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特許7548344ヒット位置推定装置、ヒット位置推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ヒット位置推定装置、ヒット位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20240903BHJP
   A63B 60/46 20150101ALI20240903BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240903BHJP
【FI】
A63B69/36 541P
A63B69/36 541A
A63B60/46
A63B102:32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022581197
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2021042868
(87)【国際公開番号】W WO2022172554
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021019522
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古樋 知重
(72)【発明者】
【氏名】能澤 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】川野 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】牧野 純
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴志
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 健太
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213145(JP,A)
【文献】特開2015-126813(JP,A)
【文献】特開2012-130414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0131196(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/00 - 71/16
A63B 60/46
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状部および前記柱状部に接続される打撃部を備えるスポーツ用具に対して、前記打撃部に取り付けられず、前記柱状部に取り付けられ、前記柱状部の捻れによって電荷を発生する主体を備え、前記電荷に基づくセンサ信号を出力するセンサと、
前記センサ信号を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けた時の前記捻れの成分から、前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する演算部と、
を備える、ヒット位置推定装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記捻れ成分の特定周波数のスペクトル強度を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する、
請求項1に記載のヒット位置推定装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記特定周波数のスペクトル強度に対する判定用閾値を記憶しており、
前記特定周波数のスペクトル強度と前記判定用閾値との比較結果を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する、
請求項2に記載のヒット位置推定装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記特定周波数のスペクトル強度として、前記特定周波数の複素振幅の実数部の値を用いる、
請求項3に記載のヒット位置推定装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記センサ信号を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けたタイミングを検出するヒットタイミング検出部と、
前記タイミングに基づいて、前記センサ信号からデータを抽出するデータ抽出部と、
前記データを用いて、前記特定周波数のスペクトル強度を算出するスペクトル強度算出部と、
前記特定周波数のスペクトル強度を用いて前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する推定部と、
を備える、
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載のヒット位置推定装置。
【請求項6】
前記演算部は、
前記センサ信号に含まれる前記柱状部の曲げ成分をさらに用いて、ヒット位置を推定する、
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のヒット位置推定装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記捻れ成分と前記曲げ成分のそれぞれの複素周波数成分を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する、
請求項6に記載のヒット位置推定装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記複素周波数成分を用いた回帰分析を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する、
請求項7に記載のヒット位置推定装置。
【請求項9】
柱状部および前記柱状部に接続される打撃部を備えるスポーツ用具に対して、前記打撃部に取り付けられず、前記柱状部に取り付けられたセンサで、前記柱状部の捻れによって生じる電荷に基づくセンサ信号を出力するステップと、
前記センサ信号を用いて、前記打撃部が外部から圧力を受けた時の前記捻れの成分から、前記打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定するステップと、
を実行する、ヒット位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラブヘッドへのボールのヒット位置を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スイング解析装置が記載されている。スイング解析装置は、センサ、姿勢算出部、および、補正部を備える。
【0003】
センサは、ゴルフクラブのシャフトに取り付けられ、シャフトの加速度情報および角速度情報、および、歪み情報を出力する。姿勢算出部は、加速度情報および角速度情報に基づいて、スイング期間のゴルフクラブの姿勢を算出する。補正部は、歪み情報に基づいて、インパクト時における姿勢情報を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-175496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、ゴルフクラブのクラブヘッドへのボールのヒット位置を推定することはできなかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、クラブヘッドへのボールのヒット位置を推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のヒット位置推定装置は、センサ、および、演算部を備える。センサは、柱状部および記柱状部に接続される打撃部を備えるスポーツ用具に対して、打撃部に取り付けられず、柱状部に取り付けられ、柱状部の捻れを含むセンサ信号を出力する。演算部は、センサ信号を用いて、打撃部が外部から圧力を受けた時の捻れの成分から、打撃部が外部から圧力を受けた位置を推定する。
【0008】
この構成では、打撃部への所望物体の外部から圧力を受けた位置(ヒット位置)に応じて柱状部の捻れ方が異なることを利用し、柱状部に取り付けられたセンサの出力によって、打撃部への外部から圧力を受けた位置(ヒット位置)が推定される。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、打撃部への所望物体のヒット位置、例えば、スポーツ用具がゴルフクラブであれば、ヘッドへのボールのヒット位置を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態に係るヒット位置推定装置の機能ブロック図である。
図2図2は、ヒット位置推定装置の第1電子機器のゴルフクラブへの取り付け状態の一例を示す図である。
図3図3は、曲げ、捻れを定義するためのゴルフクラブのヘッドの概略的な上面図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る特徴データ抽出部の機能ブロック図である。
図5図5は、推定部の第1態様の一例を示す機能ブロック図である。
図6図6は、推定ヒット位置の一例を示すヘッドの正面図である。
図7図7(A)は、ヘッドのトゥ側(図6の位置Pt)にヒットしたときのセンサ信号の波形の一例を示すグラフであり、図7(B)は、ヘッドのヒール側(図6の位置Ph)にヒットしたときのセンサ信号の波形図の一例である。
図8図8は、図7(A)の場合の周波数スペクトルを示すグラフである。
図9図9は、実装部の値と閾値との関係を示すグラフである。
図10図10は、推定部の第2態様の一例を示す機能ブロック図である。
図11図11は、回帰式の設定概念を説明するための座標図である。
図12図12は、本発明の実施形態に係るヒット位置推定方法を示すフローチャートである。
図13図13(A)は、第2の実施形態に係るヒット位置推定装置の機能ブロック図であり、図13(B)は、演算部30の構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るヒット位置推定技術について、図を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係るヒット位置推定装置の機能ブロック図である。図2は、ヒット位置推定装置の第1電子機器のゴルフクラブへの取り付け状態の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、ヒット位置推定装置10は、第1電子機器11と第2電子機器12とを備える。第1電子機器11と第2電子機器12とは別体である。
【0013】
第1電子機器11は、センサ20、特徴データ抽出部31、および、通信部341を備える。センサ20は、センサ素子21とセンサ信号生成部22とを備える。センサ信号生成部22、特徴データ抽出部31、および、通信部341は、例えば、回路基板等に実装されたIC等の複数の電子回路素子によって実現される。
【0014】
センサ素子21は、圧電性を有する膜状の主体と、検出用電極とを備える。主体は、例えば、ポリ乳酸を主成分としており、曲げおよび捻れに応じて分極する。この際、曲げの方向および捻れの方向に応じて分極方向が変化し、曲げの大きさおよび捻れの大きさに応じて分極によって生じる電荷の大きさが異なる。
【0015】
検出用電極は、主体の表面に取り付けられている。この際、検出用電極は、曲げによる電荷、および、捻れによる電荷を出力可能なように、主体に取り付けられている。
【0016】
センサ信号生成部22は、所定の電子回路によって実現される。センサ信号生成部22は、例えば、積分回路を含み、センサ素子21で発生した電荷から電圧信号であるセンサ信号を生成する。
【0017】
ここで、図2に示すように、ゴルフクラブ90は、シャフト91、および、ヘッド92を備える。シャフト91は、直線状の棒体である。ヘッド92は、シャフト91の延びる方向の一方端に設置されている。シャフト91におけるヘッド92の取付位置と反対側の端部は、グリップである。
【0018】
ゴルフクラブ90が本発明の「スポーツ用具」に対応し、シャフト91が本発明の「柱状部」に対応し、ヘッド92が本発明の「打撃部」に対応する。そして、このゴルフクラブ90によって打撃されるゴルフボールが、本発明の「所望物体」に対応する。
【0019】
第1電子機器11は、シャフト91に取り付けられている。図2の例では、第1電子機器11は、シャフト91のグリップ付近に取り付けられているが、第1電子機器11のシャフト91への取付位置は、これに限るものではない。
【0020】
これにより、センサ20は、シャフト91の曲げ、捻れに応じたセンサ信号を出力する。すなわち、センサ信号は、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Syb、および、捻れ成分Sθtwを含む。そして、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Syb、および、捻れ成分Sθtwは、それぞれ個別に検出されている。
【0021】
ここで、シャフト91のxb方向の曲げ、シャフト91のyb方向の曲げ、およびシャフト91の捻れとは、例えば、次のように定義される。図3は、曲げ、捻れを定義するためのゴルフクラブのヘッドの概略的な上面図である。
【0022】
図3に示すように、xb方向は、ヘッド92のフェース921に対して平行な方向である。シャフト91は、ヘッド92におけるxb方向の一方端に取り付けられている。ヘッド92におけるシャフト91が取り付けられている側をヒール側と称し、シャフト91が取り付けられている側と反対側をトゥ側と称する。
【0023】
xb方向において、ヘッド92の中心を原点として、ヒール側が正の領域であり、トゥ側が負値となる。すなわち、xb方向への曲げ成分Sxbは、ヒール側に大きく曲がるほど、絶対値の大きな正値となり、トゥ側に大きく曲がるほど、絶対値の大きな負値となる。
【0024】
図3に示すように、yb方向は、ヘッド92のフェース921に対して垂直な方向である。yb方向において、ヘッド92の中心を原点として、フェース921側が負の領域であり、フェース921側と反対側が正の領域である。すなわち、yb方向への曲げ成分Sybは、フェース921側と反対側に大きく曲がるほど、絶対値の大きな正値となり、フェース921側に大きく曲がるほど、絶対値の大きな負値となる。
【0025】
図3に示すように、捻れθtwは、xb方向とyb方向とに直交する軸に対して回転する方向である。捻れ成分Sθtwは、ヘッド92のヒールがトゥよりも前方(yb方向の負の方向)になると正値になり、ヘッド92のヒールがトゥよりも後方(yb方向の正の方向)になると負値になる。そして、その捻れ量が大きいほど、捻れ成分Sθtwの絶対値は大きくなる。
【0026】
そして、センサ20のセンサ信号生成部22は、このように変化するxb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Syb、および、捻れ成分Sθtwを含むセンサ信号を、特徴データ抽出部31に出力する。
【0027】
なお、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Syb、および、捻れ成分Sθtwの定義は、上述のものに限るものではなく、フェース921に平行な方向のシャフト91の曲げ、フェース921に垂直な方向のシャフト91の曲げ、および、シャフト91の捻れが一義的に定義できれば、他の定義を用いることも可能である。
【0028】
特徴データ抽出部31は、センサ信号を用いて、ヒット位置推定用データを抽出する。図4は、第1の実施形態に係る特徴データ抽出部の機能ブロック図である。
【0029】
図4に示すように、特徴データ抽出部31は、AD変換部310、ヒットタイミング検出部311、および、ヒット位置推定用データ抽出部312を備える。
【0030】
AD変換部310は、センサ信号をAD変換(アナログデジタル変換)する。AD変換部310は、デジタル化されたセンサ信号を、ヒットタイミング検出部311に出力する。
【0031】
ヒットタイミング検出部311は、例えば、センサ信号の絶対値が大幅に変化したときを検出し、この検出タイミングをヒットタイミングとして検出する。ヒットタイミング検出部311は、センサ信号とヒットタイミングとを、ヒット位置推定用データ抽出部312に出力する。
【0032】
ヒット位置推定用データ抽出部312は、ヒットタイミングから所定時間長のセンサ信号を抽出して、ヒット位置推定用データとして出力する。
【0033】
通信部341は、ヒット位置推定用データを、第2電子機器12の通信部342に送信する。
【0034】
第2電子機器12は、例えば、ゴルフクラブ90には設置されていないスマートフォン等の情報処理携帯端末、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置によって実現される。
【0035】
第2電子機器12は、通信部342、波形処理部32、推定部33、および、通知部40を備える。
【0036】
通信部342は、第1電子機器11の通信部341から、ヒット位置推定用データを受信する。通信部342は、ヒット位置推定用データを、波形処理部32に出力する。
【0037】
波形処理部32は、ヒット位置推定用データに対して、複素フーリエ変換処理を実行する。これにより、波形処理部32は、ヒット位置推定データの複素周波数スペクトル(複素周波数成分)を生成する。波形処理部32は、ヒット位置推定データの複素周波数スペクトルを、推定部33に出力する。
【0038】
推定部33は、概略的には、少なくとも捻れ成分Sθtwを用いて、ヒット位置を推定し、通知部40に出力する。なお、推定部33の具体的な構成および推定概念は、後述する。
【0039】
通知部40は、ディスプレイ、スピーカ、ランプ等によって実現される。通知部40は、ヒット位置に応じた通知を実行する。例えば、通知部40がディスプレイの場合、通知部40は、ヘッド92のフェース921の画像と、この画像に重畳させた推定ヒット位置のマークとを、表示する。また、通知部40がスピーカの場合、通知部40は、ヒット位置に応じて音の種類を変化させて放音する。また、通知部40がランプの場合、通知部40はヒット位置に応じた点灯、点滅、色の発光を行う。
【0040】
(ヒット位置の推定の第1態様)
推定部33は、ヒット位置推定データの複素周波数スペクトルを用いて、ヒット位置を推定する。図5は、推定部の第1態様の一例を示す機能ブロック図である。
【0041】
図5に示すように、推定部33は、特定周波数成分抽出部331、および、比較判定部332を備える。なお、推定部33で実行するヒット位置のより具体的な推定概念は、後述する。
【0042】
特定周波数成分抽出部331は、ヒット位置推定データの複素周波数スペクトルにおける特定周波数成分を抽出する。より具体的には、特定周波数成分抽出部331は、ヒット位置推定データから、捻れ成分Sθtwの複素周波数スペクトルにおける特定周波数成分(周波数f1(例えば、約32.0Hz))の実数部の値Retwf1を抽出する。なお、特定周波数は、ゴルフクラブ90の形状、材質、より具体的には、ヘッド92の形状、材質、シャフト91の形状、材質に基づいて、設定され、ボールがフェース921の中心以外にヒットしたときに、所定レベルのピークが発生する周波数によって設定される。
【0043】
特定周波数成分抽出部331は、捻れ成分Sθtwの特定周波数成分の実数部の値Retwf1を、比較判定部332に出力する。特定周波数成分抽出部331が、本発明の「スペクトル強度算出部」に対応する。
【0044】
比較判定部332は、ヒット位置推定用の閾値を、予め記憶している。比較判定部332は、捻れ成分Sθtwの特定周波数成分の実数部の値Retwf1と、ヒット位置推定用の閾値とを比較して、ヒット位置を推定する。
【0045】
図6は、推定ヒット位置の一例を示すヘッドの正面図である。図7(A)は、ヘッドのトゥ側(図6の位置Pt)にヒットしたときのセンサ信号の波形の一例を示すグラフであり、図7(B)は、ヘッドのヒール側(図6の位置Ph)にヒットしたときのセンサ信号の波形図の一例である。図7(A)において、実線は、捻れ成分Sθtwを示し、破線はxb方向への曲げ成分Sxbを示し、一点鎖線は、yb方向への曲げ成分Sybを示す。図8は、図7(A)の場合の周波数スペクトルを示すグラフである。図9は、実装部の値と閾値との関係を示すグラフである。
【0046】
図6に示すトゥ側の位置Ptにボールがヒットした場合、図7(A)に示すような波形のセンサ信号が得られる。図6に示すヒール側の位置Phにボールがヒットした場合、図7(B)に示すような波形のセンサ信号が得られる。
【0047】
図7(A)、図7(B)に示すように、トゥ側の位置Ptにボールがヒットした場合と、ヒール側の位置Phにボールがヒットした場合とでは、捻れ成分Sθtwの挙動が大きく異なる。より具体的には、トゥ側の位置Ptにボールがヒットした場合、捻れ成分Sθtwは、ヒットのタイミングの直後に、正値に大きく変動して、負値に変化し、その後、所定の周期で振動しながら徐々に減衰する。一方、ヒール側の位置Phにボールがヒットした場合、捻れ成分Sθtwは、ヒットのタイミングの直後に、負値に大きく変動して、正値に変化し、その後、所定の周期で振動しながら徐々に減衰する。
【0048】
これは、ヒットのタイミングにおいて、ボールがヒットする位置がフェース921の中心位置Pc(図6参照)からズレると、ヘッド92が変位して、シャフト91が捻れるからである。より具体的には、トゥ側の位置Ptにボールがヒットすると、トゥ側がヒール側よりも後方になり、これに応じた正値の捻れがシャフト91に生じるからである。一方、ヒール側の位置Phにボールがヒットすると、トゥ側がヒール側よりも前方になり、これに応じた負値の捻れがシャフト91に生じるからである。
【0049】
なお、図示を省略しているが、フェース921の中心位置Pcにボールがヒットした場合、シャフト91の捻れは極小さく、捻れ成分Sθtwの振幅は小さくなる。
【0050】
推定部33は、この特徴を利用し、複素周波数スペクトルの実数部の値を用いて、ヒット位置を推定する。より具体的には、上述のように、捻れ成分Sθtwは、特定周波数で振動しながら減衰する。したがって、複素周波数スペクトルを得ることで、この捻れ成分Sθtwの特定周波数の成分を抽出できる。例えば、図8に示すように、特定周波数f1(例えば、32Hz)のスペクトル強度が得られ、ヒットによる捻れ成分Sθtwの変化を、より確実に検出できる。
【0051】
特定周波数成分抽出部331は、この特定周波数f1(例えば、32Hz)のスペクトル強度を抽出する。
【0052】
そして、図9に示すように、特定周波数f1のスペクトル強度の実数部の値Retwf1は、ヒット位置に応じて変化する。より具体的には、トゥ側の位置Ptにヒットした場合、実数部の値Retwf1は、第1閾値Th1よりも大きな正値となる。一方、ヒール側の位置Phにヒットした場合、実数部の値Retwf1は、第2閾値Th2よりも小さな負値となる。また、中心位置Pcにヒットした場合、実数部の値Retwf1は、第1閾値Th1と第2閾値Th2との間の値になる。第1閾値Th1および第2閾値Th2が、本発明の「判定用閾値」に対応する。
【0053】
この特徴を利用し、比較判定部332は、実数部の値Retwf1と第1閾値Th1および第2閾値Th2とを比較する。そして、比較判定部332は、実数部の値Retwf1が第1閾値Th1以上であれば、トゥ側の位置Ptにヒットしたと判定する。比較判定部332は、実数部の値Retwf1が第2閾値Th2以下であれば、ヒール側の位置Phにヒットしたと判定する。比較判定部332は、実数部の値Retwf1が第2閾値Th2より大きく、第1閾値Th1よりも小さければ、中心位置Pcにヒットしたと判定する。
【0054】
このように、本実施形態の構成および処理を用いることによって、ヘッド92にセンサ素子21を取り付けなくても、シャフト91にセンサ素子21を取り付けることで、ヒット位置推定装置10は、ヘッド92へのボールのヒット位置を推定することができる。
【0055】
この際、ヒット位置推定装置10は、複素周波数スペクトルを算出し、特定周波数のスペクトル強度を抽出して用いることで、ヒットによる捻れ成分の変化を、より確実に検出できる。これにより、ヒット位置推定装置10は、ヒット位置を、より確実に推定できる。
【0056】
なお、ヒット位置推定装置10では、複素周波数スペクトルを用いる態様を示したが、捻れ成分Sθtwの実測値をそのまま用いることも可能である。この場合、ヒット位置推定装置10は、捻れ成分Sθtwの実測値と閾値とを比較して、ヒット位置を推定する。なお、閾値の設定概念は、上述の複素周波数スペクトルを用いる場合と同様であり、説明は省略する。そして、この場合、ヒット位置推定装置10は、波形処理部32を省略することが可能である。
【0057】
また、上述の説明では、捻れ成分Sθtwとともに、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Sybを検出する態様を示した。しかしながら、推定部33の構成を用いる場合、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Sybの検出を省略することもできる。すなわち、推定部33の構成を用いる場合は、上述のように、少なくとも捻れ成分Sθtwを検出できればよい。
【0058】
(ヒット位置の推定の第2態様)
図10は、推定部の第2態様の一例を示す機能ブロック図である。図10に示すように、推定部33Aは、特定周波数成分抽出部331A、および、回帰分析部333を備える。
【0059】
特定周波数成分抽出部331Aは、ヒット位置推定データの複素周波数スペクトルにおける特定周波数成分を抽出する。より具体的には、特定周波数成分抽出部331は、ヒット位置推定データから、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Syb、および、捻れ成分Sθtwの複素周波数スペクトルにおける複数の特定周波数成分(周波数f1(図8参照、例えば、約32.0Hz)および周波数f2(図8参照、例えば、約4.5Hz))の複素振幅Axbf1r、Axbf1i、Aybf1r、Aybf1i、Aθf1r、Aθf1i、Axbf2r、Axbf2i、Aybf2r、Aybf2i、Aθf2r、Aθf2iを抽出する。
【0060】
複素振幅Axbf1r、Axbf1iは、周波数f1のxb方向への曲げ成分Sxbの実数部と虚数部とであり、複素振幅Aybf1r、Aybf1iは、周波数f1のyb方向の曲げ成分Sybの実数部と虚数部であり、複素振幅Aθf1r、Aθf1iは、周波数f1の捻れ成分Sθtwの実数部と虚数部である。複素振幅Axbf2r、Axbf2iは、周波数f2のxb方向への曲げ成分Sxbの実数部と虚数部とであり、複素振幅Aybf2r、Aybf2iは、周波数f2のyb方向の曲げ成分Sybの実数部と虚数部であり、複素振幅Aθf2r、Aθf2iは、周波数f2の捻れ成分Sθtwの実数部と虚数部である。
【0061】
特定周波数成分抽出部331Aは、複素振幅Axbf1r、Axbf1i、Aybf1r、Aybf1i、Aθf1r、Aθf1i、Axbf2r、Axbf2i、Aybf2r、Aybf2i、Aθf2r、Aθf2iを、回帰分析部333に出力する。
【0062】
回帰分析部333は、予め実験によって算出された回帰係数と切片を有する回帰式を記憶している。回帰式の回帰係数と切片は、例えば、次のように設定される。
【0063】
図11は、回帰式の設定概念を説明するための座標図である。図11に示すように、フェース921に対して、ヒット位置pとヒット方位Dとからなる2次元の目的変数を設定する。ヒット位置pに対しては、フェース921の中心位置Pcに0(p)が設定され、ヒール側の位置Phに+1(p)が設定され、トゥ側の位置Ptに-1(p)が設定される。ヒット方位Dに対しては、フェース921に垂直な方向に0(D)が設定され、ヒール側からの方位に+1(D)が設定され、トゥ側からの方位に-1(D)が設定される。
【0064】
このような目的変数に対して、実験的に、フェース921に対してボールを所定回数ヒットさせる。この際、ボールのヒット位置、ヒット方位を上述の目的変数に応じて設定する。そして、実験的複素振幅Axbf1rt、Axbf1it、Aybf1rt、Aybf1it、Aθf1rt、Aθf1it、Axbf2rt、Axbf2it、Aybf2rt、Aybf2it、Aθf2rt、Aθf2itを取得する。
【0065】
次に、実験的複素振幅Axbf1rt、Axbf1it、Aybf1rt、Aybf1it、Aθf1rt、Aθf1it、Axbf2rt、Axbf2it、Aybf2rt、Aybf2it、Aθf2rt、Aθf2itと目的変数とを、回帰係数と切片とが未知の回帰式に代入し、その誤差が最小となるように、回帰係数と切片とを設定する。これにより、最適化された回帰係数と切片とが設定される。
【0066】
回帰分析部333は、特定周波数成分抽出部331Aからの複素振幅Axbf1r、Axbf1i、Aybf1r、Aybf1i、Aθf1r、Aθf1i、Axbf2r、Axbf2i、Aybf2r、Aybf2i、Aθf2r、Aθf2iを、最適化された回帰係数と瀬辺が設定された回帰式に代入する。これにより、回帰分析部333は、ボールのヒット位置を推定する。
【0067】
このような方法を用いることで、推定部33Aは、ヒット位置のみでなく、ヒット方位も推定することができる。
【0068】
なお、例えば、ヒット方位を推定しない等の未知数が少なくなる場合、xb方向への曲げ成分Sxb、yb方向の曲げ成分Sybの少なくとも一方を回帰分析に用いないようにすることも可能である。これにより、例えば、推定速度を向上させることができる。
【0069】
図12は、本発明の実施形態に係るヒット位置推定方法を示すフローチャートである。なお、図12に示すフローチャートの各処理の具体的な内容は、上述の構成の説明において記載しており、必要な箇所を除いて詳細な説明は省略する。
【0070】
センサ20は、ゴルフクラブ90のシャフト91の曲げおよび捻れをセンシングする(S11)。センサ20は、センシング結果からセンサ信号を生成する(S12)。
【0071】
特徴データ抽出部31は、センサ信号におけるヒット位置推定用の特徴データを抽出する(S13)。
【0072】
波形処理部32は、ヒット位置推定用の特徴データを波形処理する(S14)。より具体的には、波形処理部32は、ヒット位置推定用の特徴データに対して、複素フーリエ変換処理を実行する。
【0073】
推定部33は、複素フーリエ変換処理の結果を用いて、ヒット位置を推定する(S15)。
【0074】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るヒット位置推定技術について、図を参照して説明する。図13(A)は、第2の実施形態に係るヒット位置推定装置の機能ブロック図であり、図13(B)は、演算部30の構成を示す機能ブロック図である。
【0075】
図13(A)、図13(B)に示すように、第2の実施形態に係るヒット位置推定装置10Bは、第1の実施形態に係るヒット位置推定装置10に対して、全体が1つの筐体(電子機器)に形成されている点で異なる。ヒット位置推定装置10Bの他の構成は、ヒット位置推定装置10と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0076】
ヒット位置推定装置10Bは、センサ素子21がシャフト91の表面に沿って配置され、シャフト91の変位に応じてセンサ素子21が変形するように、シャフト91に取り付けられる。
【0077】
センサ20は、センサ素子21とセンサ信号生成部22とを備える。センサ20は、センサ信号を演算部30に出力する。
【0078】
演算部30は、特徴データ抽出部31、波形処理部32、および、推定部33を備える。演算部30は、上述の第1の実施形態に示したように、センサ信号に含まれる少なくとも捻れ成分Sθtwを用いて、ヒット位置を推定する。演算部30は、ヒット位置を通知部40に出力する。
【0079】
通知部40は、ヒット位置に応じた通知を行う。なお、この実施形態では、シャフト91にヒット位置推定装置10Bが取り付けられるので、通知部40は、小型であることが好ましく、例えば、小型のスピーカ等であるとよい。または、通知部40は、ランプ等であってもよい。また、通知部40を別体にしてもよく、例えば、スマートフォンの表示部を通知部40に利用し、スマートフォンにヒット位置を出力してもよい。
【0080】
なお、上述の説明では、スポーツ用具として、ゴルフクラブを用いる態様を示した。しかしながら、柱状部を有し、ボールやシャトル等の所望物体がヒットした際に、柱状部に変位が生じるスポーツ用具(例えば、野球等のバット、テニスやバドミントン等のラケット)であれば、本願発明の構成を適用し、同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0081】
10、10B:ヒット位置推定装置
11:第1電子機器
12:第2電子機器
20:センサ
21:センサ素子
22:センサ信号生成部
30:演算部
31:特徴データ抽出部
32:波形処理部
33:推定部
33A:推定部
40:通知部
90:ゴルフクラブ
91:シャフト
92:ヘッド
310:AD変換部
311:ヒットタイミング検出部
312:ヒット位置推定用データ抽出部
331、331A:特定周波数成分抽出部
332:比較判定部
333:回帰分析部
341、342:通信部
921:フェース
図1
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