動するアクチュエータ等、及び、それらの駆動回路等である。
【0021】
受電ユニット4uには、ピックアップコイル40と共に構成される共振回路42の一部と、整流回路43と、チョッパ回路6と、制御部7と、電流検出部8と、電圧検出部9とが形成されている。共振回路42は、ピックアップコイル40と共振コンデンサ41との並列回路として形成されており、共振コンデンサ41が受電ユニット4uに実装されている。整流回路43は、この共振回路42(共振コンデンサ41)に対して並列に接続されている。整流回路43は、ピックアップコイル40に接続されて(共振回路42に接続されて)、ピックアップコイル40に誘導された交流電流及び交流電圧を、直流電流及び直流電圧に整流する。本実施形態では、整流回路43は全波整流回路である形態を例示している。当業者であれば容易に理解可能であるため、図示及び詳細な説明は省略するが、整流回路43は、半波整流回路であってもよい。
【0022】
チョッパ回路6は、整流回路43により第1電圧V1の直流に整流された電圧を第2電圧V2に調整するレギュレータ回路である。本実施形態では、チョッパ回路6は、コイル60と、スイッチング素子61と、スイッチング素子61に対して逆並列接続されたフリーホイールダイオード62と、出力ダイオード63とを備えて構成されている。整流回路43及びチョッパ回路6からの出力電圧には脈動成分が含まれているが、そのような脈動は、出力コンデンサ64により平滑化される。チョッパ回路6の出力電圧である第2電圧V2は、受電装置4の出力電圧Voutとなり、物品搬送車30の電気的負荷LDに供給される。尚、出力コンデンサ64はチョッパ回路6の一部と考えても良いし、チョッパ回路6に並列接続されていると考えてもよい。
【0023】
電圧検出部9はチョッパ回路6の出力電圧Vout(第2電圧V2)を検出する。また、電流検出部8は、チョッパ回路6の出力電流Iout(受電装置4の出力電流Ioutとも言える)を検出する。尚、電流検出部8は出力電流Ioutを直接検出する形態に限らず、別の箇所の電流値を測定し、当該測定値に基づいて例えば演算によって出力電流Ioutを検出してもよい。本実施形態では、後述するように、チョッパ回路6を構成するコイル60を流れる電流(コイル電流I1)を測定することによって、出力電流Ioutが推定される。また、
図4には、電流検出部8として、例えばホールICを利用した非接触方式で電流を検出する形態を例示しているが、コアを用いて非接触で電流を検出する形態や、シャント抵抗を利用した接触方式の形態であってもよい。
【0024】
制御部7は、チョッパ回路6が備えるスイッチング素子61のオンデューティを制御して、スイッチング素子61をスイッチング制御する。詳細は後述するが、本実施形態では、制御部7は、電圧検出部9により検出された出力電圧Voutと電流検出部8により検出された出力電流Ioutとに基づいて、電気的負荷LDに供給される供給電力が、予め規定された設定電力Wt(下記式(1)等参照)以下となるようにスイッチング素子61のオンデューティDon(下記式(5)等参照)を制御する。
【0025】
尚、オンデューティDonとは、
図5に示すように、スイッチング素子61をスイッチング制御するスイッチング制御信号の1周期Dの内、スイッチング素子61がオン状態となるように制御する期間を示す。本実施形態では、
図4に示すように、スイッチング素子61がIGBTである形態を例示しており、スイッチング制御信号がハイ状態においてスイッチング素子61がオン状態に制御され、スイッチング制御信号がロー状態においてスイッチング素子61がオフ状態に制御される。従って、スイッチング制御信号がハイ状態の期間(第1期間D1)を1周期D(=D1+D2)で除した値「D1/D」がオンデューティDonに相当し、ロー状態の期間(第2期間D2)を1周期Dで除した値「D2/D」がオフデューティDoffに相当する。
【0026】
上述したように、整流回路43から出力される直流の電圧は、第1電圧V1である。
図4に示すように、仮想的に、この直流電圧の正極側には、第1ノードn1、第2ノードn2、第3ノードn3が設定でき、負極側には第4ノードn4が設定できる。第1ノードn1及び第4ノードn4は、それぞれ、整流回路43の出力側における正極側及び負極側に相当する。第2ノードn2は、チョッパ回路6の内部に設定され、第3ノードn3は、電気的負荷LDに接続される一対の受電出力端子対Tの内の一方である第1出力端子T1と同電位のノードとして設定されている。尚、受電出力端子対Tの内の他方である第2出力端子T2は、第4ノードn4に接続されている。つまり、第4ノードn4と第2出力端子T2とは同電位である。
【0027】
第1ノードn1(整流回路43)と第2ノードn2との間には、チョッパ回路6を構成するコイル60が直列に接続されている。つまり、コイル60の一端は、整流回路43に接続されている。また、第2ノードn2と第3ノードn3との間には、第2ノードn2から第3ノードn3への方向を順方向として出力ダイオード63が直列に接続されている。つまり、出力ダイオード63は、コイル60と第1出力端子T1との間に順方向接続されている。フリーホイールダイオード62を備えたスイッチング素子61は、第2ノードn2と第4ノードn4との間に接続されている。つまり、スイッチング素子61は、出力ダイオード63のアノード端子側と、第2出力端子T2との間に配置されている。
【0028】
スイッチング素子61がオフ状態のときには、整流回路43からチョッパ回路6を介して(コイル60及び出力ダイオード63を介して)出力コンデンサ64に電荷がチャージされ、出力電圧Voutが上昇する。スイッチング素子61がオン状態のときには、出力コンデンサ64に電荷がチャージされないため、電気的負荷LDにより電荷が消費された場合には、出力電圧Voutが低下する。制御部7は、出力電圧Voutが予め規定された目標電圧よりも低下した場合には、オンデューティを下げて出力電圧Voutを上昇させ、出力電圧Voutが目標電圧以上に上昇した場合には、オンデューティDonを上げて出力電圧Voutを下降させ、出力電圧Voutが予め規定された目標電圧となるようにチョッパ回路6を制御する。
【0029】
上述したように、本実施形態の非接触給電設備100は、複数の物品搬送車30が稼働する物品搬送設備200に備えられている。非接触給電設備100の起動時には、それぞれの物品搬送車30に搭載された受電装置4の出力電圧Voutがゼロであるから、全ての物品搬送車30の受電装置4の制御部7が出力電圧Voutを上げるようにスイッチング素子61を制御する。例えば、制御部7は、0[%]に近いオンデューティDonでスイッチング素子61を制御する。全ての物品搬送車30の受電装置4において、チョッパ回路6がこのように低いオンデューティDonで制御された場合、給電線3への電力の供給源である電源装置2の負荷が過剰となるおそれがある。本実施形態では、上述したように、制御部7は、電気的負荷LDに供給される供給電力が、設定電力Wt以下となるようにスイッチング素子61のオンデューティDonを制御している。詳細は後述するが、電気的負荷LDが電力を消費しているか否かに拘わらず、非接触給電設備100の起動時にも、この制御が有効に機能する。従って、給電線3への電力の供給源である電源装置2の負荷が高くなりすぎることが抑制される。
【0030】
1系統の給電システム1は、上述したように、複数の物品搬送車30に電力を供給している。そして、それぞれの物品搬送車30は、不図示の設備コントローラからの搬送指令に応じて、自律制御により物品を搬送する。その際、それぞれの物品搬送車30は、それぞれの走行部12の駆動モータ14や、物品支持部及び把持部のアクチュエータ等を駆動する。例えば、駆動モータ14等が駆動を開始する際には、定常時よりも大きな電流が流れ、電気的負荷LDの消費電力が高くなる。その他、物品搬送車30の動作状態や移動経路の状態等の様々な要因によって、物品搬送車30の電気的負荷LDが定常時よりも大きい電力を消費する場合がある。このような場合、それぞれの物品搬送車30の受電装置4の制御部7は、チョッパ回路6を制御するオンデューティDonが低くなるように制御する。この時、給電線3を介して受電装置4に供給される電力は通常時よりも大きくなり、給電線3に電力を供給する電源装置2の負荷も大きくなり、過負荷となる場合がある。
【0031】
本実施形態では、出力電圧Voutと目標電圧との関係に拘わらず、電気的負荷LDに供給される供給電力が設定電力Wt以下となるように制御部7がスイッチング素子61のオンデューティDonを制御する。つまり、制御部7は、出力電圧Voutが目標電圧より低下しても、供給電力が設定電力Wtよりも大きくならないように、スイッチング素子61のオンデューティDonを制御する。これにより、出力電圧Voutが目標電圧より低下した場合の電圧の上昇率が制限され、目標電圧に戻るまでの時間は長くなる。しかし、駆動モータ14等の駆動開始に伴う消費電力の増加は一時的なものであるから、出力電圧Voutの低下により、駆動モータ14の駆動が損なわれる程度は小さく、実用上問題はほとんど生じない。
【0032】
設定電力Wtは、例えば、電源装置2(給電装置5)から給電線3に供給される電力の上限値である給電上限電力Wmaxを、同一の給電システム1の給電線3からの給電を受ける物品搬送車30の台数である受電台数Nで除算した値に応じて設定されている。好ましくは、設定電力Wtは、下記式(1)に示すように、給電上限電力Wmaxを受電台数Nで除算した値に一致するように、或いは、給電上限電力Wmaxを受電台数Nで除算した値以下となるように、設定されている。
【0033】
Wt ≦ Wmax/N ・・・(1)
【0034】
設定電力Wtがこのように設定されることにより、例えば全ての物品搬送車30において要求される給電量が設定電力Wtとなった場合であっても、給電線3から受電台数Nの物品搬送車30に供給する電力の総量(=Wt・N)が、給電上限電力Wmaxを超えないようにすることができる。つまり、給電線3に電力を供給する電源装置2が過負荷となるような状態を回避することができる。
【0035】
ところで、設定電力Wtは、このように給電上限電力Wmaxと受電台数Nとの関係による規定に限らず、任意に設定されてもよい。本実施形態では、制御部7は、設定電力Wtの設定値を受け付ける受付部71と、受付部71により受け付けた設定値を設定する設定部72とを備える。受付部71と設定部72とを備えることにより、例えば物品搬送車30ごとに設定電力Wtの設定値を設定することができる。また、一度設定された設定値を、物品搬送車30ごとに変更することができる。このため、例えばハードウェア構成が共通する受電装置4を、電気的負荷LDの消費電力が異なる複数種の物品搬送車30に対して用いることができる。そして、そのような物品搬送車30を1つの給電システム1による給電対象として混在させることができる。従って、物品搬送設備200の運用の自由度を高くすることができる。
【0036】
また、例えば設備コントローラは、物品搬送車30の稼働状況に応じて、設定電力Wtを低くすることで、同じ給電線3から電力を供給される物品搬送車30の台数(受電台数N)を一時的に増加させるような運用も可能である。逆に、物品搬送車30の台数を一時的に減少させた場合には、設定電力Wtを高くすることもできる。このように設定電力Wtの値が可変であることにより、物品搬送設備200の運用の自由度を高くすることができる。
【0037】
本実施形態では、制御部7は、マイクコンピュータなどのプロセッサを中核として構成されている。そして、受付部71は、例えば、不図示の通信部とすることができる。この場合、設定電力Wtの設定値は、物品搬送設備200の不図示の設備コントローラや、非接触給電設備100のシステムコントローラ50等から、指令として送信されると好適である。また、受付部71は、マイクロコンピュータのポートとすることもできる。ポートには、例えば設定値を指定することができるスイッチ(不図示)が受電ユニット4uの基板上において接続されている。スイッチを介して指定された値は、ポートを介してプロセッサに読み込まれる。設定部72は、例えばプロセッサのレジスタであると好適である。受付部71に受け付けられた設定値は、レジスタに記憶される。レジスタに記憶された設定値を書き換えることによって、容易に設定電力Wtの設定値を変更することができる。
【0038】
当然ながら、ポートを介した設定と、通信部を介した設定との双方が可能であってもよい。例えば、ハードウェア構成が共通する受電装置4にスイッチが設けられ、当該スイッチによって指定された設定値が、物品搬送車30ごとに予め規定された設定電力Wtの初期値として、起動時に設定されてもよい。そして、初期値として設定されている設定電力Wtの設定値が、通信部を介して変更可能であってもよい。
【0039】
本実施形態では、制御部7は、電圧検出部9により検出された出力電圧Voutと電流検出部8により検出された出力電流Ioutとに基づいて、電気的負荷LDに供給される供給電力を演算する。
図4に示すように、本実施形態では、受電装置4は、チョッパ回路6に備えられたコイル60と第2ノードn2との間に、コイル60を流れる電流を検出する電流センサSaを備えている。
図4には、電流センサSaとして渦電流により生じる磁界を検出する磁気センサを用いた非接触のセンサを例示している。しかし、特別なセンサを用いることなく、シャント抵抗等を用いて、電流値を電圧に変換して電流が検出される形態であってもよい。制御部7は、コイル60を流れるコイル電流I1に基づいて、出力電流Ioutを推定し、オンデューティDonを演算する。
【0040】
設定電力Wtは、下記式(2)で示される。
【0041】
Wt = Vout・Iout ・・・(2)
【0042】
また、出力電流Ioutは、コイル60を流れるコイル電流I1と、スイッチング素子61のオンデューティ(Don =D1/(D1+D2))に基づいて、下記式(3)で表すことができる。
【0043】
Iout = I1・(1-Don) ・・・(3)
【0044】
式(2)より、出力電流Ioutは、下記式(4)で示される。
【0045】
Iout = Wt/Vout ・・・(4)
【0046】
式(3)、式(4)より、オンデューティDonは下記式(5)で求めることができる。
【0047】
Don = 1-(Iout/I1)
= 1-(Wt/(Vout・I1)) ・・・(5)
【0048】
上述したように、制御部7は、マイクロコンピュータ等のプロセッサを中核として構成されている。従って、コイル電流I1の取得や、式(3)から式(5)の演算は、規定された制御周期ごとに繰り返し実行される。例えば、式(3)で用いるオンデューティDonは、前回の制御周期で演算され、現在適用中のオンデューティDonであり、式(5)で求められるオンデューティDonは、現在の制御周期で演算され、次に適用されるオンデューティDonである。
【0049】
制御部7は、常時、このオンデューティDonによりスイッチング素子61をスイッチング制御してもよいが、式(5)で求められるオンデューティDonを下限としてスイッチング素子61を制御してもよい。例えば、通常は、出力電圧Voutに基づき、出力電圧Voutが予め規定された設定電圧よりも低い場合には、出力電圧Voutが高くなるようにオンデューティDonを低くし、出力電圧Voutが設定電圧よりも高い場合には、出力電圧Voutが低くなるように、オンデューティDonを高くする。この際、オンデューティDonの下限値を式(5)で求められるオンデューティDonとしてもよい。このように制限を受ける場合、電気的負荷LDに供給される供給電力は、設定電力Wt未満に制限される。
【0050】
尚、ここでは、コイル電流I1を検出する形態を例示したが、第3ノードn3と第1出力端子T1との間に電流センサを配置して、直接出力電流Ioutを検出する形態であってもよい。また、共振回路42を流れる電流(受電ユニット4u側の共振コンデンサ41を流れる電流)を検出して、出力電流Ioutを推定してもよい。当然ながら、これらの場合にもシャント抵抗を用いて電流が検出されてもよい。
【0051】
ところで、上述したように、コイル電流I1を検出して、出力電流Ioutを推定する形態では、非接触給電設備100の起動時など、電気的負荷LDには電力が供給されていないが、コイル電流I1が流れて出力コンデンサ64が充電されている状況においても、出力電圧Voutの上昇率を制限することができる。即ち、本実施形態では、制御部7は、電気的負荷LDに供給される供給電力が、設定電力Wt以下となるようにスイッチング素子61のオンデューティDonを制御している。しかし、電気的負荷LDが電力を消費しているか否かに拘わらず、非接触給電設備100の起動時にも、この制御が有効に機能する。従って、定常動作時における一時的な消費電力の上昇時と、非接触給電設備100の起動時とで共通の制御を行うことができ、システムの複雑化が抑制される。
【0052】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0053】
(1)上記においては、移動体として、天井に設置された走行レール20に対して吊り下げ支持された天井搬送式の物品搬送車30を例示して説明した。しかし、同様の非接触給電設備100を備えるものであれば、移動体は、床面に設定された移動経路10に沿って走行する地上搬送式の物品搬送車であってもよい。
【0054】
(2)上記においては、設定電力Wtが、給電上限電力Wmaxを受電台数Nで除算した値に応じて設定されている形態を例示した。しかし、設定電力Wtは、給電上限電力Wmax及び受電台数Nには関係なく設定されていることを妨げるものではない。例えば、受電装置4を構成する回路部品の定格値を越える電流が流れて受電装置4が過負荷とならないような値に設定電力Wtが設定されることを妨げるものではない。尚、設定電力Wtが設定されることにより、大きな電力が電気的負荷LDに供給されることを考慮して、受電装置4の定格値に余裕を持たせるようなマージン設計を抑制することもできる。その結果、受電装置4のコスト低減も行い易い。
【0055】
(3)上記においては、制御部7が受付部71と設定部72とを備えており、設定電力Wtを変更可能な形態を例示した。しかし、制御部7は、受付部71や設定部72を備えず、設定電力Wtが固定値であってもよい。
【0056】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した受電装置の概要について簡単に説明する。
【0057】
1つの態様として、移動体に搭載され、前記移動体の移動経路に沿って配置された給電線から非接触で電力の供給を受ける受電装置は、前記給電線に流れる交流電流により誘導起電力を生じさせるピックアップコイルと、前記ピックアップコイルに接続された整流回路と、前記整流回路により整流された電圧を調整して前記移動体の電気的負荷に供給するチョッパ回路と、前記チョッパ回路が備えるスイッチング素子のオンデューティを制御する制御部と、前記チョッパ回路の出力電圧を検出する電圧検出部と、前記チョッパ回路の出力電流を検出する電流検出部と、を備え、前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記出力電圧と前記電流検出部により検出された前記出力電流とに基づいて、前記電気的負荷に供給される供給電力が、予め規定された設定電力以下となるように前記スイッチング素子のオンデューティを制御する。
【0058】
本構成によれば、移動体の電気的負荷に供給される供給電力が設定電力以下となるようにチョッパ回路のスイッチング素子のオンデューティが制御されるため、設定どおりの台数の移動体を運用した場合であって、全ての移動体に電力を供給したとしても、給電線への電力の供給源が過負荷となるような状態を回避することができる。即ち、本構成によれば、一時的に複数の移動体において電気的負荷が高くなった場合であっても、給電線を介して適切に複数の移動体に電力を供給することができる。
【0059】
また、前記設定電力は、前記給電線に供給される電力の上限値である給電上限電力を、前記給電線からの給電を受ける前記移動体の台数である受電台数で除算した値に応じて設定されていると好適である。
【0060】
設定電力がこのように設定されることにより、例えば全ての移動体において要求される給電量が最大となった場合であっても、給電線から受電台数の移動体に供給する電力の総量が、給電上限電力を超えないようにすることができる。つまり、給電線に電力を供給する電源装置が過負荷となるような状態を回避することができる。従って、一時的に複数の移動体において電気的負荷が高くなった場合であっても、給電線を介して適切に複数の移動体に電力を供給することができる。
【0061】
また、前記制御部は、前記設定電力の設定値を受け付ける受付部と、前記受付部により受け付けた前記設定値が設定される設定部と、を備えると好適である。
【0062】
本構成によれば、それぞれの移動体ごとに設定電力の設定値を設定することができる。従って、例えばハードウェア構成が共通する受電装置を、電気的負荷の消費電力が異なる複数種の移動体に対して用いることができる。また、例えば移動体の稼働状況に応じて、設定電力を低くすることで、同じ給電線から電力を供給される移動体の台数を一時的に増加させるような運用も可能である。
【0063】
また、前記電気的負荷に接続される一対の出力端子を受電出力端子対として、前記チョッパ回路は、前記整流回路に接続されたコイルと、前記コイルと前記受電出力端子対の一方である第1出力端子との間に順方向接続されたダイオードと、をさらに備え、前記スイッチング素子は、前記ダイオードのアノード端子側と、前記受電出力端子対の他方である第2出力端子との間に配置され、前記電流検出部は、前記コイルを流れる電流を検出する電流センサを備え、前記電流センサにより検出された電流値と、前記スイッチング素子のオンデューティとに基づいて、前記受電出力端子対に出力される前記出力電流を推定すると好適である。
【0064】
コイルを流れる電流を検出することで、ピックアップコイルを流れる電流の状態も迅速且つ精度よく検出することができる。よって、設定電力を上限とする電力の制限も迅速且つ精度よく行うことができる。また、この構成によれば、コイルを流れる電流センサの他に、出力電流を検出するための電流センサを別途設けなくてもよいため、受電装置における電流センサの数を少なく抑えることができる。
【符号の説明】
【0065】
3 :給電線
4 :受電装置
6 :チョッパ回路
7 :制御部
8 :電流検出部
9 :電圧検出部
10 :移動経路
30 :物品搬送車(移動体)
40 :ピックアップコイル
43 :整流回路
60 :コイル
61 :スイッチング素子
63 :ダイオード
71 :受付部
72 :設定部
Don :オンデューティ
Iout :出力電流
LD :電気的負荷
N :受電台数
Sa :電流センサ
T :受電出力端子対
T1 :第1出力端子
T2 :第2出力端子
Vout :出力電圧
Wmax :給電上限電力
Wt :設定電力