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特許7548302無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240903BHJP
   C08J 5/08 20060101ALI20240903BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240903BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08L67/02
C08J5/08 CFD
C08K7/14
C08L69/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022515773
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041865
(87)【国際公開番号】W WO2022107715
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020192763
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 佳孝
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-039878(JP,A)
【文献】特開2000-026743(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090411(WO,A1)
【文献】特開2016-166276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)8~20質量部、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)1~7質量部、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)1~12質量部、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)5~12質量部、ポリカーボネート系樹脂(E)1~6質量部、ガラス繊維系強化材(F)50~70質量部及びエステル交換防止剤(G)0.05~2質量部を含有し、ここで、前記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)成分の合計が100質量部である無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート系樹脂(E)中のポリカーボネートは、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応によって得られ、
前記ガラス繊維系強化材(F)が、少なくとも繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)が1.3~8である扁平断面ガラス繊維(F1)40~55質量部、繊維長30~150μmのガラス短繊維ミルドファイバー(F2)5~20質量部を含み、
無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維系強化材(F)の重量平均繊維長Lwが300~700μmであり、
270℃、せん断速度10sec-1での溶融粘度が0.6kPa・s以上、1.5kPa・s以下である、無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
示差走査型熱量計(DSC)を用い、窒素気流下で20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、その温度で5分間保持したあと、10℃/分の速度で100℃まで降温させることにより得られる降温結晶化温度(TC2)が、160℃≦TC2<180℃の範囲にある請求項1に記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の樹脂成分の酸価が5~50eq/tonであることを特徴とする請求項1または2に記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維系強化材(F)の数平均繊維長Lnと重量平均繊維長Lwとが、1.1≦Lw/Ln≦2.4を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
サイドフィーダーを複数個所有する二軸押出機を用い、同一種のガラス繊維系強化材(F)を複数のサイドフィーダーから分割して投入することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂とガラス繊維等の無機強化材を含有する無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。詳しくは、高剛性、高強度でありながら成形品の無機強化材の浮き等による外観不良が少なく、かつムラのない均一なシボ外観や鏡面外観を有する成形品を得ることができる無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であり、さらに、長尺、薄肉成形品の成形においても、良流動性と低バリ性を兼ね備えた無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐薬品性等に優れ、自動車部品、電気・電子部品、家庭雑貨品等に幅広く使用されている。中でもガラス繊維等の無機強化材で強化されたポリエステル樹脂組成物は、剛性、強度及び耐熱性が飛躍的に向上し、特に剛性に関しては無機強化材の添加量に応じて向上することが知られている。
【0003】
しかしながら、ガラス繊維等の無機強化材の添加量が多くなると、ガラス繊維等の無機強化材が成形品の表面に浮き出しやすくなり、表面光沢が望まれる成形品においては、表面光沢低下が、艶消し表面の成形品においては、シボ外観不良が問題となる場合がある。
特にポリブチレンテレフタレートのような結晶化速度が速いポリエステル樹脂は、成形時の結晶化に伴い、金型への転写性が悪いため、満足する外観を得ることは非常に困難である。
【0004】
一方、良好なシボ外観を得る方法として、イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートやポリカーボネート樹脂を利用する方法(例えば特許文献1、2)が提案されているが、特許文献1では、高い機械的強度や高剛性を得るために充填量を増量していくと外観が損なわれる不具合があり、特許文献2では、イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートやポリカーボネート樹脂の配合量が多量であることが必要であるため、成形安定性や成形サイクルの点で満足できるものではなかった。
これらの欠点を改善したものとして、特許文献3が提案されたが、高剛性が要求される用途においては剛性が不足し、剛性を高めようと強化材を増量すると外観が低下する、さらには成形条件の幅が非常に狭く安定して良品が得にくい等の欠点が認められていた。
【0005】
近年、成形品の薄肉化・長尺化が進んでおり、さらなる高剛性化(曲げ弾性率が20GPaを超える)に加え、外観はこれまでと同等以上の品質が求められており、これらの品質バランスを達成するために、扁平ガラスとミルドファイバーを併用し、60質量%を超えるガラス繊維系強化材を含有するポリエステル樹脂組成物が特許文献4に提案されている。しかし、機械的強度、外観、ソリなどの品質にバラツキが大きく、品質を安定化させることが重要な課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-92005号公報
【文献】特開2008-120925号公報
【文献】国際公開第2015/008831号
【文献】特開2017-39878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高剛性(曲げ弾性率が20GPaを超える)、高強度でありながら成形品の無機強化材の浮き等による外観不良及びソリ変形が少なく、かつムラのない均一なシボ外観を有する成形品を得ることができ、さらには長時間の生産においても機械的強度、外観、ソリなどの品質にバラツキが小さく安定した品質を確保できる無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するためにポリエステル樹脂組成物の構成と特性を鋭意検討した結果、長時間の生産における機械的強度、外観、ソリなどの品質バラツキの原因は、ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維長と関係しており、特定の範囲の繊維長にすることで上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1] ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)8~20質量部、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)1~7質量部、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)1~12質量部、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)5~12質量部、ポリカーボネート系樹脂(E)1~6質量部、ガラス繊維系強化材(F)50~70質量部及びエステル交換防止剤(G)0.05~2質量部を含有し、ここで、前記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)成分の合計が100質量部である無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、
前記ガラス繊維系強化材(F)が、少なくとも繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)が1.3~8である扁平断面ガラス繊維(F1)40~55質量部、繊維長30~150μmのガラス短繊維ミルドファイバー(F2)5~20質量部を含み、
無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維系強化材(F)の重量平均繊維長Lwが200~700μmであり、
270℃、せん断速度10sec-1での溶融粘度が0.6kPa・s以上、1.5kPa・s以下である無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[2] 示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度(TC2)が、160℃≦TC2<180℃の範囲にある[1]に記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[3] 前記無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の樹脂成分の酸価が5~50eq/tonであることを特徴とする[1]または[2]に記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[4] 前記無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維系強化材(F)の数平均繊維長Lnと重量平均繊維長Lwとが、1.1≦Lw/Ln≦2.4を満たすことを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[5] サイドフィーダーを複数個所有する二軸押出機を用い、同一種のガラス繊維系強化材(F)を複数のサイドフィーダーから分割して投入することを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス繊維系強化材が多量に配合された樹脂組成物においても、金型内での樹脂組成物の固化(結晶化)速度(TC2が代替メジャーとなる)を特定の範囲に設定することにより、成形品表面のガラス繊維系強化材の浮き出しを抑制できるため、成形品の外観を大きく改善させることができる。さらに、特定のガラス繊維系強化材を特定の範囲で含有することにより、成形サイクルの大幅な増加をもたらすことなく、高強度・高剛性でありながら良好な鏡面外観の成形品を得ることができる上に、シボのある成形品に関して、漆黒感のある低輝度(グロス)でかつシボムラのない、非常に意匠性に優れた成形品を、長時間の生産でも安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に説明する、無機強化熱可塑性ポリステル樹脂組成物を構成する各成分の含有量は質量部で記載し、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)成分の合計が100質量部とした時の質量部である。本発明の無機強化熱可塑性ポリステル樹脂組成物は、原料として用いた各成分の配合量(質量割合)が、そのまま無機強化熱可塑性ポリステル樹脂組成物中の各成分の含有量(質量割合)となる。
【0012】
本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とは、本発明の樹脂組成物中の全ポリエステル樹脂中で主要成分の樹脂である。全ポリエステル樹脂中で、最も含有量が多いことが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)としては特に制限されないが、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなるホモ重合体が好ましく用いられる。また、成形性、結晶性、表面光沢等を損なわない範囲内において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を構成する全酸成分を100モル%、全グリコール成分を100モル%とした時、他の成分を5モル%程度まで共重合することができる。他の成分としては、下記で説明する共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)に用いられる成分を挙げることができる。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の分子量としては、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が、0.5~0.7dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.6~0.7dl/gの範囲である。0.5dl/g未満の場合は、樹脂のタフネス性が大きく低下する傾向があり、また流動性が高すぎることによりバリが発生しやすくなる傾向がある。一方、0.7dl/gを超えると、本組成物では流動性が低下する影響でシボ成形品に対し均一な圧力がかかりにくくなるため、良好なシボ外観を得ることが困難になる(成形条件幅が狭くなる)。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の含有量は、8~20質量部であり、好ましくは10~20質量部であり、より好ましくは13~18質量部である。この範囲内にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を配合することにより、各種特性を満足させることが可能となる。
【0015】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート樹脂(B)は、基本的にエチレンテレフタレート単位のホモ重合体である。また、各種特性を損なわない範囲内において、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を構成する全酸成分を100モル%、全グリコール成分を100モル%とした時、他の成分を5モル%程度まで共重合することができる。他の成分としては、下記で説明する共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)に用いられる成分を挙げることができる。他の成分としては、重合時にエチレングリコールが縮合して生成したジエチレングリコールも含む。
【0016】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)の分子量としては、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が0.4~1.0dl/gであることが好ましく、0.5~0.9dl/gであることがより好ましい。0.4dl/g未満では樹脂の強度が低下する傾向があり、1.0dl/gを超えると樹脂の流動性が低下する傾向がある。
【0017】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)の含有量は、1~7質量部であり、好ましくは2~7質量部であり、より好ましくは3~6質量部である。この範囲内にポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を配合することにより各種特性を満足させることが可能となる。
【0018】
本発明における共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)は、構成する全酸成分を100モル%、構成する全グリコール成分を100モル%としたとき、1,4-ブタンジオールが80モル%以上かつ、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールの合計が120~180モル%を占める樹脂である。共重合成分として、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、及び2-メチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を共重合成分として含むことができる。中でも共重合成分として好ましいのはイソフタル酸である。共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)を構成する全酸成分を100モル%としたとき、イソフタル酸の共重合割合は20~80モル%が好ましく、20~60モル%がより好ましい。共重合割合が20モル%未満では、金型への転写性が劣り、充分な外観が得にくい傾向があり、共重合量が80モル%を超えると、成形サイクルの低下、離型性の低下を引き起こすことがある。
【0019】
共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の分子量としては、具体的な共重合組成により若干異なるが、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が0.4~1.5dl/gであることが好ましく、0.4~1.3dl/gがより好ましい。0.4dl/g未満ではタフネス性が低下する傾向があり、1.5dl/gを超えると流動性が低下する傾向がある。
【0020】
共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の含有量は、1~12質量部であり、好ましくは2~10質量部であり、より好ましくは2~7質量部であり、さらに好ましくは3~6質量部である。1質量部未満であると、ガラス繊維等の浮きや金型転写不良による外観不良が目立つようになり、12質量部を超えると、成形品の外観は良好となるものの、成形サイクルが長くなってしまうため好ましくない。
【0021】
本発明における共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)は、構成する全酸成分を100モル%、構成する全グリコール成分を100モル%としたとき、エチレングリコールが40モル%以上かつ、テレフタル酸とエチレングリコールの合計が80~180モル%を占める樹脂である。共重合成分として、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、及び2-メチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を共重合成分として含むことできる。共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)は、非晶性であることが好ましい。中でも共重合成分として各種特性の観点から好ましいのは、ネオペンチルグリコール、もしくはネオペンチルグリコール及びイソフタル酸の併用である。共重合成分として、1,4-ブタンジオールは20モル%以下であることが好ましい。
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)を構成する全グリコール成分を100モル%としたとき、ネオペンチルグリコールの共重合割合は20~60モル%が好ましく、25~50モル%がより好ましい。
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)を構成する全酸成分を100モル%としたとき、イソフタル酸の共重合割合は20~60モル%が好ましく、25~50モル%がより好ましい。
【0022】
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)の分子量としては、具体的な共重合組成により若干異なるが、還元粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定)が0.4~1.5dl/gであることが好ましく、0.4~1.3dl/gがより好ましい。0.4dl/g未満ではタフネス性が低下する傾向があり、1.5dl/gを超えると流動性が低下する傾向がある。
【0023】
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)の含有量は、5~12質量部であり、好ましくは6~12質量部であり、より好ましくは7~10質量部である。5質量部未満であると、ガラス繊維等の浮きによる外観不良が目立つようになり、12質量部を超えると、成形品の外観は良好となるが、成形サイクルが長くなってしまうため好ましくない。
【0024】
本発明で用いられるポリカーボネート系樹脂(E)中のポリカーボネートは、溶剤法、すなわち、塩化メチレン等の溶剤中で公知の酸受容体、分子量調整剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応または二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応によって製造することができる。ここで、好ましく用いられる二価フェノールとしてはビスフェノール類があり、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、つまりビスフェノールAがある。また、ビスフェノールAの一部または全部を他の二価フェノールで置換したものであっても良い。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンのような化合物やビス(3,5-ジブロモー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノール類をあげることができる。ポリカーボネートは、二価フェノールを1種用いたホモポリマーまたは2種以上用いたコポリマーであっても良い。ポリカーボネート系樹脂(E)は、ポリカーボネートのみからなる樹脂が好ましく用いられる。ポリカーボネート系樹脂(E)としては、本発明の効果を損なわない範囲(20質量%以下)でポリカーボネート以外の成分(例えばポリエステル成分)を共重合した樹脂であっても良い。
【0025】
本発明で用いられるポリカーボネート系樹脂(E)は特に高流動性のものが好ましく、300℃、荷重1.2kgで測定したメルトボリュームレート(単位:cm/10min)が20~100のものが好ましく用いられ、より好ましくは25~95、さらに好ましくは30~90である。20未満のものを用いると流動性の大幅な低下を招き、ストランド安定性が低下したり、成形性が悪化したりする場合がある。メルトボリュームレートが100超では、分子量が低すぎることにより物性低下を招いたり、分解によるガス発生等の問題が起こりやすくなる。
【0026】
本発明で用いられるポリカーボネート系樹脂(E)の含有量は、1~6質量部であり、好ましくは2~5質量部である。1質量部未満であると、シボ外観に対する改善効果が少なく、6質量部を超えると結晶性の低下による成形サイクルの悪化や、流動性の低下による外観不良等が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0027】
本発明におけるガラス繊維系強化材(F)は、平均繊維径4~20μm程度で、カット長30~150μm程度のガラス短繊維であるミルドファイバー、平均繊維径1~20μm程度で、繊維長1~20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。円形断面形状のガラス繊維としては、平均繊維径が4~20μm程度、カット長が2~6mm程度であり、ごく一般的なものを使用することができる。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円形、略長円形、略繭形であるものをも含み、偏平度が1.3~8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1~20μm、長径2~100μm程度のものを使用できる。これらのガラス繊維は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても良い。
ガラス繊維系強化材(F)は、外観、弾性率の観点から繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)が1.3~8である扁平断面ガラス繊維(F1)が好ましく、ガラス浮きの抑制の観点から繊維長30~150μmのガラス短繊維ミルドファイバー(F2)が好ましい。本発明では、ガラス繊維系強化材(F)として、扁平断面ガラス繊維(F1)とガラス短繊維ミルドファイバー(F2)を併用する。必要に応じて、さらに円形断面形状のガラス繊維を用いても良い。
ガラス繊維の平均繊維径、平均繊維長は電子顕微鏡観察にて測定することができる。
【0028】
これらのガラス繊維は、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物及びエポキシ系化合物等の、従来公知のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましく使用することが出来る。
【0029】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、目的に応じて、また特性を損なわない範囲において、上記のガラス繊維以外の無機強化材を併用することができる。具体的には、一般的に市販されている、マイカ、ワラストナイト、針状ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ等が挙げられ、これらは一般的に公知のカップリング剤で処理されているものでも問題なく使用できる。ガラス繊維以外の無機強化材を併用した場合、本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の各成分の含有量を考える際、ガラス繊維とそれ以外の無機強化材を合わせた量をガラス繊維系強化材(F)の含有量とする。ガラス繊維とそれ以外の無機強化材を併用する場合、ガラス繊維系強化材(F)中、ガラス繊維は50質量%以上使用することが好ましく、70質量%以上使用することがより好ましく、80質量%以上使用することがさらに好ましい。ただし、無機強化材としては、大きな核剤効果を発現する(たとえばタルクのような)ものは、少量の添加であっても本発明において規定している材料の降温結晶化温度(TC2)の範囲を超えてくるため、好ましくない。
【0030】
本発明におけるガラス繊維系強化材(F)の含有量は、剛性・強度の観点から50~70質量部であり、好ましくは60~67質量部、より好ましくは62~66質量部である。
この場合、ガラス繊維系強化材(F)として、少なくとも繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)が1.3~8である扁平断面ガラス繊維(F1)40~55質量部、及び繊維長30~150μmのガラス短繊維ミルドファイバー(F2)5~20質量部を含む。扁平断面ガラス繊維(F1)は、42~53質量部が好ましく、45~50質量部がより好ましい。ガラス短繊維ミルドファイバー(F2)は、10~18質量部が好ましく、12~17質量部がより好ましい。
【0031】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ガラス繊維系強化材(F)として、扁平断面ガラス繊維(F1)及びガラス短繊維ミルドファイバー(F2)を上記の範囲で用いることにより、無機強化熱可塑性ポリステル樹脂組成物を射出成形して得られる成形品のシャルピー衝撃強度を20kJ/m以上にすることが可能である。ガラス繊維系強化材(F)をこの構成比にすることで、高い機械特性を持ちながら、良好な外観をも得ることができる。(良好な外観が維持できる範囲で)シャルピー衝撃強度は高いほどよく、好ましくは22kJ/m以上である。
【0032】
本発明で用いられるエステル交換防止剤(G)とは、その名のとおり、ポリエステル系樹脂のエステル交換反応を防止する安定剤である。ポリエステル樹脂同士のアロイ等では、製造時の条件をどれほど適正化しようとしても、熱履歴が加わることによりエステル交換は少なからず発生している。その程度が非常に大きくなると、アロイにより期待する特性が得られなくなってくる。特に、ポリブチレンテレフタレートとポリカーボネートのエステル交換はよく起こるため、この場合はポリブチレンテレフタレートの結晶性が大きく低下してしまうので好ましくない。本発明では、(G)成分を添加することにより、特にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とポリカーボネート系樹脂(E)とのエステル交換反応が防止され、これにより適切な結晶性を保持することができる。
エステル交換防止剤(G)としては、ポリエステル系樹脂の触媒失活効果を有するリン系化合物を好ましく用いることができ、例えば、株式会社ADEKA製「アデカスタブAX-71」が使用可能である。
【0033】
本発明で用いられるエステル交換防止剤(G)の添加量は、0.05~2質量部であり、0.1~1質量部が好ましい。0.05質量部未満の場合は求めるエステル交換防止性能が発揮されない場合が多く、逆に2質量部を超えて添加してもその効果の向上はあまり認められないばかりか、逆にガス等を増やす要因となる場合がある。
【0034】
本発明の無機強化熱可塑性ポリステル樹脂組成物は、ガラス繊維系強化材(F)を50~70質量部含有するため、無機強化熱可塑性ポリステル樹脂組成物を射出成形して得られる成形品の曲げ弾性率が20GPaを超えることが可能である。
【0035】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度をTC2とするとき、この値が160℃以上180℃未満の範囲にあることを特徴とする。なお、上記TC2とは、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素気流下で20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、その温度で5分間保持したあと、10℃/分の速度で100℃まで降温させることにより得られるサーモグラムの結晶化ピークのトップ温度である。TC2が180℃以上になると、ポリエステル樹脂組成物の結晶化速度が速くなり金型内での結晶化が早く起こるため、特に無機強化材を多く含む組成では射出圧力の伝播速度が低下する傾向になり、射出物と金型との密着が不十分になることや結晶化収縮の影響により、ガラス繊維等の無機強化材が成形品表面で目立つ、いわゆるガラス浮き等が発生し、成形品の外観が悪くなってしまう。その場合、金型温度を120~130℃と高温にして成形品の固化を遅延させる方法が考えられるが、この方法では金型内で射出圧力が高い中心部分では表面光沢、外観が改善されるが、射出圧力が加わりにくい末端部分では、ガラス浮き等の不良が発生しやすくなるため、均一に良好な外観を得られにくい。また金型から取り出された後の成形品の温度が高くなるため、成形品のソリが大きくなってしまう。
逆に、TC2が160℃未満の場合は、結晶化速度が遅くなりすぎ、結晶化が遅いゆえに金型への張り付き等による離型不良が発生したり、突き出し時に変形が起こったりすることがある。また、成形時の圧力によりシボのより奥深くまで樹脂が入り込むことが容易になるため、金型内の樹脂の収縮時や離型の際にシボがずれたりすることでシボの深さが不均一になりやすくなり、良好なシボ外観を得ることが困難になってくる。本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、これらの成形時懸念点を鑑み、最適なTC2となるよう調整を実施したものであるため、金型温度が100℃以下でも良好な外観と成形性を得ることができる。
TC2は、163℃以上、177℃以下がより好ましく、165℃以上、175℃以下がさらに好ましい。
【0036】
TC2の調整はポリエチレンテレフタレート樹脂(B)や共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)の含有量の調整によっても可能であるが、これらの成分は収縮率や離型性等にも大きく影響するため、これらの調整でTC2を狙いの範囲にしても良好な外観が得られる成形条件幅が狭くなったり、良好な外観が得られても離型性が悪化する等の問題があった。本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、TC2を共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の特定の含有量で調整することにより、良好な外観が得られる成形条件幅が極めて広く、他特性に悪影響を与えずに成形が可能となることを見出した。本発明によれば、無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物100質量%中に、ガラス繊維系強化材(F)を60質量%を超えて含む、ガラス浮きが極めて生じやすい組成においても、共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)の配合効果により広い成形条件幅で良好な外観を得ることができる。
【0037】
したがって、本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いて、金型温度90℃程度で成形すると、幅広い射出速度、幅広い成形条件で良好な表面外観を得ることが可能であり、特にシボ加工の施した金型に対して、非常に漆黒感のある、シボムラのない均一な外観を有した成形品を得ることができる。
【0038】
ここで、本発明における無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維系強化材(F)の重量平均繊維長Lwは200~700μmであり、230~700μmが好ましく、300~700μmがより好ましく、500~700μmがさらに好ましい。重量平均繊維長Lwが上記範囲であれば、機械的強度は繊維長の影響をそれほど受けず、機械的特性と流動性のバランスの優れた成形品が得られる。また、製造工程で吐出圧が安定すること、ダイ先端部のガラス繊維詰まりが起こりにくくなることからストランド切れを抑制することができる。一方、Lwが200μm未満では機械的強度が低下することに加え、溶融粘度低下に伴い成形時にバリが発生する。また、Lwが700μmを超えると、生産安定性が低下することに加え、樹脂組成物中のガラス繊維の分散性も低下するため、機械的強度や外観、ソリなどの品質にバラツキが生じる。
【0039】
また、本発明における無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維系強化材(F)の数平均繊維長Lnと重量平均繊維長Lwは、1.1≦Lw/Ln≦2.4を満たすことが好ましい。ガラス短繊維ミルドファイバー(F2)を所定量用いているため、Lw/Lnが1.1未満になることは扁平断面ガラス繊維(F1)の繊維長が必要以上に短くなることを意味するため好ましくない。一方、2.4よりも大きい場合、成形品の外観が悪化する傾向にある。Lw/Lnは、1.2以上、2.3以下を満たすことがより好ましい。
【0040】
その他、本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、本発明としての特性を損なわない範囲において、公知の各種添加剤を含有させることができる。公知の添加剤としては、例えば顔料等の着色剤、離型剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、染料等が挙げられる。これら各種添加剤は、無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を100質量%とした時、合計で5質量%まで含有させることができる。つまり、無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物100質量%中、前記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)の含有量の合計は95~100質量%であることが好ましい。
【0041】
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミド等が挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。
【0042】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の270℃、せん断速度10sec-1での溶融粘度は0.6kPa・s以上1.5kPa・s以下であり、好ましくは0.7kPa・s以上1.4kPa・s以下、より好ましくは0.8kPa・s以上1.3kPa・s以下である。0.6kPa・s未満であると射出成形が困難になる。一方、1.3kPa・sよりも大きいと成形品にバリが発生しやすくなる。この溶融粘度を満たすためには、上述した組成物の配合とすることが重要である。
【0043】
本発明の無機強化ポリエステル系樹脂組成物に含まれる樹脂成分の酸価は、5~50eq/tonであることが好ましい。前記酸価はガラス繊維との接着性や、滞留時のガス発生の度合いに関連する。さらに、前記酸価は成形品の靱性に影響するため、薄肉・長尺成形品においては非常に重要になる。前記酸価が5eq/tonよりも低いとガラス繊維との接着性が低下するため靱性の低下や、ガラス繊維の樹脂組成物中の分散性が低下して品質バラツキが生じやすくなる。一方、50eq/tonより高いと高温下で樹脂を滞留させた際にガスが発生しやすくなり、成形品外観を悪化させる傾向がある。前記酸価は、8~45eq/tonであることがより好ましい。
【0044】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を製造する方法としては、上述した各成分及び必要に応じて各種安定剤や顔料等を混合し、溶融混練することによって製造できる。溶融混練方法は当業者に周知のいずれの方法を用いることが可能であり、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等を使用することができる。中でも二軸押出機を使用することが好ましい。一般的な溶融混練条件としては、二軸押出機ではシリンダー温度は240~290℃、混練時間は2~15分である。
【0045】
また、ガラス繊維系強化材(F)のみ、または必要に応じてその他の成分をサイドフィーダーから供給し、溶融混練することもできる。スクリューエレメントは、メインフィーダーからサイドフィーダーの間に逆ディスクとニーディングディスクを組み合わせ、高せん断をかけることによりポリエステル樹脂を溶融させることが好ましく、さらに順フライトで溶融ポリエステル樹脂を送り、サイドフィーダーから供給されるガラス繊維系強化材(F)と合流させ、低せん断の状態で混練することが好ましい。続いて、低せん断の状態でダイスから溶融ポリエステル樹脂組成物を押出し、水冷させることにより、ポリエステル樹脂組成物のストランドが得られる。得られたポリエステル樹脂組成物を、例えば、80℃、12時間の条件で真空乾燥し、成形することにより、成形品を得ることができる。
【0046】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、二軸押出機を用いて、同一種のガラス繊維系強化材(F)を異なるフィーダーから分割して投入することが好ましい。
また、本発明では、サイドフィーダーを複数個所に設けることができる。上流のサイドフィーダーから供給したガラス繊維系強化材(F)の繊維長は、下流のサイドフィーダーから供給したガラス繊維系強化材(F)の繊維長よりも短くなるが、各サイドフィーダーへのガラス繊維系強化材(F)の供給量を変えることにより、その他の押出条件を変更することなく、組成物中の繊維長を所定範囲に調整することが容易になる。なお、元フィーダー(メインフィーダー)と1つのサイドフィーダーから供給する方法と比べて、上記方法の方が繊維長分布を制御しやすいため好ましい。
【0047】
ガラス繊維系強化材(F)を供給するサイドフィーダーの位置は、ガラス繊維系強化材(F)の量、樹脂への混ざりやすさ、強化材繊維長などの狙いに応じて、任意に調整することができる。本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造には、メインフィーダーから、メインフィーダーとダイスまでの距離の4分の1の長さ以降に第一サイドフィーダーを設けることが、繊維長が短くなり過ぎないために好ましい。例えば、バレル数12のTEM75BS二軸押出機(東芝機械社製、バレル数12、スクリュー径75mm、L/D=45)では、1番目のバレルにメインフィーダーを設け、さらに4~7番目のバレルに第一サイドフィーダー、8~11番目のバレルに第二サイドフィーダーを設置すると、繊維長の調整が容易になるため好ましい。例えば、第一サイドフィーダーからガラス短繊維ミルドファイバー(F2)を投入し、扁平断面ガラス繊維(F1)は第一サイドフィーダーと第二サイドフィーダーからそれぞれ質量比で40/60~70/30の量を投入すると好適な繊維長への調整が容易になる。
つまり、本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法として、サイドフィーダーを複数個所有する二軸押出機を用い、同一種のガラス繊維系強化材(F)を複数のサイドフィーダーから分割して投入することが好ましい。この際、ガラス繊維系強化材(F)は、メインフィーダーから投入することなく、複数のサイドフィーダーからのみ投入することが好ましい。
【0048】
本発明の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、公知の成形方法により成形体とすることができる。成形方法は特定されるものではなく、射出成形、ブロー成形、押出成形、発泡成形、異形成形、カレンダー成形、その他各種成形方法において好適に使用できる。中でも射出成形が好ましい。
【実施例
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0050】
(1)ポリエステル樹脂の還元粘度
0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。(単位:dl/g)
(2)降温結晶化温度(TC2)
示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素気流下で20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、その温度で5分間保持したあと、10℃/分の速度で100℃まで降温させることにより得られるサーモグラムの結晶化ピークのトップ温度で求めた。
【0051】
(3)成形品鏡面外観
シリンダー温度275℃、金型温度90℃にて、18mm×180mm×2mmの短冊状成形品を射出成形により成形する際、充填時間が1秒になる射出速度範囲で成形(成形条件A)した成形品Aと充填時間が2.2秒になる射出速度範囲で成形(成形条件B)した成形品Bとの外観を、目視により観察した。なお保圧は75MPaとした。「○」、「△」であれば、特に問題の無いレベルである。
○:表面にガラス繊維等の浮きによる外観不良がなく、良好
△:一部(特に成形品の末端部分等)に、若干の外観不良が発生している
×:成形品全体に外観不良が発生している
【0052】
(4)成形品シボ外観
上記(3)の条件で成形した成形品のシボ外観を、目視により観察した。シボは深さ15μmのナシ地状にシボ仕上げされた金型を用いた。「○」、「△」であれば、特に問題の無いレベルである。
○:表面にシボのずれによる外観不良が全くなく、良好
△:成形品のごく一部にシボのずれによる外観不良が発生しており、角度を変えて観察すると白く見えたりする部分が存在する
×:成形品に全体的にシボのずれによる外観不良が発生しており、角度を変えて観察すると白く見えたりする
【0053】
(5)離型性
上記(3)の条件で成形を実施する際、射出工程終了後の冷却時間を5秒に設定したときの離型性で判定を実施した(トータル成形サイクルは17秒)。「○」、「△」であれば、特に問題の無いレベルである。
○:離型も問題なく、連続成形が容易に可能である
△:数ショットに一回離型不良が発生するが、連続成形は可能
×:毎ショット離型不良が発生し、連続成形が不可能
【0054】
(6)バリ発生量
上記(3)の条件で成形した成形品Aに発生する流動末端部のバリの最大値を顕微鏡を用いて測定した。
【0055】
(7)曲げ強度、曲げ破壊ひずみ
ISO-178に準じて測定した。試験片は、シリンダー温度265℃、金型温度90℃の条件で射出成形した。
(8)シャルピー衝撃強度
ISO-179に準じて測定した。試験片は、シリンダー温度265℃、金型温度90℃の条件で射出成形した。
【0056】
(9)数平均繊維長、重量平均繊維長
無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における残存ガラス繊維長を以下の方法で測定した。
ガラス繊維高充填材料ではガラス繊維同士の干渉が多く測定時にガラス繊維が破損しやすく正確な繊維長が求めにくいので、本発明ではガラス繊維長を正確に測定するため溶融混練して得られたペレットを650℃にて2時間強熱しガラス繊維を破損することなくガラス繊維を灰分として取り出し、得られたガラス繊維を水に浸し、分散したガラス繊維をプレパラート上に取り出し、無作為に選択した1000個以上のガラス繊維をデジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製KH-7700)で80倍にて観察し、数平均および重量平均の繊維長を求め、それぞれ、数平均繊維長、重量平均繊維長とした。なお、重量平均繊維長(Lw)は、円周率(π)、繊維長(Li)、密度(ρi)、繊維径(ri)を有する繊維の本数を(Ni)とすると、次式により算出できる。
Lw=Σ(Ni×π×ri×Li×ρi)/Σ(Ni×π×ri×Li×ρi)
繊維径および密度が一定の場合は、Lwは次式により算出できる。
Lw=Σ(Ni×Li)/Σ(Ni×Li)
【0057】
(10)溶融粘度
ペレット状の樹脂組成物について、東洋精機製作所社製キャピログラフ1Bを用いて、ISO11443に準拠して、炉体温度270℃、キャピラリー[1mm(内径φ)×30mm(長さL)]を用い、剪断速度10sec-1にて溶融粘度を測定した。
【0058】
(11)酸価
ポリエステル樹脂の酸価;
ベンジルアルコール25mlにポリエステル樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの濃度0.01モル/lのベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。指示薬はフェノールフタレイン0.10gをエタノール50mL及び水50mLの混合液に溶解したものを使用した。
樹脂組成物中の樹脂成分の酸価;
ベンジルアルコール25mlに樹脂組成物0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの濃度0.01モル/lのベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。指示薬はフェノールフタレイン0.10gをエタノール50mL及び水50mLの混合液に溶解したものを使用した。上記「(9)数平均繊維長、重量平均繊維長」の測定の際、無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の質量と灰分の質量を測っておき、樹脂組成物中に含まれる樹脂成分の質量当たりに換算した。
【0059】
(12)ストランド切れ
ペレットの生産を24時間連続で行った際のペレット生産中に発生したストランド切れ回数を下記基準で評価した。
〇:10回未満
×:10回以上
【0060】
実施例、比較例において使用した配合成分を次に示す。
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
(A1)ポリブチレンテレフタレート:東洋紡社製 還元粘度0.58dl/g、酸価24eq/ton
(A2)ポリブチレンテレフタレート:東洋紡社製 還元粘度0.58dl/g、酸価104eq/ton
(A3)ポリブチレンテレフタレート:東洋紡社製 還元粘度0.58dl/g、酸価4eq/ton
(A4)ポリブチレンテレフタレート:東洋紡社製 還元粘度0.58dl/g、酸価126eq/ton
[ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)]
(B)ポリエチレンテレフタレート:東洋紡社製 還元粘度0.63dl/g、酸価20eq/ton
【0061】
[共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂(C)]
(C1)共重合ポリブチレンテレフタレート:TPA/IPA//1,4-BD=70/30//100(モル%)の組成比の共重合体、東洋紡社製、東洋紡バイロン(登録商標)の試作品、還元粘度0.73dl/g、酸価8eq/ton
(C2)共重合ポリブチレンテレフタレート:TPA/IPA//1,4-BD=45/55//100(モル%)の組成比の共重合体、東洋紡社製、東洋紡バイロン(登録商標)の試作品、還元粘度0.76dl/g、酸価7eq/ton
[共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(D)]
(D1)共重合ポリエチレンテレフタレート:TPA//EG/NPG=100//70/30(モル%)の組成比の共重合体、東洋紡社製、東洋紡バイロン(登録商標)の試作品、還元粘度0.83dl/g、酸価6eq/ton
(D2)共重合ポリエチレンテレフタレート:TPA/IPA//EG/NPG=50/50//50/50(モル%)の組成比の共重合体、東洋紡社製、東洋紡バイロン(登録商標)の試作品、還元粘度0.53dl/g、酸価10eq/ton
(略号はそれぞれ、TPA:テレフタル酸、IPA:イソフタル酸、1,4-BD:1,4-ブタンジオール、EG:エチレングリコール、NPG:ネオペンチルグリコールの各成分を示す。)
【0062】
[ポリカーボネート系樹脂(E)]
(E1)ポリカーボネート:住化スタイロンポリカーボネート社製、「カリバー301-40」、メルトボリュームレート(300℃、荷重1.2kg)40cm/10min
【0063】
[ガラス繊維系強化材(F)](繊維径、繊維長は電子顕微鏡観察による測定値)
(F1)扁平断面ガラス繊維:日東紡社製「CSG3PL830S」、偏平断面、長径と短径の比:2(短径10μm、長径20μm)、平均繊維長3mm
(F2)ガラス短繊維ミルドファイバー:セントラルグラスファイバー社製「EFH-100-31」、ミルドファイバー(シラン処理)、平均繊維長100μm、平均繊維径11μm
【0064】
(G)エステル交換防止剤:ADEKA社製「アデカスタブAX-71」
【0065】
実施例、比較例の無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、上記原料を表1に示した配合比率(質量部)に従い計量して、押出機の上流側から1番目のバレルにメインフィーダーを設け、さらに5番目のバレルに第一サイドフィーダー、9番目のバレルに第二サイドフィーダーを有する、TEM75BS二軸押出機(東芝機械社製、バレル数12、スクリュー径75mm、L/D=45)でシリンダー温度270℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練した。ガラス繊維系強化材(F)以外の原料はホッパー(メインフィーダー)から二軸押出機へ投入し、ガラス繊維系強化材(F)は、それぞれ表1記載のフィーダーから投入し、24時間連続生産したときのストランド切れの回数を確認した。また、得られた無機強化熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のペレットは、乾燥後、射出成形機にて各種評価用サンプルを成形した。評価結果は表1に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から明らかなように、本発明の範囲内にある実施例1~10では、成形条件A、成形条件Bのいずれにおいても成形品の鏡面、シボ面のいずれの場合でも、問題ないレベルの外観が得られている。中でも、実施例1~8では、樹脂組成物の樹脂成分の酸価及びLw/Lnが特定の範囲を満たしていることから、成形条件A、成形条件Bのいずれにおいても成形品の鏡面、シボ面のいずれの場合でも、良好な外観を得ることができ、かつ、曲げ強度、シャルピー衝撃強度も高い。一方、比較例1では、Lwが下限を外れるため曲げ強度、シャルピー衝撃強度が低くなり、また溶融粘度も範囲外となるためバリ量も多くなった。また、比較例2~5ではLwが上限を外れるため樹脂組成物の流動性が不足し外観が劣ることに加え、製造時にガラス繊維がダイヘッドに詰まりやすくなることから吐出が不安定でストランドが切れやすくなった。特に、Lw/Lnが2.4を超える比較例3と、降温結晶化温度が180℃を超える比較例4では外観悪化が顕著となり、降温結晶化温度が160℃より低い比較例5では、離型性が悪くなった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、高強度、高剛性で、かつ良好な表面外観の成形品を広い成形条件幅で安定して得ることができるため、産業界に寄与すること大である。