(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/00 20060101AFI20240903BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20240903BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B60W10/00 150
B60W10/02
B60W10/30
(21)【出願番号】P 2022570793
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047786
(87)【国際公開番号】W WO2022137308
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】川添 健斗
(72)【発明者】
【氏名】日置 文章
(72)【発明者】
【氏名】勝呂 洋明
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 峻平
(72)【発明者】
【氏名】平野 智久
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-009629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0203106(US,A1)
【文献】特開2000-324608(JP,A)
【文献】特開2001-020775(JP,A)
【文献】特開2006-136067(JP,A)
【文献】特開2006-182274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速走行時に、内燃機関と自動変速機とを直結するロックアップクラッチを締結し、オルタネータで回生発電を実施可能な車両の制御方法において、
減速走行時、車速が車両の減速度に応じて設定された第1の車両速度に到達すると上記ロックアップクラッチを解放し、車速が上記第1の車両速度と異なる第2の車両速度に到達すると上記オルタネータでの回生発電を終了する車両の制御方法。
【請求項8】
内燃機関と自動変速機とを直結するロックアップクラッチと、
減速走行時に上記ロックアップクラッチを締結して回生発電を行うオルタネータと、
減速走行時に車速が車両の減速度に応じて設定された第1の車両速度に到達すると上記ロックアップクラッチを解放し、減速走行時に車速が上記第1の車両速度と異なる第2の車両速度に到達すると上記オルタネータでの回生発電を終了する制御部と、を有する車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御方法及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、減速走行時に、モータジェネレータに回生トルクを生じさせるコースト回生制御を行う技術が開示されている。特許文献1においては、このコースト回生制御の実行時に車速がコースト終了速度まで低下するとコースト回生力を「0」としている。
【0003】
減速走行時には回生発電と共に、燃料カットのためロックアップクラッチを締結させることがある。締結されたロックアップクラッチは車速が減速度に応じて設定した所定車速に到達したら解放される。よって、減速度によっては、回生発電の停止とロックアップクラッチの解放のタイミングが重なることがあり、減速感が一気になくなって運転性能が悪化する。
【0004】
すなわち、減速走行時に回生発電を実施する場合には、運転性能と燃費性能とを両立する上で、更なる改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明の車両は、減速走行時、車速が車両の減速度に応じて設定された第1の車両速度に到達するとロックアップクラッチを解放し、車速が第1の車両速度と異なる第2の車両速度に到達するとオルタネータでの回生発電を終了する。
【0007】
本発明によれば、燃費性能と運転性能の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される車両のシステム構成の概略を模式的に示した説明図。
【
図2】回生発電を停止した際の動作の一例を示す比較例のタイミングチャート。
【
図3】車両の減速度に応じて第1速度閾値V1と第2速度閾値V2を設定した場合の動作の一例を示すタイミングチャート。
【
図4】減速走行時の制御の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明が適用される車両のシステム構成の概略を模式的に示した説明図である。
【0010】
内燃機関1は、例えば多気筒の火花点火式ガソリン機関であり、自動車等の車両に搭載されるものである。内燃機関1は、燃料噴射弁(図示せず)を有するものである。燃料噴射弁の燃料噴射量、燃料噴射弁の燃料噴射時期、燃料噴射弁に供給される燃料の圧力等は、後述するコントロールユニット21によって最適に制御される。
【0011】
内燃機関1の駆動力は、トルクコンバータ3及びフォワードクラッチ4を介して変速機としてのCVT(連続無段可変変速機)5に伝達され、このCVT5に伝達された駆動力はファイナルギヤ6を介して車両の駆動輪7に伝達されている。
【0012】
つまり、内燃機関1は、例えば、図示せぬクランクシャフトの回転を駆動力として車両の駆動輪7に伝達するものである。
【0013】
また、図示しないポンプインペラとタービンランナを有するトルクコンバータ3は、ポンプインペラとタービンランナとを締結・解放する機械式のロックアップクラッチ3aを備えている。ロックアップクラッチ3aの締結・解放は、車速やアクセルペダル開度等の種々の運転条件に基づいて制御され、例えば、発進加速時などはロックアップクラッチ3aが解放され、定常走行時や減速走行時などはロックアップクラッチ3aが締結される。
【0014】
フォワードクラッチ4は、トルクコンバータ3とCVT5との間に位置し、内燃機関1からの駆動トルクが駆動輪7に伝達可能となる場合に締結されるものである。つまり、フォワードクラッチ4は、内燃機関1の駆動力を駆動輪7に伝達する動力伝達経路上に配置されている。なお、ロックアップクラッチ3及びフォワードクラッチ4の締結/解放の動作は、後述するコントロールユニット21からの制御指令に基づいて行われている。
【0015】
CVT5は、入力側のプライマリプーリ8と、出力側のセカンダリプーリ9と、プライマリプーリ8の回転をセカンダリプーリ9に伝達するベルト10と、を有している。
【0016】
CVT5は、例えば、ベルト10が巻き掛けられるプライマリプーリ8及びセカンダリプーリ9のV溝(図示せず)の幅を油圧を利用して変化させ、ベルト10とプライマリプーリ8、セカンダリプーリ9との接触半径を変化させ、変速比を無段階に変化させるものである。
【0017】
なお、変速機としてCVT5が用いられているが、CVT5の代わりに有段自動変速機を用いることも可能である。この場合、フォワードクラッチ4は有段自動変速機内の複数の摩擦締結要素を流用して構成されることになる。
【0018】
また、内燃機関1は、車載バッテリ(図示せず)への充電等のために発電するオルタネータ11、エアコン(エアコンディショナ)のコンプレッサ12等を駆動する。
【0019】
オルタネータ11及びコンプレッサ12は、トルクコンバータ3よりも内燃機関1側に位置し、内燃機関1で駆動可能となっている。
【0020】
オルタネータ11及びコンプレッサ12には、上述した動力伝達経路上の回転力が伝達可能となっている。オルタネータ11には、ベルト13を介して内燃機関1や駆動輪7からの回転が伝達される。コンプレッサ12には、ベルト14を介して内燃機関1や駆動輪7からの回転が伝達される。
【0021】
オルタネータ11、コンプレッサ12等の補機類の駆動要求があり、これらの補機類を駆動する場合には、内燃機関1に補機負荷が作用することになり、内燃機関1の負荷が増加することになる。
【0022】
コントロールユニット21には、クランクシャフトのクランク角を検出するクランク角センサ22、アクセルペダル(図示せず)の踏込量を検出するアクセル開度センサ23、車両の車速を検出する車速センサ24、車両の加速度を検出する加速度センサ25、ブレーキペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するブレーキセンサ(ブレーキスイッチ)26、エアコンのON/OFFを検出するエアコンセンサ(エアコンスイッチ)27、エアコンの冷媒圧を検出する冷媒圧センサ28等の各種センサ類の検出信号が入力されている。
【0023】
コントロールユニット21は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。
【0024】
コントロールユニット21は、車両の減速走行時にロックアップクラッチ3aを締結してオルタネータ11で回生発電を行っている。
【0025】
クランク角センサ22は、内燃機関1の機関回転速度(機関回転数)を検出可能なものである。加速度センサ25は、車両の減速度を検出可能なものである。
【0026】
図2は、回生発電を停止した際の動作の一例を示す比較例のタイミングチャートである。
図2に示す比較例においては、減速走行時に車両の速度(車速)が予め設定された一定値(固定値)である所定の速度閾値V0以下になるとオルタネータ11で行う回生発電を停止する。
【0027】
図2に示す比較例では、時刻t1において車両の速度が速度閾値V0以下となっている。
【0028】
図2に示す比較例においては、回生実施フラグが時刻t1において「1」から「0」に切り替わる。オルタネータ11は、回生実施フラグが「1」のとき回生発電を実施行い、回生実施フラグが「0」のとき回生発電を実施しない。従って、オルタネータ11は、回生実施フラグが「1」から「0」に切り替わるタイミングで回生発電が終了し、回生実施フラグが「0」から「1」に切り替わるタイミングで回生発電が開始される。
【0029】
図2に示す比較例においては、車速が車両の減速度に応じて設定された所定の速度閾値に到達するとロックアップクラッチ3aが解放され、時刻t1において車速が所定の速度閾値に到達してロックアップクラッチ3aが解放される。ロックアップ信号は、時刻t1において「ON」から「OFF」に切り替わる。クラッチ4は、ロックアップ信号が「ON」のとき締結され、ロックアップ信号が「OFF」のとき解放される。
【0030】
図2に示すように、車速が所定の一定値である速度閾値V0以下になるとオルタネータ11で行う回生発電を停止する場合には、車両の減速度によっては、オルタネータ11の回生発電の停止とロックアップクラッチ3aの解放のタイミングが重なることがあり、減速感が一気になくなって運転性能が悪化する。
【0031】
そのため、
図2に示すような比較例においては、燃費性能と運転性能の両立が困難になる虞がある。
【0032】
そこで、本実施例のコントロールユニット21は、減速走行時に車速が第1速度閾値V1以下になるとロックアップクラッチ3aを解放している。また、コントロールユニット21は、減速走行時に車速が第1速度閾値V1と異なる第2速度閾値V2以下になるとオルタネータ11で行う回生発電を停止する(第1速度閾値V1と第2速度閾値V2は、条件に関わらず常に異なる)。第1速度閾値V1は、第1の車両速度に相当するものであり、車両の減速度に応じて変化する。第2速度閾値V2は、第2の車両速度に相当するものであり、車両の減速度に応じて変化する。
【0033】
つまり、制御部に相当するコントロールユニット21は、減速走行時に車速が第1速度閾値V1に到達するとロックアップクラッチ3aを解放し、減速走行時に車速が第2速度閾値V2に到達するとオルタネータ11での回生発電を終了する。
【0034】
これによって、本実施例の車両は、車両の減速度に応じて減速走行時のオルタネータ11の回生発電終了時期を設定することが可能となり、燃費性能と運転性能の両立を図ることができる。
【0035】
また、減速度が小さいときは、燃費向上効果を狙って第2速度閾値V2を低く設定することができる。減速度が大きいときは、エンジンストール(エンスト)を防止するために高く設定した第1速度閾値V1よりも第2速度閾値V2を高く設定することができる。
【0036】
第1速度閾値V1または第2速度閾値V2は、車両の減速度が大きくなるほど高くなるよう設定される。
【0037】
これによって、減速度が大きいときは、エンジンストール(エンスト)を防止するために第1速度閾値V1または第2速度閾値V2を高く設定することができる。
【0038】
なお、第1速度閾値V1及び第2速度閾値V2は、双方を車両の減速度が大きくなるほど高くなるよう設定してもよい。
【0039】
図3は、車両の減速度に応じて第1速度閾値V1と第2速度閾値V2を設定した場合の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【0040】
図3中に破線で示す第1速度閾値V1は、
図3中に破線で示す第2速度閾値V2とは異なる値に設定される。つまり、第1速度閾値V1と第2速度閾値V2とは、車両の減速度が同じ場合に、互いに異なる値となるよう設定される。
【0041】
図3に示す実施例においては、
図3中に実線で示す車両速度が時刻t1のタイミングで第2速度閾値V2以下となり、回生実施フラグが時刻t1において「1」から「0」に切り替わる。
【0042】
また、
図3に示す実施例においては、
図3中に実線で示す車両速度が時刻t2のタイミングで第1速度閾値V1以下となり、ロックアップ信号が時刻t2において「ON」から「OFF」に切り替わる。なお、ロックアップ信号が「OFF」から「ON」に切り替わる際の閾値は、第1速度閾値V1よりも大きい値に設定される。そのため、
図3においては、ロックアップ信号が時刻t2以降も「OFF」の状態を維持している。
【0043】
コントロールユニット21は、ロックアップクラッチ3aの解放よりもオルタネータ11の回生発電の終了が早くなるよう制御してもよい。すなわち、第1速度閾値V1は、第2速度閾値V2よりも小さくなるよう設定してもよい。
【0044】
この場合、車両の減速時において、ロックアップクラッチ3aの解放前にオルタネータ11の回生発電を終了することができ、オルタネータ11の回生発電の停止とロックアップクラッチ3aの解放のタイミングが重なることがなくなり、運転性能の悪化を抑制することができる。
【0045】
コントロールユニット21は、オルタネータ11の回生発電の終了よりもロックアップクラッチ3aの解放が早くなるよう制御してもよい。すなわち、第1速度閾値V1は、第2速度閾値V2よりも大きくなるよう設定してもよい。
【0046】
この場合、車両の減速度が小さい時(緩減速時)において、燃費向上効果を狙ってオルタネータ11の回生発電を終了させる第2速度閾値V2を低く設定することができる。
【0047】
第1速度閾値V1及び第2速度閾値V2は、エアコンの冷媒圧が高くなるほど高くなるよう設定してもよい。内燃機関1の負荷は、エアコンの冷媒圧が高くなるほど高くなる。
【0048】
これによって、減速走行時における内燃機関1のエンジンストールを防止することができる。
【0049】
第1速度閾値V1及び第2速度閾値V2は、ブレーキオンの場合とブレーキオフの場合とで変更するようにしてもよい。
【0050】
例えば、ブレーキオンの場合は、運転者の意志を反映して減速度が変えられているので、第1速度閾値V1及び第2速度閾値V2をブレーキオフの場合よりも低い側に設定しても運転者に違和感を与えることがなく運転性能を確保できる。
【0051】
例えば、ブレーキオフの場合は、第1速度閾値V1及び第2速度閾値V2をブレーキオンの場合よりも高い側に設定し、減速度の変化を少なくして運転者に違和感を与えないよう制御することで運転性能を確保する。
【0052】
図4は、減速走行時の制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【0053】
ステップS1では、ロックアップクラッチ3aを締結状態にしてオルタネータ11で回生発電を実施するか否かを判定する。オルタネータ11の回生発電は、例えば、アクセルペダルが踏み込まれていない状態であること、車載バッテリのバッテリSOCが所定のバッテリ閾値よりも大きいこと等の回生発電実施条件が成立した場合に実施される。ステップS1において回生発電を実施する場合は、ステップS2へ進む。ステップS1において回生発電を実施しない場合は、今回のルーチンを終了する。
【0054】
ステップS2では、減速度に応じた第1速度閾値V1及び第2速度閾値V2を算出する。第1速度閾値VI及び第2速度閾値V2は、例えば、減速度と速度閾値とを対応させたマップを予めコントロールユニット21に記憶させておくことによって算出される。
【0055】
ステップS3では、車速が第2速度閾値V2以下であるか否かを判定する。ステップS3において車速が第2速度閾値V2以下である場合は、ステップS3からステップS4へ進む。ステップS3において車速が第2速度閾値V2以下でない場合は、ステップS3からステップS5へ進む。
【0056】
ステップS4では、オルタネータ11の回生発電を終了する。
【0057】
ステップS5では、ロックアップ実施中であるか否か、すなわちロックアップクラッチ3aが締結されているか否かを判定する。ステップS5においてロックアップクラッチ3aが解放されている場合は、ステップS5からステップS4へ進む。ステップS5においてロックアップクラッチ3aが締結されている場合は、ステップS5からステップS6へ進む。
【0058】
ステップS6では、内燃機関1の燃料カットが実施されている否かを判定する。ステップS6において燃料カットが行われていない場合は、ステップS4へ進む。ステップS6において燃料カットが行われている場合は、ステップS2へ進む。
【0059】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、オルタネータの回生発電について、車速が車両の減速度に応じて設定された第2の車両速度に到達したら終了させるのではなく、ロックアップクラッチが解除されたことを受けて終了させることができる。
【0060】
上述した実施例は、車両の制御方法及び車両の制御装置に関するものである。