(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ループヒートパイプ用の蒸発器及びループヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20240903BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20240903BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F28D15/02 102H
F28D15/02 M
F28D15/02 E
F28D15/02 101L
H01L23/46 A
H05K7/20 R
(21)【出願番号】P 2022581191
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2021042451
(87)【国際公開番号】W WO2022172546
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2021021838
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山田 辰也
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-78259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0043060(US,A1)
【文献】特表2004-531050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0232877(US,A1)
【文献】特開2001-177030(JP,A)
【文献】特開2004-311519(JP,A)
【文献】米国特許第6397932(US,B1)
【文献】特開2008-27373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、厚み方向で前記底壁に対向する天壁と、前記厚み方向で前記底壁及び前記天壁の外縁同士を接続する側壁と、を有する、平板状の筐体を備え、
前記筐体における、前記底壁と前記天壁と前記側壁とで囲まれた内部領域は、前記底壁の内面に接する蒸気室を含み、
前記側壁には、液管接続口と、前記蒸気室に連通する蒸気管接続口と、が設けられ、
前記底壁の外面には、前記厚み方向から見たときに前記蒸気室の
全部と重なる領域に、前記天壁側に凹んだ凹部が設けられている、ことを特徴とするループヒートパイプ用の蒸発器。
【請求項2】
底壁と、厚み方向で前記底壁に対向する天壁と、前記厚み方向で前記底壁及び前記天壁の外縁同士を接続する側壁と、を有する、平板状の筐体と、
前記底壁の外面上に設けられた断熱部材と、を備え、
前記筐体における、前記底壁と前記天壁と前記側壁とで囲まれた内部領域は、前記底壁の内面に接する蒸気室を含み、
前記側壁には、液管接続口と、前記蒸気室に連通する蒸気管接続口と、が設けられ、
前記底壁の外面には、前記厚み方向から見たときに前記蒸気室の少なくとも一部と重なる領域に、前記天壁側に凹んだ凹部が設けられ、
前記凹部は、前記厚み方向で前記天壁に対向する主面と、前記主面の外縁から前記厚み方向に延びる側面と、を有し、
前記断熱部材は、前記凹部の前記主面における、前記厚み方向で前記蒸気室と重なる領域の少なくとも一部が露出するように、前記凹部の前記側面を覆っている、ことを特徴とするループヒートパイプ用の蒸発器。
【請求項3】
前記厚み方向から見たとき、前記凹部は、前記蒸気室の全部と重なっている、請求項
2に記載の蒸発器。
【請求項4】
前記厚み方向から見たとき、前記凹部と前記蒸気室とは、外縁同士が一致している、請求項
1又は3に記載の蒸発器。
【請求項5】
前記筐体における、前記底壁と前記天壁と前記側壁とで囲まれた内部領域は、液室を含む、請求項1~
4のいずれかに記載の蒸発器。
【請求項6】
前記液室は、前記底壁の内面に接し、
前記液室及び前記蒸気室は、前記厚み方向に直交する面方向に並んでいる、請求項
5に記載の蒸発器。
【請求項7】
前記液管接続口及び前記蒸気管接続口は、前記厚み方向に直交する面方向に並んでいる、請求項1~
6のいずれかに記載の蒸発器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の蒸発器と、
凝縮器と、
一端が前記蒸発器の前記液管接続口に接続され、かつ、他端が前記凝縮器の液管接続口に接続された液管と、
一端が前記蒸発器の前記蒸気管接続口に接続され、かつ、他端が前記凝縮器の蒸気管接続口に接続された蒸気管と、を備える、ことを特徴とするループヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループヒートパイプ用の蒸発器及びループヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種素子が電子回路基板に実装された電子機器等の製品では、各種素子の高集積化及び高性能化により、発熱量が増加している。そのため、このような製品に対しては、放熱対策を行うことが重要となっている。そこで、このような放熱対策用の部材として、ループヒートパイプを使用することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、ループヒートパイプ用の蒸発器として、容器の内部に作動流体を供給するとともに、その容器の内部に設けられたマイクロチャンネル部で作動流体を蒸気化させてその蒸気を容器の外部に流出させるマイクロループヒートパイプ用蒸発器が開示されている。特許文献1に記載のマイクロループヒートパイプ用蒸発器においては、容器が薄板状の中空体として形成され、その容器の内部に、容器の厚さ方向で互いに対向する二つの内面に接合されて容器の内部を少なくとも二つの領域に区画する多孔質部材からなる隔壁部が設けられ、その一方の領域に、作動流体を流入させる流入口が開口して設けられて一方の領域が作動流体を貯留するリザーバ部とされ、かつ他方の領域の内部に、マイクロチャンネル部と、そのマイクロチャンネル部を形成している細溝部が連通するヘッダ部とが形成され、そのヘッダ部に、蒸気を容器から流出させる流出口が開口して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ループヒートパイプが電子機器の内部に組み込まれる際、特に、薄型の電子機器では、他の部材と同様に、ループヒートパイプの設置スペースにも制限がある。そのため、ループヒートパイプ、特に、その構成部材である蒸発器には、それ自体の薄型化だけではなく、各種素子に取り付けられた実装状態での低背化も求められる。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載の蒸発器のように、蒸発器の側壁に液管及び蒸気管が接続される構成では、蒸発器の薄型化により実装状態での低背化を実現しようとすると、蒸発器の側壁の高さを小さくすることになるため、蒸発器の側壁に接続される液管及び蒸気管の内径を小さくすることになる。ここで、ダルシー・ワイスバッハ(Darcy-Weisbach)の式によれば、管内での流体の流れが層流状態である場合、管での圧力損失は、管の長さに比例しつつ、管の内径の4乗に反比例する。そのため、上述したように液管及び蒸気管の内径を小さくすると、液管及び蒸気管での圧力損失が大きくなり、結果的に、ループヒートパイプの熱輸送性能が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、液管及び蒸気管が接続される側壁の高さが確保されつつ、実装状態での低背化が可能なループヒートパイプ用の蒸発器を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記蒸発器を有するループヒートパイプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のループヒートパイプ用の蒸発器は、底壁と、厚み方向で上記底壁に対向する天壁と、上記厚み方向で上記底壁及び上記天壁の外縁同士を接続する側壁と、を有する、平板状の筐体を備え、上記筐体における、上記底壁と上記天壁と上記側壁とで囲まれた内部領域は、上記底壁の内面に接する蒸気室を含み、上記側壁には、液管接続口と、上記蒸気室に連通する蒸気管接続口と、が設けられ、上記底壁の外面には、上記厚み方向から見たときに上記蒸気室の少なくとも一部と重なる領域に、上記天壁側に凹んだ凹部が設けられている、ことを特徴とする。
【0009】
本発明のループヒートパイプは、本発明の蒸発器と、凝縮器と、一端が上記蒸発器の上記液管接続口に接続され、かつ、他端が上記凝縮器の液管接続口に接続された液管と、一端が上記蒸発器の上記蒸気管接続口に接続され、かつ、他端が上記凝縮器の蒸気管接続口に接続された蒸気管と、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液管及び蒸気管が接続される側壁の高さが確保されつつ、実装状態での低背化が可能なループヒートパイプ用の蒸発器を提供できる。また、本発明によれば、上記蒸発器を有するループヒートパイプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のループヒートパイプの一例を示す平面模式図である。
【
図2】本発明のループヒートパイプ用の蒸発器の一例である
図1中の蒸発器を、その近傍とともに示す斜視模式図である。
【
図3】
図2中の蒸発器を分解した状態の一例を示す斜視模式図である。
【
図4】
図3中の蒸発器及びその近傍を厚み方向から透視した状態を示す模式図である。
【
図5】
図4中の線分A-A’に対応する部分を示す断面模式図である。
【
図6】
図4中の線分B-B’に対応する部分を示す断面模式図である。
【
図7】
図5中の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態の一例を示す断面模式図である。
【
図8】従来の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態を示す断面模式図である。
【
図9】
図5中の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態の別の一例を示す断面模式図である。
【
図10】本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【
図11】
図10中の線分C-C’に対応する部分を示す断面模式図である。
【
図12】本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【
図13】本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【
図14】本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【
図15】液室が内部に設けられていない蒸発器の一例について、蒸発器及びその近傍を厚み方向から透視した状態を示す模式図である。
【
図16】
図15中の蒸発器及びその近傍の長さ方向に沿う断面を斜視した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のループヒートパイプ用の蒸発器と、本発明のループヒートパイプとについて説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0013】
図1は、本発明のループヒートパイプの一例を示す平面模式図である。
【0014】
図1に示すように、ループヒートパイプ1は、蒸発器100と、液管200と、蒸気管300と、凝縮器400と、を有している。
【0015】
液管200は、一端が蒸発器100の液管接続口に接続され、かつ、他端が凝縮器400の液管接続口に接続されている。
【0016】
蒸気管300は、一端が蒸発器100の蒸気管接続口に接続され、かつ、他端が凝縮器400の蒸気管接続口に接続されている。
【0017】
以上により、ループヒートパイプ1は、ループ状に構成されている。
【0018】
本明細書中、長さ方向、厚み方向、幅方向を、
図1等に示すように、各々、L、T、及び、Wで定められる方向とする。長さ方向Lと厚み方向Tと幅方向Wとは、互いに直交している。また、厚み方向Tに直交する方向であって、長さ方向L及び幅方向Wを包含する方向を、面方向とする。
【0019】
図2は、本発明のループヒートパイプ用の蒸発器の一例である
図1中の蒸発器を、その近傍とともに示す斜視模式図である。
図3は、
図2中の蒸発器を分解した状態の一例を示す斜視模式図である。
【0020】
図2及び
図3に示すように、蒸発器100は、筐体120を有している。
【0021】
筐体120は、
図2に示すように、平板状であり、底壁120aと、厚み方向Tで底壁120aに対向する天壁120bと、厚み方向Tで底壁120a及び天壁120bの外縁同士を接続する側壁120cと、を有している。
【0022】
本明細書中、平板状とは、シート状も包含するものであり、例えば、厚み方向における寸法が、長さ方向における寸法及び幅方向における寸法のうちの小さい方の寸法の1/3以下、好ましくは1/10以下である形状を意味する。
【0023】
筐体120の底壁120aは、厚み方向Tに厳密に直交している必要はない。また、筐体120の天壁120bは、厚み方向Tに厳密に直交している必要はない。更に、筐体120の側壁120cは、厚み方向Tに厳密に平行である必要はない。
【0024】
本明細書では、厚み方向Tを鉛直方向として、筐体120の底壁120aを下側、筐体120の天壁120bを上側として示しているが、これらの方向に限定されるものではなく、蒸発器100を設置する状態によって適宜変更される。
【0025】
厚み方向Tから見たとき、筐体120の平面形状としては、例えば、正方形状、長方形状等の多角形状、円形状、楕円形状、これらの形状を複数種類組み合わせた形状等が挙げられる。筐体120の平面形状は、底壁120a側から見たときと天壁120b側から見たときとで、互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0026】
筐体120は、例えば、
図3に示すように、蒸発器フタ108と、蒸発器ケース110と、で構成されている。
【0027】
蒸発器フタ108は、平板状である。
【0028】
蒸発器ケース110は、上部が開放された箱状であり、底壁104と、底壁104の外縁から厚み方向Tに延びる側壁106と、を有している。
【0029】
蒸発器フタ108の外縁と蒸発器ケース110の側壁106とは、全周で接合され、これにより、筐体120は気密封止されている。
【0030】
蒸発器フタ108と蒸発器ケース110の側壁106との接合方法としては、例えば、レーザー溶接、電気抵抗溶接、ロウ付け等が挙げられる。
【0031】
蒸発器フタ108及び蒸発器ケース110が接合されてなる筐体120において、蒸発器ケース110の底壁104は筐体120の底壁120aに該当し、蒸発器フタ108は筐体120の天壁120bに該当し、蒸発器ケース110の側壁106は筐体120の側壁120cに該当している。
【0032】
蒸発器ケース110の構成材料は、熱伝導率が高い材料、例えば、金属であることが好ましく、銅であることが特に好ましい。
【0033】
蒸発器フタ108の構成材料は、熱伝導率が高い材料でなくてもよいが、熱膨張係数が蒸発器ケース110の構成材料に近く、蒸発器ケース110に容易に接合可能な材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等が挙げられる。中でも、蒸発器フタ108の構成材料は、銅であることが特に好ましい。
【0034】
蒸発器フタ108及び蒸発器ケース110の構成材料は、互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0035】
蒸発器100の内部構造について、
図3に加えて、
図4、
図5、及び、
図6も参照しつつ、以下に説明する。
【0036】
図4は、
図3中の蒸発器及びその近傍を厚み方向から透視した状態を示す模式図である。
図5は、
図4中の線分A-A’に対応する部分を示す断面模式図である。
図6は、
図4中の線分B-B’に対応する部分を示す断面模式図である。
【0037】
図3、
図4、
図5、及び、
図6に示すように、筐体120における、蒸発器ケース110の底壁104と蒸発器フタ108と蒸発器ケース110の側壁106とで囲まれた内部領域は、液室101と、蒸気室102と、を含んでいる。すなわち、筐体120における、底壁120aと天壁120bと側壁120cとで囲まれた内部領域は、液室101と、蒸気室102と、を含んでいる。
【0038】
液室101は、液相の作動流体を貯留する場所であり、補償室とも呼ばれる。
【0039】
蒸気室102は、液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる場所である。
【0040】
蒸発器100は、
図3、
図4、
図5、及び、
図6に示すように、筐体120の内部領域に設けられたウィック103を更に有していることが好ましい。
【0041】
ウィック103は、液室101に存在する液相の作動流体を毛細管力により蒸気室102に供給しつつ、蒸気室102で発生した気相の作動流体が液室101に逆流することを防止する部材である。
【0042】
ウィック103は、毛細管力が大きくて透過率が高い部材、例えば、多孔質部材からなることが好ましい。この場合、ウィック103としては、例えば、毛細管径が1μm以上、10μm以下であり、開口率が50%以上、90%以下である多孔質部材が用いられる。
【0043】
多孔質部材の構成材料としては、例えば、金属、セラミック、樹脂等が挙げられる。これらの材料については、作動流体に対して耐食性が充分に高く、腐食したり、反応でガスが発生したりすることがないものを選定することが重要である。
【0044】
蒸気室102は、
図3、
図5、及び、
図6に示すように、蒸発器ケース110の底壁104の内面、すなわち、筐体120の底壁120aの内面に接している。
【0045】
蒸発器ケース110は、
図3、
図4、
図5、及び、
図6に示すように、側壁106よりも内側の位置で、底壁104から厚み方向Tに延びる隔壁107を更に有している。つまり、筐体120は、側壁120cよりも内側の位置で、底壁120aから厚み方向Tに延びる隔壁107を更に有している。隔壁107は、液室101と蒸気室102との面方向における境界となっている。
【0046】
ウィック103と隔壁107とは、
図3、
図4、
図5、及び、
図6に示すように、外縁同士が接合されている。ウィック103は、液室101と蒸気室102との厚み方向Tにおける境界となっている。
【0047】
ウィック103と隔壁107との接合方法としては、例えば、拡散接合、接着剤による接合、溶着等が挙げられる。
【0048】
以上により、蒸気室102は、蒸発器ケース110の底壁104とウィック103と隔壁107とで囲まれた領域、すなわち、筐体120の底壁120aとウィック103と隔壁107とで囲まれた領域として構成されている。
【0049】
ウィック103と蒸発器フタ108との間、すなわち、ウィック103と筐体120の天壁120bとの間には、
図5及び
図6に示すように、隙間が設けられていることが好ましい。つまり、蒸発器フタ108、すなわち、筐体120の天壁120bは、ウィック103と厚み方向Tで離隔していることが好ましい。この場合、ウィック103と蒸発器フタ108との間の隙間、すなわち、ウィック103と筐体120の天壁120bとの間の隙間は、液室101に存在する液相の作動流体がウィック103に向かう流路として利用される。よって、液室101から蒸気室102への液相の作動流体の輸送性能が向上しやすくなるため、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が向上しやすくなる。
【0050】
なお、ウィック103と蒸発器フタ108との間、すなわち、ウィック103と筐体120の天壁120bとの間には、隙間が設けられていなくてもよい。つまり、蒸発器フタ108、すなわち、筐体120の天壁120bは、ウィック103に厚み方向Tで接していてもよい。
【0051】
蒸発器ケース110は、
図3、
図4、及び、
図6に示すように、蒸気室102において、底壁104及び隔壁107と一体化した櫛歯状のフィン105を更に有していることが好ましい。つまり、筐体120は、蒸気室102において、底壁120a及び隔壁107と一体化した櫛歯状のフィン105を更に有していることが好ましい。
【0052】
蒸発器ケース110において、フィン105は、例えば、
図3及び
図6に示すように、底壁104から厚み方向Tに延びている。つまり、筐体120において、フィン105は、例えば、底壁120aから厚み方向Tに延びている。フィン105は、厚み方向Tに厳密に平行である必要はない。
【0053】
蒸発器ケース110において、フィン105は、例えば、
図3及び
図4に示すように、隔壁107から長さ方向Lに延びている。つまり、筐体120において、フィン105は、例えば、隔壁107から長さ方向Lに延びている。フィン105は、長さ方向Lに厳密に平行である必要はない。
【0054】
なお、フィン105は、蒸発器ケース110の底壁104及び隔壁107と一体化せず、蒸発器ケース110と別の部材として設けられていてもよい。つまり、フィン105は、筐体120の底壁120a及び隔壁107と一体化せず、筐体120と別の部材として設けられていてもよい。
【0055】
フィン105は、
図6に示すように、ウィック103に厚み方向Tで接していることが好ましい。
【0056】
なお、フィン105は、ウィック103に厚み方向Tで接していなくてもよい。
【0057】
フィン105の構成材料は、熱伝導率が高い材料、例えば、金属であることが好ましく、銅であることが特に好ましい。
【0058】
フィン105は、金属、セラミック、樹脂等で構成される多孔質部材からなっていてもよい。
【0059】
フィン105及び蒸発器ケース110の構成材料は、互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0060】
蒸気室102は、
図3、
図4、及び、
図6に示すように、フィン105により、複数の溝(グルーヴ)109に区画されている。
【0061】
溝109は、蒸気室102で発生する気相の作動流体が通る流路である。
【0062】
溝109は、
図3、
図4、及び、
図5に示すように、長さ方向Lに延びており、蒸気管300に向かって開口している。
【0063】
溝109は、
図4及び
図6に示すように、幅方向Wに等間隔で設けられていることが好ましい。
【0064】
なお、溝109は、幅方向Wに異なる間隔で設けられていてもよい。
【0065】
液室101は、
図3、
図5、及び、
図6に示すように、蒸発器ケース110の底壁104の内面、すなわち、筐体120の底壁120aの内面に接していることが好ましい。この場合、液室101及び蒸気室102は、面方向に並んでいることが好ましい。液室101及び蒸気室102がこのような位置関係にあると、筐体120の薄型化、すなわち、蒸発器100の薄型化が容易になる。
【0066】
厚み方向Tから見たとき、液室101は、
図4に示すように蒸気室102の三方を囲むように設けられていてもよいし、蒸気室102における蒸気管300側の領域と蒸発器ケース110の側壁106との間、すなわち、蒸気室102における蒸気管300側の領域と筐体120の側壁120cとの間に更に回り込むように設けられていてもよい。
【0067】
蒸発器ケース110の側壁106、すなわち、筐体120の側壁120cには、
図4に示すように、液室101に連通する液管接続口131が設けられている。一方、液管200は、液管接続口131に接続されている。よって、液管200は、液管接続口131を通じて、液室101に連通している。
【0068】
液管200の構成材料は、熱膨張係数が蒸発器ケース110の構成材料に近く、蒸発器ケース110に容易に接合可能な材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等が挙げられる。中でも、液管200の構成材料は、銅であることが特に好ましい。
【0069】
液管200及び蒸発器ケース110の構成材料は、互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0070】
蒸発器ケース110の側壁106、すなわち、筐体120の側壁120cには、
図4及び
図5に示すように、蒸気室102に連通する蒸気管接続口132が設けられている。一方、蒸気管300は、蒸気管接続口132に接続されている。よって、蒸気管300は、蒸気管接続口132を通じて、蒸気室102に連通している。
【0071】
蒸気管300の構成材料は、熱膨張係数が蒸発器ケース110の構成材料に近く、蒸発器ケース110に容易に接合可能な材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等が挙げられる。中でも、蒸気管300の構成材料は、銅であることが特に好ましい。
【0072】
蒸気管300及び蒸発器ケース110の構成材料は、互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0073】
液管200及び蒸気管300の構成材料は、互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0074】
液管接続口131及び蒸気管接続口132は、
図3及び
図4に示すように、面方向に並んでいることが好ましい。液管接続口131及び蒸気管接続口132が面方向に並んでいる場合、後述するような液管接続口131及び蒸気管接続口132が厚み方向Tに並んでいる場合と比較して、蒸発器ケース110の側壁106の高さ、すなわち、筐体120の側壁120cの高さが小さくなりやすいため、筐体120の薄型化、すなわち、蒸発器100の薄型化が容易になる。このように蒸発器100の薄型化が容易になると、後述する蒸発器100の実装状態での低背化にも効果的に寄与できる。
【0075】
液管接続口131及び蒸気管接続口132が面方向に並んでいる場合、液管200及び蒸気管300は、
図3及び
図4に示すように、面方向に並ぶことになる。
【0076】
蒸発器ケース110の底壁104の外面、すなわち、筐体120の底壁120aの外面には、
図5及び
図6に示すように、蒸発器フタ108側、すなわち、筐体120の天壁120b側に凹んだ凹部140が設けられている。
【0077】
凹部140は、厚み方向Tで蒸発器フタ108、すなわち、筐体120の天壁120bに対向する主面140aと、主面140aの外縁から厚み方向Tに延びる側面140bと、を有している。
【0078】
凹部140の主面140aは、厚み方向Tに厳密に直交している必要はない。また、凹部140の側面140bは、厚み方向Tに厳密に平行である必要はない。
【0079】
蒸発器ケース110の底壁104の外面、すなわち、筐体120の底壁120aの外面において、凹部140は、
図4に示すように、厚み方向Tから見たときに蒸気室102の少なくとも一部と重なる領域に設けられている。つまり、凹部140の主面140aは、厚み方向Tから見たときに蒸気室102の少なくとも一部と重なっている。
【0080】
蒸発器100に凹部140が設けられていることで得られる作用効果について、蒸発器100が発熱素子に取り付けられた実装状態の一例を示しつつ、以下に説明する。
【0081】
図7は、
図5中の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態の一例を示す断面模式図である。
【0082】
図7に示すように、発熱素子501は、電子回路基板500の主面上に実装されている。蒸発器100は、発熱素子501が凹部140に収まるように、発熱素子501に取り付けられている。つまり、凹部140の主面140aは、厚み方向Tで発熱素子501に対向しており、発熱素子501の熱が伝わる受熱面となっている。
【0083】
発熱素子501としては、例えば、CPU(中央処理装置)、GPU(図学処理装置)等の演算素子、パワー半導体と呼ばれる電源系の半導体素子、LED(発光ダイオード)、LD(レーザーダイオード)等の発光素子、等が挙げられる。
【0084】
凹部140の主面140aと発熱素子501との間には、
図7に示すように、TIM(熱界面材料)部材502が設けられていることが好ましい。この場合、TIM部材502は、凹部140の主面140aと発熱素子501とに接していることが好ましい。このようにTIM部材502が設けられていると、凹部140の主面140aと発熱素子501とがTIM部材502を介して熱的に接続されることになり、凹部140の主面140aと発熱素子501との間の熱抵抗が小さくなる。
【0085】
TIM部材502としては、例えば、半液体状のサーマルグリス、ゲル状の放熱パッド等が挙げられる。
【0086】
凹部140の側面140bと発熱素子501とは、面方向で離隔していることが好ましい。より具体的には、凹部140の側面140bと発熱素子501とは、
図7に示すように長さ方向Lに離隔し、かつ、図示していないが幅方向Wに離隔していることが好ましい。この場合、発熱素子501の熱が液室101に直接伝わりにくくなるため、液室101で液相の作動流体が沸騰しにくくなり、結果的に、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が向上しやすくなる。
【0087】
ここで、比較用として、従来の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態について、以下に説明する。
【0088】
図8は、従来の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態を示す断面模式図である。
【0089】
図8に示すように、蒸発器600には、蒸発器100と異なり、蒸発器ケース110の底壁104の外面、すなわち、筐体120の底壁120aの外面に凹部が設けられていない。
図8に示した状態は、この点以外、
図7に示した状態と同様である。
【0090】
図7及び
図8において、蒸発器100における、蒸発器ケース110の側壁106の高さTa、すなわち、筐体120の側壁120cの高さTaと、蒸発器600における、蒸発器ケース110の側壁106の高さTb、すなわち、筐体120の側壁120cの高さTbとは、同じである。よって、蒸発器100では、液管200及び蒸気管300が接続される側壁の高さが、蒸発器600と同様に確保されている。
【0091】
一方、
図7に示した状態では、上述したように、蒸発器100の凹部140が発熱素子501に取り付けられている。そのため、蒸発器100の上面(より具体的には、蒸発器フタ108の外面、すなわち、筐体120の天壁120bの外面)と電子回路基板500の主面との間の厚み方向Tにおける距離Eaは、凹部140の深さbの分だけ、蒸発器600の上面と電子回路基板500の主面との間の厚み方向Tにおける距離Ebよりも小さくなっている。よって、蒸発器100では、蒸発器600と比較して、実装状態での低背化が実現されている。
【0092】
以上より、蒸発器100では、液管200及び蒸気管300が接続される側壁の高さが確保されつつ、実装状態での低背化が可能である。
【0093】
蒸発器100では、側壁の高さが蒸発器600と同様に確保されているため、蒸発器100の側壁に接続される蒸気管300と蒸発器600の側壁に接続される蒸気管300とは、各々の肉厚ra及び肉厚rbが同じであるとすると、各々の内径Ra及び内径Rbも同じとなる。同様に、蒸発器100の側壁に接続される液管200と蒸発器600の側壁に接続される液管200とは、各々の内径が同じとなる。よって、蒸発器100では、蒸発器600と比較して、実装状態での低背化が可能でありつつ、側壁に接続される液管200及び蒸気管300での圧力損失が大きくならず、結果的に、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が維持される。
【0094】
蒸発器ケース110の側壁106の高さTaと、蒸発器フタ108の厚みt1と、蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2と、凹部140の深さbとは、b/(Ta-t1-t2)>0.096の関係を満たすことが好ましい。b/(Ta-t1-t2)≦0.096である場合、蒸発器100の実装状態での低背化が、作用効果として得られにくくなるおそれがある。
【0095】
b/(Ta-t1-t2)>0.096という関係を満たすことが好ましいことは、以下の論理に基づいている。
【0096】
まず、
図7に示した状態において、蒸発器ケース110の側壁106の高さTaと、蒸気管300の外径Ra+2raとが等しいと仮定する。また、蒸発器フタ108の厚みt1と、蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2と、蒸気管300の肉厚raとがすべて等しいと仮定する。このとき、ダルシー・ワイスバッハの式によれば、
図7に示した状態における蒸気管300での圧力損失ΔP1は、ΔP1∝1/Ra
4=1/(Ta-t1-t2)
4=1/T’
4となる。ここで、T’=Ta-t1-t2としている。
【0097】
次に、
図7に示した状態に対して、蒸発器100全体の厚みをTa-bとし、すなわち、蒸発器ケース110の側壁106の高さをTa-bとすることで、蒸発器100を薄型化し、これに伴い、蒸気管300の肉厚raはそのままで、蒸気管300の内径をRa-bと小さくした比較状態を考える。この比較状態では、
図7に示した状態と同様に、蒸発器100の実装状態での低背化が可能となる。上述した仮定に基づくと、比較状態における蒸気管300での圧力損失ΔP2は、ΔP2∝1/(Ra-b)
4=1/(Ta-t1-t2-b)
4=1/(T’-b)
4となる。
【0098】
以上より、
図7に示した状態における蒸気管300での圧力損失ΔP1に対する、比較状態における蒸気管300での圧力損失ΔP2の比率は、ΔP2/ΔP1=(T’/T’-b)
4となり、これを変形すると、b/T’=1-(ΔP2/ΔP1)
-1/4となる。
【0099】
図7に示した状態において、比較状態に対して、蒸気管300での圧力損失を2/3よりも小さく低減したい場合、すなわち、ΔP2/ΔP1>1.5である場合、b/T’>1-1.5
-1/4≒0.096となる。b/T’>0.096であるとき、T’=1.0mmとすると、b>約0.1mmとなるが、これは、凹部140の加工公差よりも充分に大きく、更に、蒸発器100の実装状態での低背化も充分に可能となる値となっている。よって、蒸発器100では、b/T’=b/(Ta-t1-t2)>0.096という関係を満たすことが好ましい。
【0100】
蒸発器ケース110の側壁106の高さTaと、蒸発器フタ108の厚みt1と、蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2と、凹部140の深さbとは、各々をmm単位とすると、b<Ta-t1-t2-0.5の関係を満たすことが好ましい。b≧Ta-t1-t2-0.5である場合、蒸気室102の容量が小さくなることで、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が低下しやすくなるおそれがある。
【0101】
b<Ta-t1-t2-0.5という関係を満たすことが好ましいことは、以下の論理に基づいている。
【0102】
図7に示した蒸発器100において、蒸発器ケース110の側壁106の高さTaは、蒸発器フタ108の厚みt1と、ウィック103と蒸発器フタ108との間の隙間の高さhと、ウィック103の厚みdと、フィン105の高さkと、蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2と、凹部140の深さbとの和となり、すなわち、Ta=t1+h+d+k+t2+bとなる。これを変形すると、b=T’-h-d-kとなる。
【0103】
ここで、少なくとも、ウィック103と蒸発器フタ108との間の隙間の高さhは0.1mm程度、ウィック103の厚みdは0.1mm程度、フィン105の高さkは0.3mm程度確保されることが望ましい。つまり、h+d+k>0.5であることが望ましい。よって、蒸発器100では、b<T’-0.5=Ta-t1-t2-0.5という関係を満たすことが好ましい。
【0104】
一方、
図7に示した状態において、凹部140の深さbは、発熱素子501及びTIM部材502の合計厚みよりも小さいため、凹部140の深さbの上限値は、発熱素子501の厚みとほぼ等しいとしてもよい。発熱素子501で想定される厚みを考慮すると、凹部140の深さbの上限値は、3mm程度であれば充分であると考えられる。
【0105】
厚み方向Tから見たとき、凹部140は、
図4に示すように、蒸気室102の全部と重なっていることが好ましい。より具体的には、厚み方向Tから見たとき、凹部140の主面140aは、蒸気室102の全部と重なっていることが好ましい。この場合、発熱素子501から凹部140の主面140aに伝わった熱が、蒸気室102に効率よく伝えられる。
【0106】
厚み方向Tから見たとき、凹部140と蒸気室102とは、
図4中の点線で示すように、外縁同士が一致していることが好ましい。より具体的には、厚み方向Tから見たとき、凹部140の主面140aと蒸気室102とは、外縁同士が一致していることが好ましい。この場合、発熱素子501から凹部140の主面140aに伝わった熱が、蒸気室102に最も効率よく伝えられる。
【0107】
厚み方向Tから見たとき、凹部140は、液室101の少なくとも一部と更に重なっていてもよい。この場合、凹部140の存在により、液室101の容量が小さくなり得るが、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が極力低下しないようにすることが重要である。
【0108】
なお、厚み方向Tから見たとき、凹部140は、蒸気室102の一部と重なっていてもよい。
【0109】
次に、ループヒートパイプ1の動作について、以下に説明する。
【0110】
まず、発熱素子501の熱は、蒸発器100の受熱面である凹部140の主面140aに伝わる。発熱素子501から凹部140の主面140aに伝わった熱は、フィン105を通じて蒸気室102に伝わる。ここで、液室101には、液相の作動流体が一定量注液されており、蒸気室102には、液室101から液相の作動流体がウィック103の毛細管力により供給されている。そのため、蒸気室102に伝わった熱は、蒸気室102に供給された液相の作動流体に伝わる。これにより、蒸気室102において、液相の作動流体は、沸騰して気相の作動流体に変化する。蒸気室102で発生した気相の作動流体は、その蒸気圧を駆動力として、溝109及び蒸気管接続口132を順に通ることにより、蒸気管300に流入する。
【0111】
次に、蒸気管300に流入した気相の作動流体は、蒸気管300を通って凝縮器400に到達する。凝縮器400に到達した気相の作動流体は、凝縮器400の蒸気管接続口を通って凝縮器400に流入する。
【0112】
そして、凝縮器400に流入した気相の作動流体は、熱が奪われることにより液相の作動流体に変化する。凝縮器400で発生した液相の作動流体は、凝縮器400の液管接続口を通って液管200に流入する。
【0113】
その後、液管200に流入した液相の作動流体は、液管200を通って蒸発器100に到達する。蒸発器100に到達した液相の作動流体は、液管接続口131を通って液室101に流入する。
【0114】
以上のように、ループヒートパイプ1では、作動流体が気-液の相変化を生じつつ循環する。この際、発熱素子501の熱は、蒸発器100(蒸気室102)において液相の作動流体を気相の作動流体に変化させる蒸発潜熱として吸収された後、凝縮器400において気相の作動流体を液相の作動流体に変化させる凝縮潜熱として放出される。このようにして、発熱素子501の熱は、蒸発器100から凝縮器400に輸送されることで放熱される。更に、ループヒートパイプ1では、凹部140が設けられた蒸発器100が用いられているため、上述したように、実装状態での低背化が可能でありつつ、熱輸送性能が維持される。
【0115】
液相の作動流体については、動作温度(沸点)、ウィック103との濡れ性、毛細管力、化学的安定性、毒性、可燃性等を考慮して選定することが重要である。このような液相の作動流体としては、例えば、純水、低分子量のアルコール、低分子量の炭化水素系液体、フッ化炭化水素系液体、これらの液体を複数種類含む混合液等が挙げられる。
【0116】
液室101に注液される液相の作動流体は、脱気されていることが好ましい。この場合、空気等の非凝縮性の気体が除去された液相の作動流体が、液室101に注液されることになる。よって、蒸気室102で発生した気相の作動流体に非凝縮性の気体が混在しにくくなるため、蒸発器100から凝縮器400への流路である蒸気管300において、気相の作動流体の輸送性能が向上しやすくなる。更に、凝縮器400で発生した液相の作動流体に非凝縮性の気体が混在しにくくなるため、凝縮器400から蒸発器100への流路である液管200において、液相の作動流体の輸送性能が向上しやすくなる。以上により、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が向上しやすくなる。
【0117】
同様の観点から、ループヒートパイプ1の内部は、脱気されていることが好ましい。より具体的には、蒸発器100、液管200、蒸気管300、及び、凝縮器400からなる群より選択される少なくとも1つの部材の内部は、脱気されていることが好ましい。中でも、蒸発器100、液管200、蒸気管300、及び、凝縮器400のすべての内部が脱気されていることが特に好ましい。
【0118】
図9は、
図5中の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態の別の一例を示す断面模式図である。
【0119】
図9に示すように、蒸発器100aは、
図7等に示した蒸発器100の構成部材に加えて、断熱部材503を更に有している。
図9に示した状態は、この点以外、
図7に示した状態と同様である。
【0120】
断熱部材503は、蒸発器ケース110の底壁104の外面、すなわち、筐体120の底壁120aの外面上に設けられている。より具体的には、断熱部材503は、凹部140の主面140aにおける、厚み方向Tで蒸気室102と重なる領域の少なくとも一部が露出するように、凹部140の側面140bを覆っている。
図9に示した状態では、断熱部材503は、凹部140の主面140aにおける、厚み方向Tで蒸気室102と重なる領域の一部が露出するように、凹部140の側面140bを覆っている。
【0121】
蒸発器100aは、発熱素子501が厚み方向Tで凹部140の主面140aの露出領域に対向するように、TIM部材502aを介して発熱素子501に取り付けられている。このように蒸発器100aが発熱素子501に取り付けられた実装状態では、凹部140の側面140bが、発熱素子501と面方向で離隔しつつ、断熱部材503で覆われている。よって、発熱素子501の熱が液室101に直接伝わりにくくなるため、液室101で液相の作動流体が沸騰しにくくなり、結果的に、ループヒートパイプ1の熱輸送性能が向上しやすくなる。
【0122】
断熱部材503の厚みUは、凹部140の深さbと同等以上であることが好ましい。より具体的には、断熱部材503の厚みUは、
図9に示すように凹部140の深さbと同じであるか、凹部140の深さbよりも大きいことが好ましい。この場合、発熱素子501の熱が液室101に非常に伝わりにくくなる。
【0123】
なお、断熱部材503の厚みUは、凹部140の深さbよりも小さくてもよい。
【0124】
断熱部材503の厚みUは、TIM部材502aの厚みVと同等以上であることが好ましい。より具体的には、断熱部材503の厚みUは、TIM部材502aの厚みVと同じであるか、
図9に示すようにTIM部材502aの厚みVよりも大きいことが好ましい。この場合、TIM部材502aが、凹部140の主面140aと発熱素子501の上面と断熱部材503の側面とで囲まれた領域に設けられることになるため、TIM部材502aとして流動性が高い材料を用いても、外部に漏れ出すことがない。よって、TIM部材502aとして、TIM部材502と同様に、半液体状のサーマルグリス、ゲル状の放熱パッド等を用いることができるだけではなく、熱抵抗がより小さい液体金属等の液体状材料を用いることもできる。このような液体状材料のうち、例えば、液体金属は、流動性が高く、アルミニウム等の金属を腐食するため、蒸発器が液体金属を介して発熱素子に取り付けられる際には、液体金属が外部に漏れ出さないような構造にすることが重要である。これに対して、断熱部材503の厚みUをTIM部材502aの厚みVと同等以上にすることにより、このような構造を容易に実現できる。
【0125】
断熱部材503の厚みUは、
図9に示すようにTIM部材502aの厚みVよりも大きいことがより好ましい。この場合、断熱部材503が発熱素子501の側面を取り囲むように設けられることになるため、発熱素子501の熱が液室101に非常に伝わりにくくなる。
【0126】
なお、断熱部材503の厚みUは、TIM部材502aの厚みVよりも小さくてもよい。
【0127】
断熱部材503の構成材料は、熱伝導率が蒸発器100及びTIM部材502aの構成材料よりも低い材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、プラスチック、ゴム等が挙げられる。また、断熱部材503がこれらの材料の発泡部材である場合、断熱部材503の断熱性が更に高まる。
【0128】
以上では、ループヒートパイプ1の蒸発器100において、液管接続口131及び蒸気管接続口132が、
図3及び
図4に示すように面方向に並んでいる態様を示したが、液管接続口131及び蒸気管接続口132は厚み方向Tに並んでいてもよい。
【0129】
図10は、本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【0130】
図10に示すように、ループヒートパイプ1’は、蒸発器100の代わりに蒸発器100’を有していること以外、ループヒートパイプ1と同様である。
【0131】
図11は、
図10中の線分C-C’に対応する部分を示す断面模式図である。
【0132】
図11に示すように、蒸発器100’では、液室101及び蒸気室102が厚み方向Tに並んでいる。より具体的には、液室101は、蒸気室102の上方、ここでは、蒸気室102に対して凹部140と反対側に位置している。
【0133】
これに伴い、蒸発器100’では、液管接続口131及び蒸気管接続口132が厚み方向Tに並んでいる。より具体的には、液管接続口131は、蒸気管接続口132の上方、ここでは、蒸気管接続口132に対して凹部140と反対側に位置している。
【0134】
よって、液管接続口131に接続された液管200と、蒸気管接続口132に接続された蒸気管300とは、厚み方向Tに並ぶことになる。より具体的には、液管200は、蒸気管300の上方に位置することになる。
【0135】
蒸発器100’においても、蒸発器100と同様に凹部140が設けられているため、液管200及び蒸気管300が接続される側壁の高さが確保されつつ、実装状態での低背化が可能である。
【0136】
以上では、ループヒートパイプ1の蒸発器100(あるいは、ループヒートパイプ1’の蒸発器100’)において、筐体120の内部領域が液室101及び蒸気室102を含んでいる態様を示したが、筐体120の内部領域は液室101を含んでいなくてもよい。つまり、液室101は、蒸発器100(あるいは、蒸発器100’)の内部に設けられていなくてもよい。
【0137】
本発明のループヒートパイプにおいて、液室が蒸発器の内部に設けられていない態様の一例としては、液室が蒸発器の内部にもそれ以外の場所にも設けられていない態様が挙げられる。
【0138】
図12は、本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【0139】
図12に示すループヒートパイプにおいて、液室は、蒸発器100’’の内部にもそれ以外の場所にも設けられていない。つまり、
図12に示すループヒートパイプは、液室を有していない。
【0140】
本発明のループヒートパイプにおいて、液室が蒸発器の内部に設けられていない態様の一例としては、液室が蒸発器の内部に設けられておらず、蒸発器の外部に独立して設けられている態様も挙げられる。
【0141】
図13は、本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【0142】
図13に示すループヒートパイプにおいて、液室101は、蒸発器100’’の内部に設けられておらず、液管200に直列に接続されている。
【0143】
図14は、本発明のループヒートパイプの別の一例を示す平面模式図である。
【0144】
図14に示すループヒートパイプにおいて、液室101は、蒸発器100’’の内部に設けられておらず、液管200に並列に接続されている。
【0145】
図12、
図13、及び、
図14に示す蒸発器100’’のような、液室が内部に設けられていない蒸発器の一例について、以下に説明する。
【0146】
図15は、液室が内部に設けられていない蒸発器の一例について、蒸発器及びその近傍を厚み方向から透視した状態を示す模式図である。
図16は、
図15中の蒸発器及びその近傍の長さ方向に沿う断面を斜視した状態を示す模式図である。
【0147】
図15及び
図16に示す蒸発器100a’’の内部構造は、筐体120の内部領域に蒸気室102及びウィック103を有し、かつ、液室を有していないこと以外、
図3、
図4等に示す蒸発器100の内部構造と同様である。蒸発器100a’’において、液管接続口131は、ウィック103に連通している。
【0148】
蒸発器100a’’において、液管200から流入した液相の作動流体は、液管接続口131を通じて直接ウィック103に浸透する。そして、ウィック103に浸透した液相の作動流体は、発熱素子(図示せず)から凹部140の主面140aを介して蒸気室102に伝わった熱により、蒸気室102で沸騰して気相の作動流体に変化する。その後、蒸気室102で発生した気相の作動流体は、その蒸気圧を駆動力として、溝109及び蒸気管接続口132を順に通ることにより、蒸気管300に流入する。以降の作動流体の流れについては、上述した通りである。
【0149】
図15及び
図16に示す蒸発器100a’’は、あくまで、液室が内部に設けられていない蒸発器の一例であり、液管接続口131及び蒸気管接続口132が長さ方向Lに並んでいるが、液管接続口131及び蒸気管接続口132は、
図12、
図13、及び、
図14に示す蒸発器100’’と同様に面方向に並んでいてもよいし、厚み方向Tに並んでいてもよい。
【実施例】
【0150】
以下、本発明のループヒートパイプ用の蒸発器と、本発明のループヒートパイプとをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
【0151】
[実施例1]
図7に示した蒸発器100について、各種寸法が以下の通りである態様を、実施例1の蒸発器とする。
【0152】
蒸発器ケース110の側壁106の高さTa、すなわち、筐体120の側壁120cの高さTaを、2mmとする。
【0153】
蒸発器フタ108の厚みt1、すなわち、筐体120の天壁120bの厚みt1を、0.3mmとする。なお、気相の作動流体の蒸気圧に対する耐久性の観点から、蒸発器フタ108の厚みt1、すなわち、筐体120の天壁120bの厚みt1は、好ましくは0.2mm以上、0.5mm以下である。
【0154】
蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2、すなわち、筐体120の底壁120aの厚みt2を、0.3mmとする。なお、気相の作動流体の蒸気圧に対する耐久性の観点から、蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2、すなわち、筐体120の底壁120aの厚みt2は、好ましくは0.2mm以上、0.5mm以下である。
【0155】
蒸発器フタ108の厚みt1、すなわち、筐体120の天壁120bの厚みt1と、蒸発器ケース110の底壁104の厚みt2、すなわち、筐体120の底壁120aの厚みt2とは、本実施例のように互いに同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0156】
フィン105の高さk、すなわち、溝109の深さkを、0.5mmとする。なお、フィン105の高さk、すなわち、溝109の深さkが小さ過ぎると、溝109での圧力損失が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0157】
ウィック103の厚みdを、0.2mmとする。
【0158】
凹部140の深さbを、0.5mmとする。
【0159】
実施例1の蒸発器、ここでは、
図7に示した蒸発器100では、ウィック103と蒸発器フタ108との間の隙間の高さh、すなわち、ウィック103と筐体120の天壁120bとの間の隙間の高さhは、h=Ta-(t1+t2+k+d+b)=0.2mmとなる。このとき、蒸発器100の構成部材の加工公差を含めると、ウィック103と蒸発器フタ108との間の隙間の高さh、すなわち、ウィック103と筐体120の天壁120bとの間の隙間の高さhは、実際には、0.1mm以上、0.3mm以下程度となると考えられるが、上記高さhが0.1mmであっても、液室101に存在する液相の作動流体がウィック103に向かう流路としては、充分な高さを確保できる。
【0160】
実施例1の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態、すなわち、
図7に示した状態では、発熱素子501及びTIM部材502の合計厚みが1mmである場合、蒸発器100の上面と電子回路基板500の主面との間の厚み方向Tにおける距離Eaは、Ea=Ta-b+1=2.5mmとなり、蒸発器100が実装状態で低背化されている。
【0161】
蒸発器100では、蒸発器ケース110の側壁106の高さTa、すなわち、筐体120の側壁120cの高さTaが2mm確保されているため、その側壁に接続される液管200及び蒸気管300の外径は、最大で2mmとなる。蒸発器100の側壁に接続される蒸気管300では、外径が2mmである場合、肉厚raを0.3mmとすると、内径Raは1.4mmとなる。同様に、蒸発器100の側壁に接続される液管200では、外径が2mmである場合、肉厚を0.3mmとすると、内径は1.4mmとなる。
【0162】
一方、従来の蒸発器が発熱素子に取り付けられた実装状態、すなわち、
図8に示した状態では、発熱素子501及びTIM部材502の合計厚みが1mmである場合、蒸発器600の上面と電子回路基板500の主面との間の厚み方向Tにおける距離Ebを、蒸発器100の上面と電子回路基板500の主面との間の厚み方向Tにおける距離Eaと同様に2.5mmにしようとすると、蒸発器ケース110の側壁106の高さTb、すなわち、筐体120の側壁120cの高さTbは、Tb=Eb-1=1.5mmとなる。よって、蒸発器600の側壁に接続される液管200及び蒸気管300の外径は、最大で1.5mmとなる。蒸発器600の側壁に接続される蒸気管300では、外径が1.5mmである場合、肉厚rbを0.3mmとすると、内径Rbは0.9mmとなる。同様に、蒸発器600の側壁に接続される液管200では、外径が1.5mmである場合、肉厚を0.3mmとすると、内径は0.9mmとなる。
【0163】
ここで、上述したように、ダルシー・ワイスバッハの式によれば、管での圧力損失は管の内径の4乗に反比例するため、
図7に示した状態では、
図8に示した状態に対して、液管200及び蒸気管300での圧力損失が、(0.9/1.4)
4≒1/6となる。つまり、実装状態で同程度の低背化(ここでは、Ea=Eb=2.5mm)を実現しようとすると、実施例1の蒸発器を用いる場合は、従来の蒸発器を用いる場合に対して、液管及び蒸気管での圧力損失を約1/6に低減できる。
【0164】
ループヒートパイプは、気相の作動流体の蒸気圧に耐えられるように設計される必要がある。気相の作動流体の蒸気圧に耐えられるようにするためには、蒸発器を構成する壁の厚み、液管及び蒸気管の肉厚等は、一定以上確保される必要がある。ここで、蒸発器が薄くなる、すなわち、蒸発器の側壁の高さが小さくなると、蒸発器の側壁に接続される液管及び蒸気管の外径は小さくなる。液管及び蒸気管の肉厚は一定以上確保される必要があることから、液管及び蒸気管の外径が小さくなると、液管及び蒸気管の内径も小さくなる。このように、蒸発器が薄くなるほど、液管及び蒸気管の内径が小さくなるため、液管及び蒸気管での圧力損失が大きくなる。
【0165】
これに対して、本発明のループヒートパイプ用の蒸発器は、実施例1の蒸発器でも確認されたように、側壁に接続される液管及び蒸気管での圧力損失の低減に効果的である。そのため、本発明のループヒートパイプ用の蒸発器は、液管及び蒸気管での圧力損失が大きくなりやすい薄型のループヒートパイプで用いられる場合に、特に有用であると考えられる。
【符号の説明】
【0166】
1、1’ ループヒートパイプ
100、100’、100’’、100a、100a’’、600 蒸発器
101 液室
102 蒸気室
103 ウィック
104 蒸発器ケースの底壁
105 フィン
106 蒸発器ケースの側壁
107 蒸発器ケース(筐体)の隔壁
108 蒸発器フタ
109 溝(グルーヴ)
110 蒸発器ケース
120 筐体
120a 筐体の底壁
120b 筐体の天壁
120c 筐体の側壁
131 蒸発器の液管接続口
132 蒸発器の蒸気管接続口
140 凹部
140a 凹部の主面
140b 凹部の側面
200 液管
300 蒸気管
400 凝縮器
500 電子回路基板
501 発熱素子
502、502a TIM(熱界面材料)部材
503 断熱部材
b 凹部の深さ
d ウィックの厚み
Ea、Eb 蒸発器の上面と電子回路基板の主面との間の厚み方向における距離
h ウィックと蒸発器フタとの間の隙間の高さ(ウィックと筐体の天壁との間の隙間の高さ)
k フィンの高さ(溝の深さ)
L 長さ方向
Ra、Rb 蒸気管の内径
ra、rb 蒸気管の肉厚
T 厚み方向
Ta、Tb 蒸発器ケースの側壁の高さ(筐体の側壁の高さ)
t1 蒸発器フタの厚み(筐体の天壁の厚み)
t2 蒸発器ケースの底壁の厚み(筐体の底壁の厚み)
U 断熱部材の厚み
V TIM部材の厚み
W 幅方向