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特許7548369半導体膜及びその製造方法、並びに、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置
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  • 特許-半導体膜及びその製造方法、並びに、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置 図1
  • 特許-半導体膜及びその製造方法、並びに、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置 図2
  • 特許-半導体膜及びその製造方法、並びに、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置 図3
  • 特許-半導体膜及びその製造方法、並びに、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】半導体膜及びその製造方法、並びに、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20240903BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240903BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240903BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01L27/146 E
B82Y20/00
B82Y40/00
H01L31/10 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023088325
(22)【出願日】2023-05-30
(62)【分割の表示】P 2022036056の分割
【原出願日】2017-06-06
(65)【公開番号】P2023130335
(43)【公開日】2023-09-20
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2016142825
(32)【優先日】2016-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 修一
(72)【発明者】
【氏名】塩見 治典
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528624(JP,A)
【文献】特開2015-128105(JP,A)
【文献】特開2006-245285(JP,A)
【文献】特表2016-513361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0214400(US,A1)
【文献】特開2015-176956(JP,A)
【文献】特開2014-143397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0073835(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0215856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H01L 31/10
B82Y 20/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を基板に塗布して第1の層を形成することを含み、
該一般式(2)で表される化合物が該半導体ナノ粒子に配位し、
さらに、前記第1の層の前記該半導体ナノ粒子に配位した前記化合物のBをアルカリ金属イオンにイオン交換することを含む、半導体膜の製造方法。
【化1】
(該一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、A1は、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。)
【請求項2】
半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を前記第1の層に塗布して第2の層を形成することを含み、
該一般式(2)で表される化合物が該半導体ナノ粒子に配位する、
請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【化2】
(該一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、A1は、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。)
【請求項3】
前記第2の層の前記該半導体ナノ粒子に配位した前記化合物のBをアルカリ金属イオンにイオン交換することを含む、請求項2に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項4】
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも可視領域の光を選択的に吸収する、請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項5】
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも赤外領域の光を選択的に吸収する、請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも紫外領域の光を選択的に吸収する、請求項1に記載の半導体膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、半導体膜、半導体膜の製造方法、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ等の超小型化及び高画質化を実現するために、赤・青・緑の吸収層を積層したカラー撮像デバイスの研究・開発が進められている。
【0003】
例えば、金属原子を含む半導体量子ドットの集合体と、前記半導体量子ドットに配位する特定配位子とを有する半導体膜と、その特定の配位子よりも分子鎖長が長い配位子を用いて、半導体膜を製造する方法とが提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、例えば、ハロゲンとオレイルアミンとを量子ドットに配位させ、その後、成膜後に、オレイルアミンをメルカプトプロピオン酸(MPA)に配位子交換した量子ドットが提案されている(非特許文献1を参照)。さらに、メルカプトプロピオン酸(MPA)を配位させた量子ドットをジメチルスルホキシド(DMSO)に分散させてディップコーティング法で作製された膜が提案されたり(非特許文献2を参照)、アミド化合物を量子ドットに配位させ、その後、アミド化合物を酸で分解して作製された膜が提案されている(非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-112623号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】NATURE NANOTECHNOLOGY, 2012
【文献】NATURE COMMUNICATIONS, 2015
【文献】ACS Appl. Mater. Interfaces 2015, 7, 21995-22000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1~3で提案された技術では、光電変換効率の更なる向上が図れないおそれがある。
【0008】
そこで、本技術は、このような状況に鑑みてなされたものであり、光電変換効率を更に向上させることが実現できる半導体膜、半導体膜の製造方法、光電変換素子、固体撮像素子及び電子装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の目的を解決するために鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、光電変換効率を飛躍的に向上させることに成功し、本技術を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本技術では、まず、第1半導体ナノ粒子と、下記の一般式(1)で表される化合物とを含み、該一般式(1)で表される化合物が該第1半導体ナノ粒子に配位し、第2半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含み、該一般式(2)で表される化合物が該第2半導体ナノ粒子に配位する、半導体膜を提供する。
【0011】
【化1】
【0012】
該一般式(1)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bは、Li、Na、又はKを表す。
【0013】
【化2】
【0014】
該一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。
【0015】
本技術に係る半導体膜に含まれる前記第1半導体ナノ粒子及び第2半導体ナノ粒子が、少なくとも可視領域の光を選択的に吸収してよい。
【0016】
本技術に係る半導体膜に含まれる前記第1半導体ナノ粒子及び第2半導体ナノ粒子が、少なくとも赤外領域の光を選択的に吸収してよい。
【0017】
さらに、本技術では、第2半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を基板に塗布し、該一般式(2)で表される化合物が該第2半導体ナノ粒子に配位すること、及び、該一般式(2)で表される化合物中のB2+を、Li、Na、又はKにイオン交換すること、を含む、半導体膜の製造方法を提供する。
【0018】
【化3】
【0019】
該一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。
【0020】
本技術に係る半導体膜の製造方法において、前記第2半導体ナノ粒子が、少なくとも可視領域の光を選択的に吸収してよい。
また、本技術に係る半導体膜の製造方法において、前記第2半導体ナノ粒子が、少なくとも赤外領域の光を選択的に吸収してよい。
【0021】
本技術では、本技術に係る半導体膜と、対向配置された第1電極及び第2電極と、を備え、前記半導体膜が、該第1電極と該第2電極との間に配される、光電変換素子を提供する。
【0022】
また、本技術では、1次元又は2次元に配列された複数の画素毎に、少なくとも、本技術に係る光電変換素子と、半導体基板とが積層された、固体撮像素子を提供する。
【0023】
さらに、本技術では、本技術に係る固体撮像素子を備える、電子装置を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本技術によれば、画質や信頼性を向上させることができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本技術を適用した第3の実施形態の半導体膜の製造方法の一例を模式的に示した図である。
図2図2は、本技術を適用した第5の実施形態の固体撮像素子の構成例を示す断面図である。
図3図3は、実施例3で作製された光電変換素子の構成例を模式的に示した断面図である。
図4図4は、実施例4で作製された光電変換素子の構成例を模式的に示した断面図である。
図5図5は、本技術を適用した第5の実施形態の固体撮像素子の使用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0027】
なお、説明は以下の順序で行う。
1.本技術の概要
2.第1の実施形態(半導体膜の例)
2-1.半導体膜
2-2.半導体ナノ粒子
2-3.一般式(1)で表される化合物
3.第2の実施形態(半導体膜の例)
3-1.半導体膜
3-2.分散液
3-3.一般式(2)で表される化合物
3-4.基板
4.第3の実施形態(半導体膜の製造方法の例)
4-1.半導体膜の製造方法
4-2.成膜(塗布)
4-3.半導体膜の製造方法の具体例
5.第4の実施形態(光電変換素子の例)
5-1.光電変換素子
5-2.第1電極
5-3.第2電極
5-4.電子輸送層
5-5.正孔輸送層
5-6.光電変換素子用の基板
5-7.光電変換素子の製造方法
6.第5の実施形態(固体撮像素子の例)
6-1.固体撮像素子
6-2.裏面照射型の固体撮像素子
6-3.表面照射型の固体撮像素子
7.第6の実施形態(電子装置の例)
8.本技術を適用した固体撮像素子の使用例
9.第7の実施形態(発光デバイスの例)
【0028】
<1.本技術の概要>
まず、本技術の概要について説明をする。
デジタルカメラ等に搭載されたカラー撮像デバイスの性能の向上や機能の多様化を実現するためには、半導体ナノ粒子を用いた光電変換素子や発光デバイスに関する技術の進歩が必須である。
【0029】
例えば、半導体ナノ粒子からなる半導体ナノ粒子層の作製において、半導体ナノ粒子に長鎖の配位子を配位させることで有機溶剤に分散させて、基板に成膜し、成膜後、短鎖の配位子へ配位子交換を行うことで半導体ナノ粒子間距離を近づけることでキャリア移動度を向上させる技術がある。しかしながら、この技術による半導体膜は、表面被覆が不充分であり、表面欠陥となり、その表面欠陥から生じる中間準位を介し、光電変換により生じた電子とホールとが再結合により失活するという原因が生じる。
【0030】
半導体ナノ粒子の表面被覆率向上を目的として、短鎖配位子が配位しづらい結晶サイトにあらかじめハロゲン元素を配位させ表面の被覆率を向上させる方法がある。また、あらかじめ短鎖配位子である3-メルカプトプロピオン酸を配位したナノ粒子をジメチルスルホキシド(DMSO)に分散させ、ディップコーティングを行う方法や、アミド基を有する官能基を配位させ、成膜後に酸により配位子を加水分解し、短鎖配位子に変換する方法がある。
【0031】
しかしながら、それら3つの方法は、配位率が低かったり、分散溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO))の揮発性が悪く、分散溶媒を除去することが困難であるため成膜適性が劣ったり、酸による加水分解のため分散安定性が悪かったりすることで、望ましい高い光電変換効率が得られないという問題がある。また、それら3つの方法のそれぞれの方法で作製された半導体膜を発光デバイスに適用した場合、高い発光効率も得られないという問題が生じる可能性がある。
【0032】
本技術は、本発明者らが上記問題点を鋭意検討した結果、完成されたものである。本技術は、半導体膜、半導体膜の製造方法、光電変換素子、固体撮像素子、及び電子装置に関するものである。また、本技術は発光デバイスに適用してもよい。本技術は、これまで問題になっていた光電変換素子の光電変換効率や発光デバイスの発光効率を改善するために、後述する一般式(2)で表される化合物を有する半導体ナノ粒子の分散液を用いて成膜し、イオン交換により、後述する一般式(1)で表される化合物である短配位子に配位子交換した半導体ナノ粒子を含む半導体膜に関するものである。そして、本技術はその半導体膜を備える光電変換素子や発光デバイスを提供することで、上記問題点を解決し、さらに、上記光電変換素子を備える、高い光電変換効率を有する固体撮像素子や、上記発光デバイスを備える、高い発光効率を有する表示装置を提供することでも、上記問題点を解決する。
【0033】
<2.第1の実施形態(半導体膜の例)>
[2-1.半導体膜]
本技術に係る第1の実施形態の半導体膜は、半導体ナノ粒子と、下記の一般式(1)で表される化合物とを含み、一般式(1)で表される化合物が半導体ナノ粒子に配位する、半導体膜である。
【0034】
【化4】
【0035】
一般式(1)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bは、Li、Na、又はKを表す。
【0036】
本技術に係る第1の実施形態の半導体膜は、半導体ナノ粒子の表面欠陥から生じる中間準位を低減し、かつ、キャリア移動度の高い半導体ナノ粒子を含むので、電子及びホールの再結合を抑制し、暗電流を低減することができる。
【0037】
[2-2.半導体ナノ粒子]
本技術に係る第1の実施形態の半導体膜に含まれる半導体ナノ粒子は、随意の半導体ナノ粒子でよいが、例えば、少なくとも1つのTiO、ZnO、WO、NiO、MoO、CuO、Ga、SrTiO、SnO、InSnOx、Nb、MnO、V、CrO、CuInSe、CuInS、AgInS、Si、PbS、PbSe、PbTe、CdS、CdSe、CdTe、Fe、GaAs、GaP、InP、InAs、Ge、In、Bi、ZnSe、ZnTe、ZnS等により構成されている。半導体ナノ粒子の粒径は任意の大きさでよいが、2nm~20nmが好ましい。半導体ナノ粒子の形状は、球形でもよく、楕円体でもよく、三角柱等でもよい。
【0038】
半導体ナノ粒子が、少なくとも可視領域の光を選択的に吸収することが好ましい。赤色光用の半導体ナノ粒子としては、例えば、PbSe、CdTe、PbS、Si、PbTe、CdSe、CuInSe、CuInS、AgInS、MnO、V3、CrO、GaAs、Fe3、InP,InAs,Ge,Bi2S3、CuO等を挙げることができる。緑色光用の半導体ナノ粒子としては、例えば、CdS、GaP、ZnTe等を挙げることができる。青色光用の半導体ナノ粒子としては、例えば、WO、ZnSe、In等を挙げることができる。また、赤色光用の半導体ナノ粒子は、粒子サイズを小さくすることで吸収端を短波長化にすることができるので、小サイズの赤色光用の半導体ナノ粒子を緑色光用及び青色光用の半導体ナノ粒子として用いることができる。
【0039】
また、半導体ナノ粒子が、少なくとも赤外領域の光を選択的に吸収することが好ましい。
【0040】
半導体ナノ粒子が、少なくとも紫外領域の光を選択的に吸収してもよい。
【0041】
[2-3.一般式(1)で表される化合物]
本技術に係る第1の実施形態の半導体膜に含まれる化合物は、下記の一般式(1)で示される。下記の一般式(1)で示される化合物は、半導体ナノ粒子に配位するときに立体障害の小さい観点から選ばれてよい。
【0042】
【化5】
【0043】
一般式(1)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表す。Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表す。nは1~3の整数を表す。nが1であることが好ましい。Bは、Li、Na、又はKを表す。
【0044】
一般式(1)で表される化合物は、半導体ナノ粒子に短配位子として配位する。アルカリ金属(Li、Na、又はK)イオンであるB1+のイオン半径は、有機系化合物(例えば、イミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、スルフォニウム系化合物)のカチオンであるB2+のイオン半径に対して小さいため、有機系化合物のカチオン(B2+)から構成される配位子(一般式(2)で表される化合物)に対して、一般式(1)で表される化合物は短配位子となる。なお、半導体膜に含まれる一般式(1)で表される化合物の全てが半導体ナノ粒子に配位してもよいし、半導体膜に含まれる一般式(1)で表される化合物の一部が半導体ナノ粒子に配位してもよい。
【0045】
上述したように一般式(1)で表される化合物は半導体ナノ粒子に配位する短配位子であり、半導体ナノ粒子に一般式(1)で表される化合物が配位することによって、半導体ナノ粒子同士の粒子間距離を短くすることができ、キャリア移動度を向上させることができる。また、一般式(1)で表される化合物がアルカリ金属塩であることから、配位子の分解温度を向上させることができる。
【0046】
<3.第2の実施形態(半導体膜の例)>
[3-1.半導体膜]
本技術に係る第2の実施形態の半導体膜は、半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を基板に塗布することによって得られ、一般式(2)で表される化合物が半導体ナノ粒子に配位する、半導体膜である。なお、本技術に係る第2の実施形態の半導体膜に含まれる半導体ナノ粒子は上記のとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0047】
【化6】
【0048】
一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。
【0049】
本技術に係る第2の実施形態の半導体膜は、半導体ナノ粒子の表面欠陥から生じる中間準位を低減し、かつ、キャリア移動度の高い半導体ナノ粒子を含むので、電子及びホールの再結合を抑制し、暗電流を低減することができる。
【0050】
[3-2.分散液]
本技術に係る第2の実施形態の半導体膜を得るために用いられる分散液は、半導体ナノ粒子と、一般式(2)で表される化合物とを含む。分散液は、半導体ナノ粒子と、一般式(2)で表される化合物とを溶媒に分散させて得ることができる。溶媒は極性溶媒でもよいし、低極性溶媒でもよいし、無極性溶媒でもよいが、極性溶媒であることが好ましい。極性溶媒で、一般式(2)で表される化合物が配位した半導体ナノ粒子を分散させると分散性が向上する。極性溶媒は随意でよいが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルホルムアミド等が挙げられる。
【0051】
半導体ナノ粒子は、本技術に係る第1の実施形態の半導体膜に含まれる半導体ナノ粒子と同一であるため、ここでは説明を省略する。一般式(2)で表される化合物については、下記に説明をする。
【0052】
[3-3.一般式(2)で表される化合物]
本技術に係る第1の実施形態の半導体膜に含まれる化合物は、下記の一般式(2)で示される。
【0053】
【化7】
【0054】
一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表す。Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表す。nは1~3の整数を表す。nが1であることが好ましい。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。
【0055】
は、溶媒への溶解性、分散性、B2+(カチオン)への解離性(PKa、PKb等)等を考慮して選択されてよいが、イミダゾリウム系化合物のカチオン(B2+)としては、例えば、1-メチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1,2-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチルイミダゾリウムが挙げられる。ピリジニウム系化合物のカチオン(B2+)としては、例えば、1-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウムが挙げられる。アンモニウム系化合物のカチオン(B2+)としては、例えば、テトラブチルアンモニウムイオンが挙げられる。スルフォニウム系化合物のカチオン(B2+)としては、例えば、トリエチルスルフォニウムが挙げられる。
【0056】
一般式(2)で表される化合物中のXが半導体ナノ粒子と配位結合したとき、B2+が、一般式(2)で表される化合物において末端(配位結合部位に対して、分子構造上で略反対の部位)になると考えられる。B2+は有機系化合物のカチオンであるため、一般式(2)で表される化合物が配位した半導体ナノ粒子は、溶媒、特には極性溶媒に分散しやすく、分散性が良好となると同時に、分散状態で半導体ナノ粒子に対する一般式(2)で表される化合物である配位子の配位率を高めて、半導体ナノ粒子の表面欠陥を低減することができる。
【0057】
そして、上記で述べた分散液を基板に塗布することによって成膜し、この状態では粒子間距離が長くキャリアの伝導を妨げているが、一般式(2)で表される化合物中のB2+から、一般式(1)で表される化合物中のB1+にイオン交換することによって、半導体ナノ粒子同士の粒子間距離を短くすることができ、高いキャリア移動度を達成することができる。
【0058】
イオン交換によって、イオン交換されるところは、配位子の末端であるB2+から短配位子の末端であるB1+であるので、分散液の状態から膜の状態へと変化をさせても表面欠陥の低減が少ない。膜状態での長配位子から短配位子への配位子交換は、膜状態で配位子全体が交換されるため配位率が低くて表面欠陥の低減が大きく、初期状態の表面状態を維持することができない。イオン交換によって、一般式(1)で表される化合物中のB1+であるアルカリ金属イオンに交換されることで、分散液の溶媒に対して膜(すでに積層した膜を含む)が不溶化して、後述する、Layer-by-Layer(LBL)法による成膜(積層化)適性を向上させることができる。
【0059】
また、イオン交換によってNa等のアルカリ金属にすると耐熱性を向上させることができる。通常の方法を使用した場合ではHS-CHCH-COOHのいずれかHをNaに置き換えた場合は溶解性が悪いため、1回の操作で短配位子及びNa塩にすることはできず、いったん、メルカプトプロピオン酸(MPA)配位子へ配位子交換後にイオン交換するという2段階の方法をとることとなる。すなわち、イオン交換をすることによって、工程を簡略化することができるという優れた効果が奏される。
【0060】
[3-4.基板]
上記の分散液が塗布される基板は電極を含む概念であり、基板そのものが電極である単層構造でもよいし、無機材料、樹脂等の支持基板に電極が積層された積層構造でもよい。また、当該基板は、無機材料、樹脂等の支持基板に電極及び絶縁膜が積層された積層構造でもよい。基板の形状、大きさ、厚みについては特に制限はなく、製造適性の観点、使用目的の観点等に応じて適宜選択することができる。
【0061】
<4.第3の実施形態(半導体膜の製造方法の例)>
[4-1.半導体膜の製造方法]
本技術に係る第3の実施形態の半導体膜の製造方法は、半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を基板に塗布することを含み、一般式(2)で表される化合物が該半導体ナノ粒子に配位する、製造方法である。なお、本技術に係る第3の実施形態の半導体膜の製造方法で用いられる半導体ナノ粒子及び一般式(2)で表される化合物は上記のとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0062】
【化8】
【0063】
一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表す。Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表す。nは1~3の整数を表す。nが1であることが好ましい。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。
【0064】
[4-2.成膜(塗布)]
半導体膜の成膜(塗布)方法としては、例えば、湿式塗布法を挙げることができる。ここで、塗布法として、具体的には、スピンコート法;浸漬法;キャスト法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法;スタンプ法;スプレー法;エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法といった各種コーティング法を例示することができる。
【0065】
[4-3.半導体膜の製造方法の具体例]
半導体膜の製造方法の例を、図1を参照しながら説明する。図1に示される半導体膜の製造方法は、所謂、Layer-by-Layer(LBL)法というものである。図1に示されるように、(a)→(b)→(c)→[(d)→(e)]→(f)の順にしたがって半導体膜は製造される。なお、後述するように、[(d)→(e)]は、半導体膜の膜厚(積層回数)に従って繰り返されてよい。
【0066】
図1(a)は、オレイルアミン、オレイン酸等の長配位子52を配位させた半導体ナノ粒子51を、非極性溶媒又低極性溶媒(例えばオクタン等)に分散させて調製された分散液50aを示す図である。
【0067】
続いて、極性溶媒(例えば、メタノール)に一般式(2)で表される化合物(例えば、3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウム)を溶解させた溶液を、分散液50aに加える。図1(b)に示されるように、長配位子52から一般式(2)で表される化合物である配位子53(例えば、3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウム)に配位子交換されて、配位子53が配位された半導体ナノ粒子51を、極性溶媒(例えばメタノール等)に分散させた分散液50bが調製される。分散液の状態で、半導体ナノ粒子51に対する配位子53の配位率を高めることができる。
【0068】
次に、図1(c)に示されるように、電極(基板)54(例えばTiO等)上に分散液50bをスピンコート法で1層塗布し、電極(基板)54上には、一般式(2)で表される化合物である配位子53(例えば、3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウム)が配位された半導体ナノ粒子51を含む膜が成膜される。
【0069】
続いて、一般式(2)で表される化合物中の有機カチオンB2+(例えば、テトラブチルアンモニウムカチオン)をイオン交換法でアルカリ金属イオン(例えばNa)にイオン交換する。図1(d)に示されるように、電極(基板)54上には、一般式(1)で表される化合物である短配位子55(例えば、3-メルカプトプロピオン酸ナトリウム)が配位された半導体ナノ粒子51を含む膜が成膜される。イオン交換による作用及び効果は上記のとおりである。
【0070】
次に、分散液50bを用いて、スピンコート法で2層目を成膜し(図1(e))、更に、図1(d)で示したように、再度イオン交換を実施する。すなわち、図1(d)→図1(e)を繰り返すことによって積層を繰り返して、所望の膜厚の半導体膜が製造される(図1(f))。
【0071】
<5.第4の実施形態(光電変換素子の例)>
[5-1.光電変換素子]
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子は、本技術に係る第1の実施形態の半導体膜又は第2の実施形態の半導体膜と、対向配置された第1電極及び第2電極と、を備え、半導体膜が、第1電極と第2電極との間に配される、光電変換素子である。この場合、半導体膜は光電変換膜(光電変換層)として作用する。後述するように、第1電極と半導体膜との間には電子輸送層が配されてよいし、第2電極と半導体膜との間には正孔輸送層が配されてもよい。なお、本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子に備えられる第1の実施形態の半導体膜又は第2の実施形態の半導体膜は上記のとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0072】
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子は、第1の実施形態の半導体膜又は第2の実施形態の半導体膜を備えているので、優れた光電変換効率を実現できる。
【0073】
[5-2.第1電極]
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子に備えられる第1電極は、半導体膜で生じた信号電荷(電荷)を取り出すものである。第1電極は、例えば、光透過性の導電材料、具体的にはITO(Indium-Tin-Oxide)により構成される。第1電極は例えば、酸化スズ(SnO)系材料又は酸化亜鉛(ZnO)系材料により構成するようにしてもよい。酸化スズ系材料とは酸化スズにドーパントを添加したものであり、酸化亜鉛系材料とは例えば、酸化亜鉛にドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、酸化亜鉛にドーパントとしてガリウム(Ga)を添加したガリウム亜鉛酸化物(GZO)及び酸化亜鉛にドーパントとしてインジウム(In)を添加したインジウム亜鉛酸化物(IZO)等である。この他、IGZO、CuI、InSbO4、ZnMgO、CuInO2、MgIn24、CdO及びZnSnO3等を用いることも可能である。第1電極の厚み(積層方向の厚み、以下単に厚みという。)は、任意の厚みでよいが、例えば50nm~500nmである。
【0074】
[5-3.第2電極]
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子に備えられる第2電極は正孔を取りだすためのものである。第2電極は、例えば、金(Au),銀(Ag),銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の導電材料により構成されていてよい。第1電極と同様に、透明導電材料により第2電極を構成するようにしてもよい。第2電極の厚みは、任意の厚みでよいが、例えば、0.5nm~100nmである。
【0075】
[5-4.電子輸送層]
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子に備えられていてもよい電子輸送層は、半導体膜で生じた電子の第1電極への供給を促進するためのものであり、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)等により構成されていてよい。酸化チタンと酸化亜鉛とを積層させて電子輸送層を構成するようにしてもよい。電子輸送層の厚みは、任意の厚みでよいが、例えば0.1nm~1000nmであり、0.5nm~200nmであることが好ましい。
【0076】
[5-5.正孔輸送層]
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子に備えられていてもよい正孔輸送層は、半導体膜で生じた正孔の第2電極への供給を促進するためのものであり、例えば、酸化モリブデン(MoO),酸化ニッケル(NiO)又は酸化バナジウム(V)等により構成されていてよい。PEDOT(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene))、TPD(N,N'-Bis(3-methylphenyl)-N,N'-diphenylbenzidine)等の有機材料により正孔輸送層を構成するようにしてもよい。正孔輸送層の厚みは、任意の厚みでよいが、例えば0.5nm~100nmである。
【0077】
[5-6.光電変換素子用の基板]
光電変換素子を基板上に形成してもよい。ここで、基板として、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)に例示される有機ポリマー(高分子材料から構成された可撓性を有するプラスチック・フィルムやプラスチック・シート、プラスチック基板といった高分子材料の形態を有する)を挙げることができる。このような可撓性を有する高分子材料から構成された基板を使用すれば、例えば曲面形状を有する電子機器への撮像素子の組込みあるいは一体化が可能となる。あるいは、基板として、各種ガラス基板や、表面に絶縁膜が形成された各種ガラス基板、石英基板、表面に絶縁膜が形成された石英基板、シリコン半導体基板、表面に絶縁膜が形成されたステンレス鋼等の各種合金や各種金属から成る金属基板を挙げることができる。なお、絶縁膜として、酸化ケイ素系材料(例えば、SiOXやスピンオンガラス(SOG));窒化ケイ素(SiNY);酸窒化ケイ素(SiON);酸化アルミニウム(Al);金属酸化物や金属塩を挙げることができる。また、有機物の絶縁膜を形成することも可能である。例えば、リソグラフィー可能なポリフェノール系材料、ポリビニルフェノール系材料、ポリイミド系材料、ポリアミド系材料、ポリアミドイミド系材料、フッ素系ポリマー材料、ボラジン-珪素ポリマー材料、トルクセン系材料等が挙げられる。更に、表面にこれらの絶縁膜が形成された導電性基板(金やアルミニウム等の金属から成る基板、高配向性グラファイトから成る基板)を用いることもできる。
【0078】
基板の表面は、平滑であることが望ましいが、有機光電変換層の特性に悪影響を及ぼさない程度のラフネスがあっても構わない。基板の表面にシランカップリング法によるシラノール誘導体を形成したり、SAM法等によりチオール誘導体、カルボン酸誘導体、リン酸誘導体等から成る薄膜を形成したり、CVD法等により絶縁性の金属塩や金属錯体から成る薄膜を形成することで、第1電極と基板との間の密着性又は第2電極と基板との間の密着性を向上させてもよい。
【0079】
[5-7.光電変換素子の製造方法]
本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子の製造方法について説明をする。ここでは、本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子が、電子輸送層及び正孔輸送層を備える場合を説明する。
【0080】
まず、第1電極を形成する。なお、光電変換素子を上述で説明をした基板上に形成する場合は、光電変換素子用の基板上に第1電極を形成することができる。第1電極は、例えば、スパッタ法によりITO膜を成膜した後、これをフォトリソグラフィー技術によりパターニングしてドライエッチング又はウェットエッチングを行うことにより形成する。
【0081】
次いで、第1電極上に、例えば酸化チタンからなる電子輸送層を設けた後、半導体膜を形成する。半導体膜は、電子輸送層上に湿式成膜法により塗布した後、熱処理を行うことにより形成する。湿式成膜法としては、例えば、スピンコート法,浸漬法,キャスト法,スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法,スタンプ法,スプレー法,エアドクタコーター法,ブレードコーター法,ロッドコーター法,ナイフコーター法,スクイズコーター法,リバースロールコーター法,トランスファーロールコーター法,グラビアコーター法,キスコーター法,キャストコーター法,スプレーコーター法,スリットオリフィスコーター法,カレンダーコーター法といった各種コーティング法が挙げられる。熱処理は、大気中、窒素(N)雰囲気下又はアルゴン(Ar)雰囲気下で例えば、100℃で30分行う。
【0082】
半導体膜を設けた後、例えば、酸化モリブデン、酸化ニッケル等を成膜して正孔輸送層を形成する。この正孔輸送層上に、真空蒸着法により導電膜を成膜して第2電極を形成し、光電変換素子を製造する。
【0083】
<6.第5の実施形態(固体撮像素子の例)>
[6-1.固体撮像素子]
本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子は、1次元又は2次元に配列された複数の画素毎に、少なくとも、本技術に係る第4の実施形態の光電変換素子と、半導体基板とが積層された、固体撮像素子である。本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子としては、裏面照射型の固体撮像素子と表面照射型の固体撮像素子とが挙げられる。まず、裏面照射型の固体撮像素子について説明をする。なお、本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子に備えられる第4の実施形態の光電変換素子は上記のとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0084】
[6-2.裏面照射型の固体撮像素子]
裏面照射型の固体撮像素子の例を、図2を用いて説明をする。図2は、裏面照射型の固体撮像素子10の1つの画素20の構成例を示す断面図である。
【0085】
画素20は、1つの画素内に、深さ方向に積層した、1つの光電変換素子41と、pn接合を有するフォトダイオード36及びフォトダイオード37とを有して構成される。画素20は、フォトダイオード36及びフォトダイオード37が形成される半導体基板(シリコン基板)35を有し、半導体基板35の裏面側(図2中の半導体基板35の上側)に光が入射される受光面が形成され、半導体基板35の表面側に読み出し回路等を含む回路が形成される。すなわち画素2では、基板35の裏面側の受光面と、受光面とは反対側の基板表面側に形成された回路形成面とを有する。半導体基板35は、第1導電型、例えばn型の半導体基板で構成されてよい。
【0086】
半導体基板35内には、裏面側から深さ方向に積層されるように、2つのpn接合を有する無機光電変換部、すなわち第1フォトダイオード36と第2フォトダイオード37が形成される。半導体基板35内では、裏面倒から深さ方向(図中、下方向)に向かって、第1フォトダイオード36が形成され、第2フォトダイオード37が形成される。図2においては、第1フォトダイオード36が青色(B)用となり、第2フォトダイオード37が赤色(R)用となる。
【0087】
第1フォトダイオード36及び第2フォトダイオード37が形成された領域の半導体基板35裏面の上部に、半導体膜(光電変換層)32がその上下両面を第2電極(上部電極)31と第1電極(下部電極)33で挟まれて構成された第1色用の光電変換素子41が積層される。なお、光電変換素子41は、図示はされていないが、電子輸送層及び正孔輸送層を備えていてもよい。図2に示される裏面照射型の固体撮像素子の例では光電変換素子41が緑色(G)用となる。第2電極(上部電極)31及び第1電極(下部電極)33は、例えば、酸化インジウム錫膜、酸化インジウム亜鉛膜等の透明導電膜で形成されてよい。
【0088】
色の組み合わせとして、図2に示される裏面照射型の固体撮像素子の例では、光電変換素子41を緑色、第1フォトダイオード36を青色、第2フォトダイオード37を赤色としたが、その他の色の組み合わせも可能である。例えば、光電変換素子41を赤色又は青色とし、第1フォトダイオード36及び第2フォトダイオード37を、その他の対応する色に設定することができる。この場合、色に応じて第1フォトダイオード36及び第2フォトダイオード37の深さ方向の位置が設定される。
【0089】
また、第1フォトダイオード36及び第2フォトダイオード37を用いないで、3つの光電変換素子、すなわち、青色用の光電変換素子41B、緑色用の光電変換素子41G及び赤色用の光電変換素子41Rを、本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子(裏面照射型の固体撮像素子及び表面照射型の固体撮像素子)に適用してもよい。青の波長光で光電変換する光電変換素子41Bとしては、クマリン系色素、トリス-8-ヒドリキシキノリンA1(A1q3)、メラシアニン系色素等を含む有機光電変換材料を用いることができる。緑の波長光で光電変換する光電変換素子41Gとしては、例えばローダーミン系色素、メラシアニン系色素、キナクリドン等を含む有機光電変換材料を用いることができる。赤の波長光で光電変換する光電変換素子41Rとしては、フタロシアニン系色素を含む有機光電変換材料を用いることができる。
【0090】
さらに、青色用の光電変換素子41B、緑色用の光電変換素子41G及び赤色用の光電変換素子41Rに加えて、紫外光用の光電変換素子41UV及び/又は赤外光用の光電変換素子41IRを、本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子(裏面照射型の固体撮像素子及び表面照射型の固体撮像素子)に適用してもよい。紫外光用の光電変換素子41UV及び/又は赤外光用の光電変換素子41IRを設けることで、可視光領域以外の波長の光を検出することが可能となる。
【0091】
光電変換素子41では、第1電極(下部電極)33が形成され、第1電極(下部電極)33を絶縁分離するための絶縁膜34が形成される。そして、第1電極(下部電極)33上に半導体膜(光電変換層)32とその上の第2電極(上部電極)31が形成される。
【0092】
1つの画素2内には、第1電極(下部電極)33に接続される配線39と第2電極(上部電極)31に接続される配線(不図示)が形成される。配線39と第2電極(上部電極)31に接続される配線としては、例えば、Siとの短絡を抑制するために、SiO2又はSiN絶縁層を周辺に有するタングステン(W)プラグ、あるいは、イオン注入による半導体層等により形成することができる。図2に示される裏面照射型の固体撮像素子の例では、信号電荷を電子としているので、配線39は、イオン注入による半導体層で形成する場合、n型半導体層となる。第2電極(上部電極)31はホールを引き抜くのでp型を用いることができる。
【0093】
本例では、半導体基板35の表面側に電荷蓄積用のn型領域38が形成される。このn型領域38は、光電変換素子41のフローティングディフージョン部として機能する。
【0094】
半導体基板35の裏面上の絶縁膜34としては、負の固定電荷を有する膜を用いることができる。負の固定電荷を有する膜としては、例えば、ハフニウム酸化膜を用いることができる。すなわち、この絶縁膜34は、裏面より順次シリコン酸化膜、ハフニウム酸化膜及びシリコン酸化膜を成膜した3層構造となるように形成されてもよい。
【0095】
半導体基板35の表面側(図2中の下側)には配線層45が形成され、一方、半導体基板35の裏面側(図2中の上側)であって、光電変換素子41上には保護層44が形成され、保護層44上には平坦化層43が形成される。そして、平坦化層43上にはオンチップレンズ42が形成される。なお、図示はされていないが、裏面照射型の固体撮像素子10にカラーフィルタが形成されていてもよい。
【0096】
[6-3.表面照射型の固体撮像素子]
本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子は、裏面照射型の固体撮像素子だけではなく、表面照射型の固体撮像素子にも適用することができる。表面照射型の固体撮像素子ついて説明をする。
【0097】
表面照射型の固体撮像素子の例は、上述した裏面照射型の固体撮像素子10に対して、半導体基板35の下部に形成されていた配線層92が、光電変換素子41と半導体基板35との間に配線層が形成されるという点で異なるだけである。その他の点は上述した裏面照射型の固体撮像素子10と同様にしてよく、ここでは説明を省略する。
【0098】
<7.第6の実施形態(電子装置の例)>
本技術に係る第6の実施形態の電子装置は、本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子を備える、装置である。本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子は上記のとおりであるので、ここでは説明を省略する。本技術に係る第6の実施形態の電子装置は、優れた光電変換効率を有する固体撮像素子を備えるので、カラー画像の画質等の性能の向上を図ることができる。
【0099】
<8.本技術を適用した固体撮像素子の使用例>
図5は、イメージセンサとしての本技術に係る第5の実施形態の固体撮像素子の使用例を示す図である。
【0100】
上述した第5の実施形態の固体撮像素子は、例えば、以下のように、可視光や、赤外光、紫外光、X線等の光をセンシングするさまざまなケースに使用することができる。すなわち、図5に示すように、例えば、鑑賞の用に供される画像を撮影する鑑賞の分野、交通の分野、家電の分野、医療・ヘルスケアの分野、セキュリティの分野、美容の分野、スポーツの分野、農業の分野等において用いられる装置(例えば、上述した第6の実施形態の電子装置)に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0101】
具体的には、鑑賞の分野においては、例えば、デジタルカメラやスマートフォン、カメラ機能付きの携帯電話機等の、鑑賞の用に供される画像を撮影するための装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0102】
交通の分野においては、例えば、自動停止等の安全運転や、運転者の状態の認識等のために、自動車の前方や後方、周囲、車内等を撮影する車載用センサ、走行車両や道路を監視する監視カメラ、車両間等の測距を行う測距センサ等の、交通の用に供される装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0103】
家電の分野においては、例えば、ユーザーのジェスチャを撮影して、そのジェスチャに従った機器操作を行うために、テレピ受像機や冷蔵庫、エアーコンディショナ等の家電に供される装置で、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0104】
医療・ヘルスケアの分野においては、例えば、内視鏡や、赤外光の受光による血管撮影を行う装置等の、医療やヘルスケアの用に供される装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0105】
セキュリティの分野においては、例えば、防犯用途の監視カメラや、人物認証用途のカメラ等の、セキュリティの用に供される装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0106】
美容の分野においては、例えば、肌を撮影する肌測定器や、頭皮を撮影するマイクロスコープ等の、美容の用に供される装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0107】
スポーツの分野において、例えば、スポーツ用途等向けのアクションカメラやウェアラプルカメラ等の、スポーツの用に供される装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0108】
農業の分野においては、例えば、畑や作物の状態を監視するためのカメラ等の、農業の用に供される装置に、第5の実施形態の固体撮像素子を使用することができる。
【0109】
<9.第7の実施形態(発光デバイスの例>
本技術に係る第7の実施形態の発光デバイスは、対向配置された2つの電極と、その2つの電極の間に配される半導体膜とを備える。この場合、半導体膜は発光膜(発光層)として作用する。その半導体膜には、本技術に係る第1の実施形態の半導体膜及び第2の実施形態の半導体膜を適用することができる。本技術に係る第1の実施形態の半導体膜及び第2の実施形態の半導体膜は上記のとおりである。本技術に係る第7の実施形態の発光デバイスには、半導体膜と一方の電極との間に電子輸送層(n型バッファ層)が更に配されてもよいし、半導体膜と他方の電極との間に正孔輸送層(p型バッファ層)が更に配されてもよい。
【0110】
本技術に係る第1の実施形態の半導体膜及び第2の実施形態の半導体膜に含まれる半導体ナノ粒子には、上記の一般式(1)で表される化合物が短リガンドとして高配位率で配位するため、半導体ナノ粒子の表面準位が低減される。半導体ナノ粒子の表面準位は、同一の半導体ナノ粒子内に存在する電子とホールの非発光再結合中心になると考えられる。そのため、本技術に係る第1の実施形態の半導体膜及び第2の実施形態の半導体膜を、本技術に係る第7の実施形態の発光デバイスの発光層として作用させると、電子輸送層(n型バッファ層)及び正孔輸送層(p型バッファ層)から発光層に注入された電子とホールの非発光再結合を抑制することができる。したがって、本技術に係る第7の実施形態の発光デバイスによれば、発光再結合の割合が増加して、より高輝度の発光の効果が奏される。そして、本技術に係る第7の実施形態の発光デバイスを備える表示装置は、表示性能の向上を図ることができる。
【0111】
なお、本技術に係る実施形態は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0112】
また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【0113】
また、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。
[1]
半導体ナノ粒子と、下記の一般式(1)で表される化合物とを含み、
該一般式(1)で表される化合物が該半導体ナノ粒子に配位する、半導体膜。
【化9】
(該一般式(1)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bは、Li、Na、又はKを表す。)
[2]
半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を基板に塗布することによって得られ、
該一般式(2)で表される化合物が該半導体ナノ粒子に配位する、半導体膜。
【化10】
(該一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。)
[3]
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも可視領域の光を選択的に吸収する、[1]又は[2]に記載の半導体膜。
[4]
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも赤外領域の光を選択的に吸収する、[1]から[3]のいずれか1つに記載の半導体膜。
[5]
半導体ナノ粒子と、下記の一般式(2)で表される化合物とを含む分散液を基板に塗布することを含み、
該一般式(2)で表される化合物が該半導体ナノ粒子に配位する、半導体膜の製造方法。
【化11】
(該一般式(2)中、Xは、-SH、-COOH、-NH、-PO(OH)、又は-SO(OH)を表し、Aは、-S、-COO、-PO(OH)O、又は-SO(O)を表し、nは1~3の整数を表す。Bはイミダゾリウム系化合物、ピリジニウム系化合物、ホスホニウム系化合物、アンモニウム系化合物、又はスルフォニウム系化合物を表す。)
[6]
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも可視領域の光を選択的に吸収する、[5]に記載の半導体膜の製造方法。
[7]
前記半導体ナノ粒子が、少なくとも赤外領域の光を選択的に吸収する、[5]又は[6]に記載の半導体膜の製造方法。
[8]
[1]から[4]のいずれか1つに記載の半導体膜と、対向配置された第1電極及び第2電極と、を備え、
前記半導体膜が、該第1電極と該第2電極との間に配される、光電変換素子。
[9]
1次元又は2次元に配列された複数の画素毎に、
少なくとも、[8]に記載の光電変換素子と、半導体基板とが積層された、固体撮像素子。
[10]
[9]に記載の固体撮像素子を備える、電子装置。
【実施例
【0114】
以下に、実施例を挙げて、本技術の効果について具体的に説明をする。なお、本技術の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0115】
<実施例1>
[分散液1の作製]
実施例1は、半導体ナノ粒子を用いた光電変換素子において、半導体ナノ粒子を含む半導体膜を作製するために用いられる分散液1の作製に関する実施例である。すなわち、実施例1は半導体ナノ粒子としてPbS、配位子として3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウムを用いて分散液1を作製した実施例である。
【0116】
まず、半導体ナノ粒子として直径3nmの球状のオレイン酸配位のPbS0.1gにオクタンを溶媒として5mlで混合し、この半導体ナノ粒子を含む溶媒中に3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウム0.1gのメタノール溶液を加え、撹拌子を用いて500rpmで12時間撹拌した。上記のようにして、メタノールに分散した3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウムが配位したPbSの分散液1を作製した。作製された分散液1を室温で1日放置したが、半導体ナノ粒子の沈降は見られず、高い分散安定性を確認した。
【0117】
<実施例2>
[分散液2の作製]
実施例2は、半導体ナノ粒子を用いた光電変換素子において、半導体ナノ粒子を含む半導体膜を作製するために用いられる分散液2の作製に関する実施例である。すなわち、実施例2は半導体ナノ粒子としてPbS、配位子として3-メルカプトプロピオン酸ヘキシルトリメチルアンモニウムを用いて分散液2を作製した実施例である。
【0118】
まず、半導体ナノ粒子として直径3nmの球状のオレイン酸配位のPbS0.1gにオクタンを溶媒として5mlで混合し、この半導体ナノ粒子を含む溶媒中に3-メルカプトプロピオン酸ヘキシルトリメチルアンモニウム0.1gのメタノール溶液を加え、撹拌子を用いて500rpmで12時間撹拌した。上記のようにして、メタノールに分散した3-メルカプトプロピオン酸ヘキシルトリメチルアンモニウムが配位したPbSの分散液2を作製した。作製された分散液2を室温で1日放置したが、半導体ナノ粒子の沈降は見ら
れず、高い分散安定性を確認した。
【0119】
<実施例3>
[光電変換素子1の作製]
実施例3は、半導体ナノ粒子を用いた光電変換素子において、半導体ナノ粒子を含む半導体膜を作製するために用いられた分散液1を用いる光電変換素子1の作製に関する実施例である。すなわち、実施例3は、分散液1に含まれるナノ粒子にとしてPbS、配位子として3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウムを用いて光電変換素子1を作製した実施例である。
【0120】
図3に実施例3で作製された、半導体膜103を備える光電変換素子1を示す。この光電変換素子1は、石英基板からなる支持基板100上にインジウムドープ酸化スズからなる第1電極101を100nm形成した後、第1電極101上に酸化チタンからなる電子輸送層102を20nm形成した。次に、3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウムが配位した直径3nmのPbSをメタノールに分散させた分散液1を用いて、第1電極101上に分散液1をスピンコート法で塗布した。続いてスピンコート法により塗布した3-メルカプトプロピオン酸テトラブチルアンモニウムが配位した直径3nmのPbS層に水酸化ナトリウム水溶液を滴下しイオン交換を行った後、イオン交換によって生成したテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを除去するためにメタノールで洗浄を行った。この成膜工程を繰り返し行うことで、半導体膜103を200nm形成した。最後に、NiOからなる正孔輸送層104を20nm作製し、最後にインジウムドープスズからなる第2電極105を100nm成膜し、半導体ナノ粒子を含む光電変換素子1を完成させた。
【0121】
<実施例4>
[光電変換素子2の作製]
実施例4は、半導体ナノ粒子を用いた光電変換素子において、半導体ナノ粒子を含む半導体膜を作製するために用いられた分散液2を用いる光電変換素子2の作製に関する実施例である。すなわち、実施例4は、分散液2に含まれるナノ粒子としてPbS、配位子として3-メルカプトプロピオン酸ヘキシルトリメチルアンモニウムを用いて光電変換素子2を作製した実施例である。
【0122】
図4に実施例4で作製された、半導体膜203を備える光電変換素子2を示す。この光電変換素子2は、石英基板からなる支持基板200上にインジウムドープ酸化スズからなる第1電極201を100nm形成した後、第1電極201上に酸化チタンからなる電子輸送層202を20nm形成した。次に、3-メルカプトプロピオン酸ヘキサトリメチルアンモニウムが配位した直径3nmのPbSをメタノールに分散させた分散液2を用いて、第1電極201上に分散液2をスピンコート法で塗布した。第1電極201上に分散液2をスピンコート法で塗布した。続いてスピンコート法により塗布した3-メルカプトプロピオン酸ヘキシルトリメチルアンモニウムが配位した直径3nmのPbS層に水酸化ナトリウム水溶液を滴下しイオン交換を行った後、イオン交換によって生成したヘキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドを除去するためにメタノールで洗浄を行った。この成膜工程を繰り返し行うことで、半導体膜203を200nm形成した。最後に、NiOからなる正孔輸送層204を20nm作製し、最後にインジウムドープスズからなる第2電極205を100nm成膜し半導体ナノ粒子を含む光電変換素子2を完成させた。
【0123】
<比較例1>
[ハロゲン化金属前駆体の調製]
塩化カドミウム(Sigma-Aldrich、99.98%)又は塩化鉛(Alfa Aesar、99.999%)と、TDPA(テトラデシルホスホン酸、Alfa Aesar、98%)とをオレイルアミン(Acros、80%)に、100℃、16時間で脱気しながら溶解させた。生成物は凝固しないよう80℃で保管した。典型的な手順として、塩化カドミウム0.30g(1.64mmol)とTDPA0.033g(0.12mmol)をオレイルアミン5mlに溶解させ、カドミウムとTDPAのモル比が13.6:1である前駆体を調製した。
【0124】
[半導体ナノ粒子の合成とハロゲン化金属の処理]
硫化鉛ナノ粒子(量子ドット)の合成は公知の方法に基づいて行った。ハロゲン化金属の処理は、まず、反応容器に注入された硫黄源に、ハロゲン化金属前駆体1.0mlを加え徐々に冷却した。この合成では鉛とカドミウムとのモル比が6:1に保たれていた。反応系の温度が30~35℃まで到達したら、アセトン60mLを加え遠心分離を行うことでナノ結晶が分離した。ナノ結晶をトルエンで分散させ、体積比1:1のアセトン/メタノール溶液で再沈殿を行ったのち、無水トルエンに溶解させた。さらに、メタノールで2、3回洗浄したのちオクタンに分散させた(50mgmL-1)。
【0125】
[光電変換素子Aの作製]
硫化鉛ナノ粒子(コロイド量子ドット)(CQD)フィルムは室温雰囲気下にて層ごとにスピンコートを行うことで重ねていった。各層、CQD溶液(50mg mL-1オクタン溶液)を酸化亜鉛/酸化チタン基板に重ね、2500rpmでスピンキャストを行った。ハイブリッドと有機の手法では、層表面を3-メルカプトプロピオン酸(MPA)のメタノール溶液(1%v/v)に3秒浸漬し、2500rpmでスピンコートすることで固体状態での配位子交換を行った。これを、所望の膜厚になるまで繰り返して半導体膜Aを200nm形成した。なお、結合のほどけた配位子を除去するために、メタノールで2回洗浄を行った。この半導体膜Aを用いて、光電変換素子Aを作製した。光電変換素子Aの作製方法は、実施例3及び4で作製された光電変換素子1及び2と同様で、石英基板、第1電極、電子輸送層、半導体膜A、正孔輸送層、及び第2電極の順で積層して光電変換素子Aを完成させた。
【0126】
<光電変換効率の評価>
[光電変換効率の測定方法]
疑似太陽光光源(AM1.5,100mW/cm2)をモノクロマティックに絞った光を用いて、光電変換素子1(実施例3)、光電変換素子2(実施例4)及び光電変換素子A(比較例1)の光電変換効率(外部量子効率:光子-電子変換効率)を測定した。
【0127】
[光電変換効率の測定結果]
光電変換素子A(比較例1)の光電変換効率が40%であったのに対して、光電変換素子1(実施例3)及び光電変換素子2(実施例4)では、60%の高い光電変換効率を得た。光電変換素子1(実施例3)及び光電変換素子2(実施例4)を用いることによって、光電変換効率が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0128】
1、2…光電変換素子、10…裏面照射型の固体撮像素子、51…半導体ナノ粒子、55…短配位子、100、200…石英基板、101、201…第1電極、102、202…電子輸送層、103、203…半導体膜、104、204…正孔輸送層、105、205…第2電極
図1
図2
図3
図4
図5