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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】電力調整方法、及び電力調整装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20240903BHJP
   H02J 3/14 20060101ALI20240903BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240903BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20240903BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240903BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H02J3/32
H02J3/14
H02J3/00 170
H02J7/35 K
H02J13/00 311T
H02J7/34 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022547434
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027922
(87)【国際公開番号】W WO2022054441
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2020153216
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-333563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0176989(US,A1)
【文献】特開2010-022101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00-5/00
H02J 7/34
H02J 7/35
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の電力系統と送受電可能なマイクログリッドに含まれる電力消費装置の消費電力及び蓄電装置の充放電電力を制御する電力調整方法であって、
前記電力系統と前記マイクログリッドとの間で送受電される系統電力の制御目標値と前記系統電力の実績値との誤差を積分することによって得られる積算誤差を算出するステップと、
前記積算誤差の低周波成分に基づいて、前記電力消費装置に前記消費電力を消費させるための第1指令値を生成するステップと、
前記積算誤差の高周波成分に基づいて、前記蓄電装置に前記充放電電力を充放電させるための第2指令値を生成するステップと、
前記第1指令値を前記電力消費装置に出力するとともに、前記第2指令値を前記蓄電装置に出力するステップと、
を含む電力調整方法。
【請求項2】
前記積算誤差を算出するステップは、
前記系統電力の電力目標値と前記系統電力の測定値との誤差を算出するステップと、
前記誤差を積分することによって前記積算誤差を算出するステップと、
を含む、請求項1に記載の電力調整方法。
【請求項3】
前記積算誤差を算出するステップは、
前記系統電力の測定値を積分することによって前記実績値を算出するステップと、
前記制御目標値と前記実績値との差分を計算することによって前記積算誤差を算出するステップと、
を含む、請求項1に記載の電力調整方法。
【請求項4】
前記第2指令値を生成するステップでは、
前記蓄電装置の残量の目標値と前記残量との誤差と、前記高周波成分と、に基づいて前記第2指令値が生成される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電力調整方法。
【請求項5】
前記制御目標値は、時間区間において時間が経過するにつれて一定の割合で増加する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の電力調整方法。
【請求項6】
前記制御目標値の増加の割合は、1つ前の時間区間から連続的に変化する、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の電力調整方法。
【請求項7】
前記第1指令値が予め定められた範囲外である場合には、前記第1指令値を前記範囲内に収まるように変更し、変更前後の差分を前記第2指令値に加算するステップを更に含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の電力調整方法。
【請求項8】
前記積算誤差に基づいて、第3指令値を生成するステップを更に備え、
前記第1指令値を生成するステップでは、前記第3指令値の低周波成分に基づいて、前記第1指令値が生成され、
前記第2指令値を生成するステップでは、前記第3指令値の高周波成分に基づいて、前記第2指令値が生成される、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の電力調整方法。
【請求項9】
外部の電力系統と送受電可能なマイクログリッドに含まれる電力消費装置の消費電力及び蓄電装置の充放電電力を制御する電力調整装置であって、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記少なくとも1つのプロセッサが、
前記電力系統と前記マイクログリッドとの間で送受電される系統電力の制御目標値と前記系統電力の実績値との誤差を積分することによって得られる積算誤差を算出し、
前記積算誤差の低周波成分に基づいて、前記電力消費装置に前記消費電力を消費させるための第1指令値を生成し、
前記積算誤差の高周波成分に基づいて、前記蓄電装置に前記充放電電力を充放電させるための第2指令値を生成し、
前記第1指令値を前記電力消費装置に出力するとともに、前記第2指令値を前記蓄電装置に出力する、
電力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力調整方法、及び電力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
計画値同時同量制度は、電力の需要と供給とのバランスを確保するための仕組みとして導入されている。計画値同時同量制度の下では、発電事業者が供給前に提出する計画と実際の発電との差分(インバランス)及び小売事業者が需要前に提出する計画と実際の需要実績との差分(インバランス)を、一般送電事業者が調整力電源を用いて調整する。一方、一般送電事業者が行う調整に要する費用は、卸電力取引所における市場価格をベースとしたインバランス料金を通じて回収される。計画値同時同量制度のためにインバランスをゼロにする又は削減するための制御は、計画値同時同量制御、あるいは、インバランス回避制御と呼ばれる。
【0003】
特許文献1には、太陽光発電システム、水素製造貯蔵システム、蓄電池システム、及び燃料電池システムの動作を管理するシステムが記載されている。特許文献1に記載のシステムは、余剰電力の実際値が余剰電力の予測値を超えるとき、蓄電池の充電率が設定値を越えない場合には充電池の充電量を増加させる。一方、特許文献1に記載のシステムは、余剰電力の実際値が余剰電力の予測値を超えるとき、蓄電池の充電率が設定値を越える場合には水素の製造及び貯蔵量を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-54085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシステムでは、蓄電池の充電率が設定値を越える場合には水素製造貯蔵システムを動作させるが、一般に、水素製造貯蔵システムのような電力消費装置の応答速度は、蓄電池等の蓄電装置の応答速度よりも遅い。したがって、水素製造貯蔵システムのような電力消費装置は、再生可能エネルギー発電のような急激な電力変動を吸収できない。その結果、インバランスを回避できないおそれがある。
【0006】
本開示は、計画値同時同量制御の性能を向上可能な電力調整方法、及び電力調整装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る電力調整方法は、外部の電力系統と送受電可能なマイクログリッドに含まれる電力消費装置の消費電力及び蓄電装置の充放電電力を制御する。この電力調整方法は、電力系統とマイクログリッドとの間で送受電される系統電力の積算量の制御目標値と系統電力の積算量の実績値との誤差である積算誤差を算出するステップと、積算誤差の低周波成分に基づいて、電力消費装置に消費電力を消費させるための第1指令値を生成するステップと、積算誤差の高周波成分に基づいて、蓄電装置に充放電電力を充放電させるための第2指令値を生成するステップと、第1指令値を電力消費装置に出力するとともに、第2指令値を蓄電装置に出力するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、計画値同時同量制御の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示のエネルギーマネジメントシステムを含む電力供給システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、図1に示されるエネルギーマネジメントシステムの機能構成を示すための図である。
図3図3は、計画値同時同量制御の概念図である。
図4図4は、図2に示される制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図5図5は、図4に示される蓄電システム用の制御器を詳細に示すブロック線図である。
図6図6は、シミュレーションに用いられた系統電力の24時間における計画値を示す図である。
図7図7は、シミュレーションに用いられた太陽光発電の発電電力の時間変化を示す図である。
図8図8は、系統電力の積算値のシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、積算誤差のシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は、水素製造システムの消費電力及び蓄電システムの充放電電力のシミュレーション結果を示す図である。
図11図11は、蓄電装置の残量のシミュレーション結果を示す図である。
図12図12は、目標軌道の別の例を示す図である。
図13図13は、目標軌道の更に別の例を示す図である。
図14図14は、変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図15図15は、別の変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図16図16は、更に別の変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図17図17は、更に別の変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図18図18は、更に別の変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図19図19は、図18の制御部を用いた系統電力のシミュレーション結果を示す図である。
図20図20は、図18の制御部を用いた水素製造システムの消費電力、蓄電システムの充放電電力、及び蓄電装置の残量のシミュレーション結果を示す図である。
図21図21は、更に別の変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
図22図22は、図1に示されるエネルギーマネジメントシステムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]実施形態の概要
本開示の一側面に係る電力調整方法は、外部の電力系統と送受電可能なマイクログリッドに含まれる電力消費装置の消費電力及び蓄電装置の充放電電力を制御する。電力調整方法は、電力系統とマイクログリッドとの間で送受電される系統電力の積算量の制御目標値と系統電力の積算量の実績値との誤差である積算誤差を算出するステップと、積算誤差の低周波成分に基づいて、電力消費装置に消費電力を消費させるための第1指令値を生成するステップと、積算誤差の高周波成分に基づいて、蓄電装置に充放電電力を充放電させるための第2指令値を生成するステップと、第1指令値を電力消費装置に出力するとともに、第2指令値を蓄電装置に出力するステップと、を含む。
【0011】
本開示の別の側面に係る電力調整装置は、外部の電力系統と送受電可能なマイクログリッドに含まれる電力消費装置の消費電力及び蓄電装置の充放電電力を制御する。電力調整装置は、少なくとも1つのプロセッサを備え、少なくとも1つのプロセッサが、電力系統とマイクログリッドとの間で送受電される系統電力の積算量の制御目標値と系統電力の積算量の実績値との誤差である積算誤差を算出し、積算誤差の低周波成分に基づいて、電力消費装置に消費電力を消費させるための第1指令値を生成し、積算誤差の高周波成分に基づいて、蓄電装置に充放電電力を充放電させるための第2指令値を生成し、第1指令値を電力消費装置に出力するとともに、第2指令値を蓄電装置に出力する。
【0012】
電力調整方法及び電力調整装置は、積算誤差の低周波成分に基づいて第1指令値を生成する。電力調整方法及び電力調整装置は、積算誤差の高周波成分に基づいて第2指令値を生成する。電力調整方法及び電力調整装置は、第1指令値を電力消費装置に出力する。電力調整方法及び電力調整装置は、第2指令値を蓄電装置に出力する。一般に、水電解装置等の電力消費装置が第1指令値を受けてから消費電力を消費するまでの応答時間は、蓄電装置が第2指令値を受けてから充放電電力を充放電するまでの応答時間よりも長い。積算誤差の低周波成分は、長期的に変動する。つまり、高速な応答が要求されない。一方、積算誤差の高周波成分は、短期的に変動する。つまり、高速な応答が要求される。したがって、電力消費装置は、積算誤差の低周波成分に基づいて第1指令値を生成することによって、短期的な変動に対応する。そして、電力消費装置は、積算誤差の高周波成分に基づいて第2指令値を生成することによって、蓄電装置が短期的な変動に対応する。この構成により、積算誤差の変動に追従させることが可能となる。その結果、計画値同時同量制御の性能を向上させることが可能となる。
【0013】
積算誤差を算出するステップは、系統電力の電力目標値と系統電力の測定値との誤差を算出するステップと、誤差を積分することによって積算誤差を算出するステップと、を含んでもよい。この場合、系統電力の電力目標値と系統電力の測定値との誤差を積分するという簡単な計算で積算誤差を算出することができる。
【0014】
積算誤差を算出するステップは、系統電力の測定値を積分することによって実績値を算出するステップと、制御目標値と実績値との差分を計算することによって積算誤差を算出するステップと、を含んでもよい。この場合、制御目標値と系統電力の測定値の積分値との差分を計算するだけで、積算誤差を算出することができる。
【0015】
第2指令値を生成するステップでは、蓄電装置の残量の目標値と残量との誤差と、高周波成分と、に基づいて第2指令値が生成されてもよい。この場合、蓄電装置の残量の目標値から、蓄電装置の残量が大幅に逸脱しないように、蓄電装置の充放電電力を制御することが可能となる。したがって、蓄電装置が満充電状態又は過放電状態になる可能性を低減することができる。その結果、計画値同時同量制御の性能を更に向上させることが可能となる。
【0016】
制御目標値は、時間区間において時間が経過するにつれて一定の割合で増加してもよい。この場合、制御目標値を簡易に設定することができる。その結果、計算負荷を低減させることが可能となる。
【0017】
制御目標値の増加の割合は、1つ前の時間区間から連続的に変化してもよい。この場合、制御の連続性が保たれるので、制御の安定性を向上させることができる。その結果、計画値同時同量制御の性能を向上させることが可能となる。
【0018】
上記の電力調整方法は、第1指令値が予め定められた範囲外である場合には、第1指令値を範囲内に収まるように変更し、変更前後の差分を第2指令値に加算するステップを更に含んでもよい。例えば、電力消費装置は、放電能力を有しない場合がある。電力消費装置によって消費可能な消費電力の上限が存在する場合もある。第1指令値によって電力消費装置に消費させようとする消費電力が、電力消費装置による消費可能な消費電力の範囲外である場合には、目標とする消費電力が得られない。したがって、第1指令値によって電力消費装置に消費させようとする消費電力が、電力消費装置による消費可能な消費電力の範囲内に収まるように、第1指令値を変更する。その結果、目標とする消費電力を得ることが可能となる。そして、変更前後の差分が第2指令値に加算される。その結果、電力消費装置が対応できない電力分を、蓄電装置に対応させることが可能となる。
【0019】
上記の電力調整方法は、積算誤差に基づいて、第3指令値を生成するステップを更に備えてもよい。第1指令値を生成するステップでは、第3指令値の低周波成分に基づいて、第1指令値が生成されてもよい。第2指令値を生成するステップでは、第3指令値の高周波成分に基づいて、第2指令値が生成されてもよい。この場合、積算誤差を第3指令値に変換した後に、第1指令値及び第2指令値が生成される。したがって、積算誤差の低周波成分を第1指令値に変換した後に、積算誤差の高周波成分を第2指令値に変換する構成と比較して、演算を簡易化することができる。
【0020】
[2]実施形態の例示
以下、図面を参照しながら本開示の電力調整方法、及び電力調整装置を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付す。重複する説明は、省略する。
【0021】
図1は、本開示のエネルギーマネジメントシステムを含む電力供給システムの概略構成を示す図である。図1に示す電力供給システム1は、マイクログリッド2と、エネルギーマネジメントシステム3(電力調整装置)と、を含む。
【0022】
マイクログリッド2は、外部の電力系統(商用系統)90に接続されている。マイクログリッド2は、電力系統90からの受電と電力系統90への送電が可能なシステムである。マイクログリッド2と電力系統90との間で送電及び受電される電力を系統電力と称する。系統電力が正の値である場合、マイクログリッド2が電力系統90から受電する。系統電力が負の値である場合、マイクログリッド2が電力系統90に送電する。マイクログリッド2は、発電システム21と、電力需要家22と、水素製造システム23(電力消費装置)と、蓄電システム24(蓄電装置)と、グリッド制御部25と、電力測定部26と、電力測定部27と、を含む。
【0023】
発電システム21は、再生可能エネルギーを利用して発電を行う。本開示では、発電システム21は、太陽光(PhotoVoltaic:PV)発電システムである。発電システム21は、太陽光パネル21aとパワーコンディショナ(Power Conditioning System:PCS)とを含む。電力変換装置であるパワーコンディショナは、太陽光パネル21aで発電した電力を変換する。パワーコンディショナは、太陽光パネル21aからの直流電力を交流電力に変換する。パワーコンディショナは、交流電力をグリッド制御部25に出力する。
【0024】
電力需要家22は、電力を消費する設備群の集合である。電力需要家22の例としては、マイクログリッド2を制御するエネルギーマネジメントシステム(Energy Management System:EMS)3を構成するサーバ及び空調が挙げられる。さらに、電力需要家22の例としては、水素製造システム23の補機が挙げられる。水素製造システム23の補機とは、水素圧縮機、空気圧縮機、及び冷却塔等である。電力需要家22は、一般家庭をはじめとする低圧需要家を含んでもよい。なお、本開示の、エネルギーマネジメントシステム3は、電力需要家22の消費電力を制御できない。
【0025】
水素製造システム23は、水を電気分解(水電解)することによって水素を製造する。一般に、水電解の方法には、固体高分子(PEM)型水電解法とアルカリ水電解法とが挙げられる。水素製造システム23として、いずれが用いられてもよい。水素製造システム23によって製造された水素は、水素貯蔵システムに貯蔵される。貯蔵された水素は、輸送等によってマイクログリッド2から外部に搬出される。例えば、貯蔵された水素は、水素圧縮機によって水素カードル又は水素トレーラに充填されたのちに、水素の需要地に輸送されてもよい。貯蔵された水素は、ディスペンサーを経由して燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)に供給されてもよい(「オンサイト水素ステーション」と称される。)。貯蔵された水素は、パイプラインを通じて、別の水素の需要地に供給されてもよい。
【0026】
蓄電システム24は、電力を充電及び放電可能なシステムである。蓄電システム24は、蓄電装置(エネルギー貯蔵装置)と、パワーコンディショナと、を含む。蓄電装置は、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、及びレドックスフロー電池といった2次電池であってもよい。蓄電装置は、フライホイール蓄電装置であってもよい。一般に、蓄電装置の応答速度は、水素製造システム23(水電解装置)及び電気ボイラの応答速度よりも速い。例えば、蓄電装置の応答速度は、20マイクロ秒以下である。電力変換装置であるパワーコンディショナは、蓄電装置とグリッド制御部25との間で電力を変換する。パワーコンディショナは、蓄電装置からの直流電力を交流電力に変換する。パワーコンディショナは、交流電力をグリッド制御部25に出力する。パワーコンディショナは、グリッド制御部25からの交流電力を直流電力に変換する。そして、パワーコンディショナは、直流電力を蓄電装置に出力する。蓄電システム24は、蓄電装置の残量vを監視する監視装置を更に含んでもよい。
【0027】
グリッド制御部25は、電力系統90を含む各部に対して電力を配分する。グリッド制御部25は、例えば、分電盤である。
【0028】
電力測定部26は、電力系統90から受電した電力を測定する。電力測定部27は、電力系統90に送電した電力を測定する。電力測定部26,27は、例えば、パワーメータである。
【0029】
エネルギーマネジメントシステム3は、マイクログリッド2に含まれる水素製造システム23の消費電力を制御する機能(電力調整機能)を有する。さらに、エネルギーマネジメントシステム3は、蓄電システム24の充放電電力を制御する機能も有する。
【0030】
次に、図2及び図3を参照して、本開示のエネルギーマネジメントシステムを説明する。図2は、図1に示すエネルギーマネジメントシステムの機能構成を示すための図である。図3は、計画値同時同量制御の概念図である。エネルギーマネジメントシステム3は、機能的には、通信部31と、制御部32と、を備えている。
【0031】
通信部31は、外部装置との通信を行う機能部である。通信部31は、例えば、通信ネットワークを介して電力事業者95との通信を行う。通信ネットワークは、有線及び無線のいずれで構成されてもよい。通信ネットワークの例としては、インターネット、移動体通信網、及びWAN(Wide Area Network)が挙げられる。通信部31は、電力事業者95から計画値Aを受信する。計画値Aは、計画区間における系統電力の積算値(系統電力量)である。計画値Aは、計画区間ごとに定められる。計画区間は、例えば、30分の時間区間である。計画区間の時間長は、電力事業者95又は電力市場との契約形態に依存する。通信部31は、計画値Aを制御部32に出力する。なお、計画値Aは、エネルギーマネジメントシステム3の内部で決定された後に、事前に電力事業者95に通知されてもよい。
【0032】
制御部32は、計画値同時同量制御を行う機能部である。図3を参照して、計画値同時同量制御を説明する。図3の横軸は時間(単位:分)を示す。図3の縦軸は系統電力量(単位:kWh)を示す。系統電力量が正の値である場合、系統電力量は受電電力量を表す。系統電力量が負の値である場合、系統電力量は送電電力量を表す。制御部32は、計画値Aに基づいて、目標軌道Stを生成する。目標軌道Stは、系統電力の積算量(系統電力量)に対する制御目標値の時間変化を示す。目標軌道Stは、計画区間ごとに生成される。目標軌道Stは、計画区間の始期(0分)において0kWhである。目標軌道Stは、計画区間の終期(30分)において計画値Aに達する。図3に示される例では、目標軌道Stは、一定の傾きを有する直線で表される。傾きは、計画値Aを計画区間の時間長Tで除算することによって得られる。
【0033】
制御部32は、マイクログリッド2の調整力電源を用いて、計画区間の終期において、系統電力の積算値(実績値)Srを計画値Aに漸近させる。本開示のマイクログリッド2の調整力電源は、水素製造システム23及び蓄電システム24である。系統電力の積算値Srは、測定値yNETの積算値である。制御部32は、積算値Srが目標軌道Stに従うように、フィードバック制御を行う。つまり、制御部32は、系統電力のフィードバック制御によって、水素製造システム23の消費電力を調整する。さらに、制御部32は、系統電力のフィードバック制御によって、蓄電システム24の充放電電力も調整する。計画値同時同量制御の詳細は後述する。
【0034】
制御部32は、計画期間前に通信部31から計画値Aを取得する。制御部32は、電力測定部26,27から測定値yNETを取得する。測定値yNETが正の値である場合、測定値yNETは電力系統90から受電している電力の測定値である。測定値yNETが負の値である場合、測定値yNETは電力系統90に送電している電力の測定値である。制御部32は、蓄電システム24から蓄電装置の残量vを取得する。残量vは、例えば、蓄電装置のSOC(State Of Charge)である。
【0035】
制御部32は、水素製造システム23に消費電力指令を送信する。消費電力指令は、指令値uEC(第1指令値;図4参照)を含む。指令値uECは、例えば、水素製造システム23に消費させる電力を示す。指令値uECは、水素製造システム23に製造させる水素の量であってもよい。制御部32は、蓄電システム24に充放電指令を送信する。充放電指令は、指令値uBT(第2指令値;図4参照)を含む。指令値uBTは、例えば、蓄電システム24に充放電させる電力を示す。
【0036】
なお、エネルギーマネジメントシステム3は、ユーザインターフェース、データベース、及び監視部等の機能部を更に備え得る。しかし、図2は、計画値同時同量制御に関する機能部のみを示す。
【0037】
次に、図4及び図5を参照して、エネルギーマネジメントシステム3が実施する計画値同時同量制御(電力調整方法)の詳細を説明する。図4は、図2に示す制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。図5は、図4に示す蓄電システム用の制御器を詳細に示すブロック線図である。図4及び図5に示すように、制御部32は、減算器41と、積分器42と、ローパスフィルタ43と、ハイパスフィルタ44と、制御器45と、減算器46と、制御器47と、を備えている。
【0038】
制御部32は、計画値Aから系統電力の目標値yref(電力目標値)を算出する。具体的には、制御部32は、目標軌道Stを微分することによって目標値yrefを算出する。本開示の目標軌道Stは、直線である。したがって、制御部32は、計画値A[kWh]を計画区間の時間長T[h]で除算する。その結果、目標値yref[kW]が算出される。そして、減算器41は、目標値yrefと測定値yNETとの誤差eを算出する。具体的には、減算器41は、目標値yrefから測定値yNETを減算することによって誤差eを算出する。
【0039】
積分器42は、誤差eを時間で積分することによって積算誤差esumを算出する。そして、積分器42は、積算誤差esumをローパスフィルタ43及びハイパスフィルタ44に出力する。積算誤差esumは、誤差eの積算値である。積算誤差esumは、図3に示す目標軌道Stと系統電力の積算値Srとの差に相当する。なお、計画区間の始期の時点では、積算誤差esumは、ゼロである。
【0040】
続いて、ローパスフィルタ43は、積算誤差esumから低周波成分eECを抽出する。そして、ローパスフィルタ43は、低周波成分eECを水素製造システム23用の制御器45に出力する。ハイパスフィルタ44は、積算誤差esumから高周波成分eBTを抽出する。そして、ハイパスフィルタ44は、高周波成分eBTを蓄電システム24用の制御器47に出力する。つまり、積算誤差esumは、ローパスフィルタ43とハイパスフィルタ44とによって、低周波成分eECと高周波成分eBTとに分離される。
【0041】
ローパスフィルタ43及びハイパスフィルタ44の設計には自由度がある。ローパスフィルタ43の直流ゲインは1である。ローパスフィルタ43の伝達関数とハイパスフィルタ44の伝達関数との合計は1である。このような条件を満たすローパスフィルタ43の伝達関数は、例えば、式(1)によって表される。ハイパスフィルタ44の伝達関数は、例えば、式(2)によって表される。
【数1】
【数2】
【0042】
時定数Tは、設計者によって定められるパラメータである。式(3)に示されるように、時定数Tは、例えば、水素製造システム23の時定数TECと蓄電システム24の時定数TBTとの平均値である。時定数Tが用いられることによって、水素製造システム23の応答速度と蓄電システム24の応答速度との違いを考慮して、積算誤差esumが各システムに配分される。
【数3】
【0043】
続いて、制御器45は、積算誤差esumの低周波成分eECに基づいて、指令値uECを算出する。制御器45は、低周波成分eECを減少させるような指令値uECを算出する。制御器45は、例えば、低周波成分eECをゼロにするような指令値uECを算出する。具体的には、制御器45は、積算誤差esumの低周波成分eECを受け取る。そして、制御器45は、積算誤差esumの低周波成分eECに応じた指令値uECを水素製造システム23に出力する。制御器45は、例えば、PID制御器である。
【0044】
蓄電システム24に含まれる蓄電装置の残量を維持するために、残量の目標値vrefが予め定められている。目標値vrefは、設計者によって設定されてもよい。目標値vrefは、ユーザインターフェースを介してオペレータによって設定されてもよい。本開示では、式(4)に示されるように、目標値vrefは、蓄電装置の残量の運用上限vmaxと運用下限vminとの平均値である。
【数4】
【0045】
減算器46は、目標値vrefと残量vとの誤差eを算出する。そして、減算器46は、誤差eを制御器47に出力する。具体的には、減算器46は、目標値vrefから残量vを減算することによって誤差eを算出する。そして、制御器47は、積算誤差esumの高周波成分eBT及び誤差eに基づいて、指令値uBTを算出する。制御器47は、高周波成分eBT及び誤差eを減少させるような指令値uBTを算出する。制御器47は、例えば、高周波成分eBT及び誤差eをゼロにするような指令値uBTを算出する。具体的には、制御器47は、積算誤差esumの高周波成分eBT及び誤差eを受け取る。そして、制御器47は、積算誤差esumの高周波成分eBT及び誤差eに応じた指令値uBTを蓄電システム24に出力する。図5に示すように、制御器47は、例えば、制御器71と、制御器72と、加算器73と、を含む。
【0046】
制御器71は、積算誤差esumの高周波成分eBTに基づいて、指令値uを算出する。制御器71は、高周波成分eBTを減少させるような指令値uを算出する。制御器71は、例えば、高周波成分eBTをゼロにするような指令値uを算出する。具体的には、制御器71は、積算誤差esumの高周波成分eBTを受け取る。そして、制御器71は、積算誤差esumの高周波成分eBTに応じた指令値uを加算器73に出力する。制御器71は、例えば、PID制御器である。制御器72は、誤差eに基づいて、指令値uを算出する。制御器72は、誤差eを減少させるような指令値uを算出する。制御器72は、例えば、誤差eをゼロにするような指令値uを算出する。具体的には、制御器72は、誤差eを受け取る。そして、制御器72は、誤差eに応じた指令値uを加算器73に出力する。制御器72は、例えば、PID制御器である。加算器73は、指令値u及び指令値uを受け取る。加算器73は、指令値uと指令値uとを合算することによって、指令値uBTを算出する。加算器73は、指令値uBTを蓄電システム24に出力する。
【0047】
続いて、水素製造システム23は、エネルギーマネジメントシステム3(制御部32)から指令値uECを受信する。指令値uECを受信した水素製造システム23は、指令値uECに応じた量の水素を製造する。さらに、指令値uECを受信した水素製造システム23は、指令値uECに応じた消費電力yECを消費する。同様に、蓄電システム24は、エネルギーマネジメントシステム3(制御部32)から指令値uBTを受信する。指令値uBTを受信した蓄電システム24は、指令値uBTに応じた充放電電力yBTを充放電する。充放電電力yBTが正の値である場合、充放電電力yBTは蓄電システム24の蓄電装置に充電される電力である。充放電電力yBTが負の値である場合、充放電電力yBTは蓄電システム24の蓄電装置から放電される電力である。
【0048】
消費電力yEC及び充放電電力yBTは、発電システム21の発電電力yPVと電力需要家22の消費電力yLDとの合算である。その結果、マイクログリッド2の測定値yNETが定まる。具体的には、図4に示すように、測定値yNETは、式(5)によって決まる。
【数5】
【0049】
以上の処理が計画区間中に所定の時間間隔で繰り返される。そして、計画区間の終期において、制御部32は、積分器42をリセットする。つまり、次の計画区間の始期において、積算誤差esumはゼロとなる。なお、終期における積算誤差esumは、計画区間のインバランス量[kWs]に相当する。制御部32は、終期における積算誤差esumをメモリに保存してもよい。制御部32は、終期における積算誤差esumを通信部31を介してエネルギーマネジメントシステム3の外部の装置に送信してもよい。このとき、制御部32は、積算誤差esumの単位を変換してもよい。例えば、制御部32は、積算誤差esumの単位をキロワット秒(kWs)からキロワット時(kWh)してもよい。
【0050】
次に、図6図11を参照しながら、エネルギーマネジメントシステム3が実施する電力調整方法の作用効果を説明する。図6は、シミュレーションに用いられた系統電力の24時間における計画値を示す図である。図7は、シミュレーションに用いられた太陽光発電の発電電力の時間変化を示す図である。図8は、系統電力の積算値のシミュレーション結果を示す図である。図9は、積算誤差のシミュレーション結果を示す図である。図10は、水素製造システムの消費電力及び蓄電システムの充放電電力のシミュレーション結果を示す図である。図11は、蓄電装置の残量のシミュレーション結果を示す図である。
【0051】
図6の横軸は、計画区間の番号である。計画区間の番号が大きいほど時間が経過していることを示す。図7図11の横軸は、0時から24時までの時刻を示す。図6の縦軸は、系統電力の計画値(単位:kWh)を示す。図7の縦軸は、発電システム21の発電電力yPV(単位:kW)を示す。図8の縦軸は、系統電力の積算値(単位:kWh)を示す。図9の縦軸は、積算誤差esum(単位:kWs)を示す。図10の縦軸は、水素製造システム23の消費電力yEC及び蓄電システム24の充放電電力yBT(単位:kW)を示す。図11の縦軸は、蓄電装置の残量v及び目標値vref(単位:kWh)を示す。
【0052】
本開示のシミュレーションの条件として、以下の数値を設定した。
発電システム21の発電電力yPV:最大1200kW。
水素製造システム23の消費電力yEC:定格1000kW。
蓄電システム24の蓄電装置の容量:500kWh。
充放電電力yBTの最大値:+400kW。
充放電電力yBTの最小値:-400kW。
電力需要家22の消費電力yLD:100kW。
蓄電装置残量の目標値vref:250kWh。
【0053】
図6に示すように、系統電力の計画値として、24時間(48計画区間)分の計画値を用いた。各計画区間の時間長は、30分である。1番目の計画区間は、0時0分から0時30分までの区間である。以降、計画区間の番号が増加するごとに30分ずつシフトする。なお、現在時刻よりも前に該当する計画区間の計画値が定まっていればよい。したがって、必ずしも0時0分に48計画区間のすべての計画値が定まっている必要は無い。図7に示す発電電力yPVの時間変化は、太陽光発電による発電電力の典型的な例である。図7に示される発電電力yPVは、7時から10時の間、及び15時から17時の間において激しく変動している。この変動は、雲の影響による。
【0054】
図8に示すように、各計画区間の終期において、系統電力の積算値(図3の実績値に相当)が計画値と高い精度で一致していることがわかる。すなわち、計画値同時同量が達成されている。具体的には、図9に示すように、積算誤差esumは、最大でも150kWs(=0.04kWh)程度である。すなわち、発電電力yPVが変動しているにもかかわらず、系統電力の積算値が高精度に目標軌道に追従していることがわかる。
【0055】
図10に示すように、発電電力yPVが激しく変動している7時から10時の間、及び15時から17時の間に、蓄電システム24の充放電が行われている。したがって、発電電力yPVの変動のうちの低周期変動を水素製造システム23で補っていることがわかる。さらに、発電電力yPVの変動のうちの高周期変動を蓄電システム24で補っていることがわかる。
【0056】
図11に示されるように、目標値vrefと残量vとの誤差eは、最大で10kWh程度である。蓄電装置の容量が500kWhであるので、残量vが目標値vrefから大きく逸脱していないことがわかる。つまり、蓄電装置が運用されていることがわかる。すなわち、蓄電装置が満充電又は過放電になって調整力を失う事態が回避されている。
【0057】
以上説明したエネルギーマネジメントシステム3及びエネルギーマネジメントシステム3が実施する電量調整方法は、積算誤差esumの低周波成分eECに基づいて指令値uECを生成する。次に、エネルギーマネジメントシステム3及び電量調整方法は、積算誤差esumの高周波成分eBTに基づいて指令値uBTを生成する。そして、エネルギーマネジメントシステム3及び電量調整方法は、指令値uECを水素製造システム23に出力するとともに、指令値uBTを蓄電システム24に出力する。これにより、電力系統90の計画値同時同量制約を遵守するために、マイクログリッド2内の水素製造システム23の消費電力yEC及び蓄電システム24の充放電電力yBTの両方が同時に制御される。
【0058】
一般に、水素製造システム23が指令値uECを受けてから消費電力yECを消費するまでの応答時間(応答速度)は、蓄電システム24が指令値uBTを受けてから充放電電力yBTを充放電するまでの応答時間(応答速度)よりも長い。低周波成分eECは、長期的に変動する成分である。つまり、高速な応答が要求されない。一方、高周波成分eBTは、短期的に変動する成分である。つまり、高速な応答が要求される。水素製造システム23の応答速度は遅い。したがって、単体の水素製造システム23は、発電電力yPV等の急激な変動に起因する積算誤差esumの変動に追従できない。したがって、インバランスを回避することができないおそれがある。これに対し、低周波成分eECに基づいて指令値uECが生成されることによって、水素製造システム23が長期的な変動に対応する。一方で、高周波成分eBTに基づいて指令値uBTが生成されることによって、蓄電システム24が短期的な変動に対応する。この構成により、水素製造システム23の応答速度の遅さを蓄電システム24で補うことができる。したがって、積算誤差esumの変動に追従することが可能となる。その結果、計画値同時同量制御の性能を向上させることが可能となる。
【0059】
例えば、マイクログリッド2が調整力電源として蓄電システム24だけを含む場合、インバランスを回避するためには大容量の蓄電装置が必要になる。これに対し、調整力電源として水素製造システム23と蓄電システム24とを組み合わせて用いることにより、蓄電装置の容量を低減することが可能となる。蓄電装置は容量が大きいほど価格が高くなる傾向がある。蓄電装置の容量の低減によって、コストの削減が可能となる。
【0060】
例えば、積算誤差esumに代えて、系統電力の目標値yrefと系統電力の測定値yNETとの誤差eをフィードバック制御に用いた場合、測定値yNETは目標値yrefに追従する。しかし、測定値yNETの積算値(系統電力の積算値)は目標軌道Stから外れるので、インバランス量が大きくなるおそれがある。これに対し、系統電力の目標値yrefと系統電力の測定値yNETとの誤差eが算出される。そして、誤差eを積分することによって積算誤差esumが算出される。積算誤差esumをフィードバック制御に用いることによって、測定値yNETの積算値が目標軌道Stから外れても、フィードバック制御によって復元することができる。その結果、計画値同時同量制御の性能を向上させることが可能となる。目標値yrefと測定値yNETとの誤差eを積分するという簡単な計算によって、積算誤差esumを算出することができる。
【0061】
蓄電装置が満充電状態又は過放電状態になると、蓄電装置は調整力を失う。その結果、インバランスを回避する能力の低下又は喪失が発生する。リチウムイオン電池等の蓄電装置が満充電状態又は過放電状態を継続すると、蓄電装置の劣化を早める。これに対し、蓄電システム24に含まれる蓄電装置の残量の目標値vrefと残量vとの誤差eと、高周波成分eBTと、に基づいて指令値uBTが生成される。この構成によれば、目標値vrefから残量vが大幅に逸脱しないように、蓄電システム24(蓄電装置)の充放電電力yBTを制御することが可能となる。したがって、蓄電装置が満充電状態又は過放電状態になる可能性を低減することができる。これにより、蓄電装置の劣化を抑制できる。したがって、蓄電装置の調整力を維持することができる。その結果、計画値同時同量制御の性能を更に向上させることが可能となる。
【0062】
目標軌道Stは、一定の傾きを有する直線である。系統電力の積算量の制御目標値は、計画区間において時間が経過するにつれて一定の割合で増加する。この場合、目標軌道St及び制御目標値を簡易に設定することができる。したがって、計算負荷を低減させることが可能となる。
【0063】
本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、上述の内容に限定されない。
【0064】
発電システム21は、太陽光発電システムに限定されない。発電システム21は、風力発電システム、地熱発電システム、バイオマス発電システム、ごみ発電システム、又はそれらの組み合わせであってもよい。太陽光発電装置の発電電力は、日射、温度、及び降雪といった気象条件の影響を受ける。風力発電装置の発電電力は、風速の影響を受ける。したがって、これらの発電装置の発電電力は、激しく変動することがある。バイオマス発電及びごみ発電の原料となるバイオマス及び廃棄物や汚泥等のごみの性状は、一般には不安定である。バイオマス発電及びごみ発電は、一時的な焼却に適さない物の混入等により、発電電力が安定しない。このように、発電システム21は、出力変動が大きい発電システムであってもよい。この場合、計画値通りの発電電力を得ることが難しい。そこで、水素製造システム23及び蓄電システム24によって、インバランスを解消する必要がある。エネルギーマネジメントシステム3によれば、受電電力に対する外乱要素を抑制することができる。言い換えると、エネルギーマネジメントシステム3によれば、送電電力に対する再生可能エネルギーの変動要素を抑制することができる。
【0065】
発電システム21は、ガスタービン、及びガスエンジン等の発電電力を制御可能な発電機を含んでもよい。マイクログリッド2は、発電システム21を備えていなくてもよい。
【0066】
マイクログリッド2は、水素製造システム23に代えて、別の電力消費装置(設備)を備えていてもよい。さらに、マイクログリッド2は、水素製造システム23に加えて、別の電力消費装置(設備)を備えていてもよい。別の電力消費装置の例としては、電気ボイラ、及びスチームアキュムレータが挙げられる。
【0067】
本開示の制御器45、制御器71、及び制御器72は、PID制御器である。本開示の制御器45、制御器71、及び制御器72は、P制御器、PI制御器、PD制御器、I-PD制御器、及び2自由度PID制御器等のその他の制御器であってもよい。制御器45、制御器71、及び制御器72は、H2制御理論及びH∞制御理論等の理論を用いて設計されてもよい。
【0068】
本開示では、連続時間での説明を行ったが、離散時間であってもよい。水素製造システム23及び蓄電システム24は、それぞれの制御及び計測周期が異なる離散時間系(マルチレート系)において設計された制御系を備えてもよい。ローパスフィルタ43及びハイパスフィルタ44は、例えば、バターワースフィルタ等のよく知られた離散時間フィルタ設計法を用いて設計されてもよい。制御器45、制御器71、及び制御器72として、ヴェロシティフォームとも称される速度型PID制御器が用いられてもよい。速度型PID制御器は、離散時間でのPID設計において、積分器ワインドアップを防ぐ手法としてよく利用される。
【0069】
本開示では、目標値vrefは、固定の値である。目標値vrefは、変更が供された可変の値であってもよい。目標値vrefは、オペレータによって手動で設定されてもよい。目標値vrefは、エネルギーマネジメントシステム3の内部(制御部32)において作成されてもよい。目標値vrefは、エネルギーマネジメントシステム3の外部から一定時間ごとに配信されてもよい。例えば、天気予報により天気が快晴であることが予測されている場合、目標値vrefは、日中に上昇(充電)し、日没後に低下(放電)する軌道を描くように設定されてもよい。天気予報により天気が雨であることが予測されている場合には、目標値vrefは、蓄電装置の残量の運用上限vmaxと運用下限vminとの平均値に常時設定されてもよい。この構成によれば、快晴時において日中に発電システム21によって生成された発電電力yPVを夜間に利用することが可能となる(電力シフト)。
【0070】
本開示では、目標軌道Stは、計画区間の始期において0kWhであり、計画区間の終期において計画値Aに達する直線であった。目標値yrefは、計画値Aを時間長Tで除算することによって得られる平均値であった。しかし、目標軌道St及び目標軌道Stを微分することによって得られる目標値yrefは、これらに限定されない。例えば、図12に示す目標軌道Stを用いてもよい。図12に示す目標軌道Stは、計画区間(30分から60分)の始期における傾きが、前回の計画区間(0分から30分)における平均目標軌道St1の傾きに等しく、かつ、終期における傾きが当該計画区間(30分から60分)における平均目標軌道St2の傾きに等しい。この場合、目標値yrefは、2つの計画区間の変更点において連続である。言い換えると、制御目標値の増加の割合(目標軌道Stの傾き)は、1つ前の時間区間から連続的に変化する。この構成によれば、制御の連続性が保たれる。したがって、フィードバック制御の安定性を向上させることができる。その結果、計画値同時同量制御の性能を向上させることが可能となる。
【0071】
本開示では、計画値は、計画区間ごとに事前に与えた。図13に示されるように、計画値は、計画区間中に変更してもよい。図13の例では、計画値A1に基づいて目標軌道St1が決定される。そして、目標軌道St1に沿うように系統電力の積算値Srが制御される。時間tにおいて、計画値A1から計画値A2に変更されると、新たな目標軌道St3が用いられる。新たな目標軌道St3は、時間tにおける目標軌道St1の制御目標値から計画区間の終期において計画値A2に達する直線である。デマンドレスポンスの仕組みにおいて、計画値は、計画区間内に変更してよい。このような計画値の変更に対しても、容易に対応することができる。
【0072】
制御器72のゲインとして、非線形ゲインを用いてもよい。例えば、誤差eの絶対値が小さい場合には、制御器72のゲインは、小さいゲインに設定してもよい。制御器72のゲインは、0に設定してもよい。誤差eの絶対値が大きい場合には、制御器72のゲインは、大きいゲインに設定してもよい。言い換えると、残量vが運用上限vmax又は運用下限vminに近づいている場合には、制御器72のゲインは、大きいゲインに設定してもよい。残量vには、厳密な制御が求められていない。したがって、上述のような非線形ゲインを用いることによって、残量vに問題の無い範囲では、計画値同時同量制御を優先させることができる。特に誤差eの絶対値が小さい場合に制御器72のゲインを0に設定することは、残量vの制御に不感帯を設けることを意味する。つまり、残量vは、目標値vrefを中心とした所定の範囲内に維持される。
【0073】
制御部32が行う演算は、図4のブロック線図に示される演算に限られない。図14図18を参照して、制御部32の変形例を説明する。図14図18は、変形例の制御部が実施する計画値同時同量制御を説明するためのブロック線図である。
【0074】
図14に示す制御部32Aは、積分器42の配置において、制御部32と主に相違する。制御部32Aの積分器42は、測定値yNETを時間積分することによって積算値Sr(実績値)を算出する。そして、積分器42は、積算値Srを減算器41に出力する。減算器41は、目標軌道Stと積算値Srとの誤差(差分)を積算誤差esumとして算出する。具体的には、減算器41は、目標軌道Stにおける現在の制御目標値から積算値Srを減算することによって積算誤差esumを算出する。そして、減算器41は、積算誤差esumをローパスフィルタ43及びハイパスフィルタ44に出力する。その他の演算は、制御部32と同様であるので、説明を省略する。この構成によれば、目標軌道Stを直接フィードバック制御に用いることができる。さらに、制御目標値と測定値yNETの積分値(積算値Sr)との差分を計算するだけで、積算誤差esumを算出することができる。
【0075】
図15に示される制御部32Bは、制御器45及び制御器71として、同一の制御器が用いられている点において、制御部32と主に相違する。この場合、指令値uECは、水素製造システム23に消費させる電力を示す。
【0076】
図16に示す制御部32Cは、制御器45及び制御器71の配置において、制御部32Bと主に相違する。具体的には、制御部32Cにおいては、1つの制御器45がローパスフィルタ43及びハイパスフィルタ44の前段に配置されている。この場合、制御器45は、積算誤差esumに基づいて、指令値u(第3指令値)を算出する。制御器45は、積算誤差esumを減少させるような指令値uを算出する。制御器45は、例えば、積算誤差esumをゼロにするような指令値uを算出する。具体的には、制御器45は、積算誤差esumを積分器42から受け取る。積算誤差esumを受け取った制御器45は、積算誤差esumに応じた指令値uをローパスフィルタ43及びハイパスフィルタ44に出力する。そして、ローパスフィルタ43は、指令値uから低周波成分を指令値uECとして抽出した後に、指令値uECを水素製造システム23に出力する。同様に、ハイパスフィルタ44は、指令値uから高周波成分を指令値uとして抽出した後に、指令値uを加算器73に出力する。その他の演算は、制御部32Bと同様であるので、説明を省略する。
【0077】
制御部32Cは制御部32Bと等価であるので、制御部32Cにおいても制御部32Bと同様の効果が奏される。この構成によれば、制御器の数を減らすことができる。したがって、設計及び調整パラメータを減らすことができる。
【0078】
図17に示す制御部32Dは、ハイパスフィルタ44に代えて減算器48を備える点において、制御部32Cと主に相違する。減算器48は、制御器45から指令値uを受け取る。さらに、減算器48は、ローパスフィルタ43から指令値uECを受け取る。そして、減算器48は、指令値uから指令値uECを減算することによって、指令値uを算出する。上述のように、ローパスフィルタ43の伝達関数とハイパスフィルタ44の伝達関数との合計は1である。したがって、式(2)に示すように、ハイパスフィルタ44の伝達関数は、1からローパスフィルタ43の伝達関数を減算することによって得られる。したがって、ローパスフィルタ43の入力である指令値uからローパスフィルタ43の出力である指令値uECを減算することは、指令値uをハイパスフィルタ44に通すことと等価である。
【0079】
制御部32Dは、制御部32B,32Cと等価である。したがって、制御部32Dは、制御部32B,32Cと同様の効果を奏する。この構成によれば、制御器の数を更に減らすことができるので、設計及び調整パラメータを更に減らすことができる。
【0080】
図18に示す制御部32Eは、飽和要素49を更に備える点において、制御部32Dと主に相違する。飽和要素49は、ローパスフィルタ43の後段に設けられる。飽和要素49は、ローパスフィルタ43から指令値uECを受け取る。飽和要素49は、指令値uECが予め定められた有効範囲内である場合には、指令値uECをそのまま減算器48及び水素製造システム23に出力する。一方、飽和要素49は、指令値uECが上記有効範囲外である場合には、有効範囲内に収まるように指令値uECを変更する。例えば、指令値uECが上記有効範囲の上限値を超える場合には、飽和要素49は、上限値に設定した指令値uECを出力する。指令値uECが上記有効範囲の下限値を下回る場合には、下限値に設定した指令値uECを出力する。その他の演算は、制御部32Dと同様であるので、説明を省略する。
【0081】
水素製造システム23は、指令値uECに対して有効範囲を有している。例えば、指令値uECが0kW以上1000kW以下の範囲内において、水素製造システム23は、指令値uECに応じて消費電力yECを消費することが可能である。水素製造システム23は、電力を生成できないので、指令値uECが負の値である場合には、水素製造システム23は、指令値uECに応じた動作を行うことができない。言い換えると、水素製造システム23は、放電能力を有しないので、指令値uECが放電指令である場合には、水素製造システム23は、指令値uECに応じた動作を行うことができない。水素製造システム23によって消費可能な消費電力yECには、上限がある。例えば、指令値uECの内容が、水素製造システム23によって消費可能な消費電力の上限(例えば、1000kW)を超える電力を消費させるための値であることがあり得る。この場合には、水素製造システム23は、指令値uECに応じた動作を行うことができない。言い換えると、指令値uECによって水素製造システム23に消費させようとする消費電力が、水素製造システム23による消費可能な消費電力の範囲外である場合には、目標とする消費電力が得られない。
【0082】
これに対し、制御部32Eは、指令値uECが有効範囲外である場合に、有効範囲内に収まるように指令値uECを変更する。具体的には、飽和要素49は、水素製造システム23の有効範囲内に指令値uECを収める。したがって、目標とする消費電力を得ることが可能となる。
【0083】
さらに、制御部32Eは、指令値uに基づいて、指令値uBTを生成する。指令値uは、指令値uから飽和要素49の出力(指令値uEC)が減算されることによって生成される。言い換えると、飽和要素49による指令値uECの変更前後の差分が指令値uBTに加算される。電力のインバランスを回避するために必要な電力が供給側であるとき、飽和要素49の出力は0である。言い換えると、電力のインバランスを回避するための指令値uが0未満であるとき、指令値uECは0である。この場合、制御器45の出力(指令値u)が蓄電システム24への指令値uBTにそのまま使用される。この構成では、インバランスを回避するために電力を消費する場合は、主に水素製造システム23に電力を消費させると共に、蓄電システム24は残量vを変えないように細かく充放電する。一方、インバランスを回避するために電力を供給する場合は、水素製造システム23を停止させると共に、蓄電システム24が主体となって放電を行う。以上のように、水素製造システム23が消費できない電力を、蓄電システム24によって消費させることが可能となる。
【0084】
図19及び図20を参照して、制御部32Eを用いたシミュレーション結果について説明する。図19は、図18の制御部を用いた系統電力のシミュレーション結果を示す図である。図20は、図18の制御部を用いた水素製造システムの消費電力、蓄電システムの充放電電力、及び蓄電装置の残量のシミュレーション結果を示す図である。図19及び図20の横軸は、0時から24時までの時刻を示す。図19の縦軸は、系統電力(単位:kW)を示す。図20の縦軸は、水素製造システム23の消費電力yEC及び蓄電システム24の充放電電力yBT(単位:kW)を示す。
【0085】
本開示のシミュレーションでは、計画値として、42番目(20時30分から21時00分まで)の計画区間において、デマンドレスポンス等による電力の融通が行われていることを想定した値を用いた。具体的には、図6に示す系統電力の計画値において、42番目の計画区間の計画値を100.0kWhから-50.0kWhに変更した。計画値を除く条件は、上記のシミュレーションと同一の条件を用いた。このとき、図19に示すように、測定値yNETは、20時30分から21時00分までの計画区間において、一時的に負の値になっている。つまり、マイクログリッド2は、電力系統90に送電している。
【0086】
上述のように、水素製造システム23は、電力消費による電力の調整能力のみを有している。したがって、図20に示すように、20時30分から21時00分までの計画区間において、水素製造システム23の消費電力yECが0kWになり、蓄電システム24の充放電電力yBTが負の値となっている。つまり、当該計画区間において、水素製造システム23を停止させるとともに、蓄電システム24の蓄電装置を放電させることによって、インバランスを回避していることがわかる。そして、21時以降に、水素製造システム23の消費電力yECを抑えることによって、蓄電システム24の蓄電装置の残量vが回復されることがわかる。
【0087】
マイクログリッド2は、複数の水素製造システム23を備えていてもよい。マイクログリッド2は、複数の蓄電システム24を備えていてもよい。図21に示す例では、マイクログリッド2は、2つの水素製造システム23(水素製造システム23A,23B)と、2つの蓄電システム24(蓄電システム24A,24B)と、を備えている。マイクログリッド2に対し、エネルギーマネジメントシステム3は、制御部32Fを備えている。制御部32Fは、比例要素51~54を更に備える点において、制御部32Cと主に相違する。さらに、制御部32Fは、減算器46、制御器72、及び加算器73に代えて、減算器46A,46B、制御器72A,72B、及び加算器73A,73Bを備える点において、制御部32Cと主に相違する。
【0088】
比例要素51は、ローパスフィルタ43の後段に設けられる。比例要素51は、ローパスフィルタ43から指令値uECを受け取る。比例要素51は、指令値uECと比例ゲインKEC1とを乗算する。比例要素51は、乗算結果を指令値uEC1として水素製造システム23Aに出力する。式(6)に示すように、比例ゲインKEC1は、例えば、水素製造システム23Aの最大消費電力Eと水素製造システム23Bの最大消費電力Eとの総和に対する水素製造システム23Aの最大消費電力Eの割合である。
【数6】
【0089】
比例要素52は、ローパスフィルタ43の後段に設けられる。比例要素52は、ローパスフィルタ43から指令値uECを受け取る。比例要素52は、指令値uECと比例ゲインKEC2とを乗算する。比例要素52は、乗算結果を指令値uEC2として水素製造システム23Bに出力する。式(7)に示すように、比例ゲインKEC2は、例えば、水素製造システム23Aの最大消費電力Eと水素製造システム23Bの最大消費電力Eとの総和に対する水素製造システム23Bの最大消費電力Eの割合である。
【数7】
【0090】
比例要素53は、ハイパスフィルタ44の後段に設けられる。比例要素53は、ハイパスフィルタ44から指令値uを受け取る。比例要素53は、指令値uと比例ゲインKBT1とを乗算する。比例要素53は、乗算結果を加算器73Aに出力する。式(8)に示すように、比例ゲインKBT1は、例えば、蓄電システム24Aの最大充放電電力Bと蓄電システム24Bの最大充放電電力Bとの総和に対する蓄電システム24Aの最大充放電電力Bの割合である。
【数8】
【0091】
比例要素54は、ハイパスフィルタ44の後段に設けられる。比例要素54は、ハイパスフィルタ44から指令値uを受け取る。比例要素54は、指令値uと比例ゲインKBT2とを乗算する。比例要素54は、乗算結果を加算器73Bに出力する。式(9)に示すように、比例ゲインKBT2は、例えば、蓄電システム24Aの最大充放電電力Bと蓄電システム24Bの最大充放電電力Bとの総和に対する蓄電システム24Bの最大充放電電力Bの割合である。
【数9】
【0092】
減算器46Aは、蓄電システム24Aに含まれる蓄電装置の残量vを蓄電システム24Aから受け取る。減算器46Aは、目標値vref1から残量vを減算することによって誤差を算出する。減算器46Aは、誤差を制御器72Aに出力する。目標値vref1は、蓄電システム24Aに含まれる蓄電装置の残量の目標値である。制御器72Aは、減算器46Aから誤差を受け取る。制御器72Aは、誤差に応じた指令値を加算器73Aに出力する。制御器72Aは、誤差を減少させるような指令値を算出する。制御器72Aは、例えば、誤差をゼロにするような指令値を算出する。制御器72Aは、例えば、PID制御器である。そして、加算器73Aは、比例要素53から受け取った乗算結果と、制御器72Aから受け取った指令値とを合算することによって、指令値uBT1を算出する。そして、加算器73Aは、指令値uBT1を蓄電システム24Aに出力する。
【0093】
減算器46Bは、蓄電システム24Bから蓄電システム24Bに含まれる蓄電装置の残量vを受け取る。減算器46Bは、目標値vref2から残量vを減算することによって誤差を算出する。減算器46Bは、誤差を制御器72Bに出力する。目標値vref2は、蓄電システム24Bに含まれる蓄電装置の残量の目標値である。制御器72Bは、減算器46Bから誤差を受け取る。制御器72Bは、誤差に応じた指令値を加算器73Bに出力する。制御器72Bは、誤差を減少させるような指令値を算出する。制御器72Bは、例えば、誤差をゼロにするような指令値を算出する。制御器72Bは、例えば、PID制御器である。そして、加算器73Bは、比例要素54から受け取った乗算結果と、制御器72Bから受け取った指令値とを合算することによって、指令値uBT2を算出する。そして、加算器73Bは、指令値uBT2を蓄電システム24Bに出力する。
【0094】
比例要素51,52は、水素製造システム23A,23Bの最大消費電力に応じた負荷を水素製造システム23A,23Bに分担させる。マイクログリッド2が3以上の水素製造システム23を備えている場合も、同様に比例要素は、各水素製造システム23の最大消費電力に応じた負荷を、各水素製造システム23に分担させる。比例要素53,54は。蓄電システム24A,24Bの最大充放電電力に応じた負荷を蓄電システム24A,24Bに分担させている。マイクログリッド2が3以上の蓄電システム24を備えている場合も、同様に比例要素は、各蓄電システム24の最大充放電電力に応じた負荷を各蓄電システム24に分担させる。
【0095】
次に、図22を参照して、エネルギーマネジメントシステム3のハードウェア構成について説明する。図22は、図1に示すエネルギーマネジメントシステムのハードウェア構成の一例を示す図である。エネルギーマネジメントシステム3は、1又は複数のコンピュータ100を含む。コンピュータ100は、プロセッサ101と、記憶装置102と、入力装置103と、出力装置104と、通信装置105と、を含む。エネルギーマネジメントシステム3は、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアと、により構成された1又は複数のコンピュータ100によって構成される。つまり、エネルギーマネジメントシステム3は、少なくとも1つのプロセッサ101を備えている。
【0096】
エネルギーマネジメントシステム3が複数のコンピュータ100によって構成される場合には、これらのコンピュータ100はローカルで接続されてもよい。これらのコンピュータ100は、インターネット又はイントラネット等の通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つのエネルギーマネジメントシステム3が構築される。
【0097】
プロセッサ101は、オペレーティングシステム及びアプリケーション・プログラム等を実行する。プロセッサ101の例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。記憶装置102は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される主記憶装置と、ハードディスク及びフラッシュメモリ等によって構成される補助記憶装置と、を含む。入力装置103は、キーボード、マウス、タッチパネル、及び音声入力用マイク等によって構成される。出力装置104は、ディスプレイ及びプリンタ等によって構成される。通信装置105は、ネットワークカード又は無線通信モジュールによって構成される。
【0098】
記憶装置102は、コンピュータ100をエネルギーマネジメントシステム3として機能させるためのプログラムと、処理に必要なデータと、を格納している。エネルギーマネジメントシステム3の図2に示す各機能は、プロセッサ101等のハードウェアにプログラムを読み込ませることにより、プロセッサ101の制御のもとで各ハードウェアを動作させるとともに、記憶装置102におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0099】
プログラムは、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、及び半導体メモリ等の有形の記録媒体に記録された上で提供されてもよい。プログラムは、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0100】
インバランス解消のための調整力電源は、主に火力発電である。調整力電源は、インバランス解消のため、複数基を起動状態としつつ、かつ、上げ・下げ両方に余裕を持たせた部分出力運転を行う必要がある。この運転は、発電効率の観点からは望ましくない。この運転は、発電単価の上昇、CO排出量の増加等を招くことがある。したがって、インバランスの抑制又は解消は、特定のマイクログリッドの経済性及び事業収益のみに関わるものではない。インバランスの抑制又は解消は、社会全体としての経済的なエネルギー供給及び環境負荷の低減にも関わる。よって、本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、国連が主導する持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」及び目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献する。
【0101】
水素は、次世代のエネルギー源として注目されている。特に、COの排出量を大幅に低減させた方法で製造された水素は、「COフリー水素」と呼ばれている。本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、再生可能エネルギーの余剰電力を使用して水素製造を行うことができるので、COフリー水素の製造に貢献する。本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、再生可能エネルギー電源で問題となっている変動性を抑制する制御方法を示す。つまり、本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、再生可能エネルギー電源自体の普及・拡大にも貢献する。そのため、本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、SDGsのターゲット7.2「2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。」、及びターゲット9.3「2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う。」に貢献する。
【0102】
本開示の電力調整方法、及び電力調整装置は、電力市場を介した計画値同時同量制度に対して好適である。さらに、計画値同時同量制御は、その他の制度においても必要な技術である。例えば、企業等が一般電気事業者の送配電ネットワークを利用した自己託送においても、送電側及び受電側は計画値同時同量の制約を受けることがある。自己託送の場合でも、本技術を用いて、定められたある区間の系統電力量を目標値に制御することができる。
【0103】
ところで、近年、RE100と呼ばれる、企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブが注目を集めている。一般に、企業等の本社が存在する都市部の高層ビルには、ビル全体の消費エネルギーを補うほどの太陽光発電設備及び風力発電設備を設置するスペースは存在しない。そのため、RE100の一つの実現方策として、各地に存在する再生可能エネルギー発電設備から本社等の高層ビルに自己託送することが考えられる。自己託送制度では、送電側及び受電側ともに計画値同時同量を順守しなくてはならないので、本開示の技術の適用が期待される。そのため、本開示は、RE100の推進にも貢献する。
【符号の説明】
【0104】
1 電力供給システム
2 マイクログリッド
3 エネルギーマネジメントシステム
90 電力系統
21 発電システム
22 電力需要家
23,23A,23B 水素製造システム(電力消費装置)
24,24A,24B 蓄電システム(蓄電装置)
25 グリッド制御部
26 電力測定部
27 電力測定部
31 通信部
32,32A,32B,32C,32D,32E,32F 制御部
100 コンピュータ
101 プロセッサ
e 誤差
BT 高周波成分
EC 低周波成分
sum 積算誤差
誤差
St 目標軌道
Sr 積算値
u 指令値(第3指令値)
BT 指令値(第2指令値)
EC 指令値(第1指令値)
v 残量
ref 目標値
BT 充放電電力
EC 消費電力
LD 消費電力
NET 測定値
PV 発電電力
ref 目標値(電力目標値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22